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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 創作性 /  著作者 /  模様 /  二次的著作物 /  複製物 /  複製権 /  引用 /  著作権侵害 / 
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事件 平成 6年 (行ウ) 4号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1996/01/31
権利種別 著作権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告(当時は大阪税関伊丹空港税関支署長)が平成五年八月二三日付けで原告に対してした原告の輸入申告に係る別紙物件目録記載一ないし三の物件に対する積戻し命令を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実の概要
本件は、被告が、原告の輸入しようとする別紙物件目録記載一ないし三の物件(以下個別的に「本件絵画@ないしB」といい、一括して「本件各絵画」という。)が関税定率法(平成六年法律第二五号による改正前。以下「関税定率法」という。)21条1項4号所定の著作権侵害物品に該当するとして、同条二項、関税法(平成六年法律第二五号による改正前)107条、同法施行令92条(平成六年政令第四一四号による改正前)に基づき本件各絵画の積戻しを命じたため(以下「本件処分」という。)、これを不服とする原告が、本件各絵画は著作権侵害物品に当たらないとして、被告に対し、本件処分の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実1 原告は、絵画の輸入、販売を業とする者であるところ、本件各絵画を日本国内において展示、販売するため、平成四年七月一六日、被告に対し、本件各絵画の輸入申告をした。
2 被告は、原告に対し、平成五年八月二三日付けで本件処分をした。
3 原告は、被告に対し、異議申立てをしたが、平成五年一二月二一日、右異議申立ては棄却された。
二 争点についての当事者の主張1 被告の主張(一) 本件各絵画は、画家【A】がそれぞれ別紙原画目録記載一ないし三の絵画(以下個別的に「本件原画@ないしB」といい、一括して「本件各原画」という。)に依拠して制作したものであるところ、本件各原画とは異なる若干の加筆、
修正が加えられているものの、このような相違点は極く僅かで、創作的な思想又は感情が表現されているともいえないから、本件各原画の複製物にすぎない。また、
仮に、本件各絵画が本件各原画の複製物に当たらないとしても、本件各原画における表現形式上の本質的な特徴は、本件各絵画自体によって容易にこれを感得することができるから、本件各絵画は、本件各原画の二次的著作物にすぎず、これと別個独立の著作物であるということもできない。したがって、本件各絵画は、いずれにしても、本件各原画に係る著作権のうちの複製権(著作権法21条)ないし改作利用権(同法27条)を侵害するから、本件処分は適法である。
(二) 本件各絵画においては、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、両著作物間に前者が主、
後者が従の関係があるとは到底いい難いから、本件各絵画における本件各原画の利用は、著作権法32条1項所定の「正当な引用」には該当しない。
2 原告の主張(一) 本件各絵画は、【A】自身の新たな主張と表現が盛り込まれており、本件各原画とは全く別個独立の著作物であって、本件各原画の著作権を侵害する単なる複製物ないし二次的著作物ではないから、本件各絵画が関税定率法21条1項4号所定の著作権侵害物品に該当するとしてされた本件処分は違法である。
(二) 仮に、本件各絵画が本件各原画の複製物ないし二次的著作物に当たるとしても、本件各絵画の場合には、本件各原画を改変して利用することにより本件各原画に対する批判、揶揄等を表現したいわゆるパロディーで、しかも引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるのであって、両著作物間に前者が主、後者が従の関係が認められるから、
本件各絵画は、著作権法32条1項所定の「正当な引用」として本件各原画を利用したものにすぎず、本件各原画の著作権を侵害しない。
争点に対する判断
一 著作権法6条3号によると、条約により我が国が保護の義務を負う著作物は、
同法による保護を受ける著作物とされているところ、この条約として、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)がある。
二 当事者間に争いのない事実に、証拠(甲一、二の一ないし三、三、六の二、
七、一六、乙一の一ないし二〇、二ないし六、七の一ないし九、八の一ないし四、
九の一、二)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 原告は、絵画の輸入、販売業者であるところ、ハンガリー生まれの画家【A】が制作した本件各絵画を含む絵画一三点を日本国内において展示、販売するため、
平成四年七月一六日、被告に対し、右絵画の輸入申告をした。右絵画の輸入申告書には、仕入書とともに英字新聞記事のコピーが添付されており、仕入書には、
「【B】、【C】、【D】(以下「【B】」、「【C】」、「【D】」という。)」等の著名画家の名が記され、英字新聞記事には、【E】 De Hory―the master of imitation」との記載があった。そこで、被告部下職員が現品検査を実施したところ、本件各絵画には、右著名画家の署名がそれぞれ記載されており、裏面には、鉛筆による「【E】」の署名と四桁の数字が記されていた。【A】は、米国人作家【F】の「贋作」という伝記小説のモデルとなったことで知られ、右小説によると、同人は、著名画家の絵画を模倣し、これを本物として売却していたとされている上、我が国においても、昭和四一年に国立西洋美術館が【A】の作品を誤って【G】等著名画家の作品として高値で購入した疑いがあることが指摘され、国会で審議されたことがあったことから、被告は、
前記絵画一三点が関税定率法21条1項4号所定の著作権侵害物品に該当する疑いがあるとして、調査を開始した。その結果、被告は、本件各絵画が本件各原画の著作権を侵害するものと判断し、平成五年八月二三日付けで本件処分に及んだ。
2 本件絵画@は、ガウンを纏った短髪の少年ないし少女が暖炉の前の椅子に腰掛け、手に持ったスープ皿からスープを飲もうとしている場面を描いた絵画であり、
その左下部分には【B】の署名が記されている。一方、本件原画@は、本件絵画@と同一の構図であり、両者を比較すると、画中の人物の頭部、暖炉の描き方等に若干の相違があるものの、暖炉やテーブルの上の静物の配置、壁に掛けられた二枚の絵の形状、絨毯の柄等、細部に至るまで酷似しており、その筆致もよく似通っている。
3 本件絵画Aは、画面中央の道を挟んでその両側に建ち並ぶ民家とその上方に広がる曇空を描いた絵画であり、画面左下部分には【C】の署名が記されている。他方、本件原画Aは、本件絵画Aと同一の構図であり、両者を比較すると、道端の人物や民家の窓の数等に若干の相違があるものの、建ち並ぶ民家や電柱、木々の配置等、細部に至るまで酷似しており、寒色系の色彩を多用した画面上半分と暖色系中心の画面下半分との強いコントラスト、遠近感を強調するため、上下方向に長く延ばした大胆な筆遣い等、その色調や筆致もよく似通っている。
4 本件絵画Bは、画面ほぼ一杯に描かれた女の肖像画であり、その右下部分には【D】の署名が記されている。一方、本件原画Bは、本件絵画Bとほぼ同一の構図の女の肖像画であり、両者を比較すると、本件原画Bは、画中人物の髪が緑、顔が水色、白、橙、赤、服が白、背景が水色で描かれているのに対し、本件絵画Bは、
髪が赤及び緑、顔が白、緑、赤、服が白及び黒、背景が赤及び緑で描かれていて、
色調に違いがみられるほか、本件絵画Bの画中人物の胸元には、本件原画Bにはない首飾りのようなループ模様が描かれている等の相違点がある。もっとも、両者は、ともに黒で輪郭を描いた上、その枠取りされた内側を他の色彩で塗っていく浮世絵のような立体感に欠ける手法によって描かれており、画中人物の顔面を取り囲む巻き毛の表現と思われる楕円形の図柄の配置、黒線で描かれたアーモンド型の目や長方形の鼻の形状等、その構図、筆致はよく似通っている。
5 フランス及びスペインは、ベルヌ条約同盟国であるところ、著作権の存続期間は、フランスでは著作者の死後五〇年と、スペインではその死後六〇年とされている。本件原画@の著作者である【B】は、フランス国籍を有した者であり、一九四七年一月二三日に死亡し、その絵画の著作権は、フランスのADAGP協会及びSPADEM協会において管理されている。本件原画Aの著作者である【C】も、フランス国籍を有した者であり、一九五八年一〇月一一日死亡し、その絵画の著作権は、フランスのADAGP協会において管理されている。また、本件原画Bの著作者である【D】は、スペイン国籍を有した者であり、一九七三年四月八日死亡し、
その絵画の著作権は、フランスのSPADEM協会において管理されている。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 そこで、まず、本件各絵画が本件各原画の複製物ないし二次的著作物に該当するか否かについて判断する。
前記認定事実、殊に本件各絵画が、本件各原画と構図、筆致、色調においてよく似通っており、その画面下方に本件各原画の著作者の署名が記されているところ等からすれば、本件各絵画が本件各原画に依拠して制作されたことは明らかというべきであり、前記認定のとおり、本件各絵画と本件各原画との間には、画中人物等の数や描写、首飾りの有無等、その細部において若干の相違が見られ、本件絵画Bについては色調にも差異が認められるとはいうものの、いずれの場合もその構図及び筆致は酷似していて、相当注意深く丹念に観察しない限り、右のような相違点を発見することは困難であって、本件各絵画から本件各原画の内容及び形式を容易に覚知することが可能であるから、本件各絵画は、本件各原画の複製物に該当すると解するのが相当である。
もっとも、原告は、本件各絵画と本件各原画の間の右に挙げた相違点を強調し、
本件各絵画は【A】独自の主張と表現が盛り込まれた本件各原画とは全く別個独立の著作物である旨主張する。
しかしながら、前記認定説示のとおり、本件各絵画と本件各原画の相違点は極く僅かにすぎず、両者を比較対照して観察すれば、相違点よりもはるかに類似点の方を強く印象付けられることは明らかであって、本件各絵画は、本件各原画の表現形式上の本質的な特徴を備えているというべきであるから、仮に、本件各絵画に【A】独自の創作性が加えられているとしても、右創作性によって本件各原画の著作物としての特徴が認識し得なくなり、本件各絵画が本件各原画とは全く別個独立の著作物となったということは到底できない。
三 そこで、次に、本件各絵画における本件各原画の利用が著作権法32条1項所定の「正当な引用」に該当するか否かについて判断する。
著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われなければならない。」と規定しているところ、右規定の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な引用」に該当するためには、少なくとも、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要するものというべきである。
そこで、これを本件についてみるに、前記認定説示のとおり、本件各絵画と本件各原画の相違点は極く僅かであり、本件各絵画は、本件各原画とその構図、筆致、
色調においてよく似通っていて、これを一瞥しただけで本件各原画に依拠して制作されたものであることを看取し得るものであるから、本件各絵画が引用に係る本件各原画を明瞭に区別し、これを従たるものとして引用しているということは到底できない。
四 以上によれば、本件各絵画が関税定率法21条1項4号所定の著作権侵害物品に該当するとしてされた本件処分は適法であり、原告の請求は理由がない。
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物件目録一種類油絵著作者【A】署名【B】題名Boysittinginchaireating但し、別紙図面一1記載の絵画二種類油絵著作者【A】署名【C】題名Avillageroadanddarksky但し、別紙図面一2記載の絵画三種類油絵著作者【A】署名【D】題名Theclown―likewoman但し、別紙図面一3記載の絵画原画目録一【B】筆「FEMMEAUPEIGNOIRROUGE」但し、別紙図面二1記載の絵画二【C】筆「風景」但し、別紙図面二2記載の絵画三【D】筆「女の顔」但し、別紙図面二3の絵画別紙図面一1<30790-001>別紙図面一2<30790-002>別紙図面一3<30790-003>別紙図面二1<30790-004>別紙図面二2<30790-005>別紙図面二3<30790-006>
裁判官 下村浩藏
裁判官 福井章代
裁判官 清野正彦