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事件 平成 17年 (ネ) 10076号 著作物利用差止等請求控訴事件
控訴人・被控訴人(1審原告) 株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ
控訴人・被控訴人(1審原告) X
上記両名訴訟代理人弁護士 内藤篤,大橋卓生
被控訴人・控訴人(1審被告)ユニバーサルミュージック株式会社
訴訟代理人弁護士 中野憲一,宮垣聡
被控訴人・控訴人(1審被告)の補助参加人 有限会社ユナイテッド・キングダム・エンジェルズ
訴訟代理人弁護士 龍村全,楠本雅之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/13
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決の控訴人・被控訴人(1審原告)株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに関する部分のうち被控訴人・控訴人(1審被告)敗訴の部分を取り消す。
2 前項の取消部分に係る控訴人・被控訴人(1審原告)株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィの請求を棄却する。
3 控訴人・被控訴人(1審原告)らの控訴及び被控訴人・控訴人(1審被告)のその余の控訴をいずれも棄却する。
4 当審における控訴人・被控訴人(1審原告)株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィの追加請求を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人・被控訴人(1審原告)株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィと被控訴人・控訴人(1審被告)との間に生じたもの及び補助参加によって生じたものは,控訴人・被控訴人(1審原告)株式会社テル--2・ディレクターズ・ファミリィの負担とし,控訴人・被控訴人(1審原告)Xと被控訴人・控訴人(1審被告)との間に生じたものは,これを30分し,その29を控訴人・被控訴人(1審原告)Xの負担とし,その余は被控訴人・控訴人(1審被告)の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 1審原告ら(1) 原判決中1審原告ら敗訴の部分を取り消す。
(2) 1審被告は,「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するビデオカセット商品を複製し,頒布してはならない。
(3) 1審被告は,1審原告会社に対し,7202万0760円並びにうち1698万7426円に対する平成15年2月22日から支払済みまで年6分の割合による金員及びうち5503万3334円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 1審被告は,1審原告会社に対し,1200万1403円及びこれに対する平成17年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審における追加請求)。
(5) 1審被告は,1審原告Xに対し,400万円及びこれに対する平成15年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 1審被告は,原判決別紙1記載の謝罪広告を,朝日新聞,日本経済新聞及び読売新聞の各全国版並びにスポーツニッポン及びサンケイスポーツの各紙に掲載せよ。
(7) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審被告の負担とする。
(8) 上記(2)ないし(5)につき仮執行の宣言21審被告(1) 原判決中1審被告敗訴の部分を取り消す。
(2) 上記(1)の取消部分に係る1審原告らの請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審原告らの負担とする。
事案の概要
1 本件の経緯(後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当事者間に争いのない事実。(1)ないし(5)は,当事者の呼称を改めたほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」と同一である。)(1) 当事者1審原告会社は,昭和50年に設立された,テレビ番組を中心とする映像制作事業を営む株式会社である(甲27)。1審原告Xは,テレビ番組の制作会社である株式会社テレビマンユニオンに所属するディレクターであったが,昭和49年に同社から独立し,昭和50年に1審原告会社を設立し,以降,1審原告会社の代表取締役である。
1審被告は,録音録画物の企画・制作及び販売等を業とする株式会社である。
1審被告の前身は,日本フォノグラム株式会社(以下「日本フォノグラム」という。)である。日本フォノグラムは,A(以下「A」という。),B,C,Dをメンバーとするロックバンド「キャロル」が所属していたレコード会社であったが,平成7年にマーキュリー・ミュージックエンタテインメント株式会社に商号を変更し,同社は,平成12年に音楽関係の事業を1審被告に営業譲渡した。1審被告は,これにより,日本フォノグラムが有する音楽関係の著作権その他すべての権利関係を承継した(乙14)。
(2) 本件作品の製作・放送昭和50年4月13日,キャロルの解散コンサートが行われた。そのとき,原判決別紙2のとおりの内容の「グッドバイ・キャロル」と題される,同コンサートのシーン等を中心とするドキュメンタリー映画の著作物(検甲2。以下「本件作品」という。)が製作された。本件作品の撮影は,1審原告会社によって行われ,1審原告Xが監督をした。
本件作品は,同年7月12日,株式会社東京放送(以下「TBS」という。)により,「グッドバイ・キャロル」のタイトルで,同テレビの「特番ぎんざNOW!」という番組において放送された(甲1の1)。
(3) 本件ビデオの販売日本フォノグラムは,昭和59年ころ,本件作品を原判決別紙3のとおりの内容に編集し直し,「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するビデオカセット商品(以下「本件ビデオ」という。)として製作販売し,この際,モノラルからステレオへの音源の入れ替え,映像の劣化や肖像権の問題等に対処するため,映像の編集を行ったが,日本フォノグラムは,この編集作業を1審原告会社に依頼し,1審原告会社がこの編集作業を行った。
本件ビデオの発売に関して,日本フォノグラムは,1審原告Xに許諾料を支払う旨の提示はしなかった。
(4) 本件DVDの販売1審被告は,平成15年1月22日,「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するDVD商品(検甲3。以下「本件DVD」という。)を製作販売した。本件DVDは,本件ビデオの媒体をDVDにしたもので,本件ビデオと映像が同一であり,その内容は,原判決別紙3のとおりである。
1審被告は,本件DVDの製作及び販売について,1審原告会社から明示の許諾を受けていない。
(5) 特典DVDの販売1審被告は,本件DVDと同時に,「ザ★ベスト」と題するキャロルのベスト盤CD(以下「本件CD」という。)を発売した。1審被告は,この両商品の宣伝のために,いわゆるプロモーションビデオ映像を作ろうと企図し,本件作品の一部を使用して合成し,ワイプ処理で切り刻んだような効果の編集をするなどして,「ファンキー・モンキー・ベイビー」のプロモーション映像を製作した(以下「本件プロモーション映像」という。)。1審被告は,本件プロモーション映像をテレビ放映(スポット及び番組エンディングテーマとして使用),街頭大型ビジョン上映,レコードショップ店頭上映,本社受付等での上映などを行うことによって,本件CD及び本件DVDを宣伝した。また,本件プロモーション映像を,本件CDの初回購入特典として,DVDに収録し(以下「特典DVD」という。),これを本件CDに付加して販売した(検甲4)。
1審被告は,本件プロモーション映像及び特典DVDの映像製作及びその利用について,1審原告会社から明示の許諾を受けていない。また,本件プロモーション映像及び特典DVDにおいては,そのオリジナル映像を撮った監督が1審原告Xである旨の記述はない。
(6) 1審原告らは,原審において,1審被告の製作販売した本件ビデオ及び本件DVDが1審原告会社の複製権を侵害し,また,1審被告の製作した本件プロモーション映像及び特典DVDが1審原告会社の翻案権及び1審原告Xの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すると主張して,1審被告に対し,@1審原告会社については,本件ビデオ,本件DVD及び特典DVDの複製,頒布の差止め,本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄,損害金合計2億4160万8890円(本件ビデオに係る3706万9851円,本件DVDに係る1億7056万2779円,特典DVDに係る1848万8100円及び本件プロモーション映像に係る1548万8160円)又は予備的に1億2424万1236円(本件ビデオに係る1783万0616円,本件DVDに係る8202万9675円,特典DVDに係る889万2785円及び本件プロモーション映像に係る1548万8160円)の損害賠償並びに謝罪広告を求め,A1審原告Xについては,特典DVDの複製,頒布の差止め,本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄,慰謝料2000万円の損害賠償並びに謝罪広告を求めた。
(7) 原審は,本件作品の著作者は1審原告Xであり,著作権者は1審原告会社であるとした上,本件ビデオは1審原告らが製作販売を許諾していたから,1審原告会社の複製権を侵害しないが,本件DVDは1審原告会社の複製権を侵害し,また,本件プロモーション映像及び特典DVDは1審原告会社の翻案権並びに1審原告Xの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するとして,@1審原告会社については,本件DVD及び特典DVDの複製,頒布の差止め,本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄並びに損害金合計4913万2214円(本件DVDに係る4828万7709円,特典DVDに係る54万4505円及び本件プロモーション映像に係る30万円)の損害賠償を求める限度で請求を認容し,A1審原告Xについては,特典DVDの複製,頒布の差止め,本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄,慰謝料100万円の損害賠償を求める限度で請求を認容した。
(8) 原判決に対し,1審被告は平成17年3月17日に控訴を提起し,次いで,1審原告らも同月29日に控訴を提起した。
当審において,1審原告らは,原審が認容した部分のほかに,@1審原告会社については,本件ビデオの複製,頒布の差止め,損害金合計8177万7706円の損害賠償並びに謝罪広告を求め,A1審原告Xについては,慰謝料400万円の損害賠償並びに謝罪広告を求め,また,1審被告は,原審が認容した部分に係る請求の棄却を求めた。1審原告会社は,本件ビデオに係る金銭の支払請求を,複製権侵害による損害賠償請求から著作権使用許諾による使用料請求に変更し,これに伴い,損害賠償に係る請求を6479万0288円から5503万3334円(本件DVDに係る5158万4798円及び特典DVDに係る344万8536円)に減縮し,さらに,その後,損害金合計1200万1403円(本件DVDに係る1378円,特典DVDに係る25円及び弁護士費用1200万円)の損害賠償請求を追加した。
1審原告らは,当審における請求を上記のとおり設定して,原審が認容した部分のほかに,@1審原告会社については,本件ビデオの複製,頒布の差止め,本件ビデオの著作権使用料1698万7426円の支払い,損害金合計6703万4737円(本件DVDに係る5158万6176円,特典DVDに係る344万8561円及び弁護士費用1200万円)の損害賠償並びに謝罪広告を求め,A1審原告Xについては,慰謝料400万円の損害賠償並びに謝罪広告を求めている。
(9) 有限会社ユナイテッド・キングダム・エンジェルズは,平成17年11月7日,1審被告が敗訴した場合には,1審被告から損害賠償等の請求を受けるおそれがあると主張して,1審被告に補助参加した。
2争点(1) 本件作品の著作者及び著作権者は誰か。
(2) 1審原告会社は本件ビデオの複製を有償で許諾したか。
(3) 本件DVDは原告会社の著作権を侵害するか。
(4) 特典DVD及び本件プロモーション映像は原告会社の著作権及び原告Xの著作者人格権を侵害するか。
(5) 損害の発生の有無及びその額(6) 謝罪広告の必要性(7) 権利の濫用3 争点に関する当事者の主張争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加,訂正,削除するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」に記載(原判決6頁5行目ないし34頁24行目)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 「1 争点(1)(著作者及び著作権者)について」中の〔被告の主張〕の末尾(原判決12頁8行目)の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(5) 取得時効による著作権等の取得日本フォノグラムは,昭和50年7月25日から昭和51年5月1日までの間,全国の地方テレビ局で多数回にわたり本件作品を放送した上,昭和59年ころから本件ビデオを販売してきたものであって,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と本件作品の著作権を行使した。日本フォノグラムは,昭和50年7月25日当時,善意であって,かつ,過失がなかったから,10年を経過した昭和60年7月25日に本件作品の著作権を取得したのであり,過失があったとしても,20年を経過した平成7年7月25日に本件作品の著作権を取得したものである。
また,仮に本件作品の著作権の時効取得が認められないとしても,日本フォノグラムは,昭和59年ころから,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と本件作品につき複製権を行使したところ,昭和59年当時,善意であって,かつ,過失がなかったから,10年を経過した平成6年には本件作品の複製権を取得した。
〔1審被告補助参加人の主張〕(1) 本件作品の著作者1審被告補助参加人の前身であるバウハウスは,解散コンサートの企画・制作,演出等を行い,本件作品の制作費を支出したのであって,本件作品の全体的形成に創作的に寄与しているから,バウハウスが本件作品の著作者である。なお,仮に1審原告Xが撮影を通じて主としてその制作に当たったものであるとしても,バウハウスも1審原告Xと共同して本件作品の制作等に当たっているから,1審原告Xとバウハウスが共同著作者となるというべきである。
(2) 本件作品の著作権者本件作品は映画の著作物であるところ,もともと解散コンサートの映像を何らかの形で残そうとして,バウハウスの代表者であるEが企画し,その費用もバウハウスに対するアドバンスとして支出させあるいはバウハウスが自ら調達して製作したのであるから,バウハウスが映画製作者であり,バウハウスに著作権が帰属する。」(2) 「2 争点(2)(本件ビデオ)について」(原判決12頁9行目ないし13頁16行目)を次のとおり改める。
「2 争点(2)(本件ビデオ)について〔1審原告らの主張〕(1) 有償の著作権使用許諾契約の成立昭和59年,Aは,自分のコンサート映像をビデオカセット商品として,当時のワーナー・パイオニア株式会社から発売しようと考えたが,その冒頭に本件作品の映像を一部使用したいと考え,日本フォノグラムの社長と直談判して,ワーナー・パイオニア株式会社から発売されるビデオに本件作品の映像を一部使用することの同意,すなわち専属解放の同意を得て,その代わりに本件作品自体をビデオカセット商品として,日本フォノグラムが発売することを同社に対して許諾した。
1審原告Xは,この経緯をAから聞いて,本件作品が日本フォノグラムからビデオカセット商品として発売されることを承認したが,これは著作権者である1審原告会社に対して許諾料を支払うことを当然の前提としていた。
したがって,著作権者である1審原告会社は,日本フォノグラムに対し,本件作品の複製を有償で許諾したのである。
そして,1審原告会社が有償で許諾する場合,その対価はいわゆる原盤印税という形をとる。レコード会社がアーティストのライブ映像などをテレビ局などの外部権利元からの供給に頼る場合には,権利元に支払う印税率はビデオグラムの小売価格の20ないし26%になるところ,本件では,キャロルという知名度の高いアーティストの映像作品であることにかんがみれば,25%の印税率が設定されたと推認することができる。
1審被告は,平成5年以降,本件ビデオにつき,小売価格3689円(税込み3873円)のものを6901本(レーザーディスク商品1479本を含む。),2427円(税込み2548円)のものを1万7508本販売したとのことであるから,本件ビデオの著作権使用は,次のとおり,1698万7426円である。
(3,689円×6,901本+2,427円×17,508本)×25%=16,987,426円(2) 著作権使用許諾契約の解除1審被告は上記著作権使用料を全く支払わないから,1審原告会社は,平成17年5月20日に1審被告に送達された同月19日付け控訴理由書により,1審被告に対し,著作権使用許諾契約を解除する旨の意思表示をした。
〔1審被告の主張〕(1) 本件ビデオを販売するに当たっては,日本フォノグラムは,Aがキャロルの元メンバーから本件ビデオ販売についての承諾を取りつけることを交換条件として,Aが他社から発売する映像作品「Aヒストリー」に本件作品の映像の使用を認めたものである。また,キャロルの各メンバー及びクールズのあるメンバーに対し,慣行上,金銭の支払いがされたが,これらの処理を行ったのは,日本フォノグラムである。
本件ビデオは,本件作品のモノラル音源を日本フォノグラムが録音していたステレオ音源と入れ替え,最後に使用している「エデンの東」の音源を異なるオーケストラの演奏に変更し,新たにキャロルのメンバーの写真を挿入し,映像に一定の編集を加えたものであるから,本件作品と実質的に同一であるとはいえない。「エデンの東」の音源や新たに挿入した写真の権利処理は,日本フォノグラムが行った。日本フォノグラムは,1審原告会社に本件作品の映像の編集作業を依頼し,1審原告Xが編集作業を行った。このとき,日本フォノグラムから1審原告会社に対し,編集作業代金が支払われている。その際も,その後も,1審原告らからは何の請求もなかった。本件ビデオのパッケージには,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と記載されていたが,1審原告らからは,何の抗議もなかった。
以上のとおり,1審原告らは,本件作品製作と同様,本件ビデオ製作の全体には関与せず,単なる編集作業の委託を受けたにすぎないものであって,映画の著作物である本件ビデオの製作者として,本件ビデオの製作を企画し,費用を負担し,必要な権利処理を行ったのは,日本フォノグラムである。したがって,本件ビデオの著作権者は,日本フォノグラムであり,営業譲渡に伴い,著作権が被告に移転されたものである。
(2) 日本フォノグラムが1審原告らに本件作品のビデオ化に関して対価を支払うという合意がされた事実はない。また,本件ビデオ発売後平成14年末まで,1審原告らから,日本フォノグラムにも1審被告にも,本件ビデオについて著作権使用料の請求がされたことはない。
したがって,仮に1審原告会社が本件作品の著作権者であるとしても,1審原告会社は,日本フォノグラムに対し本件作品の複製を無償で許諾したから,本件ビデオについては,著作権の使用料は発生しない。」(3) 「5 争点(5)(損害)について」中の〔原告らの主張〕及び〔被告の主張〕において,それぞれ「(2) 本件ビデオによる損害」の項(原判決17頁4行目ないし18頁22行目,26頁24行目ないし27頁9行目)を削除し,「(3)本件DVDに関する損害」以降の項目を繰り上げる。
(4) 「6 争点(6)(謝罪広告)について」の末尾(原判決34頁24行目)の次に,行を改めて次のとおり加える。
「7 争点(7)(権利の濫用)について〔1審被告の主張〕1審原告らは,約20年という長期間にわたって,日本フォノグラムや1審被告に対し著作権に基づく請求をせず,そのため,1審被告は,重要な証拠書類の大半を廃棄した。
したがって,1審原告会社が本件作品の著作権者であるとしても,1審原告会社が本件作品の著作権を行使することは,権利の濫用に当たり,許されない。
〔1審原告らの主張〕争う。」
当裁判所の判断
1 前提となる事実(1) 甲1の1ないし4,2ないし4,6ないし11,23ないし27,29,33,34,35の1,2,38ないし40,42,52,56,61,62,64ないし66,68,70の1ないし3,71,乙1,2の1ないし4,3ないし9,17ないし20,23ないし25の各1,2,26の1ないし3,27ないし30,126ないし129,131,132の1ないし3,134,丙1,2,7,検甲1ないし4,当審証人Eの証言及び原審における1審原告会社代表者兼1審原告X本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア キャロルは,解散することを決め,昭和50年1月19日,日大講堂で最後のコンサートを行った(日本フォノグラムは,上記コンサートのライブ音源等を収録した「GOOD-BYE CAROL」と題するドキュメンタリー風のLPレコードを同年3月25日に発売した。)。ところが,上記コンサートの反響が大きかったので,キャロルのマネージメント会社であったバウハウスの代表者であるEは,さらに,同月16日から4月5日まで全国12か所を回る解散コンサートツアーを行った上,同月13日に日比谷野外大音楽堂で最後の解散コンサートを行うことを企画した。日本フォノグラムは,解散コンサートのライブ音源等を収録したLPレコードを発売することを決めた。また,Eは,解散コンサートの映像を撮影しておくと,これをテレビで放送して上記LPレコードのプロモーションに利用することができる上,将来何らかの利用価値が出るかもしれないと考えて,解散コンサートの映像を撮影することにした。
1審原告Xは,たまたまキャロルの最後の解散コンサートのことを知り,キャロルに興味を持っていたことから,株式会社テレビマンユニオンからの独立後の第一作としてその映像を撮影したいと考えた。
1審原告Xは,バウハウスのEや日本フォノグラムのGと協議し,その結果,1審原告Xが解散コンサートの映像を撮影することが決まった。1審原告Xは,事前に製作費の当てがあるに越したことはないと考え,撮影に先立って,面識のあったTBSのプロデューサーH及びIに企画書を持参して相談したところ,撮影編集済みの映像を見て良ければ放送するとの対応であったので,自主制作で撮影編集等をすることにした。
イ バウハウスは,会場の選択,ポスターやチラシの製作,保険契約の締結,会場及び機材の費用の負担,キャロルメンバーやコンサートスタッフの報酬の支払など,解散コンサートの運営に関する一切の業務を行い,これに要する費用一式を負担した。Eは,ステージをどのように構成するかを考え,解散コンサート全体のプロデュースを行った。解散コンサートのちらし(乙27)には,「企画・制作★バウハウス」との記載がある。
1審原告Xは,昭和50年4月9日,テレビ番組を中心とする映像製作を目的とする1審原告会社を設立して,その代表取締役に就任した。1審原告会社は,カメラマン,音声等のスタッフと撮影,音声機材等を,テレビ技術会社である株式会社パビック(以下「パビック」という。)に発注し,パビックは,1審原告Xと事前に打合せを行い,1審原告Xの指示に従って,コンサート会場において,ステージ後方ドラムスの後のイントレの上の固定カメラ1台,舞台の上の手持ちカメラ1台及び客席の中のイントレの上の固定カメラ2台を設置して,中継車にこれらをつなぎ,スイッチング(カメラの切換え)で1本化して演奏シーンを撮影したほか,大型VTR録画機を積み込んだ車にハンディカメラをつなぎ,コンサート会場において,キャロルのメンバー,親衛隊クールズのメンバーやファンへのインタビューのシーンなどを撮影したほか,コンサート会場に至るまでの間において,上記大型VTR録画機を積み込んだ車を走らせながら,オープンカーに乗ったキャロルのメンバーが1人ずつ解散への想いを語るシーンやオープンカーにバイクで併走する親衛隊クールズのメンバーが語るシーンを撮影した。
ウ 1審原告Xは,解散コンサートの数日後に編集作業を行い,スイッチングで1本化して録画した演奏シーンやハンディカメラで録画したインタビューのシーン等を自らの演出方針に従って構成し,テレビ番組として決められた時間よりやや長め(CM抜きで正味51分)の作品(検甲1)を製作した。なお,そのクレジットは,「技術 パビック」,「プロデューサー J(1審原告会社社員)・E」,「ディレクター X」,「制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ」となっている。
1審原告Xは,このように編集して完成した作品(TBSのスタッフ表示のスーパーテロップ等を入れていないもの)をTBSに持ち込んで試写を行い,その結果,TBSでの放送が決まった。
1審原告Xは,TBSの指示に従い,テレビ番組として決められた時間(CM抜きで正味48分)になるように編集し直して,本件作品(検甲2)を製作し,TBSに納品した。その際,1審原告Xは,編成も兼務していたHに確認を取り,その指示のとおりにCM用の黒味を入れ(CMを挿入するには,テレビ局のCMフォーマットに従ったCM用の黒味を入れなければならず,そのためにはHに連絡してCMの回数・秒数を確認しなければならなかった。),TBSからの指示に従い,Hの名前と制作著作TBSのスーパーテロップを入れた。本件作品のクレジットは,「技術 パビック」,「プロデューサー H・J」,「ディレクター X」,「制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ」,「制作著作 TBS」となっている。
エ 日本フォノグラムは,昭和50年5月15日,解散コンサートのライブ音源等を収録したLPレコードを発売した。
オ 1審原告会社とTBSは,昭和50年6月19日付けの「放送権譲渡契約書(グツドバイ・キヤロル)」(甲39)を取り交わしたが,これには,1審原告会社が本件作品の独占的テレビ放送権(ネット放送に必要な頒布権を含む。)をTBSに譲渡し,TBSが対価としてテレビ放送権料150万円を支払うこと,譲渡するテレビ放送権の内容は,日本全国において同年7月13日までにTBS及びTBSの同時マイクロネット放送による1回であること,などが記載されている。
TBSは,テレビ放送権料150万円を1審原告会社に支払った上,昭和50年7月12日午後4時から4時55分までの「特番ぎんざNOW!」という番組において,「グッドバイ・キャロル」のタイトルで本件作品を放送した。
昭和50年7月8日付け東京新聞(甲1の1),同月10日付け毎日新聞(甲1の3)並びに同月11日付け及び12日付けデイリースポーツ新聞(甲1の2,4)には,上記番組を紹介する記事が掲載されたが,東京新聞の記事には,「制作したのはテル・ディレクターズ・ファミリィ。Xディレクターらが,テレビマンユニオンをやめて4月に発足した5人のグループで,これが第1回作品。」と記載されている。また,1審原告会社は,上記放送に先立ち,「グッドバイキャロル。7/12.PM4:00〜5:00TBS系赤裸々な青春をさらけだし散っていったキャロル。
私たちの第1回制作番組です。」と記載したダイレクトメール(甲2)を関係者に送付した。
カ 日本フォノグラムは,1審原告Xから,マスターテープ(2インチテープ)とTBS放送用に加工したテープの一段階前の編集途中のテープ(上記ウのTBSのスタッフ表示のスーパーテロップ等を入れていないもの)の引渡しを受け,後者のテープを利用して,全国の地方テレビ局にその放送を許諾したり(地方テレビ局は,昭和50年7月25日から翌51年5月1日までの間にそれぞれこれを放送した。),全国各地でフィルムコンサートを行った。
キ 本件作品の撮影費については,パビックの技術料は200万円をかなり超えていたが,パビックにとっての初製作でもあり,200万円に値引きされて,1審原告会社からパビックに支払われた。また,解散コンサートの終了間際にステージで火災が発生し,パビックの提供した撮影機材が損傷してその賠償額が101万7000円となり,その他編集費や人件費などを合わせると,本件作品の製作に合計で約400万円を要した。
バウハウスのEは,本件作品の製作に要した費用を負担しようと考えていたが,バウハウスに十分な資金がなかったので,日本フォノグラムに対し,1審原告会社に対する前払いを申し入れ,日本フォノグラムは,これを受けて,本件作品の製作に要した合計約400万円を1審原告会社に支払った。日本フォノグラムは,1審原告会社に支払った金員をEに対し支払うべき原盤製作協力印税と相殺し,これにより1審原告会社に支払った合計約400万円の全額を回収した。
ク 1審原告会社とAが代表取締役に就任している有限会社カムストックは,昭和58年7月1日付け契約書(甲52)を取り交わし,「Aヒストリー」と題するビデオカセット商品等を共同して製作することを合意した。ところで,上記作品を製作するに当たり,1審原告Xがその中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することを希望したので,Aは,日本フォノグラムのK社長に会い,日本フォノグラムが本件作品を商品化することに出演者として承諾するとともに,キャロルの元メンバーであったB,C及びDの承諾を取り付けることを約束し(Aは,その後,B,C及びDから承諾を取り付けた。),これと引換えに,「Aヒストリー」の中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することを許諾してもらった。Aは,日本フォノグラムのK社長との交渉の経過を1審原告Xに伝えた。
「Aヒストリー」と題するビデオカセット商品は,昭和59年に販売された。ちなみに,上記商品のパッケージ(甲56)は,「監督:X」,「企画・制作:カムストック/テル・ディレクターズ・ファミリィ」,「技術協力:音響ハウス」,「製作・著作:カムストック/テル・ディレクターズ・ファミリィ」となっている。
ケ 日本フォノグラムは,昭和58年ころ,本件ビデオの製作販売を企画した。
日本フォノグラムは,映像の劣化や肖像権の問題等に対処するために,1審原告会社に映像の編集を依頼し,1審原告Xは,日本フォノグラムが保管していたマスターテープと1審原告会社が保管していたTBSで放送したテープを使用して映像の編集を行い(日本フォノグラムは,1審原告会社に報酬を支払った。),さらに,日本フォノグラムが,自ら保管していたLPレコードの音源を使用して,モノラルからステレオに差し替えるなどの音の編集を行った。なお,日本フォノグラムは,音の編集に先立って,あらかじめマスターテープの内容を確認しようとしたが,1審原告Xがこれを使用して映像の編集を行っていたので,社内での閲覧用に,1審原告会社からマスターテープをコピーした2分の1インチテープを借り入れたことがあった(その際,日本フォノグラムの従業員は,1審原告会社の指示に従い,用意された借用書(甲70の1,2)に所定事項を記載した。)。
これらの編集により,原判決別紙2及び3を比較して明らかなとおり,ファンのインタビュー,クールズの走行シーンやクールズの一部の参加者のモノローグがカットされて,ところどころにキャロルの写真が挿入され,また,本件作品と曲の順番が変動するとともに,音源がモノラルからステレオに差し替えられた。
本件ビデオは,昭和59年3月19日に販売された。本件ビデオのパッケージ(乙134)は,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」,「発売元:日本フォノグラム株式会社」となっており,また,本件ビデオに添付された歌詞カード(甲6)のクレジットは,ディレクターが1審原告X,プロデュースが1審原告会社となっている。
日本フォノグラムが本件ビデオを製作販売することについて,日本フォノグラムと1審原告らとの間で契約書を取り交わしたことはなく,また,特段の話合いが持たれた形跡もない。さらに,本件ビデオのパッケージに「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と表示されていることなどについて,1審原告会社が,日本フォノグラムに疑義を質したり,抗議をしたりしたこともなく,また,使用許諾による使用料を請求したこともない。
コ 1審被告は,本件DVDの製作販売を企画し,平成14年12月ころ,1審原告Xにその旨を伝えた。1審原告Xは,たまたま本件プロモーション映像がテレビで放送されたのを見て,本件作品が勝手に改編されたことを知り,本件訴訟代理人に依頼して,同月26日付けの書面(甲7)により,本件DVD及び特典DVDが1審原告会社の著作権を侵害し,特典DVDが1審原告Xの著作者人格権を侵害する旨を伝えた。
1審原告ら代理人と1審被告は,その後,本件について交渉したが,結論を得るに至らなかったため,1審原告らは,平成15年2月14日,本件訴訟を提起した。
(2) 上記(1)のとおり認めることができるのであるが,これを争う旨の1審原告らの主張について,念のため,検討することとする。
ア 1審原告らは,昭和50年当時は,レコード会社がプロモーションのためにアーティストの映像を撮るという考えはなく,このことは,「Aプロモート案(T)」(乙127)に本件作品のテレビ放送の予定の記載がないことからも裏付けられると主張し,甲5(Lの陳述書),12(株式会社ワーナーパイオニアの洋楽部制作課長であったMの陳述書),27(1審原告Xの陳述書)及び1審原告Xの本人尋問の結果中には,上記主張に沿う部分がある。
しかしながら,原判決も判示するように,昭和50年当時,洋楽では既にアーティストの映像を用いたレコードの宣伝がされていたこと(乙6,13),昭和50年には,家庭用ビデオテープレコーダーが販売されていたこと(乙11)などに照らせば,昭和50年当時にレコード会社がプロモーションのためにアーティストの映像を撮影することがなかったとはいえない。そして,キャロルのメンバーであるAも,解散コンサートの演奏を収録したLPレコードの宣伝プロモーションのためにコンサートの模様を撮影すると認識していたこと(乙20),現にLPレコードが発売されたこと(乙7),日本フォノグラムを通じて,全国の地方テレビ局で本件作品が放送されたり,全国各地で本件作品のフィルムコンサートが行われたこと(甲40,当審証人Eの証言)などからすれば,少なくともEを含む日本フォノグラムの側は,LPレコードのプロモーションに使用するつもりであったと認めることができる。なお,「Aプロモート案(T)」(乙127)は,昭和50年1月後半から7月までの間のスケジュールを記載したものであるが,これには3月後半発売の「キャロルラストアルバム」(上記(1)アによれば,昭和50年1月19日に日大講堂で行ったコンサートのライブ音源等を収録した「GOOD-BYE CAROL」と題するドキュメンタリー風のLPレコードであると認められる。)についての記載はあるものの,4月13日の解散コンサートのライブ音源等を収録したLPレコードについての記載がないから,そのプロモーションである本件作品のテレビ放送の予定の記載がないとしても,不合理ではない。
イ 1審原告らは,日本フォノグラムは,資金的体力のある会社ではなかったこと(甲5)を考えると,400万円という買取額は多額であり,日本フォノグラムが本件作品を400万円で買い取ったのであれば書面を作成するのが当然であると考えられるが,そのような書面はなく,また,本件作品を含む解散コンサートの原盤についてのEとの間の契約書(乙7)にも,Eのために1審原告会社に支払った400万円とEに支払うべき原盤製作協力印税とを相殺する旨の記載はないのであって,このことは,とりもなおさず日本フォノグラムが400万円を支払っていないことを意味すると主張する。
Lの陳述書(甲5)には,「日本フォノグラムというレコード会社も余り資金的な体力のある会社ではなく」との記載があるものの,その具体的な根拠は記載されていないから,この記載をもって,日本フォノグラムが400万円を支払ったか否かのいずれかを推断することはできない。そして,解散コンサートは現在(口頭弁論終結時)から約31年前の出来事であるから,これに関する書類等が失われたとしても不自然ではない。また,確かに,Eとの間の契約書(乙7)には,Eのために1審原告会社に支払った400万円とEに支払うべき原盤製作協力印税とを相殺する旨の記載はないが,1審原告Xが「撮影の時に400万円が必要なのではなくて,基本的にはみな後払いなもんですから,撮影費も編集費も,後から,何箇月後に払うというもの」であると供述している(原審における供述調書7頁)ことに照らすと,Eとの間の契約書(乙7)の作成日(昭和50年5月15日)の時点において,日本フォノグラムが1審原告会社に支払った金額の全部が確定していたとは考え難いから,Eとの間の契約書(乙7)に原盤製作協力印税と相殺する旨の記載がないとしても,不合理であるとはいえない。
したがって,1審原告らの上記主張を考慮しても,日本フォノグラムが本件作品の製作に要した合計約400万円を1審原告会社に支払ったとの上記(1)の認定を覆すには足りない。
2 争点(1)(著作者及び著作権者)について(1) 本件作品の著作者ア 著作権法16条は,「映画の著作物著作者は,・・・(中略)・・・制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定している。
上記1の事実によれば,本件作品は,確かに多数の者が明確な取決めもなく複雑に関与し合う状況の中で製作されるに至っており,錯綜した様相を呈しているが,1審原告Xは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の創作性の高い内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたって指示を行っていることを総合して考えると,1審原告Xが本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した」唯一の者であると認めるのが相当である。
イ 1審被告及び1審被告補助参加人は,E又はバウハウスが本件作品の著作者であると主張する。
しかしながら,上記1(1)のとおり,バウハウスは,会場の選択,ポスターやチラシの製作,保険契約の締結,会場及び機材の費用の負担,キャロルメンバーやコンサートスタッフの報酬の支払いなど,解散コンサートの運営に関する一切の業務を行い,これに要する費用一式を負担し,また,Eは,ステージをどのように構成するかを考え,解散コンサート全体のプロデュースを行ったものであって,いずれも解散コンサート自体の企画,運営に係るにすぎないところ,本件作品は,解散コンサートの模様をただ単に撮影したというにとどまらないのであるから,上記アのとおり,本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した者」は1審原告Xであり,かつ,1審原告Xとバウハウスとの共同著作ではないと認めるのが相当である。
ウ したがって,本件作品の著作者は,1審原告Xである。
(2) 著作権法15条(職務著作)の主張についてア 著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁)。
イ 日本フォノグラムと1審原告Xとの間に雇用関係があることを認めるに足りる証拠はない。
また,上記(1)のとおり,1審原告Xが,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与して,作品の内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたる指示を行っているのであって,日本フォノグラムは,本件作品の製作に全く関与していないから,本件作品の製作に関して,1審原告Xが日本フォノグラムの指揮監督下にあって,日本フォノグラムの手足として撮影だけを担当したということはできない。そして,本件作品の製作に関して,日本フォノグラムから1審原告Xに対して支払った金銭があることを認めるに足りる証拠はない(なお,日本フォノグラムから1審原告会社に対して約400万円が支払われているが,これは,パビックの技術料やパビックに対する賠償額等であって,労務提供の対価ではない。)。そうであれば,1審原告Xが日本フォノグラムの指揮監督下において労務を提供するという実態にあったということも,日本フォノグラムが1審原告Xに対して労務提供の対価として支払う金銭があったということもできない。
ウ したがって,1審原告Xは,日本フォノグラムの「業務に従事する者」に該当しないから,本件作品が日本フォノグラムの職務著作であるということはできない。
(3) 本件作品の著作権の帰属ア 著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・(中略)・・・の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定している。そして,同法2条10号は,映画製作者とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。
著作権法29条が設けられたのは,@従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,A映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,B映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するとするのが相当であると考えられたためである。
著作権法2条10号の文言と上記の趣旨からみて,「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。
イ 上記(1)のとおり,1審原告Xは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与して,作品の内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたる指示を行っているところ,上記1の事実によれば,解散コンサートを主催し,開催費用を負担したのはバウハウスのEであるが,本件作品に係るパビックへの支払い,機材調達等の撮影に関する事項は,対外的手続も含め,すべて1審原告会社が行っていること,本件作品の撮影方針等には,日本フォノグラム及びバウハウスは全く関与していないこと,1審原告会社は,自らTBSと交渉し,本件作品を放送させて,テレビ放送権料150万円の支払いを受けていることが認められる。
これらの事実に照らすと,1審原告会社は,@パビックに対しては,撮影を発注する主体として契約を締結し,かつ,撮影費用等に関する経済的な支出の主体であり,A特にTBSとの関係においては,本件作品に関する権利が帰属する主体として契約を締結し,放送権料に関する経済的な収入の主体であったということができる。そうすると,本件において,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者は1審原告会社であると認められ,日本フォノグラムやバウハウスであるとは認められない。
ウ したがって,本件作品の映画製作者は,1審原告会社である。
(4) 著作権の譲受けについてア 上記(1)の事実によれば,次のとおり認められる。
(ア) Eは,解散コンサートの映像を撮影しておくと,これをテレビで放送して解散コンサートのライブ音源等を収録したLPレコードのプロモーションに利用することができる上,将来何らかの利用価値が出るかもしれないと考えたというのであるから,LPレコードのプロモーションや将来の利用に支障を来たすことがないように,自ら又はバウハウスが本件作品の著作権を取得しておくようにしたものと考えられる。しかも,解散コンサートは,バウハウスがその運営に関する一切の業務を行て,その費用一式を負担し,Eが全体のプロデュースを行っているのであるから,Eが,これを撮影した作品の著作権が自ら又はバウハウスに何ら帰属しないことを前提に1審原告Xによる解散コンサートの映像の撮影を認めるとは,通常考え難い(仮にEが自ら又はバウハウスに本件作品の著作権が何ら帰属しないことを前提にしていたというのであれば,LPレコードのプロモーションや将来の利用に支障を来たすことがないように,1審原告らとの間で,その趣旨を確認しておくと考えられるが,Eが1審原告らとの間において解散コンサートの撮影前に本件作品の著作権の帰属やその利用について特段の話合いをした形跡はない。)。
(イ) 1審原告会社は,自主制作で撮影編集等をすることにして,解散コンサートを撮影編集し,完成した作品をTBSに持ち込んで,本件作品の独占的テレビ放送権をTBSに譲渡し,TBSからテレビ放送権料150万円の支払いを受けている。したがって,この限りにおいて,上記(3)のとおり,1審原告会社が本件作品の映画製作者であったということができる。
しかしながら,1審原告らは,本件作品のマスターテープを日本フォノグラムに引き渡している上,日本フォノグラムの許諾による全国の各地方テレビ局での本件作品の放送や全国各地でのフィルムコンサートの実施については,格別問題としていないし,昭和59年からの日本フォノグラムによる本件ビデオの販売等についても,日本フォノグラムとの間で契約書を取り交わしたり,特段の話合いを持ったことがないばかりか,本件ビデオのパッケージには「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と表示されているにもかかわらず,日本フォノグラムに疑義を質したり,抗議をしたりしたこともなく,また,使用許諾による使用料を請求したこともない。そして,平成14年12月ころ,1審原告Xは,本件プロモーション映像を見て,はじめて,1審被告に対し,1審原告Xが本件作品の著作者であり,1審原告会社が著作権者であると主張するに至った。
したがって,本件作品の著作権は映画製作者である1審原告会社に帰属したものであるが,1審原告会社は,本件作品の完成後においては,独占的テレビ放送権をTBSに譲渡して,テレビ放送権料150万円の支払いを受けたほかに,著作権者としての主張は何らしていない。
1審原告らは,Aが「Aヒストリー」の中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することとのバーターで,本件ビデオの製作販売を日本フォノグラムに承諾したのであるが,この点について,1審原告らとしては,Aが日本フォノグラムと取り交わした条件について,自分がいくらもらえるかをAに問いただすことはためらわれたし,上記条件と矛盾するような問い合わせをしてAの面子をつぶすことはできないから,日本フォノグラムに問い合わせるわけにはいかず,結局,Aとの友人関係を重んじて,あえて権利主張をしなかったなどと主張する。しかし,上記1(1)で認定したように,Aは,本件作品の著作権が日本フォノグラムにあることを前提にして,「Aヒストリー」の中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することを許諾してもらうことと引換えに,本件作品の出演者としてその商品化を日本フォノグラムに承諾したのであり,本件作品の著作権が1審原告会社にあることを前提に,本件ビデオの製作販売を日本フォノグラムに承諾したというものではないから,1審原告らの上記主張はそもそも前提が異なる。しかも,本件ビデオに係る1審原告会社の請求は,本件作品の著作権が1審原告会社にあることを前提とするものであるから,1審原告らの上記主張に照らすと,このような請求をすること自体がAの面子をつぶしかねないところ,1審原告らが本件訴訟を提起するに当たり,Aが日本フォノグラムと取り交わした条件がどのようなものであったかについて,Aに問いただすなどして調査,確認した形跡は証拠上認められない。このような1審原告らの態度にかんがみると,1審原告らがAとの友人関係を重んじてあえて権利主張をしなかったとは考え難く,1審原告らの上記主張による弁解には,無理がある。
また,1審原告らは,1審原告Xが昭和58年11月5日に「Aヒストリー」の中に本件作品の映像を使用してよいという許諾(甲33,34)をキャロルの元メンバーであるB及びCから得たが,これは,1審原告会社による本件作品の権利者としての振舞いにほかならないと主張する。しかしながら,上記のとおり,Aは,「Aヒストリー」の中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することを許諾してもらうことと引換えに,本件作品の出演者としてその商品化を日本フォノグラムに承諾したのであるから,1審原告会社は,「Aヒストリー」の中に本件作品のシーンを挿入することを日本フォノグラムから許諾された者として,B及びCから上記のような許諾を得たということになる。そうであれば,甲33,34があるとしても,これをもって,本件作品の著作権者としての振舞いであると認めることはできない。
(ウ) 乙23の1及び2,126,証人Eの証言によれば,Eは,解散コンサートの終了後にその後の作業に関するメモ(乙23の2)を作成しているが,このメモには,「400万」,「18日テープ 編集完成品 ビデオ 買い取る」との記載があることが認められる。上記メモ自体の記載に照らして,これに記載された「テープ」,「ビデオ」とは,解散コンサートの映像を収録したものであると考えられるところ,上記1(1)で認定したように,日本フォノグラムは,1審原告会社に撮影代金等を支払い,1審原告Xからマスターテープの引渡しを受けている。そして,日本フォノグラムは,Aとの交渉により,「Aヒストリー」の中に本件作品の解散コンサートのシーンを挿入することを許諾するとともに,キャロルの元メンバーの承諾を得て,昭和59年3月19日に本件ビデオの製作販売を開始したのである。
イ 上記アの事情にかんがみると,本件作品の映画製作者は1審原告会社であり,当初1審原告会社に本件作品の著作権が帰属したものの,1審原告会社は,その後,その著作権をEに譲渡したものと認められる。そして,乙7によれば,日本フォノグラム,E及びAは,平成50年5月15日付け契約書(乙7)を取り交わし,解散コンサートに係る原盤の所有権,原盤権及び著作権法上のすべての権利が日本フォノグラムに帰属することとし,日本フォノグラムが録音物及び録画物を発売したときは,所定の印税をE及びAに支払うことを合意したことが認められるから,これによれば,Eは,1審原告会社から譲り受けた本件作品の著作権を,さらに日本フォノグラムに譲渡したものと認められる。
(5) 以上によれば,本件作品の著作者は1審原告Xであり,また,著作権者は,結局,日本フォノグラムが有する音楽関係の著作権その他すべての権利関係を承継した1審被告であるということができる。
そうすると,1審原告会社の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。
3 争点(4)(特典DVDと本件プロモーション映像)について当裁判所も,特典DVD及びこれを放映した本件プロモーション映像は,いずれも1審原告Xの同一性保持権及び氏名表示権を侵害すると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の「5争点(4)(特典DVDと本件プロモーション映像)について」に記載(原判決53頁16行目ないし55頁10行目)のとおりであるから,これを引用する。
4 争点(5)(損害)について1審原告Xは,本件作品の著作者であるにもかかわらず,1審被告により無断で本件作品を改変され,その氏名を表示されることなく,特典DVDとして販売され,本件プロモーション映像をテレビ放送等されたのであり,これによる精神的損害を被ったと認められる。
この著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害による慰謝料は,本件に現れた一切の事情を勘案して,100万円と認めるのが相当である。
5 争点(6)(謝罪広告)について1審原告Xは,名誉回復措置として謝罪広告を求めているが,1審原告Xの著作者人格権の侵害による損害は,前記慰謝料の支払いで填補されており,これ以上に名誉回復措置が必要であると認めるに足りる証拠はない。
したがって,1審原告Xの名誉回復措置請求は理由がない。
結論
以上によれば,1審原告会社の請求は,すべて理由がなく,1審原告Xの請求は,特典DVDの複製,頒布の差止め,本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄,慰謝料100万円の損害賠償を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
したがって,原判決の1審原告会社に関する部分のうち1審原告会社の請求を認容した部分に対する1審被告の控訴は理由があるから,上記部分を取り消してこれに係る請求を棄却し,1審原告会社の請求を棄却した部分に対する1審原告会社の控訴は理由がないからこれを棄却し,当審における1審原告会社の追加請求は理由がないからこれを棄却し,また,原判決の1審原告Xに関する部分は相当であるから,1審原告X及び1審被告の各控訴を棄却することとする。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文