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事件 平成 15年 (ワ) 3184号 著作物利用差止等請求事件
原告 株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ
原告A
上記両名訴訟代理人弁護士 内藤篤
上記復代理人弁護士 大橋卓生
被告 ユニバーサルミュージック株式会社
同訴訟代理人弁護士 中野憲一
同 宮垣聡
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/03/15
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するDVD商品を複製又は頒布してはならない。
2 被告は,「キャロル」のCDアルバム『ザ★ベスト』の特典製品である「スペシャルDVD」を複製又は頒布してはならない。
3 被告は,前項の「スペシャルDVD」の在庫品を廃棄せよ。
4 被告は,第2項の「スペシャルDVD」に収録された「ファンキー・モンキー・ベイビー」のプロモーション映像について,複製,上映,放送,その他の利用をしてはならない。
5 被告は,前項の「ファンキー・モンキー・ベイビー」の映像のマスターテープを廃棄せよ。
6 被告は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに対し,4913万2214円及びこれに対する平成15年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告Aに対し,金100万円及びこれに対する平成15年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告らのその余の請求を棄却する。
9 訴訟費用は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィと被告との間においては,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに生じた費用の5分の4を原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィの負担とし,その余は被告の負担とし,原告Aと被告との間においては,原告Aに生じた費用の30分の29を原告Aの負担とし,その余は被告の負担とする。
10 この判決は,第6項及び第7項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文1ないし5と同旨 2 被告は,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するビデオカセット商品を製造し,頒布してはならない。
3 被告は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに対し,金2億4160万8890円及びこれに対する平成15年2月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告Aに対し,金2000万円及びこれに対する平成15年2月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,別紙1記載の謝罪広告を,朝日新聞,日本経済新聞及び読売新聞の各全国版並びにスポーツニッポン及びサンケイスポーツの各紙に掲載せよ。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 当事者 原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ(以下「原告会社」という。)は,昭和50年に設立された,テレビ番組を中心とする映像制作事業を営む株式会社である(甲27)。
原告A(以下「原告A」という。)は,テレビ番組の制作会社である株式会社テレビマンユニオンに所属するディレクターであったが,昭和49年に同社から独立し,昭和50年に原告会社を設立し,以降,原告会社の代表取締役である。
被告は,録音録画物の企画・制作及び販売等を業とする株式会社である。被告の前身は,日本フォノグラム株式会社(以下「日本フォノグラム」という。)である。日本フォノグラムは,B,C,D,Eをメンバーとするロックバンド「キャロル」が所属していたレコード会社であったが,平成7年にマーキュリー・ミュージックエンタテインメント株式会社に商号を変更し,同社は,平成12年に音楽関係の事業を被告に営業譲渡した。被告は,これにより,日本フォノグラムが有する音楽関係の著作権その他すべての権利関係を承継した(乙14)。
(2) 本件作品の製作・放送 昭和50年4月13日,キャロルの解散コンサートが行われた。そのとき,別紙2のとおりの内容の『グッドバイ・キャロル』と題される,同コンサートのシーン等を中心とするドキュメンタリー映画の著作物(検甲2。以下「本件作品」という。)が製作された。本件作品の撮影は,原告会社によって行われ,原告Aが監督をした。
本件作品は,同年7月12日,株式会社東京放送(以下「TBS」という。)により,『グッドバイ・キャロル』のタイトルで,同テレビの「特番ぎんざNOW!」という番組において放送された(甲1の1)。
(3) 本件ビデオの販売 日本フォノグラムは,昭和59年ころ,本件作品を別紙3のとおりの内容に編集し直し,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するビデオカセット商品(以下「本件ビデオ」という。)として製作販売し,この際,モノラルからステレオへの音源の入れ替え,映像の劣化や肖像権の問題等に対処するため,映像の編集を行ったが,日本フォノグラムは,この編集作業を原告会社に依頼し,原告会社がこの編集作業を行った。
本件ビデオの発売に関して,日本フォノグラムは,原告Aに許諾料を支払う旨の提示はしなかった。
(4) 本件DVDの販売 被告は,平成15年1月22日,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するDVD商品(検甲3。以下「本件DVD」という。)を製作販売した。本件DVDは,本件ビデオの媒体をDVDにしたもので,本件ビデオと映像が同一であり,その内容は,別紙3のとおりである。
被告は,本件DVDの製作及び販売について,原告会社から明示の許諾を受けていない。
(5) 特典DVDの販売 被告は,本件DVDと同時に『ザ★ベスト』と題するキャロルのベスト盤CD(以下「本件CD」という。)を発売した。被告は,この両商品の宣伝のために,いわゆるプロモーションビデオ映像を作ろうと企図し,本件作品の一部を使用して合成し,ワイプ処理で切り刻んだような効果の編集をするなどして,「ファンキー・モンキー・ベイビー」のプロモーション映像を製作した(以下「本件プロモーション映像」という。)。被告は,本件プロモーション映像をテレビ放映(スポット及び番組エンディングテーマとして使用),街頭大型ビジョン上映,レコードショップ店頭上映,本社受付等での上映などを行うことによって,本件CD及び本件DVDを宣伝した。また,本件プロモーション映像を,本件CDの初回購入特典として,DVDに収録し(以下「特典DVD」という。),これを本件CDに付加して販売した(検甲4)。
被告は,本件プロモーション映像及び特典DVDの映像製作及びその利用について,原告会社から明示の許諾を受けていない。また,本件プロモーション映像及び特典DVDにおいては,そのオリジナル映像を撮った監督が原告Aである旨の記述はない。
2 本件は,原告会社が本件作品の著作権(複製権,頒布権,上映権,放送権及び翻案権)に基づき,原告Aが著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)に基づき,被告に対し,本件ビデオ及び本件DVDが本件作品を複製したものであり,特典DVD及び本件プロモーション映像が本件作品を翻案し,著作者人格権を侵害するものであるなどと主張して,@著作権法112条1項に基づき,本件ビデオ,本件DVD及び特典DVDの複製及び頒布の差止め並びに本件プロモーション映像の複製,上映,放送等の差止め,A同条2項に基づき,特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄,B民法709条に基づき,損害賠償,C著作権法115条に基づき,謝罪広告を請求する事案である。
被告は,請求棄却の判決を求め,担保を条件とする仮執行免脱宣言を求めた。
3 争点 (1) 本件作品の著作者及び著作権者は誰か。
(2) 本件ビデオは原告会社の著作権を侵害するか。
(3) 本件DVDは原告会社の著作権を侵害するか。
(4) 特典DVD及び本件プロモーション映像は原告会社の著作権及び原告Aの著作者人格権を侵害するか。
(5) 損害の発生の有無及びその額 (6) 謝罪広告の必要性
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(著作者及び著作権者)について 〔原告らの主張〕 (1) 本件作品の製作経緯 キャロルのマネージメント会社であった有限会社バウハウス(以下「バウハウス」という。)の会長職を辞して間もないF(以下「F」という。)は,昭和50年ころ,原告Aの仕事を手伝っており,その縁があって,原告Aは,キャロルの解散コンサートが昭和50年4月に開催されることを知り,これを撮影したいと考えるようになった。原告Aは,キャロルがレコードデビューをする前の昭和47年ころから,テレビ東京で原告Aが製作していた番組に出演させたりするなどして,キャロルのリーダーであるB(以下「B」という。)と親交をあたためていたからである。
原告会社は,昭和50年4月9日に法人として設立登記がなされ,キャロル解散コンサートは,同年4月13日に開催された。原告会社は,本件作品の撮影・編集に要する資金を集めるために,本件作品についての企画書を作って,これをテレビ局のTBSに持ち込み,TBSの放映料を製作資金にあてようと考えた。
しかし,できあがった映像を見てから最終的な判断をしたいと言われた。
そこで,原告会社は,原告Aの妻や親類から借金をして,製作資金を工面して,解散コンサート風景やメンバー達のオフステージの表情,親衛隊「クールズ」の言動などを撮影して,これらを編集し,本件作品を製作した。原告Aは,原告会社によるかかる製作行為に参加することを原告会社に約束した上で,本件作品の監督を務めた。
完成した本件作品をTBSに持ち込んだところ好評で,結局TBSで放映されることが決定し,同年7月12日『グッドバイ・キャロル』のタイトルで同局において放送された。TBSは放映料を原告会社に対して支払った。
放送された本件作品について,テレビ評等は,好意的に扱い,東京新聞では本件作品を原告会社の第1回作品として紹介している。また,原告会社にとっては法人として設立されて最初の作品であったため,ダイレクトメール用のはがきなどにおいて,本件作品を第1回制作作品と大書して印刷し,取引先等に配ったりもした。
TBSによる放映後,当時の日本フォノグラムの担当者であるHから申入れがあったので,原告会社は,本件作品の地方テレビ局への放映を許諾する権利を日本フォノグラムに譲渡し,本件作品のコピーを同社に提供した。したがって,被告が保管しているとする本件作品のマスターテープは,本件作品のオリジナルではない。
以上の経緯からすれば,本件作品の著作者は原告Aであり,著作権者は原告会社である。本件作品の製作について,発意と責任を有していたのは原告会社である。原告会社は,誰にも委託されずに本件作品を自主制作作品として製作したのである。
(2) 被告の主張への反論 原告らは,キャロルのマネージメント会社であったバウハウスの社長G(以下「G」という。)からも日本フォノグラムからも撮影料200万円を受け取った記憶はないが,仮に被告が主張するとおりだったとしても,原告会社は,発注者に対して製作を完成する義務を負っており,映画製作費用もキャストやスタッフ等への支払,機材の損傷の弁償など自己の負担としていることになるから,映画製作者の地位は揺るがない。
被告は,コンサート開催自体に関する費用負担を映画の製作費として考えているようであるが,別の目的のために作られた環境を撮影の背景に選んだからといって,その背景の製作費が映画の製作費となることはない。また,被告は権利処理は全て被告が行ったと主張するが,権利処理の主体と著作権者か否かは無関係である。
TBSへ放映許諾をし,そこからの放映料を受領したのは原告会社であり,事前の放送合意はなかったとはいえ,原告会社らは本件作品をテレビ局で放送するべく,限られた時間内に編集を終えてTBSに持ち込み,放映に漕ぎ着けたのであるから,製作の進行管理と完成の責任を負っていたのは原告会社にほかならない。監督である原告Aやカメラマンをはじめ,出演者のキャロルのメンバーやクールズに参加依頼・出演依頼をしたのは原告Aである。出演者に出演料の支払がなければ映画製作者になれないということはない。
〔被告の主張〕 (1) 本件作品の製作経緯 ア 昭和50年当時,Gと日本フォノグラムとの間で,解散コンサートのLPレコードのプロモーションに使用すること及び将来何らかの態様で利用することを目的として,解散コンサートの撮影を行うことが話し合われ,日本フォノグラムにおいて本件作品の製作が決定された。Gは,知人である原告Aが代表者を務める原告会社に撮影を依頼した。
イ 本件作品製作のための費用として,原告らからの見積もりに基づき,200万円を日本フォノグラムから原告会社に対して支払った。この製作費用は最終的にはGが負担し,日本フォノグラムからGに支払われる解散コンサートを素材とする商品についての原盤製作協力印税と相殺することとされた。すなわち,商品が売れて,日本フォノグラムがGに対し,製作費用以上の原盤製作協力印税の支払義務を負う場合は,製作費用はGの負担となり,原盤製作協力印税が同額未満の場合は,日本フォノグラムも製作費用の一部を負担するのである。本件では,日本フォノグラムは,製作費用を超える原盤製作協力印税を負担したので,結果的に,Gが製作費用を負担した。
ウ 本件作品の権利関係について,Gと日本フォノグラムとの間で締結された契約書(乙7)8条では,原盤に対するGの権利を日本フォノグラムに移転することが規定されているので,Gは日本フォノグラムに対して原盤を製作して納入する義務を負っており,本件作品を完成させて納入すべき義務を負担していた。この原盤製作の対価として,日本フォノグラムは前記原盤製作協力印税を支払う義務を負担したのである(前記契約書4条)。
エ Gは,解散コンサートの会場の選択と費用の支払,機材の搬入と費用の支払,キャロルのメンバーへの報酬の支払,コンサートスタッフの費用の支払,クールズへの協力依頼を行った。本件作品にクールズの映像を入れることは,日本フォノグラム内で話し合われていたことである。本件作品のみならず,後の本件ビデオ,本件DVD等の販売に際しても,日本フォノグラムは,映画製作者として,実演家や出演者との権利処理も行った。解散コンサートの開催,LPレコード発売,本件作品の撮影は,当初から一体として企画されたものであるから,本件作品の製作費用として,解散コンサート開催費用も含まれる。
オ 本件作品撮影後,そのマスターテープは,日本フォノグラムで保管し,現在では,同社から音楽関係の事業について営業譲渡を受けた被告が保管している。原告らから本件作品のマスターテープの引渡しを要求されたことはない。
カ 本件作品製作後,日本フォノグラムのUが担当となって,全国の放送局で本件作品を放映してLPレコードのプロモーションをしてもらうよう働きかけ,TBSで放送された。また,日本フォノグラムは,本件作品のビデオテープを複数のテレビ局に貸与したが,キャロル解散コンサートのLPを宣伝する目的のためだったことから,いずれのテレビ局に対しても,本件作品の放送について,一切対価を請求しなかった。
キ 当時,キャロルと専属契約(乙8)を締結していたのは,日本フォノグラムであり,キャロルは日本フォノグラムの専属アーティストとして,日本フォノグラムのレコーディングのために,日本フォノグラムの指示に従い実演を行うこととされていた。キャロルは,この専属契約に基づき解散コンサートを行ったのであり,日本フォノグラムのみが,適法に撮影を行い,その映像を固定する権限を有していた。
ク 原告らは,本件作品が製作された昭和50年から本訴提起前の交渉がなされるまで約28年間もの間,本件ビデオの販売が行われたにもかかわらず,本件作品の著作権に関する主張を一切していない。日本フォノグラムの担当者が,パッケージに「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と記載された本件ビデオを原告Aに持参したときも,原告らから何らの権利主張もされなかった。他方,日本フォノグラムは,本件作品の著作権者として本件作品を各地のテレビ局に持参して,キャロルのプロモーションのために放送させ,昭和59年には,原告Aに依頼して本件作品を編集した本件ビデオを発売している。これらの一連の行為は,本件作品の著作権を日本フォノグラムが有していたからこそできたものである。
(2) 著作権法15条(職務著作)による著作権取得 以上のとおり,本件作品の対象である解散コンサートを企画し,準備し,その模様を収録したLPレコードを製作,発売し,そのプロモーションのために解散コンサートを撮影することを企画したのは,全て日本フォノグラムであるから,本件作品は,日本フォノグラムの発意に基づいて作成されたものである。
法人等の業務に従事する者」とは,典型的には法人の従業員であるが,外部の者との間においても,法人等に著作権を原始的に帰属させることを当然の前提とする指揮命令関係がある場合には,かかる指揮命令に服する者も含まれる。キャロル解散コンサートは,日本フォノグラムの企画,管理下で実施され,当時,キャロルの実演を収録して原盤を製作する権利を有していたのは,キャロルと専属契約を締結していた日本フォノグラムであった。原告らは,日本フォノグラムの企画,費用,指揮命令によって撮影,編集等の作業を行ったにすぎない。したがって,本件作品は,日本フォノグラムの業務に従事した原告会社が職務上作成したものである。
「法人等の名義の下に公表するものであること」とは,法人等の著作名義で公表することを予定している著作物であれば足りる。本件作品は,LPレコードのプロモーション目的として製作されたものであるから,各地の放送局に無料で放送させることを前提としており,各放送局が自局の制作番組として放送できるよう,あえて,「制作・著作日本フォノグラム」と表示していないが,著作者名を表示して公表するのであれば,日本フォノグラムの著作名義で公表することを予定していた。現に,本件ビデオには,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と表示されている。
したがって,著作権法15条により,本件作品の著作権は,日本フォノグラムが原始的に取得した。
(3) 著作権法29条1項による著作権取得 本件作品は映画の著作物であるところ,LPレコードのプロモーションのために,日本フォノグラムが企画し,その費用により製作し,撮影に必要なキャロルの許諾も得たのであるから,日本フォノグラムが映画製作者であり,原告会社は,日本フォノグラムによる映画製作に参加することを同社に約束していたので,著作権法29条1項により,日本フォノグラムに著作権が帰属する。
仮にGが共同製作者として共同著作権を取得したとしても,日本フォノグラムとの昭和50年5月15日付契約書により,Gの持分は日本フォノグラムに移転されている。
(4) 著作権の譲受による取得 仮に,本件作品の著作権を原告会社が原始的に取得したとしても,昭和50年4月18日にテープの編集を終え,完成版のビデオを原告らがGに引き渡した時点で,本件作品に対する著作権はGに譲渡された。そして,同年5月15日付け契約書(乙7)により,Gから日本フォノグラムに移転し,平成12年に同社から被告への営業譲渡に伴って被告に移転した。
2 争点(2)(本件ビデオ)について 〔原告らの主張〕 昭和59年,Bは,自分のコンサート映像をビデオカセット商品として,当時のワーナー・パイオニア株式会社から発売しようと考えたが,その冒頭に本件作品の映像を一部使用したいと考え,日本フォノグラムの社長と直談判して,ワーナー・パイオニア株式会社から発売されるビデオに本件作品の映像を一部使用することの同意,すなわち専属解放の同意を得て,その代わりに本件作品自体をビデオカセット商品として,日本フォノグラムが発売することを同社に対して許諾した。
原告Aは,この経緯をBから聞いて,本件作品が日本フォノグラムからビデオカセット商品として発売されることを承認したが,これは著作権者である原告会社に対して許諾料を支払う旨の契約の提示があることを条件としたものであった。
しかし,日本フォノグラムから契約の提示はなく,原告Aも忙しさにかまけてそのままになってしまった。
したがって,本件ビデオは,相当額の許諾料を支払うとの条件が成就していないので,著作権者である原告会社の許諾なしに本件作品が複製されたものということになる。なお,本件ビデオは,本件作品を再編集したものではあるが,原告Aが自らビデオ化のために手直ししたもので,翻案したものではない。日本フォノグラムの提供した写真素材なども使用したのは事実であるが,それにより著作権の帰属に影響が生ずるものではない。
〔被告の主張〕 本件ビデオを作成するにあたっては,日本フォノグラムは,Bがキャロルの元メンバーから本件ビデオ販売についての承諾を取りつけることを交換条件として,Bが他社から発売する映像作品「●●●●ヒストリー」に本件作品の映像の使用を認めたものである。また,キャロルの各メンバー及びクールズのあるメンバーに対し,慣行上,金銭の支払がなされたが,これらの処理を行ったのは,日本フォノグラムである。
本件ビデオは,本件作品のモノラル音源を日本フォノグラムが録音していたステレオ音源と入れ替え,最後に使用している「エデンの東」の音源を異なるオーケストラの演奏に変更し,新たにキャロルのメンバーの写真を挿入し,映像に一定の編集を加えたものであるから,本件作品と実質的に同一であるとはいえない。
「エデンの東」の音源や新たに挿入した写真の権利処理は,日本フォノグラムが行った。日本フォノグラムは,原告会社に本件作品の映像の編集作業を依頼し,原告Aが編集作業を行った。このとき,日本フォノグラムから原告会社に対し,編集作業代金が支払われている。その際もその後も原告らからは,何の請求もなかった。
本件ビデオのパッケージには,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と記載されていたが,原告らからは,何の抗議もなかった。
以上のとおり,原告らは,本件作品製作と同様,本件ビデオ製作の全体には関与せず,単なる編集作業の委託を受けたに過ぎないものであって,映画の著作物である本件ビデオの製作者として,本件ビデオの製作を企画し,費用を負担し,必要な権利処理を行ったのは,日本フォノグラムである。したがって,本件ビデオの著作権者は,日本フォノグラムであり,営業譲渡に伴い,著作権が被告に移転されたものである。
3 争点(3)(本件DVD)について 〔原告らの主張〕 本件DVDは,本件ビデオをそのままDVD版にしたものであって,本件ビデオと同様に著作権者である原告会社の許諾なしに本件作品が複製されたものである。
〔被告の主張〕 本件DVDは,本件ビデオの媒体をVHSビデオからDVDに変更したものであるから,その著作権者は,当時既に本件ビデオの著作権を有していた被告である。
仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件ビデオを発売するときに本件DVDへの使用についても同意済みである。
4 争点(4)(特典DVD,本件プロモーション映像)について 〔原告らの主張〕 特典DVD及び本件プロモーション映像は,本件作品の一部の映像に大幅な改変を加えて作成されたものであり,著作権者である原告会社及び著作者である原告Aのいずれの許諾もなしに作成され,原告Aが監督をした旨の表示もなかった。
したがって,特典DVD及び本件プロモーション映像は,原告会社の著作権(翻案権)及び原告Aの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するものである。
〔被告の主張〕 (1) そもそも,特典DVDの映像は,本件作品に含まれる映像を素材として製作されたものではあるが,新たに製作した別個の著作物であるから,本件作品の翻案ではない。
本件作品は,ステージの前後に固定した2台のカメラと2台の移動カメラが捉えた合計4つの映像から,1つを選択して構成されたコンサートの映像と,コンサート以外の映像を織り交ぜ,編集したところに表現上の本質的特徴があり,個々の映像自体,特にライブ演奏を記録した部分は,演出行為,細かいカメラ割りなどを伴わず,カメラフレームや露出の決定などもライブ演奏の記録という性質上,非常に限定されているから,ほとんど創作性は認められない。特典DVDの映像は,このような創作性を認め難い個々のシーンが矢継ぎ早に次々と入れ替わるものであって,本件作品の表現上の本質的特徴として,創作性のよりどころとなる編集の成果を全く利用していない。したがって,特典DVDに接した者が,本件作品の表現上の本質的特徴を感得することはないから,特典DVDは,本件作品の翻案ではない。
したがって,本件作品の著作権者が誰であるかにかかわらず,特典DVDの映像の著作権は,これを製作した被告に原始的に帰属しており,仮に原告Aが本件作品の著作者人格権を有していたとしても,これを侵害しない。
(2) 仮に特典DVDが本件作品を改変したものであるとしても,本件作品がプロモーション用に製作されたものである以上,その改変が成されることや,約4分30秒程度の短いプロモーションの映像を作成した場合に,著作者の名称を表示しないことも,原告らは当初から了解済みであったというべきである。
5 争点(5)(損害)について 〔原告らの主張〕 (1) 利益賠償の適用について 原告会社は,主位的に著作権法114条2項による損害額を請求するものである。
ア これに対し,被告は,まず,原告会社においては,ビデオやDVDを製作し販売している実績がないため,利益賠償を主張することができないと主張する。
しかし,それは法律の明文にない要件を導入したことになり,誤った解釈である。仮に権利者において当該権利に係る著作物利用を現実に行っていることが本項適用の前提条件であるとするならば,その旨が条文上明記されていてしかるべきであり,条文の文言に全て表現しつくすことが困難である場合も立法技術としては通常あり得ることであるが,条項の適用場面を制限する定型性のある前提をあえて省略するような立法は不適切である。原告会社は,テレビ番組を中心とした映像作品の企画,製作を専ら行う会社であり,映像作品のライセンス事業は数多く行っている。
イ また,被告は,原告会社は解散コンサートを収録した商品を適法に製造販売するための実演家の許諾を取得していないので,本件DVDを自ら製造販売できないと主張する。
しかし,原告会社こそが実演家からの許諾を取得したのであって,被告こそこのような許諾の取得について立証をなし得ていない。また,そもそも利益賠償の要件として原告会社が侵害と目された製品の製造販売を実際に行っていることを要求するのは法律解釈として誤っている。
ウ いわゆるコンテンツ産業において,ソフト部分とハード部分の機能分化は普遍的に存在しており,物理的素材としてのDVD盤を作る会社や,商品として梱包されたDVDをレコードショップ等に卸売りして配給する会社は,レコード会社の外部の第三者である。したがって,著作物を製作販売するための設備,技術を有するかどうかを前提として,利益を得る蓋然性を論じるのであれば,そもそも今日の日本のコンテンツ産業一般においては誰も利益賠償を得る適格性が存しないことになる。
エ 仮に,被告が主張するように「原告会社がビデオ販売をしていること」を利益賠償の前提と考えた場合であっても,製造販売とは,結局のところ,製造と販売に関する費用を自ら負担しているということであり,このような意味における製造販売については,原告会社はこれを業として行っている。Bの実演を収録したビデオ商品「THE STAR IN HIBIYA」及び「●●●●ストーリー」に関して,原告会社は株式会社音との間で一切の費用を2分の1ずつ負担し,売上げを2分の1ずつ取得する旨の共同製作・販売契約を締結した(甲51,52)。
(2) 本件ビデオによる損害 ア 主位的請求 3706万9851円 本件ビデオについても,本件DVDと同様に音及び映像からなる商品であるから,下記(3)ア記載のとおりの本件DVDの利益率69.3%(利益額1億7056万2779円÷売上げ2億4608万9025円)をもとに各商品の利益を計算する。
被告は,平成5年以降本日まで,本件ビデオを,小売価格3689円(税込み3873円)のものを6897本(レーザーディスク商品を含む。),2427円(税込み2548円)のものを1万7508本販売したとのことであり,卸価格は定価の75%である。
したがって,本件ビデオに係る利益は,次のとおり,3706万9851円である。
(3873円×6897本+2548円×1万7508本)×75%×69.3%=3706万9851円 イ 予備的請求 1783万0616円 レコード会社がアーティストのライブ映像などをテレビ局などの外部権利元からの供給に頼る場合には,権利元に支払う印税率は,ビデオグラムの小売価格の20%程度になる。ものによっては25%から30%程度になることもある。
こうした場合,外部権利元はビデオグラム商品として発売するにあたっての権利クリアランスは,レコード会社に委ねるのが常である。すなわち,本件において,日本フォノグラムが権利クリアランス業務を行ってもなお,原告会社に小売価格の20ないし30%程度の印税を支払うのが正当なのである。本件では,キャロルという知名度の高いアーティストの映像作品であることに鑑みれば,25%の著作権料率が相当である。
したがって,著作権法114条3項に基づく原告の損害額は,次のとおり,1783万0616円である。
(3873円×6897本+2548円×1万7508本)×25%=1783万0616円 ウ 被告は,本件ビデオに関する原告会社の金銭請求権は発生していないと主張するが,原告らは,対価の合意がなされ,かつ対価が実際に支払われることを条件として,日本フォノグラムに本件ビデオの複製・頒布を許諾したものである。
対価の合意は結局されなかったから,許諾はなかったことになる。
仮に,原告会社が条件を付けずに日本フォノグラムに本件ビデオの販売を許諾していたとしても,原告会社は相当の対価請求権を当然有していたはずであるから,契約を前提とした相当対価請求権又は契約不存在を前提とした不当利得請求権を有するというべきである。
被告の主張では,「●●●●ヒストリー」に15分間本件作品の一部を使用することの対価として47分間の本件作品全部を無償でビデオ化できることになり,バランスを失している。
また,被告は,原告会社が本件ビデオの編集作業を行い,それに対して報酬が払われていると主張するが,編集スタッフとしての立場と著作権者としての立場は全く異なり,性質の違う対価なのであるから,編集作業の報酬が支払われたから著作権料は支払われなくていいことにはならない。
(3) 本件DVDによる損害 ア 主位的請求 1億7056万2779円 (ア) 本件DVDの消費税込みの小売価格は,3675円(消費税込)であり,卸価格はその75%であり,販売数量は8万9284枚であるから,本件DVDの売上げは,2億4608万9025円(3675円×8万9284枚×75%)である。
なお,被告は,売上げは消費税を含まずに計算し,控除すべき費用については消費税を含めて計算しているが,売上げについても消費税を加算して計算すべきである。
また,原告会社は,本件作品の頒布権のみならず複製権の侵害も主張しているのであるから,いったん違法に複製され,頒布され,これにより被告が利益を受けた以上,被告側の事情により返品がされたとしても,これを控除すべきではない。
(イ) 本件DVDに係る利益は,別紙4のとおり,売上げから経費を控除した1億7056万2779円が相当である。
被告は,利益賠償における被告利益額から経費を控除しているが,著作権法114条2項における「利益」とは「純利益」ではなく,当該侵害品により利益を受けるために新たに発生した費用のみが「粗利益」額から控除すべき費用であり,被告の主張する費用控除のうち,次の費目は過大である。その余の費用の控除は認める。
a 被告がB所属事務所である株式会社音へ支払ったとする小売価格の20%相当の印税額は,根拠も示されていない以上,経費として控除することは許されない。プロデュース印税としても,せいぜい小売価格の2%前後であるが,本件作品で株式会社音は何のプロデュース行為も行っていないのだから,不当な支出である。
b 被告が有限会社オークランドへ支払ったとする3.75%の印税は根拠が不明で,経費として控除することは許されない。原盤製作協力印税であるとしても,原告らが本件DVDの発売に先立って,著作権者として名乗りを上げているにもかかわらず,漫然と支払われたもので,経費としては認められない。
c 被告は,宣伝販促費を経費として計上しているが,これは本件DVDの宣伝販促のほか,特典DVDを同梱した本件CDに対する宣伝販促も含んでいる。したがって,これらを仕訳する必要があるところ,両者の売上げの比は,本件DVDが38.9%,本件CDが61.1%であるから,本件DVDの宣伝販促費として控除が許されるのは,宣伝販促費合計額1952万5124円の38.9%である759万5273円である。
d 被告は,ビクターエンタテインメント株式会社(以下「ビクター」という。)に純売上げの2%を販売手数料として支払ったとするが,通常販売委託契約では,運送費等は販売受託先が負担するものであるから,何のための手数料であるか開示されなければ関連性がないものとして控除を認めるべきではない。
e 部門費(人件費,一般管理費)は,本件DVDの製作の有無にかかわらず,被告に恒常的に生ずるものであるから,かかる部門費は控除すべきではない。
(ウ) なお,被告は,本件DVDの演奏部分は,被告が音源を差し替えてステレオ化したものであり,それによって被告の貢献が全体の50%になると主張するが,失当である。
多様な構成要素から成る映像作品において,音楽のみを取り出してその貢献度が全体の半分であるというならば,例えば映画の製作費の半分が音楽に費やされたり,二次使用料(劇場用映画がビデオ化されたりテレビ放映される際に楽曲の著作権者や脚本家等に支払われる金額)も音源の権利者が半分を取得するということになるが,非常識である。
また,原告らが撮影し録音したオリジナルの収録物には,そもそもキャロルの全く同じ演奏が録音されていたものであって,ただテレビ放映を目的としていたからモノラルで録音されていたにすぎない。すなわち,被告が行ったことは,録音物としての音に関して,0を100にしたのではなく,50を100にしたにすぎない。
本件作品は,純然たる作家性のあるドキュメンタリー作品であり,原告Aの演出家としての手腕が評価されたのは,キャロルのメンバーがオープンカーで喋るシーンを移動中継車を駆使して撮影した箇所などである。コンサートの演奏部分がモノラルからステレオに差し替えられたことは,ドキュメンタリー作品としての本件作品においては従たる意義しかない。
このことは定量的にも観測できる。本件作品の約28%は,インタビューなどのため被告による音源の差し替えがないか,差し替えに意味がない部分である。
これらを総合的に考察すると,被告による音源の差し替えを貢献として評価するとすれば,5%程度が妥当である。
イ 予備的請求 8202万9675円 前記ア(ア)のとおり,本件DVDの1枚当たりの消費税込みの小売価格は3675円であり,販売数量は8万9284枚である。
前記(2)イのとおり,著作権料率は25%が相当なので,著作権法114条3項の受けるべき金銭の額は,次のとおり,8202万9675円となる。
3675円×8万9284枚×25%=8202万9675円 (4) 特典DVDによる損害 ア 主位的請求 1848万8100円 特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込みの小売価格は3200円であり,卸価格はその75%であり,販売数量は16万1335枚である。
被告は,特典DVDについては利益が出ていないと主張するが虚構である。
本件DVDにおける利益率は69.3%(利益額1億7056万2779円÷売上げ2億4608万9025円)であるから,本件CDが被告にもたらした利益は,2億6833万2372円(3200円×16万1335枚×75%×69.3%)である。
特典DVDが付いた本件CDは,25曲の音のみの楽曲と2曲の映像を伴った楽曲の演奏が収録されている1個の商品であるから,全体としての商品が稼ぎ出した全利益を楽曲の頭割りで算定する。被告の主張によれば,音源と映像は2分の1ずつであるから,頭割りの算定上,特典DVDの収録曲は2倍にして算定すると,特典DVDに収録された「ファンキー・モンキー・ベイビー」には,全体の6.89%(2÷29)が振り分けられる。
したがって,原告会社の受けるべき利益は,次のとおり,1848万8100円である。
2億6833万2372円×6.89%=1848万8100円 イ 予備的請求 889万2785円 前記アのとおり,特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込みの小売価格は3200円であり,本件CDの売上枚数は,16万1335枚であり,そのうち6.89%が「ファンキー・モンキー・ベイビー」の映像に割り当てられる。実施料率は25%が相当である。
したがって,特典DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき金銭の額は,次のとおり,889万2785円である。
3200円×16万1335枚×6.89%×25%=889万2785円 (5) 本件プロモーション映像による損害 1548万8160円 レコード会社においては,プロモーション協力の対価としてレコードの小売価格の3%程度をアーティストの所属事務所などに支払うことがある。本件プロモーション映像もテレビ,ウェブサイト,店頭などにおいて,本件DVDと本件CDの販促のために利用されており,こうしたプロモーション印税相当の支払に匹敵する。
特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込みの小売価格は3200円である。
したがって,本件CDの売上げに,本件プロモーション映像が与えた影響を著作権法114条3項により受けるべき金銭の額として換算すると,次のとおり1548万8160円となる。
3200円×16万1335枚×3%=1548万8160円 (6) 原告会社の損害のまとめ ア 主位的請求 本件ビデオによる損害 3706万9851円 本件DVDによる損害 1億7056万2779円 特典DVDによる損害 1848万8100円 本件プロモーション映像による損害 1548万8160円 合計 2億4160万8890円 イ 予備的請求 本件ビデオによる損害 1783万0616円 本件DVDによる損害 8202万9675円 特典DVDによる損害 889万2785円 本件プロモーション映像による損害 1548万8160円 合計 1億2424万1236円 (7) 原告Aの損害 2000万円 原告Aは,本件プロモーション映像をテレビで見て,かつての自分の監督作品が切り刻まれて放送されたことに衝撃を受けた。この著作者人格権侵害の慰謝料は,2000万円を下らない。
〔被告の主張〕 (1) 利益賠償の適用について ア 仮に原告会社が本件DVDの映像について著作権を有しており,被告に対し,本件DVDの製造販売行為について損害賠償請求権を有するとしても,損害額として被告が得た利益額の賠償を求めることはできない。
著作権法114条2項は,侵害行為と損害との因果関係及び損害額の立証が困難であることに照らし,著作権者の立証の困難性を救済するために,侵害者が得た利益をもって著作権者の被った損害額であると推定するものである。推定されるのは,侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額であって,損害が発生したこと自体は,著作権者が立証しなければならない。
著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定であるから,損害が発生したというためには,著作権者自身が,著作権侵害とされる行為がなされていた時期に,侵害品と競合する商品を自ら製造販売していたことが必要である。そうでなければ,侵害品がなければ,その分だけ著作権者の商品が売れたはずであるという補完関係がなく,侵害行為から得られた利益を著作権者の損害と推定するための事実的な基礎を欠くからである。本件では,自らビデオ商品やDVD商品の製造販売を行っていない原告会社は,被告と同様に本ビデオ商品や本DVD商品の製造販売を行って利益を得られる蓋然性はないから,同項の適用はない。
イ 仮に,著作権法114条2項の適用を受けるためには,著作権者が著作権侵害とされる行為がなされた期間中に,自ら著作物を利用していなくても,著作権の保護期間中に利用する可能性があれば,同項の適用があると解したとしても,原告会社が自ら本件DVDの製造販売を行う蓋然性は低く,利用許諾による権利行使を行う蓋然性が高いことから,同項は適用すべきではない。
また,原告会社は,解散コンサートが行われた昭和50年から約30年経った現在においても,自ら製造ないし販売元となってレコードやDVDを販売したことがないのであるから,今後もレコード会社への利用許諾はしても,自らが製造販売の主体になる蓋然性は低い。
ウ さらに,著作権者が著作権法114条2項に基づく損害額を主張することができるのは,著作権者が著作物を利用する権利を専有し,自らの権原のみに基づいて著作物を利用することが可能であり,他方,侵害者により販売等のされる侵害品が真正品と同内容のものとして互いに排他的な競争関係に立つことから,侵害品の販売等による利益をもって著作権者が真正品の販売等により得ることのできたはずの利益と等価関係に立つという擬制が可能なことによるものというべきである。
本件DVDに収録されている解散コンサート収録時,キャロルと日本フォノグラムとは,専属契約を締結していた。すなわち,キャロルは,日本フォノグラムの専属アーティストとして,日本フォノグラムのレコーディングのために,日本フォノグラムの指示に従い実演を行うものとされ,レコーディングされた原盤の所有権及び録音権,録画物に対する著作権法上の全ての権利は日本フォノグラムに帰属する。したがって,解散コンサートについては,キャロルは日本フォノグラムに対して著作隣接権を譲渡しているのであって,被告は営業譲渡によって,日本フォノグラムから同権利を承継取得している。
原告会社は,本件DVDの映像について著作権を有していたとしても,キャロルの実演を収録する権限を有しておらず,キャロルの実演を収録することの許諾も得ておらず,そこに収録されている実演についての著作隣接権を有していない。解散コンサートを収録した商品を適法に製造販売することについての著作隣接権の利用許諾も受けていない以上,本件DVDを自ら,あるいは第三者に委託して適法に製造販売することはできないのであるから,被告が得た利益をもって,原告会社が得ることができたはずの利益と等価関係に立つと擬制することはできず,同項を適用できない。
エ 原告会社は,今日のコンテンツ産業における分業の実態を主張するが,分業によって各当事者の担当業務が限定されているならば,各当事者が得られる利益も各担当業務から得られる利益に限定されるのであり,被った損害の填補を目的とする損害賠償制度において,自らの担当業務上,およそ得られるはずのない利益についてまで逸失利益の賠償を求められないのは当然である。種々の当事者が関与して各自の利益の累積として得られるところの製作販売による利益を著作者のみの逸失利益として認められないのである。
オ 原告会社は,ビデオの製造販売を業として行っていると主張するが,現実には,原告会社が行っているのは,映像原盤を株式会社音又は有限会社カムストックと共同で製作するところまでで,その後のこれらの作品を発売するための様々な業務は,すべて株式会社音や有限会社カムストックが行っている。また,製造費,広告宣伝費,音楽著作権使用料などの費用も,株式会社音や有限会社カムストックが立替払し,その後,売上げが上がった段階で,立替金回収後の損益を折半している。すなわち,原告会社は商品の製造,宣伝及び販売に関し,何のリスク,作業又は役割も負わず,単に最初の製作費の出資に対するリターンを受けとるにすぎないから,実質的には株式会社音又は有限会社カムストックが事業主体であり,原告会社は事業主体であるとはいえない。
(2) 本件ビデオに関する損害 昭和59年に本件ビデオを発売するに際し,その前年に日本フォノグラムは,本件作品の撮影を担当した原告らに編集作業を委託して報酬を支払った。原告らは,「●●●●ヒストリー」に本件作品の一部を使用するに際し,日本フォノグラムが専属解放に同意することを条件として,原告会社が日本フォノグラムに対し,本件作品を有償でビデオ化することを許諾したと主張するが,日本フォノグラムが原告らに本件作品のビデオ化に関して対価を支払うという合意がされた事実はない。また,本件ビデオ発売後平成14年末まで,原告らから日本フォノグラムにも被告にも,本件ビデオについて著作権使用料の請求がされたことはない。
したがって,仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件ビデオについては,著作権の使用料は発生しない。
(3) 本件DVDに関する損害 ア 本件DVDは,本件ビデオの媒体をDVDに変更したものである。したがって,仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件ビデオを発売するときに本件DVDへの使用についても同意済みであるし,日本フォノグラムが対価を支払う合意はされていないので,本件DVDについて,著作権の使用料は発生しない。
イ 仮に,本件DVDに本件ビデオについての許諾の効果が及ばない場合は,本件DVDに関する損害は,著作権法114条3項により,以下のとおり265万6199円である。
本件DVDは,1枚あたりの税抜き小売価格は3500円であり,販売数量は,8万9284枚である。DVDというパッケージとして販売するために費用がかかるため,販売数量に85%を乗じて,パッケージ費用を控除する。
製作者の印税率としては,日本フォノグラムとGとの契約書(乙7)では3.75%とされている。しかし,本件では,原告らは解散コンサートの収録について許諾を得ておらず,キャロルへのギャラの支払やコンサート開催についての費用等を全く負担していないこと,挿入されているキャロルの元メンバーの写真やエンディングに使用されている「エデンの東」の権利処理も日本フォノグラムが行ったこと,原告らが担当したのは,単なる撮影業務だけであることに照らせば,印税料率は2%で十分である。
本件DVDは,音源は日本フォノグラムから被告が承継したステレオ音声を用いており,当業界の慣行では,映像のみの製作者への印税は2分の1となる。キャロルが解散コンサートとして演奏を行った模様を収録した音楽ビデオが本件DVDの商品価値であり,通常の映画作品とは異なる。音楽ビデオである本件DVDとしては,オリジナルの収録物のモノラル音声では商品価値はなく,被告によるステレオ音声への音源差し替えがなければ本件DVDは発売できなかった。テレビ用のドキュメンタリー番組の面は,解散コンサートを収録しているということと比較すれば貢献度は低い。音源の入っていない部分は,いわば付け足しの部位にすぎない。
したがって,本件DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき金銭の額は,次のとおり,265万6199円となる。
3500円×8万9284枚×85%×2%×1/2=265万6199円 ウ 仮に,損害額を著作権法114条2項による逸失利益とする場合は,以下のとおり,2346万2129円(円未満切り捨て)を超えることはない。
(ア) 本件DVDの販売による売上げは,卸売価格(小売価格3500円×75%=2625円)に販売枚数8万9284枚を乗じた2億3437万0500円であるが,実際の売上げは,返品分268枚を控除した2億3366万7000円である。
原告会社は,返品されても控除すべきではないと主張するが,利益額をもって損害額とするのであれば,返品された商品についての利益は発生しないのであって,しかも本件DVDのような音楽作品の場合,返品は不可避に生じるものであって,原告会社が販売を行っても同様の返品が生じることは避けられない。したがって,不可避に生ずる返品については,損害額から控除すべきである。
なお,原告会社は,売上げについても消費税を加算して計算すべきであると主張するが,売上げに課される消費税は,被告を通過して必ず国に納入されるのであるから,消費税相当額は,当初から被告に帰属し得ないものであり,利益額に含めないのは当然である。
(イ) この売上げを上げるために必要な経費としては,別紙5に列挙したとおりの費用が必要であり,これらの費用は,仮に原告会社において本件DVDを販売するとしても必要になるものである。したがって,これらの経費を前記売上げから控除した4692万4259円が本件DVD全体の逸失利益の額である。なお,控除すべき費用については,被告は実際に消費税額を付加した金額を支出しているのであるから,費用として控除すべきである。
一般論として,同項による「利益」とは限界利益と解する立場が妥当するとしても,本件では原告会社はそもそも製品の製造販売をしておらず,原告会社が本件DVDの製造販売によって被告と同様に利益を得ようとすれば,労働力や設備を新たに導入しなければならないから,このような経費を全て控除した純利益の金額をもって賠償額を認定すべきである。
控除すべき費用等は,以下のとおりである。
a リベート(乙118) 2442万2370円 b 製造費 1394万4432円 製造費の内訳は,原盤代10万5000円(乙32),ケース代311万5560円(乙32。35円×8万9016枚×1.05),ディスク代890万1600円(乙32。100円×8万9016枚×1.05),ジャケット印刷代(別途新譜時製版代及び別途新譜時改版代を含む。)116万3251円(乙33。145万9683円×8万9016枚/11万1700枚×1.05)である。
c マスタリング費用 63万0000円 マスタリング費用の内訳は,音声6万3000円(乙35),映像マスタリング23万1000円(乙36),映像オーサリング33万6000円(乙37)である。
d 印税 6281万8917円 印税の内訳は,B分の印税55万5418円(乙44),D分の印税50万9133円(乙45),I分の印税50万3991円(乙46),C分の印税48万8562円(乙47),株式会社ミューコム分の印税106万1555円(乙48),株式会社音に対する印税4884万3018円(乙43),有限会社オークランドに対する印税786万5863円(乙49のうち,DVDと記載してある項目)の合計5982万7540円に消費税を加えた6281万8917円である。
5982万7540円×1.05=6281万8917円 なお,株式会社音に対する印税は,日本フォノグラムがラストライブのビデオ商品を発売する際に,Bとキャロルの楽曲,フィルムを使用する場合に,Bの許諾がいる旨の合意をしたことを根拠としている。日本フォノグラムから営業譲渡を受けて,Bとの契約関係を承継した被告としては,かかる合意を無視できない。原告会社が本件DVDを製造販売するとしてもBからは同様の要求がされ,これに応じなければBは製造販売の許諾をしないであろうことは明らかである。したがって,原告会社の損害を推定する上でも,株式会社音に対する印税額は控除すべきである。
また,被告は,有限会社オークランドに印税を支払ったが,被告は,契約書(乙7)4条でGが取得した原盤製作協力印税請求権を有限会社オークランドが承継した(乙14)ことに基づき支払を遂行しているのであり,何ら不当なことではない。
e 著作権印税 1663万3045円 f 肖像使用(乙34) 21万0000円 g 宣伝販促費 1926万0394円 本件DVDと本件CDとは,同時に発売されたものであるが,レコード店に置くポップ,ポスター等,一方の商品のみを対象とした広告物がほとんどであり,支出する際の費目としては,本件DVD用と本件CD用の販促活動費は,分別されるのがほとんどである。かかる分別に従って集計したものを基本とし,いずれに対する出費であるか不明なものは,販売額に応じた按分計算をして分配すると,本件DVDの宣伝販促費は,以下の(a)ないし(d)を合計した合計1926万0394円となる。
(a) 乙第50ないし90号証の合計1836万7133円 (b) 乙第101号証ないし105号証の合計72万6810円 (c) サンプル盤(581枚)の製造費9万1130円 (d) 乙第116号証及び117号証に対応した支払金額合計を,本件DVDと特典DVDを含んだベスト盤CDの売上比で按分した7万5321円 h デザイン費 11万0754円 本件DVDのジャケットのデザイン費の内訳は,文字入力・版下代3万0114円(乙92),改版代8万0640円(乙91。7万6800円×1.05)である。
i 搬送費(乙118) 615万0914円 j ビクター手数料(乙118) 490万7007円 被告はビクターとの契約に基づき実際に運送費を負担しているのであって(乙120),ビクターの販売手数料は,被告が運送費を負担することを前提として決定されたものであるから,変動費であることが明らかな運送費は当然に経費控除すべきである。
k 部門費(人件費,一般管理費) 3765万4908円 侵害者の利益額をもって著作権者の損害額と推定しているのは,侵害者が得た利益をそのまま著作権者に返還させる趣旨ではなく,侵害行為がなければ,侵害者が得た利益を著作権者が得られたであろうという補完関係があることによる。本件では,そもそも本件DVDの製造を行っていない原告会社が本件DVDを製造販売するためには,新たな部門費が不可避的に発生する。したがって,原告会社が出費することが明らかな部門費(人件費,一般管理費)は控除すべきである。
(ウ) さらに,上記のうち,原告らが作業を担当したのは,本件DVDの映像部分であるから,原告らの貢献度は最大限に評価しても50%を超えるものではない。したがって,仮に原告会社に逸失利益の賠償がされるとしても,上記(イ)の額に2分の1を乗じた金額である2346万2129円(円未満切り捨て)を超えることはない。
(4) 特典DVDに関する損害 ア 仮に,特典DVDが翻案権侵害であるとしても,その損害は,次のとおりである。
特典DVDは,平成15年に発売されたCD「キャロル/ザ★ベスト」の初回発売分に特典として付されていたものである。特典DVD付きの本件CDは,これがないものよりも134円価格が高いことから,特典DVDの価格は134円と考えるのが相当である。
平成15年第2期までの特典DVD付きの本件CDの販売枚数は,16万1335枚である。
前記(3)イのとおり,販売数量に85%を乗じて,パッケージ費用を控除する。また,製作者の印税率は2%が相当である。さらに,音源は日本フォノグラムのものを使用しているので,映像のみの製作者への印税は2分の1とする。
特典DVDには,原告らが撮影した解散コンサートの映像を素材にした映像を使用した「ファンキー・モンキー・ベイビー」と,原告らとは無関係の映像を使用した「ルイジアンナ」の2曲が収録されているので,更に2分の1を乗じることになる。
したがって,特典DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき金銭の額は,次のとおり,9万1880円となる。
134円×85%×16万1335枚×2%×1/2×1/2=9万1880円 イ 仮に,損害額を著作権法114条2項による逸失利益とする場合は,その額は次のとおりである。
特典DVDの販売による売上げは,卸売価格(小売価格135円の75%の小数点以下を四捨五入した101円)に販売枚数16万1335枚を乗じた1629万4835円であるが,返品が22万1291円分あるため,実際の売上げは,返品分を控除した1607万3544円である。
この売上げを上げるために必要な経費としては,別紙6に列挙したとおりの費用が必要であり,これらは仮に原告会社において特典DVDを販売するとしても必要になる。したがって,これらの経費を上記売上げから控除したものが,逸失利益の額であるが,本件では経費が上回り,利益は出ていない。
(5) 本件プロモーション映像による損害 プロモーション印税を支払う慣行は,アーティストが所属する会社において,プロモーション活動を実際に行い,その対価としてレコードの売上げの一定料率を支払うものであり,本件のように既に収録された映像を使用する場合に,販促物の使用料を宣伝対象である商品の売上げに応じて支払うというものではない。プロモーション印税を宣伝対象である商品の売上げの一定料率とする趣旨は,プロモーション活動を積極的に行う動機付けをアーティスト側に与えることにあるから,本件のように収録済みの映像の使用について,宣伝対象である商品の売上げを基礎に使用料額を算定するという合理性はない。
(6) 消滅時効 仮に,本件作品の著作権が原告会社に認められるのであれば,10年を経過した販売行為に対する不当利得に基づく請求及び3年を経過した販売行為に対する不法行為に基づく請求については,被告は消滅時効を援用する。
6 争点(6)(謝罪広告)について 〔原告らの主張〕 本件プロモーション映像は,テレビを始めとする各種メディアによって多くの人々の目に触れるところとなった。また,本件プロモーション映像を収録した特典DVDの販売に先立って,その権利侵害性につき,被告は原告らから明確な警告を受けたにもかかわらず,あえてその発売を強行して,多数の消費者のもとに,原告Aの著作者人格権及び原告会社の著作権を侵害した特典DVDを頒布したものである。
したがって,原告らは,被告に対し,別紙1記載のとおりの謝罪広告掲載の請求権を有するものである。
〔被告の主張〕 争う。
当裁判所の判断
1 証拠から認められる事実 (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 昭和50年4月13日,B,C,D及びEをメンバーとするロックバンド「キャロル」の解散コンサートが行われた。
解散コンサートは,キャロルのマネージメント会社であったバウハウスの社長であるGが企画し,バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行った。すなわち,バウハウスは,解散コンサートの会場の選択,会場費用の支払,機材の搬入と費用の支払,キャロルメンバーへの報酬支払,コンサートスタッフの費用の支払,コンサートのポスターやチラシの製作,保険契約の締結(乙28ないし30)等のコンサートの運営に関する一切の業務を行い,コンサート費用一式の支払をした(乙23の1,24の1及び2,25の1及び2)。Gは,ラストライブのステージをどのように構成するかを考え,コンサート全体のプロデュースを行った。コンサートのちらし(乙27)には,「企画・制作★バウハウス」との記載がある。
イ 原告Aは,Gと合意の上,解散コンサートの撮影をすることになった。
同原告は,昭和50年4月9日,テレビ番組を中心とする映像製作を目的とする原告会社を設立した。
本件作品の撮影は,原告会社によって行われ,原告Aが監督をした。原告会社は,カメラマン,音声等スタッフと撮影・音声機材等を,テレビ技術会社である株式会社パビック(以下「パビック」という。)に発注して行った。パビックは,原告Aと事前の打合せを行い,同原告の指示に従ってカメラ位置を定め,撮影したものである(甲10,11,27)。
解散コンサート当日,コンサート会場での演奏の収録は,4台のカメラを中継車につなぎ,ライブ演奏に合わせてカメラを切り換え,スイッチングで1本化して録画した(甲27)。カメラは,ステージ後方ドラムスの後のイントレの上に固定カメラ1台と舞台の上に手持ちカメラ1台,客席の中のイントレの上に固定カメラ2台の陣容で撮影した(甲24ないし27)。原告Aは,オープンカーに乗ったキャロルのメンバー4人が親衛隊クールズのバイクに囲まれ併走しながら1人ずつ解散への想いを語るシーンを,大型VTR録画機を積み込んだ車を走らせながら,ハンディカメラでキャロルやクールズを狙って撮るという,当時としては新しいビデオ撮影方法を採用した(甲10,27)。 ウ 当時,原告Aとしては,本件作品を製作するにあたり,製作費の工面は二の次のようなところはあったが,事前に当てがあるに越したことはないと考え,以前から面識のあったTBSのプロデューサーJ及びKに相談に行った。しかし,企画段階ではTBS側が難色を示し,撮影編集済みの映像を見て,良ければ放送するとの対応だったので,自主制作で撮影編集等を行うことになった(甲27)。
原告らは,解散コンサートから数日後に行った番組全体の編集作業で,スイッチングで1本化して録画したものと,ハンディカメラでのファンへのインタビュー等を原告Aの演出方針に従って構成し,やや長めの時間で編集した(CM抜きで正味51分。検甲1)。原告Aは,このように編集して完成した映像(TBSのスタッフ表示のスーパーテロップ等を入れていないもの)をTBSのJプロデューサーに持ち込み,その形で試写を行った。そして,その結果として,本件作品をTBSで放映できることになった(甲3,27)。
その後,原告Aは,TBSの指示で,番組として決められた時間ちょうどになるように(CM抜きで正味48分)編集し直した(検甲2)。編集段階で,原告Aは,編成も兼務していたKプロデューサーに確認を取り,TBSの指示通り黒味を入れ,TBSからの指示により,Kプロデューサーの名前と制作著作TBSのスーパーテロップを入れて納品した(甲27,検甲2)。なお,CMを挿入するには,Kに連絡してCMの回数・秒数を確認することが不可欠であり,テレビ局のフォーマットを知らなければテレビ局へ納品すらできない(甲27)。
エ 原告会社は,昭和50年6月19日,TBSとの間で,TBSでの1回の放送に限って,本件作品の放送権を譲渡する旨の契約を締結した(甲39)。対価は150万円であり(3条),TBSから原告会社に支払われた。
本件作品は,同年7月12日,TBSの「特番ぎんざNOW!」という番組において,『グッドバイ・キャロル』のタイトルで,テレビ放送された(甲1の1)。
なお,TBS放送前のクレジットは,「技術 パビック,プロデューサー L(原告会社社員)・G,ディレクター A,制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ」となっており,TBSで放送されたクレジットは,「技術 パビック,プロデューサー L・K,ディレクター A,制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ,制作著作 TBS」となっている(甲38,検甲1,2)。
原告会社がTBSと契約した後で,日本フォノグラムから原告会社に話があり,地方テレビ局への番組販売権は,日本フォノグラムへ譲渡することにしたが,対価は支払われていない(原告本人)。原告Aは,このとき日本フォノグラムのHに対し,TBS放送用に加工したテープの一段階前の編集途中のテープを地方番組販売用(地方番販用)として引き渡した(原告本人)。
そして,本件作品は,昭和50年7月12日から翌51年5月1日まで,TBSをはじめ多数回全国で放送され(甲40),その詳細は,原告会社にも報告されていた。
オ 当時の新聞には,本件作品は原告会社の第1回作品として報道された(甲1の1)。原告会社も,自社の第1回制作番組として本件作品を広告していた(甲2)。
カ 本件作品の撮影費については,パビックの技術料は200万円を超えたが,初製作でもあり,値引きをした200万円を原告会社からパビックに支払った。また,撮影機材を提供したパビックが原告会社に対し,火災で被った損害101万7000円を請求したので(乙26の2),いったん原告会社はこれをパビックに支払った上,バウハウスに請求し(乙26の1),Gからその支払を受けた。
その他編集費や人件費などを合わせると,本件作品の製作に合計で約400万円を要した(原告本人)。
(2) 前記(1)の認定の事実によれば,原告Aは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,撮影機材等の手配をし,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の内容を決定し,撮影,編集作業のすべての指示を自ら行ったものということができる。
(3) 被告は,以上認定の事実に反する主張をするので,以下検討する。
ア 製作の経緯について 被告は,本件作品は,日本フォノグラムにおいて,解散コンサートのLPレコードのプロモーションに使用すること等を目的として製作が決定された旨主張し,日本フォノグラムのキャロル担当のディレクターであったM及びHの陳述書(乙5,6),Gの陳述書(乙4,23の1)にも同旨の記載がある。
他方,原告らは,昭和50年当時は,レコード会社がプロモーションのためにアーティストの映像を撮るという考えはなかったと主張し,原告Aの本人尋問の結果及び陳述書(甲27),Fの陳述書(甲5),株式会社ワーナーパイオニアの洋楽部制作課長であったNの陳述書(甲12)にも同旨の記載がある。
昭和50年当時,洋楽では既にアーティストの映像を用いたレコードの宣伝がされていたこと(乙6,13),昭和50年には,家庭用ビデオテープレコーダーが販売されていたこと(乙11),本件作品が全国で多数回テレビ局で放送されていることなどの事実に照らせば,昭和50年当時にレコード会社がプロモーションのために映像を撮ることは,あり得ないこととはいえないと解される。そして,キャロルのメンバーであるBもプロモーションのために撮影を行うことを認識していたこと(乙20),LPレコードが発売されたこと(乙7),本件作品が日本フォノグラムを通じて,全国で多数回テレビ放送されていること(甲40)などからすれば,少なくとも日本フォノグラムの側は,LPレコードのプロモーションに使用するつもりであったものと推認される。
他方,原告Aが,前記のように自らTBSへ本件作品を売り込んでいることからすると,原告Aは,日本フォノグラムが本件作品をプロモーション用に使用するつもりであったことを知らなかったものと推認される。そして,原告Aが述べるように,同原告が撮影を思い立ち,Gないしバウハウスや日本フォノグラムに許諾を求めたのか,Gを始めとする被告側関係者が述べるように,バウハウスが原告Aに撮影を依頼したのかを,直ちに確定することはできない。
したがって,原告AとG及び日本フォノグラムとの間には,認識に差があるままに,原告Aにおいて解散コンサートを撮影することだけを合意して,撮影が行われたのではないかとも推測されるが,いずれにせよ,原告Aが本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の全体的形成に創作的に寄与したことを左右するに足りない。
イ 撮影,編集の段取りについて (ア) 被告は,Gが原告会社に撮影を依頼した旨主張し,日本フォノグラムの社員Oの陳述書(乙1)にも,日本フォノグラムが原告会社に撮影を依頼し,日本フォノグラムの指示に従って,原告会社が撮影編集した旨の記載がある。
しかしながら,Oは,本件作品が撮影された昭和50年4月に日本フォノグラムに入社したばかりの新入社員であって,解散コンサートでチーフカメラマンを務めたPも舞台監督を務めていたQも,撮影現場で日本フォノグラムが何か指示したことは全くないし,Oが解散コンサートの撮影に立ち会っていたことの記憶もないと述べており(甲10,11),Oのような新入社員が撮影に関して何らかの指示を出せるような立場にいたとは考えにくい。
また,Oは,原告Aが,ステージの前後に固定した2台のカメラと移動する2台のカメラが捉える合計4つの映像から1つを選択し,編集する等の作業を行った旨述べるが(乙1),次のaないしcに照らし,措信し難い。
a 当時の撮影状況について,カメラは,ステージ後方ドラムスの後のイントレの上に固定カメラ1台と舞台の上に手持ちカメラ1台,客席の中のイントレの上に固定カメラ2台の陣容であったことは,当時の写真からも客観的に明らかであり(甲24ないし26),Oの陳述書に記載されているカメラの陣容は誤っていること。
b 本件作品は,そもそも2インチテープに録画されたものであるところ,昭和50年当時の2インチVTR録画機は,大きくて1台の重量は数トンもある上高価であり(甲30,31),これを4台も手配して,4台のカメラの映像をそれぞれ別の2インチVTR録画機に収録することは不可能であったこと(甲27)。
c テープに収録された画像は,映画フィルムのようには目で見ることができないので,編集するにはテープに記録されたタイムコードを介して行わなければならないが,2インチVTR時代にはタイムコードは実用化されておらず,そのような編集は全く不可能であったから(甲32),当時は4つの映像を編集室において1つに編集する方法自体が開発されておらず,4台のカメラで別々に録画したコンサート映像を編集することはできないこと(甲27)。
(イ) なお,被告は,撮影終了後,マスターテープは日本フォノグラムが買い取って保管し,原告らから本件作品のマスターテープの引渡しを要求されたことはない旨主張し,Oの陳述書(乙1)及びGの陳述書(乙4,23の1)にも,同旨の記載がある。
しかしながら,Gが撮影テープを原告Aから買い取ったことの裏付けであるとするメモ(乙23の2)は,何のビデオかも特定されておらず,不明確なものであること,また,原告Aは,後述のとおり,その後,TBSにテープを持ち込んで放映してもらうよう交渉し,TBSの指示によりCMを入れるための編集作業をしているのであるから,すべての権利をGに譲渡していたとは考えられないことからすれば,被告関係者の上記陳述は,直ちに措信し難い。上記陳述は,原告AがTBS用のテープを編集し終わった後で,地方番販用のテープを日本フォノグラムに引き渡した事実と混同している可能性を否定できない。
(ウ) よって,原告らの主張どおり,撮影及び編集作業は,原告ら主導で行われ,日本フォノグラムは,ほとんど関与しなかったと認められる。
なお,Gは,クールズを撮影するなどのアイデアをGが提供したと陳述するが(乙4),たとえそうであったとしても,それは単にアイデアを提供しただけであり,撮影を日本フォノグラム又はGが主導して行っていたことにはならない。また,Gが行ったという打合せ等は,解散コンサートの主催者としての決定及び協力であり,著作物たる本件作品の製作を主導して行っていたことにはならない。
ウ TBSでの放送について 被告は,日本フォノグラムが働きかけて本件作品がTBSで放送された旨主張し,Gの陳述書(乙23の1)及びHの陳述書(乙6)にも同旨の記載がある。
しかしながら,当時TBSのプロデューサーであったJの陳述書(甲3,8)及び当時TBSの編成兼務で「ギンザNOW」のプロデューサーをしていたKの陳述書(甲4,9)には,日本フォノグラムでキャロルを担当していたHからもUからも,同人らに対して何らの交渉や連絡はなかったことが記載されていることに照らし,G及びHの上記陳述は信用できない。また,TBSと原告会社の契約書(甲39)が存在することからすると,TBSに本件作品を持ち込んで放映してもらったのは,原告会社であり,放送権料もTBSから原告会社へ支払われていると認められる。
エ 費用の負担について (ア) 被告は,本件作品製作のための費用はGが負担し,日本フォノグラムが原告会社に支払った旨主張し,Gの陳述書(乙4,23の1),Mの陳述書(乙5)及びHの陳述書(乙6)にも同旨の記載がある。
しかしながら,日本フォノグラムが撮影費用として200万円を原告会社に支払ったことについては,原告Aは否認しており,これを認めるに足りる客観的な証拠はない。むしろ,前記認定のとおり,原告Aが日本フォノグラムに相談することなく,TBSに本件作品を持ち込み,TBSにより放送されて150万円の対価の支払も受けていることからすると,原告Aが本件作品の撮影費用を負担しており,それを回収するためにTBSに本件作品を持ち込んだとも推測できる。
なお,原告Aは,妻から借金をするなどして本件作品の製作に要した約400万円を負担した旨供述するが(原告本人),原告会社が本件作品の製作費をすべて負担したと認めるに足りる客観的な証拠があるわけではない。
(イ) また,前記1(1)アのとおり,解散コンサートは,Gが企画し,バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行い,コンサート費用一式の支払をしたものである。しかし,これは,あくまでもコンサートの主催に関する費用であり,クールズのオートバイ走行やファンへのインタビュー等が含まれた本件作品の製作の費用とは異なるものであるから,バウハウスが,解散コンサートの運営に関する費用の支払をしたことをもって,本件作品の製作に関する費用をすべて日本フォノグラム又はバウハウスが負担したとまでは認められない。
(ウ) このように,費用の負担に関しては,原告会社の側も日本フォノグラム又はバウハウスの側もすべての費用を負担したとまではいえない。
2 争点(1)(著作者及び著作権者)について (1) 本件作品の著作者 著作権法16条は,「映画の著作物著作者は,・・・(中略)・・・制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定している。
本件においては,前記1で認定したとおり,原告Aは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,撮影機材等の手配をし,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の内容を決定し,撮影,編集作業のすべての指示を自ら行っており,本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した者」と認められる。
したがって,本件作品の著作者は,原告Aである。
(2) 著作権法15条(職務著作)の主張について 被告は,本件作品は,日本フォノグラムの職務著作であると主張する。
ア 著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁)。
イ 日本フォノグラムと原告Aとの間には,雇用関係は認められない。そこで,原告Aが日本フォノグラムの指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを検討する。
前記1(3)アのとおり,原告AとG又は日本フォノグラムとの間に,本件作品の撮影をすることについて合意があったことは認められるが,G又は日本フォノグラムが原告Aに撮影を委託したものであるのか,原告AがG又は日本フォノグラムに撮影の許可を求めたものであるのかは,明確には認定できない。
しかし,仮にG又は日本フォノグラムが原告Aに撮影を委託したものであったとしても,前記1(1)イ及び1(3)イで認定したとおり,本件作品の内容の決定,撮影,編集等は,すべて原告A又は原告会社によって行われ,日本フォノグラムは製作に全く関与していなかったこと,前記1(1)ウで認定したとおり,原告Aは,本件作品を日本フォノグラムに相談なく,TBSと交渉して放送に至ったことからすると,本件作品の製作に関して,原告Aは日本フォノグラムの指揮監督下にあって,日本フォノグラムの手足として撮影だけを担当したものとはいえず,原告Aと日本フォノグラムは,映画製作会社とレコード会社の対等な契約関係を前提として,本件作品の撮影を行ったものであると認められる。
なお,日本フォノグラムから原告Aに本件作品に関し支払った金銭があるか否かは明らかでないが,仮に撮影代金が支払われているとしても,パビックへの支払など,撮影に関する支払は,すべて原告A又は原告会社から行われていることは,前記1(1)カ認定のとおりであるから,上記認定を左右するに足りない。
したがって,原告Aは,日本フォノグラムの「業務に従事する者」には該当しない。
ウ 原告Aが「業務に従事する者」に該当しないことに加えて,本件作品が,日本フォノグラムの名義の下に公表されたものではないこと(甲38,検甲1,2)に照らしても,本件作品が日本フォノグラムの職務著作であるとの主張は,理由がない。
(3) 本件作品の著作権の帰属 ア 著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・(中略)・・・の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定している。そして,同法2条10号は,映画製作者とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。
著作権法29条が設けられたのは,@従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,A映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,B映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するとするのが相当であると判断されたためである。
著作権法2条10号の文言と上記の趣旨からみて,「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。
イ 前記(2)イで認定したとおり,仮に日本フォノグラム又はバウハウスのGが原告Aに本件作品の撮影を委託したものであったとしても,原告Aは,日本フォノグラム又はバウハウスの指揮監督下にはなく,日本フォノグラム又はバウハウスと対等な契約関係にあったものである。
そして,前記1(1)ウで認定したとおり,原告会社は,本件作品を日本フォノグラムに相談することなく,TBSと交渉して放送に至っており,本件作品の納品先は日本フォノグラム又はバウハウスではなく,TBSであったと考えられること,TBSとは,対等に契約を締結して報酬を受け取っていることが認められ,TBSでの放送後に日本フォノグラムが本件作品を各地方で多数回放映していることについては,原告Aが地方番組販売権を日本フォノグラムに譲渡したと供述していること(原告本人)と矛盾しない。
さらに,前記1(1)カで認定したとおり,仮に最終的には日本フォノグラムから原告Aに撮影代金が支払われていたとしても,パビックへの支払など,撮影に関する支払は,すべて原告会社が行っていること,また,前記1(1)イ及び1(3)イで認定したとおり,解散コンサートを主催し,開催費用を負担したのはバウハウスのGであっても,本件作品に係るパビックへの支払,機材調達等,撮影に関する事項は,対外的手続も含め,すべて原告会社が行っていると考えられること,本件作品の撮影方針等には,日本フォノグラム及びバウハウスは,全く関与していないことが認められる。
これらの事実からすると,原告会社は,@特にTBSとの関係において,本件作品に関する権利が帰属する主体として契約を締結し,放送権料に関する経済的な収入の主体となっており,Aパビックに対しては,撮影を発注する主体として契約を締結し,撮影費用等に関する経済的な支出の主体となっており,B日本フォノグラムに対しても,本件作品の著作権が帰属する主体として,地方番組販売権を日本フォノグラムに譲渡したものである。したがって,本件において,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者に該当するのは,原告会社であると認められ,日本フォノグラム又はバウハウスではない。
よって,本件作品の映画製作者は,原告会社である。
(4) 著作権の譲り受けについて 被告は,昭和50年4月18日にテープの編集を終え,完成版のビデオを原告らがGに引き渡し,著作権がGに譲渡されたと主張する。
しかしながら,前記1(3)イ(イ)認定のとおり,裏付けとなるメモは,何のビデオかも特定されておらず,不明確なものであること,その後,原告AがTBSにテープを持ち込んで放映してもらうよう交渉していること,TBSの指示によりCMを入れるための編集作業を原告Aが行っていることからして,原告らがGにテープを引き渡した事実があったとは認められない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(5) その余の被告の主張について ア 被告は,当時,キャロルと専属契約を締結していたのは,日本フォノグラムであり,日本フォノグラムのみが,適法に撮影を行い,その映像を固定する権限を有していたと主張する。
確かに,日本フォノグラムとキャロルのメンバーは,昭和47年11月10日,専属契約を締結しており(乙8),その第5条には,レコーディングされた原盤の所有権及び録音物,録画物に関する著作権法上のすべての権利は日本フォノグラムに帰属すると記載されていた。また,日本フォノグラム及びGとBとは,昭和50年5月15日,キャロルの解散コンサートのレコードに関する契約を締結しており(乙7),第4条には,日本フォノグラムは,録音物又は録画物を発売した場合,GとBに対し,原盤製作協力印税(印税率3.75%)を支払うとされ,第8条には,本契約に基づき製作された原盤の所有権,原盤権及び著作権法上のすべての権利は日本フォノグラムに帰属するものとするとされている。
しかしながら,そもそも上記各契約が,解散コンサートそのもののみならずクールズのオートバイやファンのインタビューをも内容に含む,ドキュメンタリー映画たる本件作品を直接の対象としているか否かは必ずしも明確ではないから,これらの契約の存在をもって,日本フォノグラムが本件作品の映画製作者であることの根拠とはいえない。仮に,Bや日本フォノグラムが,上記各契約により本件作品の著作権等の権利が日本フォノグラムにあることを前提としていたとしても,上記各契約は,あくまで日本フォノグラムとBないしキャロルのメンバーとの契約であって,本件作品の著作権の原始的な帰属主体である原告会社の関与しないところで,本件作品の著作権の帰属主体が第三者の合意によって決められるものではない。
また,Bと日本フォノグラムは,昭和52年10月31日,Bの実演に係るキャロルのフィルムを上映又は第三者に許諾するときは,Bと協議する旨の覚書を締結したが(乙3),その中で,本件作品は,日本フォノグラムの制作・著作であることを確認している。
しかしながら,Bの行動は,必ずしも原告Aの意を受けたものであるとはいえないし,当事者間の意識にかかわらず,著作権の原始的な帰属主体は著作者である(著作権法17条)から,客観的に著作者としての要件を満たさない者について,著作権が原始的に帰属することはあり得ず,これらの事実のみをもって,日本フォノグラムが著作権者であると認めることはできない。
イ 被告は,日本フォノグラムが地方のテレビ局に放送させ,本件ビデオを販売したことをもって,著作権を有する根拠であると主張する。
しかしながら,地方のテレビ局による放送については,前記認定のとおり,原告会社が日本フォノグラムに対し本件作品の著作権のうち,地方番組販売権を譲渡したものであるから,著作権帰属の根拠とはなり得ない。また,本件ビデオの販売についても,後記3のとおり,原告らが許諾を与えていたことに照らせば,日本フォノグラムが著作権を有することの根拠とはなり得ない。
ウ したがって,本件作品の著作権は,著作権法29条により,原告会社に帰属すると認められる。
(6) 小括 以上によれば,本件作品の著作者は原告Aであり,著作権者は原告会社である。
3 争点(2)(本件ビデオ)について (1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
ア 本件ビデオは,昭和59年に編集販売されたものであるが,本件ビデオの編集作業は,原告Aにおいて,自らが編集をやらないのであれば,本件ビデオの販売には同意しないと主張して,原告Aが行ったものである。編集作業には,原告会社が日本フォノグラムに地方番販用に引き渡したテープと,原告会社が持っていたTBSで放送したテープを使用した(原告本人)。
本件ビデオを発売する際,編集が必要だった理由は,キャロルの親衛隊として参加していた者の中に本件ビデオにはしてほしくないと言う者がいたり,他のレコード会社の専属アーティストになっていた者が登場する部分を削除する必要があったからである。写真についての利用許諾を得たのは日本フォノグラムである(乙1)。
イ 本件ビデオには,本件作品の映像に加えて,「涙のテディーボーイ」と「やりきれない気持」の映像が加えられているが,これも原告Aが撮影して,加えたものであり(TBS放送前のテープ(検甲1)には入っていたもの),本件作品から大きく変わったわけではない。本件ビデオは,別紙2及び3を比較して明らかなとおり,本件作品と曲の順番が変動し,ファンのインタビューが多少カットされ,クールズの走行シーンが多少カットされ,Vのモノローグがカットされ,ところどころにキャロルの写真が挿入されている。また,この編集作業で,音源をモノラルからステレオに差し替えられた。なお,本件ビデオの内容は検甲第3号証と同じである。
ウ 本件ビデオのパッケージには,「制作・著作・発売元日本フォノグラム株式会社」と記載されている(乙1)。本件ビデオを発売するときの歌詞カードのクレジットは,ディレクターが原告A,プロデュースが原告会社となっている(甲6)。
(2) 著作権侵害の成否 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきである(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)。そして,複製には,表現が完全に一致する場合に限らず,具体的表現に多少の修正,増減,変更等が加えられていても,表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるというべきである。
本件ビデオは,前記(1)イのとおり本件作品を編集し直したものであり,具体的表現に多少の修正,増減,変更等が加えられているものの,表現上の同一性が実質的に維持されていると評価することができるので,本件作品の複製に該当する。
他方,前記(1)ア記載のとおり,本件ビデオの編集作業は,原告Aが,編集を原告A自らにやらせないのであれば,本件ビデオの販売には同意しないと主張して,その結果自ら編集作業を行ったものである。
原告Aも,その本人尋問において,ビデオを作成して販売することに関しては,Bがバーターで話を決めてきたことなので,納得していると供述しているとおり,本件ビデオについては,原告A又は原告会社は,本件作品の複製物であることを認識した上で,複製販売を日本フォノグラムに許諾していたものと認められる。
したがって,本件ビデオの複製頒布については,許諾に基づくものであり,著作権侵害とはいえない。
(3) 原告会社は,対価が支払われることを条件にして,本件作品を有償でビデオ化することを許諾したのであるから,対価が支払われなければ著作権侵害に該当すると主張する。 しかし,原告Aは,このような条件を日本フォノグラムに対して提示しておらず,対価を支払うとの合意がされた証拠はない。その後,本件ビデオ発売後平成14年末まで,原告会社が日本フォノグラムに対しても被告に対しても,本件ビデオについて著作権使用料の請求をしていなかったことに照らすと,原告会社は,日本フォノグラムに対し,本件作品を無償で本件ビデオとして発売することを許諾したものと認められる。
なお,仮に対価の支払の条件を留保した上での許諾であったとしても,著作権法63条2項で許諾を得た者は,「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」,その許諾に係る著作物を利用することができると規定されているところ,対価の支払は,「条件」には当たらないと解すべきであるから,利用者が対価を支払わない場合であっても,その利用が著作権侵害になるわけではない。
したがって,原告らの本件ビデオに関する主張は,理由がない。
(4) 小括 以上のとおり,本件ビデオは,本件作品に係る原告会社の著作権を侵害するものとはいえない。
4 争点(3)(本件DVD)について (1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
本件DVDは,本件ビデオと映像は同一である。そして,本件DVDのクレジットは,「Director A,Produced by TELL DIRECTOR'S FAMILY,CNIPPON PHONOGRAM CO.,LTD.,Presented by MUSIC TOKYO COMPANY」となっている(検甲3,弁論の全趣旨)。
(2) 著作権侵害の成否 本件DVDの内容は,本件ビデオと同一であるから,本件作品の複製に該当する。
被告は,原告らが本件ビデオ発売時に許諾したことにより,本件DVDの発売も許諾したことになると主張する。
著作権法63条2項は,前項の許諾を得た者は,「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」,その許諾に係る著作物を利用することができると規定している。上記「利用方法及び条件」には,例えば,文庫本としての出版とかカセットテープへの録音等の利用形態も含まれ,著作権者が一方的に付することができるものである。そして,許諾によって得られる利用の範囲は,取引慣習や社会通念等を前提にして,著作権者の許諾の意思表示を合理的に解釈して判断すべきものである。 本件DVDについては,本件ビデオと内容は同じであっても,本件ビデオの複製の許諾がされた昭和59年当時,原告会社ないし原告Aが,約20年後にキャロルのCDの販売に伴い,日本フォノグラムから営業譲渡を受けた被告によってDVDが販売されることをも念頭に置いていたと解することはできない。よって,媒体が変わることにより上記「利用方法及び条件」が変わることになるから,本件DVDの製造販売に際しては,再び原告会社の許諾が必要であるにもかかわらず,被告は許諾を得なかった。
(3) 小括 したがって,被告が,原告会社の許諾なくして,本件DVDを複製,頒布した行為は,複製権侵害に該当する。
よって,本件DVDの複製,頒布の差止請求は理由がある。
5 争点(4)(特典DVDと本件プロモーション映像)について (1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
特典DVDは,平成15年に発売されたCD「キャロル/ザ★ベスト」の初回発売分に特典として付されていたものである。
本件作品から使用された曲は「ファンキー・モンキー・ベイビー」1曲のみであるが,映像としては,本件作品のうち,解散コンサートの炎上シーン,クールズ走行シーン,キャロルの車上シーン,インタビューシーン,演奏シーンの中でも印象的なシーンがアトランダムに流れ,ところどころに写真が挿入され,めまぐるしくオーバーラップしながら,上記シーンが切り替わるものである。時間としては約4分30秒と短いものの,本件作品の中で特徴的な映像が使用されていることから,特典DVDに接した者は,元の映像が本件作品であることは容易に看取でき,本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる(検甲4)。
また,特典DVD及び本件プロモーション映像には,原告Aの氏名は表示されていない。
(2) 著作権侵害の成否 本件作品に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものを創作した場合には,本件作品の翻案に当たる(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
前記(1)によれば,特典DVDは,本件作品に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものということができる。よって,原告らの許諾を受けることなく作成した特典DVD及びこれを放映した本件プロモーション映像は,いずれも本件作品に係る原告会社の翻案権及び原告Aの同一性保持権を侵害するものである。
また,特典DVD及び本件プロモーション映像には,原告Aの氏名は表示されていないから,原告Aの氏名表示権を侵害するものといえる。
(3) 被告は,本件作品がプロモーション用に製作されたものである以上,原告らは当初から了解済みであったと主張する。
しかしながら,少なくとも原告らとしては,本件作品がプロモーション用に製作されるとの認識はなかったことは,前記認定のとおりである。また,仮にプロモーション用の製作であったとしても,当然に他人による改変を前提としているとはいえない。原告Aは,他人によって改変されることを嫌って,本件ビデオ作成時に自ら編集を行ったほどであるから,原告Aの特典DVDに対する許諾を推認することもできず,他に原告らの許諾を認めるに足りる証拠はない。
(4) 小括 以上のとおり,特典DVD及び本件プロモーション映像は,本件作品に係る原告会社の翻案権並びに原告Aの同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものである。
よって,特典DVDの複製,頒布の差止め及び廃棄請求並びに本件プロモーション映像の利用の差止め及びそのマスターテープの廃棄請求は,理由がある。
6 争点(5)(損害)について (1) 本件ビデオについて 前記3認定のとおり,原告会社は,日本フォノグラムに対し,本件ビデオの製作販売について,許諾をしたと認められるから,本件ビデオの製作販売行為による損害賠償請求には理由がない。
(2) 本件DVDについて ア 本件DVDを複製,頒布した被告の行為は,原告会社の著作権を侵害するものであり,上記侵害については,被告に少なくとも過失があると認められるから,被告はこれによって原告会社が被った損害を賠償すべきである。
イ 著作権法114条2項適用の可否 (ア) 著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき,侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失利益と推定する規定であると解される。
したがって,同項の適用が認められるためには,著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である。
(イ) 本件については,以下の事実が認められる。
a 有限会社カムストックと原告会社は,昭和58年7月1日,「●●●●ヒストリー」の原盤を株式会社シービーエス・ソニーに提供し,ビデオディスクに複製し販売頒布せしめる目的をもって,株式会社ワーナー・パイオニアに対してビデオカセットによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託する目的で共同製作を行う旨の契約を締結した(甲52,56)。同契約においては,原盤製作費,ビデオカセットの製造に要する費用は,有限会社カムストックと原告会社がそれぞれ50%の割合で負担している。
b 株式会社音と原告会社は,平成13年11月26日,Bの実演による「THE STAR IN HIBIYA」の原盤を株式会社ソニー・ミュージック・エンタテインメントに提供し,DVDによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託をする目的をもって共同製作を行う旨の契約を締結した(甲51,57)。同契約によれば,原盤製作費もDVD製造に要する費用も,原告会社と株式会社音がそれぞれ50%の割合で負担している。
c 原告会社は,今後も株式会社音と共同製作を行う旨の申込みをした(甲54,55)。
d 原告会社は,映像作品の企画製作を行う会社であり,映像をDVD化することはさほど困難な作業ではない。
以上の事実からすれば,原告会社は,他社と契約すること等により,本件作品を利用してDVDを製造販売する方法を有しており,被告と同様の方法で著作物を利用し,同様の利益を得られる蓋然性があったものと認められる。
(ウ) 被告は,原告会社が行っているのは,作品の製作までで,その後の発売業務や費用の負担は,株式会社音や有限会社カムストックが行っており,原告会社は事業主体ではないと主張し,株式会社音の代表取締役Rの陳述書(乙122)にも,それに沿う記載がある。
しかし,原告会社が自己の作品をDVD化して製造販売し,著作権料のみならず,その販売利益を享受している事実がある以上,原告会社は,本件作品についてもこれを利用し,被告と同様の利益を得られる蓋然性があったということができ,発売に関して原告会社が実際に行う業務の内容や費用の負担割合などがどのようなものであろうと,著作権法114条2項の適用に障害はないというべきである。
(エ) 被告は,解散コンサート収録時,キャロルと日本フォノグラムが専属契約を締結しており,原告会社はキャロルの実演を収録する権限やそこに収録されている実演についての著作隣接権を有していなかったから,原告会社が本件DVDを製作販売することはできないと主張する。
前記2で認定したとおり,日本フォノグラムは,Gを通じて解散コンサートを撮影しその映像を収録することを原告会社に許諾していたと認められるから,許諾を得て収録した映像の著作権は,映画製作者たる原告会社に帰属するのであり,原告会社が著作権を有する本件作品を自らDVD化して販売することに何ら問題はない。
そして,映画の著作物である本件作品は,キャロルの実演を録音し,録画する権利を有する日本フォノグラムの許諾を得て録音され,録画されたものであり,キャロルの実演については,著作権法91条2項,95条の2第2項により,実演家録音権,録画権及び譲渡権が及ばないから,原告会社が本件作品の複製物であるDVDを製作販売することが著作権法上も可能である。
また,仮にDVDの販売にキャロルの許諾が必要であるとしても,キャロルと日本フォノグラムとの専属契約の締結は,原告会社がDVD販売についてキャロルからの許諾を得ることにつき事実上の障害とはなり得るものの,上記専属契約は,永久に存続するものではないし,現に,キャロルのメンバーであるC及びDが原告会社に許諾をしたように(甲33ないし35),キャロルが原告会社に許諾を与えることもあり得るのであるから,原告会社によるDVDの販売が,法律上絶対に不可能というわけではない。
よって,キャロルと日本フォノグラムとの専属契約の存在は,本件作品の著作権者である原告会社との関係では,著作権法114条2項の適用の可否を決定するものとはいえず,損害額の算定において,原告会社が被告と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性がないことの根拠とはならない。
(オ) 以上のとおりであるから,原告会社の本件DVDに関する損害は,著作権法114条2項に基づいて算定することとする。
ウ 被告の得た利益の額 (ア) 売上額 本件DVDの1枚当たりの税抜き小売価格は3500円である(争いのない事実)。卸売価格は,小売価格3500円に75%を乗じた2625円である(乙118,119)。原告らは,売上げについても消費税を加算して計算すべきであると主張するが,売上げについての消費税は,被告の利益にならないことが明らかであるから,売上げに含めて算定すべきではない。なお,費用についての消費税は,それだけ被告が現実に支出しているのであるから,費用に含んで算出すべきである。
本件DVDの販売枚数は,8万9284枚であり(争いのない事実),268枚が返品された(乙118)。原告会社は,返品分を控除すべきでないと主張するが,著作権法114条3項による場合と異なり,侵害者の利益の額を損害の額と推定する同条2項においては,返品分によって利益が生じていないのであるから,これを売上げに計上すべきではない。
したがって,本件DVDの売上げは,卸売価格2625円に返品分を控除した販売枚数8万9016枚(8万9284枚-268枚)を乗じた2億3366万7000円となる。
(3500円×75%)×(8万9284枚-268枚)=2億3366万7000円 (イ) 控除すべき費用 著作権法114条2項において,侵害者が「その侵害の行為により利益を受けているとき」に損害の額を推定される「利益の額」とは,売上額から,侵害者が侵害品の製造販売を行うために,行わなかった場合に比べて追加的に必要となった費用を控除した額を指すものというべきである。そこで,控除すべき費用額を検討する。
a リベート(販売手数料) 2442万2370円 リベート(販売手数料)2442万2370円(乙118)を控除すべきことについては,当事者間に争いがない。
b 製造費 1394万4432円 製造費1394万4432円を控除すべきことについては,当事者間に争いがない。
c マスタリング費用 63万0000円 マスタリング費用63万円を控除すべきことについては,当事者間に争いがない。
d 印税 6281万8917円 (a) B分の印税55万5418円(乙44),D分の印税50万9133円(乙45),I分の印税50万3991円(乙46),C分の印税48万8562円(乙47),株式会社ミューコム分の印税106万1555円(乙48)を控除すべきことについては,当事者間に争いはない。
(b) 原告会社は,株式会社音に対する印税が不当な支出であると主張する。しかしながら,日本フォノグラムが本件ビデオを発売する際に,Bとキャロルの楽曲やフィルムを使用する場合には,Bの許諾が必要である旨の合意をし(乙2の2,乙3),日本フォノグラムを承継した被告が,B所属事務所である株式会社音に対し,実際に4884万3018円の印税を支払ったこと(乙43)に照らせば,本件DVDを製作販売するのに必要な費用であると考えられるから,同支出4884万3018円は,費用として控除されるべきである。
(c) また,原告会社は,有限会社オークランドに対する印税についても,不当な支出であると主張する。しかし,これは日本フォノグラムとGとの契約に基づく原盤製作協力印税が根拠となり,オークランドがGから印税受取権を承継したことによるものである(乙7,14)。そして,前記1(1)アのとおり,解散コンサートは,Gが企画し,バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行い,コンサート費用一式の支払をしたことからすれば,この原盤製作協力印税とは,純粋な映像著作権料というよりは,Gがキャロルの解散コンサートを主催した費用を回収するための方策とも考えられるから,原告会社が映像の著作権者として本件DVDを製作販売する場合には不要になる費用であるとはいえない。したがって,同支出も費用として控除されるべきである。
そして,株式会社オークランドに対する本件DVDに関する印税は,乙第49号証のうち,DVDと記載してある項目の786万5863円である。
(d) 印税額は,上記(a)ないし(c)の合計5982万7540円(55万5418円+50万9133円+50万3991円+48万8562円+106万1555円+4884万3018円+786万5863円)に5%の消費税を加えた6281万8917円である。
5982万7540円×1.05=6281万8917円 e 著作権印税 1663万3045円 著作権印税とは,JASRACを通じて楽曲の作詞者,作曲者,編曲者に支払う著作権使用料のことであり,1663万3045円を費用として控除すべきことについては,当事者間に争いがない。
f 肖像使用 21万0000円 Sに対する肖像使用料21万円(乙34)を控除すべきことについては,当事者間に争いがない。
g 宣伝販促費 734万4782円 (a) 宣伝販促費を控除すべきこと自体については,当事者間に争いがない。
(b) 宣伝販促費の算定方法について,当事者間に争いがあるが,宣伝販促費に関する証拠(乙50ないし90,101ないし117)のうち,明らかに本件DVD用又は本件CD用のいずれかであると認められるもの以外は,合計額を本件DVDと本件CDの総売上比で按分して算定するのが相当である。本件DVDと特典DVD付きの本件CDは,同時期に発売されており,宣伝販促費も両者の宣伝のために使用されたと考えられるからである。
なお,乙第116号証については,証拠上本件DVD又は本件CDのための宣伝販促費であるとは認められないので,控除すべき費用として認められない。
(c) 上記証拠のうち,本件CD(UMCK9525)用であることが証拠そのものから認められるものは,乙第63号証,乙第65及び第66号証の一部,乙第83,101,106ないし115号証である。
(d) 本件DVD(UMBK1524)用であることが証拠そのものから認められるものは,乙第65号証(5万9595円×1.05=6万2574円,円未満切り捨て),乙第66号証(7万9530円×1.05=8万3506円,円未満切り捨て),乙第67号証(3万0694円),乙第74号証(2万1000円),乙第80号証(1万0500円)の合計20万8274円である。被告は,乙第101ないし105号証も本件DVD用の宣伝販促費であると主張するが,これを認めるに足りる証拠上の記載はない。
(e) 上記証拠を除いた乙第50ないし62,64,68ないし73,75ないし79,81,82,84ないし90,102ないし105,117号証は,本件DVDと特典DVD付きの本件CDのいずれの宣伝販促費かを判別することができないので,その合計額1801万6592円を本件DVDと特典DVD付きの本件CDの売上比で按分する。本件DVDの売上げは,前記(ア)のとおり,2億3366万7000円{2625円×(8万9284枚-268枚)}である。特典DVD付きの本件CDの売上げは,3億6380万3184円{2286円×(16万1335枚-2191枚)}である(乙119。ただし,返品枚数は被告の主張の限度で認める。)。したがって,上記合計額のうち,本件DVD分は,次のとおり,704万6180円となる。
1801万6592円×2億3366万7000円/(2億3366万7000円+3億6380万3184円)=704万6180円(円未満切り捨て) (f) 被告は,サンプル盤として581枚製造していることが認められるので(乙32),前記bの製造費と同様に算定したサンプル盤の製造費9万0328円は,宣伝販促費として控除する。
100円×581枚×1.05=6万1005円(ディスク代) 35円×581枚×1.05=2万1351円(ケース代,円未満切り捨て) 145万9683円×581枚/11万1700枚×1.05=7972円(円未満切り捨て) 6万1005円+2万1351円+7972円=9万0328円 (g) 本件DVDの宣伝販促費は,上記(d)(e)(f)を合わせた734万4782円とするのが相当である。
20万8274円+704万6180円+9万0328円=734万4782円 h デザイン費 3万0114円 本件DVDのジャケットのデザイン費については,文字入力・版下代として3万0114円(乙92)を被告が支出したことが認められ,被告が本件DVDの製造販売を行うために,行わなかった場合に比べて追加的に必要となった費用と認められるから,これを控除すべきである。
被告が主張する改版代8万0640円(乙91。7万6800円×1.05)については,前記bの製造費のうちジャケット印刷代として含まれている(乙33の別途新譜時改版代7万6800円と同じものと認められる。)ので,費用としては斟酌されているから,再び控除することはしない。
i 搬送費 615万0914円 搬送費615万0914円を控除すべきことについては,当事者間に争いがない(乙118)。
j ビクター手数料 490万7007円 原告会社は,ビクター手数料は控除すべきでないと主張する。しかし,被告はビクターと販売業務受委託契約を締結しており(乙120,121),本件DVDの販売による売上げに直接の影響を及ぼしていると認められる。したがって,前記に認定した本件DVDの売上げをあげるために必要な経費として,控除すべきである。
その金額は,490万7007円と認められる(乙118)。
k 部門費 0円 被告は,原告会社が本件DVDを製作販売するためには,新たな部門費(人件費及び一般管理費)が発生するとして,控除すべきであると主張する。
しかし,人件費及び一般管理費は,被告の事業において日常的に発生しているものであり,本件DVDの製作販売特有の費用として生じたものではない。したがって,費用としては控除すべきではない。
l 費用合計 上記aないしjで認められる費用を控除すべきであり,その合計は,1億3709万1581円である。
(ウ) 寄与度 本件DVDは,音源は日本フォノグラムから被告が承継したステレオ音声を用いていることに争いはない。本件DVDは,ドキュメンタリー映画でもあるが,キャロルという人気の高いロックバンドの解散コンサートを記録したものであり,全編を通してキャロルの音楽が中心に据えられているといえる。したがって,映像とともに音楽も重要な役割を占めているから,本件作品の寄与度は2分の1とする。
(エ) 損害額 本件DVDの売上げ2億3366万7000円(前記(ア))から費用合計1億3709万1581円(前記(イ))を控除した額に寄与度2分の1(前記(ウ))を乗じた額が原告会社の請求できる利益賠償額となる。したがって,本件DVDの製作販売による原告会社の損害は,次のとおり,4828万7709円となる。
(2億3366万7000円-1億3709万1581円)×1/2=4828万7709円(円未満切り捨て) (3) 特典DVDについて ア 特典DVDを複製,頒布した被告の行為は,原告会社の著作権及び原告Aの著作者人格権を侵害するものであり,上記侵害については,被告に少なくとも過失があると認められるから,被告は,これによって原告会社が被った損害を賠償すべきである。
イ 主位的請求について 著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定であると解される。
特典DVDは,前記5認定のとおり,著作者である原告A及び著作権者である原告会社に無断で本件作品の映像を切り貼りして作成したものであり,その出来映えも原告らの意に沿うものではなく,原告Aは,著作者人格権侵害を主張し,慰謝料の請求をしているほどである。そうすると,原告会社は,被告と同様の方法で,自ら本件作品の映像を切り貼りして,特典DVDを製作することはあり得ない。したがって,原告会社が特典DVDを利用して利益を得られる蓋然性は認められないから,著作権法114条2項に基づく損害の主張も認められない。
ウ 予備的請求について (ア) よって,特典DVDの販売による損害は,著作権法114条3項に基づき算定することとする。
(イ) 販売額 特典DVD付きの本件CDは,これがないものよりも135円価格が高く,著作権使用料の算定においても135円とみなされているから,特典DVDの価格は135円とするのが相当である(乙93,94)。原告会社は,500円であると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
特典DVD付きの本件CDの販売枚数は,16万1335枚である(乙119)。著作権法114条3項に基づく損害の算定にあたっては,翻案権を侵害する特典DVDを複製した時点で,複製に関し受けるべき原告会社の損害は発生しているのであるから,その後返品されたかどうかは損害額の算定に影響しない。
(ウ) 寄与度 特典DVDには,本件作品を素材にした映像を使用した「ファンキー・モンキー・ベイビー」と,本件作品とは無関係の映像を使用した「ルイジアンナ」の2曲が収録されているので,2分の1を乗じることになる。
特典DVDの音源につき被告のものを使用していることは,当事者間に争いがないので,映像部分に当たる本件作品の貢献度を2分の1として,これを乗じることとする。
(エ) 著作権の行使につき受けるべき金銭の額 原告らは,使用料の割合が25%であると主張し,権利元に支払う印税率は,ビデオグラムの希望小売価格の20%から26%程度になるという陳述書(甲36)が存在し,被告が株式会社音に対して支払っている印税率は20ないし22%であることも認められる。しかし,原告らが主張する割合が映像部分の著作権者が受けるべき金銭の割合として一般的であると認めるに足りる証拠はない。他方,被告は,日本フォノグラムとGの契約(乙7)における原盤製作協力印税の割合を根拠に,使用料の割合として2%が相当であると主張するが,前記原盤製作協力印税は,あくまでも日本フォノグラムに著作権があることを前提として,解散コンサートを主催したGへの経費の支払であると考えられるから,これを著作権使用料の基準とすることはできない。
上記の事情に前記1で認定した本件作品の製作経緯や,本件作品についての原告ら,日本フォノグラム,Gらの関与の程度などを総合考慮し,原告会社が受けるべき金銭の額は,売上げの10%と認める。
したがって,特典DVDにつき,原告会社が著作権の行使につき受けるべき金銭の額は,次のとおり,54万4505円となる。
135円×16万1335枚×1/2×1/2×10%=54万4505円(円未満切り捨て) (4) 本件プロモーション映像による損害について ア 本件プロモーション映像を放送,上映した被告の行為は,原告会社の著作権及び原告Aの著作者人格権を侵害するものであり,上記侵害については,被告に少なくとも過失があると認められるから,被告は,これによって原告会社が被った損害を賠償すべきである。
イ 被告が,原告らの許諾を受けることなく,本件プロモーション映像をテレビ放映(スポット及び番組エンディングテーマとして使用),街頭大型ビジョン上映,レコードショップ店頭上映,本社受付等での上映などを行うことによって,本件DVD及び本件CDを宣伝し,本件DVD及び本件CDを販売したことは,当事者間に争いがない。もっとも,放送ないし上映の正確な回数を認めるに足りる証拠はないが,これにより原告会社に損害が発生したことは認められるから,著作権法114条の5により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,その額を30万円と認めるのが相当である。
なお,原告会社の主張する損害額を認めるに足りる証拠はない。
(5) 原告会社の損害 したがって,原告会社の損害額は,次のとおり,4913万2214円となる。
4828万7709円+54万4505円+30万円=4913万2214円 (6) 原告Aの慰謝料について 原告Aは,本件作品の著作者であるにもかかわらず,被告により無断で本件作品を改変され,その氏名を表示されることなく,特典DVDとして販売され,本件プロモーション映像をテレビ放送等されたのであり,これによる精神的損害を被ったと認められる。
この著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害による慰謝料は,本件に現れた一切の事情を勘案して,100万円と認めるのが相当である。
(7) 消滅時効について 被告は,消滅時効を援用すると主張するが,損害として認められる本件DVD及び特典DVDの販売を開始したのは,平成15年1月22日であり,本件訴訟提起は,平成15年2月14日であり,消滅時効が完成しないことは明らかであるから,被告の上記主張は理由がない。
7 争点(6)(謝罪広告)について 原告らは,名誉回復措置として謝罪広告を求めているが,財産権侵害を理由に名誉回復措置を求める原告会社の主張は失当であるし,原告Aの著作者人格権の侵害による損害は,前記慰謝料の支払で填補されており,これ以上に名誉回復措置が必要であると認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの名誉回復措置請求は理由がない。
8 結論 以上のとおりであるから,原告会社の請求は,@複製権,頒布権に基づく本件DVDの複製・頒布の差止め,A翻案権に基づく特典DVDの複製・頒布の差止め及び廃棄,B複製権,上映権,放送権に基づく本件プロモーション映像の利用の差止め及びマスターテープの廃棄,C損害賠償として4913万2214円の支払の限度で理由がある。
原告Aの請求は,@同一性保持権,氏名表示権に基づく特典DVDの複製・頒布の差止め及び廃棄並びに本件プロモーション映像の利用の差止め及びマスターテープの廃棄,A損害賠償として100万円の支払の限度で理由がある。
原告らのその余の請求は理由がない。
担保を条件とする仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととして,主文のとおり判決する。
追加
(別紙4)売上げ2億4608万9025円(3675円×8万9284枚×75%)リベート2442万2370円製造費1394万4432円マスタリング費用63万0000円印税611万0036円著作権印税1646万3221円肖像使用21万0000円宣伝販促費759万5273円搬送費615万0914円費用合計5110万3876円(リベートは除く。)純利益(売上げ-リベート-費用合計)1億7056万2779円(別紙5)本件DVD売上げ2億3437万0500円(3500円×75%×8万9284枚)返品70万3500円(3500円×75%×268枚)純売上げ2億3366万7000円リベート2442万2370円製造費1394万4432円原盤代10万5000円(何枚製造しても)ケース代311万5560円(35円×8万9016枚×1.05)ディスク代890万1600円(100円×8万9016枚×1.05)ジャケット印刷代116万3251円(145万9683円×8万9016枚/11万1700枚×1.05)マスタリング費用63万0000円印税6281万8917円B55万5418円D50万9133円I50万3991円C48万8562円株式会社ミューコム106万1555円株式会社音4884万3018円有限会社オークランド786万5863円(合計5982万7540円×1.05=6281万8917円)著作権印税1663万3045円肖像使用21万0000円宣伝販促費1926万0394円デザイン費11万0754円(ジャケット文字入力・版下代+改版代)搬送費615万0914円ビクター手数料490万7007円(2億3366万7000円×2%×1.05)部門費3765万4908円費用合計1億8674万2741円(リベート含む。)純利益4692万4259円映像分として×1/22346万2129円(別紙6)特典DVD売上げ1629万4835円135円×75%=101.25小数点以下四捨五入101円×16万1335枚返品22万1291円(101円×2191枚)純売上げ1607万3544円リベート167万9972円製造費1963万4391円1枚当たりの単価117.50円×16万1335枚×1.05マスタリング費用10万5000円印税16万4263円B4万2208円D3万8723円I3万8336円C3万7174円(合計15万6411円×1.05=16万4263円)著作権印税169万8707円映像原盤使用料52万5000円(TV神奈川パフォーマンス映像)宣伝販促費13万1434円デザイン費1万4380円搬送費42万3111円ビクター手数料33万7545円(1607万3544円×2%×1.05)部門費259万0215円費用合計2730万4018円(リベート含む。)純利益-1123万0474円曲数按分として×1/2-561万5237円映像分として×1/2-280万7619円
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 東海林保
裁判官 瀬戸さやか