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事件 昭和 51年 (ワ) 8446号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1982/03/08
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告【A】に対し、金一四〇万五四七八円及び内金一三〇万五四七八円に対する昭和五一年一〇月七日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告株式会社現代思潮社に対し、金三一万六七一円及びこれに対する昭和五一年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は三分し、その二を原告らの、その余を被告の各負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、原告【A】に対し、金一八三万円及び内金一六七万円に対する昭和五一年一〇月七日から、内金一六万円に対する本判決言渡の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告株式会社現代思潮社に対し、金三三二万六七四〇円及び内金三〇四万六七四〇円に対する昭和五一年一〇月七日から、内金二八万円に対する本判決言渡の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者の主張
一 請求の原因1 原告【A】は、歴史を専攻する学者であり、原告株式会社現代思潮社(以下、
「原告会社」という。)は、書籍出版業者である。
2(一) 原告【A】は、一〇世紀中ごろに成立した作者不詳の戦記文学であるいわゆる「将門記」に関する本文訓読文(以下「本件訓読文」という。)を作成した。
(二) 「将門記」は、一〇世紀中ごろに成立した変体漢文で書かれた作者不詳の戦記文学であつて、その原典の存在は明らかでなく、名古屋市の真福寺が蔵する承徳三年書写の奥書がある「真福寺本」と称せられる写本と、現存部分が真福寺本の八分の五程度の【B】が旧蔵し【C】が現に所属するいわゆる「片倉本」と称せられる写本の二つが現存する。
この二つの写本は、写本の通性として、個々の部分について随所に相違点がみられるばかりでなく、頻出する異体文字、独自の訓点や傍訓、衍字、衍文、誤字、脱字がある。
この外には、江戸時代に作成された抄略本が名古屋黎明会(蓬左文庫)、東京内閣文庫、慶応義塾図書館、宮内庁書陵部その他に存するが、いずれも「片倉本」系統の抄略本とみられ、内容はその二分の一程度に圧縮されている。なお、印刷されたものとしては、江戸時代寛政年間に版行された植松有信木版本と群書類従所収本その他がある。
(三) 原告は、その歴史学者としての学識に基づき、前記諸本を厳密に検討した結果、「真福寺本」を底本として「片倉本」をこれに対校させ、抄本、群書類従本以下を参考本とし、訓点や傍訓、衍字、衍文、誤字、脱字の判断とその処理について独創的な工夫をこらして校本を確定し、この変体漢字で書かれた原著作物の思想、感情を、そのまま異つた言語体系である現代人に理解できる程度の日本文に移し変えて、本件訓読文を作成した。
原告【A】の右本件訓読文の作成は、原著作物である「将門記」を一定の創意に基づいて訓読したものであり、著作権法上の翻案もしくは翻訳に該当するから、本件訓読文は著作権法上二次的著作物としての保護を受ける。
3 原告【A】は、昭和五〇年三月七日、原告会社との間で、原告【A】著作にかかる本件訓読文、校注、「将門記」に関する研究論文について、期間を満四か年間とする出版権設定契約を締結した。
4 原告会社は、右出版権に基づき、昭和五〇年四月ごろ、右著作物を主体とする書籍「将門記」(以下、「原告図書」という。)初版二五〇〇部を発行した。
5 被告は【D】の著作物の出版代行販売等を業とする株式会社であるが、被告代表者【E】(筆名【D】)は、被告の業務の執行として、昭和五〇年一〇月ころ書籍「平将門記」(本文頁数二八六頁)を、同年一一月ころ書籍「将門の旅」(本文頁数二五三頁)を発行した(以下、右両図書を一括していうときは、「被告両図書」という。)。被告両図書には、それぞれその本文の一部として、原告図書の五四頁から一四〇頁までの偶数頁に掲載されている本件訓読文がその註の表示番号の部分を削り取つて写真版により複製され、転載されている(以下、被告(代表者)の右行為を「本件行為」という。)。
6 被告代表者は、本件行為が原告【A】の本件訓読文についての著作権及び名誉並びに原告会社の出版権を侵害することを知り、又は過失により知らないで、本件行為をしたのであるから、被告は、原告らに対し、本件行為によつて原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。
7(一) 原告【A】は、被告の本件行為により被つた財産上の損害について次の(1)又は(2)の損害を選択的に主張する。
(1) 原告【A】は、被告の本件行為により、著作権使用料相当額の損害を被つた。右著作権使用料は、少なくとも被告両図書の各定価に発行部数を乗じた額の七パーセントが相当である。被告両図書の定価及び発行部数は「平将門記」につき二九〇〇円、四九五〇部、「将門の旅」につき八八〇円、四七五〇部であるから、その著作権使用料は、計算上一二九万七四五〇円となる。したがつて、原告【A】は右著作権使用料相当額一二九万七四五〇円の損害を被つた。
(2) 原告【A】は、原告会社との間で、原告図書第二版について印税として定価の一〇パーセントに当たる金員の支払を受ける旨約した。原告会社は、昭和五三年三月ごろに、原告図書第二版として、定価三八〇〇円で二〇〇〇部を発行する計画であり、この計画は同年一月から放映されたNHKテレビ番組「風と雲と虹と」によるいわゆる「将門ブーム」もあつて十分実現可能な状況にあつたところ、被告の本件行為により、初版の売れ行きが鈍つたため、結局第二版としては同年一一月ごろわずかに五〇〇部のみを発行するにとどめざるを得なかった。したがつて、本来なら、原告【A】は、一部につき三八〇円、二〇〇〇部にて総額七六万円の印税を得ることができたのに、被告の本件行為のため、五〇〇部の印税一九万円を取得できたにすぎず、差引き五七万円の損害を被つた。
(二) 本件訓読文は、原告【A】が長年月にわたる研究の成果を基盤として、三年以上も心血を注いで完成した高度の学問的労作であり、それにふさわしい出版社として特に原告会社を選択して出版を許容したのであつて、被告両図書のようないわゆる通俗本に転載されたことは、原告【A】の名誉を著しく傷つけるものである。また被告両図書には、本件訓読文の転載部分の下の欄に筆者不明の文章が掲載されており、このため、この部分もあたかも原告【A】が著作したかのような誤解を与え、原告【A】の名誉を著しく傷つけた。
このように、被告の右行為は、原告【A】の名誉を侵害するものであり、その精神的打撃に対する慰謝料は一〇〇万円を下ることはない。
(三) 原告【A】は、被告が右損害賠償義務を任意に履行しないため、やむなく弁護士小島新一に委任して本件訴訟を提起し、その費用として手数料一〇万円を支払い、成功報酬として認容額の一〇パーセントを支払うことを約した。右(一)、
(二)の損害についての下記請求額を基準にして計算すると成功報酬額は一六万円となる。
(四) 原告【A】は、本訴において、右(一)の損害金のうち五七万円と(二)の損害金一〇〇万円、(三)の損害金二六万円の合計一八三万円の支払を求める。
8(一) 原告会社は、被告の本件行為により被つた財産的損害について次の(1)又は(2)の損害を選択的に主張する。
(1) 原告会社は、被告の本件行為により被告が得た利益額相当の損害を被つた。
被告両図書の各定価及び発行部数は前記のとおりであり、取次店へ委託販売する際の卸売価格は定価の七〇パーセントであるから、その総売上額は一二九七万四五〇〇円となる。被告両図書の印刷・製本に要した費用は、「平将門記」につき一部当たり三六二円、「将門の旅」につき一部当たり二九〇円であるから、総費用額は三一六万九四〇〇円であり、総売上額から総費用額と原告【A】に対する前記著作権使用料相当額一二九万七四五〇円とを控除した八五〇万七六五〇円が被告の本件行為により得た利益額であり、原告会社はこれと同額の損害を被つたものである。
(2) 原告会社は、被告の本件行為による出版権の侵害によつて、原告図書第二版の発行を当初予定の二〇〇〇部から五〇〇部に減縮することを余儀なくされた。
これによる原告会社の得べかりし利益の喪失額は、別紙将門記第二版収支計算表記載のとおり二八四万六七四〇円となる。
(二) 原告会社は、被告が右損害賠償義務を任意に履行しないため、やむなく、
弁護士小島新一に委任して本件訴訟を提起し、その費用として手数料二〇万円を支払い、成功報酬として認容額の一〇パーセントを支払うことを約した。右(一)の損害についての下記請求額を基準にして計算すると成功報酬額は二八万円となる。
(三) 原告会社は、本訴においては、右(一)の損害金のうち二八四万六七四〇円と(二)の損害金四八万円の合計三三二万六七四〇円の支払を求める。
9 よつて、被告に対し、原告【A】は、一八三万円及び内金一六七万円に対する不法行為の後である昭和五一年一〇月七日から、内金一六万円(右7(三)の成功報酬額相当の損害金)に対する本判決言渡の日の翌日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告会社は、三三二万六七四〇円及び内金三〇四万六七四〇円に対する不法行為の後である昭和五一年一〇月七日から、内金二八万円(右8(二)の成功報酬額相当の損害金)に対する本判決言渡の日の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否及び被告の主張1 認否(一) 請求の原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)、(二)の事実は認める。同(三)中、原告【A】が本件訓読文を作成したことは認めるが、本件訓読文が著作物性を有するとの点は否認する(この点は後述する。)(三) 同3の事実は不知。
(四) 同4中、原告会社が原告図書を発行したことは認めるが、その余の事実は不知。
(五) 同5の事実は認める。
(六) 同6の事実は否認する。
(七) 同7の(一)(1)中、被告両図書の各定価、「将門の旅」の発行部数は認める。「平将門記」の製本部数は四九五〇部であるが、取次店へ販売委託した発行部数は四九三五部である。その余の事実は否認する。同(2)中、原告図書第二版についての印税の約定、発行予定部数、定価、現実の発行部数の点は不知、その余の事実は否認する。
同(二)の事実は否認する。
同(三)の事実は不知。
(八) 同8の(一)(1)中、被告両図書の各定価、卸売価格は認める。発行部数の認否は、右(七)のとおりである。その余の事実は否認する。同(2)中、原告図書第二版についての別紙収支計算表の数値は不知。その余の事実は否認する。
同(二)の事実は不知。
2 被告の主張(一) 本件訓読文は、原告【A】がオリジナルなものとして創作したものではなく、古典「将門記」の写本の一つであるいわゆる真福寺本を底本とし、その対校本としていわゆる片倉本を用い、それに江戸時代の植松本、群書類従本等を参照して校合、訓読を行つたものである。故に、本件訓読文が原告の創作として認められるためには、右真福寺本を原著作物とする二次的著作物としての創作性が認められなければならない。すなわち、二次的著作者の独自の思想性感情性が相当程度に附加されていなければならない(旧著作権法第19条参照)。単に、本件訓読文が仮名交り文であり、原典「将門記」が古態の訓点傍訓を伴つた漢文体であるという文体の相違のみから前者の後者に対する著作物としての独自性を認めることはできない。以下、右の観点から、本件訓読文の二次的著作物性の有無を検討する。
(二) 本件訓読文は、真福寺本に存する誤字、脱字、衍字、衍文を補綴する校合作業とその結果確定された校合文(漢字のみからなるいわゆる白文)を訓読する作業を行つた結果完成したものである。
このうち、校合すなわち、古い写本を確定本とするための文字の判読又は誤字、
脱字、衍字、衍文の補正、補填、削除などにより原文の再現を求める行為は、科学的真実の発見に類する行為であつて、それは歴史学的、自然科学的、文学的知識を必要とする作業ではあるが、その結果選択された事実すなわち文字ないし文節それ自体は、右のような考証過程の創意を表現したものではない。校合の結果確定された文中に挿入、交換、あるいは削除された文字ないし文節は、校合作業において研究者が行つた思考それ自体を表現するものではなく、それはあくまでも原著作物としての古典の表現としての一部分をなすものであることに変りがないからである。
また、仮に、校合の結果確定されたものが校合者の独自の思想感情を表現するものであるという立場に立つても、それが原著作物に対する二次的著作物であることを認められるかどうかは原著作物とは別の著作物を創造せしめるに足る修正増減が加えられているかどうかによることとなる。本件の場合、原告【A】の校合文が原著作物とは別の二次的著作物を発生せしめる程の独自の思想感情を表現するに足る修正増減をしたものとは認められない。
次に、校合文を仮名交り文に訓読する作業においても以下に述べるとおり創作性が認められない。
漢字は表意文字であるから、これを音で表わすには訓読が必要となる。ところで、訓読の仕方は、文字のもつ意味、語序によつて漢字が表わそうとしている意味内容を正しく表現するように行わなければならず、この訓読に当たつては、語序の変更、テニヲハの添加、用語となるものに適宜語尾を附加すること及び訓、音、読みの判別についての法則に従わなければならない。もつとも、このような法則性も、ある程度の幅をもつから、訓読者によつて若干の違いがでてくることは避けられない。しかし、そのような読み方の相違というものは、原典の有する思想感情への正当な理解への試みが、訓読者によつて異なる結果としてもたらされるものであるから、それによつて原典と異なつた別個の著作物が発生すると考えるべきではない。訓読は、原典が表音化される際には必ず経なければならない一つの過程ないし作業であり、それによつて原典の有する思想感情が大きく変更されることはあつてはならない本来的性質のものである。したがつて、訓読文に、原典と異つた著作物性を認めることは、訓読の有すべき本来的性質と矛盾することになるのである。
ただし、本件訓読文が右一般の法則性に基づいた訓読とは違つた原告【A】の独特な読み方に基づいている場合には、問題は別になる。そして、本件訓読文には、
数人の学者の行つた読み下しとの相違する点がある。しかし、これらの点の多くは、いずれにしても大意に変更を来す程のものではなく、また、たとえ読み方によつては意味内容にかなりの相違が生ずるような個所がいくつかあつたとしても、これらは、断片的部分であつて、全体としての作品の独自性如何に影響を及ぼす程度に至らないものであり、原典に別個の思想感情性をもたらすような特異な読み下し方をしているとは認められない。したがつて、本件訓読文は、原典に対する二次的著作物性を取得することはできないものというべきである。
(三) 以上のように、原告【A】の本件訓読文は、校合、訓読のいずれの過程においても、著作権法上における創作性は認められず、原典としての「将門記」の複製物の域にとどまるものであり、これとは別の二次的著作物であるとはいえない。
(四) 仮に、本件について被告に著作権侵害の責任が発生するとしても原告らの請求する損害額は不当である。
(1) 原告【A】は、被告書籍の売上合計額につき七パーセントの著作権使用料の率を乗じたものを同原告が被つた損害として主張しているが、被告書籍中問題の部分は「平将門記」につき二八六頁中四四頁であり、また、「将門の旅」につき二五三頁中四四頁である。被告書籍の全体について著作権使用料を請求するのは不当であるから、右の割合を考慮すべきである。
(2) 原告会社は、被告が本件各書籍を販売したことによつて得た利益を、原告会社が被つた損害の額として主張し、右算出に当たり、販売価額の合計額から印刷製本に要した直接経費のみを控除しているが、梱包費、輸送費、その他の一般管理費を控除しなければ「被告の得た利益額」を算出することはできない。ちなみに、
被告の(イ)昭和四九年一一月一日〜同五〇年一〇月三一日決算期、及び(ロ)同五〇年一一月一日〜同五一年一〇月三〇日決算期の損益計算書により、売上高に占める一般管理費の割合を算出すると、(イ)の期間におけるそれは約四六・七パーセント、(ロ)の期間におけるそれは約四五・七パーセントである。
なお、被告の書籍は、「平将門記」が三六九部(発行延部数六一九二部ー回収延部数五八二三部)、「将門の旅」が七六三部(同様に六三六八部ー五六〇五部)未回収であるほかはすべて回収して廃棄したから、前記「利益」を原告主張のような方法で算出しても、とうてい原告主張のような損害額にはならない。
(3) また、原告らは、得べかりし利益の喪失をその損害として請求している。
しかしながら、原告の書籍の売行きがよくなかつたとしても、それは被告の書籍が出版されたからではない。当時(昭和五一年ころ)の大河ドラマ「風と雲と虹と」の放映を見込んで、平将門に関する類書は二十数種類も刊行されており、それらとの競合そして右ドラマの放映の終了が近づくにつれて読者の関心も次第に薄れて行つたこと、経済不況による購売力の低下、その他諸々の原因によるものである。そして、被告の行為があつてもなくても原告らの書籍の売れ行きには影響がないと考えられる場合には、原告らは損害を被つたとはいえないものである。
三 抗弁 仮に、本件訓読文に著作物性が認められるとしても、被告両図書は、いずれも、
当時NHKから大河ドラマとして放映されていた「風と雲と虹と」における登場人物である平将門に関する資料の紹介ないし案内を目的としたものであつて、「平将門記」については、その著者たる「【D】」こと【E】がその独特な史観に基づいて将門に関する各種の資料を蒐集し、かつ、挿話を交えるなどして記述、編集したもので、本件訓読文も右資料の一部として引用したものであつて、その出典も明示している。
「将門の旅」は平将門にゆかりのある各地の案内及び紹介を内容とするものであつて、この地を訪れる者をして将門に関する故事をほうふつさせるため、その基本的古典である「将門記」を少しでも判り易いものとするために、仮名交り文語文としての本件訓読文を引用紹介したものである。
よつて、右の各引用はいずれも、公正な慣行に合致するものであり、目的上も正当な範囲内で行われている。
四 抗弁に対する認否 抗弁事実は否認する。被告は、被告両図書の中で、本件訓読文の全文(量的には四四頁二万字に及ぶ。)を独立した主たる構成部分として転載しており、到底正当な引用の範囲内であるということはできない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1、2(一)(二)の各事実及び同2(三)の事実中原告【A】が本件訓読文を作成したこと、同4の事実中原告会社が原告図書を発行したこと並びに同5の事実はいずれも当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告【A】は、国学院大学の教授であり、日本史の中で奈良時代、平安時代の政治史、社会史を主に研究している者であることが認められる。
二 右事実といずれも成立に争いのない甲第三号証の一ないし三、第四号証、第一八号証、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一ないし七、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に作成されたものと認められる甲第二六号証、同尋問の結果(第二回)により真正に作成されたものと認められる甲第三五号証の一ないし三、
原告会社代表者尋問の結果(第一回)により真正に作成されたものと認められる甲第二七号証、同尋問の結果(第三回)により真正に作成されたものと認められる甲第三六号証の一並びに証人【F】、同【G】の各証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると次の事実が認められる。
1 古典「将門記」は、およそ一〇世紀中ごろに成立したと推定されている平将門の事績を和臭の変体漢文で記した作者不詳の戦記文学であつて、その原本の存在は明らかでなく、現在では、次の二種の写本が現存する。その一つは、名古屋市内の真福寺が蔵する写本でいわゆる「真福寺本」と称せられるもので、承徳三年(一〇九九年)書写の奥書があり、冒頭に若干の欠文があるがほぼ清書文の体をなし、全体にわたつて読点、返り点、送り仮名傍訓が施されている。他の一つは【B】が旧蔵し、【C】が現に所蔵するいわゆる「片倉本」と称されるものであつて、奥書はなく書写の年代は不詳であるが、「真福寺本」より古い書写と考えられており、その本文の前後にかなりの欠落部分がみられ、現存部分は「真福寺本」の八分の五程度であり、訓点や傍訓が施されているほか、誤字、脱字も多く訂正、加筆箇所があり、「真福寺本」と個々の部分について随所に相違点がみられる。江戸時代につくられた抄略本として、名古屋黎明会の蓬左文庫本、内閣文庫本、慶応義塾図書館蔵本、書陵蔵部本、静嘉堂文庫蔵本、神宮文庫蔵本その他が存するが、いずれも「片倉本」系統の抄略本とみられ、内容はその二分の一程度に圧縮されている。なお、
印刷されたものとしては、江戸時代寛政年間に版行された植松有信木版本と群書類従所収本その他が存するが、これらは「真福寺本」の系統に属するものである。
2 原告【A】は、前記「真福寺本」を底本に「片倉本」を対校本として選定し、
前記群書類従本以下の抄本を参考本とし、従前発表されている諸学者の校本を参照して校合作業を行いこれにより確定した校合文を読み下して、本件訓読文を完成させた。すなわち、原告【A】は、底本とした「真福寺本」については大正一四年古典保存会出版のコロタイプ復刻版を、対校本とした「片倉本」については昭和三〇年貴重古典籍刊行会出版のコロタイプ復刻版を、前記群書類従本以下の抄本についてはその復製本を用い、底本を基礎にして、これと対校本、参考本、既存の校本とを比較対照し、原告【A】の奈良平安時代の政治史、社会史専攻の研究者としての三〇年余の学識に基づき、底本の一つ一つの言葉の持つ意味を解釈して、底本の文意、文脈、修辞上の特徴を把握し、これに則して、底本中の意味不明不通の文字、
不鮮明な文字、誤字、脱字、衍字、衍文を検出し、文字の補充、削除、改変、順序の変更等によりこれを正し、異体文字を現行の文字に改める等して校合文を確定するとともに、底本、対校本、前記の抄本に存する傍訓、返り点、送り仮名、句読点を参考にし、原告【A】の解釈した底本の意に即し、その文脈、修辞上の特徴を損わないように訓点、句読点を施してこれを読み下し、現代人にも理解できる程度の文語体の文章に書き改めて、本件訓読文を完成させたものである。
3 右のように和臭の変体漢文を訓読するについては、原典が成立した年代、その時代の用語、文法、当時の政治的、経済的、社会的背景、原著作者の地位身分、写本成立の年次、その伝来の系統、写本作成者の学殖等原典の文意を解釈するについての諸条件を考究し、この研究の結果から訓読者が解釈した原典の文意を、あるいは原典の成立した時代の読み方に近付けて書き表わし、あるいは現代人に理解できる文章に書き改めることが必要であるが、この作業の各々について、訓読者各自の諸般にわたる学識、文章理解力、表現力の差異等により、訓読者各自の個性の表現ともいうべき異なつた結果が生じるものであり、本件訓読文は、これに先立つて公表されている「将門記」についての他の訓読文と比較すれば、幾多の点で相違し、
原告【A】の学識経験に基づく独自の訓読文として完成されている。
以上の事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
三 右認定の事実によれば、本件訓読文は、「真福寺本」による「将門記」を原著作物とし、その内面形式を維持しつつ、原告【A】の創意に基づきこれに新たな具体的表現を与えたものであつて、著作権法第2条第1項第11号の規定にいう著作物を翻案することにより創作した著作物に該当すると解して何の差支えもない。
被告が本件訓読文に著作物性はないとして主張するところは、前記認定の事実及び著作権法の前掲規定の法意に照らし、いずれも失当であり、これを採用することができない。証人【H】の証言及び乙第一七号証、同第二四ないし第四六号証中、
被告の右主張に沿う部分は採用しない。
四 次に、被告は抗弁として、本件訓読文が著作物であるとしても、これを被告両図書に掲載したことは、いずれも目的上正当な範囲にとどまり、かつ、公正な慣行に合致するから、著作権侵害にならない旨主張する。
当事者間に争いのない請求の原因5の事実といずれも成立に争いのない乙第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし六、被告が出版した書籍であること当事者間に争いのない検甲第一、第二号証によれば、被告両図書にはそれぞれ、原告図書の五四頁から一四〇頁までの偶数頁に存する本件訓読文が写真版により複製され、
「真福寺将門記」と題されて、四四頁にわたり登載されていること、それは、被告両図書の構成からすると、他の将門に関する記述や資料と並んで独立した一箇の資料として収録されていることが認められる。このような収録の態様からして、これが、著作権法第32条第1項の規定が著作権の制限の一場合として、他人の著作物の無断利用を許容している引用の範囲内に入るものとは到底いい得ないこと自ら明らかである。
被告の抗弁は失当である。
五 以上によれば、被告は、本件行為により、原告【A】の本件訓読文についての著作権(複製権)及び原告会社の出版権をそれぞれ侵害したというべきであり、以上の事実と弁論の全趣旨によれば、被告代表者にはこの侵害行為につき、少なくとも過失があつたものと推認できる。したがつて、被告は、この侵害行為によつて原告らの被つた損害を賠償すべき義務がある。
六 原告【A】の被つた損害について1 財産上の損害(一) 被告が昭和五〇年一〇月ころ「平将門記」を定価一部二九〇〇円で四九三五部、同年一一月ころ「将門の旅」を定価一部八八〇円で四七五〇部発行したことは当事者間に争いがなく、原告ら主張の「平将門記」の発行部数四九五〇部との差一五部についても成立について争いのない乙第二号証により前記時期に同時に発行されたものと認められるので、結局、被告が発行した「平将門記」の発行部数は四九五〇部であつたと認められる。
また、「平将門記」の本文頁数が二八六頁、「将門の旅」のそれが二五三頁であることは当事者間に争いがなく、本件訓読文は被告両図書において各四四頁にわたり複製掲載されていること前記のとおりである。
(二) 次に、原告【A】が被つたと主張する損害の額であるが、原告【A】は、
被告の本件行為により本件著作物の利用に対し通常受けるべき金銭の額、すなわち著作権使用料に相当する額の損害を被つたものということができる。
(三) そこで、右著作権使用料の率につき検討するに、原告会社代表者尋問の結果(第一回)により真正に作成されたものと認められる甲第二四号証及び同尋問の結果によれば、右著作権使用料の率は、原告【A】主張のように少なくとも被告両図書の各販売価格の七パーセントをもつて相当と認められる。
他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(四) そうすると、「平将門記」についての著作権使用料は、前記確定した定価二九〇〇円に掲載割合二八六分の四四、使用料率一〇〇分の七、発行部数四九五〇を各乗じて得た一五万四五九二円(円未満切捨て、以下同じ)、「将門の旅」についての著作権使用料は、前記確定した定価八八〇円に掲載割合二五三分の四四、使用料率一〇〇分の七、発行部数四七五〇を各乗じて得た五万八八六円となり、原告【A】は、被告の本件行為により右合計二〇万五四七八円に相当する額の損害を被つたことになる。
(なお、原告【A】が選択的に主張している得べかりし利益五七万円の損害の主張については、本件全証拠によるも、被告の本件行為と各損害との間に相当因果関係が存するものとは認められず理由がない。)2 次に、慰謝料の請求について検討する。
原告【A】は、被告の本件行為によりその名誉が毀損された旨主張するけれども、被告の本件行為により原告【A】に対する社会的声価が低下せしめられたことをうかがわせるに足る事情は本件証拠上認められず、また、前顕検甲第一、第二号証によれば、被告両図書には、本件訓読文の転載部分の下欄に筆者不明の文章が掲記されているけれども、右文章は、右転載部分の数頁前から掲載されている「論考・将門記」と題する文章の続きの部分であることが認識でき、また、本件訓読文の転載部分の末尾には、「新撰日本古典文庫・【A】校註」との記載があることが認められるから、右下欄部分が原告【A】の著作になるかのような誤解を与えるものとはいえず、これをもつて、原告【A】の名誉を毀損したものということはできない。
しかしながら、前記二認定の事実と原告本人及び原告会社代表者各尋問の結果(各第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、本件訓読文を含め原告図書所収の「将門記」校合文、校注、研究論文は原告【A】の長年月にわたる研究の結果完成された高度の学問的労作であること、原告【A】は、原告会社から「新撰日本古典文庫」中の一冊として出版する「将門記」執筆の依頼を受けた際、原告会社の右出版の企画が真面目であり自己の「将門記」についての学問的業績を託するに足るものと考えて右執筆依頼に応じ、これにより、原告図書の出版に至つたものであることが認められ、このような事情の下において、本件訓読文が原告【A】に無断で被告両図書に写真複製により転載されたことにより、原告【A】が、本来著作権者である原告【A】のみが決し得るところの何人に本件訓読文の利用を許諾するかの自由を不当に侵害されたものとして精神的に苦痛を受けたことは容易に推認できる。そして、何人に著作物の利用を許諾するかを決定する自由は、原則として法的に保護されるべき人格上の利益というべきであるから、これを違法に侵害した者に対し、
よつて生じた精神的損害の賠償を求めることができるというべきである。原告【A】が請求の原因7(二)で主張するところは、右の理由による精神的損害の主張を含むものと認められる。そして、前示の各事実によれば、原告【A】は、被告の本件行為により違法に前示自由を侵害され、精神的苦痛を被つたことが認められ、この精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料の額は前示の各事実から認められるところの本件侵害の態様、原告の学者としての社会的地位、本件訓読文著作の労苦その他諸般の事情に照らし、一〇〇万円をもつて相当とする。
3 弁護士費用相当額の損害の主張について検討するに、原告【A】は、被告が本件行為による損害賠償債務を任意に履行しないため本訴に及んだこと、原告【A】が自らこの種訴訟を追行することは訴訟技術的に相当の困難を伴うことから弁護士による本件訴訟の追行を余儀なくされたことは、本件訴訟の進行経過から容易に肯認できるところであつて、原告会社代表者尋問の結果(第三回)により真正に作成されたものと認められる甲第三九号証の一及び同尋問の結果によれば、原告【A】は昭和五一年九月一五日原告訴訟代理人弁護士小島新一との間に、本件訴訟の追行につき手数料として一〇万円を、報酬として目的の価額又は利益額の一〇パーセントを委任の目的を達したときに支払う旨約し、同日、右手数料一〇万円を支払つたことが認められる。そして、この事実と本件訴訟の難易の程度、認容額その他本件訴訟追行上の事情を考慮すれば、被告の本件行為と相当因果関係がある損害として認めるべき弁護士費用の額は、二〇万円とするのが相当である。
七 原告会社の被つた損害について1 財産上の損害(一) 原告会社代表者尋問の結果(第一回)及び原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二四号証によると、原告会社は、昭和五〇年三月七日、原告【A】との間で本件訓読文について、期間を四年とする出版権設定契約を締結したことが、右原告会社代表者尋問の結果によると、原告会社が右出版権に基づき、昭和五〇年四月ごろ、右著作物を主体とする原告図書を発行したことがそれぞれ認められ、右事実からすると、原告会社は、被告の本件行為により被告が本件行為をなすことにより得た利益に相当する額の損害を被つたものと推定される(著作権法第114条第1項)。
(二) そこで、本件行為により被告が得た利益について検討する。
(1) 被告が「平将門記」を定価一部二九〇〇円で四九五〇部、「将門の旅」を定価一部八八〇円で四七五〇部発行したことは前記六1(一)で確定したとおりである。
(2) 成立について争いのない乙第一ないし第三号証及び被告代表者尋問の結果(第二回)により真正に作成されたものと認められる乙第三三ないし第三五号証、
第三六号証の一ないし七、第三七号証、第三八号証の一・二並びに弁論の全趣旨によると、被告は、
(イ) 前記発行部数のうち、「平将門記」については合計一九一部を、「将門の旅」については合計一八二部を無料で献本ないし配付したこと。
(ロ) 東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第二五〇一号仮処分手続において、昭和五一年二月六日、【E】及び被告は、原告らと裁判上の和解をなし、この和解条項中の回収した被告両図書を廃棄するとの約定に基づき、「平将門記」については昭和五一年一〇月までに三九一四部を、「将門の旅」については同年一二月までに三四三一部をそれぞれ回収して断裁したことが認められる。そして、前掲各証によるも、無料で配付した被告両図書のうち何部が回収され断裁されたかはこれを確定することはできない。
(3) 前記(1)、(2)の事実によると、「平将門記」については、発行部数四九五〇部から無料で配布した一九一部と回収断裁した三九一四部を控除した八四五部が、「将門の旅」については、発行部数四七五〇部から無料で配布した一八二部と回収断裁した三四三一部を控除した一一三七部が、それぞれ販売されたものと認めて差し支えない。
なお、前掲乙第三三ないし第三五号証、第三六号証の一ないし七、第三七号証、
第三八号証の一・二によると、「平将門記」の断裁総数は四、五九六部、「将門の旅」のそれは四八三四部となり、「将門の旅」の断裁総数はその発行部数を上まわることになり、また、被告は「平将門記」の未回収本が三六九部あることを自認していることから、「平将門記」についても断裁したとする部数と発行した部数が符合しないこととなり、結局、前記各証拠は断裁した数の点において措信し難い。
また、成立について争いのない甲第三二号証の一、第三四号証によると昭和五一年二月末日現在及び同年四月一四日現在における被告両図書の返品状況等は認めることができるものの、現実に断裁した被告両図書の最終的な数を把握することはできず、被告代表者尋問の結果(第二回)により真正に作成されたものと認められる乙第二二号証の一ないし九二、第二三号証の一ないし五九、第二四号証の一ないし一一、第二五号証の一ないし一六、第二六号証の一ないし一三、第二七号証の一ないし二四、第二八号証の一ないし一〇、第二九号証の一・二、第三〇号証の一ないし四、第三一、第三二号証によるも、被告が販売委託をし返品を受けた被告両図書の総数は把握できるものの、個別注文者へ送付した部数、無料配布の部数、汚損により廃棄した数等右各証拠に現われない要素があり、右各証拠から直ちに断裁した部数が導き出されるわけではなく、したがつて前掲各証拠をもつてしても前記認定を左右することはできず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。
(4) ところで、弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる甲第三七号証によれば、被告両図書を製版・印刷し製本に至るまでの経費は、各五〇〇〇部として「平将門記」については一八〇万八八〇〇円、「将門の旅」については一四四万九三〇〇円要することが認められ、その一般管理費(原告【A】の本件著作物使用料も含む。)は、通常右経費の二〇パーセントと認められるので、「平将門記」については、三六万一七六〇円、「将門の旅」については二八万九八六〇円となり、右経費及び一般管理費の各一部当たりの金額は、「平将門記」については四三四円、「将門の旅」については三四七円となるところ、弁論の全趣旨によれば、
被告両図書を取次店へ委託販売する際の卸売価格は通常定価の七〇パーセントに相当することが認められるから、「平将門記」については、一部当たり二〇三〇円、
「将門の旅」については六一六円となる右認定を左右するに足る証拠はない。
そこで、「平将門記」の卸売価格二〇三〇円から前記経費及び一般管理費四三四円を差引いた一五九六円、また、「将門の旅」については、その卸売価格六一六円から前記経費及び一般管理費三四七円を差引いた二六九円がそれぞれ被告の得た一部当たりの利益と認められる。被告の販売部数は、前記認定のとおり「平将門記」については八四五部、「将門の旅」については一一三七部であるから、被告の本件行為により被告が得た利益は、「平将門記」については八四五部に一部当たりの利益一五九六円を乗じて得た一三四万八六二〇円に掲載割合二八六分の四四を乗じた二〇万七四八〇円となり、「将門の旅」については一一三七部に一部当たりの利益二六九円を乗じて得た三〇万五八五三円に二五三分の四四を乗じて得られる五万三一九一円となり、その合計額は二六万六七一円となる。そして、右金額が被告の本件行為によつて原告会社が被つた損害額と推定される。
(なお、原告会社が選択的に主張している得べかりし利益二八四万六七四〇円の損害の主張については、本件全証拠によるも、被告の本件行為と右損害との間に相当因果関係が存するものとは認められず理由がない。)2 終りに、弁護士費用相当額の損害の主張について検討するに、原告会社は、被告が本件行為による損害賠償債務を任意に履行しないため本訴に及んだこと、原告会社が自らこの種訴訟を追行することは訴訟技術的に相当の困難を伴うことから弁護士による本件訴訟の追行を余儀なくされたことは、本件訴訟の進行経過から容易に肯認できるところであつて、原告会社代表者尋問の結果(第三回)により真正に作成されたものと認められる甲第三九号証の二及び同尋問の結果によれば、原告会社は、昭和五一年九月一五日、原告訴訟代理人弁護士小島新一との間に、本件訴訟追行につき手数料として二〇万円を、報酬として目的の価額又は利益額の一〇パーセントを委任の目的を達したときに支払う旨約し、同日、右手数料二〇万円を支払つたことが認められる。そしてこの事実と、本件訴訟の難易の程度、認容額その他本件訴訟追行上の事情を考慮すれば、被告の本件行為と相当因果関係のある損害として認めるべき弁護士費用の額は五万円とするのが相当である。
八 よつて、原告らの被告に対する本訴請求は、原告【A】が前記六1ないし3記載の損害金合計一四〇万五四七八円及び内金一三〇万五四七八円に対する昭和五一年一〇月七日から、内金一〇万円に対する本件訴訟の判決言渡の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り、原告会社が前記七1及び2記載の損害金合計三一万六七一円及びこれに対する昭和五一年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り理由があるから、これを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条第92条
第93条第1項の各規定を、仮執行宣言につき同法第196条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。
追加
将門記第2版収支計算表200部の場合500部の場合備考円円収入5,396,0001,349,0001部3800円×0.71=2698円支出1,793,640593,380印刷関係費用1,033,640403,380(本文)240,750146,250(付録)28,65017,800(用紙)409,990116,830(つきもの印刷)24,25015,000(製函・製本)330,000107,500印税760,000190,000aba-b差引利益3,602,360755,6202,846,740円
裁判官 牧野利秋
裁判官 野崎悦宏
裁判官 川島貴志郎