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事件 平成 12年 (ネ) 1689号 著作物使用許諾料請求控訴事件
控訴人 シーレックス株式会社
被控訴人 日本電気ホームエレクトロニクス株式会社
訴訟代理人弁護士 岡田宰
同 広津桂子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/16
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、金1648万円及びこれに対する平成6年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、「中・小ホテル旅館フロントシステム」との名称のコンピュータ・プログラムについて著作権を有する控訴人が、被控訴人に対し、主位的に、同プログラムの使用許諾契約が締結された旨主張して、同契約に基づく使用許諾料の支払を求めるとともに、予備的に、同プログラムに係る著作権(複製権又は翻案権)の侵害に基づく損害賠償を求めた事案である。
本件の前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決3頁末行の「著作物」を「著作権」に、4頁5行目の「組合わせた」を「組み合わせた」に、6頁8行目から9行目及び7頁3行目の「本件プログラムを含めたソフトウェア」並びに7頁6行目及び9頁2行目の「本件プログラム」をいずれも「本件プログラムが使用されているソフトウェア商品」に、それぞれ改める。
2 控訴人の主張 (1) 主位的請求(本件契約に基づく使用許諾料請求)について 原判決は、控訴人、被控訴人間の本件覚書(甲1)には不自然な点が多いことのみを理由として、本件契約の成立を否定したが、真実でありながら不自然な点のあることも多いのであるから、原判決の認定は誤りである。
(2) 予備的請求(著作権の侵害に基づく損害賠償請求)について ア 被控訴人が、「長生館」及び「大阪屋旅館」に対し本件プログラムが使用されているソフトウェア商品(通称C-PAC、以下「C-PAC」という。)を納入、販売した際に、控訴人に無断で、本件プログラムを複製又は翻案したことは、原審で主張したとおりであるが、これに加え、被控訴人は、平成6年10月に長野県北佐久郡<以下略>所在の「軽井沢プラザホテル」にC-PACを納入、販売した際にも、控訴人に無断で、本件プログラムを複製又は翻案した(平成12年6月5日の当審第1回口頭弁論期日における請求原因の追加)。
この点について、被控訴人は、上記C-PACはシーレックス群馬又は株式会社システムオーク(以下「システムオーク」という。)から仕入れて、ユーザーである「長生館」等に販売したにすぎず、その仕入代金もシーレックス群馬等に支払われている旨主張するが、虚構である。すなわち、被控訴人の群馬営業所長Aは、平成6年9月に控訴人を解雇されたBらに対し、本件プログラムの複製又は翻案の作業をさせ、シーレックス群馬等に支払ったはずの代金を現金化して、Bらに作業の対価を直接手渡して支払った。また、被控訴人は、控訴人の従業員であったCが同年春ころシステムオークに転職していた関係で、同社からの仕入れを控訴人に勧められた旨主張するが、Cは、同年9月27日まで控訴人に勤務していたのであるから、被控訴人の上記主張は事実と異なる。
仮に、被控訴人がシーレックス群馬及びシステムオークからC-PACを仕入れてこれをユーザーに販売していたとしても、被控訴人は、シーレックス群馬及びシステムオークが本件プログラムを複製、翻案したことを知っていたというべきであるから、被控訴人が本件プログラムに係る著作権を侵害したことに変わりはない。
イ 被控訴人は、上記「軽井沢プラザホテル」の件につき、消滅時効を援用するが、控訴人がこの件について著作権の侵害の事実を知ったのは、原審口頭弁論終結後の平成11年12月であるから、消滅時効は成立しない。仮に、控訴人がこの事実を知っていれば、当然、原審においてその主張をしていたはずである。
3 被控訴人の主張 (1) 主位的請求(本件契約に基づく使用許諾料請求)について 控訴人の主張は争う。
(2) 予備的請求(著作権の侵害に基づく損害賠償請求)について ア 被控訴人が「軽井沢プラザホテル」に対し、平成6年10月ころ、C-PACを販売したことは認めるが、これは、システムオークから仕入れたものであって、その仕入代金も同社に支払われており(乙11〜13)、被控訴人が本件プログラムを複製又は翻案して作成したものではない。このことは、被控訴人が「長生館」に対して販売したソフトウェア商品をシーレックス群馬から仕入れて、その代金を支払った(乙6、9)のと同様である。なお、当時、被控訴人は、控訴人からユーザーサポートを引き継ぐため、オフコン版の本件プログラムのドキュメントの引渡しを受けていたが、「軽井沢プラザホテル」等に販売したC-PACはパソコン版であって、オフコン版のプログラムに基づいてパソコン版のソフトウェア商品を作成することは著しく困難であるから、この点からも、控訴人の主張が理由のないものであることは明らかである。
控訴人は、被控訴人の群馬営業所長のAが被控訴人の元従業員らに対し、本件プログラムの複製又は翻案の作業をさせた旨主張するが、控訴人の意に反して、そのような依頼をし、そのまま実行されるということは非現実的であり、仮に、そのような作業依頼があったとしても、控訴人からの直接的又は間接的な指示に基づくものであって、本件プログラムに係る著作物の利用については、控訴人の許諾があったというべきである。
そもそも、「長生館」、「軽井沢プラザホテル」等に対するC-PACの営業活動は、控訴人が主導的に行ったものであり、被控訴人がシーレックス群馬やシステムオークからC-PACを仕入れた理由は、シーレックス群馬は控訴人の子会社であること、システムオークについては、同社には控訴人の従業員であったCが平成6年春ころ転職していた関係で控訴人に勧められたことによる。このような状況の下で、被控訴人がシーレックス群馬及びシステムオークからC-PACを仕入れて本件プログラムに係る著作物を利用し、これを販売することについては、
控訴人も許諾していたと考えるのが合理的であるし、仮に、シーレックス群馬又はシステムオークが控訴人の許諾を得ることなく本件プログラムを複製し又は翻案してC-PACを作成していたとしても、被控訴人はそのことを全く知らなかった。
イ 控訴人は、当審において、「軽井沢プラザホテル」に対して納入したC-PACに関して本件プログラムの著作権の侵害があった旨主張するが、これに基づく損害賠償請求に対しては、予備的に消滅時効を援用する。すなわち、控訴人は、「軽井沢プラザホテル」に対してC-PACが納入された平成6年9月30日までには、上記著作権の侵害の事実を知ったというべきであり、それから3年を経過した日に消滅時効が完成した。
当裁判所の判断
1 主位的請求(本件契約に基づく使用許諾料請求)について 当裁判所も、控訴人の主位的請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第三の一(9頁8行目〜16頁2行目)のとおりである(ただし、11頁10行目の「九月三〇日ころ」の前に「同年」を加える。)から、これを引用する。
控訴人は、控訴人、被控訴人間の本件覚書(甲1)には不自然な点が多いことのみを理由として本件契約の成立を否定した原判決は誤りである旨主張する。しかし、本件覚書の被控訴人側の名義人であるソリューションビジネス第一本部関東信越販売部部長Dが著作物使用許諾契約を締結する権限を与えられていなかったこと、「D」の名や同人の所属部署の所在地が誤記されていること、本件覚書の原本は紛失したとして提出されていないこと、被控訴人は、従前から、本件プログラムが使用されているC-PACの仕入れについては、ユーザーから注文を受ける都度控訴人に納入準備作業を依頼し、これを仕入れるという取扱いで特段の問題もなく推移しており、本件覚書に定める群馬県等の地域を限定した非独占的な使用権を得るために1600万円を投資すべき必然性があったとは考えられないこと等の上記引用に係る原判決認定の事実に照らせば、本件覚書の真正な成立を認めることはできないというべきであるから、これに基づく本件契約の成立も認められない。
付言するに、本件覚書の第7条には、「使用権の対価の支払時期は、甲乙協議により定めるものとする」と記載されているところ、当該協議が成立したとの主張立証はない上、この定めが、何らかの期限を含意するものとして被控訴人を拘束する趣旨であったことを認めるに足りる証拠もなく、かえって、控訴人代表者Eの陳述書(甲11)には、被控訴人から本件契約の実施の無期限延期を通告された際、延期はできないとの申入れをしたが、上記条項があったことから、それ以上の申入れ等はしなかった旨の記載がある。したがって、仮に、本件覚書に基づく契約が成立していたとしても、同契約に基づく使用料請求を認める余地はない。
よって、控訴人の主位的請求は理由がないというべきである。
2 予備的請求(著作権の侵害に基づく損害賠償請求)について (1) 証拠(甲2〜4、9、12、14の1〜13、16〜18、乙1〜4、
7、8の1、2、14、15の1、2、16の1、2、原審証人D、原審における控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は、平成5年春ころから、控訴人が著作権を有する本件プログラムが利用されているC-PACの販売を始め、その後の約1年間で6〜7件の販売実績を挙げたが、実際には、控訴人(その使用人兼取締役であったFら)が中心的に営業活動を行い、そこで事実上受注が決定された案件を被控訴人にあっ旋するというものであった。
イ C-PACの納入に当たっては、汎用的なパッケージに個別のユーザーの注文に応じたカスタマイズをするなどの納入準備作業が必要であるところ、その作業は控訴人が行い、被控訴人はこれを控訴人又はシーレックス群馬から仕入れ、
ユーザーに販売するという形式が採られた。ただし、ユーザーに対する納品時の稼働確認の立会いや納品後の保守サポート業務は、被控訴人の委託に基づき控訴人が行っており、その際、控訴人は、対外的には「被控訴人(又はその子会社日本電気テクノシステム株式会社)のサポートセンター」との名称の使用が許されていた。
なお、シーレックス群馬は、控訴人と代表者を同じくする控訴人の子会社であり、
独立した法人としては休眠状態であったが、被控訴人の控訴人に対する仕入注文に対し、シーレックス群馬が注文請書を提出して納品をするなど、控訴人とシーレックス群馬とは取引上しゅん別されていなかった。
ウ 控訴人は、資金繰りの悪化から、平成6年9月29日、従業員全員を解雇して事業活動を停止し、事実上倒産したが、既に「長生館」、「大阪屋旅館」及び「軽井沢プラザホテル」に対するC-PACの受注は、控訴人の営業活動によって事実上決定していたことから、本件プログラムのカスタマイズを含む納入準備作業を遂行する必要があった。このため、被控訴人の群馬営業所長Aは、控訴人が事実上倒産した当日に控訴人の高崎事業所に赴き、控訴人を解雇された元従業員であるBら約5名に対し、「軽井沢プラザホテル」に対するC-PACの納入準備作業を行うよう依頼し、約20日をかけてこれを完成させ、上記元従業員らに対して報酬を支払った。また、「長生館」に納入するC-PACについても、同様の納入作業が行われた(「大阪屋旅館」の関係は後述する。)。
エ 他方、被控訴人は、従前控訴人に委託していたC-PACのユーザーに対する保守サポート業務を控訴人から引き継ぐため、同年10月6日、控訴人にその旨の依頼文書を提出させるとともに、同月12日及び13日の両日、控訴人の高崎事業所及び東京事務所において、保守サポート業務に必要なシステム設計書等の引渡しを受けた。なお、高崎事業所での引渡しには、控訴人の使用人兼取締役のFがこれに立ち会った。
オ その後、C-PACの保守サポート業務は、控訴人を同年9月27日に退職したシステムエンジニアのCが転職していた関係で、システムオークが引き継ぐこととなった。
(2) 被控訴人は、上記ウの認定事実に関し、C-PACは、シーレックス群馬(「長生館」分)又はシステムオーク(「軽井沢プラザホテル」分)から仕入れて、これをそのまま販売したにすぎない旨主張し、乙7、14及び原審証人Dの証言中にはこれに沿うところもあるが、上記認定事実は、本件に何らの利害関係を持たないBの陳述書(甲16)において、自ら直接体験した事実として明確かつ詳細に述べられているほか、被控訴人の従業員であったGの陳述書(甲18)にもこれに沿う記載があり、これらの陳述書の記載は信用するに足りる。他方、被控訴人は、その主張に沿うシーレックス群馬又はシステムオークの控訴人宛の注文請書等(乙6、11、12)及び上記両社に対する代金の振込依頼書(乙9、13)を提出するが、控訴人の倒産後に、実質的に控訴人とは別法人としてしゅん別されていないに等しいシーレックス群馬が事業を継続していたとは考えられず、また、控訴人に平成6年9月27日まで在籍していた上記C(その離職年月日は甲17から明確である。)が転職するまで本件プログラムに関するノウハウを持っていなかったと考えられるシステムオークが、同年9月30日付けで注文請書(乙11)と入庫票(乙12)まで提出しているのは不自然であって、上記B及びGの各陳述書に照らしても、これを採用することはできない。
もっとも、「大阪屋旅館」に納入されたC-PACについては、上記のBの陳述書等においても何ら触れられておらず、その販売当時(平成6年12月)までには、システムオークが従前控訴人の行っていた業務の引継ぎを終えていたと考えられることに照らせば、これについてまで、上記のように被控訴人の指示に基づいて納入準備作業が行われたことを認めることはできず、また、システムオークにおいて、控訴人に無断で本件プログラムの複製又は翻案を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上の認定事実に基づいて判断するに、被控訴人が「長生館」及び「軽井沢プラザホテル」に対して販売、納入したC-PACの納入準備作業に当たっては、被控訴人の群馬営業所長Aの指示により、本件プログラムを基にしたカスタマイズ等の作業が行われたのであるから、これが本件プログラムの複製又は翻案に該当する可能性も否定することはできない。
しかしながら、そうであるとしても、以下に述べるとおり、本件プログラムに係る著作物の利用については、控訴人の明示又は黙示の許諾があったというべきである。
すなわち、「長生館」及び「軽井沢プラザホテル」に対するC-PACの販売については、控訴人が主導的に営業活動を展開し、事実上受注を決定していたことは前示のとおりであり、このことは、「軽井沢プラザホテル」に対する被控訴人名義の見積書(乙17)の担当者押印欄に、控訴人の使用人兼取締役のF及び同従業員のB(旧姓H)の押印しかないことからも明らかである。これらのユーザーに対するC-PACの納入を控えていたことは、平成6年9月当時、控訴人も十分認識していたはずであり、こうした中で、控訴人は資金繰りの悪化から同月29日に事実上倒産し、自ら行うべきC-PACの納入準備作業を行うことができなくなったのであるから、控訴人としても、被控訴人が自ら又は外注するなどの方法により当該作業が遂行されることを予期していたものと推認するのが合理的である。加えて、上記(1)認定のとおり、「長生館」及び「軽井沢プラザホテル」に納入するC-PACの納入準備作業は、控訴人の高崎事業所で行われており、しかも、その作業期間中には、控訴人の使用人兼取締役であるFの立会いの下に保守サポート業務の引継ぎが2日間にわたって行われているのであるから、控訴人において、上記納入準備作業が行われていることを知らなかったとは到底考えられない。他方、控訴人が倒産により自ら遂行することができなくなった上記作業について、本件プログラムの利用をあえて拒絶する意思が表明されたことを認めるに足りる証拠はないから、以上の事実関係の下においては、控訴人は、本件プログラムを用いて上記作業を行うことについて、被控訴人の対応に委ね、その著作物の利用を明示又は黙示に許諾していたものと認めるのが相当である。
控訴人代表者Eの陳述書(甲9)には、平成6年11月ころ、被控訴人が本件プログラムの複製をしているとの話を聞いたものの、債権者への対応等に追われていて、事実確認をしなかったとの記載もあるが、控訴人において、「長生館」、「軽井沢プラザホテル」等に対するC-PACの納入準備作業が必要なことを承知していたことを併せ考えると、上記認定及び判断の妨げとなるものではなく、他に、これを左右するに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり、被控訴人において本件プログラムの複製又は翻案をしたとしても、その著作物の利用につき控訴人の明示又は黙示の許諾があったというべきであるから、著作権の侵害を理由とする控訴人の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
3 結論 以上のとおり、控訴人の請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利