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事件 平成 13年 (ワ) 2578号 著作権侵害差止等請求事件
原告 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 北本修二
同 七堂眞紀
被告 清洲観光株式会社
被告 清洲ビルディング株式会社
被告A
被告ら訴訟代理人弁護士 奥西正雄
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/09/05
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは、原告に対し、各自金1985万5410円及びこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告清洲観光株式会社及び被告清洲ビルディング株式会社は、原告に対し、各自別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを20分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
5 この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告らは、原告に対し、各自金2166万5410円及びこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告清洲観光株式会社及び被告清洲ビルディング株式会社は、原告に対し、各自別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 原告の著作権 ア 原告は、平成13年9月30日までは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づく許可を受け、平成13年10月1日からは「著作権等管理事業法」(平成12年法律第131号)に基づく登録を受け、内外国の音楽の著作物の著作権者からその著作権又は支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場及び有線放送等各種の分野における音楽の著作物の利用者に対して、音楽の著作物の利用を許諾し、許諾の対価として利用者から著作物使用料を徴収し、これを内外国の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。なお、本訴で使用料相当額の支払請求の対象となっている平成3年3月1日から平成13年2月28日までは、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」が施行され、適用されていた。
イ 原告は、社交場やカラオケ歌唱室においてカラオケの伴奏により歌唱されるほとんどすべての音楽著作物について、内国の音楽の著作物については著作権者との著作権信託契約を締結し、外国の音楽の著作物については我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結することによりその著作権又は支分権の移転を受けるなどして、これを管理している(以下、
原告が管理している音楽著作物を「管理著作物」という。)。管理著作物は、カラオケ歌唱の使用実績を有する主要な曲目に当たり、一般のカラオケ歌唱室において、日常的に反復使用されている楽曲である。
(2) 被告らの経営形態 ア 被告清洲観光株式会社 被告清洲観光株式会社(以下「被告清洲観光」という。)は、原告と管理著作物について使用許諾契約を締結せず、著作物使用料を支払うことなく、平成2年10月から平成13年4月23日まで、大阪市中央区道頓堀1丁目1番15号所在「マドンナ道頓堀店」(以下「本件店舗」という。)においてカラオケ歌唱室(いわゆるカラオケボックス)を営業していた。
イ 被告清洲ビルディング株式会社 (ア)a 被告清洲ビルディング株式会社(以下「被告清洲ビルディング」という。)は、被告清洲観光に対し、本件店舗のカラオケ歌唱室の営業を開始するに当たり、自社が所有するビルを改装の上提供し、その後これを賃貸していた。被告清洲観光は、カラオケ歌唱室であるマドンナ守口店を他に賃貸して賃料収入を得ているので、その賃料収入と本件店舗の賃料の差引きにより、実質的に無償で本件店舗を使用していた。
b 被告清洲ビルディングは、本件店舗に対し、自社の電話加入権を提供していた。
c 被告清洲観光には、従業員として、本件店舗の店長、支配人がいたが、これらの者は、本件店舗における接客業務に従事しており、著作物使用許諾契約に関する交渉等の重要事項に対応することはできず、本件店舗における音楽著作物の使用に関する原告との交渉は、被告清洲ビルディングの従業員が行った。
本件店舗の営業方針は被告清洲ビルディングが立案し、本件店舗の営業は同被告営業部の指揮監督の下に行われ、本件店舗の日々の売上げ及び経費の管理は、同被告経理部において行われていた。原告は、平成12年12月11日、
同月22日及び平成13年1月18日における被告清洲ビルディングの従業員との交渉の中で、このような事実を確認した。
d 本件店舗が売上不振となって以降、被告清洲ビルディングが本件店舗の経費の一部を負担していた。被告清洲観光は、銀行からの借入れはなく、資金はすべて被告清洲ビルディングから借り入れていた。
売上不振であったにもかかわらず本件店舗の営業が継続されていたのは、被告清洲ビルディングが本件店舗を有利に賃貸するためであった。
e 被告清洲観光と被告清洲ビルディングの代表者は同一人であり、その他の役員、株主の人的構成も重なっていた。
(イ) このような事情に鑑みれば、被告清洲ビルディングは、被告清洲観光とともに本件店舗の経営の主体であるか、加担者に当たる。
ウ 被告A 被告Aは、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの代表取締役である。
(3) カラオケの使用状況 ア 本件店舗には、通信カラオケ装置及びレーザーディスクカラオケ装置を備えたカラオケの歌唱に使用されるカラオケ歌唱室が21室設置されており、その内訳は、定員10名までのカラオケ歌唱室が18室、定員10名を超え30名までのカラオケ歌唱室が2室、定員30名を超え50名までのカラオケ歌唱室が1室であった。
イ 本件店舗では、従業員が、来店した客をカラオケ装置の設置された歌唱室に案内し、飲食物を提供するとともに、カラオケ装置を操作し又は客に操作させ、管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生させ、その歌詞の文字をモニターテレビに表示させ、伴奏音楽に合わせて管理著作物である楽曲を客に歌唱させていた。
(4) 支分権 原告の許諾を得ずにカラオケ装置を使用して客に管理著作物である楽曲を歌唱させることは、原告が管理著作物について有する演奏権の侵害に当たる。原告の許諾を得ずに管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生することは、通信カラオケ装置による場合は演奏権の侵害に当たり、レーザーディスクカラオケ装置による場合は上映権の侵害に当たる。原告の許諾を得ずに管理著作物の歌詞の文字をモニターテレビに表示することは、上映権の侵害に当たる。
(5) 故意又は重過失 ア 被告清洲観光、被告清洲ビルディング (ア) カラオケスナックにおけるカラオケによる歌唱につき原告の演奏権の侵害を認めた昭和59年7月5日の福岡高等裁判所の判決(福岡高等裁判所昭和57年(ネ)第595号、同58年(ネ)第329号同59年7月5日判決)及びその上告審の昭和63年3月15日の最高裁判所判決(最高裁判所昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第3小法廷判決・民集42巻3号199頁)は、全国的に大きく報道され、カラオケによる歌唱に著作権の効力が及ぶことは、社会的にも認知され、当然のことと受け止められた。カラオケ歌唱室の営業は昭和63年ごろに始まり、原告は、平成元年4月から全国的にカラオケ歌唱室との著作物使用許諾契約の締結等を開始した。カラオケスナックが飲食物の提供を主たる営業目的とするのに対し、カラオケ歌唱室は音楽著作物の利用を直接的な営業目的とするものであるから、カラオケ歌唱室の営業について著作権者の許諾を得る必要のあることは、カラオケスナックについて以上に理解が容易であった。原告は、その定款に事業目的として著作権思想の普及を掲げており、音楽著作権の普及のために日々活動している。平成13年3月において、全国のカラオケ歌唱室1万2300店舗のうち84.5パーセントに当たる1万0400店舗が原告との著作物使用許諾契約を締結している。
(イ) 原告の職員は、平成2年10月16日、本件店舗を訪問し、同月17日、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの本社を訪問し、管理著作物を適法に使用するためには原告との著作物使用許諾契約を締結しなければならないことを説明した。原告は、同年11月21日、被告清洲観光に対し、書留郵便をもって、
同様のことを通知した。その他、原告は、電話による説明も行った。同年12月3日、被告清洲観光又は被告清洲ビルディングの担当者は、原告に対し、著作物使用許諾契約が必要であることは理解したこと、社内で調整して申込書を提出することを表明した。
(ウ) したがって、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、適法にカラオケ歌唱室の営業を行うために原告と音楽著作物使用許諾契約を締結する必要があることを、本件店舗の開店直後から知っていたはずである。そして、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、本件店舗において、原告の許諾を得ずカラオケ装置を使用して管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生し、その歌詞の文字をモニターテレビに表示し、客に管理著作物である楽曲を歌唱させることが、原告の著作権を侵害することを知った上で、前記(3)のとおり、原告の著作権を侵害した。
イ 被告A 被告Aには、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの代表取締役として、その職務を行うに当たり、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングが他人の権利を侵害することのないように注意を尽くす義務があった。
被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの事務所は、被告Aのほか数名の従業員が勤務しているだけであり、原告からの通知等は被告Aに伝えられたはずであり、仮に伝えられなかったとすれば、報告、連絡の体制を整備しなかった点で、被告Aには取締役としての任務懈怠につき少なくとも重過失があったというべきである。
したがって、被告Aには、取締役としての任務懈怠につき悪意又は重過失があった。
ウ 以上によれば、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、本件店舗における原告の管理著作物についての著作権侵害につき共同不法行為者として損害賠償責任を負う。
被告Aは、商法266条の3第1項に基づき、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの著作権侵害行為によって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
(6) 使用料 ア 使用料相当損害 原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対し、本件店舗において管理著作物の著作権を侵害されたことについて、使用料相当額の損害賠償を請求することができる(著作権法114条2項)。
イ 使用料規程 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づき、「著作物使用料規程」を定め、文化庁長官の認可を受け、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用料を、次のとおり定めていた。
(ア) 平成9年8月10日までは、昭和59年6月1日認可の著作物使用料規程第2章、第2節演奏等、3演奏会以外の催物における演奏、(7)その他の演奏の規程に基づき定められた「カラオケ歌唱室の使用料率表」により、次のとおりである。ただし、平成9年3月31日までは3パーセント、同年4月1日以降は5パーセントの消費税相当額が加算される。
@ オーディオカラオケによる使用のときは、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額3000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、一部屋月額6000円。
A ビデオカラオケによる使用のときは、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額4000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、一部屋月額8000円、一部屋の定員が30名を超え50名までの場合、一部屋月額1万2000円。
B レーザーディスクカラオケを伴う通信カラオケについては、ビデオカラオケとして取り扱い、ビデオカラオケとオーディオカラオケ(CD静止画付カラオケを含む。)を併用している場合は、ビデオカラオケの使用料になる。
(イ) 平成9年8月11日、著作物使用料規程の一部変更が、文化庁長官の認可を受け、同日施行された。同日以降は、変更後の著作物使用料規程第2章、
第2節演奏等、4カラオケ施設における演奏等、(1)により、標準単位料金(カラオケ施設を利用する場合に1人1時間当たりにつき通常支払うことを必要とされる料金相当額)が最低の500円までの場合において、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額9000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、一部屋月額1万8000円、一部屋の定員が30名を超え50名までの場合、一部屋月額2万7000円であり、これに5パーセントの消費税相当額が加算される。なお、包括的使用許諾契約を締結する場合の使用料は別途定められていた。
ウ 本件の使用料相当額 (ア) 平成3年3月1日から平成9年3月31日まで 平成3年3月1日から平成9年3月31日までの消費税3パーセントを含む月額使用料は10万3000円であり((4000円×18室+8000円×2室+1万2000円×1室)×1.03=10万3000円)、使用料総額は751万9000円である(10万3000円×73か月=751万9000円)。
(イ) 平成9年4月1日から同年8月10日まで 平成9年4月1日から同年8月10日までの消費税5パーセントを含む月額使用料は10万5000円であり((4000円×18室+8000円×2室+1万2000円×1室)×1.05=10万5000円)、使用料総額は45万3870円である(10万5000円×4か月+10万5000円×10日/31日=42万円+3万3870円= 45万3870円。ただし平成9年8月については日割り計算)。
(ウ) 平成9年8月11日から平成13年2月28日まで 平成9年8月11日から平成13年2月28日までの消費税5パーセントを含む月額使用料は23万6250円であり((9000円×18室+1万8000円×2室+2万7000円×1室)×1.05=23万6250円)、使用料総額は1008万2540円である(23万6250円×42か月+23万6250円×21日/31日=992万2500円+16万0040円= 1008万2540円。ただし平成9年8月については日割り計算。なお、平成9年8月の使用料相当額は、19万3910円(3万3870円+16万0040円= 19万3910円)である。)。
(エ) 合計 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの使用料の合計は、
1805万5410円である(751万9000円+45万3870円+1008万2540円=1805万5410円)。
エ 使用料額の合理性 カラオケ歌唱室における管理著作物の利用について通常受けるべき使用料は、前記イのとおり、当該店舗に設けられた営業のために利用可能な部屋数及び各部屋の定員等によって算定されるものであり、営業のために利用可能であるが全く使用されなかったり、稼働率が著しく低い部屋が含まれていたとしても、月額使用料が変更されることはない。
カラオケ歌唱室を利用する客の数は、時間帯、曜日、時期等により変動し、多数の客に対応するためには、部屋数が多いことが有利であり、部屋数及び定員数をもって、営業状況、営業規模の基準とみなすことができる。原告は、全国の多数のカラオケ施設に関する著作権管理を業務としており、各店舗の実際の営業収入、管理著作物の利用回数を個々に把握することは困難であり、部屋数及び定員等をもって、管理著作物の利用状況の外形的基準とすることに充分な合理性がある。
本件店舗はカラオケボックスの老舗であり、繁華街の中心に位置し、盛況時には客が順番待ちをするときもあり、被告らの営業不振の主張は、閉店直前の時期に関するものにすぎず、全営業期間の状況に関するものではない。
使用料について、包括的利用許諾契約を締結する場合の優遇措置が、無断利用の場合に適用されないのは、やむを得ないところである。
(7) 不当利得 被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、原告の許諾を得ずかつ使用料を支払うことなく管理著作物を使用し、これにより前記(6)ウ(ア)ないし(エ)と同額の利益を得たものであり、原告は、これにより同額の損失を被った。被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、適法にカラオケ歌唱室の営業を行うためには原告と音楽著作物使用許諾契約を締結することが必要であることを知っていたにもかかわらず、原告に無断で管理著作物の使用を継続したものであるから、悪意の受益者に当たる。
被告ら主張のように善意占有者の果実の取得に関する民法189条が管理著作物の無断利用に類推適用されるとする根拠は全くない。
(8) 弁護士費用 原告は、被告らが任意の支払に応じないため、本訴の提起を弁護士に委任せざるを得なかったものであり、弁護士費用は、361万円を下らない。
(9) 結論 ア(ア) 原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対し、管理著作物の著作権侵害についての不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自、使用料相当額1805万5410円及び弁護士費用361万円の合計2166万5410円、並びに不法行為後の民法所定の年5分の割合による遅延損害金として、別紙遅延損害金目録記載の金員及び2166万5410円に対する平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うことを求める。
(イ) 原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対し、原告の許諾を得ずに行った管理著作物の使用についての不当利得返還請求権に基づき、各自、使用料相当額1805万5410円、並びに民法所定の年5分の割合による利息として、別紙遅延損害金目録記載の金員及び1805万5410円に対する平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うことを求める。
(ただし、(ア)のうちの使用料相当額及びそれに対する遅延損害金の請求と選択的に(イ)の請求をする。) (ウ) 原告は、被告Aに対し、商法266条の3第1項に基づき、使用料相当額1805万5410円及び弁護士費用361万円の合計2166万5410円、並びにこれに対する請求の後である平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ したがって、原告の請求は、次のとおりである。
被告ら各自に対する2166万5410円及びこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求。
被告清洲観光及び被告清洲ビルディング各自に対する別紙遅延損害金目録記載の金員の支払請求。
2 請求原因に対する認否 (1)ア 請求原因(1)(原告の著作権)アの事実は認める。
イ 請求原因(1)イの事実は不知。
(2)ア 請求原因(2)(被告らの経営形態)ア(被告清洲観光株式会社)のうち、被告清洲観光が、平成2年10月から平成13年4月23日まで、本件店舗においてカラオケカ歌唱室を営業していたことは認め、その余は争う。
イ(ア)a 請求原因(2)イ(被告清洲ビルディング株式会社)(ア)aの事実のうち、被告清洲ビルディングが被告清洲観光に本件店舗の所在する建物(以下「本件建物」という。)を賃貸していることは認め、その余は否認する。
b 請求原因(2)イ(ア)bの事実について、本件店舗の3本の電話のうち2本の電話加入権が被告清洲ビルディングのものであり、被告清洲観光が、無償でその使用を許されていたことは認め、その余は否認する。
残りの1本の電話加入権は、被告清洲観光のものである。また、2本の電話加入権の無償の使用を許されていたことをもって、被告清洲観光と被告清洲ビルディングが本件店舗を共同経営していたとはいえない。
c 請求原因(2)イ(ア)cの事実は否認する。
被告清洲ビルディングは、ビルディングの売買や賃貸を業務としており、代表者が、被告清洲ビルディングの従業員に対し、個々的に、被告清洲観光の業務に従事するよう依頼しており、被告清洲ビルディングが被告清洲観光に対して経営の方針を示したり指示を与えたりすることはなく、被告清洲観光と被告清洲ビルディングは、本件店舗を共同経営していたとはいえない。
被告清洲観光は、本件店舗に支配人と店長を置き、この両名が、本件店舗の営業の企画立案、アルバイト従業員の教育、営業を行い、金銭の支出は、
代表者の承認を得て行っていた。
被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの経理は、Bが担当しているが、被告清洲ビルディングが被告清洲観光の経理を支配しているわけではなく、
被告清洲観光と被告清洲ビルディングの経理が混同しているわけでもない。本件店舗からの現金収入は、毎日被告清洲観光の銀行口座に振り込まれ、Bは、本件店舗の支配人から送付される伝票によって記帳している。Bは、本件店舗については、
経理事務を行うほか、支配人及び店長と代表者の間の連絡をとるだけである。もしBが本件店舗の営業の企画立案に加わっていれば、無用のカラオケルームを放置しないはずである。
被告清洲ビルディングの従業員であるC、D、Bは、代表者の指示により、原告との交渉を行ったものであり、それ以外は、本件店舗には一切かかわっていない。
被告清洲ビルディングは、本件店舗の営業及び金銭支出に何らの関係もない。
d 請求原因(2)イ(ア)dの事実は否認する。
被告清洲ビルディングは、被告清洲観光の経費を負担していない。
被告清洲ビルディング及び被告Aは、被告清洲観光に対し、1億円以上の貸金がある。
本件建物は、被告清洲ビルディングが所有し、被告清洲観光と被告清洲ビルディングを債務者とする根抵当権設定登記がされているが、これは、根抵当権者を変更する際に、根抵当権者から、債務者として占有者である被告清洲観光を加えるように求められ、それに応じたためであり、被告清洲観光は、実質的に被告清洲ビルディングから担保の提供を受けていないし、根抵当権者から金融を得ていない。
e 請求原因(2)イ(ア)eの事実のうち、被告清洲観光と被告清洲ビルディングの代表者が同一人であることは認め、その余は否認する。
(イ) 請求原因(2)イ(イ)は争う。
本件店舗の営業は、被告清洲観光が行っており、被告清洲ビルディングは関与していない。
仮に、被告清洲ビルディングが、被告清洲観光に対し、建物を賃貸し、金銭消費貸借を行い、人材を派遣していたとしても、カラオケ歌唱室の営業を共同して行っていたとはいえない。
ウ 請求原因(2)ウ(被告A)の事実は認める。
(3)ア 請求原因(3)(カラオケの使用状況)アの事実のうち、本件店舗に、カラオケ歌唱室が21室設置されていたこと、そのうち定員10名までのカラオケ歌唱室が18室であったことは認め、その余は否認する。
本件店舗には、定員10名までのカラオケ歌唱室が18室、定員30名までのカラオケ歌唱室が3室あった。カラオケ装置は各室に備え付けられているわけではなかった。
イ 請求原因(3)イの事実は認める。
ただし、本件店舗のカラオケ歌唱室が、常時、全室、客により使用されていたわけではない。また、本件店舗のカラオケ歌唱室において上映、演奏等された楽曲がすべて原告の管理著作物であるかどうかは知らない。
(4) 請求原因(4)(支分権)の主張は、一般論としては認める。被告らが、原告が管理著作物について有する演奏権、上映権を侵害していたことは争う。
(5)ア 請求原因(5)(故意又は重過失)ア(ア)ないし(ウ)の事実は否認し、主張は争う。
カラオケ業界では、カラオケの使用が原告の音楽著作権の侵害となることを知らない者が多い。業界を横断する団体がないので、著作権の知識は一般化してない。被告清洲観光の支配人は、カラオケ業者の集まりに出席していたが、警察からカラオケ歌唱室内での犯罪防止について指導があるだけで、著作権について指導を受けることも知識を得ることもない。被告清洲観光は、カラオケ装置をリースにより使用していたが、リース料が多額であったので、著作物使用料を含めてカラオケ装置に関する費用はその中に含まれていると考えていた。
イ 請求原因(5)イの事実は否認し、主張は争う。
被告Aは、世人と同様、楽曲に著作権があるという認識は薄い。被告清洲観光は、カラオケ装置をリースにより使用していたが、リース料が多額であったので、被告Aは、著作物使用料を含めてカラオケ装置に関する費用はその中に含まれていると考えていた。リース契約の契約書には、従前、原告についての記載はなく、平成10年5月21日付けの契約書には、原告のことが約定の最後に記載されていたが、細字の不動文字で記載されていたので、これに気付かなくても過失はない。被告Aは、原告の職員が本件店舗や被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの本社を訪問したことを知らなかったし、原告から被告らに対する催告の書面としては、平成12年10月25日及び同年12月6日に配達された文書以外は知らない。被告Aは、ビルディングの賃貸を主たる業とし、本件店舗に赴くのは年2、3回で、本件店舗の営業は支配人に任せていたが、世間一般の経営者が払うべき注意は払っていた。したがって、平成12年10月ごろ原告から警告があるまでは、被告Aに、取締役としての任務懈怠につき故意又は重過失はなかった。
被告Aは、平成12年10月ごろ原告から警告を受けた後は、被告清洲観光と原告との間に和解を成立させるべく努めてきた。
ウ 請求原因(5)ウの主張は争う。
(6)ア 請求原因(6)(使用料)ア(使用料相当損害)は争う。
イ 請求原因(6)イ(使用料規程)(ア)、(イ)の事実は不知。
ウ 請求原因(6)ウ(本件の使用料相当額)(ア)ないし(エ)の事実は否認し、
主張は争う。
エ 請求原因(6)エ(使用料額の合理性)は争う。
カラオケ装置を備え、カラオケ歌唱室の営業を行っていたとしても、備え付けられたカラオケ装置の全部を使用するとは限らず、これを現実に使用していないとすれば、著作権侵害の事実はない。したがって、被告清洲観光がカラオケ歌唱室の営業のためにカラオケ装置を備え付けていたとしても、当然に管理著作物の著作権を侵害したことにはならない。
著作権法114条2項は、損害の額を定めただけで、損害の事実については推定もみなしもしていないから、原告は、著作権侵害の具体的な事実を主張、
立証すべきであり、カラオケ歌唱室の部屋数及び定員を明らかにしただけでは、著作権侵害の事実が主張立証されたとはいえない。
本件店舗において、各営業日に同時に使用していた部屋数の最高値を月ごとに合計して営業日数で除した1日平均使用部屋数は、約6部屋であり、各営業日に同時に使用していた部屋数の最高値は9部屋又は7部屋であり、これらの数字は、本件店舗において、多くの場合、通信カラオケの設置された4階と5階の部屋が使用されていたことと合致する。1階ないし3階の部屋は、競馬が催される日に、近隣の場外馬券売場を訪れる顧客が専らテレビを見るために使用することが多く、カラオケによる歌唱は行われなかった。このような事情に照らし、本件店舗において、21部屋のカラオケ機器の使用を前提とする原告の損害の計算は不合理である。
平成9年8月11日以降、著作物使用料規程によれば、標準単位料金が最低の500円までの場合、定員10名までの部屋についての月額使用料は、包括的使用許諾契約がある場合は4000円であるのに対し、包括的使用許諾契約がない場合は9000円である。包括的使用許諾契約がない場合の使用料は、実質的には、罰則的請求を使用料の名目で行うためのものであり、使用料としては高額にすぎ、不合理である。著作物使用料規程について文化庁長官の認可があったということは、規定の有効性を担保するものではない。
(7) 請求原因(7)(不当利得)の事実は否認し、主張は争う。
不当利得の返還請求をするためには、利得に当たる演奏の事実及びその金銭評価を具体的に主張立証すべきである。
民法189条の類推適用により、所有権があると信ずる善意の占有者が果実を取得できるのと同様に、演奏を自由にできると信じていた者は、演奏実施という果実を取得できると解すべきである。このように解しても、演奏権を有する者は、警告を行って悪意を立証すれば足りるから、不当な結果とはならない。演奏権がカラオケ営業に及ぶことは一般国民に知られておらず、被告清洲観光は、原告に演奏権がありこれに使用料を支払うべきことを知らないで営業の設備に資金を投じ営業を行ってきたものであるから、善意というべきであり、民法189条の類推適用を受け、使用料につき不当利得の返還義務を負わない。
仮に被告清洲観光に不当利得の返還義務があるとしても、返還すべき金額は、年間の包括的使用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料によるべきである。
被告清洲ビルディングは、本件店舗の営業に関与しておらず、利得を得ていないから、使用料につき不当利得の返還義務を負わない。
(8) 請求原因(8)(弁護士費用)の事実は否認し、主張は争う。
3 抗弁 (1) 消滅時効(被告ら) ア(ア) 原告の被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、平成13年3月16日の本訴提起よりも3年以上前の分については、3年の消滅時効期間が経過した。
(イ) 被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、本訴において、上記消滅時効を援用する。
イ(ア) 商法266条の3第1項に基づく取締役の責任に民法724条を適用することを否定した最高裁判所判決(最高裁判所昭和49年(オ)第768号同年12月17日第3小法廷判決・民集28巻10号2059頁)は、第1に、商法266条の3第1項の規定は取締役の特別の責任を認めたもので、不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法724条は当然に適用されるものではないこと、第2に、不法行為責任は未知の当事者間の予期しない偶然の事故に基づいて発生するので、加害者を保護するために短期消滅時効にかかるが、取締役の第三者に対する責任は、通常、第三者と会社との間の法律関係を基礎として生ずるから、民法724条を適用すべき実質的論拠はないことを理由とする。この最高裁判所判決は、商法266条の3第1項に基づく取締役の責任に民法724条が適用される例外の存在を予定しており、本件は、被告清洲観光の原告に対する不法行為が問題とされており、被告清洲観光と原告との間の法律関係が問題とされる場合ではないから、この例外に当たるといえる。会社の不法行為責任に民法724条が適用されるのに取締役の責任にのみ同条が適用されないのは不合理である。したがって、本件は、上記最高裁判所判決の射程外にあり、仮に被告Aに商法266条の3第1項に基づく責任が生ずるとしても、その消滅時効期間は、民法724条を類推適用して3年と解すべきである。
原告の被告Aに対する商法266条の3第1項に基づく請求のうち、
平成13年3月16日の本訴提起よりも3年以上前の分については、3年の消滅時効期間が経過した。
(イ) 被告Aは、本訴において、上記消滅時効を援用する。
(2) 信義則違反(被告ら) 原告は、被告らに対する催告や請求を、平成5年から平成11年までの6年間行わなかったのであるから、平成11年以前の請求は、信義則に反する。
(3) 過失相殺(被告A) 商法266条の3第1項に基づく取締役の責任についても、過失相殺を主張することができる。
原告は、平成2年から平成5年までの3年間に、被告清洲観光に対し、面談2回、電話8回、文書3回により交渉を試みたということであるが、責任者との面談は行われておらず、この間の交渉は本格的に行われたとはいえない。また、平成5年8月から平成11年6月までの6年間、原告による交渉の試みはされなかった。
したがって、原告の被告Aに対する商法266条の3第1項に基づく請求に対して過失相殺を主張する。
4 抗弁に対する認否 (1)ア(ア) 抗弁(1)(消滅時効)ア(ア)の事実は否認する。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者が損害及び加害者を知ったときから進行するところ、原告が、被告清洲ビルディングについて、本件店舗における著作権侵害による不法行為の主体であることを知ったのは、
平成12年12月11日、被告清洲ビルディングの従業員が原告の大阪支部事務所に交渉に来てからであるから、被告清洲ビルディングに対する請求については、本訴提起によって消滅時効が中断されている。
(イ) 抗弁(1)ア(イ)の事実は否認する。
(ウ) 仮に、原告の被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、平成13年3月16日の本訴提起よりも3年以上前の分が、3年の消滅時効期間の経過により消滅していたとしても、原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対しては、使用料相当額の不当利得返還請求も行っている。原告は、平成2年10月以降、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対して、管理著作物の使用につき使用許諾契約の締結及び使用料の支払が必要である旨通知しており、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは悪意の受益者であり、利益に利息を付して返還しなければならない。
イ(ア) 抗弁(1)イ(ア)の事実は否認し、主張は争う。
被告Aに対する請求は、商法266条の3第1項に基づくものであるから、不法行為の3年の消滅時効を定めた民法724条の類推適用の余地はない。
(イ) 抗弁(1)イ(イ)の事実は否認する。
(2) 抗弁(2)(信義則違反)の事実は否認し、主張は争う。
(3) 抗弁(3)(過失相殺)の事実は否認し、主張は争う。
原告は、平成2年から平成5年までの間、再三にわたり、被告らに対し、
音楽著作物利用許諾契約の締結を申し入れたにもかかわらず、被告らは、これに応じなかった。原告は、交渉に進展が見られないため、申入れをいったん中断したが、本来、他人の著作物を利用しようとする者は、著作権者の許諾を得なければならないから、申入れを中断したことは、過失相殺の事情として考慮すべきではない。
理 由1 請求原因(1)ないし(6)について (1)ア 請求原因(1)(原告の著作権)アの事実は、当事者間に争いがない。
イ 甲第1ないし第3号証、第5号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(1)イの事実が認められる。
(2)ア 請求原因(2)(被告らの経営形態)ア(被告清洲観光株式会社)のうち、
被告清洲観光が、平成2年10月から平成13年4月23日まで、本件店舗においてカラオケカ歌唱室を営業していたことは、当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨によれば、被告清洲観光が、原告と管理著作物について使用許諾契約を締結せず、著作物使用料を支払わなかったことが認められる。甲第5、
第6号証、乙第2ないし第4号証によれば、本件店舗は年中無休で、営業時間は午後2時から午前5時までであったことが認められる。
イ 請求原因(2)イ(被告清洲ビルディング株式会社)について検討する。
(ア) 請求原因(2)イ(ア)aの事実のうち、被告清洲ビルディングが被告清洲観光に本件建物を賃貸していること、bの事実につき、本件店舗の3本の電話のうち2本の電話加入権が被告清洲ビルディングのものであり、被告清洲観光が、無償でその使用を許されていたこと、eの事実のうち、被告清洲観光と被告清洲ビルディングの代表者が同一人であることは、当事者間に争いがない。
上記の当事者間に争いのない事実と、甲第5ないし第8号証、第16号証の1ないし3、第25ないし第28号証の各1、2、乙第5、第6号証の各1ないし3、第7ないし第12号証、証人E及び同Bの各証言、被告A本人兼被告清洲観光及び被告清洲ビルディング代表者本人尋問の結果(後記の信用することができない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
a 本件建物は、昭和60年12月10日、被告清洲ビルディングが約6億9000万円で前所有者から買い受けたものであり(本件建物の登記簿(乙第10号証)の甲区四番。以下、番号は、同登記簿上の番号を示す。)、その買受け資金は、被告清洲ビルディングが信用組合大阪興銀から借り入れた5億7000万円と、被告Aが支出した1億2000万円により賄われた。本件建物には、同日、債務者を被告清洲ビルディング、権利者を信用組合大阪興銀とする極度額5億7000万円の根抵当権が設定され、その旨の根抵当権設定仮登記(乙区参番)がされた。その後、被告清洲ビルディングが信用組合大阪興銀から1億2000万円を借り入れて被告Aに返済し、昭和62年8月25日、上記根抵当権の極度額が6億9000万円に変更され、その旨、前記根抵当権設定仮登記が変更された(乙区参番付記壱号)。被告清洲ビルディングは、昭和63年5月23日ごろ、信用組合大阪興銀から、さらに1億1000万円を借り入れて、本件建物に根抵当権を設定した。前記根抵当権設定仮登記は、同月24日受付により、同月23日放棄を原因として抹消され(乙区四番)、それとともに、同月24日受付により、同月23日設定を原因とし、根抵当権者を信用組合大阪興銀、債務者を被告清洲ビルディングとする極度額8億円の根抵当権設定登記(乙区五番)がされた。被告清洲ビルディングは、信用組合大阪興銀から同月23日ごろ借り入れた1億1000万円を更に被告清洲観光に貸し付けた。
被告清洲ビルディングは、本件建物を取得後、被告清洲観光に対し、
本件建物を賃貸した。被告清洲観光は、本件建物でのビリヤードやカラオケ歌唱室等の営業を目的として、昭和62年9月12日、資本金1000万円で設立された。本件建物は、元は、うどん屋に使用されていたが、被告清洲観光は、数千万円の費用をかけてうどん屋の設備を撤去し、ビリヤードの設備を整えて、ビリヤードの営業を始めた。平成2年ごろ、被告清洲観光は、本件建物について、一部にビリヤードの設備を残し、その他大半をカラオケ歌唱室に改装し、カラオケ装置をリースにより設置し、同年10月13日から、本件店舗においてカラオケ歌唱室の営業を開始した。被告清洲観光は、本件建物について、うどん屋からビリヤードへ、ビリヤードからカラオケ歌唱室への改装に要した費用を、被告清洲ビルディングから借り入れた1億1000万円及び被告Aから借り入れた1億数千万円のうちから賄った。
被告清洲観光は、被告清洲ビルディングが大阪府守口市に所有する建物を賃借し、平成2年12月、「マドンナ守口店」の名でカラオケ歌唱室の営業を開始した。被告清洲観光は、平成10年11月、マドンナ守口店の建物を、第三者であるFに更に賃貸し、その後は、Fがマドンナ守口店の営業を行っている。被告清洲観光は、被告清洲ビルディングに対し、本件建物とマドンナ守口店の建物の賃料をまとめて支払っていた。その金額は、元は月額300万円であったが、本件店舗からの収益が減少したことなどから、平成8年ごろから減額され、150万円となり、平成12年ごろに50万円となった。平成12年ごろ以降は、被告清洲観光は、Fから、マドンナ守口店の賃料として、消費税込みで月額57万7500円の賃料を得て、本件建物及びマドンナ守口店の建物の賃料の合計として、被告清洲ビルディングに対し、月額50万円を支払っていた。
b 本件店舗の3本の電話のうち2本の電話加入権が被告清洲ビルディングのものであり、被告清洲観光が、無償でその使用を許されていた。
c 本件建物に設定された根抵当権(乙区五番)は、平成6年4月22日、信用組合関西興銀(信用組合大阪興銀は、平成5年7月1日、信用組合関西興銀に名称変更された。乙区五番付記壱号)から株式会社幸福銀行に移転され(乙区五番付記弐号)、それとともに、根抵当権設定登記上の債務者として、被告清洲ビルディングのほかに被告清洲観光が加えられた(乙区五番付記四号)。これは、株式会社幸福銀行から、本件建物の占有者である被告清洲観光も根抵当権設定登記上の債務者に加えるように求められ、それに応じたことによるものであった。
d@ 本件店舗には、店長と支配人が置かれ、仕入れ、接客等の日常の営業、アルバイト従業員の管理などを行っており、この店長と支配人は、被告清洲観光の従業員であった。
平成2年10月16日、原告の職員が本件店舗において、店長のGに対して著作権について説明したところ、Gは、原告の職員に対し、大阪駅前第三ビル15階の本社に連絡を取るように求め、その電話番号を原告の職員に伝えた。
Gが原告の職員に渡した名刺には、表に「清洲観光株式会社、道頓堀MADONNA魔頓南、店長、G」と記載され、裏に「グループ、株式会社山善本舗、清洲ビルディング株式会社、江州開発株式会社、山の屋産業有限会社」と記載されていた。
大阪駅前第三ビル15階の事務所は、被告Aの経営する被告清洲ビルディング(被告清洲ビルディングの登記簿上の本店所在地は、当時、同事務所の所在地とされていた。)、株式会社山善本舗、江州開発株式会社、山の屋産業有限会社の事務所であったが、被告清洲観光の事務も執り行い、被告清洲観光の事務所としての役割も果たしており、被告Aのほか、営業担当従業員約2名、経理担当従業員1名、庶務担当従業員1名が勤務していた。
原告の職員は、平成2年10月17日、大阪駅前第三ビル15階の事務所を訪れ、応対した者に対し、著作権について説明したところ、応対した者は、担当者が不在なので帰社次第原告に対し連絡を取る旨回答した。
平成2年10月18日及び同年11月21日ごろ、原告は、大阪駅前第三ビル15階の事務所の所在地を宛先の住所として、被告清洲観光に対し、カラオケ歌唱室の営業を行うについて、原告との著作物使用許諾契約の締結と著作物使用料の支払が必要である旨を説明し、使用許諾契約の締結を促す内容の文書を、
音楽著作物使用許諾契約申込書、カラオケ歌唱用貸室設置状況届出書の書式とともに送付した。なお、同年11月21日の文書は、書留郵便によって送付された。
平成2年12月3日、原告の職員が大阪駅前第三ビル15階の事務所に電話したところ、被告清洲ビルディングの従業員で、同被告の業務である不動産業に関する市場調査を担当していたHが、「文書を受け取り、著作権については理解した。いずれにせよ支払うことになるが、使用料等計算し、社内で調整を図りたい。調整が取れ次第、書類を送付する。」旨回答した。平成3年1月11日、原告の職員が同事務所に電話したところ、電話に出た者が、担当者のHは外出中であるが用件を聞く旨述べたので、原告の職員は、それまでの経緯を説明し、電話に出た者は、担当者に伝え、至急対応させる旨回答した。
A 平成7年11月30日ごろ、大阪駅前第三ビル15階の事務所は、
同ビル2階に移転した。
平成11年7月2日、原告の職員が本件店舗に電話し、本件店舗の支配人であったIに対し、用件の趣旨を説明したところ、Iは、「そういう話は清洲観光の方にしてほしい。」旨述べ、大阪駅前第三ビル2階の事務所の電話番号を述べた。原告の職員が、同事務所に電話し、応対した女性の従業員に、マドンナの担当者の所在を尋ねると、担当者は外出中である旨回答した。原告の職員が用件の趣旨を説明すると、男性の従業員が電話を代わり、原告の職員が再度用件の趣旨と手続を説明すると、電話に出ていた男性の従業員は、「文書を本件店舗宛に送付してほしい。」旨依頼し、原告の職員は、これを了承した。電話に出た男性の従業員は、「守口店は、1年ほど前に経営を手放した。」旨述べた。
平成12年10月16日、原告の職員が本件店舗を訪問し、被告清洲観光代表者である被告Aの所在をアルバイトの従業員に尋ねたところ、同従業員は、「ここに事務所はない。梅田の第三ビルの2階にある。自分らはアルバイトなのでそちらに問い合わせてほしい。」旨述べ、大阪駅前第三ビル2階の電話番号を記載したメモを原告の職員に渡した。同日、原告の職員が、大阪駅前第三ビル2階に赴いたところ、事務所の扉と2階の館内案内図に、「清洲ビルディング株式会社、清洲観光株式会社、山の屋産業有限会社、株式会社山善本舗」と記載されていた。
B 平成12年12月5日、原告は、被告A及び被告清洲観光に対し、
内容証明郵便をもって警告書を送付し、同月6日、被告A及び被告清洲観光に到達した。同月11日、清洲観光のマドンナを名乗り、被告清洲ビルディング第二営業部のCから、原告に対して電話があった。原告の職員が再度、大阪駅前第三ビル2階の事務所に電話したところ、Cは、「急に文書を送ってこられても分からない。
金は払えない。」旨述べた。Cは、カラオケ装置のリース業者であるタイカンには2日前に問い合わせ、原告との著作物使用許諾契約の締結が必要な手続であると聞いたが、納得していない様子であった。同日、Cと、被告清洲ビルディング経理部のBが、原告の大阪支部事務所を訪れた。Cが原告の職員に渡した名刺には、表に「清洲ビルディング株式会社、第二営業部、C」と記載され、裏に「清洲観光株式会社、山の屋産業有限会社」の商号、住所、電話番号が記載されていた。Bが原告の職員に渡した名刺には、表に「清洲ビルディング株式会社、経理部、B」と記載され、裏に「清洲観光株式会社、山の屋産業有限会社、株式会社山善本舗」の商号、住所、電話番号が記載されていた。Cは、本件店舗を任されている担当者であるという自己紹介をし、警告書が送付されたことについて、被告Aから怒られて急いで原告の大阪事務所に来た様子であった。Bは、本件店舗の経理担当者である旨、自己紹介をした。C及びBは、著作権について理解していない様子であり、Bは、「カラオケ装置のリース業者のタイカンから聞いたことがあり、一度事務所に来てもらったことがあるが、何も分からなかったから帰ってもらった。著作物使用料はリース代の中に入っているものだと思っていた。本当に原告から送付された書面を見ていなかった。」旨述べた。C及びBは、「清洲観光はカラオケ歌唱室を経営するためだけの実体のない法人である。原告から請求された2000万円は、10か月分の売上に相当する。清洲観光は、清洲ビルディング又は個人から借入れをして、本件店舗を経営しており、清洲観光だけでは給料も支払えない。月の売上から支払うことができなければ、本件店舗を閉めるしかない。同日の話をいったん持ち帰り、社長(被告A。以下同じ。)に話をする。年内には連絡する。」旨述べた。この他、Cは、原告の職員に対し、本件店舗のカラオケ歌唱室の稼動が振るわず、売上げ不振であること、土曜、日曜、祝祭日に、近隣の場外馬券売場に集まる顧客をビリヤード場に入場させ、テレビを見せて集客を図っていること、稼動が振るわないカラオケ歌唱室については、カラオケ装置を撤去してゲーム機を備え付けようと考えていることなどを述べ、Bは、本件店舗が大阪市内のカラオケボックスとしては老舗で、繁華街の中心に位置していることから、かつては客が引きも切らない状態で大変に繁忙をきわめていたが、昨今は営業が不振である旨を述べた。
平成12年12月22日、CとBが原告の大阪支部事務所を訪れ、
Cから、「社長に、原告と契約しなければいけないものと伝えたが、使用料の遡及分が多額のため、遡及金額については社長にあまり話していない。とりあえず平成13年1月以降契約して、遡及分については追々支払うということにはならないか。」という提案があり、また、Cは、同年11月の時間ごとの売上表、来店客数を示す資料を提示し、「利益が出ていない。これらの資料から、4階、5階の8室があれば十分である。」旨述べた。原告の職員は、通信カラオケの設置された11室のうち3室について配信契約を解除し、通信カラオケが設置されていない10室について客に提供しないようにすれば平成13年1月から8室について契約することができる旨述べた。原告の職員が、遡及分の支払について話合いができないと使用許諾することはできない旨伝えると、Cは、「社長はカラオケ歌唱室を止めるつもりはない。今後もやろうと思っているから話を聞きに来ている。社長に、こんなに経費がかかるのなら止めてしまえと言われるのがすごくこわい。前の担当者にちゃんと話をしてくれていたらこんなことにならなかった。」旨述べ、何とか社長を説得できる金額にするよう再三の減額要請があったが、原告の職員は拒否した。C及びBは、管理著作物使用料について、被告Aや被告清洲ビルディングが債務を負うつもりはない様子で、「清洲観光の売上で賄っていきたい。」旨述べた。Bは、
「将来分の管理著作物使用料を支払えるとして、遡及分について仮に60回分割とすれば、毎月の売上を1万円上げればよい。」と楽観的であったが、Cはかなり難色を示した。C及びBから原告の職員に対して、直近数か月の稼働状況の表を作ってくるので、なんとか見てほしいとの依頼があり、C、B及び原告の職員は、次回が最後になることを確認して交渉を終了した。
C 平成13年1月18日、被告清洲ビルディングの営業部長DとBが原告大阪支部事務所を訪れた。Dが原告の職員に渡した名刺には、表に「清洲ビルディング株式会社、営業部長、D」と記載され、裏に「清洲観光株式会社、山の屋産業有限会社、株式会社山善本舗」の商号、住所、電話番号が記載されていた。Bから平成12年11月分の収支報告書(カラオケ歌唱室の売上が150万円であり、人件費などを差し引くと3万円の利益があるという内容のもの。)の提示があり、Dらは、「隣にカラオケボックスの『ゆー坊』があるため、とても太刀打ちできない。投下資本もないため、改装もできない。支払意思はあり、支払わなくてはならないと思っているが、使用許諾契約に基づく使用料は支払えるとしても、遡及分は金額が大きすぎて支払えない。」旨述べ、減額を要請した。原告の職員が拒否したが、Dは、更に減額を要請し、「社長には、遡及分の使用料について伝えてあるが、お前達でなんとかするようにと言われている。遡及分の金額が解決できないと自分も解雇される。清洲ビルディングの営業もかなり厳しい。今一度遡及金額について考え直してくれないか。」との趣旨を述べた。原告の職員が、毎月の使用料と、遡及分の分割として、包括的使用許諾契約の使用料をもって計算した合計1200万円を月額20万円で5年間支払うことができるか尋ねたところ、Dらは、
「自分たちには決裁権がないので。」という理由で即答を拒否し、「話を社長に伝えて週明けに連絡する。」旨述べ、いったん交渉を終了した。
平成13年1月30日、DとBが原告の大阪支部事務所を訪れ、Dは、「月額20万円を5年間支払うことはきつい。一週間本件店舗に通って現状を見たところ、割引券を配って何とか客を入れようとしても、相合橋より東側には人が流れてこない。割引券を配って客を入れても、割引券で部屋代は取れず、飲み物だけで売上を上げている。ビリヤードは維持費がかかり、土曜日、日曜日に競馬客を相手にビリヤード場を開いているだけである。改装にも金はかかる。これからも、割引券を配ったり、清掃もきちんとしてなんとか客を連れてこなくてはならない。ただ、隣のカラオケ歌唱室の『ゆー坊』がなくなったので、売上がもっと落ちると思っていたが、横ばいである。」旨、現状を説明し、「清洲観光で賄うとしたら、遡及分として支払えるのは毎月10万円を5年で総額600万円が限度である。カラオケ歌唱室は今後も営業を続けたい。カラオケ歌唱室を閉めたら、借入れの問題もあるし、銀行や清洲ビルディングにも影響が出る。何とか600万円でお願いしたい。」旨述べた。これに対し、原告の職員は、事情は了解したが、600万円では、原告の要求する金額と差がありすぎるとした上で、「@毎月20万円を5年間支払うのなら、担保は必要ない。A仮に分割回数を長くすることで毎月の負担を減らし、支払が可能であれば、5年と更に2、3年の期間延長をすることができる。その際は、担保として、5年を超えた分の保証金又は日付けなしの保証手形を求める。ただし、分割回数の延長は上司に確認しないとできない。」旨提案した。これに対し、Bは、「当座預金はあるが、今まで手形、小切手は振り出したことはない。すべて現金決済で対応している。」旨述べた。原告の職員は、「分割回数の件は上司に確認する。当事者間で話合いがつかなかった場合は、これ以上の侵害を差し止める措置を採る。現在は遡及分使用料1200万円で話をしているが、
第三者に委ねるとすると、この話はなかったことになる。」旨伝えた。D及びBは、「決裁権がないため、分割回数を長くすれば支払は可能か、その際担保は用意できるのか、持ち帰って確認する。」旨述べた。原告の職員は、原告の提案で解決不可能であれば、これ以上の交渉は不可能であり、返答は無用である旨述べた。同年2月5日、原告の職員が大阪駅前第三ビル2階の事務所に電話したところ、Bは、原告の提案を受け入れるのは難しいと述べた。同年3月16日、原告は、当庁に、本件店舗におけるカラオケ歌唱の差止め等を求める仮処分(当庁平成13年(ヨ)第20005号)を申し立てるとともに、本訴を提起した。
平成13年3月22日、Bは、原告の大阪支部事務所に電話をかけ、「1200万、60回分割にて清算の上、今後の許諾を得たい。部屋を多数クローズすることにより、20万強の支払をしても、経費の削減分に見合うことの見込みが立った。」旨述べた。原告の職員が、本件の訴状を見ていないのかと尋ねると、Bが知らない旨答えたので、原告の職員は、大阪地裁に演奏差止めの仮処分を申し立て、本訴を提起したことを説明し、本件の訴状を確認するよう要請した。同日、Bは、再度、原告の大阪支部事務所に電話をし、原告の職員に対し、金額を1200万円にするよう要請したが、原告の職員は、これを断り、弁護士を交えて話合いをすることなどを述べた。
D Bは、平成6年11月26日、被告清洲ビルディングに入社し、被告清洲観光、被告清洲ビルディング及び山の屋産業有限会社の経理、記帳を行っている。
被告清洲観光の経理は、本件店舗の出納係が日々の収入支出をレジスターの伝票に記録し、現金はその日のうちに被告清洲観光の銀行口座に振り込み、レジスターの伝票は、2、3日分まとめて本件店舗からBに届けられ、又はBが本件店舗に用事で行った際に受け取り、Bは、レジスターの伝票を整理して帳簿に記載し、被告Aの決済を得て買掛金の支払を行い、月に一度、給料を届けに本件店舗に赴く、という方法で処理されていた。設備の更新等、多額の支出を伴う事務は、本件店舗の店長が被告Aの決済を得て行い、Bが、店長と被告Aの間の連絡を行うこともあった。
e 被告清洲観光は、被告清洲ビルディングから、前記aの1億1000万円を含め、合計約2億円を借り入れている。被告Aは、被告清洲観光に1億数千万円を貸し付けていたが、その後、被告Aが、同額を山の屋産業有限会社、株式会社山善本舗に貸し付け、山の屋産業有限会社、株式会社山善本舗が更に同額を被告清洲観光に貸し付け、被告清洲観光が同額を被告Aに返済したとする処理がされた。被告清洲観光は、銀行からの借入れはなく、借入れは、被告A及びその経営する会社からのものだけである。
本件店舗は、開店当初は売上が多かったが、平成4年ごろから売上が減少し、平成6年以降は赤字であり、平成12年、13年ごろは、年間400万円程度の赤字であった。被告清洲ビルディングは、建物の賃貸を業としており、本件建物についても、1棟全体の賃借人を探していたが、本件店舗が営業を止めてしまうと、本件建物を賃貸する際の賃料が下落することから、その下落を防ぐために、
赤字にもかかわらず、本件店舗におけるカラオケ歌唱室の営業が続けられていた。
f 被告清洲観光、被告清洲ビルディングは、いずれも被告Aが代表取締役であり、被告Aの家族であるJが双方の取締役を務めており、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの株式は、被告Aと被告Aの親戚が保有している。被告清洲ビルディングは、不動産の売買、賃貸及び管理等を目的として昭和58年8月2日設立された株式会社(現在の資本金3000万円)であり、テナントビル20棟、
ビルの区分所有権30区画を有し、テナント数は約300で、テナント管理業務を行っている。なお、同じく被告Aが代表取締役を務める山の屋産業有限会社は、大阪府池田市に建物を所有し、これをスーパーマーケットを経営する者に賃貸している会社である。
以上の事実が認められ、被告A本人兼被告清洲観光及び被告清洲ビルディング代表者本人尋問の結果のうち、この認定に反する部分は信用することができず、他に、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(イ) 上記認定事実によれば、被告清洲ビルディングは、被告清洲観光の資金の調達、営業場所や営業設備の確保、営業上の重要事項の決定、業務遂行などに深くかかわっていた。また、被告清洲ビルディングと被告清洲観光は、代表取締役及び役員の一部が共通し、被告清洲ビルディングの従業員が、被告清洲観光の経理、記帳に従事し、本件店舗の営業実態を踏まえて原告との交渉に当たるなど、人的な面でも密接に関連していた。さらに、被告清洲ビルディングと被告清洲観光の入金支出等の経理は別に処理されていたとはいえ、被告清洲観光の営業による利益と損失は、被告清洲ビルディングの収支と結びつき、その収支に大きな影響を与えるものであった。そうすると、被告清洲ビルディングは、被告清洲観光が本件店舗において行っていたカラオケ歌唱室の営業について、支配と管理を及ぼし、その利益と損失も、被告清洲ビルディングの収支に密接なつながりをもっていたということができる。
したがって、被告清洲ビルディングは、被告清洲観光とともに、本件店舗の経営の主体ということができ、本件店舗の営業による著作権侵害について、両被告の行為には関連共同性が認められる。
ウ 請求原因(2)ウ(被告A)の事実は、当事者間に争いがない。
被告Aは、被告清洲観光及び被告清洲ビルディグの代表取締役であるから、その職務執行につき悪意又は重過失があった場合は、商法266条の3第1項に基づき、第三者に対して損害賠償責任を負う。
(3)ア 請求原因(3)(カラオケの使用状況)アの事実のうち、本件店舗に、カラオケ歌唱室が21室設置されていたこと、そのうち定員10名までのカラオケ歌唱室が18室であったことは、当事者間に争いがない。
上記当事者間に争いのない事実と、甲第5、第6号証、証人Eの証言及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗には、レーザーディスクカラオケ装置を備えたカラオケの歌唱に使用されるカラオケ歌唱室が21室設置されており、その内訳は、
定員が10名までのカラオケ歌唱室が18室、定員が10名を超え30名までのカラオケ歌唱室が2室、定員が30名を超え50名までのカラオケ歌唱室が1室であり、このうち、本件店舗の4階及び5階の8室を含む11室には、通信カラオケ装置も備えられていたことが認められる。
イ 請求原因(3)イの事実は、当事者間に争いがない。
甲第5、第6号証、証人Eの証言及び弁論の全趣旨によれば、管理著作物は、カラオケによって演奏、歌唱されるほとんどすべての楽曲を含むものと認められ、本件店舗のカラオケ歌唱室において上映、演奏等された楽曲のほとんどは、管理著作物であったものと推認される。
また、後記(6)エのとおり、著作物使用料規程に基づく使用料は、本件店舗のカラオケ歌唱室が、常時、全室、客により使用されていたことを前提とするものではない。
(4) 請求原因(4)(支分権)は、当事者間に争いがない。
これまで述べてきたところによれば、本件店舗において、カラオケ装置を使用して客に管理著作物である楽曲を歌唱させることは、原告が管理著作物について有する演奏権の侵害に当たり、管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生することは、通信カラオケ装置による場合は演奏権の侵害に当たり、レーザーディスクカラオケ装置による場合は上映権の侵害に当たり、管理著作物の歌詞の文字をモニターテレビに表示することは、上映権の侵害に当たるものと認められる。
(5) 請求原因(5)(故意又は重過失)について検討する。
ア(ア) 著作物を公に演奏する権利、著作物を公に上映する権利を著作者が専有すること及び著作権の保護期間は、著作権法の定めるところであり、昭和63年3月15日、最高裁判所が「スナック等の経営者が、カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲の録音されたカラオケテープとを備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による伴奏により他の客の面前で歌唱させるなどし、
もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図しているときは、同経営者は、当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り、客による歌唱につき、その歌唱の主体として演奏権侵害による不法行為責任を免れない」旨の判決を言い渡し(最高裁判所昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第3小法廷判決・民集42巻3号199頁)、同判決が当時マスコミ等により広く報道されたことは当裁判所に顕著である。カラオケスナックの営業においては、楽曲の歌唱と鑑賞のほか、飲食物の提供、ホステスによる接客も重きをもつのに対し、カラオケ歌唱室の営業においては、飲食物の提供等はあるものの、それは付加的なものにすぎず、楽曲の歌唱とその鑑賞の場を提供することが営業の主たる内容をなすから、カラオケ歌唱室において、原告の許諾を得ずにカラオケ装置により管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生し、その歌詞の文字をモニターテレビに表示し、
客に管理著作物である楽曲を歌唱させることが原告の著作権の侵害に当たることは、一般に認識されており、又は少なくとも容易に認識し得たものというべきである。また、弁論の全趣旨によれば、カラオケ伴奏による歌唱により演奏等される楽曲の多くは、近年一般の人気を博している楽曲であり、これらが著作権の保護期間内のものであることは、一般に周知のことであると推認される。
(イ) 前記(2)イ(ア)d@のとおり、原告は、平成2年10月16日から平成3年1月11日までの間に、職員が大阪駅前第三ビル15階の事務所を訪問し若しくは同事務所に電話をかけ、又は同事務所を宛先の住所として被告清洲観光に対して文書を送付することにより、被告清洲観光に対し、著作権や著作物使用許諾契約の締結の必要性について通知した。
そして、前記(2)イ(ア)d@のとおり、大阪駅前第三ビル15階の事務所は、被告清洲観光の事務所としての役割を果たすのと同時に、被告清洲ビルディングの事務所でもあり、被告清洲ビルディングの従業員が被告清洲観光の業務にも携わっていたものであり、前記(2)ウのとおり、被告Aが被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの代表取締役を兼ねていることから、上記の通知により、被告清洲ビルディングも、著作権や著作物使用許諾契約の締結の必要性について、被告清洲観光と同じように、知り得たものと認められる。
(ウ) そうすると、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、遅くとも、
本件における使用料相当額の支払請求の始期である平成3年3月1日より前までに、本件店舗における管理著作物の使用が原告の著作権の侵害に当たることを知っていたと認められ、乙第11号証並びに被告A本人兼被告清洲観光及び被告清洲ビルディング代表者本人尋問の結果のうち、この認定に反する部分は、信用することができない。
したがって、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、平成3年3月1日以降の本件店舗における著作権侵害につき、故意があったものと認められる。
イ 次に、被告Aについてみると、同被告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの代表取締役として、その職務を行うに当たり、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングが他人の権利を侵害することのないように注意を尽くす義務があった。
前記ア(ア)のとおり、カラオケ歌唱室において、原告の許諾を得ずにカラオケ装置により管理著作物である楽曲を伴奏音楽として再生し、その歌詞の文字をモニターテレビに表示し、客に管理著作物である楽曲を歌唱させることが原告の著作権の侵害に当たることは、一般に認識されており、又は少なくとも容易に認識し得たものというべきであるし、また、カラオケ伴奏による歌唱により演奏等される楽曲が著作権の保護期間内のものであることは、一般に周知のことであると推認される。
原告が、平成2年10月16日から平成3年1月11日までの間に、被告清洲観光に対して行った通知等の経緯は、前記(2)イ(ア)d@のとおりである。大阪駅前第三ビル15階の事務所には、被告Aのほか、約4名の従業員が勤務していたにとどまるから、原告の職員が同事務所を訪問し若しくは同事務所に電話をかけて通知したことは、被告Aに伝えられ、原告が同事務所を宛先の住所として被告清洲観光に対して送付した文書の内容は、被告Aが了知したものと推認される。
そうすると、被告Aは、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングによる平成3年3月1日以降の本件店舗における著作権侵害に関し、取締役としての任務懈怠について悪意であったものと認められ、乙第11号証並びに被告A本人兼被告清洲観光及び被告清洲ビルディング代表者本人尋問の結果のうち、この認定に反する部分は、信用することができない。
ウ 以上によれば、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、原告に対し、
本件店舗における著作権侵害行為につき共同不法行為者として損害賠償責任を負うものというべきである。また、被告Aは、原告に対し、商法266条の3第1項に基づき、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの著作権侵害行為によって生じた損害につき、損害賠償責任を負うものというべきである。
(6)ア 請求原因(6)(使用料)ア(使用料相当損害)について検討する。
これまで述べたところによれば、原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対し、本件店舗において管理著作物の著作権を侵害したことについて、
使用料相当額の損害賠償を請求することができるというべきである(著作権法114条2項)。
イ 請求原因(6)イ(使用料規程)について検討する。
甲第3ないし第5号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づき、「著作物使用料規程」を定め、文化庁長官の認可を受け、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用料を、次のとおり定めていたことが認められる。
(ア) 平成9年8月10日までは、昭和59年6月1日認可の著作物使用料規程第2章、第2節演奏等、3演奏会以外の催物における演奏、(7)その他の演奏の規程に基づいて平成元年4月に定められた「カラオケ歌唱室の使用料実施基準」(後に「カラオケ歌唱室の使用料率表」と名称が変更された。)により、次のとおりである。ただし、平成9年3月31日までは3パーセント、同年4月1日以降は5パーセントの消費税相当額が加算される。
@ オーディオカラオケによる使用のときは、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額3000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、
一部屋月額6000円。
A ビデオカラオケによる使用のときは、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額4000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、一部屋月額8000円、一部屋の定員が30名を超え50名までの場合、一部屋月額1万2000円。
B レーザーディスクカラオケを伴う通信カラオケについては、ビデオカラオケとして取り扱い、ビデオカラオケとオーディオカラオケ(CD製紙画付カラオケを含む。)を併用している場合は、ビデオカラオケの使用料になる。
(イ) 平成9年8月11日、著作物使用料規程の一部変更が、文化庁長官の認可を受け、同日施行された。同日以降は、変更後の著作物使用料規程第2章、第2節演奏等、4カラオケ施設における演奏等、(1)により、標準単位料金(カラオケ施設を利用する場合に1人1時間当たりにつき通常支払うことを必要とされる料金相当額)が最低の500円までの場合において、一部屋の定員が10名までの場合、一部屋月額9000円、一部屋の定員が10名を超え30名までの場合、一部屋月額1万8000円、一部屋の定員が30名を超え50名までの場合、一部屋月額2万7000円であり、これに5パーセントの消費税相当額が加算される。なお、包括的使用許諾契約を締結する場合の使用料は別途定められていた。
ウ 請求原因(6)ウ(本件の使用料相当額)について検討する。
上記イの使用料の定めと、前記(3)アの認定事実によれば、管理著作物についての本件店舗における使用料相当額は、次のとおりであると認められる。
(ア) 平成3年3月1日から平成9年3月31日まで 平成3年3月1日から平成9年3月31日までの消費税3パーセントを含む月額使用料は10万3000円であり((4000円×18室+8000円×2室+1万2000円×1室)×1.03=10万3000円)、使用料総額は751万9000円である(10万3000円×73か月=751万9000円)。
(イ) 平成9年4月1日から同年8月10日まで 平成9年4月1日から同年8月10日までの消費税5パーセントを含む月額使用料は10万5000円であり((4000円×18室+8000円×2室+1万2000円×1室)×1.05=10万5000円)、使用料総額は45万3870円である(10万5000円×4か月+10万5000円×10日/31日=42万円+3万3870円=45万3870円。ただし平成9年8月については日割り計算)。
(ウ) 平成9年8月11日から平成13年2月28日まで 平成9年8月11日から平成13年2月28日までの消費税5パーセントを含む月額使用料は23万6250円であり((9000円×18室+1万8000円×2室+2万7000円×1室)×1.05=23万6250円)、使用料総額は1008万2540円である(23万6250円×42か月+23万6250円×21日/31日=992万2500円+16万0040円=1008万2540円。ただし平成9年8月については日割り計算。なお、平成9年8月の使用料相当額は、19万3910円(3万3870円+16万0040円=19万3910円)である。)。
(エ) 合計 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの使用料相当額の合計は、1805万5410円である(751万9000円+45万3870円+1008万2540円=1805万5410円)。
エ 請求原因(6)エ(使用料額の合理性)について検討する。
原告の本訴請求に係る使用料の算定根拠は、適法に文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程に基づくものである。カラオケ歌唱室において、部屋の定員や部屋数は、管理著作物の利用回数と密接な関連があり、部屋の定員や部屋数に応じて管理著作物の使用料を定めることは、合理性があるものというべきである。カラオケ歌唱室について著作物使用料規程によって算出される使用料は、全室が常時客により使用されていることを前提とするものではないから、営業時間中に客の入っていない空き部屋があったとしても、直ちに、その使用料額の合理性が失われるものではない。
乙第2ないし第4号証、第12号証及び証人Bの証言によれば、乙第2ないし第4号証は、Bが、レジスターにより作成された伝票をもとに、本件店舗において使用されていた部屋数等を明らかにしたものであり、本件店舗において、営業時間中に空き部屋のあったことが認められる。しかし、乙第2号証は平成10年9月分の一部と同年10月分、乙第3号証は平成11年1月分の一部、乙第4号証は平成13年1月ないし3月分であり、本件で問題とされている期間全体のうち限られた期間についてのものであるし、これらの証拠によれば、営業時間中に空き部屋があったことは認められるが、他方、使用されていた部屋もあり、特に週末等には、相当多くの部屋が使用されていたことが認められるから、これらの証拠によっても、本件店舗について著作物使用料規程に基づき算出された使用料額が過大なものであるとは認められない。
平成9年8月11日以降は、著作物使用料規程において、包括的使用許諾契約を締結しない場合のカラオケ歌唱室の使用料が、包括的使用許諾契約を締結した場合に比べて高額に規定された。しかし、弁論の全趣旨によれば、包括的使用許諾契約を締結する場合は、著作物利用者は、原告に対し、報告義務や遅延損害金支払義務など約定に基づく義務を負担し、そのようなことを勘案して使用料も規定されているものと認められるから、そのような包括的使用許諾契約を締結していない場合に、包括的使用許諾契約による月額使用料についての定めを適用すべき根拠はない。
したがって、著作物使用料規程に基づいて本件店舗につき算出された著作物使用料の額は、合理的なものというべきである。
2 抗弁(1)(消滅時効)について (1)ア 原告の被告清洲観光に対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、平成13年3月16日の本訴提起よりも3年以上前(平成10年3月15日以前)の分について、3年の消滅時効期間が経過したことは、当裁判所に顕著である。
前記1(2)イ(ア)d@ないしBの認定事実によれば、平成12年12月11日、被告清洲ビルディングの従業員であったC及びBが原告の大阪支部事務所に交渉に訪れたものであり、原告は、その時点で、被告清洲ビルディングについて、本件店舗における著作権侵害による不法行為の主体であることを初めて知ったものと認められる。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知ったときから進行するから、被告清洲ビルディングによる著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、上記平成12年12月11日から進行を開始したものであり、本訴提起により消滅時効は中断されたものと認められる。
イ 被告清洲観光が、本訴において、上記消滅時効を援用したことは、訴訟上明らかである。
ウ したがって、原告の被告清洲観光に対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、平成13年3月16日の本訴提起よりも3年以上前(平成10年3月15日以前)の分については、時効により消滅したものと認められる。
原告の被告清洲ビルディングに対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権については、時効による消滅は認められない。
(2)ア 商法266条の3第1項所定の取締役の責任は、法が取締役の責任を加重するために特に認めたものであって、不法行為責任の性質を有するものではないから、取締役の責任について、不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法724条は類推適用されないというべきである。被告らの指摘する最高裁判所判決は、
本件のような場合に民法724条を類推適用すべき旨を判示したものとはいえない。したがって、被告Aの商法266条の3第1項に基づく責任の消滅時効期間について、民法724条を類推適用して3年と解すべきであるとする被告らの主張は、採用することができない。
イ したがって、本件において、原告の被告Aに対する商法266条の3第1項に基づく請求権について、時効による消滅は認められない。
3 請求原因(7)(不当利得)について (1) 原告は、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングに対する不法行為による損害賠償請求と選択的に、不当利得返還請求権に基づく請求もしているところ、前記2(1)アないしウのとおり、被告清洲観光に対する著作権侵害の不法行為による損害賠償請求のうち、平成10年3月15日以前の分は、消滅時効が成立したことにより認容されないから、その範囲で被告清洲観光に対する不当利得返還請求の成否について判断する。
これまで述べたところによれば、被告清洲観光は、原告の許諾を得ずかつ使用料を支払うことなく管理著作物を使用し、これにより前記1(6)ウ(ア)ないし(ウ)((ウ)については平成10年3月15日まで)記載の使用料相当額の利得を得たものであり、原告は、これにより同額の損失を被ったこと、被告清洲観光は、その利得が法律上の原因を欠くものであることを知っており、悪意の受益者であったことが認められる。
被告らは、被告清洲観光が善意であることを前提として、善意占有者の果実の取得に関する民法189条の類推適用を主張するが、上記のとおり、被告清洲観光は悪意の受益者であるし、管理著作物の無断利用に、占有に関する民法189条を類推適用することはできないから、被告らの主張は、採用することができない。
また、返還すべき金額について、前記1(6)エと同様の理由により、包括的使用許諾契約による月額使用料についての定めを適用すべき根拠はない。
(2) なお、本訴において、使用料相当額について、不法行為による損害賠償請求と不当利得返還請求が選択的に主張されているところ、被告清洲観光に対する平成10年3月16日から平成13年2月28日までの使用料相当額及びこれに対する支払済みまで年5分の割合による金員の請求並びに被告清洲ビルディングに対する使用料相当額及びこれに対する支払済みまで年5分の割合による金員の請求は、不法行為による損害賠償として認容すべきものであるが、これらの請求は、不当利得返還請求としても成り立ち得るものである。
4 請求原因(8)(弁護士費用)について 本件の事案の性質、請求額、認容額、審理の経過その他本件に顕われた諸般の事情に鑑み、本件において著作権侵害と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額としては、180万円をもって相当と認める。
5 抗弁(2)(信義則違反)について 甲第6号証及び証人Eの証言によれば、原告は、平成5年8月25日、被告清洲観光に対し文書を発送した後、平成11年6月14日に原告の職員が本件店舗に電話をかけるまで、被告清洲観光又は被告清本に対する催告や請求等を行わなかったことが認められる。しかし他方、甲第6号証及び証人Eの証言によれば、平成2年10月16日から平成5年8月25日まで、及び平成11年6月14日以降において、原告は、職員が本件店舗及び大阪駅前第三ビル15階(平成7年11月30日以降は2階)の事務所を訪問し若しくは同事務所に電話をかけ、又は本件店舗、
同事務所若しくは被告清本に文書を送付して、使用許諾契約締結の必要性を通知し又は使用料の支払を催告するなど何度も行っていたこと、しかるに、被告らは、平成12年12月11日、被告清洲ビルディングの従業員であるC及びBが原告の大阪支部事務所を訪れるまで、使用許諾契約の締結や使用料の支払に真摯に応じようとしなかったことが認められる。このように、被告らが、原告からの度重なる通知や催告等に応じなかったことに鑑みれば、前記のとおり、原告が平成5年8月25日から平成11年6月14日まで、被告らに対する催告や請求等をしていなかった事実があったとしても、原告の平成11年以前の請求は、信義則に反するとはいえない。
6 抗弁(3)(過失相殺)について 甲第6号証及び証人Eの証言によれば、原告は、平成2年10月16日から平成5年8月25日まで、職員が本件店舗及び大阪駅前第三ビル15階の事務所を訪問し若しくは同事務所に電話をかけ、又は本件店舗、同事務所に文書を送付して、
使用許諾契約締結の必要性を通知し又は使用料の支払を催告するなど何度も行ったことが認められ、前記1(5)ア(ア)ないし(ウ)、イのとおり、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングは、平成3年3月1日以降の本件店舗における著作権侵害につき故意があり、被告Aは、同著作権侵害に関し、取締役としての任務懈怠につき悪意であったものであるから、平成5年8月25日までの原告の被告らに対する通知や催告等が不十分であったということはできない。
また、前記5のとおり、被告らが、原告からの度重なる通知や催告等に応じなかったことに鑑みれば、原告が平成5年8月25日から平成11年6月14日まで、被告清洲観光又は被告Aに対する催告や請求等をしていなかった事実があったとしても、これをもって過失相殺の事情として考慮することはできない。
したがって、被告Aの過失相殺の主張は、理由がない。
7(1) これまで述べたところによれば、原告の請求は、次のとおり認められる。
ア 被告清洲観光に対する請求 (ア) 不法行為 a 平成10年3月16日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の損害についての不法行為に基づく損害賠償請求 b 平成10年3月16日から平成13年2月28日までの各月の著作権侵害による使用料相当額の損害に対する不法行為の後である各月の翌月1日から平成13年3月22日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金(別紙遅延損害金目録記載の金員の一部) c 平成10年3月16日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の合計額に対する不法行為の後である平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 (イ) 不当利得 a 平成3年3月1日から平成10年3月15日までの使用料相当額合計の不当利得返還請求 b 平成3年3月1日から平成10年3月15日までの各月の使用料相当額の不当利得に対する各支払期日の翌日(翌月1日)から平成13年3月22日まで民法所定の年5分の割合による利息(別紙遅延損害金目録記載の金員の一部) c 平成3年3月1日から平成10年3月15日までの使用料相当額合計に対する平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息 イ 被告清洲ビルディングに対する請求(不法行為) (ア) 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の損害についての不法行為に基づく損害賠償請求 (イ) 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの各月の著作権侵害による使用料相当額の損害に対する不法行為の後である各月の翌月1日から平成13年3月22日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金(別紙遅延損害金目録記載の金員) (ウ) 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の損害の合計額に対する不法行為の後である平成13年3月23日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 ウ 被告Aに対する請求(商法266条の3第1項) (ア) 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の損害についての商法266条の3第1項に基づく損害賠償請求 (イ) 平成3年3月1日から平成13年2月28日までの著作権侵害による使用料相当額合計及び弁護士費用相当額180万円の損害の合計額に対する請求の後である平成13年3月23日(本件訴状到達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 (2) したがって、原告の請求は、次の限度で理由がある。
ア 被告ら各自に対する1985万5410円及びこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求(なお、被告らの各支払義務は、被告らのうちいずれかが弁済すれば原告は満足を得て他の被告に対する請求権も消滅する関係にある。)。
イ 被告清洲観光及び被告清洲ビルディング各自に対する別紙遅延損害金目録記載の金員の支払請求(なお、被告清洲観光及び被告清洲ビルディングの各支払義務は、両被告のうちいずれかが弁済すれば原告は満足を得て他の被告に対する請求権も消滅する関係にある。)。
8 よって、本訴請求は、上記7(2)記載の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項ただし書、64条本文、61条を、仮執行の宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸