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事件 平成 14年 (ワ) 3394号 著作権侵害差止等請求事件
原告 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 北本修二
同 七堂眞紀
被告A
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、金101万2979円及び別紙遅延損害金目録A記載の金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その5を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金120万9600円及び別紙遅延損害金目録@記載の金員を支払え。
事案の概要
本件は、音楽著作権の管理等を目的とする原告が、被告に対し、被告が経営していたスナックにおいて、原告の許諾を得ることなく、カラオケ関連機器を使って原告の管理する音楽著作物を再生して客に歌唱させる営業を行い、同著作権を侵害したとして、損害賠償を請求している事案である。
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき、
文化庁長官の登録を受けた音楽著作権管理事業者(ただし、平成13年9月30日までは『著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律』《昭和14年法律第67号》に基づき、著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けた国内唯一の音楽著作権仲介団体)であり、内国著作物については著作権信託契約により国内の多くの作詞者、作曲者、音楽出版者等の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)につき信託を受け、外国の著作物については、本邦が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約によるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめレコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である(甲1〜3、弁論の全趣旨)。
そして、原告がそれぞれの著作権者から信託を受けて著作権を管理する音楽著作物(以下、「管理著作物」という。)は、カラオケ歌唱の使用実績を有する主要な曲目であり、今日、カラオケ装置を設置している社交場において、日常的に反復使用されている楽曲である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、平成12年11月から平成13年12月末日まで守口市において「B」を営業していた。また、被告は、平成2年12月から平成14年5月末ころまで、守口市において「C」を営業していた(争いがない。以下、「B」と「C」を合わせて「本件各店舗」という。)。
なお、被告は、原告との間で、管理著作物に係る使用許諾契約を締結していない(争いがない。)。
(2) 原告は、平成13年12月27日、被告に対するカラオケ演奏禁止等仮処分決定(当庁平成13年(ヨ)第20091号)を得て、同仮処分執行を申し立て、平成14年1月21日、大阪地方裁判所執行官により「C」において、執行目的物(マイク2本、リモコン1本、モニターテレビ2台)を執行官保管とし、同仮処分決定の要旨を記載した公示書及び標目票を貼付して公示する仮処分執行がなされた(甲10。以下「本件仮処分執行」という。)。
(3) 原告は、著作権等管理事業法第13条1項に基づき、「使用料規程」(甲3)を定め、文化庁長官に届け出ている。
包括使用許諾契約を結ばない場合、原告の管理著作物1曲1回使用時間5分までの使用料は、店舗の座席数(面積)と標準単位料金(社交場において客1人当たりにつき通常支払うことを必要とされる税引後の料金相当額)とを要素として算定される。
本件各店舗の座席数は、それぞれ40席までに該当し、標準単位料金は少なくとも5000円までに該当するところ(甲6、9)、これを使用料規程別表16の1に当てはめると、1曲1回使用時間5分までの使用料は、90円である(甲3、42頁)。そして、消費税が別途加算される(甲3、19頁)。
2 争点 (1) 被告のカラオケ使用期間について (2) 損害の発生及び額について
争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(被告のカラオケ使用期間)について 〔原告の主張〕 ア 被告は、「B」において、その営業期間(平成12年11月から平成13年12月末日)を通じて、一貫してカラオケを使用していた。
イ 被告は、「C」において、本件仮処分執行の後、間もなく封印を破棄し、その後も引き続きカラオケを使用している。
〔被告の主張〕 ア 被告は、「B」において、その営業期間(平成12年11月から平成13年12月末日)のうち、2、3か月はカラオケを使用していたが、それ以外の期間は使用していない。
イ 被告は、「C」において、本件仮処分執行が行われるまでカラオケを使用していたが、その後は演奏ができなくなったのでカラオケを使用していない。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 (1) 本件各店舗におけるカラオケ使用による管理著作物の使用曲数は、10曲を下らない。
また、本件各店舗の営業日数は平均して1か月20日を下らない。
これに基づき、本件各店舗における管理著作物の1か月当たりの使用料を算定すると、それぞれ1万8900円(90円×10曲×20日×1.05(消費税相当分加算))となる。
(2)ア 「C」における平成10年2月1日(原告が客席面積5坪までの店舗からの使用料徴収業務を開始した日)から平成14年3月31日までの使用料相当損害金は、94万5000円(1万8900円×50か月)となる。
なお、本件仮処分執行の後の平成14年3月1日に調査員が実態調査をした際には、調査員以外のカラオケ歌唱はなく、また、同年3月19日の実態調査においてはカラオケ歌唱はなかったが、本件仮処分執行後も封印が破棄されカラオケ装置は使用可能であったのであるから、この実態調査の結果を含めて考慮しても、本訴で請求する平成10年2月1日から平成14年3月31日までの間をみれば、その間、平均して、1か月200曲以上のカラオケ歌唱がなされていたことは明らかである。
イ 「B」における平成12年11月1日から平成13年12月31日までの使用料相当損害金は、26万4600円(1万8900円×14か月)となる。
ウ そして、本件各店舗における使用料相当損害金の合計額は、120万9600円(94万5000円+26万4600円)となる。
(3) 被告は、本件各店舗において、管理著作物をカラオケ伴奏により歌唱させる行為が原告の著作権の侵害になることを知りながら、又は、過失によりこれを知らないで侵害したのであって、これにより原告が被った上記使用料相当損害金合計120万9600円及び別紙遅延損害金目録@記載の遅延損害金を賠償すべき義務がある。
〔被告の主張〕 原告が主張する損害額については争う。
「B」及び「C」においては、1店舗当たり月に200曲もカラオケ演奏をしていない。
争点に対する判断
1 争点(1)(被告のカラオケ使用期間)について (1) 「B」におけるカラオケ使用について 原告は、「B」の営業期間(平成12年11月から平成13年12月末日)を通じて一貫してカラオケが使用されていたと主張し、被告は、その営業期間のうち、2、3か月はカラオケを使用していたが、それ以外の期間は使用していないと主張するのて、この点について検討する。
ア 甲4、5によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、平成12年11月以前は、「B」の所在地において「D」という居酒屋を経営していたところ、原告職員は、平成7年4月14日及び平成11年2月4日に、「D」にカラオケ装置があることを確認した。
また、原告職員は、平成11年6月7日に、「D」に出向いて、被告に著作権利用許諾手続の説明を始めたところ、被告から営業中であるとして説明を聴くことを拒否されたことから、被告に申込書を手渡した。
その後、原告職員は、平成11年12月20日、「D」に電話した際、被告から、カラオケ装置を撤去したとの返答を得て、著作権利用許諾手続の交渉対象から除外した。
(イ) 原告職員は、平成13年8月29日、同年10月4日、同年11月14日及び同年12月17日に、「B」においてカラオケが使用されていることを確認した。なお、平成13年10月4日の確認の際に、同店の店長は「カラオケについては、試験的に設置した後、最近正式契約した」と述べている。
また、株式会社オリファ(以下「オリファ」という。)の調査員は、
平成13年9月1日、「B」においてカラオケが使用されていることを確認した。
イ そうすると、「B」においては、平成13年8月29日から同年12月末日までの間、カラオケが使用されていたことは認められるものの、同年8月29日以前に、カラオケが使用されていたことを認めるに足りる証拠はない。
なお、オリファの調査員が、平成13年9月1日に「B」に出向いて調査した際、同店のマスターから、「Bを平成3年ころから営業している」との発言を聞いており(甲6)、原告職員作成の報告書(甲14)中には、「B」は平成12年11月に「D」から店名を変更して開店したと判断されることや、上記平成13年9月1日の調査時における同店のマスターの発言を理由として、「B」では平成12年11月に開店した当時からカラオケが使用されていたことは確実と思われるとの記載がある。
しかしながら、上記ア記載のとおり、原告職員は平成11年12月20日に「D」に電話をし、被告からカラオケ装置を撤去したとの返答を得て著作権利用許諾手続の交渉対象から除外しているのであって、原告職員は、電話による確認ではあるものの、同時点においてカラオケ装置が撤去されたと判断したものと推認できる。そして「D」において同時点以降においてカラオケが使用されていたことを認めるに足りる証拠はないから、仮に「B」が「D」から店名を変更して開店したとしても、そのことから直ちに平成12年11月の開店当初から「B」においてカラオケが使用されていたことに結びつくものではない。
また、平成13年9月1日に「B」のマスターによる「Bを平成3年ころから営業している」との発言内容も、同店において平成3年ころからカラオケを継続して使用していたことを示すものとはいえない。
(2) 「C」におけるカラオケ使用について 原告は、「C」において本件仮処分執行の後も引き続きカラオケが使用されていたと主張し、被告は、本件仮処分執行が行われるまでカラオケを使用していたがその後は演奏ができなくなったのでカラオケを使用していないと主張するので、この点について判断する。
ア 甲11〜14によれば、次の事実が認められる。
(ア) 平成14年1月21日、「C」において本件仮処分執行が行われたが、間もなく、封印は破棄され、大阪地方裁判所執行官は、同年2月8日に行われた点検執行の際に、再度、モニターテレビ、マイク、リモコン等に仮処分決定の要旨を記載した公示書及び標目票を貼付して公示した。
(イ) オリファの調査員は、平成14年3月1日に「C」の実態調査を実施したが、上記封印が破棄されていたこと及びカラオケ機器が使用可能であったことを確認したが、午後9時25分から午後11時15分までの間に調査員以外の歌唱はなかった。
(ウ) また、オリファの調査員が、同年3月19日に「C」の実態調査を実施したところ、「『ロックカウンター解除』を実行してください」とのメッセージがモニターに表示され、カラオケ機が全く作動しない状況にあった。
この「『ロックカウンター解除』を実行してください」と表示される場合は、リクエストから演奏までの時間が通常より長くなるが、カラオケが使えないわけではない。なお、同メッセージが表示されるのは、店がリース料を滞納しているためリース事業者が意図的に同メッセージが表示されるようにする場合と、カラオケ機器に物理的な問題が発生している場合とがあるが、同表示がされる原因となった事象を解消しなくても、30日間はカラオケを使用することが可能である。
イ 以上の事実によれば、被告は、「C」において、本件仮処分執行及び点検執行の後も、執行官による封印を破棄してカラオケを使用可能な状況にしていたのであるから、カラオケを使用していたものと推認できる。なお、「『ロックカウンター解除』を実行してください」との表示がされるようになった以降においては、若干不便は伴うもののカラオケが使用可能であったことには変わりはないから、カラオケを使用していたとの推認が否定されるものではない(もっとも、同事情は後記のとおりカラオケの使用頻度の認定において参酌されるべきである。)。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について (1) 甲6、9によれば、次の事実が認められる。
ア オリファの調査員は、平成13年9月1日、「B」の実態調査を実施したところ、午後9時から午後11時15分までの間で、歌唱曲数は14曲(うち、
調査員歌唱曲は4曲)であった。
「B」は、決まった休業日はなく、昼間は午前11時30分から午後1時30分まで、夜間は午後5時から午後11時までの営業である。
イ オリファの調査員は、平成13年6月6日、「C」の実態調査を実施したところ、午後9時20分から翌日午前0時15分までの間で、歌唱曲数は18曲(うち、調査員歌唱曲は3曲)であった。
「C」の定休日は、日曜日、月曜日であり、通常午後8時から翌日午前2時まで営業している。
(2) 上記調査結果に加え、前記第2の1(1)ア記載のとおり、原告がその著作権を管理する管理著作物がカラオケ歌唱の使用実績を有する主要な曲目に当たり、
今日、カラオケ装置を設置している社交場において日常的に反復使用されている楽曲であることを考慮すると、本件各店舗においては、1か月少なくとも20日は開店し、1日当たりの管理著作物に係るカラオケ演奏は少なくとも10曲であると認めるのが相当であり、本件各店舗においては、上記1認定のカラオケ使用期間の間、1か月当たり少なくとも200曲の管理著作物に係るカラオケ演奏実績があるものと推認できる。
もっとも、上記1(2)ア(ウ)記載のとおり、「C」においては平成14年3月19日に「『ロックカウンター解除』を実行してください」とのメッセージが表示され、カラオケ使用が可能であるとしても、リクエストから演奏までの時間が通常より長くなる等の不便を伴う状況にあったのであるから、平成14年3月におけるカラオケ利用は通常の月の半分の100曲程度であったと認めるのが相当である。
なお、原告は、「C」における実態調査の結果を含めて考慮しても、本訴で請求する平成10年2月1日から平成14年3月31日までの間をみれば、平均して、1か月200曲以上のカラオケ歌唱がなされていたことは明らかであると主張する。しかし、原告は各月ごとに発生した損害金が1万8900円であると主張し、各月の損害金に対しその翌月1日を起算日とする遅延損害金を請求しているのであるから、平成10年2月1日から平成14年3月31日までの間で平均して1か月200曲以上のカラオケ歌唱がなされていたという事実を根拠として、特定の月におけるカラオケ曲数を認定することは相当ではない。
(3)ア そうすると、「B」における管理著作物の無断利用により原告が被った損害は、次のとおりとなる。
(ア) 平成13年8月29日から同月31日までは、1829円(1万8900円×3日÷31日) (イ) 平成13年9月1日から同年12月末日まで(4か月)は、毎月1万8900円 (ウ) 合計7万7429円(1829円+1万8900円×4か月) イ また、「C」における管理著作物の無断利用により原告が被った損害は、次のとおりとなる。
(ア) 平成10年2月1日から平成14年2月28日まで(49か月)は、毎月1万8900円 (イ) 平成14年3月1日から同月31日までの間は、9450円(90円×100曲×1.05(消費税相当分加算)) (ウ) 合計93万5550円(9450円+1万8900円×49か月) ウ 上記ア、イの合計額は、101万2979円となる。
(4) 被告は、経営者として、音楽著作物である歌詞及び楽曲の上映機能を有するカラオケ装置を本件各店舗に備え置いたものであり、本件各店舗が居酒屋やスナックであることからすれば、被告は、音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用し、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図して、同カラオケ装置を備え置き、カラオケ演奏を伴奏に客や従業員に音楽著作物を歌唱させていたと推認できる。
したがって、被告は、本件各店舗におけるカラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映又は再生につき演奏権ないし上映権侵害による不法行為責任を負うものというべきである(最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参照)。
(5) また、カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であって、当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り著作権侵害を生じさせることは一般に認識されており、又は少なくとも容易に認識し得たものというべきである。さらに、甲5、8によれば、原告職員が、平成10年6月11日に「C」に出向き、同店のホステスに著作物利用許諾契約を手渡したのを初めとして、その後、数度にわたり、本件各店舗に出向いたり電話するなどして、被告ないし本件各店舗の従業員に対し著作物利用許諾契約の締結を申し入れたにもかかわらず、被告はこれを拒否したことが認められる。
したがって、被告は、本件各店舗において、原告の著作権を侵害することを知りながら、又は少なくとも過失により知らないで、原告の許諾を受けずに、原告の管理著作物を演奏、上映したことにより、原告の著作権を侵害したものであるから、これにより原告が被った上記使用料相当損害金合計101万2979円及び別紙遅延損害金目録A記載の遅延損害金を賠償すべき義務がある。
3 よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝