運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 2年 (ワ) 32121号 著作権侵害差止等請求事件
5
原告株式会社ジーエムピー
同訴訟代理人弁護士 松井清隆
被告株式会社HOLUS
同訴訟代理人弁護士 大部博之 10 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 15 1 被告は、別紙原告写真目録記載の写真及び別紙被告商品目録1ないし3の各 写真部分を複製し、改変し、譲渡し、又は頒布してはならない。 2 被告は、別紙被告商品目録1ないし3の各写真部分(春巻、野菜及び白い皿 を被写体とする写真をいい、文字及び背景を除く。)を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、592万3600円及びこれに対する令和3年1月2 20 7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告に対し、別紙原告写真目録記載の写真(以下「原告写 真」という。)が写真の著作物に該当し、被告が被告商品目録1及び被告商品 25 目録2記載のラベルシール(以下、前者を「被告ラベルシール1」、後者を 「被告ラベルシール2」という。)を商品に付して販売する行為が原告の原告 1写真に係る著作権(複製権及び譲渡権)を侵害し、別紙被告商品目録3記載の ラベルシール(以下「被告ラベルシール3」という。)を商品に付して販売す る行為が原告の原告写真に係る著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)を侵害 すると主張して、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告ラベルシール 5 1ないし3の各写真部分(スティック春巻、野菜及び白い皿を被写体とする部 分をいう。以下同じ。)の複製、改変、譲渡及び頒布の差止め並びに廃棄を求 めるとともに、被告ラベルシール3に係る著作権侵害について、不法行為に基 づく損害賠償請求として著作権法114条1項による損害額及び弁護士費用相 当額の各損害金並びにそれらの合計額に対する訴状送達の日の翌日である令和 10 3年1月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の 支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特 記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 15 原告は、食品の企画、開発、輸入及び販売を主たる業とする株式会社であ る。
被告は、冷凍食品、加工食品、生鮮食品、飲料品等の食品の企画、開発、 製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社である(甲2)。 (2) 原告写真 20 ア 原告は、平成27年8月頃、写真撮影を業とする株式会社オージーフー ズに対し、企画開発したスティック春巻の商品パッケージに使用するため の写真の撮影を委託し、同社の従業員は、原告写真を撮影した(甲8)。
同社は、原告写真を原告に納入するに際して、原告に対し、原告写真の 著作権(翻案権や二次的著作物の利用に関する権利を含む。)を譲渡した 25 (甲8)。 イ 原告は、平成28年10月頃、商品包装パッケージの印刷及び販売を主 2たる業とする株式会社朋ジェーエス・ピー(以下「朋社」という。)に対 し、前記アのスティック春巻の商品パッケージのデザインを委託するとと もに、原告写真の画像データをメールで送信した(甲16)。 (3) 被告ラベルシール1及び2 5ア 被告は、令和元年9月、朋社に対し、被告が販売する商品である「えび チーズ春巻」の商品パッケージデザインの制作及び印刷を委託した。 朋社は、令和2年1月頃、前記(2)イのとおり原告から受信した原告写 真の画像データを原告に無断で使用して、被告ラベルシール1及び2を制 作した。そして、朋社は、同年2月、被告ラベルシール1及び2を、大・ 10 小6万枚ずつ計12万枚印刷し、うち大2万8800枚及び小4万400 0枚を被告に納品した。 イ 被告ラベルシール1及び2の写真部分(以下、前者を「被告写真1」、 後者を「被告写真2」という。)は、スティック春巻、野菜及び白い皿を 被写体とするものであるところ、これらは原告写真と同一である。 15 ウ 被告は、令和2年2月以降、食品スーパーマーケット及び量販店に対し、 パッケージに前記アのラベルシールを貼付した「えびチーズ春巻」の営業 活動を展開した。 (4) 原告の被告に対する警告
原告は、令和2年3月12日付けの「警告書」と題する内容証明郵便(甲 20 15の1。以下「本件警告書」という。)を被告に送付し、原告写真の無断 使用等を中止することを請求した。本件警告書は、同月16日、被告に到達 した。 その後、被告及び朋社は、原告に対し、被告ラベルシール1及び2に関し て、原告写真の画像データを無断で使用した事実を認めた。 25 (5) 被告ラベルシール3
被告は、令和2年4月頃、被告ラベルシール3の写真部分(以下「被告写 3真3」という。)に係る写真を自ら又は第三者に委託して撮影し、朋社に当 該写真の画像データを送信した。朋社は、当該データを受信した後、すみや かに、当該データを用いて被告ラベルシール3を7万2800枚印刷し、被 告に納品した。 53 争点 (1) 著作権侵害の成否(争点1) (2) 差止め及び廃棄の必要性(争点2) (3) 故意又は過失(争点3) (4) 損害の発生及びその額(争点4) 10 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(著作権侵害の成否)について (原告の主張) ア 被告写真3に関する複製又は翻案 (ア) 原告写真と被告写真3には、表現において、以下のaないしfの共通 15 点が存在する。 a 被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差さ せている点(以下「共通点a」という。) b 2本のスティック春巻を斜めにカットして、断面から海老のしっか りした身を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役 20 でない程度に見えるようにしている点(以下「共通点b」という。) c 端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のステ ィック春巻とフィットする大きさの皿を使用している点(以下「共通 点c」という。) d 皿に並べたスティック春巻を、正面からでなく、角度をつけて撮影 25 している点(以下「共通点d」という。) e 撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、 4被写体の影を付けている点(以下「共通点e」という。) f 葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点(以下「共通 点f」という。) (イ) 原告写真は、商品であるスティック春巻の特性に応じて、被写体の配 5 置、構図・カメラアングルの設定、被写体と光線との関係、陰影の付け 方、背景等の写真の表現上の諸要素につき、相応の工夫がされたもので あるから、撮影者の思想又は感情が創作的に表現されたものである。こ れを共通点aないしfについて具体的にみると、以下のとおりである。 a 共通点aについて 10 被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差さ せるという配置は、スティック春巻が、通常の春巻とは異なり、細長 いスティック状のものであるという感覚を醸成するために施された撮 影上の工夫であり、同様の配置をして撮影された写真は、原告写真の 他にはほとんど見当たらない。そうすると、撮影者が思想又は感情を 15 創作的に表現しようとして当該配置を選定したものといえる。 b 共通点bについて スティック春巻を斜めにカットしたものを撮影対象として加えたの は、断面から海老のしっかりした身を視覚的に認識しやすいように見 せ、さらに、チーズも主役でない程度に見える表現上の工夫に基づく 20 ものである。そうすると、撮影者が思想又は感情を創作的に表現しよ うとして当該カットされた春巻を選定したものといえる。 c 共通点cについて 皿以外の容器を採用することもあり、皿を採用する場合でも、色及 び模様は千差万別であるから、スティック春巻を被写体とする写真に 25 おいて白色無地の皿を使用するのが通常であるとはいえない。その中 で、白色無地の皿を採用したのは、スティック春巻の細長いスティッ 5ク感を強調できる効果を期待しつつ、日常感を醸成するためであり、 四角い皿のサイズは、被写体である細長いスティック春巻複数本とフ ィットすることを前提に選択されたものである。このように、当該皿 を撮影対象物として選定したのは、上記の思想に基づく撮影上の工夫 5 であり、撮影者が思想又は感情を創作的に表現しようとしたものとい える。 d 共通点dについて 春巻やスティック春巻を撮影対象とする写真には、正面から撮影し たものも含まれ、構図が原告写真と異なるものが多い。その中で、正 10 面からでなく角度をつけ斜めから撮影したのは、スティック春巻の立 体感を醸成し、より細長いスティックの形状を視覚的に強調するため であり、撮影上工夫した結果である。したがって、撮影者が、思想又 は感情を創作的に表現するため、正面でなく斜めからの構図を採用し たものといえる。 15 e 共通点eについて 春巻やスティック春巻を撮影対象とする写真には、被写体に光を斜 めから当てて被写体の手前に影をつけている写真は、他に見当たらな い。その中で、被写体に斜めから光を当てて撮影したのは、被写体の 手前に影をつけ、明暗のコントラストを視覚的に強調することで、よ 20 り立体感を醸成することを期待したものである。そうすると、撮影者 が、思想又は感情を創作的に表現するため、被写体に斜め上から光を 当てるという撮影方法を採用したものといえる。 f 共通点fについて 春巻やスティック春巻を撮影対象とする写真には、アクセントとな 25 る野菜を左上の皿のスペースに配置していない写真の方が多い。その 中で、撮影者が野菜を左上の皿のスペースに配置したのは、スティッ 6ク春巻を対象とする写真に彩りを添えるため、アクセントとして緑色 の野菜を選択し、かつ、細長いスティック春巻の特徴を際立たせるた めである。また、撮影者は、スティック春巻と野菜の占有スペースの バランスを確保することに留意しつつ撮影したものである。このよう 5 に、撮影者が、思想又は感情を創作的に表現するため、アクセントと しての野菜を左上の皿のスペースに配置するという被写体の組合せを 採用したものといえる。 (ウ) 前記(イ)のとおり、原告写真と被告写真3の共通部分は、スティック 春巻の販売用写真として相応の撮影上の工夫がされた結果であり、撮影 10 者の思想又は感情が創作的に表現されたものである。したがって、被告 写真3には、細長いスティック春巻の並べ方、本数、位置、交差の角度、 陰影、断面の見せ方、皿の形状・角度・見せ方等の点において、原告写 真の表現上の本質的な同一性が維持されており、かつ、既存の著作物で ある原告写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであって、被 15 告写真3は、原告写真と実質的に同一であるといえる。 (エ) これに対し、被告は、共通点aないしfのいずれも、表現そのもので はないか、ありふれた表現で創作性がなく、原告写真の全体を観察して も創作性は認められないと主張する。 しかし、原告写真は、被写体の選択、組合せ、配置、構図、カメラア 20 ングルの設定、被写体と光線の関係、陰影の付け方、背景等の写真の表 現上の様々な要素に相応に工夫が凝らされているから、表現に当たるこ とは明らかである。また、スティック春巻を被写体とする商品写真は、 千差万別であり、被写体の選択、組合せ、配置、撮影方法等に相違点が 生じ得るから、誰が撮影しても似たような印象になるものではない。 25 したがって、共通点aないしfがありふれた表現であると認める余地 はなく、これらの共通点について創作性が認められることは明らかであ 7るから、被告の上記主張には理由がない。 イ 依拠 前記アのとおり、被告写真3の基本的特徴は、撮影の対象物の選択、組 合せ、配置等において工夫したことが原告写真と共通しているから、原告 5 写真に依拠して撮影されたものであると認められる。
被告は、被告写真3には原告写真と相違する点が複数存在するとして、 依拠の事実を否認するが、これらの相違点は、原告写真を改悪したか、些 細で格別意味のない相違を付与したものにすぎず、そこに独自の思想や感 情を読み取ることはできないから、こうした相違点があるからといって、 10 依拠性が否定されるものではない。 ウ 小括 以上によれば、被告が被告ラベルシール3を制作する行為は原告写真に 係る原告の複製権又は翻案権を侵害し、被告ラベルシール3を貼った商品 を食品スーパーマーケット及び量販店に販売することは、原告写真に係る 15 原告の譲渡権を侵害する。 (被告の主張) ア 被告写真3に関する複製又は翻案 (ア) 原告写真と被告写真3とが共通点aないしfにおいて共通することは おおむね認める。しかし、以下の a ないしfのとおり、共通点aないし 20 fに見られる工夫は、食品写真の撮影において、対象物をおいしく見せ るために採られるごく一般的な撮影手法にすぎず、撮影の手法において 選択の余地はほとんどない。したがって、原告写真と被告写真3の共通 点aないしfは、そもそも表現ではないか、創作性が認められない。 a 共通点aについて 25 料理の盛り付けに関する教本(乙9)には、料理をおいしく見せる ためには、角度や向きを調整しながら、料理を重ねて盛る方法は一般 8的である旨が記載されている。原告写真及び被告写真3において、ス ティック春巻を2本又は3本ずつ両側から交差させて配置することは、 こうした方法に即したものであって、細長い形状のスティック春巻を 撮影するためにはむしろそれ以外の方法がないくらいに、表現の選択 5 の幅がなく、アイデアとすら呼べないものであり、表現それ自体では ないか、創作性がない。 b 共通点bについて スティック春巻を斜めにカットする手法は、カットしない限りステ ィック春巻の断面を露出させることができないし、より大きな断面と 10 するには斜めにカットするしかないから、誰もが思いつくアイデアに すぎず、それ以外の表現の選択の余地はないから、表現それ自体でな いか、創作性がない。 c 共通点cについて 商品であるスティック春巻を注目させるために白色無地の皿を使用 15 すること、商品の大きさに合うサイズの皿を使用することは、いずれ も当然のことである。現に、料理の器選びの教本(乙10)には、料 理の色を引き立てるものとして白い器が基本であるとの記載があり、 料理写真の教本(乙11)には、料理用の写真撮影においては、料理 にぴったりと合うサイズの大きさを選ぶことは皿選びのポイントであ 20 るとの記載がある。原告写真及び被告写真3は、こうしたセオリーに 即して撮影されたものであるから、共通点cは、アイデアですらない か、表現の選択の幅がないものであって、創作性が認められない。 d 共通点dについて スティック春巻の全体を認識できるようにするために、正面からで 25 はなく、斜めから撮影する構図を採用することは、当たり前のことで ある。料理写真の教本(乙12)にも、断面を左向きにし、皿の縁を 9カットするなどの構図がベストアングルの代表例であると説明する箇 所がある。そうすると、原告写真及び被告写真3に見られる共通点d は、極めて一般的な撮影手段であって、アイデアないし工夫とすら呼 べるものではなく、創作性が認められない。 5e 共通点eについて 被写体に光を斜めから当てて影を付けることは、商品写真を撮影す る手法としては初歩的な技法であり、誰もが選択する手段である。料 理写真の教本(乙13)にも、斜め逆光は、料理上部が明るくなり、 手前側が暗くなるので、立体感が出るため、料理写真における基本的 10 かつ一般的な撮影手法とされている。そうすると、共通点eは、選択 の幅がなく、ありふれた表現にすぎないから、創作性が認められない。 f 共通点fについて 薄茶色で地味な色味のスティック春巻の商品写真にアクセントとな る色味の野菜を添えて、商品を際立たせるものであるが、こうした手 15 法は、春巻などの食品の写真撮影においては極めて初歩的な技法にす ぎず、表現それ自体ではないか、創作性が認められない。 g 全体的観察 なお、共通点aないしfを全体的に観察しても、原告写真は、商品 パッケージに用いる写真として格別の独自性があるものではなく、あ 20 りふれた写真にすぎないのであって、被告写真3から、原告写真が有 する独自の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。 (イ) また、ある写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影した 写真Bは、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方 法を用いているとしても、写真Aの複製であると解する余地はない。 25 そして、被告写真3は、原告写真の被写体とは異なる被写体であるス ティック春巻等を新たに撮影したものであるから、被告写真3が原告写 10 真を複製したものと解する余地はない。 イ 依拠
被告写真3を撮影した際、原告写真の存在を認識していた事実は認める が、そうであるからこそ、原告写真と同一のものとはならないよう配慮し 5 て被告写真3を撮影したものである。現に、被告写真3には、原告写真と は異なり、被写体であるスティック春巻のうち最下部の3本について水平 に置いていること、スティック春巻の断面を上向きに配置し、断面が上部 に来るように立てかけるように配置していること、添え物としてプチトマ トを配置し、緑色のみならず赤色を配置して色彩のアクセントをつけてい 10 ることなどの相違点が存在する。このことからも、原告写真を自己の作品 に用いるという意図がないことは明らかである。 ウ 小括 以上によれば、被告写真3について、原告写真に係る原告の著作権(複 製権又は翻案権及び譲渡権)侵害は成立しない。 15 (2) 争点2(差止め及び廃棄の必要性)について (原告の主張)
被告ラベルシール1及び2には、原告写真と同一の内容である被告写真1 及び2が掲載されている。また、被告写真3は原告写真を複製又は翻案した ものであるところ、被告は、令和2年6月1日以後、被告写真3の画像デー 20 タを用いた被告ラベルシール3を貼付した商品を食品スーパーマーケットや 量販店に販売している。 したがって、原告写真に係る原告の著作権の侵害行為を停止し、予防する ためには、被告が被告ラベルシール1ないし3の各写真部分(被告写真1な いし3)の複製、改変、譲渡及び頒布を差し止める必要があり、かつ、被告 25 が保有する被告ラベルシール1ないし3の各写真部分(被告写真1ないし3) の廃棄を請求する必要がある。 11 なお、被告は、被告ラベルシール1及び2を全て焼却処分したというが、 そのような事実は認められない。 (被告の主張)
被告ラベルシール1及び2のラベルシールは全て焼却処分したから、差止 5 め及び廃棄の必要性は認められない。 (3) 争点3(故意又は過失)について (原告の主張) ア 被告写真3は原告写真に依拠して制作されたものであるから、被告は、
被告ラベルシール3に関する著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害 10 につき故意がある。 イ 仮に故意が認められないとしても、被告は、業務上著作物を扱う者であ るから、制作された商品パッケージに掲載された写真が他者の著作権を侵 害していないかについて十分に注意すべき注意義務を負う。 特に、被告は、本件警告書を受領した令和2年3月16日の時点で原告 15 の著作権の侵害を認識したのであるから、原告の著作権を侵害しないかに ついて十分に注意すべき注意義務を負っていた。 しかるに、被告は、特段の注意を払うことなく、自ら又は第三者をして、
原告写真に依拠して被告写真3を撮影したり、被告写真3を含む被告ラベ ルシール3を付した商品を販売したりしているのであるから、少なくとも 20 過失がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。 (4) 争点4(損害の発生及びその額)について (原告の主張) 25 ア 別紙被告商品目録3記載の商品を販売することによる損害(著作権法1 14条第1項) 12
被告は、令和2年6月1日以後、全国のスーパーマーケットに対して別 紙被告商品目録3記載のラベルシールを貼った商品を販売している。 朋社は、令和2年4月頃、被告に対し、被告ラベルシール3のラベルシ ール7万2800枚を交付したから、今後、別紙被告商品目録3記載の商 5 品を7万2800個販売する蓋然性が高く、当該商品は1個当たり298 円で販売されているから、被告による販売額は、7万2800枚に298 円を乗じた2169万4400円となる。 そして、原告による同種商品の販売による利益率は、25%である。 以上によれば、被告が別紙被告商品目録3の商品を販売していることに 10 よって、原告には少なくとも542万3600円(2169万4400円 ×0.25=542万3600円)の損害が発生する。 イ 弁護士費用
原告は、本件に関する各種調査、分析、助言等の提供及び本件訴えに係 る訴訟追行を原告訴訟代理人弁護士に委任したところ、被告による不法行 15 為と相当因果関係がある弁護士費用額は金100万円を下らない。 ウ 損害金の一部填補 朋社は、令和2年7月31日、原告に対し、本件の解決金として50万 円を支払った。これにより、原告は損害金の一部補填を受けた。 エ 小括 20 したがって、原告は、被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づき、未 払の損害金である592万3600円の支払を請求することができる。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 25 1 争点1(著作権侵害の成否)について (1) 著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、 13 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製 することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複 製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に 5 再製する行為をいうものと解される。 また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、 その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的 表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現す ることにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得する 10 ことのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。 そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとい うためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表現が創作 性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であ るものと解するのが相当である。 15 一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体では ない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は 翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれた ものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創 作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作 20 権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作 性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製 又は翻案したものに当たらないと解される。 (2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aない しfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案 25 したものに当たる旨主張するので、以下において判断する。 ア 共通点aについて 14
原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ない し3本ずつ両側から交差させている点において共通する。 しかし、証拠(乙9)によれば、角度や向きを変えながら料理を順に 重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、 5 原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い 形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね 盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置するこ とは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであると いうことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8) 10 によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が 複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、 ありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写 真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案した 15 ものに当たると認めることはできない。 イ 共通点bについて
原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、 断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程 度に見えるようにしている点において共通する。 20 しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の 具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具 を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、 スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということが できる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、 25 共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写 真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表 15 現は、ありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告 写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。 5ウ 共通点cについて
原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被 写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して いる点において共通する。 しかし、証拠(乙10、11)によれば、白い器は料理の色を引き立て 10 る効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影す る際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要 であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のステ ィック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻 の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、 15 証拠(甲25、26、乙2、8)によれば、共通点cと同様に、白色で模 様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの 皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、
上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告 20 写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。 エ 共通点dについて
原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度 をつけて撮影している点において共通する。 25 しかし、証拠(乙12)によれば、料理写真の構図として、料理を正面 から撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの 16 方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並 べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るというこ とができる。加えて、証拠(甲25、26、乙7、8)によれば、共通点 dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在す 5 ると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたも のといわざるを得ない。 以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告 写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。 10 オ 共通点eについて
原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、 斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。 しかし、証拠(乙13)によれば、料理写真の撮影方法として、料理の 斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を 15 暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆 光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。 したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春 巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるとい うことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によ 20 れば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真 が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は ありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告 写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案し 25 たものに当たると認めることはできない。 カ 共通点fについて 17
原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置 いている点において共通する。 しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられ ることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮 5 影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行 われることということができる。現に、証拠(甲25、26、乙2、6 ないし8)によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複 数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現は ありふれたものといわざるを得ない。 10 以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写 真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したも のに当たると認めることはできない。 キ 全体的観察 前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であ 15 るとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告 写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。 ク 小括 以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するに すぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認めら 20 れないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは 認められない。 (3) 以上によれば、被告が、被告ラベルシール3を制作し、商品に貼って食品 スーパーマーケット及び量販店に販売することが、原告写真に係る原告の著 作権(複製権及び譲渡権又は翻案権)を侵害するとは認められない。 25 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求のうち、
被告写真3が原告写真に係る原告の著作権を侵害することに基づく差止め、 18 廃棄及び損害賠償請求にはいずれも理由がない。 2 争点2(差止め及び廃棄の必要性)について (1) 証拠(甲15、17、18、23、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、以 下の事実が認められる。 5ア 前記前提事実(4)のとおり、原告が被告に対して本件警告書を送付し、 これが令和2年3月16日に到達したところ、被告は、原告に対し、「貴 職の警告書を受け、当社パッケージの印刷を依頼した印刷会社に確認した ところ、無断使用の事実が確認されました。そのため当社としては、至急、 当社パッケージにおいて、本件写真を差し替え、別の写真を使用しており 10 ます。したがって、いま現在、本件写真が表示された当社商品は流通して おりません。」と記載した同月26日付け回答書(甲17)を送付した (甲15、17)。 イ 被告は、令和2年3月19日、被告ラベルシール1及び2の全部を焼却 処分した(甲18、乙1)。 15 ウ 被告は、被告ラベルシール3を付した「えびチーズ春巻」を販売してい る(甲23)。 (2) 差止めの必要性 前記(1)イのとおり、被告は被告ラベルシール1及び2の全部を焼却処分 した上、前記(1)ウのとおり、被告が販売する商品には被告ラベルシール3 20 を付している。したがって、被告が商品を販売するために、被告ラベルシー ル1及び2を付する必要性は現時点においては認め難い。 以上に加え、前記(1)アのとおり、被告は、本件警告書を受領してからわ ずか3日後に被告ラベルシール1及び2の全部を焼却処分し、本件警告書を 受領してから10日間のうちに、本件警告書の記載内容に関する調査に着手 25 し、無断使用の事実を認め、商品パッケージのラベルを差し替える旨を表明 している。そうすると、被告は、原告からの被告ラベルシール1及び2に関 19 する警告に可能な限り迅速に対応したものということができ、他方、その対 応に特段不誠実な点もうかがわれない。こうした被告の対応振りに照らして も、今後、被告において、商品を販売するために被告ラベルシール1及び2 を付するおそれがあるとは認め難いということができる。 5 したがって、本件において、被告が被告ラベルシール1及び2の各写真部 分(被告写真1及び2)を複製、改変、譲渡又は頒布する行為を差し止める 必要性は認められない。 (3) 廃棄の必要性 前記(1)イのとおり、令和2年3月19日の時点において、被告が被告ラ 10 ベルシール1及び2の全部を焼却処分したものと認められ、他方、本件全証 拠によっても、現時点において、被告が被告ラベルシール1及び2を保有し ているとは認めることはできない。 したがって、本件において、被告ラベルシール1及び2の各写真部分(被 告写真1及び2)の廃棄を請求する必要性は認められない。 15 (4) 以上によれば、原告の請求のうち、被告ラベルシール1及び2の写真部分 (被告写真1及び2)の差止め及び廃棄請求は、いずれも理由がない。 第4 結論 したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由 がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 20 東京地方裁判所民事第29部 25 裁判長裁判官 20 國分隆文 裁判官 5 矢野紀夫 裁判官 10 佐々木亮 21 別紙
原告写真目録 以上 22 別紙
被告商品目録1 以上 23 別紙
被告商品目録2 以上 24 別紙
被告商品目録3 以上 25
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2022/03/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容