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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10070著作権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許権
平成18ネ10003著作権存在確認等請求控訴事件 判例 特許権
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平成18ワ17244著作権確認請求事件 判例 特許権
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関連ワード 著作物性 /  創作性 /  創作的表現 /  独自性 /  著作者 /  固定 /  表現方法 /  プログラムの著作物 /  二次的著作物 /  翻案 /  同一性 /  類似性 /  データベース /  レコード /  職務著作 /  録画 /  複製権 /  引用 /  登録 /  著作権侵害 /  差止 /  損害賠償 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 1091号 損害賠償等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/05/20
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成20年5月20日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成16年(ワ)第1091号 損害賠償等請求事件(第1事件)

平成16年(ワ)第13231号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件)

平成18年(ワ)第6554号 著作権侵害差止等請求事件(第3事件)

口頭弁論終結日 平成20年2月21日

判 決

第1事件原告・第2事件被告 株式会社アールビィシィ

第2事件被告 X1

第3事件被告 X2

第3事件被告 X3

第3事件被告 X4

第3事件被告 X5

第3事件被告 X6

第3事件被告 X7

第3事件被告 X8

上記9名訴訟代理人弁護士 山 上 和 則

同 繪 川 長 昭

同 森 正 博

同 雨 宮 沙 耶 花

同 井 口 敦

上記9名補佐人弁理士 吉 田 稔

第1事件被告・第2事件原告・第3事件原告

株式会社ケイシィエス

第1事件被告 Y1

上記2名訴訟代理人弁護士 門 間 秀 夫

同 大 東 恭 治



同 辻 本 希 世 士

同 田 中 崇 公

上記2名補佐人弁理士 窪 田 雅 也

同 上 野 康 成

第3事件原告株式会社ケイシィエス補佐人弁理士

辻 本 一 義

同 神 吉 出

同 森 田 拓 生



【当事者名の略称】

以下,当事者名の表示を次のとおりとする。

1 RBCら

第1事件原告・第2事件被告株式会社アールビィシィを「RBC」という。

第2事件被告X1を「X1」,第3事件被告X2を「X2」,同X3を「X3」


同X4を「X4」,同X5を「X5」
,同X6を「X6」,同X7を「X7」,同X8

を「X8」という。

第3事件被告ら7名を併せて「 X2ら7名 」,これに X1 を併せて「 X1ら8

名」といい,RBCとX1ら8名を併せて「RBCら」という。

2 KCSら

第1事件被告・第2事件原告・第3事件原告株式会社ケイシィエスを「KCS」,

第1事件被告Y1を「Y1」といい,両名を併せて「KCSら」という。

主 文

1 KCSらは,RBCに対し,連帯して220万円及びこれに対するKCSは平成

16年2月6日から,Y1は同月7日から,各支払済みまで年5分の割合による金

員を支払え。

2 KCSらは,それぞれ別紙1「謝罪文送付先目録」記載の者に対し,別紙2「謝



罪文」記載の謝罪文を内容証明郵便により送付せよ。

3 RBCの第1事件に係るその余の請求を棄却する。

4 KCSの第2事件及び第3事件に係る請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用は,第1事件ないし第3事件を通じ,RBCに生じた費用の10分の1

をRBCの負担とし,RBCに生じた費用の10分の9とX1ら8名及びKCSに

生じた費用の全部をKCSの負担とし,Y1に生じた費用の全部をY1の負担とす

る。

6 この判決の第1項は仮に執行することができる。

第1 請求

1 第1事件

(1) KCSらは,RBCに対し,連帯して3741万7000円及びこれに対す

るKCSは平成16年2月6日から,Y1は同月7日から,各支払済みまで年5

分の割合による金員を支払え。

(2) KCSらは,それぞれ別紙1「謝罪文送付先目録」記載の者に対し,別紙2

「謝罪文」記載の謝罪文を内容証明郵便により送付せよ。

2 第2事件

(1) RBC及びX1は,RBCが販売している「ミスターアドバンス」「Mr.レ

ンタル」
「Team S」と称するソフトウェア(以下,「RBCソフト」と総称

する。
)を複製・頒布・翻案してはならない。

(2) RBC及びX1は,別紙3「営業秘密目録」(1)記載の開発方針(以下「本件

開発方針」という。)及び同(2)記載のプログラム作成に関する情報(以下「本件

プログラム作成情報」という。
)を,RBCソフトの作成・製造・販売に使用し,

又はこれを開示してはならない。

(3) RBC及びX1は,RBCソフト,本件開発方針及び本件プログラム作成情

報の記録された書類を廃棄し,電子的記録を削除せよ。

(4) RBC及びX1は,KCSに対し,連帯して1億円及びこれに対する平成1



6年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 第3事件

(1) X2ら7名は,RBCが販売している「ミスターアドバンス」「Mr.レンタ

ル」「Team S」「Team D」「Team M」
「Team V」「Tea

m F」と称するソフトウェア(以下,これらのソフトウェアを総称する場合

も上記2(1)で定義した場合と区別することなく「RBCソフト」という。)を

複製・頒布・翻案してはならない。

(2) X2ら7名は,別紙3「営業秘密目録」(1)記載の開発方針(本件開発方針)

及び別紙3「営業秘密目録」(3)記載のプログラム作成に関する情報(以下,同

情報を指称する場合も上記2(2)で定義した場合と区別することなく「本件プロ

グラム作成情報」という。)を,RBCソフトの作成・製造・販売に使用し,又

はこれを開示してはならない。

(3) X2ら7名は,RBCソフト,本件開発方針及び本件プログラム作成情報の

記録された書類を廃棄し,電子的記録を削除せよ。

(4) X2ら7名は,KCSに対し,連帯して1億円及びこれに対する平成16年

11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 第1事件

RBCが,KCSらに対し,以下のとおり主張し,(1) 不正競争防止法4条

は民法709条に基づく損害賠償(第1事件の訴状送達の日の翌日から支払済みま

で民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めるとともに,(2) 不

正競争防止法14条に基づく信用回復の措置を求めた事案である。

(1) KCSが別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書(以下「本件文書1」

という。甲1)及び別紙5記載のパンフレット(以下「本件文書2」という。甲

2)をRBCとの競合取引先宛てに送付した行為及びY1が別紙6記載の「商標

権侵害会社のお知らせ」と題する文書(以下「本件文書3」という。甲3の1)



をRBCとの競合取引先等に宛てて送付した行為は,不正競争防止法2条1項

4号所定の不正競争又は民法709条の不法行為に該当する。

(2) Y1及びKCSの意を受けた従業員はRBCとの競合取引先等に対して,R

BCの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した。Y1及びKCSの従業員の

かかる行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争又は民法709条

の不法行為に該当する。

2 第2事件

KCSが,RBC及びX1に対し,以下のとおり主張し,(1) 著作権法112

条1項及び2項に基づき,RBCソフトの複製・頒布・翻案差止め及び廃棄を求

め,(2) 不正競争防止法3条1項及び2項に基づき,本件開発方針及び本件プロ

グラム作成情報の使用・開示の差止め及び廃棄を求め,(3) 著作権侵害の不法行

為,不正競争防止法4条及び民法709条の不法行為に基づく損害賠償(第2事件

の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金

を含む。
)を求めた事案である。

(1) 著作権侵害

ア(RBCに対し)

(ア)(貸出君新版プログラムに対する著作権侵害

RBCソフトのプログラム(Windows版〔以下「Win版」とい

う。〕とビジネスサーバ版がある。以下,Win版とビジネスサーバ版を併

せて「RBCプログラム」という 。)は, KCS が開発したソフトウエア

「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」(以下,両者を併せて

「貸出君新版」という。)のプログラム(以下「貸出君新版プログラム」と

いう。)に対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。

(イ)(貸出君プログラムに対する著作権侵害

RBCプログラムは,KCSが販売しているソフトウェア「貸出君」(W

in版とビジネスサーバ版〔オフコン版,ASP版ともいう。以下「ビジネ



スサーバ版」又は「ASP版」という。〕がある。
)のプログラム(以下「貸

出君プログラム」という。)に対するKCSの著作権(翻案権及び二次的著

作物の原著作物の著作者の権利)を侵害する。


(ウ)( 貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対する著作権侵害

RBCプログラム(Win版)は,「貸出君 for win 廉価版」の表示画面

に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。

(エ)( 貸出君ASP新版」のプログラム及び貸出君プログラム(ASP版)


の開発用書類に対する著作権侵害

a RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は,「貸出君ASP新版」のプ

ログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(翻案権)を侵

害する。

b RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は,貸出君プログラム(ASP

版)の開発用書類(乙49,58)に対するKCSの著作権(翻案権及び

二次的著作物の原著作物の著作者の権利)を侵害する。

c RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は,

「貸出君ASP新版」のプログラムの開発用書類(乙23)に対するKC

Sの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。

d RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は,貸

出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49,58)に対するKC

Sの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。

(オ)( 貸出君 for win 廉価版」及び貸出君プログラム(Win版)のオペ


レーションマニュアルに対する著作権侵害

a RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)

は,「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)に対

するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。

b RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)



は,貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲8

7)に対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。

イ(X1に対し)

X1は,RBCの代表者として,上記アの著作権侵害を実行した。

(2) 不正競争

ア(X1に対し)

X1は,KCSから示された本件開発方針及び本件プログラム作成情報を不

正の競業その他の不正の利益を得る目的で又はKCSに損害を加える目的で使

用し開示した。

X1の上記行為は不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。

イ(RBCに対し)

RBCは,不正開示行為であることを知って本件開発方針及び本件プログラ

ム作成情報を取得し使用した。

RBCの上記行為は不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当する。

(3) 民法709条の不法行為

RBC及びX1は,貸出君新版プログラム及び貸出君プログラム並びにこれら

プログラムに係る表示画面,開発用書類,オペレーションマニュアル等の資料

(以下「貸出君関連成果物」と総称する。)をデータその他の媒体で持ち出し,

KCSが10年以上かけて開発・改良してきたソフトウェア(以下「KCSソフ

ト」という。)に適宜修正を加えることによって極めて短期間にRBCソフトを

完成させ,これをKCSの顧客に販売し利益を得ている。

RBC及びX1の上記行為は民法709条の不法行為に該当する。

3 第3事件

KCSが,X2ら7名に対し,以下のとおり主張し,(1) 著作権法112条

項及び2項に基づき,RBCソフトの複製・頒布・翻案差止め及び廃棄を求め,

(2) 不正競争防止法3条1項及び2項に基づき,本件開発方針及び本件プログラ



ム作成情報の使用・開示の差止め及び廃棄を求め,(3) 著作権侵害の不法行為,

不正競争防止法4条及び民法709条の不法行為に基づく損害賠償(第2事件の訴

状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含

む。)を求めた事案である。

(1) 著作権侵害

X2ら7名は,RBCのために,共謀して,貸出君関連成果物を複製及び翻案

して,RBCプログラム及びその関連成果物を作成した。

よって,X2ら7名は,RBCによる前記2(1)アの著作権侵害について共同

して責任を負う。

(2) 不正競争

X2ら7名は,KCSから示された本件開発方針及び本件プログラム作成情報

を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で又はKCSに損害を加える目的で

使用し開示した。

X2ら7名の上記行為は不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。

(3) 民法709条の不法行為

X2,X3,X4及びX5は,KCSに対する各種背任行為に及んだ中心人物

であり,貸出君関連成果物を持ち出してRBCプログラム及びその関連成果物を

作成し,RBCソフトとして販売し,KCSの取引先を不正に奪うことを中心に

なって共謀していた首謀者であり,X3,X4,X6,X7及びX8は,RBC

ソフトの開発行為に関わった者らである。

よって,X2ら7名は,RBCによる前記2(3)の不法行為について共同して

責任を負う。

第3 前提事実

次の事実は,末尾に証拠を掲記したものを除き,当事者間に争いがない。

1 当事者

(1) RBCら



ア RBC

RBCは,建機等リース管理に関するコンピュータハード及びソフトの制

作・販売を業とする会社であり,平成15年3月6日にKCSの元従業員によ

って設立された。

イ X1ら8名

X1ら8名は,いずれもKCSの元従業員である。

(ア) X1は,KCSから,平成15年3月31日,懲戒解雇の意思表示を受

けた。

X1は,RBC設立に伴い,その代表取締役に就任した。

(イ) X2は,KCS在籍当時,専務取締役の地位にあったが,平成14年1

2月6日開催の株主総会において,取締役に再任されなかった。

X2は,RBC設立に伴い,その相談役に就任した。

(ウ) X3は,KCS在籍当時,システム開発の責任者の地位にあったが,平

成15年1月6日,KCSを退職した。

X3は,RBC設立に伴い,その取締役に就任した。

(エ) X4は,KCSから,平成15年3月31日,懲戒解雇の意思表示を受

けた。

X4は,RBC設立に伴い,その取締役に就任した。

(オ) X5は,KCSから,平成15年3月31日,懲戒解雇の意思表示を受

けた。

X5は,RBC設立に伴い,その取締役に就任した。

(カ) X6は,KCSに対し,平成15年1月15日,退職届を提出した。

(キ) X7は,KCSに対し,平成15年1月20日,退職届を提出した。

(ク) X8は,KCSに対し,平成15年2月28日,退職届を提出した。

(2) KCSら

ア KCS



KCSは,建機等リース管理に関するコンピュータハード及びソフトの制

作・販売を業とする会社である。

イ Y1

Y1は,KCSの代表取締役であったY2の次男であり,平成14年9月2

0日開催のKCSの臨時株主総会において,その取締役に選任され,以来今日

までその地位にある。

2 RBCソフト等

(1) RBCソフト

RBCは,その設立後,「Mr.Advance/ミスターアドバンス」の名

称で建機・仮設レンタル業向けのソフトウェアの販売を開始した。その後,RB

Cは,上記ソフトウェアの名称を「建機・仮設レンタルシステム」に変更し,更

に「Mr.レンタル」「Team
, S」等に変更した。

(2) RBCプログラムのソースコード

ア 甲第123ないし第125号証は,RBCプログラム(Win版)のソース

コードの一部である。

イ 甲第128,第129号証は,RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の

ソースコードの一部である。

(3) RBCプログラムの開発用書類

甲第20号証は,RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類の一部

である。

(4) RBCプログラムのオペレーションマニュアル

甲第96号証は,RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル

である。

3 KCSソフト等

(1) KCSソフト

KCSは,平成2年ころから,「貸出君」の名称で建機・仮設レンタル業向け



のソフトウェアを販売している。

(2) KCSプログラムのソースコード

ア 乙第76ないし第78号証は,貸出君プログラム(Win版)のソースコー

ドの一部である。

イ 乙第81ないし第82号証(枝番を含む。)は,貸出君プログラム(ASP

版)のソースコードの一部である。

(3) KCSプログラムの開発用書類

乙第49,第58号証(枝番を含む。)は,貸出君プログラム(ASP版)の

開発用書類の一部である。

(4) KCSプログラムのオペレーションマニュアル

甲第87号証は,貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル

である。

4 KCSの商標権

(1) ミスターアドヴァンス商標

KCSは,平成15年4月23日,「ミスターアドヴァンス/MISTER

ADVANCE」の文字から成る商標( ミスターアドヴァンス」の文字列を横


書きにして上段に配し,「MISTER ADVANCE」の文字列を横書きに

して下段に配した商標)について,商標登録出願を行い,同商標は,平成15年

11月21日,商標登録された(登録された上記商標を,以下「本件登録商標」

という。なお,本件登録商標の「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区

分」は,第9類,電子計算機用プログラムを記憶させたフロッピーディスク及び

コンパクトディスク,その他の電子応用機械器具及びその部品等である。。


(2) 貸出君商標

KCSは,
「貸出君」の標準文字から成る商標の商標権者である。

5 本件文書1の送付

KCSは,平成15年3月29日,RBCとの競合取引先約350社に対し,本



件文書1(別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書)を送付した。本件文書1

には,次の記載がある。

(1) 「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」

(2) 「弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能

性があります」

6 本件文書2の送付

KCSは,平成15年10月, RBCとの競合取引先多数に対し,本件文書2

(別紙5記載のパンフレット)を送付した。本件文書2には,次の記載がある。

(1) 「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Person

al》遂にデビュー!!」

(2) 「貸出君・ミスターアドヴァンスは,潟Pイシィエスの登録商標または商標

です。」

7 本件文書3の送付

Y1は,平成15年12月4日,RBCとの競合取引先多数及びファイナンス会

社多数に対し,本件文書3(別紙6記載の「商標権侵害会社のお知らせ」と題する

文書)に,KCSがRBCに送付した警告文の写し(甲3の2・3),本件登録

標の商標登録証の写し(甲3の4)及び「貸出君」の商標登録証の写し(甲3の

5)を添付して,送付した。本件文書3には,次の記載がある。

(1) 「『貸出君』)
( ,『ミスターアドヴァンス』は,全国で500社近くのユーザ様

でお使い頂いている」

(2) 「『貸出君』)
( ,『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発,販売を行っており,

著作権を有し」

(3) 「この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標

が下記会社に侵害されております。」

第4 第1事件の争点

1 本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか



(1) 本件文書1の記載(1)( 弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」
「 )の

虚偽性の有無

(2) 本件文書1の記載(2)( 弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的


差止請求される可能性があります」
)の虚偽性の有無

2 本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか

(1) 本件文書2の記載(1)( ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして


《貸出君Personal》遂にデビュー!!」)の虚偽性の有無

(2) 本件文書2の記載(2)( 貸出君・ミスターアドヴァンスは,潟Pイシィエス


登録商標または商標です。)の虚偽性の有無


3 本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか

(1) 本件文書3の記載(1)(( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』は,全国で5

00社近くのユーザ様でお使い頂いている」)の虚偽性の有無

(2) 本件文書3の記載(2)(( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開

発,販売を行っており,著作権を有し」)の虚偽性の有無

(3) 本件文書3の記載(3)( この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーショ


ンソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。)の虚偽性の有無


4 Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不

正競争に該当するか

5 KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定

の不正競争に該当するか

6 KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法2条1項14

号所定の不正競争に該当するか

7 本件文書1ないし3の送付並びに前記4ないし6のY1らの発言は民法709条

の不法行為を構成するか

8 RBCの被った損害の額

9 不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否



第5 第2事件及び第3事件の争点

1 RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか

(そもそも貸出君新版プログラムはKCSの著作物として存在するか。仮に存在す

るとしてその内容はいかなるものか)

2 RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか

(1) 貸出君プログラムの著作物性の有無

(2) 貸出君プログラムに対する依拠性の有無

3 RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対す

るKCSの著作権を侵害するか

(1) 表示画面の著作物性の有無

(2) 表示画面に対する依拠性の有無

4 RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出

君ASP新版」の開発用書類及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙

49,58)に対するKCSの著作権を侵害するか

5 RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出

君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル及び貸出君プログラム(Win

版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵害するか

6 本件開発方針及び本件プログラム作成情報について,RBCらは不正競争防止法

2条1項7号,8号所定の不正競争をしたか

(1) 本件開発方針の営業秘密該当性の有無

(2) 本件プログラム作成情報の営業秘密該当性の有無

(3) RBCらの不正競争行為の有無

7 貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不法行為の成否

8 KCSの被った損害の額

第6 第1事件の争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該



当するか)の(1)〔本件文書1の記載(1)( 弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社


を設立し」
)の虚偽性の有無〕について

【RBCの主張】

本件文書1の記載(1)「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」との記

載のうち,X5,X1及びX4を「弊社が懲戒解雇した社員」という点は,同人ら

はいずれも平成15年3月5日にKCSに退職届を提出しているから,同人らにつ

いては,同日から2週間を経過した平成15年3月20日には任意退職の効力が生

じており,KCSによる懲戒解雇は,意味をなさないので,本件文書1の記載(1)

は,この点において虚偽である。

【KCSらの主張】

KCSの従業員の一部は,平成14年8月ころから,専務取締役のX2を中心と

して,X5,X1及びX4らが首謀者となって,KCSの代表者であるY2からK

CSの経営権を奪おうと企てた。これらの者は,経営権の奪取に失敗するや,新会

社(RBC)を設立し,X2がその相談役に就任したほか,X5が取締役,X1が

代表取締役社長,X4が取締役に就任した。KCSは,上記首謀者のうち,X5,

X1及びX4の3名を平成15年3月31日付けで懲戒解雇した。

したがって,RBCが,これら懲戒解雇されたKCS元従業員によって設立され

た会社であることは事実であるから,本件文書1の記載(1)は虚偽ではない。

2 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該


当するか)の(2)〔本件文書1の記載(2)( 弊社権利を侵害している会社と取引さ

れますと法的な差止請求される可能性があります」)の虚偽性の有無〕について

【RBCの主張】

本件文書1の記載(2)中の「弊社権利を侵害している会社」の部分は,その前段

の「 貸出君』は,弊社にて開発,販売を行っており弊社が著作権を所有し,商標


登録しております」を受けて,受け手において「貸出君の著作権と商標権を侵害し

ているRBC」との意味に受け取られる。



しかし,本件文書1が送付された平成15年3月29日当時RBCが「ミスター

アドバンス」の商品名で販売していたソフトは,「貸出君」とは全く異なる発想で

RBCが新たに開発したものであり,「貸出君」に係るKCSの著作権を侵害する

ものではない。この点については,後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関す

る当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】において詳述する。

また,KCSが「ミスターアドヴァンス」について商標登録出願をしたのは平成

15年4月23日であり,商標登録がされたのは同年11月21日であって,本件

文書1が送付された同年3月29日時点では未だ,KCSは「ミスターアドヴァン

ス」の商標権を有していなかった。

したがって,RBCはKCSの著作権及び商標権のいずれも侵害していないから,

本件文書1の記載(2)中の「弊社権利を侵害している会社」の部分は虚偽であり,

したがってまた,「差止請求される可能性があります」の部分も虚偽である。

【KCSらの主張】

(1) 本件文書1が送付された当時は,KCSの元従業員によってRBCが設立さ

れて間もない時期であり,KCSとRBCとを混同し,RBCがKCSの業務を

引き継いだのではないかと誤解する取引先が存在した。このような状況からすれ

ば,本件文書1の趣旨は,その受け手であるKCSの取引先をして,KCSとR

BCが別の会社であり,「貸出君」は名実ともにKCSのソフトであって,RB

Cを含む他社のソフトではないことを確認させることに尽きるものである。

したがって,本件文書1の記載(2)の意味は, KCSとRBCが無関係である


こと」 KCSが引き続き『貸出君』の著作権及び商標権を有すること」『貸出
「 「

君』という商標を用いたソフトの販売や『貸出君』の複製・翻案等を行うKCS

以外の会社と取引をすると,KCSによる差止等の対象になること」であると解

釈されるところ,これらはすべて真実である。

(2) 仮に,本件文書1の記載(2)の意味をRBC主張のように解釈するとしても,

RBCは「貸出君」に係るKCSの著作権及び商標権を侵害しているから,同記



載は真実である。著作権侵害の点については,後記第7(第2事件及び第3事件

の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【KCSの主張】において詳述す

る。

3 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当するか)の(1)〔本件文書2の記載(1)( ミスターアドヴァンスがさらにバー


ジョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!! 」)の虚偽性の有

無〕について

【RBCの主張】

KCSは,「ミスターアドヴァンス」の名称のソフトを自ら開発したり,販売し

たことはない。KCSらは,当時RBCが「ミスターアドバンス」の商品名で販売

していたソフトはKCSの元従業員がKCS在職中に開発したものであるからKC

Sに著作権がある旨主張するが,その主張に理由がないことは,後記第7(第2事

件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】

のとおりである。また,KCSが「ミスターアドヴァンス」をバージョンアップし

たことがないことも,以上より明らかである。

そうすると,「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Pe

rsonal》遂にデビュー!!」との記載は,その受け手においては,当時RB

Cが「ミスターアドバンス」の商品名で販売していたソフトは古いものとなってし

まっており,KCSの新しい「貸出君」に変更されたと認識することになるが,こ

れは明らかに虚偽である。

【KCSらの主張】

争う。

4 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当するか)の(2)〔本件文書2の記載(2)( 貸出君・ミスターアドヴァンスは,


ケイシィエスの登録商標または商標です。)の虚偽性の有無〕について


【RBCの主張】



KCS は,自らは一度も使用したことのない商標である「ミスターアドヴァン

ス」について,RBCの未申請を奇貨として平成15年4月23日に商標登録出願

した。その商標登録がされたのは同年11月21日であって,本件文書2が送付さ

れた同年10月時点では,未だKCSは「ミスターアドヴァンス」の商標権を有し

ていなかった。したがって,「ミスターアドヴァンス」がKCSの「登録商標また

は商標です」との記載は虚偽である。

【KCSらの主張】

本件文書2では,「貸出君」
「ミスターアドヴァンス」の順に対応する形で,それ

らがKCSの「登録商標」「商標」であるというように,言葉が使い分けられてい

る。したがって,本件文書2の記載(2)の意味は,KCSは「貸出君」の商標を登

録済みであり,「ミスターアドヴァンス」については登録に至っていないというこ

とになるが,本件文書2が送付された平成15年10月当時の状況は,まさにこの

ような状況であったから,本件文書2の記載(2)は真実である。

5 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当するか)の(1)〔本件文書3の記載(1)(( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』

は,全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いている」)の虚偽性の有無〕につ

いて

【RBCの主張】

「『貸出君』)
( , 『ミスターアドヴァンス』は,全国で500社近くのユーザ様で

お使い頂いているコンピュータソフトウェアです。」との記載は,KCSが「ミス

ターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売し,その販売先500社がそ

れを使用している,と読み手が受け取ることは明らかである。しかし,KCS は

「ミスターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売したことはないから,

本件文書3の記載(1)は虚偽である。

【KCSらの主張】

争う。



6 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当するか)の(2)〔本件文書3の記載(2)(( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』

は弊社にて開発,販売を行っており,著作権を有し」)の虚偽性の有無〕について

【RBCの主張】

「ミスターアドヴァンス」をKCSが開発,販売したという事実はない。また,

「ミスターアドヴァンス」は,RBC従業員がKCS在籍中に開発したものでもな

い。したがって,「ミスターアドヴァンス」をKCSが開発,販売し,KCSがそ

の著作権を有するとの上記記載は虚偽である。

【KCSらの主張】

争う。

KCSがRBCプログラムの著作権を有することは,後記第7(第2事件及び第

3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【KCSの主張】のとおりで

ある。

7 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当するか)の(3)〔本件文書3の記載(3)( この建機・仮設資材レンタル業向けア


プリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。)の虚偽性


の有無〕について

【RBCの主張】

(1) RBCは,本件文書2が出回っていることを知り,平成15年10月20日

ころインターネットで調べたところ,KCSが商標登録出願中であることが判明

した。そこで,RBCは,弁理士の指導を受けて,同年11月1日以降,「ミス

ターアドヴァンス」の標章の使用を中止した。

(2) 権利の濫用

仮に,RBCが過失により「ミスターアドヴァンス」の標章を使用したことが

あったとしても,KCSらは,RBCがKCSの商標権を侵害している旨の主張

をすることはできず,本件文書3の送付は違法行為となる。



すなわち,「ミスターアドヴァンス」というソフトは,RBCの関係者がKC

S退職後の平成15年1月以降開発に着手した独自のものであって,KCSが開

発,販売をしたものではなく, KCSには,商標である「ミスターアドヴァン

ス」がKCSの商品であることの出所を示すべき商品そのものがない。KCSが

平成15年4月23日に「ミスターアドヴァンス」の商標登録を申請したのは,

もっぱらRBCが「ミスターアドヴァンス」という標章で建機リースソフトを販

売することを妨害するためである。

ところで,商標法の立法趣旨は,一般需要者の信頼を保護するために商標の出

所識別機能を保護することにある。しかるに,KCSは,RBCによる上記ソフ

トの販売開始からあまり日数を経過していない平成15年4月23日に,RBC

が商標登録申請をしていないのを奇貨として,RBCによる販売活動の妨害だけ

を目的として商標登録を申請したのであり,KCSによる登録商標の取得は,商

標の出所識別機能の保護を目的とする商標法の立法趣旨に著しく反するものであ

る。

したがって,KCSがRBCに対して「ミスターアドヴァンス」の使用を止め

るよう警告する行為そのものが権利の濫用であり,顧客に対して「商標権侵害会

社」などと流布する行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該

当する。

(3) KCSらの主張に対する反論

ア KCSらは,RBCプログラムの著作権はKCSが有しており,本来「ミス

ターアドヴァンス」の名称でソフトを販売することができたのもKCSである

旨主張するが,KCSはRBCプログラムの著作権を有していない。この点に

ついては,後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の

1ないし5の【RBCらの主張】において詳述する。

イ KCSらは,いわゆるポパイ事件判決(最高裁判所平成2年7月20日)及

びウィルスバスター事件判決(東京地方裁判所平成11年4月28日)の解釈



として,両判決は,商標の著名性に着目して権利濫用の法理を適用したもので

あるところ,「ミスターアドヴァンス」は著名性がないから権利濫用の法理を

適用できないと主張する。しかし,両判決が権利濫用の法理を適用したのは,

商標権を主張する者の権利行使が,主観的要素を加味してその行使方法に反社

会性があると認めたからである。したがって,KCSらの上記主張は理由がな

い。

【KCSらの主張】

(1) 本件文書3では,「商標権侵害会社のお知らせ」というタイトルのもとに,

「商標権が侵害されている」「商標権侵害の疑いがございましたら」という言葉

を用いて商標権侵害に対する注意喚起が行われ,商標権侵害についての警告書と

商標登録証の各写し(甲3の2?5)が添付されている。したがって,本件文書

3の趣旨は,その受け手をして,KCSが有する商標権の内容を確認させ,商標

権侵害を行うことのないように注意を喚起することにあるというべきである。ま

た,本件文書3で「この件について」「その商標権侵害」として引用されている

件の警告書(甲3の2)にはRBCのパンフレット(乙3)が具体的に引用され

ている一方,本件文書3には「RBCが『貸出君』と『ミスターアドヴァンス』

の双方の商標権侵害に及んでいる」などとは一言も記載されていないことからし

て,具体的に摘示されるRBCの商標権侵害は「ミスターアドヴァンス」に対す

るものである。したがって,本件文書3の趣旨は,KCSが「貸出君」と「ミス

ターアドヴァンス」の商標権を有することの確認と,RBCによる「ミスターア

ドヴァンス」の使用に加わることのないようにするための注意喚起である。そし

て,本件文書3を送付した平成15年12月当時,KCSは「ミスターアドヴァ

ンス」の商標権を有していた。よって,本件文書3の記載(3)は真実である。

(2) 仮に,本件文書3の記載(3)の意味をRBC主張のように解釈するとしても,

RBCは,KCSが「ミスターアドヴァンス」の商標登録を受けた平成15年1

1月21日より後の同月26日に,朝日リース株式会社に対して「Mr.Adv



ance」の標章を付したシステムの提案書(乙21)を提示し,KCSの商標

権を侵害しているから,同記載は真実である。

(3) 権利濫用の主張に対する反論

ア 後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし

5の【KCSの主張】のとおり,KCSはRBCプログラムの著作権を有して

おり,本来「ミスターアドヴァンス」の名称でソフトを販売することができた

のもKCSなのであって,KCSが「ミスターアドヴァンス」の商標登録を受

け,その商標権に基づきRBCに対して警告を行ったことは正当な権利行使で

あって,権利の濫用には当たらない。

イ いわゆるポパイ事件判決(最高裁判所平成2年7月20日)及びウィルスバ

スター事件判決(東京地方裁判所平成11年4月28日)に照らしても,KC

SがRBCに対して商標権侵害の警告を行ったことが権利の濫用とされる余地

はない。

すなわち,ポパイ事件判決は,商標権者が著名な名称にただ乗りして商標登

録を受けた場合に,当該商標についての権利行使が権利の濫用に当たるとした

ものである。これに対し,本件の場合は,「ミスターアドヴァンス」の名称に

よってRBCが連想されるような状況にはなく,出願時において「ミスターア

ドヴァンス」の著名性はなかった。

また,ウィルスバスター事件判決は,登録商標が商標としての機能を有して

いない状況で,著名になっている被告商標の使用に対して,原告商標権に基づ

いて権利行使を認めることは商標法の趣旨に反するとして権利の濫用に当たる

としたものである。これに対し,本件の場合は,KCSが本来「ミスターアド

ヴァンス」の名称でソフトを販売できたにもかかわらずRBC従業員らによる

プログラム等の持ち出しによりやむを得ず販売の延期を余儀なくされていたも

のにすぎないし,また,RBCの商標に著名性は全く認められないから,KC

Sが商標権に基づきRBCに対して警告を行ったことが権利の濫用とされる余



地はない。

8 争点4(Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項14号

所定の不正競争に該当するか)について

【RBCの主張】

(1) 発言内容

Y1は,平成15年12月12日,リコーリース株式会社(以下「リコーリー

ス」という。)名古屋支社を訪問し,同社のP2氏に電話で次のような事実を告

げた。すなわち,「株式会社日成工業所(以下「日成工業所」という。)は,RB

Cのソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないにもかかわらず,リース料

金を支払っている。日成工業所は,RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを

全く行っていないため,非常に立腹していた。そのようなことは至るところで発

生しており,ある客先では,リース会社と同行の上契約検収を行い,リース会社

が帰った後に機器を持ち帰りその後納品を行わないという詐欺のような販売を行

っている。」と(甲6の2)。

(2) 虚偽性

日成工業所は,平成15年12月15日付けで,リコーリースに対し,「同年

3月にRBCのシステムを導入し,10月に最後のテストを完了,11月から本

稼動を始めた。今後も十分に活用することはもちろん,RBCとも長いお付き合

いをするつもり」との,RBCに好意的な手紙(甲8)を出している。

この手紙からも明らかなように,Y1は,日成工業所で既に平成15年11月

から稼動しているシステムについて,同年12月時点でまだソフトが稼動できず

機械が使用できる状態でないとの虚偽の事実,また,RBCがソフトウェア稼動

に係るフォローを全く行っていないとの虚偽の事実を述べたのである。

また,RBCのソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないということ,

RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないことが至るところ

で発生しているとの点も虚偽である。



【KCSらの主張】

Y1が平成15年12月12日にリコーリース名古屋支社を訪問し,同社のP2

と電話で話をしたことは認め,その余は否認ないし争う。

日成工業所は,KCSの元営業社員であるP5が平成15年3月20日に退職す

るまで頻繁に訪問していた企業であり,KCS在職中にリコーリースに対し,KC

Sの商品に関し,日成工業所とのファイナンスリース契約の可否についての事前審

査依頼を行っていた経緯もあった。ところが,P5はその後KCSを退職してRB

Cに入社し,その後日成工業所についてはリコーリースがRBCの商品のファイナ

ンスリース契約を締結するに至った。一方,P5が乙第1号証に見られるようにK

CS在職中からRBCの名前でKCSの取引先に見積書を提出していたこともわか

った。そこで,Y1は,日成工業所のリース契約の事実関係を確かめるために平成

15年12月12日リコーリース名古屋支社を訪問して同社与信グループリーダー

と面談の上,担当者のP2からY1宛てに電話をもらうよう依頼したところ,同日

P2より電話があり, RBCから, KCSが事前審査依頼した物件とRBCが日
「 『

成工業所に納入するソフトとは全く別業務のソフトである』という説明を受けたの

で,問題なくファイナンスリース契約を締結した。」旨の説明を受けた。

9 争点5(KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条1項

4号所定の不正競争に該当するか)について

【RBCの主張】

(1) 発言内容

KCSの営業担当社員P6は,平成16年1月6日,中村建機株式会社(以下

「中村建機」という。)のP3氏を訪問し,次の事実を告げた(甲9)。

ア RBCのユーザーではトラブルばかりで,稼動しているところはまだない。

特に広島の顧客は未だに稼動していない。

イ RBCが納入しているソフトは,KCSにあった「貸出君」を持ち出し,修

正を加えて販売している。著作権はKCSにあるので,今後使えなくなる。



ウ RBCへ行った元社員は,退職時に書類などを持ち出していった。

エ RBCのX2らが,在職中に中古機等のアルバイト的なことを行っていた。

(2) 虚偽性

上記(1)のアについては,前記8の日成工業所の件でもわかるとおり,平成1

6年1月6日現在RBCのソフトは稼動中であり,稼動しているところがないと

いうのは事実に反する(平成16年1月現在,広島における顧客は,長浜産業株

式会社(以下「長浜産業」という。)1社のみであるが,同社はRBCの対応に

満足している(甲10)。

上記(1)のイについては,RBCのソフトが「貸出君」の著作権を侵害してい

ないこと,及びRBCの従業員がKCS在職中に作ったものでないことは,後記

第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【R

BCらの主張】のとおりである。

上記(1)のウ及びエについては,KCSらによる悪意に満ちた中傷であり,事

実無根である。

【KCSらの主張】

KCSの営業担当社員P6が平成16年1月6日に中村建機を訪問し,P3社長

と面談したことは認め,その余は否認ないし争う。

P6は,平成16年1月6日を含め数回同社を訪問しているが,あくまでユー

ザー企業への表敬とリプレイス商談推進を目的としたものであり,P3社長との面

談においてRBC主張の事実を述べた事実はない。

10 争点6(KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法2

条1項14号所定の不正競争に該当するか)について

【RBCの主張】

(1) 発言内容

KCSの従業員であるP7及びP6は,平成16年3月31日ころ,株式会社

川嶋機械工業所(以下「川嶋機械工業所」という。)を訪問し,同社のP4氏に



対し, RBCについては社員がどんどん退職しており,人手不足の状態である。


あの会社はいつまで続くかわからないのでメンテに問題がある。RBCとは(取

引を)止めておいた方がよい。
」との事実を告げた(甲11の1ないし3)。

(2) 虚偽性

RBCでは社員が大量に退職した事実はなく,また人手不足でもない。メンテ

ナンスも誠実に行っている。P7及びP6の上記発言内容は虚偽である。

【KCSらの主張】

(1) 発言内容

KCSの従業員であるP7及びP6が平成16年3月31日を含め3回川嶋機

械工業所を訪問し,同社のP4専務と面談したことは認め,その余は否認ないし

争う。

両名の訪問は,ユーザー企業に対する表敬と商談を目的とするものであり,そ

の中でKCSのシステム提案に関する話はしたが,他社の信用を害する発言はし

ていない。

(2) 虚偽性

RBCで社員が大量に退職した事実はないとのRBCの主張は,否認ないし争

う。

KCSの調査によれば,RBCに入社したKCSの元従業員等26名中,14

名が既に退職しており,大量退職の事実は明らかである。

11 争点7(本件文書1ないし3の送付等は民法709条不法行為を構成するか)

について

【RBCの主張】

本件文書1ないし3の送付並びに前記8ないし10のY1らの発言は,RBCの

信用を毀損するものであり,不法行為に該当する。

【KCSらの主張】

争う。



12 争点8(RBCの被った損害の額)について

【RBCの主張】

(1) 営業上の損害

ア A社ないしC社との商談解消

KCSらによる前記不正競争ないし不法行為により,RBCは別紙7「損害

一覧表」記載のとおり,A社ないしC社から合計2693万円の商談を解消さ

れた。このうちハード代金については1割5分が粗利,ソフトについては全額

がその粗利である。よって,その損害額は2541万7000円である。

イ センターリース及び友清商店との商談解消

上記アのA社ないしC社の会社名については,KCSら(特にY1)による

営業妨害が続いている現在,これを明らかにすると,各社に思わぬ迷惑がかか

るため,これを明らかにすることはできない。そこで,これに代えて,次の2

社との商談解消による損害について主張する。これら2社との商談の解消問題

は,第1事件訴え提起時には未だ現実化していなかったが,その後KCSらの

営業妨害により,結局商談が解消されたものである。

(ア) 売買契約締結

RBCは,次のとおり,株式会社センターリース(以下「センターリー

ス」という。)及び株式会社友清商店(以下「友清商店」という。)との間で,

コンピューターのいわゆるハードおよびソフトの売買契約を締結した(リー

ス契約を介するため,形式は賃貸借契約になっている)。

a センターリース(甲93,94)

ハード代金 92万円

ソフト代金 210万円

契約締結日 平成15年12月8日

納入予定日 平成15年12月末日

リース会社 尼信リース



b 友清商店(甲95。なお,値引をした結果,ハード,ソフトの各代金の

割り振りは,次のとおりとしている。)

ハード代金 50万円

ソフト代金 240万円

契約締結日 平成15年12月中旬ごろ

納入予定日 平成15年12月20日

リース会社 九州リース

(イ) 契約解消

ところが,KCSらは,RBCの取引先やリース(ファイナンス)会社に

対し,本件文書3を送付したため,リース(ファイナンス)会社の中には,

RBCとの契約を拒むものが続出した。

a センターリースとの契約について

RBCは,センターリースとの間で,平成15年12月に契約を締結し,

リース会社を尼信リースとすることになっていた。そして,尼信リースは

RBCに対して注文書(甲98)を発行するまでに進んでいた。しかるに,

KCSらの営業妨害のため,尼信リースから解約を申し込まれるという事

態に至り,センターリースとの契約が白紙となった。

b 友清商店との契約について

RBCは,友清商店との間で,平成15年商談に入り,同年12月15

日付けの見積書にて導入を決定するとの口頭での約束を取り付けた。そし

て,友清商店の顧問税理士の紹介で,九州リースにファイナンスを申し込

んでいた。しかるに,KCSらから営業妨害のための書類が送付されてい

るとの理由で,最終的に友清商店との契約は白紙に戻されることになった。

(ウ) RBCの損害

上記各契約によって,RBCが得べかりし粗利は,ハード代金については

1割5分,ソフト代金についてはその全額であった。



したがって,RBCはKCSらの前記不法行為により,少なくとも(上記

アの損害が認められないとしても)471万3000円〔 92万円+50


万円)×0.15+(210万円+240万円)〕の損害を被ったものであ

る。

(2) 無形損害

KCSらの前記不正競争ないし不法行為により,RBCは,取引先からのこれ

に関する問合せが多数寄せられ,また多数の取引先及び多数のファイナンス会社

に釈明,善処を求めることに忙殺された。

これにより,RBCの信用は大きく失墜することとなり,会社としての名誉も

毀損されるばかりか,多大な業務遂行上の支障が生じたものであり,RBCがK

CSらの不法行為により被った無形損害は1000万円を下らない。

(3) 弁護士費用

KCSらの不法行為により,RBCは本件訴訟を提起せざるを得ず,その弁護

士費用は200万円と見積もられる。

(4) RBCの損害

RBCは,KCSらの前記不正競争ないし不法行為によって,上記(1)ないし

(3)の合計3741万7000円の損害を被った。

【KCSらの主張】

否認ないし争う。

RBCの主張(1)のイ(センターリース及び友清商店との商談解消)について,

甲93ないし95によっても,KCSらの行為によってセンターリース及び友清商

店との契約が解消された事実は何ら立証されていない。

(1) センターリースとの契約(甲93,94)について

ファイナンスリース会社とファイナンスリース契約を行う場合,事前にファイ

ナンスリース会社において納入先に対する与信が可能か否かの与信審査を行い,

その結果について,与信審査結果書という書面で回答がなされる。しかるに,セ



ンターリースについては,見積書と約定書が提出されるのみで,上記の与信審査

結果書が提出されていないため,そもそもファイナンスリース会社の与信審査の

結果自体明らかでない。

また,仮にファイナンスリース会社が与信審査の結果,センターリースに対す

る与信を不可としたとしても,その理由がKCSらの行為によるものとはいえな

い。なぜなら,センターリースについては,KCSが商談を行い,平成14年9

月24日,株式会社日本ビジネスリースにリース審査を依頼した経緯がある(乙

27)。それに対し,同社からは,同日,与信を不可とする回答がなされた(乙

28)
。この事実に照らせば,仮に,ファイナンスリース会社が与信審査の結果,

センターリースに対する与信を不可としたことが事実だとしても,その理由は,

KCSらの行為によるものではなく,センターリース自体の信用不足その他別の

理由によるものと推認されるからである。

(2) 友清商店との契約(甲95)について

友清商店については,単に見積書が提出されたのみで,与信関係の証拠書類は

もちろん,約定書すら提出されていない。甲95は,KCSらの行為によってR

BCが契約を解消された事実を証するものといえないことは明らかである。

13 争点9(不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否)について

【RBCの主張】

KCSらの一連の不法行為は,虚偽の事実を通告・流布することにより,競争関

係にあるRBCの営業活動を不当に妨害することを目的とした極めて悪質かつ違法

性の強いものである。また,KCSらの行為によりRBCの名誉・信用が著しく毀

損されている。したがって,判決により謝罪文送付を強制することがRBCの名誉

を回復するために必要不可欠である。

【KCSらの主張】

争う。

第7 第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張



1 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵

害するか)について

【KCSの主張】

RBCプログラムは,KCSが開発した貸出君新版プログラム( 貸出君 for wi


n 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)をRBCの関係者が持ち出し,

これを複製ないし翻案して作成したものであり,貸出君新版プログラムの著作権

複製権ないし翻案権)を侵害するものである。以下詳述する。

(1) RBC設立前の準備行為

ア 貸出君新版の開発経緯

(ア) 貸出君新版の開発に至る経緯

KCSは,昭和54年に設立された後,種々のシステム開発・販売を主

たる業務としてきたが,平成元年ころから,建機・仮設レンタル業用に特

化したシステム開発・販売を行うようになった。 KCSは,平成2年ころ

から,建機・仮設レンタル業用システムに「貸出君」というブランドを付

し,自社の主力商品として,営業活動を強化していった。「貸出君」はAS

P(オフコン)版で開発されたが,平成9年ころからWin版でも開発さ

れ,より多くの需要者を得るようになっていった。

具体的には,次のとおりである。なお,ASPとは,オフコンを稼動さ

せるために必要な富士通社製OSの商品名のことであり, KCS社内では

オフコン版のことをASP版と呼んできたものである。

昭和63年ころ 建機レンタル業用システムを開発(ASP版),建機・

仮設レンタル業向けシステムを開発(ASP版)

平成2年ころ 建機・仮設レンタル業向けシステムを「貸出君」と

ネーミングし,KCSの主力商品として販売

平成3年ころ 「貸出君」システムの業種拡大を図りシステム開発

(ASP版)



平成5年ころ 「貸出君」システムをリニューアルして開発(ASP

版)

平成9年ころ 「貸出君」システムのWin版を開発

平成12年ころ 「貸出君」ASP版をリニューアルして開発 ,「貸出

君」Win版をリニューアルして開発

平成13年ころ 「貸出君」ASP版の拡充を図りシステム開発

平成14年ころ 「貸出君」Win版廉価バージョンの開発に着手,「貸

出君」ASP版入力簡素化バージョンの開発に着手

(イ) 貸出君新版の開発計画

KCSは,第23期(平成13年9月?平成14年8月)には,X4を課

長とする開発課において,「貸出君」のWin版廉価バージョン( 貸出君 fo


r win 廉価版」)とASP版入力簡素化バージョン( 貸出君ASP新版」
「 )の

開発を計画し,順次これに着手した。

このことは,平成13年9月1日に X2(当時 KCS専務取締役)が作成

した「第23期(上)を迎えて」と題する文書(乙5),同月8日にX4(当

時開発課長)が作成したマル秘扱いの「23期上期開発部方針」(乙6),平

成14年3月2日に X2が作成した「第23期(下)を迎えて」という文書

(乙7),同日 X4が作成した「23期下期開発計画 」(乙8)の記載からも

明らかである。

すなわち,乙第5号証の2頁の「貸出君」の欄に「EASP版のWeb

化」とあり,乙第6号証の「2.商品化計画」のE「ASPシステムのWe

b化」の欄に「画面の見映えを強化して行きます。」と記載されているが,こ

れが「貸出君ASP新版」に該当する。そして,乙第7号証の2頁に「AS

P版の入力画面の大幅変更」と書かれ,乙第8号証の「1.商品化計画」の

Eにも「ASP貸出君の入力画面の変更」として「入出庫の画面を伝票形式

に対応し入力の簡素化及び画面イメージを良くする。」と書かれていることか



らも,ASP版を入力簡素化して商品化していく計画が立てられていたこと

は明らかである。

また,「貸出君 for win 廉価版」については,乙第5号証の2頁の「貸出

君」の欄に「Win版廉価バージョン」を開発していくこと,乙第6号証の

「2.商品化計画」の欄にも,@に「貸出君 for win 廉価版」のことが記載

されている。また,乙第6号証の3頁には ,「貸出君 for win 廉価版」の開

発計画まで記載されている。また,乙第7号証と乙第8号証にも,「貸出君 f

or win 廉価版」の開発を引き続き進めていくことが記載されている。

そして,上記の開発計画については,Y2が客観的資料(乙5ないし乙

8)の記載と完全に一致した証言をしている。これに対し,X4は,「貸出君

for win 廉価版」につき,開発を引き続き進めていくことが記載されている

のにもかかわらず計画倒れになった旨証言し,「貸出君ASP新版」につき,

入力簡素化のことが記載されているにもかかわらず利用料金が廉価になる計

画であった旨証言しており,客観的事実に完全に反する証言をしている。

その後,Y2は ,「貸出君ASP新版」や「貸出君 for win 廉価版」の開

発状況を常に気にかけ,随時, X2に進捗状況を尋ねていたが,X2は,後

記イ(ア)のころから,同進捗状況を隠匿するようになっていった(乙51)。

イ X2らによる不正な企て

(ア) RBC設立準備行為

X2 は,平成14年ころから KCSの経営権を不正に奪取しようと企て

始め,平成14年7月に社内改善委員会なる組織を X3や X5に作らせる

などして,Y2や Y1に対し理由もなく一方的に辞任を迫るようになった

(乙34ないし乙36,乙51)。また,X2は,平成14年9月にHIK

基金(X5,X2,X3の頭文字)という名前の基金を作り(乙31),同

月11日に KCSを退職したP8を代表者にし,有限会社エムエスシィな

る会社を設立して(乙32) RBC設立資金の受け皿とし,KCSの従業




員に対して上記基金等にできるだけ多額の出資をするよう促すとともに,

本来であれば KCSが取得するはずの代金を横領することにより,着々と

資金集めを進めていった(乙34ないし乙36,乙51)。さらに,X2ら

は,なるべく大量の従業員を RBCに移籍させて KCSを倒産に追い込む

べく,2週間に1度の割合で秘密裏にミーティングを重ねた(乙34ない

し乙36)。

Y2や Y1 にも, X2らの動きは明らかに不審に映ったため,X2は,

平成14年12月6日の株主総会では取締役に選任されず, KCSを退社

することになった(乙51)。

なお,RBCらは上記のような準備行為の事実を否定しようと試みるが,

X2 らは,対外的にも , X2専務と共に新たな出発を開始します 」
「 「数十

人の社員が出資する予定です」などと記載した文書を平然と配布しており

(甲108),もはや疑う余地はない。さらに,X3は,退職後にミスター

アドバンスの開発を1人で始めた旨証言するが,開発に加わる者の人数や

コンピュータ開発における専門分野につき全く不透明な状態で,1人で開

発を始めるなど一見して虚偽であることは明白である。

(イ) ミスターアドバンスの開発

a 開発当初の状況とネーミング

X2 らは, RBC 設立後に販売するソフト( 貸出君ASP新版」や


「貸出君 for win 廉価版」として開発が予定されていたソフト)の開発

についても着々と準備を進めており,実際の作業は X4が課長を務めて

いた開発課を中心に行われた。

当時のKCSの組織構成は乙第68号証の組織図記載のとおりであり,

「貸出君ASP新版」の開発担当はX4及びX3などで,「貸出君 for w

in 廉価版」の開発担当はX4及びP9などであった。

当時開発に従事していた従業員はほとんど全員が KCSを退職して R



BCに移籍してしまい(乙68),成果物もほとんどが持ち去られてしま

ったために, KCSの社内に残る資料はごくわずかである。それでも,

KCS 社内において開発が順調に進められていたこと,開発中にすでに

「ミスターアドバンス」という名前が決定していたことは,たとえばP

10(当時システム部課長補佐。以下「P10補佐」という。)が明確に

説明するとおりである(乙63)


すなわち,P10補佐は,平成14年11月23日に行われたミーテ

ィングで, X2 から新しいソフトウェアの名前が「ミスターアドバン

ス」であるとの説明を受けたものであるし,平成15年1月11日に行

われたミーティングでは, X4から,新ソフトのエントリー画面の開発

はほぼ終了したとの説明を受けた。

なお,「ミスターアドバンス」という名称がどんなに遅くとも平成1

5年1月10日までに決定されていたことは, RBCらが提出したプロ

グラム定義書(甲20の5。 RBCらによれば作成日付「平成15年1

月10日」)のユーザー名欄に「Mr. Advance」と明記されているとおり

であって,これに反するRBCら の主張は自らが提出する証拠の記載と

も完全な齟齬を来たしている。

b オペレーションマニュアル(乙9)の作成

(a) X4らは,平成15年1月ころまでに「貸出君 for Win 廉価版」

及び「貸出君ASP新版」の両バージョンの開発をほぼ完成させ, K

CS のインストラクター職の地位にあったP11(以下「P11」と

いう。)に対し,「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュア

ルを2週間程度でとりあえず作成するよう指示した。これを受けて,

P11は,平成15年1月22日から同年2月7日にかけて,開発済

みの「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながら,

X4 の指示どおりに,同システムのマスタの一部と稼動・販売・問い



合わせの部分のオペレーションマニュアル(乙9の1の1,乙9の2

の1,乙9の3の1,乙9の4の1。以下,これらを総称して「乙第

9号証」又は「乙9」という。)を作成し,KOサーバーの中の「業務

課」「インスト 」「マニュアル 」「for win」というフォルダに

「とりあえず○○」というファイル名で保存した。

(b) RBCら は,乙第9号証は偽造されたものであると主張するが,

その作成経緯はP11が当時の経験をありのまま証言するとおりであ

って,その証言態度はきわめて素直で自然であり,またその証言の内

容も事実に即しているからこその具体性を備えている上,不自然な点

もなく,他の証拠とも符合している。

RBCら は, KCSらが本件訴訟のために乙第10号証を作成した

と主張し,その根拠として甲第29号証を提出する。しかし,乙第1

0号証は, KCSの記録に残っていたものをそのままプリントアウト

したものである。むしろ,甲第29号証こそ, RBCらによる持ち出

しの事実を裏付ける証拠である。すなわち,甲第29号証は,乙第1

0号証の更新日時だけでなくサイズまで全て同一であるが,通常,両

号証のような規模の文書を作った場合,文書自体をコピーしない限り,

サイズ(バイト数)まで全く同じ文書はできない。つまり, RBCら

は,P11が作成したオペレーションマニュアル(乙9)をデータの

形で持っていてそれをコピーしたからこそ,甲第29号証のようにサ

イズまで全く同じ文書(のプロパティ)を作成することができたので

ある。なお,乙第10号証のフォルダ名は, Y1 が今回の訴訟用に

「貸出君for win新版マニュアル」という名前を付けて保存したもので

ある。

さらに,P11の作業日報(乙54の1?12)も,同人がオペ

レーションマニュアルの作成に携わっていたことを示している。この



作業日報も当時作成されたものである。なお,上司の確認印が押印さ

れていないが, KCSでは,作業日報提出後に上司の確認印をもらう

という手順は踏まれていなかったため,何ら不自然なものではない。

このことはRBCら側のX6も認めるところである。

(c) また, RBCらは,P11が入社後1年も経っていないことを理

由にオペレーションマニュアルを作成する能力がなかったなどとも主

張するが,マニュアルの改訂作業は,旧マニュアルを参照しながら,

新しい画面の内容や動きをチェックしながら適宜項目を追加したり入

力内容の説明を行ったりという修正を加えていくものであり,P11

でも十分可能な作業である。実際,P11は,平成14年10月中旬

から同年12月中旬にかけて,P30係長と2人で貸出君ASP版の

マニュアル改訂作業を行った経験もあった 。「貸出君 for Win 廉価

版」のオペレーションマニュアルについても,P11は,わからない

ことについては開発課のP12やP13に聞きながら作成作業に当た

ったものであって,作成能力に何ら問題はない。

(ウ) 各種資料等の持ち出し

a 各種資料の持ち出し及びKCSの対応

Y1 は,平成15年3月6日に, KCSの営業所が存在するビルの管

理人から, KCS 従業員が KCSの書類等を大量に持ち出しており,と

りわけ, X4においては,休日に届出もせずに出社して大量の資料を持

ち出していた,との報告を受けた。そこで, KCSにおいて調査したと

ころ,X4が管理しているはずの「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君

ASP新版」の成果物が存在せず,その他 X5(当時営業部長)が管理

しているはずの顧客名簿・契約書・顧客に納入した各システムの仕様書

等営業秘密に関する重要書類も全て持ち出されていることが判明した。

そこで, Y1 は,同日に朝礼を開き,全従業員に対して KCSの書類



等を持ち出した社員がいることを伝えた。そうしたところ,P14(当

時係長。以下「P14係長」という。)が平成11年8月以前の注文書控

えや平成13年9月以前の営業月報等を持ち出したとして,P14係長

とX5がこれらの書類のみを返却したが,最も重要な「貸出君 for win

廉価版」と「貸出君ASP新版」の成果物や直近の顧客名簿等の資料の

返却はなかった。このため, KCSは,大阪府警東警察署に被害届を提

出して同署の捜査に委ねることとしたところ,同署からP14係長に対

して任意出頭するよう要請があり,同人に対する取調べまで行われた。

以上の事実は, Y1において,盗難届(乙37の1)の日付とも完全

に一致した具体的かつ詳細な供述をしていることから,もはや疑いの余

地はない。

b ドキュメントのコピー

さらなる調査で,平成15年1月, X1がP11に KCSの取引先数

社に関するプログラム仕様書,ファイル仕様書,議事録などのドキュメ

ントのコピーを指示して持ち出し,業務課のフォルダ内のマニュアル全

部,ソフト見積書その他社内資料のコピーを指示していたことが判明し

た。これらの事実はP11が明確に証言し,同人の作業日報(乙53の

1ないし3)にも記録が残っているとおりである。

さらに, X2 はP10補佐に対し,平成14年9月ころから,同人が

担当していた全取引先のドキュメントファイルをコピーするよう指示し

(乙34の4頁),着々とKCSの資料収集を進めていた。

c K6900のRBCへの持ち込み

KCS で貸出君の開発に使用されていた富士通製オフコン「K690

0」(以下「K6900」という 。)を, X4が,KIT社(現在 RBC

の協力会社)に返還しなければならなくなったとの虚偽の説明を弄して

(乙60) KCS からレンタカーで持ち出して X2宅に運び込み,その



後 RBCに運び込んで使用していたことは,P15(以下「P15」と

いう 。 ,P10補佐,P16,P17,P18らが陳述書で明確に説明


するとおりである(乙62,63,65ないし67) X6ですら同X2


宅からRBCにコンピュータを運んだ事実自体は認める証言をしている。

実際,当時 X4 が使用したレンタカーの走行距離は52kmに上って

おり(乙61の1),KIT社(当時大阪市北区(省略)所在)とKCS

(当時大阪市中央区(省略)所在)との往復距離とは符合しない。実際

にはKIT社ではなくX2の自宅車庫に運び込んだからである。この点,

X4 はKIT社ではなく尼崎辺りの倉庫に持ち込んだ旨証言するが, K

CSら がレンタカーの走行距離の不自然さを指摘したことから何とか辻

褄を合わせようと思いついた虚偽の説明にすぎない。

(2) 持ち出された成果物等とミスターアドバンスの一致

以上のとおりの経緯で, RBCらは,KCS社内から貸出君関連の成果物等

を各種の媒体で持ち出し,ミスターアドバンスとして完成させた上で, KCS

の取引先に対して営業活動を行うようになったものであるが,貸出君関連の成

果物等とミスターアドバンスが一致していることの主な根拠として,次の各点

を改めて確認しておく。

ア 「ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が「貸出君 for win 廉

価版」のオペレーションマニュアルの記載事項と一致すること

KCS社内には「貸出君 for win 廉価版」についてはそのオペレーション

マニュアル(乙9)がかろうじて存在するが, RBCが発行した「ミスター

アドバンス」のパンフレット(乙3,乙11の2)に記載されている各種図

表・説明の多くは,同マニュアルに記載されている事項と一致する(乙11

の1)。とりわけ,「貸出君 for win 廉価版」の最大の特徴は,従前は別にな

っていた入庫画面と出庫画面の統一化であり,このことは X4が打ち出した

方針であるところ(乙6 ) 「ミスターアドバンス」のパンフレットでも「入




出庫が同一画面で登録可能」として強調されている(乙3・乙11の2頁中

段左,乙11の1)。

イ 「ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新版」の仕様書と同一

内容であること

「ミスターアドバンス」の仕様書(甲20)はKCS 社内に残る「貸出君

ASP新版」の仕様書(乙23)と同一内容であることが本件審理の中で明

らかとなった。

既に説明したとおり,平成15年3月までに「貸出君 for win 廉価版」と

「貸出君ASP新版」の成果物その他顧客名簿・契約書・顧客に納入した各

システムの仕様書等営業秘密に関する重要書類のほとんどが KCSの元従業

員によって持ち出されてしまったが,わずかに残る資料の中で, KCSの福

岡営業所のパソコンに残存していたのが,乙第23号証の仕様書(現場マス

タメンテナンス)である。

乙第23号証は,当時 KCS の福岡営業所に勤務していたP19(以下

「P19」という。)が平成15年1月以前に発見し,Y1に報告したもので

あるが(乙48),この乙第23号証と甲第20号証を比較すれば,両者が同

一のシステムの仕様書であることは誰の目にも明らかである。

たとえば,甲第20号証の16・17として提出されている取引先マスタ

のファイル仕様と乙第23号証の7枚目及び8枚目として提出されている取

引先マスタのファイル仕様書とを比較対照すれば,直ちに両者が書式はもち

ろん,項目名,形式,桁数,バイト数,桁位置に至るまで全くの同一内容で

あることがわかるからである。

RBCら がこれまで頑なに主張してきたように,平成15年1月以降「ミ

スターアドバンス」を独自に開発したというのであれば, KCSのパソコン

に, RBCらが甲第20号証として提出する「ミスターアドバンス」の仕様

書(得意先マスタメンテナンス)と同一内容の仕様書(現場マスタメンテナ



ンス)が残っているはずがない。 RBCが, KCSにおいて開発された成果

物をそのまま利用したからこそ, KCSの保有する乙第23号証とRBCら

が提出する甲第20号証とが同一の内容なのである。

他にも,たとえば乙第23号証の8枚目の左上部「ファイル名 取引先マス

タ」の右の「1/2」という表示は,7枚目から続く取引先マスタ2枚中の2

枚目であるので,本来「2/2」と表示すべきものの誤記である。そして,甲

第20号証の17においても全く同様の誤記がなされている(正しい表示がな

されているものとして,たとえば甲21の19と20参照)。両者が同一のも

のであり,RBCがKCSにおいて開発された成果物をそのまま利用している

からこそ,両者は誤記に至るまで共通しているのである。

RBCら は,乙第23号証は, X6が KCSを退職した後の平成15年2

月下旬から3月下旬の間に,福岡営業所のP20に送付したものだというが

(甲92),先にも述べたとおりP19は平成15年1月には乙第23号証を

発見しており,RBCらの主張は虚偽である。

そもそも,平成15年1月以降に, KCSとは一切関係なく「一から」開

発したというミスターアドバンスの開発作業を, KCSの従業員であるP2

0に依頼すること自体矛盾している。しかも, RBCらによれば,ミスター

アドバンスの開発にあたっては,特に KCSの貸出君の権利侵害とならない

よう注意していたというのであるから,そのような細心の注意を払っていた

という RBCらが, KCSの従業員に対し,かつ KCSの福岡営業所のパソ

コン宛てに開発資料を送るなどということはあり得ないことである。

X6 が何らの疑問も感じることなく KCSの従業員であるP20に対し,

かつ KCSの所有物であるパソコン宛てに乙第23号証を送付したのは,そ

れが「 RBCの開発資料」ではなく, KCSで開発中のソフトウェアの開発

資料だったからにほかならない。

ちなみに,乙第23号証は新規開発を指示する仕様書ではなく,開発済み



のプログラムに対する修正を指示する仕様書であるから,乙第23号証の作

成以前にその元となった新規開発を指示する仕様書が作成されプログラムが

開発されていたはずであり, RBCらにおいても乙第23号証の送信日が平

成15年2月から3月であったと主張し(平成16年9月9日付準備書面(4)

9頁) X6もこれに沿う証言をする。しかしながら,甲第116号証(ビジ


ネスサーバ版プログラム履歴リスト)の22には, RBCは現場マスタメン

テナンスのプログラム開発を2003年4月11日に着手した旨記載されて

おり(担当者はP20),自らの主張及び証人の証言と証拠の整合性すら全く

とれていない。

(3) RBCらの弁解が不合理であること

ア プログラムの数

(ア) プログラム数に関する主張立証に矛盾があること

RBCらは,裁判所からの指示に反し,明らかに虚偽の弁解を繰り返し

つつ,Win版及びビジネスサーバ版の双方につき,大半のプログラム及

びその作成経過を提出しておらず,とりわけ,ビジネスサーバ版のプログ

ラムについては,平成16年6月14日の段階で作成されているもののみ

で214本存在すると陳述した上に(甲13) X3は平成17年12月1


5日の時点でもその事実は正しい旨の証言をしているにもかかわらず,改

めて作成履歴等の提出を求められるやいなや一転して30数本しか存在し

ないなどと強弁し始めており(甲115),もはや主張整理の結果として,

RBCソフトのうち自らが作成したプログラムは僅かであり,残りの大半

はKCSのプログラムを流用したことが明らかになっている。

(イ) 甲第115号証及び甲第117号証のプログラム一覧は一部にすぎな

いこと

a ASP版プログラム

別紙8「 KCS13準・別表1」は,RBC代表者自らが説明したR



BC のASP版プログラム一覧(甲13)と, RBCらがようやく提出

するに至ったプログラム一覧(甲115の1及び2)の比較表である。

甲第13号証のプログラム一覧においてマスキングのために項目名が

明らかでない部分を除いた合計162本のうち,実に125本のプログ

ラムは甲第115号証の1・2のプログラム一覧には記載がない(甲1

3のプログラム一覧でマスキングされている部分を含めると,さらに1

00本前後のプログラムにつき甲115の1・2のプログラム一覧には

記載がないことになる 。 。 RBCらは,少なくとも,上記125本のプ


ログラムについては,自らが作成したものではないことを自認している

のである。なお,甲第115号証の1・2において記載があり甲第13

号証においては記載の有無が明らかでない14本のプログラムは,恐ら

く甲第13号証においてマスキングされているプログラムの一部である

と推定される。

もっとも,かかる詳細な分析なくしても,甲第13号証のプログラム

一覧と甲第115号証の1・2のプログラム一覧を見れば, RBCらが

今般提出してきたプログラムがごく一部にすぎないことは,一目瞭然で

ある。

また,真に甲第115号証の1・2のプログラムしか存在しないとい

うのであれば, RBCが販売しているソフトは,受注入力も,引取入力

も,商品移動入力も,その他別紙8(別表1)で×印が付された機能は

全て存在しない,全く無価値なソフトを販売し続けていることになる。

かかる観点からも,RBCら の説明は,客観的に,誰がどう見ても,明

らかに虚偽である。

b Win版プログラム

別紙9「 KCS13準・別表2」は,RBC代表者自らが顧客に販売

したソフトのオペレーションマニュアル(甲96)に記載されている機



能から存在すると断定できるプログラムと,今般, RBCらがようやく

提出するに至ったプログラム一覧(甲117の1?3)の比較表である。

甲第96号証に記載されている機能を実現するためには,別紙9(別

表2)に記載した51本のプログラムが最低限度必要なはずであるが,

このうち甲第117号証の1?3に記載されているプログラムは,わず

か19本にすぎない。 RBCら の主張を前提とすれば, RBCは,プロ

グラムなしに勝手に思うままに稼動してくれるソフトを開発販売したと

いうことになる。

また,真に甲第117号証の1?3のプログラムしか存在しないとい

うのであれば, RBCが販売しているソフトは,メニューも,得意先照

会も,名称照会も,その他別紙9(別表2)で×印が付された機能は全

て存在しない,全く無価値なソフトを販売し続けていることになる。か

かる観点からも, RBCら の説明は,客観的に,誰がどう見ても,明ら

かに虚偽である。

(ウ) 甲第115号証と甲第116号証との間に齟齬が生じていること

プログラム履歴リスト(甲116の1?26)によると,RBCらは,

自らが苦し紛れに編み出したプログラム本数の数え方に従うようにして,

わざわざIDごとに作成修正の履歴を説明しているが,真にそのような数

え方をするのであれば,自らが提出したプログラム一覧(甲115の1・

2)を前提にしても,200本以上のプログラムの作成修正履歴が記載さ

れていないと辻褄が合わない。たとえば,出庫入力だけで5つの作成修正

履歴が記載されるべきところ,MA0102AとMA01020の2つの

作成修正履歴しか記載されていない(甲116の1?4,25) RBCら


は,自らが苦し紛れに編み出したプログラム本数の数え方を維持するため

に,同時に提出したプログラム一覧表(甲115の1・2)と作成修正履

歴(甲116の1?26)との間に,齟齬を来たしてしまったのであろう。



イ 開発期間に関する矛盾

RBCらは,平成15年1月から同年2月にかけて KCSを退職した者ら

が順次「ミスターアドバンス」の開発を開始し,同年3月に販売を開始した

と主張するが(甲5),僅か1か月や2か月で「ミスターアドバンス」のよう

な規模のソフトの開発ができるはずがなく,このことは RBCら自身も「業

界状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要」と主

張することによって認めている(平成16年5月11日付準備書面第1の5

(4))。

ところが,甲第15号証によれば,Win版システム及びASP版システ

ムのいずれをとってみても, RBCらが「開発・発売」を開始したと主張す

る平成15年3月の時点から1年が経過した平成16年3月20日の時点に

至ってもなお RBCらが投入したシステムエンジニアーの延べ工数は,Wi

n版で25人/月,ASP版で47人/月にすぎない。これは, RBCら が

システム開発に必要と主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1

にしか達していない数字である。

すなわち, RBCら の提出する甲第15号証は,真に RBCらが平成15

年1月10日からシステム開発に着手したのであれば平成16年3月20日

の時点においてですらシステム完成にはおよそほど遠い状況にしかなりえな

いことを如実に示しているのである。

ウ 開発スケジュールに関する矛盾

(ア) 仮に「ミスターアドバンス」の開発経緯に関する RBCら の主張(甲

15)が事実だとすれば,Win版システム及びASP版システムのいず

れについても, KCSの元従業員が開発を開始したという平成15年1月

の時点から1年以上が経過した平成16年3月20日の時点に至ってもな

おシステムエンジニアーの延べ工数が, RBCらがシステム開発に必要と

主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1にしか達していない



ことは既に指摘したとおりである。

上記事実のみに照らしても KCSを退職した X3が平成15年1月に開

発に着手したという RBCらの主張が虚偽であることは明白であるが,平

成15年1月から開発を開始したことを前提とする「開発スケジュール」

(甲14)が架空のものであることもまた明らかである。

開発スケジュール(甲14)については, RBCらは,当該スケジュー

ルに沿って開発がなされたと主張していたにもかかわらず,実際には実態

に即さないものであることは X3自身自白している。しかも,甲第14号

証に代わる実際の開発経緯についてはついに明らかにされなかった。

ちなみに,百歩譲って,甲第14号証の「開発スケジュール」どおりに

開発が進んだと仮定しても, RBCは開発開始後わずか2か月,マスター

系プログラムしかできていない状態で「ミスターアドバンス」の販売に成

功したことになる。しかもRBCらによれば営業用のパンフレット(乙3,

乙11の2)は平成15年7月1日以降に作成したというのであるから,

営業用のパンフレットすら存しない状況での販売ということになる。

しかしながら,現在のソフトウェア業界の常識としてそのような販売活

動は不可能といわざるをえない。なぜなら,確かに,ソフトの構築前にソ

フトを販売することが可能であった時期もあるがはるか以前のことであり,

現在のように各種ソフトが氾濫し,現実に競合ソフト(たとえば「パワフ

ル建機」「レン太郎」など)が販売されていて購入先が競合ソフトウェアを

体感することができる状況においては,最低限デモンストレーションを行

うことができなければソフトを販売することなどできないからである。

これを甲第14号証の「開発スケジュール」に当てはめるとすれば,最

低限「入出庫稼動プログラム」 RBCらの主張によればその完成は平成1


5年4月末)が完成していなければデモンストレーションを行うことすら

できない。競合ソフトが現に販売されているなかで,デモンストレーショ



ンもできず,営業用パンフレットすら存しないソフトを販売することなど

不可能である。

ところが,実際には, RBCは会社設立直後の平成15年3月13日に

は,早くも KCS の納入先であった日成工業所との間で「ハードウェア一

式238万円」「ソフトウェア一式260万円」など具体的な金額まで確定

した契約を締結している(甲70)。

上記の契約は, KCSの元従業員が平成15年1月に開発を開始したソ

フトではなく, KCSにおいてほぼ開発が完成していたソフト(ミスター

アドバンス)の成果物を利用し,さらに KCS従業員による背任行為ない

しは営業混同行為にあたる営業活動を行ったからこそなし得たものである。

具体的には,上記契約は, KCSの営業社員であったP5が KCS在職中

にRBCの名義で行ったのである。

しかも,以上は,甲第14号証どおりに開発が進んだと仮定しての話で

あり,まして, X3自身が,同号証の開発スケジュールどおりに開発が進

まなかったと自白しているのであるから,ミスターアドバンスが平成15

年1月以降に開発を開始したソフトウェアでないことはさらに明白である。

ちなみに,RBCらの弁解を前提にすると,ミスターアドバンスにつき,

X3 の証言によれば「まだごくほんの入り口の部分」しか完成していなか

ったにもかかわらず,日成工業所から毎月のリース料を取得し続けていた

ことになるが,機能しないソフトのために毎月のリース料を何のクレーム

もなしに支払い続ける顧客が存在するはずもなく(しかも,リース残存期

間は次第に少なくなっていく) RBCらの弁解は一見して虚偽である。


(イ) RBCらは,RBCソフトを平成15年3月に販売した事実からRBC

プログラムが貸出君新版プログラムに依拠して作成された事実が推認される

ことを妨げるため,RBCプログラムが請負型であることを強調する。しか

しながら,RBCは,自らのホームページにおいて,RBCソフトであるT



eamシリーズにつき「システムパッケージ製品として結晶化しました」と

積極的に広報しており(乙119),その主張が虚偽であることは一目瞭然

である。

ちなみに,RBCらは,KCSのホームページ(甲230)を根拠として

KCSソフトが請負型であるなどと断定するが,同ホームページの記載によ

って請負型であると断定できる合理的理由は全く存在しない。KCSソフト

がパッケージ型であることに間違いはなく,顧客ごとに異なる商品コードの

桁数等に対応するために,導入までには数回の打合せが必要になるにすぎな

い。

このように,請負型であることを前提とするRBCらの主張は明らかな虚

偽である。そもそも,現在においては,少なくともデモンストレーションが

できる状態にまでソフトが完成していない限りソフト販売が不可能であり,

RBCらも,結局は,RBCソフトの相当部分がパッケージ化されているこ

と自体は認めている。そうだとすれば,RBCらは,その設立時の平成15

年3月には,少なくともデモンストレーションができる状態にまでソフトを

完成させていたからこそ,ソフトを「販売」できたとしか考えられず,そし

て,KCSプログラムに依拠したのでない限り,同月時点で,少なくともデ

モンストレーションができる状態にまでソフトを完成させることはできなか

ったのである。

以上の観点からも,RBCプログラムが貸出君新版プログラムに依拠して

いる事実は明らかである。

【RBCらの主張】

KCSが開発に着手していたと主張する貸出君新版プログラム( 貸出君 for w


in 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)などは存在せず,KCSら

の捏造であることは以下の理由から明白である。

まず,KCSの主張は,開発した貸出君新版の成果物も書類も全て KCSの元



従業員が持ち去ったというものであるが,2年以上も行ってきたという開発に関

する証拠を全て持ち去るというのはおよそ不可能であり,主張自体荒唐無稽であ

る。

次に,貸出君新版の成果物というものが存在するのであれば,会社財産として

最重要であるにもかかわらず,警察への盗難届(乙37の1)にも,その後の退

職従業員への持ち去った物の返還を要求する手紙(甲217)にも,貸出君新版

の成果物を記載しておらず,不自然である。

そもそも,本件訴訟の発端であるKCSら による不正競争行為は,RBCシス

テムがKCSシステムの著作権及び商標権を侵害しているという取引先等への文

書(甲1)であるが,システム自体が持ち出されたのであれば,かかる事実(虚

偽ではあるが)を記載すればRBCらの著作権法違反の理由が明らかとなるため,

システム自体の持ち出しについて強く主張するのが合理的である。しかるに, K

CSは,抽象的に著作権を侵害するとしか記載せず,その後においては著作権で

はなく商標権のみの主張となっている(甲2,3)。

これらの点からみれば,KCSの主張する「貸出君新版の持ち出しによる著作

権法違反」は,本件訴訟が開始してからの主張であることが明らかであり,全く

信用性がない。したがって,貸出君新版などというものがKCSの捏造であり実

際には存在せず,RBCシステムは貸出君新版に関する著作権法違反とはならな

いことは明らかである。

以下詳述する。

(1) 新会社設立の経緯

ア KCSの歴史

KCS は,昭和54年9月に株式会社内田洋行(以下「内田洋行」とい

う。)とキング商事株式会社が合弁で設立した会社であり,Y2の独裁体制で

あったキング商事株式会社の体質を継承していた。

昭和56年7月21日に内田洋行から出向者として X2を受け入れ,その



後X2 はKCSに転籍し, KCSの発展に寄与し,Y2は企業活動には何ら

関心を示さなかったが,金銭管理だけは X2に任さず,経営者としての実権

を握り続けていた。

イ Y1の問題

Y1は,もともとは内田洋行で勤務していたのであるが,平成5年ころに,

内田洋行から KCSで引き取るよう強い要請があり, KCSの東京営業所で

勤務することになった。ところが, Y1の常軌を逸する言動や自己中心的な

態度に対し東京営業所の社員からは不満の声が常に上がり,平成11年ころ

に Y1が東京営業所の責任者になると, Y1の態度はますます酷くなってい

き, Y1は,平成14年5月,東京に出張していた X2に対し,社員の見守

る中で突然暴言を浴びせかけ,あまりの不遜な態度に, X2は Y1に即刻退

社を勧告した。しかし,Y2より上記の件については不問に付して欲しいと

依頼を受け,やむを得ず1週間後, Y1の現場復帰を認めたが, Y1の態度

は改まるどころか,何をしても辞めさせられることはないという自信からか,

いっそう不遜なものとなった。そして,ついに,東京営業所社員一同から同

年6月20日に辞表が提出された。

東京営業所社員一同の辞意は, X2によって押しとどめられたが,X2は

KCSの経営の危機を深く感じ,KCS やY1 の処遇について,Y2に対し

話合いを提案したが,Y2はこれを拒否した。

ウ 不正経理問題

Y1の問題で社内が揺れる中,平成14年7月,経理担当事務員P21に

より,Y2の不正経費使用が明らかにされた。それによると,Y2の不正経

費の額は年間3000万円にも及び,妻がデパートの食料品売場で購入した

惣菜等までが会社経費として計上されていた。このことに対し社員はY2に

対し強い不満を抱くに至り,幹部社員全員で話し合った結果,正常な企業環

境を取り戻す方策を具体化する社内改善委員会なる組織を立ち上げ,結束を



図り改善する方向を模索しようとの結論になり,同年8月より隔週土曜日に

会合を持ち,改善案を話し合うことを決定した。社内改善委員会では,今後

のKCS のあり方やY2の不正経費流用を防ぐ方策が検討されたが,まずは

経営上影響の強い内田洋行に改善の助力を願おうということになり,甲第1

08号証を作成し,内田洋行に持参することとなった。

エ Y2の専横

X2が平成14年8月23日に内田洋行へ甲第108号証を持参し説明を

行なった後,Y2は社内改善委員会の存在を知り,同月30日に緊急役員会

議を開き, X2の解任のための臨時株主総会の開催の案内を行なった。この

事実を知った社内改善委員会のメンバーは,Y2らの不遜な態度に,もはや

KCSを見限るしかないと憤慨した。また,内田洋行からも話合いをすべき

であるとの要請があり,Y2も社内改善委員会との間で話合いを開始するこ

ととした。

ところが,Y2との話合いは難航し,最後には社内改善委員会の要求とは

ほど遠い内容の合意書案が出来上がってしまった。

そして,社内改善委員会がまず初めに要望したことが,前述の8月30日

開催の取締役会議議事録にある X2退任の臨時株主総会の開催中止であり,

Y2は,開催しない旨を伝達して話合いを進めていたが,その兄であるP1

と両名で開催したことにし, X2退任こそ決議しなかったものの,Y1の取

締役就任を決定した。このことを事後的に知った社内改善委員会は,Y2の

ことなど信用できないとし,合意書に捺印を拒むという結果になり,Y達と

の対立は冷戦状態となった。

KCSは,社内改善委員会の場で X2らが新会社設立を話し合い,HIK

基金に不正な金を入金していたと主張する。たしかに,新会社を設立しよう

という話が出たり,万一に備えて資金を集めておくことを目的にHIK基金

ができたのは事実であるが,平成15年1月までは新会社設立を本気で話し



合ったことはないし,HIK基金の入金はそれぞれの資金であり不正な金な

どは全くなかった(甲218)。誰でも,危険を冒して新会社を設立するより

も,同じ会社にいたいのは当然であり,問題が解決して KCSに在籍し続け

ることを第一の希望としていたのであるが,それが不可能だった場合の保険

としてHIK基金を設けたに過ぎず,新会社を具体的に計画などしていなか

った。

他方で,X2は,顧客や社員のために企業の存続は絶対必要であると考え,

平成14年10月末,営業責任者,システム責任者に対し,すべての問題は

一時期棚上げし,業績回復のため,一層努力するよう要請し,営業活動をも

う一度立て直すべく活動しだした矢先の平成14年12月6日,今までは形

式的にしか開催していなかった株主総会において, X2欠席のまま,Y2ら

はX2の取締役就任を否決し,Y1を社長に就任させたのである。KCSは,

単なる任期満了で再任しなかっただけだと主張するが,長年 KCSの発展に

寄与してきた X2を就任させないというのはまさに「解任」というべき事態

であり,Y一族のこのような卑劣な謀略により,社員の人心が離反するばか

りであった。

しかも,取締役就任拒否の連絡を東京営業所で受け取ったX2 は,同月7

日に帰阪し,Y2に対し,せめて同月20日までの間,長年お世話になった

各顧客や関係筋に挨拶に行きたい旨を伝えたが,一切の出社を認めないとの

返事であり,社員や顧客への挨拶はおろか,私物の整理すら許されなかった。

また,平成15年1月6日には,Y2が社内改善委員会の責任者であり,

システム開発の責任者である X3に対し,任意退職を余儀なくさせるという

事態を生じさせた。

オ 新会社設立

X3 は,予想だにしていなかった事態になり,途方に暮れたが,X2と話

し合い,これを機に,使いやすい新たなプログラムを開発し,新会社を立ち



上げようと決意した。 X3自身も, KCS在籍時から貸出君に不満を持って

いたが,新たなプログラムにすると,過去のプログラム資産が全く使用でき

なくなるため,KCS在籍中では変更できなかったのである。

資金繰りも覚束ない新会社を立ち上げるにあたっては,少数精鋭にすべき

であるのは当然であるが, X2や X3はYらに対する社員の不満を嫌という

ほど分かっており,来る者は拒まずというスタンスをとったため,思いがけ

ず大人数となったのであって, RBCが KCS従業員を無理に引き抜いたと

いうような事実は全くない。なお,KCSを退職して RBCに入社した者の

中には,主体的に考えて RBCに移ったのではなく,皆が移るからという理

由で移ったというような者もおり,こういった者の中には, RBCが資金繰

りが苦しく,開発を急いでいたため,多忙な RBCを辞めて KCSに戻った

者もいる。また,平成15年3月には KCSからの嫌がらせの手紙(甲21

9)が相次いだため,同年4月には8人が辞め,同年12月には KCSがフ

ァイナンス会社に商標権侵害であるとの手紙(甲3の1)を出したためにフ

ァイナンス会社からの入金が止まり,給与が払えないような状況に追い込ま

れ, RBC から7人が辞めた。このように,KCSは, RBCからの退職者

が多いとして, RBCこそが悪質な会社であると主張しているが,KCSら

の所為により退職しているのがほとんどなのである。

カ KCSらの悪質性

KCSら の悪質性は, KCSら が取引先や RBC の従業員に宛てた手紙

(甲1?3,217,219)でも分かる。

また, KCS は,自ら開発したわけでも,使用したわけでもない ,「ミス

ターアドヴァンス」という商標を,RBCが使用していることを知りながら,

RBCが登録していないことを奇貨として自ら登録するという悪質極まりな

い行為を行っている。この点,KCSは,「ミスターアドヴァンス」はKCS

で開発したシステムで,名称も決まっていたと主張するが, KCSが開発し



たシステムでないことは後に述べるとおりであり,使用していないにもかか

わらず登録していることには変わりがない。

キ 結論

以上のとおり, RBCは, KCSらの不当な行為により,緊急避難的に設

立されたものである。

(2) RBCシステムの特徴(新開発であること)

RBCシステムの特徴につき,以下説明し,RBCシステムがKCSシステ

ムとは全く異なる新たなシステムであることを明らかにする。

ア 新システム開発の決意及びその基本的な考え方

(ア) 上述のとおり KCS を自主退職することを余儀なくされたX3 は,平

成15年1月7日,X2と話し合い,新会社を設立することにした。

そして, KCSにおいて長年KCSシステムの開発,バージョンアップ

等に携わってきた経験を生かし,建設機械等のリース・レンタル業界向け

のソフトを開発し販売することを決意した(甲220)。

したがって, X3がRBCシステムの開発を決意した時点は平成15年

1月7日であり,これ以前にRBCシステムの開発が進んでいたわけでは

決してない。

(イ) KCSシステムには,ビジネスサーバ版とWin版とで原因こそ異な

るものの,双方とも,@処理スピードが遅い,A操作性が悪い,Bネット

ワークに弱いという大きな欠陥があり,平成14年ころの KCS社員の日

常業務の大半がトラブル解決に費やされているような状態であった。

(ウ) そして,KCSシステムのバージョンアップ等ではこれらのトラブル

を解決することは不可能であり,これらのトラブルを解決するためには,

全く新しいシステムとする必要があった。

しかしながら,KCSシステムのファイル構造を作りかえ,全く新たな

システムとすると,KCSシステムを開発して以来蓄積されてきた多くの



プログラム資産が全て使用できなくなることに加え,トラブル処理に追わ

れてプログラム開発の十分な時間すらとれない中で,そのような全く新し

いシステムを作ることは不可能であった。

(エ) 以上のような経緯から, X3は, KCSにおいてKCSシステムのメ

ンテナンス等をする中で最も痛感していた欠点を克服する全く新たなシス

テム,すなわち,@処理スピードの向上,A操作性の向上,Bネットワー

クの強化を基本的な考え方とする全く新たなシステムを開発しようとした

(甲220)。

イ ビジネスサーバ版について

(ア) 総論

RBCシステムのビジネスサーバ版は,@処理スピードの向上,A操作

性の向上,Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化し

たものであり,その結果KCSシステムとは全く異なる新たなシステムと

なったほか,KCSシステムのビジネスサーバ版と比較した場合に,プロ

グラムの組み方が全く異なるという特徴がある。

以下,詳述する。

(イ) 各論

RBCシステムにおいて3つの基本的な考え方をどのように具体化した

かを,KCSシステムが有していた欠陥と対比することにより,説明する

とともに,併せて,RBCシステムとKCSシステムが全く異なるもので

あることを説明する。

a 処理スピードの向上

(a) KCSシステムの有していた欠陥について

@ 第1に,KCSシステムは,ファイルを構成している項目を増加

することができないために,別ファイルを追加しなければならない

という欠陥があり,ファイル構造が肥大化して処理スピードが遅く



なっていた(甲220別紙1・第1)。

A 第2に,KCSシステムでは,各ファイルにおける各レコード

ングスが長く設計されている為に,処理スピードが極めて低下して

いた( レコードレングス」の意味については,甲220別紙2)
「 。

これは,各レコードレングスが長いとファイルの中のデータが増え

る結果処理スピードが遅くなるからである。

(b) RBCシステムにおける「処理スピードの向上」の具体化

@ 上記第1の欠陥に対し,RBCシステムにおいては,たとえば,

初期設計段階において,商品マスタ(商品名などの固定情報)と商

品ランク単価マスタ(単価項目毎のランク情報)とを分けて設計する

ということを随所で行い,ファイル上不要な項目が出ない設計とし,

処理スピードの向上を実現した。

この結果,ファイルが短くかつ不要な項目もないため,処理ス

ピードが向上し,ファイルを追加することもなく,同一ファイルの

項目の使い回しもなくなったために,バグの大幅な減少が実現され

た。

A さらに,上記第2の欠陥に対しては,甲220別紙3記載のとお

り,各々のファイルのレコードレングスを短く設計したことによっ

ても,処理スピードの向上を実現した。これは,各レコードレング

スを短く設計すれば,各ファイルの中のデータが減少し処理スピー

ドが向上するからである。

ハード性能の向上と相まって,多くの機能を保存させるためにレ

コードレングスを長くすることが多い中で,レコードレングスを短

く設計するという発想自体が大胆であるが,加えて,レコードレン

グスが異なれば,全く異なるファイルとなるため,無論,KCSシ

ステムにおいて開発された種々のプログラムをRBCシステムに流



用することなど全くできない(甲220別紙4)。

b 操作性の向上

(a) KCSシステムの有していた欠陥について

KCSシステムは,@画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか

表示されず使用上不便であり,更に,1行毎に入力を行った後に,明

細表示部へ移行させるという手間のかかる画面構造上の不便さという

欠点があった。また,A入力する際に,入力に必要の無い画面項目に

カーソルが移動し,キーボード入力のタッチ回数が多く操作性が悪い

という欠点,Bオフコン端末使用になっており,オフコン用キーボー

ド配列のキー操作が必要で操作性が悪いという欠陥があった(甲22

0別紙1・第2)。

(b) RBCシステムにおける「操作性の向上」の具体化

RBCシステムでは,@画面上に伝票形式の明細行数が10行表示

されており,しかも,各行へ直接入力する方式を採用している上,A

不要な動作なしに任意に入力したい欄に入力することも可能で,かつ,

Bパソコン用キーボード仕様となっており,これらによって操作性の

向上を実現した(甲220)。

c ネットワークの強化

(a) KCSシステムの有していた欠陥について

KCSシステムでは,「処理スピードの向上」の点で記載したとおり,

ファイルのレコードレングスが長く,かつファイルが重複等していた

ので重く,本店営業所間等のネットワークに弱いソフトであった。

(b) RBCシステムにおける「ネットワークの強化」の具体化

この点,RBCシステムでは,「処理スピードの向上」の点で記載し

たとおり,@ファイルのレコードレングスを短くし,しかも,Aファ

イルを分けて作成してファイル構造を分割するという方式をとったこ



とにより,ネットワーク上のデータ量を軽くする設計を行うことによ

り,ネットワーク上のスピードの向上を実現した。

d まとめ

以上のとおり,RBCシステムは,@処理スピードの向上,A操作性

の向上,及びBネットワークの強化という基本的な考え方を具体化した

KCSシステムとは全く異なる新しいシステムである。

もちろん,画面設計においても,『得意先マスタメンテナンス画面(ビ

ジネスサーバ版)』(甲134の1ないし3別紙図面1。RBCシステム)

と『得意先マスタメンテナンス画面(ビジネスサーバ版 )』(甲134の

4。KCSシステム) ,『出庫入力画面(ビジネスサーバ版 )』(甲135

の1別紙図面2)を比較すれば明らかであるが,RBCシステムとKCS

システムでは全く異なる。

(ウ) 小括

以上より,RBCシステムは,上記の3つの基本的な考え方を具体化し

たもので,その結果,KCSシステムとは全く異なる新たなシステムとな

っているのである。

しかも,プログラムの組み方という極めて根本的な点で両者は相違して

いる。すなわち,RBCシステムは,「構造化プログラム」といわれる方法

でプログラムを組んでいるが,KCSシステムは,「非構造化プログラム」

といわれる方法でプログラムを組んでおり,両者はその名前から明らかな

ように全く異なるのである(甲220別紙5)。

ウ Win版について

(ア) 総論

RBCシステムのWin版は,ビジネスサーバ版と同様,@処理スピー

ドの向上,A操作性の向上,Bネットワークの強化という3つの基本的な

考え方を具体化したものであり,その結果,KCSシステムのWin版と



は全く異なる新しいシステムとなった。

また,KCSシステムのWin版は,KCSシステムのビジネスサーバ

版をもとに作られたシステムであるため,上記同様に,多くのシステム構

造上の欠陥や操作上の問題を抱えていた。

(イ) 各論

RBCシステムにおいて,上記の(ア)の基本的な考えをどのように具体

化したかについて,KCSシステムの有していた欠陥と対比する形で説明

し,併せて,両者が全く異なるものであることを説明する。

a 処理スピードの向上

(a) KCSシステムの有していた欠陥について

KCSシステムには , 入力データを同じファイル内で保存していく

というファイル構造に,大きな欠陥があった。

つまり,KCSシステムの場合は,入力データファイルが,1月

度・2月度・3月度と入力すればするほどデータが溜まっていくとこ

ろ,通常,この入力データファイルに保存されたデータを呼び出して

きて請求書を発行する仕様となっているため,処理スピードが遅くな

るのである(甲220別紙8)。

(b) RBCシステムにおける「処理スピードの向上」の具体化

これに対し,RBCシステムにおいては,入力データファイルは1

か月間だけにして,過去のデータは必要に応じて取り出しができるよ

うに別ファイル(累積データファイル)として切り分けする全く新た

な構造とし,処理スピードの向上を実現した。

このように別ファイルとすれば,入力データとして呼び出されるの

は,常に1か月分であるため,請求書発行等の処理スピードは格段速

くなる。

b 操作性の向上



(a) KCSシステムの有していた欠陥について

KCSシステムのWin版は,KCSシステムのビジネスサーバ版

をもとにしたシステムであるので,KCSシステムのビジネスサーバ

版における欠陥が同様に存在する。

すなわち,画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず,

使用上不便であり,さらに1行毎に入力を行った後に,明細表示部へ

移行させるという手間がかかる画面構造上の不便さという欠点が同様

に存在していた。

また,KCSシステムにおいては,リース単価変更時の仕様に欠陥

があり操作性が悪いこと,期間貸し(シーズン貸し)の時にリース期間

の自動延長ができず操作性が悪いという欠陥も存在していた(甲220

別紙8A)。

(b) RBCシステムにおける「操作性の向上」の具体化

RBCシステムのビジネスサーバ版と同様,画面上に伝票形式の明

細行数が10行表示されており,しかも,各行へ直接入力する方式を

採用し,操作性の向上を実現した。

また,上記のようなKCSシステムにおける操作性が悪いという欠

陥は,RBCシステムでは存在しない。

c ネットワークの強化

(a) KCSシステムの有していた欠陥について

KCSシステムでは,営業所コードが存在しないことにより,支

店・営業所単位での処理が出来ず,営業所間のネットワークに対する

対応が弱いという欠陥があった。

(b) RBCシステムにおける「ネットワークの強化」の具体化

RBCシステムでは,取引先マスタ(得意先マスタ)上に,営業所

コード(5桁)を採用し,営業所を複数管理している顧客が営業所単



位で業務処理を行うことが可能で,ネットワークが強化されている。

d まとめ

以上のとおり,RBCシステムは,@処理スピードの向上,A操作性

の向上,及びBネットワークの強化という基本的な考え方を具体化した

KCSシステムとは全く異なる新しいシステムである。

もちろん,画面設計においても ,『得意先マスタメンテ画面(Win

版)』(甲135の2別紙図面3),『入出庫入力・出庫入力画面(Win

版)』(甲135の3別紙図面4)を比較すれば明らかなごとく,RBCシ

ステムとKCSシステムでは全く異なる。

その結果,当然ではあるが,RBCシステムとKCSシステムには多

数の相違点が存在している(甲220別紙9)。

(ウ) 小括

以上より,RBCシステムのWin版は,上記3つの基本的な考え方を

具体化した結果,KCSシステムとは全く異なる新たなシステムとなって

いる。

エ 結論

以上のとおり,RBCシステムは,ビジネスサーバ版,Win版ともに,

KCSシステムとは全く異なる新しいシステムであることが明らかである。

(3) RBCシステムの開発状況及び顧客へのサポート状況

ア はじめに

(ア) 設立当初の顧客のうち,最初に契約に至った8社について,契約日,

代金入金日,各業務ソフトの納入日などを下表に示す。

a ビジネスサーバ版の早期受注4社契約及びサポート各工程完了日



日 成 工 業 南海建設興業 ベ ス ト レ ン タ 長浜産業

所 ル



販 売 契約日 平15.3.13 平15.4.23 平15.5.28 平15.4.9

関 係 入金日 平15.3.31 平15.4.30 平15.6.30 平15.6.20

業務 平15.5.30

ソ フ システム分析スタート日 平15.3.13 平15.4.2 平15.5.26 平15.4.3

ト 納 マスター業務納入日 平15.4.10 平15.7.22 平15.7.10 平15.4.17

入日 稼動業務納入日 平15.5.8 平15.7.23 平15.9.24 平15.7.8

販売業務納入日 ― ― ― ―

請求業務納入日 平15.5.21 平15.8.22 平15.9.末日 平15.10.2

平15.11. 平16.4.10 平15.10.14 4

末日 平15.11.

末日

売掛業務納入日 ― ― 平15.10.末日 平16.1.28

在庫管理業務納入日 ― ― ― ―

仕入業務納入日 ― ― ― ―

統計業務納入日 ― ― 平15.11.末日 ―

ネットワーク業務納入 ― ― 平15.9.6 平15.9.12



受注業務納入日 ― ― ― ―

(随時業務納入

日)

修理業務納入日 ― ― ― ―

稼 動 請求業務開始日 平15.12.1 平16.4.13 平15.10.12 平15.12.1

開 始 平16.1.1

日 稼動確認取得日 平16.5.17 平16.7.14 平16.1.30 ―





b Win版の早期受注4社契約及びサポート各工程完了日



鈴建輸送 名晶興産 興南機械 中村建機

販 売 契約日 平15.4.18 平15.6.19 平15.6.23 平15.8.2

関 係 入金日 平15.3.28 平15.7.25 平15.7.16 平15.10.1

業務 平15.4.25

ソ フ システム分析スタート日 平15.3.14 平15.6.13 平15.6.25 平15.8.28

ト 納 マスタ業務納入日 平15.3.14 平15.7.1 平15.7.30 平15.9.4

入日 稼動業務納入日 平15.4.18 平15.7.1 平15.8.1 平15.9.6

平15.5.13 平15.11.5 平15.10.2

7

販売業務納入日 ― 平15.7.1 ― ―

請求業務納入日 平15.5.30 平15.7.1 平15.8.1 平15.9.18

平15.9.18 平16.11.2 平15.11.末日

売掛業務納入日 ― 平15.7.1 ― ―

在庫管理業務納入日 ― ― ― ―

仕入業務納入日 ― ― ― ―

統計業務納入日 ― ― ― ―

ネットワーク業務納入 ― ― ― ―



受注業務納入日 ― ― ― ―

(随時業務納入

日)

修理業務納入日 ― ― ― ―

稼 動 請求業務開始日 平15.11.20 平16.2.1 平16.1.1 平16.1.1




開 始 稼動確認取得日 平16.9.9 平18.1.16 平16.11.16 ―






(イ) RBCシステムは,そもそも,各顧客のニーズに応じたカスタマイズ

部分を含む商品であり,商品の販売時点において,既にシステムが完成し

ているということがあり得ないことは,前記のとおりである。

これに加えて,本件においては, RBCを設立して直ちに売上げを上げ

る必要があったことから,RBCシステムの開発をすると同時に,顧客に

対しても同時進行で同システムを販売し,完成している部分から順次導入

していったものであり,各顧客との契約時点,代金受領時点においてRB

Cシステムが全て完成していたものでは全くない。 RBCは,相応の労力

をかけてRBCシステムを開発していったものである。

この点を明らかにするために,以下,ビジネスサーバ版,Win版双方

につきシステム開発の経緯を説明するとともに,各々について, RBC設

立後,最初に契約に至った4社に対するシステムの導入状況を説明する。

イ ビジネスサーバ版について

(ア) RBCシステムの開発状況

RBCは,主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)については,

平成15年1月10日から同2月20日ころの期間に完成させた(甲22

0)。

次に,稼動業務,販売業務については,同月25日ころから同年4月1

日ころの期間に完成させた(甲220)。

請求業務については,同年3月10日から開発に着手し,同年5月上旬

ころに一応完了させた(甲220)。

その他の業務ソフトは,これ以降,マスタ業務,稼動業務,販売業務,



請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正に追われる中

で,少しずつ開発していった(甲220)。

(イ) 顧客へのサポート状況

RBC設立後,RBCシステムのビジネスサーバ版において最初に契約

に至った4社は,日成工業所,南海建設興業株式会社(以下「南海建設興

業」という。 ,長浜産業及びベストレンタル株式会社(以下「ベストレン


タル」という。)である。

以下,この4社につき,契約時期,契約代金の受領時期を明らかにする

とともに,RBCシステムのどの業務機能をいつ入れて,いつどのような

指導を行い,最終的にいつ稼動したのかを説明する。

a 日成工業所について

(a) 契約日,入金日

日成工業所とは,平成15年3月13日に契約を締結し,同月31

日,契約代金全額を受領した。

日成工業所との契約時点においては,RBCシステムのデモ画面等

は無論完成しておらず,これらは提示していないが,RBC 営業社員

と日成工業所担当者との信頼関係により受注に至った(甲221)。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

平成15年3月13日時点では,RBCシステムは,マスタ業務し

か完成しておらず,基本的な事項すら完成しておらず,RBCシステ

ムは使用できるものではなかった。

それにもかかわらず,この時点で契約に至ったのは,会社を設立し

て早急に資金を必要とした RBC側の事情もあるが,主要マスタの開

発が一応完了していたことから,日成工業所にはマスタの登録業務を

しばらく行ってもらうことにより,時間を稼ぎ,その間に順次,早急

に他のプログラムを完成させていく方針であったこともある。



なお,顧客としても,当方のシステムが完全に立ち上がるまでは旧

来の方法で請求業務等を行うことから,不都合を生じるものではなか

った。

(c) サポート状況

日成工業所では,平成15年3月13日にシステム分析を開始し,

マスタ業務ソフトは同年4月10日に納品したものの,それ以降のソ

フトについては,開発でき次第納品していった。

すなわち,稼動業務ソフトについては同年5月8日に納品し,請求

業務については同月21日に基本ソフトを納品し,カスタマイズをし

て,同年11月末日に日成工業所の要望に沿ったソフトを再納品して

いる。

そして,同年12月1日,ようやく,RBCシステムを本格稼動さ

せて請求業務を開始することができ,平成16年5月17日に顧客の

要望に沿ったカスタマイズが全て終了したことを双方で確認して稼動

確認書を取得した。

b 南海建設興業について

(a) 契約日,入金日

南海建設興業とは,平成15年4月23日に契約し,同月30日,

同年5月30日契約代金を受領した。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

この時点においても,マスタ業務,稼動業務,販売業務までしかで

きておらず,請求業務はできていない状態であり,ソフトとしては基

本的動作ができず,全く使い物にならない状態であった。

デモ画面等は無論存在せず, RBC営業社員と客先との人的信頼関

係等により,成約に至った(甲221)。

(c) サポート状況



南海建設興業とは,契約に先立ち,平成15年4月2日よりシステ

ム分析を開始し,既に完成していたマスタ業務,稼動業務につき,そ

れぞれ同年7月22日,同月23日に納品している。

そして,請求業務については,基本ソフトを平成15年8月22日

に納品し,カスタマイズをして,平成16年4月10日に再納品した。

以上の経過で,同月13日にRBCシステムを稼動させて請求業務

を開始することができ,同年7月14日には稼動確認書を取得した。

c 長浜産業について

(a) 契約日,入金日

長浜産業とは,平成15年4月9日に契約をし,同年6月20日,契

約代金を受領した。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

ソフトとして基本的な動作ができていない状態であったことは南海

建設興業との契約の点で記載したとおりであり,デモ画面等は無論存

在せず, RBC営業社員と客先との人的信頼関係等により成約に至っ

た(甲221)


(c) サポート状況

契約に先立ち,平成15年4月3日システム分析を開始し,同月1

7日にマスタ業務を納品している。そして稼動業務を同年7月8日に

納品した。請求業務については,基本ソフトを同年10月24日に納

品し,同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。

また,長浜産業ではネットワークを構築する必要があり,同年9月

12日にネットワーク業務を納品している。

長浜産業は2段階に分けてRBCシステムを稼動させたため,同年

12月1日,平成16年1月1日の2段階でRBCシステムを稼動し

請求業務を開始した。



そして,同月28日に売掛業務を納品する等し,同年4月15日に

稼動確認をしたが,稼動確認書は取得しないままとなった。

d ベストレンタルについて

(a) 契約日,入金日

ベストレンタルとは,平成15年5月28日に契約をし,同年6月

30日契約代金を受領した。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

ベストレンタルとの契約時点では,請求業務までが一応完成しつつ

あり,ソフトとして最低限基本的な事項が完成しつつあり,ようやく

不完全なものではあるがデモ画面が完成し,同画面を示して説明が可

能となった(甲221)。

(c) サポート状況

平成15年5月26日よりシステム分析を開始し,同年7月10日

マスタ業務を,同年9月24日稼動業務を納品した。

請求業務については,同月末日に基本ソフトを納品し,同年10月

14日,カスタマイズしたソフトを納品した。

そして,ネットワークを構築する必要があったため,同年9月6日

にネットワーク業務を納品し,同年10月12日より本格稼動し,請

求業務を開始した。

なお,システム稼動確認書を取得したのは平成16年1月30日で

ある。

ウ Win版について

(ア) RBCシステムの開発状況

主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)については,平成15

年1月21日から同年2月10日ころの期間に完成させた。

次に,稼動業務,販売業務については,同月12日から同年3月26日



までの間で完成させた。

請求業務については,同月11日から同年5月ころまでの間で完成させ

た。

そのほかの業務ソフトは,ビジネスサーバ版の開発同様に,マスタ業務,

稼動業務,販売業務,請求業務において多数発生したバグへの対応や不具

合の修正に追われる中で,少しずつ開発していった(甲221)


(イ) 顧客へのサポート状況

RBC設立後,RBCシステムのWin版において最初に契約に至った

4社は,鈴建輸送株式会社(以下「鈴建輸送」という 。 ,名晶興産株式会


社(以下「名晶興産」という),有限会社興南機械(以下「興南機械」とい

う。,及び中村建機である。


以下,この4社につき,契約時期,契約代金の受領時を明らかにすると

ともに,RBCシステムのどの業務機能を,いつ入れて,いつどのような

指導を行い,最終的にいつ稼動したのかを説明する。

a 鈴建輸送について

(a) 契約日,入金日

鈴建輸送とは,平成15年4月18日契約をし,同年3月28日,

同年4月25日に契約代金を受領した。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

契約時点では,請求業務が完成しておらず,RBCシステムは基本

的動作すらできない状態であり,デモ画面等も出来上がっていなかっ

たが,人間関係を基礎として契約に至った(甲221)。

(c) サポート状況

契約に先立ち,平成15年3月14日,システム分析を開始し,同

日マスタ業務を納品した。

そして,稼動業務については,基本ソフトを同年4月18日納品し,



カスタマイズしたものは同年5月13日に納品した。

請求業務についても,同月30日に基本ソフトを納品し,同年9月

18日にカスタマイズ品を納品した。

そして,同年11月20日にRBCシステムの本格稼動ができ,請

求業務を開始し,平成16年9月9日に稼動確認書を取得した。

b 名晶興産について

(a) 契約日,入金日

平成15年6月19日契約し,同年7月25日に契約代金を受領し

た。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

契約時点では,RBCシステムは,基本的動作が可能な程度には完

成していた。したがって,一応のデモ画面が完成していたために,そ

れを見せて契約している(甲221)。

(c) サポート状況

平成15年6月13日にシステム分析を開始し,同年7月1日に,

マスタ業務,稼動業務,販売業務,請求業務,売掛業務を納品した。

そして,同年11月2日に,カスタマイズ後の請求業務を納品した。

平成16年2月1日には,RBCシステムを本格稼動させ,請求業

務を開始し,平成18年1月16日になって,ようやく稼動確認書を

取得した。

c 興南機械について

(a) 契約日,入金日

契約日は平成15年6月23日で,契約代金入金日は同年7月16

日である。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

同時点においても,既にRBCシステムは一応基本的動作はできる



状態であったため,不完全ながら一応のデモ画面を見せて契約した(甲

221)。

(c) サポート状況

平成15年6月25日にシステム分析を開始し,同年7月30日,

マスタ業務を納品した。稼動業務については同年8月1日に基本ソフ

トを納品し,カスタマイズ品を同年11月5日に納品した。

請求業務についても,同年8月1日に基本ソフトを納品し同年11

月末日にカスタマイズ品を納品した。

平成16年1月1日,RBCシステムを本格稼動させ請求業務を開

始し,同年11月16日稼動確認書を取得した。

d 中村建機について

(a) 契約日,入金日

契約日は平成15年8月2日で,契約代金入金日は同年10月1日

である。

(b) 契約時のRBCシステムの開発状況

契約時において,RBCシステムは基本的動作ができる程度には一

応完成しており,不完全ながらも一応のデモ画面を見せて契約した。

(c) サポート状況

平成15年8月28日システム分析を開始し,同年9月4日にマス

タ業務を,同月6日に稼動業務を納品した。稼動業務についてはカス

タマイズがあり,同年10月27日にカスタマイズ品を納品した。

請求業務については,同年9月18日に納品した。

そして,平成16年1月1日からRBCシステムは本格稼動を開始

し,請求業務を開始した。なお,同年後半に稼動確認を行ったが,稼

動確認書を取得しておらず,正確な日時は不明である。

エ まとめ



以上から明らかなごとく,RBCは,RBCシステムを開発するにあたり,

ビジネスサーバ版であれば約1年,Win版でも,7か月から3年を費やし

ているものであって,RBCシステムとKCSシステムが根本的に相違する

ことから当然のことではあるが,RBCシステムの開発に相応の期間をかけ

ている。

要するに,KCSシステムを剽窃・流用して,RBCシステムの開発期間

を短縮した,という事実はないのである。

(4) KCSの主張(1)(RBC設立前の準備行為)に対する認否・反論

ア KCSの主張(1)ア(貸出君新版の開発経緯)について

(ア) KCSの主張(1)ア(ア)(貸出君新版の開発に至る経緯)について

KCSが平成14年ころ「貸出君」のWin版廉価バージョン( 貸出君


for win 廉価版 」)とASP版入力簡素化バージョン( 貸出君ASP新


版」)の開発に着手したとの点は否認する。

(イ) KCSの主張(1)ア(イ)(貸出君新版の開発計画)について

KCSが第23期(平成13年9月?平成14年8月)に,X4を課長と

する開発課において「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」の

開発を計画し順次これに着手したとの点は否認する。

a 平成13年9月1日付「第23期(上)を迎えて」と題する書面(乙

5)及び平成14年3月2日付「第23期(下)を迎えて」と題する書面

(乙7)は,X2がKCSの専務取締役在職中に作成したもので,また平

成13年9月8日付「23期上期開発部方針」と題する書面(乙6)は,

乙第5号証の方針内容を受けX4が作成したものである。

これらはX2が,KCSの成長,業績,拡大のために,組織内システム

の確立・改善を実践したものに関連して作成されたもので,決算会議と呼

ばれる年2回開催の会議で発表された方針を示す文書である。

X2は,この中で各担当部門に対し,今後6か月間に実践してもらいた



い内容を記載していた。しかし,現実には,達成できなかった年度もかな

りあった。

b 乙第5号証によれば,2頁目「商品施策」欄に記載のとおり,「Win

版廉価バージョン」の商品化が求められており,これが第23期(上)の

商品施策の大きな目標の1つとなっていた。これを受けてX4が,乙第6

号証のとおり,開発部方針のひとつとして,「貸出君 for win 廉価版」の

商品化を策定したのである。

KCSの主張によれば,この「貸出君 for win 廉価版」が「ミスター

アドバンス」であるということになるが,荒唐無稽な主張というほかはな

い。

第23期(上)当時,KCSが販売の主としていたものは,「貸出君」

のASP版とWin版の両者であったが,実際には,この当時の販売実績

の中心は,ASP版であった。その理由は,当時のWin版がかなり重大

な欠陥を有しており,顧客より多くのクレームが発生していたためである。

そのため,これに対処することが,第23期上期の商品施策の1つとなっ

ていた(乙5,2頁目)


しかし,上記欠陥の内容は,「貸出君」Win版で使用されているデー

タベース,SQLサーバの基本的な条件設計の誤りによるものであり,こ

の商品を,今後改善,改良を加えるということは,新しいものを一から作

り直す程の時間と費用をかけなければならない状況であった。

c そこで,とりあえず,「貸出君 for win 廉価版」というものを新しく開

発することを計画したのであり,その内容は,OSにWindows20

00,データベースにオラクルを使用するというものであった(乙5)。

ところが,この「貸出君 for win 廉価版」は全く開発できないまま,

半年後の第23期(下)を迎えてしまったのである。このことは,乙第7

号証にも明記されていることである(2頁目,中段)。



また,乙第7号証の記載内容から明らかなように,結局,その2頁中段

(T(小文字)「貸出君」Win版の改良や,同(W(小文字)「貸出君
) )

for win 廉価版」の開発を諦め,Linuxにその軸足を移し,同時に,

もう一方の主力商品であるASP版に力点を置く計画に変更したのである。

d このように上期における方針が,わずか半年後の下期において変更され

たのは,前記のように,「貸出君」Win版は,欠陥商品としてのイメー

ジが強く,対処療法ではあるが一部修正も終わったので,一から新商品を

開発する程度の費用と時間を費やすぐらいならば,今後市場にて主力とな

るであろうLinuxを使った新たな「貸出君」を作る方が得策と判断す

るに至ったからである。

しかし,第24期(上)に至っても,結局,Linux版プロトタイプ

はできず,またもや計画倒れとなってしまった。

それは,前記のように,第23期(上,下)における多数のクレーム発

生で,その対応に多大な時間と戦力を費やさざるを得なかったためである。

なお,KCSは,ASP版入力簡素化バージョンを,平成13年9月に

開発したと主張しているが,乙第5,第6号証のどこにもそのようなもの

の記載はない。

e 以上,要するに,「貸出君 for win 廉価版」なるものは,OSをWin

dows2000とし,データベースをオラクルとして,開発する計画で

あったが,結局,開発できなかった(なお,現在,KCSにもRBCにも

データベースにオラクルを使用している商品はなく,RBCの現在の販売

商品もデータベースは「SQLサーバ2003」を使用している。。


このように,KCSにおいて開発できなかったものが,「ミスターアド

バンス」になったとするKCSの主張は事実に反している。

イ KCSの主張(1)イ(X2らによる不正な企て)について

(ア) KCSの主張(1)イ(ア)(RBC設立準備行為)について



X2が平成14年ころからKCSの経営権を不正に奪取しようと企て始め,

Y2やY1に理由もなく一方的に辞任を迫るようになったとの点,本来であ

ればKCSが取得するはずの代金を横領することにより着々と資金集めを進

めていったとの点,なるべく大量の従業員をRBCに移籍させてKCSを倒

産に追い込むべく秘密裏にミーティングを重ねたとの点は否認する。

RBC設立の経緯は前記(1)(新会社設立の経緯)で述べたとおりである。

(イ) KCSの主張(1)イ(イ)(ミスターアドバンスの開発)について

a KCSの主張(1)イ(イ)a(開発当初の状況とネーミング)について

X2らが,KCS在職中にRBC設立後に販売するソフトの開発の準備

を進めていたとの点,開発中に「ミスターアドバンス」という名前が決定

したとの点は否認する。

「ミスターアドバンス」は,RBCが平成15年3月設立時に,「前貸

し」を意味する「アドバンス」に「ミスター」を付けて名付けたものであ

る。

これに対し, KCSは,作成日付が平成15年1月10日となってい

る甲第20号証の5に「Mr.Advance」と書かれており, RB

Cらの上記主張と矛盾すると主張する。

この点,甲20号証の5は,プログラム定義書であり,当該プログラ

ムを作成したのが平成15年1月10日であることは間違いないが,甲

第20号証の5自体の作成は同日ではない。すなわち,当該プログラム

を開発した当初は数名で開発を行っており,きちんとした定義書など作

成する暇もなく,メモ書き程度を残して,次々とプログラムを開発して

いた。その後,順次 KCSを退職した人間が手伝うようになり,RBC

を設立して人数が増えると,ようやく X3にも余裕ができ,過去に作成

したプログラムについてメモを見ながら定義書を作成する作業ができる

ようになった。そして,甲第20号証の5を実際に作成したときには,



ミスターアドバンスという名称が決まっていたため,同名称を入力した

のである。

b KCSの主張(1)イ(イ)b(オペレーションマニュアル(乙9)の作成)

について

否認する。

(a) KCSは,X4がP11にオペレーションマニュアル(乙9)の作成

を指示したと主張するが,事実に反する。KCSの主張を前提にすると,

次のような矛盾が生じる。

@ P11に作成能力がないこと

P11は,平成14年4月にKCSに入社し,同年6月ころインスト

ラクターとして就業した。本来,インストラクターは,顧客に納入した

ソフトウェアの操作を指導することがその職務内容である。KCSでは,

インストラクターは「貸出君」というソフトウェアの操作説明をするこ

とになるが,そのためには,自分自身がこのソフトウェアの機能,動作

を理解していることが前提となる。すなわち,乙第9号証のようなオペ

レーションマニュアルを作成するためには,そのソフトの機能・動作等

を十分に理解していなければならない。しかし,平成15年1,2月当

時のP11は,入社してまだ1年未満であり,「貸出君」の中身の全体

を熟知しておらず,それまで,一度として操作指導等のために顧客を訪

問したことはなかった。

そのP11が,仮に乙第9号証を作成したとすると,文章をWord

で単純に入力して作ったとした場合,下書き原稿が必要となるが,X4

はもちろんのこと,誰もP11に対して入力の指示をしたり原稿を渡し

たりなどしていない。存在しないソフトウェアのオペレーションマニュ

アルの原稿など,作成できたはずがない。

A 作成期間が短すぎること



それでは,原稿がないまま乙第9号証を作成したと仮定してみる。こ

のように原稿がない場合のオペレーションマニュアルの作成は,まず,

インストラクターにソフトウェアの内容を知悉させるため操作練習及び

操作・機能説明を行ない,インストラクターはこれに基づいて自ら下書

き原稿を作成し,Wordを使ってオペレーションマニュアルを完成す

る,という手順をとる。甲第14号証の「開発スケジュール」を例にと

ると,インストラクターは,まず,平成15年3月10日ころ,操作練

習及び操作・機能説明を受ける。そして,最初に,マスター系のオペ

レーションマニュアルの下書き原稿を作成し,このマニュアルを完成さ

せる。次に,平成15年4月末ころから入出庫稼動等の操作練習及び操

作・機能説明を受け,下書き原稿を作成し,このマニュアルを完成させ

る,という手順になる。

ところが,KCSの主張によると,これらを平成15年1月30日か

ら平成15年2月7日までの期間に一挙に作成したことになる。KCS

によれば,乙第9号証の1の1は「Aマスタ登録業務」のオペレーショ

ンマニュアル,同号証の2の1は「B稼動業務」のオペレーションマ

ニュアル,同号証の3の1は「C販売業務」のオペレーションマニュア

ル,同号証の4の1は「問合せ」のオペレーションマニュアル,という

ことであり,同号証の各1の2,2の2,3の2,4の2には,各オペ

レーションマニュアルを作成したとする日が記載されている(P11の

署名捺印あり)。これらには作成期間が記載されておらず,作成したと

する日が1日だけ記載されているが,各オペレーションマニュアルを1

日で作成したなどということはあり得ない。たとえば,乙第9号証の3

の1は,平成15年1月30日に作成したとされているが(乙9の3の

2),Wordを使用し,画面の切り取り,張り付け等の作業を行なわ

ねばならず,これを1日で仕上げるなど考えられない。



そこで,各オペレーションマニュアルの作成と説明に一定期間を要す

るとの前提で考える。乙第9号証の2の1と同号証の4の1は,いずれ

も平成15年2月4日に作成したとされている(乙9の2の2,乙9の

4の2)。これらについて,同号証の3の1(上記のとおり平成15年

1月30日に作成したとされている。)の作成完了後,直ちに作成作業

に取り掛かったとすれば,その作業期間は,平成15年1月31日,2

月3日,2月4日の3日間となる(2月1日,2日は土,日)
。しかし,

3日間でこれらを仕上げることなど極めて困難である。また,同号証の

1の1(平成15年2月7日に作成したとされている〔乙9の1の

2〕)に至っては,2月5日,2月6日,2月7日の3日間で作成され


たことになるが,このようなことはおよそ不可能である。

ところで,X4が原稿を作成し,P11がそれに基づいて入力作業を

行なったとすると,両者の間で,原稿の内容及びマニュアルの全体イ

メージ,構成等についての協議がなされ,P11からX4に対して質問

が発せられたはずである。しかし,これらのことをY1に気付かれない

ように行うことは不可能である。また,P11は,2月4日に乙第9号

証の4の1を作成し,2月7日に同号証の1の1を作成したと記載して

いるが,X4は,2月4日と2月5日は沖縄へ出張しており,大阪に不

在であった。P11は誰に質問をし,誰によって解決しながらこのマ

ニュアルを作成したというのであろうか。

B 作成順序が不自然であること

ここで強調すべきは,P11が述べている乙第9号証の作成順序が極

めて不自然であるということである。

コンピュータソフトの開発は,マスター系を開発することがまず最初

の手順である。これは,たとえば,建物を建築する時の基礎工事と同様

で,これなくしてソフトはできない。したがって,本来なら,「Aマス



登録業務」(乙9の1の1)が最初に作成され,次に「B稼動業務」

(乙9の2の1)「問合せ」
, (乙9の4の1)「C販売業務」
, (乙9の3

の1)の順に作成されるはずである。

ところが,P11によれば,最後に作成されるべき「C販売業務」

(乙9の3の1)が最初(1月30日)に作成されたことになっており,

逆に,まず最初に作成されるべき「Aマスタ登録業務 」(乙9の1の

1)が最後(2月7日)に作成されたことになっている。このようなこ

とは,X4の依頼によるものだとすれば,あり得ないことである。

C 作成の必要性がないこと

そもそも,平成15年3月にKCSを退職する従業員が,何のために

同年1,2月の時点で KCS内で危険を冒してまでオペレーションマ

ニュアルを作る必要があったのか不自然極まりない(X4が退職届を提

出したのは平成15年3月6日であるが,同人は,同年2月初旬には既

に退職の意思を固めていた。。


オペレーションマニュアルは,顧客に納入した後,各業務毎に提供す

るものであり,P11が述べる作成期間を前提にするなら,乙第9号証

は,10日間もあれば作成できることになるから,X4らは,KCSを

退職した後に作成しても十分間に合うはずである。平成15年2月当時

は,同じフロア?でY1が毎日常在しており,KCS内で誰が何をして

いるか見張っていたのであり,しかも,このころ,Y1は,KCSの東

京営業所において不始末が発覚したと大騒ぎしていた時期であり,P1

1が乙第9号証作成のため連日入力作業を行い,X4と何度も話合いを

行なっていたのであれば,Y1が気付かないはずがない。このような時

期に,KCS内で危険を冒してまで,P11に命じてオペレーションマ

ニュアルを作成する必要性など全くなかった。

D 乙第10号証について



KCSは,乙第10号証は,乙第9号証が平成15年1月から2月に

かけて作成された事実を証明するものと主張するが,乙第10号証もま

た,KCSらによってごく最近になって作成されたものであり,何の証

拠にもなり得ない。

このような文章フォルダを作成することはいとも簡単なのである。R

BCらも,乙第10号証と同じ内容の文章フォルダ(甲29)を作成し

た(ただし,乙10中の「とりあえず」の文言を,甲29では敢えて

「完成された」と打ち直して作成した。。


E 作業依頼書が作成・提出されていないこと

乙第7号証の4頁の組織図にあるとおり,平成15年1,2月当時,

P11は業務課(X1課長補佐)に配属されており,X4は開発課の課

長であった。当時,他の課に仕事を依頼するには,依頼元の課長が「作

業依頼書」を手書きで作成して捺印し(サインの場合も多い。,依頼先


に提出するのがルールとなっていた。したがって,X4がP11にオペ

レーションマニュアルの作成を依頼するのであれば,X4がX1に「作

業依頼書」を提出することになるが,X1はこれを受領したことがなく,

X4も提出したことがない。

(b) 乙第9号証は,RBCが各顧客に「オペレーションマニュアル」とし

て渡したものをKCSらが入手し,あるいは他の方法で手に入れて,本件

訴訟用に変造したものである。このことは,次のとおり,乙第9号証の表

紙のデザインが,KCSの貸出君のマニュアル(甲87)の表紙のデザイ

ンと同じことから明らかである。

@ 「オペレーションマニュアル」は顧客に配布するためのものなので,

それなりの体裁が整えられており,通常,まず目次があり,各章毎に章

の表紙を付けている。その表紙のデザインには,簡素ではあるが,多く

の場合,作成者のセンスに応じ,ロゴが付されている。



乙第9号証の1の2の「Aマスタ登録業務」とある表紙にも,小さな

葉のようなロゴが付けられている。

ところが,このロゴは,KCSが,平成14年にも,平成15年にも

顧客に配布していた「オペレーションマニュアル」(甲87)の表紙に

使われているものと全く同じものである。

A KCSの主張によれば,乙第9号証は,X4が,KCSを退職する1

か月程前に,現在のRBCのために,部下を使って作成させたというの

であるが,もしそうであれば,既に,KCSが表紙に使っていたものと

同一のロゴを使用することなどおよそあり得ない。

しかも,このロゴは,以下に述べるように,KCS独自のもので,一

般化されていないものである。RBCは,マイクロソフト社製のWor

dという文章作成ソフトを利用しているが,このソフトには,約300

0種のロゴ,カット絵等が「クリップアート」として標準装備されてお

り,Word上で簡単に使用できるものである。ところが,KCSの使

用している前記表紙のロゴは,この標準には入っておらず,独自のもの

である。もし仮に,X4が,KCSの主張のとおり,平成15年1月3

0日から同年2月7日までの約10日間の短期間に,乙第9号証のよう

なものをKCS代表者やY1に内密で作成するとすれば,前記ソフトの

標準に入っていない特殊なロゴをわざわざ真似るようなことをせず,簡

単に作成し得る別のクリップアートを使用していたはずである。

B このロゴの部分を含め,甲第87号証の各章毎の表紙は乙第9号証の

1の2,2の2,3の2と全く同じデザインで作られている(番号のA,

B,Cの形状まで同一である)。

前記のとおり,X4が,今後,自分たちで販売するつもりの商品のオ

ペレーションマニュアルを作成したとするなら,当時KCSが使用して

いた表紙のデザインを用いることなど,これまたあり得ない。



(c) 乙第9号証は,RBC作成の「ミスターアドバンス」のオペレーショ

ンマニュアル(甲96)を変造したものであるが,そのため,両者には異

なる箇所が多々ある。これをまとめたものが別紙10「乙9・甲96対比

表」である。

他方,上記対比表の「異なる点」の欄で指摘したとおり,乙第9号証は,

KCS作成の「貸出君」のオペレーションマニュアル(甲87)と多くの

点で類似している。

すなわち,KCSらは,「貸出君」のオペレーションマニュアル(甲8

7)を基本にして,「ミスターアドバンス」のオペレーションマニュアル

(甲96)に変造を加えて,本件訴訟に提出しているのである。

(d) 乙第9号証では,次のとおり異なるコード表示がなされており,そも

そもプログラムが正常に稼動しない。

@ コンピュータシステムを創るには,まずマスタを決定し,その後,

必要な業務処理に関し,多数のプログラムを構築していく。そのマス

タは,業種や業界によりその特徴が表わされる。そして,一旦,マス

タにおいて決定された各項目の条件(たとえば,得意先コードの桁数,

仕入先コードの桁数,区分コードNO等)は,同じコンピュータシス

テム内においては,統一して使用される。

A ところが,乙第9号証の1の1(マスタ登録業務)を注視してみる

と,ページにより,条件が不統一,不一致となっている記載を多数確

認することができる。これをまとめたものが別紙11「乙9不統一・

不一致表」である。すなわち,乙第9号証には,得意先コード7桁の

プログラムと6桁のプログラムが混在していることになっており(表

1),仕入先コードも同様に異なる桁数が記載されている(表2 )。ま

た,「仮設」という商品区分が頁によってB,Kという異なる記号で表

現されており(表3),項目の名称も表示画面により異なった表現とな



っている(表4)など,同一のソフトならおよそあり得ない事態とな

っている。

ちなみに,甲第114号証の1?9は,大塚商会が販売しているレ

ンタル業界向けコンピューターソフトの「運用オペレーションマニュ

アル」の一部であるが,得意先コードはどの頁も6桁であり,仕入先

コードもどの頁をみても6桁で,それぞれが統一されている(得意先

コードが,ある頁では5桁などということにはなっていない)。

B そこで,乙第9号証において異なるコード表示がなされていること

の理由を改めて分析すると,2種類のシステムの一部ずつ張り合わせ

て作成されたためであることが明らかとなる。 KCSら は,2種類の

オペレーションマニュアルの根本的な違い(コードの桁数など)を見

逃して乙第9号証を作成したため,このような破綻を示したものとい

える。

(e) 乙第9号証は,およそオペレーションマニュアルとしてはあり得ない

ものである。

すなわち,乙第9号証は,各種マスタプログラムについてのオペレー

ションマニュアルである。たとえば,同号証の1の1の頁(2?1)に,

「得意先マスタ登録・修正・削除」というマスタプログラムが存在する

ことを前提として,頁(2?1)から(2?4)までが,そのプログラ

ムの内容の説明ということになっている。ところが,詳細に検討すると,

「型式マスタ・登録・修正・削除」という別異の表現が随所にみられる。

その記載箇所を一覧にしたものが,次の表である。

(表)乙9の1の1に「型式マスタ・登録・修正・削除」という語彙

が記載されているページ

頁 行数

2? 4 上から17行目



2?26 下から 4行目

2?27 下から 3行目

2?28 最下行

2?45 最下行

2?49 最下行

2?54 下から 8行目

2?55 下から 4行目

これによると,「型式マスタ・登録・修正・削除」という名称のプログ

ラムが,同号証の1の1内に存在することになる。しかし,このような

プログラムはこのオペレーションマニュアルのどこにも存在しない。

前記のとおり,同号証の1の1は,KCSソフトのオペレーションマ

ニュアル(甲87)から20数頁をそのままコピーし,他のオペレー

ションマニュアルと合成して作り上げたものであるために,このような

矛盾に満ちたものになってしまったのである。

(f) 小括

KCSは,乙第9号証はP11が X4から指示されて作ったオペレー

ションマニュアルであり,実際にシステムを稼動させながら,平成15

年1月22日から同年2月7日にかけて作成したと主張する。

しかし,前記(d)(e)のとおり,桁数が同じでなければならない部分

が違う桁になっていたり,存在しない「型式マスタ登録修正削除」とい

う項目が何度も出てきたりしており,乙第9号証のとおりのシステムで

あれば稼動しないことが明らかである。

いかに「とりあえず」作っておいてくれと言われたからといって,シ

ステムを稼動させながら作っていたのであれば,ここまで間違いだらけ

のマニュアルを作ることはない。

そして, RBCらからのこの指摘に対して,KCS からは何ら反論が



なされていない。また,P11は,証人尋問において,同期が全員辞め

るという異常な事態にもかかわらず,会社内の雰囲気に何も感じなかっ

たと述べたり,覚えていないと述べたりするなど,その尋問態度は不自

然であり,到底信用できない。

(ウ) KCSの主張(1)イ(ウ)(各種資料等の持ち出し)について

a KCSの主張(1)イ(ウ)a(各種資料の持ち出し及びKCSの対応)に

ついて

KCS元従業員が書類等を大量に持ち出したとの点は否認する。

(a) そもそも「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」なる

成果物などは存在せず,このようなものをKCSが主張する平成13年

9月から開発などしていたら,KCSに現在在籍している従業員も当然

その成果物を見ているはずである。

(b) X4が休日に届出もせず出社していたのは,当時は通常のことで,

その多くはトラブル顧客の解決のためであった。すなわち,平成13年,

平成14年当時は,トラブルを持つ顧客が多数存在し,その対応にX4

を含むシステム担当者も,日々忙殺されていたのである。

(c) また,当時のKCSの顧客はRBCの現在の営業担当従業員がすべ

て販売していたものであり,個人記録帳で十分に間に合うから,X4ら

が顧客名簿,契約書など持ち出す必要など全く存在しない。

この点に関し,P14係長は,KCS在職の過去10年間の自分の作

成した書類は自分の保有物と思い込み,それらを持ち出したことはある

が,それらがKCSのものであるとの説明を受け全部返却している。ま

たこのことで,東警察署に事情聴取を受けたことも事実である。

しかし,警察による事情聴取の内容(つまり,警察の主な関心)は,

専らY1の人格についてのものばかりで,P14係長が,警察から,何

を聞かれたかについて現在記憶しているのは,そのことだけである。



(d) RBCはKCSの主張する資料や,「貸出君」のソースプログラム

等を所持する必要など全くないものであり,したがってKCSから成果

物を持ち出したことはない。

ソースプログラム等は多くの顧客のコンピュータシステム内に存在し

ており,そのようなものを持ち出す必要性などまったく存在しない。

b KCSの主張(1)イ(ウ)b(ドキュメントのコピー)について

争う。

c KCSの主張(1)イ(ウ)c(K6900のRBCへの持ち込み)につい



否認する。

K6900は,KITシステムズが,リース期間終了後に廃棄する際

(平成13年9月ころ),当時KCSに在籍していたX4が,KITシス

テムズのP22より,できるだけ早く返還,廃棄することを前提に貸与さ

れたものである(なぜなら,当該オフコンは,ファイナンス会社の所有物

で,KITシステムズが廃棄することを請け負ったものである)。

貸与の条件は,KITシステムズの顧客那覇鋼材のシステムチェックで

あったが,機械の不足を補うために他のメンバーも使用していた。そのた

めX4は,KCS在籍中,当該オフコンを使い,那覇鋼材のシステムの細

かなチェックを行っていた。平成15年2月,X4が,KCSを退社する

ことを決定した後に,責任上,KITシステムズに連絡し,当該オフコン

の内部のデータすべてを抹消して,廃棄の手続を行ったものである。した

がって,KCSに所有権などが存在するものではない。

KCSは,P18,P17に, RBC内で見た」
「 「使用した」と虚偽の

陳述をさせている。P18,P17とも,在籍期間1か月程度であり,当

該オフコンを使用することなどあり得ない。すなわち,両名とも,卒業後

に入社したKCS在籍中に,それぞれWindowsやLinuxを中心



とした仕事に従事しており,オフコンなど使用したこともなく,また使用

できる技術力は全くなかった。

(5) KCSの主張(2)(持ち出された成果物等とミスターアドバンスの一致)に対

する反論

ア KCSの主張(2)ア( ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が


「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルの記載事項と一致す

ること)について

乙第9号証が,KCSのオペレーションマニュアル(甲87)を基本にし,

RBCのオペレーションマニュアル(甲96)に変造を加えたものであること

は,前記(4)イ(イ)bのとおりである。

したがって,「ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が乙第9号

証の記載事項と一致するからといって,これによって, KCSによって開発

されていた「貸出君 for win 廉価版」がKCSの元従業員によって持ち出さ

れて「ミスターアドバンス」として販売されたことを裏付けることにはなら

ない。

イ KCSの主張(2)イ( ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新


版」の仕様書と同一内容であること)について

(ア) X3とX6は,KCSに在籍中,プログラム定義書を作る作業に従事し

ていた。そして,P20(当時KCS福岡営業所勤務で福岡に居住)は,プ

ログラム定義書に基づいて,実際に作動するプログラムを作成する業務に従

事していた。

(イ) X3は平成15年1月6日,X6は同年1月20日にKCSを退職した。

同年2月中旬ごろ,Y1は,同年2月20日にKCS福岡営業所を閉鎖す

る方針を打ち出したが,P20,P10,P19に対し,同年3月20日付

で解雇するが,それまで同営業所で残務整理するように命じた(それ以外の

者は直ちに解雇された。なお,上記方針どおり,2月20日に同営業所は閉



鎖された)。

(ウ) 前記のとおり,同年1月にKCSを退社していたX3とX6は,同年2

月末日ごろ,P20(母子家庭)に対し,夜間や土,日曜の時間帯を利用し

て,X3やX6が作成する定義書に基づいて,生活費の足しにするためアル

バイトとしてプログラムを作ることを依頼し,そのために必要なオフコンを

P20の家に置いた。ところが,自宅のオフコンに対しては定義書を送信す

ることができないため,同年2月末か3月初めころ,X6は,大阪からP2

0が残務整理をしていた福岡営業所のパソコンに定義書を送信した。それが

残ってしまったのが,乙第23号証の2枚目以降である。

すなわち,これは,KCSを退職した後に,X3,X6が作成したもので,

(残務整理とはいえKCSに在籍していたP20に対して送信したことは不

適当ではあるが)KCS在籍中職務上に作成されたものではない。

なお,乙第23号証の1枚目の送付書にあたる部分は,X6が作成したも

のであるが,上記のとおり同年2月末か3月初めころ作成されたものである。

(エ) KCSは,この送付書から送信日が分かる部分を切り取ってコピーし

(すなわち,同年2月末か3月初めに作成された送付書を変造し),本件訴

訟用に乙第23号証を作り,「平成15年1月以前」に作成されたものと主

張しているのである。

(オ) KCSらの証拠説明によると,乙第23号証の作成日は「平成15年1

月以前」という曖昧なものであるが,本書自体には日付が一切記載されてい

ない。この種の書類は,Excelという表作成用のソフトウエア(マイク

ロソフト社製)を用いて作成されるが,その際には,必ずツディー(toda

y)処理を行なっているので,その処理をした日付が記載される。ところが,

乙第23号証に全く日付が記載されておらず,特に,必ず送信された日付が

強制的に入るようになっている発信文書にも,日付の記載がない。このよう

な奇怪ともいうべき文書である乙第23号証は,KCSらにおいて,本件訴



訟用にX6のメールから日付を消去し,切り取って変造して作成されたもの

であることは明らかである。

(カ) したがって,「ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新版」

の仕様書と同一内容であるからといって,これによって, KCSによって

開発済みの「貸出君ASP新版」プログラムが KCSの元従業員によって

持ち出され,「ミスターアドバンス」として販売されたことを裏付けること

にはならない。

(キ) KCSは,乙第23号証の内容が開発済みのプログラムに対する修正を

指示する仕様書であるとして,この時点以前に現場マスタメンテナンスの開

発が開始されているはずであり,甲第116号証の22で現場マスタメンテ

ナンスの開発開始が平成15年4月11日というのは矛盾すると主張する。

確かに,乙第23号証のみを見れば,そのようにも思える。しかし,実は,

同号証を送付する直前に,現場マスタメンテナンスの開発を指示する仕様書

を送付しており,同号証は,その仕様書についての変更を指示したものなの

である。すなわち,同号証が送付された時点では,現場マスタメンテナンス

のプログラムは未だ開発されていなかった。そして,P20は,もともと土

日と夜間のみのアルバイトの予定であったが,結局はKCS在職中は忙しく

て開発することができず,退職してからの開発となったため,開発開始は平

成15年4月11日としているのである。

(6) KCSの主張(3)(RBCらの弁解が不合理であること)に対する反論

ア KCSの主張(3)ア(プログラム数)について

(ア) KCSの主張(3)ア(ア)(プログラム数に関する主張立証に矛盾がある

こと)について

甲第13号証の別紙は,今後作成する予定のプログラムまで全て含んだ一

覧であり,同号証提出時における作成本数と矛盾しない。同号証別紙は開発

予定のプログラム一覧であるが,プログラムID等の番号は,予め決めてお



いたのである。

甲第115号証は,専門委員の判断に必要な限度で提出した書面であり,

全てを出したわけではないから,プログラムの一部にすぎなくとも当然であ

る。RBCらが提出したプログラムが少ないのは,営業秘密であるから全て

を出すことができないことや,専門委員による創作性類似性の判断のため

には,全てを出す必要がなく,専門委員に伺った上で,提出プログラムを絞

ったからである。

(イ) KCSの主張(3)ア(イ)(甲115及び甲117のプログラム一覧は一

部にすぎないこと)について

上記のとおり,甲第115号証は,専門委員の判断に必要な限度で提出し

た書面であり,全てを出したわけではないから,プログラムの一部にすぎな

くとも当然である。

(ウ) KCSの主張(3)ア(ウ)(甲115と甲116との間に齟齬が生じてい

ること)について

甲第116号証は,修正履歴であるが,メインプログラムのみを修正し,

それ以外の部分は一度作ったら修正不要であるため,メインプログラムのみ

に修正履歴があるのである。したがって,甲第115号証と甲第116号証

は矛盾しない。

修正が不要なプログラムについてまで本数に含まれるのが慣例であるのは,

プログラマーが,自分が開発した本数を多く見せたいという気持ちからだと

思われる。

イ KCSの主張(3)イ(開発期間に関する矛盾)について

(ア) 「120人/月」に関する当事者の主張の経緯

a KCSは,平成16年3月18日付け準備書面(1)7頁において,

「原告( RBC )の従業員らは,被告( KCS)に在籍していた平成1

3年ころから貸出君の新バージョンの開発に従事しはじめ,15年1月



ころにはこれを完成させた。原告( RBC)の従業員らはこのプログラ

ム及びドキュメントを社外に持ち出して原告( RBC)のソフトを完成

させた」と主張した。

b これに対し, RBCら は, KCS 社内で, KCS の貸出君の新バー

ジョンを完全に新しくカスタマイズさせるとすれば,そのような短期間

(平成13年から平成15年1月)ではできないことを指摘するために,

平成16年5月11日付け準備書面(2)において,
「そもそも一企業の

存続を決定するほどの規模のパッケージシステムを造るとすれば,業界

状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要であ

り, KCS 在籍中に誰も知られずに大きなシステムを造ることなどでき

るはずがない」と反論したのである。

ここで RBCらが, KCS在籍中に誰も知られずに大きなシステムを

造ることなどできるはずがない,と述べていることから見れば, RBC

の反論は, KCS 社内で貸出君の新バージョンを完全に新しくカスタマ

イズさせるには120人/月の人力が必要であり, KCSが主張するそ

のような短期間(平成13年から平成15年1月)ではなし得ない,と

反論していることが明白である。換言すれば, RBCらがミスターアド

バンスを開発するために,120人/月の人力が必要であると主張した

ものでないことも,また明白である。

なお,プログラムの業界においては,通常,「人/月」とは,1人の人

間が1日8時間で23日働いた労力を指すため,このときもその意味で

使用している。また,「システムエンジニアー」と記載しているが,顧客

に対して見積もりを出すときにシステムエンジニアーとプログラマーを

分けて記載しないのが通常であり,プログラマーも含む趣旨で使用して

いる。

c しかるに,KCS は,以後の準備書面(平成16年6月16日付け,



同年8月6日付け)において, RBCらがミスターアドバンスを開発す

るには120人/月の人力が必要であることを自認している,と RBC

ら の主張の真意を,敢えて KCSの都合のよい意味にすり替えた。すな

わち, KCS は,RBCらがミスターアドバンスを開発するに必要な数

字として述べたものでないことを,あたかも RBCらがそのような趣旨

で述べたように誤って主張したものである。

(イ) RBCのシステムを作成するに必要な「人力」

a KCS は,甲第15号証から,平成16年3月においても,Win版

で25人/月,ASP版で47人/月の人力しかかかっていないと主張

する。

(a) しかし, RBCが平成15年1月から平成16年3月までにシス

テム開発に要した人力は,別紙12「甲15の説明表」のとおりであ

る。すなわち,

@ Win版システム :58人/月の人力(15年1月から平成1

6年3月迄)

A ASP版のシステム:83人/月の人力(15年1月から平成1

6年3月迄)

となる。したがって,KCSの主張とは相違する。

(b) KCS の主張が,別紙12「甲15の説明表」とは異なるのは,

KCS がシステムエンジニアーの担当部分だけを取り上げ,プログラ

マーの担当部分を除外しているが,前記のとおり, RBCら の主張す

る「人/月」はプログラマーも含むものだからである。

(c) また,甲第15号証記載の月数は,1日8時間労働で23日勤務

で換算したものではなく,単純な延べ月数であるが,RBCら は短期

間で開発するために全員が一丸となって開発を進めていたため,1日

の労働時間は8時間をはるかに超えていたし,休みもなく働いており,



「人/月」計算に換算すれば2倍近くなると思われる。

しかし,労働時間の記録はなく,1日8時間労働で23日勤務に換

算しての人力の主張は不可能なため,単純な延べ月数での主張にとど

める。

b それでは,RBCシステムは一体どのくらいの人力をかければ完成す

るかということであるが,これは,RBCシステムは顧客ごとにカスタ

マイズを予定していて,常に半製品であり,パッケージソフトのような

「完成」形態というものは存在しない。また,顧客ごとに「完成」とい

う時点はあるが,顧客によってプログラム数も異なり,かかる人力も異

なってくる。

したがって,RBCシステムが何人/月で「完成」するかは,顧客ご

とに異なってくるといえるが,複数の顧客のシステムを同時並行的に開

発しているため,各顧客ごとの工数を出すのは極めて困難である。

そこで,最初の販売先の稼動確認ができた時点で,一応の完成と定義

づけ,この時点での工数を出すことにするが,そうすると,Win版で

は平成16年9月に稼動確認し,ASP版では同年1月に稼動確認して

いるため,Win版においては,平成16年9月までの人力,ASP版

においては,同年1月までの人力が,完成までに必要な人力となる。

別紙13は平成16年1月までのASP版の人力を,別紙14は同年

9月までのWin版の人力を,それぞれ表にしたものである。すなわち,

@ Win版システム :103人/月の人力(15年1月から平成

16年9月迄)

A ASP版のシステム:89人/月の人力(15年1月から平成1

6年1月迄)

となる。

当然,このときも,他の顧客の作業も含まれているため,最初の販売



先のみにかかった工数というわけではないし,前述したとおり,残業時

間や休日勤務まで含んでいるため,正確な「人/月」ではない。

なお,最初の「販売」ができた平成15年3月の人力も念のため表に

すると,別紙15のとおりとなり,

@ Win版システム :4人/月の人力(15年1月から平成1

5年3月迄)

A ASP版のシステム:12人/月の人力(15年1月から平成1

5年3月迄)

となるが,「販売」ができた時点で「完成」とはいえないことは,後記ウ

のとおりである。

c よって,RBCシステムの完成を稼動確認時と定義すると,完成に必

要な人力は,Win版で103人/月,ASP版で89人/月となる。

(ウ) 以上のように,KCS が「原告(RBC)はミスターアドバンスの開

発に120人/月の人力が必要と認めておきながら,16年3月時点でそ

の1/3?1/5にあたる,25人/月の人力,47人/月の人力でミス

ターアドバンスを開発したと主張していることは,平成16年3月時点に

おいてすらシステムの完成にほど遠いことを表している」と主張している

のは,前提問題をすり替えた空論である。

ウ KCSの主張(3)ウ(開発スケジュールに関する矛盾)について

(ア) RBCシステムは請負型であること

a コンピュータソフト開発業者が顧客との間で顧客の要求を分析すると

いう作業から仕事を始め,その顧客の要求に応じたシステムの基本設計

を行い,合意に達した内容を基に具体的なプログラミング作業を行い,

検収の上納入するという方式を一般的に「ソフト請負方式」と呼んでい

る。洋服や住宅の例でいえば,完全なオーダーメイド服や完全な注文住

宅というものが,コンピュータ業界のソフト請負方式となる。



ソフト請負方式の利点は,顧客の要求に沿ったソフトであるために顧

客の満足度が高いという長所があるが,欠点としては,開発までの期間

が長く,開発費用が高額になってしまうということが挙げられる。大企

業は,ソフト請負方式による開発を依頼することが多いが,一般的に中

小企業は,ソフト開発に高額を投じることが難しいのが現状である。

b これに対し,「完全パッケージ方式」のソフトも存在し,長所としては

安価なこと,短所としては自由度が全くないことが挙げられ,ソフト請

負方式とは正反対となる。洋服や住宅の例でいえば,既製服や建売住宅

ということになる。

完全パッケージ方式のソフトは,全く同じ内容ソフトを相当数販売す

るから,安価で販売しても開発コストを回収できるのであり,需要が多

くなければならないし,販売に先行して開発するコストをコンピュータ

開発業者が負担しなければならないため,よほど力のあるコンピュータ

開発業者でなければ不可能である。また,押し着せのソフトでは満足で

きない顧客も多く,個別の要望を取り入れて欲しいという声が多かった。

c そこで大手コンピュータメーカーは,昭和50年ころより,多数の中

小企業向けにコンピュータを販売するためにはソフトの安さが必須であ

るとの考えから,ソフトの「基本パッケージ化」という考え方を取り入

れたのである。

この考え方は,顧客要求のうち共通化できる部分は,一度開発したも

のを他の顧客にも用いることで,比較的低価格でコンピュータソフトが

販売できるというものであり,共通した部分を「基本パッケージ」と呼

ぶ。また,その他の顧客要求は個別に開発を進めるため,個々の要望に

も対応できるのである。すなわち ,「基本パッケージ 」「販売」などとい

う用語は使用するものの,その実態は請負型である。

基本パッケージ方式は,開発の工数が軽減されるために完全請負方式



に比べて早く完成し,安価である上,顧客の要望も取り入れることがで

きるという長所を持っていて,ソフト請負方式と完全パッケージ方式の

長所を併せ持つ上,「販売」という名称を用いるために,契約時に金銭を

回収してから個別開発をすすめることができるというメリットもあり,

何種類かの基本パッケージ方式のソフトが大手コンピュータメーカーか

ら発売された。

d しかし,大手が販売を開始した基本パッケージでカバーできる業務は,

企業形態として比較的多数存在する物販業者(商事会社)やアセンブル

業者(製造業)などに限られ,その他多くの業種の事業形態にはこのよ

うな方式は取り込めない状態が続いていた。

そこで,平成元年ころ, KCSに在籍していた X2が中心となり,当

時全く手付かずであった市場規模の小さな建設機械のレンタル業者向け

のコンピュータソフトを開発するにあたり,この業界独自の基本パッ

ケージ化を着想しソフトを開発,販売し始めたのが「貸出君」である。

「貸出君」においては, RBC 従業員が KCS 在籍中に「可変システ

ム」という表現を思いつき,「可変システム」であることを強調していた。

したがって,「貸出君」は基本パッケージ方式として請負型に属し,R

BC も,基本パッケージ方式で「ミスターアドバンス」を開発販売して

今日に至っており,いずれも請負型である。

そして,RBCシステムは,請負型であるため,平成15年1月から

開発を開始し,同年3月の会社設立と同時に販売(契約)することが可

能だったのである。

(イ) KCSの主張

KCS は,RBCシステムが平成15年1月に開発を開始して同年3月

に「販売」可能になることはあり得ないと主張しているが,この主張は,

RBCシステムやKCSシステムが請負型ではないということを前提にし



ている。

そして, KCSは,KCSシステムの販売には,変動経費はかからない

と主張し,その理由として,「一度プログラムが完成してしまえば,1つ追

加的に販売するために,原材料の仕入れ等の追加的費用が必要となる訳で

はない。」としているところ,請負型であれば,販売ごとに開発経費がかか

るのであるから,KCSの上記主張は,KCSシステムが請負型ではなく,

完全パッケージ型であるという趣旨である。

また, KCSは, RBCが,販売時からリース料を受け取っていたこと

に対し,「機能しないソフトのために毎月のリース料を何のクレームもなし

に支払い続ける顧客が存在するはずもなく, RBCらの弁解は一見して虚

偽である」と主張する。以下,KCSの上記各主張について反論する。

(ウ) KCSのウェブサイト

KCSは,自らのホームページにおいて,「貸出君導入手順イメージ」と

して,「現状調査分析」「基本設計」「詳細設計」が必要であることを明記し

ている(甲230の1)。このことは,請負型のソフトであるということを

自認している。

この「貸出君導入手順イメージ」には,マスタ原票の作成・登録・指導

の後に,詳細設計が置かれているが,これは RBCが,マスタープログラ

ムの主要部の開発後に要望事項を順次開発納品するという手順と全く同じ

である。また, RBC従業員が KCS在籍中に考えた「可変システム」と

いう表現もそのまま使い続けている(甲230の2)。

(エ) KCSの顧客

KCSは, RBCが信用誹謗行為をしているとして,大東建機株式会社

の担当者からのメール(乙117)を提出したが,その大東建機株式会社

は,KCS から「貸出君」を購入し,ファイナンスを利用して支払を実施

したにもかかわらず, KCSからプログラムの納入を受けることができな



かったという損害を被っている(甲232)。したがって,KCSがあり得

ないと主張する,ソフトが機能していない状態でリース料を払い始めると

いうことは,KCSにおいても当然のごとく行われていたものである。

このように,ソフトが機能していないのに契約金額を受領するのは, R

BCも KCS も,資金が潤沢にある大手企業ではなく,開発にかかる経費

を先に回収するというスタイルをとらざるを得ず,そのことを顧客にも理

解してもらい,きちんと最後まで完成させるということを信頼してもらっ

ているからである。

ところが, KCSは,ソフトを完成させることができなかったのであっ

て,顧客に大変な損害を与えているのである。

(オ) 小括

以上のとおり,RBCシステムが請負型であるため,開発が完了していな

くても,平成15年3月にRBCシステムの販売を開始することが可能だっ

た。

2 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害す

るか)の(1)(貸出君プログラムの著作物性の有無)について

【KCSの主張】

(1) 判例上の基準

プログラムが著作権法上の保護対象である著作物に当たるというためには,

思想,感情を創作的に表現したものであることが必要であるが,創作的に表現

したものというためには,当該表現が,開発者の個性が発揮されたものであれ

ば十分であり,厳密な意味で独創性のあることまで要求されるわけではない。

すなわち,プログラムは,具体的記述において,開発者の何らかの個性が表現

されていれば,著作物として著作権法上の保護対象となる(東京地判平成15

年1月31日判時1820?127)。

また,プログラムが著作権法上保護対象である著作物に当たるというために



は,特別に高度の創作性が必要とされる訳でもなく,制御用プログラム等にお

いて,指令の組み合わせがハードウェアに規制されるために誰が作成しても本

来的に同様にならざるを得ない場合や,極めて一般的な指令の組み合わせを採

用しているにすぎないような場合に限り,創作性が否定され得るにすぎない

(東京高決平成元年6月20日判時1322?138)。

(2) 貸出君プログラム

貸出君プログラムは,Win版にしても,ビジネスサーバ版にしても,制御用

プログラムのようなものではなく,パーソナルコンピュータやオフコンで実行

されるアプリケーションプログラムであり,ハードウェアの規制により表現方

法が限定されるということはない。しかも,ソースコードは膨大な量からなり,

開発のために相当な人員と期間を要しており,プログラム言語の文法等の制限

があるにせよ,誰が作成しても同様な記述となり得るものではなく,開発者の

個性が表現されたものであることが明らかで,著作物性を有していることはい

うまでもない。また,乙第84号証等において赤色で着色した貸出君プログラ

ムとRBCプログラムとの共通部分は,貸出君プログラムの一部であるが,こ

の部分だけをとっても,以下に説明するとおり,開発者の個性が表れており,

著作物性を有していることが明らかである。

ア Win版

(ア) 貸出君プログラムのWin版のソースコードは,プログラム言語Vi

sualBasicで記述されたものであるが,VisualBasic

では,プログラムをサブルーチンの組合せとして記述する。すなわち,ま

ず,行おうとする処理を機能ごとに分割して全体構成を考え,そして各機

能を担うサブルーチンを作成することによってプログラムが構成される。

サブルーチンは,「Private Sub」?「End Sub」まで

のまとまりであり,各サブルーチンにどのような機能を持たせるか,各サ

ブルーチン内に実行される命令語をどのように記述するかは,開発者が自



由に決定することができる。つまり,各サブルーチンにどのような機能を

担わせるか,そしてサブルーチンをどのような順序で配置するかという全

体構成の点,並びに各サブルーチンにおいて機能を実現するための命令語

を具体的にどのように記述するかの点で,開発者の個性が表れることとな

る。

乙第84号証の得意先マスタ登録のソースコードのうち,赤色に着色し

たRBCプログラムと共通性のある部分には多数のサブルーチンが含まれ

ているが,この部分は,得意先マスタ登録の表示画面において,表示され

た個々の項目に対するユーザーからのキー入力やマウスのクリックが行わ

れたとき等の,イベントが発生した場合に実行される処理内容を記述した

ものであり,各イベントに対応するサブルーチン群として構成されている。

そして,この着色した部分のサブルーチンの個数は100個を超えている。

パーソナルコンピュータやオフコンで実行されるアプリケーションプロ

グラムにおいては,画面に表示される項目や,ユーザーの操作方法,それ

に対応するコンピュータの処理内容には無限の組合せがあり,項目の選択,

各処理を担うサブルーチンの並び順や個々のサブルーチンの記述内容は,

開発者が自由に設定することができ,ハードウェアやプログラム言語上の

制限,処理目的等によって一律に定まるわけではない。

サブルーチンが100個もあれば,その並び順(単純計算では100の

階乗通りという無数の組み合わせが可能)や個々の記述内容において十分

に開発者の個性が表れたものとなることは明らかである。

したがって,貸出君プログラムのWin版のソースコードにおけるRB

Cプログラムとの共通部分は,誰が作成しても同様な表現となり得るよう

なものではなければ,本来的に同様な表現とならざるを得ないようなもの

でも,極めて一般的な指令の組み合わせを採用しているものでもないため,

著作物性が認められる。



(イ) 貸出君プログラムの得意先マスタ登録に関するWin版ソースコード

(乙76)におけるRBCプログラムとの共通部分(乙84)は,以下の

@?Fの部分を有している。

@ ComboBoxコントロールに対する操作を行うサブルーチン群を

記述した部分(乙76の37頁?47頁)

乙第76号証の37頁?47頁には,「Private Sub Ad

d_cboSEIK_KR_PRT() ? End Sub 」 「Pr


ivate Sub Add_cboTOMT_PAYM_KB()

? End Sub」等,名称に「Add_」が含まれているサブルー

チンが多数存在するが,これらはVBのComboBoxコントロール

に対する操作を行うものである。

ComboBoxコントロールは,ユーザーがキーボード等から入力

可能なテキストボックスを備えているとともに,その右端の▼のボタン

を押すと,選択肢のリストを表示し,その中から1つ又は複数の項目を

選択できるようになっている。

ComboBoxコントロールは,開発者が編集画面において配置す

るものであり,その個数やそれぞれの位置,大きさ,プロパティ等は自

由に設定することができる。貸出君プログラムのソースコードの一部で

ある乙第76号証の第1頁?第36頁第25行目には,ComboBo

xコントロールやその他の画面上に配置されるコントロールの情報が記

述されている。

各ComboBoxコントロールには,「cboSEIK_KR_PR

T 」 「cboTOMT_PAYM_KB」等の固有の名称が付されてい


るが,前記共通部分において,これらの名称の前に「Add_」を付し

た名称を含むサブルーチンは,対応するComboBoxコントロール

に,項目の追加を行うものとなっている。



たとえば,「Private Sub Add_cboSEIK_KR

_PRT() ? End Sub」というサブルーチンにおいては,

「With cboSEIK_KR_PRT ? End With」

の構文中において,2つの「AddItem」というメソッドにより,

「cboSEIK_KR_PRT」という名称のComboBoxコン

トロールに対して,リストに”0?あり”及び”1?なし”の2つの項

目を追加している。

そして,これ以外にも「Add_」を付した名称を含むサブルーチン

は多数存在するが,それらはいずれも,「With 〔ComboBox

コントロールの名称〕 ? End With」の構文を使用すること

により,記述形式の統一がなされている。さらに,これらComboB

oxコントロールに項目を追加する操作を行うサブルーチンを,連続的

に配置している点で,表現上の特徴を有する。

なお,サブルーチンの記述のうち,「Private Sub」や「E

nd Sub」は定型的なものであるが,「Add_」等の記述は定型的

なものではなく,開発者が任意に決定できる。

A 出庫・入庫・売上・入金の各データに関するチェックを行う関数(F

unction)を記述した部分(乙76の47頁?49頁)

次に,前記@の後に,「Private Function Data

_Check() ? End Function」という関数が配置

されている。この関数には,’出庫データをチェック’’入庫データをチ


ェック ’ ’売上データをチェック’ ’入金データをチェック’という項
, ,

目が存在するが,これらはいずれも ,「SQL=」で始まる段落と ,「r

c=」で始まる段落とで構成されている。

各項目の「SQL=」で始まる段落では,データベースへの問合せ言

語で記述した”SELECT 得意先CD・・・”というデータベース



への指示内容を文字変数SQLに格納し ,「rc=」で始まる段落におい

て,前記指示内容を共通関数「DB_Sub_Select(SQL)」

に渡して実行し,その値をrcに代入し,rcの値が真なら「Msg_

Err」の項へ飛び,Sub_Table.EOFの値が真なら「Ms

g_Print」の項へ飛び,そしてSub_Tableファイルを閉

じるという処理を行う。

以上のように,この関数は,‘出庫データをチェック’‘入庫データを


チェック ’ ‘売上データをチェック’ ‘入金データをチェック’という
, ,

項目について,データベースへの問合せとその後の処理に関し,統一し

た記述形式が繰り返されている点で,表現上の特徴を有する。

B ComboBoxコントロールがクリックされた場合に実行されるサ

ブルーチンとフォーカスされたときに実行されるサブルーチンの組の群

を記述した部分(乙76の49頁?60頁)

次に,前記Aの後に,「Private Sub cboAUTO_C

ALC_KB_Click() ? End Sub 」,それに続いて

「Private Sub cboAUTO_CALC_KB_Got

Focus() ? End Sub」というように,ComboBo

xコントロールの名称に「_Click()」が付されたサブルーチンと,

同じComboBoxコントロールの名称に「_GotFocus()」

が付されたサブルーチンの組が,複数連続的に配置されている。

「_Click()」が付されたサブルーチンは,当該ComboBo

xコントロールがクリックされた場合に行う処理内容を記述したもので

あり,「Chang_Flg=True」によってデータ変更フラグをセ

ットする 。「_GotFocus( )」が付されたサブルーチンは,当該

ComboBoxコントロールがフォーカス,すなわち入力可能な状態

にされた場合に行う処理内容を記述したものであり,
「NowTabIn



dex=cboAUTO_CALC_KB.TabIndex」による

Tabキーが押された場合の入力位置の設定 ,
「Call DispGu

ide(cboAUTO_CALC_KB,Me)
」によるガイド表示と,

「Call IME_OFF(ActiveContorol)」による

日本語入力の設定のオフの処理を行う。

このように,複数のComboBoxコントロールについて,それぞ

れクリックされた場合に行う処理と,フォーカスされた場合に行う処理

について,統一した記述形式が繰り返されている点で表現上の特徴を有

する。

C CommandButtonコントロール「cmdEntry」が操

作された場合の処理を行うサブルーチン群を記述した部分(乙76の6

0頁?61頁)

次に,前記Bの後に,「Private Sub cmdEntry_

Click() ? End Sub 」 「Private
, Sub c

mdEntry_GotFocus() ? End Sub 」 「Pr


ivate Sub cmdEntry_LostFocus() ?

End Sub 」 「Private
, Sub cmdEntry_M

ouseDown(Button As Integer, Shif

t As integer, X As Single, Y As

Single) ? End Sub」の各サブルーチンが続く。

これらのサブルーチンは,CommandButtonコントロール

である「cmdEntry」が操作された場合の処理について記述した

ものである。前記各サブルーチンは,乙第76号証の第3頁で記述され

ている「cmdEntry」というCommandButtonコント

ロールについて,クリックされたとき(_Click)に得意先レコー

ドの更新処理を行うこと,さらに,フォーカスされたとき(_GotF



ocus ),フォーカスを失ったとき(_LostFocus),マウス

ボタンが押されたとき(_MouseDown)に,それぞれ行われるT

ABキーのエミュレーション(擬制)についての設定が記述されたもの

であり,これらのサブルーチンの順序等の配置の点で,表現上の特徴を

有する。

D TABキーのエミュレーション,入力された文字の桁数チェック,初

期化処理,終了処理のそれぞれに関するサブルーチン群を記述した部分

(乙76の61頁?63頁)

次に,前記Cの後で,サブルーチン「Private Sub Fo

rm_KeyDown(KeyCode As Integer, S

hift As Integer) ? End Sub」により,E

nterキーが押された場合のTABキーのエミュレーションの処理を

行い,サブルーチン「Private Sub Form_KeyPr

ess(KeyAscii As Integer) ? End S

ub」により,入力された文字の桁数チェックを行い,サブルーチン

「Private Sub Form_Load() ? End S

ub」により初期化処理を行い,サブルーチン「Private Su

b Form_QueryUnload(Cancel As Int

eger, UnloadMode As Integer) ? E

nd Sub」及び「Private Sub Form_Unloa

d(Cancel As Integer) ? End Sub」に

より終了処理を行うようにしており,これらのサブルーチンの配置の点

で,表現上の特徴を有する。

E Labelコントロールがクリックされたときに実行されるサブルー

チン群を記述した部分(乙76の63頁?71頁)

次に,前記Dの後に,「Private Sub lbl_MARU_



KB_Click() ? End Sub」のように,名称に「lb

l_」及び「_Click」が含まれているサブルーチンが多数続くが,

これらはVBのLabelコントロールがクリックされたときに行う処

理内容を記述したものである。Labelコントロールは,タイトルや

項目の名称を表示する部分である。

たとえば,「Private Sub lbl_MARU_KB_Cl

ick() ? End Sub」では,乙第76号証の第30頁で記

述されている「lbl_MARU_KB」というLabelコントロー

ルがクリックされた場合に,当該Labelコントロールに対応するC

omboBoxコントロール「cboMARU_KB」を,「cboMA

RU_KB.SetFocus」によりフォーカスさせるという処理を

行うようにしたものであり,これらのサブルーチンの配置の点で,表現

上の特徴を有する。

F Menuコントロールがクリックされたときに実行されるサブルーチ

ン群を記述した部分(乙76の71頁?73頁)

次に,前記Eの後に,「Private Sub Mnu_Edit_

Clear_Click() ? End Sub」のように,名称に

「Mnu_」及び「_Click」が含まれているサブルーチンが多数

続くが,これらはVBのMenuコントロールがクリックされたときに

行う処理内容を記述したものである。Menuコントロールは,一般の

アプリケーションソフトに見られる ,
「ファイル」 メニューや 「編集」

メニューのような,個別に選択可能な選択肢を含むポップアップメ

ニューを実現するものである。

たとえば,「Private Sub Mnu_Edit_Clear

_Click() ? End Sub」では,乙第76号証の第35

頁で記述されている「Mnu_Edit_Clear」というMenu



コントロールがクリックされた場合に,「If MsgBox(Msg_

Clear・・・」によりユーザーに対して画面をクリアするかしない

かを問い合わせるメッセージボックスを表示し ,
「Call Int_W

indow」によりウィンドウを初期化し ,「DoEvent」(制御を

オペレーティング システムに渡す命令)によりタイミング調整を行い,

「Call Int_Value」により変数を初期化し,画面先頭項

目にカーソルを移動するため,「Call txtTOMT_CD_Go

tFocus」によりサブルーチン「txtTOMT_CD_GotF

ocus」を呼び出し ,「txtTOMT_CD.SetFocus」に

より,乙第76号証の第21頁で記述されている「txtTOMT_C

D」というMaskEdBoxコントロールにフォーカスを移すという

処理を行うようにしたものであり,これらのサブルーチンの配置の点で,

表現上の特徴を有する。

以上,乙第84号証に示した貸出君プログラムのWin版のソースコー

ドにおけるRBCプログラムとの前記共通部分は,前述の@?Fの部分か

ら構成されているが,各部分は処理内容及び記述形式が相互に異なるもの

で,これらの組合せによって一の結果が得られるプログラムを構成してい

る。そして,これらの部分の配置順序等の組合せ方は,開発者の独自の思

想に基づくものであり,プログラム言語の規約やハードウェアによる制限,

あるいはプログラムの使用目的や要求される機能から必然的ないし機械的

に導かれたものではない。また,各部分の記述を個別的に見ても,それぞ

れ構文の形式の統一性や機能ごとのまとまり等を考慮した構成となってい

るなど,処理内容を実現するために使用した命令語や組込み関数の選択,

配置に関して独自性がある。

また,この分野のプログラムは,他に2つ程度存在するのみであり(甲

137,138),当然,これらのソースコードが公開されていたわけでは



なく,貸出君プログラムが他社のプログラムのソースコードを参考にして

作成されたものでないことも明らかである。

したがって,前記共通部分は,開発者の個性が表れたものであって,あ

りふれたものではなく,著作物性が認められることが明らかである。また,

同様に,乙第86号証に示した共通部分についても,著作物性が認められ

る。

イ ビジネスサーバ版

(ア) 貸出君プログラムのビジネスサーバ版のソースコードは,プログラム

言語COBOLで記述されたものであるが,COBOLのプログラムは,

@「IDENTIFICATION DIVISION 」(見出し部 ),A

「ENVIRONMENT DIVISION 」(環境部 ),B「DATA

DIVISION 」(データ部 ),C「PROCEDURE DIVIS

ION」(手続き部)の4つのDIVISIONで構成されるもので,具体

的に実行される命令語を記述するのはC「PROCEDURE DIVI

SION」である。

「PROCEDURE DIVISION」においては,開発者が自由

に段落や節を設置し,命令語を記述することができ,これらの点において,

開発者の個性が表れることとなる。

乙第87号証の受注入力に関するプログラムのソースコードにおいて,

赤色に着色したRBCプログラムとの共通性のある部分には ,「日数セッ

ト」 「日数セット1 」 「終了日セット」という注釈が付された3つの段落
, ,

(サブルーチン)が順に記述された箇所があるが,これと同じ機能を実現

するためのプログラムは,このような構成に限定されるわけではなく,こ

れとは異なる段落の分け方も可能である。

また,各段落の記述内容についても,たとえば,期間の日数の計算を行

うことを処理内容とする「日数セット」は,貸出君プログラム及びRBC



プログラムでは,カレンダーマスタのデータベースをアクセスしてそのレ

コード数をカウントするという手順を表現したものとなっているが,同様

の処理は,たとえば乙第90号証の1のような記述内容とすることによっ

ても行うことができる。

また,同じ日数の計算処理であっても,処理速度を重視して,データ

ベースを利用しない方法を採用することも可能であり,その場合は,たと

えば乙第90号証の2のような記述内容とすることができる。

したがって,貸出君プログラムのビジネスサーバ版のソースコードにお

けるRBCプログラムとの共通部分は,誰が作成しても同様な表現となり

得るようなものではなければ,本来的に同様な表現とならざるを得ないよ

うなものでもなく,極めて一般的な指令の組み合わせを採用しているもの

でもないため,著作物性が認められる。

(イ) 貸出君プログラムの受注入力に関するビジネスサーバ版ソースコード

(乙81の1)におけるRBCプログラムとの共通部分(乙87)は,以

下の@「日数セット 」,A「日数セット1」,B「終了日セット」の3つの

部分を有している。

@ 日数セット

日数セットは,「XNISU.,
」「XNISU?02.,
」「XNISU?

EX.
」の3つのセクションから構成されている。

「XNISU.」セクションでは,期間日数を表す変数WDAYと,開

始日を表す変数MO01?Kの初期化を行い,次の「XNISU?0

2.」セクションで読み込むファイル「MOFL」の読み込み位置を設定

する。次に ,「XNISU?02 .」セクションでは,ファイル「MOF

L」から読み込んだレコードの数を変数WDAYに加え,それが完了す

ると,「XNISU?EX.」セクションに移行する。そして,「XNIS

U?EX.」セクションにより処理を終了する。



各セクションの具体的な記述内容は次のとおりである。

「XNISU.」セクションでは,2つのMOVE文により,変数WD

AYにZERO(0)を,変数MO01?Kに変数ST?YMDの値

(開始日の年月日)をそれぞれ代入して初期化する。そして,STAR

T文により,カレンダーマスタである「MOFL」という名称のファイ

ルの読み込み位置を,「KEY IS >= MO01?K」で変数MO

01?Kの値以上という条件を満たすものに設定し,この条件を満たす

ものが存在しない場合は ,「INVALID GO XNISU?E

X.」により「XNISU?EX.」セクションに移行する。

「XNISU?02 .」セクションでは,READ文によりファイル

「MOFL」を読み込み,既に読込み済みであった場合は「AT EN

D」「GO XNISU?EX.」により「XNISU?EX.」セクショ

ンに移行する。もし,変数MO01?Kが終了日を表す変数ED?YM

Dより大きければ,IF文により「XNISU?EX.」セクションに移

行する。前記2つの場合の「XNISU?EX .
」セクションへの移行が

なければ,COMPUTE文により,変数WDAYに1を加え,そして

「GO XNISU?02.」により,「XNISU?02.」セクション

を繰り返し実行する。

そして ,「XNISU?EX .」セクションでは,EXIT文により,

日数セットの処理を終了する。

このように,日数セットの部分は,2つのMOVEと1つのSTAR

T文で構成される,初期設定に関する「XNISU.
」セクション,RE

AD文,IF文,COMPUTE文及びGO文で構成される,繰返しの

計算処理に関する「XNISU?02.」セクション,そしてEXIT文

により処理を終了する「XNISU?EX.」セクションを,順に配置し

ている点で表現上の特徴が認められる。



A 日数セット1

日数セット1は,前述の日数セットと大部分が共通しているが,次の

点で異なっている。

(a) 日数セットの各セクションの名称「XNISU.,
」「XNISU?

02. ,
」「XNISU?EX.」が,それぞれ「XNISU1.,
」「XN

ISU1?02.,
」「XNISU1?EX.
」となっている。

(b) 「XNISU1?02.」セクションにおいて,IF文により,変

数MO05?Kが4でないときに限り,COMPUTE文が実行され

るようになっている。

すなわち,変数MO05?Kは日数計算の対象の期間の属する年度が

うるう年か否かを判定するためのものであり,その値が4である場合に,

@の日数セットの例外(うるう年)としての処理を行うものであり,こ

の点で@とは異なる表現上の特徴が認められる。

B 「終了日セット」

終了日セットは,「XNISU2.,
」「XNISU2?02.,
」「XNI

SU2?SET . ,
」 「XNISU2?EX.」の4つのセクションから構

成されている。

「XNISU2.」セクションでは,変数ED?YMD,WDAY,M

O01?Kの初期化を行い,次の「XNISU2?02.」セクションで

読み込むファイル「MOFL」の読み込み位置を設定する。次に,「XN

ISU2?02.」セクションでは,ファイル「MOFL」から読み込ん

レコードの数を変数WDAYに加え,それが完了すると,「XNISU

2?SET .」セクションに移行する 。「XNISU2?SET .」セク

ションでは,変数ED?YMDに変数MO01?Kの値を代入する。そ

して,
「XNISU2?EX.」セクションにより処理を終了する。

各セクションの具体的な記述内容は次のとおりである。



「XNISU2.」セクションでは,2つのMOVE文により,変数E

D?YMD,WDAYにZERO(0)を,変数MO01?Kに変数S

T?YMDの値をそれぞれ代入して初期化する。そして,START文

により,ファイル「MOFL」の読み込み位置を,「KEY IS >=

MO01?K」で変数MO01?Kの値以上という条件を満たすもの

に設定し,この条件を満たすものが存在しない場合は,「INVALID

GO XNISU2?EX .」により「XNISU2?EX .」セク

ションに移行する。

「XNISU2?02.」セクションでは,READ文によりファイル

「MOFL」を読み込み,既に読込み済みであった場合は「AT EN

D」「GO XNISU2?SET.」により「XNISU2?SET.」

セクションに移行する。前記「XNISU2?SET.」セクションへの

移行がなければ,COMPUTE文により,変数WDAYに1を加える。

もし,変数NISUの値が変数WDAYの値と一致する場合は,IF文

により「XNISU2?SET.」セクションへ移行する。そして「GO

XNISU2?02.」により ,
「XNISU?02.」セクションを繰

り返し実行する。

「XNISU2?SET.」セクションでは,MOVE文により,変数

ED?YMDに変数MO01?Kの値を代入する。

そして,
「XNISU2?EX.
」セクションでは,EXIT文により,

終了日セットの処理を終了する。

このように,終了日セットの部分は,2つのMOVE文と1つのST

ART文で構成される,初期設定に関する「XNISU2.」セクション,

READ文,COMPUTE文,IF文,及びGO文で構成される,繰

り返しの計算処理に関する「XNISU2?02.
」セクション,1つの

MOVE文で構成される「XNISU2?SET.
」セクション,そして



EXIT文により処理を終了する「XNISU2?EX.」セクションを,

順に配置している点で表現上の特徴が認められる。

以上のとおり,乙第87号証に示した貸出君のビジネスサーバ版のソー

スコードにおけるRBCプログラムとの前記共通部分は,前述の@?Bの

部分から構成されており,Win版の場合と同様に,プログラム言語の規

約やハードウェアによる制限,あるいはプログラムの使用目的や要求され

る機能から,必然的ないし機械的に導かれたものではなく,開発者の個性

が表れたものであって,ありふれたものではなく,著作物性が認められる

ことが明らかである。また,乙第88号証に示した共通部分は,@日数セ

ットとB終了日セットの2つの部分から構成されているが,これについて

も,同様に著作物性が認められる。

(3) RBCらの主張に対する反論

ア RBCらは,貸出君のWin版及びビジネスサーバ版の各ソースコードの

RBCプログラムとの共通部分について,プログラム言語が規定する命令語

や関数が大半を占めるため,著作物性がない旨主張する。

しかし,プログラムにおいて,プログラム言語が規定する命令語等が大半

を占めるのは当たり前のことである。プログラムは「電子計算機を機能させ

て一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたもの

として表現したもの」であって ,「指令 」(命令語や関数)の選択や組合せ方

において著作物性が認められるのである。

また, RBCらは,前記共通部分が全体の中に占める割合の小さいことを

理由に著作物性を有しない旨主張するが,全体の中の一部分であっても,思

想・感情の表現において開発者の何らかの個性が発揮されたものであれば著

作物性は認められる。著作物全体の中のごく一部の複製・翻案であっても,

著作権侵害が成立し得ることは,キャンディ・キャンディ事件判決(最判平

成13年10月25日)等からも明らかである。



プログラム言語が規定する命令語が大半を占め,かつプログラム全体の中

の一部分であっても,著作物性が認められることは,東京地判昭和62年1

月30日(判例時報1219号48頁)においても示されている。当該判決

では,ザイログ社製8ビットCPU「Z80」用のアセンブリ言語で記述さ

れた合計229ルーチンで構成されるプログラムのうちの,わずか18ステ

ップからなる1つのルーチン(アドレス3CECから3D11までの38バ

イト)について,著作物性が認められている。前記ルーチンで使用された命

令語(ニーモニック)は,CALL,JP,RST,INC,DEC,PU

SH,LD,CP,POPの9種類で,当然これらはいずれもZ80の命令

セットの一部として規定されたものである。アセンブリ言語は,機械語とほ

ぼ1対1に対応した低級言語で,その命令語や文法はCPUのハードウェア

構成に強く依存しており,VBやCOBOLのような高級言語に比べて,文

法やハードウェアによる制限が遥かに多い。にもかかわらず,前記ルーチン

著作物性が認められたのである。

貸出君のソースコードにおける貸出君プログラムとの共通部分は,アセン

ブリ言語よりも自由度の高いVBやCOBOLで記述され,前記ルーチンよ

りもステップ数が多く,しかも,ハードウェアに依存しない高度な処理を行

うものであることから,著作物性が認められることは当然である。

なお, RBCらは,画面構成や操作方法,付加機能の相違を主張している

が,これらはプログラムの著作物性とは直接関係がない。また,RBCらは,

前記共通部分の記述は,プログラム言語の規約に従えば誰が行っても同じに

なるかのように主張するが,乙第90号証に示したように,命令語や関数の

選択・組合せ方は多様であり,誰が行っても同じになるものではない。

イ(ア) Win版について

乙第84号証のソースコードにおいて赤字で示した箇所は,前記のとお

り,互いに異なる記述パターンで記述された@?Fの部分から構成されて



いる点で表現上の特徴がある。

RBCら は,前記@?Fの各部分について,必然的なものであるとか,

VB言語において当然の記述であるなどと主張するが,所定の機能を実現

するためのプログラムは,開発者の思想に基づいて,各構成部分の内容や

構成部分の数を自由に設定することができるのであり,乙第84号証の赤

字で示した箇所のプログラムを前記@?Fの7つの部分で構成することは

何ら必然的ではなく,VB言語によって自動的に前記@?Fの部分の記述

内容が生成されたりその配置が決まったりするわけでもない。

また, RBCら は,RBCプログラム中に貸出君プログラムと一致する

部分があるのは,RBCプログラムの開発者の中に貸出君プログラムの開

発を経験した者が含まれているからであると主張する。しかし,貸出君プ

ログラムの著作権侵害とならないように貸出君プログラムと同じ機能を実

現するプログラムを記述することは可能であり,貸出君プログラムの開発

を経験した者であれば,当然にそのような配慮を行うべきである。貸出君

プログラムの開発を経験したことは,RBCプログラムの作成において貸

出君プログラムの複製・翻案となる行為を無断で行うことが許容される理

由とはならない。

(イ) ビジネスサーバ版

乙第87号証のソースコードにおいて赤字で示した箇所は,前記のとお

り,互いに異なる記述パターンで記述された「日数セット」等の@?Bの

部分から構成されている点で表現上の特徴がある。

RBCらは,前記@?Bの各部分について,一般的に用いられているロ

ジックを利用したものであるとか,@の「日数セット」について,甲第1

60号証の例題プログラムサンプルと同様な記述方法であるなどと主張す

る。しかし,貸出君プログラムのロジックが一般的なものであるとか必然

なものであるとする RBCらの主張には根拠がない。貸出君プログラムの



「日数セット」について,これとは全く別のロジックにより同じ機能を実

現できることは,乙第90号証の1,2で説明したとおりである。

さらに,甲第160号証の例題プログラムサンプルは,金額を計算して

順次改行しながら印字する処理を行うものであり,貸出君プログラムとは

全く目的の異なるものであって,いくつかの行における命令語の用法等,

プログラム言語の規約に関して一致する部分があるにすぎず,前記@?B

の3つの部分からなる貸出君プログラムの構成とも全く異なっており,具

体的な記述内容において相違している。

また,所定の機能を実現するためのプログラムは,開発者の思想に基づ

いて,各構成部分の内容や構成部分の数を自由に設定することができるの

であり,仮にプログラムの基本的なロジックが同じであったとしても,プ

ログラムの表現の仕方は多様であり,乙第87号証の赤字で示した箇所の

プログラムを前記@?Bの3つの部分で構成することは何ら必然的なもの

ではない。

また,RBCらは,「日数セット1」のサブルーチンにおける変数MO0

5?Kに関する KCS の主張の誤りを指摘し,RBCプログラムのサブ

ルーチンは KCS とは全く異なった目的の処理を行うもので,独自の設計

仕様に基づき作成されたものであると主張する。しかし,RBCプログラ

ムの日数計算方式のロジックが貸出君プログラムと一致していることは,

RBCらも認めるところであり,しかも,記述形式においても一致してい

るのであるから,RBCプログラムが独自の設計仕様に基づき作成された

ものでないことは明らかである。

(4) 結論

以上により,Win版及びビジネスサーバ版のいずれにおいても,貸出君プ

ログラムとRBCプログラムとで共通する部分につき,貸出君プログラムは著

作権法上の保護対象となるために要求される創作性を備えており,著作物性



ある。

【RBCらの主張】

(1) KCSの主張(1)に対する反論

ア 判例上の基準

KCSは,プログラムの著作物性に関する判例上の基準につき,東京地裁

平成15年1月31日判決及び東京高裁平成元年6月20日決定を掲げ,独

自の見解を述べているが,上記東京地裁判決がプログラムの著作物性につい

て判示するところは,プログラムの性質上,その創作性の認定を限定的に行

うべき旨を判示している。また,上記東京高裁決定は,債権者による侵害事

実の疎明,あるいは債務者の非侵害事実の疎明の十分,不十分を主要な論点

として決定を下しているにすぎず,プログラムの著作物性について正面から

基準を提示しているのではなく,むしろ,同決定の原審決定では,プログラ

ム記述において,他に違った表現をし得る余地があったとしても,通常のプ

ログラマーであれば同様のプログラムを組む可能性が高い場合には,創作性

を否定するべきことが説示されているのである。

イ 貸出君プログラムの著作物

(ア) Win版

a KCS は,乙第84号証の「得意先マスタ登録」のソースコードを例

にとり,着色した部分のサブルーチンの個数が100個を超えているた

めに,その並び順が100の階乗通りという無数の組合せが可能であり,

また,個々の記述内容においても十分に開発者の個性が表れたものとな

ることから,貸出君プログラムのWin版のソースコードにおけるRB

Cプログラムの共通部分には著作性が認められると主張する。

しかしながら,乙第84号証において KCSが共通と主張する割合は

30%にすぎず,しかも,それらのほとんどの部分は使用プログラム言

語上の命令や規約に関するものであるから,著作権法上創作性のある著



作物として保護され得ないものであり(著作権法10条3項),実質的な

比較対象となる「項目名称」についても同一分野のレンタル業務上の必

然により,同一の内容となるものが使用されているのであり,結局貸出

君プログラムには保護するべき著作物性がない。

乙第84号証に表れた着色部分( KCSが共通と主張する部分)に係

るサブルーチンのいくつかについて,ソースコードの意義を検証してみ

ると,要旨次のとおりである。

(a) 「Private 動産補償 As Integer」について

(甲147)

『動産補償という項目を整数型で定義します』という意味で通常用

いる文法である。

「動産補償」という用語は建設機械のレンタル業務を行う上で,一

般的に用いられる用語である。

(b) 「Private Sub Add_cboSEIK_KR_P

RT()
」について(甲147)

アプリケーションソフトを活用する上で必要となる請求繰越印字の

項目に対して ,「あり,なし」をユーザが選択できるようにしたサブ

ルーチンである。

非表示にしておいて表示したい値を再セットし,再表示するという

手法はコンピュータを扱う者にとってはごく当然の流れであり,この

サブルーチンの指令の組合せは,ほとんど全体が文法として一般的に

誰が作成しても同様の構造となる。

仮に,指令の順序を変更して Visible=True(再表

示)を Visible=False(非表示)の前に入れると,画

面中に内容が表示されず,これではプログラム・エラーとなってしま

う。



(c) 「Private Sub Add_cboKIHN_KB

()」について(甲148)

アプリケーションソフトを活用する上で必要となる基本料区分の項

目に対して,標準,先取り,後取り,または,なしの項目をユーザが

選択できるようにしたサブルーチンである。

非表示にしておいて表示したい値を再セットし,再表示するという

手法はコンピュータを扱う者にとってはごく当然の流れであり,この

サブルーチンの指令の組合せは,ほとんど全体が文法として一般的に

誰が作成しても同様の構造となる。

仮に,指令の順序を変更して Visible=True(再表

示)を Visible=False(非表示)の前に入れると,画

面中に内容が表示されず,これではプログラム・エラーとなってしま

う。

(d) 「Private Sub cboTANK_KB_clic

k()
」について(甲149)

単価管理区分の領域にマウスでクリックされた時に実行されるサブ

ルーチンである。

データが変更された後に,登録しないで終了しようとすると『値が

変更されていますが,終了して良いですか』とのメッセージを出力で

きるように目印(フラグ)を付けているのであり,この程度のサブ

ルーチンは,商品販売上の処理としてごく当たり前のことである。

(e) 「Private Sub cboTANK_KB_GotFo

cus()(甲149)について


単価管理区分の領域にカーソルが位置付けられた時に実行されるサ

ブルーチンである。

この一連の動きも商品としてユーザの使用に供するにあたり,必要



最小限の処理である。

上記したサブルーチンは得意先マスタ登録のほんの一部であるが,レ

ンタル業務処理上必要な各処理を,業界における通常の項目名称を使用

しながら,ユーザの使い勝手や効率に配慮しつつ,できるだけ少ないス

テップで記述されるものである。そして,プログラム上表現する記号が

限定され,文法も厳格であることから,同一又は類似する処理を企図す

れば,指令の組合せが類似することが免れないことが少なくない。この

ようなことから,著作権法10条3項は,プログラムにおける解法は保

護しないことを明記しているのであり,このことはまた,上記した東京

地裁判決,あるいは東京高裁決定(特にその原決定)の説示するところ

とも一致する。

b KCS は ,「パーソナルコンピュータやオフコンで実行されるアプリ

ケーションプログラムにおいては,画面に表示される項目や,ユーザの

操作方法,それに対応するコンピュータの処理内容には無限の組合せが

あり,項目の選択,各処理を行うサブルーチンの並び順や個々のサブ

ルーチンの記述内容は,開発者が自由に設定することができ,ハードウ

ェアやプログラム言語上の制限,処理目的等によって一律に定まるわけ

ではない。」という。

しかしながら,同一業界のレンタル業務を行うためのプログラムの作

成にあたり,サブルーチンの並び順は入力操作をするユーザにとって理

解しやすく,効率的な順とするべきであり,かつ,各サブルーチンにお

いても,厳格な文法のもとでできるだけステップ数を少なくし,プログ

ラム・エラーがでないようにすべきことを考慮すると,甲第147ない

し第149号証について上記したように,目的の処理を行うサブルーチ

ンとして,誰が作成しても同一,又は類似のものとなるのであり,少な

くともその可能性が大きいのである。



c KCSはまた,「サブルーチンが100個もあれば,その並び順(単純

計算では100の階乗通りという無限の組み合わせが可能)や個々の記

述内容において十分に開発者の個性が表れたものとなる」ともいう。

しかしながら,RBCプログラムのサブルーチンの並び順が貸出君プ

ログラムのサブルーチンの並び順と一致しているわけではないし,上記

したように,サブルーチンの並び順は,無限にあるのではなく,入力操

作するユーザが理解しやすいように,あるいは効率的な処理を行うこと

を考慮すれば,自ずと適正な処理順が定まるのである。

(イ) ビジネスサーバ版

KCSは,乙第87号証の「日数セット」に係るサブルーチンにつき,

同様の処理は乙第90号証の1,あるいは同号証の2のような記述内容と

することが可能であるから,創作性のある著作物性が認められると主張す

る。

しかしながら,レンタル業務の処理を行うプログラムにおいて,日数計

算サブルーチンは必須であり,また,@日数セットとして,物件を貸し出

す場合に貸出日から返却日までの日数を計算する場合,A日数セット1と

して,貸出期間中に貸し出した物件を使用しない日数をその期間より自動

的に差し引く場合(日曜,休日などが決められている),B終了日セットと

して,貸出日から物件の使用期日が決められている場合に返却日を逆計算

する場合が必要とされているのであり,いわゆるカレンダーマスタを利用

することを選択した場合,これらのサブルーチンはCOBOL言語による

典型的な命令記述となるのである。そうして,乙第87号証のサブルーチ

ンは,日数計算に係る典型的な解法を記述したものにすぎないともいうこ

とができ,著作権法10条3項の規定により,保護され得ない。

乙第90号証の1のプログラム記述は,実質的には乙第87号証の解法

と同じく,カレンダーマスタを参照しつつ1日ずつ加算してゆくロジック



である。なお ,「>=」を『GREATER THAN OR EQUA

L』に変更しているが,わざわざこのような記述に変更するプログラマー

は少ないと思われる。また,できるだけ少ないステップ数で効率のよい処

理をするべくプログラムを作成するのが通常であることにかんがみると,

13行程度の記述で済むものをわざわざ21行も費やして記述することは,

考えにくい。このように,乙第90号証の1は,プログラミングの常識か

らしてあり得ない例にすぎず,したがって,同号証のような記述内容とす

ることが可能であるが故に乙第87号証のプログラム記述に著作物性があ

るというKCSの主張は失当である。

乙第90号証の2のプログラム記述は,カレンダーマスタを使用しない

例であり,カレンダーマスタを利用したプログラム記述とは,全く別物で

ある。 RBC は,プログラム記述の簡略化,処理の効率化の観点から,カ

レンダーマスタを使用した日数計算ロジックを選択しているのであり,そ

れは, KCS も同様であろう。同号証のプログラムによっても,たしかに

日数計算が可能ではあろうが,このような煩雑かつ行数の多いプログラム

を採用する者は,ほとんどないと思われる。このように,同号証のプログ

ラム記述もまた,プログラミングの常識からしてあり得ない例にすぎず,

したがって,そのような記述内容とすることが可能であるが故に乙第87

号証のプログラム記述に著作物性があるという KCSの主張もまた,失当

である。

(2) KCSの主張(2)に対する反論

ア Win版

KCSは,乙第84号証について,前記【KCSの主張】(2)ア(イ)@?F

の部分に分けて,それらの記述が著作物性を有すると主張するが,すべて失

当である。

(ア) @の部分について



a @の部分は,得意先マスタ登録において ,「請求繰越印字のセット」

「回収月区分と区分名のセット 」「回収方法と区分名のセット 」「基本料

区分と区分名のセット 」「休日区分と区分名のセット 」「月極自動日割区

分と区分名のセット」等,得意先ごとに,料金回収に関する各種の属性

をセットできるようにしたプログラムである。これらは,レンタル業務

を行うにあたり,当然に必要な作業であり,それらの属性のセットが可

能とすること自体に著作物性があるわけではない。また,コンボボック

スを用いて属性をセットできる手法もまた,VBベーシックにおいて普

通に行われることである。

b KCSはまた,「Add_」を付した名称を含むサブルーチンはいずれ

も「With[ComboBoxコントロールの名称]?End Wi

th」の構文を使用することにより記述形式の統一がなされていること

及びComboBoxコントロールに項目を追加する操作を行うサブ

ルーチンを連続的に配置している点で表現上の特徴を有する,とも主張

する。

しかし,ComboBoxコントロールの名称については,当然に必

要な作業項目をいわゆるハンガリアン記法で記述すれば,近似した表記

になり得ることは,RBCらがこれまでに主張したとおりである。また,

サブルーチンの順序に関しても,任意に設定できるとはいえ,料金回収

に係る項目において,より重要なものからそうでないものの順に並べる

のが通常である。したがって,KCSの上記主張は失当である。

RBCプログラムと貸出君プログラムの該当部分の構文中において,

たしかに「Add_」との記述が存在するが,そのことをもってして,

RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠し,それを翻案したもので

あるとの証拠とならないことは明白である。

(イ) Aの部分について



KCSは,Aの部分について,‘出庫データをチェック’‘入庫データを


チェック’ ‘売上データをチェック ’ ‘入金データをチェック’という項
, ,

目について,データベースへの問合せとその後の処理に関し,統一した記

述形式が繰り返されている点で表現上の特徴を有すると主張するが,失当

である。

同部分の処理は,データベース上に該当するコード(得意先コード)が

あるかどうかの存在チェックを行うものであり,レンタル業務において通

常行う処理の流れにすぎない。そうして,データベース上の該当コードの

存在チェックを行うに当り、データ量の発生頻度が多いデータベース(出

庫・入庫・売上・入金)を順に処理することが望ましいと考えるのが通例

である。すなわちレンタル業界においては、出庫,入庫に関しては,貸出

(出庫データ)の発生及び継続(請求締切日までに返却されない物)が

データベース上存在する情報としては他のファイルから比べて必然と多く

なる。また,売上,入金については,この順とするべきは自然なこととい

うべきである。そうして,それぞれのチェック項目の処理において表現が

統一されるのも,VBベーシックにおいて当然である。

(ウ) BないしFの各部分について

同部分について,KCSは,統一した記述形式が繰り返されている点や,

サブルーチンの順序等の配置の点で表現上の特徴を有すると主張する。

銘記しておかねばならないことは,VB言語を使って作成されたプログ

ラムはアルファベット順に自動配置され記述されるということである。た

とえばBのような場合は,アルファベット順に配置すると「Click」・

「GotFocus」の順番になる。また,Cのような場合では「Cli

ck」「 GotFocus」「LostFocus 」「MouseDow
・ ・ ・

n」の順番に配置される。同じようにDでは「keyDown」「 key


Press」「QueryUnload」「UnLoad」の順番になる。
・ ・



このように,VB言語を用いたプログラムでは,プログラム開発者が任

意の順序で記述した内容が構文の形式の統一性や機能ごとのまとまった構

成(アルファベット順)に自動配置される。

したがって,VB言語を用いたプログラムにおいて,サブルーチンの配

列にKCSのいう独自性など全くない。

(エ) RBC は,独自に設計した仕様に基づき,RBCプログラムを開発し

たのであって,貸出君プログラムに依拠したのではない。仮に,RBCプ

ログラムにおいて,任意に設定できる表現の一部に貸出君プログラムの表

現と一致する部分があったとしても,プログラム全体としてはごくわずか

である。

そうして,RBCプログラムの中に,貸出君プログラム中の項目名等に

表現の一致する部分があったとしても,それは,RBCプログラムの開発

者のなかに, KCSの従業員として,同種のプログラム開発を経験した者

が含まれているからである。すなわち, KCSの従業員であった者が,同

一業界のためのレンタル業務プログラムを全く別の設計仕様に基づいて開

発をするにあたり,蓄積された経験の発露として項目名や一部の命令語と

してかつて使用したことのある用語を使用することは,むしろ普通のこと

であろう。

しかし,そのようなわずかなことで,RBCプログラム全体を著作権侵

害としてしまうことは,あまりに不合理であるというべきである。

イ ビジネスサーバ版

KCSは,乙第87号証について,「日数セット」「日数セット1」「終了
, ,

日セット」の3つの部分はそれぞれセクションの配置の点で表現上の特徴が

あると主張するが,以下のとおり,すべて失当である。

(ア) 乙第87号証は受注入力のCOBOLプログラムのソースリストの一

部(サブルーチン)であり,このプログラムはカレンダーマスタ(ファイ



ル)を利用して,日数計算を行うロジックである。

(イ) RBC は,日数計算を行うロジックを作成するに当たり,基本設計段

階において,ステップの簡略化やロジック作成の効率を図ることからカレ

ンダーマスタ(ファイル)を利用することを決定した(社内規約)


またRBCのコンピュータソフトはレンタル業界向けに作成されており,

この業界の特徴として日数計算の方式には下記@?Bのロジックを組み上

げることが必然である。

@「日数セット」として,物件を貸出する場合に貸出日から返却日までの

日数を計算する場合

A「日数セット1」として,貸出期間中に貸出した物件を使用しない日数

をその期間より自動的に差し引く場合(日曜,休日などが決められてい

る)

B「終了日セット」として,貸出日から物件の使用期日が決定されている

場合に返却日を逆計算する場合

(ウ) 熟練したCOBOLプログラム作成者によれば,上記のロジックは,

以下のとおり,自ずと近似したものとなるのである。

たとえば,甲第160号証(らくらく突破COBOL)においては,フ

ァイルを用いて単価と数量から金額を求めるロジックが例題プログラムと

して紹介されている。この場合は単価と数量を乗じるという例であるが,

RBC の日数を計算するという加算のロジックとは処理において共通した

ものである。

通常,COBOLにてプログラムを作成するという手順は,まずデータ

フロー(処理フロー)の作成を行うことから始め,順次ロジック作成へと

進んでゆく。そこでファイルを利用してロジックを作成するための伝統的

なデータの流れが甲第160号証に紹介されている処理フロー(123頁,

金額計算)である。



RBCの処理フロー(日数計算)を記載すると別紙16のとおりとなる

が,この処理フローは,甲第160号証に紹介された処理フローと全く同

一となる。

まず,甲第160号証(123頁・3例題の流れ図)のロジックの組立

て方を説明すると,最初にファイル読込み(データファイルの読込み)を

行い,次に条件判断(行カウンタ>24)を行った上で,加算処理(行カ

ウンタ+1→行カウンタ)した後,最初のデータファイルの読込みに戻る

ロジックになっていることが理解できる。

次に上記処理フロー(日数計算)を説明すると,同じく最初にファイル

読込み(データファイルの読込み)を行い,次に条件判断(日数比較)を

行った上で,加算処理(WDAY+1→WDAY)した後,最初のデータ

ファイルの読込みに戻るロジックになっていることが理解できる。

よって,上記処理フロー(日数計算)と甲第160号証(123頁・3

例題の流れ図)の構造化されていない伝統的な流れ図は全く同じ処理の流

れであり,ごく一般的に用いられている手法(ロジック)である。

(エ) ここで乙第87号証(日数セット)のサブルーチンであるプログラム

ソースリストに記載された命令と甲第160号証(125頁・例題プログ

ラムサンプル)を比較して説明すると下記のようになる。

前記処理フローのとおり,まず初めに甲第160号証(125頁・例題

プログラムサンプル)の処理命令では,

“MOVE 25 TO LINE-CTR” …[@‐1]

はLINE-CTR項目に数字の25を初期値セットする命令であり,次に

“READ CD-FILE AT END・・・”…[A‐1]

ではデータファイルの読込み命令を行っている。続いて条件判断である,

“IF LINE-CTR > 24・・・” …[B?1]

命令後,加算処理である



“ADD 1 TO LINE-CTR” …[C?1]

の命令の最後に最初のデータファイルの読込みに戻る処理命令が

“GO TO MAIN” …[D?1]

と記述されていることが理解できる。

(オ) 次に乙第87号証(日数セット)のプログラムソースリストに記述し

た命令を説明すると,同じく最初に

“MOVE ZERO TO WDAY” …[@?2]

ではWDAY項目に数字の0を初期値セットする命令であり,次に

“READ ― NEXT RECORD AT END・・・”

…[A?2]

ではデータファイルの読込み命令を行っている。続いて条件判断である

“IF ― > ED‐YMD・・・” …[B?2]

命令後,加算処理である

“COMPUTE WDAY + 1” …[C?2]

の命令(ADD命令と同様の機能である)の最後に最初のデータファイルの

読込みに戻る処理命令が

“GO TO XNISU‐02” …[D?2]

と記述されていることが理解できる。

(カ) このことから,上記@?1と@?2,A?1とA?2,B?1とB?

2,C?1とC?2,D?1とD?2の各々は,互いにCOBOL文法上

同様の命令なのであり,一般的に用いられる記述方法なのである。

(キ) 結局,レンタル業界において通常必要な「日数セット 」「日数セット

1」「終了日セット」のロジックを組めば,COBOLについての初歩的な

参考書にも示されているのと同様の手法により,誰が作成しても同様のも

のとなるのであり,このことはまた,貸出君プログラムに独自性がないこ

とにもつながるのである。



(ク) ところで,KCSの主張によれば,「日数セット1」のサブルーチンは,

変数MO05‐Kは日数計算の対象の期間の属する年度がうるう年か否か

を判断するためのものであり,その値が4である場合に「日数セット」の例

外(うるう年)として処理を行うものであるとのことであるが,乙第58

号証の14( KCSのカレンダーマスタのファイル仕様書)によれば,上

記変数MO05‐Kは,天気情報であり,変数4の区分は暴風である。

RBCシステムのサブルーチンは KCSとは全く異なった目的の処理で

あり,カレンダーマスタを用い,変数4は連休以外の日数を計算するもの

である。このことからも,RBCシステムは,独自の設計仕様に基づき作

成されたものであることがわかる。

3 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害す

るか)の(2)(貸出君プログラムに対する依拠性の有無)について

【KCSの主張】

RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠している。

(1) ソースプログラム

RBCプログラムのソースプログラムと貸出君のソースプログラムを比較す

れば,デッドコピーされている部分が存在することが一目瞭然である(乙84

?88)。

(2) 開発用書類

たとえば,貸出君のファイル仕様書(乙49)とミスターアドバンスの取引

先マスタ(甲20の16・17)は,レイアウトがほとんど同一で行数やセル

の幅は完全に一致しており,貸出君のファイル仕様書を複製・翻案したもので

あることは明らかである(乙55参照)。その他,ミスターアドバンスの仕様書

が貸出君のファイル仕様書(乙58)を複製・翻案したものであることは,乙

第57号証で明らかにしたとおりである。

(3) オペレーションマニュアル



貸出君のオペレーションマニュアル(甲87)とミスターアドバンスのオペ

レーションマニュアル(甲96)とは酷似しており,たとえば,アスタリスク

(*)の数が全く同一であることの一事をもってしても,RBCがKCSソフ

トのオペレーションマニュアルを複製・翻案して甲第96号証を作成したこと

は明らかである。

【RBCらの主張】

(1) ソースプログラムについて

ア 乙第84ないし第88号証について

(ア) 甲第123号証と乙第76号証の類似点に関する指摘に対して(乙8

4)

a 乙第84号証は,乙第76号証の37頁から74頁の KCSのソース

コードと甲第123号証のRBCソースコード(Win版「得意先マス

タメンテナンス」のソースコード)とを比較したものであるが, KCS

らは両者の8割以上が同一と指摘している。

しかしながら,プログラムにおいて著作物性が肯定されるためには創

作性が必要であるところ, KCSが同一と指摘する部分のほとんどは,

著作物性が否定されるべき単なる命令や関数に係るものである。

(a) RBC 側, KCS側の得意先メンテナンスのソースコードの総行

数を計算すると甲139の表@,Aのとおりとなる。ここで総行数の

数値の差( KCS 総行数4557? RBC 総行数2163=239

4)は前述の画面項目のソースリストや注釈が RBCら が提出した

ソースコードには存在しないためであるから,翻案となるか否かを検

討するにあたっては何ら問題ない。

(b) そこで KCS が8割以上と指摘している赤字行部分を計算し全体

行数と比較すると,赤字行の行数は649行であり,全体行数(甲1

23,2163行)の30%にすぎない。



(c) さらに KCS の指摘する赤字行部分(翻案と指摘する部分)の内

容を子細に検討すると,VB(ビジュアルベーシックプログラム)の

文法や命令,関数がその大半を占めている。このようなVBの文法や

命令,関数が著作物性を有し得ないのはいうまでもない。

仮に,VBの命令や関数を使用することが翻案であるとするならば,

VBで記述する全てのコンピュータソフトが翻案となる結果となり,

不合理である。

(d) 甲第140号証(表H)は,乙第84号証の赤字部分649行を

抜き出し,表としたものであり,この649行中には同一命令(たと

えばPrivate Sub, End Sub等)が何度も使用さ

れる関係から,それぞれ使用された数(命令,関数が629行存在す

る)を各命令ごとに計算しているところ,そこに記載されているのは,

すべてVBでプログラムを組むために使用しなければならない命令,

関数や文法であり,甲第141号証(表I)はVBというソフトを購

入すると,その命令についての説明として付属しているもののリスト

である。

甲第141号証(表I)には,乙第84号証に赤字行となっている

部分に含まれるすべての命令,関数が含まれているのがわかる。

(e) VBを利用して作成したコンピュータソフトが命令,関数,文法

等において同一となるのは当然である。

そして,甲第140号証(表H)より,乙第84号証中の赤字行数

649行のうち,単に命令,関数が同一であるものが629行もある

ということがわかる。

(f) このように,乙第84号証中の赤字行の行数は649行であり,

全体(甲123,2163行)の30%にすぎないのであるから,そ

の時点で,乙第76号証の37?74頁と甲第123号証とが8割以



上が同一であるとの KCSの指摘は失当であり,同一であるとする6

49行についてみても,そのうちの629行が単に命令,関数につい

て同一であるにすぎず,著作物としての地位を有さず,翻案かどうか

の比較の対象とはなり得ないものなのである。

b ところで,乙第84号証中の赤字行のうち,命令,関数,文法以外の

行は,わずかに以下の表現を含む20行(1行のみ重複)にすぎない。

以下においては,それぞれの意味(項目名称)を右辺に参考的に記載し

ている。

@ SEIK_KR_PRT 請求繰越印字

A TO(MT)_PAYM_KB 回収月

B TO(MT)_PAY_KB 回収方法

C MARU_KB 丸め区分

D KIHN_KB 基本料区分

E KYUU_KB 休日区分

F TUKI_HIWA_KB 月極自動計算

G TUKI_NISU_KB 月極設定日数

H TUKI_CHOU_KB 月極調整区分

I GENB_KB 現場管理区分

J GENB_UZEI_KB 現場別消費税区分

K AUTO_CALC_KB 自動計算

L TANK_KB 単価管理区分

M TANP_LESS_KB レス対応区分

N HIGI_TUKI_KB 日極自動計算

O HSYO_KB 保証区分(重複)

P HIWA_KB 日割自動計算

Q TOMT_UZEI_KB 消費税区分



R DHSY_NM 代表者名

乙第89号証の「陳述書(4)」では,上記@,Aの表現を含む次の2

行を摘示している。

Private Sub add?cbo SEIK?KR?PRT

()・・・・@

Private Sub add?cbo TOMT?PAYM?KB

()・・・A

KCSら は, と ラインの部分が類似していると主張する

が, ライン部分のadd?cbo中,addは加えるという一般

に用いる慣用語であり,cboはコントロールボックスの略語である。

この表記方法は一般的にハンガリアン記法と呼ばれ,その後に続く項目

名の前にコントロールのタイプを表わす表現で接頭辞として組み込まれ

る一般的なものである。

その後の ライン部分はプログラム上の項目名称を略字で表現し

ているものである。

c 乙第84号証は「得意先マスタ登録」というプログラムの一部であり,

甲第123号証のソースリスト,得意先マスタメンテ登録,修正,削除,

というプログラムと対比されるものである。上記プログラムソース行@,

Aは画面の各項目名称を表現しているもので,たとえば@のSEIK?

KR?PRT()はRBCソフトによる画面上の「請求繰越印字」と表

現されている項目名称を表わしている。

このような項目名称は,その業界や業種の種類により決定されている

固定項目名(業界の共通の呼称)を使用する関係でプログラム表現もよ

く似た略語を用い,開発企業内では統一した表現を用いるのが常識とさ

れている。

RBC もまた,当業界の業務で必要な固定項目名称をプログラム上で



表現する場合の取り決めを行ない,社内の誰が見ても関連が理解できる

ようにしている。

d すなわち,上記プログラムソース行@のSEIK?KR?PRT()

は画面上の「請求繰越印字」という項目を示すソース記述であり, RB

C 内ではローマ字のseikyu・kuRikoshiの略語でSEI

K?KRと記述方法を統一し,さらに印字については英単語のprin

tを略してprtと記述することとしている。

また,上記プログラムソース行AのTOMT―PAYM―KB()は

RBCソフトによる画面上の「回収月」という項目を示すソース記述で

あり,同様にローマ字表記のTokuisaki,英単語のmaste

rをもって「得意先マスタ」をTOMTと表現し,英単語のPAYと,

英単語の月を表わすmonthlyのMを使ってPAYMと表現し,「区

分」を意味するKBを付加することで上記ソース記述をすることとし,

社内規約上の記述方法と決定したものである。

e このような項目名称のプログラムソース上での記述は,項目名称自体

が同一業界で用いられるビジネスソフト上では必然的に近似すること,

そして,ソース上の記述は,同一企業内である程度意味が判別できるよ

うに慣用的に略記されることから,近似してしまうことが多分にあり得

る。

f RBC は,上記のようにして項目名称のソース上の記述を統一してい

るのであって,たまたま,項目名称に関するソース上の記述が KCSの

ものと近似したものが一部含まれているからといって,RBCプログラ

ムが貸出君プログラムソース上の記述を翻案したものなどということは,

到底できない。

g また,仮に, RBCのソース上の項目名称の記述に KCSのソース上

の項目名称の記述と類似するものが存在したとしても,それは,甲第1



23号証の総行数2163行のうちの,わずか20行なのであり,しか

も,それは業界での限定的記述方法が同一であるにすぎず,これをもっ

て,RBCプログラムが貸出君プログラム全体を翻案したとすることな

ど,到底できない。

(イ) 共通関数が類似するとの指摘に対して(乙85)

a 共通関数(規約)は,アプリケーションプログラム上で使用するDL

L(dynamic link library)の共通処理を予め命

名し,データベースにアクセスする時に共通のモジュールを一定関数と

して表現方法を定義しておく規約であり,事後に誰がその表現を見ても

何を意味しているものかを容易に連想できる文言(表現)を用いること

が多い。

RBC は市販されているビジュアルベーシックコントロール関数編

(かんたんプログラムVisual・Basic6 甲142)を参考

に表現を定義した。

たとえば,RBCプログラムのDLL内に存在するIME_SWとい

う関数についていえば,IMEとはwindowsの日本語切換を表現

する共通の機能名(甲142の51頁,322参照)であって,一般的

に使用されるものであり,この機能名にSW(スウィッチ)との表現を

付加したものである。

貸出君プログラムにおいてもIME_ON,IME_OFFと似かよ

った表現の共通関数が用いられているが,VBという同一プログラムを

用いたコンピューターシステムの共通関数としては,上記のように意味

を容易に連想できる表現を採用するのが通常である以上,似かよった表

現が採択されることは当然にあり得るのである。

b さらには,RBCプログラムに含まれるccurd,cdated,

cdbled,clntd,clngd,cstrd,などについても,



甲第142号証の312頁,313頁に紹介された関数表現を応用して

いるにすぎず,貸出君プログラムの表現などを利用したものではない。

また上記ccur,clng・・・・等はもともとVB上で用意され

ている関数であり,windowsを使用してプログラムを作成する時

に一般的に用いられる表現である。さらにDSN(データソースネーム

の略)Retry(リトライ)YMD(イヤー,マンス,デイ)はすべ

て変数であり,国際的標準機能に準じた表現を用いたものであり,甲第

142号証の245頁ではyyyy/mm/ddと表現されている。こ

れは年を表わすyが4桁,西暦という意味であり,mは2桁で月を表わ

し,dの日付も2桁という意味である。

その他の文字表現については,英単語をそのまま利用して共通の関数

として用いているだけのものであり,表現はきわめて一般的なものと理

解できるものである。

c このように,事後において誰が見ても判断が可能である表現を採用す

るのが,DLL仕様の共通関数表現の常識である。

d したがって,関数表現の一部に似かよった表現が採用されているから

といって,それが直ちに貸出君プログラムに基づいたものであるという

ことはできないし,RBCプログラムが貸出君プログラムを翻案したと

の主張を基礎づけるものとはならない。

(ウ) 甲第125号証と乙第78号証の類似点に関する指摘に対して(乙8

6)

a 甲第143号証(表K)は,甲第140号証(表H)と同様にして乙

第86号証の分析結果をまとめたものである。甲第139号証の表Cか

らわかるように,全807行中,84行が赤字行となっているが,その

すべてがVB上の命令,関数であることから,乙第86号証が,RBC

プログラムが貸出君プログラムを翻案したものであることを証拠づける



ものではないことは明白である。

b そもそもVB言語(ビジュアルベーシックはプログラムが実行した操

作(イベント)に対応して処理を行うプログラムの実行形式である)を

利用してプログラミングを行えば文法上誰が記述しても決まった記述と

なる。

たとえば,Option Explicit(VB6という機能の初

期値)あるいは,“Private Sub・・・・・End Sub”

と記述した命令が頻繁に記述されているが,これはサブルーチンを記述

すれば文法上決まった命令となる。

そのサブルーチン内で”On Error Resume Next

“との記述についてはエラーを無視して次の処理に進むという命令であ

り,これ以外の記述方法はない。

キーボードのキーを押した時に発生するイベントは,Private

Sub Form_Keydown(keycode As Inte

ger , Shift As Integer)と記述する方法以外に

はない。

文字キーを押した時に発生するイベントはPrivate Sub

Form_KeyPress(keyAscii As Intege

r)と記述する以外にない。

c VBプログラム記述は,それぞれの動作に応じた記述方法が文法とし

て約束されていることが多い。

たとえば,

・Private Sub Form_Queryunload(Can

cel As Integer,Unloadmode As In

teger)(フォームが破棄される直前に発生するイベント),

・Private Sub Form_Unload(Cancel A



s Integer)(フォームが破棄された時に発生するイベント),

・Private Sub Form_load )(フォームを読み込ん

だ時に発生するイベント)


といったもののほか,Int(整数型へ型変換 )
,date(日付型へ型

変換 ),YMD_Format,等の記述命令は一般に利用されている書

籍及びインターネット上に公開されている記述であり,そもそも創作性

のある著作物に該当しないのである。

d このように,甲第125号証と乙第78号証の類似点に関するKCS

の指摘もまた,全く意味のない主張である。

(エ) 甲第128号証と乙第81号証の類似点に関する指摘に対して(乙8

7)

a KCS は要するに,ビジネスサーバ版について,貸出君プログラムの

受注入力ソースコードの総ステップ数14,243のうち,42のステ

ップがRBCプログラムと類似すると指摘している(甲139の表D及

び表E参照)。しかしながら,かかる42のステップは,以下に説明する

ように,単なるCOBOL上の命令にすぎず,創作性のある著作物に該

当するものではない。

b 甲第144号証(表L)は,乙第87号証の分析結果をまとめたもの

であり,表L中には,甲第145号証(表M)の「標準COBOLプロ

グラミング」や甲第146号証の1ないし10(表N)のインターネッ

ト上のCOBOL命令語説明サイトが参照されている。

c 受注入力の日数計算に使用しているサブルーチンのソースコードのほ

とんど一字一句が同じであると KCSは指摘するが,このソースコード

は,COBOLにおける定型的な命令記述であり,単位行について,命

令記述が同じとなる場合があるのは当然である。

d KCS は,RBCプログラムと貸出君プログラムとの同一命令行を探



し出し,それをもってして,RBCプログラムが貸出君プログラムの翻

案であると指摘しているように見受けられるが,上記のとおり,行単位

で同じ命令を記述すれば,同一となる行が存在するのは当然である。

e 甲第144号証(表L)に示すように,たとえば,COBOLプログ

ラミングで最も頻度の高い「転記命令」は,“MOVE (一意名1)○

○ TO(一意名2)”と記述する。

「START命令」は,ファイルのキーインデックスに位置付ける命

令であり“START ()ファイル名1 KEY IS >= (デー

タ名1) INVALID KEY (無条件文1)”と記述する。

「READ命令」は,ファイルを読み込む処理であり“READ

(ファイル名1) NEXT RECORD AT END (無条件

文2)
”と記述する。

「IF命令」は,ある条件判断をする命令であり“IF (条件1)

THEN NEXT SENTENNCE”と記述する。

「COMPUTE命令」は,数値項目を計算する場合に利用し“CO

MPUTE (一意名1)
”と記述する。

「GOTO命令」は,次の見出し項目に移行するための命令であり“

GO TO (手続き名1)”と記述する。

そして,サブルーチンと呼ばれる副プログラムを終了するための命令

としては,“EXIT”と記述する。

このようにしてみると, KCSが同一と指摘する42行の約9割がC

OBOL言語の命令なのである。

また,日数等の表現はXNISU又はXNISUUと記載するのが一

般的である(甲146の1ないし10(表N)の資料B参照)


エンド日付の表現はED?YMDと記載するのが一般である(甲14

6の7ないし10(表N)の資料A参照)。



さらに,ワークエリアの日付などはWDAYと記載している書物が一

般的である(甲146の1ないし10(表N)参照)。

これらの文字表現についてもCOBOLにおける一般的な表現をその

まま利用しているものであり, KCSの表現を利用したものとはいえな

いし,このような表現が一致するからといって,プログラムの翻案に該

当するはずがない。

f このようにRBCプログラム(ビジネスサーバ版)は,COBOL言

語を利用してレンタル業界の特徴である日数計算及びレンタルの期間等

の情報を構築するために,年間のカレンダーを利用して貸出期間,すな

わちレンタルの開始日より終了日までの日数を算出したり,逆に日数よ

りレンタルの終了日の値を求めたりしている。

そして,このような仕様上の取り決めに従ってプログラムの命令等が

文法上決まった形でソースコードとして記載される。これは,上記の仕様

どおりCOBOL言語を利用してソースコードを記載すれば誰が行って

も同じように記載することになるのである。

(オ) 甲第129号証と乙第82号証の類似点に関する指摘に対して(乙8

8)

KCS は,要するに,ビジネスサーバ版について,貸出君プログラムの

出庫入力ソースコードの総ステップ数16,085のうち,30のステッ

プがRBCプログラムと類似すると指摘している(甲139の表Fおよび

表G参照)。しかしながら,かかる30のステップは,単なるCOBOL上

の命令にすぎず,創作性のある著作物に該当するものではない。この点は,

甲第128号証と乙第81号証との類似点に関する KCSの指摘に対して

反論したのと同様である(甲144(表L)参照)。

(カ) まとめ

RBCプログラムが貸出君プログラムと同一であるとKCSが指摘する部



分の割合は,乙第84号証に関して30%,乙第86号証に関して10%,

乙第87号証に関しては0.23%,乙第88号証に至っては0.18%に

すぎない(甲139の表A,C,E,G参照)。しかも,同一と指摘する部

分のほとんどは,使用プログラム言語上の命令や規約に関するものであり,

著作権法上,創作性のある著作物として保護され得ないものである。

そうすると,Win版について,「項目名称」に関するVBプログラム上

の記述のみが実質的な比較の対象となるが,この「項目名称」は,同一分

野のレンタル業務上の必然により,同一の意味となるものが使用されるの

は当然である。

そして,「項目名称」の略示記述としてのVB上の記述方法は,その意味

が容易に連想できるように,たとえばハンガリアン記法により記述するた

め表現が似かよることは当然ありうるのであり,使用する「項目名称」の

すべてについて企業内で統一的に決定するのが通常である。また,その作

業は,他のプログラムを参照するまでもなく,レンタル業務について通常

の知識を有するプログラマーにとって容易になし得る程度のものというべ

きである。

さらには,「項目名称」は,そのすべてがRBCプログラムと貸出君プロ

グラム間で完全に一致しているわけではなく,RBCプログラムは,独自

の基本設計部分やデータの流れをもって作成されているのである。

したがって,Win版について,「項目名称」に関するVB上の記述に貸

出君プログラムと似かよったものが部分的に存在するからといって,その

似かよった「項目名称」に関するプログラム上の記述が貸出君プログラム

に依拠したものということは到底できない。

また,「項目名称」に関する記述の割合は,プログラム全体からみてわず

かな部分を占めるにすぎないから,そのことをもって,RBCプログラム

全体が貸出君プログラムに依拠したものであるとの KCSの主張は,失当



である。

ビジネスサーバ版については,そもそも一致すると指摘する部分の全体

に対する割合が1%にも満たないのであり,しかも,その一致する部分は

COBOL言語における命令として一般的なものや,文字表現として一般

的なものにすぎないから,RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠し

たものであるとするKCSの主張は,全て根拠がない。

イ RBCプログラムは,貸出君プログラムとは全く異なる設計仕様によって

組み立てられている。このことは,Win版については KCSの受注入力プ

ログラム(乙77)とこれに対応する RBCの受注入力プログラム(甲12

4)の各照会画面を表示する部分の機能を比較し,ビジネスサーバ版につい

ては KCSの受注入力プログラムソースリスト(乙81の2)とこれに対応

するRBCの随時入力プログラムソースリスト(甲128)とを対比すれば,

以下のとおり明らかである。

(ア) Win版(甲124と乙77)

a まず,RBC受注入力プログラム(甲124)とKCS受注入力プロ

グラム(乙77)の照会画面を表示する部分の機能を比較する。これら

を簡単に図で表すとそれぞれ別紙17「甲124・乙77対比表@」の

図A,Bとなる。

RBCシステムでは,上記対比表の図A及びその説明に示すように,

照会機能を使用するとメインプログラムはサブプログラムコントロール

マスタのデータベースを検索して照会プログラムを起動し画面に表示し

ている。

他方,KCSシステムでは,上記対比表の図B及びその説明に示すよ

うに,照会機能を使用するとメインプログラムはDLL(共通プログラ

ム)を検索して照会プログラムを起動し画面に表示している。

このように,RBCシステムはコントロールマスタのデータベース



検索するため,顧客の要望に応じてプログラムの変更を行わずに,任意

で起動する照会プログラムを変更することができるようになっているの

に対し,KCSシステムはプログラム内のDLL(共通プログラム)に

起動するプログラムが組み込まれているため,プログラムの変更を行わ

なければ起動するプログラムを変更することができない。

RBCシステムとKCSシステムは,照会という同一機能ではあるが

機能ロジックが全く異なった仕様により作成されていることが明白であ

る。

b 次にRBC受注入力プログラム(甲124)とKCS受注入力プログ

ラム(乙77)の画面構成及びその機能を比較する。これらを簡単に図

で表すと別紙18「甲124・乙77対比表A」の図C,Dとなる。

RBCシステムでは,図C及びその説明に示すように,画面構成はヘ

ッダー部,明細部,フッダー部の3つに大きく分けることができ,上か

ら順に入力することになる。当然どの項目においても該当フィールドに

カーソルを位置づければ入力可能になる。

他方,KCSシステムでは,図D及びその説明に示すように,画面構

成はヘッダー部,入力域,明細部に分かれており,入力は,ヘッダー部

と入力域でしか行うことができない。明細部は表示のみの領域としての

機能であり,明細部の表示明細を修正する場合は毎回入力域にその明細

を移行しなければならない。

このように,画面構成とその機能においても,RBCプログラムは,

貸出君プログラムとは全く異なった仕様により作成されている。

(イ) ビジネスサーバ版(甲128と乙81の2)

RBC随時入力プログラムソースリスト(甲128)とKCS受注入力

プログラムソースリスト(乙81の2)の構造を簡単に図で表すと,それ

ぞれ別紙19「甲128・乙81の2対比表」の図E,Fとなる。



RBCシステムは,図E及びその説明に示すように,プログラムが開始

すると,条件判断によりサブルーチン@の処理を行い,その処理が終了す

ると再度,条件判断を行い,サブルーチンA,B・・・に流れるロジック

になっており,プログラムの構造化が実現されている。

他方,KCSシステムは,図F及びその説明に示すように,プログラム

が開始すると,サブルーチン@の処理を行い,その処理が終了するとA,

B・・・と単に上から下に流れるロジックになっている。

このメインロジックの違いから理解できるように,RBCプログラムは

貸出君プログラムとはプログラムの構造自体が全く異なったものになって

いる。

ウ また, KCS自身も,RBCプログラムが貸出君新版プログラムの持ち出

しであるとの主張の際,次のように主張していることから明らかなように,

RBCプログラムと貸出君プログラムが全く異なるものであることは自認し

ている。すなわち,「原告(RBC)販売ソフトは被告(KCS)内で開発さ

れていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり,被告( K

CS )が従前から販売していた「貸出君」のプログラムに変更や修正を加え

たものではないから,被告( KCS)の商品である貸出君と原告(RBC)

販売ソフトのプログラムを比べても意味がない。原告( RBC)は,このこ

とを知悉しつつ,敢えてこの両者を比較し,そのプログラムが異なるという

当然の結果を得ることによって,あたかも自己に権利侵害の事実がないと周

囲に誤解させようと企むものであり,その行為は極めて巧妙かつ悪質であ

る」(被告第1準備書面4頁)と。

(2) 開発用書類について

ア 乙55について

KCSは,両プログラムの共通点として,「『DB』欄等のある行に続く4

1行に記入された項目の内容の多くが取引先マスタRHMTOMTと一致し



ている」と指摘する(乙55)が,これも似ざるを得ない部分である。この

点を具体的に整理すると,次のとおりとなる。



桁数 R B C レ コ ー 桁数 K C S レ コ ー

ド ド

デザイン項目 デザイン項目

名 名

3 4 担当者コード 2 4 担当者コード

6 7 取引先コード 3 5 得意先コード

7 4 現場コード 該当なし

9 20 取引先名 4 20 得意先名

10 10 略称名 5 10 得意先略名

16 2 締日コード 12 2 締日コード

19 1 集金方法 15 1 回収方法

22 3 地区コード 18 3 地区コード

23 5 ランク 21 1 得意先ランク

KCSは,上記のとおり,RBCプログラムと貸出君プログラムのレコー

ドデザイン項目が類似していることをもって,RBCプログラムが貸出君プ

ログラムの翻案であると主張している。

しかしながら,コンピュータソフトを作る場合には,同一業種や同一業務

においては,それぞれ決められた範囲の処理や同一用語・類似用語が用いら

れているのが当然であり,さらに,ソフトを作る言語そのものが限られた指

令の組合せが必然的に発生するものであり,当然,類似することを免れない

部分が少なくない。

そして,上記表に挙がっている項目は,全て必要不可欠な項目である。

このことは, RBC及び KCSとは全く関係のない応研株式会社が販売し



ている販売管理ソフト「販売大臣2003」の得意先マスタのレコードデザイ

ン(甲227)と,同じくピーシーエー株式会社の販売管理ソフト「PCA商

管7 V.2」の得意先マスタのレコードデザイン(甲228)においても,次

のとおり,同様の項目があることから明白である。



桁数 販売大臣 桁 PCA商管

2003項目名 数 V.2項目名

1 15 コード 13 得意先コード

2 50 名称1 40 得意先名1

3 31 名称2 20 得意先名2

7 15 請求先コード 13 請求先コード

8 1 請求管理 1 実績管理

9 8 担当者コード 3 主担当者コー



16 3 請求締日 2 請求締日

17 2 回収予定日 3 回収予定日

イ 乙57ないし59の19について

KCSは,開発用書類についても,行数やセルの幅まで一致していること

から,そのデータに上書きされていることが明らかであることを指摘する

(乙57?59の19)。

確かに,ファイル仕様書のデザインは, KCSで使用していたものと同じ

であるが,これは KCS固有のデザインなどではなく, KCSに著作権もな

ければ秘密管理性もないものである。

すなわち,このファイル仕様書は,内田洋行が考案し,グループ会社の教

育用にグループ会社全てで使用されているものであり,当初は手書きで,途

中からExcelで作成されたのである。



したがって,ファイル仕様書のデザインが同一でも, KCSのデータを上

書きしたという証明にはならない。

(3) オペレーションマニュアルについて

KCS は, RBCと KCSのオペレーションマニュアル(甲87,甲96)

がアスタリスクの数や具体的な一字一句の表現まで一致しているから,データ

上書きは明らかであると主張する。

しかし,オペレーションマニュアル作成に使用するWordというソフトは,

「ページ設定」という機能によって,文字数と行数,余白の大きさを指定でき,

「フォント」という機能によって文字のフォント,サイズを指定することがで

きる。そして,アスタリスクは,左端の文字入力位置から入力した単語の右側

から用紙右端の余白までの間に印字されているのであるから,左側の余白,右

側の余白,1行の文字数,文字のサイズ,単語の文字数が同じであれば,アス

タリスクの数も同じになる。

そして,これらの文字数やサイズなどは個々人の好みによって決めるのであ

るが,設定は簡単であるから,自分で決めた書式を常に使用する人もいるし,

その一手間が面倒だとしてあまりこだわりがなくWordの初期設定のままの

人もいる。Wordの初期設定では文字数の指定はなく,行数は40行が指定

されており,余白は上が35mm,左と下と右が30mm,文字はMS明朝,

大きさは10.5ポイントとなっている。そして,自分で決めた書式を使いた

い場合においては,過去に自分が作成した文書を利用する場合と,新たにWo

rdの文書を新規作成し,書式を設定する場合とがある。

そして, RBCと KCSのオペレーションマニュアルは同一人物がデザイン

したものであるから,同じ書式が使用されていても何ら不思議ではない。しか

も,同一業界のシステムであることから用いられる単語も同じである。したが

って,余白,文字数,文字の大きさ,単語の文字数が同じとなり,アスタリス

クの数が一致するという現象が生じるのも全く不思議ではない。



以上より,同一の書式を使えば一致することはむしろ当然であり,同じ作成

者が同一の書式を使うことは自然なことであるため,アスタリスクの数の一致

は, RBCがオペレーションマニュアルのデータを上書きしたことの証明には

ならない。

(4) 以上のとおり,RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠したものではな

い。

4 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画

面に対するKCSの著作権を侵害するか)の(1)(表示画面の著作物性の有無)に

ついて

【KCSの主張】

KCSのオペレーションマニュアル(乙9)に掲載された「貸出君 for win 廉

価版」の表示画面は,従来のこの種のプログラムにおいては別々の画面に分かれ

ていた出庫の伝票入力を行う出庫画面と,入庫の伝票入力を行う入庫画面とを統

一化した「入出庫入力画面」を備えたものである。

この統一化した画面は,1つのディスプレイ上に出庫画面と入庫画面が単純に

並列表示されるようにしたというものではなく,入庫画面,出庫画面,そして入

庫と出庫の伝票入力をともに行える入出庫画面の3種類の画面が,左上部にある

「出庫」「入庫」「入出庫」の選択ボタンの操作によって切り替わるようにした,
・ ・

全く新しい創作的表現となっている。

また,前記入出庫画面は,それ自体従来にない全く新しいものであり,ワーク

シート状の入力欄への明細の入力の際に ,「出庫数 」「入庫数」の欄がともに入力

可能な状態で表示されるという,従来のこの種のプログラムの画面からは全く予

測できない表現上の特徴を有するものとなっている。

したがって,「入出庫入力画面」に著作物性が認められることは明らかである。

さらに,「入出庫入力画面」は ,「得意先マスタ修正登録画面」 「現場マスタ修


正登録画面 」 「商品マスタ修正登録画面 」 「機械マスタ修正登録画面」 「入出庫
, , ,



問合せ画面 」 「械稼動問合せ画面 」 「止日入力画面」等の各画面と牽連関係にあ
, ,

り,これらの集合体としての表示画面も一つの著作物として保護されるものであ

る。

【RBCらの主張】

争う。

KCSにおいて「貸出君 for win 廉価版」なるソフトが開発されたことがない

ことは,前記のとおりである。

5 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画

面に対する KCS の著作権を侵害するか)の(2)(表示画面に対する依拠性の有

無)について

【KCSの主張】

RBCプログラムの商品説明用リーフレットには,前記各画面と同一の表示画

面が掲載されており(乙11の1),入出庫入力画面からの操作により他の画面が

呼び出されるなど牽連関係があることも記載されている。

したがって,RBCプログラムは ,「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に依

拠して作成されたものであることが明らかである。

【RBCらの主張】

争う。

KCSにおいて「貸出君 for win 廉価版」なるソフトが開発されたことがない

ことは,前記のとおりである。

6 争点4(RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)

は「貸出君ASP新版」の開発用書類及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用

書類(乙49,58)に対するKCSの著作権を侵害するか)について

【KCSの主張】

(1) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は ,「貸出君ASP新版」のプログ

ラムの開発用書類(乙23)に対する KCSの著作権(翻案権)を侵害するも



のである。

(2) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は,貸出君プログラム(ASP版)

の開発用書類(乙49,58)を翻案して作成した二次的著作物ないしそれを

利用した物であり, KCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著

作者の権利)を侵害するものである。

(3) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類である甲第20号証

(得意先マスタメンテナンス)について,同号証の16,17(取引先マス

タ)が,乙第23号証の7枚目と8枚目(取引先マスタ)と全く同一内容であ

ること,甲第20号証の17と乙第23号証の8枚目に共通した誤記(左上部

の表示「1/2」は,本当は「2/2」)があること等からすると,甲第20号

証が乙第23号証に依拠して作成されたものであることが明らかであり,RB

Cプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類は「貸出君ASP新版」のプ

ログラムの開発用書類(乙23)を複製ないし翻案したものというべきである。

(4) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は,貸出君

プログラムの開発用書類(乙49,58)を複製ないし翻案したものである。

【RBCらの主張】

争う。

7 争点5(RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)

は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル及び貸出君プログラム

(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵

害するか)について

【KCSの主張】

(1) RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は,

「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)を複製ないし

翻案したものである。

(2) RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は,



貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)を複製

ないし翻案したものである。

【RBCらの主張】

争う。

8 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について,RBCらは不正競

争防止法2条1項7号,8号所定の不正競争をしたか)の(1)(本件開発方針の営

業秘密該当性の有無)について

【KCSの主張】

(1) 乙第6号証(開発方針書)は,入庫画面と出庫画面とを統一化すること等が

記載された事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られて

いないものである。

また,上記開発方針書は,平成13年8月に行った決算会議のために作成され

た書類であるが,新製品の開発方針など極めて重要な会社方針が記載されている

ため,社外秘扱いとされ,「秘」の印が押されている。また,KCSは,内田洋

行との間で秘密保持契約を締結している(乙29)。そして,決算会議の参加者

と同数しか作成されず,参加者に対しては,社外秘の機密書類であることを説明

したうえ上で,コピー禁止と説明してあり,「秘」の押印もなされているため,

参加者は上記開発方針書に記載された情報が営業秘密であることは当然認識して

いた。

したがって,上記開発方針書に記載されている本件開発方針もまた,有用であ

りかつ非公知の情報であって,秘密管理性を有するものである。

(2) RBCらは,「貸出君 for win 廉価版」の開発方針である「入庫画面と出庫

画面の統一化」は一般通常に流布されている概念であると主張するが,そのよう

な事実はない。

仮に,RBCらが主張するように,レンタル業界からの開発の要望があったと

しても,「入庫画面と出庫画面の統一化」を初めとする「貸出君 for win 廉価



版」のKCSにおける具体的な開発計画が公然と知られていないことに変わりは

ない。

【RBCらの主張】

(1) 「入庫画面と出庫画面の統一化」は,レンタル業界から時折開発の要望もあ

り,何も KCS独自の情報などではなく,一般通常に流布されている概念(情

報)である。

(2) 上記開発方針書のようなKCSの開発方針を記載した書面は,年2回の決算

会議に合わせて従業員全員に配布するものであって,これに「秘」の印を押して

あるのは,次のような事情による。

上記決算会議は,毎回,内田洋行(KCSとの資本関係もあり,最大の仕入先

でもある)の会議室を借りて行われていた(同社の複写機を使って,当該文書を

50部位コピーもしていた)。その理由は,費用が不要であり,会議終了後に行

う懇親会も,同社内の大きな社員食堂を利用できるからである。

これらの際に,各従業員が,会議室内に書類を置き忘れたり,乱雑に取り扱っ

たりするのを防ぐため,会議を実質的に切りもりしていた X2の指示により,

「秘」の印を押すことにしたものである。

この文書内容については,内田洋行には説明していたぐらいで(内田洋行の従

業員も会議に参加することがあり,懇親会にも参加していた。,営業秘密どころ


か,積極的に,顧客や見込客に対し,このようなものを開発しているとか,開発

したいと考えているとかを報告・説明し,営業用に利用していた。このように,

各従業員は,計画発表を受ければ,即日でも顧客や見込客に話していくものであ

って,秘密として管理されていたものでは全くない。

9 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について,RBCらは不正競

争防止法2条1項7号,8号所定の不正競争をしたか)の(2)(本件プログラム作

成情報の営業秘密該当性の有無)について

【KCSの主張】



乙第23号証は,建機・仮設資材レンタル業向けパッケージソフトウェア「貸出

君ASP新版」「貸出君 for win 廉価版」の設計書類であり,営業秘密であること

は明らかである。

ソフトウェアの開発・販売を業とするKCSにとって,本件プログラム作成情報

が極めて重要な営業秘密であることは,従業員全員が当然に認識し,社外に流出し

ないように管理されていた。

【RBCらの主張】

争う。

10 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について,RBCらは不正

競争防止法2条1項7号,8号所定の不正競争をしたか)の(3)(RBCらの不正

競争行為の有無)について

【KCSの主張】

(1) X1ら8名は,KCSと競争関係にある事業を行って不当な利益を図る目的

で,本件開発方針及び本件プログラム作成情報を持ち出してこれを使用,開示し

たものであるから,同人らの行為は,不正競争防止法2条1項7号に該当する。

(2) RBCは,上記の事実を全て知りながら,本件開発方針及び本件プログラム

作成情報に基づき「ミスターアドバンス」等のソフトを完成させ,これをKCS

の取引先に販売したのであり,KCSと競争関係にある事業を行って不当な利益

を図る目的で営業秘密を使用したものであるから,RBCの行為は,不正競争防

止法2条1項8号に該当する。

【RBCらの主張】

争う。

11 争点7(貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不法

行為の成否)について

【KCSの主張】

(1) 判例上の基準



近時,著作権法等による保護対象となる利益であるか否かにかかわらず,自

由競争を逸脱するような情報の不正利用行為につき,裁判例において不法行為

責任(民法709条)が認められている。

これらの裁判例においては,競業他社が多大な労力または資本を投下して完

成させた物や情報に依拠した製品を創作し,当該競業他社と競合する地域で当

該コピー製品を販売するような行為は,当該物や情報が著作権その他の知的財

産権の保護対象に該当するか否かを問わず,当該競業他社の営業活動上の利益

を不正に侵害するものとして,不法行為(民法709条)に該当すると判示さ

れている。

(2) RBCらの不法行為の内容

ア 不法行為の概要

「貸出君」は,KCSが多大な労力及び資本を投入して昭和63年ころか

ら開発・改良を重ねてきた KCSの営業活動の根幹をなすソフトウエアであ

り,同ソフトウエアに関連して完成された物としては,Win版及びビジネ

スサーバ版の各プログラム(ソース・オブジェクトの両者を含む),表示画面,

オペレーションマニュアル,各種開発用書類(貸出君関連成果物)がある。

しかるに,今般, RBCらは,RBCを設立するに際し, KCSが10年

以上をかけて開発及び改良を重ねてきた貸出君関連成果物をデータその他の

媒体で持ち出し,適宜,コピー及び上書きすることによって,「ミスターアド

ヴァンス」「ミスターレンタル 」「Team S」等として完成させ,RBC

のソフトとして,元来自らが KCSの従業員の立場として営業活動を行って

いたKCSの顧客に対し,これらのソフトを販売し続けるに至っている。

イ データ等持ち出しについて

RBCらが貸出君関連成果物をデータその他の媒体で持ち出していたこと

は,たとえば,ソースプログラムについては,RBCプログラムと貸出君プ

ログラムを比較すればデッドコピーされている部分が存在することが一目瞭



然であり(乙84ないし乙89,なお,乙65も参照 ),オペレーションマ

ニュアルについては,その内容に加え,アスタリスクの数や具体的な一字一

句の表現まで一致している部分があることからして,そのデータに上書きが

施されていることが明らかであり(甲87,甲96, X3 調書41頁以下

〔同証人でさえデータ上書きの事実を否定していない 〕 X4 調書18頁以


下),開発用書類についても,その内容に加え(乙57ないし59の19)


行数やセルの幅まで完全に一致していることからしても,そのデータに上書

きが施されていることが明らかである( X3調書40頁以下〔同証人でさえ

データ上書きの事実を否定していない 〕 。さらに, RBCの元従業員らは,


KCS が開発用に使用していた富士通製K6900というオフコンをRBC

ら が自らの事務所に搬入して使用していたことを認めている(乙62,乙6

3,乙65ないし乙67, X3調書42頁以下〔同証人でさえオフコン持ち

出しの事実を否定していない〕。


そして何より, RBCらは,裁判所からの指示に反し,明らかに虚偽の弁

解を繰り返しつつ,Win版及びビジネスサーバ版の双方につき,大半のプ

ログラム及びその作成経過を提出しておらず,とりわけ,ビジネスサーバ版

のプログラムについては,平成16年6月14日の段階で作成されているも

ののみで214本存在すると陳述した上に(甲13),平成17年12月15

日の時点でもその事実は正しい旨の証言をしているにもかかわらず(X3 調

書35頁),改めて作成履歴等の提出を求められるやいなや一転して30数本

しか存在しないなどと強弁し始めており(甲115),もはや主張整理の結果

として,RBCソフトのうち自らが作成したプログラムは僅かであり,残り

の大半はKCSのプログラムを流用したことが明らかになっている。

ウ RBCらの悪質な営業方法について

RBCらは,ミスターアドバンス開発の基本理念として「貸出君の持つ肥

大化された非効率性を解決する」ことを挙げ,このことを KCSの顧客らに



広報し(甲5の2頁),しかも,KCSに在籍中にその顧客から「貸出君」を

受注した事実を故意に隠匿していた(乙18ないし20)。さらに,RBCら

は,KCSの顧客をしてRBCと混同させるような行為にも及んだ上(乙1,

2,46,56),挙句の果てには,KCSにおいて受注し作業した代金をR

BCにて取得するなど(乙38ないし45),悪質極まりない行動を繰り返し

ていた。

RBCは,かかる極めて悪質な営業活動により,その設立直後から(X3

の退職から起算しても僅か2か月で),ミスターアドバンスの注文を受けるこ

とに成功しているのである(甲70)


エ X2ら7名の不法行為の内容

(ア) X2,X3,X4,X5について

KCS の社内改善委員会(甲108)を設立し,Y2や Y1に対して辞

任を迫り, KCS に対する各種背任行為に及んだ中心人物であり,貸出君

に関する各種関連成果物を持ち出してミスターアドバンスとして完成させ,

RBC のソフトとして販売していき, KCSの取引先を不正に奪うことを

中心になって共謀していた首謀者である(共謀の具体的様子などは乙34

ないし乙36等からも明らかである。。


X3 及び X4においては, KCS在籍中からミスターアドバンスの具体

的な開発行為に及んだ人物でもある。

(イ) X6,X7,X8について

ミスターアドバンスの開発行為に関わった者らである。

X6は,詳細設計書(乙23等)の作成及びスルーチェックを行うとと

もに(甲15),訴訟においては,RBCの違法行為の隠匿に協力するよう

な証言に終始していた。また, X6は,K6900の運搬に関わったこと

を認めている(X6調書19頁)。

X7及び X8は,ASP版のプログラム開発に従事した者であり(甲1



5,甲20の3等) RBCのために使用されることを知悉しつつ貸出君A


SP新版のプログラム開発に及んでいた。また,旧貸出君のプログラムを

複製・翻案して,ミスターアドバンスのソースコードを作成していった。

(3) 小括

以上のとおり, RBCは, KCSが10年以上かけて開発・改良してきたソ

フトに適宜修正を加えることで,極めて短期間に自らのソフトを完成させ,同

ソフトを利用して KCSの顧客らに対して営業活動を行い,不当な利益を獲得

し続けている。

そして,RBCらの行為は明らかに故意に基づいている。

RBCらの行為が上記各裁判例の基準に当てはまることは明白であり,RB

Cら は KCSに対し,各種著作権侵害の法的責任とは無関係に不法行為責任を

負うものである。

【RBCらの主張】

否認ないし争う。

前記第7の1【RBCらの主張】のとおり,@RBCは不法な目的で設立された

ものではなく,むしろ,KCSの不当な行為により緊急避難的に設立されたもので

ある。また,ARBCシステムはKCSシステムとは全く異なる新たなシステムで

あり,RBCらは,RBCシステムを開発するに当たり,ビジネスサーバ版であれ

ば約1年,Win版でも7か月から3年を費やしているものであって,RBCシス

テムの開発期間に相応の期間をかけているものである。要するに,KCSシステム

を剽窃・流用してRBCシステムの開発期間を短縮したという事実はない。

12 争点8(KCSの被った損害の額)について

【KCSの主張】

KCSは,RBCらの違法行為によって被った損害につき,著作権侵害の不法行

為,不正競争防止法4条又は民法709条に基づき,次のとおり損害金の支払を求

める。



(1) 著作権法114条1項又は不正競争防止法5条1項による損害額(以下「1

項損害」という。)の算定

ア ソフト販売に関する逸失利益

(ア) RBCの譲渡等数量

RBC設立後に RBCが販売したソフトは, RBCらの違法行為がなけ

れば全て KCSが販売できたはずである。そして,RBCは,現在に至る

までの間,少なくとも73社にソフトを販売した(乙92,乙93)


(イ) 単位数量当たりの利益の額

a KCS は,RBC が設立された平成15年3月より前3年分の決算期

において,「貸出君」1つ販売するにあたり平均約550万円の利益を得

ていた(乙91の1ないし3)。

b 変動費について

「貸出君」のソフトは,一度プログラムが完成してしまえば,1つ追

加的に販売するために原材料の仕入れ等の追加的費用が必要となるわけ

ではない(ハードとともに販売する場合はハードの代金が仕入原価に該

当するが,この分については原価金額に含めて利益額から差し引いて計

算している〔乙91の1ないし7,乙97の1ないし7〕
。なお,顧客ご

とにKCSのSEプログラマーがカスタマイズ作業を行うことがあるが,

SEプログラマーの人件費は KCS内での開発作業等に関するものであ

り,「貸出君」1つ追加的に販売するために必要となる費用には該当しな

い。。


c RBCらの主張について

(a) RBCらは,「貸出君」1つ当たり販売するにつきKCSが得てい

た利益額につき,過去12年分の平均値を基準にするべきであると主張

するが,主力商品化してから売上げが軌道に乗るまでの期間や10年以

上の期間における業界内の相場の変動等を考慮すれば,主力商品化して



からの全期間の平均値を基準にしてしまうと,問題となっている平成1

5年3月以降にKCSが被った損害額(逸失利益額)を著しく過小に評

価してしまうことになる。KCSは,平成15年3月より前3年間,安

定的に平均550万円以上の利益を得ていたのであるから(乙91の1

ないし3) RBCらの違法行為なしに営業活動を継続していれば,同


月以降も同様のペースで利益を上げていたことは容易に予測される。し

たがって,KCSの損害額が1件当たり少なくとも550万円の利益を

得たことを基準として算定されるべきは当然である。

(b) RBCらは,KCSの粗利益率は4割9分にすぎないと主張するが,

本件直近の第23期の粗利益率は66%であり(甲169),平成に入

ってからの第10期から第19期までの10期の平均粗利益率は5割を

超えている(甲168の7)。

(ウ) 損害額

したがって,RBCソフトの販売により KCSがソフトにつき被った逸

失利益分の損害額は,4億0150万円(550万円×73社)である。

なお, RBC とKCS は完全に競業関係にあり,営業先も完全に一致する

ことから, KCS の元ユーザであるか否かにかかわらず,現在の RBCの

ユーザに対するソフトの販売分は,全て KCSの損害額の算定の基礎に含

まれる。

イ ソフトに付随する商品の販売等による逸失利益

(ア) リモート保守料収入

KCSは,「貸出君」のソフトの販売に付随して,ユーザとの間で「貸出

君」のソフトのリモート保守契約を締結し,同ユーザからリモート保守料

を取得することもあったが,同ユーザの中には, RBCからソフトを購入

したことを受けて, KCSとのリモート保守契約を終了させ,新たにRB

Cとの間でリモート保守契約を締結した企業も存在する。RBCは,「貸出



君」につき著作権侵害・営業秘密侵害・不法行為に及んだ結果,「Mr.A

dvance」等のソフトを完成させ,同ソフトにつき KCSの元ユーザ

等との間でリモート保守契約を締結の上リモート保守料収入を得るように

なったところ, RBCらの違法行為がなければ,KCS がKCSのユーザ

との間でリモート保守契約を締結の上 KCSがリモート保守料収入を得る

ことができたはずである。そして, KCSが失ったリモート保守料は,少

なくとも月額40万1000円(年額481万2000円)に達する(乙

94)。

したがって,RBCソフトの販売によりKCS がリモート保守につき被

った逸失利益分の損害額は,平成15年3月以降少なくとも年額481万

2000円(月額40万1000円)の割合で算定される金額である(ち

なみに,平成19年2月を基準とすると1924万8000円〔481万

2000円×4年〕となる)。

(イ) 印刷物の販売による収入

KCSは,「貸出君」のソフトの販売に付随して,ユーザに対し,同ソフ

トの利用に必要な各種帳票類を販売し,同ユーザから同販売代金を取得す

ることもあったが,同ユーザの中には, RBCからソフトを購入したこと

に伴い, KCSから各種帳票類を仕入れることを取りやめ,RBC から仕

入れるようになった企業も存在する。RBCは,「貸出君」につき著作権侵

害・営業秘密侵害・不法行為に及んだ結果,「Mr.Advance」等の

ソフトを完成させ,同ソフトの利用に必要な各種帳票類を販売して同販売

代金を得るようになったところ, RBCらの違法行為がなければ, KCS

が KCS のユーザに対して各種帳票類を販売してKCSが販売代金を得る

ことができたはずである。そして, KCSが失った各種帳票類の販売代金

の粗利益は,「貸出君」の元ユーザに対する販売分のみに限定しても,少な

くとも年額60万1400円に達する(乙95)




したがって,RBCソフトの販売により KCSが印刷物の販売につき被

った逸失利益分の損害額は,平成15年3月以降少なくとも年額60万1

400円の割合で算定される金額である(ちなみに,平成19年2月を基

準とすると240万5600円〔60万1400円×4年〕となる)


ウ 結論

(ア) 上記ア及びイに記載の合計額(平成19年2月を基準とすると,4億

2315万3600円)が RBCらの違法行為により KCSが被った逸失

利益分の損害額(1項損害)である。そして,同金額の1割に相当する弁

護士費用が損害額として加算されるべきである。

(イ) 上記損害額は, RBCらの一般不法行為と相当因果関係のある損害額

でもある。

(2) 著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項による損害額(以下「2

項損害」という。)の算定

ア RBCの売上高

(ア) RBCから提出された総勘定元帳(甲205)を分析し,RBCの第1

期の売上をRBCソフトに関連するものとそうでないものに分類した結果に

よれば,平成16年1月までの10か月間におけるRBCソフトに関連する

売上は,3億1208万7302円である。これを年額(12か月)に換算

すると,3億7450万4762円となる。

(イ) なお,RBCは,RBCソフトに関する売上げのうち相当部分を「売上

取消」という形で取消処理しているが,その多くは実際に契約が取り消され

たのではなく, (帳簿閲覧時のX2の
「未成工事受入金」あるいは「預り金」

説明による。)への振替処理をして翌期に繰り越されたにすぎないもの(す

なわち,既に受注・入金済みであり,たまたま完成が翌期にずれ込んだだけ

のものを翌期に繰り越しているだけ)であるため,損害額から控除すべきも

のではない。したがって,実際に契約が取り消されたものと考えられる九州



リース分と尼信リース分についてのみ売上げから控除した。

イ RBCの利益率

RBCの上記売上高に対する利益率は6割を下らない。

ウ 損害額

よって,RBCが得た利益は2億2470万2857円を下らない。これら

は全てKCSに生じた損害と推定されるべきものである(2項損害)。

(3) 予備的主張

KCSは,
「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」開発のため,

平成13年9月(乙6)から RBC設立の平成15年3月までの間,少なくと

も合計金9910万2156円の人件費を支出したが(乙96),同支出の成果

として作成された各種資料を RBCらに不正に持ち出され,RBCのソフトの

ために利用された結果,上記人件費については全く無駄な出費を強いられたこ

ととなった。

企業は,最低限度,投下した支出を上回る売上げを得る見込みがあるからこ

そ,多額の費用を投下して商品開発にあたるのであり,当然のことながら, K

CSの場合も「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」の営業活動

により,少なくとも上記人件費の支出を上回る利益を得る見込みで,同支出に

及んだものである。

かかる観点からすれば,KCSに対しては最低限度上記人件費の合計金99

10万2156円の損害が填補されるべきであり,万一,上記(1)に記載したK

CSの逸失利益が同人件費合計額よりも少額であると算定される場合において

は,同人件費合計額をもって KCSの損害額として認められるべきである。な

お,この場合においても,同金額の1割に相当する弁護士費用が損害額として

加算されるべきである。

(4) まとめ

よって,KCSはRBCらに対し,著作権侵害の不法行為,不正競争防止法



4条又は民法709条に基づき,連帯して,第2事件提訴前に発生していた損

害額である2億1200万円のうち1億円及びこれに対する第2事件の訴状送

達の日の翌日である平成16年11月27日から支払済みまで年5分の割合に

よる遅延損害金の支払を求める。

【RBCらの主張】

(1) KCSの主張

KCSの損害額の主張は,@著作権法114条1項又は不正競争防止法5条

1項に基づく損害(1項損害),A民法709条に基づく損害,B著作権法11

4条2項又は不正競争防止法5条2項に基づく損害(2項損害)に分けられる。

(2) 1項損害について

ア 変動経費についての一般論

(ア) 著作権法114条1項や不正競争防止法5条1項においては,侵害者

の販売数量に,著作権者の単位数量当たりの利益を乗じた額を損害と推定

するとされているが,この利益は粗利益ではなく,@得べかりし純利益に,

A真正品販売により回収することができたはずの固定経費を合算した金額

になり,B販売していた場合の経費増加分である変動経費は含まれない。

そして,この金額は,粗利益から仕入原価以外の変動経費を控除した金額

と一致する。

(イ) KCS は,KCS の単位数量当たりの利益として粗利益を主張し,変

動経費を控除することは不要であると主張する。

しかし,RBCシステムもKCSシステムも,1度完成したら追加費用

が不要というようなものではなく,営業活動が必要であり,そのための費

用や,販売後のサポート費用や納入の際の交通費や搬送費等が必要となる。

したがって,変動経費が一切発生しないということはおよそ考えられな

い。

イ 本件の特殊事情



(ア) ところで,一般的に,変動経費に人件費や販売管理費が含まれない理

由としては,権利者は,侵害されている製品を販売するために既に人件費

や販売管理費を支出しており,製造数が増加しても,人件費や販売管理費

はほとんど増加しないことが多いからである。

これに対し,権利者が追加製造するにあたっても追加の人件費や販売管

理費が必要となる場合には,当然に変動経費となる。

(イ) そして, KCS の従業員らが KCSを退社してRBCが設立され,R

BCにおいてRBCシステムの開発,営業活動,カスタマイズが行われた

という事情のもとにおいては, KCSは人件費や販売管理費を全く負担し

ていないのであるから,RBCシステムを販売するためには必ず追加の人

件費や販売管理費が発生するものといえる。

したがって,本件においては,変動経費は RBCが支出した金額全てで

あり,「利益」はむしろ営業利益と一致するのである。

ウ KCSの利益率について

(ア) KCS は,1つ当たりの利益が550万円だと主張するが,KCS の

10期から23期までの売上高と営業利益を平均化すると,1年で6億4

871万8000円の売上高に対し1098万円の営業利益にすぎない。

また,会社推移一覧表(甲168の7)によれば,粗利益は4割9分にす

ぎず,営業利益に至っては0.126%にすぎない。

(イ) KCS は,1件あたりの利益額として,過去全てを基準にすべきでは

なく,平成に入ってからの粗利益率は5割を超えているし,直近である2

3期の粗利益率は66%であると主張するが,そもそも,粗利益を「利益

率」とすることはできず,変動経費を控除しなければならないことや,変

動経費控除後の利益率が営業利益と一致することは,前述のとおりである。

エ KCSの能力

著作権法114条1項や不正競争防止法5条1項は,算定された逸失利益



額は権利者の利用の能力の範囲内であることを要しているし,数量の全部又

は一部を権利者が販売できない事情がある場合にはその額を控除すると規定

している。

そして, KCSは,平成15年3月に,従業員の大多数が退社したのであ

るから,RBCシステムをKCSが販売することなど到底できなかった。

よって,KCSが主張する損害額は,KCSの能力の範囲を超えているし,

RBCの販売数量全部をKCSが販売できない事情があったといえる。

オ まとめ

以上のとおり,単位数量当たりの KCSの利益額を550万円とするKC

S の主張は認められないし, KCSの利益額がいくらであれ,その額はKC

Sの能力を超えているし,KCSによる販売は不可能であったのだから,「1

項損害」は成立しない。

(3) 2項損害について

ア 変動経費について

著作権法114条2項や不正競争防止法5条2項は,侵害者の利益を損害

と推定する規定であるが,この利益についても,「1項損害」の場合と同様に,

粗利益ではなく,粗利益から仕入原価以外の変動経費を除外したものであっ

て,売上高から仕入原価を含む変動経費を除外した金額と一致する。

そして, RBCにおいては,RBCシステム販売以外の売上げは1割程度

にすぎず,それ以外は全てRBCシステムのための経費であるから,固定

費である家賃以外の経費の9割がRBCシステムに係る変動経費である。

したがって,第1期の変動経費は,仕入高1億1783万6552円と家

賃を除いた販売費・一般管理費9086万7571円の合計である2億87

0万4123円の9割の1億8783万3710円である。

イ RBCの売上高について

(ア) KCSは,RBCのミスターレンタル(旧ミスターアドヴァンス)に関



する第1期の売上高を3億1208万円と主張するが,事実に反する。第1

期の売上高は,1億7904万5002円である。

すなわち,総勘定元帳には売上計上されていても,@契約解除された3

024万円(KCS 主張の九州リース及び尼信リース分を含む 。 ,Aファ


イナンス会社を利用することになって売上先を変更したために二重計上さ

れている売上3170万7900円,B未入金のまま売上計上したが,倒

産した東興機械の売上げ294万円,C志摩機械への取消分34万650

0円,DRBCシステムとは無関係の売上げである2189万2500円,

E未成工事受入金のうち,RBCシステムの売上分である4591万54

00円を控除すべきである。

(イ) 「未成工事受入金」をRBCの売上高から控除すべきこと

第1期の未成工事受入金5999万8008円のうち,RBCシステム売

上分である4591万5400円については,次のとおり,第1期のRBC

のRBCシステムの販売による利益からは除外すべきものである。

a 「未成工事受入金」の意義

未成工事受入金とは,売上げとして計上すべき金員は決算時点におい

て完成した工事に相当する割合の金額である必要があることから,決算

時点において未完成である部分に関しては,既に代金を受領していたと

しても売上げから除外するために,未成工事受入金として翌期に繰り延

べるものである(甲226)。

RBC についても,RBCシステムを販売した場合のように,システ

ム開発を請け負った場合には,契約時に契約代金全額を一括で全額受領

するものの,システム開発は契約時から数年かけて完了することから,

受領した契約代金を30%,30%,30%及び10%に4分割し,決

算時におけるシステム開発の進捗状況に応じて,未完成の部分について

は未成工事受入金として売上げから除外しているのである。



なお, KCS に在籍していた当時の RBC従業員の経験より,KCS

においても,KCSシステムを販売した場合には,ソフト前受金勘定と

名目こそ異なれ,全く同じ処理をしている事実が明らかである。

b 第1期の未成工事受入金

第1期の未成工事受入金として決算報告書にあがっている金額は,7

374万973円である(甲222,負債の部【流動負債】。


この内訳は,三洋電機クレジットからの売掛金回収1374万296

5円及び未成工事受入金5999万8008円である(甲224)。

そして,上記未成工事受入金のうち,RBCシステムの販売分につい

てのものの合計額が4591万5400円である(甲216[ 黒色部分

が未成工事部分である。
])。

この未成工事受入金4591万5400円については,第2期(平成1

6年2月1日及至平成17年1月31日)の決算時点においては,システ

ム開発を終了したために,同期に売上げとして計上した結果,第2期の

未成工事受入金としては計上されていない(甲225)。

c 上記4591万5400円を除外すべき理由

(a) 上述のとおり,著作権法114条2項や不正競争防止法5条2項

における「利益」は,粗利益から仕入原価以外の変動経費を除外した

ものであって,売上高から仕入原価を含む変動経費を除外した金額と

一致するものに他ならない。

(b) そして,未成工事受入金は,第1期の決算期時点においては,シ

ステム開発が未完成の部分に相当する金員であるから,当然,第1期

のRBCシステムの販売による利益からは差し引かれるべきものであ

る。

実際にも,未成工事受入金に相当する部分については,未だRBC

システムの開発は完了していないのであって,これにかかる経費等も



未だ支出していないことから,未成工事受入金も第1期の売上げに計

上されるとすれば,未成工事受入金相当額については販売金額そのも

のを「利益」とみなされるに等しい結果となり,妥当性を欠く。

(c) なお, RBC では,平成19年6月に第1回税務調査を受けてい

るが,無論,未成工事受入金を含む第1期ないし第4期の決算処理に

ついても何ら指摘がなされていない。

(d) 以上より,未成工事受入金4591万5400円については,控

除されるべきものである。

ウ まとめ

よって, RBCの第1期のRBCシステムに関連する売上高は1億790

4万5002円であり,RBCシステムに関連する経費は1億8783万3

710円であるから,RBCには利益は存在しない。

(4) 民法709条に基づく損害について

KCSは,1項損害は民法709条にも基づいていると主張し,また,ソフ

ト販売以外の逸失利益や,ソフト開発にかかった人件費を民法709条に基づ

いて損害としている。

しかし,従業員が大量に退職した KCSが,RBCシステムを販売すること

など不可能だったのであるから,1項損害については,RBCらの行為との間

に相当因果関係はない。

同様に,保守料や印刷物販売も RBCらの行為との間に相当因果関係を欠く

し,そもそも,保守料や印刷物販売は,ソフト販売をすれば必ず発生するなど

とはいえないため,この点からも相当因果関係を欠く。

そして,人件費については,開発業務をしていない人間についてのものも含

まれているし, KCSが支出した人件費は,RBCシステムの開発に充てられ

たものではなく,KCSシステムのバグの修正やサポートのための費用である

から,損害とはいえない。



(5) 損害論のまとめ

以上より,著作権法114条1項,2項,不正競争防止法5条1項,2項,

民法709条に基づく損害は,全て認められない。

第8 争点に対する当裁判所の判断

1 判断の大要

当裁判所は,RBCのKCSらに対する第1事件に係る請求及びKCSのRBC

らに対する第2事件及び第3事件に係る請求について,大要,以下のとおり判断す

る。

まず,RBCのKCSらに対する第1事件に係る請求については,KCSがした

本件文書1,本件文書2の競合取引先に対する各送付,Y1がした本件文書3の競

合取引先に対する送付,Y1のリコーリース(P2)に対する発言及びKCS従業

員の中村建機P3に対する発言に限り,いずれもRBCの営業上の利益を侵害する

虚偽の事実の告知又は流布及びRBCの信用を毀損する不法行為と認められる。し

たがって,KCSらの上記行為はいずれも不正競争防止法2条1項14号の不正競

争及び民法709条の不法行為に当たり,同不正競争及び不法行為と相当因果関係

にあるRBCの無形損害及び弁護士費用相当損害のうち,220万円及びこれに対

する第1事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定利率による遅延損害

金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。

第2事件及び第3事件については,(1) 貸出君新版プログラム( 貸出君 for w


in 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)は X1ら8名 ( X2 を除

く。)がKCS在職中の平成15年1月ころの時点ではKCSにおいて開発されて

おらず,そもそも存在したとは認められないから,KCSが職務著作に係る著作物

として貸出君新版プログラムの著作権を有することを前提とし,RBCプログラム

が貸出君新版プログラムに依拠し,これを複製又は翻案したものであるとのKCS

らの主張は理由がない(第2事件及び第3事件の争点1)。同様の理由により,R

BCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対するK



CSの著作権を侵害するとのKCSらの主張は理由がなく(同争点3),RBCプ

ログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新

版」の開発用書類(乙23)及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙

49,58)に対するKCSの著作権を侵害するとのKCSらの主張も理由がない

(同争点4)。また,(2) RBCプログラムは当時KCSが販売していた貸出君プ

ログラムに依拠し,これを複製又は翻案したものとは認められない(同争点2)。

そして,RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は

「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)及び貸出君プロ

グラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作

権を侵害するとのKCSらの主張も理由がない(同争点5)。以上より,KCSが

RBCらに対し,著作権法112条1項及び2項に基づきRBCソフトの複製・頒

布・翻案差止め及び廃棄並びに損害賠償を求める請求は理由がない。さらに,

(3) 本件開発方針に関する情報は,秘密管理性を欠くから不正競争防止法2条

項所定の営業秘密には当たらず,また,本件プログラム作成情報はそもそもKCS

の営業秘密ではないから,不正競争防止法3条4条に基づき,本件開発方針及び

本件プログラム作成情報を,RBCソフトの作成・製造・販売に使用し又はこれを

開示することの差止め,本件開発方針及び本件プログラム作成情報の記録された書

類の廃棄・電子的記録の削除並びに損害賠償を求める請求は理由がない。(4) ま

た,貸出君関連成果物の持出し等について民法709条の不法行為に基づく損害賠

償を求める請求も理由がない。

以下,その理由を詳述することとするが,第2事件及び第3事件が本件紛争の中

核をなすものと認められることから,まず,第2事件及び第3事件について判断し,

次いで,第1事件について判断することとする。

2 第2事件及び第3事件に対する判断

(1) X1らがKCSを退職するまでのプログラム開発経緯等

以下においては,まず,争点に対する判断の前提となる事実,すなわち,KC



Sにおける貸出君新版プログラムの開発の有無,経緯,RBCソフトの開発の経

緯及びRBCソフトの内容についての前提事実を概括的に認定しておくこととす

る。証拠(甲33?70,101,103?105,108,154?156,

220,221,乙5?8,30,51〔一部〕,証人X3,同X4)及び弁論

の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。証拠(乙51)中,以下の認定に

反する部分は採用できない。

ア 貸出君新版プログラムの開発の経緯

(ア) KCSの販売する「貸出君」ASP版とWin版

KCSは,内田洋行との合弁によるキング商事株式会社からの電算部門の

独立という形で昭和54年9月に設立され,その後,酒販販売用システム,

化粧品販売用システム等,種々のシステム開発・販売を主たる業務としてき

たが,平成元年ころから,建機・仮設レンタル業用に特化したシステム開

発・販売を行うようになり,平成2年ころから,独自に開発した建機・仮設

レンタル業用システムに「貸出君」というブランド(その後商標登録)を付

し,これを自社の主力商品として,営業活動を強化していった。

KCSは,当初,「貸出君」をASP版( ASP」とは,オフコンを稼動


させるために必要な富士通社製OSの商品名であり,KCSでは,オフコン

版のことをASP版と呼んでいた。)で開発したが,平成8,9年ころから

Win版での開発にも着手した。

(イ) 平成13年から14年ころの状況

a Win版について

(a) 上記のとおり,KCSは,平成8,9年ころから「貸出君」Win

版の開発に着手したが完成に至らず,ようやく1社に対して平成9年度

末の完成を見越して契約締結にこぎつけ,一応納品したものの,結局稼

動できないまま契約は終了した。その後,KCSは,Win版の手直し

を行い,同年9月から11月ころにかけて別の1社との間で契約を締結



し納品したが,これも稼動せず,また,平成10年2月から3月ころに

かけてさらに別の1社との間で契約を締結して納品したものも,結局稼

動しないまま契約終了に至った。その後,KCSは,Win版の修正に

尽力し,平成10年夏ころ1社に納品し,不十分ながら稼動するソフト

を開発するに至った。

Win版については上記のとおり不具合が続発したことから,KCS

では,不具合に悩まされるWin版より,ASP版を販売した方がよい

との営業方針の下で,Win版の販売には積極的でない状況のまま推移

した。とはいえ,顧客からWin版を求められることがあり,KCSと

しても,Win版の販売を完全に止めてしまうわけにもいかず,Win

版の販売実績は,平成11年ころ以降,年間3ないし4台という状況で

推移していた。

ところが,平成13年ころ,過去に納品したWin版について,顧客

から,データが累積されるとスピードが遅い,更新時間がかかりすぎる

等のクレームが多発するようになり,KCSでは,その対応に時間を取

られるようになった。ちょうどそのころ,営業部門から開発部門に対し

て,もっと安価に販売できるWin版を,データベースをオラクルにし

て開発して欲しいとの依頼があった。

そこで,当時,KCSの専務取締役であったX2は,平成13年9月

ころ,Win版の廉価版の開発を企図して,これをKCSの第23期上

期(平成13年9月1日から平成14年2月末日まで)の商品施策の1

つとして掲げ,開発部門においてもその商品化を計画した。

すなわち,X2が専務取締役として作成した社内向け資料である乙第

5号証(平成13年9月1日付け「第23期(上)を迎えて」と題する

書面)には,貸出君に関する商品施策として,以下の事項を掲げた。

@ 「Win版の早期完成→アプリケーション内容の整備,充実(23



期上)」

A 「ASP版のWeb化→Webによるネットワーク完成」

B 「画像データ処理の開発→デジカメ,iモードで画像の提供」

C 「Win版廉価バージョン」

D 「単品管理システムの確立→タグとの連動システム」

E 「貸出君ナビゲーションの完成」

そして,「Win版廉価バージョン(の開発販売)
」を目標として掲げ

た。

また,X4(当時KCSシステム開発部課長)が作成した社内向け資

料である乙第6号証(平成13年9月8日付け「23期上期 開発部方

針」と題する書面)には,上記乙第5号証を受けて,「商品化計画」の1

つとして「@For・Win廉価版」を挙げ,「現行のWin版の機能を

継承するが出庫・入庫入力を一体化し,出入庫した伝票及び出庫のみ入

庫のみの伝票入力が1画面で対応できるように変更。また,システム範

囲としては,売掛管理までとし,カスタマイズ一切なし単品管理なしか

つ,伝票及び請求書は KCS 指定で運用を行う。伝票及び請求書のパ

ターンとしては,建機バージョン・仮設バージョンと分けてプリンタは

ドットプリンタ,レーザープリンタ対応の計4パターンを用意する。」と

説明している。

(b) X2 は,第23期下期(平成14年3月1日から同年8月末日ま

で)の商品施策を発表するに当たり,平成14年3月2日作成日付け

の「第23期(下)を迎えて」と題する社内向け資料(乙7)に次の

とおり記載した。

「ソリューションビジネスの世界においては,何もかもwindo

wsを利用するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見

直しがかけられ,Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれの



アプリケーションが考えられ,定着してゆこうとした動きになってい

る。windowsの限界と,利用目的を十分に調査することにより,

windowsの利用の範囲が今後ますます限定的なものになってく

るはずであり,当社もLinuxにおけるアプリケーション開発体制

の整備を今後2年間程度の間で進めてゆく必要がある。」

そして,貸出君について,第23期上期の開発計画にあった商品施

策のうち,上期に完成に近いものは「ASP版のweb化」
「画像デー

タ処理の開発」
「単品管理システムの確立」及び「貸出君ナビゲーショ

ンの完成」の4システムであり,
「今後この商品を積極的に販売してゆ

きたいと考えている。」とした上,下期の開発計画においては「T(小

文字)ASP版の入力画面の大幅変更」「U(小文字)ASP版の仕入

管理システム改良版完成」「V(小文字)Linux版プロトタイプの

完成」及び「W(小文字)ASP版と財務システムの連動(ERP化

に向けて )」のみが挙げられ,「win版の早期完成 」「win版廉価

バージョン」には触れなかった。X4も,平成14年3月2日付けの

「23期下期 開発部方針」
(乙8)において,Win版廉価バージョ

ン等については何ら触れていない。

b ASP版について

(a) X2は,第23期上期(平成13年9月1日から平成14年2月末

日まで)の商品施策を発表するに当たり,前記「第23期(上)を迎え

て」(乙5)において,「当社も今後は…ネットワーク化(イントラネッ

ト,エクストラネット)の方向を目標をはっきり持ち,商品のバリエー

ションを広げ,向上させてゆかねばならない」として,上記aのとおり

「ASP版のWeb化」を商品施策の1つとして掲げ,開発部門におい

ても, X4 が前記「23期上期 開発部方針 」(乙6)の「商品化計

画」の中で「ASPシステムのWeb化」を挙げ,「ASPのV17よ



りWeb機能が強化されましたので,大規模システムでのWeb化され

たVRシリーズの提供を行っていきます。特に,回線インフラがブロー

ドバンドでかつ安価でできていますので,セキュリティ面及び画面の見

映えを強化して行きます。
」と説明している。

上記説明のとおり,
「ASP版のWeb化」とは,
「貸出君」のASP

版をインターネット網を使って動かすという意味であり,具体的には,

従来ネットワーク上では高額の電話料金がかかっていたのが,インター

ネット(ブロードバンド)網を使うことによって,料金が数段安くなる

というメリットがあるところ,ASPではバージョン17からWeb機

能が強化され,かつ,通信についてインターネット網が使えるものにな

ったことから,「貸出君」のASP版についても同バージョンを採用す

る,という意味である。

(b) ところが,KCSでは,ASPのバージョン17を使用してテスト

を行ったが,「貸出君」ASP版のプログラムは,同バージョン上で動

くには動くもののスピードが追い付かなかった。第23期下期(平成1

4年3月1日から同年8月末日まで)の開始に際し,X2が作成した前

記「第23期(下)を迎えて」と題する書面(乙7)には,「ASP版

のweb化」が「上期の残し仕事」であると位置づけられるとともに,

次の計画として「ASP版の入力画面の大幅変更」等が掲げられ,X4

が作成した前記「23期下期 開発部方針」(乙8)にも,「ASP貸出

君の入力画面の変更」として,「入出庫の画面を伝票形式に対応し入力

の簡素化及び画面イメージを良くする。またWeb化対応のビジュアル

を進める。
」と記載された。

イ X1ら8名の退職及びRBC設立の経緯

(ア) KCSの成り立ちとX2の出向・転籍

前記のとおり,KCSは,昭和54年9月に設立された会社であるところ,



X2は,昭和56年7月に内田洋行からKCSに出向し,KCSの業務運営

の中核を担うようになり,平成元年にKCSに転籍した。X2は,平成13,

14年当時は KCS の専務取締役の地位にあり, X1ら8名 ( X2 を除

く。)は,KCSの従業員であった。

(イ) Y1を巡る問題

Y2の次男であるY1は,内田洋行で勤務した後,平成5年ころから,K

CSの東京営業所で勤務するようになったが,Y1の態度が自己中心的であ

るとして東京営業所の社員の間で不満が表明されるようになった。Y1は,

平成11年ころ,東京営業所の責任者に就任したが,その態度が改まらない

まま平成14年6月20日に至り,同営業所社員との対立が深まり,同営業

所社員全員から辞表が提出されるという事態に至った。

X2は,同営業所社員一同の辞意を押しとどめる一方,Y2との間で,と

りあえずY1をKCSの社外に出す方向で何度か話合いを持ったものの,あ

くまでY1をかばうY2との間で意見が対立し,同人及びY1とX2との間

の溝は深まっていった。

(ウ) 不正経理問題

上記社内紛争のさなかの平成14年7月,経理担当事務員が,Y2の不正

経費使用につき,その証拠となる出金伝票のコピーを持参してこれをX2に

訴え出た。それによると,Y2の不正経費の額は年間3000万円にも及び,

同人の妻がデパートの食料品売場で購入した惣菜の代金など明らかにY2の

個人的な経費までがKCSの会社経費として計上されていた。このように,

Y1の問題に加え,Y2による不正経理問題が明るみに出たことにより,K

CSの社内は著しい混乱に陥った。

(エ) 社内改善委員会の立ち上げ

X2ら幹部社員は,上記不正経理問題やY1をめぐるKCS社内の著しい

混乱を収束させ,主として上記不正経理問題についてのY2の責任を追及し,



正常な企業環境を取り戻すことを目的として,X3が代表となって,「社内

改善委員会」なる組織を立ち上げ,同年8月から隔週土曜日に会合を持ち,

改善案を話し合うこととした。

社内改善委員会の会合では,KCSに対して強い影響力を持つ内田洋行に

社内改善のための助力を願おうということになり,同社代表取締役宛てに,

平成14年8月23日付けで「株式会社ケイシィエス 社内改善委員会」

(代表のX3のほか,X5,X1,P10補佐,X4,P23,P15の連

名)名義で文書(甲108)を作成した。同文書には,Y2が長年にわたり

裏金として運用したノートA・Bのコピーや同人が私物化した経費使用の伝

票類のコピーと称する資料を添えて,Y2の不正経理の実態に具体的に触れ,

今後,Y2に対し,刑事告訴,民事上の責任追及,税務署への通報,代表取

締役退任要求を行い,Y2が退任しない場合は,X2とともに新たな出発を

する意向であり,内田洋行の支援を要請する旨が記載されていた。X2は,

同文書を内田洋行に持参してその説明を行い,上記社内紛争が内田洋行の知

るところともなった。他方,Y2は,X2らの上記行動をKCSの経営権を

自分から奪おうとする策謀であるととらえ,その首謀者と目されたX2に対

する反感を募らせた。

(オ) Y1の取締役就任

Y2は,社内改善委員会の上記活動を嫌い,その首謀者と目されたX2の

取締役解任を企て,平成14年8月30日に臨時取締役会を開き,同年9月

20日にX2解任のための臨時株主総会を開催することを決めた。社内改善

委員会のメンバーからこの報告を受けた内田洋行は,KCS社内の上記混乱

を重く見て,Y2に対し,社内改善委員会との間で話合いを行うことを要請

し,これを受けて,Y2と社内改善委員会との間で話合いが行われるように

なった。社内改善委員会は,まず,平成14年9月20日のX2退任の臨時

株主総会の開催中止を要請し,Y2は,これを受け入れる旨を伝えて社内改



善委員会との間で上記話合いを進めていたが,その一方で,兄であるP1と

両名で臨時株主総会を開催したことにし,X2退任こそ決議しなかったもの

の,Y1の取締役就任を決議するに至った。

なお,そのころ,Y2及びX2は,KCS社内の混乱を収めるため,互い

に「この度の企業が混乱に成ったことに深く反省し再びこの様な企業危機に

ならない様業務に専念し企業繁栄に努力する事を誓約いたします。」との記

載のある平成14年9月20日付けの誓約書(甲103,104,乙30)

を差し出した。

(カ) X2の取締役不再任

Y2らは,平成14年12月6日開催の株主総会において,X2の取締役

任期満了に伴う取締役就任(再任)を否決した。X2は,福岡営業所や東京

営業所への出張のため,上記株主総会には出席していなかったところ,取締

役再任否決の連絡を出張先の東京営業所で受けた。X2は,同月7日に帰阪

し,Y2及びY1との間で取締役不再任によるX2のKCS退職に伴う処理

事項について協議し,同月18日,Y2及びY1に対し「1 連帯保証免除

の件(X2氏の)「2 X2氏保有の潟Pイシィエスの株の件の買取につい


て」
「3 X2の退職慰労金の額について」
「4 X2氏の私物及び公物の双

方確認の件」について申し入れ,同人らから,同月25日までに回答する旨

の返答を得た(甲105)。また,X2は,同日,KCS宛てに「X2は今

後潟Pイシィエスのビジネスに対し足を引っぱるような行為はいたしませ

ん。」と記載した書面(乙33)を提出した。

(キ) X3に対する退職勧告

Y2は,平成15年1月6日,システム開発の責任者(システム部次長)

であるX3に対し,年明けの出社早々任意退職を強く勧奨し,X3に任意退

職を余儀なくさせた。

(ク) RBCの設立



KCSを退職したX3は,X2と話し合い,新会社を立ち上げることとし

た。その後,X6(開発課所属)が平成15年1月15日にKCSを退職し,

次いでX7(開発課所属)が同月20日にKCSを退職して,新会社に移る

ことになった。また,X5(営業部課長) X1(業務課課長) X4(開発
, ,

部課長)らも,同年3月5日又は6日に退職届を提出し,新会社に移ること

になった。

こうして,平成15年3月6日,X1を代表取締役として,RBCが設立

された。

ウ RBCプログラムの開発経緯及び販売・サポート状況

(ア) ビジネスサーバ版について

a RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発状況(甲220)

RBCプログラムの主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)は,平

成15年1月10日から同年2月20日ころの期間に完成した。

次に,稼動業務,販売業務は,同月25日ころから同年4月1日ころの

期間に完成した。

請求業務は,RBCにおいて,同年3月10日から開発に着手し,同年

5月上旬ころに一応完了させた。

その他の業務ソフトについては,これ以降,マスタ業務,稼動業務,販

売業務,請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正を行

いながら,少しずつ開発していった。

b 顧客への販売・サポート状況

RBC設立後,RBCプログラムのビジネスサーバ版において最初に契

約に至った4社は,日成工業所,南海建設興業,長浜産業及びベストレン

タルである。

(a) 日成工業所について

T 販売状況



RBCは,日成工業所との間において,平成15年3月13日に契

約を締結し,同月31日,契約代金全額を受領した。

平成15年3月13日時点では,RBCプログラムは,マスタ業務

しか完成しておらず,その他の基本的な事項すら完成していなかった

ので,RBCプログラムは使用できるものではなかった。また,デモ

画面も完成していなかった。

しかし,RBCにおいては,主要マスタの開発を一応完了させてお

り,日成工業所がマスタの登録業務を行う間に順次早急に他のプログ

ラムを完成させていく方針を立てて,日成工業所の了承を得た。なお,

日成工業所としても,新たなプログラムが完全に立ち上がるまでは,

従前の方法で請求業務等を行うことができたため,業務に支障が生じ

るものでもなかった。

U サポート状況

RBCは,日成工業所について,平成15年3月13日にシステム

分析を開始し,マスタ業務ソフトは同年4月10日に納品し,それ以

降のソフトについては,開発でき次第納品していった。すなわち,稼

動業務ソフトについては同年5月8日に納品し,請求業務については

同月21日に基本ソフトを納品し,カスタマイズをして,同年11月

末日に日成工業所の要望に沿ったソフトを再納品した。

以上の経過で,平成15年12月1日にRBCプログラムを本格稼

動させて請求業務を開始することができ,平成16年5月17日に顧

客の要望に沿ったカスタマイズが全て終了したことを双方で確認し,

RBCは日成工業所から稼動確認書を受領した。

(b) 南海建設興業について

T 販売状況

RBCは,南海建設興業との間において,平成15年4月23日に



契約を締結し,同月30日,同年5月30日契約代金を受領した。

この時点では,未だ,マスタ業務,稼動業務,販売業務までしかで

きておらず,請求業務はできていない状態であり,ソフトとしては基

本的動作ができず,全く使い物にならない状態であった。また,デモ

画面も完成していなかった。

U サポート状況

RBCは,南海建設興業について,契約締結に先立ち,平成15年

4月2日にシステム分析を開始し,既に完成していたマスタ業務,稼

動業務につき,同年7月22日,同月23日に納品した。そして,請

求業務については,基本ソフトを同年8月22日に納品し,カスタマ

イズをして,平成16年4月10日に再納品をした。

以上の経過で,平成16年4月13日にRBCプログラムを稼動さ

せて請求業務を開始することができ,RBCは南海建設興業から同年

7月14日に稼動確認書を受領した。

(c) 長浜産業について

T 販売状況

RBCは,長浜産業との間において,平成15年4月9日に契約を

締結し,同年6月20日に契約代金を受領した。

この時点では,未だソフトとして基本的な動作ができていない状態

であったことは,南海建設興業との契約の場合と同様である。デモ画

面も存在しなかった。

U サポート状況

RBCは,長浜産業について,契約締結に先立ち,平成15年4月

3日にシステム分析を開始し,同年4月17日にマスタ業務を納品し,

同年7月8日に稼動業務を納品した。請求業務については,基本ソフ

トを同年10月24日に納品し,同年11月末日にカスタマイズ品を



納品した。

また,長浜産業については,ネットワークを構築する必要があり,

同年9月12日にネットワーク業務を納品した。

そして,長浜産業では,平成15年12月1日と平成16年1月1

日の2段階に分けてRBCプログラムを稼動させ請求業務を開始した。

RBCは,平成16年1月28日に売掛業務を納品し,平成16年

4月15日に稼動確認をしたが,稼動確認書は受領していない。

(d) ベストレンタルについて

T 販売状況

RBCは,ベストレンタルとの間において,平成15年5月28日

に契約を締結し,同年6月30日に契約代金を受領した。

ベストレンタルとの契約時点では,請求業務までが一応完成しつつ

あり,ソフトとして最低限基本的な事項が完成しつつあり,ようやく

不完全なものではあるがデモ画面が完成し,同画面を示して説明が可

能となっていた。

U サポート状況

RBCは,ベストレンタルについて,平成15年5月26日にシス

テム分析を開始し,同年7月10日にマスタ業務を,同年9月24日

に稼動業務を納品した。請求業務については,同年9月末日に基本ソ

フトを納品し,同年10月14日,カスタマイズをしたソフトを納品

した。

また,ネットワークを構築する必要があったため,平成15年9月

6日にネットワーク業務を納品し,同年10月12日から,本格稼動

し,請求業務が開始した。

RBCはベストレンタルから平成16年1月30日に稼動確認書を

受領した。



(イ) Win版について

a RBCプログラム(Win版)の開発状況

主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)は,平成15年1月2

1日から同年2月10日ころの期間に完成した。

次に,稼動業務,販売業務は,同月12日から同年3月26日までの間

で完成した。

請求業務については,RBCにおいて,同月11日から同年5月ころま

での間に完成させた。

そのほかの業務ソフトは,ビジネスサーバ版の開発同様に,マスタ業務,

稼動業務,販売業務,請求業務において多数発生したバグへの対応や不具

合の修正を行いながら,少しずつ開発していった。

b 顧客への販売・サポート状況

RBC設立後,RBCプログラムのWin版において最初に契約に至っ

た4社は,鈴建輸送,名晶興産,興南機械及び中村建機である。

(a) 鈴建輸送について

T 販売状況

RBCは,鈴建輸送との間において,平成15年4月18日に契約

を締結し,同年3月28日,同年4月25日に契約代金を受領した。

契約時点では,請求業務が完成しておらず,RBCプログラムは基

本的動作すらできない状態であり,デモ画面も完成していなかった。

U サポート状況

RBCは,鈴建輸送について,契約締結に先立ち,平成15年3月

14日にシステム分析を開始し,同日マスタ業務を納品した。そして,

稼動業務については,基本ソフトを同年4月18日納品し,カスタマ

イズしたものを同年5月13日に納品した。請求業務についても,同

年5月30日に基本ソフトを納品し,同年9月18日にカスタマイズ



品を納品した。

以上の経過で,同年11月20日にRBCプログラムの本格稼動が

でき,請求業務を開始し,RBCは鈴建輸送から平成16年9月9日

に稼動確認書を受領した。

(b) 名晶興産について

T 販売状況

RBCは,名晶興産との間で,平成15年6月19日に契約を締結

し,同年7月25日に契約代金を受領した。

平成15年6月時点では,RBCプログラムは,基本的動作は可能

な程度に完成はしており,一応のデモ画面も完成していたため,それ

を見せて契約を締結した。

U サポート状況

RBCは,名晶興産について,平成15年6月13日にシステム分

析を開始し,同年7月1日に,マスタ業務,稼動業務,販売業務,請

求業務,売掛業務を納品した。そして,平成16年11月2日に,カ

スタマイズ後の請求業務を納品した。同年2月1日には,RBCプロ

グラムを本格稼動させ,請求業務を開始した。RBCは名晶興産から,

平成18年1月16日になってようやく稼動確認書を受領した。

(c) 興南機械について

T 販売状況

RBCは,興南機械との間で,平成15年6月23日に契約を締結

し,同年7月16日に契約代金を受領した。

同時点において,既にRBCプログラムは一応基本的動作はできる

状態であったため,不完全ながら一応のデモ画面を見せて,契約を締

結した。

U サポート状況



RBCは,興南機械について,平成15年6月25日にシステム分

析を開始し,同年7月30日にマスタ業務を納品した。稼動業務につ

いては同年8月1日に基本ソフトを納品し,カスタマイズ品を同年1

1月5日に納品した。請求業務についても,同年8月1日に基本ソフ

トを納品し,同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。平成16

年1月1日,RBCプログラムを本格稼動させ,請求業務を開始し,

RBCは興南機械から同年11月16日稼動確認書を受領した。

(d) 中村建機について

T 販売状況

RBCは,中村建機との間において,平成15年8月2日に契約を

締結し,同年10月1日に契約代金を受領した。

契約時においては,RBCプログラムは基本的動作ができる程度に

は一応完成しており,不完全ながらも一応のデモ画面を見せて契約し

た。

U サポート状況

RBCは,中村建機について,平成15年8月28日にシステム分

析を開始し,同年9月4日にマスタ業務を納品した。稼動業務につい

ては同月6日に基本ソフトを納品し,カスタマイズ品を同年10月2

7日に納品した。請求業務については,同年9月18日に納品した。

そして,平成16年1月1日からRBCプログラムは本格稼動を開

始し,請求業務を開始した。なお,RBCは,中村建機について,平

成16年後半に稼動確認を行ったが,稼動確認書は受領していない。

(2) 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権

を侵害するか)について

ア はじめに

KCSらは,RBCプログラムは KCSが開発した貸出君新版プログラム



( 貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」
「 )をRBCの関係者が

持ち出し,これを複製ないし翻案して作成したものであるから,貸出君新版プ

ログラムに対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害すると主張す

る。

KCSらの上記主張が認められるためには,@KCSの主張する貸出君新版

プログラムなるものがKCSの社内でX1ら8名を含むKCS元従業員によっ

て開発され,X1ら8名(X2を除く。)がKCSに在職中の平成15年1月

ころまでにほぼ開発行為が完了して,貸出君新版プログラム( 貸出君 for wi


n 廉価版」及び「貸出君ASP新版」)の開発に係る成果物(貸出君関連成果

物)がKCS社内に存在していたこと,AX1ら8名が退職に際して上記成果

物を社外に持ち出し,これを利用して,貸出君新版プログラムを複製ないし翻

案したRBCプログラムを作成し,これを使用したRBCソフトを販売したも

のであること,以上の事実が立証される必要があるところ,その立証責任はこ

れを主張するKCSにある。そこで,以下,上記事実の立証ができているか否

かという観点から検討する。

イ 貸出君新版プログラムはKCS社内において開発されていたか

(ア) 証拠関係

上記のとおり,KCSらは,RBCプログラムはKCS社内で開発されて

いたという貸出君新版プログラムを複製又は翻案したものであると主張する。

これに対し,RBCらは,貸出君新版プログラムなるものは開発されてお

らず,KCS内には存在しなかったのであって,RBCらがこれを複製又は

翻案等することはあり得ない旨主張する。

ところで,KCSらの主張によれば,RBCらが複製又は翻案の対象にし

たという貸出君新版プログラムの開発に係る成果物(貸出君関連成果物)は

すべてX2ほかKCSの元従業員が持ち出してしまったもので,その現物は

KCSには存在しないというのであり,上記成果物の存在及び内容を直接立



証する証拠は提出されていない。KCSらは,上記主張を裏付ける証拠ない

し根拠として,以下の@ないしEの各点を挙げる。

@ 平成13年9月1日付けでX2が作成した「第23期(上)を迎えて」

と題する文書(乙5),同月8日付けでX4が作成した「第23期上期開

発部方針」 ,平成14年3月2日付けでX2が作成した「第23期
(乙6)

(下)を迎えて」と題する文書(乙7),同日付けでX4が作成した「第

23期下期開発部方針 」(乙8)の各記載によれば, KCS が第23期

(平成13年9月1日から平成14年8月末日まで)において貸出君新版

プログラムの開発に着手していたことが明らかであること。

A KCSは,遅くとも平成15年1月10日までには,そのソフトの名称

を「ミスターアドバンス」とすることを決定していたこと(甲20の5,

乙63)。

B X4は,インストラクター職の地位にあったP11に対して「貸出君 f

or win 廉価版」のオペレーションマニュアルを2週間程度で作成するよ

う指示し,これを受けてP11は,平成15年1月22日から同年2月7

日にかけて「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させなが

ら,X4の指示どおりに「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマ

ニュアルの一部(乙9)を作成したこと(証人P11)。

C しかるに,KCSの元従業員が,平成15年3月までに貸出君新版プロ

グラム,表示画面,開発用書類,オペレーションマニュアル等の成果物

(貸出君関連成果物)を持ち出したこと(乙37の1)。

D 上記貸出君関連成果物の持出し後に,KCSの福岡営業所のパソコンに

残存していた「貸出君ASP新版」の仕様書(乙23)は,福岡営業所に

勤務していたP19が平成15年1月以前に発見し,Y1にその旨報告を

していたものであること(乙48)。

E RBCらの主張に係るRBCプログラムの開発期間等からして,RBC



らが貸出君新版プログラムに依拠し,これを複製・翻案しないでRBCプ

ログラムを独自に開発することは不可能であること。

そこで,以下,上記各点について順次判断し,これらの証拠等から,貸出

君新版プログラムなるものが平成15年1月ころまでにKCS社内で開発さ

れていたことが認定し得るか否かについて検討することとする。

(イ) 第23期上期・下期の開発方針等について

a KCSらは,KCSが第23期(平成13年9月1日から平成14年8

月末日まで)において貸出君新版プログラムの開発に着手していたことは,

平成13年9月1日にX2が作成した「第23期(上)を迎えて」と題す

る文書(乙5),同月8日にX4が作成した「第23期上期開発部方針」

(乙6),平成14年3月2日にX2が作成した「第23期(下)を迎え

て」と題する文書(乙7),同日X4が作成した「第23期下期開発部方

針」(乙8)の記載から明らかであると主張する。

b 証拠(甲101,乙5?8,証人X4)及び弁論の全趣旨によれば,乙

第5号証ないし乙第8号証は,当時KCSで半年に1度の割合で行われて

いた「決算会議」と呼ばれる会議において,社長以下5名の幹部社員が発

表するための資料として作成されたものの一部であること,この会議には,

本社(大阪)の従業員は全員出席することとされていたことが認められる。

そして,乙第5号証ないし乙第8号証には,前記(1)ア(イ)に認定したと

おりのことが記載されている。これを再掲すれば,以下のとおりである。

(a) 乙第5号証( 第23期(上)を迎えて」
「 )は,専務取締役のX2が

作成したもので,第23期上期(平成13年9月1日から平成14年2

月末日まで)における商品施策,組織体制及び営業本部の基本方針につ

いて記載されているものである。そして,貸出君に関する商品施策とし

て,以下の事項を掲げた。

@ 「Win版の早期完成→アプリケーション内容の整備,充実(23



期上)」

A 「ASP版のWeb化→Webによるネットワーク完成」

B 「画像データ処理の開発→デジカメ,iモードで画像の提供」

C 「Win版廉価バージョン」

D 「単品管理システムの確立→タグとの連動システム」

E 「貸出君ナビゲーションの完成」 そして ,「Win版廉価バー

ジョン(の開発販売)
」を目標として掲げた。

(b) )は,上記(a)でX2が示した
乙第6号証( 23期上期開発部方針」


商品施策を受けて,開発部課長のX4が作成したもので,上記商品施策

を実行するための具体的な活動方針が記載されている。

すなわち,乙第6号証には,乙第5号証を受けて,「商品化計画」の

1つとして「@For・Win廉価版」が挙げられ,「現行のWin版

の機能を継承するが出庫・入庫入力を一体化し,出入庫した伝票及び出

庫のみ入庫のみの伝票入力が1画面で対応できるように変更。また,シ

ステム範囲としては,売掛管理までとし,カスタマイズ一切なし単品管

理なしかつ,伝票及び請求書はKCS指定で運用を行う。伝票及び請求

書のパターンとしては,建機バージョン・仮設バージョンと分けてプリ

ンタはドットプリンタ,レーザープリンタ対応の計4パターンを用意す

る。」との説明がされている。

(c) 乙第7号証( 第23期(下)を迎えて」
「 )は,X2が作成したもの

で,第23期下期(平成14年3月1日から同年8月末日まで)におけ

る商品施策及び組織体制について,次のとおり記載されている。

「ソリューションビジネスの世界においては,何もかもwindo

wsを利用するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見

直しがかけられ,Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれの

アプリケーションが考えられ,定着してゆこうとした動きになってい



る。windowsの限界と,利用目的を十分に調査することにより,

windowsの利用の範囲が今後ますます限定的なものになってく

るはずであり,当社もLinuxにおけるアプリケーション開発体制

の整備を今後2年間程度の間で進めてゆく必要がある。

・OS Windows,ASP →Linux

データベース SQL,DB6000 →オラクル

・プログラム言語 VB,コボル →JAVA」

そして,貸出君について,第23期上期の開発計画にあった商品施

策のうち,上期に完成に近いものは「ASP版のweb化」
「画像デー

タ処理の開発」
「単品管理システムの確立」及び「貸出君ナビゲーショ

ンの完成」の4システムであり,
「今後この商品を積極的に販売してゆ

きたいと考えている。」とされており,下期の開発計画においては「T

(小文字)ASP版の入力画面の大幅変更」
「U(小文字)ASP版の

仕入管理システム改良版完成」
「V(小文字)Linux版プロトタイ

プの完成」及び「W(小文字)ASP版と財務システムの連動(ER

P化に向けて)
」のみが挙げられ,
「win版の早期完成」「win版廉

価バージョン」には触れられていない。

(d) )は,乙第7号証でX2が示
乙第8号証( 23期下期開発部方針」


した商品施策を受けてX4が作成したもので,上記商品施策を実行す

るための具体的な活動方針が記載されているが,乙第8号証には,W

in版廉価バージョン等については何ら触れられていない。

c KCSらは,第23期上期・下期の開発方針を定めた(a)ないし(d)の記

載のうち,ASP版については,@乙第5号証の「2.商品施策」の「貸

出君」の欄に「ASP版のWeb化」との記載があること,乙第6号証の

「2.商品化計画」のEに「ASPシステムのWeb化」として「画面の

見映えを強化して行きます。」との記載があるが,これが貸出君ASP新



版のことであり,また,乙第7号証の「2.商品施策」の「貸出君」の欄

に「ASP版の入力画面の大幅変更」との記載があること,乙第8号証の

「1.商品化計画」のEに「ASP貸出君の入力画面の変更」として「入

出庫の画面を伝票形式に対応し入力の簡素化及び画面イメージを良くす

る。」との記載があることからして,ASP版を入力簡素化して商品化し

ていく計画が立てられていたことは明らかであると主張する。また,Wi

n版についても,@乙第5号証の「2.商品施策」の「貸出君」の欄に

「Win版廉価バージョン」との記載があること,A乙第6号証の「2.

商品化計画」の@に「For・Win 廉価版」との記載があり,また,

同号証の3頁に「For Win 廉価版」の開発スケジュールが記載さ

れていることを挙げ,KCSではそのころ(平成13年9月ころ)貸出君

新版プログラムの開発が着手された旨主張する。

d しかし,上記cで挙げた第23期開発方針(乙5ないし8)の記載から

は,ASP版についてWeb化が計画されたこと,Win版について廉価

バージョンの開発が計画されたことが読み取れるものの,これらの計画が

実際に実行に移され,貸出君新版プログラムが実際にKCSにおいて開発

に着手され,完成に近いことについての記載はなく,このことを推認する

に足りる記載もない。

そもそも ,「ASP版のWeb化」とは,前記(1)ア(イ)bのとおり,

「貸出君」のASP版をインターネット網を使って動かすという意味であ

り,具体的には,従来ネットワーク上では高額の電話料金がかかっていた

のが,インターネット(ブロードバンド)網を使うことによって,料金が

数段安くなるというメリットがあるところ,ASPではバージョン17か

らWeb機能が強化され,かつ,通信についてインターネット網が使える

ものになったことから,「貸出君」のASP版についても同バージョンを

採用する,という意味にすぎず,これをもって新たなプログラムとしての



「貸出君ASP新版」プログラムといえるかどうかは甚だ疑問である。こ

の点はさておくとしても,第23期下期開発方針(乙7,8)には,上記

bのとおり,
「完成に近いものは『ASP版のweb化』
」としながら,下

期の開発計画として「ASP版の入力画面の大幅変更」を挙げており,こ

のことからは「ASP版のWeb化」といっても,第23期下期開始の段

階においても,開発着手に至っていたかどうか甚だ疑わしい段階にとどま

っていたことがうかがえる。また,第23期下期の開発方針として「ソ

リューションビジネスの世界においては,何もかもwindowsを利用

するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見直しがかけられ,

Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれのアプリケーションが考

えられ,定着してゆこうとした動きになっている。windowsの限界

と,利用目的を十分に調査することにより,windowsの利用の範囲

が今後ますます限定的なものになってくるはずであり,当社もLinux

におけるアプリケーション開発体制の整備を今後2年間程度の間で進めて

ゆく必要がある」などとして,Windows,ASPからの脱却とLi

nuxへの移行の必要性が強調されているところである上,「win版の

早期完成」「win版廉価バージョン」には触れられていないことなどを

考慮すると,そのころ「貸出君 for win 廉価版」の開発に着手していた

か甚だ疑問があり,まして相当程度開発が進んでいた状態であったとは到

底認められないものというべきである。

e この点について,X4は,Win版に関する第23期当時の開発計画の

立案及び開発状況について,その陳述書(甲101)及び証人尋問におい

て,要旨次のとおり供述している。

貸出君Win版は,平成8年ころから開発を始めたが,平成9年になっ

ても完成しなかった。平成9年度末に漸く1社に納品するに至ったものの,

稼動できずに契約が終了してしまった。その後,Win版の手直しを行い,



平成9年9月から11月ころ1社に納品したが,これも稼動せず,更に平

成10年2月から3月ころ1社に納品したが,これも稼動しなかった。そ

の後更に修正を加えて,平成10年夏ころ1社に納入したものは何とか稼

動できる状況になったが,Win版については上記のような不始末が続発

したことから,KCSとしては,ASP版を販売した方が顧客に迷惑をか

けないで済むため,KCSとしては,Win版の販売には積極的ではなか

った。それでも,顧客からWin版を求められることがあり,平成11年

ころ以降,Win版の販売は継続したが,販売実績は,年間3ないし4台

程度で推移した。ところが,平成13年ころ,過去にWin版を納入した

顧客から,データが累積されるとスピードが遅い,更新時間がかかりすぎ

る等のクレームが多発し始め,その対応に時間を取られるようになった。

ちょうどそのころ,営業部門から,もっと安く販売できるWin版を,

データベースをオラクルにして開発して欲しいとの依頼があり,Win版

の廉価版の開発を計画した。これが,KCSらが主張する「貸出君 for w

in 廉価版」であり,乙第6号証の「2.商品化計画」の@の欄に記載の

ある「For・Win廉価版」のことである。しかし,Win版に対する

クレームが続発したため,その対応を急がなければならず,廉価版の開発

に着手できるような状況にはなく,第23期上期においては,廉価版は,

開発に着手すらできなかった。また,Win版の廉価版については,第2

3期下期における継続案件にはならなかった。このことは,乙第7号証に

明示し,乙第8号証にも記載してあるとおりである。Win版の廉価版が

継続案件とならなかったのは,第23期下期の開発方針として,Win版

やASP版よりも,Linux版を開発した方が企業としてのイメージア

ップを図ることができ,システム開発のオピニオン的存在ともなることが

できるとの考えによるものである。また,貸出君Win版の修正も完了し,

顧客からのクレームも終息したことから,今更同じWin版を作る必要も



ないとの判断が働いたこともある,と。

X4の上記証言は,乙第5号証ないし第8号証の記載にも符合するもの

であり,その内容も合理的で不自然なところが見当たらないから,信用性

が高いものというべきである。そうすると,乙第5号証ないし第8号証に,

X4の上記証言及び弁論の全趣旨を総合すれば,貸出君Win版について

は,平成13年ころから顧客からのクレームが多発し,KCSではその対

応に時間を取られるなどして,結局,第23期上期においては,Win版

廉価版の開発に着手することができなかったこと,また,第23期下期の

開発方針としても,Win版やASP版からLinux版に開発の重点を

移すことを決めたことや,貸出君Win版の修正が完了して顧客からのク

レームが終息したことなどから,Win版廉価版については継続開発案件

とはならなかったことが認められ,結局,KCSは,
「貸出君 for win 廉

価版」なる名称のプログラムについては,開発に着手したとは認められず,

まして開発が相当程度進んで平成15年1月ころには完成に近かったなど

ということは認められない。

なお,KCSらは,乙第7号証及び乙第8号証には「貸出君 for win

廉価版」の開発を引き続き進めていることが記載されていると主張する。

KCSらの上記主張は,乙第7号証については「2.商品施策」の「貸出

君」の欄に,
「上期に開発計画の予定が次のアプリケーションであった。」

として「W(小文字)win版廉価バージョン」の記載があり,これに続

けて「上期に完成に近いものは(U(小文字),
)(V(小文字),
)(X(小

文字),
)(Y(小文字))の4システムであり,今後この商品を積極的に販

売してゆきたいと考えている。…次に下期の開発計画であるが,上期の残

し仕事を完成さす事と同時に次の計画を実現する。」との記載があり,
「下

期の開発計画」として,「上期の残し仕事」の1つである「W(小文字)

win版廉価バージョン」を「完成」させる旨が記載されており,乙第8



号証については,「I.活動方針」の冒頭に「商品化計画に基づく商品の

完成。上期に計画した商品化計画8つに対し,実績としましては,4つに

終わってしまいました。下期も引継ぎ行っていくと同時に新たな商品化計

画も行って参ります。」として,上期に計画しながら実績のなかった商品

化計画について,下期も引き続き行っていく旨が記載されている,との主

張と解される。

しかし,Win版廉価版の開発については,乙第7号証及び乙第8号証

のいずれにも具体的な計画は一切記載されておらず,上記のような記載を

もって,Win版廉価版の開発計画が具体化していたということはできな

いし,まして,Win版廉価版の開発に着手していたことを認めることは

できない。

f また,X4は,ASP版に関する第23期当時の開発計画の立案及び開

発状況について,証人尋問において要旨次のとおり証言している。

「ASP新版」というのは,この訴訟になって初めて聞いた名前である。

「ASPのWeb化」とは,貸出君ASP版をインターネット網を使って

動かすという意味であり,具体的には,ASP(富士通が出しているO

S)がバージョン17から通信についてインターネット網が使えるものに

なったことから,ASP版について,ASPのバージョン17を使用する

ことを計画したことを指す。従来ネットワーク上では高額の電話料金がか

かっていたのが,インターネット網を使うことによって料金が数段安くな

るというメリットがあるためである。そして,KCSでは,ASPのバー

ジョン17を使用して実際にテストを行ったが,動くには動いたものの,

スピードが全く追い付かず使用に耐えないことから,その時点でASP版

のWeb化は断念した,と。

X4の上記証言は,乙第5号証ないし第8号証の記載に符合するもので

あり,信用性が高いと認められ,X4の上記証言に,乙第8号証の「1.



商品化計画」のEの欄に「Web化対応のビジュアルを進める。」との記

載があることからすれば,乙第8号証が作成された平成14年3月時点に

おいても未だ「Web化対応のビジュアル」化さえ完成していなかったこ

と,すなわち,Webを介しての操作性が確保された状態にさえ至ってい

なかったことが認められる。その他弁論の全趣旨を併せ考慮すれば,貸出

君ASP版については,第23期において「ASP版のWeb化」,すな

わち,ASP(富士通が出しているOS)のバージョン17の採用を計画

し,実際にバージョン17を使用してテストも行ったが,その結果,使用

に耐えないことが判明し,平成14年3月時点においても未だ,「Web

対応のビジュアル」というWeb化のためのごく初期の開発さえ完成して

いなかったことが認められる。そして,その後KCSが「Web対応のビ

ジュアル」化に着手したことを認めるに足りる証拠はなく,他に,KCS

が平成15年1月ころまでに「貸出君ASP新版」プログラムをほぼ完成

させていたことを認めるに足りる証拠はない。

g 以上のとおり,平成15年1月当時,KCS元従業員らにより貸出君新

版プログラムがほぼ完成していたことはおろか,その開発に着手していた

とも認めることはできない。

(ウ) 「ミスターアドバンス」の名称が定められた時期

a KCSらは,遅くとも平成15年1月10日までには,KCSにおいて

新たに開発した貸出君新版の名称を「ミスターアドバンス」とすることが

決まっていたとして,この名称に対応する貸出君新版プログラムが開発さ

れていたと主張し,その根拠として,@平成14年11月23日に行われ

たミーティングの席上,当時システム部課長補佐であったP10補佐が,

X2から,新しいソフトの名称は「ミスターアドバンス」であるとの説明

を受けたとのP10補佐の陳述書(乙63)の記載,A「ミスターアドバ

ンス」のプログラム定義書(RBCらによれば作成日付平成15年1月1



0日。甲20の5)のユーザー名欄に「Mr.Advance」と明記さ

れていること,以上の2点を挙げる。仮に,KCSらの上記主張どおりで

あるとすれば,RBCプログラム発売前の遅くとも平成15年1月10日

の段階で,KCS社内において新しいソフトが開発されており,しかもそ

の名称がRBCプログラムの初期の名称と同じ名称が考えられていたこと

になり,貸出君新版プログラムが既に開発されていたばかりでなく,X1

ら8名が貸出君関連成果物を持ち出したことを示す有力な間接事実になり

得る。

そこで,上記@及びAの根拠について順次検討する。

b @について

乙第63号証(P10作成の陳述書)には,「平成14年11月23日

に有限会社エムエスシィの事務所で行われたミーティングにおいて,X2

から,KCSで開発しているパッケージソフトウェアが『ミスターアドバ

ンス』という名前で開発が進んでいると聞いた。」旨の記載がある。また,

同号証には,「貸出君の新しいソフトウェアの開発に関しては,開発課方

針で概要は把握していたが,具体的な開発状況は,X2を中心とする十数

回行われたミーティングで説明を受けていた。」旨の記載もある。

しかし,P10補佐は,当時KCSのシステム部課長補佐であったとこ

ろ,十数回行われたミーティングで貸出君新版プログラムの具体的な開発

状況について説明を受けていたと言いながら,上記乙第63号証には説明

を受けていたという具体的な開発状況の内容に関する記載はなく,甚だ漠

然としている。また,具体的な開発状況について説明を受けたのなら配布

されていてしかるべき具体的な開発状況を記載したミーティング資料等の

裏付け証拠も提出されていない。そして,平成14年11月23日(この

日は祝日〔勤労感謝の日〕であるが)に有限会社エムエスシィの事務所内

で何らかのミーティングが行われたことは認め得るとしても,その際に開



発中のパッケージソフトウェアの名称が「ミスターアドバンス」であると

聞かされたという点は,これも甚だ漠然とした内容にとどまり,その際に

上記ソフトウェアがどのような開発段階にあったのか,「ミスターアドバ

ンス」なる名称がいかなる経緯でいかなる理由により採用されることにな

ったのか,そのような話がどのような文脈で出たのかなど,当時の具体的

な状況に関する陳述は一切ない。また,その状況を記載したミーティング

資料等の裏付け証拠も提出されていないことは上記同様である。したがっ

て,RBCらがこれらの事実を否認している以上,上記陳述記載を裏付け

る証拠もない状況の下で,上記陳述書の漠然とした記載のみをもって平成

14年11月23日にX1ら8名を含むKCSの元従業員らが「ミスター

アドバンス」の名前で貸出君新版プログラムの開発を進めていたとの事実

が認定できるものではない。

c Aについて

甲第20号証の5は,RBCらが開発したプログラムのプログラム定義

書としてRBCらが証拠として提出したものであり,
「作成日」欄に「平

成15年1月10日」「ユーザー名」欄に「Mr.Advance」との


各記載がある。

上記プログラム定義書の記載は,同プログラム定義書が平成15年1月

10日に作成され,その時点で既に同プログラム定義書に係るプログラム

に「Mr.Advance」の名称が付されていたを示すものである。

この点に関し,RBCらは,上記プログラム定義書に係るプログラムの

作成を開始したのは,「作成日」欄の記載どおり平成15年1月10日で

あること,しかし,上記プログラム定義書自体が作成されたのは,それよ

りもずっと後の時点であること,すなわち,RBCプログラムの開発につ

いては,開発当初は,X3ら数名で開発を行っており,きちんとしたプロ

グラム定義書を作成する余裕がなく,メモ書き程度のものを残して次々と



プログラムを開発していたこと,その後,順次KCSを退職した従業員が

プログラム開発を手伝うようになり,RBCを設立して開発担当者が増え

てくるとX3にも余裕ができ,過去に作成したプログラムについて,残し

ておいたメモを見ながらプログラム定義書を作成する作業ができるように

なったこと,そして,甲第20号証の5のプログラム定義書を実際に作成

したのは,平成15年1月10日よりもずっと後の時点であり,その時に

は既にソフトの名称が「Mr.Advance」と決まっていたため,

「ユーザー名」欄にこの名称を入力したと主張する。

この主張内容は,プログラム定義書の実際の作成手順としてあり得ない

ものではない。上記プログラム定義書の「作成日」の記載は,プログラム

自体の作成日かそのプログラム定義書の作成日かの2通りの読み方が可能

であるが,前者の読み方が可能であり,プログラム定義書の作成日を指す

ものではないとすれば,上記プログラム定義書記載の「作成日」の記載の

みから,同プログラム定義書自体が平成15年1月10日に作成されたと

認めることはできない。そして,上記プログラム定義書が綴られている

「得意先マスタメンテナンス(MAMAA1A )
」と題する書面(甲20

の1?23)の2枚目(甲20の2)及び3枚目(甲20の3)はソース

リストであるところ,これら両ページには,同プログラム定義書に係るプ

ログラムの作成日を示す「新規作成」の日付欄に「030121」の記載

があるところ,この記載から読みとることのできる日付は平成15年1月

21日であって,同プログラムの作成開始日が平成15年1月10日であ

るとのRBCの上記主張に沿うものである。

したがって,甲第20号証の5にKCSら主張の記載があることをもっ

て,遅くとも平成15年1月10日までにKCSにおいて新たに開発した

貸出君新版ソフトの名称を「ミスターアドバンス」とすることが決まって

いたものとはいえない。



d 以上によれば,遅くとも平成15年1月10日までには,KCSにおい

て新たに開発した貸出君新版の名称を「ミスターアドバンス」とすること

が決まっていたとのKCSらの上記主張事実は認められない。

(エ) 「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)につ

いて

a KCSらの主張及び証拠関係

KCSらは,乙第9号証は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーショ

ンマニュアルであると主張し,これについて,要旨,次のとおり主張する。

すなわち,X4らは,平成15年1月ころまでに「貸出君 for win 廉価

版」の開発をほぼ完成させ,X4はKCSのインストラクターの地位にあ

ったP11に指示して,そのオペレーションマニュアルを作成させた。P

11は,同月22日から同年2月7日にかけて ,「貸出君 for win 廉価

版」のシステムを実際に稼動させながらそのマニュアルを作成した。この

マニュアルが乙第9号証である,と。P11は,当審における証人尋問で

同旨の証言をするところ,仮にP11の証言どおり,P11が同月22日

から同年2月7日にかけて「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際

に稼動させながら乙第9号証を作成したのだとすれば,「貸出君 for win

廉価版」に関する限り,遅くとも平成15年1月22日までにはシステム

として完成していたことになり,これは,RBCプログラムが,RBCの

関係者が持ち出した「貸出君 for win 廉価版」を複製ないし翻案して作

成したものであるとのKCSらの主張を裏付ける有力な間接事実になり得

るものである。そこで,P11の上記証言の信用性を中心に検討する。

b 乙第9号証のオペレーションマニュアルに「貸出君 for win 廉価版」

として記載されたプログラムは正常に稼動するものか

上記のとおり,P11は,
「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際

に稼動させながらその乙第9号証を作成したと証言する。しかし,そうで



あるとすれば,当然,
「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムが乙第9

号証に記載されたとおりのプログラムとして,正常に稼動したはずである。

それが正常に稼動しないプログラムであれば,それを稼動させながらオペ

レーションマニュアルを作成することなどできるはずがないからである。

ところが,以下のとおり,
「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムとし

て乙第9号証に記載されたプログラムは,正常に稼動することがあり得な

いものと認められ,「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムを「実際に

稼動させながら」乙第9号証を作成したとのP11の証言部分は真実に反

することになり,信用性を欠くことになるというべきである。その理由は

次のとおりである。

(a) 異なるコード表示

T 証拠(甲13,33,150,証人X3)及び弁論の全趣旨によれ

ば,コンピュータシステムの開発手順としては,まずマスター系を開

発し,その後,処理が必要とされる業務について順次プログラムを構

築していくものであり,マスターの内容は業種や業界によって特徴が

あるが,いずれにしろ一旦マスターにおいて決定された各項目の条件

(たとえば,得意先コード及び仕入先コードの桁数,区分コードaC

項目の名称等)は,同じコンピュータシステム内のプログラムでは同

一のものが使用される必要があり,たとえば,給与計算のコンピュー

タシステムの例において,給与受給者(従業員)「山田太郎」のコー

ドb一旦「2222」と4桁で決定すれば,この「山田太郎」の毎

月の給与明細書には常に「2222」というコードbェ表示され,あ

る月の給与明細書には「2222」という4桁のコードbェ表示され

たが,別の月の給与明細書にはたとえば「66」のような2桁のコー

ドbェ表示されるということは起こり得ないことが認められる。

U ところで,乙第9号証の1の1は,その表紙に記載のあるとおり



「マスタ登録業務」についてのオペレーションマニュアルとされるも

のであるから,各プログラムは,このマスタ上で規定された桁数,区

分を表す記号,項目の名称などの条件によって作成されているはずで

あり,同一のコンピューターシステム内において,マスタ上で規定さ

れた桁数がページによって異なったり,同じ区分を示す記号がページ

によって異なったり,同じ項目を示す名称がページによって異なった

りすることはないはずである。

しかるに,乙第9号証の1の1を見ると,同じであるべき桁数,同

じであるべき区分aC同じであるべき名称が異なる例が散見される。

すなわち,@「得意先コード」の桁数についてみると,「得意先マス

タ 「
登録・修正・削除」のプログラムでは7桁となっている( 2?

1」ページ)のに対し,「得意先別単価マスタ一覧表」のプログラム

では同じ得意先コードの桁数が6桁になっており( 2?46」ペー


ジ)「掛率マスタ一覧表」のプログラムでも得意先コードの桁数が6


桁になっている( 2?53」ページ)
「 。また,A「仮設」という商品

区分を示す記号についてみると,「商品マスタ 登録・修正・削除」


のプログラムでは「B」となっている( 2?16」ページ)のに対

し,「修理マスタ 登録・修正・削除」のプログラムでは「K」とな

っている( 2?54」ページ)
「 。さらに,B項目の名称についてみる

と,「機械マスタ 「
登録・修正・削除」のプログラム( 2?21」

ページ)において「機械マスタ」「商品コード」「レンタルNo」と
, ,

いう名称が付されている各項目について,「単品マスタ一覧表」のプ

ログラム( 2?24」ページ)では「単品マスタ」「型式コード」
「 , ,

「リースNo」という名称が付されており,統一がとれていない。

(b) 存在しないプログラム

T 乙第9号証の1の1は ,「マスタ登録業務」についてのオペレー



ションマニュアルとされるものであり,その構成は,たとえば,「2

?1」ページの最上段に記載された「得意先マスタ 登録・修正・削

除」というマスタプログラムが存在することを前提として ,「2?

1」ページから「2?4」ページにおいてプログラムの内容が説明さ

れている。したがって,乙第9号証の1の1中にプログラム名の記載

があれば,同じ乙第9号証の1の1中にその名称のプログラムの内容

が説明されたページが存在するはずである。

U しかるに,乙第9号証の1の1を見ると,存在するはずのプログラ

ムについて,その内容が説明されたページが存在しないものがある。

すなわち,乙第9号証の1の1には,「型式マスタ 登録・修正・

削除」という記載がある( 2?4」ページ上から17行目,
「 「2?2

6」ページ下から4行目,「2?27」ページ下から3行目,「2?2

8」ページ最下行,
「2?45」ページ最下行,
「2?49」ページ最

下行,
「2?54」ページ下から8行目,
「2?55」ページ下から3

行目)から,乙第9号証の1の1中に「型式マスタ 登録・修正・削

除」という名称のプログラムの内容が説明されたページが存在するは

ずであるが,乙第9号証の1の1中にはそのようなページは存在しな

い。

(c) 上記(a)(b)のとおり,乙第9号証の1の1について見ただけでも,

桁数が同じでなければならない部分が違う桁数になっていたり,存在し

ない「型式マスタ 登録・修正・削除」という項目が何度も出てくるな

ど,乙第9号証のマニュアルどおりのプログラムが存在するとしても,

そのようなプログラムは稼動するものではないことが明らかである。

P11の証言によれば,平成15年1月22日から同年2月7日にか

けて,
「貸出君 for win 廉価版」プログラムを実際に稼動させながらそ

のオペレーションマニュアル(乙9)を作成したというのであるところ,



乙第9号証のマニュアルどおりのプログラムでは実際に稼動しないこと

が明らかであるから,P11の証言はこの点において不自然,不合理と

いわざるを得ない。もっとも,P11が稼動し得る正常なプログラムを

稼動させながら,マニュアルに誤った記載をしたにすぎない可能性も考

えられないではない。しかし,P11は証言中でそのような可能性に何

ら触れていないし,上記食い違いは単なる転記ミスではあり得ない致命

的なものであり,単純な転記ミス等の可能性は低く,依然としてP11

の上記証言には重大な疑問を差し挟まざるを得ない。

(d) なお,KCSらは,乙第9号証のオペレーションマニュアルが平成

15年1月22日から同年2月7日にかけて作成されたことは,同マ

ニュアルが保存されているファイルの更新日(乙10)によって明らか

であると主張する。なるほど,乙第10号証の画面の「更新日時」欄を

見ると,乙第9号証に係るファイルの更新日として,2003年(平成

15年)1月30日から同年2月7日までの日が表示されている。

しかし,証拠(甲29,証人X4)及び弁論の全趣旨によれば,乙第

10号証のような画面,すなわち「更新日時」欄のみならず ,「サイ

ズ」欄についても,作成者の意図した表示がなされるような画面を作成

することは困難なことではないことが認められる。現にRBCらは,乙

第10号証に対する反証とするために,「更新日時」欄及び「サイズ」

欄の表示が乙第10号証と同一の画面(甲29)を作成してみせている。

KCSらは,RBCらが乙第9号証をデータの形で持っていてそれをコ

ピーしたからこそ,甲第29号証の作成が可能であった旨主張するが,

甲第29号証に表示されているファイルが乙第9号証と同一内容のもの

であるとする証拠はなく,採用することができない。したがって,乙第

10号証も,甲第29号証と同様,KCSが本件訴訟で使用するために

意図的に作成されたものである疑いを払拭できない。



(e) なおまた,KCSらは,P11の作業日報(乙54の1?12)も

同人が乙第9号証のオペレーションマニュアルの作成に携わっていたこ

とを示していると主張する。

P11の作業日報(乙53の1?3,乙54の1?12)の「作業内

容」欄を見ると,乙第9号証のオペレーションマニュアルの作成と関連

があると思われる記載は「オペマニ修正」(乙53の3,乙54の1?

9)のみであるところ,「オペマニ修正」との記載だけでは,何のオペ

レーションマニュアルの修正作業を行っていたのか明らかではなく,こ

の記載が乙第9号証の作成(修正)のことを指しているかどうかが明ら

かでない。また,KCSらの主張によっても,RBCソフトは,KCS

内で開発されていたプログラム及びドキュメントから構成されたもので

あり,KCSが従前から販売していた「貸出君」のプログラムに変更や

修正を加えたものではないというのであるから(第1事件のKCSの平

成16年3月18日付け準備書面(1)4ページ)「作成」ではなく「修


正」「修正」とは取りも直さずKCSが当時販売していた「貸出君」の


プログラムを修正したという意味であると解される。)と記載している

ことも不自然である。したがって,乙第53,第54号証(枝番を含

む。)の記載から,P11が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーショ

ンマニュアル(乙9)の作成作業に従事していたことを認定することは

できない。

(f) KCSらは,P11にはオペレーションマニュアルの作成能力がな

かった等のRBCらの主張に対し,マニュアルの改訂作業は,旧マニュ

アルを参照しながら,新しい画面の内容や動きをチェックしながら適宜

項目を追加したり,入力内容の説明を行ったりという修正を加えていく

ものであり,P11でも十分可能な作業であるなどと主張する。しかし,

「貸出君 for win 廉価版」プログラムがKCS内で開発されていたプ



ログラム及びドキュメントから構成されたものであり,RBCプログラ

ムはこれを複製・翻案したものであって,KCSが従前から販売してい

た「貸出君」のプログラムに変更や修正を加えたものでないことは,K

CSらの自認するところであるから,乙第9号証は,当時KCSが販売

していた「貸出君」に単純な変更や修正を加えたにすぎないものではな

く,プログラム構造の異なる新たなプログラムとして構成された「貸出

君 for win 廉価版」プログラムのオペレーションマニュアルとして作

成されたものということになる。そうだとすれば,RBCらの指摘する

とおり,その開発者から具体的な説明を受けることなく,また,開発に

関するドキュメント等をみせられることのないまま,単にプログラムを

稼動させた画面を見ただけで,かかる短期間のうちに乙第9号証を完成

させたというのは,P11の経験年数を考慮すると,やはり不自然であ

るとの疑問を払拭し得るものではない。

c 小括

以上によれば,乙第9号証は,実在するプログラムないしソフトとして

の「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルであると認め

ることはできず,この認定に反する証人P11の証言は上記のとおり不自

然で信用できないから,乙第9号証の存在及びP11の証言をもってして

も,P11がX4からオペレーションマニュアル(乙9)の作成を命じら

れたという平成15年1月下旬ころに「貸出君 for win 廉価版」が開発

され,その成果物がKCS社内に存在していたことを推認することはでき

ない。

d 乙第9号証は何に基づいて作成されたものであるか

上記のとおり,乙第9号証のオペレーションマニュアルは,実在するソ

フトウエアである「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュア

ルとして作成されたものとは認められない。そうであれば,乙第9号証は



果たして何に基づいて作成されたものであるかが疑問として残る。この点

については,本件においては傍論になるものの,若干の検討をしておくこ

ととする。

前記bの(a)及び(b)で認定した事実に,次の(a)ないし(c)で認定する事

実を併せ考慮すると,以下のとおり,乙第9号証は,KCSが当時販売し

ていた「貸出君 for Windows ver3.0」のオペレーションマニュア

ル(甲87。以下,単に「甲第87号証」又は「甲87」ともいう。)を

基本にしつつ,甲第87号証に記載のない点については,RBC販売のソ

フト「Team S」のオペレーションマニュアル(甲96。以下,単に

「甲第96号証」又は「甲96」ともいう。)の該当する部分を合体して

作成したものである疑いがあるものというべきである。

(a) 乙第9号証の表紙のデザインが甲第87号証と同じであること

証拠(甲87,乙9の1の1,乙9の2の1,乙9の3の1)及び弁

論の全趣旨によれば,乙第9号証の1の2の「Aマスタ登録業務」と記

載された表紙には,小さな葉のようなロゴが記されていること,このロ

ゴは, KCS が,平成14年から15年当時顧客に配布していたオペ

レーションマニュアル(甲87)の表紙に使われていたものと全く同じ

ものであること,このロゴは,RBCが使用しているワープロソフトW

ordの「クリップアート」で標準装備されておらず,KCS独自のも

のであること,その他,乙第9号証の各章ごとの表紙(乙第9号証の1

の1,2の1,3の1の各1枚目)のデザインが,甲第87号証の各章

ごとの表紙のデザインと全く同じであること,以上の事実が認められる。

RBCらは,乙第9号証は,X4がKCSを退職する1か月程前に現在

のRBCのために部下を使って作成させたというのであるとすれば,既

に,KCSが表紙に使っていたものと同一のロゴを使用することなどお

よそあり得ない旨主張する。しかし,X4から作成の指示を受けたP1



1が,X4の意図を察知せずにKCSのソフトのオペレーションマニュ

アルとして乙第9号証を作成したものであるとすれば,ロゴが同じであ

っても不自然ではない。したがって,この点は,P11の証言を減殺す

る事情ということはできず,RBCらの上記主張は理由がない。

(b) マスタ登録関係のプログラムについて

マスタ登録関係のプログラムについて,乙第9号証に記載のあるプロ

グラムを見ると,甲第87号証に乙第9号証と同一の記載があるプログ

ラムが多数記載されており,甲第87号証に記載されていないプログラ

ムは,これに該当するプログラムが甲第96号証に記載されていること

が認められる。具体的には次のとおりである。

T 「?単品マスタ一覧表」と「機械マスタリスト」

乙第9号証の1の1の「2?24」ページには「?単品マスタ一覧

表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第96号証

には「?単品マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載

はなく,甲第96号証においてこれに該当するのは,「機械マスタリ

スト」という名称のプログラムである( 2?25」ページ)
「 。

これに対して,甲第87号証には,「単品マスタ一覧表」という名

称のプログラムについての記載がある( 2?24」ページ)
「 。

U 「?セット物マスタ 登録・修正・削除」と「?セット商品マスタ

メンテナンス 登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?27」「2?28」ページには「?セ


ット物マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについて

の記載があるが,甲第96号証には「?セット物マスタ 登録・修

正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく,甲第96

号証においてこれに該当するのは,「セット商品マスタメンテナンス

登録・修正・削除」という名称のプログラムである( 2?28」
「 ,



「2?29」ページ)。両プログラムは,画面の項目名及びデザイン

が異なり,その他説明内容も異なる。

これに対して,甲第87号証には ,「セット物マスタ 登録・修


正・削除」という名称のプログラムについての記載があり( 2?2

7」 「2?28」ページ)
, ,乙第9号証の1の1と,画面の項目名及

びデザインが同一であり,また,説明内容も同一である。

V 「?締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」と「締日マス

ターメンテナンス登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?29」「2?30」ページには「?締


日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラム

についての記載があるが,甲第96号証には「?締日コントロールマ

スタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載は

なく,甲第96号証においてこれに該当するのは,「締日マスタメン

テナンス 登録・修正・削除」という名称のプログラムである( 2


?39」ページ)。両プログラムは,画面の項目名が異なり,その他

説明内容も異なる。

これに対して,甲第87号証には,「締日コントロールマスタ 登

録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり

( 2?29」「2?30」ページ)
「 , ,乙第9号証の1の1と,画面の

項目名が同一であり,説明内容も同一である。

W 「?仕入締日コントロールマスタ登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?31」「2?32」ページには「?仕


入締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログ

ラムについての記載があるが,甲第96号証には「?仕入締日コント

ロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについて

の記載はなく,これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。



これに対して,甲第87号証には,「仕入締日コントロールマスタ

登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり

( 2?31」「2?32」ページ)
「 , ,乙第9号証の1の1と,画面の

項目名その他説明内容が同一である。

X 「名称マスタ一覧表」

乙第9号証の1の1の「2?35」ページには「名称マスタ一覧

表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第96号証

には「名称マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載は

なく,これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。

これに対して,甲第87号証には,「名称マスタ一覧表」という名

称のプログラムについての記載があり( 2?35」ページ)
「 ,乙第9

号証の1の1と,画面の項目名その他説明内容が同一である。

Y 「担当者マスタ一覧表」

乙第9号証の1の1の「2?38」ページには「担当者マスタ一覧

表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第96号証

には「担当者マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載

はなく,これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。

これに対して,甲第87号証には,「担当者マスタ一覧表」という

名称のプログラムについての記載があり( 2?38」ページ)
「 ,乙第

9号証の1の1と,画面の項目名その他説明内容が同一である。

Z 「得意先別単価マスタ 登録・修正・削除」と「得意先別単価マス

タメンテナンス 登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?42」?「2?45」ページには「得

意先別単価マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムにつ

いての記載があるが,甲第96号証には「得意先別単価マスタ 登

録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく,甲



第96号証においてこれに該当するのは,「得意先別単価マスタメン

テナンス 登録・修正・削除」という名称のプログラムである( 2


?42」 「2?43」ページ)
, 。両プログラムは,画面が異なり,そ

の他説明内容も異なる。

これに対して,甲第87号証には,「得意先別単価マスタ 登録

修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり( 2?


42」?「2?45」ページ),乙第9号証の1の1と,画面その他

説明内容が同一である。

[ 「得意先別単価マスタ一覧表」

乙第9号証の1の1の「2?46」ページには「得意先別単価マス

タ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第9

6号証には「得意先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムに

ついての記載はなく,これに該当するプログラムに関する記載も存在

しない。

これに対して,甲第87号証には,「得意先別単価マスタ一覧表」

という名称のプログラムについての記載があり( 2?46」ペー


ジ),乙第9号証の1の1と,画面その他説明内容が同一である。

\ 「仕入先別単価マスタ 登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?47」?「2?49」ページには「仕

入先別単価マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについ

ての記載があるが,甲第96号証には「仕入先別単価マスタ 登録

修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく,これに

該当するプログラムに関する記載も存在しない。

これに対して,甲第87号証には,「仕入先別単価マスタ 登録

修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり( 2?


47」?「2?49」ページ),乙第9号証の1の1と,画面その他



説明内容が同一である。

] 「仕入先別単価マスタ一覧表」

乙第9号証の1の1の「2?50」ページには「仕入先別単価マス

タ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第9

6号証には「仕入先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムに

ついての記載はなく,これに該当するプログラムに関する記載も存在

しない。

これに対して,甲第87号証には,「仕入先別単価マスタ一覧表」

という名称のプログラムについての記載があり( 2?50」ペー


ジ),乙第9号証の1の1と,画面その他説明内容が同一である。

XT 「得意先別現場別単価掛率マスタ 登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?51」「2?52」ページには「得意


先別現場別単価掛率マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログ

ラムについての記載があるが,甲第96号証には「得意先別現場別単

価掛率マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについて

の記載はなく,これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。

これに対して,甲第87号証には,「得意先別現場別単価掛率マス

登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があ

り( 2?51」「2?52」ページ)
「 , ,乙第9号証の1の1と,画面

その他説明内容が同一である。

XU 「掛率マスタ一覧表」

乙第9号証の1の1の「2?53」ページには「掛率マスタ一覧

表」という名称のプログラムについての記載があるが,甲第96号証

には「掛率マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載は

なく,これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。

これに対して,甲第87号証には,「掛率マスタ一覧表」という名



称のプログラムについての記載があり( 2?53」ページ)
「 ,乙第9

号証の1の1と,画面その他説明内容が同一である。

XV 「修理マスタ 登録・修正・削除」と「修理マスタメンテナンス

登録・修正・削除」

乙第9号証の1の1の「2?54」「2?55」ページには「修理


マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載

があるが,甲第96号証には「修理マスタ 登録・修正・削除」とい

う名称のプログラムについての記載はなく,甲第96号証においてこ

れに該当するのは,「修理マスタメンテナンス登録・修正・削除」と

いう名称のプログラムである( 2?30」
「 」ページ)。両プログラム

は,画面の項目名が異なり,説明内容も異なる。

これに対して,甲第87号証には,「修理マスタ 登録・修正・削

除」という名称のプログラムについての記載があり( 2?54 」
「 ,

「2?55」ページ),乙第9号証の1の1と,画面その他説明内容

が同一である。

(c) 業務関係のプログラムについて

業務関係のプログラムについては,マスタ登録のプログラムとは逆に,

乙第9号証に記載のあるプログラムについて甲第87号証に記載のない

ものが多く,このようなプログラムについては,甲第96号証に乙第9

号証とほぼ同一の記載があるプログラムが多数記載されている。具体的

には次のとおりである。

T 「入金入力」

乙第9号証の3の1の「2?6」「2?7」ページには,
, 「入金入

力」という名称のプログラムについての記載があり,甲第96号証に

も「入金入力」という名称のプログラムについての記載がある( 4


?8」 「4?9」ページ)
, 。両者は,画面の項目の配置及び説明内容



に若干異なる部分があるが,大半の部分は共通している。

これに対して,甲第87号証にも,「入金入力」という名称のプロ

グラムについての記載があるが( 4?9」ページ)
「 ,乙第9号証の1

の1とでは,画面及び説明内容とも,かなりの部分が相違する。

U 「レンタルNo.問合せ」と「レンタルNO貸出照会」

乙第9号証の4の1の「2?4」ページには,「レンタルNo.問

合せ」という名称のプログラムについての記載があり,甲第96号証

には「レンタルNO貸出照会」という名称のプログラムについての記

載がある( 3?18」ページ)
「 。両者は,入力項目一覧表の記載が一

部異なるが,大半の部分は共通している。

これに対して,甲第87号証には,「レンタルNo.問合せ」に該

当するプログラムについての記載はない。

V 「未:入出庫問合せ」と「入出庫参照」

乙第9号証の4の1の「2?5」ページには ,「未:入出庫問合

せ」という名称のプログラムについての記載があり,甲第96号証に

は「入出庫参照」という名称のプログラムについての記載がある

( 3?11」ページ)
「 。両者は,入力項目一覧表の記載が一部異なる

が,大半の部分は共通している。

これに対して,甲第87号証には,「未:入出庫問合せ」に該当す

るプログラムについての記載はない。

W 「販売明細問合せ」と「販売明細照会」

乙第9号証の4の1の「2?6」ページには,「販売明細問合せ」

という名称のプログラムについての記載があり,甲第96号証には

「販売明細照会」という名称のプログラムについての記載がある

( 4?6」「4?7」ページ)
「 , 。両者は,入力項目一覧表の記載等が

一部異なるが,大半の部分は共通している。



これに対して,甲第87号証には,「販売明細問合せ」に該当する

プログラムについての記載はない。

X 「入金明細問合せ」と「入金明細照会」

乙第9号証の4の1の「2?7」ページには,「入金明細問合せ」

という名称のプログラムについての記載があり,甲第96号証には

「入金明細照会」という名称のプログラムについての記載がある

( 4?12」ページ)
「 。両者は,大半の部分が共通している。

これに対して,甲第87号証には,「入金明細問合せ」に該当する

プログラムについての記載はない。

(d) まとめ

以上によれば,乙第9号証のオペレーションマニュアルは,マスタ登

録関係プログラムにおいては,甲第87号証に乙第9号証と同一の記載

があるプログラムが多数記載されており,甲第87号証に記載されてい

ないプログラムはこれに該当するプログラムが甲第96号証に記載され

ている一方,業務関係プログラムにおいては,これとは逆に,乙第9号

証に記載のあるプログラムについて甲第87号証に記載のないものが多

く,このようなプログラムについては,甲第96号証に乙第9号証とほ

ぼ同一の記載があるプログラムが多数記載されているという特徴がある。

そうすると,その体裁からは,乙第9号証は,まず,KCSが当時販売

していた「貸出君 for Windows ver3.0」のオペレーションマ

ニュアル(甲87)に依拠しつつ(このこと自体はKCSらも同旨の主

張をしている。,マスタ登録関係プログラムについては,甲第87号証


に記載のないプログラムについてRBCの販売するソフトウエアである

「Team S」のオペレーションマニュアル(甲96)のうちから該

当するプログラムの部分を取り出してこれを合体して作成したものであ

り,他方,業務関係プログラムについては,従来の貸出君プログラムに



はなかったプログラムが多かったことから,甲第96号証に記載のもの

を借用して作成したものと推認するのがより合理的であると認められる。

そして,RBCの販売するソフトウエアである「Team S」のオペ

レーションマニュアルである甲第96号証が作成されたのは,平成15

年8月ないし9月ころのことであるから,乙第9号証は,本件訴訟が提

起された後に,同年1月ころに「貸出君 for Windows 廉価版」が

KCS社内で既に開発されていたことを証明するために,ことさら作成

されたものである疑いがあるものというべきである。

(オ) 貸出君関連成果物の持出し等

a 貸出君関連成果物の持ち出し

KCSらは,KCSの元従業員が,平成15年3月までに貸出君新版プ

ログラム( 貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログ


ラム)及び貸出君プログラム並びにこれらプログラムに係る開発用書類等

(貸出君関連成果物)を持ち出したと主張し,証拠(乙52,Y1本人)

はこれに沿う。

しかし,証拠(乙52,Y1本人)中,KCSらの上記主張に沿う部分

は信用できない。その理由は以下のとおりである。

(a) KCSらは,KCSが貸出君関連成果物等の盗難被害の事実を知っ

たのは,Y1が平成15年3月6日にKCSの営業所が存在するビルの

管理人から,KCS従業員がKCSの書類等を大量に持ち出しており,

とりわけ,X4においては,休日に届出もせずに出社して大量の資料を

持ち出していたとの報告を受けたことによる旨主張し,Y1は同趣旨の

供述をする。

(b) 盗難届について

証拠(乙37の1)及び弁論の全趣旨によれば,Y1は,平成15年

3月7日,大阪府東警察署長に盗難届を提出したこと,同届出に係る



「盗難届受理証明書」
(乙37の1)には,
「被害状況」として「申請者

は,平成15年2月から同年3月7日の間,申請者が取締役社長をつと

める株式会社ケイシイエス事務所内より同会社営業月報綴り等会社資料

を窃取されるという被害に遭い,被害届を提出したものである。」との

記載があり,「被害金品」としては,「営業月報綴り」「週間訪問活動予


定表綴り」「注文書綴り」「ソフト開発資料綴り」がこの順に記載され
, ,

ていることが認められる。

(c) 被害品返還要求書について

また,証拠(甲217)及び弁論の全趣旨によれば,KCSは,平成

15年3月12日付けで,KCSの元従業員らに対し,同人らが持ち出

した物を返還するよう要求する旨を記載した文書(甲217はその一例

である。以下「被害品返還要求書」という。)を送付したこと,返還を

要求するものとして被害品返還要求書に記載されているものは,平成1

4年9月1日から平成15年2月20日までの営業部員の引継書であり,

具体的には,「1.業務日報の月別に綴ったものの6ヶ月分」「2.週


間行動計画 月別の6ヶ月分」「3.月別デモのユーザ及び見込み客リ


スト」「4.顧客管理訪問先及び顧客の状況の月別リスト」「5.見積
, ,

り提出のつずり」「6.受注内訳及び約定書 6ヶ月分」「7.売掛残
, ,

明細及び入金予定」「8.クレイム明細とその推移並びに結果明細」
, ,

「9.3から8までの内容が月次報告にあれば省略していいです」「1


0.9月?2月の6ヶ月の月次報告書」「11.その他の報告事項」で


あって,貸出君関連成果物に関すると思われる記載はない。

さらに,証拠(乙37の2)によれば,Y1は,平成16年2月10

日,KCS代表者として,X5を被告訴人として告訴したが,その告訴

受理証明書には,被害状況として,「被告訴人X5は,平成14年12

月24日から平成15年3月31日までの間,コンピュータソフト開発



等を業務とする上記申請人の実父が経営する株式会社ケイシィエスの営

業部長であったものであるが,取引先である志摩機械株式会社がケイシ

ィエスに発注したパソコン端末及び補償料対応プログラム一式につき,

会社の販売実績を促進・向上させるという自己の任務に背き,自己が設

立した株式会社アールビィシィの利益を図る目的で,発注先をアールビ

ィシィに変更させ,平成15年4月2日ころ,アールビィシィの預金口

座にその代金として86万9160円を振り込ませたことにより,告訴

人会社のケイシィエスに同額の損害を加えたものである。
」旨を記載し,

同額を被害金品としていることが認められる。

(d) ところで,KCSらの主張によれば,「貸出君 for win 廉価版」及

び「貸出君ASP新版」のプログラムは,いずれも平成15年1月まで

にはほぼ完成していたというのであるから,その開発用書類を含む貸出

君関連成果物なるものは,KCSにとって極めて貴重な会社財産という

べきであったから,真に貸出君関連成果物が盗難被害に遭ったのであれ

ば,被害日時及び行為者を具体的に特定すべく,まず,Y1において,

自己に報告をしたというビルの管理人から詳しい事情を聴取をした上で

届出をするのが通常とるべき対応であると考えられる。

しかるに,盗難届受理証明書には,「被害日時」として「平成15年

2月ごろから同年3月7日午前8時30分ごろまでの間」という,相当

幅のある記載しかなく,このことからすると,Y1において,ビルの管

理人から,具体的な被害日時について事情を聴取したのか疑問である。

あるいは,Y1においてビルの管理人から事情聴取をした結果,同管

理人から,被害日時は「平成15年2月ごろから同年3月7日午前8時

30分ごろまでの間」であった旨の回答があったものと見る余地もない

ではないが,そうだとすると,平成15年2月ころから同年3月6日こ

ろまでの間,ビルの管理人は,KCSの従業員による大量の書類等の持



ち出しの事実を知りながらY1その他KCSの関係者に報告しなかった

ということになるのであって,このようなこともまたいささか不自然で

あり疑問である。

また,Y1は,ビルの管理人から,X4が大量の書類を持ち出してい

たとの報告を受けたと供述しているが,盗難届受理証明書には,行為者

として特定の従業員の氏名は記載されておらず,このことから見ても,

Y1においてビルの管理人から,具体的な行為者が誰であるかについて

事情を聴取したのか疑問である。このような事実からは,KCSらが主

張するように,Y1が果たして真実,ビルの管理人からX4を始めKC

Sの元従業員がKCSの資料を大量に持ち出していた旨を聞いたのかど

うかにも少なからず疑問があるものというべきである。

また,真にKCSが貸出君関連成果物の盗難被害に遭ったのであれば,

被害品返還要求書にも,貸出君関連成果物の記載があってしかるべきで

あるが,上記のとおり,そのような記載はない。

(e) 認定事実に基づく判断

上記(d)の事実からすると,Y1は,盗難届を提出した平成15年3

月7日当時,ビルの管理人から事情を聞いて,KCSが貸出君関連成果

物について盗難被害に遭ったとの認識を有していたとはにわかに認め難

い。もっとも,前記盗難届受理証明書(乙37の1)の「被害金品」欄

には「ソフト開発資料綴り」が掲記されており,これに貸出君関連成果

物が含まれると解する余地もある。しかし,貸出君新版プログラムに関

する成果物が存在していたとすれば,その財産的価値は極めて高いもの

と認められるのに,盗難届受理証明書の「被害金品」欄には最も下位に

記されていることや,被害品返還要求書には貸出君関連成果物に関する

記載はなく,X5を被告訴人とする告訴受理証明書にも,KCSが発注

を受けたパソコン端末等をRBCが発注を受けたことにして,その代金



86万9160円をRBCの預金口座に振り込ませたという背任の事実

のみが告訴事実とされており,より犯情の重い貸出君関連成果物の窃取

の事実が告訴事実に挙げられていないこと,さらに,X2を原告とし,

KCS を被告とする別件訴訟(大阪地裁平成17年(ワ)第195号事

件)の平成17年9月27日付け被告(KCS)準備書面(甲106)

には,「被告(KCS)において平成15年2月頃から同3月7日頃ま

での間,約定書原本を綴じていた注文書綴りを含め,顧客情報に関する

書類一切を窃取されるという盗難事件が発生した(乙13)。それ自体

に財産価値の乏しいこうした書類一式のみ(下線は判決注)が盗難に遭

うなどということは,一般的な盗難事件とは考えられず,こうした書類

について利用価値があるのは原告(X2)らそして訴外株式会社アール

ビィシィだけであり,被告(KCS)から取引先を簒奪するために窃取

したとしか考えられない」との記載がある。同記載によれば盗難に遭っ

たのは上記顧客情報関係書類一式のみであり,そのほかに貸出君関連成

果物が持ち出されたとの主張は一切していない。以上によれば,上記告

訴当時,Y1が貸出君関連成果物が持ち出されたとの認識を有していた

とは考え難く,これに反するY1の供述は信用できない。したがって,

平成15年3月当時,KCSの従業員によって持ち出されたとY1が認

識していたのは,被害品返還要求書に記載された物のみであったと認め

られる。

(f) 小括

以上によれば,貸出君新版プログラムはもとより,貸出君プログラム

等の貸出君関連成果物なるものをKCSの元従業員が持ち出した事実は,

これを認めるに足りない。

なお,証拠(証人X4)によれば,X4が休日に届出もせず出社して

いたのは,平成15年当時は通常のことであったことが認められ,この



ことをもって,貸出君関連成果物を持ち出したことを認定する根拠とす

ることはできない。

b ドキュメントのコピー

(a) KCSらは,平成15年1月にX1がP11にKCSの取引先に関

するプログラム仕様書等のドキュメントのコピーを指示して持ち出し,

業務課のフォルダ内のマニュアル全部等のコピーを指示していたと主張

する。この主張に沿う証拠として,P11証人は,X1から指示されて

1社当たりパイプファイルで3,4冊程度のドキュメントをファイルし

た旨証言し(同証人尋問調書3?4頁),実際,P11の作業日報(乙

53の1?3)には,P11が,平成15年1月8日,同月10日及び

同月14日の3日間,ドキュメントのコピー作業に従事した旨の記載が

ある。また,KCSの従業員P10作成の陳述書(乙34)には,P1

0補佐は,平成14年9月ころから,X2の指示もあり自分の取引先の

ドキュメントファイルをコピーしたとの記載がある。

(b) しかし,上記証拠からは,P11がX1から指示されて数社分の何

らかのドキュメントのコピーを指示され,そのコピー作業に従事したこ

と,P10補佐もX2から指示を受けて自分の取引先のドキュメントフ

ァイルをコピーしたことが認められるにとどまり,そのドキュメントな

いしドキュメントファイルの内容は明らかではないから,上記証拠のみ

によっては,X1がP11に対して貸出君関連成果物のコピーを指示し

たということも,P11が X1の指示を受けて貸出君関連成果物をコ

ピーしたということも認めるに足りず,まして,X1が貸出君関連成果

物をコピーしたものを持ち出したとの事実を認めることはできない。ま

た,P10補佐がX2の指示を受けて貸出君関連成果物をコピーした事

実も認めることはできない。

(c) その他,X1ら8名を含むKCSの元従業員が貸出君関連成果物を



コピーして持ち出したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

c K6900のRBCへの持込み

(a) KCSらは,KCSで「貸出君」の開発に使用していたK6900

(富士通製オフコン「K6900」)をX4が持ち出し,RBCに持ち

込んだと主張する。そして,KCSの従業員P15作成の陳述書(乙6

2)には,「平成15年2月ころX4がK6900をRBCに持ち込む

ためにKCSに偽り,持ち出して,その後RBCの事務所に持ち込んだ

と思う。
」旨の記載があり,P10作成の陳述書(乙63)には,要旨,

「平成15年2月22日に,もともとKCSにあったコンピュータをX

2の自宅車庫からRBCの本社事務所に持ち込む作業に従事した。その

中にK6900があった。K6900は,X4がRBCで使用するため

KCSから持ち出し,大阪府羽曳野市にあるX2の自宅車庫に保管して

いた。X4は,K6900に入っているソフトウェア,データを消去せ

ずRBCに持ち込んだと思う。平成15年2月22日の作業は,午前1

0時にX2の自宅車庫前に,P24,X6,P16,P14,X5,X

1,P25,P5,P26,P27,P28,私(P10)が集合して

積み込み作業を行い,午前11時半にRBC事務所にX3,P15,P

29,P9,X7,X8が集合し,先のメンバーと一緒に12時半ころ

からRBC事務所への搬入作業を行った。」との記載がある。

しかし,そもそもK6900にKCSらのいう貸出君新版プログラム

その他これに関連する成果物が入っていたと認めるに足りる証拠はない

から,仮にKCSらが主張するように,K6900をX4が持ち出し,

これをRBCに持ち込んだとしても,これをもって,X1ら8名が上記

成果物を持ち出し,これをRBCに開示したと認定することはできない。

(b) ちなみに,X4は,当審における証人尋問で,要旨次のとおり証言

する。すなわち,K6900は,KITシステムズ(川商インフォメー



ション)がファイナンス会社からリースを受けていたもので,平成13

年9月ころ,リース期間終了に伴い,KITシステムズにおいて廃棄す

ることになっていたものである。当時,KCSではシステムチェックの

ためにオフコンが必要であり,X4が,KITシステムズの担当者から,

できるだけ早い時期に返還又は廃棄することを前提として貸与を受け,

これをKCSにおいて使用していた。X4は,KCSを退職することを

決めたことから,KITシステムズにK6900を返還することとし,

平成15年2月6日,KITシステムズの指示により,その関連会社で

ある三菱物流センター(尼崎と伊丹の間辺りにある。)にK6900を

持ち込み返還した,と。そして,乙第61号証の1(株式会社トヨタレ

ンタリース大阪作成の「請求明細書兼領収書」と題する書面)には,K

6900をKITに返還するためにKCS名義で借りたレンタカーの貸

渡日が平成15年2月6日であるとの記載があり,また,同号証の2

(KCS作成の出金伝票)には,上記レンタカーの借受けに関し,「2

/6 川商貸出マシーン返却の為」との記載があり,これらはいずれも

X4の上記証言に符合するものである。

(c) KCSらは,X4がK6900の持ち込みのためにKCS名義で借

りたレンタカーの走行距離が52kmに上っており(乙61の1),K

ITシステムズ(大阪市北区(省略 ))と KCS (当時大阪市中央区

(省略))との往復距離と符合しないとして,X4の供述は信用できな

い旨主張する。なるほど,KCSら主張のレンタカーの請求明細書兼領

収書(乙61の1)には,「メーター」欄に「20,488?20,5

40」との記載があり,走行距離が52kmであったことが認められる。

しかし,上記走行距離は,X4の証言するように,尼崎と伊丹の間辺

りに所在するという三菱物流センターに返却したとしても矛盾はなく,

X4の他の証言部分にも特段不自然不合理な点はない。



他方,P10作成の上記陳述書(乙63)中の,X4がX2の自宅に

K6900を運び込んだとの記載,及び平成15年2月22日にX2の

自宅から運び出したパソコンの中にK6900が含まれていた旨の記載

については,これを裏付ける的確な証拠はなく,直ちに採用することは

できない。

その他,X4が,K6900をX2の自宅に運び込んだことを認める

に足りる証拠はない。

(カ) 「貸出君ASP新版」の仕様書(乙23)について

a KCSらは,乙第23号証について,要旨次のとおり主張する。すなわ

ち,乙第23号証は,「貸出君ASP新版」プログラムの仕様書(現場マ

スタメンテナンス)であって,「貸出君ASP新版」の成果物の大半がK

CSの元従業員によって持ち出される中で,わずかにKCSの福岡営業所

のパソコンに残っていたものである。乙第23号証は,平成15年当時K

CS福岡営業所に勤務していたP19が平成15年1月以前に発見し,Y

1にその旨報告したものである,と。KCSらは,上記事実から,「貸出

君ASP新版」プログラム仕様書(現場マスタメンテナンス)が平成15

年1月以前に作成されており,同プログラムもそのころ完成していたと主

張するものと解される。そして,証拠(乙52,Y1本人)はこれに沿う。

b しかし,証拠(甲102,証人X6)及び弁論の全趣旨によれば,次の

事実が認められる。

(a) X3とX6は,KCSにおいてプログラム定義書を作成する作業に

従事していたが,両名とも平成15年1月中にKCSを退職し,その後

は,RBCに移籍し,RBCプログラムの仕様書等の作成に従事してい

た。

(b) P20は,かねてKCSの福岡営業所に勤務し,プログラム定義書

に基づいてプログラムを作成する作業に従事していたが,平成15年2



月中旬ごろ,Y1から,同月20日に福岡営業所を閉鎖するため同年3

月20日付で解雇する旨の通告を受けるとともに,同日までの間,同営

業所で残務整理をするよう命じられた。そして,福岡営業所は予定どお

り同年2月20日に閉鎖された。

(c) 平成15年1月にKCSを退社していたX3とX6は,同年2月末

日ごろ,閉鎖後の福岡営業所で残務整理に従事していたP20に対し,

P20が母子家庭であったことから生活費の足しにするためのアルバイ

トとして,夜間や土曜日曜の時間帯を利用して,X3やX6がRBCの

ために作成したプログラム仕様書に基づいてプログラムを作成するよう

依頼することとし,作成作業のために必要なオフコンをP20の自宅に

送った。

(d) そして,X3らは,P20に対し,現場マスタメンテナンスのプロ

グラムの作成を依頼し,そのための仕様書をMOに保存し,P20に宛

てて送付した。その後,現場マスタメンテナンスの機能を追加するため

にプログラムの修正が必要となり,X6は,そのために必要なプログラ

ム仕様書をP20に送るため,平成15年3月ころ,エクセルで作成し

た仕様書をメールに添付して,KCSの福岡営業所に設置されていたパ

ソコンに宛ててメール送信した。X6が上記仕様書をKCSの福岡営業

所に設置されていたパソコンにメール送信したのは,P20に送ったプ

ログラムの作成作業に必要なオフコンにはメールを受信する機能がなか

ったため,残務処理中のKCS福岡営業所に設置されたメール受信機能

を有するパソコンを借用したものである。KCS福岡営業所に設置され

たパソコンにメール送信されたエクセルで作成した仕様書が乙第23号

証の2枚目以降である。

なお,乙第23号証の1枚目の送信書に当たる部分もX6が作成した

ものであるが,同号証の1枚目には,送信書に本来あるはずの送信日の



表示部分がない。

c 上記のとおり,KCSらは,乙第23号証は平成15年1月以前に発見

されたと主張する。

しかし,乙第23号証は,上記認定のとおりメール送信されたものであ

り,送信書には送信日の表示があるから,送信日が平成15年1月以前で

あることを立証するためには,送信日の表示部分を含めて証拠提出すれば

足りることである。しかるに,KCSらは敢えて送信日の表示部分を提出

せず,送信日の表示部分がないもの(乙23の1枚目)を証拠提出してい

る。このような訴訟態度からは,KCSらが発見したという乙第23号証

のメールの送信文には,KCSらの主張と異なる日付が送信日として印字

されていた疑いが強く(なお,乙第23号証に押捺された公証人による確

定日付は,平成16年6月23日である。,証拠(乙52,Y1本人)中,


KCSらの上記主張に沿う部分は裏付けを欠くものというほかなく,直ち

に採用できない。

d KCSらは,乙第23号証は新規開発を指示する仕様書ではなく,開発

済みのプログラムに対する修正を指示する仕様書であるから,乙第23号

証の作成以前にその元となった新規開発を指示する仕様書が作成されプロ

グラムが開発されていたはずであると主張する。

なるほど,乙第23号証の作成以前にその元となった新規開発を指示す

る仕様書が作成されていたことは,前記b認定のとおりである。しかし,

そのことから直ちに,新規開発を指示する仕様書に基づくプログラムが,

乙第23号証の作成以前に開発済みであったということはできない。

e 以上のとおりで,KCSらの上記aの主張は採用できない。

なお,乙第23号証は,現場マスタメンテナンスの新規開発を指示する

仕様書ではなく,新規開発を指示する仕様書の修正を指示する仕様書であ

るところ,上記b認定事実及び弁論の全趣旨によれば,乙第23号証が送



付された平成15年3月時点では未だ現場マスタメンテナンスのプログラ

ムは完成していなかったこと,甲第116号証の22(プログラム履歴リ

スト)には,現場マスタメンテナンスの「新規作成」として「担当者」欄

に「P20」「着手日」欄に「20030411」との記載があるが,こ


れによれば,P20のKCS在職中にはプログラムが完成していなかった

ことから,RBCにおいて,「平成15年4月11日」を開発着手日とし

て入力したものであることが認められる。

(キ) RBCプログラムの開発期間その他KCSらがRBCの主張の矛盾点と

して指摘する点について

a 開発期間について

(a) KCSらは,要旨,次のとおり主張する。すなわち,RBCらは,

RBCプログラムの開発のためには,業界状況を熟知したシステムエン

ジニアーが120人/月の人力が必要と主張している(平成16年5月

11日付け準備書面第1の5(4))。ところが,甲第15号証によれば,

RBCソフトについては,Win版システム及びASP版システムのい

ずれも,RBCらが開発・発売を開始したと主張する平成15年3月の

時点から1年が経過した平成16年3月20日の時点に至ってもなおR

BCらが投入したシステムエンジニアーの延べ工数は,Win版で25

人/月,ASP版で47人/月にすぎない。これは,RBCらがプログ

ラム開発に必要と主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1

にしか達していない数字である。すなわち,甲第15号証は,真にRB

Cらが平成15年1月10日からシステム開発に着手したのであれば平

成16年3月20日の時点においてですらシステム完成にはおよそほど

遠い状況にしかなり得ないことを示している,と。

(b) KCSらの上記主張は, RBCらが,RBCプログラムの開発のた


めに120人/月の人力が必要であることを認めている」ことを前提と



するものであるが,RBCらが平成16年5月11日付け準備書面第1

の5(4)で主張しているのは,RBCプログラムの開発のために120

人/月の人力が必要である,という趣旨ではなく,KCSのした以下の

主張,すなわち,RBCの従業員らがKCSに在籍していた平成13年

ころから『貸出君』の新バージョンの開発に従事し始め,平成15年1

月ころにはこれを完成させた,RBCの従業員らはこのプログラム及び

ドキュメントを社外に持ち出してRBCソフトを完成させた,との主張

(平成16年3月18日付けKCSら準備書面(1))に対し,これを否

認する理由として,そもそも一企業の存続を決定するほどの規模のパッ

ケージシステムを作成するとすれば,業界状況を熟知したシステムエン

ジニアーが120人/月の人力が必要であり,KCS在籍中に誰も知ら

れずに大きなシステムを作成することなどできるはずがない,と主張し

たものというべきである。

したがって,KCSらの上記主張は,RBCらが「RBCプログラム

を開発するために必要な人力は120人/月である」との主張をしてい

ることを前提とし,これを基にRBCプログラムの開発状況に関するR

BCの主張を非難する点で誤りがある。

(c) また,KCSらは,甲第15号証の記載から,平成15年1月から

平成16年3月までにRBCプログラムの開発に要した人力について,

@Win版で25人/月,AASP版で47人/月と主張する。

しかし,弁論の全趣旨によれば,KCSらは,システムエンジニアー

の担当部分だけを取り上げ主張していることが認められるところ,プロ

グラマーの担当部分も含めると,平成15年1月から平成16年3月ま

でにRBCプログラムの開発に要した人力は,@Win版で58人/月,

AASP版で83人/月となることが認められる。

したがって,この点においても,KCSらの主張はその前提を欠くと



いうべきである。いずれにしてもKCSらの上記主張は理由がない。

(d) なお,RBCプログラムの完成時期について,最初の販売先の稼動

確認ができた時点で一応の完成と定義するとすれば,前記認定のとおり,

Win版では平成16年9月に鈴建輸送の稼動確認を取得し,ASP版

では同年1月にベストレンタルの稼動確認を取得していることから,W

in版では平成16年9月をもって一応の完成時期と見ることができ,

ASP版では同年1月をもって一応の完成時期と見ることができる。

そして,RBCらは,RBCプログラムの完成(完成時期の定義は上

記のとおり)までに必要な人力は,@Win版で103人/月,AAS

P版で89人/月であると主張するところ,これは,上記認定の,@平

成15年1月から平成16年3月までにRBCプログラムの開発に要し

た人力と,ARBCプログラムの完成時期の関係から見て,合理的に説

明できる数字であるというべきである。

b 開発スケジュールについて

(a) KCSらは,要旨,次のとおり主張する。すなわち,KCSの元従

業員は,遅くともRBC設立時である平成15年3月には,少なくとも

デモンストレーションができる状態にまでRBCソフトを完成させてい

たはずである。なぜなら,現在のように各種ソフトが氾濫し,競合ソフ

トが販売されていて購入先が競合ソフトを体感することができる状況に

おいては,最低限デモンストレーションを行うことができなければソフ

トを販売することができないからである。しかるところ,RBCは,平

成15年3月13日には日成工業所との間で契約を締結し,それ以降,

日成工業所から毎月リース料を取得している。機能しないソフトのため

に毎月リース料を支払し続ける顧客が存在するはずはないから,平成1

5年3月時点でこのような契約を締結できたのは,その時点までに,デ

モンストレーションができる状態にまでRBCソフトが完成していたか



らである。また,RBCらは,RBCソフトは請負型であるからソフト

の構築前でもソフトを販売することが可能である旨,また,KCSソフ

トも請負型である旨主張するが,両ソフトとも請負型ではなく,パッ

ケージ型である,と。

(b) しかし,証拠(甲33,150,230の1・2)及び弁論の全趣

旨によれば,コンピューターソフト開発業者によるソフトの販売方式等

について,次の事実が認められる。

T ソフトの販売方式は,大まかに次の2種類に分類することができる。

1つは,一般に「ソフト請負方式」と呼ばれるものである。これは,

コンピューターソフトの開発業者が,まず,顧客との間で顧客の要求

を分析するという作業から始め,その顧客の要求に応じたシステムの

基本設計を行い,合意に達した内容を基に具体的なプログラミング作

業を行い,検収の上納入するというものである(洋服や住宅の例でい

えば,完全なオーダーメイドの服や完全な注文住宅がこれに当た

る。。


「ソフト請負方式」の対極にあるのが,「完全パッケージ方式」と

呼ばれるものである(洋服や住宅の例でいえば,既製服や建売住宅が

これに当たる。。


U 「ソフト請負方式」の場合,顧客の要求に沿ったソフトを構築する

ため,顧客の満足度が高いという長所があるが,反面,開発までの期

間が長く,開発費用が高額になってしまうという欠点がある。一般に,

大企業は,ソフト開発に高額を投じることができるため,ソフト請負

方式による開発を依頼することが多いが,中小企業は,ソフト開発に

高額を投じることが難しいのが現状である。

これに対し,「完全パッケージ方式」のソフトは,顧客の側から見

れば,安価であるという長所がある反面,顧客の個別の具体的要求に



応じた自由度がないという欠点がある。また ,「完全パッケージ方

式」のソフトは,開発業者の側から見れば,全く同じ内容のソフトを

相当数販売するから,安価で販売しても開発コストを回収できる反面,

それだけ需要が多くなければならないし,また,販売に先行して開発

コストをコンピュータ開発業者が負担しなければならないため,資金

面で力のあるコンピュータ開発業者でなければ採用が不可能な販売方

式でもある。

V そこで,大手のコンピュータメーカーは,中小企業向けに,価格が

安く,かつ,顧客の個別の具体的要求もある程度取り入れ得るソフト

を開発・販売するため,昭和50年ころから ,「ソフトの基本パッ

ケージ化」という考え方を取り入れた。この考え方は,顧客の要求の

うち共通化できる部分は,一度開発したものを他の顧客にも用いるこ

とによりコストを下げ,比較的低価格でコンピュータソフトを販売す

ることができるというものである。この共通化した部分を「基本パッ

ケージ」と呼び,顧客に対して「基本パッケージ」を「販売」すると

いうような表現が用いられるが,「基本パッケージ」以外の,顧客の

その他の要求については個別に開発を進めるものであり,このような

実態をとらえれば,前記の分類上では,「請負型」に属するといえる

ものである。

「基本パッケージ方式」は,開発の工数が軽減されるため,「ソフ

ト請負方式」に比べて早く完成し,安価である上,顧客の要望も取り

入れることができるという長所を持っていて,「ソフト請負方式」と

「完全パッケージ方式」の長所を併せ持つ上,ソフト開発業者にとっ

ては,「販売」という表現を用いることによって,契約時に代金を回

収してから個別開発を進めるという代金回収方式を採用することにつ

いて,顧客の理解が得やすいというメリットがあり,大手コンピュー



タメーカーから何種類かの「基本パッケージ方式」のソフトが発売さ

れている。

W しかし,大手コンピュータメーカーが販売を開始した「基本パッ

ケージ」でカバーできる業務は,物販業者(商事会社)やアセンブル

業者(製造業)など,事業形態として比較的多数存在する業務に限ら

れ,その他多くの業種の事業形態には「基本パッケージ方式」は取り

込めない状態が続いた。

そこで,KCSでは,平成元年ころ,X2らが中心となり,当時全

くの手付かずであった市場規模の小さな建設機械のレンタル業者向け

のコンピュータソフトを開発するに当たり,同業界独自の基本パッ

ケージ化を着想して「貸出君」を開発し,販売し始めた。「貸出君」

の販売に当たっては,「貸出君」が「可変システム」であること,す

なわち,
「基本パッケージ方式」によるソフトであることを強調した。

なお,KCSは,そのウェブサイト(平成20年2月12日時点)

において,「現状調査分析」「基本設計」「詳細設計」が必要である
, ,

こと,また,「貸出君」が「可変システム」を用いたものであること

を明記している(甲230の1・2)。

RBCプログラムも,これに倣って開発された各顧客の個別的要求

に応じ得るカスタマイズ部分を含む商品であり,その性質上,商品の

販売時点において,既にプログラムが完成しているということはない。

RBCは,その設立当初は資金繰りも覚束ない状況であり,早急に売

上げを上げる必要があったことから,プログラムを開発すると同時に,

顧客に対しても同時進行でプログラムを販売し,完成している部分か

ら順次導入していった。したがって,RBCプログラムは,各顧客と

の契約時点,代金受領時点において全て完成していたというものでは

ない。



(c) 上記認定のとおり,RBCソフトは「基本パッケージ方式」による

ソフトであり,上記の分類に従えば,「ソフト請負型」を基本としたも

のということができる。

したがって, KCSら の上記主張,すなわち,RBCソフトがパッ

ケージ型であることを前提として,平成15年3月までにはデモンスト

レーションができる状態にまでRBCソフトが完成していたはずである

旨の主張は理由がない。

また,KCSらは,機能しないソフトのために毎月リース料を支払い

続ける顧客が存在するはずはないとも主張するが,それは,ソフト開発

業者と顧客との信頼関係の有無・程度,及びそれに基づく契約内容次第

であるというべきであって,現に,RBCにおいて,ソフトが機能する

より前の段階で顧客から代金を回収していたことは,前記認定のとおり

である(X3は,証人尋問において,未だソフトとしての基本的な動作

ができない状態のまま納品したことがあるが,これはRBCの営業担当

者と取引先の営業担当者との人的信頼関係によるものである趣旨の証言

をするが,それは上記趣旨において理解し得るところであり,それ自体

が不自然不合理とはいえない。。また,証拠(甲232)及び弁論の全


趣旨によれば,KCSにおいても,同様の方式を採用していたことが認

められる。したがって,KCSらの上記主張もまた採用できない。

c プログラム数について

(a) KCSらは,要旨,次のとおり主張する。すなわち,RBCらは,

RBCプログラムのうちビジネスサーバ版のプログラムについて,平成

16年6月14日の段階で作成されているもののみで214本存在する

と陳述し(甲13) X3は,平成17年12月15日時点でもその事


実は正しい旨の証言をしている。それにもかかわらず,甲第115号証

では一転して30数本しか存在しないと主張しており,その主張に矛盾



がある,と。

しかし,RBCらの主張によれば,甲第115号証は,RBCらが,

専門委員からプログラムの創作性類似性の判断資料としてRBCプロ

グラムの提出を求められたが,RBCらにおいて,RBCプログラムが

営業秘密に該当すると考え,専門委員の判断に必要と思われるものに絞

って提出したというのである。RBCの上記主張は,直ちに首肯し得る

ものでないことは否定できないが,逆に,同主張が虚偽であると認める

に足りる証拠はなく,同主張自体に矛盾その他不自然なところはない。

したがって,甲第115号証で挙げられているプログラム数が少ないこ

とをもって,RBCが独自に開発したプログラム数が少ないということ

はできない。

(b) KCSらは,要旨,次のとおり主張する。すなわち,甲第13号証

のプログラム一覧と甲第115号証のプログラム一覧(ASP版プログ

ラム)を見れば,甲第115号証に記載されているプログラムはごく一

部にすぎない。同様に,甲第13号証のプログラム一覧と甲第117号

証のプログラム一覧(Win版プログラム)を見れば,甲第117号証

に記載されているプログラムもごく一部にすぎない,と。

しかし,甲第117号証の1ないし3も甲第115号証の1・2と同

様に,RBCらが専門委員の創作性類似性の判断に必要と思われるも

のに絞って提出したものであるとのRBCらの主張を排斥できないとす

れば,甲第115号証の1・2及び甲第117号証の1ないし3に記載

されたプログラムが,甲第13号証に記載されたプログラムのうちの一

部であることは当然であり,これをもってRBCらの主張の矛盾点と断

定することはできない。

(c) KCSらは,要旨,次のとおり主張する。すなわち,甲第115号

証の1・2(ビジネスサーバ版プログラム一覧表)を前提とすると,た



とえば出庫入力だけで5つの作成修正履歴が記載されるはずなのに,実

際には,MA0102A(甲116の1?4)とMA01020(甲1

16の25)の2つの修正履歴しか記載されておらず,齟齬を来してい

る,と。

これに対して,RBCらによれば,メインプログラムのみを修正し,

それ以外の部分は一度作ったら修正不要であると弁解する。この弁解は

一応合理的であり,これを一概に虚偽として排斥し得るだけの証拠はな

い。そうであるとすれば,メインプログラムのみに修正履歴があること

となり,甲第115号証と甲第116号証が矛盾しているということは

できないことになるから,KCSらの上記主張は理由がない。

d 小括

以上によれば,開発期間,開発スケジュール及びプログラム数に関する

RBCらの主張には矛盾があるとして,RBCプログラムはKCSの元従

業員がKCSを退職後に新たに開発に着手したものであるとのRBCらの

主張は不合理であるとするKCSらの主張は,すべて理由がない。

(ク) 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著

作権を侵害するか)に対する結論

以上のとおり,@乙第5号証ないし乙第8号証(第23期の開発計画・開

発状況を記載した文書)によっては,平成15年1月ころまでに貸出君新版

プログラムの開発がほぼ完成していたとのKCSらの主張事実を認めるには

足りず,A遅くとも平成15年1月10日までには,KCSで開発中のソフ

トの名称が「ミスターアドバンス」と決定していたとの事実を認めるにも足

りず,BKCSらが「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュア

ルであると主張する乙第9号証は,実際に稼動し得るプログラムのオペレー

ションマニュアルではあり得ず,KCSらにおいて,KCSが従来販売して

いた「貸出君」のオペレーションマニュアルである甲第87号証とRBCソ



フトのうち「Team S」のオペレーションマニュアルである甲第96号

証とを合体させて作成した疑いがあり,CKCSらが「貸出君ASP新版」

のプログラムの仕様書であると主張する乙第23号証は,X6がKCSを退

職後に開発作業に着手したRBCプログラムの仕様書であることが認められ,

DKCSの元従業員が貸出君関連成果物等を持ち出したとの事実もこれを認

めるに足りない。また,KCSらがRBCらの主張の矛盾点として指摘する

諸点も,上記@ないしDの認定判断を覆すに足りない。

結局,KCSらの主張,すなわち,KCSの元従業員がKCS在職中の第

23期(平成13年9月1日から平成14年8月末日までの期間)に貸出君

新版プログラムの開発に着手し,かつその在職中である平成15年1月ころ

までに開発をほぼ完成させていたとの事実は認めるに足りないというべきで

ある。また,KCSらの元従業員が,貸出君新版プログラム及び貸出君プロ

グラム並びにこれらプログラムに係る表示画面,開発用書類,オペレーショ

ンマニュアル等の資料(貸出君関連成果物)を持ち出したとの事実も,また

認めるに足りないというべきである。

したがって,RBCプログラムは,貸出君新版プログラムに対するKCS

の著作権を侵害するものではなく,これをいうKCSらの主張は理由がない。

(3) 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵

害するか)について

ア はじめに

KCSらは,RBCプログラムと貸出君プログラムの@ソースコード,A開

発用書類,Bオペレーションマニュアルを比較し,RBCプログラムは貸出君

プログラムに依拠し,これを複製又は翻案したものであると主張する。

ところで,これまでにも度々引用してきたように,KCSらは,平成16年

3月18日付けのKCSらの準備書面(1)において,KCSの元従業員が貸出

君新版プログラムやそのドキュメントを持ち出してRBCソフトを完成させた



旨を主張し,RBCらが,この主張を引用しつつ,RBCプログラムはRBC

らが独自に開発したものであって,KCSが著作権を有する貸出君プログラム

に依拠し,これを複製ないし翻案したものではないから,同著作権を侵害する

ものではないと主張したのに対し, RBC販売ソフトはKCS内で開発され


ていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり,KCSが従前

から販売していた『貸出君』のプログラムに変更や修正を加えたものではない

から,KCSの商品である貸出君とRBC販売ソフトのプログラムを比べても

意味がない。RBCは,このことを知悉しつつ,敢えてこの両者を比較し,そ

のプログラムが異なるという当然の結果を得ることによって,あたかも自己に

権利侵害の事実がないと周囲に誤解させようと企むものであり,その行為は極

めて巧妙かつ悪質である」(同準備書面4頁)と主張し,RBCプログラムは

貸出君プログラムに依拠して,これに修正・変更を加えたものではなく,KC

Sの元従業員が開発していたという,貸出君プログラムとはプログラムの異な

る貸出君新版プログラムに依拠して,これを複製又は翻案したものであって,

RBCプログラムと貸出君プログラムは異なるものであることを自認していた

ものである。KCSらの上記準備書面(1)における主張と争点2におけるKC

Sらの主張がどのような関係に立つのか必ずしも明らかではないが,その点は

しばらく措き,KCSらの主張する上記@ないしBの点について順次検討する

こととする。

イ ソースコードについて

(ア) KCSらは,RBCプログラムのソースコードと貸出君プログラムの

ソースコードを比較すれば,デッドコピーされている部分が存在することが

一目瞭然であり,特に,Win版については,調査した箇所において8割以

上が同一であったと指摘している。

(イ) しかし,証拠(甲123,125,128,139,140,142?

145,146の1?10,乙76)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実



が認められる。

a 同一部分の割合

RBCプログラムが貸出君プログラムと同一であるとKCSらが指摘す

る部分の割合(RBCプログラムの全行数に対する,RBCプログラム内

において貸出君プログラムと同一であるとKCSらが指摘する部分が存在

する行の数の割合)は,次のとおりである。

(a) 乙第84号証(Win版の対比)

乙第84号証(乙76[貸出君Win版の得意先マスタ登録のソース

コード]の37頁から74頁について,甲123[RBCプログラムW

in版の得意先マスタメンテナンスのソースコード]の同一箇所を調査

したとしてKCSらが提出した資料)に関して,同一であるとKCSら

が指摘する部分は,約30%である。

(b) 乙第86号証(Win版の対比)

乙第86号証(乙78[貸出君Win版の請求データ作成のソース

コード]の10頁から22頁について,甲125[RBCプログラムW

in版の請求金額計算処理のソースコード]の同一箇所を調査したとし

てKCSらが提出した資料)に関して,同一であるとKCSらが指摘す

る部分は,約10%である。

(c) 乙第87号証(ビジネスサーバ版の対比)

乙第87号証(乙81の2[貸出君ビジネスサーバ版の受注入力]の

102頁について,甲128[RBCプログラムビジネスサーバ版の随

時入力のソースコード]の同一箇所を調査したとしてKCSらが提出し

た資料)に関して,同一であるとKCSらが指摘する部分は,約0.2

3%である。

(d) 乙第88号証(ビジネスサーバ版の対比)

乙第88号証(乙82の1[貸出君ビジネスサーバ版の出庫入力]の



119頁から120頁について,甲129[RBCプログラムビジネス

サーバ版の出庫入力のソースコード]の同一箇所を調査したとしてKC

Sらが提出した資料)に関して,同一であるとKCSらが指摘する部分

は,約0.18%である。

b 同一部分の記載事項

RBCプログラムと貸出君プログラムが同一であるとKCSらが指摘す

る部分の記載事項は,具体的には次のとおりである。

(a) 乙第84号証(Win版の対比)

KCSらが同一であると指摘する部分を含む行の数は649行あるが,

このうち629行は,VBでプログラムを組むために使用しなければな

らない命令,関数又は文法のいずれかであって,創作性が認められない。

KCSらは,貸出君Win版で使用している共通関数(乙85)と類

似すると指摘するが,共通関数は,事後に誰がその表現を見ても何を意

味しているのかを容易に連想できる表現を採用するのが通常であり,似

通った表現が用いられることはままあるものというべきである。

次に,命令,関数又は文法以外の行は20行(1行重複)あるが,い

ずれも画面の各項目名称を表現するものである。このような項目名称に

は,そのプログラムが対象とする業界ないし業種の種類によって決定さ

れている固定項目名(業界の共通の呼称)が使用されるため,同一業界

ないし同一業種で用いられるビジネスソフトでは,項目名称自体が近似

する。また,プログラムを開発した企業では,項目名称のプログラム表

現にもよく似た略語を用いるのが一般であり,かつ,開発企業内では統

一した表現が用いられるのが通常である。

(b) 乙第86号証(Win版の対比)

KCSらが同一であると指摘する部分はすべて,VB上の命令,関数

である。



(c) 乙第87号証(ビジネスサーバ版の対比)

KCSらが同一であると指摘する部分は,単なるCOBOL言語の命

令にすぎず,創作性が認められない。

(d) 乙第88号証(ビジネスサーバ版の対比)

KCSらが同一であると指摘する部分は,単なるCOBOL言語の命

令にすぎず,創作性が認められない。

(ウ) 以上のとおり,Win版について,KCSらが同一であると指摘する部

分の割合はRBCプログラム全体の30%ないし10%であるところ,その

大半が創作性のない命令,関数又は文法であり,それ以外の部分は,項目名

称であって,同一業界ないし同一業種で用いられるビジネスソフトでは,項

目名称自体が近似する上,プログラムを開発した企業では,項目名称のプロ

グラム表現にもよく似た略語を統一的に用いるのが一般であることに照らせ

ば,乙第84号証及び乙第86号証における対比対象プログラムにおいて,

RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものとは到底認

められず,他にRBCプログラムが貸出君プログラムに依拠したものである

ことを認めるに足りる証拠はない。

また,ビジネスサーバ版については,そもそもKCSらが同一であると指

摘する部分の割合がRBCプログラム全体の1%にも満たず,同一であると

指摘する部分の記載内容もCOBOL言語における命令にすぎず創作性が認

められないものであるから,乙第87号証及び乙第88号証における対比対

象プログラムにおいて,RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作

成されたものとは到底認められず,他にRBCプログラムが貸出君プログラ

ムに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はない。

ウ RBCプログラムの開発経緯及びその内容について

前記のとおり,KCSらの指摘する貸出君新版プログラムなるプログラムは

存在せず,RBCプログラムがこれに依拠したものとは認められないところ,



証拠(甲220)及び弁論の全趣旨によれば,RBCプログラムの開発経緯及

びその内容に関し,以下の事実が認められる。

(ア) X3は,KCSを退職後,KCSにおいて長年「貸出君」のプログラム

開発,バージョンアップ等に携わってきた経験を生かし,建設機械等のリー

ス・レンタル業界向けのソフトを開発し販売することを決意した。

すなわち,「貸出君」プログラムには,ASP版とWin版の双方とも,

その原因はそれぞれ異なるものの,@処理スピードが遅い,A操作性が悪い,

Bネットワークに弱いという欠陥があり,平成14年ころ,KCSの開発部

門の従業員は,日常業務の大半がそのトラブル解決に費やされているような

状態であった。これらのトラブルを抜本的に解決するためには,従来のプロ

グラムのバージョンアップ等,既存のプログラムを修正することによっては

不可能であり,全く新しいプログラムを開発する必要があったが,既存のプ

ログラムのファイル構造を作り替え,全く新たなプログラムを開発すること

になれば,従前KCSにおいて開発して蓄積してきた多くのプログラム資産

が全て使用できなくなる上,開発部門においては,トラブル処理に追われて

プログラム開発の十分な時間がとれない状況にあり,KCSにおいて,その

ような全く新しいプログラムを一から作ることは不可能な状況であった。

そこで,X3は,RBCに移籍するに際し,KCSにおいて「貸出君」プ

ログラムのメンテナンス等をする中で最も痛感していた欠点を克服する全く

新たなシステム,すなわち,@処理スピードの向上,A操作性の向上,Bネ

ットワークの強化を基本的な考え方とする全く新たなシステムを開発するこ

とを決意した。

(イ) ビジネスサーバ版について

a RBCプログラムのビジネスサーバ版は,@処理スピードの向上,A操

作性の向上,Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化

したものである。その詳細は,次のとおりである。



b 各論

(a) 処理スピードの向上

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

@ 貸出君プログラムでは,ファイルを構成している項目を増加する

ことができないために,別ファイルを追加しなければならないとい

う欠点があり,ファイル構造が肥大化して処理スピードが遅くなっ

ていた(甲220別紙1・第1)。

A 貸出君プログラムでは,各ファイルにおける各レコードレングス

が長く設計されているために,処理スピードが極めて低下していた

レコード」とは,データベースにおいて,1件分のデータを表


す単位であり,各項目で定義されたデータを集めたものをいい,

レコードレングス」とは,レコードの長さを意味し,各項目のサ

イズの合計を指す。甲220別紙2)。これは,各レコードレング

スが長いとファイルの中のデータが増える結果処理スピードが遅く

なるからである。

U RBCプログラムにおける「処理スピードの向上」の具体化

@ 上記Tの@の欠点に対し,RBCプログラムにおいては,たと

えば,初期設計段階において,商品マスタ(商品名などの固定

報)と商品ランク単価マスタ(単価項目毎のランク情報)とを分け

て設計するということを随所で行い,ファイル上不要な項目が出

ない設計とし,処理スピードの向上を実現している。

この結果,ファイルが短くかつ不要な項目もないため,

処理スピードが向上し,ファイルを追加することもなく,

同一ファイルの項目の使い回しもなくなったために,バ

グの大幅な減少が実現されている。

A 上記TのAの欠点に対しては,各々のファイルのレコードレン



グスを短く設計したことによっても,処理スピードの向上を実現

している(甲220別紙3)
。これは,各レコードレングスを短く

設計すれば,各ファイルの中のデータが減少し処理スピードが向

上するからである。

(b) 操作性の向上

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

貸出君プログラムには,次のような欠点があった(甲220別紙

1・第2)。

@ 画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず使用上

不便であり,更に,1行毎に入力を行った後に明細表示部へ移行

させるという手間がかかり画面構造上不便である。

A 入力する際に,入力に必要の無い画面項目にカーソルが移動し,

キーボード入力のタッチ回数が多く操作性が悪い。

B オフコン端末使用になっており,オフコン用キーボード配列の

キー操作が必要で操作性が悪い。

U RBCプログラムにおける「操作性の向上」の具体化

RBCプログラムでは,貸出君プログラムの上記各欠点の解決が

図られている。

@ 画面上に伝票形式の明細行数が10行表示されており,しかも,

各行へ直接入力する方式を採用した。

A 不要な動作なしに,任意に入力したい欄に入力することを可能

とした。

B パソコン用キーボード仕様とした。

(c) ネットワークの強化

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

貸出君プログラムでは,ファイルのレコードレングスが長く,か



つファイルが重複していたので重く,本店・営業所間等のネット

ワークに弱かった。

U RBCプログラムにおける「ネットワークの強化」の具体化

RBCプログラムでは,@ファイルのレコードレングスを短くし,

しかも,Aファイルを分けて作成してファイル構造を分割するとい

う方式をとって,ネットワーク上のデータ量を軽くする設計を行う

ことにより,ネットワーク上のスピードの向上を実現した。

(d) プログラムの組み方

加えて,プログラムの組み方においても,RBCプログラムは,

「構造化プログラム」といわれる方法でプログラムが組まれているの

に対し,貸出君プログラムは,「非構造化プログラム」といわれる方

法でプログラムが組まれている点で相違している(甲220別紙5)。

(e) まとめ

以上のとおり,RBCプログラムのビジネスサーバ版は,貸出君

プログラムのASP版に存在した欠点を克服するため,@処理ス

ピードの向上,A操作性の向上,及びBネットワークの強化という

基本的な考え方を具体化したプログラムである。

画面設計においても,RBCプログラムの「得意先マスタメンテ

ナンス」の画面(甲134の1?3)と,貸出君プログラムの「得意

先マスタ登録・修正・削除」の画面(甲134の4)を比較し,また,

RBCプログラムの「出庫入力画面」(甲135の1,上段)と,貸

出君プログラムの「出庫入力画面」(甲135の1,下段)を比較す

れば,両者の画面設計は全く異なっている。

また,プログラムの組み方に関しても,貸出君プログラムが「非

構造化プログラム」という方法でプログラムが組まれているのに対

し,RBCプログラムは「構造化プログラム」という方法でプログ



ラムが組まれている。

このように,RBCプログラムのビジネスサーバ版は,上記の3

つの基本的な考え方を具体化した結果,貸出君プログラムのASP

版とは異なる新たなプログラムとなっているものといえる。

(ウ) Win版について

a RBCプログラムのWin版は,ビジネスサーバ版と同様,@処理ス

ピードの向上,A操作性の向上,Bネットワークの強化という3つの基本

的な考え方を具体化したものである。

また,貸出君プログラムのWin版は,貸出君プログラムのASP版を

もとに作られたプログラムであるため,前記のような,構造上の欠点や操

作上の問題を抱えていた。

b 各論

(a) 処理スピードの向上

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

貸出君プログラムには,入力データを同じファイル内で保存してい

くというファイル構造に,大きな欠点があった。

すなわち,貸出君プログラムの場合は,入力データファイルが,1

月度・2月度・3月度と入力すればするほどデータが溜まっていくと

ころ,通常,この入力データファイルに保存されたデータを呼び出し

てきて請求書を発行する仕様となっているため,処理スピードが遅く

なる(甲220別紙8)。

U RBCプログラムにおける「処理スピードの向上」の具体化

RBCプログラムでは,入力データファイルは1か月間分だけにし

て,過去のデータは必要に応じて取り出しできるように別ファイル

(累積データファイル)として切り分けるという全く新たな構造とし,

処理スピードの向上を実現した。



すなわち,このように別ファイルとすれば,入力データとして呼び

出されるのは,常に1か月分だけであるため,請求書発行等の処理ス

ピードは格段に速くなる。

(b) 操作性の向上

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

@ 貸出君プログラムのWin版は,貸出君プログラムのASP版を

もとにしたプログラムであるので,貸出君プログラムのASP版に

おける欠点を併せ有している。すなわち,画面構造上1伝票の入力

明細行数が6行しか表示されず,使用上不便であり,更に1行毎に

入力を行った後に,明細表示部へ移行させるという手間がかかる画

面構造上の不便さという欠点が同様に存在していた。

A 貸出君プログラムにおいては,リース単価変更時の仕様に欠陥が

あり操作性が悪いこと,期間貸し(シーズン貸し)の時リース期間の

自動延長ができず操作性が悪いことという欠陥も存在していた(甲

220別紙8A)。

U RBCプログラムにおける「操作性の向上」の具体化

@ RBCプログラムのビジネスサーバ版と同様,画面上に伝票形式

の明細行数が10行表示されており,しかも,各行へ直接入力する

方式を採用し,操作性の向上を実現した。

A 上記TAのような,貸出君プログラムにおける操作性が悪いとい

う欠点は,RBCプログラムには存在しない。

(c) ネットワークの強化

T 貸出君プログラムの有していた欠点について

貸出君プログラムでは,営業所コードが存在しないことにより,支

店・営業所単位での処理ができず,営業所間のネットワークに対する

対応が弱いという欠点があった。



U RBCプログラムにおける「ネットワークの強化」の具体化

RBCプログラムでは,取引先マスタ(得意先マスタ)上に,営業

所コード(5桁)を採用し,営業所を複数管理している顧客が営業所

単位で業務処理を行うことが可能であり,ネットワークが強化されて

いる。

(d) まとめ

以上のとおり,RBCプログラムのWin版は,貸出君プログラム

のWin版に存在した欠点を克服するため,@処理スピードの向上,

A操作性の向上,及び,Bネットワークの強化という基本的な考え方

を具体化したプログラムである。

画面設計においても,RBCプログラムの「得意先マスタメンテナ

ンス」の画面(甲135の2,上段)と,貸出君プログラムの「得意先

マスタ登録」の画面(甲135の2,下段)を比較し,また,RBCプ

ログラムの「入出庫入力画面」(甲135の3,上段)と,貸出君プロ

グラムの「出庫入力画面」(甲135の3,下段)を比較すれば,両者

の画面設計は異なっている。そして,その結果,RBCプログラムと

貸出君プログラムには多数の相違点が存在している(甲220別紙9)。

以上のとおり,RBCプログラムのWin版は,上記の3つの基本

的な考え方を具体化した結果,貸出君プログラムのWin版とは異な

る新たなプログラムとなっているものというべきである。

エ 開発用書類及びオペレーションマニュアルについて

KCSらは,RBCプログラムと貸出君プログラムの開発用書類が,その内

容に加え,行数やセルの幅まで完全に一致していること,オペレーションマ

ニュアルについても,その内容に加え,アスタリスク(*)の数や具体的な一

字一句の表現まで一致している部分があることからして,データの上書きがな

されていることが明らかであるとして,RBCプログラムが貸出君プログラム



に依拠して作成されたものである旨主張する。

しかし,RBCプログラムが貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって

作成されたものであることは,上記説示のとおりであって,両プログラムの開

発用書類及びオペレーションマニュアルにおける記載に上記の程度の共通点が

あるからといって,RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して,これを

複製又は翻案されたものということはできない。

オ 争点2に対する結論

上記のとおり,ビジネスサーバ版,Win版ともに,RBCプログラムは,

貸出君プログラムとは異なる新しいプログラムであり,両者に同一性は認めら

れない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,RBCプログ

ラムは,貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するものではなく,

これをいうKCSらの主張は理由がない。

(4) 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示

画面に対するKCSの著作権を侵害するか)

前記(2)イで判示したとおり,「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムがK

CS社内で開発されたことはなく,そのようなプログラムはそもそも存在しない

から,その表示画面なるものもまた存在しないことになる。

よって,その余の点について判断するまでもなく,RBCプログラムが「貸出

君 for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するものではな

く,これをいうKCSらの主張は理由がない。

(5) 争点4(RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲2

0)は「貸出君ASP新版」の開発用書類(乙23)及び貸出君プログラムビジ

ネスサーバ版の開発用書類(乙49,58)に対するKCSの著作権を侵害する



ア KCSらは,次のとおり主張する。すなわち,@RBCプログラム(ビジネ

スサーバ版)は,「貸出君ASP新版」プログラムの開発用書類(乙23)に



対するKCSの著作権(翻案権)を侵害する。ARBCプログラム(ビジネス

サーバ版)は,貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49,58)

に対する KCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著作者の権

利)を侵害する。BRBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲

20)は「貸出君ASP新版」プログラムの開発用書類(乙23)に対するK

CSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。CRBCプログラム(ビジネ

スサーバ版)の開発用書類(甲20)は貸出君プログラム(ASP版)の開発

用書類(乙49,58)に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害

する,と。

イ しかし,上記@及びBの主張については,前記(2)イで判示したとおり,K

CSにおいて貸出君新版プログラムなるものは開発されておらず存在しないも

のであるから,理由がないことが明らかである。

ウ また,上記A及びCの主張については,前記(3)で認定説示したとおり,R

BCプログラムは貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって作成されたも

のであるから,貸出君プログラムの開発用書類に依拠して作成したものとは認

められず,かえって,これとは別のRBCプログラム独自の開発用書類に基づ

いて作成されたものであると認められる。

したがって,RBCプログラム及びその開発用書類(甲20)が貸出君プロ

グラムの開発用書類(乙49,58)に依拠して作成されたものでないことは

明らかである。

エ よって,その余の点について判断するまでもなく,RBCプログラム(ビジ

ネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発

用書類(乙23)及び貸出君プログラムビジネスサーバ版の開発用書類(乙4

9,58)に対するKCSの著作権を侵害するものではなく,これをいうKC

Sらの上記主張はいずれも理由がない。

(6) 争点5(RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲9



6)は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)及び貸

出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するK

CSの著作権を侵害するか)について

ア KCSらは,@RBCプログラムのオペレーションマニュアル(甲96)は

「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)を複製ない

翻案したものである,ARBCプログラムのオペレーションマニュアル(甲

96)は貸出君プログラムWin版のオペレーションマニュアル(甲87)を

複製ないし翻案したものであると主張する。

イ しかし,上記@の主張については,前記(2)イで判示したとおり,
「貸出君 f

or win 廉価版」なるプログラムはKCS社内で開発されたとは認められず,

そもそも存在しないものであるから,そのオペレーションマニュアルも存在し

ないものというほかない(そもそもプログラム自体が存在しないオペレーショ

ンマニュアルなど観念することもできない。。乙第9号証が「貸出君 for win


廉価版」のオペレーションマニュアルとはいえないことも,前記(2)イ(エ)で

認定説示したとおりである。したがって,RBCプログラムのオペレーション

マニュアル(甲96)が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュ

アル(乙9)に依拠してこれを複製又は翻案して作成したものであると認めら

れないことは明らかであって,これをいうKCSらの上記主張には理由がない。

ウ また,上記Aの主張については,前記(3)で判示したとおり,RBCプログ

ラムは貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって作成されたものと認めら

れる。オペレーションマニュアルは,プログラムの操作方法について記載した

ものであるから,異なる設計仕様に基づいて作成されたプログラムのオペレー

ションマニュアルは,その性質上,他方のオペレーションマニュアルに依拠し

て作成され得るものではない。したがって,RBCプログラム(Win版)の

オペレーションマニュアル(甲96)が貸出君プログラムWin版のオペレー

ションマニュアル(甲87)に依拠して作成されたものとは認められず,かえ



ってこれとは別のRBCプログラム独自の開発用書類に基づいて作成されたも

のであると認められる。したがって,KCSらの上記主張もまた理由がない。

(7) 争点6(本件開発方針について,RBCらは不正競争防止法2条1項7号

8号所定の不正競争をしたか)について

ア KCSらは,「23期上期 開発部方針」
(乙6)の「2.商品化計画」の@

項に記載された「貸出君 for win 廉価版」の開発方針(本件開発方針)が不

正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に当たると主張し,「営業秘密」で

あることが認められるための要件の1つである秘密管理性について,要旨次の

とおり主張する。すなわち,乙第6号証は,平成13年9月に行った決算会議

のために作成された書類であり,新製品の開発方針など極めて重要な会社方針

が記載されているため,社外秘扱いとされ,「秘」の印が押捺されているほか,

KCSは,内田洋行との間で秘密保持契約を締結している(乙29)。乙第6

号証については,決算会議の参加者と同数しか作成されず,参加者に対しては,

社外秘の機密書類であることを説明した上で,コピー禁止と説明してあり,

「秘」の押印もなされているため,参加者は乙第6号証に記載された情報が営

業秘密であることは当然認識していたはずである,と。

イ しかし,証拠(乙6,証人X4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認

められる。

(ア) 乙第6号証には,冒頭に「秘」の印が押捺されており,「貸出君 for wi

n 廉価版」の開発方針(本件開発方針)として,次のとおり記載されている。

「For・Win廉価版

現行のWin版の機能を承継するが出庫・入庫入力を一体化し,出

入庫した伝票及び出庫のみ入庫のみの伝票入力が1画面で対応出来る

ように変更。また,システム範囲としては,売掛管理までとし,カス

タマイズ一切なし単品管理なしかつ,伝票及び請求書はKCS指定で

運用を行う。伝票及び請求書のパターンとしては,建機バージョン・



仮設バージョンと分けてプリンタはドットプリンタ,レーザープリン

タ対応の計4パターンを用意する。」

(イ) 上記決算会議は,毎回,内田洋行の会議室を借りて行われており,大阪

本社の従業員は全員これに出席することとされていた。

(ウ) 乙第6号証は,X4が第23期上期の開始に当たり,同会議で発表する

ために作成したもので,出席者全員に配布された。X4は,同会議の席上に

おいて,乙第6号証に基づいて説明を行い,また,X2は,内田洋行に対し

その内容を説明していた。乙第6号証には,上記のとおり冒頭に「秘」の印

が押捺されていたが,これとともに配布された乙第5号証には「秘」の印が

押捺されておらず,第23期下期に配布された同趣旨の資料(乙第7,第8

号証)にも「秘」の印が押捺されていなかった。また,各用紙にナンバリン

グを付したり,配付枚数を記録するなどの部数管理までは行われておらず,

散会後は内田洋行のビルにある社員食堂でパーティを行った後,各自持ち帰

ることを許していた。

(エ) 上記決算会議に出席した従業員は,本件開発方針を含め乙第6号証に記

載された内容を踏まえて営業活動を展開しており,KCSが今後開発し発売

する予定のソフトについても顧客や見込み客に積極的に説明していた。

ウ 上記イ認定の事実によれば,乙第6号証にはその冒頭に「秘」の印が押捺さ

れているものの,同時に配布された乙第5号証や,第23期下期の開始にあた

り開催された決算会議で配布された資料(乙7,8)には「秘」の印が押捺さ

れていなかったのであり,KCSの上記資料に関する秘密管理体制は一貫した

ものではなかったことがうかがえる上,会議終了後はパーティの後各自持ち帰

っていて,その際にKCSにおいて機密資料として取扱いに注意するよう求め

るなどの措置を執っていた形跡はない。また,本件開発方針を含め乙第6号証

に記載された内容を踏まえて出席従業員による営業活動が展開されていて,K

CSが今後開発し発売する予定のソフトについても顧客や見込み客に積極的に



説明していたというのであるから,KCSの従業員をして,乙第6号証その他

の開発方針に関する資料の記載内容がKCSの営業秘密であることを認識させ

るような措置が執られていたとは認められない。

エ 以上によれば,本件開発方針は秘密管理性を欠き,不正競争防止法2条6項

所定の「営業秘密」には当たらない。したがって,本件開発方針に係る不正競

争防止法に基づくKCSらの請求(差止め・廃棄,損害賠償)はいずれも理由

がない。

(8) 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について,RBCらは不

正競争防止法2条1項7号,8号所定の不正競争をしたか)について

ア KCSらは,貸出君プログラムの仕様書(乙23,49,58)に記載され

たプログラム作成に関する情報(本件プログラム作成情報)は不正競争防止法

2条6項所定の「営業秘密」に当たるところ,X1ら8名がこれを持ち出して

RBCに開示し,RBCはこれを利用してRBCプログラムを作成しRBCソ

フトを販売したと主張する。

イ しかし,まず,乙第23号証は,前記(2)イ(カ)で判示したとおり,KCS

の元従業員がKCSを退職後にRBCのために作成したものと認められ,そも

そもKCSの保有に係る情報ではないから,KCSが秘密として管理している

営業秘密に当たらない。

ウ 次に,乙第49号証及び第58号証は,貸出君プログラムの開発用書類であ

るが,前記(2)イ(オ)で判示したとおり,KCSの元従業員が貸出君プログラ

ムの開発用書類を持ち出した事実は認められない。

エ したがって,本件プログラム作成情報に係る不正競争防止法3条4条に基

づくKCSらの請求(差止め・廃棄,損害賠償)はいずれも理由がない。

(9) 争点7(貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不

法行為の成否)について

ア KCSらは,RBCらはKCSが長年かけて開発・改良してきた貸出君関連



成果物を持ち出し,適宜修正を加えることで,極めて短時間にRBCソフトを

完成させ,これをKCSの顧客に販売して不当な利益を上げており,このよう

なRBCらの行為はKCSに対する不法行為を構成する旨主張する。

イ しかし,RBCらにおいて貸出君関連成果物を持ち出したと認められないこ

と,また,RBCらにおいて貸出君プログラムに依拠してRBCプログラムを

作成したことがないことは,既に認定説示したとおりである。RBCらにおい

ては,前記(3)ウ認定のとおり,独自にプログラムを開発しRBCソフトを作成

したものであって,RBCらにおいて,KCSに対する不法行為を構成すると

目すべき行為を行ったとは認められない。

ウ よって,KCSのRBCらに対する不法行為に基づく請求はいずれも理由が

ない。

3 第1事件に対する判断

(1) 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争

に該当するか)について

ア 記載(1)( 弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」
「 )の虚偽性

(ア) 本件文書1(別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書)は,KCS

が平成15年3月29日にRBCとの競合取引先約350社に対して送付し

たものであるところ,本件文書1の記載(1)は,その後に続く「…この度,

弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し弊社御客様に案内しているよ

うですが,弊社とは一切無関係です。…日頃からご愛顧頂いています建機・

仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフト『貸出君』は,弊社にて開

発,販売を行っており弊社が著作権を所有し,商標登録しております。弊社

権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があ

りますので御注意お願いします。…」という文脈の中で記載されているから,

本件文書1を受け取った者(RBCとKCSの競合取引先)は,上記部分が

「KCSが懲戒解雇をした社員がRBCを設立し,RBCはKCSの著作権



及び商標権を侵害している」ことを意味していると認識するものと認められ

る。

(イ) KCSらは,RBCはKCSが平成15年3月31日付けで懲戒解雇し

たX5,X1及びX43名らが首謀者となって設立したものであるから,本

件文書1の記載(1)は虚偽ではないと主張する。

しかし,KCSが本件文書1を送付したのは平成15年3月29日であり,

その時点では,KCSは未だ上記懲戒解雇の意思表示をしていなかったので

あるから,本件文書1の記載(1)は同時点において虚偽であることは明らか

である。

また,証拠(甲101)及び弁論の全趣旨によれば,X5,X1及びX4

は,いずれも平成15年3月5日にKCSに退職届を提出したことが認めら

れるから,それから2週間を経過した同月20日は既に任意退職の効果が発

生している(民法627条1項)以上,その後にした懲戒解雇の意思表示は

無効である。

したがって,いずれにしても本件文書1の記載(1)は虚偽であり,また,

その内容自体,KCSを懲戒解雇されるほどの非行を行ったKCS元従業員

によりRBCが設立されたものである旨のRBCの社会的信用を失墜させる

ような内容を含み,かつ,同記載がなされている文脈に照らせば,同記載は

RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。

(ウ) よって,上記記載(1)を含む本件文書1を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(1)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

なお,RBCは,KCSの上記行為は民法709条の不法行為をも構成す

るかのような主張をするが,その主張内容は,結局,KCSの上記行為がR

BCの信用を毀損するものであるとの主張に尽きるものであり,不正競争防



止法2条1項14号の不正競争に該当するとの主張に含まれるものと認めら

れるので,KCSの上記行為が不正競争防止法2条1項14号の不正競争に

該当するか否かの判断とは別に,それがRBCに対する信用毀損行為である

として,民法709条の不法行為に該当するか否かについて(争点7)は判

断しない。この点は,下記イ,(2)ないし(7)においても同様である。

イ 記載(2)( 弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求さ


れる可能性があります」)の虚偽性

(ア) 本件文書1の記載(2)は,「…日頃からご愛顧頂いています建機・仮設資

材レンタル業向けアプリケーションソフト『貸出君』は,弊社にて開発,販

売を行っており弊社が著作権を所有し,商標登録しております。弊社権利を

侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があります

ので御注意お願いします。…」という文脈の中で記載されているから,本件

文書1を受け取った者(RBCとKCSの競合取引先)は,上記部分が「R

BCは,『貸出君』についてKCSが有する著作権及び商標権を侵害してい

るので,RBCと取引をすると差止請求権を行使される可能性がある」こと

を意味していると認識するものと認められる。

(イ) しかし,RBCプログラムが,貸出君プログラム等についてKCSが有

する著作権を侵害するものでないことは,既に認定説示したとおりである。

したがって,本件文書1の記載(2)中, RBCが,
「 『貸出君』についてK

CSが有する著作権を侵害している」旨の部分は,RBCの営業上の信用を

害する虚偽の事実に当たるものと認められる。

(ウ) また,KCSが「ミスターアドヴァンス/MISTER ADVANC

E」の文字から成る商標(本件登録商標)について商標出願をしたのは平成

15年4月23日であり,その商標登録がされたのは同年11月21日であ

る。これに対し,KCSが本件文書1を送付したのは同年3月29日であり,

その時点では,KCSは未だ本件登録商標について商標権を有していなかっ



たのであるから,本件文書1の記載(2)は同時点において虚偽であることは

明らかである。

なお,KCSは「貸出君」の標準文字から成る商標の商標権者であるが,

RBCが同商標の指定商品に同商標と同一又は類似の標章を使用したなど,

同商標権を侵害した事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件文書1の記載(2)中, RBCが,KCSが有する商標権


を侵害している」旨の部分は,RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実に

当たるものと認められる。

(エ) さらに,本件文書1の記載(2)中, RBCと取引をすると差止請求権を


行使される可能性がある」旨の部分については,そもそもRBCが仮にKC

Sの有する著作権又は商標権を侵害していたとしても,差止請求権を行使さ

れる可能性のある製品があるのはRBCであって,その取引先である本件文

書1の受取人ではないから,上記部分もまた,取引先とRBCとの取引を不

当に委縮させるものとして,RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実に当

たるものと認められる。

(オ) 以上によれば,上記記載(2)を含む本件文書1を送付したKCSの行為

は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記

記載(2)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくと

も過失に基づくものであることが優に認められる。

(2) 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争

に該当するか)について

ア 記載(1)( ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Pe


rsonal》遂にデビュー!!」)の虚偽性

(ア) 本件文書2(別紙5記載のパンフレット)は,KCSが平成15年10

月にRBCとの競合取引先多数に対して送付したパンフレットであるところ,

本件文書2を受け取った者は,本件文書2の記載(1)が「KCSにおいて従



前『ミスターアドヴァンス』を販売していたが,これが既に古いものとなっ

てしまったので,これをバージョンアップし,『貸出君Personal』

として販売することになった」ことを意味していると認識するものと認めら

れる。

(イ) しかし,KCSが平成15年10月以前に「ミスターアドヴァンス」を

販売した事実を認めるに足りる証拠はなく,また,「貸出君Persona

l」が「ミスターアドヴァンス」をバージョンアップしたものであることを

認めるに足りる証拠もない。

したがって,いずれにしても本件文書2の記載(1)は虚偽であり,また,

本件文書2の送付当時RBCは「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販

売していたから(当事者間に争いがない。,これが既に古いものになってし


まったことをも意味する上記記載は,RBCの営業上の信用を害するもので

あると認められる。

(ウ) よって,上記記載(1)を含む本件文書2を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(1)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

イ 記載(2)( 貸出君・ミスターアドヴァンスは,潟Pイシィエスの登録商標ま


たは商標です。)の虚偽性


(ア) 本件文書2を受け取った者は,本件文書2の記載(2)が,同記載(1)

( ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Perso


nal》遂にデビュー!!」)と相まって,『貸出君』及び『ミスターアド


ヴァンス』のいずれもKCSの登録商標又は商標である」ことを意味してい

ると認識するものと認められる。

KCSらは,本件文書2の記載(2)においては,「貸出君」「ミスターアド

ヴァンス」の順に対応する形で,それらがKCSの「登録商標」「商標」で



あるというように,言葉が使い分けられているから,同記載(2)は,KCS

は「貸出君」の商標を登録済みであり,「ミスターアドヴァンス」について

登録に至っていないことを意味する旨主張する。しかし,上記記載(2)か

ら直ちにKCSら主張の対応関係を直ちに読み取ることはできない。したが

って,KCSらの上記主張は採用できない。

(イ) そうすると,本件文書2の記載(2)は,『ミスターアドヴァンス』はK


CSの登録商標である」ことをも意味することになる。

しかし,「ミスターアドヴァンス/MISTER ADVANCE」の文

字から成る商標(本件登録商標)について商標登録がされたのは平成15年

11月21日であるのに対し,KCSが本件文書2を送付したのは同年10

月ころであり,その時点では,KCSは未だ本件登録商標について商標権を

有していなかった。また,KCSが平成15年10月以前に「ミスターアド

ヴァンス」をKCSの商標として使用した事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件文書2の記載(2)は虚偽であり,また,本件文書2の送

付当時RBCは「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していたから

(当事者間に争いがない。,これがKCSの登録商標であることをも意味す


る上記記載は,RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。

(ウ) よって,上記記載(2)を含む本件文書2を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(2)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

(3) 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争

に該当するか)について

ア 記載(1)( ( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』は,全国で500社近く

のユーザ様でお使い頂いている」
)の虚偽性

(ア) 本件文書3(別紙6記載の「商標権侵害会社のお知らせ」と題する文



書)は,Y1が平成15年12月4日にRBCとの競合取引先多数及びファ

イナンス会社多数に対して送付したものであるところ,本件文書3を受け取

った者は,本件文書3の記載(1)は「KCSが『ミスターアドヴァンス』と

いう名称のソフトウェアを販売しており,その販売先は500社に上る」こ

とを意味していると認識するものと認められる。

(イ) しかし, KCSが平成15年12月4日以前に「ミスターアドヴァン

ス」という名称のソフトウェアを販売した事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件文書3の記載(1)は虚偽であり,また,RBCは平成1

5年11月ころまで「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していた

から(当事者間に争いがない。なお,KCSの商標登録時までのRBCの上

記販売行為自体はKCSの商標権を何ら侵害するものではなく,かつ,前記

のとおり著作権を侵害するものでもない。,同記載(1)は,RBCの営業上


の信用を害するものであると認められる。

(ウ) よって,上記記載(1)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(1)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

イ 記載(2)( ( 貸出君』)
「『 ,『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発,販売を

行っており著作権を有し」
)の虚偽性

(ア) 本件文書3を受け取った者は,本件文書3の記載(2)は「KCSが『ミ

スターアドヴァンス』を開発し販売しており,その著作権を有している」こ

とを意味していると認識するものと認められる。

(イ) しかし, KCSが平成15年12月4日以前に「ミスターアドヴァン

ス」を開発し販売した事実を認めるに足りる証拠はない。また,「ミスター

アドバンス」を含むRBCプログラムが,KCSの元従業員がKCSを退職

後にRBCのために開発し作成したものであることは,既に認定説示したと



おりであり,KCSは,「ミスターアドバンス」について著作権を有してい

たことはない。

(ウ) したがって,本件文書3の記載(2)は虚偽であり,また,RBCは平成

15年11月ころまで「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売してい

たから(当事者間に争いがない。,同記載(2)は,RBCの営業上の信用を


害するものであると認められる。

(エ) よって,上記記載(2)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(2)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

ウ 「
記載(3)( この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェ

アの商標が下記会社に侵害されております。)の虚偽性


(ア) 本件文書3の記載(3)は,「…弊社の建機・仮設資材レンタル業向けアプ

リケーションソフトウェア『貸出君』『ミスターアドヴァンス』は,全国で


500社近くのユーザ様でお使い頂いているコンピューターソフトウェアで

す。『貸出君』『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発,販売を行ってお


り著作権を有し,商標登録しております。この建機・仮設資材レンタル業向

けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。

…商標権侵害会社 株式会社アールビィシィ…」という文脈の中で記載され

ているから,本件文書3を受け取った者は,本件文書3の記載(3)は,少な

くとも「RBCが,本件登録商標に対してKCSが有する商標権を侵害して

いる」ことを意味していると認識するものと認められる。

(イ) 確かに,KCSは,本件登録商標( ミスターアドヴァンス/MIST


ER ADVANCE」の文字から成る商標)について,平成15年4月2

3日に商標出願を行い,本件登録商標は同年11月21日に商標登録された

ものであるところ,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,RBCは,



同月26日ころ,朝日リース株式会社に対し,「Mr.Advance」の

標章を付したシステム提案書を提示したことが認められるから,RBCは本

登録商標に対してKCSの有する商標権を侵害したもののようにも見える。

(ウ) しかし,(甲24?28)及び弁論の全趣旨によれば,RBCは,本件

文書2が出回っていることを知り,平成15年10月20日ころインターネ

ットで商標登録の出願・登録状況等について調査したところ,KCSが本件

登録商標について商標出願中であることを知り,弁理士の指導を受け,同年

11月1日以降「ミスターアドバンス」の標章の使用を中止する方針をとり,

「建機・仮設レンタルシステム」(甲24,26)「建機レンタル業向け販


売管理システム」(甲25)「リース・レンタルシステム」
, (甲27,28)

の標章を使用するようになったこと,しかし,「ミスターアドバンス」標章

の使用中止の方針が充分に徹底されていなかったため,上記システム提案書

を提示してしまったことが認められ,これにより,RBCは,過失によりK

CSの上記商標権を侵害したものであることは否定できない。

他方,KCSは,本件登録商標について商標出願を行った平成15年4月

23日以前に「ミスターアドヴァンス」ないし「ミスターアドバンス」の名

称の商品を販売したことはなかったし,そのような名称の商品の販売計画も

なかったこと,RBCは同年3月に「ミスターアドバンス」の名称でRBC

ソフトの販売を開始したこと,KCSは,同月29日付けで,RBCとの競

合取引先多数に対して, KCSが懲戒解雇をした社員がRBCを設立し,


RBCはKCSの著作権及び商標権を侵害している」ことを意味する記載を

含む本件文書1を送付したこと,以上の事実に照らせば,KCSが本件登録

商標について商標出願をしたのは,もっぱら,RBCによるRBCソフトの

販売活動の妨害を目的としたものと推認することができ,この推認を左右す

るに足りる証拠はない。

以上の事実を併せ考慮すれば,KCSがRBCに対し,本件登録商標に係



る商標権に基づく権利主張をすることは,権利の濫用に当たり,許されない

ものというべきである。

しかして,本件文書3の記載(3)は,KCSがRBCに対して本件登録

標に係る商標権に基づく権利主張をすることが許されないにもかかわらず,

これが許されることを前提としてされたものであるから,同記載は虚偽の事

実を記載したものというべきであり,同記載がRBCの営業上の信用を害す

るものであることは明らかである。

(エ) よって,上記記載(3)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は,不

正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記記載

(3)の内容,告知流布の態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過

失に基づくものであることが優に認められる。

(4) 争点4(Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項

4号所定の不正競争に該当するか)

ア 発言内容

証拠(甲6の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,Y1は,平成15年12

月12日,リコーリース名古屋支社を「商標権侵害会社のお知らせ」(甲3の

1)及び「警告書」(甲3の2)の写しを持参して同社のP2を訪問したが,

同人が不在であったため,後刻電話で同人に対し,「@日成工業所は,RBC

のソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないにもかかわらず,リース料

金を支払っている。A日成工業所は, RBCがソフトウェア稼動に係るフォ

ローを全く行っていないため,非常に立腹していた。Bそのようなことは至る

ところで発生しており,ある客先では,リース会社と同行の上契約検収を行い,

リース会社が帰った後に機器を持ち帰りその後納品を行わないという詐欺のよ

うな販売を行っている。」旨告げたことが認められる。

イ 発言内容の虚偽性

(ア) 上記@については,前記2(1)ウ認定のとおり,日成工業所においては,



平成15年12月1日からRBCのシステムを本格稼動している。したがっ

て,上記@は事実と異なる。

(イ) 上記Aについては,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,日成工業

所は,平成15年12月15日付けで,リコーリースに対し,「同年3月に

RBCのシステムを導入し,10月に最後のテストを完了,11月から本稼

動を始めた。今後も十分に活用することはもちろん,RBCとも長いお付き

合いをするつもり」旨の手紙を出していることが認められる。したがって,

上記Aは事実と異なる。

(ウ) 上記Bについては,平成15年12月12日当時,RBCのソフトが稼

動できず機械が使用できる状態ではなかったということ,RBCがソフトウ

ェア稼動に係るフォローを全く行っていないということ,このような事態が

至るところで発生していたことを認めるに足りる証拠はない。このことに弁

論の全趣旨を併せると,上記Bも事実と異なるものと認められる。

(エ) 上記@ないしBの発言は,いずれRBCの営業上の信用を害するもので

あることが明らかである。

ウ 小括

したがって,Y1の上記アの発言は,不正競争防止法2条1項14号所定の

不正競争に当たる。そして,上記発言の内容,告知の態様等を考慮すれば,上

記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。

(5) 争点5(KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条

項14号所定の不正競争に該当するか)について

ア 発言内容

証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,KCSの営業担当社員P6は,

平成16年1月6日,中村建機代表取締役のP3を訪問し,同人に対し,「@

RBCのユーザーではトラブルばかりで,稼動しているところはまだない。

特に広島の顧客は未だに稼動していない。ARBCが納入しているソフトは,



KCSにあった「貸出君」を持ち出し,修正を加えて販売している。著作権

はKCSにあるので,今後使えなくなる。BRBCへ行った元社員は,退職

時に書類などを持ち出していった。CRBCのX2らが,在職中に中古機等

のアルバイト的なことを行っていた。」旨告げたことが認められる。

イ 発言内容の虚偽性

(ア) 上記@については,前記2(1)ウ認定のとおり,平成16年1月6日当

時は既に,ベストレンタル,鈴建輸送,日成工業所,長浜産業,興南機械及

び中村建機においてRBCのシステムは稼動中であった。また,証拠(甲1

0)及び弁論の全趣旨によれば,平成16年1月現在,広島におけるRBC

の顧客は,長浜産業1社のみであったこと,長浜産業はRBCの対応に満足

していることが認められる。したがって,上記@は事実と異なる。

(イ) 上記Aについては,RBCプログラムが「貸出君」プログラムの著作権

を侵害するものではないこと,また,RBCプログラムはKCSの元従業員

がKCS在職中に作ったものではなく,KCSがその著作権を有するもので

ないことは,前記認定のとおりである。したがって,上記Aは事実と異なる。

(ウ) そして,上記@及びAは,いずれもRBCの営業上の信用を害するもの

であることが認められる。他方,上記B及びCは,いずれも発言内容に具体

性を欠き,RBCの営業上の信用を害する事実の告知とまでは認められない。

ウ 小括

以上によれば,KCS従業員P6の上記ア@及びAの発言は,不正競争防止

2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして,上記発言の内容,告知の

態様等を考慮すれば,上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであること

が優に認められる。

(6) 争点6(KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法

2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について

ア 発言内容



証拠(甲11の1?3)及び弁論の全趣旨によれば,KCSの従業員である

P7及びP6は,平成16年3月31日ころ,川嶋機械工業所を訪問し,同社

のP4に対し, RBCについては社員がどんどん退職しており,人手不足の


状態である。あの会社はいつまで続くかわからないのでメンテに問題がある。

RBCとは(取引を)止めておいた方がよい。」旨告げたことが認められる。

イ 発言内容の虚偽性

上記発言は,退職者の数や割合,人手不足により現実にメンテナンスにおい

て生じた支障等,具体的な事実の告知を伴うものでないから,RBCの営業上

の信用を害する虚偽の事実の告知とまでは認められない。

ウ 小括

よって,KCS従業員P7及びP6の上記アの発言は,不正競争防止法2条

1項14号所定の不正競争に当たるとはいえず,かつ,民法709条の不法行

為を構成するともいえない。

(7) 争点8(RBCの被った損害の額)について

ア 営業上の損害

(ア) 証拠(甲93?95,98)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認

められる。

a RBCは,センターリースとの間で,平成15年12月8日,RBCソ

フト等の売買契約を代金302万円(内訳 ハード92万円,ソフト21

0万円)で締結した。また,同契約においては,リース会社を尼信リース

とすることが合意され,尼信リースは,RBCに対し,同月15日,上記

物件を同額で買い受ける旨の注文書を発行した。

ところが,RBCは,第1事件の訴え提起後,センターリースから,上

記契約を解消された。

b RBCは,友清商店との間で,平成15年12月中旬ころ,RBCソフ

ト等の売買契約を代金290万円(ハード50万円,ソフト240万円)



で締結した。また,同契約については,九州リースに対し,ファイナンス

の申込みをした。

RBCは,第1事件の訴え提起後,友清商店から,上記契約を解消され

た。

(イ) 上記認定事実によれば,RBCは,センターリース及び友清商店との間

の上記各契約を第1事件の訴え提起後に解消されたものであるが,それがK

CSらによる本件文書1ないし3の送付等,前記認定の不正競争ないし不法

行為によるものであるとの点は,本件全証拠をもってしても認めるに足りな

い。すなわち,本件においては,上記各契約が解消されたことやその理由に

関する証拠(例えばセンターリースや友清商店が上記各契約が解消した理由

を記載した解除通知書や陳述書等)が提出されていないところ,上記契約が

解消される理由としてはRBCの債務不履行,信用不安その他種々の理由が

考えられるところであり,上記証拠が提出されていない状況の下においては,

契約解消の理由がこれらの理由ではなく,KCSらによる前記不正競争に起

因するものとは断定できない。

そうすると,RBCが被ったと主張する上記各契約の解消に伴う営業上の

損害は,KCSらによる前記不正競争と相当因果関係のあるものとの立証が

されていないことになるから,同損害の賠償を求めるRBCの請求は理由が

ない。

なお,RBCは,KCSらの上記不正競争により,上記2社とは別に,別

紙7「損害一覧表」記載のとおり,A社ないしC社から合計2693万円の

商談を解消され,2541万7000円の営業上の損害を被った旨主張する。

しかし,A社ないしC社が具体的にどこを指すのかが明らかでないことはさ

ておくとしても,RBCらは,A社ないしC社との各契約内容のほか,同各

契約がKCSらの上記不正競争によって解消されたものであることについて,

何ら証拠を提出せず,上記事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,



A社ないしC社に係る上記損害の賠償を求めるRBCの請求も理由がない。

イ 無形損害

本件文書1ないし3の送付先及びその数,記載内容,Y1等の前記発言の内

容に加え,弁論の全趣旨を併せ考慮すれば,RBCは,KCSらによる前記不

正競争により,営業上の信用を害されたことが優に認められ,かつ,多数の取

引先及び多数のファイナンス会社に釈明,善処を求めることに忙殺されたこと,

その他上記行為により,業務遂行上多大な支障が生じたものと認められる。

上記事実その他本件に顕れた事情を総合考慮し,なお,後記(8)のとおり,

本件では不正競争防止法14条所定の信用回復措置が執られることをも併せ考

慮して,RBCがKCSらの不正競争等により被った無形損害は200万円を

下らないものと認められる。

ウ 弁護士費用

KCSらの不正競争等により,RBCは本件訴訟を提起せざるを得なかった

こと,その他本件訴訟の経緯等に照らすと,弁護士費用相当損害金として20

万円を認めるのが相当である。

エ RBCの損害

KCSらの不正競争等によってRBCが被った損害の額は,上記イ及びウの

合計220万円となる。そして,前記不正競争等のうちY1が直接の行為主体

となっていないもの(本件文書1及び2の送付,KCS従業員による虚偽の事

実の告知)についても,KCSの取締役社長であるY1が関与していたものと

推認されるから,KCSらによる前記不正競争については,KCS及びY1が

連帯して上記220万円の損害賠償義務を負うものというべきである。

(8) 争点9(不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否)について

KCSらの上記一連の不正競争は,虚偽の事実を告知ないし流布することによ

り,競争関係にあるRBCの営業上の信用を害するものである。ただし,RBC

が謝罪文の送付を請求しているのは,本件文書3のみについてであるところ,そ



の内容は,受け手をして,@KCSが「ミスターアドヴァンス」という名称のソ

フトウェアを販売しており,その販売先は500社に上ること,AKCSが「ミ

スターアドヴァンス」を開発し販売しており,その著作権を有していること,B

RBCが,本件登録商標に対してKCSが有する商標権を侵害していることをそ

れぞれ意味していると認識させるものである。しかし,上記事実はいずれも虚偽

であり,とりわけ「ミスターアドヴァンス」なる商品名はRBCが創案し,その

プログラムはRBCが作成したものであるにもかかわらず,KCSにおいてその

販売実績もないのに販売先が500社にも上るとか,「ミスターアドヴァンス」

の著作権を有するとか,RBCに対し商標権の行使が権利濫用となり認められな

いのにRBCが「ミスターアドヴァンス」なる登録商標の商標権を侵害するなど

と事実無根の内容を告知又は流布したものであり,その内容及び告知流布の態様

等に照らせば,RBCがKCSらに対し無形損害に基づき上記金額の損害賠償

求権が認められるとしてもそれによる信用回復の程度は十分とはいい難いから,

RBCの信用を回復するため,KCSらに対し別紙2記載の謝罪文の送付を命じ

る必要があると認められる。

(9) 結論

以上によれば,RBCの第1事件に係る請求は,KCSらに対し,不正競争防

止法4条及び民法709条に基づく損害賠償(無形損害及び弁護士費用相当損

害)として220万円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日である,

KCSは平成16年2月6日から,Y1は同月7日から,各支払済みまで民法所

定の年5分の割合による遅延損害金の支払及び不正競争防止法14条に基づく信

用回復措置を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないか

らこれを棄却する。また,KCSの第2事件及び第3事件に係る請求は,いずれ

も理由がないから棄却する。

よって,主文のとおり判決する。





大阪地方裁判所第21民事部



裁判長裁判官 田 中 俊 次




裁判官 西 理 香



裁判官高松宏之は,転任のため署名押印することができない。



裁判長裁判官 田 中 俊 次