関連ワード | 著作物性 / 創作性 / 著作者 / アイデア / 表現方法 / 二次的著作物 / 翻案 / 編集著作物 / 損害賠償 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
16年
(ワ)
3460号
損害賠償等請求事件
|
---|---|
原告X 同訴訟代理人弁護士中野麻美 被告Y 同訴訟代理人弁護士矢野千秋 |
|
裁判所 | 横浜地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/01/31 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1請求被告は,原告に対し,385万円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要1事案の要旨DREAM JOURNEY The Art 本件は 原告が制作した人形作品を被写体とした , 「」(「」of Leather Dolls X夢の旅Xの世界と題する写真集以下本件写真集という )が株式会社エス・エス・アイ(以下「本件出版社」という )から 。 。 「きこ書房」との名前で出版され,被告が著作権者として印税380万円を同社から受け取り,そのうち30万円を原告に支払ったところ,原告が,@ 原告が本件写真集の著作者である,A 被告が本件写真集の著作権を有するのであれば本件各人形の使用を許諾しなかった等と主張して,被告に対し,不法行為に基づき,印税相当額350万円及び弁護士費用35万円の合計385万円及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2基礎となる事実( )本件写真集は,写真家のA(株式会社ハロースタジオの代表取締役。以1「」。), (「」 下Aというが原告が制作した人形作品34点以下本件各人形という )を撮影し,その写真等を掲載したものである。なお,本件写真集 。 には被告の著作権表示(□ Y )が付されている(甲1 。 「」 )Copyright(「」。) ( )被告が代表取締役を務める株式会社トーイズ 以下 トーイズ という 2と本件出版社は,平成13年3月,以下のとおり,監修依頼約定書と題する契約書を取り交わした(以下「本件約定」という。乙2 。)「本件写真集を出版するに当たり,被告に監修を依頼する。 監修を依頼するに当たり,以下の事項について,本件出版社と被告両者間で取り決めを次のとおりとする。 第1条本件写真集の著作権はトーイズが有する。 第2条トーイズは,本件写真集の監修者として,本件写真集が他人の著作権その他の権利を侵害しないことを保証する。 第3条本件出版社は,本件写真集の複製並びに頒布の責任を負う。 第4条本件出版社は,初版第1刷の際に,トーイズに20部,原告には30部,増刷のつどそれぞれに5部ずつを贈呈する。 第5条トーイズがその店舗にて販売するために本件写真集を仕入れる場合は,本体価格の50%とする。 第6条本件出版社は,トーイズに対して,次のとおり監修料を印税形式で支払う。ただし,レザークラフト制作者原告の初版印税分を含む。 本体価格×10%×印刷部数初版分3800円×10%×1万部=380万円増刷時の印税に関しても,印税形式で支払う。ただし,原告,ハロースタジオの印税分を含む。 計算方法は本体価格×10%×印刷部数とする。 支払方法は,トーイズの指定する銀行口座に,発行月の20日締めの翌々月末に振り込む。 (以下略 」)( )本件出版社は,平成13年5月ころ,本件約定のとおり,本件写真集13万部を出版した。このうちの5000部はハンドバッグの製造,販売等を行う株式会社キタムラ(以下「キタムラ」という )が買取り,同月15日に 。 開催された同社の新作発表会において招待客に配布されるなどした(甲2,3,30,乙8 。)( )そのころ,本件出版社は,本件約定のとおり,トーイズに対して本件写4真集の印税として380万円を支払い,そのうちから,被告ないしトーイズ(, ,,,,, は原告に対して30万円を支払った 甲2 3 30 乙8 証人D 原告被告 。)3争点( )原告は本件写真集の著作権者か。また,被告が本件出版社から印税を受1け取ったことが原告の著作権を侵害する不法行為に当たるか。 ( )本件写真集の制作及び出版が,本件各人形の著作権を有する原告の使用2許諾を得ずにされたものとして不法行為に当たるか。 4争点に関する当事者の主張( )争点( )(原告は本件写真集の著作権者か等)について11【原告の主張】ア本件写真集は,本件各人形という原告の創作物をもとに,これを写真という表現形態に変えて,本件各人形に原告が込め,昇華された思想表現を光の世界に移し替えて表現しようとするものであり,見る者をして原著作物(本件各人形)の本質的特徴を直接感得させることを目的とするものである。これは原著作物(本件各人形)の翻案としての二次的著作物としての性格を有する。 そして,原著作物(本件各人形)に込められた思想表現を作品集として表現するについては,写真に係る作品はすべて原告の作品であって,これ, , に対するコメントもなく その選定及び表現方法については原告が判断し決定を下し 原告のエッセイ及び謝辞を含めて 全体としての原著作物 本 , ,(件各人形)の思想を表現しようとするものであるから,本件写真集の著作者は原告である。 イ(ア)被告は,本件写真集が編集著作物であると主張している。しかし,そのようにいえるためには,本件各人形の創造性を超えた創作性が必要であるところ,本件写真集は,原告が本件各人形に込めた思想表現を写真という表現形態に変えて表現しようとするものにすぎず,原告の思想表現の内容を超える創作性を有するものではない。 また,被告は,本件写真集の制作に当たって,著作者としての活動を全く行っておらず,被告独自の創造性を発揮して素材を選択,配列したわけではないから,この点からも本件写真集を被告の編集著作物であるということはできない。 (イ)仮に,本件写真集が独自の創造性を有し,編集著作物といえるとす, 。,「」 れば それは原告の活動なくしてはあり得ない 原告は夢と遊び心というコンセプトをもって人形の創作活動を行っているところ,本件写真集の制作に当たっても,このコンセプトをもって作業に当たった。原告は,写真集に掲載する人形を選定して,表紙カバーには原告が気に入っている「飛行少年」という人形を掲載し,巻頭には原告がキタムラの代表取締役であるB(以下「B」という )の注文で制作した第1作で 。 ある「」という人形を,Bへの感謝の気持ちを表すために掲載するKingことに決め,関係者と打合せを重ねた上,本件各人形を「飛行家たち」「スポーツマン 「サンタクロースたち 「カップル,恋心 「カウボー 」」」イたち」というグループに分け,それから配列を決めていった。 また,原告は,写真撮影時には本件各人形を手直しし,校正時には自己の思想表現とそぐわない写真を排除ないし修正することを求めている。さらに,原告は,本件写真集の題名を決定し,あとがきに当たる文章を作成する等のこともしている。 したがって,本件写真集が編集著作物と評価できるものであるとすれば,その著作権は原告に帰属する。 ウ(ア)本件写真集は 「 X 夢 , DREAM JOURNEY The Art of Leather Dolls」, 「」 の旅Xの世界と題され最終頁の奥書部分の前頁には MESSAGEとして被告及びAの氏名入りの文章が掲載されているが,これは第三者からのメッセージと位置付けられる。その前の頁には原告の文章が原告の氏名を付さないで掲載され 「私」という一人称により原告の思想を ,This book made 表現している。また,本件写真集の最初の数頁には 「,possible byandThe Art of Leather Dolls DREAM BY と記載された頁」,「/X/A」と記載された頁がある。以上JOURNEYPHOTOGRAPHY BYの記載は本件写真集が当初から著作権を原告に帰属させるものとして制作,出版されたことを示している。 (イ)被告は,本件写真集の制作過程において,原告に対して再三,本件写真集は原告のものであることを強調し,また,本件写真集の著作権が原告であることを前提としてこれに推薦文を掲載する等もしている。原告と被告との間では本件写真集の著作権は原告に帰属するという合意があったのである。 エ以上のとおり,本件写真集の著作権者は原告であり,被告は著作権者ではないのに,自らが著作権者であるとして本来原告に支払われるべき印税を自己のものとし,原告に支払った30万円を控除した印税残額350万円及び弁護士費用35万円の合計額385万円の損害を与えた。 【被告の主張】ア本件写真集は,本件各人形を写真集にしたものであるので,二次的著作物ないし編集著作物に当たるが,出版に当たっての交渉打合せ,カメラマンの交渉打合せ,デザイナーの交渉打合せ,本件各人形のスタジオへの搬入出,編集者との打合せ,Bとの打合せ,撮影編集等への立会等はすべて被告が行った。 また,本件の写真撮影は,カメラ1式をセッティングし,光をつくるライティングをし,どのような画面にするか,アングルはどうするか,照明はどうするか,といったことを考え,また,構図やページネーションを考慮して,露出,絞り,シャッタースピード等を決めていくという複雑かつ創作的な作業である。そして,フィルムを1枚ずつ,露出を変えながら10枚,ときには30枚前後も撮っていき,すべての現像が上がった段階で写真を選択するのである。本件の写真撮影には延べ20日以上を要しており,被告は,自身の構想や意向を写真に反映させるため,時間の許す限り撮影に立ち会った。被告は,撮影をしたAと,写真の枚数や各写真の大きさ,頁数,各写真の配置,体裁をどうするかに至るまで徹底的に話し合っている。また,表紙,裏表紙,帯のデザインについても被告やAらが話し合って決めた。 イこれに対して,原告は,写真集に載せる自分のポートレートをAに撮影してもらうために,1,2回スタジオに来ただけであり,撮影に対して注文や希望を申し立てたことはなく,撮影自体に関与していないし,撮影以外の写真集制作行為に関与したこともない。 ウしたがって,本件写真集の著作権は被告にあり,原告にはない。 なお,本件写真集には被告に著作権がある旨の著作権表示(□マーク)があり,著作権法14条により,被告が著作権者であると推定される。 ( )争点( )(本件各人形の使用許諾の有無)について 22【原告の主張】ア仮に,原告が本件写真集の著作権を有しないとしても,二次的著作物ないし編集著作物を構成する個々の素材が著作物である場合,素材の著作者に使用の許諾を得る必要があるところ,原告は,被告が著作権を有する写, 。 真集に本件各人形の利用を許諾する意思はなく また許諾した事実もないイ被告は,原告の作品集を出版すると話を持ちかけ,原告に本件各人形の提供をさせた。原告は,自己が著作権者である写真集が出版できるものと信じて,人形を選定,配列し,表紙や表題のアイデアを出す等した。原告は,本件写真集の校正段階で 「」という,ライオンが針と糸を使っ ,Kingてバッグを製作している人形の写真が縫い針が落下したまま撮影されていたり,裏焼きや天地逆の写真があるなどの杜撰な制作に触れて,出版を断念しようとしたが,原告に著作権が帰属する写真集の出版を実現するという思いがあればこそ踏みとどまったのであり,そうでなければ本件写真集の出版は拒否していた。 ウ被告は,原告を騙して原告からアイデアのすべてを提供させ,杜撰な制作を進めて本件写真集を自己のものとして出版したのであって,本件写真集の出版は本件各人形に係る原告の著作権を侵害するものである。 エ以上のとおり,被告の不法行為により,原告は,原告に支払った30万円を控除した印税残額350万円及び弁護士費用35万円の合計額385万円の損害を被った。 【被告の主張】ア原告は,本件写真集の著作権が原告に帰属しないのであれば,本件各人形の使用許諾をしなかったと主張するが,そのような条件を付した契約が締結されたことはない。 被告は,本件写真集の制作に当たって,本件各人形の著作権者である原告から本件各人形の使用許諾をとっており,使用料として30万円を支払った。この支払は,本件各人形の著作権使用料,原告の撮影への立会,人形のポーズの修正,写真集に掲載した原告の謝辞,原告への資金援助等を併せて,原告と被告が30万円と合意したものである。 イ被告は,無名の作家である原告の作品を評価し,これを多くの人に理解してもらいたいという想いから,本件写真集の制作を行い,これに多大な経費と時間を要しており,被告が受領した350万円という額は決して高いものではない。無名の作家の写真集を出版してくれる出版社はなく,被告の労力により本件写真集の出版が実現したのであり,原告としては,写真集の出版ができ,制作した人形の宣伝にもなるのであるから,30万円というのは十分な額である。被告の行為には何ら不法な点はない。 第3当裁判所の判断1本件の事実関係証拠(甲1ないし12,16,20ないし22,30,32,乙2,6ないし8,証人D,証人A,原告,被告)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ( )原告は,専門学校を卒業した後,建築模型会社で勤務しつつ,人形の制1作活動を行っていたが,平成7年に同社を退社して革を素材とした人形の制作に専念するようになり,現在に至っている。 被告は,古いおもちゃ等の収集家であり,ブリキのおもちゃ博物館等7館の博物館の館長を務めている者である。 被告は,平成6年ころ,知人の紹介により原告と知り合い,原告が制作した人形作品を1体当たり二,三〇万円で購入するようになり,本件写真集出版当時までに10体以上の人形を購入していた。 キタムラの代表取締役であるBは,被告から原告の作品を紹介され,平成12年6月ころから被告の仲介により原告の人形作品を購入するようになり,本件写真集出版当時までに30体前後の人形を購入していた。 本件写真集に掲載された34点の人形作品は,上記のようにして被告及びBが購入したものである。 , , ( )被告とBの間では 同年7月ころからBが数千部を買い取るとの前提で2原告が制作した人形作品を掲載した写真集を出版したらどうかという話が出ており,同年9月ころ,原告,被告及びB等で会食をした際にも,上記のような写真集出版が話題となった。 このようにして,Bが3000部の買取りを約束してくれたことから,被告は写真集出版に向けて有限会社デジタリカの代表取締役であるC(以下「C」という )等に話を持ちかけ,平成13年2月ころまでには同社が制 。 , ,() 作を担当すること 写真はAが担当すること 出版は本件出版社 きこ書房が行うこと等のことが決まった。 また,そのころ,本件出版社(きこ書房)の担当者であるDとBとの間では,Bが同年5月15日に開催されるキタムラの新作発表会での配布用に本件写真集5000部を買い取るという話がまとまり,写真集の出版はこの新作発表会に間に合うように進められることになった。 このようにして,前記第2,2( )のとおり,トーイズと本件出版社は本2件約定を締結した。 ( )ア宮崎県に居住する原告は,同年3月6日に上京し,B,A,C等と写3真集の制作について打合せをするなどして,翌7日には,撮影スタジオを訪れた。 本件各人形が既にスタジオに搬入されていたので,原告はポーズが乱れたものを手直しし,また,Aは,原告の肖像や原告が人形制作に使用する工具類の撮影等を行った。 イAは,そのころから延べ約20日間にわたって本件各人形の撮影を行ったが,原告は,上記アのとき以外にAの写真撮影に立ち会ったことはなかった。 また,Aらは,写真集に掲載する写真を選定し,配列やレイアウトを決めていったが,この作業に原告が関与することもなかった。 ウ原告は,写真集のゲラ刷りを同年4月に受け取って内容を確認したところ,裏焼きされ,左右が逆になっている写真や 「」と題する人形は ,Kingもともとライオンが両手に針を持っていたのが片方の手から針が落下したまま撮影されていた等のことがあったため,同月14日ころ,CやAに対してそれらの修正ないし再撮影を要請した(甲6,9 。また,原告は,)本件各人形の作品名に誤記があるものを指摘し 修正するよう要請した 甲 ,(9 。)これを受けてAは,裏焼きではない写真に差し替えたり,再撮影をするなどの手直しの作業をした。 エ原告は,同月ころ,本件写真集の謝辞として,原告が革を素材として使用した人形作品を制作するようになった経緯や,人形制作に対する想い等を綴った文章を作成したり,本件写真集に掲載する原告のプロフィール文を作成したりした。 ( )本件写真集は同年5月ころ完成し,1万部が出版され,うち5000部4をキタムラが買い取り,同月15日に開催された同社の新作発表会において招待客に配布された。 ( )本件出版社は,そのころ,トーイズに対し本件写真集の印税として3850万円を支払い,被告ないしトーイズは原告に対して30万円を支払った。 また,本件出版社は,Aが代表取締役を務める株式会社ハロースタジオに対して500万円を支払い,有限会社デジタリカに対しては60万円を支払った(なお当初,同社に対しては160万円が支払われるはずであったが,印刷所で裏焼きの修正等に要した費用を差し引き,60万円が支払われることとなった。。)( )本件写真集は 「 X夢の旅6DREAM JOURNEY The Art of Leather Dolls ,Xの世界」と題され,帯封には「監修 Y」との記載やB及び被告の短い推This book made possible byand 薦文が記載されており,最初の数頁には「 BY」と記載された頁,原告の人形制作工具を撮影した写真が掲載された頁,「 」The Art of Leather Dolls DREAM JOURNEYPHOTOGRAPHY BY /X/Aと記載された頁がある。 そして,その内容は,ライオンが針と糸を使って革の鞄を制作している様子を描いた「」という人形を背景を黒又は白として,その前方及び後方Kingから,また全体及び部分を撮影した写真から始まり,ほぼ同様にして,2頁に1枚といったものから1頁に数枚といったように本件各人形34体の大小,,, 様々な写真が約100頁にわたって掲載されていて その合間に灰色 青色緑色,赤色,黒色,紺色といった色だけの頁や荒野及び雪景色を撮影した風景写真が織り交ぜられ,それに続いて「」として本件各人形を紹介するcast形で,おおむね正面からの写真が,その題名,制作年,大きさの表示とともに,1頁に4ないし6枚程度掲載されている。 そして,その後に,原告の革人形造りにかける思い等を綴った謝辞が氏名を付さずに掲載されており,次の頁には原告や工具の写真とともに略歴が記載され,次いで,被告及びAのメッセージが掲載されていて,最後の奥書には「□ Y」と被告を著作権者とする表示がある。 Copyrightなお,上記掲載写真の中には裏焼きの写真が数点掲載されており,原告が指摘した裏焼きの写真がすべて差し替えられたわけではない。 ( )原告と被告は,本件写真集の著作権の帰属について具体的な話合いをし7たことはなかった。 2争点( )(原告が本件写真集の著作権者であるかどうか等)について1以上の事実関係を前提として検討する。 ( )本件写真集の著作物性について1ア上記のとおり,本件写真集(甲1)に掲載された写真は,プロの写真家であるAが本件各人形を撮影したものであり,それ以外に同人が以前に撮影し,保有していた風景写真が2枚含まれている。そして,上記本件各人形の写真は,本件各人形の形状,色彩等をそのまま正確に表現することを,,, , 旨として 例えば 照明を明るくし どの人形についても同じように正面側面等から写実的に表現したというものではなく,専門的な知識,技能を生かして,照明,構図,カメラアングル,背景等を選択,調整する等の工夫を施しながら撮影されたものと認められる。そして,これらの写真は,例えば「迷子の子猫ちゃん」という人形について,背負われている子猫の表情が浮き出るように照明を工夫し,その部分をクローズアップした写真であるとか 「飛行少年」という人形について,背後から撮影し,背景を ,白として前方に広がりを持たせている等,見る者に本件各人形自体を超えた物語性や印象等を与えるものとなっており,そこに写真としての創作性があるといえる。 そして,これらの写真をまとめた写真集としての本件写真集は,写真の選択,配置,レイアウト等に種々の工夫が加えられており,例えば 「ホ,〜ムラン」という人形と「あこがれのボギー」という人形をともに背後から,背景を白として撮影した写真を見開きで掲載した次の頁には,背景を黒として同じ人形の正面からの写真を見開きで掲載したり 「偉大なる一,歩」という人形の写真を裏焼きを交え,向きを変えて見開き2頁に8枚掲,,「」「」 載したりまた猛牛のりという人形の写真とよみがえる開拓者魂という人形の写真の間にこれらの人形が活躍する背景を思わせる荒野の風景写真が挿入されていたり 「子供たちのもとへ」等の3体のサンタクロ ,ースの人形の写真と「グランパパ」という贈り物を抱えた人形の写真との間に雪景色の風景写真が挿入され,季節感が醸成されている等,たんに上記の写真を順番に並べたといったものではなく,これらの写真に一定の動きを与えたり,物語性を付与するものとなっており,そこに編集物としての創作性があるものと認められる。 以上のとおり,本件写真集は著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められる。 イ原告は,本件写真集は,原告が本件各人形に込めた思想表現の内容を超える創作性がなく著作物とはいえない旨主張するが,本件写真集に掲載された写真及びこれらの写真を編集したものとしての本件写真集には上記のとおり本件各人形が有する創作性とは異なる別個の創作性があるものと認められるところであり,原告が供述しているようにたんなる作業というのは相当でない(原告は,自らが本件写真集の著作権を有しており,これが侵害された旨主張しながら,その一方で上記のように主張することは矛盾している。。)したがって,原告の上記主張は当を得ず,採用できない。 ( )原告が本件写真集の著作者であるかどうかについて2ア著作者とは,著作物を創作する者,すなわち,当該著作物について,その者の思想又は感情を創作的に表現する活動をした者である(著作権法2条1項1号,2号 。)イ原告は,本件写真集の著作者は原告である旨主張している。 , , (ア)しかし 本件写真集に掲載されている写真を撮影したのはAであり撮影行為自体について原告が特段の指示をした等の事情は認められない。また,本件写真集の編集について原告に特段の関与があったと認めるべき証拠もない。以下,原告の指摘する点について順次検討する。 (イ)まず,原告は本件写真集に掲載する人形を選定した旨主張する。 しかし,本件写真集は,前記1( )のとおり,被告及びBが原告から1, 。,(, 購入し 手許にあった人形を撮影したものである そして 証拠 甲12,30)によれば,本件写真集には,原告がごく初期に制作した作品は含まれていないが,その後原告が制作していた作品の大部分が掲載されているものと認められ,特に原告が取捨,選択したというほどの事情は認められない。 (ウ)次に,原告は,平成13年3月6日の打合せの際等に,表紙に「飛行少年」という作品,巻頭には「」という作品を掲載することや,King本件各人形を作品のテーマごとに「飛行家たち 「スポーツマン 「サ 」」ンタクロースたち 「カップル,恋心 「カウボーイたち」の各グルー 」」プに分けて並べていくことを提案したと主張する。 確かに,原告は上記のように供述し(甲30,原告 ,本件写真集は)上記主張のように制作されているとはいえるが,仮に,これが原告の主張するように,その提案に基づくものであったとしても,それだけで原告が本件写真集の著作者ということは困難である。すなわち,本件写真集の創作活動の中心は,人形の写真を撮影し,多くの写真の中から掲載する写真を選別し,これらを具体的に配置,配列していく点にあるのであって,このような観点からみると,原告はこれらの活動に何ら参加しているわけではない。原告の上記行為は,せいぜいアイデアを提供したり,助言を与えたという域をでないものというべきであり,これをもって原告が本件写真集を創作したということはできない。 ,, , なお 上記1( )ウのとおり 原告は本件写真集のゲラ刷りを確認し3裏焼きされた写真の修正を要求する等しており,これを受けてAが再撮影をしたり裏焼きされた写真を修正した事実が認められる。しかしながら,この行為も,それ以上に原告自らが写真の選択や配置,レイアウトの決定等をしたわけではないから,結局は被写体である本件各人形の著作者として本件各人形の本来のポーズ等を指摘したり,写真に対して注文ないし要望を申し立てるという域を出ないものというべきであって,自ら主体的に本件写真集を創作するというような関与であるとはいい難い。 (エ)また,原告は,本件写真集の題名を決定したと主張している。 しかし,原告本人尋問においては,平成13年3月6日の打合せにおいて,原告から人形作品のテーマである「夢と遊び心」から題名を作っDREAM ていこうと提案したと供述するものの 「夢の旅」ないし「 ,」という題名は話合いの中で決定されたようにうかがわれ,JOURNEY必ずしも原告が単独で題名を決定したとは認められない。また,いずれにしても,写真集の題名を発案,決定することは著作物自体の創作とは異なるから,これに関与したということだけでは本件写真集を創作したということはできない。 なお,本件写真集の謝辞部分は,原告が作成した文章であるから,この文章の著作者は原告といえるが,上述したように原告が他の部分を創作したとは認め難い以上は,この部分と他の部分は別の著作物と解されるから,このことをもって原告が本件写真集全体の著作者ということはできない。 DREAM JOURNEY The Art of Leather Dolls (オ)原告は,本件写真集は 「,This book made X 夢の旅Xの世界」と題され,最初の数頁には「possible byandThe Art of Leather Dolls DREAM BY と記載された頁」,「/X/A」と記載された頁等があり,こJOURNEYPHOTOGRAPHY BYれらの記載は,本件写真集が当初から著作権を原告に帰属させるものとして制作,出版がされたものであることを示していると主張する。 確かに,上記のような記載からは,本件写真集は,原告が著作者であるような外形を有しているということが可能であるが,著作者がだれかという問題は,現実に当該作品を著作した者がだれかということによって決せられるべきものであって,上記のような本件写真集の外形だけから著作者がだれかを判断することはできないというべきである。 (カ)小括原告は,本件各人形の撮影には平成13年3月7日に1回だけ立ち会ったにすぎず,写真の選択や配列,レイアウトを決める打合せには一度も参加していない。 上記(イ)ないし(オ)のとおり,原告が種々指摘する点をみても,結局は,原告は本件写真集の創作活動そのものには関与していないというほかはないし,本件写真集が原告の著作物であるかのような外観を呈しているとしても,それだけで原告が著作者ということはできない。 したがって,本件写真集を原告が創作したということはできず,原告を本件写真集の著作者ないし著作権者と認めることはできない。 ( )原告及び被告の間の合意について3原告は,原告及び被告の間で,本件写真集の著作権が原告にある旨の合意があったと主張する。 しかしながら,原,被告で合意すれば本件写真集の著作権が原告にあることになるかは疑問であるし,そもそも,原告も被告も,著作権の所在について特に話合いはなかったと供述しており,そのような合意が成立したと認めるべき証拠はない。 ,「 」 , 原告は 被告から X君の作品集を出版する と再三言われていたことや被告の著作物として本件写真集を出版するとは聞いていなかった旨を供述するが,このような事情により原告に著作権がある旨の合意があったと認めることはできない。 ( )まとめ4以上のとおりであるから,原告に本件写真集の著作権が帰属することを前提とする請求には理由がない。 3争点( )(本件各人形の使用許諾の有無)について2( )原告は,被告が著作権を有するような写真集に,本件各人形の使用を許 1諾する意思はなく,また許諾した事実もない旨主張する。 しかしながら,前記1( )及び( )のとおり,原告は,被告から本件写真集23を制作する話を持ちかけられ,写真集の制作に向けた打合せに参加し,謝辞を起案し,ゲラ刷りの写真集を確認する等して,その制作に種々協力しており,被告ないしトーイズから30万円の支払も受けているのであるから,原告は本件各人形を使用して写真集を制作することを許諾していたというほかはない。 確かに,原告は,本件写真集の著作権が自分に帰属するものと考えていたようにうかがわれるし,また,自分に著作権が帰属しないのであれば本件各人形の使用を許諾しなかったと供述しているが,それは原告の内心の事情にすぎず,他者が外部から知り得ることではない。すなわち,本件写真集の制作に当たり,原告は本件各人形が使用されることに何の異議も唱えていないし,かえって,上記のように色々と協力しているのであり,これについて著作権が自己に帰属することが前提である旨を被告その他の関係者に表示していたと認めるべき証拠はないし,また,被告がその旨を原告に告げる等して欺罔した等のことを認めるに足りる証拠もない。 したがって,被告が内心で著作権の帰属についてどのように考えていたにせよ,原告は本件各人形の使用を許諾したと認められるのであり,被告が本件各人形についての原告の著作権を違法に侵害したとか,それが不法行為になると認めることはできない。 ( )以上により,本件写真集の制作及び出版は,原告の本件各人形について2の使用許諾を得てされたものであると認められるから,同使用許諾がないことを前提とする請求は理由がない。 4結論, , 以上の次第であって 原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,。 訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して 主文のとおり判決する |
裁判長裁判官 | 河村吉晃 |
---|---|
裁判官 | 植村京子 |
裁判官 | 高橋心平 |