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事件 昭和 47年 (ワ) 848号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1976/04/27
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告【A】に対し、金三〇〇万円およびこれに対する昭和四七年三月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、その費用をもつて原告【B】のために、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞の各全国版朝刊社会面広告欄に、二段抜きをもつて、表題、右原告及び被告の氏名二〇級ゴシツク、本文一五級明朝体活字を使用して、別紙記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。
三 原告【A】のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告【A】と被告との間においては、これを三分し、その二を原告【A】の負担とし、その余を被告の負担とし、原告【B】と被告との間においては全部被告の負担とする。
五 この判決の第一項は原告【A】において金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者双方の申立
一 原告ら(一) 被告は原告【A】に対し、金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四七年三月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 宛名を原告ら両名とするほか主文第二項と同旨(三) 訴訟費用は被告の負担とする。
(四) (一)項につき仮執行宣言二 被告(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
請求原因
一 原告【B】は、地図「パリー市鳥瞰図(PLAN DU CENTRE DE PARISA VOL D’OISEAU)」(以下、パリ市鳥瞰図という)の著作権者である。
パリー市鳥瞰図は、原告がフランス政府の協力を得て、一〇年の歳月を要して、
一つ一つの建物、構築物、樹木まで肉筆で書き上げ、これを集積して一九五九年に鳥瞰図として完成させたものである。
原告【A】は、昭和四四年一〇月六日、原告【B】からパリー市鳥瞰図の著作権を譲り受け、同四六年三月三一日、文化庁表示番号第一〇、〇二三号をもつてその登録手続を了した。
二 被告は各種の図案を使用して紙箱等の製造販売を業とする会社であり、又本件「パリー市鳥瞰図」にはその著作権者が原告【B】である旨表示されているのであるから、右「パリー市鳥瞰図」が原告【B】の著作物であること、したがつて、これを洋服箱及び包装紙の図案として使用するには原告【B】の同意を要することを認識しながら、又は少なくとも重大な過失によりこれを認識することなく、昭和三四年頃から同四五年末頃までの間あえて無断で右著作物の一部を拡大して洋服箱(検甲第一号証)及び包装紙(甲第二号証)の図案として改ざんして偽作し、右洋服箱等を製造販売して本件「パリー市鳥瞰図」についての原告【A】の著作権、同【B】の著作者人格権を侵害したものである。
三 被告による権利侵害の態様は次のとおりである。
(一) 洋服箱について(1) 原告【B】の氏名を表示していない。
(2) 構図が大まかで本件「パリー市鳥瞰図」の構図が正確であり又細書きで細部まで詳細、且つ精緻に記載されているばかりでなく、全体的に明るく芸術性及び実用性が高い作品であるという特徴を抹殺している。
(3) 右著作物についてはその作品を生かした態様でしか使用許諾しない原告らの意向を無視し、ほしいまま右のとおりその特徴を抹殺した形で洋服箱の図案として使用している。
(二) 包装紙について(1) 原告【B】の氏名を表示していない。
(2) 本件「パリー市鳥瞰図」の精緻さ、明るさを抹殺し、全体的に何となく汚らしい感じを与えるものに改ざんしている。
(3) パリー市の特徴であるエツフエル塔を凱旋門の隣に配置するなどして不正確なものに改ざんしているばかりでなく、セーヌ川の両岸及びソルフエリノ橋等の各様子を改ざんしている。
四 原告らの損害(一) (1)本件「パリー市鳥瞰図」は観光地図、各種のデザインとして利用され、フランス国内においてはもちろん、世界中で高く評価されている芸術作品であるところ、わが国においてもその複製物は一枚九〇〇円で販売されていること、
(2)被告が右著作物が完成した直後に、したがつて、未だ日本国内において右著作物が知られていない時期に、その漸新性を先取りしてこれを独占的に使用したため原告らは各著作物の漸新性を害されたこと、(3)原告らは右著作物を洋服箱、
包装紙等に利用させる意思は全くなく、右のとおりより有効、且つ上品な利用方法しか考えていないところ、被告が原告らの意に反してこれを洋服箱等に使用したのであるから、少なくとも原告【A】が訴外川辺株式会社との間の右著作物使用契約においてマフラー等につき定めた著作権使用料(初年度五〇万円、次年度以降毎年三〇万円のほかハンカチーフ一枚につき五円、スカーフ及びマフラー各一枚につき三〇円)を最低基準にすべきであること、(4)原告【A】は最近、右著作物を無断使用して洋服箱一万〇〇七〇個を製造した訴外野崎印刷紙業株式会社との間で同会社が原告【A】に対し賠償金七五万円を支払う旨、又同様にワイシヤツ箱六〇〇〇個を製造した訴外大昭和紙工製造株式会社との間で同会社が原告【A】に対し右同額の賠償金を支払う旨の各和解契約をしたところ、右訴外会社のように侵害行為に対し謝意を表することもなく、又製造個数、販売価格も明らかにせず、その責任を回避している被告の場合には右相場を下まわるべきではないこと、(5)原告【A】は原告【B】から本件著作権その他の著作権を譲り受けて以来、同原告に対し毎年最低限度一五〇〇フランを支払つているところ、本件著作権の対価が右対価のかなりの額を占めていること、(6)洋服箱等は消費者のもとで永年保存されるものであるので、現在も右原告の著作者人格権を侵害したままの状態で消費者のもとに存在すること、(7)原告【A】の調査したところによると、被告は本件洋服箱を一個二三〇円ないし二五〇円で販売しているところ、その製造原価は一個一三〇円ないし一五〇円と思われるので、被告は一個につき一〇〇円の利益を得たこと、以上の諸事情を考慮すると、洋服箱一個当りの損害額は一〇〇円が相当である。
被告は昭和三四年頃から同四五年頃までの間洋服箱一〇万個を製造販売した。
したがつて、原告らは被告の前記侵害行為により合計一、〇〇〇万円の損害を被つた。
(二) 本件著作権侵害行為の態様及び右(一)記載の諸事情を勘案すると、本件著作権ならびに著作者人格権の侵害行為による原告らの名誉に対する打撃は大きく、精神的損害は甚大である。
右損害を金銭に評価すれば、少なくとも一ケ年当り三〇万円合計三六〇万円が相当である。
なお、右各事実を考慮すると、原告らの名誉、声望を回復するには、主文第二項記載の方法で、原告ら両名宛にした別紙記載の如き謝罪広告を掲載する必要がある。
(三) 原告【A】は原告【B】から本件著作権を譲り受けるに際して、右譲渡以前の日本における本件著作権の侵害により発生する一切の損害賠償請求権をも譲り受けたところ、原告【B】は昭和四七年一〇月一九日頃又は同四八年三月二〇日頃到達の書面で被告に対し原告【B】の被告に対する損害賠償請求権を原告【A】に譲渡した旨通知した。
五 結論 よつて、原告【A】は被告に対し前記損害賠償金合計一、三六〇万円の内金一、
〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年三月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
また、原告【A】は本件著作権に基づき、原告【B】は本件著作者人格権に基づき被告に対し、各名誉回復を求めるため、主文第二項記載の条件で原告ら両名宛にした別紙記載の如き謝罪広告の掲載を求める。
請求原因に対する答弁
一 請求原因一の事実中、原告【B】が本件「パリー市鳥瞰図」の著作者であること、原告主張の著作権譲渡の登録手続が経由されていることは認め、原告【B】が右著作物を完成させた経過、右著作権譲渡の日時は不知。
二 同二の事実中、被告が紙箱等の製造販売を業とする会社であること、本件「パリー鳥瞰図」には原告【B】がその著作権者である旨表示されていること、右「パリー市鳥瞰図」が原告【B】の著作物であること、右著作物を洋服箱等の図案として使用するには右原告の同意を要すること及び被告が本件洋服箱及び包装紙を製造販売したことは認め、被告が故意又は重大な過失により右著作物を改ざん偽作して洋服箱等の図案として使用し、原告らの著作権を侵害したことは否認する。
被告が本件洋服箱及び包装紙を製造販売するに至つた事情の次はとおりであつて、被告は自ら本件「パリー市鳥瞰図」を改ざん偽作したものではないのである。
つまり、被告は昭和三四、五年頃取引先の訴外大日本印刷株式会社の社員が洋服箱のデザイン見本として提示した右著作物と細部に異なる部分がある「パリ市鳥瞰図」を本件洋服箱のデザインとして使用することに決定し、その印刷を右訴外会社に依頼したにすぎないものである。
また、本件包装紙も被告がデザインしたものではなく、顧客の指定したデザインを使用して右包装紙を製造したにすぎないものである。
仮に被告が本件「パリー市鳥瞰図」を偽作したとしても、故意はもちろん、過失もなかつたものである。
けだし、右著作物は有名なエツフエル塔、凱旋門等を写真どおりに模写したものにすぎず、一見著作権の存在とは何らの関係のない古地図のような印象を与えるばかりでなく、著作権者の表示も隅に小さくフランス語で表示されているので気づきにくいうえに、昭和三四、五年当時は著作権についての認識が現在ほど普及していなかつたからである。
三 同三の事実はすべて否認する。被告自体が本件「パリー市鳥瞰図」を偽作したものではないことは前述のとおりである。
四 同四の(一)の事実中、本件「パリー市鳥瞰図」の原告らの利用方法、その芸術的評価、その複製物の単価、原告【A】と訴外川辺株式会社との間の著作物使用契約の内容、右原告と訴外野崎印刷紙業株式会社、同大昭和紙工製造株式会社との間の和解契約の内容、原告【A】の同【B】に対する本件著作権等の譲渡の対価は不知、その余の被告の本件洋服箱の製造数量、その単価等の事実は否認する。
被告が製造する洋服箱、紙バツグ等は多品種、少量生産であるため、洋服箱等全体の販売数量の記録は別として、洋服箱等のデザイン毎の販売数量の記録は手続が煩雑であり、又その必要もないので、残存しておらず、又前記大日本印刷株式会社の当時の担当社員も退社してしまつているので、被告の本件洋服箱の正確な製造数量は不明であるが、他のデザインの洋服箱の例を考慮すると、被告が右大日本印刷に注文した印刷原紙の枚数が約一〇万個、印刷、表面加工、貼合せ等の段階での不良品の割合が二七パーセントとして約七万三〇〇〇個を製造したものと推定されるところ、そのうち約一万個を廃棄処分し、又原告【A】から告訴されてその販売を中止した当時約一万個が在庫していたので、本件洋服箱の販売数量は約五万三〇〇〇個と思われる。
また。本件洋服箱の単価は昭和四〇年から同四五年頃までの間は七、八〇円、昭和四八年一月当時でも七〇円から一二〇円である。
本件包装紙については、製造販売数量、単価ともに全く不明である。
更に、被告が本件「パリー市鳥瞰図」を偽作して本件洋服箱等の図案として使用したとしても、現行著作権法旋行日(昭和四六年一月一日、附則1条)以前の行為であるから、同法114条1項の損害額の推定規定は適用されないものである。
そして、地図の出版、販売を業とする原告らは洋服箱等の製造販売を業とする被告とは競業関係にはないので、被告が本件洋服箱を製造販売したからといつて原告らの地図の売上高、利益額が減少するいわれはないし、又右著作物の漸新性が害されることもなく、かえつて副次的に右著作物の宣伝効果がある。
そうすると、原告らが被告の右行為により損害を被つたとしても、その額は「著作権の行使につき通常受けるべき金額の額に相当する額」(同法114条2項)であるところ、右著作権使用料相当額は本件洋服箱の場合には前記販売価格の二ないし五パーセントである。
同四(二)、(四)は争う。
同四の(三)は不知。
被告の主張に対する原告らの反論
一 鳥瞰図においては各建物の描写角度が重要な位置を占めるところ、本件洋服箱の図案と本件「パリー市鳥瞰図」とはパリー市の有名な建物の描写角度、図形が全く同一であるので、右図案が右著作物の偽作物であることは明白である。
二 訴外大日本印刷株式会社は昭和三五年当時顧客に対し自らデザインを提示して印刷することはなく、注文者の指定したデザインに基づいて印刷のみをしていたこと、右訴外会社は本件の場合被告に対しデザイン料を請求していないこと及び紙箱等の製造販売を業とする被告がデザインがその売上高に重大な役割を果す商品である洋服箱において、そのデザインを自ら作ることなく印刷会社に委せることはありえないことを考慮すると、被告自身が本件洋服箱の図案を偽作したことは明らかである。
三 訴外株式会社田村裏地店のような小規模な会社が包装紙のデザインを自ら指定してその製造販売方を依頼することはなく、被告が自ら本件著作物を偽作したデザインを含む各種のデザイン見本を右訴外会社に提示し、同会社においてその中から本件包装紙の図案を選択したものである。
なお、本件包装紙は名前等を加入する箇所を空白にした原版により印刷したものである。
証拠(省略)
理 由一 いずれも成立に争いのない甲第一号証、第二三号証、原告【A】本人の供述により成立の認められる甲第二二号証及び原告【A】本人の供述並びに鑑定人【C】の鑑定の結果によると、原告【B】は地図、「パリー市鳥瞰図」(PLAN DE PARIS A VOL D’OISEAU幅二二〇糎・堅一五八糎)を、フランス政府の協力を得て、ほぼ一〇年間かかり各建造物はもちろん、樹木にいたるまですべてに亘り写真撮影することなく、現場に赴いて調査し、建造物等の特徴の強調と省略とにより、略画的手法を以て手書きし、さらにこれを写真で縮少して一九五九年(昭和三四年)にパリー市観光用地図として完成させて創作した著作権者であること及び原告【A】が昭和四四年一〇月六日原告【B】から右「パリー市鳥瞰図」の日本における著作権(複製権)を譲り受けたことが認められ、原告【A】が同四六年三月三一日文化庁表示番号第一〇〇二三号をもつて著作権譲渡の登録手続を了したこと及び被告が紙箱等の製造販売を業とする会社であることは当事者間に争いがない。
二 被告が原告主張の洋服箱及び、包装紙を製造販売したことは当事者間に争いなく、前掲甲第一号証及び原告【A】本人の供述、いずれも成立に争いのない甲第二号証、第六号証の一ないし三、第二一号証の一、被告会社製造の洋服箱であることについて争いのない検甲第一号証、いずれも撮影日時、被写体について争いのない検甲第二、第三号証並びに証人【D】、同【E】の各証言を総合すると、被告会社の美術課に勤務していた【D】は、昭和三四、五年頃、同僚のデザイナー及び営業担当者と相談して、本件「パリー市鳥瞰図」のエトワル凱旋門の箇所を中心に拡大して洋服箱(検甲第一号証)の図案として使用することとし、被告会社はその印刷を当初大日本印刷株式会社に依頼し、昭和三七年頃から同四五年頃までの間右図案を貼り合わせた洋服箱を製造販売し、また、昭和四四年頃本件「パリー市鳥瞰図」のエツフエル塔、エトワル凱旋門の箇所を中心に包装紙(甲第二号証)の図案として使用し、右包装紙を製造販売した事実が認められる。
そこで、本件「パリー市鳥瞰図」と本件洋服箱及び包装紙の図案とを対比すると、本件洋服箱及び包装紙には原告【B】の氏名が表示されていないばかりでなく、右著作物は構図が正確であり、細書きで細部まで詳細、且つ精緻に記載されており、又全体的に明るい感じを与えるところ、右洋服箱は前記のとおり右著作物の一部を拡大したことによつてその特徴を抹殺しており、本件包装紙の図案は、全体的に暗い感じを与え、各建物、構築物等の描写も不明確であるばかりでなく、有名なエツフエル塔をエトワル凱旋門の隣に配置して不正確なものに変え、又セーヌ川の両岸及びソウルフエリノ橋の様子等を改ざんするなどしている。
以上認定の事実によると、被告自身が本件「パリー市鳥瞰図」を改ざん偽作して本件洋服箱及び包装紙の図案として使用したものと認めるべきである。
次に、被告の営業目的、前掲鑑定人【C】の鑑定の結果、本件「パリー市鳥瞰図」が美術的香り豊かな著作物であることが一見すれば容易に判明すること及び前掲甲第一号証には右著作物の右下隅の箇所に「(C)BLONDELLA ROUGERY 1959」と記載されているので、右著作物の著作権者が原告【B】であること(原告【B】が本件著作物の著作権者であることは当事者間に争いがない。)が明らかであること等の事実に照らすと、被告が本件著作権を侵害するにつき、少なくとも過失があつたものと言わざるをえない。
三 原告らの損害(一) 前掲人【D】の証言(但し、後記措信しない部分を除く)及び証人【F】、同【G】の各証言によると、被告は洋服箱に貼り合わすべき本件図案の原紙約一〇万枚の印刷を大日本印刷株式会社に依頼したこと、印刷及び加工ロスが約三パーセント出るほか輸送上のロスが多少出ること、原告【A】から本件著作権を侵害したとして告訴された当時、被告には右印刷済みのものが洋服箱約一万個分残存していたところ、検察庁の指示によりこれを廃棄したことが認められ、証人【D】の証言中右認定に反する部分は前掲証人【F】の証言に照らしてたやすく措信できず、他には右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によると、被告は前記期間中少なくとも八万個の本件洋服箱を製造販売したものと推認される。
次に、前掲甲第二二号証及び証人【D】、同【G】の各証言、原告【A】本人の供述並びにいずれも成立に争いのない甲第四号証、第八号証、第一二号証、第一七号証の一、二、同号証の三の一ないし三、同号証の四、五、七、第一九、第二〇号証、原告【A】本人の供述により成立の認められる甲第九号証の一、二、原告【A】本人の供述により大昭和紙工製造株式会社製造のセーター箱であることが認められる検甲第四号証、野崎印刷紙業株式会社製造の洋服箱であることにつき争いのない検甲第五号証及び証人【H】の証言を総合すると、次の各事実が認められる。
(1) 本件「パリー市鳥瞰図」はフランスにおいては勿論、世界中においてその芸術性を高く評価され、フランス政府観光局発行のパリー市案内パンフレツトにも使用されているところ、原告らは右著作物につきフランス文化の紹介等に使用する場合のほかは、その使用条件を厳しくしていること、
(2) 右著作物の複製物はフランスでは一枚二四フラン、日本では一枚九〇〇円で販売されていること、
(3) 原告【A】は昭和四四年一〇月六日本件著作権等を原告【B】から譲り受けて以来、同人に対し毎年最低限度一万五〇〇〇フランを支払つているところ、本件著作権の対価が右対価の相当の部分を占めていること、
(4) 被告は本件洋服箱を前記期間中一個七、八〇円で販売したが、本件「パリー市鳥瞰図」が未だ日本でほとんど知られていなかつたためその図案の漸新さがうけて、長期間にわたり顧客の人気を得て非常によく売れたこと(5) 原告【A】が代表取締役をしている一華産業株式会社は昭和四五年一月一三日川辺株式会社との間で右著作物につき著作権使用契約を締結して、右川辺がハンカチーフ、スカーフ、マフラーに右著作物を独占的に使用することを許諾するとともに、その対価として、右川辺は一華産業に対し初年度は五〇万円、次年度以降は毎年三五万円を支払うほか、版権使用料としてハンカチーフ一枚につき五円、スカーフ、マフラー各一枚につき三〇円を支払う旨約したこと、
(6) 右一華産業株式会社は昭和四七年三月二日株式会社写真化学との間で本件著作物につき著作権使用契約を締結して、写真化学が金属板及び硝子板製額、壁画等に右著作物を使用することを許諾するとともに、その対価として写真化学は一華産業に対しパリー全図二枚続き一組につき四万円の割合による使用料を支払う旨約したこと、
(7) 日本放送協会はテレビ「たのしいフランス語」のテキストに本件著作物を使用した対価として前記一華産業に対し昭和四七年八月初旬頃四万円を支払つたこと、
(8) 日本航空株式会社は昭和四七年五月中旬頃航空券売場のポスターとして使用するため本件「パリー市鳥瞰図」の複製物一〇〇部を一部一八〇〇円で前記一華産業から購入したこと、
(9) 株式会社大丸は昭和四八年四月中旬頃右著作物を銅板パネル一式に使用することの対価として右一華産業に三〇万円を支払つたこと及び右大丸は同四九年四月下旬右著作物をシヨーウインドー、売場の装飾として四ケ所で二週間使用することの対価として右一華産業に八万円を支払つたこと、
(10) 一華産業株式会社は昭和五〇年七月九日本件「パリー市鳥瞰図」の中央部をセーター箱の図案として無断で複製印刷して右セーター箱を六、〇〇〇個複製造した大昭和紙工製造株式会社との間で同会社は右一華産業に対し著作権使用料相当損害金、慰籍料等として合計七五万円を支払う旨の和解契約を締結したこと、
(11) 右一華産業は昭和五〇年八月三〇日右著作物の中央部を洋服箱の図案として無断で複製印刷して右洋服箱一万〇〇七〇個を製造した野崎印刷紙業株式会社との間で同会社は右一華産業に対し著作権使用料相当損害金、慰籍料等として合計七五万円を支払う旨の和解契約を締結したこと、
(12) 株式会社座右宝刊行会が編集制作し、株式会社小学館発行の「世界歴史の旅」パリ二〇〇〇年(昭和四三年七月)の記事二ケ所に本件「パリー市鳥瞰図」が無断使用され、これが二〇〇〇部販売されたのに対し、一華産業株式会社に著作権使用料相当損害金として二六万円が支払われたこと、
以上の各事実が認められる。
右認定の被告の本件洋服箱の販売数及びその単価、本件「パリー市鳥瞰図」の創作過程、その芸術的評価、その複製物の単価、右著作物のハンカチーフ、スカーフ、ポスター、セーター箱等における著作権使用料等を考慮すると、被告が本件洋服箱を製造販売したことによつて原告らの被つた財産上の損害は二〇〇万円と算定するのが相当である。
鑑定人【C】の鑑定の結果中、右認定に反する部分は前掲原告【A】本人の供述及び成立に争いのない甲第一八号証の記載に照らしてたやすく借信することはできない。
(二) 前記認定の被告の本件著作権侵害行為の態様及び右諸事情等を勘案すると、被告が原告【B】の著作者人格権に対しなした侵害による損害の賠償金は一〇〇万円と認めるのが相当であり、さらに、右原告の毀損された名誉信用について被告に対し主文第二項記載の方法で別紙記載の謝罪広告を掲載させることにより、その回復がされうべきものと認められる。
(三) 前掲原告【A】本人の供述及びいずれも成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三によると、原告【A】は原告【B】から本件著作権を譲り受けるに際して、右譲渡以前の日本における著作権の侵害により発生する一切の損害贈償請求権をも同時に譲り受けたこと及び原告【B】は昭和四八年三月二一日到達の書面で被告に対し同原告の被告に対する右損害賠償請求権を譲渡した旨通知したことが認められる。
(四) 原告【A】は本件権利侵害行為につき、損害賠償請求のほか、更に名誉声望を回復するための措置として別紙記載の謝罪広告を求めているが、右原告【A】の請求は著作者について認められるものであり、特別の事情が認められない本件においては、著作者でない著作権者たる原告【A】はこれを求めることはできないと解すべきである。したがつて、原告【A】の右請求は失当である。
四 結論 以上の事実によれば、本訴請求は、被告に対し原告【A】が、三〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後である昭和四七年三月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告【B】が主文第二項記載のとおりの別紙記載の謝罪広告の掲載を求める限度において理由があるので認容し、原告【A】のその余の請求は失当であるので棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条92条本文を、仮執行の宣言について同法196条1項を適用して主文のとおり判断する。
追加
(別紙)著作権侵害に対するお詫び当社は、【B】殿が著作した地図「パリー市鳥瞰図」を昭和四〇年頃から四五年頃までの間、無断で洋服箱および包装紙の図案に使用して製造、販売し、かつ、右偽作物には右著作者の氏名を秘匿したばかりか、重要な部分を改ざんして著作者の名誉を侵害したことは誠に申訳けないことであり、ここに深くお詫び致します。
昭和年月日大阪市<以下略>日本ケース株式会社右代表者取締役【I】【B】殿
裁判官 大江健次郎
裁判官 渡辺昭
裁判官 北山元章