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事件 昭和 54年 (モ) 7991号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1979/08/31
権利種別 著作権
訴訟類型 民事仮処分
主文 債権者と債務者間の東京地方裁判所昭和五四年(ヨ)第二五四二号著作権仮処分申請事件について、当裁判所が昭和五四年五月二二日なした仮処分決定は、これを認可する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 債権者 主文同旨の判決二 債務者 主文第一項記載の仮処分決定を取消す。
債権者の本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用は債権者の負担とする。
との判決
当事者の主張
(債権者の主張)一 本件異議申立の適否について 本件異議申立は、異議申立の利益を欠き不適法として却下されるべきである。すなわち、異議申立をする場合、申立の適法要件として異議申立の利益が必要である。そして異議申立の利益とは、当該保全処分命令のもつ効力の排除を主張する正当の利益をいうのであって、仮処分の内容に一定の時期的制限がある場合、すなわち期限付に効力が認められた仮処分決定に対しては、その一定の時期経過後は、仮処分命令のもつ効力の排除を主張する正当の利益がないというべきである。しかるところ、本件仮処分決定は右にいう一定の時期的制限がある仮処分決定であるから、その最終の時期である昭和五四年六月一三日を経過したことにより、債務者は、結局、本件異議申立の利益を有しないこととなつた。
二 申請の理由1 債権者は、別紙第一目録記載の楽曲(詞・曲を含む。以下、「本件楽曲」という。)の著作権者である。
2 債務者は、「ビートルズ」の四人のメンバーに扮して本件楽曲等を演奏(歌唱も含む。以下同じ)することを目的として結成されたところの、A、B、C、Dの四人からなるグループが本件楽曲を演奏することを主たる内容とする「ビートル・フイーバー」の公演(以下、「本件公演」という。)を日本で行うことを企画して、同グループを日本に招聘し、右企画に基づいて別紙第二目録記載の年月日に、
同目録記載の場所で本件公演を主催及び実施した。そして債務者は、今後別紙第三目録記載の年月日に、
同目録記載の場所で、本件公演を主催及び実施した。そして債務者は、今後別紙第三目録記載の年月日に、同目録記載の場所で、本件公演を継続する予定であつて、
右公演において本件楽曲を演奏する予定である。
3 債権者は、昭和五四年七月ころに日本で開催予定の「ビートルマニア」という公演において、本件楽曲を演奏することを許諾しており、「ビートルマニア」は、
「ビートルズ」の四人のメンバーに扮したところの四人の音楽家が「ビートルズ」の四人のメンバーの演奏と極めて類似する演奏を行うものであつて、アメリカ・ニユーヨーク市・ブロードウエイにおいて長期公演をなして極めて好評を博した。ところで、本件公演は「ビートルマニア」の公演を模倣し、これと極めて類似する内容のものであるから、仮に本件公演が予定通り全て開催された場合には、「ビートルマニア」の日本における公演が中止される公算が大きく、また中止されないまでもその公演に対する影響は多大なものがあり、その結果債権者は不測の損害を蒙るおそれがある。
4 よつて、債権者は、東京地方裁判所昭和五四年(ヨ)第二五四二号著作権仮処分申請事件について同裁判所が昭和五四年五月二二日になした、「債務者は別紙第三目録記載の「ビートル・フィーバー」の公演において、別紙第一目録記載の楽曲を演奏してはならない。」旨の本件仮処分決定の認可を求める。
(債務者の認否)三1 本件異議申立の適否についての債務者の主張は、争う。
2 申請の理由1の事実は認める。
3 同2の事実のうち、グループのメンバーのうちの二人がA、Dであること、債務者が別紙第二目録記載の年月日に、同目録二記載の場所で本件公演を主催及び実施したこと、債務者が別紙第三目録記載の年月日に、同目録記載の場所で本件公演を継続する予定であつて同公演において本件楽曲を演奏する予定であることは否認し、その余は認める。しかして、本件公演において演奏を予定されているのは、本件楽曲のうちの一部であるから、演奏を予定されていない楽曲については、演奏するおそれがなく、本件差止めの対象としえない。また債務者は、別紙第三目録記載の年月日に、同目録記載の場所における本件公演を主催するものではなく、債務者との契約により本件公演の主催者となることを承諾した第三者が右公演を主催するのであつて、債務者は、本件公演において前記グループの演奏曲目の選定及び舞台の進行について関与することを許されていないから、債務者は本件楽曲の演奏を行うもの(主体)ではない。
4 同3の事実中、前段は不知、後段は否認する。
本件公演は、債権者の主張する「ビートルマニア」の公演とその態様において類似するものではない。すなわち、本件公演は、単に本件楽曲(ただしその一部)を忠実に演奏するだけであつて、右楽曲を改変したり、これをドラマや説話体やミユージカルにしたりしてはいないし、舞台上で使用する機械器具あるいはフイルムの映写は、右演奏に対していかなる作用も及ぼしていないのである。また、以下に述べるとおり、本件仮処分の必要性はない。すなわち、本件仮処分申請が認容されて本件楽曲の演奏が差止められた場合には、債務者の蒙る損害は甚大であり、それを後日回復させることは、債権者が外国に住所を有している法人であつてその資産、
信用性につき疑問もあることから、ほぼ絶望に近い。これに反し、本件公演がなされたとしても、いわゆる音楽的興行の成績はその興行の回数を重ねるに従つて上昇するものであるから、本件公演の成功はすなわち「ビートルマニア」の公演の成功への「呼び水」たる意義をもつものであつて、本件公演により「ビートルマニア」の動員観客数が増加し、その結果債権者は利益を受けることがあつても、損害を蒙ることは全くない。
(債務者の抗弁)四 債権者は、社団法人日本音楽著作権協会(以下、「協会」という。)に対し、
本件楽曲について、著作権の管理権を信託譲渡した。しかして協会は、この管理権に基づき、使用許諾権、使用料徴収権並びに無断使用者に対する使用差止請求権を有するに至つたから、著作権者である債権者は債務者が本件楽曲を債権者の許諾なく演奏したとしても、協会との右信託譲渡契約の結果、債務者に対し、本件楽曲の使用すなわち演奏の差止めを請求する権利を有しない。
(抗弁に対する債権者の認否)五 争う。
証拠関係(省略)
理 由一 本件異議申立の適否について判断する。
債権者は、本件仮処分決定が、その内容において期限付に効力が認められた、いわゆる時期的制限がある仮処分決定であつて、その最終の時期である昭和五四年六月一三日を経過したことにより、債務者は本件異議申立の利益を有しない旨主張する。しかしながら、仮処分異議については、異議申立をすべき期間について特段の定めはなく、何時でも異議申立ができるものと解すべきであるのみならず、本件のように、一定の時期における債務者の一定の行為の禁止を命じた仮処分決定であつて、かつ本件口頭弁論終結時においてはすでにその時期が経過していても形式上仮処分決定が存在する以上は、債務者において右決定の除去を求める利益を有していると解するのが相当であるから、本件異議申立は適法である。これに反する見解は、当裁判所の採らざるところである。よつて債権者の主張は採用しない。
二1 (1)債権者が本件楽曲の著作権者であること、(2)債務者が、「ビートルズ」の四人のメンバーに扮して本件楽曲等を演奏することを目的として結成されたところの、B、Cほか二名からなるグループが本件楽曲を演奏することを主たる内容とする本件公演を日本で行うことを企画して、同グループを日本に招聘し、別紙第二目録一、三記載の年月日に、同目録一、三記載の場所における本件公演を主催及び実施したことは、当事者間に争いがない。
2 成立に争いがない疎甲第一二、第一五、第一七、第三三、第三四号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎甲第一八、第二三、第三六号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、債務者は別紙第三目録記載の年月日に、同目録記載の場所における本件公演において本件楽曲を演奏するおそれがあると、一応認められる。
ところで、債務者は本件公演において演奏を予定されているのは、本件楽曲のうちの一部であるから、演奏を予定されていない楽曲については、演奏するおそれがない旨主張する。しかしながら、当事者間に争いがない前記1(2)の事実並びに前掲疎甲第二三号証によれば、本件公演は「ビートルズ」の四人のメンバーがかつて演奏した楽曲を演奏することを目的としており、かつ、本件公演におけるA、Cほか二名(いずれも取下前の本件仮処分申請事件債務者であること本件記録上明らか)は本件楽曲の殆んどを演奏できる能力と技術をもつていることが一応認められ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、右認定事実によれば、本件楽曲中、本件公演において演奏を予定されていない旨債務者が主張する楽曲についても、演奏するおそれがあるものと断ぜざるをえない。
よつて、債務者の右主張は採用できない。
また債務者は、別紙第三目録記載の年月日における同目録記載の場所での本件公演は債務者がこれを主催せず、債務者との契約により本件公演の主催者となることを承諾した第三者が右公演を主催すること、債務者が本件公演において前記グループの演奏曲目の選定及び舞台の進行について関与することを許されていないことを理由に、債務者は本件楽曲の演奏を行うもの(主体)ではない旨主張するので検討するに、当事者間に争いがない前記1(2)の事実に、成立に争いがない疎甲第一九号証の一ないし三、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙第一、第一四号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によつて認められるところの、債務者が別紙第三目録記載の年月日に、同目録記載の場所における本件公演を全て企画したこと、右各公演については、いずれも債務者との契約により第三者が主催者となること、債務者は本件公演により経済上の収益を得ることができることの各事実とを総合すれば、債務者は個々の公演の主催者を選定しうる立場にあり、
しかも、債務者の主張する如く、債務者が本件公演において前記グループの演奏曲目の選定及び舞台の進行について関与することを許されていないとしても、右グループは本件楽曲の演奏を債務者から独立して行うのではなく、あくまでも債務者の企画に基づいて行うのであり、かつ、債務者は本件楽曲の演奏によつて経済的利益を収めうる地位にあるのであるから、このような場合には、本件楽曲の演奏は企画者としての債務者の行為と解するのが相当である。
3 そこで、債務者の抗弁につき判断する。
前掲疎甲第一二、第一七、第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二三(ただし第二項は除く。)第三六号証、成立に争いがない疎甲第三五号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎甲第一一、第三七、第三九、第四二ないし第四四号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が一応認められる。
(一)債権者は、昭和五二年二月一日、株式会社新興楽譜出版社との間で、本件楽曲に関する契約を締結する際、本件楽曲を「ビートルズ」のグループ又はそのメンバーをテーマとするなどの演劇の上演において又はこれに関連して使用(演奏)することを他へ許諾する権利を自己に留保しつつ、そのような演劇の上演に伴わず、
又はこれと関連をもたずに使用(演奏)する場合につき、右契約により本件楽曲の使用(演奏)を他へ許諾する権利を株式会社新興楽譜出版社に付与したこと。
(二)その後株式会社新興楽譜出版社は、債権者から付与された、本件楽曲の使用(演奏)を他へ許諾する権利を協会へ信託譲渡したこと。
(三)本件公演は、B、Cほか二名がそれぞれ「ビートルズ」の四人のメンバーに扮して登場して本件楽曲を「ビートルズ」の四人のメンバーが行つた演奏そのままに演奏すると同時に、舞台中央のスクリーンに一九六〇年代の「ビートルズ」全盛時の社会的事件並びに「ビートルズ」の公演の実況が映写され、これら演奏とスクリーンの映写とが融合して、「ビートルズ」そのものを表現していること。
以上の事実が認められ、疎乙第四号証はいまだ右認定を左右するに足りず、疎甲第二三号証(第二項)、疎乙第一、第一一、第二二号証は前掲各証拠に照らしてにわかに採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
以上の認定事実を総合すれば、本件公演はまさに「ビートルズ」そのものを描くところの音楽劇であつて、その中で本件楽曲が使用すなわち演奏されているものと解すべきところ、このような態様における本件楽曲の演奏について許諾を与える権利を有しているのは債権者であつて協会でないのであるから、債務者が債権者の許諾を得ることなく、本件公演において本件楽曲を演奏するおそれがある場合には債権者においてその差止請求をなしうるものといわなければならない。
よつて、債務者の抗弁は採用できない。
4 次に本件仮処分の必要性について判断する。
前掲疎甲第二三号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎甲第一三、第四〇号証を総合すれば、債権者主張の申請の理由二3の事実を認めることができ、右認定に反する疎乙第一一、第二二号証は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれば、債権者は債務者の本件公演における本件楽曲の演奏により著しい損害を受けるおそれが強いから、債権者においてその損害を避けるために本件仮処分の必要があるといわなければならない。
三 以上の次第であるから、債権者の本件仮処分申請は認容すべきものであり、債務者の本件異議申立は理由がないので、本件仮処分決定を認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 塚田渥
裁判官 水野武