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関連ワード 創作性 /  著作者 /  翻案 /  同一性 /  著作者人格権 /  氏名表示権 /  同一性保持権 / 
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事件 昭和 58年 (ワ) 747号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1986/03/03
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五八年二月六日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、その費用をもつて原告のため、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、サンケイ新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面広告欄に、二段四分の一の紙面をもつて、別紙(一)記載の謝罪文を各一回掲載せよ。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 1及び3につき仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨
当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、政治、政党問題の評論家として著名であつて、政党及び政治家の政策の広報宣伝等に関する分野についてはその草分けとして名を知られている人物である。
2 原告は、昭和五七年一二月一一日頃、被告の依頼により、週刊サンケイ一九八三年新年合併号(以下、「本件週刊誌」という。)に掲載するため、来るべき総選挙において全国一三〇選挙区より立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下との意味で、○△▲の符号を付し、右原稿を同月一三日被告に手交した。
3 右当落予想は、原告の永年にわたる調査研究と日頃より努力して集めている政界の情報をもとに独自に考慮し、研究した結果を記述したものであつて、原告の政治評論家としての名誉と信用をかけた苦心の著作物である。したがつて、原告は、
右当落予想に関する原稿(以下、「原告原稿」という。)の作成によつて、その著作権を取得した。
4 被告は、本件週刊誌中に、「総合調査、さあ総選挙だ!反角か容角か一三〇全選挙区当落ズバリ予想」なる題名の記事(以下、「本件記事」という。)を掲載して、昭和五七年一二月二三日、日本全国において発売した。そして、右記事中に、
原告原稿を「一三〇選挙区ズバリ予想」の項の記載記事(以下、「本件当落予想表」という。)として掲載したが、その際、次の点において、原告の著作者人格権を侵害した。
(一) 本件当落予想表に、著作者である原告の氏名を表示しなかつたのみならず、かえつて右著作物を被告独自の調査に基づくかのように「……以下は本誌が行つた当落予想……」と本件記事冒頭に記述して、原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害した。
(二) 被告は、原告原稿の別紙(二)の原告の記載した符号欄記載の符号を、被告の改変した符号欄記載の符号のとおりに一部改変して本件当落予想表を掲載し、
原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
5 原告は、前項記載の被告の著作者人格権の侵害により、政治評論家としての名誉、声望を著しく傷つけられた。これに対する慰藉料としては、金銭に評価することが至難ではあるが、一応金一〇〇万円をもつて相当と考える。
また、原告の名誉、信用及び声望を回復するためには、請求の趣旨2記載の方法による謝罪広告を掲載させる必要がある。
6 よつて、原告は、被告に対し、著作者人格権侵害による慰藉料として金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年二月六日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い並びに被告の費用をもつて、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、サンケイ新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面広告欄に、二段抜き四分の一の大きさの紙面をもつて、別紙(一)記載のとおりの謝罪文を各一回掲載することを求める。
二 請求の原因に対する認否1 請求の原因2の事実は、以下の点を除いて認める。即ち、被告が原告に当落の予想を依頼したのは、昭和五七年一二月九日であり、被告は原告の当落予想をそのまま本件週刊誌に掲載すると約したことはなく、後述のとおり取材の一方法として、たたき台として作成を依頼したにすぎない。
2 同3の事実は否認する。
原告が行つた作業は、被告において情報等を各所より収集検討の結果作成した立候補予定者名簿に常識的な当落予想の符号を付したにすぎず、選挙について一定の知識経験があれば当然なしえる程度のものであつて、独創性は認められず、したがつて、著作権の成立する余地はない。
3 同4の事実中、
被告が本件記事及び本件当落予想表を掲載した本件週刊誌を、昭和五七年一二月二三日、日本全国において発売したこと、本件当落予想表に原告の氏名を表示しなかつたこと、本件記事冒頭に、「……以下は本誌の行つた当落予想……」と記述したこと、原告原稿の別紙(二)の原告の記載した符号欄の符号と、本件当落予想表の符号とは、別紙(二)の被告の改変した符号欄記載の符号のとおり一部異つていることは認めるが、その余は否認する。
4 同5は争う。
なお、被告は、本件当落予想表につき、原告の氏名を掲載していない旨原告から抗議を受けたので、次号(昭和五八年一月二〇日号)の週刊サンケイの編集後記の欄に、本件当落予想表の作成については、原告の協力をえた旨の記載を行つた。したがつて、仮に原告の名誉等が傷つけられたことがあつたとしても、その回復は既に十分行われている。
三 被告の主張1 本件記事及び本件当落予想表は、被告が、株式会社産業経済新聞社(以下、
「サンケイ新聞」という。)の地方支局、地方新聞社、各政党等多方面にわたつて最新の情報を求めて取材した結果に基づいて作成したものであつて、原告原稿は、
当落予想に関する取材の一方法として、たたき台として作成を依頼し、被告において受領したものにすぎない。そして、単なる一取材源については、記事中に氏名を表示することは必要ないし、物理的にも不可能である。
本件記事及び本件当落予想表の作成過程は、次のとおりである。
(一) 被告は、昭和五七年一一月二四日、本件週刊誌の目玉企画として、総選挙予想を掲載することを決定し、直ちにA(以下、「A記者」という。)を担当者に選任した。
被告は、過去にも選挙予想に関する企画をたて、週刊サンケイ誌上に掲載している。それには、政治評論家の二、三名がそれぞれ作成した候補者名簿と当落予想を付した表を記事または座談会形式とあわせて掲載するか、編集部独自で取材し、それに基づいて記事と予想表を掲載するかの二つの方法があるところ、本件の企画は、必ずしも選挙の時期が明確ではなかつたので、編集部が独自に取材した方法で掲載するとの方針をとつた。
A記者にとつて、最も重要なことは、立候補予定者名簿の入手ないし作成であつたが、これは同月二七日に自由民主党関係者を通じて入手でき、これをもとにサンケイ新聞の各地方支局、地方新聞社、各政党本部等に候補者の顔ぶれ予想及び当落予想を取材し、同年一二月九日には、立候補予定者名簿及び当落予想をほぼ完成することができた。なお、その頃担当者にB(以下、「B記者」という。)が加わつた。
(二) A及びB記者は、被告の編集部次長C(以下、「Cデスク」という。)の指示もあり、既に完成した名簿と当落予想について正確を期する意味で、同年一二月九日、原告を訪れ取材をした。A記者は、当落の予想を依頼するに当たり、立候補予定者名簿は既に完成し、当落予想も済んでいるので、今回は被告独自の予想とするとの考えを原告に示したところ、原告は、これには了解したが、自らのデータが不足している様子で、取材にはあまり協力的ではなかつた。しかしながら、A記者が持参した立候補予定者名簿を示すと、大変よくできた名簿であると述べ、俄然取材に協力的になり、同月一一日までには、右名簿に当落の予想を付して交付する旨約した。
(三) 原告は、約束に反し、同月一一日には名簿を交付してくれず、同月一三日、B記者が原告宅に赴くと、B記者を前にして、政治ハンドブツクを片手に、前回の総選挙の結果をみながら当落予想を付する作業を行つた。このようにして作成された原告原稿は、到底最新情報を網羅するような内容のものではなかつた。
(四) A記者は、同月一五日、一六日の両日、サンケイ新聞の各地方支局等を再度取材し、最新情報を収集し、それと従前から蓄積されていた資料等をもとに、原告原稿とA記者の取材による当落予想とが異る場合には、A記者のそれを優先させて、本件記事及び本件当落予想表を完成させて、原稿締切り間際にようやく入稿を終えた。
(五) 同月二一日、各新聞夕刊は、一斉にそのトツプに中曽根総理大臣が衆議院の解散を示唆したとの記事を掲載した。原告は、当夜たまたま講演の予定があり、
そこで本件週刊誌でタイミングよく選挙予測をしている旨を公表しようと考え、被告から本件週刊誌の刷本を届けさせたところ、原告の氏名が全く掲載されていないことを知り、Cデスクに対し強い調子で抗議した。Cデスクは、原告との永年の付合いから問題をこじらせることを恐れ、前記のとおり次号の週刊サンケイの編集後記において、本件当落予想表の作成については原告から協力をえた旨の記載を行つた。
2 原告は、本件当落予想表に、原告の氏名を掲載しないことを応諾した。
即ち、昭和五七年一二月九日、A及びB記者が、原告に対し、原告が当落予想を付した原稿を本件週刊誌に掲載する際には、原告名を表示するか否か問うたところ、原告は、どちらでもよい旨答えた。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論1 被告の主張1冒頭の事実及び同2の事実は、否認する。
原告は、自己の仕事ことに選挙の当落予想については責任と誇りをもつてこれを行つてきており、何人のためにも単なるたたき台にすぎない仕事をしたことはない。
2 原告原稿作成の経緯及びその後の原、被告間の紛争の経緯は、次のとおりである。
(一) 原告は、被告から本件記事についての取材の申込を、昭和五七年一二月初めより受けていたが、同月一〇日、A及びB記者が原告方を訪問し、原告に対し、
被告において作成した総選挙における選挙区別立候補予定者名簿を呈示し、その記載内容の添削を求めた。原告は、右求めに応じ、名簿の一部につき誤りを訂正するなどして一応の添削をしたが、なお再調査確認するよう両記者に指示した。
(二) 翌一一日、被告の従業員が前日の添削部分を修正した名簿のコピーを原告方に持参し、原告に対し、右各立候補予定者氏名の上欄空白部分に、次回総選挙の当落予想の記入を求めた。
そこで、原告は、右求めに応じ、翌一二日、一日がかりで過去の投票結果から算出した資料と諸々の情報を勘案の上、右名簿に請求の原因2記載のとおりの符号を付した。
(三) 原告は、原告原稿を同月一三日、B記者に手交したが、その際、記事の中に原告の予測であることを必ず明記するよう求め、同記者もこれを了承した。
(四) 同月二一日に至り、原告は、原告原稿中に、各政党の参議院議員選挙公認候補者名簿記載者が記載されていたことに気付き、この点の訂正を求めるべく被告に連絡したところ、既に入稿してしまつたとの回答を受けた。そこで、原告は、被告から刷本の提出を受けて、当該部分を読んだところ、原告原稿の当落予想をほとんどそのまま記事にしているにも拘らず、右記事の冒頭部分に「……以下は本誌が行つた当落予想……」との記載があり、原告の氏名は全く記載されていないことを発見した。
(五) 原告は、直ちに被告のCデスクに対し、原告の予測による記事であることを明記すること、つまり、一部刷り直しを要求したが、Cデスクは、「私に免じて勘弁してもらいたい」というのみで、訂正に応じないまま本件週刊誌を発行してしまつた。
証拠(省略)
理 由一 原告が、被告の依頼により、来るべき総選挙において全国一三〇選挙区から立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下との意味で、○△▲の符号を付し、右原稿(原告原稿)を昭和五七年一二月一三日被告に手交したこと、被告は、本件週刊誌中に本件記事及び本件当落予想表を掲載して、同月二三日、日本全国において発売したこと、本件当落予想表には原告の氏名は表示されておらず、本件記事冒頭には、「……以下は本誌が行つた当落予想……」との記述があること、原告原稿の別紙(二)の原告の記載した符号欄の符号と、本件当落予想表の符号とは、別紙(二)の被告の改変した符号欄記載の符号のとおり一部異つていることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告原稿が原告著作にかかる著作物といえるかについて検討する。
原告原稿が著作物といえるためには、そのものが思想又は感情を創作的に表現したものであること、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであることが必要である(著作権法第2条第1項第1号)ところ、「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指すものと解され、「創作性」は、厳格な意味で独創性とは異り、
著作物の外部的表現形式に著作者の個性が現われていれば十分であると解され、
「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属す」というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。
そうすると、成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果によると、原告原稿は、各立候補予定者氏名上に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下なる同種記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために、符号を付したものであり、原告の、知的精神活動の所産と解され、その表現形式に原告の個性が現われていると認められるから、原告著作にかかる著作物ということができる。
三 原告は、被告が原告原稿を本件週刊誌に本件当落予想表として掲載した旨主張するので、以下、本件記事及び本件当落予想表の作成過程につき判断し、右原告の主張につき検討を加える。
1 前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、第三号証、乙第一号証並びに証人C及び同Aの各証言によると、次の事実が認められる。
(一) 被告は、週刊サンケイ編集長らにおいて、昭和五七年一一月二四日、本件週刊誌最大の企画として、衆議院議員の全選挙区の当落予想をすることに決定し、
編集部次長のCを担当デスクとし、A記者を担当として取材活動に直ちに着手させた。
(二) 当時は、総選挙の時期も未だ明確でなかつたため、立候補予定者名簿の作成ないし入手は困難が予想されたので、A記者は、同月二四日、直ちに、政治評論家であるD、E及び原告に連絡をとつて、立候補予定者名簿の入手方と当落の予想についての取材協力を仰いだところ、Dからは、自由民主党関係筋から立候補予定者名簿を入手して渡してくれるとの確約がえられたが、Eからは、データの不足を理由に即座に取材を断られ、原告は、一週間後に再度連絡してくれとの応答であつた。
(三) 被告は、本件記事以前にも、選挙の当落予想に関する企画をたて、週刊サンケイ誌上に掲載しているが、
政治評論家の行つた当落予想を一覧表にして氏名入りで掲載する場合には、公正をはかるため、必ず複数の政治評論家のそれを掲載しているところ、本件の際には、
複数の政治評論家から当落予想をしてもらえる見込みがつかなかつたことから、Cデスクは、本件週刊誌では被告独自の取材としての当落予想をするとの方針をたてた。
(四) 同月二七日頃に、Dから衆議院議員の立候補予定者名簿を入手することができたので、Cデスク及びA記者は、右名簿をもとに、立候補予定者の確認と、当落予想のため、サンケイ新聞の各地方支局、北海道新聞、西日本新聞などの地方新聞社、代議士秘書などから取材し、同年一二月六日には、立候補予定者の当落の予想も含めた名簿をほぼ完成することができた。
その間、A記者は、約束に従い同月二日頃再び原告に取材協力を仰ぐべく連絡をとつたところ、原告は、今の段階ではデータもそろつていないし、もう少し後にしたらどうかとの返答で、取材協力をえられなかつた。なお、同月七日頃には、本件記事の担当にB記者も加わつた。
(五) Cデスクは、従前から原告に世話になつていることもあり、同月六日原告宅へ手土産を持参して赴いた際、本件記事の作成についての取材協力をも依頼したところ、原告は、今選挙の予想をしても面白くないよとの返答であつた。しかし、
その後、Cデスクは、A記者に対し、その頃完成した立候補予定者名簿と当落予想の正確性を期するために、原告方を訪れて原告からも取材するように指示を与えた。
(六) 同月九日、A、B両記者は、原告に対し総選挙に関する総論的な部分のための取材をし、かつ被告で作成していた立候補予定者名簿と当落予想の正確性を期するため、選挙の当落予想の専門家である原告宅へ赴いた。しかしながら、原告も未だデータが十分でなく、目新しい情報の収集はできなかつたので、A記者は、既に作成していた立候補予定者名簿を原告に示して、これに当落の予想を付して欲しい旨依頼したところ、原告はこれを応諾した。なお、その際、A記者は、右名簿の、自由民主党の各派閥名の若干の訂正を、原告からの指導により行つた。
原告は、同月一三日、原告方を訪れたB記者に原告原稿を手交した(同日、原告が被告に原告原稿を手交したことは、当事者間に争いがない。)。
(七) Cデスク、A及びB両記者は、原告原稿の受領後、右原稿を含めて、既に行つていた当落予想を再チエツクするため、サンケイ新聞の各地方支局、各選挙区の各政党選挙事情通などに再度取材をし、本件当落予想表を完成させ、あわせて本件記事も作成して、原稿締切間際の同月一五日には、入稿を終えた。
なお、原告原稿と本件当落予想表とは、別紙(二)の原告が記載した符号欄と、
被告が改変した符号欄記載のとおり相違している(右の点は当事者間に争いがない。)が、その余の部分は、両者とも付されている符号は同一である。
前記認定の範囲においては、原告本人の供述も、必ずしもこれに反するものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定の事実によると、本件当落予想表は、Cデスク並びにA及びB両記者が、Dを通じて自由民主党関係筋から入手した総選挙立候補予定者名簿をもとに、
これにサンケイ新聞各地方支局、北海道新聞、西日本新聞の各地方新聞社、各政党選挙事情通などへの取材により得た情報による加筆訂正を行い、あわせて右情報源のほか選挙当落予想の専門家である原告から入手した原告原稿をも一つの取材源として当落の予想をして、作成したもので、原告原稿は、本件当落予想表中に換骨奪胎されて、一つの素材として利用されているにすぎないものと認められる。
なお、本件当落予想表は、原告原稿の当落の予想と同一の部分も相当数あるが、
それが、衆議院議員の選挙についての当落予想表という性格上、被告において、前記のとおりの各取材源からの情報を総合してなした予想が、原告のそれと同じ結論となることは十分に考えられるところであり、また、ある程度当選が確実視されている立候補者など、何人が当落の予想をしても同じ判断になるであろう部分も相当存するものといえるので、本件当落予想表と原告原稿の当落の予想が同一である部分が相当数あることをもつて、前記認定が左右されるものではない。
したがつて、本件当落予想表は、原告原稿を掲載したもの即ち、原告原稿を複製ないし翻案したものということはできない。
3 原告本人の供述中には、単に本件当落予想表作成のためのたたき台となるだけの当落予想の仕事であれば、原告はやらなかつた旨の部分が存し、原告原稿を著作した原告の意図と、これを利用した被告の意図とが、両者の意思の疎通を欠いたことにより喰い違つていた可能性は捨て切れないものの、前認定のとおりの事実によれば、これをもつて著作者人格権の侵害と構成しうるものではない。
また、原告本人の供述中には、原告は、B記者に対し、原告原稿を本件週刊誌に掲載する際には、原告の氏名を必ず掲記するように指示したとの部分が存するが、
同部分は、証人C及び同Aの各証言と相反するのみならず、前示認定の本件当落予想表の成立の経緯からみて、このような指示がされたことは、極めて不自然であつて、右原告本人尋問の結果のみをもつてこれを認めることはできないし、たとえ、
それが真実であつたとしても、前示認定のとおり、本件当落予想表は、原告原稿の複製又は翻案ではないのであるから、原告の氏名をこれに付する義務が生ずるものでもない。
四 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙(一)謝罪文週刊サンケイ一九八三年新年合併号に掲載した「130全選挙区当落ズバリ予想」は、政治評論家(株式会社政治広報センター代表取締役)Fが判定した当落予想であつたにも拘らず、あたかも本誌独自の当落予想であるかのように「……以下は本誌が行つた当落予想……」と報道し、かつ、無断で一部改変をなしたことは、
Fの著作者人格権を侵害する不法行為であることを認め、このことを深く謝罪し、
今後このような行為をしないことを約束します。
株式会社サンケイ出版代表取締役GF殿別紙(二)<12602-001><12602-002><12602-003><12602-004>
裁判官 元木伸
裁判官 飯村敏明
裁判官 高林竜