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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ネ3575著作権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許権
平成10ネ2983著作権使用料等請求控訴事件 判例 特許権
昭和58ワ1367 判例 特許権
昭和58ワ4872 判例 特許権
平成11ワ8996著作権侵害差止等請求事件 判例 特許権
関連ワード 著作物性 /  創作性 /  創作的表現 /  著作者 /  固定 /  アイデア /  表現方法 /  応用美術 /  美術工芸品 /  実用品 /  模様 /  翻案 /  複製物 /  同一性 /  類似性 /  編集著作物 /  法人等の発意 /  法人等の業務 /  引用 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 平成 4年 (ワ) 1958号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1995/03/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
一 被告は、別紙カタログ目録記載のカタログを複製してはならない。
二 被告は、既に作成済みの右カタログ、その原版フィルム及び刷版を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金五九九万円及びこれに対する平成四年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 第三項につき仮執行の宣言
事案の概要
一 事実関係1 【A】及び原告によるカーテン用副資材等のカタログの作成(証人【B】〔以下「【B】」という。〕、原告代表者本人、弁論の全趣旨) 原告代表者【A】(以下「【A】」という。)は、「アングル」の商号で個人として、広告媒体の企画デザイン業を営んでいたが、カーテン用副資材等を製造販売する株式会社パロマインテックス(平成三年一月までの商号は株式会社杉村製作所。以下「パロマ」という。)の依頼で、昭和六二年から毎年、パロマの顧客にその商品を紹介するため商品の写真等を掲載した総合商品カタログを企画制作していた。【A】は、平成二年五月三一日に有限会社アングルすなわち原告を設立し、以後は、原告が、毎年パロマの商品カタログを作成するようになった。【A】又は原告が平成三年までに発行したパロマ商品のカタログは、以下のとおりである。
(一) 1987-1988 CATALOGUE(昭和六二年発行、甲第三号証。以下「原告旧カタログ1」という。)(二) 実用+感性 CATALOGUE’89-’90(平成元年発行、甲第四号証。以下「原告旧カタログ2」という。)(三) Paloma CATALOGUE’90-’91(平成二年発行、甲第一二号証。以下「原告旧カタログ3」という。)(四) Paloma CATALOGUE’91-’92(平成三年発行、甲第一号証。以下「本件カタログ」という。)2 被告の行為(弁論の全趣旨) 被告は、パロマ同様、カーテン用副資材等の製造販売を業とするものであるが、
平成三年ころから、自社の商品を紹介するため、商品の写真等を掲載した別紙カタログ目録記載のカタログ(甲第二号証。以下「被告カタログ」という。)をデザイン事務所「ビーンズ」に依頼して制作し、頒布している。
二 原告の請求 原告は、本件カタログに掲載されたパロマの商品の写真、説明文、図表等のうち別紙対比表下段記載の写真ないし図版(以下、総称して「本件写真」という。)並びに上飾りの芯地の裁断方法に関する図版及び説明図(以下「本件説明図」という。)についての著作権及び本件カタログ全体についての著作権(編集著作権及び本件カタログ自体を一個の著作物とみた著作権)を主張し、被告カタログはこれら著作物の複製(又は翻案)に当たるとして、被告に対し、著作権法112条1項及び二項に基づき、被告カタログの複製の停止並びに既に作成済みの被告カタログ、
その原版フィルム及び刷版の廃棄を求めるとともに、同法114条、民法709条に基づき、原告に生じた企画デザイン料相当損害四〇〇万円、無形損害一〇〇万円、弁護士費用九九万円の合計五九九万円及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成四年三月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
三 争点1(一) 本件カタログに掲載された本件写真及び本件説明図は著作物に該当するか。
(二) 本件カタログは全体として編集著作物に該当するか。
(三) 本件カタログは全体として一個の著作物に該当するか。
2 著作物に該当するものについて、原告に著作権が帰属するか。
3 被告カタログは、原告の著作物の複製(又は翻案)物に当たるか。
4 被告が損害賠償責任を負う場合、原告に賠償すべき損害の額。
争点に関する当事者の主張
一 争点1について【原告の主張】1 本件カタログに掲載された本件写真及び本件説明図は著作物に該当するか。
(一) 写真の著作物性 著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情」については、著作者の「考え、気持ち」ぐらいの広い意味にとらえるべきであること、同じく「創作的」についても、著作者の個性が著作物の中に何らかの形で表れていれば十分であることについて学説判例上ほとんど異論をみない。
これを写真の著作物についてみると、写真の撮影は本来機械的な操作を行い、対象物を印画紙上に映像として固定するものであるが、その過程では、被写体の選定、被写体及び背景の配置、構図の決定、光量の調整(露光、シャッター速度等の決定)、色彩の配合など製作者の精神作業(創作活動)が介在し、このような製作者の創作活動が、結果として撮影された写真に反映してそれぞれの異なった表現の写真が作成されるのである。換言すれば、被写体の選定、構図の決定、光量の調整等、写真撮影の諸要素の全部又は一部に製作者の個性の反映としての精神活動(ただし、それは特殊なものでなく、「考え、気持ち」程度でよい。)が創作的に表現されている写真は著作物であるといってさしつかえない。
ところで、右のような写真の著作物性を基礎づける諸要素は、いずれの写真においても一律にみられるものではなく、写真の製作目的や被写体の種類によって相違する。写真の構図やシャッターチャンスについても、被写体が行列行進のように動的な対象物である場合、被写体は撮影者の意思と独立して存在するのであるから、
撮影者はそのモメントと視点を選択して撮影するのに対して、静的な対象物の場合、静物、動物にかかわらず、撮影者があらかじめアレンジした全体を調和のあるイメージとして創造するように撮影するときは、被写体の配列、被写体と背景との関係(コントラストや色彩の調和)、アレンジといった要素の選択が撮影者の重要な創作行為となってくる。本件カタログの各写真は、いずれもカーテン用副資材を被写体とするものであるから、後者に該当する写真であり、カーテン用副資材の配置や背景との調和、ライティング等に工夫をすることによって、一定のアレンジを加え、全体として調和のあるイメージを創造することに撮影者の創作活動の重点がある。
さらに、本件写真を掲載した本件カタログは、顧客にパロマの製品であるカーテン用副資材の用途、機能を理解させるだけでなく、本来地味な存在のカーテン用副資材を豪華で面白く表現することにより、無味乾燥なものになりがちな商品カタログを豪華な見ごたえのあるものにし、ひいてはパロマの企業イメージを豊かなものにすることを目的として制作されている。
したがって、本件カタログに掲載されている本件写真も、被写体であるカーテン用副資材の用途、機能を説明する目的のみのために製作される純粋の商業写真ではなく、前記のような本件カタログの制作意図を達成するために、被写体の配置の仕方、構図のとり方、さらには複数の写真を合成する手法等に製作者独自の創造性が認められる写真であるといってよい。
(二) 本件写真の著作物性 右(一)に述べたところに照らし、本件カタログに掲載されたパロマの商品の写真のうち、少なくとも本件写真は著作物に該当する。
(1) カーテンフックの規格、形状の説明に用いられた写真(甲第一号証六〜七頁上段及び下段の各写真、八〜九頁上段及び下段の各写真。以下「本件写真1」という。) いずれも、カーテンフックの規格別の長さや形状の相違を読者が一目で比較対照できるよう、黒地に長さの目盛りを表す白い横線(罫線)を施した写真を背景に、
カーテンフックを原寸大で一列に配列したものの写真である。
なお、原告旧カタログ1及び2の同種写真においても、カーテンフックのサイズを明らかにするために、横線を使用していたが、罫線を使用していなかったので、
商品のサイズを視覚的に明らかにするという実用目的を達することはできても、突然に横線が引かれているという印象を与えるもので、落ち着きがよくなかった。そのため、原告旧カタログ3から、カーテンフックのサイズが一目でわかり、デザイン的にも見る者に訴えると思われる罫線を採用したところ、カーテンフックが音譜に似ていることから罫線があたかも五線譜のように見える面白さをもつデザインとなったのである。
被告は、これをもって、従来から商品見本(検乙第一号証の1〜3、第二号証)に使用されていた手法であって、創作性はないとするが、右従来の商品見本においては、文字通り商品の見本として機能させるため、方眼紙上に各種カーテンフックを単純配列しており、背景の方眼紙の地色等について、何らの工夫もされていない。これに対して、本件写真1では、黒の地色を背景として、この地色に白色で等間隔に横線を施し、その上に金属のカーテンフックを配置することにより、背景の黒、横線の白、メタリックな感触を与えるカーテンフックのコントラストが読者に対して美的な面白さを感じさせるよう工夫がされている。
(2) カーテンテープの説明に用いられた写真(甲第一号証一八頁左上及び左下の各写真、一九頁左上及び左下の各写真。以下「本件写真2」という。) いずれも、ロール状に巻いた複数のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を若干前方に引き出したものを、向かって右斜め前方から撮影し、グラデーションによる背景を用いている。
被告は、このような手法は選択可能なありふれたものであるとし、別紙参考資料一を引用するが、右参考資料一は、ロール状のテープを配列する方法としては立てるか倒すかしかなく、立てた場合には、自然にそのテープ始端を上から引き出して垂らすか、下から引き出すかといういくつかのパターンしかないことを示しているに過ぎない。
しかし、本件写真2においては、複数のカーテンテープを同一方向(写真に向かって左斜め前方)に配列し、しかもそのテープ始端をほぼ同じ長さだけ引き出した形で並べて撮影する手法が、読者に対してリズム感と同時に整然とした美しさを感じさせるものであり、対象のカーテンテープの配列方法に創作性が認められるのである。
また、背景の地色をグラデーションという手法によって濃淡をつけ、柔らかさの中にカーテンテープが浮かび上がるように工夫されている。
(3) ギャザーテープの形状及び用法の説明に用いられた写真(甲第一号証二二頁左中段〔商品番号LINEA七五〕、二三頁左中段〔商品番号五〇〇-P〕、二四頁左下〔商品番号九〇一-八〇〕、右下〔商品番号九〇三-八〇〕の各写真。以下「本件写真3」という。) ギャザーテープの用途は、ひもを絞り込むことによってギャザーを形成したテープをカーテンテープとして使用するというものであり、その用途を写真によってどのように表現するかに工夫を要した。
そこで原告は、上部に、ギャザーテープを用いたカーテンの完成写真を配置することによって、ギャザーテープのイメージをふくらませようとするとともに、美的な印象を与えるよう配置を工夫し、下部に、ひもを完全に絞り込んだ部分、絞りかけた部分及び絞る前の部分を一枚のギャザーテープで表現した実物を配置することにより、ギャザーテープの規格別の形状と用法が一目で理解できるように工夫した配置方法を用いて撮影した。さらに、ギャザーの影の出し方についても、真横からのライティング(これが通常のライティングである。)なら影が出ないところを、
わざと右上から光を当て、左下に影が出るようにした。
被告は、別紙参考資料二を挙げ、部品のカタログにその部品の写真とそれを用いた完成品の写真を近接して示すことは、商品カタログにおける常套手段に過ぎないとするが、右参考資料二は、撮影対象を全く異にするものであり参考にならない。
本件写真3は、単にある対象物の全体と部分を近接して撮影したという抽象的な方法に創作性があるのではなく、読者がギャザーテープという対象商品の品質や用途を写真から明確に識別できるという商品説明としての目的と、対象商品をいかに美しく楽しく表現するかという「遊び心」の要素とをいかに調和させるかという観点から、前記のとおり商品特性に応じた撮影対象の配置、撮影手法等を用いた点に創作性があるのである。
(4) バルーンテープの形状及び用途の説明に用いられた写真(甲第一号証二五頁上段〔バルーンテープ二〇〕、中段〔バルーンテープ三〇・メッシュ〕、下段〔バルーンテープ三〇・スフ〕の各写真。以下「本件写真4」という。) 上部はギャザーを施し下部は平板に引き伸ばした状態のバルーンテープを配して、バルーンテープの規格別の形状と用法が一目で対比できるよう工夫した配置方法を用いて撮影されている。
被告は、本件写真4についても、別紙参考資料二を挙げて本件写真3についてと同様の主張をするが、前同様失当である。
(5) フレンジの商品の説明に用いられた写真ないし図版(甲第一号証四六頁〔商品名フレンジロワールの「タイプT」「タイプU」「タイプV」が上中下に配置されたもの〕、四七頁〔商品名フレンジアヴィニヨンの「タイプT」「タイプU」「タイプV」が上中下に配置されたもの〕、五〇頁上段〔商品名KFフレンジ〕の各写真ないし図版。以下「本件写真5」という。) 巻状で、色は多種類のものがあるというフレンジの二つの特性を一度に表現するために、同一の形状で色彩の異なる複数のフレンジを切断してつないで一列に並べ、あたかも一本のフレンジであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように工夫をした対象の配置及び撮影方法を用いている。
被告は、被告カタログに掲載された「旭化成 ナイロン ボールフレンジピッコロ」の写真を引用して、撮影対象物を切断してつないで表示する手法は従来から商品見本に用いられているありふれた手法である旨主張するが、本件写真5の創作性は、単に撮影対象物を切断してつないで表示する手法によって表現した点にあるのではない。右引用の被告カタログの写真は、「色見本」であるから、各色のフレンジが並べられているのは当然のことであって、何ら創作性はない。また、配列がちぐはぐで、一本の美しいフレンジと感じさせるような表現上の工夫はなく、単に各色を配列した色見本帳に過ぎない。本件写真5は、多数のフレンジをその色彩の調和等に配慮しながらつなぎ合わせ、読者が一本の美しいフレンジと感じるように配列し、写真撮影を行ったという創作性があり、この点に右引用の写真と本質的相違があるのである。
(6) タッセルコードの説明に用いられた写真(甲第一号証三二頁の写真。以下「本件写真6」という。) 本件写真5と同様、巻状で、色は多種類のものがあるという二つの特性を表現するために、同一の形状で色彩の異なる複数のタッセルコードを切断してつないで一列に並べ、あたかも一本のタッセルコードであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように工夫をした対象の配置及び撮影方法を用いている。
被告の主張に対する反論は、右(5)記載のとおりである。
(7) しぼりタッセルの説明に用いられた写真ないし図版(甲第一号証五一、五二頁の各写真ないし図版。以下「本件写真7」という。) 小さく撮影したタッセルを複数垂直に配し、大きく撮影したタッセル一本を右上から左下にかけて斜めに配する方法によるレイアウトを用いている。これは、タッセルの大きな写真と小さな写真を印刷段階で合成し、デザイン上の面白さを表現するとともに、大きなものにおいては質感まで伝えようとするものであり、小さなものは単なる色見本として位置づけている。また、タッセルの房が実際につり下げられたのと同じ状態になるように、タッセルをつり下げた上、リング部分が垂れ下がるのを防止するため針金を入れて固定し、膨らみのあるリング状とした。
本件写真7の創作性は、単に被告主張のように「大きなものと小さなものを印刷段階で合成した」ことにあるのではない。
本件写真7では、色彩の異なる複数のタッセルを大(L)・小(M)各一個を一組として同一方向に垂直に並べた写真と、ひもの部分を右上から左下に斜めに屈曲させたタッセルの拡大写真とを合成することによって、タッセルの持つ柔軟性を表現するとともに、掲載頁全体としては親うさぎと子うさぎが飛び跳ねて遊んでいるような構図の面白さによる「遊び心」を表現しようとしている。
被告は、本件写真7とは対象商品も構図も全く異なる別紙参考資料三を引用して、大きなものと小さなものを印刷段階で合成することは商品カタログにおいて単なる常套手段であるに過ぎない旨主張するが、そもそも対象商品や構図の異なる商品カタログを比較して、その同一性を論じること自体意味がない。のみならず、商品カタログにおける商品の外形や内容を読者に正確に伝えるという目的だけからいえば、別紙参考資料三のように、単に商品の大きさの異なる複数の写真を単純に配列するだけでよいが、商品カタログには、その外に、当該商品を美しくあるいは面白く表現することによって読者の購買意欲を刺激するというねらいがあり、本件カタログも後者に重点をおいて制作されている。したがって、そこにおいては、いかに対象商品を美しく面白く表現するかという「遊び心」をも含めた表現方法が用いられているのであって、タッセルの配置や撮影写真の組み合わせ(掲載頁全体の構図)に関する前記のような工夫も、まさにそのような目的で考えられた製作者独自の創作性の表れである。
(三) 本件説明図の著作物性 上飾り芯地の用途説明として芯地のカット方法をイラストで説明し、その下部に説明文を配している。これは、原告がカット線の形状等を指示し、これに基づきデザイナーに線画を作成してもらったものである。
この説明図の芯地のカット(切り方)の記載の形状自体は一般的なものであるが、それを図示するに当たり、カットの形状を異なった太さの線で表現し、鋏のイラストを加えて一目で切り方を表現した図であることを示しているものであり、その表現方法創作性がある。
2 本件カタログは全体として編集著作物に該当するか。
本件カタログのような商業カタログは、顧客に商品の内容や使用方法等を宣伝普及する目的で作成されるものであるから、その編集著作物としての創作性も、このような目的に照らして解釈されなければならない。
本件カタログは、カーテン用副資材の製造販売を業とするパロマの商品を紹介するものであるところ、カーテン用副資材は、きわめて多数の商品ないし商品群から構成されており、これを顧客のニーズに応じ、的確に選択し、分類して紹介することは困難であるので、同種のカタログにおいては、一般に、特別な商品群の種類分けをせず、個々の商品ないし商品群ごとに無目的に配列しているか、カーテン用副資材として極めて一般的なテープ類やトリム類から順次配列している。
しかし、本件カタログでは、@パロマがカーテンフックの製造メーカーから出発し、現在もフック類のメーカーとしては圧倒的な市場占有率を有していること、したがって、他の副資材メーカーに比べてフックの商品のバリエーションが極めて多いことを考慮して、カーテンフック類をカタログの冒頭にくるように配列した、Aトリミング材については、レーストリムを中心とした白いレース系のトリミング材とその他の着色されたフレンジ(トリミング材)とを区別し、前者を「レース・トリム」(レース&トリム)」として一章を設け、後者をタッセルと一体として「フレンジ&タッセル」の一章にまとめた、Bその他パロマの業務の拡張に従って取り扱う商品が順次拡大してきたという歴史性を表現するために、他の種々の副資材の商品群を「ソーイングパーツ」や「ニューコレクション」等の章にまとめたなどの工夫を凝らして編集を行っている。
右のように、本件カタログにおいては、商品(商品情報)の選択配列に工夫を凝らしているだけでなく、カタログを構成する素材としての写真ないし図版の配列方法においても、例えば、「GATHER TAPE/ギャザーテープ」の章では、
原告は、別々に撮影したギャザーテープの写真とこれを使用したカーテン上部の写真をそれぞれ対応するように上下二段に配列し(甲第一号証二二〜二四頁)、また、バルーンテープを縦に配置した写真とバルーンテープを使用したカーテンの写真をそれぞれ対応するように左右に並べて(甲第一号証二五頁)、ギャザーテープ又はバルーンテープの形状とその具体的使用方法が一目瞭然に理解できるように工夫している。
以上のように、本件カタログは、編集物であってその素材の選択又は配列によって創作性を有するから、編集著作物に該当する。
3 本件カタログは全体として一個の著作物に該当するか。
編集著作物とは、それ自体には著作物性が認められないが、素材の選択又は配列に創作性が認められるものをいうとされているが(著作権法12条)、一面編集著作物としての性格を有しながら、他面一個の著作物とも評されるような著作物が存在するのである。
例えば、ある写真家が一貫した構想のもとに撮影した複数の写真を配列したフォトストーリー集等は、各々独立した著作物である写真によって構成されているにせよ、それは全体としても一つのストーリー性を有している。このようなフォトストーリー集は、単なる編集著作物ではなく、全体として著作者の一個のまとまりのある思想又は感情の創作的表現形態であり、それ自体も著作物であるといえるのである(この場合、個々の写真はそれ自体も独立の著作物であるが、同時にあるストーリーの表現方法として文字ではなく写真という表現手段が選択されたとも評することができる。)。
本件カタログは、多数の写真、図版及び説明文によって構成されているが、本来カタログとしての一貫した制作目的に従って構想されたものであり、個々の写真、
図版及び説明文は、その目的に従って選択、配列されたものに過ぎない。しかも、
本件カタログは、単なる商品の紹介・説明を目的とするにとどまらず、全体として、本来地味な商品であるカーテン用副資材を楽しくかつ豪華に理解させようとする制作者の意図のもとに制作されている。
この目的に従って、例えば、各章の冒頭の頁には、流れるような渋いカーテン布地の前面に美しい花の写真と当該章内で紹介されている代表的副資材商品をアレンジした写真を配するとともに、商品名をゴシック体の英語で表示して見る者に優雅さを感じさせるようにし、各商品(ないし商品群)を紹介する場合にも背景等のアレンジに工夫を凝らし、個々の商品を撮影する際にも右1(二)記載のとおり様々な工夫を凝らしているのである。さらに、各章の冒頭部分には、当該章において紹介する商品の機能、用途、特質、商品開発の基本思想を要領よくまとめた短文を配し、個々の商品の紹介部分にも、商品を実際に使用する際の使用方法や留意点について説明文を付している。
このように、本件カタログは、単に個々の写真や図版を選択、配列した編集著作物であるだけではなく、全体として制作者である原告の思想、感情を創作的に表現した著作物であるといえる。
【被告の主張】1 本件カタログに掲載された本件写真及び本件説明図は著作物に該当するか。
(一) 写真の著作物性 原告は、本件カタログに掲載されている本件写真は、被写体であるカーテン用副資材の用途、機能を説明する目的のみのために製作される純粋の商業写真ではなく、本来地味な存在のカーテン用副資材を豪華で面白く表現するために、被写体の配置の仕方や構図のとり方、複数の写真を合成する手法等に製作者独自の創造性(考え、気持ち程度の意)が認められるから、著作物である旨主張するが、右主張のような創造性(考え、気持ち程度の意)が認められる写真等の製作物であっても、必らずしも著作物であるとはいえない。
なぜなら、著作物として代表的な絵画や彫刻ばかりではなく、著作物でないことが明らかな日常のありふれた物品、例えば万年筆や自動車、花瓶等の実用品(量産品、応用美術)でさえ、軽快さや重厚さ、見た目の快さ、使いやすさ等が形態として表現され、製作者独自の創造性が認められるからである。写真でも同様に、一般に著作物性がないといわれている身分証明書用の顔写真ですら、写真家は被撮影者の髪形や化粧、衣服の乱れを正す等、限られた制約の範囲内でより美しくあるいは威厳に満ちたように表現する等の創意工夫を凝らして撮影するのが通例であって、
創作性は窺うことができる。
商品写真は、被写体である商品を機械的に忠実に複製し、視覚に訴えて紹介しようとする実用目的を有するが、この商品写真であっても、被写体である商品をより良く、印象深く読者の視覚に訴えることができるように、被写体の配置や背景との関係、撮影角度、バランス、ライティング等について何らかの創意工夫(美的処理)が凝らされていないものはないといっても過言ではなく、原告のいう本件写真の創造性も、次の(二)記載のとおり、この創意工夫の域を出るものではない。身分証明書用の顔写真や商品写真の撮影を職業写真家に依頼するのは、単なる撮影機材や撮影技術上の理由だけではなく、このようなプロとしての創意工夫が期待できるからに外ならない。
ところで、著作物とは、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属するものをいうが、本件写真は、文芸、学術、音楽の範囲に属するものでないことは明らかである。また、美術の範囲に属するというためには、絵画や彫刻等の純粋美術又はこれに準ずる美術工芸品のように、もっぱら美の創作的表現を追求したものでなければならないが、本件写真は、右のように単に商品写真として通常行われる程度の創意工夫(美的処理)がされているに過ぎず、専ら美の創作的表現を追求したものとはいえないから、美術の著作物ではない。
(二) 本件写真の著作物性 本件写真は、以下のとおり、著作物に該当しない。
(1) 本件写真1 カーテンフック(鋼線フック)は、そのサイズに多種多様のものがあるため、これを一覧比較することができるようにするために、一定間隔で引いた複数の横の罫線上に各カーテンフックを順に配して表示することが、従来から商品見本等において広く行われていた。本件写真1は、このように商品見本に用いられていた従来の手法を、その商品の写真にそのまま用いたものに過ぎず、その手法は原告が初めて採用したものではない。
(2) 本件写真2 カーテンテープのようにテープを芯管に巻きつけたロール状の商品の商品写真は、例えば別紙参考資料一に示すように、その商品を立てて撮影するか、横たえて撮影するか、また前者であれば、そのテープ始端を上から引き出して垂らすか、下から引き出すかという基本的なパターンに限りがあり、これらを基にして、並べる本数や角度、これらの組み合わせ等の手法の選択によって撮影される。
原告は、本件写真2につき、ロール状に巻いたテープを立てて向かって右斜め前方から撮影する手法等が新規である旨主張するが、このような手法は、右のように選択可能なありふれたものである。
(3) 本件写真3、4 原告は、本件写真3、4につき、ギャザーテープ又はバルーンテープの用途を示すためにこれを用いたカーテンの完成品とその部品(ギャザーテープ又はバルーンテープ)を近接して表現した旨主張するが、別紙参考資料二のように、
部品のカタログにその部品の写真とそれを用いた完成品の写真を近接して示すことは、商品カタログにおける常套手段に過ぎない。
(4) 本件写真5、6 本件写真5、6のように、フレンジやタッセルコードを切断してつないで表示する手法も、従来から存在するありふれたものに過ぎない。例えば、被告カタログには、従来からの商品見本「旭化成 ナイロン ボールフレンジピッコロ」を撮影した写真が掲載されているが(二七頁)、この商品見本のように、フレンジやタッセルコード等は、色違い等の各種のものを一覧できるように、所定間隔で切断して各フレンジやタッセルコード等をつないで表示することは従来から行われている。また、本件カタログ発行以前の昭和六〇年にトーソー株式会社(以下「トーソー」という。)が発行したカタログ(乙第四号証)には、フレンジについて同種の手法の写真が既に掲載されている。手法そのものが写真の著作物の保護対象でないことはいうまでもないが、仮に手法が同じことをもって複製というのであれば、本件写真5、6は、乙第四号証の写真の複製物であるに過ぎず、著作物でないことになる。
(5) 本件写真7 原告は、本件写真7につき、大きな写真と小さな写真を印刷段階で合成したとするが、別紙参考資料三のように、同種商品の写真を複数同頁に掲載するときに大きなものと小さなものを印刷段階で合成することは、商品カタログにおける単なる常套手段に過ぎない。
(三) 本件説明図の著作物性 原告は、本件説明図は原告がカット線の形状等を指示しこれに基づきデザイナーに線画を作成してもらったものであると主張するが、本件説明図は、本件カタログが発行されるより前の昭和五四年一一月に発行されたエスエム工業株式会社(以下「エスエム工業」という。)のカタログ「カーテンレール」(乙第一号証)に掲載された説明図と同一であるから、その複製物に過ぎない。
2 本件カタログは全体として編集著作物に該当するか。
本件カタログは、掲載商品を共通する商品群ごとに章だてしたものであって、商品カタログの章だてとしてはありふれたものである。
原告は、ギャザーテープ及びバルーンテープの写真についても、写真ないし図版の配列方法を工夫しており、編集著作物である旨主張するが、前記1(二)(3)のとおり、部品のカタログにその部品の写真とその部品を用いて完成品の写真を近接して示すことは、商品カタログにおける常套手段に過ぎない。編集著作物は、編集物でその素材の選択又は配列によって創作性がなければならないが、部品の写真とそれを用いた完成品の写真という二枚の写真は、単なる組写真であり、編集物とはいえないだけでなく、その配列も常套手段をそのまま用いたものであるから創作性はない。
二 争点2(著作物に該当するものについて、原告に著作権が帰属するか)について【原告の主張】1 原告におけるカタログの制作過程 原告がパロマのカタログの制作をする過程は以下のとおりであり、原告設立前に【A】が同社のカタログを制作していた当時も同様であった。
まず、原告は、パロマから、同社の商品カタログの企画制作の委託を受けた後、
パロマと打合せを重ねながら、カタログの全体イメージやボリュームの決定、掲載する商品の選択や項目別の企画立案(全体企画の策定)をし、その後、各章や各商品ごとの頁の割付け、各頁ごとの掲載内容の割付け(題わり)をし、ラフスケッチャーを作成してラフデザインの確定を行う。
こうしてカタログ全体の大まかな構成が確定した後は、各頁ごとの写真の撮影と記述部分の作成を行う。
写真の撮影については、原告は、パロマから個々の商品のアイテム情報を聴取して、商品ごとのセールスポイントを確定した後、対象商品の選択、配列、構図の設定、撮影手法(カメラワーク)についても、かなり詳細に構想を練り、前記ラフスケッチャーにこれを具体的に表現してカメラマンに示し、打合せを通じて全体の写真イメージを決定し、カメラマンが個々の写真を撮影するに際しては、常に立ち会って素材やアクセサリーの配置、グラデーションの方法、カメラアングル等のカメラワークの手法についても具体的な指示を行っている。
記述部分については、具体的な商品説明文案の作成や、説明文の分量及び配置の原案を作成し、パロマの承認を得てこれを確定している。
以上のような作業を完了した後、写真版下を作成し、デザインアップ等の印刷等の過程を経て完成するものである。
2 主位的主張(著作権法15条1項)(一) 著作権法15条1項の法人著作 本件カタログは、原告の複数の従業員が制作したものであるが、著作権法15条1項がいわゆる法人著作の成立要件として定める、@法人その他使用者(以下「法人等」という。)の発意に基づくこと、A法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること、B法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること、C作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないことという要件を以下のとおり充足するものであるから、原告がその著作者であることが明らかである。
(1) 法人等の発意に基づくこと ここにいう「法人等の発意」は、法人等が「一定の意図の下に著作物の作成を構想し、その具体的な制作を被用者に命ずること」をいう。本件カタログは、原告がパロマの依頼によって制作したものであるが、本件カタログ制作の構想等著作物の創作に関する発意は原告自身が行っており、担当社員は原告の手足としてその制作意図の実現に当たったに過ぎない。
(2) 法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること 原告の担当社員は、原告との間の雇用契約に基づき、原告の従業員としての職務に基づき本件カタログの制作に携わったものである。なお、仮に本件カタログの制作過程の一部に原告との雇用関係がない者が関与したとしても、その者が単に制作の機械的業務に関与するのみで、著作物としての本件カタログの創作行為自体に関与したと認められない場合は、その者との関係においてはそもそも著作権法15条1項適用の問題を生じない。また、関与者が創作行為の一部を分担したと認められる場合にも、当該関与者が原告の具体的な指揮監督の下に創作行為を行った場合には、当該関与者は「法人等の業務に従事する者」に該当すると思われる。
特に本件カタログを構成する個々の写真著作物についていえば、原告の社員ではない嘱託写真家【C】(以下「【C】」という。)が製作に関与しているが、法人著作の要件を充足することに変わりはない。
すなわち、本件カタログのような商品カタログに用いられる写真は、対象商品の色彩、形状、品質等を顧客に伝達することを目的として作成されるものであるから、芸術写真等と比較すれば、撮影方法に撮影者の主観や裁量が介在する余地は少ない。しかも、原告は前記1のように、個々の写真著作物の撮影に当たっては、被写体の設定、構図の設定、光量の調整の外、カメラアングルや絞りの工夫等その創作行為のすべてについて【C】に指示を与えて、自己の意図に従った写真の作成を行っている。したがって、原告が【C】を自己の手足として写真著作物の創作行為を行っているに等しく、原告が本件写真をはじめとする本件カタログに掲載された写真著作物の著作者であるといって差支えない。仮に【C】に何らかの創作行為が認められるとしても、【C】は個々の写真の創作に関して原告の指揮監督を受けている以上、原告の業務に従事する者が職務上作成したものと認められる。
(3) 法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること 本件カタログは、商品カタログとしての性格上パロマを発行者として表示しているが、著作者表示としては末尾に「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」と表示している。
(4) 作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと 原告と原告の担当社員の間には、本件カタログ作成に際して格別の合意は存在しない。
(二) 著作者表示についての被告の主張に対する反論(1) 被告は、本件カタログの「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」という表示のうち「Angle Co.,Ltd.」の表示は、「株式会社アングル」を表示するものであって、「有限会社アングル」を表示するものとはいえない旨主張するが、「Ltd.」と略称される「limited company」は有限責任会社と訳されており、株式会社は「stock corporation」とされている(甲第五号証)。
したがって、被告が「Angle Co.,Ltd.」を「株式会社アングル」と翻訳すること自体失当であるし、そうでないとしても「Angle Co.,Ltd.」は有限会社である原告の表示以外の何物でもない。
(2) 被告は、本件写真は、いずれも本件カタログ発行前に発行された原告旧カタログ1ないし3に掲載されて既に公表済みのものであり、そこには原告の著作者表示が一切ないから、本件写真は原告の著作名義の下に公表されたとはいえない旨主張する。
この主張は、法人著作物の要件である「自己の著作の名義の下に公表するもの」とは、著作物を最初に公表した時に法人等の名義が明確に表示されていることをいうとの解釈を前提とするもののようであるが、このような解釈は確立しているとはいえない。
本件写真は、原告ないしその前身たる個人経営の【A】が、パロマのために数次にわたって作成した原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログに掲載されており、これら以外には掲載公表されていないものであって、専ら原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログのために製作されていることは性質上明らかであり、しかも、原告旧カタログ1ないし3が【A】の、本件カタログが原告の制作にかかる著作物であることは明らかであるから、原告あるいは【A】が本件写真をカタログに掲載する際に特に実際の製作者(【C】)の名を掲載個所に明示することによって実際の製作者自身の著作物であることを表示することをしていない以上、本件写真は、原告旧カタログ1ないし3や本件カタログと一体となって、それぞれのカタログの制作者である【A】あるいは原告の著作の名義の下に公表されている著作物とみなすのが相当である。
仮にそうでないとしても、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」には、「法人等が現に自己の著作の名義の下に公表したもの」だけでなく、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格のもの」を含むと解されているところ、本件写真は、その製作時から原告旧カタログ1に掲載を予定したものであり、その後も原告旧カタログ2、3あるいは本件カタログ以外には公表されていないのであるから、その当初から、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」であったといえる。その後、【A】は、本件写真を原告旧カタログ1ないし3に掲載することによって公表したが、その際に法人著作物たる性質と相反するような表示を行っていないし、原告も、これを本件カタログに掲載した際、【C】を本件写真の著作者として表示していない。
要するに、本件写真は、著作権法15条1項により、使用者たる【A】の著作物であったのであり、その著作権が法人成りによる原告設立の際、原告に承継されたものである。
なお、本件説明図は、本件カタログにおいて初めて掲載されたものであって、被告の主張によっても原告の法人著作物であることが明らかである。
3 予備的主張(本件写真及び本件説明図の著作権の、実際の製作者からの承継取得) 原告は通常、カタログを制作するに際して原告以外の者に写真の撮影やイラストの作成を委託する場合は、委託の趣旨、及び実際の製作者(委託の相手方)が作成した写真やイラストはカタログに掲載するため原告に著作権が帰属することを明示し、実際の製作者(写真については【C】)の同意を得て制作を行っている。
したがって、原告と実際の製作者との間においては、製作者が原告から委託を受けてカタログ用に撮影、作成する写真、イラストについては、すべて原告に著作権を譲渡する旨の包括的な著作権譲渡契約が成立しており、この合意に基づいて、製作者が撮影、作成した写真、イラストは、製作と同時にその著作者である製作者から原告に著作権が譲渡され、原告に帰属するという法的効果が発生することになる(このことは、原告の前身である【A】の個人経営時代も同様であり、【A】と実際の製作者との間で右同様の包括的著作権譲渡契約に基づき、【A】が本件写真、
イラスト等の著作権を取得したものであって、法人成りによる原告設立の際原告がこれを承継取得したものである。)。
【被告の主張】1 原告の主位的主張について 本件カタログは、以下のとおり、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件を欠くから、その著作者は原告であるとはいえない。
(一) 原告主張の「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」という表示は、「株式会社アングルによる企画と美術作品」との意味合いを看取させるとしても、原告である「有限会社アングル」名義の著作者表示とは到底理解できない。
(二) 本件写真は、別紙「新旧カタログ対照表」に示すとおり、いずれも本件カタログ発行前に発行された原告旧カタログ1ないし3のうち少なくとも原告旧カタログ3(平成二年度版)に掲載されて既に公表済みのものであって、「本件カタログによって公表されるもの」ではないから、原告の法人著作ではないことは明らかである。著作権法において「公表」とは一回限りのものであるから(例えば同法52条)、著作物が掲載誌の発行により公表された後は、再度掲載誌が発行されたとしても、それは「公表」には当たらない。なお、原告旧カタログ1ないし3は、原告の設立以前に制作、発行されたものであるから、これらに掲載されたものは原告による法人著作ではあり得ない。
また、原告旧カタログ1ないし3には著作者表示が一切ないから、これらに掲載されたものは【A】の個人営業「アングル」による著作ということもできない。そうすると、少なくとも原告旧カタログ1ないし3で公表済みの写真やイラストあるいはその編集著作物は、著作者表示なく公表されたことにより、その著作をした者、すなわち実際に写真を撮影し、イラストを作成した者個人の著作物であることが確定しているといわざるを得ない。
いったん無名の著作物として公表された著作物は、その公表によって、その著作権者は現実に創作をした無名の著作者であることが確定する。したがって、その後に、その著作者の実名の公表等により無名の著作物が実名の著作物になることがあるとしても、その著作権の帰属が変動することはあり得ない。
2 原告の予備的主張について 争う。
三 争点3(被告カタログは、原告の著作物の複製〔又は翻案〕物に当たるか)について【原告の主張】1 被告写真及び被告説明図と本件写真及び本件説明図の複製(一) 著作物の複製(1) 著作物の複製とは、著作物の「有形的な再製」であり、再製の方法のいかんは問題ではない。著作権法が複製を有形的な再製に限定したのは、複製を無形複製と区別するために過ぎないから、有形的な再製とは、具体的に存在する物の中に著作物を収録する行為をいう。したがって、再製された物が元の著作物と同一のものである必要はない。判例も、複製の概念について、「著作物の複製とは既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう。」(最判昭和五三年九月七日民集三二巻六号一一四五頁)としている。
このような見解に対しては、著作権の保護の対象となる表現と、保護の対象とならないアイデアの区別をあいまいにするのではないかとの反論もありうる。この反論の背景には、著作物を内容と形式に峻別し、形式は著作権保護の対象であるが、
内容は万人が自由利用できる公有のものであり保護の対象とすべきではないとの考え方がある。しかし、著作物の内容についても、そのすべてが公有であるとはいえず、むしろ内容の中には先人の知的創作の成果に著作者の個性を付加したと認められる部分が相当程度存在するだけでなく、著作物の形式についても、著作者独自の個性や創作性の反映と認められる部分は、その内容と不可分一体であると考えられている。したがって、著作物の形式と内容との区別にとらわれることなく、その各々について、著作者の創作的な個性の顕現と認められる部分を著作物の本質と解し、著作権法上の保護対象とすべきなのである。
このような考えに基づいて、著作物の「複製」ないしは「翻案」を定義するならば、「複製」とは、ある著作物の表現形態のうち著作者の創作的な個性の顕現と認められる部分を、そのまま「有形的」に「再製」した場合をいい、「翻案」とは、
ある著作物の表現(形式)及び内容の双方について著作者の創作的な個性の顕現と認められる部分に変更を加えることなく、その表現形式に改作、変更を加えることをいうことになる。
いずれにしろ、他人の製作物と著作物の間に、右のような著作物の本質たる著作者の個性の顕現と認められる部分において同一性が認められる以上、その余の部分に相違があろうとも、他人の製作物を著作物の「複製」とすることは何ら妨げられない。
(2) 写真の著作物については、著作権法は、特にその複製の方法、範囲を明示していないが、写真を機械的に複写したり、写真のネガから焼増をすることだけが複製であるわけではない。他人の絵画を人の手で模写する場合、模写を行う画家の創作性(オリジナリティ)が新たに加わらない限り絵画の複製に当たるのと同様に、他人の著作物たる写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法(被写体の構図、アレンジ、ライティング、シャッターチャンス等写真の著作物としての創作性を決定する諸要素)を用いて写真Bを撮影する場合に、写真Aの創作性に対して写真Bの撮影者の創作性が何ら付加されていないと認められるときは、写真Aの複製であるといって差支えない。
また、写真の著作物の複製に関しては、被写体が全く同一である必要はない。
確かに、写真は、常に一定の被写体をその対象としている以上、通常、写真としての同一性の有無を判断する場合には、被写体の同一性の有無が大きな要素となることは否定しないが、人物や特定の建築物、特定の風景のように、被写体自体に個性が認められ代替性のないものの場合と、本件写真の被写体であるカーテン用副資材のように、被写体自体には何ら個性が認められず代替性のある商品である場合とは区別して考えるべきであり、個性があり代替性のない被写体を撮影した写真については、被写体自体が著作物としての写真の創作性を基礎付ける重大な要素となっているから、被写体が異なれば、撮影方法が同一でも互いに異なった著作物となる。
しかし、被写体が個性のない代替性のある商品である場合には、被写体は写真の著作物の創作性を基礎付ける要素ではない。このような写真では、撮影者が個性のない被写体を写真上にいかに表現するかに工夫をめぐらすのであり、そのために撮影者が行った構図の設定、被写体のアレンジ、ライティング、露光、シャッター速度の設定こそが、著作物としての写真の創作性を決定するのである。例えば、個性のない被写体であるビールの缶を積み上げ有名な建築物(五重の塔)を構成したような写真は、被写体に対するアレンジに創作性があるのであり、被写体である缶ビールのメーカーや銘柄が相違しても、配列方法ないしアレンジが同一である限り複製であると解してよい。換言すれば、一般人が写真上から被写体の相違を認識することができず、両者の撮影方法の同一性から一方の写真が他方の写真を再製したものであるとの認識を抱く場合には、一方の写真を他方の複製であると解するのが相当である。
(二) 被告カタログに掲載された写真と本件写真の複製 被告カタログにおける別紙対比表上段1ないし21、23に記載の各写真(以下それを総称して「被告写真」という。)は、本件写真とは被写体こそ異なるものの、本件写真に表現された原告の創作行為、すなわち、前記一【原告の主張】1の(一)及び(二)記載の被写体の選定、配列その他の被写体に対する各種のアレンジ行為、構図の決定(背景と被写体の関係の調整)、絞りやシャッター速度の選択による光量の調整、写真の現像方法の選択による色彩や輝度の調整などのすべてをそのまま再現する形で製作されており、被写体の形状・色彩等が極めて類似していることもあいまって、一般人が被告写真は本件写真を有形的に再製したものとの認識を抱くことは明らかであるから、それぞれ本件写真のうちの別紙対比表記載の写真の複製に当たるものである。
(1) カーテンフックの規格、形状の説明に用いられた写真(甲第二号証四〜五頁上段及び下段写真。以下「被告写真1」という。)-本件写真1 本件写真1は、前記のとおりカーテンフックが音譜に似ていることから罫線があたかも五線譜のようにみえる面白さをもつデザインとなっているが、被告写真1において、本件写真1のこのようなデザインを模倣しているだけでなく、カーテンフックの機能上、本来サイズを示す罫線はカーテンフックの内側に引かれなければならないのに、外側に引かれているという、本件写真1における誤りまでもそのまま模倣している。
(2) カーテンテープの説明に用いられた写真(甲第二号証一二頁右上、右下及び左下写真、一三頁左上、左下、右上、右中及び右下写真。以下「被告写真2」という。)-本件写真2 被告写真2では、カーテンテープの撮影について、ロール状に巻いた複数のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を若干前方に引き出したものを、向かって右斜め前方から撮影し、グラデーションによる背景を用いているという、本件写真2と同じ撮影手法を用いている。
(3) ギャザーテープの形状及び用法の説明に用いられた写真(甲第二号証一六頁左下〔商品番号B三〇九〕、右上〔商品番号B三一〇〕の各写真、一七頁右中〔商品番号B四二一〕、左中〔商品番号B四一七〕の各写真。以下「被告写真3」という。)-本件写真3 被告写真3では、ギャザーテープの撮影について、原告が開発した方法(一【原告の主張】1(二)(3))をそのまま模倣したばかりか、ライティングも模倣している。
(4) バルーンテープの形状及び用途の説明に用いられた写真(甲第二号証一八頁左上〔バルーンテープメッシュ〕、左中〔バルーンテープ六一〇三〕、左下〔B三〇七ギャザーテープ〕、右中〔綿ギャザーテープ〕の各写真。以下「被告写真4」という。)-本件写真4 被告写真4は、バルーンテープの撮影について、被告写真3が本件写真3の模倣であるのと同様の意味で、本件写真4を模倣したものである。
(5) フレンジの商品の説明に用いられた写真ないし図版(甲第二号証二七頁上段の写真ないし図版〔SFフレンジ〕、二八頁上段の写真ないし図版〔「AA」、
「BB」「CC」の各商品を上中下に配置したもの〕、二八頁下段の写真ないし図版〔「AA」「BB」「CC」の各商品を上中下に配置したもの〕。以下「被告写真5」という。)-本件写真5 本件写真5は、一【原告の主張】1(二)(5)記載のような工夫を用いて撮影されているが、一本のフレンジに種々の色、模様があると誤解されるおそれがあり、商品カタログの機能からみると不適切な表現方法である。被告写真5は、フレンジの撮影について、右のような不適切さも考えられる本件写真5の表現方法をそのまま模倣している。
(6) タッセルコードの説明に用いられた写真(甲第二号証四四頁の写真。以下「被告写真6」という。)-本件写真6 被告写真6がタッセルコードの撮影について、本件写真6の表現方法をそのまま模倣していることは、被告写真5について述べたのと同様である。
(7) しぼりタッセルの説明に用いられた写真ないし図版(甲第二号証二九頁上段の写真ないし図版。以下「被告写真7」という。)-本件写真7 本件写真7は、一【原告の主張】1(二)(7)記載のようなレイアウトに創作性があるところ、被告写真7は、この点を模倣しているだけでなく、リング部分の膨み具合まで模倣している。
(三) 被告カタログのインターフェイスの裁断方法に関する図版及び説明文(甲第二号証三五頁。以下「被告説明図」という。)と本件説明図の複製 被告説明図で用いているイラストは、その下段の太線の細線と交わっていた部分に線の疵が認められ、本件説明図をコピーしたものから一部の線を消去して利用したものであることは明白である。また、本件説明図では、イラストの右側に余白がなかったので、右側部分に描かれた鋏の柄の部分は一部カットされている。これに対して被告説明図のイラストの右側には余白が存在するにもかかわらず、右側部分に描かれた鋏の柄の部分が本件説明図のイラスト同様にカットされているのはいかにも不自然であり、盗用の事実を裏付けるものである。
説明文の表現も極めて類似している。
2 被告カタログと編集著作物としての本件カタログの複製(一) 本件カタログは、一【原告の主張】2記載のような工夫を凝らした編集により、次のとおりの章だてになっている。
HOOK/カーテンフック・アジャスターフック TAPE/カーテン芯地・テープ GATHER TAPE/ギャザーテープ SEWING PARTS/ソーイング パーツ LACE・TRIM/レース・トリム FRINGE&TASSEL/フレンジ&タッセル RELATED GOODS/その他の商品 NEW COLLECTION/ニューコレクションこれに対し、被告カタログは、次のとおりの章だてになっている。
CUrTAIN HOOK CUrTAIN TAPE TRiMMiNG FrENGE TASSEL DOnChO SeWiNG PArTS POlE(二) 両者には以下のような類似性がある。
(1) 被告カタログは、本件カタログと同様に、第一章をカーテンフックとして、カーテンフック類に関する商品情報を写真、図版の形式で掲載しているだけではなく、その章の商品情報の配列の仕方において、まず鋼線フック(メタルフック)を最初に配列し、その後に樹脂製のフック、アジャスターフックを配列するという点まで同一である。本件カタログにおいては、パロマがカーテンフックの製造メーカーから出発したという経緯(前記一【原告の主張】2)から、フック類を強調する趣旨でこれを第一章に配列したのであるが、被告カタログにおいてはこのような配列をする必然性がない。しかも、1(二)(1)で指摘したとおり、被告カタログにおいては本件写真1まで複製している。
(2) 被告カタログの「TRiMMiNG」の章は、白いレース等のトリミング材を分類・配列している点で本件カタログの「LACE・TRIM/レース・トリム」の章と同一であり、また、被告カタログの「FrENGE TASSEL」の章は、有色等のフレンジとしぼりタッセルという異なる商品群を一章にまとめて配列している点で本件カタログの「FRINGE&TASSEL/フレンジ タッセル」の章と同一である。しかも、1(二)の(5)及び(7)で指摘したとおり、
被告カタログにおいては本件写真5及び7も複製ないし翻案しているのであるから、両章の構成も同一又は実質的に同一といってよく、被告カタログの右部分は本件カタログの該当部分の商品(商品情報)の選択、配列をそのまま複製したものである。
(3) また、被告カタログの「SeWiNG PArTS」の章においてカーテンウエイトプレート、タッセル芯地、タッセルリング、江戸打ヒモ等の各種商品をまとめて選択・配列している点も、本件カタログの「SEWING PARTS/ソーイング パーツ」の章においてウェイトテープ、ウェイトタッセル芯地、タッセルコード、江戸打ひも等の各種商品を一体として配列しているのと同一であり、
本件カタログにおける編集行為の手法をそのまま複製ないし翻案して利用したものである。
(三) 被告カタログにおいては、右のような商品(商品情報)に関する本件カタログの編集方法ばかりでなく、カタログを構成する素材としての写真ないし図版の配列方法についても、ギャザーテープ又はバルーンテープの写真とこれを使用したカーテンの写真とを上下二段又は左右に並べて、ギャザーテープ又はバルーンテープの形状とその具体的使用方法が一目瞭然に理解できるように配列するという配列方法をも複製している。
3 一個の著作物としての本件カタログの複製 被告カタログは、一【原告の主張】3記載の本件カタログの著作物としての主要な創作部分をほぼそっくりそのまま再製し、あるいはその創作性に依拠して内的形式を保持しつつ外的形式に変更を加えたものであるから、本件カタログの複製物ないし翻案物に該当する。
4 被告の本件カタログに対するアクセスの可能性 パロマは、【A】及び原告が昭和六二年以来毎年制作している原告旧カタログ1ないし3や本件カタログを同社の製品の需要者であるカーテン製造者、販売業者に広く頒布し、広告、宣伝活動を行っているほか、毎年一二月に開催される室内インテリア商品の見本市「ジャパンテックス」に出展し、入場者に対してもこれを頒布している。被告は、パロマ同様カーテン用副資材の製造販売を業とする会社であり、パロマが原告旧カタログ1ないし3や本件カタログを頒布した先のカーテンの製造販売業者とも取引関係にあったから、原告旧カタログ1ないし3や本件カタログを入手し、あるいはこれに接する機会があったことは明らかである。
そうすると、被告は、本件カタログに依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを作成したのであるから、複製に当たることは明らかである。
【被告の主張】1 被告写真及び被告説明図と本件写真及び本件説明図の複製(一) 著作物の複製(1) カタログに掲載される商品写真は、被写体である商品を機械的に忠実に複製し、視覚に訴えて紹介しようとする実用目的を有するために、専ら美の創作的表現を目的とした芸術写真とは異なって、その構図やライティング、陰影の付け方などの撮影手法はおのずと限られ、ありふれた撮影手法によって撮影されることが決して少なくない。したがって、この種の写真に仮に著作権があるとしても、その著作権は、撮影内容(被写体)や撮影手法を保護の対象とするものではなく、その写真の具体的表現形式を保護の対象とするものである。
そうすると、特定の商品写真をそっくりそのまま複製したときは、その具体的表現形式は同一となり、当該商品写真の著作権を侵害することになるとしても、同種商品を被写体としたり、その撮影手法が共通するというだけでは著作権侵害にはならない。
(2) 原告は、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影することは写真Aの複製である旨主張するが、同一の被写体を同様の撮影方法で別個に撮影した写真Aと写真Bは、いずれも写真としては原版(オリジナル)であるから、原版である写真Bを写真Aの複製と解する余地はない。複製とはオリジナルを再製することであり、新たに撮影したオリジナルが再製に当たらないことは明らかである。したがって、写真Bが写真Aの複製であるかどうかは、写真Bが写真Aに似ているかどうかではなく、写真Bが新たに撮影されたものであるかどうかにかかっている。
原告は、被写体が個性のない代替性のある商品である場合には、被写体は写真の著作物の創作性を基礎付ける要素ではないと主張するが、写真の被写体には、原告のいうような代替性はない。甲社のテレビと乙社のテレビとがほぼ同じ性能の同じ大きさのものであったとしても、それは商品として代替が可能であるというだけであって、写真の被写体としては全く異なっている。甲社のテレビを撮影した写真Aと乙社のテレビを撮影した写真Bが写真として同じではなく、写真Bが写真Aの複製でないことは明らかである。原告主張のビールの缶で構成した五重の塔を被写体とする写真の例では、被写体自体が独創的な創作活動であって著作物であるから、
これを個別に撮影した写真Aと写真Bとは、被写体との関係ではいずれも複製であるが、写真Bは写真Aの複製ではない。原告の主張は、被写体自体の創作性を写真の創作性とすり替えるものである。
(二) 被告写真と本件写真の複製(1) 被告写真は、独自に撮影したものであって、本件写真をそっくりそのまま複製したものではない。本件写真とは被写体や構図等も異なる。例えば、被告写真1は、本件写真1が、一【被告の主張】1(二)(1)記載のとおり従来から用いられた手法をそのまま用いているに過ぎないのに対し、罫線を五線紙に見立てて、
その上又はその付近にトランペットやフルート等の楽器やト音記号、八分音符等の音楽用の符号を散りばめ、楽譜になぞらえた独自の表現をしたものであって、その手法は全く相違する。
被告写真に本件写真と共通する撮影手法が一部にみられるとしても、その手法は、各社がその商品写真に用いるありふれた手法に過ぎない。
(2) 本件写真と被告写真は、同種ではあっても異なったメーカーの異なる商品を被写体とし、その被写体の配置や配列、構図等も異なっているから、被告写真は、本件写真の主要な創作部分をほぼそっくりそのまま再製したものではなく、本件写真に依拠したものでも、その内容及び形式を覚知させるに足りるものでもない。
(二) 被告説明図と本件説明図の複製 本件説明図が原告の創作にかかるものでないことは一【被告の主張】1(三)記載のとおりであるから、被告説明図(なお、被告は、この掲載についてエスエム工業の了解を得ている。
)が本件説明図の違法な複製物といえないことは明らかである。
2 被告カタログと編集著作物としての本件カタログの複製 被告カタログの目次は、その掲載商品を共通する商品群ごとに章だてしたものであって、商品カタログの章だてとしては、本件カタログ同様、ありふれたものである。また、被告カタログ掲載の商品の種別が本件カタログのそれと共通するのも、
同種商品を取り扱う同業者のカタログとしてしばしば見られることに過ぎない。したがって、本件カタログと被告カタログには、その各章の順序や表題において相違がある以上、右のありふれた部分の共通性をとらえて、両者が類似するとはいえない。
四 争点4(被告が損害賠償責任を負う場合、原告に賠償すべき損害の額)について 【原告の主張】1 原告のようなカタログの企画制作を行う者が本件カタログのような商品カタログの企画制作を行えば、その企画デザイン等の対価として四〇〇万円程度の利益をあげることができる。被告が前記著作権侵害行為により原告の企画制作を盗用して被告カタログを制作しているのであるから、原告は右企画デザイン料相当額の利益を侵害され、また、被告が原告に同様のカタログの企画制作を委託した場合は、原告に対し同額の対価を支払わなければならなかったはずのものである。よって、右企画デザイン料相当額四〇〇万円は原告の損害である。
2 原告は、前記のように、専門業者としての知識、能力を活用し、本件カタログを制作したものである。しかるに、被告が安易にこれを盗用し、被告カタログを制作したことにより、原告は、原告の依頼者であるパロマに対する信用が害されるとともに、自己の名誉をも著しく傷つけられた。このことによる無形損害は、一〇〇万円を下らない。
3 弁護士費用 原告は、原告代理人弁護士両名に本件訴訟行為を委任し、その報酬として九九万円を支払うことを約した。
4 原告の損害金額合計 よって、1ないし3を合計した五九九万円が原告に生じた損害の額である。
【被告の主張】 原告の主張は争う。
争点に関する判断
一 争点1について まず、原告におけるパロマ商品のカタログの制作過程についてみるに、証拠(甲第一、第三、第四号証、第六号証の1〜3、第七号証の1〜3、第一〇号証ないし第一二号証、証人【B】、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告旧カタログ1及び2については【A】が直接制作を担当し、原告旧カタログ3、本件カタログ、さらにその後平成四年に発行されたパロマ製品のカタログ(甲第一〇号証はその原案)については、原告の従業員である【B】が制作を担当したが、実際に写真撮影をしたのは、カメラマンの【C】であったこと、原告は、パロマから、同社の製造販売する商品はカーテン用副資材という本質的に地味なものであるのでこれを豪華に見せたいという依頼を受けており、カタログの構成や商品撮影についてこの見地から取り組むことにしていること、そして、原告は、パロマの商品についての知識を得ると、カタログのどのページにどの商品を配するかという台割表を作成し、さらに商品写真のイメージを示すラフスケッチを作成した上、右ラフスケッチをもとにパロマの間で細かく打合せをし、何度か修正を繰り返した上、最終的なラフスケッチを決定すること、このラフスケッチをもとに【C】がパロマの商品を撮影するが、その撮影の際には、原告の担当者が常に立ち会って指示をし、ポラロイドカメラで試し撮りを行った上、原告のイメージ通りの写真ができるかを確認していたこと、その他、カタログにおける商品等の説明文の案出、版下の製作、印刷の管理等も原告において行っていたことが認められる。
右事実を前提に、原告の主張に従い、以下順次判断する。
1 本件カタログに掲載された本件写真及び本件説明図は著作物に該当するか(一) 写真の著作物性 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しているところ、ここで要求される表現の創作性については、著作者の個性が表現の中に何らかの形で現れていれば足りると解すべきである。
これを写真についてみると、単なるカメラの機械的な作用のみに依存することなく、被写体の選定、写真の構図、光量の調整等に工夫を凝らし、撮影者の個性が写真に現れている場合には、写真の著作物(同法10条1項8号)として著作権法上の保護の対象になるものというべきである。
(二) 本件写真の著作物性(以下の(1)ないし(7)の各冒頭認定部分は、いずれも甲第一号証、証人【B】、原告代表者及び弁論の全趣旨によって認められるものである。)(1) 本件写真1 本件写真は、いずれも原告旧カタログ3に掲載され、その後本件カタログに掲載されたものであるが、制作担当が原告代表者から【B】に交替したこともあり、それまでの原告旧カタログ1及び2の写真とは違うものを作るという視点で撮影されたこと、本件写真1は、黒地に長さの目盛りをあらわす青い横線をほどこした台紙の上に、フックを一列に配列して撮影したほぼ原寸大のものであり、原告旧カタログ1及び2の同種の写真が、青地に白い線が一本ないし三本引かれた台紙(線が引かれていないものもある。)の上にフックを並べて撮影しているものであるのに対し、@フックの色が銀色及び金色であるため、これが最も映えるように背景を黒地にしたこと、A右背景にはフックのサイズが一目で分かるよう、五ミリ単位で青い横線を入れたこと、Bなお、背景の作成については、青線が浮かび上がるようにシルク印刷の手法を取り入れたこと等の面で新たな工夫を凝らしたものであり、
【C】により撮影されたものであること、右@ないしBの構想は【B】によるものであるが、これを実際に本件写真1という形で具体化するについては、プロのカメラマンたる【C】の技量に負うところが大きいこと(なお、この点は以下の本件写真2ないし7についても同様である。)が認められる。
そうすると、本件写真1は、写真の著作物に該当するというべきである。
被告は、本件写真1は商品見本に用いられていた従来の手法をその商品の写真にそのまま用いたものに過ぎず、その手法は原告が初めて採用したものではないと主張するが、被告指摘の商品見本(乙第二号証、第三号証、検乙第一号証の1〜3)はそもそも写真ではなく、方眼紙上に各種カーテンフックを単純配列したものである上、本件写真1とは、背景の色、横線の色、横線のピッチ、背景の作成方法等において異なっているから、右主張は採用できない。
(2) 本件写真2 本件写真2は、いずれも、ロール状に巻いた複数のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を上から若干前方に引き出して垂らしたものを、向かって右斜め前方から撮影したものであること、これは、撮影に際して、あまり見栄えがしない商品を豪華に見せるために、複数のカーテンテープを正しく同一方向(写真に向かって左斜め前方)に揃えて配列し、しかもそのテープ始端をほぼ同じ長さだけ引き出した形で並べて撮影する手法を用いることで読者に対してリズム感と同時に整然とした美しさを感じさせることを狙い、また、背景の地色をグラデーションという手法によって濃淡をつけ、柔らかさの中に対象カーテンテープが浮かび上がるようにし、さらに芯地の目を見せる等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料一を引用して、選択可能なありふれた手法である旨主張するが、右参考資料一においては、ロール状のテープを立てたものと倒したもの、立てたものについては、テープ始端を上から引き出して垂らしたもの、下から引き出したもの、あるいは全く引き出さないものの写真が示されているに過ぎず、右のような工夫は見られないから、採用できない。
(3) 本件写真3 本件写真3は、上部にギャザーテープをカーテンに使用した写真を配し、下部に左側はギャザーを施し右側は平板に引き伸ばされた状態のギャザーテープの実物の写真を配したものであること、その撮影に際しては、ギャザーテープの規格別の形状と用法が一目で対比できるような写真になるように意識するとともに、背景の色彩について商品が映え、ひだがよく見えるようなものを選択し、また、ギャザーテープをカーテンに使用した写真については、ボール紙を丸めて、丸いひだをカーテンに出させて、カーテンをスプレーの糊で固めて撮影する等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料二を挙げ、部品のカタログにその部品の写真とそれを用いた完成品の写真を近接して示すことは、商品カタログにおける常套手段に過ぎないと主張するが、右参考資料二は、撮影対象を全く異にするものであるから、本件写真3の創作性を否定する根拠にはならないというべきである。
(4) 本件写真4 本件写真4は、左側に、バルーンテープをカーテンに使用したものの写真を、右側に、上部はギャザーを施し下部は平板に引き伸ばした状態のバルーンテープの写真を配したものであること(なお、バルーンテープは、昇降タイプのカーテンに使用するテープであって、通常は平板に引き伸ばした状態にあるが、テープの中に入っているひもを上に引っ張るとテープ自体にひだができ、その結果バルーンテープを使用したカーテンにもひだができるという仕組みのものであること。)、その撮影に際しては、バルーンテープの規格別の形状と、右の仕組みが一目で対比できるような配置にする(特に、右側のバルーンテープの写真については、テープの中のひもを引っ張ると徐々にひだができることを示すために上部はギャザーを施し下部は平板に引き伸ばした状態の写真を使用している。ただし、左側のバルーンテープをカーテンに使用したものの写真との対応関係でみると、上下が逆になっている。)等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物であるというべきである。
別紙参考資料二に基づく被告の主張が理由のないことは、右(3)説示のとおりである。
(5) 本件写真5 本件写真5は、同一の形状で色彩の異なる複数のフレンジを一列に並べてつなぎ合わせて撮影したものであること、その撮影に際しては、これらつなぎ合わされた複数のフレンジがあたかも一本のフレンジであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように対象の配置をする等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、フレンジ(やタッセルコード)を切断してつないで表示する手法は従来から存在するありふれたものに過ぎないと主張し、被告カタログ(甲第二号証)二七頁の写真及び昭和六〇年にトーソーが発行したカタログ(乙第四号証)掲載の写真を挙げるが、被告カタログ二七頁の写真は、フレンジの色違いの現物多数を横に離してあるいは近接させて五段に台紙に張りつけた色見本を単純に撮影したものであり、複数のフレンジがつなぎ合わされて一本のフレンジであるかのような外観を呈するものではなく、また、トーソー発行のカタログ掲載の写真は、フレンジ(やタッセルコード)を切断してつないで表示する手法という限度では本件写真5と共通するが、異なる製品(同種製品ではあるが)を撮影対象としたものであるから、
いずれも、本件写真5の創作性を否定する根拠にはならない。
(6) 本件写真6 本件写真6は、色の異なる複数のタッセルコードを一列に並べてつなぎ合わせて撮影したものであること、その撮影に際しては、これらつなぎ合わされた複数のタッセルコードが、あたかも一本のタッセルコードであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように対象の配置をする等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告カタログ二七頁の写真及び昭和六〇年トーソー発行のカタログ掲載の写真に基づく被告の主張が理由のないことは右(5)説示のとおりである。
(7) 本件写真7 本件写真7は、縦に伸ばした状態で小さく撮影したタッセルを複数配し、その左側に、大きく撮影したタッセルをその上部が小さなタッセルの上におおいかぶさるように左下から右上へ斜めに湾曲させて配したものであること、その撮影に際しては、タッセルの柔らかさを表現するために、サイズの大きな写真の商品について外側にやや湾曲させる等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料三を引用して、同種商品の写真を複数同頁に掲載するときに大きなものと小さなものを印刷段階で合成することは、商品カタログにおける常套手段に過ぎないと主張するが、右参考資料三は、撮影対象を全く異にするだけでなく、その構図(写真の配置)も全く異なるものであるから、採用できない。
(三) 本件説明図について 本件カタログでは、上飾り芯地の用途説明として芯地のカット方法をイラストで説明し、その下部に説明文を配している。
原告は、この説明図は原告がカット線の形状等を指示し、これに基づきデザイナーに線画を作成してもらったものであり、その芯地のカット(切り方)の形状自体は一般的なものであるが、それを図示するに当たりカットの形状を異なった太さの線で表現し、鋏のイラストを加えて一目で切り方を表現した図であることを示しているものであり、その表現方法創作性がある旨主張するが、平成元年発行のエスエム工業のカタログ(乙第一号証)一〇五頁の「上飾り用型紙 使用方法」の項に「上飾り用型紙を好みのスタイルのラインにそってカットします。」として掲載された図と対比すれば、本件説明図は、これを複製したものであること(ただし、上段下段各三本のカット線のうち各一本を省略している。)が明らかである(本件説明図は、原告旧カタログ1ないし3には掲載されておらず、平成三年発行の本件カタログに初めて掲載されたものである。)から、創作性を認め難く、これを著作物ということはできない。
また、本件説明図中の説明文は、単に上飾り芯地の使用方法をわずか六〇字程度で表現したものに過ぎないから、これをもって著作物とまでいうことはできない。
したがって、本件説明図については、その余の争点について判断するまでもなく、著作権侵害に基づく原告の請求はいずれも理由がないことになる。
2 本件カタログは全体として編集著作物に該当するか 証拠(甲第一号証、証人【B】、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件カタログは、カーテン用副資材の製造販売を業とするパロマの商品を紹介するものであって、掲載するパロマの商品の全体的な配列について、@パロマがカーテンフックの製造メーカーから出発したものであることから、他の副資材メーカーに比べてフックの商品のバリエーションが多いことを考慮して、カーテンフック類がカタログの冒頭にくるように配列され、Aトリミング材については、レーストリムを中心として白いレース系のトリミング材とその他の着色されたフレンジ(トリミング材)とを区別し、前者を「レース・トリム」として一章を設け、後者をタッセルと一体とし「フレンジ&タッセル」の一章にまとめる等の工夫がされていること、さらに、各章の冒頭部分には当該章において紹介する商品の機能、用途、特質、商品開発の基本思想をまとめた短文を配し、個々の商品の紹介部分にも商品を実際に使用する際の使用方法や留意点について説明文を付していること、また、ギャザーテープ及びバルーンテープの写真について、別々に撮影したギャザーテープ又はバルーンテープの写真とこれを使用したカーテンの写真とを上下二段にあるいは左右に並べて、ギャザーテープ又はバルーンテープの形状とその具体的使用方法が一目瞭然に理解できるように工夫していることが認められる。
以上の点から、本件カタログは、編集物でその素材の選択、配列によって創作性を有するから、編集著作物に該当するものというべきである。
3 本件カタログは全体として一個の著作物に該当するか 原告は、一面編集著作物としての性格を有しながら、他面一個の著作物とも評されるような著作物が存在するとし、@本件カタログは、多数の写真、図版及び説明文によって構成されているが、本来カタログとしての一貫した制作目的に従って構想されたものであり、個々の写真、図版及び説明文は、その目的に従って選択、配列されたものに過ぎないこと、A本件カタログは、単なる商品の紹介・説明を目的とするにとどまらず、全体として、本来地味な商品であるカーテン用副資材を楽しくかつ豪華に理解させようとする制作者の意図のもとに、例えば、各章冒頭の頁には、流れるような渋いカーテン布地の前面に美しい花の写真と当該章内で紹介されている代表的副資材商品をアレンジした写真を配するとともに、商品名をゴシック体の英語で表示して見る者に優雅さを感じさせるようにし、各商品(ないし商品群)を紹介する場合にも背景等のアレンジに工夫を凝らし、個々の商品を撮影する際にも様々な工夫を凝らしていること、Bさらに、各章の冒頭部分には、当該章において紹介する商品の機能、用途、特質、商品開発の基本思想を要領よくまとめた短文を配し、個々の商品の紹介部分にも、商品を実際に使用する際の使用方法や留意点について説明文を付していることを理由に、本件カタログは、単に個々の写真や図版を選択、配列した編集著作物であるだけではなく、全体として制作者である原告の思想、感情を創作的に表現した著作物であるといえると主張する。
しかし、原告主張のように一面編集著作物としての性格を有しながら他面一個の著作物とも評されるような著作物が存在するかどうかはともかく、原告の主張する本件カタログにおける右@ないしBの工夫は結局のところ素材の配列又は選択の創作性に過ぎないというべきであり、本件カタログはその性質上個々の写真に示された商品を印象づけることを意図して制作されたものであって、ストーリー性をもった読み物とまでいうことはできないから、本件カタログ全体が、編集著作物としての性格に加えて、全体として一個の創作性ある著作物としての性格を有するということはできない。
したがって、本件カタログ全体を一個の著作物としてその著作権侵害を理由とする原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないことになる。
二 争点2(著作物に該当するものについて、原告に著作権が帰属するか)について1 本件カタログの編集著作権 前記一冒頭認定の本件カタログの制作過程に証拠(甲第一号証、証人【B】、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件カタログは、(1)法人たる原告の発意に基づき作成されたものであること、(2)原告の業務に従事する者(【B】等)が原告との雇用契約に基づきその従業員としての職務上作成したものであること、(3)著作者表示として、「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」との表示があり、原告の著作の名義の下に公表されたものであることが認められ、他方、(4)本件カタログの制作時における契約、就業規則その他にその著作者について別段の定めがあると認めるに足りる証拠はないから、編集著作物としての本件カタログの著作者は著作権法15条1項により原告であるというべきであり、その編集著作権は原告が有することになる。
被告は、本件カタログの右「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」という表示は、「株式会社アングルによる企画と美術作品」との意味合いを看取させるとしても、原告である「有限会社アングル」名義の著作者表示とは到底理解できないと主張するが、甲第五号証(英米法辞典)によれば、「Co.,Ltd.」と略称される「limited company」は有限責任会社と訳され、その解説として「株主等の社員が対外的に会社資本への出資額(未払込の引受額を含む。)を限度としてのみ責任に任ずる会社。イギリスでは、株式会社(company limited by shares)及び保証有限会社(company limited by guarantee)をさす。」と記載されていることが認められ、これによれば、「limited company」は、社員が有限責任を負う会社一般を指すものと解されるから、有限会社を表示するのに「limited company」「Co.,Ltd.」の語を用いても誤りとはいえず、被告の主張は理由がない。
2 本件写真について(一) 前記一説示のとおり本件写真は【C】により撮影されたものであるところ、原告は、それにもかかわらず法人著作の要件を充足することに変わりはないとし、本件カタログのような商品カタログに用いられる写真は、対象商品の色彩、形状、品質等を顧客に伝達することを目的として作成されるものであるから、芸術写真等と比較すれば、撮影方法に撮影者の主観や裁量が介在する余地は少なく、しかも、原告は個々の写真著作物の撮影に当たっては、被写体の設定、構図の設定、光量の調整の外、カメラアングルや絞りの工夫等その創作行為のすべてについて【C】に指示を与えて、自己の意図に従った写真の作成を行っているから、原告が【C】を自己の手足として写真著作物の創作行為を行っているに等しく、原告が本件写真をはじめとする本件カタログに掲載された写真著作物の著作者であるといって差支えない旨主張する。しかし、前記一1(二)(1)説示のとおり、その@ないしBの構想は原告の従業員である【B】によるものであるが、これを実際に本件写真という形で具体化するについては、プロのカメラマン【C】の技量に負うところが大きいのであるから、原告が【C】を自己の手足として写真著作物の創作行為を行っているに等しいとは到底いえず、右主張は採用し得ない。
原告は、仮に【C】に何らかの創作行為が認められるとしても、【C】は個々の写真の創作に関して原告の指揮監督を受けている以上、原告の義務に従事する者が職務上作成したものと認められると主張するが、プロのカメラマンとして本件写真を撮影した【C】が原告主張のように原告に対して従属的地位にあったと認めるに足りる証拠はないから、右主張も採用できない。
したがって、本件写真は、原告の業務に従事する者が職務上作成したものとはいえないから、著作権法15条1項の要件を充足せず、その著作者は【C】であると認める外はない。
のみならず、本件写真は、いずれも本件カタログ発行前に発行された原告旧カタログ3(平成二年度版)に掲載されて既に公表済みのものであるところ、原告旧カタログ3には原告ないし【A】の著作者表示が存しない。
原告は、この点につき、@本件写真は、原告ないしその前身たる個人経営の【A】が、パロマのために数次にわたって作成した原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログに掲載されており、これら以外には掲載公表されていないものであって、専ら原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログのために製作されていることは性質上明らかであり、Aしかも、原告旧カタログ1ないし3が【A】の、本件カタログが原告の制作にかかる著作物であることは明らかであるから、原告あるいは【A】が本件写真をカタログに掲載する際に特に実際の製作者(【C】)の名を掲載個所に明示することによって実際の製作者自身の著作物であることを表示することをしていない以上、本件写真は、原告旧カタログ1ないし3や本件カタログと一体となって、それぞれのカタログの制作者である【A】あるいは原告の著作名義の下に公表されている著作物とみなすのが相当であると主張する。右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、原告旧カタログ1ないし3と本件カタログはそれぞれ独立のものであり、本件写真が原告旧カタログ3において公表された時点では原告ないし【A】の著作者表示が存しないのであるから、右主張は採用することができない。
原告は、さらに、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」には、「法人等が現に自己の著作の名義の下に公表したもの」だけでなく、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格のもの」を含むと解されているところ、本件写真は、その製作時から原告旧カタログ1に掲載を予定したものであり、その後も原告旧カタログ2、3あるいは本件カタログ以外には公表されていないのであるから、その当初から「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」であったといえると主張する。しかし、未公表の著作物については、性質上法人等の著作名義で公表することを予定しているものは「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」ということができるとしても、
既に公表された著作物であって、その公表の時点において法人等の著作名義が付されていないものは、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」という余地はないから、右主張は採用することができない。
したがって、本件写真につき著作権法15条1項に基づき原告がその著作者であるという原告の主位的主張は理由がない。
(二) しかし、証拠(証人【B】、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、
【A】と【C】の間では、原告旧カタログ3に掲載する写真(本件写真)の撮影に際し、写真の点数及び要する時間によって報酬を決定した上、写真の原版も含め原告が買い取ることが合意されていたことが認められ、右事実によれば、本件写真の著作権は【C】から【A】に譲渡する旨の合意が成立していたものと推認することができ、弁論の全趣旨によれば、その後本件写真の著作権は、【A】の個人営業を承継した原告の設立に際し、原告に承継取得されたものと認めることができ、原告の予備的主張は理由がある。
(三) 以上要するに、本件カタログについての編集著作権及び本件写真の著作権は原告が有していることになる。
三 争点3(被告カタログは、原告の著作物の複製〔又は翻案〕物に当たるか)について1 被告写真と本件写真の複製(一) 著作物の複製 著作権法21条にいう複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形体を覚知させるに足りるものを再製することをいい、既存の著作物への依拠と既存の著作物との同一性が要件となる。そして、その判断に当たっては、著作権が保護の対象とするのはその表現の手法という抽象的なアイデア自体ではなく、具体的な表現形式であることに注意しなければならない。
この点に関して、原告は、写真の著作物については、他人の絵画を人の手で模写する場合、模写を行う画家の創作性(オリジナリティ)が新たに加わらない限り絵画の複製に当たるのと同様に、他人の著作物たる写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法(被写体の構図、アレンジ、ライティング、
シャッターチャンス等写真の著作物としての創作性を決定する諸要素)を用いて写真Bを撮影する場合に、写真Aの創作性に対して写真Bの撮影者の創作性が何ら付加されていないと認められるときは、写真のAの複製であるといって差支えないとし、さらに、このことを前提に、人物や特定の建築物、特定の風景のように個性があり代替性のない被写体を撮影した写真については、被写体自体が著作物としての写真の創作性を基礎付ける重大な要素となっているから、被写体が異なれば撮影方法が同一でも互いに異なった著作物となるが、被写体が個性のない代替性のある商品である場合には、被写体は写真の著作物の創作性を基礎付ける要素ではなく、撮影者が行った構図の設定、被写体のアレンジ、ライティング、シャッター速度の設定こそが著作物としての写真の創作性を決定するのであり、一般人が写真上から被写体の相違を認識することができず、両者の撮影方法の同一性から一方の写真が他方の写真を再製したものであるとの認識を抱く場合には、一方の写真を他方の複製であると解するのが相当であると主張する。
しかし、まず、絵画の複製に当たる「他人の絵画を人の手で模写する場合」と対比すべきは、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影する場合ではなく、写真Aそのものを有形的に再製する場合であるから、写真Aと同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影したからといって、直ちに写真Aの複製になるとはいい難い。まして、写真Bが写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方法を用いているからといって、写真Bをもって写真Aの複製であると解する余地はない。原告主張のように、一般人が写真上から被写体の相違を認識することができず、両者の撮影方法の同一性から一方の写真が他方の写真を再製したものであるとの認識を抱くというのは、主として、被写体が個性のない代替性のある商品であることによるのであって、撮影方法が同一のものであることによるのではない。
(二) 被告写真と本件写真の複製 そこで、被告写真を本件写真と対比するに、確かに、被告写真1は、罫線を引いた黒の地色を背景にしてカーテンフックを撮影したものであり、左から順に@アルファベットのpに似たカーテンフック、Ahに似たカーテンフック、Bpに似たカーテンフック(@よりサイズが小さいもの)、Chに似たカーテンフック(Aよりサイズが小さいもの)の順で配置している点で本件写真1と共通しており(本件写真1のうち甲第一号証六、七頁各上段の写真と被告写真1のうち甲第二号証四頁上段の写真)、同様に、被告写真2は、ロール状に巻いた二本のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を若干前方に引き出して上から垂らしたものを、向かって右斜め前方より撮影し、グラデーションによる背景を用いている点で本件写真2と、
被告写真3は、ギャザーテープをカーテンに使用したものと、左側はギャザーを施し右側は平板に引き延ばしたギャザーテープとを上下二段に配した写真である点で本件写真3と、被告写真4は、バルーンテープをカーテンに使用した写真と、上部はギャザーを施し下部は平板に引き延ばしたバルーンテープの写真とを左右に配したものである点で本件写真4と、被告写真5は、色の異なる複数のフレンジを切ってつなぎ合わせ、一本のフレンジに見せるように撮影している点で本件写真5と、
被告写真6は、色の異なる複数のタッセルコードを切ってつなぎ合わせ、一本のタッセルコードに見せるように撮影している点で本件写真6と、被告写真7は、縦に延ばした状態で小さく撮影したタッセルを複数配し、大きく撮影したタッセルをその上部が小さなタッセルの上におおいかぶさるように左下から右上へ斜めに湾曲させて配したものである点で本件写真7と、それぞれ共通している。
しかしながら、いずれについても、本件写真の被写体がパロマの商品であるのに対し、被告写真の被写体は被告の商品であるから、前説示に照らし、被告写真をもって本件写真の複製という余地はないものといわなければならない(同様に、被告写真をもって本件写真を翻案したものということもできない。)。
2 被告カタログと編集著作物としての原告カタログの複製(一) 本件カタログ(甲第一号証)の章だては、以下のとおりであることが認められる。
HOOK/カーテンフック・アジャスターフック TAPE/カーテン芯地・テープ GATHER TAPE/ギャザーテープ SEWING PARTS/ソーイング パーツ LACE・TRIM/レース・トリム FRINGE&TASSEL/フレンジ&タッセル RELATED GOODS/その他の商品 NEW COLLECTION/ニューコレクションこれに対し、被告カタログ(甲第二号証)の章だては以下のとおりであることが認められる。
CUrTAIN HOOK CUrTAIN TAPE TRiMMiNG FrENGE TASSEL DOnChO SeWiNG PArTS POlE(二) 被告カタログを本件カタログと対比すると、@第一章をカーテンフックに関する章として、カーテンフック類に関する商品情報を写真、図版の形式で掲載しており、また、その章の商品情報の配列の仕方において、銅線フックを最初に配列し、その後に樹脂製のフック、アジャスターフックを配列している点、A第二章をカーテンテープに関する章としている点、Bフレンジとしぼりタッセルという異なる商品群を一章にまとめて配列している点(被告カタログの第四章「FrENGE TASSEL」と、本件カタログの第六章「FRINGE&TASSEL/フレンジ&タッセル」)で共通する(その他、原告は、被告カタログの「TRiMMiNG」の章は、白いレース等のトリミング材を分類・配列している点で本件カタログの「LACE・TRIM/レース・トリム」の章と同一であり、被告カタログの「SeWiNG PArTS」の章においてカーテンウエイトプレート、タッセル芯地、タッセルリング、江戸打ヒモ等の各種商品をまとめて選択・配列している点も、本件カタログの「SEWING PARTS/ソーイング パーツ」の章においてウェイトテープ、ウェイトタッセル芯地、タッセルコード、江戸打ひも等の各種商品を一体として配列しているのと同一であると主張するが、同種の商品を同一の個所に分類・配列するのは通常のことであり、創作性を認めることはできない。)。
また、ギャザーテープ又はバルーンテープの写真とこれを使用したカーテンの写真とを上下二段に又は左右に並べて、ギャザーテープ又はバルーンテープの形状とその具体的使用方法が一目瞭然に理解できるように配列している点(本件写真3、
4と被告写真3、4の個々の写真の配列)で共通する。
しかし、被告カタログは、第三章以降の順序及び表題において本件カタログと相違しているのみならず、そもそも、本件カタログにはパロマの商品の写真及び説明文が、被告カタログには被告商品の写真及び説明文が掲載されているところ、編集著作権においても、保護の対象とするのは素材の選択、配列方法という抽象的なアイデア自体ではなく、素材の選択、配列についての具体的な表現形式であるから、
素材において本件カタログと全く異なる被告カタログが本件カタログの編集著作権を侵害するものであるということはできない。
結論
よって、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 水野武
裁判官 小澤一郎
裁判官 本吉弘行