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事件 平成 6年 (ワ) 11425号 著作権侵害差止等請求事件
平成 8年 (ワ) 21147号 著作権侵害差止等請求事件
甲・乙事件原告 【P1】 右訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美甲・乙事件被告 国右代表者法務大臣 【P2】 右指定代理人 【P3】
同 【P4】
同 【P5】
同 【P6】
同 【P7】 甲事件被告 株式会社岩手日報社 右代表者代表取締役 【P8】 右訴訟代理人弁護士 石川 克二郎甲事件被告 株式会社新潟日報社 右代表者代表取締役 【P9】 右訴訟代理人弁護士 丸山正甲事件被告 太田市 右代表者市長 【P10】 右訴訟代理人弁護士 丸山幸男甲事件被告 柏市 右代表者市長 【P11】 右訴訟代理人弁護士 梶谷剛
同 渡辺昭典
同 川添丈
同 岡伸浩
同 和智洋子
同 宮島哲也
同 藤原寛右訴訟復代理人弁護士 石川 慶一郎
同 井上裕明
同 松下満俊甲事件被告 株式会社高島屋 右代表者代表取締役 【P12】 右訴訟代理人弁護士 梶谷剛
同 川添丈
同 岡伸浩
同 和智洋子
同 宮島哲也
同 藤原寛右訴訟復代理人弁護士 石川 慶一郎
同 井上裕明
同 松下満俊甲事件被告 株式会社大阪読売新聞社 右代表者代表取締役 【P13】 右訴訟代理人弁護士 中坊公平
同 飯田和宏
同 谷澤忠彦
同 岩城裕
同 藤本清
同 長尾博史右訴訟復代理人弁護士 東岡弘高
同 尾崎一浩乙事件被告 讀賣テレビ放送株式会社 右代表者代表取締役 【P14】 乙事件被告 株式会社ナビオ阪急 右代表者代表取締役 【P15】 右両名訴訟代理人弁護士 中坊公平
同 飯田和宏右訴訟復代理人弁護士 東岡弘高
同 尾崎一浩乙事件被告 株式会社ディー・スクエア 右代表者代表取締役 【P16】 右訴訟代理人弁護士 永山忠彦右訴訟復代理人弁護士 松本 佐弥香甲事件被告ら補助参加人兼乙事件被告 日本アドヴィザー株式会社 右代表者代表取締役 【P17】 右訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 水戸重之
同 中村勝彦
同 赤澤義文
同 吉野正己右訴訟復代理人弁護士 長坂省
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/01/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の被告国に対する平成六年(ワ)第一一四二五号事件の請求を棄却する。
二 原告の被告国に対する平成八年(ワ)第二一一四七号事件の訴えを却下する。
三 被告株式会社岩手日報社は、原告に対し、一万七九八〇円及びこれに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社新潟日報社は、原告に対し、三二六四円及びこれに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告太田市は、原告に対し、五五六二円及びこれに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告柏市は、原告に対し、二四三一円及びこれに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被告株式会社大阪読売新聞社、被告株式会社ナビオ阪急及び被告日本アドヴィザー株式会社は、原告に対し、連帯して、二万〇二一一円及びこれに対する平成八年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 原告の、右被告七名に対するその余の請求、右被告八名以外の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
九 訴訟費用は、原告と被告株式会社岩手日報社、被告株式会社新潟日報社、被告太田市、被告柏市、被告株式会社大阪読売新聞社、被告株式会社ナビオ阪急、及び被告日本アドヴィザー株式会社との間においては、原告に生じた費用の一〇分の一を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告と右被告七名以外の被告らとの間においては、全部原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
一 平成六年(ワ)第一一四二五事件(甲事件) 1 被告国を除く甲事件のその余の被告らは、別紙書籍目録記載の書籍を複製、頒布してはならない。
2 被告国を除くその余の被告らは、別紙書籍目録記載の書籍及び右書籍の印刷用原版を廃棄せよ。
3 被告国を除くその余の被告らは、別紙謝罪広告目録一記載の謝罪広告をせよ。
4 甲事件被告らは、原告に対し、連帯して二六九六万七二一三円及びこれに対する平成六年六月二八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 平成八年(ワ)第二一一四七号事件(乙事件) 1 被告讀賣テレビ放送株式会社、同株式会社ナビオ阪急、同日本アドヴィザー株式会社は、別紙書籍目録記載の書籍を複製、頒布してはならない。
2 被告讀賣テレビ放送株式会社、同株式会社ナビオ阪急、同日本アドヴィザー株式会社は、別紙書籍目録記載の書籍及び右書籍の印刷用原版を廃棄せよ。
3 被告讀賣テレビ放送株式会社、同株式会社ナビオ阪急は、別紙謝罪広告目録二記載の謝罪広告をせよ。
4 乙事件被告らは、原告に対し、甲事件被告株式会社大阪読売新聞社と連帯して、五〇〇万円及びこれに対する平成八年一一月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告讀賣テレビ放送株式会社、同株式会社ナビオ阪急、同日本アドヴィザー株式会社及び同国は、原告に対し、甲事件被告株式会社大阪読売新聞社と連帯して、三九万三四四二円及びこれに対する平成八年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は、フランス人の画家である【P18】(以下、単に「【P18】」という。)の絵画の鑑定人であり、【P18】の著作物に対する著作権の二分の一を有すると主張する者である。
本件において、原告は、被告国を除くその余の被告らが開催し又はそれに関与した【P18】の絵画の展覧会に関し、@ 贋作を真作として展示し、カタログに複製したことにより原告の人格権が侵害された、A 原告の許諾を得ることなくカタログに【P18】の絵画を複製して掲載したことにより原告の著作権(複製権)が侵害された、と主張して、右被告らに対し、著作権及び人格権に基づき右カタログの複製、頒布の差止め、人格権に基づき謝罪広告の掲載、著作権及び人格権の侵害に基づき損害賠償を求めるとともに、被告国に対しては、展覧会を主催する者に対し、展示予定作品につき贋作を展示したりカタログに掲載しないよう、またカタログへの作品の掲載につき著作権者の承諾を得るよう指示、助言すべき注意義務を怠ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めている。
一 当事者間に争いのない事実等(証拠等により認定したものについては該当部分末尾に証拠を掲記した。) 1 フランス人の画家である【P18】は、別紙絵画目録一、二、四ないし七の絵画(以下「本件絵画1」という。)を著作し、本件絵画1はベルヌ条約により我が国の著作権法による保護を受ける著作物である。(被告讀賣テレビ放送、同ナビオ阪急、同ディー・スクエアを除くその余の被告らの関係で甲一、弁論の全趣旨) 2 平成五年一二月から同六年五月にかけて、左記のとおり全国五か所で【P18】や【P19】などの画家の作品を対象とする展覧会(以下「本件展覧会」という。)が開催された。(主催者欄、会場欄に記載の各被告との関係では争いがなく、その余の被告との関係につき甲一。ただし、乙事件被告である被告ディー・スクエア、同日本アドヴィザーとの関係で後記(四)記載の事実は争いがない。) (一)〔主催者〕被告岩手日報社 〔会 場〕岩手県民会館 〔会 期〕平成五年一二月四日から同月二六日 (以下「本件岩手展」という。) (二)〔主催者〕被告新潟日報社 〔会 場〕新潟三越 〔会 期〕平成六年一月二日から同月一四日 (以下「本件新潟展」という。) (三)〔主催者〕被告太田市 〔会 場〕東毛学習文化センター 〔会 期〕平成六年二月一一日から同月二〇日 (以下「本件太田展」という。) (四)〔主催者〕被告柏市・柏高島屋ステーションモール商店会 〔会 場〕柏高島屋ステーション 〔会 期〕平成六年四月二一日から同年五月八日 (以下「本件柏展」という。) (五)〔主催者〕被告大阪読売新聞社・被告讀賣テレビ放送 〔会 場〕ナビオ美術館 (被告ナビオ阪急が開設) 〔会 期〕平成六年三月一八日から同年四月一三日 (以下「本件大阪展」という。) 3 本件展覧会において、本件絵画1及び別紙絵画目録記載三及び八の絵画 (以下「本件絵画2」という。)が展示された。(被告柏市、同高島屋、同日本アドヴィザー、同国の関係で甲一、弁論の全趣旨。ただし、本件柏展において右の各絵画が展示されたことは、被告柏市、同高島屋の関係では争いがない。) 4 別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件カタログ」という。)には、本件絵画1及び同2が掲載されている。(被告国の関係で甲一) 二 争点及びこれに関する当事者の主張 1 被告国に対する請求の当否 (一)乙事件の訴えは二重起訴に当たるか(本案前の抗弁) (被告国の主張) (1)原告の被告国に対する乙事件の訴えは、@ 被告讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急が甲事件被告大阪読売新聞社と共に、平成六年三月一八日から同年四月一三日までの間、ナビオ美術館で開催された本件大阪展において、【P18】の作品の贋作を真作として展示あるいはカタログに複製掲載し、また原告の許諾なく【P18】の作品をカタログに複製掲載して販売したこと、また、A 被告日本アドヴィザー及び同ディー・スクエアが贋作を本件大阪展で展示するために同讀賣テレビ放送、同ナビオ販急及び同大阪読売新聞社に貸与したこと、B これらの行為によって原告の人格権あるいは著作権が侵害され損害が発生したことを前提に、
被告国には、右被告らがこれらの行為をしないように指導、助言する法的責任があるにもかかわらず指導、助言しなかったという作為義務違反があり、この作為義務違反の行為と原告の損害との間に相当因果関係があるとして、被告国に対して損害の賠債を求めているものである。
(2)しかしながら、原告の右訴えは、二重起訴に当たり不適法である。
すなわち、原告は、甲事件において、被告大阪読売新聞社が本件大阪展において、【P18】の作品の贋作を真作として展示あるいはカタログに複製掲載し、また原告の許諾なく【P18】の作品をカタログに複製掲載して販売したとし、これらの行為によって原告の人格権あるいは著作権が侵害され損害が発生したとした上、さらに、被告国には、右被告がこれらの行為をしないように指導、助言する法的責任があるにもかかわらず指導、助言しなかったという作為義務違反があり、この作為義務違反行為と原告の損害との間に相当因果関係があるとして、被告国に対して損害の賠債を求めている。そして、右事件において原告が贋作と主張している作品と本件において原告が贋作と主張している作品とは同一のものであり、原告の許諾なく作成し販売したとされるカタログも同一のものである。
したがって、被告国に対する甲事件の請求と乙事件の請求とは、加害行為の態様、被害者、被侵害法益及び損害が全く同一であって、同一の請求であるといわざるを得ないから、被告国に対する乙事件の訴えは民事訴訟法142条により不適法であることが明らかである。
(原告の主張) 被告国の右主張の根拠は、対象となるカタログが同一であり、原告が贋作であると主張する作品が同一であることに尽きるように思われる。
しかし、原告が本訴で求めている被告国の責任は、贋作を展示したり、
著作権者の許諾を得ないで著作物の複製をすることのないよう指導、助言する義務を怠った結果、被告らによる人格権侵害、著作権侵害が惹起されたという点に求められるから、訴訟物は被告ごとに異なるものというべきである。
よって、乙事件の訴えは二重起訴に当たらない。
(二)被告国の国家賠償法1条1項に基づく責任 (原告の主張) (1)被告国は、著作権等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする著作権法を執行する立場にあり、文部省を設置し、その外局として文化庁を設置している。
文化庁は、文化の振興及び普及を図ることを任務とし(廃止前の文部省設置法12条1項)、文部省の所掌事務のうち、著作権、出版権著作隣接権登録その他の事務等を行い、地方公共団体及び教育委員会その他の機関に対し、文化に関する行政の組織及び運営について指導、助言及び勧告を与えること等の権限を有している(同法5条6条13条)。
右の規定に照らせば、被告国は、文部省、文化庁を通じて、芸術及び著作権その他の著作権法に規定する権利に関する活動である展覧会について、展覧会が適正に行われ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与するため、展覧会の主催者を含め、他人の精神的労作を利用しようとする者に対し、贋作が真作として展示されたり、人格権や著作者人格権や著作権が侵害されたりしないよう、充分に指導、助言する責任を負い、権限を有している。
(2)従前より、デパートなどで「文化事業」として開催される展覧会は「客寄せイベント」として行われていることが指摘されていた。また、いわゆるバブル期に多額の税収を得た地方公共団体が競って美術館を造ったり、展覧会を開催したりしているが、専門の学芸員の作成はなおざりにされてきたことも指摘されていた。右の事情をも考慮すれば、文化庁の指導、助言の責任は重大であるといえる。
(3)贋作を真作として展示したり、カタログに掲載したりすることは、
人格権を侵害する行為であり、文化に対する冒涜である。そして、権利者の許諾を得ないでカタログに複製を掲載することは著作権を侵害する行為である。
被告国においては、文化事業と位置づけられる展覧会を主催する者に対し、展示予定作品につき専門家の鑑定を得るようにさせ、贋作を展示したりカタログに掲載したりしないよう、カタログへの掲載に際しては著作権者の許諾を得るように指導、助言すべきであり、このような指導、助言を行っていれば、その余の被告らの行為は未然に防止することができた。
そうでないとしても、被告国は、展覧会を主催する立場にある者及びカタログを制作する者に対し、著作権者の許諾を得ないで展示作品をカタログに複製して掲載することを幇助したり、かかるカタログを販売したり、贋作を複製して掲載したカタログの制作を幇助したり、贋作を複製し掲載したカタログを販売したりすることのないよう指導、助言すべきであり、このような指導、助言を行っていれば、その余の被告らの行為は未然に防止することができた。しかるに、被告国は、これらの指導、助言を怠り、その結果、原告の【P18】に対する敬愛の情(人格権)を侵害し、原告の著作権を侵害した。
以上によれば、被告国の右裁量権の不行使は国家賠償法上違法と評価されるべきであり、被告国は、同法1条1項に基づき、原告に対して損害賠償責任を負うものというべきである。
(被告国の主張) 国家賠償法に基づく損害賠償を請求するためには、その前提として、原告において、いかなる公権力を行使する公務員のいかなる行為(不作為)が違法であるか、また、それによりいかなる損害が発生したのか明らかにする必要がある。
しかし、原告は右の点につき何ら具体的に主張をしない。
さらに、原告は、当該公務員が、いかなる法的根拠に基づき私人間における個別具体的な著作権に対する侵害行為を防止すべき義務を負うのかを明らかにする必要がある。
しかし、原告は、被告国の作為義務の根拠として、廃止前の文部省設置法及び著作権法を援用するようであるが、文部省設置法は、同法5条83号において、文部省の所掌事務として「著作権、出版権及び著作隣接権登録その他の著作者の権利、出版権及び著作隣接権に関する事務を行うこと。」と規定するにとどまり、右のような規定をもって、被告国の作為義務の根拠とすることができないことは明らかである。また、著作権法にも原告主張にかかる法的義務を被告国が負担するものと解される規定は存在しない。以上によれば、原告の主張に理由がないことは、その主張自体から明らかである。
2 被告高島屋と柏高島屋ステーションモール商店会の関係(被告高島屋は本件柏展の共催者であるか。) (被告高島屋の主張) (一)本件柏展は、柏高島屋ステーションモール商店会(以下「商店会」という。)と被告柏市が共催者となり、事務的な部分は東神開発株式会社(以下「東神開発」という。)が商店会の委託を受けて担当し、展覧会の内容にわたる部分は被告日本アドヴィザーが企画、運営したものである。
(二)柏高島屋ステーションモールは、柏駅西口に設けられたショッピングセンターの名称であり、その建物はT館とS館の二棟からなる。T館は被告高島屋外三名の共有である。S館は東武鉄道株式会社の所有であり、東神開発が全体を賃借し、その一部を被告高島屋に、他の一部を合計一一一社ある専門店にそれぞれ転貸している。被告高島屋はT館の共有者かつS館の一部の転借人として、右専門店一一一社はS館の一部の転借人として、それぞれ小売営業を行っている。
そして、商店会は、右柏高島屋ステーションモールの出店者を会員とする社団であり、出店者の共同の繁栄のため必要な共同事業を行うこと等を目的とし、主として共通の宣伝・広告、販売促進のための各種催事(イベント)を行っている。商店会では、会則その他の諸規則が整備され、会長、副会長、常任理事、監事等の役員、総会、理事会、各種委員会、事務局等の組織を有し、会長は商店会を代表し、会の意思決定は多数決の原則によっている。予算規模は年間約五億円強であり、出店者の財産から独立した財産として管理、運営がされている。
したがって、商店会は権利能力なき社団(民訴法29条)に当たる。
(三)本件柏展は、商店会が柏市制施行四〇周年を記念し、地域文化振興の一助とするため企画したイベントであり、事務的な手続は東神開発が行ったものであるが、出典絵画の選定、著作権等の処理、図録の作成等はすべて被告日本アドヴィザーが担当し、商店会及び東神開発は関与していない。 以上の事実によれば、
原告の被告高島屋に対する訴えは理由がないことが明らかである。
(原告の主張) 被告高島屋は、本件柏展が終了した後も、同被告柏店において本件カタログの販売を行い、本件カタログ代金の領収証(甲三)を商店会の名義で発行した。
この事実に照らせば、商店会は名義上の存在であり、その実質は被告高島屋であったものといえる。
3 原告による【P18】の著作権の承継 (原告の主張) (一)【P18】は一九五五年一一月五日死亡し、その妻である【P20】は、【P18】の著作物に対する著作権を承継した。
(二)【P20】は、一九六五年七月三一日、同人の【P18】の著作物に対する著作権の二分の一を原告に遺贈する旨の遺言をした。
(三)【P20】は、一九六五年八月一九日、死亡した。
これにより、原告は、【P18】の著作物に対する著作権の二分の一を取得した。
(被告らの主張) 原告の主張事実は知らない。
4 人格権としての原告の【P18】に対する敬愛の情に基づく差止め、損害賠償及び謝罪広告掲載の各請求の当否 (原告の主張) (一)(1)原告は、【P18】の妻である【P20】の秘書として同人の厚い信頼を受け、同人の遺言により、【P18】の画家としての名声を守り、【P18】及び【P20】の遺した物、評論、新間記事、シネマ、フィルムの保護に当たる任を託され、両名の伝記の作成に必要な真筆の資料、原稿の遺贈を受け、両名の墓所を守ることを託され、【P20】の遺言により、【P18】の著作物に対する著作権の二分の一及び著作者人格権の全部の遺贈を受けた。
(2)原告は、【P20】の死後もその遺言により託された任務を果たしてきたほか、パリ近郊のサンノア市営のモーリス・ユトリロ美術館の設立について中心となって努力し、同美術館に【P18】及び【P20】の真筆の資料、原稿等を寄贈し、同美術館内で、モーリス・ユトリロ・アソシエーションの会長として【P18】の作品のカタログレゾネの作成に専念している。
(3)以上のような原告の【P18】及び【P20】との間の人的関係に照らせば、原告の【P18】に対する敬愛の情は、【P20】のそれに勝るとも劣らないということができるから、原告の右敬愛の情は、人格権として我が国の不法行為法により保護されるべきものである。
(二)本件絵画2は、【P18】の作品ではない贋作である。このことは、
原告の申立てにより、フランスの警察が別紙絵画目録三の絵画を押収し、鑑定した結果、真作であることが疑わしいとの鑑定結果が出たこと、平成六年五月一四日から同年六月一二日までふくやま美術館において、ふくやま美術館、中国新聞社、中国放送の主催で開催された「ボディリアーニとその仲間たち展」の展示作品から、
原告の指摘を受けて別紙絵画目録八記載の絵画が撤去されたことからも明らかである。
(三)(1)一般に、展覧会の主催者は、贋作を真作として展示したりすることのないよう展示予定作品につき事前にしかるべき鑑定人の意見を求め、真作であることに疑いのある作品を展示作品から外し、これを真作として展示したり、カタログに複製掲載したりすることのないように十分に注意するべき義務を負っている。
しかるに、被告国を除く被告らは、右注意義務に違反し、次のとおり、原告の人格権を侵害する行為をした。
(2)[主位的主張] 本件大阪展を除く本件展覧会において、前記一の2の主催者欄記載の各被告らは、本件展覧会に贋作である本件絵画2を真作として展示し、本件展覧会において販売するため本件カタログを作成し、これを販売したが、本件カタログに贋作を真作として掲載した。その結果、【P18】の贋作が真作と区別されないまま本件展覧会に展示され、本件カタログにも同様に贋作が真作と区別されないまま掲載された。
[予備的主張] そうでないとしても、甲事件補助参加人兼乙事件被告日本アドヴィザー(以下、単に「被告日本アドヴィザー」という。)は、贋作を掲載した本件カタログを五万部作成して、被告岩手日報社、同柏市及び同高島屋、同太田市、同新潟日報社にそれぞれ一万部ずつ販売し、又はその販売を委託して原告の人格権を侵害したが、右各被告らは、本件カタログを被告日本アドヴィザーに作成させ、同被告から本件カタログを買いとることを約し、買い取り、本件展覧会の会場で頒布し、
同被告から本件カタログを本件展覧会の会場で販売することを受託し、かつ販売し、もって被告日本アドヴィザーの右不法行為を幇助した。
(3)[主位的主張] 本件大阪展において、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は、共同して、被告日本アドヴィザーをして贋作である本件絵画2を真作として本件カタログに掲載させた上、本件大阪展の会場で頒布した。
その際、被告日本アドヴィザーは右被告ら三名に貸与するため、被告ディー・スクエアに贋作である本件絵画2を本件絵画1と共に貸与して、右被告ら三名の右侵害行為を幇助した。被告ディー・スクエアは、贋作である本件絵画2を本件絵画1と共に貸与して、右被告ら三名の右侵害行為を幇助した。また、被告日本アドヴィザーは、本件カタログを制作し、右被告ら三名に販売して右侵害行為を幇助した。
[予備的主張] そうでないとしても、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は、共同して、被告日本アドヴィザーが本件展覧会の会場で頒布するため、贋作である本件絵画2を本件絵画1と区別しないで複製し掲載して作成した本件カタログを、被告日本アドヴィザーから購入して本件大阪展の会場で自ら頒布し、又は同被告に頒布させた。
その際、被告日本アドヴィザーは、本件カタログを制作して右被告ら三名に販売し、又は本件カタログを本件大阪展の会場で頒布して、右被告ら三名の右侵害行為を幇助した。
(4)右被告らの行為は【P18】の名誉を著しく毀損し、生存者の場合であれば、人格権及び著作者人格権を侵害する行為であって、原告はこれにより人格権としての前記【P18】に対する敬愛の情を著しく侵害された。
(四)(1)したがって、原告は、人格権に基づく差止請求権の行使として、贋作の掲載された本件カタログの複製及び頒布の差止めを求める。
(2)また、右人格権の侵害により原告の被った精神的苦痛は多大なものであり、これを慰謝するための金額は、一展覧会当たり五〇〇万円の合計二五〇〇万円を下らない。
(3)さらに、絵画の世界においては、当該絵画がどのような展覧会に展示されたかという来歴(以下「展覧会歴」という。)及び当該絵画の複製がどのようなカタログに掲載されたかという来歴(以下「カタログ歴」という。)が、その作品が真作であることを推認させる情況証拠として用いられている。これを悪用して贋作を真作として通用させることを企図する者は、贋作を真作と偽って展覧会に展示させ、カタログへの複製掲載の許諾の申請を行うことなく、展覧会のカタログに複製を掲載されることを行っている。
したがって、本件絵画2が【P18】の真作でなく、贋作であることを公に知らしめない限り、右作品が本件展覧会に展示されたという展覧会歴及び本件カタログに複製掲載されたというカタログ歴が残ることになり、本件絵画2が【P18】の真作として通用し、これを【P18】の真作として誤信して買い求める者が生じるおそれがあり、このような危険性がある限り、原告の右人格権に対する侵害は継続する。
したがって、謝罪広告により、本件絵画2が【P18】の真作でなく、贋作であることを世間に知らしめることが不可欠である。
(被告らの主張) 原告主張の事実は知らない。法律上の主張は争う。
5 【P18】の鑑定人としての原告の名誉に基づく損害賠償請求の当否 (原告の主張) (一)原告は、前記のとおり、【P18】の遺族から【P18】の著作者人格権の譲渡を受けたが、それと同時にその贋作を排除する任務を授けられた。原告はこの付託に応え、贋作の排除のため数十年にわたり闘ってきた。原告は、この一環として、【P18】の作品の展覧会等への展示及びカタログへの複製掲載には事前の許可申請を求めることとし、贋作の疑いのある作品については展示又はカタログへの複製掲載を許可しないことで、贋作に展覧会歴やカタログ歴が作られることを防いできた。
原告のこのような真摯な努力は広く世界で認められ、原告は【P18】絵画の最も権威のある鑑定人として評価されている。
(二)ところが、贋作である本件絵画2が本件展示会で展示され、本件カタログに複製掲載され、さらに本件カタログが頒布されたことにより、原告が許諾を与えて、右作品を展示させ、本件カタログに掲載させ、それを頒布させたという外形が作出され、原告が贋作に展覧会歴やカタログ歴を作ることに加担したという外形が作り出された。
(三)これにより、【P18】の人格権の承継人であり、【P18】絵画を贋作から守る者であり、【P18】の最も権威のある鑑定人としての原告の名誉は毀損され、原告は多大な精神的な苦痛を被った。
原告は、右損害を、贋作の本件展覧会への展示並びに本件カタログへの複製掲載及び贋作の掲載された本件カタログの販売により被った損害として、前記4(四)(2)の損害に追加して主張する。
6 本件絵画1の本件カタログへの掲載について著作権(複製権)の侵害を理由とする差止め及び損害賠償請求の当否 (原告の主張) (一)[主位的主張] 本件大阪展を除く本件展覧会において、前記一の2の主催者欄記載の各被告らは、原告の許諾を得ることなく、本件カタログを制作した上(ここでいう「制作」には他人に制作させた場合も含む。)、本件絵画1を本件カタログに複製して掲載し、複製権を侵害することを知りながら本件カタログを頒布した。
[予備的主張] そうでないとしても、被告日本アドヴィザーは、本件絵画1を複製して掲載した本件カタログを五万部制作し、被告岩手日報社、同柏市及び同高島屋、
同太田市、同新潟日報社にそれぞれ一万部ずつ販売し、又はその販売を委託してもって原告の著作権を侵害したが、右被告らは、被告日本アドヴィザーに本件展覧会の会場で頒布するため、本件カタログを制作させ、本件カタログ五〇〇部の買取りを約し、買い取り、販売し又は頒布し、本件カタログの販売を受託しかつ受託販売して、もって被告日本アドヴィザーの右侵害行為を幇助した。
(二)[主位的主張] 本件大阪展において、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は、共同して、原告の許諾を得ることなく被告日本アドヴィザーをして本件カタログを作成させ、本件絵画1を本件カタログに複製して掲載させ、もって本件絵画1を複製した。
被告日本アドヴィザーは、本件絵画1を本件カタログに複製して掲載し、本件カタログを右被告ら三名に販売して、右侵害行為を幇助した。 [予備的主張] そうでないとしても、被告日本アドヴィザーは、本件絵画1を本件カタログに複製して掲載した。
被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は、共同して、被告日本アドヴィザーから購入して本件大阪展の会場で自ら頒布し、又は同被告に頒布させて、被告日本アドヴィザーの右侵害行為を幇助した。
(三)[主位的主張] 前記一の2の主催者欄及び会場欄に記載の各被告らは、本件カタログを単価二〇〇〇円で合計五万部販売し(ただし、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は三名で、同柏市及び同高島屋は両名で合わせて一万部)、少なくとも各展覧会ごとに八〇〇万円、合計四〇〇〇万円の利益を得た。
[予備的主張] そうでないとしても、被告日本アドヴィザーは、本件カタログを右被告らに販売し、右被告らは本件カタログを単価二〇〇〇円で少なくとも一万部販売し(ただし、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急は三名で、
同柏市及び同高島屋は両名で共同して)、右被告ら及び被告日本アドヴィザーは、
少なくとも各展覧会ごとに八〇〇万円、合計四〇〇〇万円の利益を得た。
(四)本件カタログには七三の作品が掲載されているが、そのうち【P19】の作品一〇点は著作権が消滅しており、贋作である本件絵画2を除くと、残りは六一となる。
したがって、四〇〇〇万円の六一分の六である三九三万四四二六円に原告の著作権の持分である二分の一を乗じた一九六万七二一三円が、右被告らの不法行為により原告が被った損害と推定される。
(被告岩手日報社の主張) 被告岩手日報社は、被告日本アドヴィザーから本件カタログを購入し、販売したが、本件カタログを同被告をして制作させたことはない。
本件カタログの購入部数は一五〇〇部、単価は一部一七〇〇円であり、九一四部を一部二一〇〇円(消費税込)で販売した。残りの五八六部のうち四〇〇部は被告日本アドヴィザーに返品し、その余の一八六部は廃棄した。
(被告新潟日報社の主張) 被告日本アドヴィザーが本件カタログを制作したことは認めるが、被告新潟日報社が同被告に本件カタログを制作させたことは否認する。被告新潟日報社は同被告の委託を受けて本件カタログを販売したもので、その販売部数は七二三部である。また、被告新潟日報社は被告日本アドヴィザーからそれとは別に本件カタログ二七部を無償で譲り受け、宣伝用に無料で配付した。
(被告太田市の主張) 被告太田市が本件カタログを制作したこと、これを販売したことは否認する。本件太田展における本件カタログの販売主体は被告日本アドヴィザーである。
ただ、実際に販売を行ったのは被告太田市の職員であり、被告太田市は一部当たり六〇〇円の手数料を取得した。そして、本件カタログの販売部数は五一〇部である。
被告太田市は、本件太田展を開催するに当たり、美術展の企画・販売の専門業者である被告日本アドヴィザーに著作権法上の問題の解決を一任しており、同被告の責任でこれを解決したものと考え、そう考えることには合理的な理由があった。したがって、仮に本件カタログに本件絵画1を複製して掲載したことが原告の著作権を侵害するとしても、被告太田市は右不法行為につき過失がない。
(被告柏市の主張) 被告柏市が、本件カタログを制作し、販売したことは否認する。
本件カタログを制作したのは被告日本アドヴィザーである。本件柏展に際して納入された本件カタログのうち、五〇〇部は商店会の買取分であり、一〇〇〇部は被告日本アドヴィザーの委託販売分である。そして、買取分について商店会は一部一七〇〇円(消費税別)で仕入れ、一六〇部を一部二〇〇〇円(消費税別)で販売し、残りの三四〇部は無償で譲渡した。また、委託販売分のうち、七四八部が販売され、残りの二五二部は被告日本アドヴィザーに返却された。
本件柏展の事務的な手続は共催者である商店会が担当していたが、商店会は被告日本アドヴィザーとの契約において、著作物についての使用許可等の手続はすべて同被告が行うことと定めていた。本件柏展の開催に際し、同被告が美術著作権協会(以下「SPDA」という。)に著作物の使用許諾の申請をしたところ、SPDAから【P18】の著作物の著作権の一部を管理していない旨の指摘はなかった。したがって、被告柏市は展示作品の著作権上の問題はすべて解決済みであると信じた。
(被告大阪読売新聞社の主張) 被告大阪読売新聞社が本件カタログを制作したこと、これを販売したことは否認する。被告大阪読売新聞社は、被告ナビオ阪急の一部門であるナビオ美術館から、本件大阪展の名義主催(この企画の主催者として対外的に表示すること)の承諾依頼を受けて、これを承諾し、本件大阪展の主催者となった。しかし、右展覧会の入場料収入や支出、本件カタログの販売等につき、被告大阪読売新聞社は一切関与していないし、これが同被告の計算で行われたこともない。
(被告讀賣テレビ放送の主張) 被告讀賣テレビ放送が、被告日本アドヴィザーをして本件カタログに本件絵画1を複製して掲載させたこと、被告讀賣テレビ放送が本件カタログを購入して、これを頒布したことは否認する。
(被告ナビオ阪急の主張) 被告ナビオ阪急が、被告日本アドヴィザーをして本件カタログに本件絵画1を複製して掲載させたことは否認する。被告ナビオ阪急が、本件カタログを購入して本件大阪展の会場で頒布したことは認める。被告ナビオ阪急は、同日本アドヴィザーが同ディー・スクエアに販売した本件カタログ一五〇〇部のうち一四六〇部を同被告から一部一七〇〇円で購入し、そのうち一三三〇部を一部二〇〇〇円で販売した。そして、残りの一三〇部は廃棄した。
被告ナビオ阪急は、本件大阪展の開催に当たり、著作権に関係する事項については、経験及び実績を有する被告日本アドヴィザーにおいて適正に処理を済ませていると認識していたものであり、また、そのように認識していたことについて過失はなかった。
(被告日本アドヴィザーの主張) (一)被告日本アドヴィザーの担当者である【P21】(以下「【P21】」という。)は、平成五年一〇月ころ、SPDAの職員である【P22】(以下「【P22】」という。)に電話をかけ、被告日本アドヴィザーが「モディリアーニとその仲間たち展」という展覧会を行うこと、及びSPDAが【P18】等の美術品の著作権を管理していることの確認を行った。これに対し、【P22】は、
【P19】は七〇年前に死亡しているので、著作物使用料を支払う必要はないこと、【P18】を含むその他の美術品の著作権についてはSPDAが管理している旨を述べた。
被告日本アドヴィザーとSPDAとの間の本件以前の展覧会用のカタログ制作に関する著作権の使用許諾手続において、同被告が当該展覧会を開催するに当たり、事前にSPDAに対して、当該展覧会を開催すること、SPDAが当該美術品の著作権の管理を行っていることを確認した後にカタログの制作を行った場合には、事後的に著作物使用料の見積りと支払の手続が残るだけであり、著作物使用料についての許諾の有無が問題になることはなかった。すなわち、本件より以前に被告日本アドヴィザーとSPDAとの間では、カタログの制作前にその販売価格と販売部数を確定することは困難であることから、カタログの制作後に著作物使用料の支払い等が行われていた。
したがって、SPDAは、被告日本アドヴィザーから事前に展覧会を開催することの連絡を受け、同被告によりSPDAが当該美術品の著作権の管理を行っていることの確認がされた時点で、実質的には、被告日本アドヴィザーに対して著作物の使用を許諾していたということができる。
以上によれば、本件において、被告日本アドヴィザーは、平成五年一〇月ころ本件絵画1の使用について実質的な許諾を得たものというべきである。
(二)原告が著作権の二分の一を有すると主張する本件絵画1について、少なくとも平成五年一二月三一日までは、フランスの著作権管理団体であるADAGPの代理人であるSPDAが管理権を有していた。このことは、「原告は、平成六年一月一日からはADAGPを経由せず、自ら【P18】の絵画の著作権管理を行う。」旨の原告代理人弁護士作成の通知書(乙ヘ三)の記載から明らかである。
被告日本アドヴィザーの【P21】は、SPDAが【P18】絵画の著作権の管理を行っていた平成五年一〇月ころ、【P22】に電話をかけ、同被告が「モディリアーニとその仲間たち展」という展覧会を行うこと、及びSPDAが【P18】等の美術品の著作権を管理していることの確認を行った。
そして、被告日本アドヴィザーが本件カタログの制作を行った後、同被告は、SPDAが本件絵画1の著作権を管理していると信じて、平成六年三月にSPDAに対し、本件絵画1の本件カタログへの掲載申請を行った。
これに対し、同年四月七日、SPDAから被告日本アドヴィザーに対して、【P18】の著作物である本件絵画1に関する著作権使用料が一作品当たり二万五五〇〇円となる旨の見積書がファクシミリで送付された。
SPDAがファクシミリで見積書を送付すること自体が、著作権の管理者であるSPDAが本件絵画1の本件カタログへの掲載を許諾していることを実質的に意味するから、たとえ、平成六年四月七日の時点で、SPDAが本件絵画1の二分の一の著作権を管理していなかったとしても、その時点において被告日本アドヴィザーが右管理権の消滅について善意であった以上、右の時点において、SPDAは被告日本アドヴィザーに対し、本件絵画1を本件カタログに掲載することを実質的に許諾したものといえる。
また、前記のとおり本件カタログの制作を行う前の平成五年一〇月の時点で、被告日本アドヴィザーはSPDAに対し、SPDAが【P18】等の美術品の著作権を管理していることを電話で確認していること、被告日本アドヴィザーがSPDAが【P18】の著作に係る絵画の著作権の二分の一の管理権を失ったことの通知を受けたのは平成六年四月二八日以降であったことからすれば、同月七日の時点において、被告日本アドヴィザーは、SPDAが右二分の一の管理権を失ったことについて知らず、これ知らなかったとに過失はなかった。
したがって、仮に、原告が本件絵画1の著作権の二分の一を有していたとしても、原告は被告日本アドヴィザーに対し、平成六年四月七日の時点でSPDAが右絵画の著作権についての管理権を有していなかったことを主張することはできない。
以上によれば、被告日本アドヴィザーは、民法112条により、本件絵画1の本件カタログへの掲載につき、適法に許諾を得ているものというべきである。 (原告の反論) (一)被告日本アドヴィザーの主張する事実経過は、否認する。原告の主張する事実経過は次のとおりである。
(1)被告日本アドヴィザーは、本件絵画1の本件カタログへの複製については、原告にもSPDAにもその他何人にも事前の許諾の申請をせず、原告はもとよりその他の著作権者の著作権は侵害されていた。 (2)SPDAは、平成六年三月初めころ、本件展覧会が開催されていること、無許諾で本件カタログが制作され、販売されていることを初めて知った。そこで、SPDAは被告日本アドヴィザーに連絡し、本件カタログへの展示作品の複製を事後申請するよう次善の策として求めた。その際、SPDAは、被告日本アドヴィザーに対し、SPDAが窓口になっている画家を知らせ、【P18】については著作権の二分の一しか扱っていないこと、残りの二分の一の著作権を有する原告に関しては日本における代理人が本件訴訟の原告代理人でもある古木弁護士であること、原告からも許諾を得る必要があること、を伝えた。SPDAは、この後も折に触れて右の内容を被告日本アドヴィザーに伝えた。
(3)SPDAから催告を受けた被告日本アドヴィザーは、ようやく同年三月二三日、展覧会開催要項及び複製作品リストをSPDAに送り、本件カタログへの本件展覧会の展示作品の複製許諾を事後申請し、同日、本件カタログ二冊を発送した。
これを受けて、SPDAは、同年四月七日、本件カタログに掲載された作品のうち、SPDAの取扱いに係る著作物使用料の支払の対象となる画家等を知らせた。
これに対し、被告日本アドヴィザーは、同月二八日、SPDAに対して著作物使用料を減額してほしい旨申し入れたが、SPDAはそれに応じなかった。
(4)被告日本アドヴィザーは、同年六月末ころ、SPDAに対し、SPDAの基準に基づく著作物使用料の計算書を送付するように求めた。そこで、SPDAは、同年七月一日、その基準に基づき著作物使用料を計算して、具体的な金額を呈示した。そして、フランスにおける著作権の管理団体がSPADEMである著作物については事後申請の場合には使用料の倍額を請求することにしているので、
右計算書においては、倍額を「TOTAL」の欄に示し、かつ【P18】については「-50%」と記載し、金額欄の数字も半額にして、SPDAが【P18】の絵画について著作権の二分の一についてのみ著作物の使用許諾の窓口になっていることを明示して確認した。
(5)しかるに、被告日本アドヴィザーは、同年七月六日、SPDAが呈示した金額よりも少ない金額を一方的にSPDAの口座に振込送金し、同月七日、
SPDAに対して、本件カタログへの複製の事後承諾を得ていないにもかかわらず、承諾を得た旨記載した連絡文(甲四三)を送付した。
SPDAとしては、訴えを提起しても費用倒れになるので、差額の請求は事実上断念せざるを得ないと判断し、別段の法的手続を執ることなく今日に至っている。
(二)以上の事実経過によれば、本件カタログへの本件絵画1の複製は、SPDAによって、事前にも事後にも承認されていないことが明らかである。
また、被告日本アドヴィザーの代表者である【P17】(以下「【P17】」という。)は、原告が【P18】の絵画の著作権の二分の一を有する者であることを知っており、以前から原告に対して直接カタログへの掲載の許可を申請していた。したがって、被告日本アドヴィザーは、本件カタログへの本件絵画1の複製に原告の許可が必要であることを認識していた。したがって、表見代理(民法112条)の主張も理由がない。
7 共同不法行為の成否 (原告の主張) 本件展覧会は、「モディリアーニとその仲間たち展」という共通のタイトルの下で、同一の絵画(本件カタログに掲載された絵画)を展示し、前記のとおり全国五か所の会場を時期を接して巡回したものであって、被告国、同ディー・スクエアを除く被告らは、各会場で販売するため、本件カタログという同一のカタログを制作し、これを販売したものであり、そうでないとしても被告日本アドヴィザーによる本件カタログの制作、販売等を幇助したものである。
右被告らの行為は客観的に共同することが明らかであり、かつ右被告らの各行為が不法行為の要件を満たすことも明白である。したがって、右被告らの行為は、共同不法行為に当たる。
また、被告国は、その余の被告らに対し、前記1(二)(3)記載の指導、助言をするべき義務があったのにこれを怠り、原告の人格権及び著作権を侵害したものであるから、被告国とその余の被告らの行為も、共同不法行為に当たる。
よって、被告らは、原告に対し、前記4ないし6に基づく損害の合計である二六九六万七二一三円を連帯して支払う義務を負う。
(被告岩手日報社、同太田市、同大阪読売新聞社、同日本アドヴィザーの主張) 前記一の2の主催者欄記載の各被告らは、他の被告らの主催した展覧会については全く関与しておらず、本件展覧会を共同して開催した事実はない。
当裁判所の判断
一 争点1(被告国に対する請求)について 1 乙事件に関する訴えの適法性 原告の被告国に対する甲事件の請求のうち、本件大阪展に関するものは、
被告大阪読売新聞社が、【P18】の作品の贋作を真作として展示あるいはカタログに複製して掲載したこと、また、原告の許諾なく【P18】の作品をカタログに複製して掲載の上販売したことによって原告の人格権あるいは著作権が侵害され損害が発生したとして、被告国には、右被告がこれらの行為をしないように指導、助言する法的責任があるにもかかわらず指導、助言しなかったという作為義務違反があり、この作為義務に違反する行為と原告の損害との間に相当因果関係があると主張して、被告国に対して損害賠債を求めたものである。
原告の被告国に対する乙事件の請求は、被告讀賣テレビ放送及び同ナビオ阪急が甲事件被告大阪読売新聞社と共同して、本件大阪展において、【P18】の作品の贋作を真作として展示あるいはカタログに複製して掲載したこと、また、原告の許諾なく【P18】の作品をカタログに複製して掲載の上販売したこと、さらに、被告日本アドヴィザー及び同ディー・スクエアが本件大阪展で展示するため贋作を同讀賣テレビ放送らに貸与したこと、これらの行為によって原告の人格権あるいは著作権が侵害され損害が発生したことを前提に、被告国には、右被告らがこれらの行為をしないように指導、助言する法的責任があるにもかかわらず指導、助言しなかったという作為義務違反があり、この作為義務に違反する行為と原告の損害との間に相当因果関係があるとして、被告国に対して損害賠債を求めたものである。
そして、両事件において、原告が贋作であると主張する作品は本件絵画2であり、右被告らが複製し販売したと主張するカタログは本件カタログであって、
同一のものである。(以上の事実は当裁判所に顕著である。) そうすると、被告国に対する甲事件の請求と乙事件の請求とは、当事者が同一であるのはもちろん、加害行為の態様、被害者、被害法益及び損害が同一であって、訴訟物も同一であると認められる。
したがって、被告国に対する乙事件の訴えは二重起訴に当たり、不適法である(民訴法142条)。
2 甲事件に関する請求の当否 原告は、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めているところ、右条項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和五三年(オ)第一二四〇号同六〇年一一月二一日第一小法廷判決・民集三九巻七号一五一二頁参照)。そして、右作為義務は、必ずしも法令上の定めに基づくものである必要ではなく、条理に基づくものであってもよいが、当該公務員の作為の態様が特定される程度に具体的な内容であることを要するものと解すべきである。
これを、本件についてみるに、原告の主張する被告国の作為義務は、廃止された文部省設置法(現文部科学省設置法)に基づくものであるが、原告の指摘する右法の規定は、いずれも抽象的な責務か文部省ないし文化庁の所掌事務等に関するものであり、前記記載の公務員の作為義務の根拠となる性質の規定でないことは明らかである。
したがって、原告の被告国に対する甲事件の請求は、主張自体失当である。
二 争点2(被告高島屋の本件柏展への関与)について 1 証拠(乙ホ一、二、四、五、八、一〇、証人【P23】)によれば、次の事実を認めることができる。
(一)商店会は、柏駅西口の商業施設である柏高島屋ステーションモールの出店者を会員とする団体で、会員の共同の繁栄のための共同事業を行うこと等を目的とし、主として共通の宣伝・広告、販売促進のための各種催事(イベント)を行っている。
(二)商店会には会則その他の規則(乙ホ一)が設けられ、会長、副会長、常任理事、会計理事、監事等の役員、総会、理事会、各種委員会、事務局等の組織が存在する。そして、会長は商店会を代表し(会則10条)、総会、理事会の意思決定は多数決の原則によっている(会則19条26条)。
(三)商店会の年間の予算は総会において決定されるが、その規模は年間約五億円であり、東神開発が業務委託を受けて財産の管理、運営を行っている。
(四)商店会がその名称を「柏高島屋ステーションモール商店会」としているのは、百貨店である高島屋柏店と専門店一二二店で構成される複合商業施設であることを表現するためである。そして、被告高島屋は商店会においては、単なる一会員にすぎず、多数決においても一票の権利を有するにとどまる。
2 右認定の事実によれば、商店会は、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更があっても団体そのものは存続し、組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものと評価できるから、権利能力なき社団として訴訟上の当事者能力を認めるのが相当である(民事訴訟法29条)。そして、右認定の事実によれば、被告高島屋と商店会は別個の権利主体であることが明らかであるから、原告の被告高島屋に対する請求は失当である。
原告は、被告高島屋が経営する高島屋柏店において商店会の名義で本件カタログの販売が行われていた事実を挙げて、商店会は名義上の存在であり実質は被告高島屋にほかならない旨主張するが、右事実だけでは前記の認定判断を覆すに足りないというべきである。
三 争点3(原告による【P18】の著作権の承継)について 証拠(甲四、乙へ四、被告日本アドヴィザー代表者)及び弁論の全趣旨によれば、【P18】の死後、その著作物についての著作権は、妻である【P20】が相続により承継したこと、原告は、右著作権の二分の一の持分を同人から遺贈により取得したこと、が認められる。
したがって、原告は本件絵画1を含む【P18】の著作物について著作権の二分の一を有している。
四 争点4(【P18】に対する敬愛の情に基づく請求の当否)について 1 原告は、@ 原告が【P20】の秘書として同人に仕えたこと、A 同人の死後も一貫してモーリス・ユトリロ・アソシエーションの会長として【P18】の著作物の保護等の活動に携わっていることなどを挙げて、原告の【P18】に対する敬愛の情は、人格権として不法行為法上の保護に値する旨主張する。
2 一般に、条文(民法710条)に明文で規定されている身体、自由、名誉といった権利のほか、一定の個人の人格に関わる権利ないし利益は、「人格権」と呼べるか否かは別として、不法行為法上の保護を受け得る場合があると認められる(最高裁昭和五八年(オ)第一三一一号同六三年二月一六日第三小法廷判決・民集四二巻二号二七頁参照)。そして、当該権利、利益が不法行為法上の保護を受け得るかどうかは、個々の権利、利益の内容に照らし、具体的に検討する必要があり、その際には関連する法の規定をも斟酌するのが相当である。
3 ところで、著作者の死後における人格的利益の保護に関する規定である著作権法116条は、著作者の死後における人格的利益の保護の実効性を期するため、著作者の人格と親密な関係を有し、その生前の意思を最も適切に反映することができると考えられるその配偶者若しくは二親等内の血族又は著作者の遺言で指定された者が、その著作者人格権の侵害となるべき行為に対し、差止請求権又は名誉回復等措置請求権を行使し得ることとしている。そして、著作者人格権が、もともと著作者の一身に専属し、譲渡することができない権利であること(著作権法59条)からすれば、著作権法116条に定める遺族等以外の者は、著作者の死後において著作者人格権を保護するための措置を執ることはできないことはもちろん、その人格的利益の保護を求めることもできないと解するのが相当である。また、請求の主体の点をおくとしても、原告主張の事実をもってしては、いまだ、原告の【P18】に対する敬愛の情は、私的な感情にとどまるものであって、法的な保護に値する利益と認めることはできない。
4 以上によれば、原告の【P18】に対する敬愛の情に基づく差止め、損害賠償及び謝罪広告掲載の各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
五 争点5(鑑定人としての名誉の毀損を理由とする損害賠償請求)について 原告は、本件絵画2が贋作であることを前提に、これが本件展覧会で展示されたこと、これを複製して掲載した本件カタログが頒布されたことにより、原告が贋作に展覧会歴やカタログ歴を作ることに加担したという外形が作出され、その結果【P18】の絵画の鑑定人としての原告の名誉が毀損されたと主張する。
しかし、仮に原告が【P18】の絵画について権威ある鑑定人であるとしても、そのこと及び原告が【P18】の著作物につき著作権の二分の一の持分を有することを知っているのは、我が国では一部の美術関係者に限られると認められる上に、本件全証拠によっても、右各絵画について、原告が何らかの鑑定をし、あるいは本件展覧会の開催に関与した旨が、本件展覧会における表示や本件カタログその他の配付資料に記載された事実を認めることはできないから、原告主張の外形の作出及び鑑定人としての名誉の毀損が生じたことを認めることはできない。
したがって、【P18】の絵画の鑑定人としての名誉の毀損を理由とする損害賠償請求は理由がない。
六 争点6(複製権の侵害を理由とする請求)について 1 被告日本アドヴィザーは本件絵画1を本件カタログに複製して掲載することにつき、事前又は事後にSPDAの許諾を得た旨主張するので、この主張について検討する。
(一)事前の使用許諾について 被告日本アドヴィザーは、平成五年一〇月ころ、同被告の従業員の【P21】がSPDAの職員である【P22】に電話をかけた際に、同人から事前の使用許諾を得た旨主張し、それに沿う被告日本アドヴィザー代表者の陳述書(乙へ五)及び同人の供述がある。
しかし、右供述等はいずれも伝聞であって、【P22】から許諾を受けた旨の【P21】の供述が信用できることを裏付ける証拠は存在しない。これに加え、【P22】は、被告日本アドヴィザーが主張する時期ころに【P21】から電話を受けたことがないと記憶していること、仮にその時点で電話があれば、SPDAとしては口頭でなく書面で使用許諾の申請をするよう求め、それに応じて書面で申請されるのが通常であること(甲四五により認められる。)、本件においては被告日本アドヴィザーの主張によっても、同被告がSPDAに対して初めて書面により使用許諾の申請をしたのは本件展覧会が開始された後の平成六年三月であること、しかも【P21】は右の「『モディリアーニとその仲間たち展』カタログに関するお願い」と題する書面(甲三七)において、SPDAの名称を「株式会社美術著作権事務所」と誤って記載していること、また「前略 平素より大変お世話になっております。」で始まる右書面の文面及びその際に本件展覧会の開催要項を送付していることからして、【P21】は本件カタログの複製の件に関しては初めてSPDAと連絡を取っていると理解するのが自然であること、を総合考慮すれば、被告日本アドヴィザー主張の平成五年一〇月ころ【P21】が【P22】に電話をかけ、その際に【P22】が本件カタログに本件絵画1を複製して掲載することについて許諾したという事実を認めるには足りないというべきである。
(二)事後の使用許諾について (1)証拠(甲一、三七ないし四四、乙へ二、三、被告日本アドヴィザー代表者、証人【P24】)及び前記争いのない事実を総合すると、次の事実を認めることができる。
ア 原告が著作権の二分の一を有する【P18】の著作物については、
平成五年一二月三一日までは、ADAGPの代理人であるSPDAがその著作権を管理していたが、原告は、同六年一月一日以降はADAGPを経由せず、自ら著作権の管理を行うこととして、その旨を代理人の古木弁護士を通じて通知した。
そして、同じ内容の通知は、既に平成五年九月ころADAGPからSPDAに対してされていた。
イ 被告日本アドヴィザー代表者の【P17】は、平成三年一月ころ原告に会ったことがあったが、その際に原告が【P18】の著作物について著作権の二分の一を有していることを知った。
ウ 被告日本アドヴィザーは、平成六年三月二三日、SPDAに対し、
展覧会開催要項及び複製作品リストを送付して、本件絵画1の本件カタログへの複製許諾の申請を行い、同日本件カタログ二冊を送付した。
エ これを受けて、同年四月七日、SPDAの職員である【P22】は、被告日本アドヴィザーの担当者(企画課長)の【P21】に対して、著作物使用料は一作品当たり二万五五〇〇円であること、本件カタログに掲載されている作品の著作者のうち、SPDAがその著作権を管理している者は【P18】を含む七名であることを連絡した。
オ 古木弁護士(本件における原告訴訟代理人)は、同月二八日、原告代理人として、本件展覧会と同じ趣旨の展覧会の開催を予定していたふくやま美術館に対して、原告の有する【P18】の著作権の二分の一についてはADAGPを介さず同弁護士が代理人として対応することを通知するとともに【P18】の著作物である本件絵画1を同美術館において制作予定のカタログに掲載することを中止するよう求める内容のファクシミリ(乙ヘ三)を送付した。
カ 被告日本アドヴィザー代表者の【P17】は、同日ふくやま美術館から右ファクシミリを受けとって、顧問の田中弁護士と今後の対応について協議した。
キ 田中弁護士と古木弁護士は話合いを行い、それを受けて、【P17】は、同日夜、古木弁護士に宛ててファクシミリ(甲四四)を送付した。このファクシミリには、原告が【P18】の著作物について著作権の二分の一を有することを前提にした記載がある。
ク SPDAは、同年七月一日、被告日本アドヴィザーに対して、本件カタログに掲載されている個々の作品に関して著作物使用料の見積りを記載した書面(甲四一)を送付した。この書面では、著作権の管理団体がSPADEMである著作物について事後の許諾申請の場合には使用料の倍額を請求するSPDAの内規に基づき、「TOTAL」の欄に倍額を示し、かつ【P18】については「-50%」と記載し、金額欄の数字も右エに記載した金額の半額の一万二七五〇円として、SPDAが【P18】の絵画について著作権の二分の一についてのみ著作物の使用許諾の権限を有することを明らかにしていた。
ケ 被告日本アドヴィザーは、同月六日、SPDAに対し、右の見積額に満たない通常の料金で計算した額(一一八万二一五〇円)を取りあえず送金した。その旨をSPDAに連絡した【P17】作成名義の「モディリアーニとその仲間たち展/カタログ著作権使用料の件」と題する書面(甲四三)には、本件カタログの著作物使用料の最終金額はいまだ確定していないとの記載がある。
(2)右の事実関係によれば、原告は平成五年一二月三一日以前においては、SPDAに対して、【P18】の著作物の著作権の二分の一につき管理を委託していたが、同六年一月一日以降は右委託関係を終了させ、自ら著作権の管理を始めていたものである。そして、被告日本アドヴィザー代表者【P17】の供述によれば、一般に、美術展覧会のカタログについての著作物の使用許諾の申請は事前にされるのが原則であるが、担当者の理解不足や事前に金額についての合意が成立していない場合など、諸般の事情により事後にされることも事実上はあり得ること、
事後の許諾の場合には、最終的にSPDAから要求された金額を支払うことにより事後的に許諾が得られたものとして処理されていたことが、認められる。 本件では、遅くとも平成六年四月二八日の時点では、被告日本アドヴィザーは、【P18】の著作物については著作権の二分の一の持分を有する原告の使用許諾が必要であり、原告の持分についてはSPDAではなく古木弁護士が代理権を有することを認識していたこと、被告日本アドヴィザーがSPDAに対し事後の許諾を求めたところ、SPDAから具体的な金額を記載した見積書(甲四一)が送付されてきたが、右見積書には【P18】の作品について他の作家の半分の金額が記載されており、被告日本アドヴィザーは全体の見積額に足りない金額を送金していることからすれば、SPDAにおいて本件カタログに掲載された【P18】の作品につき著作権の全部について事後の使用許諾をしたとは、到底認めることができない。
右のとおり、SPDAによる【P18】の著作権全部についての許諾がされていないのであるから、被告日本アドヴィザーの主張にかかる表見代理(民法112条)は、その前提を欠き、失当というほかはない。
よって、SPDAから事後に使用許諾を受けていた旨の被告日本アドヴィザーの主張は理由がない。
2 次に、本件展覧会における本件カタログの制作、販売に関する各被告らの関与の形態、責任の有無について判断する。
(一)本件岩手展について 証拠(甲一、乙イ二ないし六、乙ヘ一七、証人【P25】)によれば、
次の事実が認められる。
(1)本件岩手展に関し、被告岩手日報社と同日本アドヴィザーは、平成五年一〇月、展覧会の実施に関する契約(乙イ五)を締結した。この契約には、被告岩手日報社は、展覧会の企画、演出、装飾その他一切の運営及び展覧会を成功させるために必要な一切の広告宣伝活動をその費用で行うこと(12条1項)、被告日本アドヴィザーは、本件岩手展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供すること(16条4号、五号)などが定められていた。
(2)本件カタログを実際に制作したのは被告日本アドヴィザーであるが、
本件カタログ二頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告日本アドヴィザーから被告岩手日報社に校正刷が送られ、担当者が校正をした。右の「主催」欄には、被告岩手日報社の名称が記載されている。
(3)被告岩手日報社は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告日本アドヴィザーに一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(4)被告岩手日報社は、被告日本アドヴィザーから本件カタログを単価一七〇〇円で一五〇〇部購入した。そのうち、九一四部が二一〇〇円で販売され、残りの五八六部のうち、四〇〇部を被告日本アドヴィザーに返品し、その余の一八六部は焼却処分した(ただし、被告岩手日報社が本件カタログを購入し、販売したことは当事者間に争いがない。)。
(5)被告岩手日報社は、本件岩手展を開催するに当たり、他の被告らとは事前の打合せをしたことはなく、他の展覧会の企画に関与したこともなかった。
右の事実関係によれば、被告岩手日報社は本件岩手展の主催者として、
本件カタログが右展覧会の会場で自ら又は被告日本アドヴィザーにより頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告日本アドヴィザーをして本件カタログを制作させたものということができる。
そして、被告岩手日報社は、著作物の使用許諾の手続につき被告日本アドヴィザーに一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
(二)本件新潟展について 証拠(甲一、乙ロ一、二、乙ヘ八、証人【P26】)によれば、次の事実が認められる。
(1)本件新潟展に関し、被告新潟日報社と同日本アドヴィザーは、平成五年一〇月二〇日、展覧会の実施に関する契約(乙ロ一)を締結した。この契約には、被告新潟日報社は、展覧会の企画、演出、装飾その他一切の運営及び展覧会を成功させるために必要な一切の広告宣伝活動をその費用で行うこと(12条1項)、被告日本アドヴィザーは、本件新潟展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供すること(16条4号、五号)などが定められていた。
(2)本件カタログを実際に制作したのは被告日本アドヴィザーであるが、
本件カタログ二頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄及び三頁目の「ごあいさつ」の文章については、事前に被告日本アドヴィザーから被告新潟日報社に校正刷が送られ、担当者がその内容を確認した。右の「主催」欄には、被告新潟日報社の名称が記載されている。
(3)被告新潟日報社は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告日本アドヴィザーに一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(4)被告新潟日報社は、被告日本アドヴィザーから委託を受けて本件カタログ七二三部を一部二〇〇〇円で販売した。その売上げの合計は一四四万六〇〇〇円であり、そこから委託手数料一三万二七五〇円を差し引いた一三一万三二五〇円を被告日本アドヴィザーに送金した。そして、右委託手数料は、本件新潟展の会場を提供した株式会社名古屋三越新潟店(新潟三越)と折半した。
被告新潟日報社はこれとは別に被告日本アドヴィザーから本件カタログ二七部の提供を受け、報道機関等に資料として無償で配布した(ただし、被告新潟日報社が被告日本アドヴィザーの委託を受けて本件カタログを販売したことは当事者間に争いがない。)。
(5)被告新潟日報社は、本件新潟展を開催するに当たり、他の被告らとは事前の打合せをしたことはなく、他の展覧会の企画に関与したこともなかった。
右の事実関係によれば、被告新潟日報社は本件新潟展の主催者として、
本件カタログが右展覧会の会場で頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告日本アドヴィザーをして本件カタログを制作させたものということができる。
そして、被告新潟日報社は、著作物の使用許諾の手続につき被告日本アドヴィザーに一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
(三)本件太田展について 証拠(甲一、乙ハ一、二、乙ヘ九の1ないし3、証人【P27】)によれば、次の事実が認められる。
(1)被告太田市は、太田市制施行四五周年記念事業として、本件太田展を開催することとし、太田市文化振興事業団(被告太田市の外郭団体で同被告から委託料の支払を受けて運営されている団体。以下「事業団」という。)にこれを担当させることとした。事業団と被告日本アドヴィザーは、平成六年一月七日、展覧会の実施に関する契約(乙ハ一)を締結した。この契約には、被告日本アドヴィザーが、本件太田展に関して著作権についての使用許可の手続の役務を提供すること(14条9号)などが定められていた。
(2)右契約書には、本件カタログの制作についての定めはないが、これを実際に制作したのは被告日本アドヴィザーである。事業団としては、カタログを自ら制作する意思はなかったが、被告日本アドヴィザーから本件太田展の会場で販売してほしい旨の委託を受け、これを承諾した。
事業団の担当者は、本件カタログの記載内容について事前に校正等をする機会はなかったが、本件太田展が開催される前に、完成した本件カタログのサンプルを受けとってその内容を知った。本件カタログ二頁目の「主催」欄には被告太田市の名称が記載されている。
(3)事業団は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告日本アドヴィザーに一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(4)事業団は、被告日本アドヴィザーから委託を受けて本件カタログ五一〇部を一部二〇〇〇円(消費税別)で販売した。その売上げの合計は一〇一万六七六〇円であり、そこから販売手数料一一万三〇九四円を差し引いた九〇万三六六六円を被告日本アドヴィザーに送金した(ただし、事業団の職務に従事する被告太田市の職員が被告日本アドヴィザーの委託を受けて本件カタログを販売したことは当事者間に争いがない。)。
(5)事業団は、本件太田展を開催するに当たり、他の被告らとは事前の打合せをしたことはなく、他の展覧会の企画に関与したこともなかった。
右の事実関係によれば、被告太田市は本件太田展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で頒布されることを認識していたものであり、本件カタログの制作段階において具体的な関与は認められないものの、本件カタログには主催者として被告太田市の名称が記載されており、前記認定の経緯に照らせば、被告日本アドヴィザーをして本件カタログを制作させたものということができる。
そして、被告太田市は、著作物の使用許諾の手続につき被告日本アドヴィザーに一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
(四)本件柏展について 証拠(甲一、乙ホ三、四、七ないし九、乙ヘ一一の1、2、証人【P28】、同【P23】)によれば、次の事実が認められる。
(1)被告日本アドヴィザーは、平成五年七月ころ、商店会に対して本件柏展の企画を持ち込んだ。商店会から業務委託を受けて商店会の事務局の事務を代行していた東神開発は、被告柏市に対し本件柏展を共同して主催することを依頼したところ、被告柏市は柏市制施行四〇周年記念事業として右展覧会を共同して開催することを承諾した。その際、被告柏市、商店会及び東神開発の協議で、商店会(実際の事務を行うのは東神開発)は被告日本アドヴィザーとの契約締結等の本件柏展の開催に関する実務を担当し、被告柏市は負担金一〇〇〇万円を支出するほか、広報活動を行うことが決まった。被告柏市は、本件柏展開催に当たり必要な手続の進捗状況につき、東神開発の担当者から随時報告を受けていた。
(2)商店会と被告日本アドヴィザーは、平成六年三月一二日、本件柏展の実施に関する契約(乙ホ三)を締結した。この契約には、商店会は、展覧会の企画、演出、装飾その他一切の運営及び展覧会を成功させるために必要な一切の広告宣伝活動をその費用で行うこと(12条1項)、被告日本アドヴィザーは、本件柏展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供すること(16条4号、五号)などが定められていた。
(3)本件カタログを実際に制作したのは被告日本アドヴィザーであるが、
本件カタログ二頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告日本アドヴィザーから東神開発に校正刷が送られ、担当者がその内容を確認した。
右の「主催」欄には、被告柏市及び商店会の名称が記載されている。
(4)商店会及び東神開発は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告日本アドヴィザーに一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。被告柏市も、同様に右手続については被告日本アドヴィザーにおいて適正に処理をしたものと信じていた。
(5)商店会は、被告日本アドヴィザーから本件カタログ五〇〇部を一部一七〇〇円(消費税別)で購入し、そのうち一六〇部を一部二〇〇〇円(消費税別)で販売した。残りの三四〇部のうち、二〇〇部は被告柏市に、一四〇部は商店会にそれぞれ無償で配布した。また、商店会は、右とは別に、被告日本アドヴィザーから本件カタログ一〇〇〇部の販売を委託された。商店会は、そのうち七四八部を販売し、残りは被告日本アドヴィザーに返却した。
(6)被告柏市、商店会及び東神開発は、本件柏展を開催するに当たり、他の被告らとは事前の打合せをしたことはなく、他の展覧会の企画に関与したこともなかった。
右の事実関係によれば、商店会は本件柏展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告日本アドヴィザーをして本件カタログを制作させたものということができる。そして、被告柏市は本件柏展の主催者としてその実務を商店会ないしその業務委託を受けた東神開発に任せていたのであるから、右両名と共同して、原告の著作権を侵害したものと認められる。
そして、被告柏市は、著作物の使用許諾の手続につき被告日本アドヴィザーにおいて適正に処理をしたものと信じて、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
(五)本件大阪展について 証拠(甲一、乙ニ一の1ないし3、同二ないし五、乙ヘ一〇、証人【P29】)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)被告ナビオ阪急は、平成五年秋ころ、同大阪読売新聞社に対して、具体的な展覧会の開催事務は行わないという前提で、本件大阪展の主催者となることを依頼した。被告大阪読売新聞社は、関連会社の株式会社大阪読売広告社が被告ナビオ阪急が設置するナビオ美術館の運営に関係していること、以前にも同様の形式で被告ナビオ阪急の依頼を受けて美術展を主催した実績があったことから、右依頼を承諾した。
(2)被告ディー・スクエアと同日本アドヴィザーは、平成六年二月二八日、本件大阪展の実施に関する契約(乙ニ二)を締結した。この契約には、被告大阪読売新聞社ほかが本件大阪展を主催し、会場はナビオ美術館であること(前文)、被告日本アドヴィザーは、本件大阪展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供すること(15条6号、七号)などが定められていた。
(3)本件カタログを実際に制作したのは被告日本アドヴィザーであるが、
本件カタログ二頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告日本アドヴィザーから被告大阪読売新聞社に校正刷が送られ、担当者がその内容を確認した。右の「主催」欄には、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送の名称が、「会場」欄には「ナビオ美術館」の名称が記載されている。そして、被告大阪読売新聞社発行の平成六年三月一八日付け読売新聞夕刊(乙ニ四)には、本件大阪展開催の記事が掲載されており、主催者として、被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送の名称が記載されている。
(4)被告大阪読売新聞社は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、被告日本アドヴィザー又は同ナビオ阪急において適正に処理をしたものと信じており、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。また、被告ナビオ阪急は、右手続については、前記契約条項に基づき被告日本アドヴィザーにおいて適正に処理をしたものと信じており、自ら著作権者の許諾に一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(5)被告日本アドヴィザーは、同ディー・スクエアに対し本件カタログ一五〇〇部を販売した。同被告はこのうち一四六〇部を一部一七〇〇円(消費税別)で被告ナビオ阪急に販売し、同被告はうち一三三〇部を一部二〇〇〇円(消費税別)で販売した。そして、残りの一三〇部は廃棄した。(ただし、被告ナビオ阪急が本件カタログを購入し、販売したことは、原告と同被告との間では争いがない。)。
(6)被告大阪読売新聞社、同讀賣テレビ放送、同ナビオ阪急、同ディー・スクエアは、本件大阪展を開催するに当たり、被告日本アドヴィザーを除く他の被告らとは事前の打合せをしたことはなく、他の展覧会の企画に関与したこともなかった。
右の事実関係によれば、被告大阪読売新聞社は本件大阪展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告日本アドヴィザーをして本件カタログを制作させたものということができる。そして、被告日本アドヴィザーは本件カタログを実際に制作した者、被告ナビオ阪急は本件大阪展の会場で本件カタログを販売した者として、被告大阪読売新聞社と共同して、原告の著作権を侵害したものと認められる。他方、被告讀賣テレビ放送については、本件カタログ及び前記新聞記事に主催者として表示されていること以上に本件カタログの制作、販売に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
そして、被告日本アドヴィザーは著作物の使用許諾を得ておらず、許諾が得られたものと信じたことに過失があったことは前記認定のとおりであり、被告大阪読売新聞社及び同ナビオ阪急は、右手続につき被告日本アドヴィザーに一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置をとらなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
3 まとめ (一)差止め、廃棄請求について 前記2認定の事実によれば、本件展覧会において本件カタログはすべて頒布されるか廃棄されており、被告らにおいて在庫として保有しているものとは認められない(原告は、本件大阪展以外の展覧会については、被告日本アドヴィザーに対する請求をしていないので、これらの展覧会において委託販売分として同被告に返却された分については、検討しない。)。
したがって、本件カタログの頒布の差止め及び廃棄を求める請求は理由がない。
(二)損害賠償請求について 著作権を侵害した者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、著作権者が受けた損害の額と推定される(著作権法114条1項)ところ、特段の反証のない本件では、著作権侵害につき責任の認められた各被告ら(共同不法行為者を含む。)の受けた利益が原告の損害となる。以下、個別に算定する。
(1)被告岩手日報社 前記2(一)(4)に認定の事実によれば、被告岩手日報社は、本件カタログの販売により、三六万五六〇〇円の利益を得たことが認められる(計算式 914部×{2100円-1700円}=365,600円)。これに、本件カタログに占める本件絵画1の割合六一分の六及び原告の著作権の持分二分の一を乗じると、一万七九八〇円となる。したがって、この金額が原告の損害である。
(2)被告新潟日報社 前記2(二)(4)に認定の事実によれば、被告新潟日報社は、本件カタログの委託販売により、六万六三七五円の利益を得たことが認められる(計算式 132,750円÷2= 66,375円)。これに、本件カタログに占める本件絵画1の割合六一分の六及び原告の著作権の持分二分の一を乗じると、三二六四円となる。したがって、この金額が原告の損害である。
(3)被告太田市 前記2(三)(4)に認定の事実によれば、被告太田市は、本件カタログの委託販売により、一一万三〇九四円の利益を得たことが認められる。これに、本件カタログに占める本件絵画1の割合六一分の六及び原告の著作権の持分二分の一を乗じると、五五六二円となる。したがって、この金額が原告の損害である。
(4)被告柏市及び商店会 前記2(四)(5)に認定の事実によれば、商店会は、本件カタログの販売により、四万九四四〇円の利益を得たことが認められる(計算式 160部×{2060円-1751円}= 49,440円)。これに、本件カタログに占める本件絵画1の割合六一分の六及び原告の著作権の持分二分の一を乗じると、二四三一円となる。したがって、この金額が原告の損害である。
(5)被告大阪読売新聞社、同ナビオ阪急及び同日本アドヴィザー 前記2(五)(5)に認定の事実によれば、被告ナビオ阪急は、本件カタログの販売により、四一万〇九七〇円の利益を得たことが認められる(計算式 1330部×{2060円-1751円}= 410,970円)。これに、本件カタログに占める本件絵画1の割合六一分の六及び原告の著作権の持分二分の一を乗じると、二万〇二一一円となる。したがって、この金額が原告の損害である。
七 争点7(共同不法行為の成否)について 共同不法行為(民法719条1項)が成立するためには、不法行為者相互間に意思共同が認められることが必要である。原告は、被告ら相互間の意思共同を基礎付ける事実として、@ 本件展覧会には、「モディリアーニとその仲間たち展」という共通のタイトルが付されていること、A 同一の絵画 (本件カタログに掲載された絵画)を展示したこと、B 会場で販売するため、同一のカタログ(本件カタログ)を制作し、これを販売したことを挙げている。
確かに、証拠(甲一、乙イ一、乙ニ三、同四)によれば、本件展覧会のうちの多くが「モディリアーニとその仲間たち展」という共通のタイトルの下で開催され(なお、本件岩手展は「モジリアーニとエコール・ド・パリ展」の、本件大阪展は「モディリアーニとエコール・ド・パリ展」のタイトルでそれぞれ開催されていることが認められるから、本件展覧会に共通のタイトルが付されているということはできない。)、前記認定のとおり、本件展覧会の会場で同一の絵画が展示され、
同一のカタログが販売されたことは認められる。しかし、前記六2で認定したとおり各被告らの関与の態様は異なり、本件展覧会の開催に際して相互に連絡をとったという事実も存在しないから、原告主張の事実から被告ら相互の意思共同を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ただし、個々の展覧会については、本件カタログの複製、販売に関与した被告ら相互に意思共同が認められるから、その限度では共同不法行為が成立する。
すなわち、本件岩手展に関し被告岩手日報社と被告日本アドヴィザー、本件新潟展に関し被告新潟日報社と被告日本アドヴィザー、本件太田展に関し被告太田市と被告日本アドヴィザー、本件柏展に関し被告柏市、商店会、東神開発及び被告日本アドヴィザー、本件大阪展に関し被告大阪読売新聞社、被告ナビオ阪急及び被告日本アドヴィザー、はそれぞれ共同不法行為者である。したがって、本件大阪展に関しては、前記被告三名は連帯して損害賠償責任を負う(しかし、原告は、本件大阪展以外の展覧会については、被告日本アドヴィザーに対する請求をしていないから、これらの展覧会における販売分については連帯負担の問題は生じない。)。
八 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、著作権の侵害に基づく損害賠償請求のうち、@ 被告岩手日報社に対し一万七九八〇円、A 被告新潟日報社に対し三二六四円、B 被告太田市に対し五五六二円、C 被告柏市に対し二四三一円、D 被告大阪読売新聞社、被告ナビオ阪急及び被告日本アドヴィザーに対し連帯して二万〇二一一円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日(@ないしCについては平成六年六月二八日、Dについては平成八年一一月二四日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由がある。
なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一