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事件 平成 13年 (ワ) 5816号 著作権侵害差止等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 和田宏徳
被告 株式会社総通
被告 株式会社棋苑図書
上記被告両名訴訟代理人弁護士 辻中栄世
同 岡崎宣利
被告B
訴訟代理人弁護士 奥田孝雄
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/12/10
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社総通及び被告Bは、別紙物件目録記載1の書籍を印刷、製本、
譲渡及び頒布、同目録記載2のビデオテープを録音録画、譲渡及び頒布、並びに、同目録記載3のカセットテープを録音、譲渡及び頒布してはならない。
2 被告株式会社総通及び被告Bは、前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告らは、各自、原告に対し、金108万2995円及びこれに対する平成13年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Bは、原告に対し、金21万7043円を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用中、原告に生じた費用については、その4分の1を被告株式会社総通及び被告株式会社棋苑図書の連帯負担とし、4分の1を被告Bの負担とし、その余を原告の負担とし、被告株式会社総通及び被告株式会社棋苑図書に生じた費用については、その2分の1を原告の負担とし、その余を被告株式会社総通及び被告株式会社棋苑図書の負担とし、被告Bに生じた費用については、その2分の1を原告の負担とし、その余を被告Bの負担とする。
7 この判決は、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1、2 主文第1、2項と同じ。
3 被告らは、各自、原告に対して、金631万4000円及びこれに対する平成13年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Bは、原告に対し、金125万5500円及び内金17万5500円に対する平成8年8月1日から、内金108万円に対する平成9年4月26日から、
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告株式会社総通は、別紙物件目録記載の書籍、ビデオテープ及びカセットテープを送付した者に対し、別紙謝罪文目録記載の謝罪文を記載した文書を送付せよ。
事案の概要
本件は、原告が、「21世紀の健康法 気」と題する書籍の著作権者は原告であるにもかかかわず、被告らが、同書籍を複製ないし翻案した別紙物件目録記載の通信教育用の教材を原告に無断で制作、販売し、これに基づいて通信教育を実施したとして、@被告株式会社総通(以下「被告総通」という。)及び被告Bに対し、同通信教育の教材の頒布等の差止め及び廃棄を(請求第1、第2項)、A被告らに対し、原告著作権(複製権ないし翻案権)の侵害に基づく損害賠償請求ないし不当利得の返還を(請求第3項のうち金581万4000円の請求部分)、B原告の著作者人格権の侵害に基づく慰謝料を(請求第3項のうち金50万円の請求部分)、C被告Bに対し、原告著作権(複製権ないし翻案権)の侵害に基づいて、同被告が同通信教育の教材の制作、通信教育の実施に関して得た利益に相当する額の損害賠償を(請求第4項のうち金108万円の請求部分)、D被告総通に対し、原告の著作者人格権の侵害に伴う名誉回復措置を(請求第5項)、それぞれ請求するとともに、被告Bに対し、不当利得として、その全額を受領した同書籍に係る著作権使用料の2分の1の金員の返還(請求第4項のうち金17万5500円の請求部分)を請求している事案である。
1 争いのない事実等(証拠の掲記のないものは当事者間に争いがない。) (1) 被告株式会社棋苑図書(以下「被告棋苑図書」という。)は、平成8年4月30日、「21世紀の健康法 気」と題する書籍(以下「本件書籍」という。甲1、8)を出版した。
本件書籍には、その著者として、原告の氏名及び「B′」(被告B)が記載されている。
(2) 原告、被告B及び被告棋苑図書は、平成7年3月ころ、本件書籍の出版に関し、次の内容の出版契約を締結した(以下「本件出版契約」という。)(甲3、
乙1〔なお、乙1の方は、備考欄に被告Bの銀行口座番号が記載されている。〕。
ただし、原告と被告総通及び被告棋苑図書との間では争いがなく、原告と被告Bとの間では原告が契約当事者である点を除いて争いがない。)。
ア 著作権使用料の支払時期及び方法は、初版第1刷に対しては、奥付記載の発行日より記載し3か月以内に全額を支払う。支払金額39万円。
イ 原告及び被告Bは、本件書籍の出版権を被告棋苑図書に対して設定し、
被告棋苑図書は、本件書籍の複製及び頒布の権利を専有する(約款1条) ウ 本件出版契約の有効期間中に、本件書籍が翻訳・ダイジェスト・演劇・映画・放送録音録画など二次的に使用される場合、原告及び被告Bはその使用に関する処理を被告棋苑図書に委任し、被告棋苑図書は具体的条件について原告及び被告Bと協議の上決定する(約款17条)。
(3) 被告総通は、「B′の気功講座」と題する通信教育(以下「本件通信教育」という。)を企画し、その教材として別紙物件目録記載の指導手引き書(甲9。以下「本件指導手引き書」という。)、ビデオテープ(甲10の1・2。以下「本件ビデオ」という。)、カセットテープ(甲11の1〜3。以下「本件カセット」という。また、本件指導手引き書、本件カセット及び本件ビデオを合わせて「本件教材」という。)を販売した。なお、本件教材には、原告の氏名は表示されていない。
ア 本件指導手引き書の2頁には、「テキストとして、『21世紀の健康法 気』(本件書籍)を使います。レッスンに入る前に4章以外の章を読んでおいてください。1、2時間もあれば十分読めますから、これで気功の全体像をつかみましょう。本書は4章と対応しながら進めていきますから、4章はその都度お読みいただいた方が良いでしょう。」と記載されている。
イ 本件書籍と本件指導手引き書の内容の対比は別表一に、本件書籍と本件ビデオの内容の対比は別表二に、本件書籍と本件カセットの内容の対比は別表三に、各記載のとおりである。
2 争点 (1) 原告は本件書籍の著作権を有するか。
(2) 本件教材は本件書籍を複製ないし翻案したものか。
(3) 原告は、本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について承諾していたか。
(4) 被告Bによる本件教材の制作、本件通信教育の実施は、原告を本人とする代理行為ないし表見代理に当たるか。
(5) 故意、過失の有無 (6) 損害ないし不当利得の額 (7) 名誉回復措置の必要性
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告は本件書籍の著作権を有するか。)について 〔原告の主張〕 (1) 本件書籍は、少なくとも、原告と被告Bの共同著作物である。
このことは、本件書籍は、その目次は原告が作成したものであること、多くの部分が原告の過去の著作物に基づく内容となっていること、さらに、中国語的な表現や、「医者として」、「筆者も現在、滋賀大学で研究を進めつつあります」というような原告でなければ用いないような表現が含まれていること、原告は本件書籍の全体について何回も校正していることから明らかである。
(2) また、本件書籍の第四章のうち、原告ないし被告Bの役割部分は、次のとおりである。
ア 原告が独自に発案し、本件書籍で初めて発表した内容・功法 「白黒瞑想法」、「やすらぎ瞑想法」、「吸吸吐吐呼吸法」、「昇降開合」、「遊龍功」、「症状別瞑想法」、「童子反拝五心朝天」、「医療気功十五式」については、原告の単独著作物である。
イ 従前の気功に関する書籍等に記載があり、一般的に知られている内容・気功法で、原告が提示したもの 「リラックス法」、「丹田長式呼吸法」、「無為瞑想法」、「五心朝天」、「満月気功法」、「内視法」、「気感トレーニング」 ウ 従前の気功に関する書籍等に記載があり、一般的に知られている内容・気功法で、被告Bが提示したもの 「スワイショウ」、「站とう功」、「自然融合気功」、「樹林気功」 このうち、原告が独自に発案し、本件書籍で初めて発表した内容・功法に関する部分については、原告の単独著作物といえる。このことは、同部分に、中国語的な表現や原告を表す一人称がそのまま残っているように、原告が渡した原稿がそのまま本件書籍の文章になったことを示す表現があることや、原告が独自に考案し、被告B自身が理解していない「医療気功十五式」、「童子反拝五心朝天」といった功法の記載があることから明らかである。
(3) なお、本件書籍は、医療気功に関するものであるが、被告Bは、医療気功に関する研究、実践経歴がなく、本件書籍の内容を創作し得るだけの能力を有しない。
〔被告総通・被告棋苑図書の主張〕 被告棋苑図書は、本件書籍の原稿をすべて被告Bから受領し、また、本件書籍に使われている写真の選定やレイアウトの決定も、すべて被告Bと被告棋苑図書との間で行われた。
したがって、本件書籍の「表現」を行ったのは被告Bであり、原告は「アイデア」の一部を提供したにすぎないから、原告のみが本件書籍の著作権を有しているということはできない。
〔被告Bの主張〕 (1) 本件書籍は、次の事情からすれば、被告Bが執筆したものである。なお、
本件書籍の著者欄には、被告Bだけでなく原告の氏名も表示され、また出版契約書にも原告の氏名が記載されている(甲3、乙1)が、これは原告が著者であることを推定させるだけである(著作権法14条)。
ア 作成経緯について (ア) 被告Bは、被告総通の代表者から本件書籍を出版するという話を持ちかけられ、日本医療気功協会の顧問である原告に対し、本件書籍の執筆の件を伝えた。
(イ) 被告Bは、原告と気功に関する意見や情報の交換を行い、原告との会話を録音し、それを基にテープ起しをしようとしたが、原告の話は終始脈絡がなかったため、被告Bが前後を補充しながら、被告B自身の表現で本件書籍を執筆した。
(ウ) 原告は、原稿の校正を何回か行っているが、本件書籍執筆当時の日本語能力がさほど高くなかったことから、同校正は文章の表現内容にまでわたるものではなかったと推測される。
(エ) 被告Bが原告から渡された資料は、目次、写真類のほか、2枚の資料(甲12、13)だけであった。
(オ) 本件書籍に掲載されている写真は、すべて被告Bと出版社の担当者によって選択され、掲載のレイアウトが決められたものである。
イ 本件書籍の記載内容について (ア) 原告は、独自に発案し、本件書籍で初めて発表した内容・功法に関する部分は、原告の単独著作物であると主張するが、著作権法は、創作的な表現の保護を目的とし、創作的な表現を行った者を著作者とするから(著作権法2条1項2号)、著作者認定のメルクマールは、表現の内容に独自性があるか否かではなく、表現行為自体に創作性があるかどうかにあると解される。
したがって、本件書籍に記載されている功法等に独自性があるか否かは、本件書籍の著作者の認定に影響を与えない。
(イ) 念のため、原告が独自に発案したと主張する功法について、付言する。
a 「吸吸吐吐呼吸法」は白隠禅師が発案した呼吸法の一環であり、
「昇降開合」は郭林女史が考案したもので、気功雑誌(丙7)に紹介されるくらい一般的な功法であり、「遊龍功」は遊龍体操として上海の香山病院においてダイエット指導のために使用されており、「症状別瞑想法」は陰陽五行説に基づいて考案されたものであり、決して原告が独自に発案したものではない。
なお、「昇降開合」、「リラックス法」、「丹田長式呼吸法」、
「無為瞑想法」、「満月気功法」、「気感トレーニング」は、いずれも、日本医療気功協会の教室において指導されている功法・呼吸法である。
b 「医療気功十五式」は、原告の独自の功法であると主張するが、類似の古典的功法は存在するから、完全に独自なものではなく、従来から存在する功法の影響を多分に受けているのであり、全く独自の功法というものは存在し得ない。
(2) 以上のとおり、本件書籍は、被告B一人によって執筆されたものであり、
原告は、被告Bに対し、気功に関する情報等を与えただけの者で、いわば監修者としての地位にある者にすぎない。原告が著者として表示されたのは、被告Bが、監修者は自分よりも高い地位にある人がなるものであると誤解していたことによるものである。
結局、本件書籍の著者は、被告B一人であり、原告は著者(共同著作者を含む。)ではない。
2 争点(2)(本件教材は本件書籍を複製ないし翻案したものか。) 〔原告の主張〕 本件書籍の表現と、本件教材の表現とを比較した結果は、前記第2の1(3)イ記載のとおりであり、本件教材は、ほとんど本件書籍の引き写しという部分も多々あり、明らかに、本件書籍を複製(ないし翻案)したものである。
〔被告総通・被告棋苑図書の主張〕 本件教材が本件書籍の一部を変更して作成されたものであることは認める。
〔被告Bの主張〕 本件通信教育は、被告Bが自分の教室において指導していた気功法を、教室に来ることができない人達にも広めるために始めたものであり、本件指導手引き書、本件ビデオ及び本件カセットも被告Bが教室において指導しているものとほぼ同じ内容となっている。
したがって、本件教材は、本件書籍の複製物には当たらない。
3 争点(3)(原告は、本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について承諾していたか。)について 〔被告Bの主張〕 (1) 次のア〜カの事情からすれば、原告は、本件通信教育が実施されていることを認識していたというべきである。
ア 原告は、本件書籍の出版及び本件通信教育の実施が企画された時点並びに本件通信教育が実施された時点のいずれの時点においても、日本医療気功協会の顧問としての地位にあり、本件書籍の執筆に関して被告Bと何回も打合せを行っていた。本件通信教育の実施は、本件書籍の企画段階から話が進んでおり、原告と打合せを行っていた被告Bは、本件通信教育の実施を原告に伝えていた。
イ 被告Bは、平成7年春ころ、原告を連れて、被告総通の社長室に出向き、被告総通の代表者(被告棋苑図書の代表者でもある。)と3人で本件書籍の執筆及び本件通信教育の実施について、話し合っている。当初の企画では、被告Bと共に原告も、本件通信教育のビデオに出演することになっていたが、平成8年春ころ、被告B一人がビデオに出演することとなり、その旨を原告に伝えたところ、原告はさしたる異議もなく了承した。
ウ 平成8年10月ころ、本件通信教育のBGMを担当したC、原告、被告B外で、和歌山県主催の福祉事業に参加した際、原告も同席した食事の席上で、本件通信教育のBGMやナレーションの入れ方などについて話合いが行われた。
エ 被告総通の従業員であるDは、平成8年5月10日に行われた本件書籍の出版記念パーティにおいて、原告その他の出席者に対し、本件通信教育の企画がスタートとしていることを告知し、その後、原告と挨拶を交わしている。
オ 平成9年5月1日及び同年9月1日にそれぞれ発行された日本医療気功協会の機関誌「Vie Vie」に、本件通信教育の講座が開講された旨の広告が掲載されている。この広告が掲載された時点において、原告は日本医療気功協会の顧問であった。
カ 平成9年10月16日、本件通信教育完成記念パーティを兼ねて開催された観月会の席上において、原告その他の出席者の前で、被告B自ら、本件通信教育が実施されたことを説明した。その後、の制作にかかるBGMを聞きながら、出席者全員で瞑想した。この観月会の受付には本件通信教育の入会案内書が置かれ、
また、テーブルには上記機関誌「Vie Vie」が置かれていた。
(2) また、本件通信教育が、本件書籍をテキストとしていることに加え、次のア及びイの事情からすれば、原告は、本件通信教育が本件書籍を利用したものであることを認識していた。
ア 本件通信教育は、本件書籍の企画段階から、本件書籍とリンクさせて行うという形で話が進んでおり、原告はその打合せに同席していた。
イ 被告Bが、原告に対し、本件書籍を利用した本件通信教育を実施することを伝えた際、原告は、本件書籍だけよりも分かりやすいと言って、本件通信教育の実施を喜んだ。
(3) 次のア〜ウの事実及び前記(1)イ記載の事実からすれば、原告が本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施を明示又は黙示に同意していたことは明らかである。
ア 平成9年8月ころ、被告Bと原告が名古屋にある国際中医研究所に在籍している原告の恩師であるE先生を訪問した際、原告は、E先生に対し、被告Bが本件通信教育を始めたと紹介した。
イ 原告は、本件通信教育の実施から平成13年3月に至るまでの約4年もの間、本件通信教育が実施されていることを知りながら、被告らに対し、本件通信教育の中止等を求める行動をとっていない。
ウ 被告Bは、原告が本件書籍の二次的使用、すなわち本件通信教育の実施について、暗黙の了解あるいは明示の同意を得ていたと認識していた。
(4) したがって、原告は、本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について認識しており、本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について明示又は黙示の同意をしているから、本件教材の制作・販売及び本件通信教育の実施行為は、原告の著作権を侵害するものとはいえない。
〔原告の主張〕 (1) 原告が本件教材の作成について明示的に承諾したことはない。
(2) また、原告が本件教材の作成について黙示的に承諾したこともない。
被告Bは、〔被告Bの主張〕(1)のア〜カの事情を基に、原告が本件教材の制作・販売及び本件通信教育の実施を認識していたというべきであると主張するが、原告は、被告Bが主張する時点のいずれにおいても、本件通信教育の話が出たかどうかについては全く記憶がない。原告は、本件通信教育が本件書籍の複製物であることは、平成13年3月に実際に本件教材を入手するまで、全く知らなかった。
4 争点(4)(被告Bによる本件教材の制作、本件通信教育の実施は、原告を本人とする代理行為ないし表見代理に当たるか。)について 〔被告総通・被告棋苑図書の主張〕 (1) 原告は、被告Bに対し本件教材の作成についての代理権を与えており、被告総通及び被告棋苑図書は、原告の代理人である被告Bとの間で、本件教材の作成その他の協議を行った。
(2) 仮に、原告が、被告Bに対し本件教材の作成についての代理権を与えていなかったとしても、原告は本件書籍の出版に関し被告Bに対して代理権を与えて任せきりにし、また、原告は出版記念パーティーにおいて通信教育の計画が発表された際にもこれを黙認しており、かつ、本件通信教育が本件書籍の二次的利用とする一連の行為であることからすれば、被告総通及び被告棋苑図書が被告Bを原告の代理人と信じたことについては正当な理由があり、民法112条110条109条の表見代理が成立する。
〔原告の主張〕 (1) 被告総通・被告棋苑図書の主張は否認する。
(2) 原告は、本件書籍の出版についても、本件教材の作成についても、被告Bに対し代理権を授与したことはない。このことは被告Bも認めている。また、原告が被告Bに代理権を与えた旨の表示をした事実も認められない。
したがって、本件教材の作成に関し代理行為ないし表見代理(民法112条110条109条)が成立する余地はない。
5 争点(5)(故意、過失の有無)について 〔原告の主張〕 (1) 被告Bは、原告と共同で本件書籍を制作しており、また、原告を著作権者とする契約書(甲3)に署名、押印をしており、本件書籍につき原告が著作権を有することを認識していた。被告棋苑図書も、被告Bと同様に本件書籍につき原告が著作権を有することを認識していた。
本件書籍に原告を著者とする表示がなされていること、被告棋苑図書と被告総通とは代表者を同じくする関連会社であることからすると、被告総通も、本件書籍につき原告が著作権を有することを認識していた。
(2) 本件教材には、ほとんど本件書籍の引写しという部分が多々あり、本件教材は明らかに本件書籍に依拠して作成されたものであるが、被告らは、いずれもこのことを認識していた。
(3) 被告らは、原告から承諾を受けることなく、本件教材を作成、頒布し、原告の本件書籍に係る著作権を侵害したものであり、被告らには、同著作権侵害につき、悪意又は重過失があったといえる。
〔被告総通・被告棋苑図書の主張〕 原告の主張は争う。
〔被告Bの主張〕 仮に、本件教材の制作・販売及び本件通信教育の実施行為が原告の著作権を侵害するものであったとしても、被告Bは、本件書籍の具体的執筆行為や写真等のレイアウトをすべて自ら行ったことから本件書籍の著作者が自分であると考えていたこと、原告から本件通信教育の実施について了解を得ていたこと、被告Bにとって、本件書籍の出版及び本件通信教育の実施は初めての経験であったことからすると、被告Bには、本件書籍に係る原告の著作権侵害について、故意、過失はなかったというべきである。
6 争点(6)(損害ないし不当利得の額)について 〔原告の主張〕 (1) 被告らに対する金銭請求(請求第3項) ア(ア) 損害賠償請求(財産的損害) a 主位的主張 被告総通は、本件通信教育により、1379万9880円の売上を得ており、また、被告Bは、本件教材の制作、販売により、134万円の売上を得ている。
被告総通が本件通信教育に要した費用は多くとも300万円であるから、被告総通は、1213万9880円(1379万9880円+134万円-300万円)の利益を得ている。
したがって、原告が本件通信教育の実施により被った損害は、1213万9880円と推定される(著作権法114条1項) なお、被告らは、著作権法114条1項は、権利者が著作物の販売を行っている場合の推定規定であると主張するが、そのように限定的に解する必要はない。
b 予備的主張 また、本件通信教育における原告の著作権に係る実施料率は20%を下ることはないから、上記a記載の被告総通及び被告Bが得た利益を基に原告が被った損害を算出すると302万7976円((1379万9880円+134万円)×0.2)となる(著作権法114条2項)。
(イ) 損害賠償請求(弁護士費用) 原告が、本件訴訟のために要した弁護士費用は300万円を下らない。
(ウ) 被告らは、一体の行為として本件通信教育を行っており、原告は、
被告らに対し連帯して、本件通信教育によって原告が被ったア(財産的損害)及びイ(弁護士費用)の損害金合計のうち、581万4000円を請求する。
イ 被告総通に対する不当利得返還請求について 被告総通は、本件書籍を複製、翻案、譲渡する権限がないにもかかわらず、本件書籍を複製するなどして、本件教材を制作し、それを譲渡した。そして、
上記行為により、被告総通は、本件通信教育に関し、上記ア(ア)a記載の1213万9880円ないし同b記載の302万7976円の利得を受け、原告は同額の損失を被った。
よって、原告は、損害賠償請求と選択的に、民法703条704条に基づき、被告総通に対し、上記不当利得金のうち、581万4000円を請求する。
ウ 原告は、被告らにより著作者人格権(同一性保持権氏名表示権)を侵害され、精神的苦痛を受けたが、これに対する慰謝料の相当額は50万円を下らない。
エ よって、原告は被告らに対し、金631万4000円(上記アないしイ記載の581万4000円及び上記ウ記載の50万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告Bに対する金銭請求(請求第4項) ア 被告棋苑図書は、平成8年8月1日に、被告Bに対し、本件書籍についての著作権使用料として、35万1000円を支払った。
同金員の少なくとも2分の1の17万5500円は、本件書籍の著作者である原告が受領すべきであるが、被告Bは、そのことを知りながら、原告に対しこれを支払わず、全額35万1000円を自己のものとして受領し、17万5500円の利得を得た。
よって、原告は、被告Bに対し、不当利得返還(民法704条)として、17万5500円及びこれに対する被告Bが利得を得た日である平成8年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める。
イ 被告Bは、平成9年4月26日、被告総通から本件教材の原稿料及び出演料等として、108万円を受領したが、同金銭は、被告Bが、原告の本件書籍に係る著作権を侵害する行為によって得た利益であるというべきである。
よって、原告は、被告Bに対し、不法行為に基づく損害賠償として、金108万及びこれに対する平成9年4月26日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払を求める(著作権法114条1項)。
(3) 被告らは、損害ないし不当利得の算定に当たり、本件通信教育における本件書籍に係る原告の著作権持分の寄与率ないし原告の寄与率を考慮すべきであると主張する。
しかし、本件通信教育において、メインとなる教材は、本件教材(「B′の気功講座 指導手引き書」、「B′の気功講座 ビデオレッスン」及び「B′の気功講座 カセットテープレッスン」)に尽きるから、本件通信教育の受講料の対価は、本件教材の使用料といえるものである。
そして、本件書籍の表現と、本件教材の表現とを比較した結果は、別表一ないし三記載のとおりであり、本件教材にはほとんど本件書籍の引写しという部分が多々あり、本件教材のほぼ全体が、本件書籍を複製、翻案したものとなっている。
よって、本件通信教育の実施行為のほぼすべてが、本件書籍の著作権の侵害に基づくものといえるから、本件通信教育によって得た利益に対して、本件書籍に係る著作権の寄与率を考慮して、減額すべきではない。
〔被告総通・被告棋苑図書の主張〕 被告らに対する金銭請求(請求第3項)について (1) 本件通信教育の売上額が1379万9880円であったことは認める。
(2) 原告は、著作権法114条1項に基づき、被告総通の利益が原告の損害と推定されると主張するが、同条項は、著作物の売上減退による逸失利益についての推定規定であるところ、原告は著作物の販売を行っていないのであるから、同条項の推定は及ばない。
また、同条項にいう利益とは「純利益」をいうところ、本件通信教育に要した広告費、その他諸経費を控除すると、被告総通には本件通信教育による利益は生じていない。
(3) 原告は著作権法114条2項に基づく請求において、実施料率を20%として損害を算出する。
しかし、気功は、平成に入ってすぐのころに一度ブームになったものの、
本件通信教育の時期にはブームは終わっていたから、新たな気功愛好者を開拓するには多額の費用を要することは明白であった。このような市場の状況下においては、実施料率は低く抑えられるべきであるから、本件における実施料率は5%が相当である。
(4) 原告は、本件通信教育について、資本投下、営業努力、宣伝広告をしたわけではなく、日本国内において信用があったわけでもない。
したがって、本件通信教育における原告の寄与率は20%を上回ることはないというべきであり、損害ないし不当利得の算定に当たっては同寄与率を考慮すべきである。
〔被告Bの主張〕 (1) 被告らに対する金銭請求(請求第3項)について ア 損害ないし不当利得の額について (ア) 本件通信教育の受講料金の中に消費税が含まれているから、本件における損害ないし不当利得の算定に当たっては、消費税相当額を控除すべきである。
(イ) 原告は教材による売上額(134万円)がそのまま被告Bの得た利益であるとして著作権法114条1項に基づいて損害を算出しているが、売上額がそのまま同項の「利益の額」になるものではないし、被告Bは、本件通信教育の教材を日本医療気功協会の指導者等に販売したことはあるが、すべて被告総通から購入した価格で販売したため、被告Bに利益が生じることはなかった。
さらに、教材の販売行為のみを捉えて利益の額を計算するのではなく、本件通信教育全体としてその利益の有無を計算すべきであるところ、本件通信教育事業は大幅な赤字を計上しているから、全体として利益は発生していない。
(ウ) 原告は、実施料率を20%として損害を算定する(著作権法114条2項)が、この料率は著しく高率である。
書籍の出版の場合、著作者印税は書籍の価格の10%が通常であるところ、本件は、本件書籍を増刷するのではなく、通信講座という書籍の増刷とは全く異なる形態での実施であり、しかも原告は本件通信教育の実施には全く関与していないことからすると、本件における実施料率は通常の場合の半分である5%が相当である。
(エ)a 本件通信教育は、「B′の気功講座」として被告Bの名を冠して行われた講座であること、本件通信教育は、受講生に与えた課題や質問に対し、その都度、被告Bが添削や回答を行うという地道な作業により支えられていたものであること、本件ビデオや本件カセットには被告Bが出演していること、本件指導手引き書は被告Bによって新たに作成されていることからすると、本件通信教育は、
被告Bの知名度や同人の添削、回答作業によって、受講生が集まってきていたといえる。
b また、原告が単独著作物であると主張する功法8式のうち5式については、前記争点(1)における〔被告Bの主張〕イ(イ)記載のとおり原告が独自に発案したものでないことは明らかであり、その他、本件書籍の具体的執筆状況、掲載写真の取捨選択を被告B及びFが行っていること等を総合すると、本件書籍が原告と被告Bとの共同著作物であったとしても、本件著作権の持分割合は50%ずつと解すべきである。
c したがって、仮に、本件通信教育の実施が原告の本件書籍に係る著作権を侵害するものであったとしても、上記a及びbの事情を考慮すると、本件通信教育の実施において本件書籍に係る原告の著作権持分が寄与している割合は20%と考えられるから、損害の算定に当たっては、同寄与率を考慮すべきである。
イ 弁護士費用について 争う。
ウ 慰謝料50万円の請求について 原告は、日本医療気功協会の顧問として、本件通信教育の実施について、被告Bと利害を共通にしていたことに鑑みれば、著作者人格権の侵害行為があったとしても、そのことから直ちに精神的苦痛を受けることはないと考えられる。
(2) 被告Bに対する金銭請求(請求第4項)について ア 被告Bが、平成8年8月1日に、被告棋苑図書から本件書籍についての著作権使用料として35万1000円の支払を受けたこと、平成9年4月26日に、被告総通から、本件通信教育の教材の原稿料及び出演料等として108万円の支払を受けたことは認める。
イ 原告の被告Bに対する不当利得返還請求(17万5500円)に付帯する遅延損害金の請求について 被告Bは、平成8年8月ころ、原告に対し、本件書籍に係る印税約18万円を渡そうとしたところ、原告から預かって欲しいと言われて預かった。また、
被告Bは、原告に対し、平成13年4月24日付けの現金書留郵便で、印税約18万円を支払おうとしたが、原告は受領を拒否した。
したがって、被告Bが預かっている17万5500円は、原告の依頼に基づいて預かっている金員であるというべきであるから、原告の上記不当利得返還請求(17万5500円)に付帯する遅延損害金の請求は理由がない。
ウ 原告の被告Bに対する損害賠償請求(108万円)について (ア) 被告総通から被告Bに対して支払われた108万円の金員は、被告Bが作成した本件指導手引き書の原稿料、本件ビデオや本件カセットへの出演料、
それらの編集料として支払われたものであり、被告Bの労働に対する報酬であるから、本件書籍に係る原告の著作権を侵害する行為によって得た利益とはいえない。
(イ) 仮に、108万円の全部又は一部が本件書籍に係る原告の著作権を侵害する行為によって受けた利益であるとしても、被告BがCに支払った本件カセットのBGM制作料の50万円を控除すべきである。
(ウ) さらに、上記108万円は、本件指導手引き書の作成原稿料、本件ビデオへの出演料及び本件ビデオ・本件カセットの編集料(本件カセットの録音作業を含む。)という3つの作業に対する対価であるから、それぞれの作業に対する対価は約19万3000円((108万円-50万円)÷3)ずつであると考えるのが合理的である。
(エ) また、本件指導手引き書は少なくとも本件書籍の共同著作者である被告Bによって作成され、原告は全く関与していないことに鑑みれば、本件指導手引き書作成に対する本件書籍に係る原告の著作権持分の寄与率は20%と解するのが相当であり、それを金額に換算すると3万8600円(19万3000円×20%)になる。
7 争点(7)(名誉回復措置の必要性)について 〔原告の主張〕 原告は、被告総通によって、本件書籍に関する著作者人格権(同一性保持権氏名表示権)を侵害されたから、被告総通に対し、著作権法115条に基づき、別紙謝罪文目録記載の謝罪文を記載した文書の送付を求める。
〔被告総通の主張〕 著作権法115条に基づく名誉回復等の措置が認められるためには、名誉感情の毀損ではなく、著作権者が社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉が低下したことが必要であるところ、本件通信教育によって、原告の社会的声望名誉が低下した事実はないから、原告の被告総通に対する名誉回復措置の請求(請求第5項)は理由がない。
争点に対する判断
1 争点(1)(原告は本件書籍の著作権を有するか。)について (1) 本件書籍には、その著者として、原告の氏名及び被告Bのペンネーム「B′」が記載されているから、本件書籍の著作者は原告及び被告Bであると推定される(著作権法14条)。
被告らは、本件書籍の著作者は被告Bであり、原告は本件書籍の著作権を有するものではないと主張する(上記推定が覆されるという趣旨と解される。)ので、以下、本件書籍の著作権の帰属について検討する。
(2) 証拠(甲8、12〜22、27、29、32、33、47、50〜52、
甲53の1・2、56、乙4、丙8、原告本人、被告B本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 原告は、北京中医薬大学(当時「北京中医学院」)で5年間東洋医学を中心に学んだ後、北京市立工人療養院気功按摩科に気功師として3年半勤務し、その後来日して、平成6年4月から滋賀大学の大学院研究生として入学し、「『気』の人体への影響」のテーマで研究をし、平成6年9月に同大学大学院教育学研究科の修士課程を受験して合格し、平成10年3月に同修士課程を修了した。
原告は、北京中医薬大学において「気功の源流と実用性」(甲14)、
「気功の“三調”と運用」(甲15)、「“動功”“静功”に対する見解」(甲16)等の論文を執筆し、滋賀大学大学院の研究生として気の研究をした際に、
「『気』のスポーツ心理学への応用に関する基礎的研究」と題する研究論文(甲21、22)に執筆者の一人として関与した。
また、原告が編集、著作を行った書籍として、「観手識人」(原告及び郭東方編著。甲17、18)、「精易手足按摩法」(原告及び郭東方編著。甲19)がある。
イ 被告Bは、薬剤師の資格を有するほか、15年以上の気功経験を有し、
平成5年に医療気功協会を設立した者であるが、本件書籍の執筆をするまでは、書籍の執筆の経験はなかった。
ウ 原告は、平成5年10月ころ、被告Bの実母に気功施術をしたことがきっかけで同被告と知り合い、平成6年春に、原告が中国で出版した本を同被告に紹介した。
そのころ、被告総通も、気功の本を出版すること、合わせて通信教育のテキストとして同書籍を使用することを企画しており、被告総通の代表者は、被告Bに気功の書籍の執筆をしてはどうかと伝えた。
被告Bは、本件書籍の執筆の件を原告に話し、原告と被告Bとで本件書籍を執筆することになった。
エ 原告は、上記のとおり、平成6年9月に滋賀大学の大学院入学試験に合格しており、日本語による聞き取り、会話、専門分野の討論、文章の読解は何ら支障なく行うことができたが、文章の作成については、同大学院における研究レポート、試験の答案等の作成はできていたものの、助詞、外来語の使用等の文章作成能力にやや問題があった。
本件書籍の執筆に当たっては、原告は、被告Bに対し、原告が作成した著書を渡し、気功に関する参考書籍の一覧表(甲29)を渡したほかは、主として、口頭あるいはメモ書き(甲12、13)により、本件書籍に記載する気功法等の内容を伝えた。
被告Bは、原告から聞き取った内容に基づいて、また、ある部分は自らの経験、知識に基づいて、本件書籍を執筆し、被告棋苑図書との間で、本件書籍に掲載される写真の選定やレイアウトの決定を行った。
原告は、被告Bが作成した原稿について、数度にわたり校正作業を行った。
オ 本件書籍における原告及び被告Bの関与の程度は次のとおりである。
(ア) 原告は、本件書籍の目次を作成した。
本件書籍2〜4頁の図A、図B、図Cは、原告の著作「気功の人体への生理的影響」の中の「実験用図」を使用したものであり、本件書籍の他の部分には原告の過去の論文、著作に基づく記載部分が数多く含まれている。
(イ)a 本件書籍の第四章(「実際にやってみましょう」)には、具体的な気功法が記載されており、原告及び被告Bが気功法の動作を行っている写真が掲載されている。
b 被告Bは、同章の「予備式」(本件書籍79〜80頁)、「スワイショウ」(84〜86頁)、「樹林気功」(93頁)、「站とう功」(110〜111頁)、「自然融合気功」(119〜135頁)、「気功トレーニングにおける成果」(182〜194頁)等の気功法や気功による成果を同章に記載することを提案した。
c 原告は、「童子反拝五心朝天」(本件書籍106頁)、「白黒瞑想法」(112頁)、「やすらぎ瞑想法」(112頁)、「症状別瞑想法」(112〜114頁)、「医療気功十五式」(135〜168頁)、「吸吸吐吐呼吸法」(139頁)、
「遊龍功」(168〜173頁)、「昇降開合」(177〜178頁)等の同章の大部分の気功法について、その記載を提案し、特に「遊龍功」「童子反拝五心朝天」「医療気功十五式」については、原告が創作した独自の要素を含むものであった。
このうち、「医療気功十五式」及び「遊龍功(遊龍九段功法)」については、北京市工人療養院気功按摩科が作成した「療休養員気功練功集(二)」に、原告が独自に創作した気功法として紹介されている。また、中国の国家体育運動委員会訓練局は、原告の発案作成に係る「医療気功十五式」等の気功法を、総合運動訓練及び相関通信教育教程に編入している。
d 第四章の各気功に関する記載は、その手順、注意点が具体的に記載されている。その記載は、別表一〜三の「本件書籍」欄記載のとおりであるが、原告が創作した独自の要素を含む気功法について見ると、次のような内容になっている。
(a) 「童子反拝五心朝天」については、「双盤座の姿勢で背中に手を回し、合掌します。次に、そのまま上体を前に倒し、額を床につけしばらく静止します。この功法は、身体をもっとも小さく縮めてツボを刺激し、気の活性化をはかるものです。」(本件書籍106頁)と記載されている。
(b) 「医療気功十五式」については、「筆者発案の、大変、医療効果の高い功法です。ゆっくりとした動きで、どなたにも無理なく行っていただくことができます。十五式の動きから成り、それぞれが特定の臓器系に働きかけることによって、体内の気の調節をはかり、体調を調えていきます。ひとつひとつの動作にイメージする色、向く方角、呼吸の仕方があります。これを守りながら行うと、より、効果的によい結果を出すことができます。また、うまく功法がなされてきますと、ある特定の感覚が出てきます。温熱感、清涼感といったものですが、ひとつの目安として参考にしてください。」(同135頁、137頁)と記載されている。
そして、同記載に引き続き、「1.掬水撫球式」、「2.両手推山式」、「3.大象活腰式」、「4.運球下座式」、「5.左右揉球式」、「6.分雲掬月式」、「7.堤歩挑掌式」、「8.白鶴亮羽式」、「9.上歩起座式」、「10.流水洗靴式」、「11.内視調息式」、「12.振肩叩掌式」、「13.揉腹動身式」、「14.托球運肩式」、「15.盤座調息式」の15種類の功法について、それぞれ、イメージする色、働きかける臓器、呼吸方法、練習時間、向く方角、生じる感覚や、具体的な動作が記載されている。(同136頁〜168頁) (c) 遊龍功については、次のように記載されている(同168頁〜170頁)。
「全身を動かしながら、両手を使って、空中に文字を描いていきます。空中に「龍」の字を描くのですが、全身をリラックスさせて気持ちのよい大きな動きをします。これは、全身のツボのつまりを取り除き、経絡の流れをよくします。ゆっくり集中して行えば、気の流れを全身で感じることができます。
「龍」の字を描く前に、簡単な字で練習してみましょう。
数字の「3」を描いてみましょう。
@ 手のひらを合わせて、胸の前で合掌します。
A このまま、手を頭上に上げます。
B ここから、両手をわけて、左右対称の動きをしながら、両手を左右に大きく離していきます。
C みぞおちの高さでいったん左右の手は近づきますが、ここまでが「3」のうえの丸い部分です。
D ふたたび、左右に大きく離していき、「3」の下の部分を描きます。
E 最後は、地面すれすれのところで、両手を合わせます。
F 合掌して身体の正中線に沿ってうえに上がり、中丹田の前まで戻ります。(以下、記載省略)」 (ウ) 原告が被告Bに示したメモ書き(甲12)中の「気功の十大意義」に関する記載は、「八 軍事において、軍人の体質の改良、敵の攻撃性影響や情報を収集する。」という記載部分を除き、本件書籍第二章31頁〜32頁に、同メモ書き中の「外気 生命情報が伝えれるエネルギー物である。」、「内気 進退システムを有順化する情報波である。」、「内気と外気は相互転化、部分転化しており、相互感知、自己感知できる。」との記載は、本件書籍第一章23頁に、もう一枚のメモ書き(甲13)の顔や手の外見から身体内部の異常を判定する手法に関する記載は、本件書籍第六章217頁〜219頁に、ほぼそのままの内容、文言で記載されている。
(エ) なお、本件書籍には、「有順化」(整えること)、「次声」(超音波ないし低周波)、「痛域・域値」(閾値)等の中国語的な表現や、「医者として」、「筆者も現在、滋賀大学で研究を進めつつあります」というような、執筆者が原告であることを前提とするような表現が含まれている。
(3)ア 著作権法は、思想又は感情の創作的な表現の保護を目的とし、その創作的な表現を行った者を著作者とするものであるから(著作権法2条1項1号、2号)、著作者を認定するに際しては、その思想、感情、アイデア、事実等の表現それ自体でない部分に着目するのではなく、それらを誰が創作的に表現したかが問題となる。
イ 上記のとおり、被告Bが本件書籍の日本語原稿を執筆したものであるが、本件書籍には、原告でなければ用いないような中国語的な表現や、執筆者が原告であることを前提とするような表現を用いた部分、原告が手渡したメモ書きがほぼそのままの表現で記載されている部分が存しており、しかも、本件書籍執筆当時の原告の日本語能力は、助詞、外来語の使用等についてやや問題があったものの、
日本語の会話、読書きはほぼ問題なくできる域に達しており、本件書籍に示された日本語表現をすることは可能であったと推認される。
ウ また、第四章に記載されている気功法の大部分は原告が提示したものであり、その中には原告が創作した独自の要素を含む気功法も含まれており、原告は被告Bに対しこれらの気功法の動作、注意点を具体的に伝えたものと推認できる。
そして、本件書籍第四章における気功法の記載は、前記(イ)a〜cのように、動作、注意点をほぼそのまま記載したもの(例えば、「双盤座の姿勢で背中に手を回し、合掌します。次に、そのまま上体を前に倒し、額を床につけしばらく合掌します。」)であるから、こうした記載内容からすると、原告が提示した気功法について、日本語原稿を執筆した被告Bによって、日本語としてより適切な表現やわかりやすい表現にするなどの創作的な表現要素が含まれているものの、原告が被告Bに伝えた具体的な気功法の動作、注意点が、文章表現においても表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ反映されているものと推認できる。
エ 上記のような事情からすると、本件書籍における創作的な表現は、原告が掲載を提案した気功法に関する部分も含め、原告及び被告Bが共同で行ったものであり、本件書籍は原告及び被告Bの寄与を分離して個別的に利用することができないものであるから、共同著作物(著作権法2条1項12号)に当たるというべきである。
オ なお、原告は、原告が独自に発案し、本件書籍で初めて発表した内容・功法に関するものについては、原告の単独著作物であると主張する。上記(2)オ(イ)c記載のとおり、本件書籍の第四章には、原告が創作した独自の要素を含む気功法に関する記載部分があるが、上記のとおり被告Bが日本語原稿を作成する際に、日本語としてより適切な表現やわかりやすい表現にするなどの創作的な表現要素が含まれていると解されるから、そうした部分について原告の単独著作物であるとする原告の主張は理由がない。
2 争点(2)(本件教材は本件書籍を複製ないし翻案したものか。)について 本件教材は、本件通信教育の教材として作成された指導手引書(本件指導手引き書)、ビデオテープ(本件ビデオ)及びカセットテープ(本件カセット)からなるものである。そして、本件教材が本件書籍に依拠して作成されたことは、前記認定の本件教材の作成経過に照らして明らかである。
本件書籍の表現と本件教材の表現とを比較した結果は、前記第1の1(3)記載のとおりであり、本件教材は、本件書籍の表現をほぼそのままに引き写した部分が数多く含まれている。
以上によれば、本件教材は、いずれも本件書籍の内容及び形式を覚知させるに足りるものか、少なくとも、本件書籍の表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから、本件書籍を複製ないし翻案したものというべきである(なお、被告総通及び被告棋苑図書と原告との間では、本件教材が本件書籍の一部を変更して作成されたものであることについて争いがない。)。
そうすると、原告の許諾なく、本件書籍を複製、翻案した本件教材を制作、
販売、本件教材を利用した本件通信教育を実施することは、原告の本件書籍に係る著作権を侵害するものといえる。このことは、共同著作者である被告Bによってなされた行為についても同じである(著作権法65条2項)。
3 争点(3)(原告は、本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について承諾していたか。)について (1) 被告Bは、原告が本件書籍を利用した本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について認識しており、その実施について明示又は黙示の同意をしていると主張するので、この点について検討する。
ア 被告Bは、原告が本件通信教育が実施されていることを認識していたと主張し、その根拠として、争点(3)における〔被告Bの主張〕(1)ア〜カ記載のとおりの事実を挙げるので、以下検討する。
(ア) 証拠(乙4、丙1の1・2、丙2、3、丙4の1・2、丙9、10、丙11の1〜9、丙12、原告本人、被告B本人)によれば、
a 〔被告Bの主張〕(1)アの事実のうち、原告が平成7年春ころから日本医療気功協会の顧問の地位にあり、本件書籍の執筆に関して被告Bと何回も打合せを行っていたこと、本件通信教育の実施は、本件書籍の企画段階から話が進んでいたこと、
b 同イの事実のうち、平成7年春ころ原告、被告B及び被告総通の代表者が同社長室で面談したこと、
c 同ウ記載の事実のうち、平成8年10月ころ原告、被告B及びCが和歌山県主催の福祉事業に同行したこと、
d 同エ記載の事実のうち、平成8年5月10日に原告が本件書籍の出版記念パーティに出席したこと、
e 同オ記載の事実のうち、平成9年5月1日及び同年9月1日にそれぞれ発行された日本医療気功協会の機関誌「Vie Vie」に、本件通信教育が開講された旨の広告が掲載されていること、同時点において原告は日本医療気功協会の顧問であったこと、
f 同カ記載の事実のうち、平成9年10月16日に原告が本件通信教育完成記念パーティを兼ねて開催された観月会に出席したこと、同観月会の受付には本件通信教育の入会案内書が置かれ、また、テーブルには上記機関誌「Vie Vie」が置かれていたこと がそれぞれ認められる。
(イ) 被告Bは、本件通信教育の実施は、本件書籍の企画段階から話が進んでおり、原告と打合せを行っていた被告Bは、当初は、被告Bと共に原告も本件通信教育のビデオに出演することになっていたが、平成8年春ころ被告B一人がビデオに出演することとなり、その旨を原告に伝えたところ原告はさしたる異議もなく了承したと主張し、被告B本人尋問の結果中にそれに沿う供述部分がある。
しかし、原告は、原告本人尋問において、本件通信教育の実施に関する話は認識していないと供述している。甲40によれば、被告Bは原告に対して送付した平成13年4月5日付け書簡において、本件通信教育に際し原告にテキスト使用の許可を得なかったと記載していることが認められる。そして、丙12によれば、被告Bは、平成14年2月1日時点でも著者として本件書籍の使用の権利があると確信していたことが認められるから、本件書籍出版の協力者である原告に対し、本件通信教育の実施の件について説明しなければならないという認識はなかったものと推認できる。したがって、被告Bの上記供述部分を採用することはできない。
また、原告が被告Bらと面談したり、パーティに出席した際に、仮に本件通信教育の話が出たとしても、それが、直ちに、被告Bが原告に対して本件通信教育に本件書籍を複製、翻案した教材を利用することの許諾を求めることを意味するものとはいえない。また、原告が日本語による日常会話ができたとしても、日本人どおしで交わされる話の内容を詳細に理解できる能力があったことについては疑問があることからすると、上記の事実から、直ちに、原告が、本件教材の制作・販売、本件通信教育の実施について認識していたと認めることはできない。
さらに、上記機関誌「Vie Vie」に本件通信教育の開催の広告が掲載されており、その時点で原告が日本医療気功協会の顧問であったとしても、そのことから、直ちに、原告が本件通信教育の件について認識していたことが推認されるものではない。
その他に、原告が本件教材を入手したと主張する平成13年3月以前に、本件教材の制作・販売及び本件通信教育の実施について認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
(2)ア さらに、原告が本件教材や本件通信教育において本件書籍を利用することについて許諾していたことが必要であるところ、同事実を認めるに足りる証拠もない。
イ この点、被告Bは、原告が本件通信教育が本件書籍を利用したものであることを認識していたと主張し、その根拠として、本件通信教育は、本件書籍の企画段階から、本件書籍とリンクさせて行うという形で話が進んでおり、原告はその打合せに同席していた旨を主張する。
しかし、本件通信教育は、本件書籍の企画段階から、被告総通と被告Bの間では、本件書籍とリンクさせて行うという形で話が進んでいたこと、原告は本件書籍の執筆に係る打合せに同席していたことは前記(1)ア(ア)記載のとおりであるが、そのことから、原告が、本件教材や本件通信教育が本件書籍を利用したものであることを認識していたと認めるには足りない。
ウ また、被告Bは、原告に対し、本件書籍を利用した本件通信教育を実施することを伝えた際、原告は、本件書籍だけよりも分かりやすいと言って、本件通信教育の実施を喜んだとの事実を主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。
被告B自身も、本人尋問において、原告には本件通信教育のテキストとして本件書籍を使用することが伝わっていなかったかも知れないと供述する。この点について、被告Bは、「当日の原告の証人尋問を聞いていると、日本語を完全に理解しているとはいいがたい部分や、明らかに事実と異なる供述があったため、原告の理解力に不安を感じていたからです。(本件通信教育のテキストとして本件書籍を使用することについて)伝えたことが正しく伝わっていたのだろうかという気持ちになっていたのですが、これは、もちろん伝えなかったということではありません。」と記載した陳述書(丙14)を提出するが、同陳述書の内容を合わせ考慮しても、被告B自身が、本件通信教育のテキストとして本件書籍を使用することについて、原告が理解できる程度に伝えたという記憶がないことに変わりはない。
エ 結局、被告Bが、原告に対し、明示的に本件通信教育の作成準備をしていることや本件教材が本件書籍を基にして作成されるものであることを伝えた事実、原告がそうした事実を認識していた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告が本件書籍を利用した本件教材の制作、販売及び本件通信教育の実施について承諾していたとの被告Bの主張は、理由がない。
4 争点(4)(被告Bによる本件教材の制作、本件通信教育の実施は、原告を本人とする代理行為ないし表見代理に当たるか。)について (1) 被告総通及び被告棋苑図書は、原告が被告Bに対し本件教材の作成についての代理権を与えており、被告総通及び被告棋苑図書は、原告の代理人である被告Bとの間で、本件教材の作成その他の協議を行ったと主張する。
しかし、上記3(1)、(2)記載のとおり、被告Bは、原告に対し本件通信教育が本件書籍を複製、翻案した教材を用いるものであることについて明確に伝えることなく、被告総通との間で、本件教材を作成し、本件通信教育の実施を行ったものである。原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(2)ア また、被告総通及び被告棋苑図書は、仮に、原告が、被告Bに対し本件教材の作成についての代理権を与えていなかったとしても、原告は本件書籍について被告Bに対して代理権を与えて任せきりにし、また、原告は出版記念パーティーにおいて通信教育の計画が発表された際にもこれを黙認しており、かつ、本件通信教育が本件書籍の二次的利用として一連の行為であることからすれば、被告総通及び被告棋苑図書が被告Bを原告の代理人と信じたことについては正当な理由があり、民法112条110条109条の表見代理が成立すると主張する。
イ この点について、証拠(甲3、50、乙1、4、丙12、原告本人)によれば、本件出版契約書は、被告棋苑図書の担当者が被告Bに対して本件出版契約書を送付し、被告Bは、同契約書に自ら署名し、原告に示して原告の署名をもらった上で、同契約書を被告棋苑図書に返送するという手順で作成されたこと、被告棋苑図書の担当者は、本件書籍の執筆に関し、専ら被告Bと打合せを重ね、原告と直接打合せをしたことはないことが認められるが、上記の事実経過によっても、原告は自ら本件出版契約を締結したものというべきであって、そのほかに、原告が被告Bに本件書籍の出版に関して代理権を授与した事実を認めるに足りる証拠はない。
ウ さらに、被告総通及び被告棋苑図書は、本件書籍が原告と被告Bの共著であることを知っていたのであるから、本件書籍をテキストとして利用した本件通信教育の実施については、原告に対し直接意思確認をすべきであるところ、乙4によれば、本件通信教育を被告Bが一人で実施することになった際、被告総通及び被告棋苑図書は、被告Bに対し、本件書籍が原告との共著になっているにもかかわらず被告Bが一人で実施することについて「いいんですか?」と尋ねたところ、被告Bから「それは大丈夫です。」との返答をもらったことが認められるが、被告総通ないし被告棋苑図書が、原告に対し直接意思確認をしたことを認めるに足りる証拠はない。
上記の事実関係の下においては、仮に、被告総通及び被告棋苑図書が、
本件通信教育の実施に関し、被告Bが原告の代理人であると信じたとしても、そのことについて正当な理由があるともいえない。
(3) 以上によれば、原告を本人とする被告Bの代理行為ないし表見代理を根拠とする被告総通及び被告棋苑図書の主張は、いずれも理由がない。
5 そうすると、本件書籍の印刷、製本、譲渡及び頒布行為、本件ビデオ録音録画、譲渡及び頒布行為、並びに本件カセットの録音、譲渡及び頒布行為は、
原告の本件書籍に係る著作権を侵害する行為であるというべきである。
弁論の全趣旨によれば、被告総通は、現時点では本件通信教育を実施していないものの、本件教材の在庫を若干有していることが認められ、こうした事情を考慮しても、被告総通が、今後、上記侵害行為をするおそれがないということはできない。
また、丙4の2によれば、被告Bが会長を務める日本医療気功協会の機関誌「Vie Vie(第5号)」に、本件教材の販売について「教材(音楽テープ、ビデオテープ、指導手引書)だけでも、お分けしています。お問い合わせは担当講師(被告B)または協会まで。」との案内記事を掲載していることが認められ、被告Bにおいても、今後、上記侵害行為をするおそれがないということはできない。
したがって、被告総通及び被告Bに対して、上記侵害行為の差止め及び本件教材の廃棄を求める請求は理由がある。
6 争点(5)(故意、過失の有無)について 本件書籍には、著作者として原告及び被告Bの氏名が記載されており、被告棋苑図書は、原告及び被告Bと本件出版契約を締結している。
そして、本件通信教育は、本件書籍をテキストとして使用するものであって、その内容が前記2記載のとおり、本件書籍を複製ないし翻案した本件教材を用いるものである。
そうすると、原告の承諾を得ることなく本件教材を制作・販売し、本件通信教育を実施することが、本件書籍に係る原告の著作権を侵害するものであることについて、被告らは、少なくとも過失があるというべきである。
7 争点(6)(損害ないし不当利得の額)について (1) 被告らに対する金銭請求(請求第3項)について ア 本件教材が本件書籍を原告に無断で複製ないし翻案したものであることは上記のとおりである。
また、上記1(2)記載のとおり、本件教材は被告総通が発行し、本件書籍は被告棋苑図書が発行したものであるが、本件通信教育の実施は本件書籍の企画段階から話が進んでいたこと、被告総通と被告棋苑図書は代表者が同一であり、上記代表者の意向により本件書籍の発行と本件通信教育の実施の企画が並行して進められたこと(乙4)からすると、本件書籍の複製ないし翻案行為は、被告総通、被告棋苑図書及び本件教材を作成した被告Bの共同不法行為に当たると認めるのが相当である。
イ 損害額について (ア) 著作権法114条1項に基づく損害の算定(主位的主張) 原告は、主位的に著作権法114条1項に基づいて損害賠償請求をする。しかし、同項の規定は、侵害行為者の利益額を即著作者の受けた損害と推定するものであって、このことからすると、著作者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を得ている場合において著作者の損害を推定するものと解するのが相当である。
原告は、被告らが本件教材の販売や本件通信教育の実施により得た利益を基にして原告の損害を推定すべきと主張するが、原告は、自ら書籍、通信教育教材の出版や、通信教育の実施をする者ではないから、原告の著作権法114条1項に基づく主張は理由がない。
(イ) 著作権法114条2項に基づく損害の認定(予備的請求) a 乙6の1・2、乙7〜9、15、丙11の2及び弁論の全趣旨によれば、被告総通が本件通信教育により1379万9880円の売上げ(キャンセル、
返品、中途退学者の清算金を控除した額。消費税を含む。)を上げたことが認められる(同事実は、原告と被告総通及び被告棋苑図書の間では争いがない。)。
b 本件教材の執筆内容、本件教材の用途、販売形態等からすると、本件書籍の2次的利用に当たる本件教材のライセンス料率は、本件教材の販売額(消費税を含む。)の10%が相当であると認める。
c 本件書籍は原告と被告Bの共同著作物であるところ、原告の著作権持分の割合は2分の1と推定される(民法264条250条)。
d 本件教材の本件ビデオ、本件カセットにおいては、被告Bが実演・ナレーションを行っており、また、バックにはCが作成した音楽(音楽制作料は50万円(丙13))が流れるようになっている。
本件指導手引き書には、本件書籍をほぼそのまま引き写した部分以外に、被告Bが書き加えた部分があり、また、被告Bの実演の写真が掲載されている。
さらに、本件通信教育の受講料(一人当たり一括払いで2万6800円(丙11の2))には、受講者が1か月ごとに行う課題に対して、回答して返送する費用も含まれている(丙11の9、丙16)。
以上にような事情を考慮すると、本件通信教育の売上げにおける本件書籍の寄与度は70%と認めるのが相当である。
e そうすると、原告が被った損害は、48万2995円(1379万9880円×0.1×0.5×0.7)となる(著作権法114条2項)。
(ウ) 弁護士費用について 本件事案の内容、訴訟の経過、損害認容額のほか、差止請求が認容されていること等を勘案すると、被告らの負担に帰すべき弁護士費用は、30万円が相当である。
ウ なお、原告は、原告の本件書籍に係る著作権を侵害する被告総通の本件教材の作成、頒布行為によって損失を被り、被告総通は利得を得たとして、上記イ記載の損害賠償請求と選択的に不当利得返還請求をする。
しかし、不当利得の関係が成立するとしても、同不当利得の額は、上記イ(イ)記載の48万2995円と同額であるというべきであり、同額を超える原告の損失ないし被告総通の損失があったことを認めるに足りる証拠はない。
著作者人格権(同一性保持権氏名表示権)の侵害に伴う慰謝料について 被告らは、原告が著作権持分を有する本件書籍を、原告に無断で2次的利用した本件教材を制作し、これをもとに本件通信教育を実施したものであって、
しかも、本件教材には原告の氏名を表示しなかったのであるから、同行為は、原告の本件書籍に関する同一性保持権(著作権法20条)、氏名表示権(同法19条)を侵害するものといえる。
原告の本件書籍における関与の程度、本件教材の性質及び内容、著作者人格権侵害の態様等を考慮すると、原告が上記の著作者人格権を侵害されたことによる慰謝料は30万円が相当と認める。
オ 以上によれば、請求第3項は、原告が被告らに対し、金108万2995円(48万2995円(財産的損害)+30万円(弁護士費用)+30万円(慰謝料))及びこれに対する不法行為の後の日である平成13年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(2) 被告Bに対する金銭請求(請求第4項)について ア 不当利得(民法704条)に基づく返還請求(被告Bが本件書籍について受領した著作権使用料の半額に相当する額)について (ア) 被告Bが、平成8年8月1日に被告棋苑図書から本件書籍の著作権使用料として35万1000円を受け取ったことは、原告と被告Bの間で争いがない。本件書籍は、前記のとおり原告と被告Bとの共同著作物であるから、原告は、
その2分の1の17万5500円を著作権使用料として受領する権利があり、一方、被告Bは受領した35万1000円のうち17万5500円については権限がないのに受領したものというべきである。
(イ) しかも、本件出版契約の際に著作者として原告及び被告Bが共に署名しており、本件書籍には著作者として原告及び被告Bの氏名が表示されていることに加え、上記1(2)のとおり、本件書籍が、原告の口頭あるいはメモ書きの記載に基づき被告Bが原稿を書く形で作成され、その表現には原告のメモ書きの表現がそのまま用いられている部分も多数あるのであって、被告Bは、こうした事情を知りながら上記著作権使用料全額を自ら受領したものであり、仮に本件書籍が被告Bの単独著作物であると考えていて、著作権使用料の2分の1について原告が受領すべき権限があることを知らなかったとしても、そのことについて重過失があるというべきであるから、民法704条に基づき利得した金額に利息を付して返還する義務を負うと解される。
もっとも、原告は、被告Bから送付された口座番号を教えて欲しい旨記載された平成13年4月15日付け書簡(甲40)に対し、同月19日付け書簡で著作権使用料を送ってくれるのであれば受け取る趣旨の返答をしたにもかかわらず(甲41)、被告Bから同月25日に送付された現金書留が不在で郵便局に留め置かれたものを受け取りに行かなかった(丙15)ものである。
被告Bは、上記のとおり原告に対し民法704条に基づく不当利得返還債務を負っていたものであるが、同被告が上記のとおり平成13年4月25日に原告に対して現金書留により送付したことは、同不当利得返還債務の現実の提供(民法493条)に当たるというべきであるから、被告Bは、平成13年4月25日の翌日以降の利息を負担する責任を免れるというべきである(民法492条)。
したがって、被告Bの負担に帰すべき利息は、平成8年8月1日から平成13年4月25日までの間(4年268日)に発生した4万1543円(17万5500円×0.05×(4+268/365))となる。
著作権侵害に基づく損害賠償請求(被告Bが被告総通から本件通信教育の教材の原稿料及び出演料等として受領した108万円に相当する額)について (ア) 原告は、被告Bが被告総通から本件通信教育の教材の原稿料及び出演料等として受領した108万円は、被告Bが、原告の本件書籍に係る著作権を侵害する行為によって得た利益であるとして、損害賠償を求める。
(イ) しかし、上記のとおり、被告らが原告に無断で本件教材を制作、販売して本件通信教育を実施し、本件書籍に係る原告の著作権を侵害したことについての財産的損害は48万2995円が相当というべきである。
原告が主張するように被告Bが本件通信教育に関して得た利益が原告の損害と推定されること(著作権法114条1項)に基づいて原告の損害を算定するとしても、被告Bが受領した108万円を基礎として、原告の本件書籍の著作権持分が2分の1であること、本件教材における本件書籍の寄与率は70%が相当であること、被告Bは本件教材において用いた音楽制作料としてCに対し50万円を支払っていること(丙13)を考慮すると、被告Bが本件書籍に係る原告の著作権持分を侵害することによって得た利益は、上記48万2995円を超えることにはならない。
(ウ) そして、財産的損害として認定した48万2995円は、被告B、
被告総通及び被告棋苑図書が、本件書籍に係る原告の著作権を侵害したことについての財産的損害であって、上記被告Bが得た108万円も、同財産的損害の発生原因と同一の事実を基礎として得た原稿料等であるから、上記48万2995円に加えて、被告Bが得た108万円を基礎にして別個の損害を算定することはできないというべきである。
ウ 以上によれば、請求第4項は、原告が被告Bに対し、民法704条に基づき、金21万7043円(17万5500円+4万1543円)の支払を求める限度で理由がある。
8 争点(7)(名誉回復措置の必要性)について (1) 原告は、著作者人格権(同一性保持権氏名表示権)が侵害されたとして、被告総通に対し、本件教材を送付した者に対し、別紙謝罪文目録記載の謝罪文を記載した文書の送付を請求する。
もっとも、別紙謝罪文目録記載の謝罪文は、「(本件教材が)A様の著作物の複製物であるにもかかわらず、原著作者としてA様の氏名の表示がなされておりませんでした。ここに、訂正させていただきますと共に、ご迷惑をおかけしましたことを、深く陳謝いたします。」という内容のものであって、主として原告の著作者としての氏名表示権を侵害されたことについての名誉回復を図る趣旨の内容となっている。
(2) 本件指導手引き書(2頁)には、テキストとして「21世紀の健康法 気」(本件書籍)を使います。レッスンに入る前に4章以外の章を読んでおいてください。1、2時間もあれば十分読めますから、これで気功の全体像をつかみましょう。本書は4章と対応しながら進めていきますから、4章はその都度お読みいただいた方が良いでしょう。」と記載されており(甲9)、本件指導手引き書における各エクササイズの記載部分の冒頭に、テキストの該当頁が記載されている。 (3) そうすると、本件通信教育では、受講者が本件書籍を購入し、これを読みながら通信教育を進めていくことを前提としているというべきところ、本件書籍には原告と被告Bが共同著作者として記載されているのであるから、受講者は、本件教材が原告の創作した内容を含むものであることは容易に理解できるものと考えられる。
(4) そして、本件訴訟において原告が被った財産的損害、及び著作者人格権が侵害されたことに伴う慰謝料の請求が認容されていることを考慮すれば、これに加えて、主として氏名表示権の侵害についての名誉回復を図る趣旨の名誉回復措置を認めるまでの必要性は認められないというべきである。
9 よって、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1書籍「B′の気功講座指導手引き書」2ビデオテープ「B′の気功講座ビデオレッスン第1巻」「B′の気功講座ビデオレッスン第2巻」3カセットテープ「B′の気功講座カセットテープレッスン・第1巻」「B′の気功講座カセットテープレッスン・第2巻」「B′の気功講座カセットテープレッスン・第3巻」(別紙)謝罪文目録謝罪文当社の作成した下記教材については、A様の著作物の複製物であるにもかかわらず、原著作者としてA様の氏名の表示がなされておりませんでした。
ここに、訂正させていただきますと共に、ご迷惑をおかけしましたことを、深く陳謝いたします。
記「B′の気功講座指導手引き書」「B′の気功講座ビデオレッスン第1巻」「B′の気功講座ビデオレッスン第2巻」「B′の気功講座カセットテープレッスン・第1巻」「B′の気功講座カセットテープレッスン・第2巻」「B′の気功講座カセットテープレッスン・第3巻」大阪市<以下略>株式会社総通代表者代表取締役○○○○別表一(本件書籍と本件指導手引き書との比較)別表二(本件書籍と本件ビデオとの比較)別表三(本件書籍と本件カセットとの比較)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝