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事件 |
令和
4年
(ワ)
24085号
発信者情報開示請求事件
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5 原告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 角地山宗行 被告KDDI株式会社 10 同訴訟代理人弁護士 今井和男 山本一生 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2023/09/29 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 15 事 実 及 び 理 由第1 請求被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 第2 事案の概要等1 事案の要旨20 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を複製して作成した動画ファイル(以25 下「本件複製ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態としたことによっ1て、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発5 信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者10 ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を目的とする特例有限会社である(弁論の全趣旨)。 イ 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供しているアクセスプロバイダである。 15 (2) 本件動画の著作物性及び著作権者原告は、著作物である本件動画の著作権者である(甲7、8)。 (3) ビットトレントの仕組み(甲2、弁論の全趣旨)ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアである。 20 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されて25 いる。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」2には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 5 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、 10 定期的にトラッカーにアクセスして、他のピアのIPアドレス等の情報のリストを取得する。 ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、これに対し当該他のピ15 アがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。 、当該他のピアが上記特定のファイ)ルを構成するピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、 20 当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (4) 株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲4、弁25 論の全趣旨)本件調査会社は、別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び発信3日時を以下の方法により特定した。 ア 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の品番を含むファイルのハッシュ値を探索し、当該ハッシュ値を監視対象とした。 5 イ 前記アの監視に用いられたソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」という。)が、トラッカーに接続し、監視対象である当該ハッシュ値を有する特定のファイル(本件複製ファイル)を共有しているピアの情報の提供を求めたところ、トラッカーから別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号を含むリストが返信された。 10 また、本件監視ソフトウェアは、トラッカーから上記のピアの情報に係るリストが返信された後、実際に各ピアとの間でハンドシェイクの通信を行い、各ピアが応答することを確認した。別紙動画目録記載の日時は、ハンドシェイクの通信により各ピアから応答確認があった時刻である。 (5) 本件各発信者情報の保有15 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点(1) 原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)(2) 本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか(争点2)20 (3) 原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点3)4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について(原告の主張)25 ア 著作権法2条1項9号の5イの行為による送信可能化について送信可能化行為は、著作権法2条1項9号の5で定義されているところ、 4トラッカーサーバーは、同号イの「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」に当たる。 また、ビットトレントにおいてファイルを送信しようとする者(以下「送信者」ということがある。)が、トラッカーサーバーに対し自身が所5 持するファイル情報、IPアドレス等を通知し、これがトラッカーサーバーに記録されることは、同号イの「情報を記録」したことに当たる。 これにより、送信者は、当該ファイルを、受信者の求めに応じて、「自動公衆送信し得るように」なる。 したがって、ファイルの送信者は、トラッカーサーバーにファイル情報、 10 IPアドレス等を通知することにより、送信可能化を行ったといえる。 イ 著作権法2条1項9号の5ロの行為による送信可能化について送信者が、自身の所持するファイルを自身の端末の共有フォルダに蔵置し、クライアントソフトを起動してトラッカーサーバーに接続すると、送信者の端末は、トラッカーサーバーに端末を接続させている受信者からの15 求めに応じ、自動的にファイルを送信し得る状態となる。そうすると、ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーサーバーに接続した送信者の端末は、トラッカーサーバーと一体となって、著作権法2条1項9号の5ロの「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たるということができ、トラッカーサーバーに接続した時点で、同号ロの「公衆の用に供20 されている電気通信回線への接続」がされ、これにより、送信者が送信可能化を行ったといえる。 ウ 本件各氏名不詳者のファイルの保持率が不明であることについて著作権法は、著作物を複製した電子データを自動公衆送信し得ることによる著作権侵害を法的に保護するために送信可能化権を規定している。 25 つまり、送信可能化権との関係では、著作物を複製した電子データの一部であっても、それは著作物に不可欠の一部を構成するものであり、当該5電子データだけで再生できるか否かに関わらず、著作物の一部を構成するものである以上、それをアップロード状態に置くことは、送信可能化に該当し、公衆送信権を侵害するものである。 仮に、著作物を複製した電子データの一部を送信可能な状態にしただけ5 では公衆送信権を侵害したとはいえないという被告の主張を前提とした場合、当該電子データの一部のみ保有している者らが、これをアップロードして、第三者にダウンロードさせた結果、その第三者の手元で100%の電子データがそろった場合であっても、アップロードした者らは皆電子データの一部しか保有していないために、送信者の誰も権利侵害をしていな10 いという不合理な結果となる。 また、権利侵害行為の態様が同じであるにもかかわらず、100%の著作物を複製した電子データを所持する者の行為は違法であり、同データの一部のみ保有している者の行為は合法であるという、妥当でない結論を導くことになる。 15 したがって、本件各氏名不詳者のファイルの保持率が不明であったとしても、本件各氏名不詳者が送信可能化によって公衆送信権を侵害したことに相違はない。 エ 違法性阻却事由がないことについて本件各氏名不詳者が本件動画を送信可能化したことに関し、違法性阻却20 事由に該当する事実は存在しない。 オ 小括以上によれば、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。 (被告の主張)25 ア 著作権法2条1項9号の5イの行為による送信可能化について原告は、送信者がトラッカーサーバーに対し自身が所持するファイル情6報、IPアドレス等を通知し、これがトラッカーサーバーに記録されることは、著作権法2条1項9号の5イの「自動公衆送信装置」に「情報を記録」したことに当たると主張する。 しかし、送信者が自身の端末をトラッカーサーバーに接続させたとして5 も、トラッカーサーバーに通知及び記録された情報は、送信者が保持しているファイルの情報やIPアドレス等のみであり、ファイルの内容自体が通知又は記録されるものではない。 したがって、本件各氏名不詳者がトラッカーサーバーに対し自身の所持する本件複製ファイルの情報、IPアドレス等を通知し、これらの情報が10 トラッカーサーバーに記録されることをもって、著作権法2条1項9号の5イの行為により「自動公衆送信し得る」状態になったとはいえない。 イ 著作権法2条1項9号の5ロの行為による送信可能化について原告は、ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーサーバーに接続した送信者の端末は、トラッカーサーバーと一体となって、著作権法15 2条1項9号の5ロの「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に該当すると主張するが、端末とトラッカーサーバーは別個の装置であり、上記のような解釈を採用することは相当ではない。 よって、本件各氏名不詳者が本件複製ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーサーバーに接続することは、著作権法2条1項9号の520 ロの送信可能化行為に該当しない。 ウ 本件各氏名不詳者のファイルの保持率が不明であることについて本件動画を送信可能化したといえるためには、本件各氏名不詳者が本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる程度に本件複製ファイルを保持している必要があるところ、原告によれば、本件各氏名不詳者25 が送信可能化時点においてどの程度ファイルを保持していたかは不明であるというのであるから、本件動画が送信可能化されたとはいえない。 7(2) 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか)について(原告の主張)ア 本件各発信者情報は、いずれも送信可能化行為に係る通信から特定され5 る情報であることについて本件調査会社は、本件監視ソフトウェアがトラッカーサーバーからファイル情報、IPアドレス等が記載されたリストを取得した後、当該リストに載っていた本件各氏名不詳者の端末に接続して、ハンドシェイクの通信を行っている。 10 他方、本件各氏名不詳者は、ビットトレントネットワークを介し、その管理に係る端末を、受信者である本件監視ソフトウェアからのリクエストに応じて、自動的に本件複製ファイルを送信することができる状態にしていたことから、送信可能化の状態を継続していたといえる。そして、送信可能化による公衆送信権侵害は、ある一時点における権利侵害行為によっ15 て終了するのではなく、権利侵害状態が継続するものである。 したがって、本件各氏名不詳者の端末による本件調査会社の端末とのハンドシェイクの通信は、送信可能化によって原告の公衆送信権を侵害し、 その状態が継続していることを通知するものと評価できるから、本件各氏名不詳者の端末によるハンドシェイクの通信に係る情報は、プロバイダ責20 任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。 イ 本件監視ソフトウェアによる調査結果に信用性があることについて本件監視ソフトウェアが検知するIPアドレスが正確であることは、本件監視ソフトウェアによるIPアドレスの同一性確認試験において確認されている。 25 また、被告は、別件の訴訟の判決において本件監視ソフトウェアによる調査結果の正確性が否定されたとして、本件における本件監視ソフトウェ8アの調査結果の正確性を争うが、同判決において本件監視ソフトウェアの調査結果の正確性が否定された根拠として挙げられたのは、@IPアドレスとタイムスタンプの組合せの結果存在しない通信が含まれていること、 A理論上割り当てられることのない発信元ポート番号が含まれていること、 5 B同一のIPアドレスが複数の契約者に割り当てられるIPoE方式において、同一のIPアドレスを割り当てられた複数の契約者が同一ハッシュ値のファイルを交換していることであるところ、本件においては、いずれの事情も確認されていないから、被告の主張は理由がない。 (被告の主張)10 ア 本件各発信者情報は、いずれも送信可能化行為に係る通信から把握される情報でないことについて仮に、前記(1)(原告の主張)ア又はイ記載の行為によって、本件複製ファイルの送信可能化が行われていたといえるとしても、ハンドシェイクの通信はあくまで応答確認にすぎず、ハンドシェイクの通信によって本件15 複製ファイルの送信可能化が行われるわけではないから、別紙動画目録記載の日時において、送信可能化行為がされたわけではない。 したがって、本件各発信者情報は、いずれも前記(1)(原告の主張)記載の送信可能化行為に係る通信から把握される情報ではない。 イ 本件監視ソフトウェアによる調査結果に信用性がないことについて20 原告は、本件監視ソフトウェアの検知するIPアドレス等が正確に特定されていることは、同一性確認試験によって実証されていると主張するが、 同一性確認試験は、試験用ファイルについて本件監視ソフトウェアが検知したIPアドレスとクライアント環境のIPアドレスが一致することを確認したにすぎない。すなわち、同一性確認試験は、本件発信者情報が本件25 複製ファイルを送信可能化した者に係る情報であることを裏付けるものではない。 9また、本件と同種事案の判決において、本件監視ソフトウェアによる調査結果には、通信自体が存在しないものや技術仕様上契約者に割り当てていない送信元ポート番号が示されたものが相当数含まれていたと認定され、 本件監視ソフトウェアの調査結果の信用性が否定されている。 5 以上のことから、本件監視ソフトウェアによる調査結果の信用性は立証されているとはいえず、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとはいえない。 (3) 争点3(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について10 (原告の主張)原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 15 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について著作権法上、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、 20 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)をいい、「送信可能化」(同項9号の5)に該当するには、上記著作物について、「自動公衆送信し得るようにすること」が必要であることからすると、著作物について自動公衆送信し得るようにしたといえるためには、自動公衆送信の対象となる情報が、著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる程度25 のものを含んでいる必要があると解される。 証拠(甲8ないし10)によれば、ビットトレントネットワーク上に存在す10る本件複製ファイルは、原告が著作権を有する著作物である本件動画と実質的に同一の内容を表示するものであると認められる。また、ビットトレントネットワークにおいては、トラッカーが特定のファイルを共有しているピアの情報を管理しており、ビットトレントネットワークを介して当該特定のファイルを5 ダウンロードしたピアは、他のピアから要求があれば、当該特定のファイルを送信することになる(前提事実(3))。さらに、証拠(甲4、5)によれば、本件各氏名不詳者が、ビットトレントネットワークを介して、少なくとも本件複製ファイルの一部をダウンロードしたことが認められる。 しかし、全証拠によっても、本件各氏名不詳者が、それぞれ、別紙動画目録10 記載の日時に行われたハンドシェイクの通信の時点までに、本件複製ファイルを構成する全ピースのうちどの程度の容量のピースをダウンロードし、これを保持していたのか、また、同通信時点までに、本件複製ファイルをダウンロードしていた全ピアのピースを併せると、どの程度の容量のピースを構成することになるかは不明であり、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得するこ15 とのできる程度の情報を自動公衆送信し得るようにしたことを認めるに足りない。 したがって、本件各氏名不詳者により本件複製ファイルが「送信可能化」され、本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことは明らかであるとはいえない。 20 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか)について仮に、本件各氏名不詳者が、本件複製ファイルのうち、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる程度のピースを保持していたことを前提としても、本件各発信者情報は、以下の理由により、「当該権利の侵害に係25 る発信者情報」に当たるとはいえない。 (1) ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該当する行為11についてア 著作権法2条1項9号の5は、イ又はロ所定の行為により自動公衆送信し得るようにすることを「送信可能化」と定義していることから、「送信可能化」されたといえるには、同項9号の5イ又はロに該当する行為がされ5 ることが必要であるところ、ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化については、次の二つの場合が考えられる。 (ア) あるピアが、ビットトレントネットワークによって取得した特定のファイルを、当該ビットトレントネットワークに参加している他のピアとの間で共有しようとする場合10 前提事実(3)イのとおり、ビットトレントネットワークにおいては、特定のファイルに対応するトレントファイルを端末のクライアントソフトウェアに読み込ませることで、当該トレントファイルを共有するピアによって形成されるビットトレントネットワークに参加し、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしたり、他のピアにア15 ップロードしたりすることができるようになる。 そして、このようなダウンロード及びアップロードを行うためには、 当該他のピアが自身のピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握している必要があるから、そのダウンロード及びアップロードに先立ち、 あるピアがトラッカーに対して自身のIPアドレス及びポート番号の情20 報をあらかじめ通知しているものと考えられる。すなわち、ビットトレントネットワークに参加しているピアは、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしさえすれば、改めてトラッカーに自身のIPアドレス及びポート番号の情報を通知するなど特段の手順を経ることなく、自身のピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握し25 ているピアに対し、自身がダウンロードしたピースを他のピアにアップロードすることができる。 12このようなビットトレントの仕組みに照らせば、共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアは、他のピアから当該ピースの送信を受けることによって、別の他のピアからの要求があればいつでも当該ピースを送信し得る状態になったといえる。そう5 すると、@共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアが、当該ピースを保有する他のピアから当該ピースをダウンロードすること、又は、A当該ファイルを構成するピースを保有するピアが、当該ファイルを構成するピースを何ら保有していない他のピアに対して当該ピースをアップロードすることをもって、著作権法210 条1項9号の5イ所定の「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…すること」に当たると解するのが相当である(以下「類型1」という。。 )(イ) ビットトレントネットワーク以外の手段によって取得した特定のファイルをビットトレントネットワークにおいて共有しようとする場合15 前提事実(3)イのとおり、ビットトレントネットワークにおいては、トレントファイルを共有するピアで形成されるビットトレントネットワーク内でのみ当該トレントファイルに対応する特定のファイルが共有され、 他のピアからのピースの送信要求は、トラッカーから提供されるピアのIPアドレス等の情報のリストに基づいてされるところ、当該情報は、 20 各ピアが定期的にトラッカーに通知した自身のIPアドレス等の情報が基礎となっている。 このようなビットトレントの仕組みに照らせば、ピアは、トラッカーに対して自身の情報を提供するための最初の通知の送信をしたことによって、他のピアからの要求があればいつでもファイルを構成するピース25 を送信し得る状態になったといえる。 そうすると、当該トラッカーに対する最初の通知の送信をもって、著13作権法2条1項9号の5ロ所定の「その公衆送信用記録媒体に情報が記録され…ている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続…を行うこと」に当たると解するのが相当である(以下「類型2」という。。 )5 イ これを本件についてみると、別紙動画目録の各項番記載の情報により特定されるピアが、類型1及び2のいずれの態様によって本件複製ファイルを自動的に送信し得る状態となったのかを認めるに足りる証拠はない。 しかも、ビットトレントの仕組みに照らし、別紙動画目録の各項番記載の情報により特定されるピアが、類型1及び2以外の態様によって本件複10 製ファイルを自動的に送信し得る状態になったとは考え難く、これを裏付ける証拠もない。 したがって、本件動画については、別紙動画目録の各項番記載の情報により特定されるピアによって、類型1又は2のいずれかの態様すなわち著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定のいずれかの行為により、自動公衆15 送信し得るようにされたものと認めるのが相当である。 (2) ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該当する通信について前記(1)において説示したとおり、ビットトレントを利用したファイル共有においては、当該ファイルを自動的に送信し得る状態にするための態様とし20 て、著作権法2条1項9号の5イ所定の行為に対応する類型1及び同号ロ所定の行為に対応する類型2を想定することができる。 しかし、前提事実(3)イのとおり、ハンドシェイクの通信は、ビットトレントネットワークを形成しているピアが、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働してい25 るか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認する通信であって、共有される特定のファイルを構成するピースをダウンロード又はアップロードす14る通信(類型1)ではないし、トラッカーに対する通知の送信(類型2)でもないから、類型1及び2のいずれにも該当しない。そして、本件において、 類型1及び2以外の態様によって、ビットトレントネットワークを形成しているピア同士の間で行われるハンドシェイクの通信が著作物を「送信可能化」5 する行為に該当し得ることについては、主張及び立証がされていない。したがって、上記ハンドシェイクの通信が著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の行為に該当するとは認められない。 また、同項9号の5イ又はロ所定の行為により「送信可能化」がされてしまえば、自動公衆送信し得る状態が完全に実現される以上、「送信可能化」に10 該当する行為が継続されることはないというべきである。したがって、この観点からも、上記ハンドシェイクの通信が、本件動画を送信可能化し、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害する通信であると認めることはできない。 第4 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいず15 れも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官20 國 分 隆 文25 裁判官15間 明 宏 充裁判官5バ ヒ ス バ ラ ン 薫16(別紙)発信者情報目録別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @ 氏名又は名称A 住所5 B 電子メールアドレス以上17(別紙著作物目録―省略)(別紙動画目録―省略)18 |
事実及び理由 | |
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全容
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