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事件 |
令和
4年
(ワ)
23204号
発信者情報開示請求事件
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5原告株式会社A&T 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告ソフトバンク株式 会社 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2023/09/15 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
10 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び同目録2記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
15 主文同旨 |
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事案の概要等
1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本 件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるB20 itTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワー ク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙発信者情報 目録1及び同目録2記載の品番及び作品名に係る各動画(以下、これらを総称 して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成した動画ファイル(以下、 これらを総称して「本件各ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理す25 る端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得るようにす るとともに、本件各ファイルを公衆送信したことによって、本件各動画に係る 1 原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳 者に対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙発信者情報目録1及び 同目録2記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべ き正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制5 限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。) 5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は 特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者10 ア 原告は、著作物である本件各動画の著作権者である(甲9、弁論の全趣 旨)。 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である(弁論の全趣旨)。 ビットトレントの仕組み(甲4ないし7、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利15 用するためのソフトウェアである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係る データをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに 参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実 現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」20 と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」 には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全ての ピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載さ れている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一25 つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする 2 ユーザーは、インターネット上のウェブサーバー等において提供されてい る当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にイ ンストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み 込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、 5 定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号 等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等 の情報のリストを取得する。 ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他 のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有す10 るピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。ま た、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場 合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このよう に、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを 転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成す15 る全てのピースを取得する。 株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲4 ないし6、8、9) 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイ ルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であること20 が疑われるファイルに対応するトレントファイルを入手した。 本件調査会社は、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μT orrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレント ファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応するファイルをダウン ロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等25 の情報をスクリーンショットにより保存した(以下、この保存行為を「本件 スクリーンショット」という。。 ) 3 本件調査会社は、ダウンロードした上記トレントファイルに対応するファ イルを再生し、表示される映像が本件各動画と同一であることを確認した。 本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 5 3 争点 特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明 らかであるか(争点1) 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2) 4 争点に関する当事者の主張10 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害された ことが明らかであるか)について (原告の主張) ア 本件各氏名不詳者により本件各動画が送信可能化されたこと (ア) 本件調査会社が本件ソフトウェアの実行画面を本件スクリーンショッ15 トにより記録した時点において、当該実行画面に表示されたピアは、ビ ットトレントネットワークを介して、本件各動画を複製して作成された 本件各ファイルを構成する全部又は一部のデータを保有していた。 (イ) ビットトレントネットワークを形成するピアは、共有されているファ イルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用者が管理するピアに20 対し、当該ファイルを送信し得る状態となる。すなわち、ビットトレン トネットワークを形成しているピアは、他のピアからファイルの送信を 受けている間、自動公衆送信装置として機能し、その記録媒体は公衆送 信用記録媒体となる。そして、他のピアからファイルの送信を受けるこ とは、自動公衆送信装置への情報の入力に当たるとともに、公衆送信用25 記録媒体への情報の記録に当たる。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の 4 際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアにおいて、本件各動 画が送信可能化されていることは明らかである。 したがって、本件調査会社が本件スクリーンショットにより記録した 日時及びIPアドレスすなわち別紙発信者情報目録1及び同目録2記載5 の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理する ピアが、ビットトレントネットワークを介して本件各ファイルの送信を 受けることは、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化する行為 (著作権法2条1項9号の5イ)と評価できる。 (ウ) また、ビットトレントのクライアントソフトウェアがインストールさ10 れた端末であって、当該端末の記憶領域内のファイルについて他のピア の求めに応じて自動的に当該ファイルを送信し得るように設定可能な記 憶領域に、本件各ファイルを構成する全部又は一部のデータが記録され ているものは、公衆送信用記録媒体に情報が記録されている自動公衆送 信装置に当たる。そして、当該クライアントソフトウェアを操作して@15 ビットトレントネットワークに接続した上で、本件各ファイルを他のピ アの求めに応じて自動的に送信し得るように設定する行為、又はA本件 各ファイルを他のピアの求めに応じて自動的に送信し得るように設定し た上で、ビットトレントネットワークに接続する行為は、公衆の用に供 されている電気通信回線への接続を行うことに当たる。 20 したがって、本件調査会社が本件スクリーンショットにより記録した 日時及びIPアドレスすなわち別紙発信者情報目録1及び同目録2記載 の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者が、本件各 動画を送信可能化(著作権法2条1項9号の5ロ)していることは、明 らかである。 25 イ 本件各氏名不詳者により本件各動画が自動公衆送信されたこと (ア) ビットトレントネットワークを形成しているピアは、他のピアから共 5 有される特定のファイルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用 者が管理しているピアからの求めに応じて自動的に当該ファイルを送信 する。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の5 際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアが、公衆たる他の利 用者が管理しているピア又は本件調査会社が管理しているピアからの求 めに応じて自動的に本件各ファイルを送信していることは、明らかであ る。 (イ) したがって、本件調査会社が本件スクリーンショットにより記録した10 日時及びIPアドレスすなわち別紙発信者情報目録1及び同目録2記載 の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理する ピアが、@他の利用者が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに 対して本件各ファイルを自動的に送信したこと、A本件調査会社が管理 するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動15 的に送信したことは、いずれも本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公 衆送信する行為(著作権法2条1項9号の4)と評価できる。 ウ 本件各氏名不詳者による本件各動画の送信可能化や自動公衆送信に係る 通信は特定電気通信に当たること 特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電20 気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)とされているところ、 著作権法は、送信可能化及び自動公衆送信をいずれも「公衆送信」すなわ ち「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気 通信の送信…を行うこと」として評価しているから、上記「送信」には送 信可能化や自動公衆送信に係る通信も含まれる。 25 したがって、前記ア及びイの本件各氏名不詳者による本件各動画の送信 可能化や自動公衆送信に係る通信は、特定電気通信に当たる。 6 エ 違法性阻却事由の不存在 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化及び自動公衆送信したこと に関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 オ 小括5 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権 (公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5 条1項柱書、1号)。 (被告の主張) ア 本件調査会社による調査結果が信用性を有するとはいえないこと10 原告は、本件調査会社が本件ソフトウェアを用いて行った調査結果に基 づいて、本件各発信者情報から特定される者が本件各動画に係る原告の権 利を侵害した者であると主張する。 しかし、本件ソフトウェアを用いた調査は、プロバイダ責任制限法ガイ ドライン等検討協議会においてP2P型ファイル交換ソフトウェアによる15 権利侵害情報の流通に関する検出システムとして信頼性が認められると認 定されたシステムを用いたものではないから、当該調査結果が技術的に信 用できるものとはいえない。 イ 本件各ファイルに係る動画が本件各動画に依拠したものであり、かつ、 両者が類似することは明らかではないこと20 本件各ファイルに係る動画が本件各動画に依拠して作成され、かつ、本 件各動画と類似するものであることの立証がされているとはいえない。 ウ 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化又は自動公衆送信したかは 明らかでないこと (ア) 原告が主張する本件各氏名不詳者の管理するピアによる通信が本件各25 動画を送信可能化したものであるかは明らかでないこと a 著作権法2条1項9号の5イの態様による送信可能化について 7 プロバイダ責任制限法5条1項所定の発信者情報開示請求が認めら れるためには、実際に送信された特定電気通信による侵害情報の流通 がなければならないから、侵害情報が実際に送信されていない場合に は、「特定電気通信による情報の流通によって」原告の「権利を侵害」5 することに当たらないし、かつ、そのような送信をしていない者に係 る情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。 これを著作権法2条1項9号の5イの態様による送信可能化につい てみると、公衆送信用記録媒体に情報が記録されたというだけでは、 未だ侵害情報が送信されておらず、これが流通するに至っていないか10 ら、「特定電気通信による情報の流通によって」原告の「権利を侵害」 したとはいえない。 仮に、電気通信による「情報の流通」によって、公衆送信用記録媒 体に情報が記録されたとしても、上記に関する通信は情報の「受信」 を目的としたものであり、電気通信の「送信」とは評価できないから、 15 特定電気通信に当たらない。この点を措くとしても、公衆送信用記録 媒体に記録された情報をもたらした電気通信は、別紙発信者情報目録 1及び同目録2記載の日時においてされた電気通信ではなく、それに 先行する電気通信ということになるが、当該先行する電気通信がされ た日時もIPアドレスも明らかでない。 20 b 著作権法2条1項9号の5ロの態様による送信可能化について 自動公衆送信装置を電気通信回線へ接続しただけでは、未だ侵害情 報が送信されておらず、これが流通するに至っていないから、「特定電 気通信による情報の流通によって」原告の「権利を侵害」したとはい えない。 25 仮に、ビットトレントネットワークに本件各氏名不詳者の管理する ピアが参加していたとしても、別紙発信者情報目録1及び同目録2記 8 載の日時において、本件各氏名不詳者の管理するピアが、送受信用プ ログラムの起動その他一連の行為のうち最後の行為を完了していたこ とが明らかとはいえない。 (イ) 本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したかは明らかでない5 こと ビットトレントネットワークに、本件調査会社の管理するピア及び本 件各氏名不詳者の管理するピアに加え、他のピアが参加している場合に は、本件調査会社の管理するピアは、本件各氏名不詳者の管理するピア 以外のピアから、本件各ファイルをダウンロードした可能性がある。 10 このほか、本件スクリーンショットによって記録された情報のみでは、 本件調査会社の管理するピアと本件各氏名不詳者の管理するピアとの間 で、本件各ファイルを構成するピースのダウンロードやアップロードが 行われていたのか、それとも両社が単に接続されていただけでピースの 送受信は行われていないのかなどの詳細な実態が明らかになっていると15 はいえないから、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したこ とが明らかとはいえない。 争点2(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)につ いて (原告の主張)20 原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害 されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であ るが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要 がある。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由25 がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 (被告の主張) 9 争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたこ とが明らかであるか)について5 本件各ファイルは本件各動画を複製又は翻案したものであるかについて 証拠(甲8、9)によれば、本件各ファイルは、本件各動画を複製又は翻 案して作成されたものであると認められる。 自動公衆送信に係る情報の流通による原告の権利侵害の成否について 前提事実(2)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他10 のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピース を当該他のピアに転送する(アップロード)ように動作する。また、前提事 実(3)のとおり、本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有され ているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同 一であることが疑われるファイルに対応するトレントファイルを入手し、本15 件ソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイ ルに対応するファイルをダウンロードして、当該ファイルを再生して表示さ れる映像がそれぞれ本件各動画と同一であることを確認したものである。 そして、証拠(甲1、4、6)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社 は、本件各ファイルのダウンロード中に表示されたピアのIPアドレス等の20 情報に基づいて、別紙発信者情報目録1及び同目録2の日時欄記載の日時及 び同IPアドレス欄記載のIPアドレスをそれぞれ特定したことが認められ るところ、本件スクリーンショットによって記録された本件ソフトウェアの 実行画面の表示は、当該ピアから本件調査会社の管理するピアに本件各ファ イルが送信されている状態を捉えたものといえる。 25 加えて、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット 上で公開されているのが通常であると考えられるところ、そのようなトレン 10 トファイルは少なくとも不特定の者において利用することができるから、同 じトレントファイルを共有しているピアの管理者も不特定の者となるのが通 常である。これに対し、本件全証拠によっても、本件各ファイルが特定かつ 少数の者の間でのみ共有されていたとは認められないから、本件各ファイル5 に係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した 本件調査会社は「公衆」(著作権法2条5項)に当たるといえる。 以上によれば、別紙発信者情報目録1及び同目録2の日時欄記載の日時に おいて、同IPアドレス欄記載のIPアドレスが割り当てられていた端末は、 同品番及び作品名欄記載の動画を複製又は翻案して作成された本件各ファイ10 ルを(前記(1))、公衆である本件調査会社が管理する端末からの求めに応じ 自動的に送信していたのであるから、当該各日時において、当該各IPアド レスが割り当てられていた端末から、本件調査会社の管理するピアに対し、 本件各動画がそれぞれ自動公衆送信されたと認められるところ、これは、特 定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作15 権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 被告の主張について ア 被告は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会においてP2 P型ファイル交換ソフトウェアによる権利侵害情報の流通に関する検出シ ステムとして信頼性が認められると認定されたシステムを用いたものでは20 ないから、本件調査会社による調査結果が信用できるものとはいえないと 主張する。 しかし、被告の上記主張は、本件調査会社による調査結果が信用できな い可能性がある旨を抽象的に指摘するにとどまり、本件調査会社による調 査結果が信用性を欠くものであることを示す具体的な事情を何ら摘示して25 いない。 そして、本件全証拠によっても、本件調査会社による調査結果の信用性 11 に合理的な疑いを差し挟むような事情は何ら認められない。 イ また、被告は、ビットトレントネットワークに本件調査会社の管理する ピア及び本件各氏名不詳者の管理するピアに加えて他のピアが参加してい る場合には、本件調査会社の管理するピアは、本件各氏名不詳者の管理す5 るピア以外のピアから、本件各ファイルをダウンロードした可能性がある から、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことが明らかと はいえないと主張する。 そこで検討すると、別紙発信者情報目録1の各項番の日時欄記載の日時 に同IPアドレス欄記載のIPアドレスが割り当てられていたピアが参加10 していたビットトレントネットワークにおいて、当該ピア及び本件調査会 社の管理するピア以外に、本件調査会社の管理するピアと通信することが 可能なピアが参加していたと認めるに足りる証拠はない。 これに対し、証拠(甲1の6、1の14)によれば、別紙発信者情報目 録2の各項番の日時欄記載の日時に同IPアドレス欄記載のIPアドレス15 が割り当てられていたピアが参加していたビットトレントネットワークに は、当該ピア及び本件調査会社の管理するピア以外にも1ないし2台のピ アが参加していたことが認められる。 しかし、証拠(甲1の6、1の14、13)によれば、別紙発信者情報 目録2の各項番の日時欄記載の日時にIPアドレス欄記載のIPアドレス20 が割り当てられていた各ピアに係るフラグ欄には「D」との表示がされて いるところ、当該表示は本件ソフトウェアを実行しているピアが現在ダウ ンロード中であることを意味すると認められるから、別紙発信者情報目録 2の各項番の日時欄記載の日時に同IPアドレス欄記載のIPアドレスが 割り当てられていたピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件25 各ファイルが送信されていたと認めるのが相当である。 ウ 以上のとおり、被告の前記各主張はいずれも採用することができない。 12 小括 以上の検討結果に加え、他に違法性阻却事由が存在することをうかがわせ る事情は見当たらないことからすると、本件各氏名不詳者が本件各動画を自 動公衆送信したことにより、特定電気通信による情報の流通によって本件各5 動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである (プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)と認められる。 2 争点2(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)につい て 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係10 る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請 求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の 開示を受ける必要があると認められる。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が ある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 15 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判 決する。 |