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事件 令和 3年 (ネ) 10035号 著作権侵害差止等請求控訴事件
令和3年11月29日判決言渡 令和3年(ネ)第10035号 著作権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方 裁判所平成30年(ワ)第38486号) 口頭弁論終結日 令和3年9月8日 5判決
控訴人 株式会社ESTcorpo ration 10 同訴訟代理人弁護士 宇田川高史
同 中島一郎
同 坪篤志
被控訴人 株式会社アリトンシステム研 15 究所
同訴訟代理人弁護士 松田英一郎
同 玉置暁
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/11/29
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 20 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,金銭請求に係る控訴人敗訴部分を取り消す。
25 2 上記の部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。
事案の概要等
1 1 事案の概要 (1) 本件は,原判決別紙1プログラム目録記載1及び2の各プログラム(以下 「本件プログラム」という。)の著作権者である被控訴人が,医師会等からの 委託を受けて保険請求を代行する業者である控訴人に対し,控訴人が本件プ 5 ログラムをその使用許諾契約に反する態様により使用したと主張して,次の 各請求をする事案である。
ア 控訴人による本件プログラムの複製及び使用が,本件プログラムの著作 権侵害(複製権侵害又は著作権法113条2項(令和2年法律第48号に よる改正前のもの。以下,同項については同じ。)による侵害)に該当する10 と主張して,著作権法112条1項に基づく本件プログラムの複製及び使 用の差止め並びに同条2項に基づく複製物等の廃棄を求める請求 イ 平成20年9月分ないし平成30年3月分の控訴人による本件プログ ラムの使用行為について,被控訴人と控訴人との間の本件プログラムに係 る使用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求又は不法行為に基づ15 く損害賠償請求(選択的請求)として,損害金1億0903万2000円 及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成31年1月22日 から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以 下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求 ウ 平成30年7月分ないし同年11月分の控訴人による本件プログラム20 の使用行為について,違約金合意に基づく請求として,違約金7530万 6000円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成31年 1月22日から支払済みまで商法(平成29年法律第45号による改正前 のもの。以下同じ。)514条の年6分の利率(以下「商事法定利率」とい う。)による遅延損害金の支払を求める請求25 (2) 原審は,上記各請求につき,次のとおりの各限度で,被控訴人の請求を認 容した。
2 ア 上記(1)アの請求について,控訴人による複製権侵害及び著作権法113 条2項によるみなし侵害があったとして,本件プログラムの複製又は使用 の禁止及び本件プログラムを格納した記録媒体の廃棄又は同記録媒体か らの各プログラムの消去を求める限度 5 イ 上記(1)イの請求について,控訴人による債務不履行があり,不法行為も 成立するが,債務不履行による損害額が上回るなどとして,債務不履行に 基づく損害賠償として6609万5820円及びこれに対する平成31 年1月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度10 ウ 上記(1)ウの請求について,被控訴人が主張する違約金合意は有効である などとして,違約金7393万6800円及びこれに対する平成31年1 月22日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求め る限度 ? また,原審において,被控訴人は,上記(1)イの損害賠償請求につき,控訴15 人の代表取締役であるA(以下「控訴人代表者」という。)に対しても,主位 的に会社法429条1項に基づく損害賠償請求として,予備的に控訴人との 共同不法行為に基づく損害賠償請求として,控訴人と同額の連帯支払を求め たが,原審は,これらの請求をいずれも棄却した。
? 控訴人は,原判決のうち上記(2)イ及びウの判断(上記(1)イ及びウの金銭20 請求に係る判断)に不服があるとして,本件控訴を提起した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3のとおり当審にお ける補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2及び3並 びに第3(原判決4頁14行目ないし28頁8行目)に記載のとおりであるか25 ら,これを引用する(ただし,控訴人に係る部分及び金銭請求に係る部分に限 る。また,原判決の「被告会社」を「控訴人」と, 「被告A」を「控訴人代表者」 3 と,「被告ら」を「控訴人及び控訴人代表者」と,それぞれ読み替える。。
) 3 当審における補充主張 (1) 本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容について (争点1-1) 5 〔控訴人の主張〕 パソコン1台につき1ライセンスが必要であるとの合意がされたことに ついては積極的に争わないが,1医師会につき1ライセンスが必要であると の合意がされたとの点については,直接的な証拠は一切存せず,以下のとお り,原判決が認定の根拠として挙げる間接事実からも認定することはできな10 い。
ア 控訴人と被控訴人との間で,1医師会につき1ライセンスが必要である との合意がされていたのであれば,控訴人が複数の医師会での使用を求め た場合には,1台のパソコンにインストールされた本件旧プログラムにお いて,追加を求めた複数の医師会を登録することができるような仕様にな15 っている必要があった。それにもかかわらず,本件旧プログラムがインス トールされたパソコン1台につき一つの医師会しか登録することができな い仕様であったことは,上記合意がされていたことと明らかに矛盾する。
ライセンス料の発生基準は,ライセンス契約において極めて重要な要素 であるにもかかわらず,本件平成20年契約の注文書等には,パソコンの20 台数に応じたライセンスが必要となる旨が明記されている一方で,医師会 数に応じたライセンスが必要である旨は一切記載されていない。
ウ パソコン1台につき一つの医師会しか登録することができないという本 件旧プログラムの仕様によれば,ライセンス数とパソコンの台数は一致す ることになるのであるから,本件平成20年契約が締結された直後に追加25 された2ライセンス分を解約する際に控訴人が作成した「なお,府中市医 師会様は今後も使用させていただきます」との書面は,使用するパソコン 4 の台数を減らして1台に戻すという趣旨であり,1医師会につき1ライセ ンスが必要であるとの合意の存在を裏付けるものではない。
エ 本件平成20年契約の更新の際に作成されたレンタル契約継続申込書に おける「府中市医師会」との記載は,被控訴人が印字したものにすぎず, 5 控訴人が自ら記載したものではないから,そのような記載があるからとい って,1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意の存在が推認さ れるものではない。
オ 1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意がされていたとする と,控訴人においては,受注数に変動が生じた場合に多くのパソコンが放10 置されている期間が生じ得るということになるが,そのような状況が生じ 得ることは経営として不合理かつ不適切である。控訴人は,わざわざ医師 会ごとにバックアップデータを作成するなどして,必要なパソコンの台数 を削減するという方法を採っていたものであるが,控訴人がこのような極 めて効率の悪い方法を採らなければならなかったという事実自体が,1医15 師会につき1ライセンスが必要であるとの合意が存在しなかったことを 裏付ける重要な間接事実といえる。
カ 被控訴人からの平成30年6月の書面による問い合わせにおいては,1 医師会につき1ライセンスを要する旨が直接的,明示的に記載されておら ず,ライセンス料の発生基準が争点であることが明確に伝えられていたわ20 けではなかったことからすれば,これに対する控訴人の回答において,医 師会数にかかわらず本件プログラムを使用することができるはずである 旨の回答をしなかったことは,何ら不自然なことではない。
キ 本件旧プログラムと同様の機能を有するソフトウェアは,わずか100 万円程度で購入することができることからすれば,控訴人が一つの医師会25 ごとに月額約4万円ものライセンス料を支払うのは採算が取れず,合理的 なビジネス判断とはいえない。また,医師会数に応じてライセンスが必要 5 であるとすると,多くのリソースを投入して顧客を獲得する控訴人の損失 の下で,被控訴人が営業活動を一切せずに利益を得ることとなり,経済合 理性の観点からも不合理である。さらに,仮に,医師会数に応じてライセ ンス料が発生するという合意があったのであれば,ライセンス数が多くな 5 るにつれて一つのライセンス当たりのライセンス料が逓減するように価 格設定されるのが通常であるが,そのような価格設定はされていない。
このように,1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意があっ たと認定すると,ビジネスの常識に反して著しく不合理な結果をもたらす といえる。
10 〔被控訴人の主張〕 ア 〔控訴人の主張〕アについて 本件において,1台のパソコンにインストールされた一つの本件旧プロ グラムにおいて,複数の医師会を登録することができるような仕様になっ ていなかったのは,控訴人が,1台のパソコンで複数の医師会の業務を行15 うことを求めなかったからにすぎない。
イ 〔控訴人の主張〕イについて 本件平成20年契約の締結に際して作成された契約書類に1医師会に つき1ライセンスが必要である旨が明記されていないのは,被控訴人が, 過去に控訴人のような代行業者と契約したことがなかったためである。一20 つのライセンスで複数の医師会の業務を行うことができる旨の合意をす ると,控訴人が少ないライセンスで多数の医師会等の代行業務を行えるこ ととなり,被控訴人にとって多大な機会損失となることは明白であること からすれば,被控訴人がそのような合意をすることはあり得ない。
ウ 〔控訴人の主張〕ウについて25 控訴人は,本件平成20年契約が締結された直後に追加された2ライセ ンス分を解約する際に, 「なお,府中市医師会様は今後も使用させていただ 6 きます」と記載された書面を作成したものであるところ,控訴人がパソコ ン1台につき1ライセンスが必要であるとの合意をしているという認識 を有していたのであれば,敢えて医師会の名称を記載する必要はなく,単 に「1台は今後も使用させていただきます」と記載したはずである。
5 エ 〔控訴人の主張〕エについて 本件平成20年契約の更新の際に控訴人が作成したレンタル契約継続 申込書には,利用機関名として「府中市医師会」と記載されているところ, 同申込書は文字どおり契約の申込書である上,被控訴人は,契約締結当初 から一貫して上記のような記載をし続けてきたことなどからすれば,1医10 師会につき1ライセンスが必要であるとの合意があったことは明らかで ある。
オ 〔控訴人の主張〕オについて 控訴人が,被控訴人に対し,1台のパソコンで複数の医師会の業務を行 うことを求めなかったのは,医師会ごとにバックアップデータを作成する15 ことにより,1台のパソコンで複数の医師会の業務を行うことができると いう事実に気付いたためにすぎない。
カ 〔控訴人の主張〕カについて 被控訴人がした平成30年6月の書面による問い合わせには,「契約し ている府中市医師会分以外の医師会分での利用」との記載があり,同問い20 合わせにおいては控訴人による不正利用の疑いがあることが明確かつ具 体的に指摘されていた。
キ 〔控訴人の主張〕キについて 自社システムを開発しても,制度変更等のたびに改修のためのコストを 要するのに対し,レンタルであれば,改修コストをかけずに常に最新の制25 度に対応したプログラムの提供を受けることができる。そして,1ライセ ンスのみのレンタルであっても,利用する医師会数を自由に増やすことが 7 できれば相当に安上がりとなるところ,控訴人は,バックアップデータを 作成することによってこれを実現することができると気付いたために,1 ライセンス分のレンタル料を支払い続けながら,医師会数を増やしていっ た方が経済合理性にかなうと考えていたにすぎない。
5 また,仮に,データ処理件数によって控訴人の医師会に対する報酬及び 手数料が算定されるとしても,データ処理件数が少ない医師会については, 契約を打ち切ったり,最低金額の設定をしたりするなど,いくらでも対処 方法があること,1医師会当たりの処理件数には増減があることからすれ ば,被控訴人の利益の下で控訴人が損害を被るなどというのは詭弁である。
10 (2) 債務不履行の有無及び損害額について(争点1-2及び争点1-3) 〔控訴人の主張〕 本件平成20年契約においては,注文書に記載されているとおり,契約締 結当初から, 「追加ライセンス」については「基本システム」とは別に料金設 定がされていたのであるから,仮に,債務不履行に基づく損害賠償請求が認15 められるとしても,その損害額は,追加されたライセンス数(パソコンの台 数)に応じた「追加ライセンス」料の範囲にとどまるというべきである。
〔被控訴人の主張〕 「基本システム」は,本件プログラムを意味するものである上,本件平成 20年契約の締結直後に控訴人が2ライセンスを追加した際の1ライセンス20 当たりのライセンス料は, 「基本システム」の料金と同額であったことに争い はない。
(3) 著作権侵害の有無について(争点2-1) 〔控訴人の主張〕 ア 企業内においては,パソコン等の事務機器を各部署間で使い回すのは一25 般的なことであるから,初期OSをインストールした日をもって,直ちに 本件旧プログラムのインストール日を推認することはできない。
8 イ 控訴人においては,健康診断結果の電子化業務以外の業務も行っていた から,コンピュータ名に「Health」と入っていたとしても本件旧プ ログラムがインストールされていたことを意味するわけではなく,また, 上記電子化業務において使用されていたパソコンの全てに本件旧プログ 5 ラムがインストールされていたわけではない。
ウ 控訴人における作業量の最も大きな変動要因は,医師会数ではなく各医 師会における健康診断数であるから,医師会数と作業量に相関関係はない。
〔被控訴人の主張〕 ア 控訴人が主張するようなパソコン等の部署間における使い回しが一般的10 であるということはできない。
イ 控訴人におけるパソコンの使用状況に関する主張は,証拠に基づかない ものである。
ウ 医師会によって月ごとの作業量に差異があること自体が立証されていな い上,仮にそのような差異があるとしても,契約している医師会数が一つ15 の場合と1000ある場合とで,全体的な作業量に差異が生じないはずは ない。
(4) 著作権侵害による損害額について(争点2-2) 〔控訴人の主張〕 著作権法114条1項によれば,本件プログラムのみを提供した場合の利20 益を算出するに当たっては,レンタル料から保守料を差し引くのが合理的で あり,仮に,被控訴人のホームページに記載されたレンタル料及び保守料の 額を前提とすると,損害額の合計は,278万7650円(税抜き)となる。
〔被控訴人の主張〕 保守サービスは,プログラムのアップデート及びプログラム利用のサポー25 トを主たる役務とするところ,被控訴人は,控訴人が正規に契約して被控訴 人から使用許諾を得た1ライセンス分については保守サービスを提供してい 9 たものであり,これにより,控訴人が複製した本件旧プログラムの全てに対 するアップデート等が行われていたことになるのであって,控訴人が1ライ センス分以外について保守サービスの提供を受けていないということにはな らないから,レンタル料から保守料相当額を差し引くべき理由はない。
5 第3 当裁判所の判断 当裁判所も,原審と同様に,被控訴人の各金銭請求は,控訴人に対し,債務 不履行に基づく損害賠償請求として6609万5820円及びこれに対する平 成31年1月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに違 約金請求として7393万6800円及びこれに対する平成31年1月22日10 から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由 があるものと判断する。
その理由は,1のとおり原判決を補正し,2のとおり当審における補充主張 に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4(原判決28 頁9行目ないし51頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引用する15 (ただし,控訴人に係る部分及び金銭請求に係る部分に限る。また,原判決の 「被告会社」を「控訴人」と,「被告A」を「控訴人代表者」と,「被告ら」を 「控訴人及び控訴人代表者」と,それぞれ読み替える。 。
) 1 原判決の補正 (1) 原判決29頁20行目の「同月30日,」の後に「上記アで追加された」20 と加える。
(2) 原判決30頁14行目末尾に次のとおり加える。
「また,本件旧プログラムは,その利用を開始する際に,初期設定画面が 表示され,利用者情報として特定の医師会の名称,所在地等の入力が求めら れる仕様となっていた(甲31,32) 」 。
25 (3) 原判決35頁23行目末尾に改行して次のとおり加える。
「加えて,本件旧プログラムにおいては,利用を開始する際に表示される 10 初期設定画面において特定の医師会の名称等を入力する必要があったこと (前記1(4))からすれば,控訴人は,本件旧プログラムが一つの医師会の業 務についてのみ利用することができるプログラムであるということを明確に 認識していたものといえる。」 5 (4) 原判決36頁21行目の「あったことからすると, を次のとおり改める。
」 「あった。また,上記アのとおり,控訴人は,本件旧プログラムが一つの 医師会の業務についてのみ利用することができるプログラムであるというこ とを明確に認識していたものといえる。これらの事情によれば,」 (5) 原判決40頁7行目から8行目にかけての「追加する」を「追加」に改め10 る。
2 当審における補充主張に対する判断 (1) 本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容について (争点1-1) ア 前記第2の3?〔控訴人の主張〕アについて15 控訴人は,1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意がされて いたのであれば,控訴人が複数の医師会での使用を求めた場合には,1台 のパソコンで複数の医師会を登録することができる必要があったが,本件 旧プログラムはインストールされたパソコン1台につき一つの医師会し か登録することができない仕様であったものであり,上記合意がされてい20 たことと矛盾する旨主張する。
しかしながら,控訴人が,被控訴人に対し,1台のパソコンで複数の医 師会に関する業務を行うことができるように本件旧プログラムの仕様を 変更するよう求めたにもかかわらず,被控訴人がこれに応じなかったとい うような経過があったのであれば,控訴人が指摘するような矛盾が生じ得25 るとはいえるものの,本件において,上記のような経過があったことをう かがわせるような事情は存しない。
11 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 同〔控訴人の主張〕イについて 控訴人は,ライセンス料の発生基準はライセンス契約において極めて重 要な要素であるにもかかわらず,本件平成20年契約の注文書(甲9)等 5 には医師会数に応じたライセンスが必要であることについては一切記載 されていない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり補正して引用する原判決の説示(原判決3 6頁14行目ないし37頁7行目)のとおり,控訴人は,本件旧プログラ ムが一つの医師会の業務についてのみ利用することができるプログラム10 であることを明確に認識していたものといえることや,被控訴人は,控訴 人のような代行業者と契約したことがなかったことなどからすれば,本件 平成20年契約の注文書等に医師会数に応じたライセンスが必要である 旨が記載されていないからといって,本件平成20年契約が医師会数を基 準とするものではなかったことが直ちに裏付けられるものではないとい15 うべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 同〔控訴人の主張〕ウについて 控訴人は,本件旧プログラムの仕様によれば,ライセンス数とパソコン の台数は一致することになるから,控訴人が作成した「なお,府中市医師20 会様は今後も使用させていただきます」と記載された書面(甲23の2) は,使用するパソコンの台数を減らして1台に戻すという趣旨であり,1 医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意の存在を裏付けるもの ではない旨主張する。
しかしながら,上記書面には, 「府中市医師会」と特定の医師会名が記載25 されていることからすれば,控訴人は,医師会ごとにライセンスが必要で あると認識していたものとみるのが自然であり,同書面が単にパソコンの 12 台数を減らすという趣旨であったとみるのは困難である。そうすると,控 訴人が上記書面を作成したとの事実は,1医師会につき1ライセンスが必 要であるとの合意の存在を裏付ける有力な事情の一つであるというべき である。
5 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 同〔控訴人の主張〕エについて 控訴人は,本件平成20年契約の更新の際に作成されたレンタル契約継 続申込書(甲23の4等)における「府中市医師会」との記載は,被控訴 人が印字したものにすぎず,控訴人が自ら記載したものではないから,そ10 のような記載があるからといって,1医師会につき1ライセンスが必要で あるとの合意の存在が推認されるものではない旨主張する。
しかしながら,証拠(甲23の4,10,81,85,101,103, 105,107等)及び弁論の全趣旨によれば,上記申込書の「利用機関 名⇒ 府中市 医師会」との記載は,被控訴人があらかじめ印字したもの15 であるものの,控訴人は,この記載の左側に設けられた確認欄に印を付け た上で,同申込書を被控訴人に返送したことが複数回あると認められるこ とからすれば,控訴人は,上記記載の存在を認識していたものであり,こ れが契約内容に含まれる事項であると認識していたものとみるのが相当 である。そうすると,上記申込書の存在及び記載内容は,1医師会につき20 1ライセンスが必要であるとの合意の存在を裏付ける有力な事情の一つ であるというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 同〔控訴人の主張〕オについて 控訴人は,@1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意がされ25 ていたとすると,控訴人においては,受注数に変動が生じた場合に多くの パソコンが放置されている期間が生じ得る,A控訴人がわざわざ医師会ご 13 とにバックアップデータを作成するなどして必要なパソコンの台数を削 減するという極めて効率の悪い方法を採らなければならなかったという 事実自体が,1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意が存在し なかったことを裏付ける重要な間接事実といえる旨主張する。
5 しかしながら,上記@及びAにおいて控訴人が指摘する各事情は,控訴 人が,被控訴人に対し,1台のパソコンで複数の医師会に関する業務を行 うことができるように本件旧プログラムの仕様を変更するよう求めさえ すれば,容易に回避することができる問題である。そして,上記アで検討 したとおり,本件において,控訴人が被控訴人に対して上記のような仕様10 変更を求めたことがあるとうかがわせるような事情は存しない。そうする と,控訴人が指摘する各事情は,1医師会につき1ライセンスが必要であ るとの合意が存在しなかったことを裏付ける事情であるということはで きない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
15 カ 同〔控訴人の主張〕カについて 控訴人は,被控訴人からの問い合わせにおいてはライセンス料の発生基 準が争点であることが明確に伝えられていなかった旨主張する。
しかしながら,証拠(甲17)によれば,被控訴人が控訴人に対して送 付した平成30年6月5日付け書面には,「契約している府中市医師会分20 以外の医師会分での利用の疑いが判明いたしました」と記載されているこ とが認められるところ,この記載は,その文言上,府中市医師会以外の医 師会に関する業務を行うことが本件プログラムの不正利用に当たる旨を 具体的に指摘しているものとみるのが相当である。そうすると,被控訴人 からの問い合わせにおいてライセンス料の発生基準が争点であることが25 明確に伝えられていなかったなどということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
14 キ 同〔控訴人の主張〕キについて 控訴人は,@本件旧プログラムと同様の機能を有するソフトウェアを1 00万円程度で購入することができること,A医師会数に応じてライセン スが必要であるとすると,控訴人の損失の下で被控訴人が利益を得ること 5 となること,B本件においてはライセンス数が多くなるにつれて一つのラ イセンス当たりのライセンス料が逓減するような価格設定がされていな いことを理由に,本件において1医師会につき1ライセンスが必要である との合意がされたと認定すると,ビジネスの常識に反して著しく不合理な 結果をもたらす旨主張する。
10 しかしながら,有償のソフトウェアを利用しようとする場合に,契約当 事者が購入又はレンタルのいずれを選択するかは,利用期間のほか,メン テナンスやアップデートに要する費用等,様々な事情を考慮して判断する ものといえるところ,いずれが合理的な選択であるかは,契約当事者の個 別の状況によって異なるものというべきである。また,本件において,代15 行業者である控訴人が,1ライセンス分のライセンス料のみで,複数の医 師会に関する業務を無制限に行うことができるとすると,逆に,控訴人と 同様に医師会等を顧客とする被控訴人が顧客を失い,その一方で控訴人が 多額の利益を得るということにもなりかねない。さらに,同一当事者間に おいて複数のライセンスがされる場合において,ライセンス料の割引がさ20 れることがあり得るとしても,割引されるのが通常であるとまではいえな い。これらの事情によれば,控訴人が指摘する各事情を考慮しても,本件 において1医師会につき1ライセンスが必要であるとの合意がされたと 認定することが,著しく不合理な結果をもたらすものということはできな い。
25 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 債務不履行の有無及び損害額について(争点1-2及び争点1-3) 15 控訴人は,債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるとしても,その 損害額は,注文書(甲9)における「追加ライセンス」料の範囲にとどまる 旨主張する。
しかしながら,前記のとおり補正して引用する原判決の説示(原判決39 5 頁7行目ないし40頁23行目)のとおり,本件平成20年契約においては, 契約が締結された直後に控訴人が2ライセンスを追加した際の当該2ライセ ンスに係るライセンス料について,当初の契約における「基本システム」 (1 ライセンス分)のライセンス料と同額とされたことに加え,その後の本件平 成30年契約においても,2ライセンス以上の契約をするに当たって,ライ10 センス数に応じてライセンス料が減額されるような取扱いはされていないこ とからすれば,本件平成20年契約においては,ライセンス料を1医師会当 たり1か月4万2000円とする合意がされていたものとみるべきであり, この額を損害額の算定の基礎とするのが相当である。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
15 (3) その他の控訴人の主張について ア 控訴人は,著作権侵害に係る種々の主張をするところ(前記第2の3(3) 及び(4)),これらはいずれも債務不履行に基づく損害賠償請求と選択的併 合の関係に立つ不法行為に基づく損害賠償請求に係る主張である。
そして,これまで検討したところに照らすと,原判決の第4の2?(原20 判決39頁6行目ないし22行目)及び同3?(原判決43頁23行目な いし44頁17行目)のとおり,債務不履行によって生じた損害額が不法 行為によって生じた損害額を上回ることは明らかであるから,上記各主張 に対する判断は要しない。
イ このほか,控訴人は,種々の主張をするが,いずれも前記の判断を左右25 するものではないというべきである。
結論
16 以上によれば,被控訴人の各金銭請求は,控訴人に対し,債務不履行に基づ く損害賠償請求として6609万5820円及びこれに対する平成31年1月 22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに違約金請求とし て7393万6800円及びこれに対する平成31年1月22日から支払済み 5 まで年6分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で請求を認容すべき であり,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決 する。