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事件 令和 3年 (ネ) 10056号 損害賠償請求控訴事件

控訴人X
同訴訟代理人弁護士 久高裕之
被控訴人Y
同訴訟代理人弁護士 桑野雄一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/12/02
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,330万円及びこれに対する令和元年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
事案の概要
1 本件は,控訴人が,@被控訴人は原判決別紙記載のタイトル(以下「本件タイトル」という。)の論文(以下「本件論文」という。)を作成し,控訴人及びAが創作した共同著作物に係る著作権(複製権)を侵害した,A被控訴人は本件論文 をインターネット上において公開するなどし,同共同著作物に係る著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として,合計330万円及びこれに対する不法行為の後である令和元年12月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張 次の点を改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3に摘示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁9行目の「アマゾン・ドット・コム・インク」を「アマゾン・ウェブ・サービス社」と改める。
(2) 原判決2頁26行目の「なお」の次に「,本件著作物には,被控訴人の氏名(旧姓。以下同じ。)が著作者名として表示されているが」を加える。
(3) 原判決3頁7行目の末尾に改行の上,「(5) 被控訴人による「研究名A」と題する研究が,平成28年度,29年度及び30年度の日本学術振興会による科学研究費助成事業の対象となり,その旨がインターネットで紹介されている(甲16)。」を加える。
(4) 原判決3頁9行目の「本件著作物の著作者が誰であるか」を「控訴人は本件著作物の著作者であるか」と改める。
(5) 原判決3頁14行目及び23行目の各「を若干修正した本件論文」をいずれも削る。
(6) 原判決3頁25行目の「創作者」を「著作者」と改める。
(7) 原判決4頁26行目の「放棄」の次に「又は複製若しくは氏名不表示の許諾」を加える。
(8) 原判決5頁13行目の「本件著作物」から16行目末尾までを「本件著作 物の著作者が控訴人,被控訴人及びAの3名である場合には,控訴人は,被控訴人及びAとの間で,本件著作物の複製を被控訴人に許諾する旨合意し,本件著作物の著作者が控訴人及びAの2名である場合には,控訴人は,Aとの間で,本件著作物の複製を被控訴人に許諾する旨合意した上,被控訴人に対し,当該許諾をしたものである。」と改める。
(9) 原判決5頁17行目の「本件著作物」から24行目末尾までを「本件著作物の著作者が控訴人,被控訴人及びAの3名である場合には,控訴人は,被控訴人及びAとの間で,被控訴人が本件著作物を公衆に提示するに際して控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを被控訴人に許諾する旨合意し,本件著作物の著作者が控訴人及びAの2名である場合には,控訴人は,Aとの間で,被控訴人が本件著作物を公衆に提示するに際して控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを被控訴人に許諾する旨合意した上,被控訴人に対し,当該許諾をしたものである。」と改める。
(10) 原判決6頁7行目から9行目までを以下のとおり改める。
「 したがって,控訴人は,本件著作物に係る著作権を放棄したことはないし,A又は被控訴人及びAとの間で,本件著作物に係る複製又は氏名不表示を被控訴人に許諾する旨合意したり,被控訴人に対し,当該許諾をしたりしたこともない。」
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり改め,控訴人の当審における主張に鑑み後記2を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決7頁14行目の「内容を」の次に「論文にして」を加える。
(2) 原判決8頁2行目から3行目にかけての「骨子(甲6の1。以下「本件骨子」という。)を作成した(甲6,18,乙9)。」を「骨子(甲6。以下「本件骨子」という。)を作成した。本件骨子(甲6)の冒頭には,本件タイトル及び被控訴人の所属(B大学。以下同じ。)のほか,著作者名として被控訴人の氏名のみ が記載されていた。(甲6,18,乙9)」と改める。
(3) 原判決8頁6行目の「(乙6,7,9)」を「(甲18,乙6,7,9)」と改める。
(4) 原判決8頁12行目から13行目にかけての「本件著作物が完成した。
(甲1,7,18,乙6,7,9)」を「本件著作物が完成した。本件著作物(甲1の1)及びその各草稿(甲7(草稿の一部である甲7の5を除く。))の各冒頭には,いずれも,本件タイトル及び被控訴人の所属のほか,著作者名として被控訴人の氏名のみが記載されていた。(甲1,7,18,乙6,9)」と改める。
(5) 原判決8頁15行目から16行目にかけての「本件論文を送付した(甲2,乙5,9,被告本人)。」を「本件論文を送付した。本件論文(甲2)の冒頭には,本件タイトル及び被控訴人の所属のほか,著作者名として被控訴人の氏名のみが記載されていた。(甲2,乙5,9,原審被控訴人本人)」と改める。
(6) 原判決8頁17行目から18行目にかけての「被告の氏名を著作者名として表示して掲載された(乙8,9)。」を「被控訴人の氏名を著作者名として表示して掲載された。被控訴人は,翌9日,その旨を告知するIAFORからのメールを控訴人に転送した。(乙8,9)」と改める。
(7) 原判決8頁26行目の「本件著作物の著作者が誰であるか」を「控訴人は本件著作物の著作者であるか」と改める。
(8) 原判決9頁1行目の「に若干の修正をした本件論文」を削る。
(9) 原判決9頁15行目の「甲1,2,6」を「甲1,6,7」と改める。
(10) 原判決9頁16行目の「3頁分」を「約3頁分」と改める。
(11) 原判決9頁21行目の「14頁分」を「約14頁分」と改める。
(12) 原判決10頁7行目の「1頁の約5分の1相当と」を削る。
(13) 原判決10頁13行目の「被告」から15行目の「行った」までを「被控訴人が,多少の加除訂正の範囲を超えて,Googleドキュメントのクラウド上に保存された本件骨子のデータファイルにつき実質的な編集作業をした」と改める。
(14) 原判決11頁7行目の「,被告」から8行目の「証拠はない上」までを削る。
(15) 原判決11頁16行目の「放棄」の次に「又は複製若しくは氏名不表示の許諾」を加える。
(16) 原判決12頁2行目の「本件著作物」の次に「及びその各草稿(草稿の一部である甲7の5を除く。)」を加える。
(17) 原判決12頁6行目の「12月」の次に「8日」を加える。
(18) 原判決12頁7行目の「掲載されたこと」を「掲載されたところ,被控訴人は翌9日にその旨を告知するIAFORからのメールを控訴人に転送したこと」と改める。
(19) 原判決12頁10行目から19行目までを以下のとおり改める。
「 これらによると,被控訴人は,本件著作物に基づいて本件論文を作成すること及び本件論文の著作者として被控訴人の氏名のみを表示し,これをIAFORに送付して,そのような本件論文を本件ウェブサイト内に掲載させることを当然の前提として,控訴人及びAに対し本件著作物の作成を依頼し,また,控訴人及びAも,被控訴人が本件著作物に基づいて本件論文を作成すること及び被控訴人が本件論文の著作者として被控訴人の氏名のみを表示し,これをIAFORに送付して,そのような本件論文が本件ウェブサイト内に掲載されることを当然の前提として,被控訴人から本件著作物の作成を引き受けたものと認められる。したがって,控訴人は,Aとの間で,本件著作物の複製を被控訴人に許諾する旨及び被控訴人が本件著作物を公衆に提示するに際して控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを被控訴人に許諾する旨を合意した上,被控訴人に対し,当該各許諾(以下「本件各許諾」という。)をしたものと認めるのが相当である。」 (20) 原判決12頁25行目から26行目にかけての「合意してはいない」を「合意するなどしていない」と改める。
(21) 原判決13頁10行目の「本件論文を受領した」を「本件論文が本件ウェ ブサイト内に掲載された」と改める。
(22) 原判決13頁11行目の「(乙8)」の次に「,控訴人自身,原審本人尋問において,平成29年12月頃には被控訴人の氏名のみを著作者名として表示する本件論文が発表されたことを知った旨供述していること」を加える。
(23) 原判決13頁16行目から20行目までを以下のとおり改める。
「(3) 以上のとおりであるから,被控訴人が,引用する原判決第2の3(2)(控訴人の主張)に摘示の行為をしたからといって,控訴人の複製権又は氏名表示権を違法に侵害するということはできない(なお,控訴人は,被控訴人が日本学術振興会に対して本件論文の報告をしたことに関し,本件著作物の公衆への提供又は提示がないことを認める旨の主張をしている。)。」 2 控訴人の当審における主張について 控訴人は,当審において,@本件各許諾及びこれに係る合意があったというためには,被控訴人において,本件著作物をほとんどそのまま本件論文として用いること並びに本件論文の著作者として控訴人及びAの氏名を表示せず,被控訴人の氏名のみを表示することを要望し,控訴人及びAにおいても,そのことを了承したことが必要であるところ,B大学の助教を務めていた研究者である被控訴人は,研究不正や好ましくない研究活動を避けるはずであり,そのような被控訴人が安易に上記要望をしたとは考え難いし,大学時代の経験等から研究倫理を強く意識していた控訴人が上記了承をしたとも考えられない,A控訴人は本件論文が発表されないことを期待したのであるから,控訴人が本件骨子及び本件著作物の各冒頭に著作者名として被控訴人の氏名のみを表示したことをもって,本件各許諾及びこれに係る合意があったと推認することはできない,B本件著作物は控訴人にとって専門外の事項を目的とするものであるが,そのことは本件各許諾及びこれに係る合意の存在を推認させないとして,本件各許諾及びこれに係る合意は認められない旨主張する。
しかしながら,上記@及びAについては,補正して引用する原判決第3の3(1)において説示したとおり,被控訴人は,本件著作物に基づいて本件論文を作成する こと及び本件論文の著作者として被控訴人の氏名のみを表示し,そのような本件論文を本件ウェブサイト内に掲載させることを当然の前提として,控訴人及びAに対し本件著作物の作成を依頼し,控訴人及びAも,そのような前提で,被控訴人から本件著作物の作成を引き受けたものと認められるのであるから,控訴人及びAを共同著作者とする本件著作物に若干の修正を加えたにすぎない本件論文を作成した上,その著作者として被控訴人の氏名のみを表示することにつき研究倫理上好ましくない面が仮にあるとしても,被控訴人が上記前提を望んでいなかったとか,控訴人が上記前提を了承していなかったとか,控訴人において本件論文が発表されないことを期待したとかいうことはできない。上記Bについては,本件著作物が控訴人にとって専門外の事項を目的とするものであれば,その共同著作者である控訴人において,それが複製されないこと及びその公衆への提示等に際し著作者名として控訴人の氏名が表示されることにつき,通常は学術的な理由,経済的な理由等からの強い利害関係を有していないといえることからすると,本件著作物が控訴人にとって専門外の事項を目的とするものであるとの事実は,本件各許諾及びこれに係る合意の存在を推認させる一つの事情であるというべきである。
以上のとおりであるから,控訴人の上記主張は,採用することができない。
3 結論 よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。