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事件 令和 2年 (ワ) 25127号 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件
5原告A
同訴訟代理人弁護士 山根二郎
被告慶應義塾
同訴訟代理人弁護士 出縄正人
同 鈴木一夫 10 同中村閑
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2021/06/04
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
15 第1 請求 原告と被告の間において,「慶應義塾大学SFC B 研究室」の公式ホ ームページに掲載されている別紙3の@記載の「AuthaGraph M ap」世界地図が,原告及びBの両名を発明者とする共同著作物であること を確認する。
20 第2 事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,別紙3の@記載の「AuthaGraph M ap」世界地図(以下「本件地図」という。)が原告及び被告の設置する慶應義 塾大学大学院の准教授であるB(以下「B」という。)の両名を発明者とする作 成原理・作成方法を用いて作成された共同著作物であることの確認を求める事案25 である。
1 前提事実(後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事 1 実並びに当裁判所に顕著な事実) (1)ア 原告は,新しい幾何学分野(シナジェティクス)の研究並びに研究者, 学生及び各種企業に対する指導を行う者である。
イ 被告は,慶應義塾大学,慶應義塾大学大学院等を設置する法人である。
5 ウ Bは,慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の准教授である(甲 2)。
(2) Bは,自らが管理運営する「B Laboratory 慶應義塾大学S FC B 研究室」と題するウェブサイト(http:// 以下省略。以 下「本件ウェブサイト」という。)内に,本件地図を掲載した(甲3,乙B10 1の1ないし3,2)。
(3) 別紙1の@及びA並びに別紙2の@及びA記載の各地図(以下「別件各地 図」という。)並びに本件地図は,いずれもオーサグラフ図法という手法に 基づき作成された地図であるところ,原告は,令和2年10月5日,B及び 被告に対し,Bとの関係において,別件各地図が原告及びBの両名を発明者15 とする共同著作物であることの確認を,被告との関係において,前記第1の とおりの確認をそれぞれ求める訴えを提起した。
Bは,別件各地図はBが単独で作成したものであり,原告はこれに何ら関 与していないと主張して,原告のBに対する上記請求の棄却を求めた。
上記訴訟の口頭弁論は,令和3年4月5日の第2回口頭弁論期日において,20 原告のBに対する請求と本件とに分離された(以下,分離後の原告とBとの 間の訴訟を「別件訴訟」という。)。
2 本件訴えの適法性に関する争点 本件訴えに確認の利益が認められるか 3 争点に関する当事者の主張25 (原告の主張) 被告は,被用者であるBに対し,被告の設置する慶應義塾大学において「オ 2 ーサグラフ世界地図はBが発明したものである」という講義をさせ,このよう な内容のBの論文を慶應義塾大学湘南藤沢学会が発行する学術論文誌に掲載し, 本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件地図はBが発明したものである旨 の説明文を掲載した。
5 被告が自ら積極的に上記各行為を行っておらず,Bがこれらを行っていたと しても,被告とBは雇用関係にあり,Bが本件ウェブサイトにおいて行ってい ることが慶應義塾大学の学生に対する講義の内容となっている以上,これをB の私的な行為として扱うことはできない。本件ウェブサイトや講義の内容に重 大な誤りがあり,他者の権利を侵害するものであった場合,雇用者である被告10 は,被用者であるBに対し,これを是正するよう注意すべき義務があり,本件 地図の発明ないし創作に関する事実関係を全く知らないから関係がないと主張 することは許されない。
したがって,原告が被告に対して本件地図に係る著作権の帰属の確認を求め ることについて,確認の利益が認められる。
15 (被告の主張) 確認の訴えは,「即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の有 する権利または法律的地位に危険または不安が存在し,これを除去するため被 告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,許される」(最高 裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集920 巻14号2082頁)と解される。
被告は,Bに対して本件地図はBが発明したものであるという講義をさせた ことはないし,このような内容のBの論文を掲載した学術論文誌を発行したこ ともない。被告は,過去及び現在において,本件地図に関して何らの行為も行 っておらず,今後も行う予定はない。
25 また,本件ウェブサイトはBが個人的に管理運営するものであり,被告は本 件ウェブサイトの管理権限を有さないから,この内容を修正することはできな 3 い。一般論として,被告が雇用者として被用者の行為を是正するよう注意しな ければならないことがあるとしても,原告に本件地図に係る権利又は法律的地 位について危険や不安があるのであれば,Bに対して提訴すれば足り,被告に 対して確認を求めたところで紛争を解決することはできない。
5 さらに,被告は,本件地図の作成に関与しておらず,原告及びBがどのよう に発明ないし創作に携わったのか全く知らないから,いずれの当事者にいかな る権利が帰属するかを判断し得る地位にない。
したがって,本件訴えには即時確定の利益がなく,確認の利益が認められな い。
10 第3 当裁判所の判断 1 原告は,本件地図が「原告及びBの両名を発明者とする共同著作物であるこ と」の確認を求めるが,確認の訴えは,原則として,法律関係の存否を目的と するものに限り許され,事実関係については訴訟法上特に認められた場合(民 訴法134条)のほかはこれを提起することはできないと解される(最高裁昭15 和30年(オ)第95号同31年10月4日第一小法廷判決・民集10巻10号 1229頁参照)。
そこで,原告の請求を合理的に解釈すると,原告及びBが本件地図に係る著 作権及び著作者人格権を有することの確認を求めるものと解することができる ので,以下,これを前提に判断する。
20 2 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法25 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
4 しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら 5 が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
10 さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B15 に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係20 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。
このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ25 サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 5 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。
5 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。
したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ10 ないから,本件においては確認の利益が認められない。
第4 結論 以上のとおり,本件訴えは確認の利益が認められず不適法であるから,これを 却下することとして,主文のとおり判決する。
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