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事件 平成 30年 (ワ) 5427号 著作権侵害差止等請求事件
5原告P1ことP2
被告 有限会社ピー・エム・エー (以下「被告ピー・エム・エー」という。)
被告 P3
被告 P4 10 被告 株式会社インターステラー (以下「被告インターステラー」という。)
被告 P5
被告ら訴訟代理人弁護士 日隈将人
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2019/10/03
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
1 被告らは,別紙被告著作物目録記載のウェブページを複製,翻案又は公衆送20 信してはならない。
2 被告らは,別紙被告著作物目録記載のウェブページを削除せよ。
3 被告らは,原告に対し,連帯して,1260万円及びこれに対する平成30 年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
25 本件は,原告が,「ライズ株式スクール」を運営していた被告ピー・エム・エー, その代表者である被告P3及びその取締役である被告P4,並びに被告P4が新た 1 に設立した会社である被告インターステラー及びその取締役である被告P5に対し, 原告が被告ピー・エム・エーから依頼を受けて作成した ,同被告のウェブサイト (1risekabu.com/ 以下「原告ウェブサイト」という。)を,被告らが無断で複製 し,新たなウェブサイト(risekabu.com/ 別紙被告著作物目録記載1。以下「被告 5 ウェブサイト」という。)及びこれと一体となった動画配信用のウェブサイト (https://plusone.socialcast.jp/ 別紙被告著作物目録記載2。以下「本件動画 ウェブサイト」という。)を制作してインターネット上に公開したことが,原告の 著作権及び著作者人格権の侵害並びにその他不法行為に当たると主張し,著作権法 112条1項,2項に基づき,@被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの複10 製,翻案又は公衆送信差止め,A被告ウェブサイト及び本件動画サイトの削除, 並びに,B民法709条,719条,会社法429条1項に基づく損害賠償請求又 は原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求として,1260万円及びこ れに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日(被告 らに対する最終の訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請15 求する事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) ? 当事者等(甲1〜6,乙11。書証は枝番号を含む。以下同じ。) 原告は,平成22年7月1日より,「P1」の屋号により映像製作等を業として20 営む者である。
被告ピー・エム・エーは,個人および企業の経営活性化のための人材育成,研修 業務並びにそのための教材の販売等を目的とする特例有限会社であり,株相場等に 関する投資知識を教授する「ライズ株式スクール」を運営していたが,平成30年 5月ころ,経営不振により事実上廃業した。同被告は,同年10月29日,福岡地25 方裁判所に対し破産手続開始の申立てをしたが,その後これを取り下げた。
被告インターステラーは,被告P4が,同年5月1日,投資運用についてのスク 2 ール事業を行うために設立した,インターネットを利用した各種情報提供サービス 業務等を目的とする株式会社であり,「株の学校プラスワン」を経営し,被告ピー・ エム・エーからライズ株式スクールに関する事業等を譲り受け,被告ピー・エム・ エーの会員であった者のうち希望者に対し,引き続きスクールサービスを提供して 5 いる。
被告P3は被告ピー・エム・エーの代表取締役,被告P4は被告ピー・エム・エ ーの取締役兼被告インターステラーの代表取締役,被告P5は被告インターステラ ーの取締役である。
? 本件制作業務委託契約の締結,原告ウェブサイトの制作・公開(甲7〜13,10 16,18,31,46) 被告ピー・エム・エーは,平成27年10月上旬ころ,原告に対し,訴外彩登株 式会社(以下「訴外彩登」という。)が制作し,訴外株式会社ユウシステム(以下 「訴外ユウシステム」という。)が管理していた自己の公式ホームページ(甲10。
以下「旧ウェブサイト」という。)を,原告が管理・運用するサーバへ移管する作15 業を発注し,原告は,同作業を行い,同ウェブサイトを公開した。
被告ピー・エム・エーは,上記ウェブサイトが,スマートフォンやタブレットで の表示に対応していなかったことなどから,原告に対し,さらにリニューアルした 新しい公式ホームページの制作を依頼することとし,平成28年4月22日付けの 注文書(甲13。以下「本件注文書」という。)により,代金324万円で発注し20 た(以下「本件制作業務委託契約」という。)。
原告は,本件制作業務委託契約に基づき,新しいウェブサイト(原告ウェブサイ ト)を制作し,同年10月3日に公開した。原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・ エーの委託により,原告が訴外エックスサーバー株式会社(以下「訴外エックスサ ーバー」という。)と契約する形で,同社のレンタルサーバ(以下「本件サーバ」25 という。)を利用していた。
原告ウェブサイトは現在一般に公開されていないが,公開当時の内容は,甲46 3 の2のとおりである。原告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと,ライズ株 式スクールの会員専用のウェブページに遷移する仕様となっていた。
なお,原告と被告ピー・エム・エーとの間においては,平成25年12月4日付 けの「秘密保持契約書」(甲12),及び平成28年1月6日付けの「Webサイ 5 ト制作・保守業務委託契約書」(甲18,31)が取り交わされていた。
? 本件サーバの凍結の経緯等(甲21,22) 被告ピー・エム・エーは,本件サーバとの契約期間である平成29年11月30 日を過ぎても更新費用を支払わなかったため,原告ウェブサイトは,同年12月1 2日,凍結されて閲覧することができなくなった。
10 被告ピー・エム・エーは,同日ころ,原告に対し,未払金を振込み,原告ウェブ サイトを復旧するよう求めたが,原告が,被告P4に対し,本件サーバが凍結され たため復旧は不可能であることや,新たなウェブサイトを制作するためのスケジュ ール及びその代金(434万1600円)を伝えたところ,交渉は決裂した。
? 被告ウェブサイトの制作・公開15 被告ピー・エム・エーは,平成30年1月,訴外MARQS株式会社(以下「訴 外マークス」という。)に依頼して制作した被告ウェブサイトを,新たに取得した ドメインで公開した。
同年12月13日当時における被告ウェブサイトの内容は,甲46の3(71枚 目まで)のとおりである。
20 ? 本件動画ウェブサイトの公開 被告ピー・エム・エーは,ライズ株式スクールの講義動画を配信するため,訴外 株式会社アジャストの提供する動画サイト構築サービス「ソーシャルキャスト」を 利用していた。被告ピー・エム・エーの廃業後,被告インターステラーが同コンテ ンツを譲り受け(乙11),同被告が「risekabu」から「plusone」へとサブドメイ25 ン名を変更し,本件動画ウェブサイトとなった。
平成30年12月13日当時における本件動画ウェブサイトの内容は,甲46の 4 3(72枚目以降)のとおりであり,被告ウェブサイトにおける「ログイン」ボタ ンを押すと,リンク先の本件動画ウェブサイトに遷移する仕様となっている。
2 争点 ? 著作権(複製権翻案権)侵害の成否 5 ア 原告ウェブサイトの著作物性,著作権の帰属(争点?ア) イ 被告らの複製,翻案行為の有無(争点?イ) ウ 使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否(争点?ウ) ? 著作者人格権侵害の成否 ? その他の不法行為等の成否10 ? 被告らの責任 ? 差止め・削除の必要性 ? 原告の損害等の存否及びその額
争点についての当事者の主張
1 争点?(著作権(複製権翻案権)侵害の成否)について15 【原告の主張】 ? 争点?ア(原告ウェブサイトの著作物性,著作権の帰属)について ア 原告ウェブサイト制作の経緯等 原告は,旧ウェブサイトの移管を行うに当たり,訴外ユウシステムが管理・ 運用していたサーバの環境と本件サーバの環境が異なるため,必要なデータを複製20 した後,プログラムを刷新して再構築する作業を行い,代金21万7080円で, 本件サーバ上で旧ウェブサイトと同内容のウェブサイトを稼働・閲覧できるように した。
原告ウェブサイトは,原告が,被告ピー・エム・エーとの間の本件制作業務 委託契約に基づき制作したウェブサイトであり,原告によって制作・プログラムさ25 れた著作物である。原告ウェブサイトには,原告が撮影した写真,イラスト,文章, 及び,原告が「ペイレスイメージ」より購入した写真等が掲載されている。
5 原告は,原告ウェブサイトの制作にあたり,被告ピー・エム・エーの担当者と打 ち合わせを行い,その要望を聞きながら,被告ピー・エム・エーと顧客との間の信 頼醸成やコミュニケーション向上による売上増加を目指し,原告ウェブサイトがよ り多くのユーザーに閲覧されるよう工夫したり,スマートフォンやタブレット端末 5 からでも閲覧が可能なデザインを採用したりするなど,原告の経験や技術を活かし て制作を行った。
原告ウェブサイトは,原告の作成した,本件サーバ上のワードプレス(ウェ ブサーバにブログ等を立ち上げるための無料のオープンソースブログソフトウェア であり,コンテンツ・マネージメント・システムとしても利用されている。)内の10 必須の構成である「functions.php」のプログラムにより,複数のカテゴリーを設定し た場合でもURLの変化を避けるようにされたり,タイプによって一覧ページと詳 細ページの内容を変えて簡潔な表示と詳細表示を使い分けることができるように さ れたりしており,原告の思想を表現したものである。
また,原告は,原告ウェブサイトを制作するにあたり,ワードプレス内の個別デ15 ータ(個別の会員ごとの,ログインID,パスワード等及びこれに関連付けられた ユーザー情報)及びこれらをデータベースに格納するシステムをすべて創作した。
したがって,原告ウェブサイトは,原告の思想又は感情を創作的に表現したもの であり,原告の著作物に当たる。
イ 原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すること20 本件制作業務委託契約に際し,原告及び被告ピー・エム・エーは,原告ウェブサ イトについての知的財産権が制作者である原告に帰属することについて合意し,本 件注文書の「備考」欄に,その旨を記載した。
原告は,本件サーバ凍結後,被告P4に対し,原告ウェブサイトの復旧作業につ いて具体的に説明し,平成29年12月15日付け通知書(甲23)において,著25 作権が原告に帰属することを確認した。
? 争点?イ(被告らの複製,翻案行為の有無)について 6 ア 被告ウェブサイト・本件動画ウェブサイト制作の経緯等 被告らは,平成29年9月ころ,訴外マークスの代表取締役であるP6に対し, 原告が高額の請求をして困っていること,原告が臨機応変にサーバの更新作業をし てくれないこと,原告によりサーバの運用を止められるかもしれないこと等を話し, 5 原告の許諾を得ずに原告ウェブサイトの複製を依頼した。
訴外マークスは,同じころ,被告らから本件サーバにログインするための情報や ユーザの個人情報にアクセスするためのID及びパスワードを告知され,これらを 基に,本件サーバ上のワードプレスのデータ部分から,データをすべて複製し,被 告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトを制作し,平成30年1月ころ,10 「risekabu.com」ドメインを利用して,被告ウェブサイトをインターネット上に公開 した。
P6は,この際,ウェブサイトの複製やドメインの移転については必ず現在の業 者(原告)の許諾を得るように被告らに対して依頼したが,被告らは,P6に対し, 原告ウェブサイトの複製について許諾があったとの虚偽の説明をした。
15 イ 複製権侵害 原告ウェブサイトと被告ウェブサイトは,各ウェブページのタイトル,UR L,メタ・ディスクリプション,検索のために設定されているキーワード,画像フ ァイル名やソースコード等がほぼすべて一致する。
被告らは,これらについて,字数の限界があることや表現の幅が狭いことを理由20 に創作性を発揮する余地が乏しいと主張するが,タイトル,URLには文字制限が ないし,仮に30字程度であっても短歌や俳句のように創作性を発揮することは可 能である。
原告ウェブサイトと被告ウェブサイトのキャプチャー画面を比較すると,ロ ゴの配置場所,ロゴの大きさ,ページの配色,ボタンの配置場所とその大きさ等が25 全く同じであり,ページの内容や文章,情報量もほぼ同じである。
被告らは,原告ウェブサイトを複製した際,既に閉鎖した東京校についての案内 7 など,必要に応じて内容の削除や表記方法の変更を行ったにすぎない。
原告ウェブサイト内にある,ワードプレスで作成されたウェブサイトを構成 するための必須のファイルである「style.css」ファイル及び「functions. php」ファイ ルには,ソースコード中に,「Author: ★ P2 ★」として,著作者である原告の 5 氏名が記載されているところ,被告ウェブサイトのソースコード中の同一箇所にも 同一の記載がある。
また,ヘッダー部分に記載されるべき内容や端末での表示方法等も,原告ウェブ サイト及び被告ウェブサイトのソースコード中の同一箇所に,同一の内容及び記述 順序で記載されている。
10 被 告 ウ ェ ブ サ イ ト に お い て , 「 Copyright ? ラ イ ズ 株 式 ス ク ー ル All Rights Reserved」との文章が各ページの末尾に記載されているが,原告は,同じ個所(フッ ター)に,著作者としての権利を守るために,電子透かしの技術を用いて「デジタ ルウォーターマーク」をプログラムしたところ,被告ウェブサイトにおいても同一 箇所に同一の記載内容がある。
15 ワードプレスでは,管理者となる最初のユーザーはID番号「1」が割り当 てられ,ユーザーごとに個人のメールアドレス等と関連付けられたユーザー名を決 めることになっているところ,このIDやユーザー名を変更することはできない。
被告ウェブサイト上の原告のプロフィール画面を確認すると,原告のID番号(管 理者であることを表す「1」)及びユーザー名は原告ウェブサイトにおいて使用し20 ていたものと同一であり,また,被告ウェブサイト上の複数の会員のページにも, 原告ウェブサイトにおけるのと同一の秘密情報(ユーザー名とパスワード)を使用 してログインすることができる。
また,被告ウェブサイトのページの制作日は,本件サーバ凍結後の平成30 年1月以降のものはなく,固定ページの作成者はすべて原告とされている。
25 以上より,被告ウェブサイトが原告ウェブサイトの複製であることは明らか である。
8 ウ 翻案権侵害 原告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと,会員専用ログインページに遷 移するようになっていたが,被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと,前 記前提事実のとおり,「株の学校プラスワン」の利用する本件動画ウェブサイトへ 5 遷移するようになっている。この改変は,原告ウェブサイトの翻案権侵害である。
エ まとめ 以上より,被告らは,原告の有する原告ウェブサイトの複製権及び翻案権を侵害 した。
? 争点?ウ(使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否)について10 ア 被告らは,本件制作業務委託契約において,原告が被告ピー・エム・エーに 対して著作権を譲渡する又は利用を許諾するという黙示の合意があったと主張する。
しかし,原告は,口頭でも書面でも著作権の譲渡や利用許諾について合意したこと はないし,契約書(甲13,18,31)にもそのような記載はない。
むしろ,前記?のとおり,原告は,平成29年12月13日における被告P4と15 の原告ウェブサイトの復旧作業についての面談及び同月15日付けの通知書(甲2 3)により,凍結された原告ウェブサイトの著作権は原告に帰属することを再確認 した。
イ 被告らは,本件サーバの滞納料金を支払えば,すぐに原告ウェブサイトが復 旧したはずだと主張するが,それはあくまで滞納期間が短い場合に限られるのであ20 り,被告らは,原告ウェブサイトが完全に閉鎖された平成29年12月12日には 既に13営業日も料金を滞納していたのであるから,上記の主張は当てはまらない。
原告は,被告らに対し,同年9月26日付け見積書(甲19)において,本件サ ーバ更新費用の支払期限が迫っていることを伝えていた。
被告らは,原告に対し,連絡することなく一方的に13万8240円を振り込ん25 だが,これは原告に対する未払金を支払っただけに過ぎず,サーバ凍結解除手続に ついての依頼はなかった。
9 また,原告が原告ウェブサイトを制作したときのプログラム環境と,同年12月 時点において本件サーバにより推奨されるプログラム環境は異なっていたため,原 告ウェブサイトが凍結された後に復旧するためには,再度,上記推奨されるプログ ラム環境で新規構築する必要があった。
5 【被告らの主張】 ? 争点?ア(原告ウェブサイトの著作物性,著作権の帰属)について ア 本件制作業務委託契約締結の経緯等 被告ピー・エム・エーは,平成27年12月ころ,旧ウェブサイトの集客効果が 芳しくなかったことから,原告に対し,原告の指定するサーバへ旧ウェブサイトの10 データの移管及び平成28年1月からのウェブサイト等の保守業務を,「Webサ イト制作・保守業務委託契約書」(甲18,31。以下「本件保守契約書」という。) により委託した(以下「本件保守業務委託契約」という。)。
被告ピー・エム・エーは,同年4月,原告に対し,上記ウェブサイトのリニュー アルを委託し,サイト構成や実装について指示した(本件制作業務委託契約)。原15 告は,これに基づき原告ウェブサイトを制作し,本件サーバに記録し,原告が自己 名義で取得したドメイン「1risekabu.com」によって公開した。原告ウェブサイトは, 被告ピー・エム・エー内部で協議して考案したページ構想や要望を担当者が原告に 伝え,原告がこれに従って作成したものであって,原告が考案したものではない。
なお,被告ピー・エム・エーが原告との間で本件制作業務委託契約について話し20 合った際,著作権については一切協議されなかった。
イ 原告ウェブサイトの著作物性 原告は,原告ウェブサイトについて,タイトル,URL,メタ・ディスクリプシ ョン,メタ・キーワード,HTMLコード等についての創作性を主張するものと思 われる。しかし,以下のとおり,これらについてはいずれも創作性がなく,著作物25 性が認められない。
ウェブページのタイトルは,そのページの内容を端的に示す性質のものであ 10 り,30文字前後という時数の制限があるため,表現の選択の幅は狭く,創作性を 発揮する余地に乏しい。原告ウェブサイトの各タイトル(甲27)も,一般的かつ 短文の説明にすぎず,当該ページの内容をありふれた表現で端的に記述するものに すぎない。
5 URLは,インターネット上に存在する情報資源の場所を指し示す技術方式 であるが,その記述には字数の限界があるため,表現の選択の幅は狭く,創作性を 発揮する余地に乏しい。原告ウェブサイトの各URL(甲27)も,被告ピー・エ ム・エーの運営する「ライズ株式スクール」を示すドメイン「1risekabu.com」及び その他の一般名称によって構成記述される。
10 メタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードは,それぞれ,ウェブペー ジの概要を端的に説明するもの,ユーザーのインターネット検索結果に当該ウェブ ページが反映されるようにするために設定される単語群であるが,いずれも,字数 に限界があり,表現の選択の幅は狭く,創作性を発揮する余地に乏しい。
原告ウェブサイトにおけるメタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードは ,15 当該ウェブページの内容や被告ピー・エム・エーの客観的特徴を端的に記述したも の,同事業内容や特徴に関連した単語や一般名称等にすぎないから,何ら創作性は 発揮されていない。
HTMLコードは,プログラミング言語であって,ブラウザの表示,装飾を するための言語であり,ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっていれば誰が20 作成しても似たものとなり,表現の選択の幅は狭く,創作性を発揮する余地に乏し い。原告ウェブサイトのHTMLコードは定型的に制作された一般的なものにすぎ ず,作成者の個性が表れているとはいえない。
原告の主張に対する反論 「functions.php」ファイルは,ワードプレスのテーマに必須であり,ウェブページ25 の画面等をカスタマイズするためのファイルであり,表示画面や機能等に合わせて PHP言語というプログラム言語を用いてコードが記述される。どのような機能を 11 カスタマイズするかについて選択の余地があるとしても,それをウェブ画面に表示 するために記述されるコードそのものは汎用的であり,表現の幅が極めて小さいた め,上記ファイルには,特段の事情がない限り創作性が認められないところ,原告 は特段の事情について主張立証しない。
5 また,原告の主張するユーザー情報は,ユーザーの属性等を記述的に表記したも のであり,被告インターステラーの顧客情報であるから,創作性はない。
ウ まとめ 以上より,原告ウェブサイトには著作物性が認められず,仮に著作物であるとし ても,原告には著作権が帰属しない。
10 ? 争点?イ(被告らの複製,翻案行為の有無)について ア 被告ウェブサイト公開の経緯 被告ピー・エム・エーのスクール事業は,平成29年以降,徐々に経営が困 難となった。
被告ピー・エム・エーが同年11月末期限の本件サーバの更新料の支払を遅延し15 たことから,同年12月に,本件サーバの利用が凍結され,原告ウェブサイトが表 示されなくなり,被告ピー・エム・エーが使用していた電子メールも利用できなく なった。これにより,業務に著しい支障が生じたため,被告ピー・エム・エーは, 原告に対し13万8240円を支払い,本件サーバの凍結解除手続を求めた。
本件サーバは,費用を支払わない場合には一時的に利用が凍結されるものの,早20 期に未払を解消すれば凍結が解除され,ウェブサイトが復旧されることとなってい た。しかし,原告は,被告ピー・エム・エーに対し,そのような説明をすることな く,一から新しいウェブサイトを制作するしかないと伝えた。被告ピー・エム・エ ーは,原告から提示された対価(434万1600円)が過大であると考えたため, 原告からの上記提案を断り,原告との間の本件保守業務委託契約を合意解除した。
25 被告P3は,やむを得ず,以前,訴外彩登において旧ウェブサイト作成に携 わったP6に対し,原告ウェブサイトが利用できなくなったことを伝え,旧ウェブ 12 サイトのデータを利用して対処できないかと相談したところ,P6が応諾したため, 新たなドメインの取得とウェブサイトの公開を依頼した。このとき,被告P3は, P6から,原告の承諾を得るように言われたことはない。
P6は,「risekabu.com」のドメインを自己名義で取得し,サーバをレンタルし, 5 平成30年1月12日,被告ウェブサイトを同サーバに記録して公開した。被告ら は,被告ウェブサイトのドメイン及びサーバの管理に関与しておらず,P6から管 理に必要なID及びパスワードの教示も受けていない。なお,被告P4は被告ウェ ブサイトに関する上記経緯に関与していない。
被告ウェブサイトにおいても,会員専用のコンテンツを提供する必要があっ10 たが,原告ウェブサイトが利用できなくなったため,従前,原告ウェブサイトの「ロ グイン」ボタンを押して遷移する仕様となっていた会員専用のページも利用するこ とができなくなった。そこで,被告ピー・エム・エーは,被告ウェブサイトの「ロ グイン」ボタンを押すと,ソーシャルキャストにおいて従前から使用していた自社 ページ(https://risekabu.socialcast.jp)に遷移するようにし,会員が動画を視聴できる15 ようにした。
イ 被告ピー・エム・エーから被告インターステラーへの事業譲渡等 被告P4は,被告ピー・エム・エーの取締役であったが,長期にわたり役員 報酬が支給されない状態が続いたため,平成30年4月に被告ピー・エム・エーを 退職し,同年5月1日に被告インターステラーを設立して「株の学校プラスワン」20 というサービス名で株式投資の知識を教授するスクール事業を開始した。同スクー ル事業では,被告ピー・エム・エーとは異なり,主にウェブ配信によって顧客に講 義を提供している。
被告P3は,同月末に被告ピー・エム・エーの廃業及び破産手続開始の申立 てを決め,被告インターステラーに会員の引継ぎを依頼した。被告P4は,これを25 承諾し,講座の受講を希望する会員を被告インターステラーの会員とすることとし, 被告インターステラーは,ソーシャルキャストのウェブページ内のコンテンツを, 13 会員情報等と共に代金103万5000円で被告ピー・エム・エーから譲り受け, 後日ドメインを「plusone.socialcast.jp」と変更した(本件動画ウェブサイト)。
以後,被告インターステラーは,本件動画ウェブサイトを利用して自社の情報や 動画コンテンツを顧客向けに発信するようになった。
5 被告ピー・エム・エーは,前記破産手続開始の申立てにあたり,P6に対し, 被告ウェブサイトの公開停止に必要なID及びパスワード等を開示するよう依頼し たが(乙1〜4),P6はこれに応じず,かえって,ドメインの有効期間である平 成31年1月9日の経過後も,自己の費用で更新料を支払い,被告ウェブサイトの 公開を継続している。
10 ウ まとめ 以上より,被告ウェブサイトを制作し,管理・運用を行っているのはP6であっ て,被告らは,いずれも,原告ウェブサイトの複製又は翻案行為を行っていない。
? 争点?ウ(使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否)について ア 使用許諾について15 一般的に,企業のホームページは,当該企業の案内や業務に関する事項等が記載 され,広告の中心として継続的に使用するものであって,作成後に当該ホームペー ジを記録するサーバが変更されることも当然に予定されているのであるから,本件 制作業務委託契約のような,ホームページ作成委託契約の趣旨として,委託者であ る企業は,予定されたホームページの利用目的に必要な範囲内で,当然に別サーバ20 への複製等を許容する合意があると解すべきである。
原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーの公式ホームページであり,同被告 の企業・業務案内や会員ページ等を実装するなど,専ら同被告の営業促進のための 利用を目的としている。よって,別サーバへの複製は,本件制作業務委託契約上当 然の前提となっており,契約上利用するサーバには限定がないことから,発注者た25 る被告ピー・エム・エーは,任意に利用するサーバを選ぶことができると解すべき である。
14 また,原告ウェブサイトは,本件制作業務委託契約により,被告ピー・エム・エ ーが打ち合わせを通じて意向や要求を伝え,旧ウェブサイトのコンテンツを提供す ることにより,原告が制作したものであって,原告は,被告ピー・エム・エーの意 向に反して創作性を発揮することは許されないような関係にあった。
5 さらに,原告ウェブサイトの各ウェブページの末尾には,「Copyright?ライズ株 式スクール All Rights Reserved」との表示がある。
したがって,本件制作業務委託契約において,原告は,原告ウェブサイトについ て,被告ピー・エム・エーのサーバ変更に伴う新サーバへの複製等について許諾し ていたと解すべきである。
10 イ 権利の濫用について 仮に,本件において原告に複製権等の侵害に基づく損害賠償請求権が発生す るとしても,上記アのような本件制作業務委託契約の趣旨及び目的に照らせば,被 告ウェブサイトのアップロードに必要不可欠な複製等について原告が著作権等を主 張することは信義則に反し,権利の濫用であって許されない。
15 原告は,令和元年5月15日ころ,被告インターステラーの会員に対し,被 告インターステラーを誹謗中傷する文書(乙20)を送付し,被告インターステラ ーが売掛金,給与,税金等を踏み倒したことや,原告のサーバからデータを搾取し たこと,個人情報の流出する危険性があることなど,虚偽の事実を記載し,明白な 名誉毀損行為を行った。
20 また,原告は,本件と一切関係のない被告らの親族に対し,被告らの名誉を毀損 する内容の書面を送り付け,金銭を要求しており(乙13〜15),被告らの親族 を畏怖させて金員を取得しようとしたことは明白であって,原告が本件において高 額な慰謝料を請求していることを合わせ鑑みれば,原告は本件で被告ウェブサイト が原告ウェブサイトを基にして複製されていることを奇貨として,多額の金員を取25 得することを企図したものというべきである。
このような誹謗中傷行為を行って自己の要求の実現を図る原告の行為は,法の想 15 定する権利救済の範疇を超えるものであることは明らかであって,原告の本件請求 は権利の濫用に当たる。
2 争点?(著作者人格権侵害の成否)について 【原告の主張】 5 被告らが,前記1のとおり原告ウェブサイトを原告の許諾なく複製して原告の著 作権を侵害する行為は,同時に,原告の著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一 性保持権)の侵害にも当たる。
すなわち,被告らは,故意をもって,被告ウェブサイトを原告の同意を得ず公表 し,被告ウェブサイトに原告のクレジットを表示せず,原告ウェブサイトを,原告10 の意に反して,「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトへ遷移するよう 改変して被告ウェブサイトを制作し,改変したものである。
【被告らの主張】 ? 原告ウェブサイトは,原告により「1risekabu.com」のドメインでアップロー ドされ公開されていたから,「まだ公表されていない著作物」(著作権法18条115 項)にあたらず,公表権の侵害はない。
? 原告ウェブサイトの各ウェブページの末尾には「Copyright ?ライズ株式ス クール All Rights Reserved」と表示されており,その他にも原告が著作者である旨の 表示はないから,無名の著作物として扱えば足り,原告ウェブサイトを複製等する 場合に原告の氏名を表示する必要はない。
20 また,原告ウェブサイトは,専ら宣伝広告を目的とした企業サイトであり,この ようなウェブサイトにおいては著作者が表示されないことが一般的である。よって , 著作者の氏名表示を省略しても,著作者が創作者であることを主張する利益を害す るおそれはなく,公正な慣行にも反しないから,利用に際し氏名表示を省略できる。
よって,氏名表示権の侵害はない。
25 ? 原告は,原告ウェブサイトの具体的な改変行為について具体的に主張・立証 しない。その他,著作物の同一性を実質的に害するほどの改変も認められない。
16 よって,同一性保持権の侵害はない。
? 以上より,被告らが原告ウェブサイトに関し原告の有する著作者人格権を侵 害したことは認められない。
3 争点?(その他の不法行為等の成否)について 5 【原告の主張】 ? 被告ピー・エム・エーは,原告のグーグルアカウントを原告の許可なく利用 し,グーグルの各種サービスを複製し,公衆送信し続けているところ,これらの行 為は,原告の著作権(複製権,公衆送信権),独占的利用権,営業権,著作者人格 権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)の侵害であり,不法行為に当たる。
10 ? 被告ピー・エム・エーは,原告との間で秘密保持契約(甲12)を締結して いるところ,被告P4が,第三者に対し,秘密情報であるIDやパスワードを提供 して原告のサーバに侵入させ,データを複製する行為は,不法行為である。
? 被告らが,被告P4の著作権侵害行為に関して調査・確認をしなかったこと は,原告の著作権侵害及び著作者人格権侵害を拡大させる不法行為に当たる。
15 ? 被告P4は,被告ピー・エム・エーの取締役として,原告と被告ピー・エム・ エーとの間において締結された秘密保持契約書(甲12)等に基づき,秘密保持義 務,すなわち,原告ウェブサイトに関するユーザー情報,データベース情報,ログ インするために必要な各種ID情報やパスワードを開示もしくは漏えいしない義務 を負うところ,前記のとおり,被告ピー・エム・エー及び被告P4は,訴外マーク20 スに対し,原告ウェブサイトのサーバに侵入するために上記秘密情報を漏えいした のであるから,かかる行為は不法行為に当たる。
? また,原告の営業秘密を,原告に損害を与える目的で使用したのであるから, 不正競争防止法違反にも当たる。
【被告らの主張】25 争う。
4 争点?(被告らの責任)について 17 【原告の主張】 被告ピー・エム・エーと被告インターステラーは,別法人ではあるが,いずれも 被告P4が取締役となっていることや,被告ピー・エム・エーが事実上休眠してお り,被告ピー・エム・エーの業務,従業員及び会員(顧客)を被告インターステラ 5 ーが引き継いだこと,被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウ ェブサイトに遷移し,両ウェブサイトは一体となってサービスと提供していること 等から,実質的に同一であるということができる。
被告P3は被告ピー・エム・エーの代表取締役,被告P4は同取締役兼被告イン ターステラーの代表取締役,被告P5は同取締役であり,原告は,被告P4に対し,10 平成29年12月15日付けの通知書(甲23)を送付し,原告ウェブサイトの著 作権が原告に属する旨を告知したのであるから,上記被告ら個人は,取締役として の責任を負い(会社法429条1項),被告ピー・エム・エー及び被告インタース テラーと連帯して損害賠償責任を負う。
【被告らの主張】15 争う。
仮に,被告らの行為が著作権侵害等に当たり得るとしても,被告らには,故意・ 過失がない。
ア 被告ピー・エム・エー及び被告P3は,専門業者であるP6又は訴外マーク スに原告ウェブサイトの復旧について相談し,作業を委託したものの,P6からは20 その具体的な方法やウェブサイトの著作権に関する説明や注意は受けなかった。ウ ェブサイトに関する作業を専門業者に委託した場合,委託者は著作権等の侵害を惹 起することはないことを期待してしかるべきであって,特段の事情がない限り結果 回避義務を尽くしたというべきであるから,上記被告らには,著作権侵害等につき, 故意・過失はない。
25 イ 被告ウェブサイトのドメインは,被告ピー・エム・エーが取得し,専ら同被 告が利用していたものであって,ドメインの取得及び被告ウェブサイトの内容は被 18 告P3が決定しており,被告P4,被告インターステラー及び被告P5は,事情も 経緯も知らなかったのであるから,著作権侵害等につき,故意・過失がない。
また,被告インターステラーは,被告ウェブサイトを承継しておらず,管理権限 や管理用ID及びパスワードも承継していない。本件動画ウェブサイトには,被告 5 ウェブサイトへのリンクは設定されておらず,被告ピー・エム・エーや「ライズ株 式スクール」との関係を示す表示もない。よって,被告インターステラーは,被告 ウェブサイトを利用しているとは認められない。
5 争点?(差止め・削除の必要性)について 【原告の主張】10 ? 被告らは,現在も被告ウェブサイトを利用して営業を継続しており,自己の 利益を拡大している。
原告の著作権を侵害する行為の停止又は予防のためには,別紙被告著作物目録記 載のウェブページの複製,翻案,頒布(公衆送信)を差し止める必要があり,また, 同ウェブページを削除する必要がある。
15 ? 被告らは,被告ウェブサイトへのアクセス権限がないなどと主張するが,原 告が被告P4のログイン情報を使用してログインをすることができたのであるから, 上記主張は虚偽である。
? 被告らが,原告サイトを複製し,利用し続けた結果,被告P3が原告ウェブ サイトのドメイン名で登録し,使用を続けているメールアドレスにウィルスメール20 が届き,それを放置した結果,被告P3のみならず他の被告ら及び原告の個人情報 及びパスワードや,被告サイトのユーザー全ての個人情報がハッキングされ,クレ ジット情報を盗まれ,売買被害が発生するなどの被害が生じている。
? したがって,差止め・削除の必要性が認められる。
【被告らの主張】25 ? 被告ピー・エム・エーは,平成30年5月に自主廃業し,破産手続開始の申 立てをしており,その他の被告らには原告ウェブサイトを利用する意味も実益もな 19 いから,被告らが将来にわたり複製等を行うおそれはない。
よって,差止めの必要性がない。
? そもそも,現在,レンタルサーバを借りて被告ウェブサイトを公衆送信して いるのは,P6又は訴外マークスであり,被告ピー・エム・エーは,上記レンタル 5 サーバの管理さえ行っていない。
? 被告ウェブサイトと本件動画ウェブサイトは,社名,屋号,ロゴマーク,運 営者情報等が明確に異なり,被告ウェブサイトには被告インターステラーの事業で ある「株の学校プラスワン」についての情報がなく,本件動画ウェブサイトには被 告ウェブサイトへのリンクや情報はない。
10 また,被告インターステラーは,訴外マークス及びP6とは何の契約もなく,連 絡を取ることすらできないため,被告インターステラーが原告ウェブサイトを複製 したり被告ウェブサイトを公衆送信したりしていると評価することはできない。
? 以上のとおり,被告らは,被告ウェブサイトを利用していないから,原告に よる差止め及び削除請求の相手方とならない。
15 6 争点?(原告の損害等の存否及びその額) 【原告の主張】 ? ウェブサイト復旧費用等 ア 原告が原告ウェブサイトを復旧するために必要な費用は,434万1600 円である。
20 イ 原告は,本件保守業務委託契約を解約しておらず,これに基づく平成30年 1月から平成32年1月までの報酬は,合計77万7600円(月額税込2万16 00円)である。
ウ 被告らは,本件制作業務委託契約16条に基づき,支払義務を怠る等の契約 違反の違約金として,25万9200円の支払義務を負う。
25 ? 原告が購入した写真等の代金 原告は,原告ウェブサイトのために,以下のものを購入したところ,被告らはこ 20 れを無断で利用しているため,原告にはその代金分の損害が生じた。
ア ペイレスイメージ株式会社から購入した写真(代金7万8840円)。
イ ワードプレスから購入したテーマ「ライトニング」及びライセンスキー(平 成30年2月から平成31年2月までの12 か月分の使用料金合計1万3960 5 円)。
ウ ワードプレスから購入したプラグイン(代金2万7200円)。
エ 有償のテキストフォント(平成30年2月から平成31年2月までの使用料 金合計6万4536円)。
? ウェブサイトの売上に対する貢献度10 被告ピー・エム・エーは,ウェブサイトにおいて無料の株式講演会の告知をして 集客し,各地域におけるセミナー実施日にサービスの案内を行うというビジネスモ デルにより顧客を新規獲得していたから,原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エ ーの売上に貢献した割合は,少なくとも10%である。
被告ピー・エム・エーは,平成30年2月から6月までの間に,6134万5015 00円の売上を得たため,この10%である613万4500円が原告の損害とな る。
? 調査・損害回避・弁護士費用等 被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある,調査・損害回避・弁護士費用及 び本人訴訟としての弁護活動費用(事実実験公正証書,原告の裁判所への出頭費用,20 提出した書証の費用等)は,少なくとも100万円を下らない。
? 精神的慰謝料 被告らの著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為によって生じた精神的苦痛 を慰藉するために相当な金額は,少なくとも108万円を下らない。
また,被告らが上記?の写真を無断で使用するという財産権侵害を行ったことに25 より生じた精神的苦痛を慰藉するために相当な金額は,少なくとも78万8400 円を下らない。
21 ? まとめ 以上より,原告の損害額は少なくとも1260万円を下らないから,同金額及び これに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日から の民法所定の遅延損害金について,被告らに連帯支払を求める。
5 【被告らの主張】 原告は,被告らの複製等がなければ得られたはずの逸失利益として,凍結サーバ から原告ウェブサイトを復旧する費用(434万1600円)を主張する。
しかし,前記のとおり,本件サーバの凍結は料金を支払うことにより解除するこ とができたのであるから,ウェブサイトを一から作成する必要はなかった。
10 また,被告らは原告に対して原告ウェブサイトの復旧作業を委託しておらず,か つ,前記のとおり,明確に原告の提案を拒絶した。したがって,原告が上記費用を 受領したであろう蓋然性はない。
したがって,上記費用は,損害として認められず,かつ相当因果関係もない。
また,前記1【被告らの主張】 のとおり,本件保守業務委託契約は合意解15 除された。
その他,原告の主張する損害額について,すべて争う。
当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実) ? 旧ウェブサイトの移管及び本件保守業務委託契約の締結(乙22,原告本人,20 被告P3本人) ア 旧ウェブサイトの移管 被告ピー・エム・エーは,「ライズ株式スクール」という個人向けに株相場等に 関する投資知識を教授する対面式のスクール事業を行っており,訴外彩登に制作を 委託し,訴外ユウシステムに管理を委託していた旧ウェブサイトを,広告及び集客25 用のホームページとして利用していたが,平成27年ころに業績が落ち込んだため, 旧ウェブサイトをSNS集客の時代に合わせたホームページにリニューアルするこ 22 とを考えるようになった。
被告P3は,同年11月ころ,従前からイベントの写真撮影等を依頼していた原 告に対し,まず旧ウェブサイトのサーバ移管を委託した。原告は,同月4日付けで 代金を約50万円とする見積書(甲7)を提出し,被告ピー・エム・エーを通じ, 5 旧ウェブサイトを管理していた訴外ユウシステムよりデータ移行のために必要な情 報を入手し,旧ウェブサイトを本件サーバへ移管した(甲8,9)。
旧ウェブサイトの内容は甲10のとおりであり,緑色を基調とするウェブページ 上部(ヘッダー)に「完璧な基礎から実践的応用までマスターできるライズ株式ス クール」との記載があり,左上部には「RISe TRADING SCHOOL」というロゴと図形か10 らなる標章(かつて被告ピー・エム・エーが商標権を有していたもの。),「ライ ズ株式スクール 自立した投資家への第一歩を踏み出せる学校」という記載があり, 右上部には,問い合わせ用フリーダイヤルの番号と「会員専用ログイン」というオ レンジ色のボタンが表示されている。ウェブサイトのメインコンテンツは,コース・ 料金表,講師の紹介,受講生の声,受講案内等であり,ウェブページの下部には,15 「Copyright (C) 2013 RISE TRADING SCHOOL PMA LIMITED All rights reserved」 との表示がある。
イ 本件保守業務委託契約 被告ピー・エム・エーは,平成28年1月6日付けの本件保守契約書により,原 告に対し,移管した上記ウェブサイトの保守業務を委託した(本件保守業務委託契20 約)。
本件保守契約書の14条2項には,同契約に基づいて原告が制作完成したウェブ サイトについては,著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定がある(甲46 の1)。
? 原告ウェブサイトの制作・公開25 ア 本件制作業務委託契約(乙22,原告本人,被告P3本人) 被告ピー・エム・エーは,移管した旧ウェブサイトを,スマートフォンやタブレ 23 ット端末に対応できるようにするなど,全面的にリニューアルすることを決め,原 告に対し,平成28年4月22日付けの本件注文書により,新たなウェブサイトの 制作を代金324万円で委託した(本件制作業務委託契約)。
本件注文書の「仕様」欄には,「公式ホームページ一式のリニューアル」,「会 5 員サイトのリニューアル」,「ショッピングサイトのリニューアル」,「上記3コ ンテンツを統一したシステムで構築し,レスポンシブデザインの web サイトへとリ ニューアルする。」,「スマートフォンおよびその他の端末でのモバイルフレンド リー,ユーザービリティを考慮し,企画構成・制作を行う。」等の記載と共に,「全 面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は,制作者のP1に帰属するもの10 とする。」との記載がある。
イ 原告ウェブサイトの制作・公開(甲123,乙22,原告本人) 被告ピー・エム・エーは,従業員を通じ,原告に,新しいホームページの仕様や 構成についての要望を伝えた。具体的には,平成28年4月から5月ころ,原告と 被告ピー・エム・エーの従業員が公式ホームページ及び会員向けウェブサイトの内15 容について打ち合わせを行い,同月6日付けの同従業員作成の打ち合わせ書面(甲 14)には,公式ホームページについては,無料セミナーの参加申し込み獲得数を あげる,入学希望者を獲得する,会員サイトについては,生徒が利用しやすい,生 徒にとって有益で授業参加と理解を助けるといった目的があることが記載された。
また,同従業員から,公式ホームページについては,旧ウェブサイトに掲載されて20 いる文章やタグ,表示するスクリーンを変更すること,会員サイトについては,レ イアウトを完全に変更することなどが原告に伝えられ,原告が作成途中の画面を印 刷して打ち合わせ内容を書き込むなどした(甲14〜16)。
原告は,上記打ち合わせに基づいて原告ウェブサイトを制作し,同年10月3日, 原告ウェブサイトを本件サーバ上に公開した。
25 原告ウェブサイトにおいて使用されるワードプレスのテーマである「ライトニン グ」専用のプラグイン,有償フォント,写真等の素材は,原告が購入した(甲86, 24 87,89,98〜103,128)。また,本件サーバは,原告が契約し,被告 ピー エム エーからの利用料金の振り込みを確認して料金を支払うこととされた。
・ ・ ウ 原告ウェブサイトの内容(甲46の2,原告本人,被告P3本人) 原告ウェブサイトの内容は,甲46の2のとおりであり,緑色を基調とする 5 ウェブページの左上部には,旧ウェブサイトと同じ「RISe TRADING SCHOOL」という ロゴと図形からなる標章,右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号,メール 用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されている。その下 には,「トップページ」,「ライズ株式スクールとは」,「コース・料金表」,「受 講生の声」, 「会社案内」等のタブがある。また,ウェブページの末尾には, 「Copyright10 ?ライズ株式スクール All Rights Reserved」との記載がある。
上記「ログイン」ボタンは,会員が自己のID及びパスワードを入力すると,甲 59〜61のような会員専用のウェブページが閲覧できるように,ハイパーリンク が設定されていた。
原告ウェブサイトは,ウェブサイト作成用のソフトウェアであるワードプレ15 スを利用して制作されており,原告は,自己のID及びパスワードを使用して原告 ウェブサイトの制作及び管理を行っていた。
エ 動画サービスの利用 被告ピー・エム・エーは,平成29年夏頃から,ソーシャルキャストのサービス (乙19)を利用し,サブドメインを「risekabu」として,ライズ株式スクールの20 会員向けに講義用の動画をアップロードしていた。原告ウェブサイトと同動画コン テンツとは相互に関連性がなく,互いにハイパーリンクの設定などもされていなか った(被告P3本人)。
? 本件サーバの利用停止(甲123,乙22,原告本人,被告P3本人) ア 被告ピー・エム・エーが原告を通じて支払った本件サーバの利用料金は平成25 29年11月30日までの分であり,引き続き使用を続けるためには更新費用を支 払う必要があったが,被告ピー・エム・エーは,その費用を支払わず,また,原告 25 に対して支払うべき原告ウェブサイトの制作費用に係る分割金の支払も遅滞してい た。原告は,被告ピー・エム・エーに対し,同年9月26日付けの「御見積書」(甲 19)を示し,本件サーバの利用期限が同年11月30日であること,更新費用は, 1万2960円(契約期間12か月),2万4624円(同24か月),3万49 5 92円(同36か月)であることを伝えた。また,原告は,被告ピー・エム・エー の従業員に対し,サーバ更新料及び原告に対する支払が未払であること等を伝え, 支払を催促した。
ところが,被告ピー・エム・エーは,上記利用期限を過ぎても更新費用を支払わ なかったため,原告ウェブサイトは,同年12月12日,本件サーバのレンタル元10 である訴外エックスサーバーにより凍結され,閲覧・利用することができなくなっ た(甲17,20,21)。
被告ピー・エム・エーは,同日ころ,原告に対し,13万8240円を振込み, 原告ウェブサイトの復旧を行うよう伝えた。原告は,同月13日,被告P4に対し, 原告ウェブサイトのデータは本件サーバ上から失われたため,復旧する場合には再15 度制作することになり,費用として434万1600円が必要となる旨を伝えたと ころ,被告P4は,原告の提案を断った。
イ 訴外エックスサーバーが提供する管理画面である「インフォパネル」には, 同年12月ころ,「サーバーご契約一覧」に,料金の支払による更新手続が可能な 契約として原告ウェブサイトの契約が表示され,利用期限の欄には「2017-11-30 期20 限切れ」,ステータスの欄には「凍結」との記載がある(甲21)。
同様に,訴外エックスサーバーが提供するウェブサイト上の サポートページの 「失効ドメインの復旧」という項目によれば,支払期限内に料金の支払がなくドメ インが利用できなくなった場合,原告ウェブサイトのような「.com」ドメインの場 合は,利用期限日から30日以内であれば,更新費用を支払うことにより復旧が可25 能との記載がある(乙2)。また,「よくある質問」には,料金の未払によりサー バ契約が凍結された場合,「インフォパネルの『料金のお支払い/請求書発行』メ 26 ニューにて『サーバーご契約一覧』に表示されるサーバー契約」であれば,利用料 金を支払うことにより,引き続き該当のサーバIDを使用することが可能であると の記載がある(乙3)。
? 被告ウェブサイトの制作・公開 5 ア P6による被告ウェブサイトの制作(甲32,115,乙22,証人P6, 被告P3本人) 被告P3は,平成29年8月から9月ころ,P6に対し,原告ウェブサイトにつ いて,高額を支払ったにもかかわらず売上げ等の数字につながっておらず,早急に リニューアルしたいこと等を話し,P6が訴外彩登において旧ウェブサイトの制作10 に携わったときのデータを持っているかどうか尋ねるなどした。
被告P3は,同年12月13日ころ,P6に連絡し,本件サーバが凍結されたこ とを伝え,早急に復旧するよう依頼した。P6は,復旧作業について承諾し,新た に「risekabu.com」のドメインを自己名義で取得し,同年8月ころからこのころま でのいずれかの時点で取得した原告ウェブサイトのデータを利用して,被告ウェブ15 サイトを制作し,平成30年1月ころに公開した。P6は,被告ピー・エム・エー に対し,4日分のウェブサイト移行作業費として12万9600円を請求した。
イ P6による新規ウェブサイトの制作(甲32,34,115,証人P6,被 告P3本人) P6は,上記被告ピー・エム・エーからの当初の依頼に応じ,平成30年3月こ20 ろ,原告ウェブサイト又は被告ウェブサイトのデザインを変更した新たなウェブサ イトを,暫定的に「risekabu.marqs.co.jp」において公開し,被告ピー・エム・エ ーに対し,制作費として250万5800円を請求した(甲35)。
ウ 被告ウェブサイトの内容等(甲46の3) 被告ウェブサイトの内容は,甲46の3(71枚目まで)のとおりであり,原告25 ウェブサイトと同様に,緑色を基調とするウェブページに「RISe TRADING SCHOOL」 というロゴと図形からなる標章,右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号, 27 メール用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されており, その下には原告ウェブサイトと同一のタブがあり ,ウェブページの末尾には, 「Copyright ?ライズ株式スクール All Rights Reserved」との記載がある。
また,上記「ログイン」ボタンを押すと,前記?エの動画コンテンツが表示され 5 るようハイパーリンクが設定されていた。
? 被告ピー・エム・エーの廃業及び被告インターステラーへの事業譲渡(乙2 2,被告P3本人) 被告ピー・エム・エーの経営状況は改善せず,平成30年4月ころ,被告P4が 退職し,同年5月1日に被告インターステラーを設立した。被告P3は,同月末で10 被告ピー・エム・エーの事業を停止することに決め,被告P4と相談の上,同年6 月1日付けで,ライズ株式スクールの会員約200名及びソーシャルキャスト上の 動画コンテンツについて,株の学校プラスワンを経営する被告インターステラーが, 被告ピー・エム・エーから,他の若干の資産と共に対価103万5000円で事業 譲渡を受けることとした(甲6,乙11)。被告インターステラーは,上記動画コ15 ンテンツのサブドメインを「risekabu」から「plusone」へと変更した(本件動画ウ ェブサイト)。
被告ピー・エム・エーは,同年10月29日,福岡地方裁判所に対し,破産手続 開始の申立てを行い,同裁判所より,被告ウェブサイトの公開停止を求められたこ とから,弁護士代理人が,P6に対し,被告ウェブサイトの公開を停止するよう依20 頼した。
P6は,被告ピー・エム・エーより,前記アの移行作業及び前記イの制作費の支 払を受けていなかったことから,急いで作るよう言われて作業したのに,代金の支 出も受けられないまま,破産手続に移行するとして被告ウェブサイトを閉鎖するよ う言われたことに納得できず,前記依頼を断り,自らサーバ代金を負担して,被告25 ウェブサイトの公開を続けている(乙4〜7,16,17,証人P6)。
被告ピー・エム・エーは,被告ウェブサイトの閉鎖ができなかった等の理由で, 28 同年12月26日,前記申立てを取り下げ,事実上の廃業状態にある。
? 各ウェブサイトの内容比較 ア 原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの比較 前記?及び?のとおり,原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの内容は,一見し 5 てほぼ同じであり,ウェブページのタイトル,メタ・ディスクリプション,メタ・ キーワードにおける相違点は,校名やセミナーの案内の有無等ごく一部であること, 各ウェブページのデザインや記事の配置も相当程度似通っていること,ソースコー ドの相違点も一部に過ぎないことが認められる(甲26〜29,40,41,88, 90,104〜107)。
10 また,原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトは,いずれもワードプレスを用い て作成されており,双方の「style.css」及び「functions.php」ファイルのソース コードには,いずれにも,同じ位置に「Author: ★ P2 ★」という記述が認め られる(甲36〜39,45)。原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトのワード プレス管理画面の「作成者」欄は,いずれも,すべて「P2」とされている(甲415 7,48)。
原告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押すと, 会員専用のウェブページのログイン画面に遷移し,ID及びパスワードを入力する と,会員専用のウェブページへと遷移する(甲79,81)。
一方,被告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押20 すと,本件動画ウェブサイトへと遷移する(甲80,81)。
イ 本件動画ウェブサイトについて 本件動画ウェブサイトは,前記前提事実のとおり,訴外株式会社アジャストの運 営する動画公開サービスであるソーシャルキャストを利用し,被告ピー・エム・エ ー及び被告インターステラーの講義動画を公開するものであり,その内容は,甲425 6の3(72枚目以降)のとおりであって,ページの上部には「プラスワン TRADING SCHOOL」との文字と図形からなる標章が表示され,その下に視聴可能な動画のサム 29 ネイルが並べられ,これをクリックすることによって再生することができる構成と なっており,原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは,その外見,性質等が全 く異なる。また,ウェブページの末尾には,「株の学校プラスワン 当サイトでは, 株の学校プラスワンの動画を配信しています。」との記載がある。
5 2 争点?(著作権(複製権翻案権)侵害の成否)について ? 検討の順序 本件において,原告は,被告ウェブサイトの公衆送信等の差止め及び削除,並び に金員の支払を求めているが,その根拠とするところは,一般不法行為等によるも のを除けば,原告ウェブサイトが原告の著作物であることであり,さらにその理由10 として主張するところは,原告が原告ウェブサイトを創作的に制作したこと,及び 原告と被告ピー・エム・エーの契約により,原告ウェブサイトの著作権は原告に属 する旨合意されたことである。
これに対し,被告らは,原告ウェブサイトの著作権は,被告ピー・エム・エーに 帰属するとの黙示の合意があること,原告が原告ウェブサイトを制作したことによ15 ってその著作権が原告に帰属することはないこと,原告ウェブサイトの著作権を原 告に帰属させる旨を原告との間で合意した事実はないことを主張し,仮に原告に原 告ウェブサイトの著作権が認められるとしても,本件の経緯において,原告が被告 らに対し,原告ウェブサイトの著作権を主張することは,権利の濫用に当たる旨を 主張する。
20 そこで,まず,原告が原告ウェブサイトを制作したことにより,原告ウェブサイ トが原告の著作物と認められるか,次に,原告と被告ピー・エム・エーとの合意に より,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると認められるか,そして,仮に 原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属する場合に,原告が被告らに対し,著作権 を行使することが権利の濫用に当たるかにつき検討する。
25 ? 原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属 ア 前記認定したところによれば,被告ピー・エム・エーは,旧ウェブサイトを 30 訴外彩登に制作させ,訴外ユウシステムに管理を委託していたところ,集客力の向 上のために,まず旧ウェブサイトの本件サーバの移管を原告に委託し,さらにその 保守業務を原告に委託した後,本件制作業務委託契約により,旧ウェブサイトを, スマートフォンやタブレットに対応できるようにするなど,全面的にリニューアル 5 することを求めたことが認められるのであって,原告ウェブサイトの制作は,原告 の発意によるものではなく,被告ピー・エム・エーの委託に基づくものであり,原 告が自ら使用することは予定せず,被告ピー・エム・エーの企業活動のために使用 することが予定されていたものということができる。
イ 上述のとおり,原告ウェブサイトは,元々被告ピー・エム・エーが訴外彩登10 に制作させた旧ウェブサイトを,本件サーバへの移管後にリニューアルしたもので, 前記認定したところによれば,原告ウェブサイトのデザイン,記載内容や色調の基 礎となったのは,リニューアル前の旧ウェブサイトであることが認められる。
また,前記認定したところによれば,原告は,原告ウェブサイトを制作するにあ たり,ワードプレス専用のプラグインやフォント,写真を購入したり,ワードプレ15 スを利用して,原告ウェブサイトが利用しやすく顧客吸引力があるように構成した ものと認められるが,一方で,原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーの株式 スクールとしての企業活動を紹介するものであって,その内容は,基本的に被告ピ ー・エム・エーに由来するというべきであるし,原告が,被告ピー・エム・エーか ら,その従業員を通じ,仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したもので20 あることは,前記認定のとおりである。
ウ 原告と被告ピー・エム・エーは,以上の内容・性質を有する原告ウェブサイ トの制作について,本件制作業務委託契約を締結し,例えば原告ウェブサイトの権 利を原告に留保して,原告が被告ピー・エム・エーに使用を許諾し使用料を収受す るといった形式ではなく,原告ウェブサイトの制作に対し,対価324万円を支払25 う旨を約したのであるから,原告が原告ウェブサイトを制作し,被告ピー・エム・ エーのウェブサイトとして公開された時点で,その引渡しがあったものとして,原 31 告ウェブサイトに係る権利は,原告が制作したり購入したりした部分を含め,全体 として被告ピー・エム・エーに帰属したと解するのが相当である。
上記解釈は,原告ウェブサイト制作後も,原告が被告ピー・エム・エーに保守業 務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち,原告ウェブサイトが原 5 告のものであれば,被告ピー・エム・エーがその保守を原告に委託することはあり 得ず,原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エーのものであるからこそ,代金を支 払ってその保守を原告に委託したと考えられるからである。
また,上述のとおり,原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーの企業として の活動そのものを内容とするものであるから,原告がこれを自ら利用したり,第三10 者に使用を許諾したり,あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定 されていないというべきであるから,原告ウェブサイトについての権利が原告に帰 属するとすべき合理的理由はない。さらに,原告ウェブサイトについての権利が原 告に帰属するとすれば,被告ピー・エム・エーは,原告の許諾のない限り,原告ウ ェブサイトの保守委託先を変更したり,使用するサーバを変更するために原告ウェ15 ブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが,そのような結果 は不合理といわざるを得ない。
エ 以上より,原告が原告ウェブサイトを制作したことを理由に,原告ウェブサ イトの著作権が原告に帰属すると考えることはできず,原告ウェブサイトの著作権 は,被告ピー・エム・エーに帰属するものと解すべきである。
20 ? 合意による著作権の帰属 ア 本件保守業務委託契約において,同契約に基づいて,原告が制作したウェブ サイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)があること は前記認定のとおりである。
しかしながら,本件保守業務委託契約は,訴外彩登が制作した旧ウェブサイトを25 本件サーバに移管した後に,その保守業務を被告ピー・エム・エーが原告に委託す る際に締結されたものであって,原告がウェブサイトを制作完成することは予定さ 32 れていないから,上記条項が何を想定したものかは不明といわざるを得ないし,同 条項が,その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとも解され ない。
イ 本件制作業務委託契約については,被告ピー・エム・エー名義で作成された 5 本件注文書の「仕様」欄に,「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利 は,制作者のP1に帰属するものとする。」と記載がある。
しかしながら,被告P3本人の尋問の結果によっても,被告ピー・エム・エーが, 原告と上記記載に係る合意を成立させる趣旨で,本件注文書に上記記載をしたとは 認められないし,他に,原告と被告ピー・エム・エーとの間で上記記載に係る合意10 が成立したと認めるに足りる証拠は提出されていない。
ウ 原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約 において,制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属するとすることが不合理 であることは前記?で述べたとおりであり,あえてそのように合意するとすれば, その合意は明確なものでなければならず,本件においてそのような合意が成立した15 と明確に認めるに足りる証拠がないことは上記ア及びイのとおりであるから,被告 ピー・エム・エーと原告の合意によって,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属 したと認めることはできない。
? 権利の濫用 ア 本件の事実関係を前提とすると,仮に,原告ウェブサイトの一部に,原告の20 著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても,以下に述べるとおり, 原告が,その部分の著作権を理由に,被告ウェブサイトに対する権利行使をするこ とは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。
イ すなわち,前記認定したところによれば,原告は,原告ウェブサイト制作後, その保守管理を行っていたこと,被告ピー・エム・エーは,平成29年秋の時点で,25 原告に対する支払を遅滞し,本件サーバの更新料も支払っていなかったこと,本件 サーバを使用継続するには,同年11月30日に最低1万2960円(12か月分) 33 を支払う必要があったが,被告ピー・エム・エーはこれを徒過したこと,同年12 月12日,本件サーバは凍結され,原告ウェブサイトの利用ができなくなったこと, 被告ピー・エム・エーはその直後に原告に13万8240円を振り込み,原告ウェ ブサイトを復旧するよう原告に依頼したこと,本件サーバの規約によれば,原告ウ 5 ェブサイトのようなドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内であれば, 更新費用を支払えば復旧可能であること,原告は,同月13日,被告P4に対し, 原告ウェブサイトのデータは失われ,復旧するには再度制作する必要があり,その 費用は434万円余であると伝えたこと,被告ピー・エム・エーは,原告の提案を 断って,P6に,原告ウェブサイトの復旧を依頼したこと,P6は,原告ウェブサ10 イトのデータを利用して被告ウェブサイトを作成し,平成30年1月ころ公開した こと,以上の事実が認められる。
原告本人尋問及び被告P3本人尋問の結果を総合しても,原告が被告ピー・エム・ エーに対し,本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて,適切に警告し, 期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし,原告ウェブサイトの利用15 ができなくなった直後に被告ピー・エム・エーが金員を原告に振り込み,本件サー バの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに,原告が,データが失われ復 旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や,復旧のために 434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難 い。かえって証人P6は,サーバが凍結された場合,サーバ会社に料金を支払えば20 すぐ復旧することができ,特に作業等をする必要はない旨を証言している。
前記認定したところによれば,原告ウェブサイトは,新たな顧客のために,被告 ピー・エム・エーの事業内容を紹介するのみならず,すでに顧客,会員となった者 に対するサービスの提供も行っているのであるから,原告ウェブサイトの停止は, 被告ピー・エム・エーの企業としての活動を停止することであり,その制作・保守・25 管理を行った原告は,当然にこれを了解していた。
ウ 前記イで述べたところによれば,原告ウェブサイトが停止するまでの原告の 34 行為は,その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし, 原告ウェブサイトの停止後の原告の行為は,原告ウェブサイトの停止が被告ピー・ エム・エーを窮地に追い込むことを知りながら,これを利用して,データは失われ た,復旧できないと述べて,法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。
5 上述のとおり,原告ウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し,既 に検討したとおり,原告ウェブサイトの著作権は全体として被告ピー・エム・エー に帰属すると解されるのであるから,被告ピー・エム・エーが,法外な代金を請求 された原告との信頼関係は失われたとして,原告の十分な了解を得ることなく,原 告ウェブサイトのデータを移転するようP6に依頼したとしても,やむを得ないこ10 とであると評価せざるを得ない。
エ これらの事情を総合すると,仮に,原告ウェブサイトの一部に原告の著作権 を認めるべき部分が存在していたとしても,本件の事情において,原告がその著作 権を主張して,被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは,権利の濫用 に当たり許されないというべきである。
15 ? 本件動画ウェブサイトについて 前記認定事実のとおり,本件動画ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーがソー シャルキャストのサービスを利用して提供していた授業の動画を,被告インタース テラーが引き継いだ後に,サブドメインを変更したウェブページであって,原告ウ ェブサイト及び被告ウェブサイトとは,内容も形式も全く異なるものである。
20 また,原告ウェブサイトと上記動画はもともと関連付けられていなかったところ, 本件サーバ凍結後,原告ウェブサイトから会員専用ウェブページを閲覧することが できなくなったため,被告ウェブサイト上において,「ログイン」ボタンを押すと 上記動画に遷移するよう設定され,サブドメインの変更に伴いリンク先も本件動画 ウェブサイトに変更されたものである。
25 したがって,仮に原告ウェブサイトの一部に原告の著作権が認められる場合であ っても,本件動画ウェブサイトの設定が,原告の著作権(複製権又は翻案権)侵害 35 となる余地はないといわざるを得ない。
? まとめ 以上より,被告ピー・エム・エーが原告ウェブサイトを本件サーバから別のサー バに移転して被告ウェブサイトとして公開することや,業務内容の変更等に応じて 5 ウェブサイトの記載内容を変更することについて,原告は著作権を主張することは できないものと解すべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,被 告らに対する原告の著作権侵害に基づく請求は理由がない。
3 争点?(著作者人格権侵害の成否) 原告は,被告らが,原告ウェブサイトの著作権を侵害する行為,及び原告の同意10 を得ずに被告ウェブサイトを公表したこと,被告ウェブサイトに原告の氏名を表示 しなかったこと,被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブ サイトに遷移するよう原告ウェブサイトを改変したことが,原告の著作者人格権を 侵害すると主張する。
しかし,被告らが原告の著作権を侵害すると認められないことは前記2のとおり15 であるから,同様に,原告が被告らに対し著作者人格権を行使することも予定され ておらず,被告らの上記の行為が原告の著作者人格権を侵害するということはでき ない。
4 争点?(その他の不法行為等の成否) 原告は,被告らの行為が一般不法行為及び不正競争防止法違反(営業秘密の不正20 使用)に当たると主張するが,具体的事実の主張はなされていないし,当該不法行 為と本件における差止め 削除請求及び損害賠償請求との関係は判然とせず, ・ また, 営業秘密性についての立証もない。
したがって,上記原告の主張を採用することはできない。
なお,原告は,本件保守業務委託契約の未払報酬,本件制作業務委託契約の違約25 金又は未払金をも,損害賠償請求の理由として主張するかのようである(争点?)。
しかしながら,前記認定したところによれば,本件サーバが凍結され,原告が, 36 原告ウェブサイトの復旧に多額の費用が必要である旨を述べ,被告ピー・エム・エ ーがこれを断った時点で,信頼関係の破壊により,本件保守業務委託契約は終了し たと解するべきであり,以後,原告も保守業務を行っていないから,同契約の未払 報酬は存しない。また,本件制作業務委託契約は,当初の原告ウェブサイトの制作 5 に関わるものであるところ,これについての違約金又は未払金があるとは認められ ない。
したがって,原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求には理由がない。
5 結論 以上より,その余の争点について判断するまでもなく,著作権侵害を理由とする10 被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの公衆送信等の差止め(請求の趣旨1), 著作権侵害を理由とする前記各ウェブサイトの削除(請求の趣旨2),並びに著作 権侵害,著作者人格権侵害,不法行為,不正競争防止法違反及び被告ピー・エム・ エーとの契約違反等を理由とする金員請求(請求の趣旨3)は,いずれも理由がな いからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
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