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事件 平成 28年 (ネ) 10021号 損害賠償等請求控訴事件

控訴人 有限会社スーパーグラフィック (以下「控訴人会社」という。)
控訴人X (以下「控訴人X」という。)
被控訴人Y
訴訟代理人弁護士 高橋建嗣
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/06/09
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人Xが当審において追加した請求を棄却する。
3 当審における追加請求に係る訴訟費用は控訴人Xの負担とし,当審におけるその余の訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
申立て
(控訴の趣旨)1 原判決中,控訴人会社の敗訴部分及び控訴人Xに関する部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人会社に対し,100万円及びこれに対する平成27年4 月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,控訴人Xに対し,朝日新聞朝刊の全国版の下段広告欄に,2段 抜きで,別紙謝罪広告文案記載の謝罪広告を,見出し及び控訴人Xの氏名は4 号活字をもって,その他は5号活字をもって1回掲載せよ。
4 被控訴人は,控訴人Xに対し,60万円及びこれに対する平成27年4月1 6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(当審において追加した請求)5 被控訴人は,控訴人Xに対し,60万円及びこれに対する平成27年4月1 6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本判決の略称は,以下に掲記するほか,原判決に従う。
1 事案の要旨 本件は,控訴人Xが創作し,控訴人会社が著作権を有する著作物(DVD) を被控訴人が無断で複製・販売したことが,控訴人会社の著作権(複製権,頒 布権)を侵害するとともに,控訴人Xの名誉・声望を害する方法により上記著 作物を利用したことを理由にその著作者人格権を侵害する行為とみなされると して,控訴人らが被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償金(控訴人会社 につき上記著作権侵害による財産的損害103万0448円,控訴人Xにつき 上記著作者人格権侵害による慰謝料60万円)及びこれに対する不法行為の後 である平成27年4月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分 の割合による遅延損害金の支払を求め,また,控訴人Xが,被控訴人に対し, 著作権法115条に基づき,その名誉・声望を回復するための適当な措置とし て,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
原判決は,控訴人会社の損害賠償請求については,被控訴人が控訴人会社の 著作権(複製権,頒布権)を侵害する行為を行ったことを前提に,3万044 8円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求 を棄却した。また,控訴人Xの損害賠償請求及び謝罪広告請求については,被 控訴人の行為は控訴人Xの著作者人格権のみなし侵害行為には当たらないとし て,いずれも棄却した。
そこで控訴人らは,原判決中の各敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。
そして,控訴人Xは,当審において,被控訴人が控訴人会社の著作権(複製権, 頒布権)を侵害したことによって控訴人会社の代表者である控訴人Xが精神的 苦痛を受けたとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償金(60万 円の慰謝料)及びこれに対する不法行為の後である平成27年4月16日(訴 状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める請求を,前記著作者人格権侵害による慰謝料請求と選択的なものとして 追加した。
2 前提事実は,以下のとおり原判決を付加,削除するほかは,原判決の「事実 及び理由」の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決3頁8行目の「中古品」のあとに「(以下「精神工学研究所のDV D」という。)」を加える。
原判決3頁16行目の「上記」を削除する。
3 争点 控訴人会社の損害の発生及びその額 被控訴人の行為が控訴人Xの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか。
控訴人Xの著作者人格権侵害による慰謝料額 謝罪広告の要否 控訴人Xの当審における追加請求の可否4 争点に関する当事者の主張は,以下のとおり原判決を付加,訂正,削除する ほかは,原判決の「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるから,これを 引用する。
原判決5頁16行目の「ところが」から同頁18行目末尾までを次のとお り改める。
「しかるところ,被控訴人は,精神工学研究所のDVDをインターネットのオークションサイトで販売するに当たり,おまけとして原告著作物を付ける旨を表記したものであり,このような被控訴人の行為は,原告著作物が「おまけ」,すなわち無償であることを表記することによって,原告著作物の価値に対する社会的評価を著しく低下させ,その結果,その著作者である控訴人Xに対する社会的評価を低下させるおそれがある行為であるから,控訴人Xの名誉・声望を害する方法によりその著作物を利用する行為といえる。」 原判決5頁24行目の「(原告Xの慰謝料額)」を「(控訴人Xの著作者人格権侵害による慰謝料額)」と改める。
原判決6頁13行目から14行目にかけての「「内部表現の書き換え方法言葉を使わない催眠術 完全独習法 中級〜完結編」」を削除する。
原判決7頁10行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「5 控訴人Xの当審における追加請求の可否)について 〔控訴人Xの主張〕 被控訴人が,原告著作物を控訴人らに無断で複製・販売した行為は, 控訴人会社が原告著作物について有する著作権(複製権,頒布権)を 侵害する行為であり,これによって控訴人会社の代表者である控訴人 Xは精神的苦痛を受けた。
したがって,控訴人Xは,被控訴人に対し,上記著作権侵害による 損害賠償として,慰謝料60万円を請求する。
なお,控訴人Xは,原審の段階から,被控訴人に対する慰謝料請求 の根拠として,@被控訴人が控訴人Xの原告著作物に係る著作者人格 権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)という不法行為を行っ たことによって控訴人Xが精神的苦痛を受けたことのみならず,A被 控訴人が控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)を 侵害する不法行為を行ったことによって控訴人会社の代表者である控 訴人Xが精神的苦痛を受けたことをも主張してきた。
ところが,原判決は,被控訴人Xの慰謝料請求について,上記@の みを根拠とするものであるとの誤った主張整理を行い,上記Aについ ては判断することなく,被控訴人の行為が控訴人Xの著作者人格権の みなし侵害行為に当たらないことのみを理由として被控訴人Xの慰謝 料請求を棄却した。
したがって,原判決には,判断遺脱の違法があり,また,仮に原審 における控訴人Xの主張に不明確な点があれば,原審裁判所において 釈明権を行使すべきであったのにこれを行使しなかった違法がある。
〔被控訴人の主張〕 控訴人Xの主張は,いずれも争う。」
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人会社の損害賠償請求は3万0448円及びこれに対する 遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,また,控訴人Xの著作者人格 権侵害に基づく損害賠償請求及び謝罪広告請求はいずれも理由がないものと判 断する。その理由は,次のとおり原判決を訂正,削除するほかは,原判決の「事 実及び理由」の第4の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決7頁19行目から20行目にかけての「「内部表現の書き換え方法 言葉を使わない催眠術 完全独習法 中級〜完結編」の中古品」を削除する。
原判決9頁2行目の「ことにより」から同行目末尾までを次のとおり改め る。
「行為が,原告著作物の価値に対する社会的評価を著しく低下させ,その結 果,その著作者である控訴人Xに対する社会的評価を低下させるおそれがあ る行為であることを理由に,」 原判決9頁20行目から21行目にかけての「原告著作物には価値がない と認識することが通常であるとまではいえないから」を次のとおり改める。
「原告著作物の価値についてまで思いを巡らせ,それが価値のないもの,あ るいは著しく価値の低いものであるなどと認識することが通常であるとはい えず,更には,原告著作物の著作者に対する評価を低下させることが通常で あるともいえないから」 原判決9頁最終行の「原告Xの請求」を「控訴人Xの著作者人格権侵害に 基づく損害賠償請求及び謝罪広告請求」と改める。
2 控訴人Xの当審における追加請求の可否)について 控訴人Xは,被控訴人が控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権, 頒布権)を侵害する不法行為を行ったことによって控訴人会社の代表者とし ての控訴人Xが精神的苦痛を受けたとし,このこともって控訴人Xの被控訴 人に対する慰謝料請求の根拠となる旨主張する。
しかしながら,控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求が認められるため には,被控訴人の行為が控訴人Xとの関係で不法行為を構成することが必要 であり,そのためには,被控訴人の行為が控訴人Xの権利又は法律上保護さ れる利益を侵害するものであることが必要となる(民法709条)。しかる ところ,被控訴人が原告著作物を複製・頒布した行為は,原告著作物の著作 権者である控訴人会社との関係では,その権利(著作権)を侵害する不法行 為を構成することが明らかであるものの,原告著作物の著作権者ではない控 訴人Xとの関係では,同人のいかなる権利又は法律上保護される利益を侵害 することになるのかが不明というべきである。控訴人Xは,自らが控訴人会 社の代表者であり,控訴人会社の著作権侵害によって精神的苦痛を受けたこ とをその主張の根拠とするが,会社の代表者たる個人が,当該会社に帰属す る著作権に関して当然に何らかの権利や法律上保護される利益を有するもの ではないから,控訴人Xが控訴人会社の代表者であることのみをもって,控 訴人会社の著作権を侵害する行為が控訴人X個人の権利又は法律上保護され る利益をも侵害することが根拠付けられるものではなく,そのほかにこれを 根拠付け得る事情も認められない。
以上によれば,控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権) 侵害を理由とする控訴人Xの慰謝料請求には理由がない。
なお,控訴人Xは,原判決が,控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複 製権,頒布権)侵害を理由とする控訴人Xの慰謝料請求を主張整理において 取り上げず,これについて判断しなかったことをもって,原判決には判断遺 脱の違法があり,また,控訴人Xの当該主張を明確にするために原審裁判所 が釈明権を行使しなかったことは違法である旨主張する。
しかしながら,原審の平成27年6月8日付け によれば, 控訴人らは,原審において,「本件で著作権侵害の対象となっている著作物 の著作財産権(複製権など)は原告会社に帰属し,著作者人格権著作者で ある原告Xに帰属するのである。」(1頁)とした上で,「被告の行為は原 告Xの著作者人格権としての名誉・声望保持権を侵害したのである。…原告 Xはその意味で被告に慰謝料を請求している(原告会社は著作財産権として の複製権の侵害として被告に損害賠償を求めている。)。」(2頁)と主張 しているのであり,このような主張からすれば,控訴人Xが,被控訴人に対 する慰謝料請求の根拠として,自らが有する原告著作物に係る著作者人格権 としての名誉・声望保持権の侵害を専ら主張していたものであって,控訴人 会社が有する原告著作物に係る著作権の侵害を主張していたものでないこと は明らかというべきであるから(控訴人らの他の準備書面を検討してみても, 控訴人Xが,他の構成による慰謝料請求を追加したことを認めるに足りる記 述はない。),原判決について控訴人X主張の違法は認められない。
結論
以上の次第であるから,原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴はいずれ も理由がないから,これを棄却することとする。
また,控訴人Xが当審において追加した請求は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 大西勝滋
裁判官 杉浦正樹