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事件 平成 25年 (ワ) 32465号 著作権侵害差止等請求事件
東京都東村山市<以下略>
原告 有限会社アートステーション (以下「原告アートステーション」という。) 東京都東村山市<以下略>
原告 株式会社コスモ・コーディネート (以下「原告コスモ・コーディネート」という。) 東京都新宿区<以下略>
原告ら補助参加人 株式会社ピーエスジー (以下「補助参加人」という。)
同訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 平井佑希 東京都世田谷区<以下略>
被告 株式会社コスミック出版
同訴訟代理人弁護士 雪丸真吾
同 北村行夫
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 名畑淳
同 井上乾介
同 山本夕子 1
同 吉田朋
同 杉田禎浩
同 近藤美智子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/08/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙被告商品目録記載の各DVD商品を販売してはならない。
2 被告は,原告アートステーションに対し,224万5829円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告コスモ・コーディネートに対し,224万5829円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用も含め,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。
6 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載の各DVD商品を輸入し,複製し,頒布して はならない。
2 被告は,原告アートステーションに対し,675万円及びこれに対する平成 26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告コスモ・コーディネートに対し,675万円及びこれに対する 平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 2,3につき仮執行宣言
事案の概要
1 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 2 原告アートステーションは,映像ソフトの企画,製作,販売及び輸出入等 を業とする有限会社であり,原告コスモ・コーディネートは,マルチメディ アソフトの企画,製作及び投資管理等を業とする株式会社である。
被告は,ビデオ,映画等の製作,配給,販売,賃貸及び輸出入業務等を業 とする株式会社である。
(2) 原告らの著作権 原告らは,著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「白雪姫」 その他の合計10作品につき,日本語音声及び日本語字幕を収録し直して, 別紙原告商品目録記載の各DVD(以下「原告商品」という。)を製作,販 売している。
原告商品に収録されている日本語台詞原稿及び日本語字幕のうち,少なく とも別紙著作物目録部分(以下「本件著作物」という。)には創作性があり, その著作権は原告らが持分各2分の1の割合で共有している(甲4,7,弁 論の全趣旨)。
(3) 被告によるDVDの販売 被告は,別紙被告商品目録記載の各DVD商品(以下「被告商品」とい う。)を販売している。
被告商品は原告商品と全く同一のDVD商品であり,同一の日本語音声及 び日本語字幕が収録されている(甲6)。
(4) 他のDVD商品 被告は,「白雪姫」その他の合計10作品がそれぞれ収録されたDVD商 品として,被告商品のほか,有限会社アプロック(以下「アプロック」とい う。)から購入したDVD商品(以下「アプロック版」という。)及び株式 会社メディアジャパン(以下「メディアジャパン」という。)から購入した DVD商品(以下「メディアジャパン版」という。)を販売している(以下, 被告商品,アプロック版及びメディアジャパン版を併せて「ディズニーDV 3 D」という。)。なお,ディズニーDVDのうち,英語字幕と日本語字幕の 切替ができるのは被告商品のみである(弁論の全趣旨)。
2 本件は,原告らが,被告は被告商品を製造,輸入,販売し,もって原告らの 著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,被告に対し,著作権 法112条1項に基づき,被告商品の輸入,複製及び頒布の差止めを求めると ともに,民法709条又は703条に基づき,それぞれ損害金又は不当利得金 675万円及びこれに対する平成26年1月24日(訴状送達の日の翌日)か ら支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
3 争点 (1) 著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無 (2) 差止めの許否 (3) 原告らの損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無)について 〔原告らの主張〕 被告は,被告商品を補助参加人から適法に仕入れるだけでなく,原告らに無 断で本件著作物をDVDに収録(複製)して被告商品とした上で,これを平成 23年の発売開始後,別紙被告商品目録記載の各DVD商品としてそれぞれ5 000枚(合計5万枚)販売しているのであって,この行為は原告らの著作権 (複製権及び譲渡権)を侵害するものである。
また,被告商品には「Made in Korea」と記載されているところ,仮に被告 が韓国から被告商品を輸入しているのであれば,この輸入行為も原告らの著作 権を侵害する行為とみなされる。
〔被告の主張〕 被告の扱う被告商品は全て補助参加人から仕入れたものであり,原告らは補 助参加人に対して被告商品の販売許諾を与えていたから,原告が本件商品に対 4 して有する譲渡権は既に消尽しており,被告による被告商品の販売は著作権 (譲渡権)侵害とはならない。また,被告は自身での複製は行っていないし, 被告が韓国から輸入しているとの事実も否認する。
2 争点(2)(差止めの許否)について〔原告らの主張〕 被告の上記1の各行為は,原告らの保有する本件著作物の著作権を侵害する 行為であり,原告らはその侵害の停止又は予防を請求することができる。
〔被告の主張〕 争う。
3 争点(3)(原告らの損害額)について〔原告らの主張〕 前記1〔原告らの主張〕のとおり,被告は,平成23年以降,補助参加人か ら適法に仕入れた8万7300枚以外に,少なくとも5万枚の被告商品を販売 している。
そして,被告商品の小売販売価格は1枚500円であるが,被告による卸価 格はその65%に当たる325円となるほか,1枚当たりの製造・販売に要す る経費額は55円を上回らないことからすると,被告における被告商品1枚当 たりの利益額は270円を下回らない。
なお,寄与度に関する被告の主張は争う。
以上より,被告の著作権侵害行為により原告らの被った損害の額は,それぞ れ675万円(270円×5万枚×1/2)を下回らない(著作権法114条2 項)。
〔被告の主張〕 被告においては,小売販売価格に対して,卸先ごとに55〜64%の異なる 卸価格率を適用している。また,被告商品の1枚当たりの経費額は少なくとも 70.9円である。そして,被告商品はディズニーアニメ作品であり,映像部 5 分の寄与が大きいから,言語部分の寄与度は20%程度とみるべきである。
当裁判所の判断
1 争点(1)(著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無)について (1) 証拠(甲26,27,31)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成2 3年以降,原告商品を複製した被告商品を少なくとも5万枚,原告らに無断 で何らの権限もなく販売していたことが認められる。
(2) この点に関して被告は,被告商品は全て補助参加人から適法に仕入れたも のであるとし,その根拠として,おおむね次のとおり主張する(平成27年 1月19日付け被告準備書面(3))。
ア 被告におけるディズニーDVDの総売上数量(返品前の出荷総数)は, 「白雪姫」が3万0351枚,「ピノキオ」が2万8267枚,「ファン タジア」が2万8832枚などというものであり,これらを合計した総売 上数量は27万3172枚,純売上数量(出荷後に返品された数を控除し た実際の売上数)は16万0685枚となる(乙2。平成19年7月から 平成26年9月までの累計)。なお,被告では,被告商品,アプロック版 及びメディアジャパン版それぞれの総売上数量までは把握していない。
イ 他方,被告におけるディズニーDVDの仕入数量は,補助参加人から仕 入れた被告商品が少なくとも8万7300枚であり,メディアジャパンか ら仕入れたメディアジャパン版が少なくとも28万2200枚であって, 合計すると36万9500枚である。
ウ したがって,総売上数量(27万3172枚)だけでも仕入数量(36 万9500枚)を下回っているのであって,被告が独自に被告商品を製造, 販売しているとの原告らの主張には理由がない。
(3) しかしながら,被告は,上記(2)ア以外にも,個別販売の売れ残りを10 作品を1つのセット(DVD10枚組BOX)として廉価で販売している旨 示唆しているところ,その純売上数量は,被告自身が提出した書証(乙4) 6 によれば3万5422セットもあり,DVD枚数にして35万4220枚に 及ぶことが認められる。そうすると,被告におけるディズニーDVDの販売 数量は,返品された数を控除した純売上数量だけをみても,合計で51万4 905枚となるのであって(16万0685枚+35万4220枚),被告 の主張する仕入数量36万9500枚を優に上回る。被告の上記(2)の主張 は,その前提を欠くものといわざるを得ない。
(4) この点,被告は,原告ら及び補助参加人から上記(3)と同旨の指摘を受け て,@純売上数量が仕入数量を上回る部分の一部はアプロック版と考えられ る,Aメディアジャパンからの仕入数量は28万2200枚を大幅に上回る 可能性も十分にある,などと説明するに至っている(平成27年5月12日 付け被告準備書面(6))。
しかし,被告の上記説明は,いずれも単なる推測ないし可能性をいうもの にすぎず,何らかの客観的資料に基づくものではないし,具体的な数量を上 げて説明するものでもない。
したがって,被告の上記説明は,上記(3)の判断を左右しない。
(5) 以上によれば,被告が販売したとするディズニーDVD51万4905枚 のうち36万9500枚を超える部分,すなわち14万5405枚分につい ては,その仕入先について被告から合理的な説明がされているとはいえない のであって,この中に原告らの許諾を得て複製されたアプロック版が一定程 度含まれ得るとしても,相当部分は著作権者である原告らの許諾を得ないま ま複製された商品であるものと推認せざるを得ない。
そして,この14万5405枚のディズニーDVDの中に,原告らが本件 で差止等を求めている被告商品が何枚程度含まれているのかについては,こ れを直接的に指し示す証拠は見当たらないものの,被告が販売数量の具体的 な内訳を開示しないことや,そもそも仕入先等についての合理的な説明がさ れていない販売数量が14万枚余りにも上ることなどに照らすと,原告らの 7 許諾を得ないまま複製され,被告において販売された被告商品は,原告らの 主張するとおり,少なくとも5万枚を下回ることはないものと認めるのが相 当である。
したがって,被告は,少なくとも5万枚もの被告商品の販売につき,原告 らの著作権(譲渡権)を侵害したものというべきである。
2 争点(2)(差止めの許否)について 上記のとおり,被告による被告商品の販売のうち少なくとも5万枚の部分は, 原告らの有する本件著作物の著作権(譲渡権)を侵害する行為であるから,原 告らは,著作権法112条1項に基づき,被告商品の販売の差止めを求めるこ とができる。
他方,原告らの差止請求のうち,被告による輸入,複製の差止めを求める部 分については,被告が自ら被告商品を輸入,複製していることを認めるに足り る証拠がなく(原告ら自身,「被告が自ら製造しているかどうかやどこから仕 入れているかなどは,原告らにとって関係のないことであり,立証する必要は ない」旨主張している。),他に被告が輸入,複製をするおそれがあることを 基礎付ける事情も認めるに足りないから,差止めの必要性は認められない。原 告らの差止請求のうち,販売以外の態様による頒布の差止めを求める部分につ いても同様である。
3 争点(3)(原告らの損害額)について (1) 1枚当たりの販売価格 原告らは,被告商品の小売販売価格を「1枚500円」とした上,「被告 は被告商品を小売販売価格の65%に相当する1枚325円で卸販売してい る」旨主張する。
このうち小売販売価格については,確かに,DVDを1枚ずつ販売する際 の価格は1枚500円であることが認められるものの(甲13の1ないし1 0),前述のとおり,被告は個別販売の売れ残りを10作品で一つのセット 8 (DVD10枚組BOX)として廉価でも販売しているというのであって, その小売販売価格は1セット1980円(DVD1枚198円)であること が認められる(乙5)。
また,卸価格率(卸販売価格の小売販売価格に対する率)については,原 告らはこれが「65%」であることの具体的根拠を何ら示すものではなく, 上記数値は原告らによる推測の域を出るものではない。そして,被告は卸価 格率を「卸先ごとに55〜64%としている」旨主張しているのであって, 他にこの点に関する客観的証拠も見当たらないことからすると,被告商品の 卸価格率は,少なくとも55%を下回るものではないものと認めるのが相当 である。
以上によれば,被告における被告商品の卸販売価格は,1枚ずつ販売する 場合には1枚275円(500円×55%),10枚組BOXでセット販売 する場合には1枚108.9円(198円×55%)ということになる。
(2) 1枚当たりの経費額 被告は,被告商品の販売に要する経費額を1枚当たり70.9円と主張し, これに沿う書証(乙5)を提出するところ,この点について特に不合理な点 は見あたらず,被告が上記書証についての一応の説明も試みていることなど からすると,上記金額をもって経費額とするのが相当である。
この点に関して原告らは,経費額を1枚55円と主張する。
しかし,原告らはその具体的根拠を説明するものではないし,これを裏付 ける客観的証拠を提出するものでもないから,原告らの上記主張を採用する ことはできない。
(3) 被告の利益額 以上によると,被告商品の販売による被告の利益額は,1枚ずつ販売する場合には1枚204.1円(275円-70.9円),10枚組BOXでセット販売する場合には1枚38円(108.9円-70.9円)となる。
9 そして,前述のとおり,被告は少なくとも5万枚もの被告商品の販売について原告らの著作権(譲渡権)を侵害したものというべきであるところ,このうち何枚が1枚ずつ販売されたものであり,何枚が10枚組BOXでセット販売されたものであるのかを直接記載した資料等は見当たらない。そこで,被告におけるディズニーDVD全体の販売数量でみれば,1枚ずつ販売されたものが16万0685枚,10枚組BOXでセット販売されたものが35万4220枚というのであるから,上記5万枚をこの割合で按分することとすると,このうち1枚ずつ販売されたものは1万5603枚(5万枚×16万0685枚/51万4905枚。小数点以下四捨五入),10枚組BOXでセット販売されたものは3万4397枚(5万枚×35万4220枚/51万4905枚。同上)ということになる。
そして,以上の販売数量を前提に,被告の利益額の総額を算定すると,その額は449万1658円となる(204.1円×1万5603枚+38円×3万4397枚。小数点以下四捨五入)。
(4) 寄与度 被告は,被告商品はディズニーアニメ作品であり,映像部分の寄与が大き いから,言語部分の寄与度は20%程度とみるべきである旨主張する。
しかし,前記第2の1(3)記載のとおり,被告商品は原告商品と全く同一 のDVD商品であり,原告商品のいわゆるデッドコピーというべきものであ って,このようなデッドコピーを販売した者に利得の一部を保有させるのは 相当ではないものといわざるを得ない。
したがって,この点に関する上記被告の主張は採用することはできない。
(5) 小括 以上によれば,被告商品の販売により被告が得た利益額は449万165 8円であるから,著作権法114条2項により,原告らそれぞれが被告に請 求することのできる損害賠償の額は,各持分2分の1に相当する224万5 10 829円ずつとなる。
なお,原告らは不当利得の返還も請求するが,その損失額が上記損害額を 上回ることについての主張立証はない。
4 結論 よって,原告らの請求は,被告に対して著作権法112条1項に基づいて被 告商品の販売の差止めを求めるとともに,民法709条に基づき,各224万 5829円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である 平成26年1月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損 害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいず れも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
11 12 (別紙)被告商品目録1白雪姫CCP-7032ピノキオCCP-7043ファンタジアCCP-7094ダンボCCP-7085バンビCCP-7106シンデレラCCP-7017ふしぎの国のアリスCCP-7028ピーターパンCCP-7079ガリバー旅行記CCP-70510三人の騎士CCP-711ただし,いずれも英語字幕と日本語字幕の切替が可能なもの。
13 (別紙)原告商品目録1白雪姫PSDA-0052ピノキオPSDA-0063ファンタジアPSDA-0014ダンボPSDA-0035バンビPSDA-0026シンデレラPSDA-0047不思議の国のアリスPSDA-0088ピーターパンPSDA-0079ガリバー旅行記PSDA-00910三人の騎士PSDA-01014 (別紙)著作物目録平成26年5月20日付け原告ら準備書面3の別紙のうち,以下の部分1白雪姫:1〜19,911〜921,943,944のナレーション2ピノキオ:1〜16の歌詞3ファンタジア:登場人物をカットしてナレーション処理をした部分4ダンボ:178〜208のナレーション5バンビ:12〜29,500〜502のナレーション6シンデレラ:1〜11の歌詞,12〜49のナレーション7ふしぎの国のアリス:18〜21の翻訳8ピーターパン:1〜16の歌詞9ガリバー旅行記:冒頭のガリバー自身のモノローグ10三人の騎士:396〜458の歌詞(日本語音声)15
裁判長裁判官 東海林保
裁判官 瀬孝
裁判官 勝又来未子