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事件 平成 24年 (ワ) 3677号 著作権侵害損害賠償等本訴,ブログ記事抹消等反訴請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/11/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第3677号,第7461号 著作権侵害損害賠償等本訴,ブロ

グ記事抹消等反訴請求事件

口頭弁論の終結の日 平成25年9月20日

判 決

埼玉県新座市<以下略>

原 告 ・ 反 訴 被 告 F

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 中 澤 佑 一

松 本 紘 明

同訴訟復代理人弁護士 船 越 雄 一

西 郷 豊 成

東京都港区<以下略>

被 告 ・ 反 訴 原 告 株式会社ジーオーティー

東京都千代田区<以下略>

被 告 ・ 反 訴 原 告 有限会社ジップス・ファ

クトリー

上記両名訴訟代理人弁護士 宗 村 森 信

酒 井 康 生

主 文

1 被告・反訴原告らは,原告・反訴被告に対し,連帯して6万60

00円を支払え。

2 原告・反訴被告は,被告・反訴原告株式会社ジーオーティーに対

し,40万円及びこれに対する平成24年3月28日から支払済

みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告・反訴被告は,別紙ブログ目録記載のブログにおける別紙記

事目録記載1,3ないし6の記事及び別紙ブログ目録記載のブロ

1
グにおける別紙投票プログラム記載の投票プログラム及びその投

票結果を抹消せよ。

4 被告・反訴原告有限会社ジップス・ファクトリーの請求並びに原

告・反訴被告及び被告・反訴原告株式会社ジーオーティーのその

余の請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告・反訴被告に生じた費用の1

2分の7と被告・反訴原告株式会社ジーオーティーに生じた費用

の4分の3と被告・反訴原告有限会社ジップスに生じた費用の3

分の2を原告・反訴被告の負担とし,原告・反訴被告に生じた費

用の12分の2と被告・反訴原告株式会社ジーオーティーに生じ

たその余の費用を被告・反訴原告株式会社ジーオーティーの負担

とし,原告・反訴被告に生じたその余の費用と被告・反訴原告有

限会社ジップスに生じたその余の費用を被告・反訴原告有限会社

ジップスの負担とする。

6 この判決は,第1,第2項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 本訴

(1) 被告らは,原告に対し,連帯して131万円を支払え。

(2) 被告株式会社ジーオーティーは,雑誌「実話大報」に,別紙謝罪広告文

記載の謝罪広告を2段2分の1頁の大きさで,標題部は20ポイント活字,

その余の部分は10ポイント活字で,1回掲載せよ。

2 反訴

(1) 反訴被告は,反訴原告らに対し,それぞれ100万円及びこれに対する反

訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 反訴被告は,別紙ブログ目録記載のブログにおける別紙記事目録記載1

2
ないし6の記事及び別紙ブログ目録記載のブログにおける別紙投票プログラ

ム記載の投票プログラム及びその投票結果を抹消せよ。

第2 事案の概要

本件は,本訴において,原告・反訴被告(以下「原告」という。)が,被告・

反訴原告(以下「被告」という。)らが漫画を掲載した雑誌を編集,発行した

ことが原告の著作物の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,被告ら

に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づく131万円の連帯支払,被告

株式会社ジーオーティー(以下「被告GOT」という。)に対し,著作権法1

15条に基づく謝罪広告の掲載をそれぞれ求め,反訴において,被告らが,原

告がブログに記事等を掲載したことが被告らの名誉,信用を毀損したと主張し

て,原告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づく各100万円及びこ

れに対する不法行為の後である反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法

所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉権に基づく記事等の

削除を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の

全趣旨により認められる事実)

(1) 原告は,風俗関係の記事を執筆するフリーのライターであり,別紙ブログ

目録記載のブログ(以下「本件ブログ」という。)を運営している者である。

被告GOTは,「実話大報」と題する雑誌(以下「本件雑誌」という。)等

を出版,販売している株式会社であり,被告有限会社ジップス・ファクトリ

ー(以下「被告ジップス」という。)は,被告GOTから本件雑誌等の編集を

請け負ってこれを行っている有限会社である。

(2) 原告は,
「混浴乱交サークル」と題する記事(以下「原告記事1」という。)

及び「生脱ぎパンティオークション乱交」と題する記事(以下「原告記事2」

という。)を記述し,平成22年7月30日に原告記事1を,同年1月10日

に原告記事2を本件ブログに掲載した。

3
(3) 被告らは,その編集,発行した本件雑誌の平成23年1月号に「裏風俗(珍)

紀行 1泊2日温泉裏ツアーで乱交三昧!! まんが/A」と題する漫画(以

下「被告漫画1」という。)を,同6月号に「裏風俗(珍)紀行 裏 マスコ

ミ初潜入!!オークションで興奮体験 マンガ/A」と題する漫画(以下「被

告漫画2」)を掲載した。

(4) 被告漫画1及び2は,被告ジップスの依頼を受けたAが原告記事1及び2

に依拠して作画したものである。

(甲7)

(5) 原告記事1の場面の流れは,別紙著作物対照表第1「原告ブログ記事1」

番号1記載のとおりであり,原告記事1には番号2ないし13記載の記述が

ある(以下「原告記事1各記述」といい,個別の記述は別紙著作物対照表の

番号欄記載の番号に従い「原告記事1記述2」のようにいう。 。被告漫画1


の場面の流れは,別紙著作物対照表第1「被告漫画」番号1記載のとおりで

あり,被告漫画1には原告記事1記述2ないし13に対応して番号2ないし

13記載の記述がある(以下「被告漫画1各記述」といい,個別の記述は別

紙著作物対照表の番号欄記載の番号に従い「被告漫画1記述2」のようにい

う。 。


原告記事2の場面の流れは,別紙著作物対照表第2「原告ブログ記事2」

番号1記載のとおりであり,原告記事2には番号2ないし8記載の記述があ

る(以下「原告記事2各記述」といい,個別の記述は別紙著作物対照表の番

号欄記載の番号に従い「原告記事2記述2」のようにいう。 。被告漫画2の


場面の流れは,別紙著作物対照表第2「被告漫画」番号1記載のとおりであ

り,被告漫画2には原告記事2記述2ないし8に対応して番号2ないし8記

載の記述がある(以下「被告漫画2各記述」といい,個別の記述は別紙著作

物対照表の番号欄記載の番号に従い「被告漫画2記述2」のようにいう。 。


(6) 被告漫画1及び2は,原告の実名又は変名が著作者として表示されていな

4
い。

(7) 原告は,平成22年1月6日ころから平成23年1月10日ころまでの間

に本件ブログに別紙記事目録記載1ないし6の記事(以下「本件記事1ない

し6」という。)を書き込み,投票プログラムを利用して別紙投票プログラム

記載のとおりの投票を募集した。

2 争点

(1) 原告の著作権の侵害の成否

(2) 原告の著作者人格権の侵害の成否

(3) 被告らの故意又は過失の有無

(4) 原告が受けた損害の額

(5) 謝罪広告の要否

(6) 被告らの名誉,信用毀損の成否

(7) 違法性の阻却及び原告の故意又は過失の有無

(8) 被告らが受けた損害の額

3 争点に対する当事者の主張

(1) 争点(1)(原告の著作権の侵害の成否)について

ア 原告

(ア) 原告記事1について

原告記事1各記述は,風俗サービスの内容を創作的に表現したもので

あり,被告漫画1各記述は,ストーリーや登場人物の行動等,原告記事

1各記述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,漫画という表

現を付加することによって創作されたもので,これに接する者が原告記

事1各記述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,

被告漫画1各記述は,原告記事1各記述を翻案したものである。

(イ) 原告記事2について

原告記事2各記述は,風俗サービスの内容を創作的に表現したもので

5
あり,被告漫画2各記述は,ストーリーや登場人物の行動等,原告記事

2各記述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,漫画という表

現を付加することによって創作されたもので,これに接する者が原告記

事2各記述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,

被告漫画2各記述は,原告記事2各記述を翻案したものである。

イ 被告ら

(ア) 原告記事1について

被告漫画1記述2,10,11及び13は,原告記事1記述2,10,

11及び13に類似せず,また,原告記事1記述3ないし9及び12は

単なる事実の記述又は平凡かつありふれた記述であり,被告漫画1記述

3ないし9及び12は,創作性のない部分で類似するにすぎない。

(イ) 原告記事2について

被告漫画2記述7及び8は,原告記事2記述7及び8に類似せず,ま

た,原告記事2記述2ないし6は単なる事実の記述又は平凡かつありふ

れた記述であり,被告漫画2記述2ないし6は,創作性のない部分で類

似するにすぎない。

(2) 争点(2)(原告の著作者人格権の侵害の成否)について

ア 原告

被告漫画1及び2は,原告記事1及び2各記述の翻案に当たる被告漫画

1及び2各記述を含むものであり,被告らは,原告の同意を得ることなく

原告の実名又は変名を著作者として表示せず,かつ原告の意に反して原告

記事1及び2各記述の表現を改変した。

イ 被告ら

被告漫画1及び2各記述は,原告記事1及び2各記述を翻案したもので

はない。

(3) 争点(3)(被告らの故意又は過失の有無)について

6
ア 原告

被告らは,原告の原告記事1及び2の著作権及び著作者人格権を侵害す

ることを知り又は過失により知らないで,被告漫画1及び2を掲載した本

件雑誌を編集,発行した。

イ 被告ら

被告らは,著作権侵害及び著作者人格権侵害について故意はない。また,

被告らは,無名の存在である原告記事を調査してライターを監督すべき義

務を負わないし,仮に被告らが義務を負うとしても,被告漫画1及び2か

ら原告記事1及び2を検索することはできず,これを調査することは不可

能であったから,被告らに過失はない。

(4) 争点(4)(原告が受けた損害の額)について

ア 原告

(ア) 原告が風俗関係の原稿執筆の依頼を受ける際の単価は,1件当たり

平均8万円を下らないから,原告は,原告記事1及び2の著作権の行使

につき受けるべき合計16万円に相当する額の損害を受けた。

(イ) 原告は,原告記事1及び2の著作者人格権を侵害され,これにより

精神的苦痛を被ったが,これを慰謝するには100万円が相当である。

(ウ) 被告らの侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は15万円

が相当である。

イ 被告ら

原告が風俗関係の原稿執筆の依頼を受ける際の単価が1件当たり平均8

万円を下らないことは否認し,その余の主張は争う。

(5) 争点(5)(謝罪広告の要否)について

ア 原告

原告の名誉又は声望を回復するために適当な措置として,被告GOTに

よる謝罪広告の掲載が必要である。

7
イ 被告GOT

原告の主張は争う。

(6) 争点(6)(被告らの名誉,信用毀損の成否)について

ア 被告ら

本件記事1,3ないし6は被告らが著作権侵害をしたことを内容とし,

本件記事2は被告ジップス代表者が著作権侵害をしたことを内容とするも

のであり,また,投票の募集は,被告GOTが著作権侵害をしたことにつ

いて行われたものであって,本件記事1,3ないし6及び別紙投票プログ

ラムの記載により被告GOTの名誉,信用等の社会的評価が低下し,本件

記事1ないし6及び別紙投票プログラムの記載により被告ジップスの名誉,

信用等の社会的評価が低下した。

イ 原告

被告らの主張する事実は否認する。

(7) 争点(7)(違法性の阻却及び原告の故意又は過失の有無)について

ア 原告

(ア) 原告は,自己が被害者となっている被告らによる著作権侵害行為を

告発し,さらなる著作権侵害行為を防止するために本件記事をブログに

掲載したのであり,原告の行為は,公共の利害に関する事実に係り,そ

の目的が専ら公益を図るものである。

(イ) 本件記事に摘示された被告らによる原告記事1及び2の著作権侵害

の事実は真実である。

仮にこれが真実であると認められないとしても,被告らの発行する本

件雑誌を含む雑誌に掲載された原告がブログに掲載した記事に類似する

記事の件数や類似の程度,被告ジップス代表取締役が盗作を認める謝罪

文を原告に送付していることからすれば,原告がそれを真実と信じるに

足りるについて相当の理由がある。

8
イ 被告ら

原告の主張は争う。

(8) 争点(8)(被告らが受けた損害の額)について

ア 被告ら

被告らは,名誉,信用毀損により,それぞれ100万円を下らない額の

損害を受けた。

イ 原告

被告らの主張は争う。

第3 当裁判所の判断

1 本訴

(1) 争点(1)(原告の著作権の侵害の成否)について

ア 原告記事1について

(ア) 原告記事1の場面の流れと被告漫画1の場面の流れは,ほぼ共通し,

同一性があるが,これはあらすじという表現それ自体でない部分におい

同一性があるにすぎないから,被告漫画1各記述が原告記事1各記述

翻案したものであるということはできない。

(イ) そこで,原告記事1各記述と被告漫画1各記述とを対比する。

a 原告記事1記述2は,風俗サービスに関する詳細な説明を記述して

いるのに対し,被告漫画1記述2は,主人公の短い発言のみを記述し

ているのであって,両記述は同一性がない。

b 原告記事1記述3ないし6は,極めて短く,筆者の個性が現れてい

るとみることはできないから,被告漫画1記述3ないし6の記述と同

一性があるとしても,表現上の創作性がない。

c 被告漫画1記述7と原告記事1記述7とは,相部屋の男性と会話し

たことやその会話の内容がほぼ共通し,同一性がある。原告記事1記

述7は,相部屋の男性とのやりとりを創作的に表現したものであり,

9
被告漫画1記述7は,原告記事1記述7の表現上の本質的特徴の同一

性を維持し,被告漫画1記述7を一読しただけで,その特徴を直接感

得することができる。

d 原告記事1記述8ないし10は,極めて短く,筆者の個性が現れて

いるとみることはできないから,被告漫画1記述8ないし10の記述

同一性があるとしても,表現上の創作性がない。

e 被告漫画1記述11と原告記事1記述11とは,露天風呂での場面

を記述している点及びその著述の順序でほぼ共通し,同一性がある。

原告記事1記述11は,露天風呂の場面を創作的に表現したものであ

り,被告漫画1記述11は,原告記事1記述11の表現上の本質的特

徴の同一性を維持し,被告漫画1記述11を一読しただけで,その特

徴を直接感得することができる。

f 原告記事1記述12は,極めて短く,筆者の個性が現れているとみ

ることはできないから,被告漫画1記述12の記述と同一性があると

しても,表現上の創作性がない。

g 被告漫画1と原告記事1記述13とは,主人公が深夜までセックス

三昧の時間が続いたことを記述する点でほぼ共通し,同一性がある。

しかし,これは情景を表現したものとしてありふれたもので表現上の

創作性はない。

(ウ) そうすると,被告漫画1記述7及び11は,原告記事1記述7及び

11を翻案したものということができるが,被告漫画1のその余の記述

は,原告記事1のその余の記述を翻案したものということはできない。

イ 原告記事2について

(ア) 原告記事2の場面の流れと被告漫画2の場面の流れは,ほぼ共通す

るが,これはあらすじという表現それ自体でない部分において共通する

にすぎないから,被告漫画2各記述が原告記事2各記述を翻案したもの

10
であるということはできない。

(イ) そこで,原告記事2各記述と被告漫画2各記述とを対比する。

a 被告漫画2記述2と原告記事2記述2とは,主人公が夕刊紙に見慣

れない広告を見つけたことを記述する点でほぼ共通し,同一性がある。

しかし,これは,情景を表現したものとしてありふれたもので,表現

上の創作性はない。

b 被告漫画2記述3と原告記事2記述3とは,主催者が女性のパンテ

ィーオークションをする旨発言したことを記述する点でほぼ共通し,

同一性がある。しかし,これは,情景を表現したものとしてありふれ

たもので,表現上の創作性がない。

c 被告漫画2記述4と原告記事2記述4とは,主人公が精算を済ませ

るとバスタオルを渡されて,簡単な注意を受けたことを記述する点で

ほぼ共通し,同一性がある。しかし,これは,情景を表現したものと

してありふれたもので,表現上の創作性がない。

d 被告漫画2記述5と原告記事2記述5とは,主人公が女性の尻をな

で回したこと,下着ごしに女性の性器を指で触ると下着にしみができ

たことを記述する点でほぼ共通し,同一性がある。これらは,風俗サ

ービスの内容を創作的に表現したものであり,被告漫画2記述5は,

原告記事2記述5の表現上の本質的特徴の同一性を維持し,被告漫画

2記述5を一読しただけで,その特徴を直接感得することができる。

e 被告漫画2記述6と原告記事2記述6とは,主人公が周囲の声に応

えてパンティーを頭から被ったこと,恥ずかしいという心情が記述さ

れている点でほぼ共通し,同一性がある。これらは,風俗サービスの

内容,主人公の心情を創作的に表現したものであり,被告漫画2記述

6は,原告記事2記述6の表現上の本質的特徴の同一性を維持し,被

告漫画2記述6を一読しただけで,その特徴を直接感得することがで

11
きる。

f 被告漫画2記述7と原告記事2記述7とは,主人公と女性がシック

スナインの状態にあることを記述する点でほぼ共通し,同一性がある。

しかし,これは情景を表現したものとしてありふれたもので,表現上

創作性がない。

g 被告漫画2記述8と被告漫画2記述8とは,主人公のほか,見てい

た2人の男が乱入したことを記述する点でほぼ共通し,同一性がある。

しかし,これは,情景を表現したものとしてありふれたもので,表現

上の創作性がない。

(ウ) そうすると,被告漫画2記述5及び6は,原告記事2記述5及び6

翻案したものということができるが,被告漫画2のその余の記述は,

原告記事2のその余の記述を翻案したものということはできない。

ウ したがって,被告らは,被告漫画1記述7及び11を不可分的に有する

被告漫画1を掲載した本件雑誌平成23年1月号を編集,発行し,被告漫

画2記述5及び6を不可分的に有する被告漫画2を掲載した本件雑誌平成

23年6月号を編集,発行し,これにより,原告の原告記事1及び2の著

作権(翻案権)を侵害したものと認められる。

(2) 争点(2)(原告の著作者人格権の侵害の成否)について

ア 原告記事1について

被告漫画1は,原告の著作物を原著作物とする二次的著作物を含むとこ

ろ,被告らは,本件雑誌の平成23年1月号の編集,発行に際し,被告漫

画1に原告の氏名を著作者として表示しなかったから,被告らは原告の氏

名表示権を侵害したと認められる。

また,被告漫画1記述7及び11は,原告記事1記述7及び11につい

て,漫画にする方法により,原告の著作物における表現上の本質的特徴を

維持しつつその外面的な表現形式に改変を加えて記述されたものであり,

12
被告らは,被告漫画1を掲載した雑誌を編集,発行したから,原告の同一

性保持権を侵害したと認められる。

イ 原告記事2について

被告漫画2は,原告の著作物を原著作物とする二次的著作物を含むとこ

ろ,被告らは,本件雑誌の平成23年6月号の編集,発行に際し,被告漫

画2に原告の氏名を著作者として表示しなかったから,被告らは原告の氏

名表示権を侵害したと認められる。

また,被告漫画2記述5及び6は,原告記事2記述5及び6について,

漫画にする方法により,原告の著作物における表現上の本質的特徴を維持

しつつその外面的な表現形式に改変を加えて記述されたものであり,被告

らは,被告漫画2を掲載した雑誌を編集,発行したから,原告の同一性

持権を侵害したと認められる。

(3) 争点(3)(被告らの故意又は過失の有無)について

証拠(甲5)によれば,本件ブログは「Yahoo!検索」 「Googl


e検索」において「三行広告」のキーワードで検索すると検索結果の6番目

に表示されることが認められるから,被告らは,Aから被告漫画1及び2の

提供を受けるに当たり,その記述をインターネットで検索するなどして調査

すれば,被告漫画1及び2の記述の中に原告記事1及び2に似た記述がある

ことを知ることができたと認められる。それにもかかわらず,被告らは調査

を怠ったのであるから,被告らには,原告記事の著作権及び著作者人格権

侵害したことについて過失がある。

(4) 争点(4)(原告が受けた損害の額)について

ア 証拠(甲9)によれば,被告ジップスがライターに支払う原稿料は1頁

あたり5000円であることが認められるところ,被告漫画1記述7及び

11は頁数で1頁を超えるものではなく,被告漫画2記述5及び6は,頁

数で1頁を超えるものではないことが認められる。

13
そうすると,原告が原告記事1及び2の著作権行使につき受けるべき金

銭の額は,1万円を超えるものではないと認められる。

イ 原告は,被告らによる原告記事1及び2の著作者人格権侵害行為により

精神的苦痛を被ったものであり,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,

その精神的苦痛に対する慰謝料の額は5万円とするのが相当である。

ウ 本件事案の内容,審理経過,前記認容額その他諸般の事情を考慮すると,

被告らの侵害行為と相当因果関係にある弁護士費用の額は6000円と

するのが相当である。

(5) 争点(5)(謝罪広告の要否)について

被告らの著作者人格権侵害行為により,原告の社会的声望名誉が毀損され

たことを認めるに足りる証拠はない。

(6) 以上によれば,本訴は,原告の損害賠償請求のうち6万6000円の支

払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。

2 反訴

(1) 争点(6)(被告らの名誉,信用毀損の成否)について

ア 被告GOTについて

(ア) 本件記事1,3及び4について

被告GOTは出版社であるところ,本件記事1には,「無料公開して

いるブログから盗作を繰り返し,毎月複数誌で著作権侵害を続ける悪質

極まりない出版社「ジーオーティー」」との記載があり,本件記事3のタ

イトル及び本文には「著作権侵害を繰り返す出版社「ジーオーティー」」

との記載があり,本件記事4の本文には「出版社 (株)ジーオーティー」


が発行する複数の雑誌に於いて著作権侵害されてきた」 「盗作をやめる


どころかほぼ毎月のようにブログの記事を盗んで雑誌を作り,利益を貪

るという悪行を続けている。 との記載がある。
」 本件記事1,3及び4は,

一般の読者の読み方に照らし,被告GOTが著作権侵害行為を繰り返し

14
ているとの印象を与えるから,出版社である被告GOTの名誉,信用等

の社会的評価を低下させるものである。

(イ) 本件記事5及び6について

本件記事5及び6の記事には,被告GOTを明示する記載は全くない

が,本件記事5の本文には「丁度1年前に発覚した出版社による著作権

侵害。 ,
」 「ブログを削除させようと裏工作まで仕掛けてきた。」との記載

があり,本件記事6の本文には「盗作及び著作権侵害をしておきながら

自分たちに都合の悪い記事を次々と削除させ,」との記載があり,本件記

事5及び6と同時に表示される投票プログラムには, ジーオーティーの


盗作行為についてどう思う?」との記載がある。本件記事5及び6の記

載は,著作権侵害行為があったことを内容とするものであり,投票プロ

グラムの記載も併せて読めば,著作権侵害行為をしたのが被告GOTで

あることは容易に特定することができるのであって,一般の読者の読み

方に照らし,被告GOTが著作権侵害行為をしたとの印象を与えるから,

出版社である被告GOTの名誉,信用等の社会的評価を低下させるもの

である。

(ウ) 投票プログラムについて

投 票プ ロ グ ラ ム には , ジ ーオ ー テ ィ ー の 盗作 行 為 に つ いて ど う 思


う?」との記載があるところ,このような記載は,一般の読者の読み方

に照らし,被告GOTが著作権侵害行為をしたとの印象を与えるから,

出版社である被告GOTの名誉,信用等の社会的評価を低下させるもの

である。

イ 被告ジップスについて

(ア) 本件記事2について

本件記事2の記事のタイトル及び本文に,「Bにまた盗作されていた」

との記載があるが,Bが被告ジップスの代表取締役であることを一般の

15
読者が認識しているということはできず,被告ジップスが著作権侵害

為を繰り返しているとの印象を与えるものとはいえないから,本件記事

2が被告ジップスの名誉,信用等の社会的評価を低下させると認めるこ

とはできない。

(イ) 本件記事1,3ないし6及び投票プログラムについて

本件記事1,3ないし6及び本件投票プログラムに,被告ジップスを

示す記載は一切なく,これらが被告ジップスの名誉,信用等の社会的評

価を低下させると認めることはできない。

(2) 争点(7)(違法性の阻却及び原告の故意又は過失の有無)について

ア 本件記事1,3ないし6及び投票プログラムの記載は,出版社である被

告GOTが著作権侵害行為をした事実を内容とするものであり,原告がこ

れを本件ブログに掲載する行為は,企業の社会的責任に関するものとして,

公共の利害に関する事実に係るものと認められる。

イ 前提事実及び証拠(乙2の1ないし6)によれば,本件ブログの「使用

上の注意」欄に,
「レポートは筆者の体験を基にした創作でありフィクショ

ンです。登場する人物・団体・広告はすべて架空のもので,実在するもの

とは一切関係がありません。掲載されている店の問い合わせには一切答え

られません。」との記載があることが認められる。

ところで,原告は,本件訴訟において,原告記事1及び2は,執筆者が

自己の体験した風俗サービスをレポートするという表現形式を採用した全

く架空の物語を内容とする小説であり,風俗サービスの内容,料金等を含

めてすべて原告の創作であると主張するところ,これは,体験を基にした

創作であるとする本件ブログの「使用上の注意」の記載と異なる。そして,

原告は,本件記事4に「盗作によって直接な利益が出なくても,数万かか

る取材費や原稿料が浮くだけでも十分な利益と言えるはず。」と記載し(乙

2の4),本件記事5に「被害総額は取材費だけで40万円超!」と記載し

16
て,あたかも原告が風俗サービスを取材し,これを体験したかのように装

って,本件記事において,被告GOTを,
「悪質極まりない」「利益を貪る


という悪行を続けている」 「極悪非道すぎる」 「
, , “悪”」などと評して攻撃

しているのである。そうであるから,原告は,虚偽の事実を作出して被告

GOTを非難し,これにより,ことさらに被告GOTの名誉,信用等の社

会的評価を低下させることのみを目的としているといわなければならず,

その目的が専ら公益を図るものであると認めることはできない。

ウ そうすると,原告が,本件記事1,3ないし6及び投票プログラムの記

載を本件ブログに掲載した行為は,違法性がないということはできない。

また,そうであるから,原告には被告GOTの名誉,信用を毀損したこ

とについて,故意があるといわなければならない。

(3) 争点(8)(被告らが受けた損害の額)について

本件に現れた一切の事情を考慮すれば,被告GOTは,原告による名誉,

信用毀損行為により40万円の損害を被ったと認めるのが相当である。

(4) 本件記事1,3ないし6及び投票プログラムの記載は,被告GOTの名

誉,信用等の社会的評価を低下させるものであり,これらの記事等が削除さ

れない限り,被告GOTに更なる損害が発生することが予想されるから,被

告GOTは,その名誉権に基づき,現に行われている侵害行為を排除するた

めに,本件記事1,3ないし6及び投票プログラム等の記載の削除を求める

ことができるというべきである。

(5) 以上によれば,反訴は,被告GOTについて,損害賠償請求のうち40万

円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成

24年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害

金の支払を求める限度,抹消請求のうち本件記事1,3ないし6及び投票プ

ログラム等の記載の抹消を求める限度でそれぞれ理由があるが,その余は理

由がなく,被告ジップスについて,その請求はすべて理由がない。

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3 よって,原告の本訴請求は,被告らに対し6万6000円の支払を求める限

度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却するこ

ととし,被告GOTの反訴請求は,原告に対し40万円及びこれに対する平成

24年3月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並

びに本件記事1,3ないし6及び投票プログラムとその投票結果の抹消を求め

る限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,

被告ジップスの反訴請求は,すべて理由がないからいずれも棄却することとし

て,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 高 野 輝 久




裁判官 三 井 大 有




裁判官 藤 田 壮




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