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事件 平成 21年 (ネ) 10051号 損害賠償請求控訴事件
控訴人X
被控訴人有限会社東洋コムテック
訴訟代理人弁護士堀川敦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/12/24
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴人の求めた裁判1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,506万円及びこれに対する平成20年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要【略語は原判決の例による】1一審原告たる控訴人は,フリーのカメラマンであり,個人で写真事務所を経営している。
一審被告たる被控訴人は,電気工事業等を行う有限会社(平成18年5月1日以降は特例有限会社)であり,その代表者であるAは,かつてはアマチュアのオートバイレーサーをしていたことがある。
2一審被告たる被控訴人は,平成17年2月ころ,オートバイレース参加者の走行中の写真を撮影しそれをレース終了後即時に販売する事業(本件写真販売事業)を企画し,平成17年3月上旬ころ一審原告たる控訴人に対し,同事業の内容を説明して参加を持ち掛け,控訴人が本件写真販売事業の写真撮影を行うことで合意した。控訴人は,上記合意に基づき,平成17年5月・7月・8月・9月・11月及び平成18年1月・3月・5月のオートボーイ杯等(合計8回)の撮影を行ったほか,筑波サーキットで行われた平成18年7月13日の第1回ライコランド走行会・同年9月21日の第2回ライコランド走行会でもその写真撮影を行った。
3本件訴訟は,控訴人が上記第1回及び第2回ライコランド走行会において撮影して控訴人に提供した,走行中のオートバイを被写体とする写真(本件写真)につき,被控訴人がアップデザインズ社を通じてライコランド社にその電子データを提供し,同社が控訴人の承諾なく上記写真を自らのホームページやポスターに掲載したことから,控訴人が被控訴人に対し,上記写真についての著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償請求として,著作権侵害分356万円・著作者人格権侵害分150万円の合計506万円及びこれに対する訴状送達の後である平成20年5月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
4原審における争点は,?本件写真は使用者たる被控訴人のために作成された職務著作であるか(著作権法15条1項),?控訴人は,被控訴人が本件写真の電子データを本件各走行会の主催者に交付し,そのホームページ等においてこれを利用することを許諾していたか,?その損害額,等であった。
原審の水戸地裁龍ヶ崎支部は,平成21年6月26日,上記争点?について本件写真の職務著作性を肯定して控訴人の請求を棄却したので,これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。
5 当審における争点も,原審における争点と同様である。
第3当事者の主張当事者双方の主張は,次に付加するほか,原判決「第2 事案の概要」及び「第3 争点」記載のとおりであるからこれを引用する。
1当審における控訴人の主張控訴人の主張の詳細は,別紙控訴理由書記載のとおりである。その要点は,本件における事実関係の下では本件写真が被控訴人のための職務著作に該当しない,等とするものである。
2 当審における被控訴人の主張本件写真につき職務著作性を肯定した原判決は正当であり,控訴人の主張は理由がないとするものである。
第4 当裁判所の判断当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は,原判決第2,2「前提となる事実」のほか,次のとおりである。
1証拠(甲1〜7,10,12,乙1,2の1・2,3の1・2,4の1・2,5,6,9,10,11の1・2,18,19,24,第一審原告本人,第一審被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)控訴人は,フリーのカメラマンであり,個人で写真事務所を経営している。
一方,被控訴人は,電気工事業,写真の撮影,加工及び販売等を行う有限会社であり,その代表者であるAは,かつてはアマチュアのオートバイレーサーをしていたことがあり,控訴人とは中学の同級生の関係にある。
(なお,控訴人は被控訴人は電気工事以外できない会社である等と主張するが,被控訴人は,本件写真販売事業を行うことにより,写真の撮影,加工及び販売を行っているといえるし,被控訴人が撮影機材を所有していないことや写真撮影のできる社員が存在しないことは,原判決及び上記認定を覆すものではない。)(2)被控訴人代表者Aは,平成17年2月ころ,オートバイレース参加者の走行中の写真を撮影し,それをレース終了後直ちに販売する本件写真販売事業を企画し,同年3月上旬ころ,控訴人に対し,同事業の内容を説明して参加を持ち掛け,控訴人が本件写真販売事業の写真撮影を行うこと,報酬は1回当たり2万円とすることを合意した。
(3)上記合意は口頭によるものであり,契約書が交わされることはなかったが,被控訴人代表者Aは控訴人に対し,被控訴人が走行会主催者に提出する企画書(乙1)を提示し,その概要を説明した(同書の交付はしていない。)。
なお,本件写真販売事業において,走行写真のデータを無償で走行会主催者に交付し,ホームページ等での自由な使用を許諾することは,被控訴人が走行会主催者から無料での出店承認を得る上でセールスポイントとなるものであった。
(4)上記企画書の内容は,その1頁が「Quick Photo Service〜思い出の一瞬をプロのカメラマンが撮影〜企画 (有)東洋コムテック」その2頁が「例えば・・・・プロのカメラマンにかっこいい写真を撮ってもらいたいけど,どこに言えばいいのか・・・・友人が写真を撮ってくれるけど,いまいち・・・・デジカメで写真を撮ってもらったけど引き延ばしたら画像が悪くなってしまった。
・大会の打ち上げで写真を見ながら盛り上がりたい!」その3頁が「Concept》アマチュアスポーツ大会,イベント等において,プロカメラマンにより写真を撮影,商用昇華型プリンターならではの精彩な写真をプリンティング。
大会,イベントの興奮をリアルタイムに会場内にて展示,販売。」その4頁が「Q.プロのカメラマンに写真を撮ってほしいですか?(以下略)」その10頁が「大会主催者様へ・エントラント様へのサービスの一環としてお考え下さい。
・大会主催者様には,当日撮影した全てのデータを後日CD-Rにて差し上げますので,ホームページ,パンフレット等の媒体に自由に使用する事が出来ます。(写真,データの販売は出来ません)」等とするものであった。
(5)上記合意に基づき,控訴人は,平成17年5月・7月・8月・9月・11月及び平成18年1月・3月・5月に開催されたオートボーイ杯等の写真撮影をしてこれを被控訴人に提供し,被控訴人は控訴人からの請求に基づき翌月末にその報酬として各2万円(うち1回だけ実働時間が短かったため1万2000円)を支払った。
(6)控訴人は,Aからの指示により,オートボーイ杯において控訴人が撮影した写真の電子データを自ら媒体に記録して主催者に持参したことがあったが,これにつき控訴人はAに対し異議を述べたことはなかった。
(7)本件訴訟の対象となっている写真(本件写真)は,平成18年7月13日に開催された第1回ライコランド走行会及び同年9月21日開催された第2回ライコランド走行会に関するものであるが,上記第1回走行会の前日である平成18年7月12日に至り,控訴人は被控訴人代表者Aに下記内容のメール(甲5)を送信したが,これを受けたAは特段の返答をすることはなかった。
記「おつかれです。
Xです。明日の走行会でひとつ御願いが・・・。
画像データの販売について。
基本的には販売しない方向で,考える。
もし,販売する場合!必ずXの撮影「クレジット」を入れて販売する。
・・・(中略)・・・要は,著作者の権利はXに有る!と言う事を確認したいのと,主催者側が,宣伝,告知などの営利目的(ポスター,WEBサイト等)でのXの写真を使用する場合はXへの使用許可が必要である,などの確認です。
※オートボーイでの走行会や,レースではプリント販売以外の使用に関しての取り決めを行っておりませんでしたので,確認のメールです。
以上の事で御願いします。」(8)Aは,第1回ライコランド走行会当日,控訴人が隣にいる席で,アップデザインズ社に対し,ライコランド社のホームページに控訴人の撮影した写真を載せる際,控訴人の名前を表示するよう依頼し,アップデザインズ社はこれを了承した。
(9)ア本件写真販売事業は,パソコンでの印刷等を行うPCデータ班(1名又は2名),宣伝及び販売等の接客を行う受付(1名から3名),撮影(1名),撮影補助(受付も兼ねる。1名)に分かれて行われた。
具体的には,撮影担当は,サーキットコース内で参加者の走行写真を撮影し,当該写真のデータが記録された媒体をその場で撮影補助担当に渡し,撮影補助担当は,走行会会場内に駐車した被控訴人の車両内で印刷作業を行うPCデータ班に当該媒体を渡し,PCデータ班はインクジェットプリンタで各参加者のインデックス写真を印刷するとともに,「本日のベストショット」と称する見本写真を実際の販売用写真に用いる高性能の昇華型プリンタで印刷することを行った。
見本写真と各参加者のインデックス写真は,上記車両の近くに設営された販売ブース(テント)に展示され,受付担当が参加者の購入申込みを受け付けた。購入を希望する参加者は,自分のインデックス写真の中から希望する写真の番号を申込用封筒に記入して購入を申し込み,申込みがあると,PCデータ班が昇華型プリンタで当該写真を印刷し,受付担当がこれを購入希望者に交付して販売した。
イAは,あらかじめ,本件業務における各担当者の作業と円滑な運営や販売成績向上のための各担当ごとの留意点等を定め,これを書面化したもの(乙3の1・2)を各担当者に交付して打合せを行うなどして,必要事項を伝達したが,Aが控訴人の写真撮影に関してした指示は,概ね次のようなものである。
(ア)撮影場所について,本件写真販売事業を始めた当初は,撮影するコーナー,カーブを「第1ヘアピンカーブ」などと具体的に指示した。ただし,控訴人が撮影に慣れてきてからは,控訴人に撮影場所の選択を任せることもあった。また,1人の購入者に3枚以上の写真を販売することを目標とし,3枚以上の写真購入者には価格を割り引くサービスを実施していたため,同一の参加者につき異なる構図の走行写真を3枚用意できるように,3か所以上で撮影するように指示した。
(イ)被写体について,参加者全員の写真を販売するため,AらPCデータ班が,参加者のリストと販売用に展示する写真とを照らし合わせながら,撮影されていない,又は3つ以上の構図で撮影されていない参加者の車両番号等を伝え,また,普段走行会で多数の写真を購入する参加者の車両番号等も伝えて,こうした参加者の走行写真を撮影するように指示した。
(ウ)昇華型プリンタの性能,設定に合わせて適正に印刷するため,縦長で撮影することを禁止し,画像サイズはLサイズではなくSサイズと指定した。
(エ)撮影した写真の電子データ授受の方法について,参加者に走行直後での写真販売という特長を宣伝するため,走行会開始後しばらくは比較的短い間隔で記録媒体をPCデータ班に渡すように指示した。
ウ控訴人は,撮影機材として,走行するオートバイを撮影するのに適した連続撮影の可能なカメラ(デジタルスチールカメラ)を選び,その他,オートバイを大きく写すなどするためのレンズと2倍のエクステンダー,一脚等を準備した上,走行するオートバイを撮影するのに最適なシャッタースピード,絞り値(光量),ISO感度を選択して撮影をした。
(10) 第2回ライコランド走行会の翌日である平成18年9月22日に控訴人は被控訴人代表者Aにメール(乙18)を送信したが,その内容は下記のとおりである。
記「お疲れ様です,Xです。
本来ならば,直接話して意見を言いたい所なのですが,忙しそうなのでメール差し上げました。
・・・(中略)・・・XとA仲だから,ぶっちゃけて言いますよ!ライコランド側に,データーを無料提供は待って欲しい。
撮影者への使用許可と?と言うかライコ側からのデータ使用料(ギャラ)の請求をしたいと考えたいのですが!Xが撮影した写真をライコのポスターに使うのであれば,当然の事でしょ!(以下略)」(11)被控訴人代表者Aは,平成18年9月22日には上記メールに対し返信のメール(甲7)を送信したが,その内容は下記のとおりである。
記「昨日はお疲れ様でした。
おかげさまで,Quick Photo Service 始まって以来の売上がありました。
ありがとうございました。
さて,初めに著作権云々との事ですが,去年3月にQuick Photo Serviceが始まる以前に二人で中央のロイヤルホストで企画書をお見せしたことをお覚えでしょうか?そこに『大会主催者様へ大会主催者様には,当日撮影した全てのデータを後日CD-Rにて差し上げますので,ホームページ,パンフレット等の媒体に自由に使用する事が出来ます。(写真,データの販売は出来ません)』また,『販売料金例当日プリント 105×150 1枚1000円当日プリント 105×150 5枚4000円著作権フリーデータ 1枚分1200円(データはCD-Rにて後日郵送)と,明記してあります。
今まで,『それらの事柄に賛同した上で写真を撮ってもらっていた』と解釈しておりました。
更に,Xさんには『一枚売れていくら』と言う契約ではなく,『一日の撮影報酬』と言う形でお手伝い頂いている訳です。
上記の事を踏まえると,アップデザインへの直接のメールや,ライコ側へのデータ使用料の請求と言うのは筋違いではないでしょうか?(以下略)」(12) これに対し控訴人は平成18年9月22日にAに返信したが(乙19),その内容は下記のとおりであった。
記「A様メールありがとうございます。
以下,私の考えです。
・・・(中略)・・・この話はオートボーイ杯に関しての事で,ライコランド走行会に関してはお話ししておりません。
会社が違ければ,契約もまた別の話し。
ライコをやる以前に,Xから改めて契約の話しをしましたよね!なぜ,その時具体的に話しをしなかったのでしょうか?少なくとも,私は意見差し上げましたが,A様側からは具体的な話しは無し!・・・(中略)・・・筋違いかどうかは分かりませんが,私は御社の従業員の前にX写真事務所の人間です。契約どうこういう以前に,写真家の撮影した写真は御社の物ではございません!写真の使い方に関しては,契約どうこうに著作者であるXにいつ,どのような使い方をするとい言う事が伝える必要があるのでは?この場合,著作者への無断使用!(著作権の侵害)にあたります。
(以下略)」なお,同日,Aは控訴人に対し,添付ファイルの形で前記(4)の企画書(乙1)を送信した。
因みに上記第1,2回ライコランド走行会の撮影料各2万円も,本件各走行会の翌月末までに控訴人に支払われている。
(13) 控訴人が撮影した第1回ライコランド走行会の写真は,走行会終了後,ライコランド社のホームページ及び第2回走行会の広告用ポスターに,第2回ライコランド走行会の写真は,走行会終了後,ライコランド社のホームページに掲載された。本件各走行会の模様を伝える写真として掲載された上記ホームページ上の本件写真には「PHOTO BY X」,ポスター上の本件写真には「PHOTO X」のクレジットが付されている。
2 著作権(複製権,譲渡権)侵害を理由とする損害賠償請求について一審原告たる控訴人は,同人が平成18年7月13日の第1回ライコランド走行会及び同年9月21日のライコランド走行会で撮影した本件写真を被控訴人が控訴人の承諾なく主催者に提供し,これを受けたライコランド社が「ライコランドホームページ」及びイベント告知のポスターに掲載したことは,控訴人が有する本件写真に対する著作権(複製権,譲渡権)を侵害する違法な行為であると主張し,これに対し一審被告たる被控訴人は,本件写真は被控訴人のための職務著作であってその著作権は被控訴人に属する,仮にそうでないとしても上記提供は控訴人の予めの利用許諾を得ているから,違法でない等と主張する。そこで,前記1記載の事実関係を前提として,本件写真の職務著作性の有無,本件利用許諾の有無について,順次検討する。
(1) 職務著作性の有無(争点1)ア職務著作について定めた著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とすると定めているところ,「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。
イそこで,上記見解に立って本件をみるに,前記のとおり,控訴人は被控訴人の被用者ではなく,フリーのカメラマンとして個人で写真事務所を経営しているものあること,本件各走行会において控訴人は,本件写真販売事業においては控訴人の一般的指揮の下に撮影を行ったが,撮影に当たってはプロのカメラマンとしてこれを実施したこと,第1回走行会の前日である平成18年7月12日に,控訴人の撮影した写真であることを明示してもらうため被控訴人に対し,控訴人撮影のクレジットの挿入を要求し,現にライコランド社のホームページに掲載された本件写真には「PHOTO BYX」なる撮影クレジットが挿入されていること等の事実を認めることができ,これらを総合勘案すれば,控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり,被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできない。
ウそうすると,本件写真は職務著作であるとする被控訴人の主張はこれを採用することができないことになり,これを肯定した原判決の見解は採用できないということになる。
そこで,進んで,原審における争点2(控訴人は,被控訴人が本件写真の電子データを本件各走行会の主催者に交付しそのホームページ等においてこれを利用することを許諾していたか)について,判断することとする。
(2) 利用許諾の有無(争点2)ア前記1の認定事実,ことに平成17年3月の合意の際に控訴人がAから本件企画書を示されていることは当事者間に争いがない上,本件企画書にはオートバイ走行会で撮影された写真の電子データを被控訴人から主催者に交付することが明記されており,その内容は被控訴人が本件写真販売事業を行うに際して重要な事項であることからすれば,Aはそのことを控訴人に説明したと認めるのが相当である。また,控訴人は,Aからの指示により,オートボーイ杯において控訴人が撮影した写真の電子データを自ら媒体に記録して主催者に持参したことがあったが,これにつき控訴人はAに対し異議を述べたことはない上,本件各走行会後に本件写真の著作者をめぐって控訴人とAとの間で交わされた電子メールの中で,控訴人はAから平成17年3月の合意の際に示した本件企画書中に上記電子データの扱いについての記載があることを指摘されたのに対し,「この話はオートボーイ杯に関しての事で,ライコランド走行会に関してはお話ししておりません。」と返信しており,主催者への無償提供に関する説明を受けたこと自体は否定していないところ,かかる控訴人の態度は,オートバイ走行会で控訴人が撮影した写真の電子データを被控訴人から主催者に交付することを承諾していたことを前提としたものであるといえる。そうすると,Aは,平成17年3月の合意の際,控訴人に対し,本件業務において扱った写真データは,後日走行会の主催者側に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを説明し,控訴人はこれを承諾したと認めるのが相当である。
イ控訴人は,本件第1回走行会前の平成18年7月12日,Aに対し,本件第1回走行会において控訴人が撮影する写真の著作者は自分である旨のメール(甲5)を送信し,その中で,主催者側がポスター・ウェブサイト等で控訴人の写真を使用する場合は使用許可が必要である旨の内容が含まれているが,控訴人が上記メールをAに送信したのは本件第1回走行会の前日という時間的猶予のない段階である上,被控訴人が控訴人の意向を承諾したと認めることもできないことからすれば,上記メールをもって前記利用許諾の合意が変更されたと認めることはできない。
ウそうすると,控訴人は,本件各走行会の終了後,被控訴人が本件写真を走行会の主催者に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを許諾していたと認めることができる。
(3)以上のとおり,控訴人が撮影した本件写真について職務著作は成立せずその著作権は控訴人にあることになるが,控訴人は被控訴人に対し予めその利用許諾をしていたことになるので,本訴請求のうち著作権侵害(356万円と付帯請求)に係る部分は理由がないことになる。
3著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害を理由とする損害賠償請求について一審原告たる控訴人は,被控訴人がアップデザインズ社を通じてライコランド社に本件写真の電子データを提供し,控訴人の承諾なく画像サイズが縮小されるなどした上,控訴人のクレジットが付されて同社のホームページやポスターに掲載したことにより,著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたと主張するのに対し,一審被告たる被控訴人は,本件写真をライコランド社のホームページに掲載したのは被控訴人ではないし,控訴人のクレジットが付されたのは控訴人の要望によるものであるから,著作者人格権侵害はない等と主張するので,以下検討する。
(1)前記1の認定事実によれば,本件写真は,本件各走行会において,被控訴人の販売用テント前でインデックス写真等として展示されていることが認められる。そして,著作物は展示の方法で公衆に提示された場合において公表されたものとなるところ(著作権法4条1項),控訴人は本件写真を本件各走行会において即時販売用に展示することは承諾していたと認められるから,本件写真がライコランド社のホームページやポスターに掲載された時点では既に著作者の同意を得た公表がされていることになり,著作権法18条1項の「まだ公表されていないもの(著作者の同意を得ないで公表された著作物を含む。)」に該当しない。
なお,控訴人は著作権法にいう公表とはメディアに公表することであると主張するが,かかる見解は独自の見解であって採用することができない。
よって,控訴人の公表権侵害を認めることはできない。
(2)また前記1の認定事実によれば,ライコランド社のホームページやポスターに控訴人の撮影クレジットが掲載されたのは,控訴人の要望によるものであることが認められる。したがって,控訴人の意に反する氏名の表示がなされたと認めることはできず,氏名表示権侵害の事実を認めることはできない。
(3)さらに,本件写真がライコランド社のホームページや広告用ポスターにおいて,サイズの縮小やトリミング加工がなされた状態で掲載されていることを認めるに足りる証拠はないし,被控訴人が本件写真の電子データのサイズの縮小やトリミング加工を施したことを認めるに足りる証拠もない。よって,控訴人主張の同一性保持権侵害の事実を認めることはできない。
4結語以上のとおり,控訴人の撮影した本件写真につき職務著作性を認めることはできず,これを肯定した原判決は失当であるが,控訴人は被控訴人に対し本件写真の無償利用の許諾をしており,かつ著作者人格権侵害の事実も認められないから,控訴人の本件損害賠償請求は理由がない。
そうすると,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は,結論において相当であるから,本件控訴は理由がなく,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 真辺朋子
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