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関連ワード 創作性 /  著作者 /  職務著作 /  法人等の発意 /  法人等の業務 /  著作者人格権 /  氏名表示権 /  複製権 /  著作権の譲渡 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 2886号 損害賠償等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 大崎康博
同 三戸岡耕二
同 三木祥史
同 金野志保
同 石上麟太郎
被告 積水化学工業株式会社
被告 セキスイハイム大阪株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 岩城裕
被告 株式会社日本エスピー・センター
訴訟代理人弁護士 阪口春男
同 今川忠
同 岩井泉
同 原戸稲男
同 阪口祐康
同 豊浦伸隆
同 西山宏昭
同 山岸正和
同 嵩原安三郎
同 寺田明日香
同 木村智彦
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/01/17
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社日本エスピー・センターは、原告に対し、68万円及びこれに対する平成15年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告積水化学工業株式会社及び同セキスイハイム大阪株式会社に対する請求並びに被告株式会社日本エスピー・センターに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告及び被告株式会社日本エスピー・センターに生じた費用のそれぞれ20分の1を被告株式会社日本エスピー・センターの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告らは、原告に対し、1000万円及びこれに対する被告積水化学工業株式会社及び同日本エスピー・センターは平成15年4月24日(両被告に対する訴状送達の日の翌日)から、被告セキスイハイム大阪株式会社は同月25日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告日本エスピー・センターは、原告に対し、別紙目録記載の撮影フィルムを引き渡せ。
事案の概要
本件は、広告写真家である原告が、@ その撮影した写真を原告の許諾なく、かつ、撮影者である原告の氏名を表示しない態様で、新聞広告に使用した行為は、原告の著作者人格権(氏名表示権)及び著作権(複製権)を侵害したものであり、これは被告らの共同不法行為であると主張して、被告らに対し、損害賠償を請求し(ただし、一部請求である。)、A その撮影し、被告日本エスピー・センターが保管している写真フィルムは、原告の所有にかかるものであると主張して、同被告に対し、所有権に基づき、その返還を請求した事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1) 原告は、広告写真家である。
被告積水化学工業株式会社(以下「被告積水化学」という。)は、建築材料等の製造、加工及び売買等を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。
被告セキスイハイム大阪株式会社(以下「被告セキスイハイム大阪」という。)は、建築工事及び土木工事の設計、施工、請負並びに工事監理等を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。同社は、平成14年4月1日に、セキスイツーユーホーム大阪株式会社(以下「セキスイツーユーホーム大阪」という。)を吸収合併した(被告積水化学と、平成14年3月31日までについてはセキスイツーユーホーム大阪、同年4月1日以降については被告セキスイハイム大阪をまとめて、以下「被告積水ら」ということがある。)。セキスイツーユーホーム大阪は、被告積水化学の100パーセント子会社である(丙6)。
被告株式会社日本エスピー・センター(以下「被告エスピー・センター」という。)は、商品・営業についての各種宣伝広告及び販売促進に関する業務を目的とする会社である。
(2) セキスイツーユーホーム大阪(平成14年4月以降は、セキスイツーユーホーム大阪を吸収合併した被告セキスイハイム大阪。以下同じ。)は、被告積水化学が製造した部材を用い、「セキスイツーユーホーム」という名称で、木造住宅を建築している。
セキスイツーユーホーム大阪は、上記「セキスイツーユーホーム」の広告宣伝のため、平成7年から、不定期に広告誌「ツーユー評判記」を発行している。
「ツーユー評判記」の制作は、セキスイツーユーホーム大阪から、被告エスピー・センターが委託を受け、企画・制作を行っている。
(3) 被告エスピー・センターは、平成9年3月10日、原告との間で、「ツーユー評判記」に掲載する写真の撮影に関する請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。その際、両者は、この契約に基づいて原告が撮影した写真の使途の範囲や、その著作権の帰属、そのフィルムの所有権の帰属について、明示的な合意はしていない(被告積水らとの関係で乙11、証人B、原告本人)。
原告は、本件契約に基づいて、平成9年から平成13年までにかけて、写真を撮影し、そのフィルムを被告エスピー・センターに引き渡した(この引き渡されたフィルムを以下「本件フィルム」という。なお、撮影したフィルムを全て引き渡したか、その一部を引き渡したかについては争いがある。)。同被告は、原告に対し、その対価として、取材先1軒当たり8万円を支払い、また、フィルム代や現像代、取材先までの交通費も支払った。同被告は、引渡しを受けたフィルムを保管している(被告積水らとの関係で乙11、証人B、原告本人、弁論の全趣旨)。
(4) 被告積水らは、「セキスイツーユーホーム」の広告宣伝のため、関西2府4県で発行された読売新聞に広告を掲載した。
その際、両社は、少なくとも、平成11年4月から平成14年1月までの8回にわたり、同紙の広告ページ全10段広告に、本件契約に基づいて原告が撮影した写真17点を掲載して使用した(以下「本件使用」という。)。
本件写真は、いずれも、被告エスピー・センターがそのフィルムを保管していたものであるが、被告積水らからの求めを受け、これを提供した。
本件写真を新聞広告に掲載して使用することや、その際、原告の氏名を表示しない態様で用いることについて、両社が、原告から直接明示的な許諾を受けたことはない。
2 争点 (1) 本件写真の著作者(職務著作性の有無) 〔原告の主張〕 本件契約に基づく写真撮影は、原告が、撮影目的に照らし、その写真家としての独自のセンスに基づき、アングルとライティングを決めて撮影したものであり、これが原告の著作物であることは明らかである。
被告エスピー・センターの後記主張は否認ないし争う。
〔被告エスピー・センターの主張〕 本件契約に基づく写真撮影の過程は以下のとおりであり、これに照らせば、原告が本件契約に基づき撮影した写真は、被告エスピー・センターの発意に基づきその業務に従事する者が職務上作成する著作物で、同被告がその名義の下に公表するものであるというべきであるから、著作権法15条1項により、その著作者は同被告である。
ア 同被告は原告に対し、取材する住宅を伝え、その間取り図を交付して、
取材テーマ、撮影ポイントやカット、禁則事項を指示する。
イ 原告は、同被告の担当者と共に、取材先の住宅を訪問し、同被告の担当者の指示に従って写真を撮影する。
ウ 原告は、同被告の担当者が住宅ユーザーにインタビューする間は、同被告の担当者の個別の指示によらずにその状況を撮影するが、インタビューの状況を撮影すること自体は、予め同被告が原告に指示している。
エ 取材時に、原告が自由に写真を撮影できる時間や場面はなく、自己の用のために写真を撮影することも許されない。取材時に、原告が現場から離れることも許されない。
オ 同被告は、原告に対し、撮影という労務の対価として1軒当たり8万円を支払っている。
カ 同被告は、原告に対し、撮影料だけではなく、フィルム代、現像代、取材する住宅までの交通費等の実費を支払っている。
キ 原告は、撮影した写真を同被告に交付し、同被告において「ツーユー評判記」に掲載する写真を選択する。
(2) 権利不行使の合意の有無 〔被告エスピー・センターの主張〕 原告は、平成13年12月、被告エスピー・センターの担当者に対し、本件写真について、「これまでの新聞広告掲載分については請求しないが今後は2次使用料を請求する」旨を申し入れ、同被告はこれを承諾した。
したがって、上記合意以前の本件使用について、原告は権利行使しない旨の合意が成立した。
〔原告の主張〕 否認する。
(3) 本件写真の著作権の譲渡の有無 〔被告らの主張〕 ア 以下の事情に照らせば、原告と被告エスピー・センターとの間で、本件写真の著作権を同被告に譲渡する合意が成立していたことは明らかである。
(ア) 本件写真は、「ツーユー評判記」の制作のために、原告にその撮影を依頼したものであるところ、「ツーユー評判記」は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告を唯一の目的とするものであり、したがって、本件写真も、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のための素材としてのみ使用される写真であり、
他に利用方法はない。このことは、原告も認識していたところである。
同被告は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告の企画制作を継続的に行っていたから、本件写真のような宣伝広告の素材を蓄積することが不可欠であり、また、将来、このような素材を使用して、「ツーユー評判記」以外の形態で、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告を行うことも十分に考えられるところである。
このような本件写真の特性や、原告及び同被告の事情並びに認識に照らせば、両者間において、本件写真の著作権及びそのフィルムの所有権を同被告に譲渡する黙示の合意が存在したと解すべきである。
(イ) 原告は、取材先1軒当たり16枚ないし20枚程度の写真を撮影し、現像した写真は全て同被告に引き渡していた。
同被告は、原告に対し、本件契約に基づく写真の撮影に関し、1軒当たり8万円及び交通費、フィルム代、現像代などの実費を支払っていた。
これに加え、上記(ア)で主張したとおりの本件写真の特性を考慮すれば、上記の1軒当たり8万円という対価は、撮影した写真の著作権及びそのフィルムの所有権の譲渡の対価が含まれた金額として、合理的なものである。
同被告は、原告以外の3名の写真家に対しても、「ツーユー評判記」に使用するための写真撮影を依頼しているが、その際に支払った対価は1軒当たり5万円から8万円であるところ、いずれの写真家との間でも、撮影した写真の著作権及びそのフィルムの所有権は同被告に譲渡し、上記対価には著作権及びそのフィルムの所有権の譲渡の対価も含まれることが確認されていることも、これを裏付けるものである。
(ウ) 同被告は、設立後約35年間にわたって、宣伝広告のための制作物を制作するために、100名以上の外部写真家に写真撮影を発注してきたが、撮影された写真の著作権及びそのフィルムの所有権は、同被告に譲渡することを前提として取り扱われてきた。したがって、写真を、後日、別の企画に使用する際にも、
撮影した写真家に対して追加して金銭を支払ったことはない。この際、写真家に対して通知をする場合もあったが、これは、担当者と写真家との人的つながりや、同被告の顧客である広告主から要望されて行ったものにすぎない。同被告は、本件契約に基づいて撮影された写真をウエブサイトに転用するについて原告の了解を求めたことはあるが、その利用形態が従前にはない新しいものであったからであり、著作権が原告に帰属すると認識していたからではない。
また、同被告は、約20年間にわたって、原告に写真撮影を発注してきたが、本件紛争までは、原告が、同被告に対し、これらの写真の著作権やそのフィルムの所有権を主張したことはなかった。
しかも、本件契約締結当時、宣伝広告業界においては、特定の商品等の販促物の素材として、写真家に写真撮影を発注する場合、撮影された写真の著作権及びそのフィルムの所有権は発注者に譲渡することが一般的であった。
これらの事情に照らせば、本件写真についても、その著作権が同被告に譲渡されたことは明らかである。
(エ) 原告は、同被告との信頼関係が崩れていく過程において、初めて本件写真の著作権を主張し始めたものであり、この事情は、原告も、本件契約締結当時、これに基づいて撮影された写真の著作権は同被告に譲渡するという認識を持っていたことを裏付けるものである。
また、原告は、その撮影した写真の著作権や、被告エスピー・センターに預けていたと主張する本件フィルムについて、管理はおろか、その数の把握すらしていない。
イ 原告は、同被告の取締役であるBの原告に対する平成14年7月8日付け書簡の記載内容を根拠に、本件写真の著作権が原告に帰属すると主張するが、上記書簡は、原告からの抗議を受けた同被告が、紛争が被告セキスイハイム大阪に拡大することを防止するために、原告の主張に配慮した表現をとっているものであって、必ずしも被告エスピー・センターの認識を正確に現したものではなく、その趣旨は原告の主張するところとは異なる。
〔原告の主張〕 ア 被告エスピー・センターの取締役であるBは、原告に対する平成14年7月8日付け書簡により、以下の事情を記載しているところ、これらの事情に照らせば、同被告は、本件契約に基づいて撮影した写真の著作権及びそのフィルムの所有権について、原告に帰属していると認識していたことは明らかである。
(ア) 同被告は、原告が本件契約に基づいて撮影した写真のウエブサイトへの転用について、原告の許諾を得た。
(イ) 同被告は、平成10年に、セキスイツーユーホーム大阪の担当者から、本件写真の貸し出し依頼を受けた際、その使用目的を明確に問いたださず、その後新聞広告に掲載されている事実を知ってからも、正式な抗議や使用料金の請求を怠った。
(ウ) 同被告は、写真を2次使用する場合には、撮影した写真家に確認の上使用している。
イ 宣伝広告業界において、特定の商品等の販促物の素材として、写真家に写真撮影を発注する場合、被告らが主張するような、撮影された写真の著作権及びそのフィルムの所有権は発注者に譲渡するという慣行はなかった。
ウ 被告らのその余の主張はいずれも否認ないし争う。
被告らの主張する事情のうち、被告エスピー・センターの事情にかかるものは、著作者である原告には関わりのないものであり、原告が同被告に著作権を譲渡する理由とはならない。また、他の写真家と同被告との合意内容は、原告と同被告との合意内容とは無関係のことである。
なお、原告は、本件契約に基づき、取材先1軒当たり約180枚の写真を撮影し、その中から約20枚を選択して同被告に引き渡したものであり、その選択において同被告は何ら関与していない。
エ 被告エスピー・センターは、写真の著作権について、全く意識したことがなかったのであるから、そのような者が著作権を譲り受ける契約をすることはあり得ない。
(4) 本件写真の使用許諾の有無 〔被告エスピー・センターの主張〕 上記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)で主張した事情に照らせば、原告は、少なくとも、本件写真を、「ツーユー評判記」の掲載に限定することなく、
「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のために使用することを許諾していたことは明らかである。
〔原告の主張〕 本件契約は、「ツーユー評判記」用の写真を撮影するというものであったから、これに基づいて撮影した写真の使途は「ツーユー評判記」への掲載に限定される。
上記(3)〔原告の主張〕アで主張した事実に照らしても、このことは明らかである。
(5) 本件使用時の氏名不表示の違法性の有無 〔被告らの主張〕 ア 前記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)で主張した事情に照らせば、
原告と被告エスピー・センターとの間では、本件契約締結当時、少なくとも平成13年12月にはそれ以前にされた本件使用について、原告は著作者人格権を行使しない旨の合意があったというべきである。
イ 原告は、写真家の写真が広告に掲載される場合、写真家の氏名は出さないのが通例であり、原告もその通例に従ってきており、被告エスピー・センターもそのように認識していた。
したがって、原告と被告エスピー・センターとの間には、少なくとも本件写真を広告に使用する場合には、原告の氏名を表示する必要がない旨の合意が成立していたというべきである。
ウ 本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告において、そのユーザーに対する取材を通じてその良さをアピールする記事を補充するための商業用写真であり、それ自体に記事から独立した意味があるわけではなく、写真の内容も、「セキスイツーユーホーム」ユーザー家族のスナップ写真か、ユーザー宅の外観や内部を写したものであって、特段高度の創作性があるわけでもない。
本件契約に基づいて撮影された写真は、合計531点が、合計15号の「ツーユー評判記」に、原告の氏名を表示しない態様で使用されたが、上記のような写真の特性及び使用態様を踏まえ、原告もその氏名の表示に言及することがなかった。
以上の事実関係に照らせば、原告は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のために本件写真が使用される場合に、その氏名を表示しないことについて黙示的に承諾していたというべきである。
特に、本件の新聞広告においては、本件写真は「ツーユー評判記」と同様、ユーザーに対する取材記事を補充する形態で使用され、しかも、「ツーユー評判記」と比較して、写真の占める割合は、大きさにおいても意味においても限定されたものである。このような使用形態を考慮すれば、原告が、本件使用において、
その氏名を表示しないことを黙示的に承諾していたことは明らかである。
エ 上記ウのとおり、本件契約に基づいて撮影された写真を「ツーユー評判記」に掲載する際においては、原告はその氏名を表示しないことを選択しており、
これは上記イのとおりの広告において氏名を出さないという明確な意思によるものであるところ、本件使用の形態は、「ツーユー評判記」と同様であったことを考慮すれば、著作権法19条2項により、本件使用においても原告の氏名を表示しないことについて改めて同意を求める必要はないというべきである。
オ 上記ウのとおり、本件写真には、それ自体に記事から独立した意味があるわけでも、特段高度の創作性があるわけでもなく、原告自身、本件契約に基づいて撮影した写真を「ツーユー評判記」に掲載する際には、氏名を表示しないことを認めてきている。そして、本件使用において、本件写真は「ツーユー評判記」と同様、取材記事を補充する形態で使用され、しかも、「ツーユー評判記」と比較して、写真の占める割合は、大きさにおいても意味においても限定されたものである。しかも、上記イのとおり、広告に写真を用いる場合には、撮影者の氏名を表示しないのが公正な慣行である。
これらの事情に照らせば、本件使用において、原告の氏名を表示しなくとも、著作物の利用の目的及び態様に照らし、著作者である原告の利益を害するおそれはなく、また、本件使用時に、取材記事を補充する写真の使用時に著作者の氏名を表示しなければならないという慣行は存在していなかったから、著作権法19条3項により、著作者名の表示を省略することができる場合にあたるというべきである。
〔原告の主張〕 被告らの主張は否認ないし争う。
本件使用の媒体である新聞広告は、「ツーユー評判記」とは全く異なる広告媒体である。
また、本件使用は無断使用であるから、通常の使用における氏名表示の方法は妥当しない。
(6) 被告らの故意又は過失の有無 ア 被告積水らについて 〔原告の主張〕 被告積水らは、被告エスピー・センターとの長年の取引から、本件写真が、同被告が外部の写真家に発注して撮影されたものであることを知っていたか、
少なくとも当然予想すべきであった。
本件使用に先立って、被告エスピー・センターに対し、写真の著作権で問題になることはないかと問い合わせれば、後記イの〔原告の主張〕のとおり、被告エスピー・センターは本件写真の著作権が原告に帰属していたと知っていたのであるから、容易にその旨の回答を受けることができたのであって、確認が不可能となるものではない。
また、広告宣伝業界においては、写真の著作権が撮影した写真家に帰属することが、業界の一般的慣行となっていた。
したがって、被告エスピー・センターに何らの確認もせず、本件写真を使用した被告積水らには過失がある。
被告積水らの後記主張は否認ないし争う。
〔被告積水らの主張〕 「ツーユー評判記」において使用する写真は、被告積水らにおいて調達する写真と、被告エスピー・センターにおいて調達する写真からなるが、被告積水らは、これらの写真のうち、被告エスピー・センターにおいて調達した写真について、同被告がどのように調達するかについて関与することはなく、認識もしていなかった。
そして、被告積水らは、被告エスピー・センターに対し、「ツーユー評判記」の制作の対価として制作費を支払っている以上、仮に、同被告が調達した写真の中に、外部の撮影者が撮影した写真が含まれているとしても、その著作権等については同被告の責任において法的に適切な対処がされ、著作権は同被告に譲渡され、著作者人格権については不行使の合意がされていると概括的に信頼していた。
また、被告積水らは、被告エスピー・センターに対し、「ツーユー評判記」以外にも、特定商品の広告宣伝を目的とするパンフレット等の制作を多数依頼しており、被告積水らにおいて、被告エスピー・センターが制作した全ての成果物の全て写真について、その撮影者を調査・確認することは事実上不可能である。
しかも、前記(3)の〔被告らの主張〕のとおり、平成14年1月ころまでにおいて、少なくとも住宅産業に関する広告宣伝業界では、特定商品の広告宣伝を目的として撮影された写真については、撮影依頼者と撮影者との間で書面又は口頭での明示の合意がない場合、撮影したフィルムの所有権及び写真の著作権は、依頼者に帰属させるとの扱いが一般的な業界慣行となっていたところ、被告積水らはこの業界慣行を認識していた。
加えて、本件写真が特定商品の広告宣伝を目的として建物や人物を撮影したものであり、その性質上、広告宣伝の目的以外に使用できる汎用性がないことや、撮影者の思想性や独創性が表現されているものでもないことなどを考慮すれば、被告積水らにおいて、本件写真の著作権が被告エスピー・センターに帰属しており、著作者人格権については不行使の合意がされているものと信じたことに過失はない。
イ 被告エスピー・センターについて 〔原告の主張〕 被告エスピー・センターは、本件写真の使用許諾の範囲が、「ツーユー評判記」の掲載に限定されていることを認識しながら、被告積水らからの求めを受け、そのフィルムを提供したものであるから、同被告には故意又は過失があり、その行為は被告積水らとの共同不法行為となる。
被告エスピー・センターの後記主張は否認ないし争う。前記(3)〔原告の主張〕アで主張した事実に照らせば、同被告に故意又は少なくとも過失があったことは明らかである。
〔被告エスピー・センターの主張〕 前記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)で主張した事情に照らせば、
被告エスピー・センターの本件写真の使用について、過失はなかったというべきである。
(7) 原告が被った損害の額 〔原告の主張〕 ア 著作権(複製権)侵害について 本件写真を使用した新聞広告の掲載費は、8回合計で7256万円である。
このような新聞広告の経費は、通常、総売上の10パーセント以下であるというのが業界の通念である。したがって、被告積水らは、上記掲載費の10倍に相当する7億2560万円以上の売上を上げていることになる。
原告の受けた損害額は、被告積水らが受けた莫大な経済的利益を基準に著作権法114条1項の規定の趣旨から換算した5パーセントに相当する3628万円を下らない。
本件では、このうち750万円の賠償を請求する。
著作者人格権(氏名表示権)侵害について 本件写真の使用に際して原告の氏名を表示しなかったことで、原告は精神的損害を被った。
原告が受けた損害額は、1000万円を下らない。
本件では、このうち250万円の賠償を請求する。
〔被告エスピー・センターの主張〕 ア 著作権侵害について 否認ないし争う。
著作権法114条1項に基づく推定は、権利者自身が侵害者と同様の利用行為をしていることが前提となるところ、原告は被告積水らと同様の利用行為はしていない。
被告積水らの売上は、新聞広告のみによって実現できるものではなく、
その他各種の広告宣伝活動等の総体的な結果として実現されるものである上、本件写真を使用した新聞広告は、本件写真のみによって構成されているものでもないから、本件使用と被告積水らの売上との間に因果関係はない。
また、被告積水らの売上の5パーセントが原告の損害額であるとする根拠もない。
地方紙に10段以内で写真を使用する場合において写真貸出業者に対して支払うべき使用料が4万円から6万4000円の範囲であり、2次使用料に至っては2万8000円から4万4800円の範囲であること、原告が撮影した写真について、過去に原告が2次使用を認めた際の使用料が1万5000円から2万円の範囲であったこと、本件契約に基づいて原告が撮影した写真をウエブサイトに使用したときには使用料は支払っていないことなどに照らせば、写真撮影者が受け取るべき金員はせいぜい2万円から3万円程度であり、本件における原告の使用料相当損害金も、これによって計算すべきである。
著作者人格権侵害について 否認ないし争う。
原告は精神的損害の具体的内容を明らかにしておらず、原告自身、氏名を表示しないことによって何の損害も被害もないと主張していることに照らせば、
精神的損害の主張立証はないものというべきである。
また、前記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)及び(5)〔被告らの主張〕ウで主張した事情や、本件使用の頻度及び回数が5年間に8回と必ずしも多くないことに照らせば、原告の主張は常識はずれである。
〔被告積水らの主張〕 (著作権侵害について) 否認ないし争う。
著作権法114条1項に基づく推定は、権利者自身が侵害者と同様の利用行為をしていることが前提となるところ、原告は被告積水らと同様の利用行為はしていない。
被告積水らの売上は、新聞広告のみによって実現できるものではなく、
その他各種の広告宣伝活動等の総体的な結果として実現されるものである上、本件写真を使用した新聞広告は、本件写真のみによって構成されているものでもない。
本件写真を使用した新聞広告の掲載費についての原告の主張は否認する。また、新聞広告掲載費の10倍が被告積水らの売上であるという根拠も、その5パーセントが原告の損害額であるとする根拠もない。
原告の損害額として認められるのは、その著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額が限度である。そして、「セキスイツーユーホーム」の新聞広告を作成するに際して、広告代理店が、写真家に対し、1回について3万円の撮影費を支払っていることに照らせば、1回の広告について、この程度の金額がこの額に相当する。
(8) 過失相殺の当否 〔被告エスピー・センターの主張〕 前記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)で主張したような事情があるにもかかわらず、原告が、その撮影した写真の著作権について、全く管理を行わず、
むしろ、著作権が被告エスピー・センターに譲渡されたと見られても仕方のない態度をとっていることからすれば、原告には、過失があったというべきであり、しかるべき過失相殺がされるべきである。
〔被告積水らの主張〕 本件写真の著作権の帰属については、本来、被告エスピー・センターと原告との間で合意すべきものであるところ、両者は契約書を作成せず、著作権の帰属についても明示的に合意していなかった。しかも、原告は、撮影したポジフィルムを同被告に預けたままにし、自らは全くこれらを管理していなかった。
もし、原告が同被告との間で、本件写真の著作権について明示的に合意をし、著作権の管理をしていれば、被告らにおいても、被告エスピー・センターを通じてこれを認識することができ、本件のような紛争に至ることはなかった。
したがって、原告には過失があったというべきであり、大幅な過失相殺がされるべきである。
〔原告の主張〕 否認ないし争う。
(9) 本件フィルムの所有権の帰属 〔原告の主張〕 本件フィルムの所有権は原告に帰属する。
前記(3)〔原告の主張〕アで主張した事実に照らせば、被告エスピー・センターが、本件契約に基づいて撮影した写真のフィルムの所有権が原告に帰属すると認識していたことは明らかである。
被告エスピー・センターの後記主張は否認ないし争う。
〔被告エスピー・センターの主張〕 前記(3)〔被告らの主張〕ア(ア)ないし(エ)で主張した事情に照らせば、原告が、本件契約に基づいて撮影した写真のフィルムを被告エスピー・センターに譲渡したことは明らかである。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件写真の著作者)について (1) 著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が、法人等の指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることに鑑み、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものであり、したがって、同項により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることが要件とされている。ここで、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、これが争われ、あるいは直ちに雇用関係があるとはいえない場合には、その者が同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、その者が、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきであると解される。
(2) そこで、本件契約に基づく写真撮影及びフィルム引渡しまでの過程について検討するに、乙第11号証(B作成の陳述書)、証人Bの証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が、本件契約に基づいて写真を撮影し、そのフィルムを被告エスピー・センターに引き渡すまでの経過は、概ね、以下のようなものであったと認めることができる。
ア 取材前に、原告が被告エスピー・センターに出向き、取材先の間取り等を元に、打合せを行う。
イ 取材先には、同被告の担当者と原告が赴き、事前の打ち合わせを踏まえ、同担当者と原告が協議をしながら写真を撮影する。撮影枚数は、1軒当たり約180枚程度である。
ウ 撮影したフィルムは、原告が持ち帰り、現像所に依頼して現像した上、
原告において、「ツーユー評判記」への掲載に適した写真約20枚を選び出して、
そのフィルムを同被告に引き渡す。この選別には、同被告は直接関与しない。
引き渡さなかったフィルムは、原告において廃棄する。
(3) 上記(2)で認定した、本件契約に基づく写真撮影からフィルム引渡しまでの過程を前提として検討するに、これに照らしても、原告が本件契約の履行として行った行為は、写真を撮影した上で、掲載される「ツーユー評判記」に適切なものを選び出し、そのフィルムを被告エスピー・センターに引き渡すというものであって、その性質は、単なる労務の提供というべきものではなく、むしろ仕事の完成とその引き渡しというべきものである(なお、同被告自身、本件契約が請負契約というべきことを争っていない。)。したがって、原告が、同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるということはできない。
また、著作物の作成者が、法人等からその作成を依頼され、その指揮命令に従いながらこれを作成し、かつ、その著作権を法人等に原始的に帰属させるという認識を有していた場合には、その作成者を同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるということができるとしても、本件において、原告が、撮影した写真の著作権を同被告に原始的に帰属させるという認識を有していたことを認めるに足りる主張も証拠もないから、結局、原告が、同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるということはできない。
そして、本件写真を撮影したのが原告であることは当事者間に争いがないから、本件写真の著作者は、原告であるというべきである。
2 争点(2)(権利不行使の合意の有無)について 被告エスピー・センターは、原告が、平成13年12月、同被告の担当者に対し、本件写真について、「これまでの新聞広告掲載分については請求しないが今後は2次使用料を請求する」旨を申し入れ、同被告はこれを承諾したと主張し、これに沿う証拠として、乙第11号証(ただし、上記申入れの時期として、平成14年1月頃と記載されている。)及び証人Bの証言がある。
しかしながら、上記Bの供述は、原告と同被告の担当者との間のやり取りについて、同担当者から報告を受けたというものであって、Bが直接原告とやり取りしたものではない上、客観的な裏づけを欠くものであって、原告が上記事実を否認し、原告本人尋問においてもそのような事実はなかった旨供述していることに照らし、直ちに採用することができないし、他に同被告主張の上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、同被告の上記主張は理由がない。
3 争点(3)(本件写真の著作権の譲渡の有無)について (1)ア 被告らは、本件写真の性質や、原告及び被告エスピー・センターの事情並びに認識に照らせば、両者間において、本件写真の著作権を同被告に譲渡する黙示の合意が存在したと解すべきであると主張する。
しかしながら、著作権を譲渡することは、元の権利者が、その著作物の使途を管理し、また、その使用者から収益を得る権利と機会を失うことを意味するから、本件写真が「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告を目的とするものであるからといって、原告がその著作権を同被告に譲渡することに直接結びつくものとはいえない。
また、同被告側の事情は、原告にとって、直ちに、本件写真の著作権を同被告に譲渡する動機となるものではない。
したがって、被告らの上記主張は直ちに採用することができない。
イ 被告らは、本件契約に基づく写真撮影の対価として、1軒当たり8万円を支払っていたところ、この金額は、撮影した写真の著作権の譲渡の対価も含むものとして合理的であると主張し、Bも、上記金額は著作権の譲渡の対価を含むものであると証言し、同人が作成した陳述書である乙第11号証にも、同旨の記載がある。
しかしながら、写真撮影の対価の金額決定は、種々の事情を背景に当事者間の合意によってされるものであるから、上記の金額が撮影した写真の著作権の譲渡の対価を含むものであると直ちにいうことはできない。また、上記Bの供述は、後記(2)で判示するとおり、平成14年7月8日当時の被告エスピー・センターの認識を示すものとしても採用することはできないが、仮に、これが本件契約時の同被告の認識を示すものであったとしても、原告も共通の認識を有していたと認めるに足りる証拠はないから、やはり著作権の譲渡があったと認めるには足りない。
したがって、被告らの上記主張は直ちに採用することができない。
ウ 被告らは、本件契約締結当時、宣伝広告業界においては、特定の商品等の販促物の素材として、写真家に写真撮影を発注する場合、撮影された写真の著作権及びそのフィルムの所有権は発注者に譲渡することが一般的であり、被告エスピー・センターも、設立以来そのように取り扱ってきたと主張する。
しかしながら、撮影した写真の著作権を譲渡するか否かは、著作権者の意思にかかるものであるから、仮に、そのような慣行が存在したとしても、本件において、直ちに著作権の譲渡があったと認めるには足りない。
また、被告らは、被告エスピー・センターが、約20年間にわたり原告に写真撮影を発注してきたが、本件紛争までは、原告が、これらの写真の著作権を主張したことはなく、同被告との信頼関係が崩れていく過程において、初めて本件写真の著作権を主張し始めたとも主張する。
しかしながら、同被告による原告撮影の写真の使用態様が、原告の意とするところに反しなければ、そもそも紛争は生じることはなく、原告において著作権の主張をする必要も生じないのであるから、長年にわたって著作権の主張をしなかったからといって、これが著作権を譲渡していたからであるということもできない。
なお、被告らは、原告が、その撮影した写真の著作権について、全く管理をしていない旨主張するが、これも、直ちに、原告が著作権を譲渡していたことを示すものということはできない。
したがって、被告らの上記主張は直ちに採用することができない。
エ そして、他に、本件写真の著作権について、原告が被告エスピー・センターに譲渡する旨の合意が、両者間に存在していたことを認めるに足りる証拠はない。
(2)ア 一方、Bが作成し、平成14年7月8日付で被告エスピー・センター名義で原告に送付した書簡(甲3)の中には、@ 本件写真の著作権及びその取り扱いに関して原告に迷惑や不快感を与えたことに対する謝罪、A 多くの写真家とは「買い取り」契約を締結しており、同被告の担当者も同様の意識で原告に依頼をしたこと、この際、詳細な条件確認を怠ったことが問題発生の原因となったこと、B セキスイツーユーホーム大阪の担当者から、本件写真の貸し出し依頼があった際、その使途を確認せず、本件写真が新聞広告に掲載されていることを知ってからも、同社に抗議や使用料金の請求をしなかったことの謝罪、C 当時の同社の担当者に対し、経過報告と共に、原告が撮影した写真について無断使用は禁ずる旨の申し入れを行い、了承を得たこと、が記載されていることが認められる。
上記の記載は、いずれも、被告エスピー・センターが、本件写真の著作権を自らが有していると認識していたならば、いずれもその認識と矛盾する内容であるから、上記の記載が存在することにより、平成14年7月8日当時において、
被告エスピー・センターは、原告と同被告が、本件写真の著作権について、原告が同被告に譲渡する旨の合意が存在するとの認識を有していなかったと推認することができる。
イ この点につき、被告らは、上記書簡は、原告からの抗議を受けた同被告が、紛争が被告セキスイハイム大阪に拡大することを防止するために、原告の主張に配慮した表現をとっているものであって、必ずしも被告エスピー・センターの認識を正確に現したものではなく、同被告は、本件写真の著作権を譲り受けたと認識していたと主張し、これに沿う証拠として、乙第11号証及び証人Bの証言がある。
しかしながら、確かに、写真撮影を依頼する広告制作会社と写真家の関係上、広告制作会社が写真家の主張に配慮した表現を用いることはあり得るとしても、上記書簡の上記供述は、同被告が本件写真の著作権を有することとは明らかに矛盾する内容というべきであるから、被告らの上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり、本件写真の著作権について、原告が被告エスピー・センターに譲渡する旨の合意が両者間に存在していたことを認めるに足りる証拠はなく、
かえって、平成14年7月8日の段階では、同被告も、そのような認識を有していなかったことが認められるところであるから、この点についての被告らの主張は理由がない。
4 争点(4)(本件写真の使用許諾の有無)について 被告らは、本件写真の性質や、原告及び被告エスピー・センターの事情並びに認識に照らせば、原告は、本件写真を、「ツーユー評判記」の掲載に限定することなく、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のために使用することを許諾していたと解すべきと主張する。
しかしながら、著作権者が、その著作物を、ある特定の媒体に使用する前提で使用を許諾した場合に、これと同様の目的であり、また類似の媒体であるからといって、別個の媒体に使用することまで許諾したものと直ちにいうことができないのは当然である。
そして、上記3(1)で検討したところに照らしても、本件において、原告が、
本件写真を、「ツーユー評判記」の掲載に限定することなく、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のために使用することを許諾していたと認めるに足りる事情はない。
また、証人Bは、同被告から原告への写真撮影の依頼は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告のための写真撮影の依頼であって、「ツーユー評判記」への掲載に限定する趣旨ではなかったと証言する。しかし、同人の証言や、同人が作成した陳述書である乙第11号証によれば、原告への写真撮影依頼は「ツーユー評判記」へ掲載する写真であることを前提とするものであったことは明らかであり、また、仮に同人の前記証言を採用するとしても、この点につき原告と同被告との間に明示的な合意がなかった以上、上記証言は同被告の認識を述べるにすぎず、原告がその旨許諾していたことを認めるには足りない。
なお、証人Bは、同被告の担当者が、取材先に対し、撮影した写真を「ツーユー評判記」以外にも、新聞等で使用することがある旨を説明したと証言し、これを原告が聞いていたこともあり得ると証言するが、可能性を述べるにすぎないものであるから、被告らの上記主張を裏付けるものとはならない。
そして、他に、原告が、本件写真を、「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告一般のために使用することを許諾していたと認めるに足りる証拠はない。
したがって、この点についての被告らの主張は理由がない。
5 争点(5)(本件使用時の氏名不表示の違法性の有無)について 著作権法19条3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができると規定する。
これを本件についてみるに、本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝誌である「ツーユー評判記」に掲載するために、すなわち「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告に用いる目的で撮影されたものであるところ、本件使用も、まさに「セキスイツーユーホーム」の広告である新聞広告に用いたものである。そして、原告本人尋問の結果によれば、一般に、広告に写真を用いる際には、撮影者の氏名は表示しないのが通例であり、原告も従来、この通例に従ってきたが、これによって特段損害が生じたとか、不快感を覚えたといったことはなかったことが認められる。
上記の事情に照らせば、本件使用は、その目的態様に照らし、原告が創作者であることを主張する利益を害することはなく、公正な慣行にも合致するものといえるから、同項によって原告の氏名表示を省略する場合に該当するというべきである。
この点につき、原告は、本件使用は無断使用であることを理由に、同項の適用はない旨主張する。しかしながら、著作者人格権と著作権は別個の権利であり、
前者は著作者に専属するものであるのに対し、後者は著作者が他者に譲渡することができるものであることに照らせば、著作物の使用が著作権者の許諾を受けたものであるか否かは、同項の適用の可否とは関係がないものというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、著作者人格権(氏名表示権)に基づく原告の請求は理由がない。
6 争点(6)(被告らの故意又は過失の有無)について (1) 被告積水らについて ア 被告積水らは、建築材料の製造販売や、建築工事の設計施工等を目的とする会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。
このような会社が、少なくとも、被告エスピー・センターのような広告制作会社から、その顧客として、広告用写真のフィルムを借り受け、これを使用するに当たっては、その写真について別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、貸出し元の広告制作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、広告制作会社に対し、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かを調査確認するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
すなわち、広告制作会社から、その顧客として、広告用写真のフィルムを借り受け、これを使用するに当たっては、その広告制作会社から、別途著作権者の許諾が必要であると指摘されない限り、その写真の著作権が既に消滅しているか、その広告制作会社が著作権を取得しているか、著作権者から使用の許諾を受けているかはともかく、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えて、その写真を使用したとしても、注意義務に違反するものとはいえない。
まして、乙第11号証、丙第6号証及び弁論の全趣旨によれば、被告積水らは、昭和40年代から30年以上にわたり、被告エスピー・センターに広報関係、各種キャンペーンの企画立案、新聞広告、カタログ、ダイレクトメール等の企画制作を多数発注してきたが、著作権問題を含めて大きな問題はなかったと認められるから、被告積水らにおいて被告エスピー・センターを信頼することが許されることはなおさらである。
イ この点に関し、原告は、被告積水らは、被告エスピー・センターとの長年の取引から、本件写真が、同被告が外部の写真家に発注して撮影されたものであることを知っていたか、少なくとも当然予想すべきであったから、被告積水らには過失が存在すると主張する。しかしながら、一般に、広告制作会社が保管しているフィルムの写真が、その会社の従業員が撮影したその会社の職務著作にかかるものか(丙第2号証によれば、実際にも、被告エスピー・センターが被告積水ら及びその関連会社に対して提供していた写真の中には、被告エスピー・センターの従業員の撮影したものが多数含まれることが認められる。)、外部の写真家の撮影にかかるものかといったことは、広告制作会社の顧客には直ちに知り得ないものである。
しかも、外部の写真家が撮影した写真であっても、その著作権については、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、広告制作会社に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであり、しかも、当該撮影者や第三者が著作権を有している場合であっても、使用について著作権者の許諾が得られているときもあり得るのであって、これらの事情も、広告制作会社の顧客には直ちに知り得ないことである(ちなみに、乙第10号証によれば、平成7年から平成10年にかけて「ツーユー評判記」向けの写真を撮影した有限会社アークフォトグラフィは、明示の契約書のないまま、その写真の著作権を全て被告エスピー・センターに譲渡していたことが認められる。)。したがって、被告積水らが、本件写真が外部の写真家の撮影にかかるものであることを知っており、又は当然知り得べきであったとしても、上記アで判示したところは直ちに左右されるものではない。しかも、本件写真について、被告積水らが、被告エスピー・センターが外部の写真家に発注して撮影されたものであることを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、そのことを当然予想すべきであったと認めるべき事情については具体的主張も証拠もない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、広告宣伝業界においては、写真の著作権が撮影した写真家に帰属することが、業界の一般的慣行となっていたと主張する。しかしながら、
これを認めるに足りる証拠はない(なお、原告作成の陳述書である甲第8号証には、著作権譲渡契約がない限り、著作権は撮影者に帰属する旨の記載があるが、明示的にせよ黙示的にせよ著作権を譲渡する旨の合意がない限り、著作権が移転しないのは当然であって、写真家が著作権を譲渡せずに留保するのが一般的な慣行であったか否かには触れるところはない。仮に、この記載が、原告主張の慣行の存在をいうものであったとしても、原告の陳述のみでこの存在を認めるには足りない。)。したがって、原告の上記主張も採用することができない。
ウ そこで、本件について検討するに、被告積水らは、建築材料の製造販売や、建築工事の設計施工等を目的とする会社であり、被告エスピー・センターは、
広告制作会社であるところ、乙第11号証並びに証人C及び同Bの各証言によれば、セキスイツーユーホーム大阪が、被告エスピー・センターから本件写真のフィルムを借り受けるに当たって、その使途を新聞広告と言ったかチラシと言ったかはともかく、被告エスピー・センターが、セキスイツーユーホーム大阪に対し、本件写真について、これを新聞広告なりチラシなりに使用する際には別途著作権者の許諾が必要である旨を伝えたり、示唆したりしたことは全くなかったことが認められる。
また、被告積水らが、本件使用時に、本件写真について、被告エスピー・センターの他に著作権者が存在し、その許諾を得ていないことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのような事実を知り得べきであったという特別の事情が存在したことを認めるに足りる証拠もない。
以上に照らせば、被告積水らには注意義務違反は認めることができず、
したがって、本件使用による原告の著作権(複製権)侵害について、被告積水らに過失を認めることはできない。
よって、その余の点につき判断するまでもなく、被告積水らに対する原告の請求は理由がない。
(2) 被告エスピー・センターについて 被告エスピー・センターは、広告制作会社であるところ、広告制作会社は、その業務上、他者が作成した著作物である写真や文章等を取り扱って利益を得ているのであるから、そのような著作物の著作権について十分な注意を払って事務処理をすべき義務を負うものというべきであり、その顧客からの求めに応じて保管してある写真フィルムを貸し出す際には、その写真の著作権者や使用許諾の有無範囲を調査し、顧客が予定している使用態様が著作権者から予め得ている使用許諾の範囲外であるおそれがある場合には、自ら著作権者から使用許諾を得るか、顧客に対し、別途著作権者から使用許諾を得る必要があることを伝える等の手段により、
顧客による著作権の侵害が発生することのないよう、細心の注意を払うべき義務があるものと解すべきである。
これを前提として検討するに、被告エスピー・センターは、本件写真の撮影者が原告であることを知っており、また、前記3で検討したとおり、本件写真の著作権について、原告から譲り受ける旨の合意は存在せず、さらに、前記4で検討したとおり、原告は、本件写真を「ツーユー評判記」以外に使用することを許諾したとは認められないのであるから、本件写真を「ツーユー評判記」以外に使用するためには、改めて著作権者である原告から許諾を得る必要があるものである。仮に、同被告が、本件写真の使用許諾の範囲として、「ツーユー評判記」への使用に限定されず、「セキスイツーユーホーム」の広告一般への使用について許諾を受けていたと信じていたとしても、前記3(1)及び4で検討したところに照らせば、同被告がそのように信じることが相当であったというべき事情はなく、同被告がそのように信じたことに過失があったというべきである。そして、同被告は、セキスイツーユーホーム大阪に本件写真のフィルムを貸し出すに際し、上記(1)ウのとおり、本件写真について、これを使用する際には別途著作権者の許諾が必要である旨を伝えたり、示唆したりしたことは全くなかったのであるから、同被告は、顧客による著作権侵害の発生を防止するための注意義務に違反したというべきである。
したがって、同被告は、本件使用による原告の著作権(複製権)の侵害について、過失があるものというべきである。
7 争点(7)(原告が被った損害の額)について 原告が本件写真についての著作権(複製権)を侵害されたことにより被った損害額について検討する。
(1) 原告は、新聞広告の経費は、通常、総売上の10パーセント以下であるから、被告積水らは、本件使用の掲載費8回分合計の7256万円の10倍に相当する7億2560万円以上の売上を上げており、原告は、著作権法114条1項の規定の趣旨から、その5パーセントに相当する3628万円を下らない損害を被ったと主張する。
しかしながら、新聞広告の経費が、通常、総売上の10パーセント以下であることについても、本件使用の掲載費が8回分合計で7256万円であることについても、何ら証拠は提出されていない。また、原告が著作権法114条1項の規定の趣旨として主張する内容は必ずしも明らかではないが、同項は、侵害品の譲渡等数量に、著作権者等が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物にかかる販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定するものであり、その趣旨は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、(侵害者が特定の事情を立証しない限り)侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解されるから、本件使用において同項の趣旨を及ぼすことはできないものというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができないことが明らかである。
(2) ところで、著作権法114条3項は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として賠償を請求することができる旨規定しており、これは、損害賠償額の最低額を保障するものであると解される。そこで、以下、著作権法114条3項に基づき、原告が被った損害の額を検討することとする。
著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たっては、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して算定すべきものである。
これを本件についてみるに、本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の広告宣伝のために撮影されたものであること、本件使用は、本件写真を、関西2府4県で発行された読売新聞(甲第5号証によれば、平成15年頃の発行部数は約200万部である。)の広告ページ全10段に掲載された、「セキスイツーユーホーム」の新聞広告に使用したものであること、本件使用は少なくとも8回にわたり、
本件写真は17点使用されたことが認められる。
また、写真家から写真の著作権の譲渡を受け、又はその管理を委ねられて、顧客の求めに応じてその使用を許諾する業者(したがって、写真家が直接使用を許諾するものではない。)において、写真を新聞広告(全国版・全10段)に使用する場合の料金は、概ね5万円以上8万円以下であり、2次使用や複数回使用の場合はそこから2割ないし3割の割引がされること(乙4ないし8)、原告は、
「ツーユー評判記」への掲載に限ってとはいえ、本件写真を含めた写真の使用を許諾しており、その対価としては、取材先1軒(写真約20枚)当たり、撮影費を含めて8万円であったことが認められる。
以上の事情を中心に、これまでに認定した諸事実を総合考慮すると、本件使用による複製権侵害について原告が受けるべき金銭の額としては、写真1点当たり4万円、本件使用全体で68万円と認定するのが相当である。
8 争点(8)(過失相殺の当否)について 被告エスピー・センターは、原告が、その撮影した写真の著作権について、
全く管理を行わず、むしろ、著作権が同被告に譲渡されたと見られても仕方のない態度をとっているとして、過失相殺がされるべきと主張する。
しかしながら、これまで認定した事実に照らしても、また本件に現れた事情に照らしても、原告が、その撮影した写真の著作権が同被告に譲渡されたと見られても仕方のない態度をとったと認めることはできない。また、後記9のとおり、確かに、原告は、同被告に引き渡した本件フィルムの管理は行っていないが、フィルムの所有権と写真の著作権は別個のものであるから、原告が本件フィルムの管理を行っていないからといって、著作権の管理を怠っているということはできない。
そして、他に、本件使用による原告の著作権侵害に関し、原告が何らかの注意義務に違反し、これが侵害行為に結びついたと認めるに足りる具体的主張も証拠もない。
したがって、この点についての同被告の主張は理由がない。
9 争点(9)(本件フィルムの所有権の帰属)について (1) 著作権は、創作的な表現を保護するものであるから、著作物の表現媒体についての所有権と、その著作物についての著作権とは、別個に観念することができ、またすべきものである。例えば、絵画の著作物について、その著作権の所在と表現媒体となった絵画の所有権の所在とは、別個になることが当然あり得るものであり、これは、写真の著作物について、その著作権の所在とフィルムの所有権の所在との関係においても同様である。
したがって、本件においても、本件契約に基づいて原告が撮影した写真のフィルムで、被告エスピー・センターが保管しているものの所有権の帰属についても、その写真の著作権の帰属とは別個に検討する必要がある。
(2) 本件契約は、前記1で検討したとおり、原告が写真を撮影し、現像の上、
その中から「ツーユー評判記」への掲載に用いるのに適した写真を選別して、そのフィルムを被告エスピー・センターに引き渡し、同被告は、原告に対し、その対価とフィルム代、現像代等を支払うというものである。
ここで、原告は、同被告に引き渡した本件フィルムについて、その保管状況のみならず、フィルムの点数すら把握していないこと(原告本人)、原告自身、
同被告に引き渡した本件フィルムは、同被告に預けたものとしつつも、本人尋問において、そのフィルムが「役に立たなくなれば、エスピー・センターから私に返してくれてもいいし、役に立たなくなってしまえば、それはそのまま預けっぱなしです。」と供述し、しかもそのような話は同被告としたことがないとも供述していることに照らせば、原告は、同被告に引き渡した本件フィルムについて、自らの所有物であるという認識を有していなかったものと推認することができる。
このような原告の認識に加え、引き渡された本件フィルムは同被告の所有に属するという同被告の主張や、上記のとおり、フィルム代及び現像代は同被告が出捐していることを考慮すれば、本件契約の内容として、原告がこれに基づいて撮影し、同被告に引き渡したフィルムの所有権については、同被告が有するものと合意していたものと認めるのが相当である。
したがって、原告は、本件フィルムの所有権を有しているとは認められないから、所有権に基づく本件フィルムの返還請求は理由がない。
10 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は、主文第1項掲記の限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生