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事件 昭和 42年 (ネ) 1342号
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裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1970/04/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
附帯控訴に基き、原判決主文第一項を次の通り変更する。
控訴人は被控訴人に対し六五四万円及びこれに対する昭和四三年五月一五日以降右金員完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
(当事者双方の申立) 控訴人は、控訴事件につき「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、ニ審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴事件につき「被控訴人の附帯控訴による拡張部分の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。
(被控訴人主張の請求原因)一、被控訴人は「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基く許可を受けた我国唯一の著作権仲介団体であつて、内外の音楽著作物につき各著作権ないしその分支権(演奏権、録音権等)の移転を受けてこれを管理し、我国内に於ける放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行等の分野の各種音楽使用者に対してその使用を許諾し、著作物の適法な利用を円滑簡易ならしめると共に、右許諾に際して約定した著作物使用料を使用者から収納し、これを内外の著作権者に分配することを主たる業務としているものである。そして、被控訴人は、現に、原判決添付の楽曲リスト及び同追補記載の各音楽著作物(以下これらを「管理著作物」と総称する)について、それぞれその著作権者より著作権の信託的譲渡を受けてこれを管理している。
ニ、控訴人は、風俗営業に関する事業を営む会社で、昭和三八年一○月一日以来大阪市<以下略>の営業所に、バンドステージ、ピアノ、フロアー(踊り場)、客席及び楽団等の設備を設け、「ゴールデンミカド」という名称でキャバレーを経営しているものであるが、その営業時間中専属楽団に管理著作物を演奏させて来集した客に聴かせるため、昭和三八年一○月ニ一日に被控訴人に対し管理著作物使用許諾契約締結の申込をしたので、被控訴人は同月ニ四日次の約定で控訴人に管理著作物の使用を許諾した。すなわち、
(一)控訴人は管理著作物使用料として、演奏の有無、その回数の如何に拘らず、
月額五万円(但し一ニ月は六万円)を毎月一○日限り被控訴人に支払うこと。
(ニ)控訴人が右使用料の支払を三ヶ月以上履行しないときは控訴人は、使用料の外、違約金として不履行の期間につき月額使用料の倍額を被控訴人に支払うこと。
(三)控訴人が本契約に違反したときは、被控訴人は催告を経ないで直ちに本契約を解除することができること。
(四)契約期間は昭和三八年一○月一日から昭和三九年九月三○までとすること。
但し、期間満了の際当事者のいずれからも特に異議を述べないときは、本契約と同一の条件を以って契約は更新されること。
そして、右契約の期間満了の際、被控訴人からも控訴人からも異議が述べられなかつたので、右契約は昭和三九年一○月一日従前と同一の内容で更新され、同様にしてその後昭和四○年一○月一日及び昭和四一年一○月一日にも相次いで更新された。
三、然るに、控訴人は右契約上の義務に違反して、昭和三九年一○月一日以降前記約定使用料の支払をしないので、被控訴人は昭和四ニ年五月一日付本訴準備書面を以て、右契約(三)の約定に基いて右契約を解除する旨の意思表示をなし、同準備書面は同月ニ日控訴人の原審訴訟代理人に到達したから、同日限り右契約は終了した。
従つて、控訴人は被控訴人に対し、右契約に基き、昭和三九年一○月一日以降右解除による契約終了前である昭和四ニ年四月三○日までの約定使用料一五八万円及び前記(ニ)の約定による違約金三一六万円を支払う義務がある。
四、次に、控訴人は、前記解除後も日曜祭日を除き毎日前記営業所に於いてその営業時間中、控訴人の常置しているニツの楽団及び他より委嘱した楽団や歌手に間断なく音楽を演奏歌唱させ、これを来集した不特定多数の客に聞かせているのであるが、右音楽には控訴人が右解除によつて前記契約が終了したため使用権限を喪つた管理著作物が含まれており、その演奏歌唱は右解除の後昭和四三年四月三○まで継続して行われた。控訴人の営業にとつて音楽の演奏歌唱は必要不可欠のものであり、右管理著作物の使用がその営業のために行われたものであることは明らかであるから、控訴人はこれによつて被控訴人の著作権の内容である興行権を侵害したものであり、また、かかる営業の経営者たる控訴人は、その営業上他人の音楽著作物を利用するに際しては、その利用によつて他人の著作権を侵害することがないかどうかにつき相当の調査をしなければならないのに、かかる調査をすることもなく、
被控訴人に無断で漫然と管理著作物を使用していたのであるから、控訴人は故意または少くとも過失によつて右著作権侵害を敢てしたものというべきである。
五、被控訴人は、控訴人の右著作権侵害により、通常管理著作物の使用の対価として収納し得る使用料に相当する得べかりし利益を喪失し、これと同額の損害を蒙つたのであるが、その金額は次の通りである。先ず、控訴人の前記営業所に於ける営業日数は一ヶ月平均ニ五日、その収容人員は五○○名未満、平均入場料はニ○○円以上五○○円未満、客席数はニ○○以上三○○未満であつて、その営業時間中一曲一回の演奏に三分前後を費やす軽音楽が間断なく演奏されており、これに含まれる管理著作物は少くとも一日延六○曲以上に及んでいる。一方、被控訴人が「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」第3条第1項に基き主務大臣の認可を受けて定めた「著作物使用料規程」によると、当時、管理著作物の使用料は、収容人員五○○名未満、平均入場料ニ○○円以上五○○円未満の演奏会に於ける使用の場合は、一曲につき四○○円と定められ、これをキャバレー等の社交場に於て使用する場合は右使用料の五割の範囲内で使用状況と演奏時間を斟酌して具体的な使用料を決定することとしているのであるが、その斟酌は、収容人員五○○名未満のもについては更に一○○名単位で段階的に区分し、その客席数に応じて減額するという方法で行つている。これを控訴人の前記条件下に於ける管理著作物の使用の場合に適用すると、別紙計算表記載の通り一曲当り一○○円となるから、一日六○曲の使用料は六、○○○円であり、前記契約解除後昭和四三年四月三○までの営業日数三○○日の使用料は合計一八○万円となるのであつて、被控訴人は控訴人の前記著作権侵害によりこれと同額の損害を蒙つたのであり、控訴人は被控訴人にこれを賠償する義務がある。
六、よつて、被控訴人は控訴人に対し、以上の約定使用料及び違約金並びに損害金の合計六五四万円及びこれに対する各履行期より後である昭和四三年五月一四日以降右金員完済に至るまで年五分の民事法廷利率による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人の答弁及び主張)一、請求原因一、の事実中、現に被控訴人が管理著作物の著作権を有するか否かは知らないが、その余の事実は認める。
同ニ、の事実中、控訴人が風俗営業に関する事実を営む会社であつて、昭和三八年一○月一日以降被控訴人の主張の如くキャバレーを経営していることは認めるけれども、その余の事実は否認する。被控訴人主張の契約は、控訴人方事務員がその代表者の承認を得ないで締結したものであるから、控訴人に対する関係では成立していない。
ニ、仮に、右契約が成立したとしても、控訴人は契約締結後約一年間管理著作物の使用料を支払つた後、右契約に疑義を抱いたので使用料の支払を停止し、契約期間の満了する昭和三九年九月末か同年一○月初め頃、その営業担当物Aを通じて被控訴人の大阪事務所担当員に対し、再三に亘り口頭または文書により、約定使用料が他の同業者のそれに較べ著しく高額であるから、被控訴人に於てこれを減額するのでなければ契約を更新しない旨主張して異議を述べたので、これにより右契約は同年九月三○日限り終了した。従つて、被控訴人は同年一○月一日以降の本件約定使用料及び違約金の請求権を有しない。
三、仮に、右契約が同年一○月一日から更新されたとしても、右Aは同年末頃まで前同様の異議申立を繰返しているから、更新後一年を経過した昭和四○年九月三○日を以つて終了したのであつて、被控訴人は少くとも同年一○月一日以降の約定使用料及び違約金についてはその支払を控訴人に請求することはできない。
四、また、仮に右契約が被控訴人主張の通り存続したとしても、右契約に定められた違約金は、本来の給付たる使用料に附加して支払うものであるから、明かに履行遅延による損害賠償の予定であり、これによつて使用料の支払を確保する作用を営むものであるところ、その金額たるや、本来の給付のニ倍に及ぶものであつて異常に高率であり、賃金に於ける賠償額の予定が年四割に制限されているのと対比しても、著しく不公正且つ不合理であるから、右違約金の約定は公序良俗に反する無効のものであり、且つ右約定に基く権利の行使は、双務契約に於ける債権者債務者の衡平を甚だしく失し、信義則に違反するものであるから、許容されるべきではない。
五、請求原因四、の事実中、控訴人が昭和四ニ年五月以降昭和四三年四月までの間管理著作物を使用したとの点は否認する。
一般に、キャバレー等の社交場で音楽を演奏する楽団は数名ないし一○数名で構成され、それぞれ演奏効果の相違により民謡調、ジャズ調等の特色を有するものであつて、社交場経営者はその好みの特色を有する楽団を選択してこれと契約しているのであり、その契約は楽団に於て音楽という無形的な結果を発生させ完成させることを内容とする請負契約である。控訴人の営業所に於て音楽を演奏している辰巳バンドと控訴人との間の関係も同様であつて、同バンドは楽器、楽譜等の用具を所有し、演奏曲目の選定も自らの判断でなし、その報酬も控訴人から右バンドの主宰者であるBに一括して支払われるのであり、また、他のショーを招来して演奏する場合にも、芸能プロダクションやショーを構成する団体のマネージャーが予め演奏曲目等の決定されたショーそのものを控訴人に売込んで契約するのであつて、その際に演奏する音楽の楽譜はマネージャーが辰巳バンドに貸与するのが通例であり、
演奏曲目が予め決められていないときは、ショー側が辰巳バンドと協議してこれを決めるのであり、報酬の支払方法も辰巳バンドに於けると同様である。そして、控訴人は右演奏曲目の選択決定の過程には一切関与しないし、楽団ないしショーの構成員に対する報酬の分配やその額の決定等も控訴人の全く関知しないところであるから、控訴人と右楽団ないしショーとの間の契約は雇傭契約ではなく、請負契約に外ならない。従つて、例えば辰巳バンドが他所で演奏することも自由であり、またこの契約関係を反映して楽団が著作物使用料を社交場経営者に寄託する例も多いのである。要するに、控訴人の営業所で演奏歌唱する楽団または歌手は、控訴人方の従業員ではなく、控訴人はこれらに興行場所を提供しているに過ぎず、辰巳バンドの場合も単にこれが長期に亘つて継続しているだけのことであるから、これらの演奏歌唱によつて被控訴人の著作権が侵害されたとしても、控訴人に不法行為責任が生ずる理由はない。
六、仮に控訴人に右不法行為責任があるとしても、被控訴人がこれによつて蒙つたと主張する損害の額は、これを争う。蓋し、被控訴人は右損害額を管理著作物の使用料相当額であると主張し、その限りに於ては右主張は正当であるけれども、本件に於て管理著作物の約定使用料は1ヶ月五万円(但し一ニ月は六万円)であるから、この金額が本件不法行為により被控訴人に通常生ずべき損害の額である。被控訴人主張の一日六、○○○円の損害額は単なる仮定的計算の上での金額であつて、
たとえ被控訴人主張の通りの根拠によつて一曲五分以内の演奏について一○○円の使用料として計算するのが相当であるとしても、右は特別の事情による損害に属するものであり、しかも、控訴人との間の具体的な場合に於て、被控訴人が前記約定使用料の額を超えて右の計算による高額の使用料を収め得たことは、双方とも予見することができなかつたのであるから、これを以つて被控訴人の損害額とすることはできない。
(控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論)一、控訴人の主張ニ、及び三、の各事実はこれを否認する。
同四、の主張は争う。即ち、被控訴人は本来控訴人に対し請求原因五、に於て述べた方法によつて算出した少くとも一日六、○○○円、一ヶ月平均ニ五日間の営業として月一五万円の管理著作物使用料を請求することができたのであるが、控訴人の要望により、控訴人が管理著作物の継続的利用者であることを考慮して、特にその三分の一の額を以て一ヶ月の使用料額と定めたのであつて、右は控訴人に対する優遇措置であるに過ぎない。しかし、控訴人がこの減額した使用料さえ支払わない場合には本来の使用料を負担させるのが当然であるから、これと約定使用料との差額を違約金名義で支払うべきこととしたのである。このように、本件契約に於ける違約金の約定は、管理著作物の誠実な利用者に対して優遇措置をとる反面、不誠実な利用者に対する違約罰を定めたのもであり、これによつて前記使用料規程による本来の使用料体系との間に合理的な均衡を保持し、管理著作物利用者間の負担の公平を図る趣旨に出たものであるから、右約定に公序良俗違反がないのは勿論、その権利行使が信義則に違反するわけもない。
ニ、控訴人はその主張五、において、本件著作物侵害の責任は控訴人にはなく、現実に管理著作物を演奏歌唱する楽団または歌手にその責任があると主張する。しかし、これら楽団ないし控訴人の委嘱により営業方針に従つて控訴人の指図により演奏歌唱しているに過ぎず、楽団または歌手が控訴人の営業所を借受けて独自の演奏興行をしているわけではないのであるから、演奏歌唱する曲目の選択がこれらの者に委されているとしても、楽団及び歌手は結局営業主たる控訴人の支配下にあり、
演奏曲目も控訴人の自由に左右し得るものである。即ち、右演奏歌唱は控訴人の立場に於てその営利を目的として行われているものであつて、控訴人と楽団または歌手との間の内部的な契約関係を雇傭契約であると請負契約であるとを問わず、興行者としての控訴人が右不法行為責任を免れることはできない。
三、なお、被控訴人の主張する一日六、○○○円の割合による使用料相当の損害は、本件著作権侵害より生ずる通常の損害であつて、控訴人が前記六、に於て主張する如くその三分の一を超える部分が特別の事情による損害となるのではないことは、被控訴人の前々項の主張によつて明かである。
理 由(当事者双方の業務) 被控訴人協会が「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」による許可を受けた我国唯一の著作権仲介団体であつて、内外の音楽著作物につき各著作権者より著作権の信託的譲渡を受けてこれを管理し、右管理にかかる著作物の我国内に於ける使用者に対しその使用を許諾して各使用者から著作物使用料を収取し、これを内外の著作権者に分配することを主たる業務とするものであること、並びに控訴会社が風俗営業に関する事業を営む会社であって、昭和三八年一〇月一日以来大阪市<以下略>の営業所に、バンドステージ、ピアノ、フロアー、客席及び楽団等の設備を設け「ゴールデンミカド」と称するキヤバレーを経営していることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一八号証、第四一ないし第四三号証、第五八号証ないし第六ニ号証の各ニ、原審に於ける被控訴人協会代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第五八ないし第六ニ号証の各一、第六四号証の一ないし五、当審証人Cの証言並びに右代表者本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人協会は、現に管理著作物につきそれぞれその著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて、これを管理しているものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(被控訴人の管理著作物約定使用料の請求について) 原審証人Dの証言により真正に成立したものと認める甲第一号証、成立に争いのない甲第ニ、第八及び第一七号証、右証D、当審証人E及び同Aの各証言を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右すべき証拠はない。即ち、
一、昭和三八年一〇月初頃、被控訴人協会関西営業所職員Dは、控訴会社が前記の如く同月一日よりその営業を開始したことを新聞広告によつて知り、その営業の性質上同会社が管理著作物を使用するものと考えて、同月四日控訴会社を訪ね、当時控訴会社経営の実権を掌握していた常務取締役Fに面会して同人から控訴会社の営業の規模、管理著作物の使用状況等について説明を受け、控訴会社が管理著作物を使用していることを確認した上、「音楽と著作権」と題するパンフレツト(甲第一七号証)と共に「音楽著作物使用許諾契約申込書」用紙二通、「著作物使用料規程」一部(甲第八号証中第四節の変更部分を除いたものと同一のもの)を交付し、
管理著作物を使用するには被控訴人協会の許諾及び所定の使用料の支払が必要であることを説明して、早急に右使用許諾契約締結の申込をするよう要求したところ、
控訴会社は右要求に応じて同月二一日被控訴人協会関西営業所に右申込書二通(内一通は甲第一号証添付のもの)を送付した。
二、同月二四日右Dが「契約書」用紙二通を持参して控訴会社を訪ねたところ、控訴会社に於ては、営業部長Gが右Dに対し控訴会社が営業を開始したばかりであることを理由に、当分の間使用料を減額するよう申入れてその諒解を得て細目を決定した上、予めFの指示を受けていた同会社経理部長Aが右契約書用紙二通に控訴会社代表者の記名印及び印を押捺した。
三、Dは右契約書用紙を一旦被控訴人協会関西営業所に持帰り、直ちに被控訴人協会側の調印をすませた上、内一通(甲第一号証)は協会に留め、他の一通を控訴会社に郵送したが、右契約書には、管理著作物の使用料、不履行の場合の措置及び契約の存続期間に関し(イ) 管理著作物使用料は、演奏の有無回数に拘らず、月額五万円(但し一二月は六万円)とし、控訴会社はこれを毎月一〇日被控訴人協会の事務所に持参して支払う。但し昭和三八年一〇月から昭和三九年三月末日迄の使用料は特に月額四万円とする。
(ロ) 控訴会社が三ケ月以上右使用料の支払をしないときは、控訴会社は被控訴人協会に対し、使用料の外に、違約金として月額使用料の倍額を支払う。
(ハ) 控訴会社が本契約に違反したときは、被控訴人協会は催告をしないで直ちにこれを解除することができる。
(二) 契約期間は昭和三八年一〇月一日より昭和三九年九月三〇日までとする。
但し、期間満了時に当事者のいずれかから特に異議を述べない限り、本契約と同一の内容を以て契約を更新したものとする。
という趣旨の記載がある。
右に認定した事実によれば、昭和三八年一〇月二四日被控訴人協会と控訴会社との間に、右契約書記載通りの内容の管理著作物使用許諾契約が成立したものと認めるべきである。
ところで、控訴会社は、右契約期間の満了する昭和三九年九月末か一〇月初頃被控訴人協会に対し、約定使用料を減額しなければ契約を更新しない旨主張して異議を述べ、その後に於ても再三同様の異議を繰返しているから、右契約は昭和三九年九月三〇日限り、遅くとも翌四〇年九月三〇日限り終了したと主張するのであるが、当審証人A、同H及び同Iの各証言中、控訴会社の右主張に添う部分はいずれも後記認定に照して容易に信用することができず、他に右主張事実を肯認するに足る証拠はない。却つて、《証拠略》を綜合すると 控訴会社の前記約定使用料の支払は常に一、二ケ月遅れてなされており、前記契約期間の満了する昭和三九年九月分を同年一一月一一日に支払つた後は、右使用料を全く支払わなくなつたので、その後被控訴人協会関西営業所職員は再三に亘つて控訴会社を訪ね、或いは電話でその支払方を請求したけれども、控訴会社に於ては役員が支出の決裁をしないことや手許不如意を口実に支払の猶予を求めるばかりで、格別使用料の減額を求めることはなく、昭和四一年六月一〇日付書面で被控訴人協会に分割払の認容方を求めた際にも、使用料の額そのものについては何等言及するところがなかつた。
との事実が認められるのであつて、右事実によれば、前記契約はその(ニ)の条項により、昭和三九年一〇月一日、昭和四〇年一〇月一日及び昭和四一年一〇月一日、相次いで従前通りの内容で更新されたものとする外はない。
そして記録によれば、被控訴人協会が昭和四二年五月一日付本訴準備書面を以て前記(ハ)の約定に基き控訴会社の右使用料不払を理由として右契約を解除する旨の意思表示をなし、同準備書面が同月二日控訴会社の原審訴訟代理人麻植福雄に到達したことは明らかであつて、右契約は同日限り終了したものと認められるから、
控訴会社に対し、昭和三九年一〇月一日以降右契約終了前である昭和四二年四月三〇日迄一ケ月五万円(但し一二月は六万円)の割合による合計一五八万円の約定使用料の支払を求める被控訴人協会の請求は理由がある。
(被控訴人の約定違約金の請求について) 前述の通り被控訴人協会と控訴会社の間には、控訴会社に於て管理著作物の使用料を三ケ月以上支払わないときは、当該使用料の外、その倍額の違約金を被控訴人協会に支払う旨の約定が存するところ、控訴会社は、右違約金の額が使用料の額に較べて不当に高額であるから右約定は公序良俗に反する無効のものであり、且つ右約定に基く権利の行使は信義則に違反するものであるから許容すべきでないと主張するので、この点について考えるに、成立に争いのない甲第八五号証、原審証人Dの証言により真正に成立したものと認める甲第五号証の一ないし三、原審証人Eの証言により真正に成立したものと認める甲第一九及び第ニ○号証の各一及びニ、当審証人Jの証言により真正に成立したものと認める甲第六九号証の六及び七、原審証人D、当審証人K、原審及び当審証人E並びに同Bの各証言を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。即ち一、控訴会社の経営する前記キヤバレーの営業日数は平均一ケ月二五日、平均入場料は二〇〇円以上五〇〇円未満、客席数は約二八〇であつて、控訴会社は右キヤバレーに開業以来二ツの楽団を常置して間断なく軽音楽を演奏させており、その中には少くとも一日六〇曲(但し演奏時間は一曲につき五分未満)の管理著作物が含まれている。
二、一方、被控訴人協会は「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」第3条第1項の規定に基き、昭和一五年二月一九日主務大臣の認可を受けて「著作物使用料規程」を定め、その内容はその後数次の変更を経たが、昭和三六年七月二五日の認可により変更され前記契約締結の際の基準とされた右規程によると、管理著作物の実演の内、軽音楽一曲一回の演奏による使用料は、収容人員五〇〇名未満、使用時間五分未満、平均入場料二〇〇円以上五〇〇円未満の場合は一曲につき四〇〇円と定められており、これをキヤバレー、カフエー等の社交場に於て使用する場合は右使用料の五割の範囲内で使用状況及び演奏時間を斟酌してこれを決定することとされているところ、被控訴人協会に於てはその斟酌の方法として収容人員五〇〇名未満のものを更に一〇〇名単位で段階的に区分し、各社交場の客席数に応じて減額することとしている。
三、右の基準を控訴会社の場合に、客席数二八〇を二五〇として控え目に適用すると、別紙計算表記載の通り一曲当り一〇〇円となるから、一日六〇曲の使用料は六、〇〇〇円、一ケ月平均二五日の使用料は一五万円となるけれども、被控訴人協会は、前記契約締結の際控訴会社が減額方を求めたことと控訴会社が管理著作物の継続的利用者であることを考慮し、特約によつてその三分の一である五万円(但し一二月は六万円)を一ケ月の使用料と定めると共に、控訴会社がこの減額された使用料すら三ケ月以上も支払わないようなときは、被控訴人協会が右規程によつて取得することのできた額と約定使用料との差額一〇万円を控訴会社に負担させる意味で、月額使用料の倍額を違約金とする前記約定がなされたものである。
以上の事実からすれば、右違約金の約定の当否を考えるには、その額を決定する基準とされた前記「著作物使用料規程」の合理性ないし拘束力の有無が検討されなければならないところ、先ず、被控訴人協会の営む著作権仲介業は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基き主務大臣(昭和四三年法律第九九号による改正後は文化庁長官、以下同じ)の許可を受けなければ営むことができないものである(同法第2条)ばかりでなく、主務大臣に対する業務報告書及び会計報告書の提出を義務づけられ、主務大臣は業務報告、帳簿書類の提出及び業務執行方法の変更等を必要に応じて仲介業者に命ずることができ、事務所等の臨検検査権を有し、更に事情によつては前記許可の取消や業務執行停止の措置すら採り得る(同法第六ないし第9条)のであつて、仲介業者は国の強力な監督下に置かれているのである。そして、同法第3条は、著作物使用料について、仲介業者に著作物使用料規程を定めて主務大臣の認可を受けることを義務づけ、主務大臣は、認可申請のあつた規程の要領を公告して利害関係人等に意見具申の機会を与えた後、著作権制度審議会の諮問を経た上でなければ右認可を与えることができないこととしているのであって、
右規定の趣旨は、これにより著作物使用料規程の内容が合理的且つ公正であることを保障するとともに、著作物の利用を簡易且つ円滑化し、以て著作物利用者を保護することにあると考えられる。そうだとすれば、かかる慎重な手続を経て認可された著作物使用料規程は、特にこれを不当とするような事情の認められない限り、公正且つ妥当な内容を有するものと推定すべきであるし、また、右規程は、前述のように強力な国の監督に服する業者がこれに準拠することを義務づけられている(同法第ニ条第ニ号参照)こととの均衡上、当事者がこれによる意思を有すると否とに拘らず当然当事者を拘束するとまではいえないにしても、少くとも当事者がこれによらない意思を表示しない限り、これに準拠する意思で著作物使用契約を締結したものと観なければならない。本件に於ても、前認定の通り被控訴人協会が主務大臣の認可を受けて定めた前記「著作物使用料規程」が存するのであるから、特約のない限り、控訴会社の管理著作物使用料は右規程によつて算出するのが相当であるところ、前認定の通り、右規程によつて算出した控訴会社の使用料額は一ケ月一五万円であるから、被控訴人協会は控訴会社に対し本来これと同額の使用料の支払を求め得たこととなるのであるが、それにも拘らず、被控訴人協会が控訴会社との間にその管理著作物使用料を一ケ月五万円(但し一二月は六万円)と約定したのは、管理著作物の継続的利用者である控訴会社に対する優遇措置であつて、前記違約金は、これによつて間接的に使用料の支払を強制すると共に、右優遇措置にすら甘んじない不誠実な管理著作物利用者に対する制裁の意味で定められたものというべきである。そして、右使用料の特約はその限りに於て前記規程の適用を排除するものではあるけれども、この特約のために右規程に準拠した使用料額がその合理性を失うものでないことは勿論であるから、控訴会社が三ケ月以上前記約定使用料を支払わない場合は、右規程によつて算出した使用料額を標準として、当該約定使用料の外、その二倍の違約金を支払うこととした右違約金の約定は、一二月以外の月の分については、結局右規程によつて算出した本来の使用料額に復したに過ぎず、また毎年一二月の分がその他の月より二万円多額になるとしても、これを不当に高額であるということができないことは明らかであつて、右違約金の約定が公序良俗に違反するものとなし得ないことはいうまでもなく、更にかかる事態を招来した責任は前記優遇措置により三分の一に減額された使用料さえも支払わなかつた控訴会社にあるのであるから、被控訴人協会が右違約金請求権を行使することを以て信義則に違反するものであるということもできない。
してみれば、控訴会社に対し前記使用料債務不履行の期間中、一ケ月一〇万円(但し一二月に限り一二万円)の割合により、合計三一六万円の違約金の支払を求める被控訴人協会の請求も亦理由があるものとしなければならない。
(被控訴人の損害賠償の請求について) 成立に争いのない甲第六三及び第六五号証の各ニ、第六八号証の三、第六九号証の四及び五、第七七号証の一ないし三、第七九及び第八○号証の各六、第八一号証の五、第八ニ号証の四、第八四号証の六、第八五号証、当審証人Jの証言により真正に成立したものと認める甲第六五、第六七、第六八、第六九及び第七三号証の各一、第七○及び第七一号証、当審証人Lの証言により真正に成立したものと認める甲第六六号証の一、当審証人Kの証言により真正に成立したものと認める甲第七六及び第七八号証の各一、当審証人Eの証言により真正に成立したものと認める甲第七九ないし第八四号証の各一、控訴会社経営の前記キヤバレーに於て昭和四ニ年五月ニ三日、同年八月八日、同年九月五日、昭和四三年一月三○日、同年ニ月ニ七日、同年四月三○日(ニ巻)、同年五月一三日、同年一○月一一日(ニ巻)及び同月一ニ日(ニ巻)、順次録音された録音テープであることについて争いのない検甲第ニないし第一三号証、当審証人J、同L、同K、同E、同B及び同Hの各証言を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。
一、控訴会社の営業所である前記「ゴールデンミカド」はいわゆるキヤバレーであつて、その営業の性質上、単に来集する不特定多数の客に飲食物を提供するだけでなく、絶えず音楽を演奏し或いはシヨーを催して社交場としての雰囲気を維持する必要があるところから、控訴会社は右営業所に、約二八〇の客席の外、冒頭に判示した諸設備を設けて音楽の演奏歌唱及びダンス等ができるようにしており、前記契約解除の後昭和四三年四月三〇日に至る間も日曜祝日を除く毎日その営業を継続していたが、その営業及び音楽についての管理著作物使用の状況は右契約解除以前と全く異るところがなかつた。
二、控訴会社が右営業所に常置している二ツの楽団は、いずれもピアノ以外の楽器及び楽譜を各楽団員に於て所有し、控訴会社から演奏の都度その曲目の指示を受けることはないが、演奏による収益は控訴会社に帰属し、楽団の報酬はほぼ定額であつて、その主宰者が控訴会社から一括支払を受けることになつており、また楽団は控訴会社に専属するものであつて右営業所の営業時間中に他へ出演することはなく、その演奏曲目も自から控訴会社の店舗ないし客層にふさわしいものが選ばれ、
またシヨーについても予め控訴会社からこれを知らされ、シヨー出演者と打合せて練習した上その伴奏に当るのであつて、その演奏曲目の大部分は管理著作物であつた。
三、営業所に於ては殆ど連日シヨーが催されていたが、これらのシヨーは、控訴会社が予め出演申込者からその内容の説明を受け、そのうちから控訴会社の営む社交場特有の雰囲気と客の好みに応じた出演者を選択して催すもので、もとより出演者が独自の立場で興行するわけではなく、またその内容はすべて音楽の伴奏を必要とするため管理著作物の使用を伴い、特に歌唱を主とするものにあつては管理著作物の利用が大部分を占めていた。
以上の事実によると、
右楽団又はシヨー出演者の音楽の演奏歌唱は専ら控訴会社のために行われたものであつて、管理著作物の利用主体は控訴会社であり、同会社が営利のため管理著作物を興行の用に供していたものというべきである。そして、これが音楽著作権に包含される興行権の侵害に当ることは明らかであり、右侵害について控訴会社に故意または過失のあることは、叙上認定の事実に照し自からこれを認め得るところであるから、控訴会社は被控訴人協会に対する不法行為責任を免れ得ないものといわなければならない。
控訴会社は、右楽団及びシヨー出演者の演奏歌唱が控訴会社との間の請負契約に基いてなされていることを理由として、控訴会社には右不法行為責任はないと主張するけれども、控訴会社と右楽団及びシヨー出演者との間の契約が請負契約であると否とを問わず、右に説示した通り、控訴会社が興行者であり、自己の営業の手段として管理著作物を使用せしめた以上、自ら不法行為者としての責任を負担すべきことは当然であるから、控訴会社の右主張は採ることができない。
してみれば、控訴会社は被控訴人協会に対し右著作権侵害により生じた損害を賠償する義務を負うべきところ、その損害額の算定については困難な問題があるけれども、少くとも被控訴人協会はその著作権行使につき通常受けるべき金銭の額、換言すれば客観的に相当な使用料額と同額の損害を受けるものと観るのが相当である。けだし、音楽著作権を侵害して興行する者があれば、本件の如く著作権者が自ら興行せず、専ら他の興行者に著作権を利用させて使用料のみを取得している場合でも、著作権者はその使用権即ち興行権に基く市場利益を失うのであるから、そのため損害を受けるのは当然であつて、その損害額は、反証のない限り、著作権の使用を許諾したときに通常受ける相当な使用料額を下らないものと考えられ、このことは、法が他の無体財産権侵害による損害額について「実施許諾料或いは使用料相当の金銭を損害の額として賠償を請求することができる」との規定(例えば、特許法第102条第2項、商標法第38条第2項等)を設けている趣旨に照しても、首肯し得るところであるからである。そして、控訴会社の営業及びその管理著作物の利用の状況が前記契約解除後もそれ以前と変りがないことは前認定の通りであるから、控訴会社の被控訴人協会に支払うべき、客観的に相当な使用料額は、前記契約存続中の場合につき説示したのと同様、前記「著作物使用料規程」によつて算出した金額であり、少くとも一日六、〇〇〇円を下らないものと認められ、前記契約解除の翌日である昭和四二年五月三日から昭和四三年四月三〇日までの間の控訴会社の営業日数が、一ケ月平均二五日、合計三〇〇日であることはさきの認定によつて明らかであるから、右期間中の使用料を計算すれば合計一八〇万円となり、これを以て被控訴人協会が控訴会社の右著作権侵害によつて蒙つた損害であると認めるべきである。
控訴会社は、前記約定使用料が一ケ月五万円であつたことを理由に右損害額中、
約定使用料額を超える部分はいわゆる特別損害に属し、且つ双方にその予見可能性がなかつたから、これを本件著作権侵害による損害に含ませるべきではないと主張する。しかし、前記の通り右約定使用料は、利用者が被控訴人協会と継続的契約関係に立ち、しかも使用料支払につき誠実であることを前提として、特別に減額されたものであるから、これを以て前記客観的に相当な使用料とすることはできないから、この点に関する控訴会社の主張は採ることができない。
そうであれば、控訴会社が昭和四二年五月三日以降昭和四三年四月三〇日迄の間管理著作物を無断で利用し、その著作権を侵害したことによる損害の賠償として、
控訴会社に対し一八〇万円の支払を求める被控訴人協会の請求も理由があるものとすべきである。
(結論) 以上の通りであつて、控訴会社に対し、昭和三九年一〇月一日以降昭和四一年六月末日までの間の約定使用料及び違約金を被控訴人協会に支払うべきことを命じた原判決は相当であり、これに対する控訴会社の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、被控訴人協会が附帯控訴によつて拡張(但し遅延損害金の一部については減縮)した昭和四一年七月一日以降昭和四二年四月三〇日迄の間の約定使用料及び違約金、同年五月三日以降昭和四三年四月三〇日迄の間の著作権侵害による損害賠償金並びにこれらに対する被控訴人協会の昭和四三年五月一四日付準備書面が控訴会社に到達した日の翌日であること記録上明らかな同月一五日以降完済に至るまで年五分の民事法定利率による遅延損害金の控訴会社に対する請求は、すべて理由があるから、右附帯控訴に基き原判決主文第一項を主文掲記の通り変更し、
訴訟費用の負担につき民事訴訟法第96条第89条を適用して、主文の通り判決する。
裁判官 金田宇佐夫
裁判官 輪湖公寛
裁判官 中川臣朗