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審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和47ネ2816 判例 特許権
昭和55ネ911 判例 特許権
平成12ネ1268謝罪広告等請求控訴事件 判例 特許権
平成12ワ944損害賠償請求事件 判例 特許権
平成7ワ23527謝罪広告等請求事件 判例 特許権
関連ワード 表現方法 /  引用 /  出所の明示 /  登録 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 昭和 46年 (ワ) 8643号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1972/11/20
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年一〇月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、その費用をもつて原告のために、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社発行の読売新聞の各全国版社会面に、二段抜左右一〇センチメートルのスペースをもって、見出し二〇級ゴシツク、本文一六級明朝体、被告名および宛名一八級明朝体の写真植字を使用して、別紙謝罪広告目録記載の広告を一回掲載せよ。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の申立
原告 主文第一項ないし第三項同旨の判決ならびに主文第一項につき仮執行の宣言を求める。
被告「一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。
請求原因
一 原告は、山岳関係、スキー関係の写真に力点をおいて仕事をしている写真家であり、別添写真(1)(オーストリア国チロル州サンクリストフの山々の雪の斜面をスキーヤーたちが波状を描きつつ滑降しているカラー写真。以下「本件写真」という。)は、原告が昭和四一年四月二七日これを撮影著作し、昭和四二年一月一日実業之日本社発行にかかる「SKI’67第四集」に発表して公表したものであり、その著作権者である(別添写真(1)は、右「SKI’67第四集」に掲載したものを複写したものである―以下同じ。)。
二 被告は、日立家庭電器販売株式会社宣伝部広告課に勤務し、他方、【A】のペンネームで合成写真を発表しているグラフイツク・デザイナーである。
三 被告は、本件写真が原告の著作物であること、したがつて、その利用、とくにこれを利用して合成写真をつくり公表するには原告の同意を要することを認識、知悉しながら、あえて無断でこれを盗用し、かつ、本件写真右上部にタイヤを配し合成改ざんして偽作し(別添写真(2))、
1 これを被告の写真集「SOS」(●一九七〇年【A】のクレジツト入り)の二〇葉目の写真として登載、昭和四五年五月一日頃発行して公表し、
2 さらに、株式会社講談社発行「週刊現代」の昭和四五年六月四日号に「グラフ特集【A】の奇妙な世界」なる題名のもとに一連の写真を発表し、そのうち右偽作写真に「軌跡」という題号を附して公表し、よつて、本件写真についての原告の著作権(著作財産権および著作人格権)を侵害した。
四 被告による原告の著作権侵害の態様は、
1 本件写真をその著作権者たる原告の同意なくして使用していること。
2 カラー写真を白黒写真にしていること、
3 本件写真をほしいままにトリミング(カツト)していること、
4 本件写真の盗用のみならず、右上部にタイヤを配して合成改ざんし、偽作していること、
5 原告の氏名表示をせず、さらに偽作写真に被告の●マークを入れていること、
である。
五 原告の損害(一) 原告は、すでに世界一三〇か国を撮影、取材し、その作品を【B】作品集「ALPS」一九六九年一〇月株式会社講談社刊、【B】作品集「ヒマラヤ」一九七一年九月株式会社小学館刊、「世界の文化地理」全二三巻一九六三年一〇月から一九六七年六月株式会社講談社刊、「世界文化シリーズ」全二六巻一九六四年一〇月から一九六六年七月株式会社世界文化社刊、「フオト・マガジン」一九七〇年九月ドイツ刊、「フオト・グラフイコ」一九七一年四月イタリー刊などによつて内外に紹介してきた。
原告は、これらの撮影、取材を通じ、地球の美しさに感動し、この地球の美しさを原告のカメラをとおして再発見し、さらに再発見によつて人間の良識と人間性の回復になんらかの可能性を見出したいとの意図をもつて芸術活動をつづけているものである。
本件写真は、原告の右意図の一環を示す作品であるところ、被告は前記行為によつて原告の作品そのもののみならず、右意図を完全に破壊し、かつ、茶化し侮辱したものといわなければならない。
(二) 本件写真の完成にいたるまで、原告はオーストリアのサン・クリストフ所在のオーストリア国立スキー学校校長【C】教授と一九六六年二月下旬から四月下旬まで約二か月間にわたり撮影交渉をした。外国でのこの種の撮影には事前に入山と撮影の許可の必要な場合が多く、その許可の取得は非常に困難である。【C】教授は、オーストリア・スキーを完成した人として、その権威と実力を有する人であるが、原告は二か月にわたる交渉の末、撮影の許可を得、かつ、特に同スキー学校の優秀な教師のうちからモデルとして指名されたものをもつて撮影したのが本件写真である。
交渉の末、かろうじて【C】教授が原告の懇請をいれて撮影を許可し、スキーの名手達を指名し、また、これらのスキーヤーが原告に協力してくれたのは、原告の前記意図を正しく理解してくれたが故であつた。
しかるに、原告の本件写真が被告によつてかくも安易に偽作、公表されて破壊され、その著作意図が踏みにじられている事実は、同教授ならびに右スキーヤー達の善意を裏切り、その結果、原告自身、今後チロルはもちろんオーストリアの撮影活動に従事しえなくなる公算が大である。
原告は、山岳関係、スキー関係の写真を主として仕事をしている写真家であり、
写真家の間のみならず、社会的にも相当の評価を得ているものであるが、過去一三年間に一三〇か国を撮影取材してきた事実によつても明らかなように、その著作活動の場の大部分は外国の山岳関係、スキー関係であり、特に原告がこれまでもつとも時間と労力を注いだのはアルプスとヒマラヤであつて、写真家としての原告に対する右評価も主としては右アルプスおよびヒマラヤに関する写真著作に由来する。
したがつて、アルプスやオーストリアでの仕事に支障をきたすことは、とりわけ甚大切実な損害を蒙ることになるのである。
被告によつて偽作されるにいたった本件写真は、右アルプスの写真の一枚であつて、原告の芸術的生命にかかわる一連の著作の一部である。
(三) 以上の事情を勘案すると、被告の本件著作権(著作財産権および著作人格権)の侵害行為による原告の名誉信用に対する打撃は大きく、精神的損害は甚大である。その損害を金銭に評価すれば数百万円に達すると思われるが、少くとも五〇〇、〇〇〇円は下らないので、本訴において右金額とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年一〇月七日から右完済までの年五分の金員とを損害賠償として請求する。
さらに、右諸事情を勘案し、写真家としての原告の名誉信用の回復を求めるため、被告に対し主文第一項記載の条件で別紙謝罪広告目録記載の広告を掲載することを求める。
被告の答弁および主張
一(一) 請求原因一の事実のうち、原告が写真家であることは認めるが、その余の事実は不知。
(二) 請求原因二は認める。
(三) 請求原因三の事実のうち、被告が別添写真(2)の写真をつくつたこと、
被告が右写真を被告の写真集「SOS」(●一九七〇年【A】の名前入り)の二〇葉目の写真として登載し、昭和四五年一月頃発行して公表したこと、被告が株式会社講談社発行「週刊現代」の昭和四五年六月四日号に「グラフ特集【A】の奇妙な世界」なる題名のもとに一連の写真を発表し、そのうち別添(2)の写真に「軌跡」という題号を附して公表したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(四) 請求原因四の主張は争う。
(五) 請求原因五の(一)および(二)の事実のうち、被告が原告の作品そのもののみならず、原告の地球の美しさに感動し、この地球の美しさを原告のカメラで再発見し、さらに再発見によつて人間の良識と人間性の回復になんらかの可能性を見出したいとの意図を完全に破壊し、かつ、茶化し、侮辱したこと、原告の本件写真が被告によって安易に偽作公表されて破壊され、その著作意図が踏みにじられていることは、いずれも否認し、その余の事実は知らない。
二(一) 被告の作成した別添(2)の写真は、いわゆるモンタージユ写真(合成写真、フォト・モンタージユ)であつて、被告がアメリカン・インターナシヨナル・アンダーライター社(A・I・U)の昭和四五年のカレンダーに掲載されていた別添(2)の写真のタイヤの部分を除く写真とブリヂストンタイヤ株式会社のタイヤ広告写真とを合成した写真である。
(二) しかして、モンタージユ写真は、他人の写真を素材にしてはいるが、その作成は原写真の思想、感情の表現とは別個の思想、感情を表現する原写真とは別の新たな著作物であるから、原写真の偽作となるものではない。
1 モンタージユとは、フランス語の「組合わせ」という意味である。
モンタージユ写真とは、まつたく対立する空間とか物質の写真を素材として使用し、視覚的にも思想的にも使用した写真の本来の意図と異なつた新しい映像創作物をいう。それは、写真が本来対象のもつ意味をイメージとして伝達し表現する性格をもっているから、いくつかの写真を組み合せるとき、異質なイメージの衝突と意味の複合が一枚写真を別の表現的次元へ飛躍させるからである。
このモンタージユ写真は、芸術上コラージユの一手法として生まれたものである。コラージユとは、フランス語の「コル」(糊)に由来し、なにかを糊で貼りつけた作品を意味する。
2 一九世紀の中頃、自然の美しさをそのままストレートに表現し、光と影の美しさを発見した印象派の絵画が出現したが、その後芸術家に社会に対する意識をその創作物に表現しようとする傾向が生まれた。そして、その表現方法も次第に拡大され、立体派、未来派の出現などにより、新しい絵画の表現方法が創り出された。コラージユもその新しい表現方法の一つであり、ブラツク、ピカソなどの初期の作品にはコラージユが多い。この時からコラージュは芸術の表現方法であるとの思想が社会的に定着したのである。
3 第一次大戦中、スイスのチューリツヒでダダイズムが生れた。そして、モンタージユ写真による作品がダダイストにより多く作られた。
モンタージユ写真は、「一九三〇年代の前衛的な写真の手法として登場し、多重露出によるもの、重複焼付けや焼込みの技法などを開発してダダイストたちにも利用された」(引用は、昭和四六年一〇月九日朝日新聞夕刊【D】「フオト・モンタージユの流行」から。) このモンタージユ写真による芸術作品が現代のポツプ・アーチスト達に現在の情報過多時代の芸術手法として好んで用いられるようになつたのである。
産業、経済の急激な発達によりマスコミニケーシヨンの道具(マスメデイア)として各種印刷物、ラジオ、テレビ、屋外展示物(ネオン、広告塔、ポスター)など大衆をとりまく情報過多時代が到来し、ポツプ・アーチスト達はマスメデイアのうすつぺらなイメージを積極的にとりあげ、モンタージユ写真により、マスメデイアの虚像に満たされた現実自体がフイクシヨンであり、そのフイクシヨンの中に生きるうすつぺらな人間像をあからさまに諷刺的に表現している。
(三) 被告の別添(2)の写真製作の意図は、巨大なタイヤによつて自動車を表象し、スキーのシユプールを自動車のわだちにたとえ、写真の下のスキーヤーは自動車から人が逃れんとしている様をあらわして自動車による公害の現況を諷刺的に批評したものである。したがつて、原告の別添(1)の写真の製作意図を破壊したり、茶化したり侮辱したりしたものではない。
三(一) さらに、被告の右合成写真は、スキーシユプールがタイヤのわだちに似ていることを指摘することにより、原写真の美術的評価を批判するとの意図をも有するものであつて、このために原写真を引用したものであるから、なんら著作権の侵害となるものではない。また、合成写真による写真著作物の批評の方法は現在慣行化されているものである。
しかして、被告の右モンタージュ写真における原告の写真の引用は、正当なる範囲で行なわれたものであり、正当なる範囲における引用についてはその出所の明示を要しないものである。
(二) 本件に適用ある明治三二年法律第三九号著作権法(以下「旧法」という。)第30条第1項は、「既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス」とし、同項第二号は「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」と規定しているが、「正当の範囲内の引用」とは、その文字のとおり引用の内容が問題なのであつて、その引用方法が正当であつたかどうかとは別個の問題である。出所の明示をしなかつたからといつて、それに著作権法上罰則が適用されるかどうかは別として、それが「正当の範囲内の引用」ではないということにならないのである。
モンタージユ写真が他人の写真を引用してこれを合成するものであり、これが公正な慣行に合致するものであることは既に述べた。被告が原告の写真を引用して本件モンタージユ写真を作成したのは、モンタージユ写真という芸術的著作物の方法により自動車による公害の現況を諷刺的に批評したものであつて、目的において正当なものである。被告は、右目的のため、原告の写真のうち、スキーのシユプールの部分と、その下の人の部分(それは原告の写真の一部で、その三分の一にあたる。)を引用したものである。なお、スキーのシユプールの上にタイヤを配したことにより山の部分があらわれていないが、これはモンタージユ写真であるため当然のことで、原作のまま引用したのでないということにはあたらない。
(三) 旧法第30条は、その第二項において「本条ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス」と規定している。したがつて、「出所の明示」がなければ正当の範囲内における節録引用にならないではないかと考えられるかも知れない。しかしながら、旧法第37条は「偽作ヲ為シタル者及情ヲ知テ偽作物ヲ発売シ又ハ領布シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五万円以上ノ罰金ニ処ス」と規定し、同第39条は、「第二十条、第二十条ノ二及第三十条第二項ノ規定ニ違反シ出所ヲ明示セスシテ複製シタル者並第十3条第4項ノ規定ニ違反シタル者ハ一万円以下ノ罰金ニ処ス」と規定している。したがつて、旧法の解釈として「正当の範囲内における節録引用」には出所の明示が必要とするならば、出所の明示のない節録引用は偽作となるのであるから、旧法第39条の罰則規定は全く必要のないことになるのである。
また、第39条の罰則規定が第37条の罰則規定よりその処罰がはるかに軽いこと、出所の明示の規定は、旧法第30条の場合のほか、同法第20条の新聞または雑誌に掲載した政治上の時事問題を論議した記事の場合や、同法第20条の2の時事問題についての公開演述の場合にも存することからみて、「正当の範囲内における節録引用」と「出所の明示」とは関係ないものと考える。
立証(省略)
理 由一 被告が別添写真(2)の写真をつくり、これを被告の写真集「SOS」の二〇番目の写真として登録し、昭和四五年一月頃発行して公表したこと、被告が株式会社講談社発行の「週刊現代」の昭和四五年六月四日号に「グラフ特集【A】の奇妙な世界」なる題名のもとに一連の写真を発表し、そのうち別添(2)の写真に「軌跡」という題名を附して公表したことは、当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二号証の一、二、同第三号証の一ないし三、乙第一号証、原告、被告各本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件写真(別添(1)の写真)を昭和四一年四月二七日オーストリア国チロル州サン・クリストフで撮影し、昭和四二年一月一日付実業之日本社発行の「SKI’67第四集」に発表して公表したこと、被告は、アメリカン・インターナシヨナル・アンダーライター社(A・I・U)が発行した昭和四三年度のカレンダーに掲載されていた本件写真(もつとも右写真は、前記「SKI’67第四集」に掲載された写真と比べると、その左側部分が約五分の一カツトしてある。)と、ブリジストンタイヤ株式会社のタイヤの広告写真とを合成して、本件写真の上方やや右寄りに前記タイヤを配して、白黒で別添(2)の写真を作成したこと(もっとも、前記被告の写真集「SOS」においては、前記A・I・U・のカレンダーにおける本件写真の左側方がさらに約三分の一、週刊現代に掲載された写真においては約六分の一カットされている。)を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
三 右事実によれば、原告が本件写真について著作権を有していることはいうまでもない。
被告は、別添(2)の写真は、モンタージユ写真であって、他人の写真を素材にしてはいるが、原写真の思想、感情とは別個の思想、感情を表現する新たな著作物であるから、原写真の偽作となるものではないと主張するが、別添(2)の写真のようないわゆるモンタージュ写真が、一つの芸術形式として認められ得るということ、あるいは、現に一つの芸術形式として認められているということと、別添(2)のいわゆるモンタージユ写真が原告の本件写真の著作権を侵害しているかどうかということとは全く別個の問題であり、別添(2)の写真が本件写真とは別の思想、感情を表現する新たな著作物であるからといつて、別添(2)の写真が本件写真の偽作となるものではないということはできない。モンタージユ写真の中には、他人の写真や絵画等の中から小部分のみを引き出してつなぎあわせ、全体として元の写真なり絵画なりの原形が分らないまでにモンタージユされ、したがつて、
原著作権者の著作権の侵害が問題となりえないようなものも存在するであろうが、
別添(2)の写真は、右のような場合と異なり、前認定のように本件写真の右寄り上部にタイヤを配置しただけのものであって、別添(2)の写真が本件写真を素材としているものであることは一目瞭然である。このように、自己の著作物の中に、
他人の著作権のある著作物を、その著作権者の承諾を得ることなく、一部または全部をとり込んで公表することは、いわゆる剽窃であって、他人の著作権を侵害するものであるのはもちろんである。本件写真は、カラー写真であり、別添(2)の写真は白黒写真であるが、別添(2)の写真がカラーを白黒に変えた以外は本件写真の大部分をそのまま複製しているものであり、右複製につき原告の承諾を得たとのことは被告の主張立証しないところであり、前認定の事実によれば、被告には少なくとも過失があつたものというべきであるから、他に被告の右複製を正当化しうる事由の認められない本件においては、被告の右本件の写真の複製は、原告の著作権を侵害する違法のものであるといわなければならない。このことは別添(2)の写真が本件写真とは別個の表象、思想、感情を与えるものであるかどうかということとは全く別の問題である。
四 被告は、別添(2)の写真製作の意図は、巨大なタイヤによつて自動車を表象し、スキーのシユプールを自動車のわだちにたとえ、写真の下のスキーヤーは自動車から人が逃れんとしている様をあらわして、自動車による公害の現況を諷刺的に批判したものであり、したがつて、本件写真の製作意図を破壊したり、茶化したり、侮辱したりしたものではなく、また、被告の右写真は、スキーシユプールがタイヤのわだちに似ていることを指摘することにより、原写真の美術的評価を批判するとの意図をも有するものであつて、このために原写真を引用したものであるから、なんら著作権の侵害となるものではなく、右引用は正当なる範囲内で行われたものであるから出所の明示を要しない、と主張するので、以下その主張について検討する。
本件に適用ある(昭和四五年法律第四八号著作権法附則第17条参照。)旧法第30条第1項は、「既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス」とし、同項第二号は、「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」と規定している。「節録引用」とは、短く記載して引用することであり、短くとは、引用するものと引用されるものとの相対関係によつて決めらるべきものであり、「引用」とは、著作物に創作的に表現された思想または感情を、原作のまま、自己の著作目的に適合するように摘録して、自己の著作物中に利用することをいうのであり、原作の思想感情を改変して自己の著作物の中に取り入れ、これを自己の著作物とすることは、原作の表現の大部分をそのまま利用するものであつても、すでに改作であつて、引用ではないと解するのが相当である。別添(2)の写真は、前説明のように、本件写真の上部に、中央より右側寄りに自動車のタイヤを配したことにより、本件写真に表示されている右側の山はタイヤによつて隠され、
被告自身主張するように、本件写真とは異なつた思想なり感情なりを表示するものとなつているのであつて、被告による本件写真のこのような使用方法は引用であるとはいえないのである。みずから原作を改変破壊しておきながら、それが原作に対する批評であるから、右の改変は原著作権者の承諾を得なくても著作権を侵害することにならないというがごときは、それ自体許されないといわなければならない。
別添(2)の写真によつて、自動車による公害の現況を諷刺的に批判するということが、本件写真を改変して原告の著作権を侵害することを正当化するものでないことはいうまでもなく、被告の右写真は、少くとも本件写真の製作意図を破壊してしまつていることは、両者を対比することにより、説明をまつまでもなく明らかである。
以上のとおり、別添(2)の写真は、本件写真を「正当の範囲内において節録引用」したものではないから、仮に被告が別添(2)の写真に本件写真の出所を表示して公表したとしてもなお原告に対する関係でその著作権を侵害することとなり、
それによつて生じた損害を賠償しなければならないものというべきである。
五 そこで、損害額についてみるに、成立に争いのない甲第四号証の一の(イ)、
(ロ)、同号証のニないし一一、同第五号証の一ないし四、同第六号証の一ないし三、同第七号証の一ないし四、同第八号証ないし第一○号証、同第一一号証の一ないし三、同第一ニ号証の一ないし六および原告本人尋問の結果を総合すると、原告が請求原因五の(一)および(二)で主張する事実の全部ならびに原告はその写真集「ヒマラヤ」によつて昭和四七年一月一四日毎日芸術賞、同年三月二四日芸術選奨文部大臣賞を受賞したこと、写真家としてこの二賞を受賞したものは原告の他に三人しかいないこと、原告は原告作成の写真一枚を金二〇〇、〇〇〇円の使用料で他に使用させていることを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定事実によれば、被告の行為による原告の著作権の侵害による精神的苦痛については、金五〇〇、〇〇〇円をもつて慰藉されるべきものとするのが相当であり、さらに、写真家としての原告の毀損された名誉信用については、被告に対し、主文第二項記載のとおり別紙謝罪広告目録記載の広告を掲載させることにより、その回復がされうべきものと認められる。
六 よつて、損害賠償として金五〇〇、〇〇〇円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年一〇月七日から右完済までの民法所定の年五分の金員の支払及び前記謝罪広告の掲載を求める原告の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく、いずれも正当であるから、これを認容することとし、
訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条、金員支払を命ずる部分に対する仮執行の宣言について同法第196条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)謝罪広告私の写真集として昭和四五年四月刊行した「SOS」中、二〇葉目の写真および週刊現代昭和四五年六月四日号に「軌跡」と題して掲載発表した写真は、株式会社実業之日本社発行SKI’67第四集または昭和四三年用A・I・U・カレンダーに貴殿が発表されたサンクリストフを滑降するスキー写真を無断で複写盗用し、かつ、右上部にタイヤを配して合成し改ざんしたものであつて、貴殿の著作権ならびに著作人格権を侵害したものであり、多大のご迷惑をかけたことをここに深くお詫びいたします。
【A】こと【E】【B】殿<11740-001><11740-002>
裁判官 荒木秀一
裁判官 高林克巳
裁判官 野澤明
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