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審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和50ワ1314 判例 特許権
関連ワード 著作者 /  複製物 /  同一性 /  著作者人格権 /  氏名表示権 /  報酬請求 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 昭和 48年 (ワ) 4501号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1977/01/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告に対し、被告株式会社アメリカン・ボウリングサービスは金一九三万二、〇〇〇円、被告株式会社小俣組は金二〇万円及び右各金員に対する昭和四五年一一月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中、原告と被告株式会社アメリカン・ボウリングサービスとの間に生じた分は、これを五分し、その一を原告、その余を同被告の負担とし、原告と被告株式会社小俣組との間に生じた分は、これを一〇分し、その九を原告、その余を同被告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 被告らは、連帯して、原告に対し、金二四四万八、七二〇円及びこれに対する昭和四五年一一月二日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二 被告ら1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
当事者の主張
一 原告の請求原因1 原告は、もと北村建築株式会社と称していたが、昭和四八年一〇月一日、商号をきたむら建築設計株式会社と変更し、その旨の登記をし、建築の設計、整理等を目的とする株式会社であり、被告株式会社アメリカン・ボウリングサービス(以下「被告ABS」という。)は、ボーリングボールの製造、販売等を目的とする株式会社であり、被告株式会社小俣組(以下「被告小俣組」という。)は、建築の設計、施工の請負等を目的とする株式会社である。
2 原告は、昭和四五年七月二日、被告ABSから、同被告の本社ビル(以下「本件建物」という。)新築工事について、その設計及び整理を、報酬は総工費の四パーセント(すなわち、総工事費予算額金六、一二一万八、〇〇〇円に右料率を乗じた金二四四万八、七二〇円)とする約定で委託された(以下、右契約を「本件契約」という。)。
3 設計監理業務は、基本設計、実施設計、監理の順に遂行されるものであるところ、原告は、昭和四五年七月中から同年一〇月頃までの間、前記約旨に基づいて、
委託者である被告ABSと協議を重ねながら、まず、基本設計業務として、基本設計図の作成等をし、次いで、実施設計業務として右基本設計図をより詳細、具体化した実施設計図の作成、建築基準法に基づく確認申請手続等をし、この間、原告の業務に従事する従業員が、その職務上、一二葉の図面からなる設計図(以下「原告設計図」という。甲第四ないし第一五号証の各一)を作成して、原告は、その著作権を取得し、次いで、整理業務として、被告ABSによる工事施行者の選定、工事契約方式の決定、工事契約書案の作成に協力し、工事施行者として選定された被告小俣組の提出した工事費明細書の内容を調査し、これについて意見を述べ、被告ら間の工事契約書に建築家として調印し、建築詳細図を作成し、被告小俣組の提出した施工図等の検査及び承認をし、監理業務の大半を完了した。
4 ところで、被告ABSは、昭和四五年八月八日、原告に対し、本件契約に基づく報酬の一部として金七〇万円を支払つたものの、残額金一七四万八、七二〇円については未払であつたことから、右支払を免れようと企て、被告小俣組と共謀のうえ、同被告をして本件工事についての設計監理業務を担当させる一方、同年一一月二日、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をし、右報酬残額の支払を免れたものである。
以上のように、被告らの行為は、原告の本件契約に基づく報酬請求権を侵害した不法行為であり、被告らは、共同不法行為者である。しかして、原告は、右報酬残額金一七四万八、七二〇円の支払を受けられず、これと同額の侵害を受けた。したがつて、被告らは、原告に与えた右損害を賠償すべき義務がある。
5 ところで、被告らは、昭和四五年一〇月上旬頃、共謀のうえ、原告に無断で被告小俣組の従業員訴外【A】らをして、原告設計図と内容が殆んど同一で作成者名義を原告から被告小俣組設計【A】に変更した設計図(以下「被告設計図」という。甲第四ないし第一五号証の各二)を複製させ、同月二〇日被告ABSが改めて建築確認申請手続を行つた際、これを使用した。
もつとも、原告設計図と被告設計図を対比してみれば建物西側の二、三、四階の階段脇の窓が、前者では外壁から斜めに切れ込んだ形で設けられ、これがアクセントになつているのに対し、後者では単に外壁と平行に設けられているに過ぎないこと、建物南側のベランダが、前者では一、五、六階に設けられているのに対し、後者では右のほか四階及び屋上にも設けられていること、避雷針に接続されて地下に埋められる接地銅板の深さが異なること等の差異があるが、いずれも細部にわたるものに過ぎず、その余の点では両者は殆んど同一であり、殊に原告設計図に記載されている煙突は、その後の設計変更により地下室(冷暖房室)の設置が取り止めになつたことにともなつて当然削除されるべきであつたのに、被告設計図にもそのまま記載されていることからみて、被告設計図が原告設計図を複製したものであることは明らかである。
以上のように、被告らは、被告設計図の作成に際し、原告設計図の著作者としての原告の氏名を表示せず、原告の著作者人格権を侵害したものであり、しかも、原告設計図について、原告が著作権を有することを知っていたものであるから、原告が右侵害行為により受けた損害を賠償すべき業務がある。
ところで、原告は、従来から、主としてデザイン性の高い教会、ミッションスクール、記念建造物等の設計を手がけており、特に昭和四二年に手がけたサレジオ神学院記念聖堂は芸術新潮ほか各種雑誌のグラビアに紹介され、また、昭和四四年の聖オデイリアホーム及び昭和四七年の清泉インターナショナルスクールは各大学の建築学科の学生の研究対象として採り上げられる等、その設計は極めて高い評価を得ていたところ、被告らの右侵害行為によつてその輝かしい業績を著しく傷つけられ、甚大な精神上の苦痛を受けたが、これを金銭で慰藉するとすれば金七〇万円が相当である。
6 よつて、原告は、被告らに対し、前記4、5の損害金合計金二四四万八、七二〇円及びこれに対する被告ABSが本件契約を解除する旨の意思表示をした日である昭和四五年一一月二日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否1 請求原因1の事実は認める。
2 (被告ABS)同2の事実中、予算工費及び報酬の額の点は否認し、その余の点は認める。
(被告小俣組)同2の事実は不知。
3 (被告ABS)同3の事実中、設計監理業務が原告主張の順序で遂行されるものであること、原告が原告設計図を作成し、これを添付して建築確認申請手続をしたこと、被告ABSが工事施行者として被告小俣組を選定したことは認めるが、その余の点は否認する。なお、右建築確認申請は、原告が被告ABSの代理人としてしたものであるが、結局確認を得られないまま取り下げられた。
(被告小俣組)同3の事実中、原告が原告設計図を作成し、これを添付して建築確認申請手続をしたこと、被告ABSが工事施行者として被告小俣組を選定したことは認めるが、その余の点は不知。
4 (被告ABS)同4の事実中、被告ABSが原告に対し、昭和四五年八月八日、本件契約に基づく報酬の一部として金七〇万円を支払つたこと、同年一一月二日、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは認めるが、その余の点は否認する。
(被告小俣組)同4の事実中、右報酬の支払に関する点は認めるが、契約解除に関する点は不知、その余の点は否認する。
5 同5の事実中、被告小俣組が被告設計図を作成したこと、被告ABSが昭和四五年一〇月二〇日、改めて建築確認申請手続をしたことは認めるが、その余の点は否認する。
(被告ABS)仮に原告設計図が著作権の保護を受けうるとしても、原告設計図と被告設計図が外観上特徴的な西側窓及び南側ベランダに関して相違することは原告の自認するところであつて、右のような差異がある以上、両者は、著作物として別個のものである。
(被告小俣組)原告設計図によつては見積りの範囲内での建築が事実上不可能であり、建築確認すら得られなかつたため、早急に本件工事を完成させる必要に迫られた被告ABSは、昭和四五年一〇月頃、被告小俣組に対し、設計のやり直しを依頼してきた。その際、被告ABSでは、地上六階及び屋階建てのビルを金七、〇〇〇万円台の工費で建築できるよう設計することを依頼するとともに、代表者自ら作成した何枚かの見取図を示したうえ、これに従つて設計するよう指示したので、被告小俣組は、依頼の趣旨にそつて独自に被告設計図を作成したものであつて、原告設計図を複製したということはない。原告設計図と被告設計図が相違することは、
前者によつては得られなかつた建築確認が後者によつて得られたこと等から明らかであるが、仮に両者が類似しているとすれば、それは被告ABSの注文、指示が大粋において前後同一であることによるものである。なお、被告小俣組は、昭和四五年八月上旬頃から同月末までの間、工事費見積りのため原告から原告設計図を借用したことがあるが、同被告が被告設計図を作成したのはその後同年一〇月のことである。
三 被告らの主張 被告ABSが本件契約を解除したのは、原告に左記のとおりの責に帰すべき事由があり、信頼関係が失なわれたことによるものであるから、原告にその主張のような報酬残額相当の損害賠償請求権が発生する余地はない。
1 原告設計図が不完全であつたため、建築確認が申請後満二ケ月を経過しても得られなかつたこと。
2 設計価格は予算の範囲内であつたが、見積り価格はこれを大幅に上まわり、査定、交渉によつても予算内に収まりそうもなかつたこと。
3 右の結果、大幅な設計変更をせざるをえなくなり、当初の建物のイメージが変更されたばかりか、工期が遅れ、家賃等の損害が生じたこと。
4 原告は、工事施行業者が見積りのため設計について問い合わせをした場合に非協力的であり、しかも一部業者と結託してリベートを要求するなどしていたこと。
四 原告らの主張に対する原告の反論 被告らの主張事実は全部否認する。建築確認を得るのが遅れたのは、申請後、建築予定地付近に起つた日照権侵害に反対する住民運動に対処し、付近住民の同意を取り付けるため努力を要したことによる。また、見積り価格が予算を上まわることになつたのは、被告ABSが予算の段階では全く予定していなかつた地下室及び冷暖房施設の設置をその後追加するよう希望したためであり、大幅な設計変更も同被告の方針が二転三転したためである。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
また、請求原因2の事実のうち、原告が昭和四五年七月二日、被告ABSとの間で本件契約を締結したこと(但し、予算工費及び報酬の額を除く。)は、原告と被告ABSとの間に争いがなく、原告と被告小俣組との間では、成立に争いのない乙第一号証、原告代表者尋問の結果を総合すれば、右の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
二 そこで、原告による本件契約の履行状況等について判断する。
前示乙第一号証、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第四ないし第一五号証の各一、二、第一六ないし第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八ないし第五一号証、第五五ないし第五九号証、証人【A】の証言、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、被告ABSから地上六階建ての本件建物を約六、〇〇〇万円の工費で新築できるよう設計監理をして欲しい旨依頼され、これを承諾して、昭和四五年七月二日、本件契約を締結したこと、原告が本件契約に基づいて、履行すべき設計監理業務は、基本設計、実施設計及び監理に大別され、
さらに基本設計は、企画に関する協議及び調査、基本設計図、設計説明書、工費概算書の各作成に、実施設計は、実施設計図、仕様書、工費予算書の各作成、建築基準法に基づく確認申請手続への協力に、監理は、工事施工者の選定、契約書案の作成等工事契約に関する協力、建築詳細図の作成、施行図等の検査及び承認、工事の指導、現場監督員の指揮等に、それぞれ区分され、概ね右の順序に従つて遂行されるものであること、原告は、右約旨に従つて、被告ABSと協議をしながら作業を進め、先ず建築物の意匠、概要を示す基本設計図書を作成し、次に、これをより詳細、具体化した平面図、立面図、断面図、詳細図等の一般設計図、構造設計図、電気、空調、給排水その他の設備設計図(原告設計図はこれら実施設計図のうちの一部である。)、構造強度計算書、仕様書、工事費予算書等を作成し(なお、この間に被告ABSの希望により地下室及び空調設備を追加して設置することになつた。)、昭和四五年八月初め頃被告ABSの代理人として、東京都の建築主事に対し、原告設計図を添付したうえ建築確認申請手続をし(原告が建築確認申請手続をしたことは当事者間に争いがない。)、次いで、工事施工業者の選定作業に関与し、同月三一日、被告ABSの指名した被告小俣組ほか数社から工事見積り書を提出させて競争入札を行つたこと、ところが、業者による見積り価額は、最も低廉な被告小俣組のものでさえ金九、二四〇万円であつて、当初の見積り価格及び設計価格とはかなりの格差があつたため、原告は、工費削減の方法について被告ABSと協議を重ねた末、地下室の設置を取り止めることとし、同年九月中旬頃、被告小俣ら二、三の業者に右の設計変更を前提として再度見積りをさせた結果、最終的に被告小俣組を施工業者として選定したこと(同被告が施工業者として選定されたことは当事者間に争いがない。)原告は、その後も被告らとの間で工費削減の方法について協議を継続し、同年一〇月初め頃には地下室の廃止のほか、自動ドア及び屋外階段の設置の取り止め、窓枠及びガラスの材質変更、外装仕上げの変更等を決定するとともに、総工費を金七、一〇〇万円及びエレベーター設置費用の合計額程度に抑えるめどをつけ、被告ら間の工事請負契約も結局右の枠組に従つて締結されたこと、ところで、原告は、前記のとおり昭和四五年八月初め頃、建築確認申請をしたものの、その後満二ヵ月を経過しても確認を得ることができなかつたが、その原因は、右申請後建築予定地付近の住民らの間から本件建物建築による日照等の被告に反対する動きが生じ、一方東京都からは右紛争を話し合いで解決するようにとの指導がなされ、原告において右住民らの了解を取り付けるのに時日を要したためであること、ところが、被告ABSは、建築確認が得られなかつた原因を原告設計図の不完全さに由来するものと考え、早急に右確認を得るべく、同年一〇月上旬頃、原告に無断で、被告小俣組に対し、前記設計変更及び減縮後の工費に見合う設計を依頼し、同被告の設計担当者である【A】らをして同月中旬頃までに被告設計図を作成させ(これが原告設計図を複製したものであるか否かについては後に判断する。)、原告による前記申請を取り下げたうえ、同月二〇日、右【A】を代理人とし、被告設計図を添付して改めて建築確認申請手続をしたこと、右設計図には作成者として「株式会社小俣組設計部【A】」との表示がなされていたこと、被告ABSはその後同年一一月二日原告に対し本件契約を解除する旨の意思表示をしたこと(右事実は、原告と同被告間で争いがない。)、本件建物は、その後被告小俣組によりエレベーター設置費用を含め合計約金七、六〇〇万円の工費で完成されたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件契約は、建築の設計及び監理を目的とするものとして請負及び委任(準委任)の性質を併有するものと解すべきところ、被告ABSは、原告が本件契約に基づいて履行すべき設計監理業務のうち、基本設計及び実施設計を概ね完了し、かつ監理についても工事施行者の選定等工事契約に関する協力を終えた段階において、同被告の都合により、本件契約を解除したのであるから、
原告に対し、原告の受けた損害を賠償する義務を負うものというべきである(民法第641条参照)。
なお、原告は、被告小俣組が原告の報酬請求権を失なわしめる意図のもとに被告ABSと共謀のうえ、前記解除に及んだ旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の被告小俣組に対する本件契約の解除を原因とする損害賠償の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 次に、被告ABSの主張について判断するのに、同被告は本件契約の解除が原告の責に帰すべき事由により、契約当事者間の信頼関係が失われたことを理由とするものである旨主張するが、すでに判示したとおり、同被告は、その都合により、
民法第641条に従い、右解除をしたものと解されるから、同被告の右主張は、理由がないものである。
のみならず、原告に右のような信頼関係を失わせるような事由があつたかどうかについてみるのに、原告による建築確認申請後二カ月を経過しても建築確認が得られなかつたことは先に認定したとおりであるが、これが原告設計図の不完全さに由来することを裏付ける証拠はなく、かえつて、その原因は建築予定地付近の住民らとの間に日照等に関する紛争が生じたためであることも先に認定したとおりである。次に、当初の予算あるいは原告による設計価格と施行業者による見積り価格との間にかなりの格差があり、このため設計変更を余議なくされたことは前述のとおりであり、その結果、建物のイメージに若干の変更をきたしたり、工期が遅れたであろうことは推認できなくもないけれども、先に認定した経過から明らかなように、原告は、被告ABSの希望にそつて工費削減のために積極的に努力し、設計変更箇所を決定するとともに、総工費を金七、一〇〇万円とエレベーター設置費用を合算した額程度に抑えるめどをつけ、しかも、本件建物は、結局約金七、六〇〇万円の工費により完成されたのであるから、前記事情が原告と被告ABS間の信頼関係を喪失させるようなものとは、とうてい考えられない。また、原告が工事施行業者からの設計に関する問い合わせに非協力的であつたり、一部業者と結託し、あるいは業者にリベートを要求したとの点については、これを認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告に契約上の信頼関係を喪失させる事由があつたとはいうことができない。
四 次に、原告が本件契約の解除により受けた損害について検討するのに、原告は、本件契約を履行することにより、被告ABSに対し、その報酬を請求することができたところ、本件契約の解除により、右報酬請求権を喪失したが、他面、解除後の残業務を履行すべき義務を免れたものである。したがつて、原告は、被告に対し、右損害としては、右報酬額から残業務に相当する報酬分を控除した金額、すなわち、原告が本件契約の解除に至るまでにした業務に相当する報酬相当額を請求できるものと解するのが相当である。
しかして、右二に判示したとおりの原告の本件契約の履行状況等に基づいて考察すると、原告の本件における業務の出来高は、業務全体に対し、少なくとも八〇パーセントの割合に相当するものと認められる。
以上のとおりであるから、原告が被告ABSに対して請求できる損害額は、前示認定の本件工事の総工費金七、六〇〇万円に約定報酬料率四パーセントを乗じて得た金三〇四万円の、さらに八〇パーセントに相当する金二四三万二、〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、原告が昭和四五年八月八日被告ABSから約定報酬の一部として金七〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、原告は、これによつて、同額の損害の填補を受けたことになるから、原告が現実に請求しうべき額は金一七三万二、〇〇〇円となる。
五 進んで、著作権侵害の成否について判断する。
前示甲第四ないし第一五号証の各一、原告代表者尋問の結果を総合すれば、原告設計図は、昭和四五年七月から同年一〇月までの間に、原告の業務に従事する設計担当者が、その職務上、その感覚と技術を駆使して独自に製作したことが認められる。したがつて、原告設計図は、著作権により保護される著作物であり、原告は、
その著作者であり、著作権者であるというべきである。
次に、請求原因5の事実のうち、被告小俣組が被告設計図を作成したこと、被告ABSが昭和四五年一〇月二〇日、改めて建築確認申請手続をしたことは当事者間に争いがなく、右事実と前示甲第四ないし第一五号証の各一、二、証人【A】の証言、原告代表者尋問の結果を総合すれば、すでに判示したとおり、被告小俣組は、
昭和四五年一〇月上旬頃、被告ABSから本件建物の設計を依頼されたので、同被告の設計担当者である【A】らをして、同月中旬頃までに被告設計図を作成させたが、これより先同年八月以降、工事費見積り等のため、原告から、原告設計図を借り受け、これを参照したことがあること、ところで、原告設計図と被告設計図を対比すると、前者では地下室(暖冷房室)の設置を前提として煙突、パイプスペースの記載がなされているのに対し、後者では地下室の廃止にともなつて煙突、パイプスペースの記載も存しないこと(但し、被告設計図のうち電気設備図((前示甲第一五号証の二))のみには煙突らしきものの記載がある。)、建物西側の二、三、
四階の階段脇の窓が、前者では外壁から切れ込んだ形で、これと直角に設けられているのに対し、後者では単に外壁と平行に設けられているに過ぎないこと、建物南側のベランダが、前者では二、五、六階に設けられているのに対し、後者では右のほか四階及び屋上にも設けられていること等の差異があるが、建物の基本的構造、
間取り等に関しては両者は殆んど同一であり、全体的に見る限り、両者は極めて類似していることが認められ、右認定に反する証人【A】の証言部分は、前記各証拠に対比して、たやすく信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告設計図は、原告設計図とは全く同一ではなく、一部の修正はあるが、著作物の同一性を変ずるものとは認められないから、被告小俣組は、被告設計図の作成に際し、原告設計図に依拠し、これを複製したものと認めるのが相当である。
次に、被告小俣組が右のように被告設計図を作成したうえ、昭和四五年一〇月二〇日、その従業員である【A】を被告ABSの代理人として右設計図を添付して建築確認申請手続をし、その際右設計図の作成者欄に原告の氏名表示をせず、被告小俣組設計部【A】の表示をしたことは前記二項に認定したとおりである。
そうすると、被告小俣組が原告に無断で原告設計図の複製物たる被告設計図に原告の氏名表示をすることなく、かえつて被告小俣組もしくは【A】がその著作者であるかの如き表示をしたことは、原告が原告設計図について有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものといわざるをえない。また、すでに判示したところによれば、被告ABSは、前述のとおり建築確認申請手続を被告小俣組に依頼したうえ、同被告による右侵害行為を容認し、又は少なくとも、右申請行為が適正に行なわれるよう監視、監督すべき義務を怠り、被告小俣組による右侵害行為を制止しえなかつたのであるから、被告小俣組と共同して、原告の右著作者人格権を侵害したものというべきである。さらに、すでに判示したところからすれば、被告らは、
原告設計図について、原告が著作権を有することを知り、又は少なくとも取引上必要な注意を怠らなければ、これを知ることができたものであるから、原告の右著作者人格権の侵害について、故意又は過失があつたものと認定するのが相当である。
したがつて、被告らは、右侵害行為により、原告が受けた損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。
そこで、原告が右著作者人格権の侵害により受けた損害について検討するのに、
原本の存在及び成立に争いのない甲第六五号証の一、第七〇、第七一号証、成立に争いのない甲第六五号証の二、第六六ないし第六八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六四号証、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、建築の設計監理等を目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であつて、これまで主として教会、修道院、ミツシヨンスクール、病院等の設計を手がけており、特に、昭和三九年度の聖オデイリアホーム乳児院は建築家の教科書ともいうべき「建築設計資料集成」に、また昭和四二年度のサレジオ神学院記念聖堂は雑誌「芸術新潮(一九六八年四月号)」にそれぞれ紹介される等して、
その設計は各方面において高い評価を受けていたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右認定事実、前記侵害行為の態様、その他諸般の事情を合わせ考えると、前記侵害行為によつて原告が受けた名誉、信用上の損害に対する慰藉料としては金二〇万円が相当であると認める。
六 以上の次第であつて、原告の本訴請求は、被告ABSに対し、前記報酬相当損害金一七三万二、〇〇〇円及びこれに対する本件契約が解除された日である昭和四五年一一月二日から、また被告らに対し、各自、前記慰藉料金二〇万円及びこれに対する前記著作者人格権侵害行為の後である右同日から、各支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、
これを認容し、被告らに対するその余の請求は、いずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第89条第93条1項本文を、仮執行の宣言について、同法第196条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 佐藤栄一
裁判官 清永利亮
裁判官 安倉孝弘
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