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事件 昭和 54年 (ネ) 848号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/09/10
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
当審における控訴人の新たな請求を棄却する。
控訴費用及び当審における新たな請求について生じた訴訟費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
(控訴人)一 原判決を左のとおり変更する。
(1)被控訴人は控訴人に対し金四〇万円を支払え。
(2)被控訴人は控訴人に対し、被控訴人の費用をもつて、別紙目録(イ)記載の謝罪広告を、
「週刊医学界新聞」の新刊案内書評欄に、その第一記事として、六号活字をもつて、四週間、及び、
「週刊日本医事新報」(日本医事新報社発行)の医事案内欄に、六号活字をもつて、四週間、
各掲載せよ。
(3)訴訟費用中、第一審の分については控訴人と被控訴人の折半負担とし、第二審の分については被控訴人の負担とする。
二 当審における新たな請求右一の(2)の請求が認められない場合の請求として、
被控訴人は控訴人に対し、被控訴人の費用をもつて、別紙目録(ロ)記載の広告を、右一の(2)と同様の態様をもつて、掲載せよ。
(被控訴人)主文と同旨。
当事者の主張
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加するもののほか、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
(控訴人)一 原審からの請求について1 従前は、精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)金五〇万円、弁護士費用についての損害賠償金二七万円の、合計金七七万円の支払いを請求していたが、これを前者については金二三万円、後者については金一七万円の合計金四〇万円の支払請求に減縮する。
2 別紙目録(イ)の謝罪広告を求める法律上の根拠は旧著作権法第36条の2
第一項の規定である。
3 原稿(本件著作)の完全性保持請求権の侵害についてこの権利の侵害は、次の二つの態様をもつて構成されたものである。
(a) 控訴人は、原稿提出直後、【A】講師も胃形成術の立場で書いている旨始めて知らされたので、関連部位の執筆者が他にもいることを認識して、自分の書いた原稿とおりの印刷出版に固執することなく、相談があれば調整や編集に応ずる用意があり、その相談の機会を積極的に求めて、その旨の約束を得ていた。しかるに、編集者及び編集補助者は、その約束を破り、単に校正会議を遠隔地で開いたのみで、信義に反し、無断で、控訴人の原稿を分断し、加除訂正を加え、他人の原稿を組入れたのである。
(b) 右の結果、出来上つた本件F項においては、控訴人の書いた本来の文意、
文脈とは違つたものになつている。すなわち、
控訴人は、F項の概説をもつて胃下垂症の実体を表現しようとしたのであるが、
その試みは、誰かの思想による、誰かの定義の明瞭な挿入によつて打破された。
また、控訴人自身の考案した手術方法の記述に当つて、控訴人は「横位広範胃前壁固定術」と題して記述したにも拘らず、F項中では、単に「胃前壁固定術」となつている。この手術の特色であり、かつ、控訴人の最も苦心した点はまさに「横位広範囲」という点にあるから、これでは甚だ不明瞭な題となつてしまつて、心外である。
二 当審における新たな請求について 仮に、被控訴人に対する謝罪広告の請求が認容されないとすれば、控訴人は被控訴人に対し、旧著作権法第36条の2、第一項の規定を根拠として、著作人格権侵害の継続を最少限度に止めるための措置として、別紙目録(ロ)記載の事実広告を、被控訴人の費用をもつて、謝罪広告の請求の場合と同様の態様をもつて、掲載することを請求する。
何故ならば、現在も二七九冊の訂正されていない書物が世に存在するが、本書のうちこれら訂正されていない書物よりの引用が国の内外において行われた場合、更に、その引用からの二次的引用がなされた場合、控訴人の名誉と学問的人格は将来において再三毀損されることになるからである。
(被控訴人)一 原審からの請求について 控訴人は原稿の完全性保持請求権について主張しているが、控訴人の原稿自体、
編集者の加筆、修正を予想した不完全のものであり、控訴人も、同一項目につき他の先輩教室員が原稿執筆中であることを知つており、全執筆者による校正会議にも招かれていたのであるから、しかく、完全性の保持に固執するのであれば、その会議に出席するか、編集者の補助者である【B】に申し入れておけばよかつたのである。
二 当審における新たな請求について この請求も、原審からの請求について被控訴人が主張していると同様の理由によつて棄却されるべきものである。
証拠関係(省略)
理 由一 原審からの請求について 当裁判所も、控訴人の請求(当審において一部取下げのされた残余の請求)は、
被控訴人が過失により、本書F項文末及び目次同項部分に控訴人氏名の掲記を脱漏し、その結果控訴人の著作人格権を侵害した行為につき、控訴人の精神的苦痛に対する損害賠償として金三万円、本件訴訟提起に伴う弁護士費用についての損害賠償として金一万円、合計金四万円の支払を求める限度においては認容できるけれども、その余の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決記載の理由(ただし、その第二四枚目表第一一行目の「(第一、二回)」とあるのを「(原審第一、二回及び当審)」と、第三三枚目裏第一一行目の「同年」とあるのを「昭和四五年」と訂正する。」)と同一であるから、これをここに引用する。
そうすれば、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却すべきものである。
二 当審における新たな請求について この請求は、二七九冊の訂正されていない書物が現在も世に存在することにより、将来にわたつて控訴人の著作人格権が侵害される可能性があるので、かかる将来の損害発生防止のための措置として、別紙目録(ロ)記載の、事実広告の掲載を求める、というものである。
しかしながら、前示認定(原判決引用)の著作者人格権侵害の態様と控訴人の損害の程度、すなわち、被控訴人の過失により、本書治療編中VのF項文末及び目次同項部分には、分担執筆者の一員として控訴人の氏名も併せ掲記されるべきであつたのに、控訴人氏名の掲記が脱漏され、【A】、【C】両名の氏名のみが掲記されて、同項が右両名によつて執筆されたかのような外観を呈しているが、控訴人の医学研究者としての地位、右著作人格権侵害の態様、右侵害を生ずるに至つた経緯、
その後本書第一版一五〇〇部のうち回収不能の二七九部を除いては既にその侵害部分につき訂正が行われていて、控訴人の蒙るべき将来の損害は軽微なもとのと認められる事実関係に徴すれば、原審からの請求について前示金銭賠償を認めるほかに、さらにかかる将来の損害発生防止のために控訴人主張の如き事実広告の掲載をする必要性は全くないものと解するのが相当である。
当審における控訴人の新たな請求は理由がないので失当として棄却すべきものである。
三 よつて、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第95条第89条の各規定に従い、主文のとおり判決する。
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別紙目録(イ)株式会社医学書院発行に係る、千葉大学医学部第二外科教授【D】編集著作の「胃疾患の診断と治療」と題する書物の治療編F項に関し、その執筆者の一人千葉大学医学部勤務の文部教官【E】氏の原稿を無断で分断し、且つ同氏の氏名を記載せず他人の氏名を冠して編集発行し、もつて同氏の著作人格権を侵害し、多大の迷惑をおかけしました。よつてこゝに同氏に対して謝罪致します。
千葉大学医学部第二外科教授【D】別紙目録(ロ)株式会社医学書院発行に係る「胃疾患の診断と治療」と題する書物の治療編F項の目次および文末にはその項の著作者として【E】の氏名が印刷されるべきものであり、又本書物の編集著作者【D】と印刷してあるが千葉大学医学部教授【D】は本書物の編集著作者ではないことを明記して記録にとどめるものであります。
千葉大学医学部教授【D】
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 杉山伸顕
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