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関連ワード 著作物性 /  創作性 /  著作者 /  アイデア /  ゲーム /  同一性 /  類似性 /  登録 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 昭和 56年 (ワ) 1486号
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裁判所 東京地方裁判所 八王子支部
判決言渡日 1984/02/10
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五六年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙目録記載の各著作物を販売ないし無償頒布してはならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第一項につき仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨
当事者の主張
一 請求原因1 著作権の発生 承継前原告亡【A】(以下【A】という。)は、第二次大戦直後、健全な軽スポーツの発展が阻害されていた当時のスポーツ界の現状を憂い、一般大衆、就中少年らに対し、健全なスポーツ精神をかん養し、適度な運動による身体の健全な発達を促進することができる軽スポーツを与えるため、狭い広場で三本のゲート、一本のポール、木製ステイツクと球を使用して行うゲートボールなる競技を創作、考案し、これに伴い、昭和二三年三月競技方法の説明及び競技規則からなる「リクレーシヨンスポーツ、ゲートボール」(後記原告規則書(一)の原稿に当たる著作物である。)を創作、著述し、その後、(1)これに基づき、同年四月一日、発行所をゲートボール普及研究会、発行者を【A】として、B六判(稍々変型)ガリ版刷、
本文一四頁の「リクレーシヨンスポーツ、ゲートボール」と題する規則書(以下原告規則書(一)という。)を、(2)同年五月一日、発行所を北海道教育局体育部北海道レクリエーシヨン促進協議会、著者を【A】として、原告規則書(一)と同内容のB六判活版刷、本文一七頁の「ゲートボール」と題する規則書(以下原告規則書(二)という。)を、(3)同二八年六月、発行者を日本ゲートボール協会として、原告規則書(一)と概ね同内容のB六判活版刷、本文一二頁の「ゲートボール競技規則書」と題する規則書(以下原告規則書(三)という。)を、(4)同三〇年六月、発行者を日本ゲートボール協会として、原告規則書(一)と概ね同一のB五判本文八頁の「ゲートボール競技規則、指導部特別編」と題する規則書(以下原告規則書(四)という。)を、(5)同三二年四月一日、発行所を協易産業株式会社、編輯者を日本ゲートボール協会、著者を【A】(但し、表示上は通称【B】名義となつている。)として、原告規則書(一)と概ね同一のB六判活版刷、本文一五頁の「レクリエーシヨンスポーツ、ゲートボール競技規則書」と題する規則書(以下原告規則書(五)という。)をそれぞれ出版した。なお、原告規則書(三)及び(四)は、いずれも発行者を日本ゲートボール協会とのみ表示して出版されたものであるが、これは【A】が右発行者に出版を無償で許諾したに過ぎず、その著作権は【A】に帰属している。
原告規則書(一)ないし(五)の各出版物(以下原告各規則書という。)は、いずれも、競技規則をその内容の一部とする点は同一であるが、そのほかにそれぞれゲートボール競技の仕方の解説、解説図面、ゲートボールの軽スポーツとしての意義の解説、ゲートボール誕生のいわれについての解説、審判規定等の全部または一部を内容としており、それぞれ個性を有し、別個の思想、感情の表現とみられるのであるから、各別に著作権が成立するものというべきである。
仮に、原告各規則書が別個の著作物として評価できないとしても、原告各規則書によつて表現されたゲートボールなる競技の目的、競技の概要、競技の方法、競技規則、審判規則から構成されるゲートボールなるものについての考え方を一個の著作物として考えるべきであり、原告各規則書はその著作権行使の結果発生したものというべきである。
2 被告の著作権侵害 被告は、主たる事務所を被告肩書地に置き、会員六〇万人を擁し、会長を定め、
参加者から会費を徴してゲートボール大会を催し、同じく講習料を徴して講習会を開くなどしてゲートボール競技の普及活動を行つている権利能力なき社団であるが、(1)昭和五二年四月一日頃、原告各規則書と、ゲートボール競技のコートの広さに広狭の差異があるほかは、先攻、後攻の順番を決定する方法の決め方、文章の言い回しに若干の異同があるに過ぎない別紙目録一記載の「ゲートボール競技規則」と題する規則書(以下被告規則書(一)という。)を、(2)昭和五六年八月一八日、被告と同様ゲートボール競技の普及活動を行つている日本ゲートボール協議会、日本ゲートボール協会とともにルールの統一を図ると称して、そのための会議を開催し、その旨原告各規則書と大同小異の別紙目録二記載の「ゲートボール競技規則」と題する規則書(以下被告規則書(二)という。)を、それぞれ原告各規則書の存在を知りながら出版し、原告各規則書についての著作権を侵害した。すなわち、被告規則書(一)及び(二)(以下被告各規則書という。)は、原告各規則書とその内容とする思想において同一性を有し、その具体的表現において若干の異同はあるものの、その大本において変りはなく、【A】の著作権を侵害しているというべきである。
3 妨害排除の必要性 被告は、会員六〇万人を擁すると自称し、かつ鋭意ゲートボール競技普及活動に従事している旨新聞紙上に報道されている団体であつて、被告各規則書の出版頒布をさらに継続するおそれが充分である。
4 損害(一)【A】は、昭和三二年四月一日以降、原告規則書(五)を日本ゲートボール協会に対し、一部金一五〇円で有償頒布することを許諾し、右協会より【A】に対し、頒布数が一か年三万部に達したら月金一〇万円の対価を支払う旨の約定がなされていたが、被告の前記不法出版により頒布数が一向に増大しなくなり、このため【A】は少なくとも被告規則書(一)の発行された昭和五二年四月一日以降本訴提起の前月の昭和五六年九月末日までの間に一か月金五万円の割合による合計金二七〇万円の得べかりし利益を喪失したことが明らかである。
(二)他方、被告は、昭和五二年四月一日頃以降、被告規則書(一)を一部金三〇〇円で販売しているが、現在までに少なくとも会員数六〇万人の一〇パーセントに当たる六万部以上販売していることが容易に推認できるところ、昭和五二年四月一日以降本訴提起までの間に被告が右規則書の販売によつて得た利益は少なくとも右規則書の売買代金総額金一八〇〇万円の三〇パーセントに当たる金五四〇万円を下ることはなく、著作権法114条1項に基づき、【A】が被告の右著作権侵害行為により被つた損害は金五四〇万円以上と推定される。
5 【A】は本訴提起後の昭和五八年四月九日に死亡し、同人の妻である原告が本件著作権及び本件著作権についての損害賠償請求権等を単独相続した。
6 よつて、原告は被告に対し、原告各規則書の著作権に基づき、被告各規則書の販売ないし無償頒布の停止並びに右著作権侵害に基づく損害賠償金の内金一〇〇万円及びこれに対する右損害発生後である昭和五六年一〇月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張1 請求原因1の事実は不知、著作権の主張にわたる部分は争う。
著作権の対象となるのは思想、感情の「表現」であり、その表現が著作物性を有していれば著作権保護の対象となるのであるが、スポーツに関する規則書(いわゆるルールブツク)のうち規則を表現した部分は、当該スポーツを行う者が誰でも順守できるように、いわば思想、感情抜きで機械的、画一的に表現されているのであるから、規則を表現した部分の著作物性は問題がある。
2 請求原因2のうち、被告が被告各規則書をそれぞれ出版したことは認めるが、
その余は否認する。
原告は、要するに、被告各規則書は原告各規則書とその表現形式は異つていても、そこに表現されている基本的なゲームについての考え方が同じだから原告の著作権を侵害している旨主張するかのごとくである。しかし、著作権保護の対象となる著作物は、思想、感情の「表現」であり、表現されている思想それ自体が保護されるわけではないのであつて、これをゲートボールゲームに関していえば、ゲームについての考え方ないしゲームのやり方についての考案は著作権の対象とはならず、いわゆる「アイデアの自由」として一般の自由使用にまかされているのである。従つて、ゲートボール規則書をそのまま複製してはならないが、自分なりの個性的表現で規則書を作成することは自由であつて、本件において原告各規則書と被告各規則書の表現を比較対照すれば、各文の文章、配列、構成等、その表現が異なつていることは明白であり、仮に原告の規則書に著作物性を認めたとしても、被告各規則書がその著作権を侵害しているとはいえない。
3 請求原因3は争う。
4 請求原因4(一)は不知、同(二)は争う。
5 請求原因5のうち、【A】の死亡並びに原告の相続の事実は認める。
証拠(省略)
理 由一 被告が被告各規則書を出版したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三九号証、第四〇号証の二、原告【A】本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一ないし第五号証、原告【A】本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、【A】は原告主張のとおり原告規則書(一)、(二)及び(五)をそれぞれ著作、出版したこと、また原告規則書(三)及び(四)はいずれも【A】が発行者日本ゲートボール協会に出版を無償で許諾し、発行されたものであるが、その著作者は【A】であることが認められる。
二 右認定の事実に、前掲甲第一ないし第五号証、第三九号証、第四〇号証の二、
成立に争いのない甲第一六号証、第二四号証の一、二、第二六号証、第三七及び第三八号証、原告【A】本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
1 昭和二二年頃、【A】は、戦後の荒廃の中で少年らの為に、安価な素材で競技ができ、また広い競技用地も必要としない軽スポーツを作ろうと考え、古来フランスで発祥し、欧米、特にイギリスで行われていた「クロツケ」という競技に着想を得、これに玉突きの要素を加えて、一チーム五名編成の二チームが、交互に一名ずつ、木製ステイツク(当初はバツトと呼称していた。)で木製ボールを打撃しながら、グランド上の三つのゲートを通過させ、中央に立てたボールに打ち当てて行き、いずれのチームが先に全員ポールに打ち当ててゴールするかを競ういわゆるゲートボール競技を創作考案し、昭和二三年三月右ゲートボール競技に関し、その競技方法の説明及び競技規則からなる「リクレーシヨンスポーツ、ゲートボール」なる原告規則書(一)を著述、出版し、引き続き原告規則書(二)ないし(五)を順次著述、出版したが(但し、同規則書(三)、(四)については前認定のとおりである。)、この間、昭和二三年三月八日ゲートボール競技の打球競技具につき実用新案の登録出願をなし、同二四年一二月六日右出願につき公告がなされ、同二五年六月一三日特許庁より右登録を受け実用新案権を取得した。そして、原告は昭和二三年頃から昭和三三年頃まで、北海道、東京、大阪、岡山等で講習会等を開き、ゲートボールの普及活動を行つた。
2 原告規則書(一)は、競技人員、グランド、運動具、競技法について説明した「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存する。)、運動具、グランド、競技に関する規則並びに附則を二六ケ条にまとめた「ゲートボール競技規則」から構成されており、巻末に運動具とグランドの図面が添付されている。原告規則書(二)は、レクリエーシヨン運動普及の必要性とその一助としてのゲートボール競技を紹介、説明した「レクリエイシヨン的軽スポーツとしてのゲートボールの推奨について」、ゲートボール競技の発祥及びゲートボール競技の特徴について説明した「ゲートボールについて」、原告規則書(一)とほぼ同内容の「ゲートボール競技の仕方」及び「ゲートボール競技規則(二六ケ条)」から構成されている。原告規則書(三)は、「はしがき」、ゲートボール競技の発祥及びゲートボール競技について簡単に説明した「ゲートボールについて」、競技用具、コート及び用具配置、競技人員、競技、反則、審判に関する規則及び附則を六章一二ケ条にまとめた「ゲートボール競技規則」並びに昭和二八年五月一〇日に設立された日本ゲートボール協会の規則を定めた「日本ゲートボール協会規約」から構成されている。そして、原告規則書(四)及び(五)は、原告規則書(三)の「はしがき」及び「ゲートボールについて」と同旨の「御挨拶」及び「ゲートボールの発祥について」、競技人員、グランド、競技法等について説明した「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存することは原告規則書(一)及び(二)と同様である。)、「ゲートボール競技規則(二六ケ条)」、「大会時に於ける審判に関する事項」、「応用競技の一例」からそれぞれ構成されている。
なお、原告各規則書中の競技規則に関する部分もすべて【A】の独創に係るものであり、基本的には同趣旨のものであるが、規則の構成、体裁内容は順次修正されており、それぞれ若干の差異がある。
三 以上の認定事実によれば、原告各規則書は、【A】が考案したゲートボール競技に関して、ゲートボール競技のいわれ、レクリエーシヨンスポーツとしての意義、競技のやり方、競技規則等の全部ないし一部を固有の精神作業に基づき、言語により表現したものであり、その各表現はスポーツという文化的範疇に属する創作物として著作物性を有するというべきである。
この点に関し、被告は競技規則を表現した部分は思想、感情抜きで機械的に表現されているから、その著作物性には問題があると主張するけれども、新たに創作されたスポーツ競技に関し、その競技の仕方のうち、どの部分をいかなる形式、表現で競技規則として抽出、措定するかは著作者の思想を抜きにしてはおよそ考えられないことであり、本件原告各規則書の規則自体も【A】の独創に係るものであることは前認定のとおりであつて、それは文化的所産というに足る創作性を備えているのであるから、その著作物性を否定し去ることはできないというべきである。
四 そこで、次に、被告の著作権侵害行為の有無について検討するに、そもそも著作権侵害とは既存の著作物に依拠し、これと同一性或いは類似性のある作品を著作権者に無断で複製することによつて生ずるもので、仮に第三者が当該著作物と同一性のあるものを作成したとしても、その著作物の存在を知らず、これに依拠することなしに作成したとするならば、知らないことに過失があつたとしても著作権侵害とはならないものと解すべきである(昭和五三年九月七日最高裁第一小法廷判決)。従つて、依拠した結果同一性或は類似性のあるものを作成すると侵害行為となるが、たとえ依拠した場合でも換骨奪胎して同一性或は類似性のないものを作成したとすれば、侵害行為は該当しない。
そうだとすると、著作権侵害を判断するに当つては、先ず既存の著作物に依拠したか否かの点が前提となり、依拠した場合に同一性或は類似性を判断することになる。但し、第三者が既存の著作物と同一或は類似のものを作成した場合、それは依拠したことを推認する資料となるうるのであつて、それが酷似すればする程その度合は強くなるといえる。
このような観点から、以下に検討する。
1 前掲甲第一ないし第五号証、成立に争いのない甲第六及び第七号証、第一七ないし第二一号証、第三五号証の一ないし三、被告代表者本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く。)、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一)昭和三四年、当時熊本市体育指導委員協議会の副会長であつた被告代表者【C】は、熊本県教育委員会主催の体育指導委員講習会において配布されたゲートボール競技を簡単に説明した小冊子に接して、初めてゲートボール競技の存在を知り、当時右体育指導委員協議会では年齢等に関係なく永続して取組める軽スポーツを模索中であつたため、以後右【C】らが中心となつてゲートボール競技の研究、
普及に努めるようになつた。そして昭和四〇年前後頃より全国的にゲートボール競技が盛んに行われるようになり、熊本県内においても昭和四五年には熊本市ゲートボール協会(以下市協会という。)が設立され、同四九年にはこれが熊本県ゲートボール協会(以下県協会という。)に改組され(会長はいずれも【C】)、活発に研究指導が進められ、その間昭和四五年には市協会が中心となり、それまでの研究、体験を踏まえて独自の競技規則を制定し、以後昭和五一年までの間、右規則は、市、県協会を通じて通算五回の改訂が行われた。その後、県協会は全国各地に積極的に普及活動を行い、昭和五二年には一道二府二八県の加盟のもとに被告が設立され、【C】が代表者に就任した。そして、被告は右県協会の競技規則等を参考として検討を加えた末同年四月一日頃に被告規則書(一)を出版した。
(二)しかして、その頃にはゲートボール競技普及団体が全国に多数設立されていたが、各団体間に横の連絡がとれていなかつたため、各団体の競技規則は不統一で、所属団体を異にする者同志の試合ができない有様で、全国大会の開催等において不都合も生じ、次第に「全国統一ルール」作成の機運がたかまり、昭和五六年、
日本レクリエーシヨン協会が仲裁役となり、被告、日本ゲートボール協会、日本ゲートボール協議会の主要団体が集まり、統一ルール作成委員会が開かれ、審議の結果一応の了解が成立したとして右四団体名で被告規則書(二)が出版されたが、その後右統一ルールの合意につき日本ゲートボール協会から異議が出されたため、現在においても右統一ルールは正式のものとして全団体に承認される状況に至つていない。
(三)被告規則書(一)は、被告設立までのゲートボール競技の歴史等(但し、
【A】を創作者とする記述及び原告各規則書に関する記述は全くない。)を説明した「本競技普及発展の歩み」、「ゲートボール競技とは」と題する七行のゲートボールに関する説明の項に続き、「第一章コートおよび用具(二ケ条)」、「第二章チーム構成(一ケ条)」、「第三章競技規程(一ケ条)」、「第四章反則(一ケ条)」、「第五章競技役員(一ケ条)」、「第六章競技時間および勝敗(二ケ条)」、「第七章試合没収(一ケ条)」、「第九章試合中止、延期および取りやめ(一ケ条)」、「第一〇章判定(一ケ条)」の九章一一ケ条からなる競技規則条項、主として審判の運用に関する「競技運用について」、更に「全国ゲートボール協会連合会登録規定」、「全国ゲートボール協会連合会公認審判員規定」、「全国ゲートボール協会連合会公認審判員登録規定」、ステイツクの握り方等を写真解説した「正しい競技法」から構成されており、被告規則書(二)は、被告同様ゲートボール競技の普及活動を行つている日本ゲートボール協会、日本ゲートボール協議会、財団法人日本レクリエーシヨン協会との共同著作に係るもので、「第一章競技場および用具(二ケ条)」、「第二章チームおよび競技者(三ケ条)」、「第三章競技規程(一ケ条)」、「第四章勝敗の決定(一ケ条)」、「第七章審判員(一ケ条)」、「第九章大会運営(四ケ条)」の純枠に競技規則のみからなる六章(一二ケ条)から構成されている。
(四)そして被告規則書(一)の競技規則に関する部分を除く著述は原告各規則書と、その内容及び表現が全く異なつており、右部分は被告が独自に著述したものであり、また原告各規則書と被告各規則書とを対比すると、これらがいずれも競技規則を含むゲートボール競技に関する著作物であるという点において共通するものの、コートの広狭、先攻の順番の決定方法等、双方規則化されているその内容も細部においてかなりの差異があるのみならず、前者においては「競技の仕方」等競技規則以外の説明の文章中にある内容を後者においては規則の内にとり入れ、或は逆に前者において規則とされている部分が後者においては規則として採用されていないなど、その実質的内容も相当程度異なるほか、文章表現、著述構成、その表現形式も両者は明らかに異なつている。
以上の事実を認めることができ、被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお、本件において被告が被告各規則書を著作、出版するにつき原告各規則書のすべてもしくはその一部を直接参照したことを認めるに足りる証拠はない。
2 右認定の事実によれば、被告規則書(一)は県協会(もしくはその前身たる市協会)制定の競技規則を参考として制定されたものであり、原告各規則書を直接参照し、これを取り入れているとは認め難い。もつともゲートボール競技自体、原告の創作、考案に係るものであり、その規則の基本的骨子部分がすべて原告の発想、
アイデアに由来するものであることは前記二1に認定のとおりであるから、被告規則書(一)の土台とされた県協会制定の規則が少くとも原告各規則書の影響の下に作成されたであろうことは容易に推認することができ、ひいては被告規則書(一)も原告各規則書の影響を受けているということもできるけれども、被告規則書(一)が著述、出版された昭和五二年当時においては、既にゲートボール競技が全国に発展普及し、各種団体が乱立し、しかも団体ごとに横の連絡がとれていなかつたため、別個の規則が制定されていつたわけであり、既にその時点では、いわば競技そのものが原告の手を離れ、独立して一人歩きを始めていた状況にあつたのであるから、新たに規則を制定するにあたつても当初の原告各規則書とは別に実施されている競技の体験を踏まえ、これに創意工夫を加えて新たな規則書を作ることが充分可能な状況にあつたと推認されるから、被告規則書(一)が原告各規則書の影響を受けたからといつて、これをもつて、被告規則書(一)が原告各規則書に依拠して作成されたということはできない。
そしてこのことは被告規則書(二)についても同様であり、被告規則書(二)が前記四団体の審議の結果作成されたもので、その際直接原告各規則書を参照にし、
これを取り入れたという事情が認められない以上、これについても依拠性の存在は否定されざるをえないというべきである。
3 以上のとおりであるから、被告各規則書が原告各規則書の著作権を侵害しているということはできない。
五 結論 従つて被告各規則書が原告各規則書の著作権を侵害していることを前提とする原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 安間喜夫
裁判官 前島勝三
裁判官 原敏雄