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事件 昭和 57年 (ネ) 1624号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1985/02/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴人らの予備的請求を棄却する。
当審における訴訟費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人ら1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求として) 被控訴人は、控訴人(選定当事者)【A】、同【B】に対し、別紙選定者目録記載の各選定者に対するそれぞれ三万〇三三〇円及びこれに対する昭和五四年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 (予備的請求として) 別紙選定者目録記載の各選定者らは、被控訴人に対し、被控訴人が著作権法第95条第1項、第二項に基づき同条第一項の放送事業者等から受領した同条の二次使用料のうち昭和四六年度分から昭和五二年度分までの使用料について、その配分金の請求権を有することを確認する。
4 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
との判決及び2、4につき仮執行の宣言。
二 被控訴人 主文同旨の判決。
当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるので、これを引用する。
一 原判決の二枚目裏一〇行目の「別紙第一、第二選定者目録」を、「別紙選定者目録」と訂正し、同六枚目裏七行目の「よつて、」から同七枚目表七行目末尾までを、「よつて、控訴人らは、被控訴人に対し、主位的に、選定者らがそれぞれ分配を受けるべき右分配金内金三万〇三三〇円及びこれに対する最終訴状送達日の翌日である昭和五四年一一月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いをなすことを求め、仮に選定者らにおいて被控訴人から配分を受くべき具体的金額が定められないとする場合には、予備的に、選定者らは被控訴人に対し被控訴人が放送事業者から受領した前記昭和四六年度分から昭和五二年度分までの二次使用料について配分金の請求権を有することの確認を求める。」と訂正する。
二 控訴人らの補足した主張1 著作権法第95条二次使用料の受領権者を「当該実演に係る実演家」と規定したのはあくまでも擬制であり、また技術的観点からにすぎず、その内実は商業用レコード放送されることによつて機械的失業の危険に曝される実演家が受領権者であるのであり、これは立法の経緯、立法の目的そして法の現実の運用にすべて合致する解釈である。したがつて、同条の規定する二次使用料の分配を請求できる者は、すべての「実演家」であつて、商業用レコードに実演が録音されている実演家に限らない。
2 著作権法第95条実演家に対し二次使用料請求権を認めた立法趣旨は、機械的失業に対する補償以外にはない。この点に関し、被控訴人は、(1)放送事業者有線放送事業者レコードを用いてあげる経済的利益にある程度あずからせてもよいという考え方、(2)機械的失業に対する補償、の二点をあげるけれども、
右(1)の点は実演家との関連においてではなく、レコード製作者との関連で論じられていたことであり、被控訴人の主張は失当である。このように、著作権法第95条の立法趣旨が、実演家の機械的失業(の危険)に対する補償である以上、二次使用料を受ける権利を有する者を、放送された商業用レコードにその実演が録音されている実演家に限るべき理由はない。機械的失業にさらされているのはすべての実演家であり、それに対する補償である以上すべての実演家二次使用料を受ける権利を有することは明らかである。
これを逆に、放送された商業用レコードにその実演が録音されている実演家に限り二次使用料を受ける権利を有すると解するならば、二次使用料を受ける権利を行使するためには、実演家の実演が商業用レコード録音されたこと及び右商業用レコード放送に使用されたことの二つの要件を立証しなければならないことになるところ、実演家個人が、自分の実演が録音されたレコードがいつ、どこの放送局で放送されたかを把握して放送事業者商業用レコード二次使用料を請求することは、理論上は考えられても実際には不可能なことである。被控訴人の法解釈を正しいとしたならば、実演家商業用レコード二次使用料請求権は法律の上では存在しても、現実には存在しないのも同然である。現実に行使不可能な権利を法律が規定していると解することは決して正しい法の解釈ではない。
3 以上のとおり、著作権法第95条の2次使用料はすべての実演家に対して認められるものであるからこそ、被控訴人における現実の二次使用料の配分も個々の実演した実演家ではなく、レコード放送によつて機械的失業を受けるのであろう実演家の所属する組織に対してなされており、それはまた被控訴人の監督官庁である文化庁の指導・承認によるものである。
また、被控訴人が著作権法第95条第2項の指定を受けたのは、放送された当該レコードに録取された実演家ではなく、レコードの録取、放送によつて機械的失業を受ける実演家の多数が構成する団体ということからである。
要するに、被控訴人における商業用レコード二次使用料に関する運営の実態は、本訴訟における被控訴人の主張とは全く異なり、すべての実演家を権利者として、商業用レコード二次使用料を放送事業者等に対し請求し、受けとつた商業用レコード二次使用料の分配を行つているのである。それは、被控訴人が二次使用料の徴収をNHK等から始めた当初から一貫した方法であり、また、その方針は被控訴人の監督官庁である文化庁の指示、承認によるものである。著作権法第95条による二次使用料の配分は、実演家全体になされるべきとの解釈があるからこそ、
被控訴人はその趣旨の業務規定を設け、文化庁もその承認を与えているのである。
4 被控訴人は「控訴人は被控訴人に対する権利行使の委任を全く行つていないのであるから、二次使用料分配請求権という具体的な金銭債権はもちろんのこと、分配を受けるという法的地位さえ主張できない。」と主張する。
しかしながら、被控訴人がこれまで放送事業者等と交渉し、放送事業者等から商業用レコード二次使用料を受け取る際には、被控訴人に対し権利行使の委任をしていない人の分を含めて権利行使しているのであり、放送事業者との協定においても、
被控訴人に対し権利行使していない実演家からの商業用レコード二次使用料請求については被控訴人の責任において処理する旨が定められているのである。このように被控訴人に権利行使の委任をしていない実演家の分まで放送事業者等から受け取り、放送事業者等に対しその旨確認しておきながら、一方で訴訟において被控訴人に権利行使の委任をしていないから「分配を受けうる法的地位さえもない」などと主張することは許されることではない。
三 被控訴人の補足した主張1 著作権法第95条は、その立法の趣旨はともかくも、実際の条文の規定上は広く実演家全体に二次使用料請求権を認めることはせず、「当該実演に係る実演家」にのみこれを認めた。これは、商業用レコード二次使用料を受ける権利はその趣旨において実演家全体に対する補償的な意味合いがあるとはいえ、法律体系上は、
使用された商業用レコードに収録されている実演を行つた実演家の権利と概念せざるを得ないという法律技術上の問題があつたからである。しかして、法文上右のように規定されている以上、実定法上は右以外に解釈の余地はない。
放送事業者等が商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行った場合に二次使用料を支払わなければならないのは、「その使用したレコードに収録されている実演を行つた実演家」に対してであつて、職業人としての「実演家一般」に対してではないことは明白であり、二次使用料を受ける権利は、当該実演を行つた実演家にのみ帰属するのである。したがつて、すべての実演家が単に実演家であるという理由によつて二次使用料請求権を有するとの控訴人の主張は失当である。
2 著作権法第95条第2項によると、同条第一項に規定された二次使用料を受ける権利の行使は、文化庁の指定団体(被控訴人)によつてのみ行うことができるとされている。これは、同条第一項にいう二次使用料は、法律的には個々の実演家に対して支払うという建前を採つているので個々の実演家にとつては零細な金額になる可能性があることと、支払い側にとつては、使用レコードのチエツクのため調査費が膨大になることの二点から、個別的な実演についての個々の実演家の権利として定められている同条第一項の二次使用料を受ける権利を、あたかも一つの包括的権利であるかのごとく集中的に行使させる趣旨である。そのため、右の権利は、文化庁長官が指定する団体があるときは、指定団体によつてのみ行使することと定められたのである。
このように、実演家の団体によつての一括権利行使のシステムをとつて、その結果として二次使用料が実演家全体のために有効適切な用途に充当されることを期待したのである。しかるところ著作権法は、その分配については特段の定めを設けず、単に著作権法施行令及び同施行規則の定めにおいて、指定団体は二次使用料の分配方法に関する事項をその業務規程に定め、文化庁長官に届出て処理すれば足りるとされており、二次使用料の分配を受けるべき団体の範囲如何及び分配方法の具体的内容如何については、指定団体が合理的と考えるものに任せられているのである。
右規定に従い、被控訴人は業務規程を定めて文化庁長官に届出をなし右業務規程に従つて二次使用料を分配し、その分配状況を文化庁に報告して了承を得ているのである。しかして、現実の分配は、個々の実演家に対しては行われず、被控訴人の正会員たる専門芸能実演家団体に対して行われている。こうした方法も著作権法の趣旨に反するものではなく、むしろかかる運営が期待されているとさえ言い得るのである。
このように、現に被控訴人によつて行われている分配方法は、むしろ著作権法の期待するところであり、法の趣旨に合致する運営なのであるから、この分配方法がとられているからといつて、逆に、被控訴人が二次使用料を受ける権利がすべての実演家に帰属することを承認したことになるわけではないことはもちろんである。
現在の運営である分配方法によつて、結果的には実演家全体の利益のために使用されているとしても、そのことによつて、著作権法第95条第1項に規定された二次使用料を受ける権利は使用された商業用レコードに収録されている実演を行つた実演家に帰属するという原則そのものが変わる筋合いではないことはいうまでもない。
3 控訴人の主張は、単に実演家であるという理由のみで当然に二次使用料を受ける権利を有する、としている点でその前提において誤まつているだけではなく、被控訴人に対して具体的な金銭債権を請求している点でも不当である。
そもそも著作権法第95条第1項の2次使用料を受ける権利は、広い意味での二次使用料の分配を受ける地位であるにすぎず、自ら具体的取得分を主張して、指定団体に対し、支払請求をなしうるものではないのである。この意味において、個々の実演家二次使用料に関して有する権利は、訴訟上訴求しうる権利とはいえないものである。
のみならず、二次使用料に関しては、権利の帰属主体(第95条第1項)と権利行使の主体(同第二項)とが分属している関係上、指定団体が権利行使する形態としては、
@実演家がその権利を指定団体に譲渡する方法A実演家がその権利を指定団体に信託する方法B実演家がその権利行使を指定団体に委任する方法のいずれかがとられなければならないわけである。
しかるに、控訴人は被控訴人に対する権利行使の委任を全く行つていないのであるから、二次使用料分配請求権という具体的な金銭債権はもちろんのこと、分配を受けうる法的地位さえ主張できない筈である。
すなわち、現行制度上、放送事業者等に対し二次使用料請求権の権利行使ができるのは、唯一の指定団体たる被控訴人だけなのであるから、権利行使の委任を受けていないかも知れない実演家の分までまとめて受け取るという形になるのは、実際上当り前のことであり、これ以外に現実的な解決方法はない。しかして、そのようにして受け取つた二次使用料をどのように分配するかは、著作権法施行令第47条によつて被控訴人の業務規程に委ねられており、その規定(商業用レコード二次使用料関係業務規程第2条第2項)によると、控訴人らのような被控訴人の会員団体の構成員以外の者は、被控訴人に対し、権利を譲渡するか、権利行使を委任すべきものとされており、右いずれかの手続を履践した者には、二次使用料の分配を行つているのである。したがつて右手続を履践していない以上、控訴人は、二次使用料の分配を受けうる法的地位さえ主張できないのは当然のことである。
右のような手続の履践もないままに、被控訴人の会員団体ではない控訴人らに二次使用料を分配するためには、クレーム基金から支払うほかないのであつて、クレーム基金は、会員団体以外の著作権法第95条第1項に定められた権利者からの請求に備えたものである以上、同条項に該当する事実を主張・立証するよう要求することは、当然のことで、被控訴人が、控訴人の方で放送に使用されたレコードに収録されている実演を行つた実演家であることを主張・立証していないことを理由に、分配を拒否しているからといつて、なんらとがめられるべき筋合ではない。
証拠(省略)
理 由 当裁判所は、控訴人らの本訴主位的及び予備的請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由欄一、二項の記載(原判決の一一枚目裏六行目から同一三枚目裏末行まで)と同じであるので、これを引用する。
一 原判決の一一枚目裏七行目の「原告らは、」の次に、「本訴主位的請求及び予備的請求を通じての前提として、」と付加する。
二 同一三枚目裏二行目の「いうべきである。」の次に、「すなわち、現行著作権法は右のような分配手段の導入によつて実演家一般の機械的失業に対する補償の機能を果たすことを期待する一方、二次使用料の権利の本来の帰属自体は放送等に使用された商業用レコードに収録された実演に係る実演家にあることを当然の前提としつつ、そのままでは実質上行使される余地がなくなるであろう右二次使用料を、
実際に行使することのできる実効あるものとするために、前記の指定団体が結成されることを期待しているものであるというべく、このような著作権法上の仕組みに照らせば、」と付加する。
三 同一三枚目裏一〇行目の「本訴請求」を、「本訴主位的及び予備的請求」と訂正する。
以上のとおりであるから、控訴人らの主位的請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、また、当審において追加された控訴人らの予備的請求も理由がないから、本件控訴及び控訴人らの予備的請求をいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について民事訴訟法第95条第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 杉山伸顕
裁判官 八田秀夫