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事件 昭和 59年 (ネ) 1446号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1985/11/14
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原判決主文第一、第二項を次のとおり変更する。
控訴人に対し、被控訴人【A】は金八二万円を、被控訴人株式会社竹村出版は金四〇万円をそれぞれ支払え。
控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
二 控訴人が当審で拡張した請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二〇分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。
四 この判決は、金員の支払いを命ずる部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。控訴人に対し、原審で支払いを命じられた金額の外に、更に、被控訴人【A】は金一、九八〇万円を、被控訴人株式会社竹村出版は金二九〇万円をそれぞれ支払え。被控訴人らは、共同して、
控訴人に対し、原判決添付別紙広告目録記載の謝罪広告を一回掲載せよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた(なお、被控訴人【A】に対する前記金員請求中金一、三〇〇万円は当審で拡張した請求である。)。
被控訴人ら代理人は、「本件控訴(当審で拡張した請求をも含めて)を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
主張及び証拠
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
一 主張関係1 原判決五枚目表八行目の「被告らは、」から同裏一行目の「負う。」までを削り、同二行目の(一)の次に、「被控訴人【A】は、前記5の行為が前記3及び4の控訴人の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることを知つて、右行為を行つたから、控訴人に対し、次の損害を賠償すべき義務を負う。」を加える。
2 同五枚目裏七行目の「適当である。」の次に、行を変えて、「さらに、被控訴人【A】は、懲罰的損害賠償金として一、三〇〇万円を支払うべき義務がある。」を加える。
3 同五枚目裏八行目の「(二)」の次に、「被控訴人会社は、前記5の行為が前記3及び4の控訴人の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることを知り、
又は過失によりこれを知らないで、右行為を行つたから、控訴人に対し、これにより控訴人が受けた次の損害を賠償すべき義務を負う。」を加える。
4 同六枚目表八行目から九行目にかけての「七〇〇万円」を「二〇〇〇万円」と改める。
5 同六枚目裏七行目の「同8のうち、冒頭部分及び(一)は否認する。」を「同8、(一)は否認する。」と改める。
6 同七枚目表七行目の「同8のうち、冒頭部分は否認し、(二)中、」を「同8、(二)のうち、」と改める。
7 原判決添付の別紙(二)のうち、表二行目の「atay」を「stay」と改め、同一一行目の「別添のとおりであるが、これを見れば」を削る。
二 証拠関係(省略) 理 由一 当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する各請求は、主文第一項記載の限度で正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 原判決一一枚目表二行目の「成立に争いのない」から同裏一行目の「る。」までを次のとおり改める。
「成立に争いのない甲第一号証によれば、控訴人は、「アメリカ語要語集」と題する書籍を執筆し、右書籍は、昭和三〇年八月二〇日に研究社出版株式会社から発行されたことが認められ、また、成立に争いのない甲第二号証によれば、控訴人は、
「アメリカ語入門」と題する書籍を執筆し、右書籍は、昭和四五年一一月一五日に株式会社三省堂から発行されたことが認められる。」2 同一二枚目表一〇行目の「アメリカ語」の次に、「の単語、熟語、慣用句及び文例等」を加える。
3 同一三枚目表三行目の「日本訳」を「日本語」と改める。
4 同一三枚目表七行目の「できない。」の次に、「右日本語訳も見出し語の英語による言換えも、素材として存する訳語あるいは言換えの英語を編集の一環として収集、選別し、原語文に当てはめたものであると認められる(語法の簡単な説明等をした「註」「注意」について後記四1第四段で述べる。)。」を加える。
5 同一三枚目裏四行目の「和文英語」を「和文英訳」と改める。
6 同一四枚目表一行目の「確かに」から五行目の「認められ、」までを「確かに同書においても単語、熟語、慣用句、文例等素材の選択、配列という要素が考えられないわけではないが、前記認定の同書の内容に照らすと、これらは一個の著作物たる同書の内容を組成するものとして不可分的に取り込まれているものと認められ、」と改める。
7 同一四枚目裏一行目の「甲第三号証」を「甲第三号証、第五号証の一、二」と改める。
8 同一四枚目裏八行目の「部分」の次に、「(本文六一三頁のうち三五七頁分)」を加える。
9 同一五枚目裏二行目の「同一又は類似」から五行目の「類似しているが、」までを「同一又は類似のものも多数収録されているが、全体的にみれば、同一又は類似していないものの方が多く、また、これら素材の配列についても、」と改める。
10 同一六枚目表九行目及び同一七枚目表九行目の各「前者が後者の」をそれぞれ「後者が前者の」と改める。
11 同一七枚目裏五行目から六行目にかけての「A及びB」を「A、B、C」と改め、原判決添付の別紙(五)の内容を本判決添付の別紙のとおり改める。
12 同一八枚目表一行目の「明らかである。」から八行目の「相当である。」までを「明らかであり、いずれも当該見出し語を用いた文章として特にその文章を採らなければならない必然性を有しないものと認められる。」と改める。
13 同一九枚目裏末行の「被告」を「被控訴人【A】」と改める。
14 同二〇枚目表七行目の「C」を「D」と、八行目の「A及びB」を「A、
B、C」とそれぞれ改める。
15 同二一枚目表八行目の「ところで、」から二二枚目裏二行目の「べきである。」までを「ところで、言語辞典のような編集物の編集活動は、主として、それ自体特定人の著作権の客体となりえない、社会の文化資産としての言語、発音、語意、文例、
語法などの言語的素材を当該辞典の利用目的に即して収集、選択し、これを一定の形に配列し、所要の説明を付加することなどから成り立つものであるが、例えば見出し語に対する文例が多数ありうるものであつて、選択の幅が広いというように、
当該素材の性質上、編集者の編集基準に基づく独自の選択を受け容れうるものであり、その選択によつて編集物に創作性を認めることができる場合と例えば見出し語に対する文例選択の幅が狭く、当該編集者と同一の立場にある他の編集者を置き換えてみても、おおむね同様の選択に到達するであろうと考えられ、したがつてその選択によつて編集物に創作性を認めることができない場合がある。そして、後者の場合、先行する辞典の選択を参照して後行の辞典を編集しても、それは共通の素材を、それを処理する慣用的方法によつて取り扱つたにすぎないから、特に問題とするに足りないが、前者の場合において、後行の辞典が先行する辞典の選択した素材をそのまま又は一部修正して採用し、その数量、範囲ないし頻度が社会観念上許容することができない程度に達するときは、その素材の選択に払われた先行する辞典の創造的な精神活動を単純に模倣することによつてその編集著作権を侵害するものというべきである。」と改める。
16 同二二枚目裏六行目の「模倣したもので」の次に、「あつて、いわゆる盗作に当たるものというべく」を加える。
17 同二六枚目裏一行目の「そして」から二七枚目表六行目の「れる。」までを次のとおり改める。
「そこで、慰藉料の額について検討するに、控訴人が『要語集』について有する編集著作権に対する被控訴人らの前記認定の侵害行為の態様及び程度、ならびに前記認定事実によれば、控訴人は、長年月にわたつてアメリカの雑誌、新聞等を購読し、素材の選択及び配列に創意をこらして『要語集』を執筆、完成せしめたものであつて、それに費やした労苦が多大のものであつたろうことは推測に難くなく、その創作活動は十分に尊重、保護されるべきものと考えられること、しかしながら、
被告辞典の発行の約一〇年前である昭和三六年初めころに『要語集』は絶版とされていること(このことは控訴人の自認するところである。)、被告辞典は、前記のとおり、四〇〇〇部印刷されたが、被控訴人【A】は控訴人に対し、昭和四七年一一月一七日付の書簡により一応の陳謝の意を表して、被告辞典の絶版を確約し、同辞典は同年末ころには絶版とされ、昭和四九年夏ころにはその組版も廃棄されたこと(これらの事実は、前掲甲第八号証及び弁論の全趣旨により認められる。)、その他本件に顕れた諸般の事情を総合して勘案すると、控訴人が被つた精神的苦痛に対し、被控訴人らが負担すべき慰藉料は、被控訴人【A】につき八〇万円、被控訴人会社につき四〇万円をもつて相当と認める。
なお、控訴人は、以上の財産的損害及び精神的損害とは別個に、被控訴人【A】に対し、懲罰的損害の賠償を請求しているが、我が国の法制度においては、民事責任と刑事責任とが峻別されており、民事責任は現実に生じた損害の填補を目的とするものに限られていて、懲罰的損害賠償請求なるものは認められていないから、控訴人の右請求は理由がない。」18 同二七枚目表八行目の「特に、」から同裏一行目までを「特に、被控訴人らの前記侵害行為の当時『要語集』はすでに絶版とされて約一〇年を経過していたこと、被控訴人【A】は控訴人に対し、一応の陳謝の意を表していること、被告辞典は昭和四七年末ころには絶版とされ、昭和四九年夏ころにはその組版も廃棄されていることからすると、控訴人に対する名誉回復の措置としては、前記慰藉料の支払いをもつて足り、それに加えてなお被控訴人らに謝罪広告の掲載を命ずる必要はないものというべきである。」と改める。
二 よつて、控訴人の本訴請求中当審において拡張した請求を除くその余の部分は、被控訴人【A】に対し合計金八二万円、被控訴人会社に対し金四〇万円の各支払いを求める限度で正当であつて認容すべきであるが、その余はいずれも失当として棄却すべきであり、これと異なる原判決を右のとおり変更し、当審において拡張した請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第96条第89条第92条本文、第93条第1項本文、仮執行の宣言につき同法第196条第1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 蕪山厳
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一