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事件 昭和 59年 (ネ) 814号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/02/26
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者双方の求めた裁判
控訴人は、主位的請求につき、「一、原判決を取消す。二、被控訴人株式会社徳間書店は徳間文庫本「太陽風交点」の印刷、製本、発行、頒布をしてはならない。
三、被控訴人らは各自控訴人に対し一〇二〇万円及びこれに対する昭和五六年三月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。四、訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言、予備的請求につき、右第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張
次に附加するほかは原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張1 主位的請求(原判決事実摘示第二、一、3の「商慣習」について) 出版業界には、(イ)一旦著者と出版業者との間で出版契約が締結されると、その出版形態が文庫本であるにせよ、単行本であるにせよ出版後三年間は他の出版業者は同一著作物を出版することができない、(ロ)三年経過後であっても先行業者の同意のない場合も同様である、(ハ)但し、@出版権の委譲、A著作権の遵守(著者の同意、印税の支払い)、Bロイヤリテイー(出版権使用料)の3条件が守られるならば、他の業者による出版は可能であるとの慣習法又は事実たる慣習が存在する。
そこで、先行業者が出版後三年以内に他の業者により出版されたケースを乙第六号証甲第四二号証により検討すると、@かかる業者は僅か二〇社にすぎないことAかかる出版業者のうち昭和四六年から昭和五六年までの総出版点数とかかる出版物の点数の比率が一パーセントを越えるものは、角川書店二・五八パーセント、被控訴人徳間一・〇四パーセント、光文社一・四一パーセントにすぎないこと、Bかかる出版傾向は最近急増していることがわかる。このように、他業者の出版物を三年以内に出版するという業者は、出版社数からみても出版点数からみても例外的であり、かつかかる出版をしている業者においてもそれは一般的ではないのである。しかも、その出版時期の多くは、初版時から三年に近い段階である。また、かかる出版につき、先行の出版業者が異を唱えたか否かについては、乙第六号証で控訴人が関与している書籍にはかかる事例はなく、甲第二五、第二八ないし第三一、第四六号証に照らせば、他の業者の場合も同様であると推測される。
しかしながら、被控訴人徳間は右の3条件を守ることなく、かつ先行出版社たる控訴人の異議にかかわらず、「太陽風交点」の文庫本化を強行したものであるから、右文庫本化は出版業界における前記慣習法又は事実たる慣習に反することは明らかである。
2 当審における予備的請求(一) 出版許諾契約とは、当事者の一方(著作権者)が相手方(出版業者)に著作権に内在する著作物の利用をなさしめることを約し、相手方が自己の計算において著作物を複製しそれを発売、頒布することによつて成立する諾成・不要式の無名債権契約である。そして、その契約の解釈に当つては慣習が重要な意義をもち、その基準となるのであるが、前記1に述べた出版業界の慣習にしたがつて、本件における文庫本化についての出版許諾契約を解釈すれば、仮にそれが出版権設定契約ではないとしてもそれは控訴人に「太陽風交点」の出版を独占させることを内容とする独占的(排他的)出版許諾契約というべきである。
(二) 被控訴人【A】の責任 被控訴人【A】が被控訴人徳間にも同書を文庫本として出版することを許諾したことは、右契約に違反しているから、被控訴人【A】が控訴人に対し債務不履行責任を負うことは明らかである。
(三) 被控訴人徳間の責任 本件においては、@単行本「太陽風交点」出版から一年余という短期間に被控訴人徳間が同書の文庫本を出版していること、A被控訴人徳間は、控訴人と被控訴人【A】との間に単行本出版につき独占的(排他的)出版許諾契約があり、その単行本出版から一年余しか経過していないことを知りながら、右文庫本の出版をしたこと、B被控訴人徳間は控訴人が右文庫本出版に強く反対していることを知りながらこれを強行したこと、C「太陽風交点」はその内容からみて、被控訴人徳間が文庫本化すれば、単行本はもちろんのこと、文庫本として控訴人が出版しても売れる見込はほとんどなく、被控訴人徳間としてもS・F出版にたずさわつている以上、このことは当然に予測し得たことなどきわ立つた特徴がみられる。
このような特徴的事実は、被控訴人徳間による「太陽風交点」の文庫本出版が出版業界における前記慣習法又は事実たる慣習を無視したもので、その違法性が高いことを示すものである。したがつて、右出版が控訴人の有する前記独占的(排他的)出版許諾契約上の権利を侵害する不法行為を構成することは明らかである。
(四) そして、控訴人は被控訴人【A】の債務不履行及び被控訴人徳間の不法行為により、原判決六丁表一行目から八丁表四行目に摘示に係る主位的請求と同額の損害を蒙つたものであるから、予備的に被控訴人ら各自に対しその支払いを求める。
二 被控訴人徳間の主張1 主位的請求について 控訴人主張のような慣習法又は事実たる慣習は出版業界には存在しない。仮に業界において、初版本出版後三年間他の業者がこれを出版しない事実が慣行化していたとしても、それはあくまで同業者間の利益擁護のための自粛にほかならず、直ちにこの事実から先行業者に出版権が帰属するものということはできない。元来、出版権は著作権を制限するものであるが、右のような出版業界の都合だけで、著作権者の意思を無視し、一方的に著作権を制限することはできないものである。
2 当審における予備的請求について 被控訴人徳間は被控訴人【A】との間の出版権設定契約に基づき、その履行として、本件の文庫本の出版をしたもので、それは正当な権利行使であるから、もとより不法行為を構成しない。仮に、控訴人と被控訴人【A】との間に出版契約が締結されていたとしても、それは独占的(排他的)出版許諾契約ではなく、単純な許諾契約にすぎないから被控訴人徳間による右出版が控訴人の文庫本化の権利を侵害したことにはならない。
三 被控訴人【A】の主張1 主位的請求について 控訴人主張のような慣習法又は事実たる慣習の存在は否認する。
2 当審における予備的請求について 被控訴人【A】と控訴人との間に控訴人主張のような独占的(排他的)出版許諾契約が成立したことは否認する。
証拠関係(省略)
理 由 当裁判所は原判決同様控訴人の主たる請求を棄却すべきものと判断するとともに、控訴人の当審における予備的請求をも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、附加、削除するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の理由一のうち一三枚目表八行目に「同年」とあるのを「昭和五六年」と訂正する。
二1 原判決の理由三のうち一七枚目裏四行目「争いがなく」の後に「(控訴人と被控訴人徳間との間ではこの事実は以下の証拠によって認められる。)」を加える。
2 同一八枚目表四行目「訪問した」の後に「こと、」を加え、同行の「のであって」から同八行目「しかし、」までを削る。
三1 原判決の理由四のうち一九枚目表四行目「出版権設定」の次に「又は独占的出版許諾」を加える。
2 同一九枚目表七行目「定契約」の後に「又は独占的出版許諾契約」を加える。
3 同一九枚目表八行目「出版権設定契約であると主張する。」を「出版権設定契約であり、仮にそうでないとしても独占的出版許諾契約であると主張する。」と訂正する。
4 同一九枚目表一〇行目「乙第六号証」の後に「甲第五四、第五五、第五八、第六〇号証、同じく原本の存在及び成立を認める甲第六二、第六三号証、第六四号証の一、二、第六五ないし第六七号証」を加える。
5 同一九枚目表一一行目の冒頭に「当審証人【B】」を加える。
6 同二〇枚目表六行目「証拠はない。」の後に、「控訴人が当審において主張する慣習法又は事実たる慣習についても同様であつて、右の主張に副う甲第二五号証の一、二、第四七号証、当審証人【C】の証言は前認定の事実に照らし採用できない。」を加える。
7 同二〇枚目表九行目「著作者」の前に「出版社とは立場を異にする」を加え、
「依る」を「依らせる」と訂正する。
8 同二〇枚目表一一行目「ならないとの」の「の」を削り、その後に「解すべき合理的な根拠となるとは解せられず、そのような」を加える。
9 同二一枚目表七行目「権設定契約」の後に「又は独占的出版許諾契約」を加える。
四 1 原判決の理由五(二一枚目裏九行目ないし二二枚目表四行目)のうち、二一枚目裏一一行目の「出版権設定契約」の後に「又は独占的出版許諾契約」を加える。
2 同二二枚目表四行目の「主張」を「主たる請求」に訂正する。
3 同二二枚目表四行目末尾に「また、独占的出版許諾契約であることを前提とする控訴人の当審における予備的請求も理由がない。」を加える。
よつて、本件控訴及び控訴人の当審における予備的請求を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法89条95条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 瀧川叡一
裁判官 松野嘉貞
裁判官 清野寛甫
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