審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ネ1150損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許権 |
平成11ネ5631著作物発行差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許権 |
平成2ネ2733 | 判例 | 特許権 |
関連ワード | 著作物性 / 著作者 / 同一性 / 著作者人格権 / 氏名表示権 / 同一性保持権 / 引用 / 損害賠償 / |
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事件 |
昭和
61年
(ネ)
833号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1987/02/19 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原判決を取り消す。 二 被控訴人は控訴人に対し、金二〇万円及びこれに対する昭和五八年二月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 三 控訴人のその余の請求を棄却する。 四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。 五 この判決は、控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 控訴人1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五八年二月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。 との判決並びに2、3項につき仮執行宣言(なお、控訴人は当審に至り謝罪広告を求める訴の部分を取り下げた。)二 被控訴人1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 との判決 |
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主張及び証拠
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。 一 主張関係1 原判決二枚目裏一行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改める。 「2 昭和五七年一二月六日頃、被控訴人(契約担当者・A)は控訴人に対し、被控訴人発行の週刊サンケイ一九八三年新年合併号(以下「本件週刊誌」という。)に掲載するため、来るべき総選挙(衆議院議員)において全国一三〇選挙区より立候補を予定している者の名簿に、控訴人が当落の予想をしてその結果を書き込むことにより当落予想表を作成することを依頼し、控訴人はこれを承諾して、控訴人と被控訴人間において、口頭による右当落予想表作成及び出版(ただし、本件週刊誌の記事の一部として)に関する出版許諾契約が成立した。 なお、原稿引渡しの期限については、これを定めず(ただし、できる限り早期にということであつた。)、また、原稿料については、出版界におけるこの種雑誌記事に関する慣習により、後日、注文者である被控訴人の裁量によりしかるべき額が支払われることに、控訴人と被控訴人間において暗黙の合意が成立した。 控訴人は、右契約に基づき、立候補予定者名簿に、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下という趣旨で○△▲の符号を付した当落予想に関する原稿(以下「控訴人原稿」という。)を作成し、右原稿を同月一三日被控訴人に交付した。」2 原判決二枚目裏八行目の「右当落予想」を「控訴人原稿」と、同三枚目表一行目から二行目にかけての「右当落予想に関する原稿(以下、「原告原稿」という。)」を「控訴人原稿」と、同三枚目表七行目、裏五行目、五枚目表七行目、六枚目表一行目ないし二行目、八枚目表一行目、五行目、九枚目表一〇行目、一〇枚目表六行目、九行目、裏三行目の各「原告原稿」を「控訴人原稿」とそれぞれ改める。 3 原判決四枚目表二行目冒頭から四行目末尾まで、及び同八行目の「並びに」から四枚目裏一行目の「掲載すること」までを削る。 4 原判決四枚目裏二行目の「二請求の原因に対する認否」の次に、行を変えて、 「1請求の原因1の事実のうち、控訴人が政治、政党問題の評論家として著名であることは認めるが、その余は不知。」を加える。 5 原判決四枚目裏三行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改める。 「2 同2の事実中、控訴人が被控訴人の依頼により来るべき総選挙において全国一三〇区から立候補を予定している者の名簿に当落の予想をして、○は当選圏内、 △は当落線上より上、▲は当落線上より下という趣旨で○△▲の符号を付した控訴人原稿を作成し、右原稿を控訴人主張日時に被控訴人に交付したことは認めるが、 その余の事実は否認する。 被控訴人の編集部次長A(以下「Aデスク」という。)が昭和五七年一二月六日頃控訴人を訪ねたのは、日頃世話になつているお礼の趣旨であり、その際たまたま本件の選挙予想の話が出て、控訴人に取材協力を要請したにすぎない。Aは、その際全国一三〇選挙区の立候補予定者名簿を所持していなかつた。したがつて、その段階で右名簿に当落予想の符号を付するように依頼するわけがないし、ましてや控訴人の作成した当落予想表をそのまま本件週刊誌に掲載することを内容とする出版許諾契約を締結する余地など全くなかつた。 被控訴人が控訴人に当落予想を依頼したのは同月九日被控訴人の記者B、Cを介してであり、その際にも被控訴人が控訴人の当落予想をそのまま本件週刊誌に掲載すると約したことはなく、後述のとおり取材の一方法として、被控訴人独自の当落予想の正確性を期するためのたたき台として使用するために依頼したにすぎない。 そして、当落予想の原稿は同月一一日に控訴人から交付を受ける約束であつたが、 右日時に履行されなかつたのである。 控訴人は、原稿料について被控訴人の裁量でしかるべき額が支払われることに暗黙の合意があつた旨主張するが、控訴人主張のような出版許諾契約が成立するような場合には、両者間で契約書を取り交すか、少なくとも口頭により原稿料の内諾を得て行われるのが通常の形態であり、被控訴人の裁量でしかるべき額が支払われるような場合には、それは原稿料ではなく、コメントや取材協力に対する謝礼であることが普通であり、原稿料について事前に何らの取り決めもなく、被控訴人の裁量で金三万円が控訴人に支払われている本件においては、まさに取材協力の一形態として処置することに双方とも相互に了承していたことを物語るものである。」6 原判決四枚目裏八行目の「2」を「3」に、五枚目表三行目の「3」を「4」に、同末行の「4」を「5」にそれぞれ改める。 7 原判決七枚目表六行目ないし七行目の「編集部次長A(以下、「Aデスク」という。)」を「Aデスク」に改める。 二 証拠関係(省略) 理 由一 控訴人は、政治、政党問題の評論家として著名であること、控訴人は、被控訴人の依頼により、来るべき総選挙において全国一三〇選挙区から立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下という趣旨で○△▲の符号を付した控訴人原稿を作成し、右原稿を昭和五七年一二月一三日被控訴人に交付したこと、被控訴人は、本件記事及び本件当落予想表を掲載した本件週刊誌を同月二三日日本全国において発売したこと、本件当落予想表には控訴人の氏名は表示されておらず、本件記事冒頭には「・・・以下は本誌が行つた当落予想・・・」との記述があること、並びに控訴人原稿に控訴人が記載した符号(原判決別紙(二)の「原告の記載した符号」欄記載のもの)と本件当落予想表に記載されている符号とは、右別紙(二)の「被告の改変した符号」欄記載の符号のとおり一部異なつていること、以上の事実は当事者間に争いがない。 二 まず、控訴人原稿が控訴人著作にかかる著作物といえるか否かについて検討する。 控訴人原稿が著作物といえるためには、それが「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であることが必要である(著作権法第2条第1項第1号)ところ、「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指し、「創作的に表現したもの」とは、厳格な意味での独創性があるとか他に類例がないとかが要求されているわけではなく、「思想又は感情」の外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現われていれば足り、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。 本件についてこれをみるに、成立に争いのない甲第一、第九号証、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果、並びに前記争いのない事実によれば、控訴人は、 株式会社政治広報センター(以下「政治広報センター」という。)発行、控訴人編著の「政治ハンドブツク」(昭和五七年一月版)に記載されている、昭和五五年六月二二日に施行された第三六回総選挙(衆議院議員)の結果分析(立候補者ごとの得票数、得票率、得票増減等)や政治広報センター備付のコンピユータによる判断結果を参考にし、控訴人自身の政治評論家としての知識、経験に基づいて、総選挙の立候補予定者につき当落の予想をしたが、立候補予定者名簿に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下という、同種の記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために○△▲の符号を付し、また、○の符号については「1」、△の符号については「1マイナス1」、▲の符号については「0プラス1」として換算し(したがつて、△と▲の合計が1となる。)、右により換算したものの和が各選挙区の定員数と同一となるように(ただし、宮城二区、山形二区、 兵庫三区を除く。)、右各符号を付して控訴人原稿を完成したものであることが認められ(原審証人A、同B並びに当審証人Cの各供述中、右認定に反する部分は措信できない。)、右認定事実によれば、控訴人原稿は、国政レベルにおける政治動向の一環としての総選挙の結果予測を立候補予定者の当落という局面から記述したもので、一つの知的精神活動の所産ということができ、しかもそこに表現されたものには控訴人の個性が現われていることは明らかであるから、控訴人の著作に係る著作物であると認めるのが相当である。 三 次に、控訴人は、控訴人と被控訴人間に成立した、総選挙立候補予定者の当落予想表作成及び出版に関する出版許諾契約に基づき、被控訴人に控訴人原稿を交付したところ、被控訴人は、本件週刊誌に、控訴人原稿の内容を一部改変したものを本件当落予想表として掲載した旨主張し、他方、被控訴人は、右契約の成立を否定し、控訴人原稿は単なる一取材源として受領したにすぎず、本件当落予想表は被控訴人が独自に取材した結果に基づいて作成したものである旨反論するので、控訴人原稿が被控訴人に交付されるに至つた経緯、本件当落予想表の作成経過等について検討する。 1 前掲甲第一、第九号証、成立に争いのない甲第二、第三号証、乙第一、第二号証、原審証人A、同B及び当審証人Cの各証言(いずれも措信しない部分を除く。)、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果、並びに前記争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。 (一) 被控訴人においては、早ければ昭和五八年二月、遅くとも同年六月には総選挙が行われるのではないかとの思惑に基づき、昭和五七年一一月二四日頃、本件週刊誌の目玉企画として、全国一三〇選挙区の総選挙立候補予定者につき当落予想記事を登載することに決定し(以下この企画を「本件企画」という。)、週刊サンケイ編集部次長のAを担当デスクとし、B記者を担当記者として取材活動に当たらせることにした。 なお、Aデスクは、昭和四三年四月にサンケイ新聞社に入社後、同新聞出版局に配属されて週刊サンケイの記者となり、昭和四七年頃から政治関係をも担当するようになつたものであり、B記者は、昭和五〇年四月に被控訴人会社に入社し、翌五一年四月から週刊サンケイ編集部記者になつたが、政治関係は昭和五五年のいわゆる衆・参同日選挙の取材に関与した経験を有していたものである。 (二) ところで、被控訴人の取材能力に加えて、本件企画の決定当時、総選挙の時期がいまだ明確でなかつた事情もあつて、被控訴人自身において、総選挙立候補予定者を把握し、当落の予想をすることは不可能であつたため、B記者は、昭和五七年一一月二四日頃から、政治評論家であるD、E及び控訴人にそれぞれ連絡をとつて、総選挙立候補予定者名簿の作成方と当落予想を依頼したところ、Dからは立候補予定者名簿を入手して渡してくれるとの約束が得られたが、Eからはデータ不足を理由に断られた。 そして、控訴人も総選挙の時期が不明確であつて、立候補予定者名簿を作成することに手間がかかることなどを理由として、右依頼に応じなかつた。 なお、控訴人は、政治・選挙キヤンペーンの企画、広報、宣伝、政治活動コンサルタント、世論調査、選挙調査等を事業目的とする政治広報センターの代表取締役であり、個人としても、政治、政党問題の評論家として政治評論や選挙予測を行つているものであつて、本件以前にも、被控訴人が発行している週刊サンケイの掲載記事にするために、衆議院議員選挙や参議院議員選挙における当落の予想をしたり、選挙関係の座談会に出席したことがある。 (三) B記者は、その後も控訴人に対し本件企画に協力して欲しい旨依頼したが、控訴人より応諾が得られなかつたため、控訴人とは仕事上の関係で一〇数年前からの知合いで、控訴人と懇意にしていたAデスクは、同年一二月六日、政治広報センターに控訴人を訪ね、Eらから当落予想の協力が得られないため、本件企画の遂行に困難を来たしている実情を訴え、控訴人に総選挙立候補予定者の当落の予想をして欲しい旨懇請した。これに対し、控訴人は、立候補予定者名簿を作成している余裕がない旨伝えたところ、Aデスクは、右名簿は被控訴人において作成することを約したので、控訴人は、総選挙立候補予定者につき当落の予想を記述することを承諾した。 なお、本件以前において、控訴人が被控訴人の依頼により、週刊サンケイの企画記事のため、衆議院議員選挙や参議院議員選挙における当落の予想をした際には、 いずれの場合でも、控訴人のした当落予想内容がそのまま週刊サンケイ誌上に掲載され、また、控訴人の氏名が表示されたのであり、単なる一取材源として取り扱われたことはなかつたが、前同日、Aデスクが控訴人に対し前記依頼をするに当たり、本件企画は、被控訴人の編集部が独自の取材に基づいて当落予想を行い、それを本件週刊誌に掲載するものであつて、控訴人から提供される当落予想に関する記述はその資料の一つとして使用する予定であり、単なる取材源の一つ、あるいはたたき台として取り扱うこととするというような説明は全くなかつた。 また、前同日、控訴人とAデスクとの間で、当落予想に対する対価についての話合いはなされなかつたが、本件以前に控訴人が週刊サンケイの掲載記事とするために当落の予想をしたり、座談会に出席した際も同様であつて、控訴人と被控訴人との間で原稿料等につき明確な合意がなされたことはなく、従前から被控訴人において相当と思料する金額が控訴人に支払われていた。 (四) 被控訴人は、同年一一月二七日頃Dから入手していた名簿(それはDが自由民主党関係者から取得したと説明していたものであつた。)をもとに、被控訴人会社の二〇〇字詰原稿用紙に、選挙区ごとに定員、立候補予定者氏名、年令、所属政党、当選回数等を記載した総選挙立候補予定者名簿を作成した。 同年一二月八日、被控訴人の専属フリー記者であつたC記者も本件企画の担当者に加わり、B記者を補助することとなつた。 同月九日、Aデスクの指示に基づき、B記者とC記者は控訴人を訪ね、前記立候補予定者名簿に当落予想を記述して欲しい旨依頼し、控訴人はこれを応諾した。しかし、右名簿中には、立候補予定者でない者が立候補予定者とされていたり、すでに参議院議員となつている者が立候補予定者に記載されていたり、立候補予定者が抜けていたりするなどの誤りが約八〇名程度につき存したので、控訴人は両記者に右誤りを指摘し、調査、確認の上、訂正した名簿を同月一一日までに持参するよう指示した。 (五) 控訴人の指摘に基づき訂正された立候補予定者名簿は、同月一一日に控訴人に届けられ、控訴人は、同日と翌一二日の二日間をかけて、前記二項認定のとおり、「政治ハンドブツク」(昭和五七年一月版)に記載されている、昭和五五年六月二二日に施行された第三六回総選挙(衆議院議員)の結果分析を参考にし、自らの政治評論家としての知識、経験に基づいて、右名簿に当落予想を現わす前記符号を付したが、若干名のものについては予想がつきかねたので、同月一三日に政治広報センターのコンピユータを使用して、コンピユータの判断に委ね、その結果を右名簿に記載して、控訴人原稿を完成した。 (六) 控訴人より同年一二月一三日に控訴人原稿の交付を受けた被控訴人は、サンケイ新聞の各地方支局、北海道新聞、西日本新聞等を取材して得た情報をも加えて、立候補予定者氏名の上欄に、当選圏内は○、当落線上より上は△、当落線より下は▲の符号を付し、立候補予定者の年令、所属政党、当選回数等を記載した本件当落予想表を作成し、あわせて本件記事を作成して同月一六日頃に入稿を終えた。 右のとおり総選挙立候補予定者名簿を作成したのは被控訴人であり、しかも控訴人原稿の内容をそのまま本件週刊誌に掲載したものではないことから、被控訴人は、本件記事中に控訴人の氏名を表示せず、本件記事の冒頭に「・・・以下は本誌が行つた当落予想・・・」と記載した。 (七) 同年一二月二一日、控訴人は、前記立候補予定者名簿中に、参議院議員選挙の公認候補者とされている者が記載されていることに気付き、その点の訂正を求めるべく被控訴人に連絡し、被控訴人より本件週刊誌の刷本を届けさせたところ、 本件記事の冒頭に「・・・以下は本誌が行つた当落予想・・・」と記載され、控訴人の氏名が全く記載されていないことを知り、Aデスクに対し強い調子で抗議した。そのため、被控訴人は、次号(昭和五八年一月二〇日号)の週刊サンケイの編集後記の欄に、「新年合併号『総選挙当落予想』は選挙分析の専門家『政治広報センター』のF社長のご協力を得たものです。」と掲載した。 なお、控訴人原稿に対しては、従前の当落予想に関する原稿料と同額である金三万円が控訴人に支払われた。 (八) 控訴人原稿に記載されている総選挙立候補予定者は八三〇名、本件当落予想表に記載されている右予定者は八二三名、そのうち、控訴人原稿において前記○△▲の符号が付されている立候補予定者は六三一名、本件当落予想表において右符号が付されている立候補予定者は六三二名であるのに対し、原判決別紙(二)記載のとおり控訴人原稿と本件当落予想表に付されている符号の相違(いずれか一方に符号の付されていないもの及び候補者名の記述もないものを含む。)は五八名分(ただし、右のうち和歌山二区の五名については、被控訴人のミスにより本件当落予想表に当落予想の符号を付さなかつたものである。)であり、その余については両者に付されている符号は同一である。 また、控訴人は、控訴人原稿に、前記のとおり、〇の符号については「1」、△の符号については「1マイナス1」、▲の符号については「0プラス1」として換算し、右により換算したものの和が各選挙区の定員数と同一となるように〇△▲の符号を付している(ただし、宮城二区、山形二区、兵庫三区を除く。)が、本件当落予想表においても、右と同じ換算によるものの和が定員数と同一となるように〇△▲の符号が付される。 原審証人A、同B並びに当審証人Cの各供述中、右認定に反する部分は、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果に照らしてたやすく措信することができず、 他に右認定を左右すべき証拠はない。 2 前記認定の昭和五七年一二月六日、Aデスクと控訴人との間に成立した合意の内容(1、(三))、右合意に至る経緯(同(一)ないし(三))、本件以前に控訴人が週刊サンケイの企画記事のためにした当落予想の取扱い(同(三))、右合意の際、被控訴人側から控訴人の提供する当落予想に関する記述を被控訴人が独自の取材に基づいて行う当落予想の一つの資料として使用するというような説明はなかつたこと(同(三))、及び本件企画の担当者であるAデスクやB記者の経歴等(同(一))からいつて、被控訴人独自で取材し、それに基づいて、総選挙立候補予定者につき全般的、専門的な当落予想をすることは困難であり、そのために政治、政党問題の評論家で選挙予測を専門の一つとする控訴人に右当落予想を依頼するに至つたものと認められることなどを総合すると、右一二月六日控訴人と被控訴人間(契約担当者Aデスク)において、控訴人は総選挙立候補予定者につき当落予想に関する記述(著作物)を作成し、被控訴人はこれを本件週刊誌の記事の一部として複製出版することを内容とする契約が成立したものと認めるのが相当である。 被控訴人は、前記認定の自由民主党関係者を通じて入手した立候補予定者名簿をもとに、サンケイ新聞の各地方支局、地方新聞社、各政党本部等に候補者の顔ぶれ予想及び当落予想を取材し、同年一二月九日には立候補予定者名簿及び当落予想をほぼ完成していて、右同日にB記者及びC記者が控訴人に当落予想を依頼したのは、右名簿と当落予想についての正確を期するためであり、B記者は右依頼をするに当たり、立候補予定者名簿はすでに完成し、当落予想も済んでいるので、今回は被控訴人独自の予想とするとの考えを控訴人に示し、控訴人の了承を得ている旨主張し、原審証人A、同Bの各供述中には右主張に副う部分が存するが、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果に照らして措信できず、他に前記認定を覆して被控訴人の右主張を認め得る証拠はない。 3 ところで、出版許諾契約においては、出版者は著作物を原稿の内容のまま複製すべき義務があり、右内容に改変を加えることはできず、もし著作者の承諾なしに改変を加えて複製した場合には債務不履行の責任を生ずるとともに、著作者人格権である同一性保持権(著作権法第20条第1項)侵害の責任を負うべきである。本件において、前記認定のとおり、本件当落予想表には、控訴人原稿におけると同じく、当選圏内は〇、当落線上より上は△、当落線上より下は▲の各符号が立候補予定者氏名の上欄に付されていること、控訴人原稿と本件当落予想表に記載されている総選挙立候補予定者はそれぞれ八三〇名、八二三名、そのうち〇△▲の符号が付されている立候補予定者数は六三〇名余であるのに対し、控訴人原稿と本件当落予想表に付されている符号の相違(いずれか一方に符号の付されていないもの及び候補者名の記述のないものを含む。)は、被控訴人のミスにより本件当落予想表に符合を付さなかつた和歌山二区の五名を含めて五八名分であつて、その余については、両者において付されている符号は同一であり、右相違分は、総選挙立候補予定者数に対し約七%、右符号の付されている立候補予定者数に対し約九・二%であること、本件当落予想表においても、控訴人原稿と同じく、〇の符号は1、△と▲の符号は合計が1として換算し、右により換算したものの和が定員数と同一となるように〇△▲の符号が付されていることなどを総合すると、本件当落予想表は全体としてみるならば、控訴人原稿を複製したものと認めるのが相当であるが、控訴人原稿を一部改変した部分を含むものであることは否定できない。 4 また、控訴人と被控訴人との間の契約は控訴人が創作する著作物を本件週刊誌の記事の一部として複製出版するものであり、著作権そのものは控訴人に保有されているのであるから、控訴人に著作者人格権である氏名表示権が保有されていることはいうまでもなく、したがつて、被控訴人が本件当落予想表に著作者として控訴人の氏名を表示しなかつたことも、控訴人の右権利を侵害したものというべきである(前記改変部分には、同一性保持権の侵害と氏名表示権の侵害とが競合していると評価すべきである。)。 被控訴人は、控訴人は本件当落予想表に同人の氏名を掲載する点はどちらでもよい旨答えた旨主張する。右主張が、控訴人原稿の著作物性が肯定され、控訴人主張の出版許諾契約の成立が認定された場合の仮定的主張を含む趣旨であると解されるとしても、右主張に副う原審証人A、同Bの各供述は、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果に照らして措信できず、他に被控訴人の右主張事実を認めるべき証拠はない。 四 叙上認定したところによれば、被控訴人は、本件週刊誌に、控訴人原稿を一部改変して本件当落予想表として、控訴人の氏名を表示しないで掲載したものであるから、少なくとも過失により控訴人の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を不法に侵害したものというべく、被控訴人は、右侵害により控訴人が被つた精神的損害を賠償すべき義務がある。 そこで、損害賠償額につき検討するに、控訴人原稿は、控訴人の専門的な知識、 経験等に基づいて作成されたものであるところ、無断で一部改変されたことにより、選挙分析の専門家としての控訴人の自尊心が著しく傷つけられ、心痛の思いを抱かされたことは容易に推測し得ること、控訴人が被控訴人の依頼に応じて本件当落予想を行つたのは、それによつて得られる原稿料のためというよりは、自己の氏名が本件企画の記事中に掲記され、それによつて政治評論家としての信用、名声がより高められ、あるいは維持されることを期待したためである(このことは、弁論の全趣旨により認める。)ところ、本件記事に控訴人の氏名が表示されなかつたため、右期待は果たされなかつたこと、被控訴人は、週刊サンケイの昭和五八年一月二〇日号の編集後記欄に、本件記事及び本件当落予想表については控訴人の協力を得た旨を掲載したこと、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、被控訴人の本件著作者人格権侵害により控訴人が被つた精神的苦痛を慰藉するには金二〇万円が相当であると認める。 五 よつて、控訴人の本訴請求は、慰藉料金二〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五八年二月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で認容すべく、その余の部分の請求は失当としてこれを棄却すべきであり、本訴請求を全部棄却した原判決は失当であるから、民事訴訟法第386条に従いこれを取り消し、訴訟費用の負担につき同法第96条、第89条、第92条、仮執行の宣言につき同法第196条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 蕪山厳 |
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裁判官 | 竹田稔 |
裁判官 | 濱崎浩一 |