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事件 昭和 56年 (ワ) 1881号
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裁判所 東京地方裁判所 八王子支部
判決言渡日 1987/09/18
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告館林市は、別紙物件目録(一)記載の壁画のうち、同目録(二)記載の大型タイルを撤去せよ。
二 被告らは、原告に対し、連帯して、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五六年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
一 請求の趣旨1 主文第一項と同旨2 被告館林市は、別紙物件目録(二)記載の大型タイルを廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求の原因1 原告は陶芸作家であり、陶壁デザインを中心に多数の作品を有し、現在白石斉デザイン研究所を主宰している。
2(一)原告は、昭和五〇年頃、日野市庁舎新築工事に際し、訴外日野市及びその設計・監理を請け負つた訴外株式会社岡設計事務所の依頼を受けて、日野市の地名を焼き込んだ特殊な大型の煉瓦タイルを製作し、これを組み合わせ、その組合わせにより地名が持つている土俗性、土着性、歴史性を壁画のうちに取り込み表現する方法により、日野市庁舎一階通路部分に存する中央コア壁面上に陶壁画(以下「日野市壁画」という。)を製作し、同壁画は昭和五二年一〇月頃完成した。
(二) 日野市壁画は、右のとおり原告の日野市についての思想を創作的に表現したものであつて、美術の範囲に属するものであるから著作物である。
原告は、日野市壁画の設計・製作・監督した者であるから、同壁画の著作権者である。
(三) なお日野市壁画は原告が設計・製作・監督したものであるが、タイルの施行作業は、被告阿部窯業株式会社(以下「被告阿部窯業」という。)が担当した。
3 被告館林市は、昭和五五年頃、現住所地に同市市役所の新庁舎を建設することを計画し、被告株式会社桂建築設計事務所(以下「被告桂設計」という。)にその設計・監理を依頼し、被告株式会社大林組(以下「被告大林組」という。)、被告佐田建設株式会社(以下被告佐田建設」という。)及び被告河本工業株式会社(以下「被告河本工業」という。)の共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)に右建築を依頼したが、その際、別紙物件目録(一)中「展示場所」として表示された場所(以下「本件展示場所」という。)に、壁画を製作することを企画して、
本件共同企業体及び被告桂設計に対してその旨指示した。
そこで、本件共同企業体及び被告桂設計は、被告阿部窯業を下請けとし、被告館林市の地名を焼き込んだ煉瓦タイルを製作して、これを組み合わせる手法により、
本件展示場所に別紙物件目録(一)記載の壁画(以下「本件壁画」という。)を製作した。
被告館林市は、現在本件壁画を所有し、これを本件展示場所において展示公開している。
4 本件壁画は、左記(一)ないし(六)記載のとおり日野市壁画と本質的特徴が全く一致しており、かついずれの製作についても被告阿部窯業が関与していること並びに本件壁画製作の前後における原告と被告らとの接触、交渉の経緯に照らし、
日野市壁画の複製物(変形複製物)というべきであり、仮にそうでないとしても、
被告らは本件壁画を製作するにあたり日野市壁画に依拠し、これを基礎として本件壁画を製作したものであるから、日野市壁画の二次的著作物に該当する。
(一) 日野市壁画の本質的特徴は、極めて特殊な構成要素を組み合わせ、垂直、
水平の線と大小の特殊な四角形を構成し、地(大きな四角の背景となるように張られている壁面全体の小さなタイル)と四角の組合わせの全体で作者の思想を表現しており、その主たる構成要素になつている正方形の大型タイルは市販の規格品ではなく、日野市壁画の素材にするために原告が設計した特殊な大きさのものであるところ、本件壁画の主たる構成要素も正方形の大型タイルであり、その大きさが日野市壁画のそれとほぼ同一である。
(二) 日野市壁画の主たる要素である右大型タイルには、七種類のデザイン(基本型三種、応用組合わせ型四種)があり、日野市壁画はこのデザインのタイルの組合わせで構成されているところ、本件壁画も同様のデザインのタイルにより構成されている。
(三) 日野市壁画においては、日野市の地名を大型タイル及びその地になつているタイルに焼き込み、地名を一つの模様として構成しているところ、本件壁画も、
館林市の地名を大型タイルに焼き込み、地名を一つの模様として構成している。
(四) 文字を焼き込んだ大型タイルの間に張られている文字の焼き込まれていない地のタイルも、原告が設計した特殊な大きさとデザインのものであるところ、本件壁画もほぼ同様の大きさのタイルを使用している。
(五) 日野市壁画における大型タイル及び地のタイルは赤色系煉瓦タイルであるところ、本件壁画も同様の煉瓦タイルを使用している。
(六) 日野市壁画においては時計をタイルの枠の中に埋め込んであるところ、本件壁画においても時計をタイルの枠の中に埋め込んでいる。
すなわち、本件壁画は、日野市壁画と同様に地名を焼き込んだ煉瓦タイルを組み合わせて構成されているが、タイルに焼き込まれている地名が日野市壁画と違う点及び本件壁画に使用されている煉瓦タイルの品質が日野市壁画のそれより劣つている点以外は、日野市壁画とほとんど同一である。
5(一) 原告館林市は、本件壁画の作成を本件共同企業体に発注するに際し、日野市壁画の存在を知つており、本件壁画が日野市壁画の著作権侵害になる可能性があること及び原告が右の著作権者であることを十分認識していたのであるから、原告の許諾を得ないうちは本件壁画の複製物または二次的著作物を製作展示しないよう配慮すべき義務があるのに、これを怠り、受注者である本件共同企業体が原告の許諾を得るものと軽信して、被告阿部窯業、本件共同企業体及び被告桂設計をして、日野市壁画の複製物または二次的著作物たる本件壁画を完成させ、本件展示場所において展示公開し、もつて原告に後記損害を与えたものである。
(二)(1) 被告大林組、被告佐田建設及び被告河本工業は、被告館林市から本件展示場所に壁画を作成してほしい旨の注文を受け、これを承諾した際、日野市壁画の存在を知つていたのであるから、日野市壁画の複製または二次的著作物は製作しないよう配慮するか、原告の許諾を得る義務があつたにもかかわらず、これを怠り、下請けの被告阿部窯業が原告の許諾を得たものと軽信し、被告阿部窯業をして日野市壁画の複製または二次的著作物たる本件壁画を完成させ、被告館林市をして本件展示場所において本件壁画を展示公開させ、もつて原告に後記損害を与えたものである。
(2) 被告阿部窯業は、被告大林組、被告佐田建設及び被告河本工業の構成する本件共同企業体の下請負人として、元請負人たる本件共同企業体の指揮命令を受けて仕事をする者であるから、被告阿部窯業と本件共同企業体の間には使用関係があるので、本件共同企業体は、被告阿部窯業の後記不法行為につき、民法715条に基づく責任を負う。
(三) 被告桂設計は、本件壁画の製作を含む被告館林市新庁舎建築工事全部の設計・監理にあたつたものであり、日野市壁画の存在を知つていたものであるから、
被告阿部窯業、本件共同企業体及び被告館林市が日野市壁画の複製物または二次的著作物を作成しないよう指導するか、右著作権者である原告の許諾を得て製作するよう指導すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告阿部窯業をして日野市壁画の複製物または二次的著作物たる本件壁画を作成するに至らしめ、原告に後記損害を与えたものである。
(四) 被告阿部窯業は、日野市壁画の施工作業を担当したものであり、同壁画のデザイン、特質、内容及び製作方法等を知悉していたものであるから、被告館林市のために製作する壁画が日野市壁画の複製物または二次的著作物にならないよう十分注意するか、右著作権者である原告の許諾を得て製作するよう指導すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、原告の許諾なく日野市壁画の複製物または二次的著作物たる本件壁画を製作し、被告館林市をしてこれを展示公開せしめ、もつて原告に後記損害を与えたものである。
(五) 被告らの右各行為は関連共同しているから、共同不法行為にあたる。
6(一) 本件壁画に類する壁画を原告が作成する場合は、総工費で最低三〇〇〇万円はかけるものである。その場合、原告としては、総工費の一割にあたる三〇〇万円を壁画作成による利益として得るのが普通である。従つて、被告らが原告に無断で本件壁画を作成したことにより、被告は少なくとも三〇〇万円の損害を受けたことになるが、本訴において内金一八〇万円を請求する。
(二) 本件壁画は日野市壁画に比して劣悪なものであるが、前記のとおり日野市壁画と本質的特徴が同一であるため、これが展示されたことにより、原告は本件壁画も原告が製作したものであり、原告がこのような劣悪なものを製作したと誤信され、多大な精神的苦痛を受けた。右著作者人格権侵害に対する慰謝料は二〇〇万円を下らないが、本訴においては内金一二〇万円を請求する。
7 よつて、原告、被告館林市に対し、著作権法112条に基づき、本件壁画のうち別紙物件目録(二)記載の大型タイルの撤去及び廃棄を求め、被告らに対し、民法709条715条及び719条に基づき、連帯して、右損害合計金三〇〇万円及びこれに対する不法行為後である昭和五六年九月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因事実に対する認否(被告ら)1 請求の原因1の事実は知らない。
2(一) 同2(一)の事実のうち、原告が日野市壁画を製作したことは認め、日野市の地名を焼き込んだ煉瓦タイルの特殊性は否認し、その余は知らない。
(二) 同2(二)の事実はいずれも否認する。日野市壁画は著作権法上保護されるべき著作物には該らない。
(三) 同2(三)の事実は認める。
3 同3の事実はいずれも認める。
4(一) 同4の事実はいずれも否認する。本件壁画は、日野市壁画の複製物ではなく、また日野市壁画に依拠しこれを模倣して製作された二次的著作物でもない。
(二) 本件壁画は、被告館林市に存在した旧町名を保存することを意図し、大型タイルにこれら旧町名を刻み込み、
これを新築する市庁舎の中央ホールの壁面に概ね地図に基づいて配列したもので、
日野市壁画とは関わりなく、独創的に製作されたものである。もつとも、本件壁画と日野市壁画には、左記(1)ないし(5)記載のとおり、共通する手法、デザイン及びアイデア等があることは認める。しかし、これらは、原告が日野市壁画を製作する以前から窯業界や建築業界に存したものであり、いわば右業界の共通の財産であつて、原告自身、右既存の手法やデザイン等を使用して、日野市壁画を製作したものである。従つて、その後、被告らが同じ手法やデザイン等を使用して本件壁画を製作しても、それは右業界の共通の財産を使用したにすぎず、それがために本件壁画が日野市壁画を基礎としたとはいえない。
(1) 日本において建築材料としてのタイルの生産が開始されたのは明治三〇年頃であり、明治三八年には、陶板(タイルの表面積が四丁掛程度以上の大型のものをいう。本件の大型タイルも陶板に該る。)の生産が始まつている。また、四ツ目の形状のタイルは昭和三〇年頃から全国的に販売されていた。従つて、本件壁画の各種タイルや陶板の使用は、既存の手法によるといえる。
(2) また、タイルは各面が正方形または長方形であるのが基本の形状であり、
長方形で二二七ミリメートル×六〇ミリメートル(二丁掛)のものは、外装タイルの工業規格となつている。日野市壁画の基礎壁タイルはその工業規格品であり、また、その貼り方は、日野市壁画製作以前から存し、世間で通常使用されていた「変形フランス張」というものである。さらに、日野市壁画における陶板の形状は四角の方形であるが、これは原告が創作したものではなく、日野市壁画製作以前から存在し、非常によく使われていたものである。従つて、これらの点についても、日野市壁画及び本件壁画ともに、共通の既存の手法及びデザインによつたため、共通点ができたにすぎないといえるのである。
(3) 日野市壁画も本件壁画もその使用する煉瓦タイルはいわゆる赤煉瓦色であるが、煉瓦タイルはこの系統の色であるのが通常であるから、煉瓦タイルを使用する以上、両壁画の色が似るのは当然であるといえる。
(4) 焼物に文字を焼き込むアイデアは、古くから墓石や標石等に見られるばかりか、昭和三八年から同四〇年頃には建物の一部につき施工された例があり、また、基礎壁タイル上で大きな陶板を張り合わせて建物の壁面を構成するアイデアも、昭和四一年にはすでに施工例があつた。さらに、建物の壁面を構成する赤煉瓦に文字を焼き込むアイデアも、昭和四七年すでに施工例がある。従つて、日野市壁画の煉瓦タイルに文字を焼き込み、建物の壁面の一部を構成するアイデアも原告の独創ではないのである。
(5) 陶板に時計を埋め込むことも既存のアイデアである。
(三) 右のとおり、本件壁画と日野市壁画に共通点があつても、それは本件壁画が日野市壁画を基礎として製作されたことを意味しないばかりか、両壁画の間には、壁画の基礎壁タイルの組合わせ方法、大型タイルの形状とその組合わせ方法、
大型タイルに対する文字の刻み込みや配列の方法、基礎壁に文字を刻み込んでいるか否か、時計の設置場所、地名以外(例えば寺)の名称を使用しているか否か、地名表記につき漢字と平仮名の使い分けや同一地名の重複使用がなされているか、壁面への大型タイルの割付け方法、タイル上に上ぐすりを使つているか否か等多数の相違点があるのであり、本件壁画は日野市壁画の複製物でないことは明白である。
(四) 著作物として保護されるのは具体的に外部に表現された形式であるから、
表現されているアイデアや理論等の思想、感情自体は保護の対象にはならない。従つて、文字を焼き込んだ陶板を壁面に張り付けて表現するという日野市壁画の表現方法は、具体的に外部に表現された形式ではなく、アイデアにすぎないから、著作物として保護されない。
また、原告は日野市壁画によつて日野市の歴史を描いたのであるが、本件壁画は合計約一〇〇平方メートルの壁面上に館林市域を描き、もつて町名の保存を意図したものであるから、両壁画は製作意図が全く異なるため、本件壁画は、日野市壁画の複製物ではなく、また日野市壁画を基礎として作成された二次的著作物でもない。
5 請求の原因5の各事実は否認する。
6 請求の原因6の事実は否認する。
証拠(省略)
理 由一 原告が日野市壁画を製作したこと、その壁画タイルの施工作業を被告阿部窯業が担当したことは当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実に成立に争いのない甲第八号証の一ないし七、第九ないし第一二号証、第三一号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第二二号証の一、二、第二六号証、証人Aの証言、原告本人尋問の結果並びに検証の結果(昭和五七年九月二七日施行)を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 原告は、三井霞ケ関ビルロビープラザ床面、札幌市庁舎エントランスロビー等に自己製作の陶芸デザインを有する陶芸作家であり、現在白石斉デザイン研究所を主宰している。
2 原告は、昭和五一年春頃、日野市の新市庁舎建築工事の設計・監理を請け負つている岡設計から右新庁舎内の壁画製作の指名コンペテイシヨンに参加するよう誘いを受けたので、これに原告案を提出したところ、同年八月頃、日野市より右壁画製作の正式依頼を受けるに至り、原告はこれを受諾した。
3 原告は、日野の語感から来る「火野」、「炎える原野」及び「夕焼けの原」というイメージや日野市の歴史を表現するために、赤系統の色を基調とする煉瓦タイルを使用することとし、さらに、時間的なものを陰影として表現するために、日野市壁画に使用する数種の特殊な大型タイルを独自に考案、製造し、右大型タイルと地を構成する定型のタイル上に日野市の旧地名を焼き込み、これらを日野市庁舎一階通路部分に存する中央コア壁面(一部二階部分を含み四面)上に組み合わせて張り付け、昭和五二年一〇月、別紙日野市壁画図面(一)ないし(四)記載のとおり、日野市壁画を完成させた。
なお、実際に右タイルを壁面に張り付ける作業をしたのは被告阿部窯業であり、
被告阿部窯業は、原告の作成したタイル割付図に従つて、その作業を進めた。
4 日野市壁画は、その後、建築、タイル関係の雑誌等にも取り上げられ、原告の陶芸デザインの中でも代表的作品の一つとなつている。
三 右認定の事実に検証の結果(昭和五七年九月二七日、昭和六一年八月二〇日施行)を総合すれば、日野市壁画は、原告の日野市についてイメージを、数種の大きさ、形状の煉瓦タイルの組合わせ及びタイルに焼き込んだ地名の配列等により創作的に表現しており、美術の範囲に属するものとして著作物性を有するということができ、従つて、原告は日野市壁画の著作権者であることが明らかである。
なお、成立に争いのない乙第一一号証、証人Aの証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証の一、二、証人Aの証言により昭和五六年一二月以降に撮影された陶板等の写真であると認められる乙第八号証の一九ないし九二、Aの証言によれば、タイルに文字を焼き込む手法は日野市壁画製作以前から存在しており、また大型タイル、四ツ目形タイルも昭和三〇年頃から製作販売されていることが認められるけれども、壁画の評価としては個々の手法なり素材の分析よりも、全体的観察を重視すべく、右観点から日野市壁画を見れば、独創性を備えた一個の美術作品というべきであり、右事実をもつて著作物性を否定する事情とはなり得ない。
四 被告館林市昭和五五年頃現住所地に新市庁舎の建設を計画し、被告桂設計にその設計・監理を、本件共同企業体に建築工事を依頼し、その際本件展示場所に壁画を製作することを企図して、本件共同企業体及び被告桂設計にその旨指示したこと、本件共同企業体及び被告桂設計は、被告阿部窯業を下請として、被告館林市の地名を焼き込んだ煉瓦タイルを製作してこれを組み合わせる手法により、本件展示場所に本件壁画を製作したこと、被告館林市が現在本件壁画を所有し、これを本件展示場所で展示公開していることは当事者間に争いがない。
五 そして、日野市壁画の写真であることについては争いがなく、弁論の全趣旨により昭和五七年三月八日撮影したものと認められている乙第三号証の一ないし一九、本件壁画の写真であることについては争いがなく、弁論の全趣旨により昭和五七年二月二六日撮影したものと認められている乙第四号証の一ないし一〇並びに検証の結果(昭和五七年九月二七日、同年一一月二二日、昭和六一年八月二〇日施行)に基づき、日野市壁画と本件壁画を対比すると、日野市壁画も本件壁画も、その構成要素として、赤色系の特殊な大型煉瓦タイルを使用しており、本件壁画に使用された右大型煉瓦タイルのデザインは日野市壁画に使用されたデザイン七種のうち三種類を使用していること、両壁画ともタイル内に各市の地名を焼き込んでおり、また右大型タイルの地を構成する定型タイルの大型タイルと同色同系統のタイルを使用している点に類似性、共通性を有していることが認められ、他方、本件壁画の大型タイルの形状は日野市壁画のタイルとわずかに異なつており、またその組み合わせの方法、配置及び数量が日野市壁画のそれと相違しているのは、別紙物件目録(一)添付の壁画図面(一)及び同(二)と別紙日野市壁画図面(一)ないし(四)とを対比して明らかであり、その他地を構成するタイルの組合わせ方法、文字の内容、字体、地タイルに文字を刻み込んでいるか等、被告らが請求原因に対する答弁4(三)で指摘する点において、両壁画間に多数の相違点を見出すことができる。
右対比によると、本件壁画は、日野市壁画の複製物とまでは認められないけれども、しかし、全体的に両壁画を比較対照して観察すれば、右相違点よりも類似性の方が強く印象付けられることは否定しがたく、観る者をして、その表現形式上同一の創作発想に基づき、原著作物(日野市壁画)を土台としてこれを変形した作品(本件壁画)と認めしむるに十分であり、右両作品の客観的な比較に加え、後記六に認定の事情を総合考慮すれば、本件壁画は日野市壁画の変形物に該るものと断ぜざるを得ない。
なお証人B及びCの証言によれば、本件壁画における地名を焼き込んだ大型タイルの配置は、被告館林市の地理的要素を考慮しており、この点に独自性を有していることが認められるけれども、美術の著作物としてその表現形式的評価に立つた場合には、
独自性の故に本件壁画が日野市壁画から全く独立した別個の著作物であると認めることはできない。
六 成立に争いのない乙第一二号証、第一七号証の一ないし七、第一八号証の一ないし一四、第一九号証の一ないし九、第二〇号証の一ないし五、第二一号証の一、
二、第二二号証の一、二、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一ないし五、証人Bの証言により真正に成立したものと認められる乙第二五号証、第二六号証、証人A(後記認定に反する部分を除く。)同B及びCの各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五五年一一月頃被告阿部窯業の営業部長であるA(以下「A」という。)より被告館林市長が日野市役所を見て非常に気に入つたので、一度原告を連れて来てくれと言われたと告げられ、同行を請われたため、Aとともに館林市庁舎の建築事務所を訪れ、同所で被告館林市の企画課長ほか市職員三名、本件共同企業体事務所長落合諄一、被告桂設計に所属する一級建築士Cらと会い、さらに同市役所会議室において右の者らと壁画製作の下話をしたが、原告としては日野市と同様な作品を製作する意思がなかつたのでその旨を述べ、一応考えておくということでその場は別れたが、その後被告らから正式の依頼がなかつたため、そのまま放置していたところ、昭和五六年七月に至り、突然Aより館林市の壁画が完成したのでデザイン料として一〇〇万円を支払いたい旨の電話を受けたが、館林市の壁画については原告としては何もしていないし、同壁画を見てもいなかつたため、
右申出を断つた経緯があつたこと、また被告館林市においては新市庁舎建設の参考とするため昭和五二年七月頃より二十数市の市庁舎を視察に赴いており、日野市には昭和五三年九月二〇日、当時の館林市長外数名の市職員が赴いて視察していること、当時の館林市長は昭和五五年三月一三日開催された館林市議会定例会において、議員の質問に対し、市民ホールの壁面に旧町名を煉瓦に彫つて焼いたものを張り付け、永久保存したい旨答弁していること、そして被告館林市としては昭和五五年一〇月二三日正式に旧町名保存タイルを作成する方針を決定していること、さらに被告桂設計のCは本件壁画製作前に日野市壁画の存在を了知しており、日野市壁画の二番せんじにならないよう社内で検討していたことが認められるのであり、これらの事情を総合勘案すれば本件壁画が日野市壁画に依拠して製作されたことが明らかである。
証人Aの証言中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
七1 前認定のとおり、本件壁画製作に際し、被告館林市は日野市壁画の存在を知つてその変形物を製作させたことになるが、このような場合、発注者としては自ら直接原著作権者の許諾を得るか、そうでないとしても受注者をしてその許諾を得て製作させるよう注意し、その確認をなすべき注意義務があるというべきところ、証人Dの証言及び原告本人尋問の結果によると、被告館林市においては、本件共同企業体または被告阿部窯業が著作権者たる原告の許諾を得たものと軽信し、何ら右注意を払うことなく本件壁画を製作させ、展示していることが明らかであり、そうである以上、被告館林市の過失の存在は否定しがたく、これにより原告が被つた損害を賠償すべき責任があるものと言わざるを得ない。
2 前認定によれば、本件共同企業体においても日野市壁画の存在を了知しつつ、
本件壁画を製作したことになるところ、証人Dの証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件共同企業体も被告阿部窯業において著作権者たる原告の許諾を得たものと考えていたことが認められるが、本件共同企業体において右のごとく考えたことについて合理的根拠が認められない本件においては、本件共同企業体の過失の存在も否定しがたい。
3 被告桂設計は、本件壁画の製作を含む被告館林市新庁舎建築工事の設計・監理に当つていたものであるから、日野市壁画に似た壁画を製作しようとするに際しては、その著作権を侵害しないよう十分注意検討すべき義務があるのに、これを怠り、右著作権を侵害しないものと軽信して日野市壁画の変形物たる本件壁画を製作させたものであるから、右の点に過失があるというべきである。
4 被告阿部窯業は、日野市壁画の施工作業を担当してその特質を了知しており、
本件壁画が日野市壁画の変形物に該ることを当然に知り得る立場にあつたのであるから、被告館林市が本件壁画製作を計画し、被告阿部窯業がその下請としてその製作に関与した段階で原告の許諾を得るよう注意すべき義務があるのに、これを怠つた過失が存するものといわざるを得ない。
5 そして、右被告らの所為は共同不法行為になると解すべきである。
八 前判示のとおり、本件壁画は日野市壁画の著作権(変形権)を侵害しており、
従つて、被告館林市は本件壁画のうち原告が求める別紙物件目録(二)記載の大型タイルを撤去すべき義務がある。
なお原告は、右部分の撤去のほか、その廃棄をも求めているけれども、本件の場合、右部分の撤去をもつて日野市壁画の著作権侵害行為は止むことになり、右撤去した大型タイル部分を再び貼付するという現実的可能性は存しないというべきであるから、本件請求中、右廃棄を求める部分は理由がない。
九1 証人Bの証言により真正に成立したものと認められる乙第一四号証及びBの証言によれば、本件壁画製作につき、被告館林市と本件共同企業体との間で請負代金を一一〇〇万円とする工事請負契約を締結していることが認められるところ、原告本人尋問の結果によると、本件壁画と同種の壁画を製作する場合、著作権者としては総工事費用の一〇パーセント程度を受けるのが通例であることが認められ、そうとすれば、本件壁画製作により原告が被つた財産上の損害は一一〇万円ということになる。
2 原告本人尋問の結果によれば、原告は本件壁画が製作展示されたことにより、
日野市壁画より質的に劣ると考えられる本件壁画も原告の製作によるものと誤解されたことが認められ、このことは原告が有する著作者人格権のうち同一性保持権の侵害になると解されるから、被告らはこれにより原告が被つた精神的損害を賠償すべき義務があるというべく、そのための慰謝料は諸般の事情を考慮し、九〇万円をもつて相当と認める。
一〇 以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告館林市に対し本件壁画のうち別紙物件目録(二)記載の大型タイルの撤去を求める部分、及び被告らに対し連帯して損害賠償金二〇〇万円とこれに対する不法行為後である昭和五六年九月二〇日(弁論の全趣旨により遅くとも右期日までには本件壁画が完成展示されていることが認められる。)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右の限度で認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条本文、93条1項本文を適用し、仮執行の宣言は相当でないから却下し、主文のとおり判決する。
追加
別紙当事者目録(省略)物件目録(一)左記展示場所の壁面を構成して、同所に展示されている別紙壁画図面(一)、
(二)記載の陶壁画(展示場所)館林市役所新庁舎(群馬県館林市城町一番一号)の、階段室及び機械室(別紙館林市役所新庁舎一階配置図中の斜線部分)の壁面のうち、別紙壁画位置図中「第一面」、「第二面」、「第三面」と表示してある各壁面<12694-001><12694-002><12694-003><12694-004>物件目録(二)物件目録(一)記載の壁画のうち、別紙図面中斜線で表示した大型タイル<12694-005><12694-006><12694-007><12694-008><12694-009><12694-010>
裁判官 安間善夫
裁判官 前島勝三
裁判官 加藤美枝子
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