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関連ワード 著作者 /  複製物 /  編集著作物 /  共同著作物 /  公表権 /  複製権 /  図書館 / 
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事件 平成 6年 (行ウ) 178号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1995/04/28
権利種別 著作権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告が設置した図書館2条1項に規定する公立図書館において保管する著作物について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
二 被告が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の全部について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
三 被告が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の任意の一部について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
四 被告が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の六三頁から一一八頁までの「2.土質力学・土構造」の全部または一部について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
五 被告が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の中で【A】が執筆した一〇四頁から一一八頁までの部分の全部または一部について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
六 被告が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の一一二頁から一一八頁までの複製物を原告に交付せよ。
七 被告は、原告に対し、金一〇万円を支払え。
事案の概要
一 基礎となる事実1 原告は多摩市の住民である。被告は地方公共団体であり、図書館2条1項に規定する公立図書館である多摩市立図書館を設置している。
2 多摩市立図書館は、図書館3条の趣旨に基づき、図書館奉仕の一形態として著作権法31条により図書、記録その他の資料を図書館の利用者の求めに応じ複写サービスを行っている。複写サービスの行える日、時間、対象者及び利用の制限等具体的な利用については、「多摩市立図書館の管理運営に関する規則(乙三)」に定める図書館奉仕の一形態として、同規則2条以下の規定するところによる。
なお、多摩市立図書館は、複写機の上にB四の大きさで著作権法との関係で複写できる要件等を「コピーをされる方に」と題するお知らせにより、表示している(乙一)。
3 多摩市立図書館における複写サービスは、通常、図書館利用者が多摩市立図書館の蔵書の中から任意に選出した本、雑誌等を図書館窓口の職員に提示し、複写を希望する旨申出、職員は著作権法に違反しているか否かの判断をしたうえ、次のとおり処理する。
(一) 著作権法に違反していない場合 複写を申し出た利用者に複写申込書(乙五)を交付し、必要事項を記入してもらい、複写枚数分の料金を複写機のコイン投入口に入れ、職員の面前で利用者自身が複写する。
(二) 著作権法に違反している場合 利用者に対し、複写できないこと及びその理由を告知し、著作権法の内容、同法に違反しない範囲での複写方法及び内容によっては利用者の意図しているものを他の蔵書によって複写できること等を説明し、理解を得るようにする。
4(一) 原告は、平成五年七月下旬ころ、多摩市立図書館の窓口において、口頭で、被告が管理する著作物である朝倉書店刊「土木工学事典」(乙八、以下「本件著作物」という。)のうち一一二頁から一一八頁までの部分(以下「本件複写請求部分」という。)につき、複写を申請したが、右窓口の担当職員は、著作権法の規定により、原告の希望する部分全部の複写サービスは実施しかねる旨回答した。
(二) 原告は、多摩市立図書館に対し、同年八月六日、書面により本件複写請求部分につき、著作権法31条1号を理由として複製物交付を請求した(甲一の1)。
(三) 同年九月六日、原告が多摩市立図書館に来館した際、担当職員が原告の希望する部分全部の複写サービスは実施しかねる旨回答したところ、原告が文書による回答を求めたため、多摩市立図書館長は、同月七日付けの書面により「項目全部の複写はいたしかねる。」旨の回答(以下「本件回答」という。)をした(甲二)。
5 本件著作物は、本文が八二二頁で、大きく一八の節に分かれた編集著作物であり、本件複写請求部分は、そのうち、
「2.土質力学・土構造」(六三頁から一一八頁)に属するが、「2.土質力学・土構造」はさらに八項目に分かれ、その1から4を浅川美利が、その5及び6を中瀬明男が、その7の「地盤内の応力伝播特性と沈下」(一〇四頁から一一一頁)及びその8の「地盤の安定問題」(一一二頁から一一八頁)を【A】が執筆しており、本件複写請求部分は、「地盤の安定問題」という項目に該当する(甲四)。
二 原告の請求 原告は、著作権法31条1号により、被告が設置する公立図書館における複製権を有するとして、請求の趣旨一ないし五項に記載した著作物の範囲につき複製権を有することの確認を求め、また、複製物交付契約が成立したとして、本件複写請求部分につき複製物の交付を求めるとともに、多摩市立図書館長の本件回答により、
違法に原告の権利を侵害されたとして、精神的損害一〇万円の賠償を求める。
争点
一 著作権法31条1号に基づく法定複製権の有無1 原告の主張(一) 請求一について(1) 原告は、著作権法31条1号により、被告が設置する公立図書館における複製権を有する。
(2) 多摩市立図書館長の本件回答は、著作権法31条によって与えられた原告の公立図書館における複製権を否定するもので、原告は、著作権法上の権利のみならず、基本的人権である憲法21条1項の表現の自由及び23条の学問の自由を侵害されたものであり、確認の利益を有する。
よって、被告が設置した図書館2条1項に規定する公立図書館において保管する著作物について、原告が著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有することの確認を求める。
(二) 請求二について(1) 著作権法31条1号の規定は、図書館等が有する著作物を一般公衆の利用に供させることで教養及び知識を広め、社会全体の文化水準を向上させるという公益的目的により、著作権を制限した規定であるところ、本件著作物は事典という公共的著作物であり、その全部を複製しても著作権を侵害することはないから、原告は、本件著作物の全部につき著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有する。
(2) しかるに、多摩市立図書館長の本件回答により、原告は本件著作物の全部の複製が不可能となったもので、右複製権の確認を求める利益がある。
(三) 請求三について(1) 本件著作物は、四五名の著作者による編集著作物であり、その全体が土木工学についての体系的な知識を取得させる目的に沿って各著者に執筆方針が割当られた単一の著作物であるから、個々の項目を構成する著作は、全体の著作物の連関性の下に包括吸収されて意味を有するもので独立の著作物になるものではない。したがって、本件著作物の中の任意の一部は単一の著作物全部には当たらないし、本件著作物が公共的著作物であるから、その一部も公共的著作物であって、原告は、
本件著作物の任意の一部につき著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有する。
(2) しかるに、多摩市立図書館長の本件回答により、原告は本件著作物の任意の一部の複製が不可能となったもので、右複製権の確認を求める利益がある。
(四) 請求四について(1) 本件著作物は、昭和五五年の初版発行以来、一四年が経過し、著作権法31条1号括弧書きの「発行後相当期間を経過した定期刊行物」に類似する性質を有し、右規定の類推により、原告はそこに掲載された個々の著作物の全部について複製権を有するところ、本件著作物の「2.土質力学・土構造」(六三頁から一一八頁)は単一のテーマを扱った単一の著作物であり、個別の掲載物とみなすことができる。したがって、原告は、本件著作物の「2.土質力学・土構造」の全部につき複製権を有する。
(2) 仮に「2.土質力学・土構造」の部分が単一の著作物であるならば、原告はその任意の一部について著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有する。
(3) しかるに、多摩市立図書館長の本件回答により、原告は本件著作物の「2.土質力学・土構造」の全部または一部の複製が不可能となったもので右複製権の確認を求める利益がある。
(五) 請求五について(1) 【A】は、本件著作物の一〇四頁から一一八頁を執筆したが、著作者の主観に則して単一の著作物といえるから、原告はこの全体につき、著作権法31条1号括弧書きの類推適用により、複製権を有する。
(2) また、【A】の執筆した部分は単一の著作物であり、その任意の一部につき、著作権法31条1号の規定に基づく複製権を有する。
(3) しかるに、多摩市立図書館長の本件回答により、原告は本件著作物の「2.土質力学・土構造」の全部または一部の複製が不可能となったもので右複製権の確認を求める利益がある。
2 被告の主張(一) 請求一について 著作権法31条は、著作物の複製には、本来著作権者の同意が必要なところ、図書館等の公共的奉仕機能に鑑み、著作者の同意がなくても複製できる旨を認めた規定であって、図書館に複製の主体たる地位を与えたもので、利用者に複製請求権を認めた規定ではない。
(二) 請求二について 著作権法31条は、図書館の文化的、公共的役割の重要性を考慮しつつ、著作権の保護を図るため、図書館が利用者の求めに応じ行う複写サービスを厳格な条件の下に許容する旨を規定したもので、図書館の公益的目的と著作権の保護という二つの利益衡量を行っている。
事典類のみを例外とするほどの公共的著作物とするのは根拠がない。
(三) 請求三について 本件著作物は編集著作物であるが、編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさないから、【A】は「地盤の安定問題」の項目につき、独立の著作権を有する。
本件著作物は、共同著作物ではない。すなわち、本件著作物は、全体について、
各執筆者が他の執筆者と共同して創作したものではなく共同創作行為はないし、各執筆者の執筆部分は明確に認識可能で、これを分離して個別的に利用できるから、
共同著作物には当たらない。
(四) 請求四について(1) 本件著作物に著作権法31条1号括弧書きを類推適用することは、明文の規定に反し、著作権者の利益を害する。
(2) また、本件著作物の「2.土質力学・土構造」の部分は、客観的にみて単一の著作物とはいえないから、著作権法31条1号の適用はない。
(五) 請求五について 本件著作物は、各項目毎に執筆者が明示されており、これを単独に切り離して利用することが可能だから、【A】は「地盤内の応力伝播特性と沈下」及び「地盤の安定問題」の各項目に独立の著作権を有し、単一の著作物とはいえない。
複製物交付契約の成否1 原告の主張 原告は、次のとおり、原告と多摩市立図書館長との間に複製物交付契約が成立しているとして、本件複写請求部分につき、複製物の交付を求める。
(一) 多摩市立図書館長は、一個の著作物の半分までの複製物を交付する旨を告知しているところ、右告知により、不特定の図書館利用者との間で、一個の著作物の半分までの複製物の交付を行う予約契約が成立し、特定の利用者が実際に複製を行う旨の通知を行ったとき、予約完結権が行使されたことにより、複製物交付契約が成立する。原告が複製を申請した本件複写請求部分は一個の著作物の一部にしか該当しないから、本件複写請求部分全部についての複製物交付契約が成立したものというべきである。
(二) 仮にそうでないとしても、多摩市立図書館長の右告知は、一個の著作物の半分までの複製に応じる旨の契約の申込みに該当し、利用者が複製の要求をしたとき、これに対する承諾があったことになり、または交叉申込がなされたことになり、複製物交付契約が成立する。すなわち、本件複写請求部分のうち少なくとも半分については、複製物交付契約が成立したものである。
2 被告の主張(一) 多摩市立図書館長の右告知は、図書館利用者に対し、行政サービスとして図書館資料の一部の複写ができることを広く知らせる趣旨にすぎない。
(二) 契約の申込は、原告が著作権法31条に違反しない内容で行うべきであり、被告は、右法条に反する原告の申込につき、承諾を拒絶したのであるから、契約は成立していない。
三 国家賠償法に基づく請求の可否1 原告の主張 多摩市立図書館長の本件回答は、原告が図書館の利用及び蔵書の複製について有する保護利益を違法に侵害するもので、複製権限の乱用である。また複製物を全く交付しなかったことは、権限の逸脱というべきであるから、国家賠償法1条1項により、
原告の被った精神的損害一〇万円の支払いを求める。
2 被告の主張 多摩市立図書館長の行為に著作権法上の違反がない以上、原告の権利侵害も過失もない。
争点に対する判断
一 争点一(法定複製権の有無)について1 原告は、著作権法31条1号に基づく複製権の確認を請求しているが、同条項は、政令で定める図書館において、図書館の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分等所定のものの複製物を一人につき一部提供する場合に、図書館資料を用いて著作物を複製することができることを定めた規定であって、著作権者の専有する複製権の及ばない例外として、一定の要件のもとに図書館において一定の範囲での著作物を複製することができるとしたものであり、図書館に対し、複製物提供業務を行うことを義務付けたり、蔵書の複製権を与えたものではない。ましてや、この規定をもって、図書館利用者に図書館の蔵書の複製権あるいは一部の複製をする権利を定めた規定と解することはできない。
2 以上のとおり、著作権法31条1号に基づき原告に複製権を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求一ないし五は理由がない。
二 争点二(複製物交付契約の成否)について1 証拠(乙1、乙六、乙七)によれば、被告は、多摩市立図書館の複写機の近辺に、「コピーをされる方に」と題するお知らせを貼付しており、右お知らせには「図書館では次の場合に限りコピーができます。」として、「1 多摩市立図書館の蔵書であること。2 資料の一部分であること。3 同じ部分は一人一枚のみ。
複写目的は調査・研究に限られます。コピーされるときは必ず職員に声をおかけください。」との記載があること、多摩市立図書館の利用案内にも、複写が必要なときコビーサービスをしている旨の記載があるが、「著作権法の規定によりコピーできない場合があります。」との注意書きがあることが認められる。
しかしながら、右お知らせや利用案内の記載の内容は、図書館利用者に対し、行政サービスとして図書館資料の一部の複写ができることを広く知らせる趣旨にすぎず、これをもって、不特定の図書館利用者との間の予約契約であるとか、契約の申込と解することはできない。
かえって、前記争いのない事実及び証拠(乙五)によれば、図書館利用者が複製を希望するとき、利用者において「複写申込書」に利用日、氏名、住所及び複写枚数などの必要事項を記載して提出したうえ、複写をすることからすれば、原告の主張する多摩市立図書館長の告知の性質は申込の誘引にすぎず、申込は利用者において行うものと解するのが相当である。
2 そして、本件においては、原告の申込に対し、被告が承諾の意思表示をしなかったことが認められるから、契約としての意思の合致はなかったものといわざるを得ない。したがって、契約の成立を前提とした、原告の複製物の交付請求は理由がない。
なお、原告は本件複写請求部分の少なくとも半分(一部)につき契約による複製物の交付請求権が成立するかの主張をするが、原告の複写の申込は、本件複写請求部分の一部でもよいとする意思を伺わせるものでないことは明らかであり(甲一の1、弁論の全趣旨)、また、被告がそのように解した申込に対する承諾をしていないことも明らかであるから、原告の複製物の交付請求は理由がない。
三 争点三(国家賠償法に基づく請求)について1 証拠(甲二)によれば、多摩市立図書館長の本件回答は、原告の複写請求を受けて、文化庁著作権課指導普及係に照会した結果、文化庁からの「本件著作物は編集著作物であるが著作者の区分が不可能な共同著作物ではない。全体について編集著作権があるとともに、個々の項目、論文にもそれぞれ著作権が働いている。各項目、論文毎に著作者が明示されている以上は、それぞれの項目、論文を一著作物単位と判断するのが妥当である。」との要旨を含む回答を受けて、本件著作物のうちの本件複写請求部分が、項目毎全部に当たるとして、なされたものである。
2 ところで、本件著作物は、【B】他一六名の編集委員が編集し、四五名の執筆者が執筆したもので(甲三)、大きな一八の節に分かれているがその節につき、
「9.コンクリート工学」(項目が一三含まれている。)や「10.鋼構造・鉄筋コンクリート構造」(項目が一八含まれている。)などは一人が執筆しているのに対し、「11.基礎工学」は二人の共同の執筆にかかり、また、本件複写請求部分が含まれる「2.土質力学・土構造」のように節の中の項目毎に執筆者が分かれている項目も多くあり、一人の執筆者がその項目の一個のみ執筆しているものもあれば、項目九個を一人で著作しているものもある。また、項目を複数著作している場合にも、【A】のように続いた項目を一人で著作している場合もあれば、【C】や【D】のように離れた項目を複数著作している者もある(甲四)。したがって、本件著作物のうち、【A】は、「2.7.地盤内の応力伝播特性と沈下」(一〇四頁から一一一頁)と「2.8.地盤の安定問題」(一一二頁から一一八頁)の二項目につき、それぞれ個別の著作権を有するものと解するのが相当である。
原告は、本件著作物は共同著作物の性質を有し、全体が単一の著作物であるから、その中の任意の一部は単一の著作物全部には当たらない旨を主張するが、本件著作物は、各項目毎にまとまった内容を有しているものと窺われかつ著作者が明示されており(甲四)、「各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(著作権法2条12号)とはいえず、かつ、本件著作物が編集著作物であることは原告も認めるとおりであるが、編集著作物であることによってそれの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(著作権法12条2項)ことからすれば、原告の右主張は理由がない。
してみれば、原告の請求した本件複写請求部分は、著作物の全部に当たるものであって、「著作物の一部分」の複製物の提供を認める著作権法31条1号の規定に当たらないものというほかはなく、その全部の複写を求めた原告の申込みに対し承諾しなかった被告の行為に違法性はない。
なお、原告は、本件著作物は事典という公共的著作物であり、その全部を複製しても著作権を侵害することはない旨を主張するが、著作権法31条のうち、二号の「図書館資料の保存のため必要がある場合」及び三号の「他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合」に全部を複製することは可能と解されるのに対し、一号の場合は「公表された著作物の一部分」と明文で規定されているのであって、原告が同条一号に基づく主張をしていることは明らかであるから、公共的著作物であるとの一事をもって、その全部を複製することができることを前提とした原告の主張は理由がない。
3 次に、著作権法31条1号の括弧書きの規定との関係については、本件著作物を「定期刊行物」と解する余地はないのであるから、本件著作物が発行から一四年以上経過したものであること及び定価が一万三〇〇〇円であること(乙八)を考慮しても、著作権法31条1号の括弧書きの規定により図書館における著作物の複製が許される場合と解することはできないから、被告の右行為を違法ということもできない。
また、原告は、本件著作物は事典であるから、一般読者の情報入手権と著作者の著作物公表権を確保するという目的を両立させるべく、著作権法31条1号の括弧書きの規定を類推すべきと主張する。しかしながら、著作物の複製を認めることはすなわち著作権の制限を伴うものであり、原告の右主張は、立法論としてはともかく、現行著作権法の解釈として採りえないものである。
4 してみれば、原告の本件複写物交付請求は著作権法31条1号で認められた要件を欠く場合に当たるものであって、これに対し多摩市立図書館長がした本件回答は何ら違法ではないから、原告の国家賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
結論
右認定の事実によれば、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 西田美昭
裁判官 高部眞規子
裁判官 櫻林正巳