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関連ワード レコード /  録音 /  著作隣接権 /  著作権侵害 /  差止 /  損害賠償 / 
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事件 平成 9年 (ワ) 25997号 著作権侵害差止等請求事件
原告 【A】右訴訟代理人弁護士 水口洋介
同 君和田伸仁
同 永盛敦郎
被告 株式会社東京プロムジカ右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 栗林信介
同 飯田丘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/08/27
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙音楽CD目録記載の音楽CDの製作及び販売をしてはならない。
二 被告は、被告が保管する別紙音楽CD目録記載の音楽CDを廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する平成九年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 本判決は、第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 主文第一項と同旨。
二 主文第二項と同旨。
三 被告は、原告に対し、金二七〇万円及びこれに対する平成九年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告に対し、朝日新聞全国版社会面広告欄に、別紙記載の謝罪広告を、大きさ二段抜き、巾三センチメートル、見出し及び原告名三倍活字、本文通常活字で一回掲載せよ。
事案の概要
一 争いのない事実等1 原告は、イタリアのオペラ歌手であり、被告は、音楽プロデュースを業とし、
海外のクラシックアーティストの来日公演などを行っている会社である。
2 被告は、平成三年、原告を招聘してリサイタルを行い、原告は、日本国内で行われた右リサイタルにおいて、アンコール曲として、ドニゼッティ作曲の「連隊の娘」より「ああ、友よ、何と楽しい日」を歌唱した(以下「本件歌唱」という。)。
3 被告は、右リサイタルを記録用に録音した(乙一二)。
4 被告は、平成八年に、本件歌唱の右録音のほか他の一四人の歌手の曲を収録した「東京プロムジカ一〇周年記念CD」(10th Anniversary Present by TOKYO PROMUSICA)と題するCDを製作し(以下、「本件CD」という。甲一)、販売した。
二 本件は、原告が、被告に対し、「本件CDは、原告の実演の録音物を原告に無断で製作したものである」と主張して、著作隣接権に基づいて、その製作、販売の禁止及び被告が保管している本件CDの廃棄を求めるとともに、著作隣接権の侵害による損害賠償を求め、さらに、「本件CDは、その音質及び録音内容が劣悪であるから、本件CDの製作、販売行為は、原告の歌手としての名誉を毀損するものである」と主張して、名誉毀損による損害賠償及び謝罪広告の掲載を求める事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
一 争点 1 本件CDの製作、販売につき原告の黙示の許諾の有無2 本件CDの製作、販売が名誉毀損に当たるか否か3 故意又は過失の有無 4 損害の発生及び額 二 争点に対する当事者の主張 1 争点1について (原告の主張)原告は、平成八年六月ころ、被告代表者から、本件CDを製作すること、本件CDに本件歌唱を収録すること、本件CDが非売品であることを記載したファクシミリ文書を受け取った。そこで、調査をしたところ、同年七月にはすでに本件CDが日本で販売されていること、本件CDの録音状態が劣悪であることが判明したため、
原告は、被告に対し、本件歌唱の削除、本件CDの回収を要求するとともに、「権利侵害を回復しない限り、被告からの何らの連絡もお断りする。」と記載したファクシミリ文書を送付したところ、被告から、本件CDのうち三〇〇枚のみをタワーレコードで販売しているのでこれを許可してほしいとのファクシミリ文書が送付されてきたが、原告はこれに対して許可を与えていない。
このように、原告が本件CDの製造、販売を許諾したという事実が一切無いことは明白である。
(被告の主張) 被告は、平成八年五月ころ、本件CDを製作するに当たり、原告に対し、本件CDを製作する趣旨及び本件CDの一部を販売する予定があることを説明するとともに、本件歌唱を本件CDに収録することの了解を求める文書を送付し、同年六月ころ、第三者を介して原告に本件CDを渡した。
被告は、原告に対し、同年七月一六日、本件CD製作の趣旨を再度説明するとともに、本件CDに本件歌唱が収録されていること及び製作費を回収するために本件CDのうち三〇〇枚を販売することについて了解を求めるファクシミリ文書を送付したところ、原告から、右同日、本件CDの製作に抗議するとともに、本件CDを世界市場で販売しないこと、本件CDから本件歌唱を削除すること等を要求するファクシミリ文書が送付されてきた。
そこで、被告は、原告に対し、同月一八日、本件CDを世界市場では販売しないことを約束する一方、製作費を回収するために本件CD三〇〇枚をタワーレコードで販売することの了解を求めるファクシミリ文書を送付したところ、その後、原告から、本件CDに関する連絡は入らなくなった。
したがって、原告は、世界市場では販売しないという条件の下に本件CDの製作、販売について黙示的に承諾したものというべきである。
2 争点2について (原告の主張)本件CDは、CDなどの製作を予定しない記録のために録音されたテープを利用して製作されているため、その音質及び録音内容は劣悪であり、本件CDを聴いた公衆に、原告の歌唱力が低いとの誤解を与えるものであるから、本件CDの製作、販売は、原告の歌手としての名誉を毀損するものである。
(被告の主張) 本件CDは、オペラの歌唱を収めたCDとして十分に鑑賞に堪える音質を備えたものであり、仮に本件CDの音質に問題があったとしても、本件CDの聴取者はそれを録音及び編集技術の問題として理解するのが一般であって、その音質故に歌唱者の技量、能力について誤解することは通常あり得ない。
また、本件歌唱は、歌唱ミス等のない堂々たる熱唱であり、歌唱後の聴衆の熱狂的な拍手と歓声も収録されていることなども考慮すれば、本件歌唱が、原告の音楽家としての技量、能力に否定的印象を与えることはあり得ない。
3 争点3について(原告の主張) 被告には原告の著作隣接権侵害及び名誉毀損につき故意又は過失がある。
(被告の主張)仮に、原告が本件CDの製作、販売を承諾していなかったとしても、被告は、右1のような経緯により右承諾があると信じたのであるから、被告には原告の著作隣接権侵害及び名誉毀損につき故意も過失もない。
4 争点4について (原告の主張) (一) 被告は、本件CDを二〇〇〇枚以上は販売した。したがって、被告の著作隣接権侵害行為により原告が被った損害の額は三〇万円を下らない。
(二) 原告が被告の名誉毀損行為により被った損害の額は、二〇〇万円を下らない。
(三) 本件訴訟を提起するに際し、原告は、原告代理人に弁護士費用を支払うことを約したところ、右費用のうち被告に負担させるべき額は四〇万円を下らない。
(被告の主張) (一) 被告は、本件CDを合計一〇〇〇枚製作しているところ、その製作費用として少なくともプレス代等として三〇万九〇〇〇円、ジャケットカバー代等として二五万円の合計五五万九〇〇〇円を支出した。
被告は、右製作費を一部でも回収するため、本件CDのうち三〇〇枚をタワーレコードで販売することとしたが、本件訴訟が提起されたことから、本件CDを同店から自主的に回収することとし、一二七枚の返品を受けた。 また、その余の本件CDについては、コンサート会場で販売したものがわずかにあるほかは、
顧客、取引先等に無償で配布した。
したがって、被告は、本件CDの販売によって、全く利益を得ていない。
(二) その余の損害の発生及び額についても争う。
当裁判所の判断
一 争点1について 1 以下の証拠等によると、次の事実が認められる。
(一) 被告は、原告に対し、平成八年五月二〇日ころ、本件CDを製作する趣旨を説明するとともに、本件CDに本件歌唱を収録する予定であること及び本件CDのほとんどは顧客や関係者に贈与されるものであるが、一部を祝賀企画の来場者に販売する予定であることを記載した文書を送付した(乙一)。 被告は、その後一か月以内に、原告から連絡が無かったことから、本件CDを製作し、関係者への配布等を開始した(乙一二)。
(二) 被告代表者は、同年七月、原告が本件CDが日本で販売されていることを知って立腹していることを知り、原告に対し、同年七月一六日ころ、製作費を回収するために本件CDを二〇〇枚に限り販売したことについて了解を求める旨のファクシミリ文書を送付した(甲六、乙二、一二)。
原告は、被告代表者に対し、同日ころ、本件CDの製作、販売に抗議する内容のファクシミリ文書を送付したが、右文書には、@関係者に文書による承諾を求めないままCDを製作、販売することなど通常ではあり得ないこと、Aライブリサイタルの最後の曲を「ザベストセレクション」という題のCDに収録することが通常ではあり得ないこと、B本件CDが日本から出ない旨の証明文書を求めること、C本件歌唱を原告の指定する曲に差し替えるか又は原告の歌唱をすべて削除するのであれば、全世界に販売してもかまわないこと、D原告の職業上の侵害ができる限りすみやかに回復される場合に限り、被告からの連絡に応じるが、そうでない場合は、
電話、ファックス、その他いかなる被告からの連絡にも応じないことなどが記載されていた(甲七の一、二、乙三)。
(三) 被告代表者は、同月一八日ころ、原告に対し、本件CDを世界市場では販売しないことを約束する一方、製作費を回収するため、本件CDを三〇〇枚に限りタワーレコードで販売することの了解を求める旨のファクシミリ文書を送付した(甲八、乙四)。
(四) その後、原告は、平成九年六月まで、被告に連絡をしなかった(乙一二)が、同月一一日付け内容証明郵便により、被告に対し、本件CDの製作、販売につき抗議をした(争いがない事実)。
2 右1認定の事実によると、被告は、平成八年五月に、原告に対して、本件CDに本件歌唱を収録する旨記載した文書を送付し、原告は、その後一か月以内に、被告に連絡を取らなかったのであるが、そうであるからといって、本件CDに本件歌唱を収録することについて原告の許諾があったということができないことは明らかである。
右1認定の事実によると、原告は、本件CDが日本で販売されていることを知って、同年七月に、被告に対して、本件CDの製作、販売に強く抗議する文書を送付し、右文書に、原告の職業上の侵害が回復されない場合には被告からの連絡に一切応じない旨記載し、その後も、本件CDの製作、販売を了解することなく、再度これに抗議する文書を被告に送付しているものと認められる。なお、右1(二)BCの記載は、右1(二)の原告の文書全体の内容に照らすと、本件CDを日本国内で販売することを許諾した趣旨であるとは到底解されない。
したがって、原告が、世界市場で販売しないことを条件として本件CDの製作、
販売を黙示的に許諾したものと認めることは到底できず、その他、原告が本件CDの製作、販売を許諾したものというべき事実は全く認められない。
二 争点2について 原告は、本件CDは、その音質及び録音内容が劣悪で、聴取者に原告の歌唱力が低いという誤解を与えるものであるから、本件CDの製作、販売は原告の名誉を毀損するものであるとして、損害賠償及び名誉回復措置を請求する。
しかしながら、証拠(検甲一)によると、本件CDは、その音質及び録音内容が、原告の歌唱力について誤った印象を与えるほど劣悪であるとは認められないから、本件CDの製造、販売が、原告の名誉を毀損するものとは認められない。
そうすると、本訴請求のうち名誉侵害による損害賠償及び謝罪広告を求める請求については、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
三 争点3について右一で認定した事実によると、被告が、本件CDの製作、販売について原告の許諾を受けたというべき事実は全く存しないから、被告代表者には、本件CDの製作に当たって、原告の著作隣接権侵害につき故意があったものと認められる。
そうすると、被告は、本件CDの製作、販売によって原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。
四 争点4について 1 以下の証拠等によると、次の事実が認められる。
(一) 被告は、本件CDを一〇〇〇枚製作し(乙五)、その費用として、プレス代等として三〇万九〇〇〇円、CDジャケットカバー代等として二五万円の合計五五万九〇〇〇円を支出した(乙六、九)。
被告は、被告の設立一〇周年を記念するために本件CDを製作したもので、もともと本件CDによって利益を得ることは考えていなかった(乙一、一二)。
(二) 被告は、制作費用の一部を回収するため、平成八年六月に、タワーレコード株式会社に、本件CDを単価一二〇〇円で三〇〇枚販売し(乙七、一二)、本件CDは、その後、タワーレコードにおいて一枚二〇三九円で販売されていた(甲二、
三、五)。被告は、平成九年一二月に、右三〇〇枚のうち一二七枚の返品を受け、
返品代金として一五万二三九四円をタワーレコード株式会社に支払い(乙八)、結局、本件CDを一七三枚販売したことにより二〇万七六〇六円の収入を得た。
被告は、残りの七〇〇枚の本件CDのうち、一部を被告主催のコンサートの会場で販売したほか、その余の本件CDを、報道関係者、出版関係者、顧客等に無償で配布した(乙一、一二、弁論の全趣旨)。
2 右1認定の事実によると、本件CDの製作販売によって、被告は、二〇万七六〇六円の収入を得たことが認められるが、それは、本件CDの製作費用を下回っており、その他、被告が、本件CDの製作、販売によって得た利益の額を認めるに足りる証拠はない。
3 そこで、右1認定の事実と前記第二の一4の事実に基づき、原告が本件CDの製作、販売に対して受けるべき対価の額について検討するに、本件CDは、小売価格としては約二〇〇〇円相当のもので、一〇〇〇枚製作されたこと、本件CDの多くは無償で配布されたが、それは、被告にとって広告宣伝の効果があったものと推認されること、本件CDの製作費用は五五万九〇〇〇円であったこと、本件CDは、本件歌唱のほか他の一四人の歌手の曲が収録されていることなど諸般の事情を総合すると、原告が本件CDの製作、販売に対して受けるべき対価の額は、一〇万円と認めるのが相当である。
4 原告が、本件訴訟の提起、維持のために弁護士である原告訴訟代理人らを選任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件事案の性質、内容、審理の経過、訴訟の結果及びその他の諸般の事情を考慮すると、二〇万円をもって、本件著作隣接権侵害行為と相当因果関係のある損害(弁護士費用)として被告がこれを賠償する義務があると認められる。
五 以上の次第で、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由がある。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 岡口基一