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事件 |
平成
10年
(ワ)
9409号
著作権侵害差止等請求事件
平成 10年 (ワ) 11624号 著作物使用料請求事件 |
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原告 社団法人日本音楽著作権協会右代表者理事 A右訴訟代理人弁護士 北本修二 被告B右訴訟代理人弁護士 田中泰雄 同 荒井俊且 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/08/24 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、大阪府堺市<以下略>カラオケボックス「ピットオート」において、別添カラオケ楽曲リスト及びカラオケ楽曲リスト(追録)各記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。 1 カラオケ装置を操作し、もしくは、顧客に操作させて、伴奏音楽を再生(演奏)すること2 カラオケ装置を操作し、もしくは、顧客に操作させてカラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生(上映)すること3 カラオケ装置を操作し、もしくは、顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させること二 被告は、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を前記カラオケボックス「ピットオート」から撤去せよ。 三 被告は、原告に対し、金五〇七万〇五二〇円並びに別紙1及び同2記載の金員を支払え。 四 被告は、原告に対し、平成一〇年九月一日から、前記カラオケボックス「ピットオート」において、別添カラオケ楽曲リスト及びカラオケ楽曲リスト(追録)各記載の音楽著作物の使用停止に至るまで、一か月当たり金一八万九〇〇〇円の割合による金員を支払え。 五 原告のその余の請求を棄却する。 六 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告の、その余を原告の負担とする。 七 本判決の第一ないし第四項は、仮に執行することができる。 第一 請求一 甲事件1 主文第一項、第二項及び第四項と同旨2 被告は、原告に対し、金四一五万九一二〇円及び別紙2記載の金員を支払え。 二 乙事件被告は、原告に対し、金一七一万一四〇〇円及び別紙1記載の金員を支払え。 第二 事案の概要等一 事案の概要本件は、音楽著作権仲介団体である原告が、カラオケ歌唱室において原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を使用している被告に対し、管理著作物使用許諾契約に基づいて著作物使用料の請求をしている事案(乙事件)、また、右契約が更新されなかったことにより、被告は管理著作物を原告に無断で使用してその演奏権及び上映権を侵害しているとして、カラオケ歌唱室に設置されているカラオケ装置の使用差止め及び損害賠償の請求をしている事案(甲事件)である。 二 基礎となる事実(いずれも争いがないか、後掲各証拠により認められる。)1 当事者(一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号。以下「著作権仲介業務法」という。)に基づく許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽の著作物の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権、貸与権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送及び貸レコード等の分野における音楽の著作物の利用を許諾し、音楽著作物の適法な利用を円滑簡便ならしめるとともに、前記許諾の対価として音楽著作物の利用者から著作物使用料規程に定める使用料を徴収し、これを内外の著作権者に分配することを目的とする社団法人である。 (二) 被告は、平成三年一二月から、少なくとも平成七年三月まで、大阪府堺市<以下略>において、カラオケボックス「ピットオート」(以下「本件店舗」という。)を経営していた者である(被告がその後、現在まで本件店舗を経営しているかは、自白の撤回が許されるかの問題とも絡み、後記のとおり争いがある。)。 本件店舗においては、管理著作物が使用されている。(弁論の全趣旨)2 原告と被告は、平成六年八月八日付で、同年四月一日以降の本件店舗における貸室内でのカラオケ歌唱による管理著作物の使用について、次の約定を主たる内容とする著作物使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)を締結した。(甲事件甲第七ないし第九号証及び弁論の全趣旨)(一) 原告は、被告に対し、本件店舗の歌唱室内でのカラオケ歌唱による管理著作物の使用を許諾する。 (二) 被告は、原告に対し、管理著作物の使用料として、月額六万三八六〇円(消費税を含む。)を支払う。但し、原告が大阪府カラオケ事業者協会から被告の加盟通知を受けて確認した場合、及び、使用料を一年分前納する場合は、原告所定の割引を適用する。 (三) 月額使用料の支払期限は、当月末日とする。 (四) 月額使用料の支払を滞納したときは、被告は、原告に対し、支払期限の翌日から完済に至るまで、年二〇パーセントの割合による違約金を支払う。 (五) 本契約の存続期間は、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までとし、契約期間満了時に当事者のいずれからも異議を述べないときは、本契約の満了時の契約内容と同一の条件で更新されるものとする。 3 被告の本件店舗における管理著作物の使用料は、大阪府カラオケ事業者協会への加入による割引を適用して二〇パーセントを減額した結果、平成六年四月から同七年五月分までは、月額五万一〇八〇円(消費税を含む。)となった。(甲事件甲第一〇号証、第一一号証)なお、平成七年三月三一日の契約期間満了時及び平成八年三月三一日の満了時に、当事者のいずれからも異議はなく、本件使用許諾契約は更新された。(弁論の全趣旨)4 被告は、平成七年五月二六日、前記大阪府カラオケ事業者協会を脱退し、 また、使用料の前納を行わなかったため、平成七年六月分以降の使用料は、月額六万三八六〇円(消費税を含む。)となった。(弁論の全趣旨)5 被告は、本件使用許諾契約に基づく使用料のうち、平成六年一二月分以降の金員の支払をしなかった。 6 被告は、原告に対し、平成八年一二月三一日付で「捏造されたカラオケ著作権料の支払中断通知書」と題する内容証明郵便により、概要、①カラオケ歌唱室に対して原告が適用している使用料率表は文化庁の認可を得ていないこと、②カラオケソフトの製作許諾は、そのソフトの使用についての許諾も包含するものであること、③カラオケ歌唱室はカラオケスナックとは業態が異なることから、従来のカラオケスナックに対する判決の射程は及ばないこと、などを理由として、本件使用許諾契約に基づく使用料の支払を中断する旨の通知をし、右郵便は平成九年一月六日に原告に到達した。(甲事件乙第二四号証の一、二)7 本件店舗は年中無休で営業しており、カラオケ伴奏及び歌唱に使用される歌唱室が一九室ある。うち一八室は定員が一〇名までであり、一室は定員が一〇名を超え三〇名までである。本件店舗には、別紙物件目録記載のレーザーディスクカラオケ装置、通信カラオケ装置一式(受信・再生・配信装置)があり、各歌唱室にはアンプ、オートチェンジャーコマンダー、モニターテレビ、マイク、スピーカー等が設置されている。なお、本件店舗は当初はすべての部屋にオーディオカラオケが設置されていたが、平成六年一一月に六室、平成七年六月二七日に五室、同年一〇月五日に一室、平成八年四月一〇日に四室について、通信カラオケと入れ替え、 現在は合計一六室に通信カラオケが、残りの三室にはレーザーディスクカラオケが設置されている。 本件店舗では、従業員らが来店した客をカラオケ関連機器を設置した各部屋に案内し、飲食物を提供している。 第三 争点一 被告は、現在、本件店舗を経営しているか。被告は、甲乙両事件において、 被告が本件店舗の経営者である旨自白していたが、これを撤回することが許されるか。 二 本件店舗での管理著作物の再生・歌唱が被告による演奏権、上映権侵害を構成するか。 1 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱主体は誰か。 2 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものか。 3 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱には、著作権法附則14条による自由使用の適用があるか。 三 カラオケソフト作成にかかる原告の管理著作物使用許諾の効力は、本件店舗における管理著作物の再生・歌唱行為に及ぶか。 四 原告が作成したカラオケ歌唱室の使用料率表に基づく使用料の徴収は許されないか。「カラオケ歌唱室」は著作物使用料規程における「社交場」に該当し、本件店舗は著作物使用料の免除を受けられるか。 五 原告と被告との間の本件使用許諾契約に無効原因が存するか。 六 被告の本件店舗における管理著作物の再生・歌唱が演奏権、上映権を侵害するとした場合、その使用料あるいは原告の損害の額。 第四 争点についての当事者の主張一 争点一(経営主体)について【原告の主張】被告は、甲事件の平成一〇年一〇月一五日付答弁書において、被告が本件店舗を経営している事実を自白しているから、被告が本件店舗の経営者でないとの主張は、自白の撤回となり許されない。 株式会社セルビスは、被告が税務対策のために名目的に設立したものにすぎず、右設立以後も、被告は本件店舗を引き続き経営している。 【被告の主張】本件店舗は、平成七年四月一日から訴外株式会社セルビスが経営している。 被告が平成一〇年一二月に至るまで、訴外株式会社セルビスが経営者であることを主張しなかったのは、法人を設立した平成七年に原告職員に対して法人経営となったことを説明したところ、同じことだと言われて契約の変更の必要性を指摘されなかったため、個人と法人とを区別する意味がないと思い込まされていたためである。 二 争点二(本件店舗での管理著作物の再生・歌唱が被告による演奏権、上映権侵害を構成するか)について1 争点二1(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱主体は誰か)について【原告の主張】被告は、対価を得て、不特定多数の客をカラオケ歌唱に誘引し、用意した歌唱室・カラオケ装置・カラオケソフトを利用させ、その許した時間・空間内において、客に歌唱させる営業を行っている。したがって、歌唱室内における伴奏音楽の再生はもとより、客による歌唱に関しても、被告の管理の下に行われているということができるから、音楽著作物の利用主体は被告である。 【被告の主張】カラオケ歌唱室では、歌う歌わないは客の自由であり、従業員が歌唱したり、司会をしたり、装置の操作に関与したりすることはない。したがって、カラオケ歌唱室における客の歌唱については、音楽著作物の利用主体は客であり、被告を歌唱の主体とみることはできないから、被告に演奏権の侵害はない。 2 争点二2(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものか)について【原告の主張】(一) 著作権法22条が上演権及び演奏権の及ぶ範囲を、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものに限定したのは、経済的効果を期待し得る利用行為のみを演奏権等の対象とし、経済的効果を問題にする余地のない私的利用については著作権が及ばないものであることを示すためであって、このような解釈は、日本が締結している文化的及び美術的著作物の保護に関する条約(ベルヌ条約)11条(1)の趣旨とも適合する。 被告は、本件店舗の利用を誘引した公衆に対し、歌唱室・カラオケ機器・カラオケソフトを提供する営業を行っている。著作物の利用を直接の営業目的とするカラオケ歌唱室における演奏・歌唱及び上映は、およそ私的利用の範疇に属さないものである。 (二) また、カラオケ歌唱室における伴奏音楽の演奏・歌唱の利用主体はいずれもカラオケ歌唱室経営者であるところ、この利用主体から見た場合、カラオケ歌唱室は、不特定の客を誘引して、管理著作物の再生及び歌唱を不特定の客に提供することを営業目的としているのであるから、著作権法22条にいう「公に」の要件を満たす。 【被告の主張】カラオケ歌唱室における歌唱は、特定の者が仲間内でしているものであり、公衆たる他の客に聞かせるという性質のものではないから、著作権法22条にいう「公に」の要件を充足しない。 3 争点二3(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱には、著作権法附則14条による自由使用の適用があるか)について【被告の主張】カラオケ装置は客に歌唱させるための設備であって音楽を鑑賞させるための設備ではなく、また、カラオケ歌唱室は音楽を鑑賞することを営業内容として広告するものではない。したがって、カラオケ歌唱室は著作権法施行令附則3条に挙げられる営業のいずれにも該当せず、著作権法附則14条が適用される。 【原告の主張】本件店舗は、飲食物を提供しており、音楽を鑑賞することを営業内容として広告し、また、設置されたカラオケ装置は音楽を鑑賞させるための特別の設備に該当するから、著作権法施行令附則3条1号の事業に該当し、著作権法附則14条の適用はない。 三 争点三(カラオケソフト作成にかかる原告の管理著作物使用許諾の効力は、 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱行為に及ぶか)について【被告の主張】カラオケソフトは、社交場等で客に歌唱させる歌唱用音楽ソフトとして商品化されたものであり、スナック等の酒場において営業上利用するという利用形態が当然に予定されているから、その製作、販売に対する原告の許諾の効力は、店舗における利用にも及ぶ。 【原告の主張】カラオケソフト製作許諾に際し、使用料が支払われているが、これは複製(録音)の許諾のための使用料であって、店舗におけるカラオケ歌唱まで許諾したものではない。 四 争点四(原告の定めた使用料率表に基づく使用料徴収の可否)について【原告の主張】1 原告は、仲介業務法に基づいて著作物使用料規程を定め、文化庁長官の認可を受けているが、この中に、新技術の発展に伴う新たな音楽著作物の利用形態の出現に対応するため、「第二節 演奏等 3 演奏会以外の催物における演奏」の「(7) その他の演奏」の規定が設けられ、「本規定の(1)から(6)以外の演奏の場合は、本規定の(1)の規定の範囲内において、使用状況等を参酌して使用料を決定する」との定めがある。 原告は、右規定に基づいて、「カラオケ歌唱室の使用料率表(年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合)」を定め、文化庁長官に対し報告した上で実施している。 2 被告は、カラオケ歌唱室が「社交場」に当たると主張するが、著作物使用料規程における「社交場」とは、「キャバレー、バー、スナック、音楽喫茶、ダンスホール、旅館その他設備を設けて客に飲食又はダンスをさせる営業を行う施設」であり、カラオケ歌唱をさせることは付加的なサービスである。カラオケ歌唱室は、飲食物を提供するが、カラオケ設備を設けて客に歌唱をさせることを主たる目的として営業を行う施設であり、右にいう「社交場」とは、営業形態が全く相違するから、「社交場」に関する規定は適用されない。 3 なお、平成九年八月一一日、著作物使用料規程は一部変更され、「カラオケ施設における演奏等」についての使用料規定を新設することにつき文化庁長官の認可を得ている。右認可以降は、カラオケ歌唱室の使用料は右新規定に基づいて徴収される。 【被告の主張】1 原告は、著作権仲介業務法に基づく音楽著作権仲介団体であり、使用料徴収の根拠となる著作物使用料規程の設定及び変更につき文化庁の認可を受け、これに基づいて業務を執行しなければならないものとされている。 平成九年八月一一日認可前の著作物使用料規程には、カラオケ歌唱室についての直接の規定はない。カラオケ歌唱室が「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」に当たり、「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨の広告をし」ているものであるとすれば、右規程第二章第二節4「社交場における演奏等」における「区分1 設備を設けて客に飲食をさせる営業」中の「業種5 ライブハウス、 音楽喫茶などの音楽の鑑賞を主たる目的とするもの」に該当するのであって、右規程中の(社交場における演奏等の備考)における(カラオケ伴奏による歌唱)という項目に基づいて使用料の徴収がされなければならない。そして、著作物使用料規程によれば、社交場においては五坪以下、宴会場の場合には一〇坪以下は使用料が免除されるところ、本件店舗は、一室を除いて五坪以下であり、その一室も一〇坪以下であるから、いずれも使用料が免除される。 2 著作物使用料規程第一章2条1項は「本協会に対して契約者が支払うべき著作物の使用料は、本協会が主務官庁の認可を得て定めた著作物の使用料率によって定められるものとする」と定めている。それにもかかわらず、原告は、平成九年六月一〇日付で認可申請を行うまでは、著作物使用料規程第二章第二節3「演奏会以外の催物における演奏」の「(7) その他の演奏」の規程を根拠に「カラオケ歌唱室の使用料率表」を独自に策定し、文化庁の認可を受けずにこれに基づいて使用料徴収を行っていた。しかし、カラオケ歌唱室におけるカラオケ伴奏による歌唱は、 前記のとおり、その営業態様から「催物」ではなく「社交場」の概念に含まれるものであり、著作物使用料規程は、「社交場」につき「本節1、2、3及び5の規程にかかわらず」として、3「演奏会以外の催物における演奏」の規程の適用を排除しているのであるから、カラオケ歌唱室にかかる使用料率表の根拠を3「演奏会以外の催物における演奏」中に含まれる「(7) その他の演奏」の規定に求めることはできない。そして、このような無認可の使用料率表は、前記1で述べた著作権仲介業務法の趣旨を無視しているものであり、無効である。 したがって、被告がこのような使用料率表に拘束されることはなく、仮に拘束されるとすれば憲法13条及び31条に違反する。 五 争点五(本件使用許諾契約に無効原因が存するか)について【被告の主張】本件使用許諾契約は、次の理由により無効である。 1 そもそも、カラオケ歌唱室における演奏は、演奏権の侵害はなく、本件使用許諾契約はその前提を欠く。 2 原告は、カラオケテープの製作、販売の許諾において、カラオケソフトをスナック等において営業上利用するという利用形態を当然に予定しており、その許諾料には利用(伴奏音楽の再生及び歌唱)についての対価を含む。原告は、これを秘して被告に使用許諾契約の締結を要求し、文化庁の認可を受けていない使用料を請求していたのであって、原告の右行為は不法行為に該当する。そして、その結果として締結された本件使用許諾契約は無効である。 3 著作物使用料規程第一章第2条第1項は「契約者が支払うべき著作物の使用料は、主務官庁の認可を得て定めた著作物の使用料率によって定められる」と規定しているから、少なくとも当事者がこれに依らない意思を表示しない限り、当事者の合意内容となっていると解される。本件使用許諾契約は、主務官庁の認可を受けた使用料率表に依っていないという契約の重要な部分について被告に錯誤があり、かつ、被告がそれを知っていたならば契約を締結していなかったと認められるから、 意思表示には要素の錯誤があり、無効である。 【原告の主張】本件使用許諾契約の締結において、強迫ないし錯誤に当たる事実はない。 なお、仮に、原告が著作物利用を許諾するに際し、無認可の使用料率表に基づいて使用料を請求するようなことがあったとしても、私法上の効力は否定されるものではない。 六 争点六(著作物使用料及び損害額)【原告の主張】1 著作物使用料(乙事件)前記第二の二5のとおり、被告は、本件使用許諾契約に基づく使用料のうち、平成六年一二月分以降の金員を支払わないところ、平成九年三月末日までの使用料額の合計は、別表1月額使用料欄記載のとおり合計一七一万一四〇〇円となる。なお、通信カラオケは、従来のオーディオカラオケとは全く異なる効果を上げるものであり、むしろ、レーザーディスクカラオケに類似するものであるから、従来のビデオカラオケの使用料が適用される。 2 使用料相当損害金(甲事件)(一) 原告は、平成九年四月一日以降、被告が本件店舗において原告の許諾を得ることなく別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を使って管理著作物を演奏、 上映し、原告の著作権をそれぞれ侵害したことにより、平成一〇年八月三一日までに少なくとも、次のとおりの使用料相当損害金を被った。 (1) 平成九年八月一〇日までは、昭和五九年六月一日認可の著作物使用料規程第二章第二節演奏等3「演奏会以外の催物における演奏」中の「(7) その他の演奏」の規定に基づき定められた「カラオケ歌唱室の使用料率表」により、カラオケ歌唱室の使用料は、 ① オーディオカラオケによる使用の時は一部屋の定員が一〇名までの場合一部屋月額三〇〇〇円、一部屋の定員が一〇名を超え三〇名までは一部屋月額六〇〇〇円② ビデオカラオケによる使用の時は一部屋の定員が一〇名までの場合一部屋月額四〇〇〇円、一部屋の定員が一〇名を超え三〇名までは一部屋月額八〇〇〇円であり、これにより算定した金額に五パーセントの消費税相当額を加算した金額が使用料相当損害金となる。 本件店舗には、一部屋の定員が一〇名までの歌唱室が一八室あり、一部屋の定員が一〇名を超え三〇名までの歌唱室が一室あり、いずれも、ビデオカラオケが利用できる。したがって、本件店舗における無許可営業により原告が被った使用料相当損害金は、平成九年四月一日から同年八月一〇日までは、一か月当たり、八万四〇〇〇円である。 <(4,000×18+8,000×1)×1.05=84,000>(2) 平成九年八月一一日、文化庁長官は、著作物使用料規程の一部変更を認可し、同日施行された。同規程の第二章第二節演奏等4「カラオケ施設における演奏等(1)」により、カラオケ歌唱室における同日以降の著作物使用料は、一部屋の定員が一〇名までの場合一部屋月額九〇〇〇円、一部屋の定員が一〇名を超え三〇名までは一部屋月額一万八〇〇〇円となり、これにより算定した金額に消費税相当額を加算した金額が使用料相当損害金となる。 したがって、本件店舗における平成九年八月一一日以降の一か月当たりの使用料相当損害金は、一八万九〇〇〇円である。 <(9,000×18+18,000×1)×1.05=189,000>(3) 以上により、平成九年四月一日から平成一〇年八月末日までに原告が被った使用料相当損害金の額を算出すると、別表2月額損害金欄記載の合計二七五万九一二〇円となる。 3 さらに、被告が本件店舗における管理著作物の使用を停止するまでは、原告は、平成一〇年九月一日以降も一か月当たり一八万九〇〇〇円の割合による損害を被る。 4 被告は、原告の定めた使用料率は使用料相当額算定の根拠、基準とはなり得ないと主張する。しかし、右使用料率は著作物管理規程に基づき、大口利用者との協議を行った上で平成元年四月に定めたものであって、以後、全国的に、多数のカラオケ歌唱室経営者との間でこれに基づいて管理著作物使用許諾契約を締結してきている。原告はそれ以外の条件で許諾を与えたことはなく、右使用料率は、原告が通常の許諾に際し、一般に徴収していた通常の使用料であるということができる。 4 原告は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。そのための弁護士費用は一四〇万円を下らない。 【被告の主張】争う。 1 認可のない使用料率表に基づいて著作物使用料を請求することは、権利の濫用、信義則違反として許されない。 2 著作権法114条2項にいう「通常受けるべき金銭の額に相当する額」とは、社会通念上客観的に認めることができる使用料相当額であるところ、これは、 認可を受け法的に肯定されている使用料率表に従って算出される金額である。カラオケ歌唱室は「社交場」の概念に含まれるものであるから、著作物管理規程に従って使用料を算定すれば、一九室中一八室が五坪以下で、一室が一〇坪以下である本件店舗は使用料の支払が免除されることとなる。 原告の主張する使用料率に基づく使用料額は、文化庁の認可を受けたものではないから、原告が通常受けるべき使用料相当額算定の根拠、基準にはなり得ない。 3 通信カラオケにおいて映像として映し出される背景は、音楽と文字とは全く別の媒体からスーパーインポーズ方式によって挿入されるものであるから、「ビデオテープ、ビデオディスクなどに映像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のもの」には当たらない。したがって、通信カラオケは「ビデオグラムの上映」に該当せず、これに基づく使用料率表によって使用料を徴収することはできない。 4 甲事件について、弁護士費用一四〇万円が請求されているが、その根拠は明らかでなく、不相当な額である。 第四 争点に対する裁判所の判断一 争点一(経営主体)について1 被告は、乙事件については大阪地方裁判所岸和田支部で行われた平成九年二月一八日の第一回口頭弁論期日において、また、甲事件については平成一〇年一〇月一五日の第一回口頭弁論期日において、いずれも、本件店舗が被告の経営にかかるものであることを認めている。したがって、本件訴訟において、本件店舗の経営者が被告であることは、民事訴訟法179条により証明することを要しない事実となる。 被告は、乙事件(大阪地方裁判所に回付)が甲事件に併合された平成一〇年一二月一五日の第二回口頭弁論期日において初めて、本件店舗は訴外株式会社セルビスの経営にかかるものである旨主張しているところ、甲事件乙第三一号証及び被告本人尋問の結果によれば、同会社は、平成七年三月三〇日に本件店舗所在地を本店所在地として設立され、被告の妻を代表取締役とし、被告も取締役の一人としている会社であることが認められ、右事実からみて、甲乙事件について前記のとおり被告(本人ないし訴訟代理人)が本件店舗の経営者であることを認める陳述をするについて、錯誤があったとはたやすく認め難いところである。加えて、前記自白の撤回をした同期日までに、乙事件はもとより、甲事件についても双方当事者は主張を尽くし、後は人証による立証を残すのみの段階に至っていたものであるから、 そのような時点において、本件店舗の経営主体に関する事実につき以前にした自白を事実に反するとして撤回することは、信義則上も許されないものというべきである。 2 よって、本件店舗の経営主体は被告であることは証明することを要しない事実として扱うべきであり、被告の主張は採用できない。 二 争点二(本件店舗での管理著作物の再生・歌唱が、被告による演奏権、上映権侵害を構成するか)について1 争点二1(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱主体は誰か)について(一) 本件店舗におけるカラオケの利用状況について前記第二の二の1、6、甲事件乙第三三号証、乙事件甲第三号証ないし第六号証及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 (1) 本件店舗は、平成三年一二月に開業したカラオケ歌唱室であり、一九室の歌唱室で構成されている。本件店舗には、別紙物件目録記載のレーザーディスクカラオケ装置、通信カラオケ装置一式(受信・再生・配信装置)があり、各歌唱室にはアンプ、オートチェンジャーコマンダー、モニターテレビ、マイク、スピーカー等が設置されている。本件店舗の各部屋には、当初は一九室すべてにオーディオカラオケが設置されていたが、平成六年から平成八年にかけて、順次、通信カラオケに入れ替えられ、現在では、一六室に通信カラオケ装置が設置され、その余の部屋にはレーザーディスクカラオケが設置されている。 (2) 本件店舗の各部屋の広さは、一二平方メートル(八席)のものが一部屋、一四・四平方メートル(八席)のものが一七部屋、二七・六平方メートル(二五席)のものが一部屋であり、営業時間は、平成四年当時で午後〇時から午前二時までである。 (3) 本件店舗の料金体系は、部屋の使用料を時間単位で徴収するシステムとなっており、従業員らが来店した客をカラオケ関連機器を設置した各部屋に案内し、飲み物や、やきそば、焼き飯などの食べ物を提供して代金を徴収している。 (二) 右の本件店舗の営業形態及び設置されている装置からすれば、本件店舗では、客は、指定された歌唱室内で、経営者が用意した特別のカラオケ用機器を使って、同じく経営者が用意した楽曲ソフトの範囲内で選曲を行い、伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を行うものであり、しかも右再生・歌唱は時間単位の部屋の利用料金を支払う範囲で行うことができるにすぎないものと推認することができる。 このことからすれば、客による右再生・歌唱は、本件店舗の経営者である被告の管理の下で行われているというべきであり、しかもカラオケ歌唱室としての営業の性質上、被告はそれによって直接的に営業上の利益を収めていることは明らかであるから、著作権法の規律の観点からは本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告であると解すべきである。 被告は、カラオケ歌唱室においては、歌う歌わないは客の自由であり、 従業員が歌唱したり、司会をしたり、装置の操作に関与したりすることはないと主張するが、本件店舗は、客にカラオケを利用させることを主たる目的として営業するものであり、そのための設備・ソフトの提供及び利用料金の支払の点で経営者の管理下に置かれているのであるから、本件店舗における客の歌唱行為が経営者から独立しているということはできない。 2 争点二2(対公衆性)について右のとおり、本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告であると解すべきところ、被告にとって、本件店舗に来店する客が不特定多数であることは明らかであるから、被告による伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものであるといえる。 この点についての被告の主張は、伴奏音楽の再生及び歌唱の主体が客であることを前提とするものであり、失当である。 3 争点二3(自由使用)について著作権法附則14条は、「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き」、当分の間、自由とする旨を規定しており(ただし、平成九年法律第八六号による改正前は、「公衆送信」は「放送又は有線送信」とされていた。)、これを受けて、著作権法施行令附則3条は、右条項の適用が除外される事業として、「喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」(一号)等を掲げている。 先に1(一)で認定した各事実からすれば、本件店舗の事業が、「営利を目的として音楽の著作物を使用する事業」に該当すること、本件店舗の営業が「客に飲食をさせる営業」であることが認められる。また、客は、本件店舗内において、 再生された伴奏音楽を聞き、それに合わせて歌唱することを楽しむのであって、それは「音楽を鑑賞」することにほかならない。そして、前記1(一)の各事実より認められる本件店舗の営業態様からすれば、本件店舗には各カラオケ歌唱室に、客が自由に選曲して伴奏音楽を再生させることができるカラオケ装置のほか、マイク、 スピーカー等の音響設備が設置され、防音設備が施されているものと推認されるから、本件店舗においては「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」ものということができる。 したがって、本件店舗における被告の営業は、著作権法施行令附則3条1号に該当するから、著作権法附則14条の適用はない。 4 以上によれば、被告は、本件店舗において、カラオケ機器を使って、管理著作物を公に再生及び歌唱することによって、演奏権及び上映権を侵害するものと認められる。 三 争点三(カラオケソフト作成にかかる原告の管理著作物使用許諾の効力は、 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱行為に及ぶか)について被告は、カラオケソフトは、社交場等で客に歌唱させる歌唱用音楽ソフトとして商品化されたものであり、スナック等の酒場において営業上利用するという利用形態が当然に予定されているから、その製作、販売に対する原告の許諾の効力は、店舗における利用にも及ぶと主張する。 しかし、本件全証拠によっても、これを認めるに足りる証拠はない。 かえって、証人Cの証言によれば、原告は、貸与を予定する商品についての複製許諾においても、貸与者すなわち複製許諾申請者から、貸与先における利用に関する使用料を徴収していないことが認められる。 したがって、争点三に関する被告の主張は理由がない。 四 争点四(原告の定めた使用料率表に基づく使用料徴収の可否)について1 証人Cの証言によれば、原告におけるカラオケ歌唱室での管理著作物使用料の設定・徴収について、次の事実が認められる。 (一) 本件店舗のような形態のカラオケ歌唱室については、原告では、平成元年四月から、管理著作物の使用許諾及び使用料徴収業務を開始した。 (二) 原告は、著作権仲介業務法に基づく許可を受けた音楽著作権仲介団体であり、同法3条1項により、著作物使用料規程を定めて文化庁長官の認可を受けること(変更するときも同じ。)とされているところ、原告は、昭和一五年以来、 「著作物使用料規程」を作成・変更して内務大臣又は文化庁長官の認可を受け、それに基づいて管理著作物の使用許諾及び使用料徴収業務を行ってきた。 しかし、平成元年当時の原告の著作物使用料規程(以下「旧規程」という。内容的には甲事件甲第三号証と同じである。)では、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用に関する規定が存しなかったため、原告では、カラオケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者との協議を経て、平成元年四月、カラオケ歌唱室の使用料率(甲事件甲第四号証、乙事件甲第一号証。以下「本件使用料率」という。内容は別紙3のとおりである。)を策定し、これに基づいて全国的にカラオケ歌唱室における管理著作物の利用についての許諾及び使用料の徴収業務を実施してきた。 (三) 旧規程における演奏等に関する使用料は、第二章「著作物の使用料率に関する事項」第二節「演奏等」に規定されており、そこでは、「1 上演形式による演奏」、「2 演奏会における演奏」、「3 演奏会以外の催物における演奏」、「4 社交場における演奏等」、「5 ビデオグラムの上映」に区分した上、さらに細かな演奏等の形態に区分して使用料が定められていた。 (四) 原告は、平成九年八月一一日、右規程の第二章第二節中に、「4 カラオケ施設における演奏等」として、カラオケ歌唱室を含むカラオケ施設に関する著作物使用料規定を盛り込んだ変更を行い(それに伴い旧4以下は繰り下げ)、文化庁長官の認可を得た(甲事件甲第五号証。以下「新規程」という。)。それによれば、カラオケ歌唱室において年間の包括使用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料は、本件使用料率と同じ内容とされた。 2 右によれば、本件使用料率(別紙3)は、本件における甲事件の請求のうち平成九年八月一〇日までの期間にかかる部分及び乙事件の請求の全期間において、原告の著作物使用料規程中に規定されていなかったものと認められる。そして、被告は、このことから、本件使用料率に基づいて管理著作物使用料を徴収することはできないと主張するので、この点について検討する。 (一) 前記のとおり、原告は、著作権仲介業務法に基づいて著作権仲介業務の認可を受けた者であるが、同法は、著作権に関する仲介業務を行おうとする者は業務の範囲及び業務執行の方法を定めて文化庁長官の許可を受けなければならないこと(2条)、仲介業務の許可を受けた仲介人は著作物使用料規程を定めて文化庁長官の許可を受けなければならないこと(3条1項)、著作物使用料規程の許可の申請があった場合には文化庁長官は、その要領を公告すべきこと(同二項)、出版を業とする者の組織する団体、興行を業とする者の組織する団体等は右要領について文化庁長官に意見を具申することができること(同三項)、文化庁長官は、著作物使用料規程を認可しようとするときは、著作権制度審議会に諮問しなければならず、その際には右具申された意見を提出しなければならないこと(同四項)、仲介人が認可を受けた著作物使用料規程に依らずに業務を行った場合には、五〇〇円(罰金等臨時措置法2条1項により二万円)以下の罰金が科せられること(12条2号)をそれぞれ規定している。そして、同法が著作物仲介業務及び著作物使用料規程について、右のような規定を置いた趣旨は、著作物仲介人が著作権を集中管理することに伴う濫用的な業務執行及び著作物使用料の徴収を防止し、著作物使用料規程の内容が合理的かつ公正であることを保障することによって、著作物の利用を簡易かつ円滑化し、もって著作権の保護とその権利行使の適正を図り、併せて著作物の利用関係の円滑化を図ることにあると解される。このような同法の趣旨及び規定からすれば、著作物仲介人が、著作物の使用者に対し、認可を得た著作物使用規程に依らずに著作物使用料を徴収することは許されないと解するのが相当である。 (二) そこで次に、本件使用料率が旧規程に依っているか否かについて検討する。 カラオケ歌唱室における管理著作物の利用を直接の対象とする具体的な使用料基準が旧規程中に存しなかったことは前記のとおりであるが、著作権仲介業務法施行規則4条が、著作物使用料規程に記載する著作物使用料率は著作物の種類及びその利用方法の異なるごとに各別に定めて表を作成すべきものとしていることからすれば、本来、カラオケ歌唱室について使用料を徴収するには、その利用方法の性質に応じた著作物使用料率を著作物使用料規程中に設けた上で行うのが本則である。しかし、著作物の使用形態は千差万別であり、技術や時代の変化に応じて新たな使用形態も出現するものであるから、そのすべての使用類型を著作物使用料規程に盛込んで基準化することが不可能であることもまた見やすい道理であり、そのような場合に、管理著作物の利用行為が現に行われているにもかかわらず、それを直接の対象とする使用料率の定めが著作物使用料規程中に存しないから使用料の徴収ができないというのでは、余りに著作権者の保護に欠けることとなる。原告の旧規程(新規程でも同様)では、「第二章第一二節 その他」として、「本規程の第二節乃至第一一節の規定を適用することができない利用方法により著作物を使用する場合は、著作物利用の目的および態様、その他の事情に応じて使用者と協議のうえ、その使用料の額または率を定めることができる。」とされているが、右規定は、このような事態を念頭に置いたものと考えられる。もとより、前記のような著作権仲介業務法の趣旨に鑑みれば、このような規定が存するからといって、著作物使用料規程中に直接規定されていない類型の著作物使用行為の使用料率について、 原告の一存でどのような内容でも自由に定め得るものでないことはいうまでもなく、その内容が既存の著作物使用料規程に照らして合理性・相当性があり、また利用者との意見調整を経る等の前記著作権仲介業務法が規定する趣旨に沿った手続を経ること(この点は前記規定においても「使用者と協議のうえ」とされているところである。)を要すると解すべきであるが、それらが満たされる以上、原告が定めた使用料率は、全体として著作物使用料規程に対する認可の趣旨の範囲内にあり、 なお認可を受けた著作物使用料規程に依るものと評価するに妨げないものというべきである。 これを本件について見るに、①原告が本件使用料率を定めたのは、平成元年当時にカラオケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者との協議を経た上でのものであること、②原告は、平成元年四月以降新規程の認可に至るまで、本件使用料率によって全国的にカラオケ歌唱室経営者との間で著作物使用許諾契約を締結してきていたこと、③本件使用料率は、一般的なカラオケ歌唱室における管理著作物の貢献度、規模、客単価及び利用時間等を勘案すれば、既存の「演奏会以外の催物における演奏」の使用料率(旧規程第二章第二節3)と比較して相当なものといえ、 著作物の利用形態が比較的類似すると思われるライブハウスや音楽喫茶における使用料(旧規程第二章第二節4の別表5)や社交場におけるカラオケ伴奏による歌唱の使用料(旧規程第二章第二節4の備考⑯)と比較しても同様のことがいえること、④本件使用料率は、事後的にではあるが文化庁長官の認可を得たことからすれば、本件使用料率は、新規程への変更前においても、前記の内容上及び手続上の要件を満たすものとして、旧規定に依るものであると解するのが相当である(なお、 旧規程中、社交場における演奏等について、カラオケ伴奏による歌唱が行われる場合には、一演奏場所の客席面積が一六・五㎡(五坪)以下のものについては使用料の支払を免除する旨定められているが、これは零細な事業者を保護するためのものであると解され、本件店舗を含むカラオケ歌唱室の営業形態を考えれば、その趣旨をカラオケ歌唱室に及ぼすことは相当でない。)。 もっとも、原告は、本件使用料率は旧規程中の「演奏会以外の催物における演奏」(第二章第二節3)の「(7) その他の演奏」の条項に基づいて定めたとするが、カラオケ歌唱室では常設された室内で楽曲の再生・歌唱が反復して行われるのであって、催物とは性質を異にするから、右規定を直接の根拠とすることは必ずしも合理的とはいえない。また、原告は、平成元年四月から本件使用料率を定めて、全国的にカラオケ歌唱室における著作物使用料の徴収管理を始めたというのであるから、その旨の著作物使用規程の変更が平成九年八月までなされなかったというのは遅きにすぎるものともいえる。しかし、右のような点があるとしても、先に述べた諸点を考慮すれば、それをもって右基準が旧規程に依らないものであるとはいえない。 3 以上説示したところから明らかなように、平成九年八月一〇日までの期間においては、本件使用料率それ自体について文化庁長官の認可を得たものであるということはできないが、なお、旧規定に依るものということができるから、これに基づく著作物使用料の徴収、あるいは、これを算定の根拠とする損害賠償の請求が許されないことを前提とする被告の主張は、いずれも理由がない。 五 争点五(本件使用許諾契約に無効原因が存するか)についてすでに前記二ないし四で認定判断したところから明らかなように、被告による本件店舗における管理著作物の利用は、それらの演奏権を侵害するものであり、 本件使用料率に基づく著作物使用料徴収は文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程に依るものということができるから、これと異なる前提に立脚する被告の本争点に関する主張はいずれも理由がない。 六 争点六(使用料及び原告の損害額)について1 まず、被告は、通信カラオケについて、本件使用料率のビデオカラオケの区分を適用することはできないと主張するので、この点について検討する。 被告の主張は、要するに、通信カラオケにおいては背景映像は音楽・文字(歌詞)とは別の媒体から挿入されるものであって、著作物使用料規程にいう「ビデオグラム」の概念に含まれないことを根拠とするものと解される。しかし、前記のように、著作物の使用形態は千差万別であり、技術や時代の変化に応じて新たな使用形態も出現するものであって、通信カラオケによる管理著作物の再生・歌唱は、まさに通信技術の発達に伴って新たに出現した著作物の使用形態であるということができる。そして、通信カラオケがカラオケ装置に該当するのは明らかであり、前記四で判断したところによれば、通信カラオケ装置を用いてカラオケ歌唱室で再生・歌唱行為を行う場合の使用料は本件使用料率に基づいて徴収すべきものということができる。そして、本件使用料率は「オーディオカラオケによる歌唱」と「ビデオカラオケによる歌唱」の二つに区分して使用料率に差を設けていることから、このいずれの使用料率を適用すべきかが問題となるものである。そこで、著作物使用料規程をみるに、著作物の使用料は、著作物の利用の態様、営業等に占める著作物利用の重要性、著作物が聴衆・観衆に与える効果等をも考慮して定められているものと考えられるところ、このような観点からすれば、通信カラオケは、伴奏音楽・歌詞映像とともに動画映像を再生するものであって、その使用料率を決する際に考慮されていると考えられる各要素においては、背景画像がないか、又は静止画であるオーディオカラオケとは異なり、むしろ、ビデオカラオケに含まれるレーザーディスクカラオケに類似するものであることは明らかである。したがって、その使用料率の算定において、ビデオカラオケの区分を適用することは、合理性を有するものということができる。このことは、新規程において「第二章第二節4 カラオケ施設における演奏等」の(カラオケ施設における演奏等の備考)中の(カラオケ伴奏による歌唱)の(注)<ア>で「ビデオカラオケとは、専ら歌唱の伴奏に供される装置であって音とともに影像を連続して再生するものをいい、オーディオカラオケとは、ビデオカラオケ以外のものという。」と定義して、通信カラオケはビデオカラオケに含まれることを明らかにし、これが文化庁長官により認可されていることからも裏付けられる。 そうすると、通信カラオケによる伴奏音楽の再生・歌唱についての著作物使用料及び損害賠償額を、本件使用料率の「ビデオカラオケ」の区分に基づいて算定することは、合理性を有するものということができる。 2 被告が平成六年一二月分以降の月額使用料の支払をしない事実は、当事者間に争いがない。前記第二の二の3、4の事実によれば、平成六年一二月一日から平成九年三月末日までの間の本件使用許諾契約に基づく使用料は、別表1のとおりとなるところ、乙事件甲第一号証によれば、右使用料の算定は、本件使用料率表に基づいて算定したものであることが認められる(なお、本件使用許諾契約は、オーディオカラオケが設置されている部屋が一八室、ビデオカラオケが設置されている部屋が一室であることを前提としているところ、前記第二の二の7によれば、被告は本件店舗におけるカラオケ装置を順次通信カラオケに入れ替えており、これは許諾の範囲を超えた管理著作物の利用に当たる。しかし、前記1によれば、入れ替え後の通信カラオケにおける使用料率は入れ替え前のオーディオカラオケにおける使用料率を上回るものであるから、右事実は私法契約たる本件使用許諾契約に基づく被告の著作物使用料支払義務に消長を来すものではないというべきである。)。 そして、前記第二の二の2記載の各事実によれば、本件使用許諾契約に基づく使用料支払期限は当月末日であり、支払期限後の違約金は年二〇パーセントの割合であるから、被告は別紙1記載の違約金の支払義務がある。 3(一) 前記第二の二6記載の事実によれば、被告は、原告に対し、平成八年一二月三一日付書面により、カラオケ歌唱室の営業により著作権使用料の支払義務が発生する根拠がないことを理由として、本件使用許諾契約に基づく使用料支払義務を履行しない旨を表明し、右書面は平成九年一月六日に原告に到達したものであるから、前記第二の二の2(五)記載の本件使用許諾契約の更新の要件を満たさなかったことにより、本件使用許諾契約は、同年三月三一日限りで更新されずに終了したものと認められる。 (二) そうすると、被告は、平成九年四月一日以降、原告の許諾を得ずに本件店舗において管理著作物を使用していることになり、右の著作権侵害について少なくとも過失があることは明らかであるところ、前記のとおり、本件使用料率は著作物使用料規程に依るものということができるから、本件で損害額を算定するに当たって基礎となり得るものであり、また、同年八月一一日以降は、文化庁長官の認可を受けた新規程が損害額を算定するに当たっての基礎となり得るものである。これらにより原告の被った使用料相当損害金を算定すれば、原告が同年四月一日から平成一〇年八月三一日までに被告の行為により被った損害は、別表2月額損害金欄記載のとおり、合計二七五万九一二〇円と認められる。 (三) そして、本件店舗における管理著作物の無断使用による被告の損害賠償債務は、各月の損害金につき遅くとも当月末日には発生しているということができるから、被告は別紙2記載の遅延損害金の支払義務がある。 4 さらに、前記第二の二の7の事実及び甲事件甲第五号証によれば、被告が本件店舗における管理著作物の使用を止めるまで、原告は、一か月当たり一八万九〇〇〇円の使用料相当額の損害を被るものと認められる。 5 本件訴訟の提起・追行のために原告は弁護士を依頼したところ、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用相当損害金としては六〇万円が相当である。 第五 まとめ以上によれば、原告の請求は主文第一ないし第四項の限度で理由があるが、 その余は理由がないから、主文のとおり判決する。 (平成一一年七月一五日口頭弁論終結)大阪地方裁判所第二一民事部裁判長裁判官 小 松 一 雄裁判官 渡 部 勇 次裁判官 水 上 周 |
事実及び理由 | |
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全容
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