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事件 平成 10年 (ワ) 3297号 著作物利用対価請求事件
原告A
原告B右両名訴訟代理人弁護士 唐澤貴夫
被告 株式会社ベネッセコーポレーション右代表者代表取締役 C右訴訟代理人弁護士 伊藤真
被告 株式会社エヌエイチケイソフトウェア右代表者代表取締役 D右訴訟代理人弁護士 宮川勝之
同 高木裕康
同 中村優子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/09/17
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告らは、原告Aに対し、各自金一四七〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告Bに対し、各自金六三〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
当事者の主張
一 請求原因1 原告らは、言語の著作物である「誰でもひとりで転ばずに乗れるようになる自転車練習法」(以下「本件著作物」という。)の共同著作者である。
原告らの持分割合は、原告A(以下「原告A」という。)七に対し、原告B(以下「原告B」という。)三の割合である。
2 原告らは、平成九年六月に、被告株式会社ベネッセコーポレーション(以下「被告ベネッセ」という。)から、本件著作物をビデオ化する旨の申出を受け、これを承諾した。その際に、原告らは、被告ベネッセとの間において、被告ベネッセが原告らに対し本件著作物の利用について相当額の対価を支払う旨の合意をした。
3 被告らは、本件著作物をビデオ化したものを含む「こどもちゃれんじすてっぷ」ビデオ一九九七年一〇月号(以下「本件ビデオ」という。)を製作し、平成九年一〇月五日に発売した。
4 仮に、原告らと被告ベネッセとの間において、右合意が成立していないとすると、被告ベネッセは、本件著作物を原告らの許諾を受けることなく利用したものということができる。本件ビデオと本件著作物の具体的な対比は、別紙のとおりである。したがって、被告ベネッセは、原告らに対し、不当利得の返還として、本件著作物の利用について相当額の対価を支払う義務を負う。
5 被告株式会社エヌエイチケイソフトウェア(以下「被告エヌエイチケイ」という。)は、原告らから許諾を受けることなく本件著作物を利用したものである。本件ビデオと本件著作物の具体的な対比は、別紙のとおりである。したがって、被告エヌエイチケイは、原告らに対し、不当利得の返還として、本件著作物の利用について相当額の対価を支払う義務を負う。
6 右2、4、5の相当額の対価は、次のとおりである。
(一) 本件ビデオは、付随のテキストとともに一四〇〇円で販売されたところ、ビデオの全体価格に占める比率は七五パーセントを下回らない。
(二) 本件ビデオは、全体で二〇分のビデオであり、そのうち本件著作物をビデオ化した部分は約五分であるが、その内容等からすると、本件著作物をビデオ化した部分が本件ビデオ全体の価格に占める比率は五〇パーセントを下回らない。
(三) 本件著作物の利用の対価は、本件著作物をビデオ化した部分の価格の二〇パーセントを下回らない。
(四) 本件ビデオ及び付随のテキストの売上げは、二〇万セットを下回らない。
(五) 以上の(一)ないし(四)からすると、本件著作物の利用についての対価相当額は、二一〇〇万円(原告A一四七〇万円、原告B六三〇万円)を下回らない。
7 よって、原告Aは、被告らに対し、各自一四七〇万円及びこれに対する履行の請求の後である平成一〇年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告Bは、被告らに対し、各自六三〇万円及びこれに対する履行の請求の後である平成一〇年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する認否及び主張 (被告ベネッセ)1 請求原因1の事実のうち、原告Aが本件著作物の著作者であることは認めるが、原告Bが著作者であることは、否認する。
2 請求原因2の事実は、否認する。
被告ベネッセは、本件ビデオの製作を被告エヌエイチケイに委託したのみであり、
原告らとの間で契約を締結したことはない。
3 請求原因3の事実のうち、被告エヌエイチケイが本件ビデオを製作し、被告ベネッセが、これを平成九年一〇月五日に発売したことは、認めるが、本件ビデオが本件著作物をビデオ化したものであることは、否認する。
4 請求原因4は争う。
5 請求原因6は争う。
(被告エヌエイチケイ)1 請求原因1の事実のうち、原告Aが本件著作物の著作者であることは認めるが、その余の事実は知らない。
2 請求原因3の事実のうち、被告エヌエイチケイが本件ビデオを製作し、被告ベネッセが、これを平成九年一〇月五日に発売したことは、認めるが、本件ビデオが本件著作物をビデオ化したものであることは、否認する。
3 請求原因5は争う。
本件著作物と本件ビデオを比較すると、台詞などの表現方法はもとより、構成も異なっており、本件ビデオは本件著作物を翻案したものということはできない。本件ビデオ中に本件著作物と類似する箇所があるが、それは、本件ビデオを製作するに当たり原告Aの助言に従ったために生じたものである。また、こうした部分は、
自転車に乗るためのこつであって、それ自体が法的保護の対象となることはない。
4 請求原因6は争う。
被告エヌエイチケイは、本件ビデオの販売の主体ではないから、その売上げが被告エヌエイチケイに帰属することはなく、被告エヌエイチケイは、原告らが主張するような利得を得ていない。
当裁判所の判断
一 本件著作物の著作者について1 請求原因1の事実のうち、原告Aが本件著作物の著作者であることは、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告Bが、本件著作物の共同著作者であるかどうかについて判断する。
証拠(甲一、五、原告B本人)と弁論の全趣旨によると、本件著作物は、原告Aが大人になってから自転車に乗れるようになった体験をもとに、自転車の練習法について記載したものであること、当初は原告Aが一人で書き始めたものの、原告A一人ではうまく文章に表現することができなかったため、原告Bが原告Aの文章を手直しするなどして、本件著作物を完成させたこと、以上の事実が認められる。したがって、本件著作物は、原告らの共同著作物であると認められる。
本件著作物を収録した書籍に掲載された序文には、「この本を書かれたEさんは、私の出身高校、小山台高校(旧制府立八中)の大先輩の奥さんだとうかがっています。」との記載があり(甲一)、本件著作物の出版について出版社との間で交わされた覚書は、原告Aと出版社の間で交わされている(甲五)が、それらのみでは、いまだ、本件著作物は原告らの共同著作物であるとの右認定を覆すに足りるものではない。
3 証拠(甲五)と弁論の全趣旨によると、原告らの持分割合は、原告A七に対し、原告B三の割合であると認められる。
二 原告らと被告ベネッセの間の契約について1 証拠(甲三ないし五、甲六の一ないし三、甲七、乙三、六、丙一ないし七、丙八の一ないし三、丙九ないし一七、二〇ないし二二、原告B本人、証人F)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(一) 本件著作物の出版について原告Aと出版社との間で交わされた覚書には、発行部数を一万部とし、返品、販売残等が生じたときは原告Aが引き取る旨の約定があった。
原告Aは、平成九年三月までに、右約定によって本件著作物を七三七九部引き取り、出版社に対して一九二万八一七五円の債務を負うこととなった。この債務は未だ支払われていない。
右の引き取った本件著作物のうち六九〇〇部は、同年四月に日教組に寄贈された。
(二) 被告ベネッセでは、平成八年九月ころに、本件ビデオの企画の概要を決定したが、その中に、幼稚園の年中児に対して補助輪なしで自転車に乗れるこつを教えるという企画があった。
被告ベネッセでは、平成九年五月に、本件ビデオの製作を被告エヌエイチケイに委託することとした。
被告エヌエイチケイにおいて本件ビデオの製作を担当していたG(以下「G」という。)は、本件著作物の存在を知り、その著者に、本件ビデオの自転車に乗れるこつを教えるコーナー(以下「本件コーナー」という。)の監修を依頼することにした。
そして、被告エヌエイチケイにおいてGとともに本件ビデオの製作を担当していたH(以下「H」という。)が、同月二九日に、原告ら宅に電話をかけ、原告Aに本件コーナーの監修を依頼したい旨述べた。なお、GとHは、本件著作物の著者は、原告Aであると考えていた。
同年六月四日、GとHは、原告らと会って、原告Aに対して、本件コーナーの監修を依頼し、承諾を得た。その際、GとHは、監修料は、通常三万ないし五万円であることを説明した。
(三) 原告Bは、同月六日にGが受け取った書面において、Gに対して、本件ビデオに、本件著作物を読んだ上で自転車の練習をするようにとのテロップ表示をすることを求めたので、Gは、同日、原告Bに対して、右テロップ表示はできないが、
本件ビデオに同封するテキストに本件著作物を参考図書として記載する旨の書面を、ファクシミリで送付した。
原告Bは、同日、被告ベネッセに電話をかけ、同社において本件ビデオ及びテキストの編集を担当していたF(以下「F」という。)及びI(以下「I」という。)と同月九日に会う約束をした。
原告らは、同月九日に、F及びIと会い、原告Bが、本件著作物を本件ビデオに同封して送付することを求めた。Fがこれを断ると、原告Bは、本件著作物を被告ベネッセから出版することを求め、同社の社長に宛てたその旨の書面を社長に渡すよう求めた。Fは、出版は出版部で扱っているので右書面を出版部に渡す旨述べ、
原告Bも、これを了承した。
原告Bは、同月一一日と一八日に、被告ベネッセの社長に宛てて、本件著作物出版の申出について早急に検討することを求める書面を送付した。
被告ベネッセ出版部は、原告Bに対して、本件著作物を被告ベネッセにおいて出版することはできない旨の書面を送付し、原告Bは、これを同月一九日に受け取った。
原告Bは、同月二〇日に、被告ベネッセの社長に宛てて、本件著作物出版の申出について再考することを求める書面を送付した。
被告ベネッセの社長室長は、同日、原告Bに対して、ファクシミリで、本件著作物を被告ベネッセにおいて出版することはできない旨の書面を送付した。
(四) 同年七月一日に、本件ビデオの撮影が行われ、原告らが立ち会った。ビデオの撮影は、一日で終了した。
被告エヌエイチケイは、原告Bから催促があったので、同月一四日ころ、監修料と車代合計一〇万円を、原告Bの銀行口座に振り込んで支払った。
(五) 原告らは、同年九月四日に、被告ベネッセの社長に宛てて、本件著作物を出版することを求める書面を送付し、同月二四日には、被告ベネッセの社長室長に宛てて、ファクシミリで、同月二六日までに本件著作物の出版について返答することを求める旨の書面を送付した。
被告ベネッセの社長室長は、同月二五日、原告らに対して、ファクシミリで、本件著作物を被告ベネッセにおいて出版することはできない旨の書面を送付した。
原告ら代理人は、同月二六日付けで、被告ベネッセに対して、本件ビデオについて著作権に関する契約の締結を求める書面を送付した。これに対して、被告ベネッセ代理人は、本件ビデオの権利関係の処理は被告エヌエイチケイが行っている旨回答したので、原告ら代理人は、同年一一月一一日付けで、被告エヌエイチケイに対して、本件ビデオについての著作権使用の対価の額についての回答を求める書面を送付した。
被告エヌエイチケイが右対価の支払を拒否したため、原告らは、本訴を提起した。
2 原告Bは、本人尋問において、原告らは、同年六月九日に、F及びIと会った際に、本件著作物の著作権使用料についての話をしたところ、Fらが黙ってしまったので、それはあらためて連絡をもらうことにした旨供述し、甲七(原告らの陳述書)にも、同趣旨の記載がある。
しかしながら、右1で認定したとおり、その後の原告Bから被告ベネッセに対する申入れは、原告ら代理人が同年九月二六日付けで書面を送付するまでは、もっぱら本件著作物の出版についての話に終始している。同年六月九日に右のような著作権使用料についての話があったのであれば、それについて被告ベネッセに問い合わせたり、申入れをしたりすることがあってしかるべきであると思われるが、原告ら代理人が同年九月二六日付けで書面を送付するまでは、そのような問合せや申入れがされたというべき事実は全く認められない。また、Fは、証人尋問において、同年六月九日に右のような著作権使用料についての話が出たことはない旨証言しており、同人の陳述書(丙二)及びIの陳述書(丙三)にも、同趣旨の記載がある。以上述べたところに右1認定のその他の事実を総合すると、右同日に著作権使用料についての話がされた旨の右供述及び記載を直ちに信用することはできず、他に、この事実を認めるに足りる証拠はない。
また、原告らと被告ベネッセとの間において、被告ベネッセが原告らに対し本件著作物の利用について相当額の対価を支払う旨の合意が成立したものというべき他の事実を認めるに足りる証拠はない。
3 したがって、原告らと被告ベネッセの間の契約に基づく請求は理由がない。三 不当利得返還請求について 1 前記一2認定の事実に証拠(甲一)を総合すると、本件著作物は、大人になってから自転車に乗れるようになった原告Aの体験に基づいて、自転車の練習法について文と絵で記載した、全体で五〇頁の書籍で、次のような構成になっていることが認められる。
(一) 「まえがき」において、本件著作物の方法であれば、ひとりで練習することができ、必ず乗れるようになるなどと、本件著作物の特徴及び目的が述べられている。
(二) 「T自転車に転ばずに乗れる」では、自転車には必ず誰でも乗れるようになることが述べられている。
(三) 「U練習前の準備」は、「自転車の用意」、「自転車の点検」、「服装」、
「場所」の各項目からなっており、「自転車の点検」では、「1サドルはいちばん低く固定されているかどうか。他人が使用した後は、サドルを高くしてある場合が多いと思われるので、練習に入る前にいつも忘れずにチェックしましょう。2ハンドルは、前輪と直角に交わるように固定されているかどうか。3ブレーキは、後輪(左手)前輪(右手)ともによく効くかどうか。4タイヤの空気は、抜けていないかどうか。」などと記載されている。
(四) 「V実地練習」は、「自転車に乗る」、「足で蹴る[いちばん大事な練習]」「ペダルを踏む」、「仕上げ」の各項目からなっている。
「自転車に乗る」では、まず自転車に乗って、サドルに身体も車体も左右いずれへも傾かないように座ると、「この状態では、地面に着いている両足先には全然力がかかっていない感じになり、両足先を同時に地面から離しても、少しの間でしたら倒れません。」と記載されている。その後、前輪と後輪が地面に接する点を結んだ線が真っ直ぐ前方に引き伸ばされているところを想定し、その先の方を見ることが重要であること、無理に体に合わない自転車に乗らないようにすべきことが述べられている。
「足で蹴る[いちばん大事な練習]」では、まず、「前述の・・・想定した、両輪を結ぶ直線上の、前方に定めた視線を目標とし、両足で地面をうしろへ蹴って、
自転車を発進させます。蹴ったら足は地面から少しはなしてください。」と記載されており、この練習を一日一時間くらいは繰り返すことを勧めている。そして、
「左右いずれかへ傾いて、バランスが崩れそうになったら、左(後輪)のブレーキレバーを軽く握り締めると止まりますから、両足先を地面へ着けてください。」と記載されている。さらに、「続けて何回か足で蹴っても、うまくバランスを失わないで走れるようになってくると、練習もぐんと楽しくなり、いよいよ次の段階へと進みます。」と記載されており、この記載に続いて、「ここまでくれば、もう乗れるようになったも同然です。」と記載されている。
「ペダルを踏む」では、まず、「両足で地面を蹴って発進させ、バランスを崩さずに走っているうちに、上にあがっているほうのペダル(右が上になっていると思います)を踏んでください。バランスを崩さずに走れたら、今度は反対側のペダルを踏みます。そのまま交互にペダルを踏み続ければよいわけです。車体が左へ倒れそうになったらハンドルを左へ、右へ倒れそうになったら右へ(つまり倒れそうになった側へ)、ハンドルをきり、スピードを落とさないようにペダルを踏み続けます。そうすると、ひとりでにバランスがとれて、倒れないで走れます。どのくらいハンドルをきったらよいものかは、何回も練習しているうちにこれもひとりでにつかめてきます。止まるときは、左(後輪)のブレーキレバーを軽く握り締めると止まりますから、車体を左に傾け、左足を先に地面に着けてください。」と記載されている。次に、足で蹴らずに最初からペダルを踏むことを勧めるとともに、その場合の注意が記載されており、さらに次に、最初からペダルを踏む場合の停止、発進について記載されており、最後に、方向転換について記載されている。
「仕上げ」では、左回りの練習、右回りの練習、左回りと右回りの交互の練習、
ジグザグ走行の練習、直線走行の練習、総仕上げについて記載されている。 (五) 「W安全運転」では、安全運転の重要性について述べ、参考になる書籍を紹介している。
(六) 「あとがき」では、自転車の便利さなどが記載されている。
2 前記二1認定の事実に証拠(乙一、二、検甲一)と弁論の全趣旨を総合すると、本件コーナーは、幼稚園の年中児に対して補助輪なしで自転車に乗れるこつを教えるためのもので、自転車マンと男の子の対話によって進行すること、その内容は別紙の本件コーナー欄記載のとおりであり、全体の時間は四分一七秒であること、以上の事実が認められる。
3 以上認定したところに基づき、本件著作物と本件コーナーを対比して、本件コーナーが本件著作物の翻案に当たるかどうかについて判断する。
(一) 本件著作物は、原告Aの体験に基づいて自転車の練習法について文と絵で記載したもので、読者は特に限定されていないのに対し、本件コーナーは、幼児向けに補助輪なしで自転車に乗れるこつを教えるもので、自転車マンと男の子の対話によって進行するという違いがある。
(二) 本件著作物、本件コーナーともに、練習前の準備として、自転車の点検を取り上げているが、練習前に自転車を点検するのは、それ自体としては当然のことである。そして、本件著作物では、点検項目は、サドルの高さ、ハンドル、ブレーキ、タイヤの空気の順で記載されているのに対し、本件コーナーでは、タイヤの空気、ハンドル、ブレーキ、サドルの高さの順で点検を行っている上、その具体的な点検方法も異なっている。すなわち、本件著作物では、サドルの高さについては、
サドルがいちばん低く固定されているかどうかという点検方法が記載されているのに対し、本件コーナーでは、足が地面にちゃんと着くかどうかという観点から点検を行っているし、ハンドルについても、本件著作物では、ハンドルが前輪と直角に交わるように固定されているかどうかという点検方法が記載されているのに対し、
本件コーナーでは、そのような点検方法の指摘はない。また、ブレーキについても、本件著作物では、ブレーキが後輪前輪ともよく効くかどうかという記載であるのに対し、本件コーナーでは、ブレーキのかけ方を説明するのみであり、タイヤの空気についても、本件著作物では、タイヤの空気が抜けていないかどうかという記載であるのに対し、本件コーナーでは、具体的に点検方法を説明している。なお、
以上のような点検項目は、自転車の点検項目としてはありふれたものである。
(三) 本件著作物、本件コーナーともに、自転車の練習を、両足を蹴って自転車を走らせ、それができるようになると、ペダルを蹴って進むという順序で行うことを述べているが、そのような自転車の練習方法自体は、アイデアであって、著作権法で保護されるものではない。
本件著作物では、まず、自転車に乗って、サドルに左右いずれへも傾かないように座ると、両足先を同時に地面から離しても、少しの間であれば、倒れないという状態について記載し、その後、前輪と後輪が地面に接する点を結んだ線が真っ直ぐ前方に引き伸ばされているところを想定し、その先の方を見ることが重要であることが述べられているが、本件コーナーでは、少し体を前に倒して、両足を地面から離す動作をすることを勧めており、右のような目を向ける方向には触れられていない。
本件著作物では、両足で地面を蹴って自転車を発進させる場合の記載の中で、右に述べた目を向ける方向についての記載があるが、本件コーナーでは、体をまっすぐにして前を見るという当然の事項についての説明しかない。続いて、本件著作物、本件コーナーともに、倒れそうになったときの運転方法について触れており、
「左のブレーキをかけて、両足を地面に着ける。」という点では、両者ともに同じことを述べているが、そのこと自体は、あたりまえのことである上、具体的な表現はかなり異なっている。
本件著作物、本件コーナーともに、両足を蹴って自転車を走らせることができるようになると、ペダルを踏む次の段階へ進むとされているが、そのこと自体は、右のとおりアイデアに過ぎない上、両者の具体的な表現はかなり異なっている。
本件著作物では、ペダルを踏む際に、上にあがっているほうのペダルを踏むことが記載されているが、本件コーナーには、そのような説明はない。本件著作物、本件コーナーともに、交互にペダルを踏むと述べているが、それは、ペダルの踏み方としてはあたりまえのことであって、ペダルの踏み方を説明する以上、そのようにならざるを得ない。続いて、本件著作物、本件コーナーともに、倒れそうになったときの対処の仕方と止まるときの方法について述べているが、初めてペダルを踏んで進むことを説明する場合に触れるべき重要な点がこの二点であることは明らかである。また、その内容においても、本件著作物と本件コーナーでは、似かよった点があるが、そこで説明されていることは、自転車の運転方法としては、広く知られている常識的な事項であるということができる。そして、両者の具体的な表現は異なっている。
(四) 以上述べたところを総合すると、本件コーナーが本件著作物の翻案に当たるとまで認めることはできない。
4 その他、本件コーナーが本件著作物を利用したものであって、被告らが不当に利得したというべき事実は認められないから、不当利得返還請求も理由がない。
四 結論 以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 岡口基一
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