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事件 平成 10年 (ワ) 14180号 著作権侵害差止等請求事件
原告 A右訴訟代理人弁護士 柳原敏夫
被告 株式会社新橋玉木屋 右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 中村久瑠美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/09/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙目録一記載の図柄を使用した広告、包装紙、パンフレット、チラシを製作してはならない。
二 被告は、その占有する別紙目録一記載の図柄を使用した包装紙、パンフレット、チラシを廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを七分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
六 この判決は、第三項及び第五項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 主文第一項と同旨。
二 主文第二項と同旨。
三 主文第三項と同旨。
四 被告は、朝日新聞の全国版に、別紙目録四記載の謝罪文を、掲載スペースが二段抜き左右一〇センチメートル、活字の大きさが表題二〇級ゴシック、本文一六級明朝体、記名・宛名一八級明朝体で一回掲載せよ。
事案の概要
一 争いのない事実等1 原告は、江戸風俗の資料画等を描く画家である(甲九)。被告は、佃煮類の製造販売を主たる業務内容とする法人であり、年商は約一四億円、東京及びその近郊を中心として各地に店舗を有している(乙一、二)。
2 原告は、昭和三八年、「教草女房形気」廿一編上巻に記載されている煮豆売りの挿し絵(以下「本件原画」という。)を参考にして、別紙目録二記載の絵画(以下「本件絵画」という。)を制作し(甲七、九、乙八、検甲一の二)、右絵画を収録した書籍である「江戸商売図絵」を出版した(甲九、検甲一の一ないし三)。
3 被告は、従前、別紙目録三記載の図柄(以下「被告元絵」という。)を被告の包装紙、パンフレット、チラシ等に使用していた(乙四、一〇ないし一三、乙一四の一、二、乙一七、一九、二〇)が、昭和六〇年ころ、グラフィックデザイナーに被告のキャラクターデザインの作成を依頼したところ、右グラフィックデザイナーは、被告元絵に、消えかかった線をつなぎ、前後の荷箱の文字を「座ぜん豆」から「津くだ煮」及び「玉木屋」に変更し、半纏の背に被告の家紋を入れるなどの修正を加え、別紙目録一記載の図柄(以下「被告図柄」という。)を作成した(乙五、
九、一六、一八、一九)。
4 被告は、被告図柄を、被告のキャラクターデザインとして、平成七年一二月ころから平成九年八月まで、月一回又は二回、朝日新聞の夕刊の広告に使用し(甲一八の一ないし八)、その後も朝日新聞の夕刊の広告に使用している(甲二)ほか、
被告の包装紙、パンフレット、チラシ等に使用している。
二 本件は、原告が、「被告図柄は、本件絵画に依拠して作成された被告元絵を修正したもので、本件絵画の複製に当たるから、その使用は、本件絵画の複製権同一性保持権及び氏名表示権を侵害している。」と主張して、複製権及び同一性保持権に基づいて、被告図柄の使用差止め及び被告図柄を使用した包装紙等の廃棄を求めるとともに、右各権利及び氏名表示権の侵害に基づく損害賠償並びに同一性保持権及び氏名表示権の侵害に基づく謝罪文の掲載を求める事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
一 争点1 本件絵画の著作物性2 被告図柄が本件絵画の複製か否か3 損害の発生及び額4 謝罪文の掲載 二 争点に関する当事者の主張 1 争点1について (原告の主張) 本件絵画は、本件原画を模写したものであるが、絵画の模写の場合、機械的な模写でない限り、模写制作者の創作性が認められる。しかるところ、本件絵画が本件原画の機械的模写でないことは、本件原画の人物の左七分の二が欠けているのに対し、本件絵画の人物は完全な姿であること、本件原画の人物が極端にデフォルメされたものであるのに対し、本件絵画の人物は写実的に自然に描かれていることなどから明らかである。
(被告の主張) 本件絵画は本件原画の単なる模写であるから、著作物性を有しない。
2 争点2について (原告の主張)被告図柄は、被告元絵に基づいて作成されたものであるが、被告元絵は、本件絵画に依拠して作成されたものである。
また、被告図柄及び被告元絵は、いずれも本件絵画に酷似しており、とりわけ、手足の描き方、人体や荷箱に対する描き手の視点、省略部分など、本来ならば個性的な選択により異なる表現になるはずのものが一致する点が数多く見られる。
したがって、被告図柄は、本件絵画の複製に当たる。
(被告の主張) (一) 被告元絵は、被告創業者であるCをモデルに描かれた絵画であり、創業間もない江戸時代後期に制作され、二百年以上の伝統がある玉木家に代々家宝として伝えられたものである。
したがって、被告元絵が本件絵画に依拠したことはあり得ない。
(二) 被告元絵は、本件絵画と以下のような相違点がある。
(1) 本件絵画は、ペン画とも見える細い端正な線で型をとっていく作風であるのに対し、被告元絵は、太く柔らかな毛筆を用いてラフな筆運びをしている筆画である。
(2)ア 前の荷箱の底の線のうち、左より斜め右に下る線と、右より斜め左に下る線が、本件絵画では一致しているが、被告元絵では分離している。
イ 前の荷箱の中央下降線の左にある二つの点が、本件絵画には存在しないが、被告元絵には存在する。
ウ 前の荷箱の中央下降線に沿った紐の下部が、本件絵画では、箱の底まで伸びていないが、被告元絵では伸びている。
エ 前の荷箱の後ろの側面の縦線を支える横線が、本件絵画では三本であるが、被告元絵では一本である。
オ 前の荷箱の左端(物売りに近接している)の下降線が、本件絵画では三本であるが、被告元絵では一本である。
カ 前の荷箱の後ろの側面の三本の縦線が、本件絵画では途中で切れ切れになっていないが、被告元絵では途中で切れ切れになっている。
キ 物売りの頭髪で結わえた部分の形が、本件絵画では円筒形に整髪されているが、被告元絵では不整形に大きく結わえられている。
ク 物売りの頭髪が、本件絵画では、右耳から襟に向かって放物線を描いて切り込まれているが、被告元絵では、襟に接する部分は膨らみをもち、右耳から襟に向かって、完全ではないが直線である。
ケ 物売りの右肘にある線が、本件絵画では横であるが、被告元絵では縦である。
コ 半纏の背中の模様が、本件絵画では、四角っぽい箱形で左右対称に端正に描かれているのに対し、被告元絵では、ラフな墨の筆遣いで、左右対称でない。
サ 物売りの帯の柄が、本件絵画では縦縞であるが、被告元絵では丸形である。
シ 帯の幅が、本件絵画では狭いが、被告元絵では広い。
ス 帯の下部の衣服の縦線より横に伸びている線が、本件絵画では、左から一本目と二本目の間にしかないが、被告元絵では、至るところから乱雑に伸びている。
セ 物売りの足の大きさが、本件絵画では小さいが、被告元絵では大きい。
ソ 本件絵画では、物売りの足先の形、指を細かく描いているが、被告元絵では、
足の指は全く描かれていない。
タ 本件絵画では、わらじの紐を結び目まで丹念に描いているが、被告元絵では、
さっと抽象化している。
チ 本件絵画では、膝の脚絆のリボン状のものを描いているが、被告元絵では描かれていない。
ツ 本件絵画では、天秤棒の左端の紐の縫い目から突出している部分が長いが、被告元絵では短い。
テ 後ろの荷箱の後ろの側面が、本件絵画では白地であるが、被告元絵ではかすれた縦線がたくさんある。
ト 後ろの荷箱の輪郭線が、本件絵画では定規で書いたような直線であるが、被告元絵では、自由な筆遣いで箱の底の二本線は平行になっていない。
(三) 被告図柄は、本件絵画と以下のような相違点がある。
(1) 本件絵画がペン画であるのに対し、被告図柄は筆画である。
(2) 右(二)(2)アないしツの相違点がある(ただし、コの半纏の背中の模様は、被告図柄では、縦線を軸としたものになっている。)。
3 争点3について (原告の主張) (一) 複製権の侵害について原告が本件絵画を被告に使用させることにより得られる利益は、この種の使用が通常は著作権の買取りであること、一般に商標のための絵柄の買取り代金は小規模な会社の商標であっても三〇〇万を下ることはないことからすると、三〇〇万円を下らない。
また、被告は、被告元絵及び被告図柄を二五年間は使用してきたが、仮に原告が被告に本件絵画を二五年間使用させたとすると、その使用料は三〇〇万円を下らない。
(二) 同一性保持権及び氏名表示権の侵害について被告が、本件絵画に「玉木屋」などと書き加えたことにより、もともと江戸風俗として描かれた本件絵画が、被告の商標として修正され、もとのイメージが著しく損なわれた。被告の右行為は原告が本件絵画について有する同一性保持権を侵害するものである。
また、被告は、本件絵画の複製物である被告図柄に、原告の氏名を表示することなく使用しているから、被告のこの行為は原告が本件絵画について有する氏名表示権を侵害するものである。
これらの侵害により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は一〇〇万円を下らない。
(被告の主張) 損害の発生及び額については争う。
4 争点4について (原告の主張) 被告は、原告の著作者人格権を侵害した被告図柄を、朝日新聞の全国版の広告に使用し、広く世間の目に触れさせた。
したがって、原告は、著作者としての名誉声望を回復するための適当な措置として、謝罪文の掲載を求める。
(被告の主張) 原告の右主張は争う。
当裁判所の判断
一 争点1について 被告は、本件絵画は本件原画の単なる模写であるから著作物性を有しない旨主張する。
本件絵画は、前記第二の一2のとおり本件原画を参考にして制作されたものである。しかしながら、証拠(甲一、七、九、乙八、検甲一の一)と弁論の全趣旨によると、@本件原画及び本件絵画は、いずれも江戸時代の煮豆売りが荷箱を前後に下げた天秤棒を肩で担ぎ右手で右天秤棒を持っている姿を描いたものであるが、本件原画は、後ろの荷箱の途中から後ろの部分及び前の荷箱の右側の下半分の部分が描かれていないのに対し、本件絵画は、煮豆売りの姿全体が描かれていること、A本件原画は、天秤棒が前の荷箱の上面の左端にあり、また、人物の左足が後の荷箱に隠れて足首の下しか見えないのに対し、本件絵画は、天秤棒が前の荷箱の上面の中央やや左よりの位置にあり、また、人物の左足のうち太股及びすねの一部以外は後の荷箱に隠れていないなど、荷箱、天秤棒及び人物の位置関係が異なっていること、B本件原画は、人物の描き方が、肩をいかり肩にし、太股を太くするなど全体として力強さを強調した表現になっているのに対し、本件絵画は、肩はなだらかで、太股も太くなく、人物をそのまま自然に描いたものであること、C人物の各部位の描写も、本件原画では右手の肘が袖に隠れているのに対し、本件絵画では右手の肘が見えており、また、本件原画では顔は一切描かれていないのに対し、本件絵画では右の眉毛らしきものが描かれているなどの違いがあること、以上の事実が認められる。これらの事実によると、本件絵画は、本件原画をそのまま機械的に模写したものではないことは明らかであって、本件絵画は、創作性を有するものと認められる。したがって、本件絵画に著作物性を認めることができる。
二 争点2について 1 前記第二の一3のとおり、被告図柄は、被告の依頼を受けたグラフィックデザイナーが、被告元絵に、消えかかった線をつなぎ、前後の荷箱の文字を「座ぜん豆」から「津くだ煮」及び「玉木屋」に変更し、半纏の背に被告の家紋を入れるなどの修正を加えて作成したものである。
2 そこで、まず、被告元絵が本件絵画に依拠して制作され、かつ、被告元絵において本件絵画の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されているかどうかを判断する。
(一) 本件絵画と被告元絵を対比すると、次のようにいうことができる。
(1) 全体の構成本件絵画は、江戸時代の煮豆売りが、荷箱を前後に下げた天秤棒を肩で担ぎ、右手で右天秤棒を持っている姿を描いたもので、人物は全体として右ななめ前を向いているが、人物の両足は、右斜め前に向かうのではなく、横に平行に並び、人物の胴体の左側の一部並びに左足の太股及びすねの一部は後ろの荷箱に隠れている。
被告元絵は、江戸時代の煮豆売りが、荷箱を前後に下げた天秤棒を肩で担ぎ、右手で右天秤棒を持っている姿を描いたもので、人物は全体として右ななめ前を向いているが、人物の両足は、右斜め前に向かうのではなく、横に平行に並び、人物の胴体の左側の一部並びに左足の太股及びすねの一部は後ろの荷箱に隠れている。
(2) 荷箱 本件絵画の荷箱は、人物の前後に二つあり、いずれも縦に長い直方体で、前の荷箱は、上面が無地で、右の側面に、「座ぜん豆」の文字が書かれ、下部に横線が引かれ、後ろの側面は、輪郭が複数の線で描かれ、上から面の途中まで縦線が数本引かれ、右縦線の上下端にそれぞれ横線が数本引かれている。
後ろの荷箱は、上面が無地で、右の側面に「座ぜん豆」の文字が書かれ、下部に横線が引かれ、後ろの側面は、無地で下部に横線が引かれている。それ以外の面は描かれていない。
被告元絵の荷箱は、人物の前後に二つあり、いずれも縦に長い直方体で、前の荷箱は、上面が無地で、右の側面に、「座ぜん豆」の文字が書かれ、下部に二本の横線が引かれ、後ろの側面には、上から面の途中まで縦線が三本引かれ、その下端に横線が引かれている。
後ろの荷箱は、上面が無地で、右の側面に、「座ぜん豆」の文字が書かれ、下部に横線が引かれ、後ろの荷箱の後ろの側面には、直線が消えかかっているような模様があり、下部に横線が引かれている。それ以外の面は描かれていない。
(3) 天秤棒 本件絵画の天秤棒は、細長い丸棒で、両端付近に二つの突起状のものがあり、荷箱の上面で交差し右の側面の下部の横線の付近まで下がる二本の紐により、
前後の荷箱の上面の中央やや左よりの位置にそれぞれ固定されている。
被告元絵の天秤棒は、細長い丸棒で、荷箱の上面で交差し右の側面の下部の横線の付近まで下がる二本の紐により、前後の荷箱の上面の中央やや左よりの位置にそれぞれ固定されている。
(4) 人物の頭部 本件絵画の人物の頭部は、右後頭部が描かれているが、頭髪は、頭頂部の右側面には無く、後ろで結わえられ、右耳の右にもみあげがあり、右耳から襟にかけて放物線を描いて切り込まれている。顔面は右耳及び右の眉毛のみが描かれている。
被告元絵の人物の頭部は、右後頭部が描かれているが、頭髪は、頭頂部の右側面には無く、後ろで結わえられ、右耳の右にもみあげがある。右耳から襟にかけての頭髪の形状は斜め直線状に下っている。顔面は右耳以外は何も描かれていない。
(5) 人物の胴部本件絵画の人物は、背中の白い円の中に紋がある黒地の半纏を纏い、縦縞の模様の腰帯を巻いている。半纏の背中の紋は、四角っぽい箱形で左右対称である。腰帯の下の衣服は、白地で縦横の線があり、横線は、左から一本目と二本目の縦線の間にのみある。肩はなだらかに自然に曲がっている。
被告元絵の人物は、背中の白い円の中に紋がある黒地の半纏を纏い、腰帯を巻いているが、腰帯の模様は判然としない。半纏の背中の紋も、判然としない。腰帯の下の衣服は、白地で縦横の線があり、横線は、不規則に多数存する。肩はなだらかに自然に曲がっている。
(6) 人物の手本件絵画の人物の右手は、右肘を曲げ、手首をやや傾けて、天秤棒を掴んでいるもので、右肘から先が半纏の袖から露出し、右肘の部分に斜めの曲線が描かれている。右手の指は全て描かれている。左手は描かれていない。
被告元絵の人物の右手は、右肘を曲げ、手首をやや傾けて、天秤棒を掴んでいるもので、右肘から先が半纏の袖から露出し、右肘の部分に縦の線が描かれている。右手の指及び左手は描かれていない。
(7) 人物の足本件絵画の人物の足は、両足がほぼ真横に平行に並び、いずれの足も太股は太くなく、膝がやや曲がり、両膝が曲線で描かれ、膝のくぼみが曲線で描かれ、上下にリボン状の結び目がある脚袢を着け、わらじを履き、足の指は、右足は全部、左足は親指のみが描かれている。
被告元絵の人物の足は、両足がほぼ真横に平行に並び、いずれの足も太股は太くなく、膝がやや曲がり、膝のくぼみが曲線で描かれ、脚袢らしきものを着け、わらじらしきものを履き、足の指は描かれていない。脚袢の上下にリボン状の結び目があるとまでいうことはできない。
(二) 右(一)認定の事実によると、被告元絵は、本件絵画と、基本的な構図のみならず、その細部に至るまで極めて多くの類似点を有し、本件絵画と酷似しているものと認められる。
被告元絵は、本件絵画と比べた場合、前記第三の二2被告の主張(二)(2)アないしキの違いがあるほか、右(一)で認定したような違いがある。しかし、これらは、いずれも細かい点である上、被告元絵は、本件絵画と比べた場合、細部が表現されておらず、本件絵画では複数の線で表現されている部分が太い一本の線で表現されるなどしており、そのために生じた違いということができる部分も少なくない。
(三) 右(二)のとおり、被告元絵は本件絵画に酷似しているところ、このようなことは本件絵画に依拠したのでなければおよそ考えられないこと、前記第二の一2のとおり、本件絵画は、昭和三八年に制作、出版されているが、被告が被告元絵を昭和三八年より前から使用していたことを認めるに足りる証拠はないこと等を総合すると、被告元絵は、昭和三八年以降に、本件絵画に依拠して作成されたものと認めることができる。
被告は、被告元絵は、被告の創業間もない江戸時代後期に作成されたものであり、本件絵画に依拠して作成されたものではないと主張するが、この主張を採用することはできない。
そして、右(二)のとおり、被告元絵は本件絵画に酷似していることからすると、
被告元絵において、本件絵画の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められる。
3 被告図柄は、前記1のとおり被告元絵に若干の修正を加えて作成されたものであるから、被告図柄は、本件絵画に依拠して、本件絵画の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものと認められる。
4 したがって、被告図柄は本件絵画の複製であるということができるから、被告が被告図柄を使用した広告、包装紙、パンフレット、チラシ等を製作する行為は本件絵画の複製権を侵害するものということができる。
また、被告図柄は、本件絵画の前後の荷箱の文字を「座ぜん豆」から「津くだ煮」及び「玉木屋」に変更し、半纏の背の紋に被告の家紋を入れるなどしているから、本件絵画を改変したものであり、この改変は原告の同一性保持権を侵害するものということができる。
さらに、被告が被告図柄を広告、包装紙、パンフレット、チラシ等に使用する際に原告の氏名を表示しなかったことは当事者間に争いがないところ、これは、原告の氏名表示権を侵害するものということができる。
三 争点3について1 証拠(甲五、八、乙一九)によると、次の事実が認められる。
原告は、平成八年二月ころ、被告が被告図柄を新聞の広告等に使用していることを知ったことから、知人のDに相談し、被告との交渉を依頼した。
右Dは、被告に対し、同年三月、被告図柄が本件絵画を使用したものか尋ねる手紙を送付し、同年四月、被告図柄の原作の確認を求めたところ、同年五月三〇日に、被告から、被告図柄の原画を探しているので待ってほしいとの連絡が入ったが、その後被告から連絡がなかったことから、同年七月一一日付けで、被告に対し、内容証明郵便を送った。
右認定の事実に、前記二認定のとおり本件絵画と被告図柄は酷似しており、被告図柄が本件絵画を複製したものであることは、それらを対比すれば容易に知り得ることを総合すると、被告に右内容証明郵便が送られた同年七月ころには、被告は、被告図柄を使用して広告等を製作することが本件絵画の複製権並びに同一性保持権及び氏名表示権を侵害することを知り得たものと認められる。
前記第二の一4の事実に証拠(乙二、一〇、検甲二ないし四)と弁論の全趣旨を総合すると、被告は、平成八年七月以降本件口頭弁論終結時までの間において、被告図柄を使用した広告を朝日新聞の夕刊に掲載したほか、被告図柄を使用した包装紙、パンフレット、チラシ等を製作したものと認められる。
したがって、被告は、右時期以降の右各権利の右侵害行為によって生じた原告の損害を賠償する責任がある。
なお、右時期より前の被告の故意又は過失については、これを認めるに足りる証拠はない。
2 複製権の侵害による損害について原告が、被告の過失が認められる平成八年七月から本件口頭弁論終結時までの間において本件絵画の複製権の行使について受けるべき対価の額について検討するに、
右の期間が約三年間であること、右1で認定した被告図柄の使用態様、前記第二の一1で認定した被告の企業規模等の諸事情を考慮すると、原告が受けるべき対価の額は、三〇〇万円を下回らないと認めることができる。
3 著作者人格権の侵害による損害について原告は、被告による著作者人格権侵害行為によって、精神的苦痛を被ったものと認められる。
そして、本件に現われた諸般の事情、殊に、本件絵画に被告の名が記載されて広告等に使用されたことを考慮すると、著作者人格権侵害による精神的苦痛に対する慰謝料の額は一〇〇万円が相当というべきである。
四 争点4について 被告の著作者人格権侵害行為によって、原告の名誉声望、すなわち、原告の人格的価値について社会から受ける客観的な評価が害されたとまで認めることはできないから、本訴請求のうち謝罪文の掲載を求める請求は理由がない。
五 以上の次第で、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由がある(遅延損害金の起算日は、本件口頭弁論終結日とする。)。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 岡口基一
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