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事件 平成 11年 (ワ) 4804号 著作権侵害差止等請求事件
平成 11年 (ワ) 13093号 著作権侵害による損害賠償請求事件
原告 社団法人日本音楽著作権協会右代表者理事 【A】 右訴訟代理人弁護士 北本修二
被 告(A事件)【B】
被 告(A事件)株式会社キュウザ 右代表者代表取締役 【B】
被 告(B事件)株式会社オアシスジャパン 右代表者代表取締役 【C】 右被告ら三名訴訟代理人弁護士 鈴江勝
同 田村雅嗣
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/04/18
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告株式会社キュウザは、原告に対し、金二二一六万一二七〇円及び別紙七遅延損害金目録1記載の金員を支払え。
二 被告株式会社オアシスジャパンは、原告に対し、金七〇〇万〇八四〇円及び別紙八遅延損害金目録2記載の金員を支払え。
三 被告【B】は、原告に対し、金二六五四万八四七〇円(内金二〇九四万〇〇四〇円については被告株式会社キュウザと連帯して、内金五六〇万八四三〇円については被告株式会社オアシスジャパンと連帯して)及び内金二四一四万八四七〇円に対する平成一一年一一月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その六を被告株式会社キュウザと被告【B】の連帯負担とし、その三を被告株式会社オアシスジャパンと被告【B】の連帯負担とし、その余を原告の負担とする。
六 この判決の主文第一項ないし第三項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 被告株式会社キュウザ及び被告【B】は、原告に対し、連帯して、金二五二二万一二七〇円及び別紙七遅延損害金目録1記載の金員を支払え。
二 被告株式会社オアシスジャパン及び被告【B】は、原告に対し、金七六三万〇八四〇円及び別紙八遅延損害金目録2記載の金員を支払え。
事案の概要等
一 事案の概要 本件は、音楽著作権の仲介団体である原告が、カラオケ歌唱室(カラオケボックス)の経営者等に対し、原告の許諾を得ずに、原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物を使用してカラオケ歌唱室を経営していたことは、原告の著作権を侵害するとして、著作権法114条2項、民法704条709条719条及び商法266条ノ三第一項に基づいて、損害賠償又は不当利得の返還を請求している事案である。
二 争いのない事実及び証拠により明白な事実(証拠により認定した事実は、後掲各証拠による。) 1 原告 (一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づく許可を受けた唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し(内国著作物についてはその著作権者から著作権信託契約約款により、外国著作物については、著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約による。)、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめレコード、映画、出版、
興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
(二) 別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物は、いずれも原告が著作権を管理する管理著作物であって、カラオケ歌唱室において、日常的に反復使用されている楽曲である。
2 被告ら (一)(1) 被告株式会社キュウザ(被告株式会社キュウザは、平成六年一一月に商号を株式会社久三から現商号に変更しているが、以下、商号変更の前後を通じて、「被告キュウザ」という。)は、平成二年一月二六日から平成一一年五月三一日まで、大阪府泉佐野市<以下略>所在の「ミスターマイクマン羽倉崎店」(以下「羽倉崎店」という。)において、カラオケ歌唱室の営業を行っていた。
(2) 被告株式会社オアシスジャパン(被告株式会社オアシスジャパンは、
当初の商号を泉不動産株式会社といい、これを株式会社オアシスと変更し、その後、現商号に変更しているが、以下、商号変更の前後を通じて「被告オアシスジャパン」という。)は、平成元年一一月一日から平成八年四月三〇日まで、大阪府泉佐野市<以下略>所在の「ミスターマイクマン樫井店」(以下「樫井店」といい、
羽倉崎店と併せて「本件各店舗」という。)において、カラオケ歌唱室の営業を行っていた。平成八年五月一日、被告オアシスジャパンは、樫井店の営業を被告キュウザに譲渡し、被告キュウザは、同日から平成一一年五月三一日まで、樫井店においてカラオケ歌唱室の営業を行っていた。
(3) 本件各店舗には、それぞれ二四室のカラオケ歌唱室があり、各歌唱室の広さ及び設置されたカラオケ機器の種類は、別紙一記載のとおりであった(被告【B】本人、弁論の全趣旨)。
(二) 被告【B】(以下「被告【B】」という。)は、被告キュウザが本件各店舗を経営していた期間を通じて同社の代表取締役であり、また、被告オアシスジャパンが樫井店を経営していた期間を通じて同社の取締役であった者である。
(三) 本件各店舗におけるカラオケ歌唱室の状況は、次のとおりであった。
(甲7、乙1、乙27、被告【B】本人及び弁論の全趣旨) (1) 本件各店舗は、輸送用コンテナを改造して歌唱室を構成したものであり、各歌唱室は分離され、それぞれの部屋にアンプ、オートチェンジャー、コマンダー(カラオケ予約受付機)、モニターテレビ、マイク、スピーカー等が設置され、歌詞付楽曲を掲載した検索リストが備えられていた。
(2) 本件各店舗では、従業員らが、来店した客をカラオケ関連機器を設置した各歌唱室に案内し、あるいは客に使用可能な歌唱室を指示する。
客が、各歌唱室に備え付けられた歌詞付楽曲を掲載した検索リストの中から曲目を選択し、カラオケ予約受付機を介して当該曲目を予約すると、モニターテレビに選択した曲目の歌詞が映し出されるとともに楽曲が再生され、客は、これに合わせて歌唱することができる。ビデオカラオケ装置では、モニターテレビに歌詞とともに背景に動画映像が映し出される。
(3) 本件各店舗の料金は時間単位制であり、客は受付にて利用時間、利用人数等を申告し、利用時間に応じた利用料金を支払う。また、本件各店舗では、カラオケ歌唱室の使用料金とは別料金で飲食物を提供していた。
三 争点 1 本件各店舗における管理著作物の利用は、原告の著作権を侵害するか。
2 被告【B】は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンと共同して本件各店舗を経営していた者として、著作権侵害につき共同不法行為責任を負うか。
3 被告【B】は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの取締役として、
同被告らの著作権侵害によって原告に生じた損害について、商法二六六ノ三第一項により、連帯して損害賠償責任を負うか。
4 被告らの損害賠償責任及び不当利得返還義務の有無及びその額 (一) 被告らの損害賠償責任の有無及び被告らの行為により原告が被った損害額 (二) 被告らの不当利得返還義務の有無並びに被告らの利得及び原告の損失額 5 原告の被告らに対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権について、
消滅時効の成否 四 当事者の主張 1 争点1について 【原告の主張】 (一) カラオケ歌唱室における管理著作物の利用と著作権侵害 (1) 原告の許諾を受けることなく、カラオケ関連機器を使用したカラオケ歌唱室において管理著作物を再生(演奏)・歌唱する行為は、著作権の支分権の一つである演奏権を侵害する。また、いわゆるLDカラオケにより、録画した映画の上映とともに歌詞を示し伴奏音楽を再生することは、著作権法2条1項17号(平成九年法律第八六号による改正前の著作権法2条1項19号、平成一一年法律第七七号による改正前の著作権法2条1項18号)の「上映」に当たるから、原告の許諾を受けることなくこれを公に行うことは、平成一一年法律第七七号による改正前の著作権法26条2項(現行著作権法22条の2参照)の上映権を侵害する。右上映の際に顧客が歌唱することは、右と同様に演奏権を侵害する。
(2) カラオケ歌唱室の経営者は、各歌唱室内にカラオケ装置を設置して客がカラオケ装置を操作できるようにしており、来店した客を各歌唱室に案内し、求められればカラオケ装置の操作方法を説明する。客は、経営者が用意した曲目の範囲内で選曲する他はない。経営者は、このような形態における管理著作物利用を営業内容とし、直接的に利益を得ているのであって、管理著作物の再生(演奏)主体は、経営者である。
また、経営者は、各歌唱室ごとにマイク及び歌詞付楽曲を掲載した索引リストを備え付けて客の利用に供しており、客は、経営者が指定した特定の歌唱室において、経営者が指定した時間内でのみ歌唱することが認められ、客が歌唱する楽曲は経営者が用意した楽曲の範囲内に限定されているのであるから、客は、経営者の管理の下に歌唱しているものである。そして、経営者は、客に歌唱させること自体により、直接的に営業上の利益を得ているのであって、客による歌唱についての主体は、経営者である。
さらに、各店舗に来店する個々の客は、経営者にとっては不特定の者であるから、経営者は公衆に直接聞かせることを目的として、管理著作物を利用している。
(3) したがって、被告らは、本件各店舗において、公に、管理著作物を再生(演奏)し、また、客に歌唱させていたことになる。
(二) 著作権法附則14条の適用について 本件各店舗においては、飲食物を提供しているから、その営業は、著作権法施行令附則3条1号にいう「喫茶店その他客に飲食させる営業」に該当する。
また、本件各店舗は、歌唱室ごとに防音構造となっていて音響効果が高められており、備え付けられたカラオケ装置は業務用の高性能のカラオケ装置であるから、同号にいう「客に音楽の鑑賞をさせるための特別の設備を設けているもの」に該当する。さらに、被告らは、本件各店舗がカラオケ歌唱室の営業であることを標榜し、
客を誘引しているから、「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し」ているものに該当する。
したがって、本件各店舗の営業は、著作権法施行令附則3条1号所定の事業に該当するから、著作権法附則14条の適用はない。
【被告らの主張】 (一) カラオケ歌唱室の経営者は、客に対して閉鎖された部屋を提供するものであって、客は、その空間内で自らカラオケ装置を操作して、自ら好むままに音楽著作物を選んで使用するものにすぎず、演奏、歌唱の主体は客である。一連の行為は全く客の任意に行われ、カラオケ歌唱室の経営者や従業員が介入する余地はないのであって、最高裁で著作権侵害が認められたカラオケスナックの場合とは情況を異にする。
(二) 本件各店舗は、一室の収納可能人数が数名から多くて十数名程度であって、一室のカラオケ歌唱室を使用する客は相互に個人的な結合関係が存在し、各歌唱室はドアを閉めれば完全に閉塞された空間となるのであるから、このような場所で音楽著作物を再生等使用しても、特定少数の者が使用したとしか評価できない。すなわち、カラオケ歌唱室における音楽著作物の利用は、本質的には、経済的効用を問題とする余地のない私的利用の延長線上に位置するものであって、著作権法22条にいう「公に」の要件を満たさない。
(三) 本件各店舗における飲食物の提供は、場所の提供に付随して行われるものにすぎない。また、本件各店舗の歌唱室は、荷物運搬用のコンテナを改造して作られ、その歌唱室に客の歌唱の伴奏役としてカラオケ装置を設置したものにすぎず、到底、音楽喫茶やレコード喫茶と同様の音楽を鑑賞させる特別の設備を施したと評価することはできない。さらに、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンは、
本件各店舗を営業する際、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨広告していたものでもない。
したがって、本件各店舗は、著作権法施行令附則3条1号の適用はなく、著作権法附則14条が適用される。
2 争点2について 【原告の主張】 被告【B】は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンと共同して、本件各店舗の営業を行っていた。被告【B】は、本件各店舗の開業以来、経営者として原告との交渉に対応していたものであり、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの事実上の主宰者であって、両会社とともに本件各店舗の経営者である。
【被告【B】の主張】 本件各店舗の営業は、平成一一年六月一日に被告キュウザから有限会社マイクマンに譲渡されたが、右譲渡までは、いずれも被告オアシスジャパンあるいは被告キュウザが経営主体であり、被告【B】が共同して経営主体となった事実はない。
3 争点3について 【原告の主張】 被告【B】は、被告キュウザの代表取締役として、また、被告オアシスジャパンの取締役として、本件各店舗の営業を管理支配し、業務を執行していた者であり、法令を遵守して右各社の業務執行をなすべき義務があるところ、悪意又は重過失により、著作権法に違反して管理著作物の著作権を侵害した。
よって、被告【B】は、被告キュウザの本件各店舗の経営期間及び被告オアシスジャパンの樫井店の経営期間にかかる原告の損害について、商法266条ノ三第一項により、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンと連帯して賠償すべき責任がある。
【被告【B】の主張】 被告【B】が被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの業務執行あるいは意思決定として、著作物使用料相当額の金銭を支払わなかったとしても、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンは、対外的に当然負担する必要のある債務を負担するだけで、損害を被るわけではないから、被告【B】に取締役としての任務懈怠はない。
また、被告【B】は、カラオケ機器のリース代金や有線カラオケの料金の中に音楽著作物の使用料金も含まれるものと解釈し、それ以上に原告に対して著作物の使用料金を支払うことの正当性に強く疑問を抱いていたほか、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンは、当時負担していた経費以外に著作物使用料を負担すると、会社の経営存続を危うくする可能性があり、支払を継続することはできなかった。それ故、被告【B】は、会社の経営判断として、敢えて、原告との使用許諾契約を締結しなかったという側面もある。
さらに、カラオケ歌唱室の経営において、その経営者が原告に対し著作物使用料を支払う必要があるか否かについて、著作権法は一義的に明確ではなく、これを肯定した最高裁判例もない状況下で、被告【B】が、会社の業務執行として、
不必要な出費を防ぎ、会社財産を確保するために、取りあえず原告への著作物使用料の支払に疑問を呈し、最終判断を裁判所に委ねることも、会社経営上の判断としては認められてしかるべきである。加えて原告は、被告らに対し、著作物使用料の支払について、平成二年から平成五年ころまでは、年二ないし三回程度打診するのみで、その後は約二年九か月も被告らと接触もせず放置するなど、被告【B】に対し、積極的に正当性を示して著作物使用料の支払を求め続けたものでもない。
したがって、被告【B】は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの取締役として、会社に対する任務懈怠について悪意又は重過失は存しない。
4 争点4について (一) 争点4(一)について 【原告の主張】 (1) カラオケ歌唱室における著作物使用料 平成九年八月一〇日までのカラオケ歌唱室の使用料は、カラオケ歌唱室の使用料率表に基づき、別紙二記載1のとおりであり、平成九年八月一一日以降のカラオケ歌唱室の使用料は、平成九年八月一一日一部変更認可にかかる著作物使用料規程に基づき、同別紙記載2のとおりである。
(2) 本件各店舗の部屋数、各歌唱室の広さ、設置機器の種類は、別紙一記載のとおりであり、したがって、本件各店舗の使用料相当額は、被告キュウザの本件各店舗の経営期間(被告【B】との共同経営)については別紙三記載2の合計一三二七万一四四〇円に別紙四記載3の合計六四三万九八二〇円を加算した二〇一六万一二七〇円であり、被告株式会社オアシスジャパンの樫井店の経営期間(被告【B】との共同経営)については別紙四記載2の合計六三五万〇八四〇円である。
(3) 弁護士費用 被告らは、右使用料相当額の任意の支払に応じないため、原告は本件各訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。右弁護士費用は、被告キュウザの本件各店舗の経営期間にかかる部分については五〇六万円、被告オアシスジャパンの樫井店の経営期間にかかる部分については一二八万円が相当である。
(4) よって、原告は、被告らに対し、著作権法114条2項に基づいて、
被告キュウザ及び被告【B】に対しては二五二二万一二七〇円、被告オアシスジャパン及び被告【B】に対しては七六三万〇八四〇円の損害賠償の支払を求める。
また、本件各店舗が被告キュウザと被告【B】との、また、樫井店が被告オアシスジャパンと被告【B】との共同経営と認められないとしても、被告【B】に対しては、商法266条ノ三第一項に基づき、右合計三二八五万二一一〇円の損害賠償の支払を求める。
【被告らの主張】 争う。
(二) 争点4(二)(不当利得)について 【原告の主張】 仮に、右(一)の損害賠償請求に理由がないとしても、被告らは、原告の許諾その他何らの権原なくして、原告の管理著作物を本件各店舗において使用して原告の著作権を侵害し、右と同額の損害を原告に与え、同額の利益を得た。被告らは、管理著作物の利用について、原告から使用許諾手続の督促を受けていたにもかかわらず、右手続をしないまま、本件各店舗において無断利用を続けたのであって、悪意の受益者に当たるから、民法704条に基づき、不当利得の返還を求める。
【被告らの主張】 争う。
5 争点5(消滅時効)について 【被告らの主張】 (一) 原告の被告らに対する損害賠償請求権については、平成八年六月以前の部分については、既に消滅時効期間が経過している。
被告キュウザ及び被告オアシスジャパンは、右時効を援用する。
(二) 原告の被告らに対する不当利得返還請求権の消滅時効期間は、商事債権として五年間と解すべきである。
すなわち、原告と被告キュウザ及び被告オアシスジャパンとの間に著作物利用許諾契約が存在する場合には、その使用料請求権は商行為によって生じた債権であるから商事債権となる。本件における不当利得返還請求権は、右債権が変形したもの、あるいは実質的に同一視できる債権であるから、商事債権の消滅時効期間となる(最判昭和三五年一一月一日・民集一四巻一三号二七八一頁)。
被告らは、右時効を援用する。
【原告の主張】 被告らの消滅時効の主張は争う。
本件における不当利得返還請求権は、法律の規定に基づいて生じるものであって、商行為によるものではないから、時効期間は一〇年である(最判昭和五五年一月二四日・民集三四巻一号六一頁、最判平成三年四月二六日・判例時報一三八九号一四五頁)。
当裁判所の判断
一 争点1について (一) 前記第二の二2(三)記載の各事実によれば、本件各店舗では、客は、指定された歌唱室内で、経営者が用意した特別のカラオケ装置を使って、同じく経営者が用意した楽曲ソフトの範囲内で伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を行うものであり、しかも右再生・歌唱は利用料金を支払う範囲で行うことができるにすぎない。したがって、客による再生・歌唱は、本件各店舗の経営者の管理の下で行われているというべきであり、しかもカラオケ歌唱室としての営業の性質上、店舗経営者はそれによって直接的に営業上の利益を収めていることは明らかであるから、著作権法の規律の観点からは本件各店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は、
経営者であるというべきである。
(二) 右のとおり、本件各店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は経営者であると解すべきところ、経営者にとって、本件各店舗に来店する客が不特定多数であることは明らかであるから、経営者による伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものであるということができる。
被告らの主張は、伴奏音楽の再生及び歌唱の主体が客であることを前提とするものであり、失当である。
(三) 第二の二(三)記載の各事実からすれば、本件各店舗の事業が、「営利を目的として音楽の著作物を使用する事業」に該当することは明らかである。また、
第二の二2(三)(3)記載の事実からすれば、本件各店舗の営業が「客に飲食をさせる営業」であることも認められる。さらに、客は、本件店舗内において、再生された伴奏音楽を聴き、それに合わせて歌唱することを楽しむのであって、それは「音楽を鑑賞」することにほかならず、前記第二の二(三)(1)記載の事実からすれば、本件各店舗においては「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」ものといえる。
したがって、本件各店舗における営業は、著作権法施行令附則3条1号に該当するから、著作権法附則14条の適用はない。
(四) 以上によれば、本件各店舗の経営者は、本件各店舗において、カラオケ関連機器を使って、管理著作物を公に再生及び歌唱することによって、原告の演奏権を侵害したものと認められる。
また、LDカラオケ装置により、録画した映画の上映とともに歌詞をモニターテレビに映し伴奏音楽を再生することは、平成九年法律第八六号による改正前の著作権法2条1項19号、平成一一年法律第七七号による改正前の著作権法2条1項18号(現行著作権法2条1項17号)にいう「上映」に当たるから、本件各店舗の経営者は、映画の著作物において複製されている著作物を公に上映したものであり、原告の上映権を侵害する(平成一一年法律第七七号による改正前の著作権法26条2項。現行著作権法22条の2参照)。
二 争点2について 本件全証拠によっても、本件各店舗について、被告【B】が被告キュウザあるいは被告オアシスジャパンと共同して経営を行っていたと認めるに足りる証拠はない。
かえって、証拠(乙2〜13、16、23ないし27(証拠番号に枝番が付されているものはすべて含む。以下同じ。))によれば、羽倉崎店は、平成二年一月二六日から平成一一年五月三一日までは被告キュウザが単独で経営主体であったこと、樫井店は、平成元年一一月一日から平成八年四月三〇日までは被告オアシスジャパンが、平成八年五月一日から平成一一年五月三一日までは被告キュウザが、それぞれ単独で経営主体であったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
したがって、原告の主張は採用できない。
三 争点3について 1 証拠(甲7ないし27、被告【B】本人)によれば、原告は、平成二年四月九日に本件各店舗においてカラオケボックスとしての営業が行われていることを発見し、平成二年五月一四日に本件各店舗に電話をして、部屋数、設置されているカラオケ装置の種類、開店年月日を確認したのを始めとして、A事件の訴訟提起に至るまでに、被告らとの間で、概要、別紙六交渉経緯記載のとおりの著作物使用許諾契約についての交渉等を行ったことが認められる。
そして、証拠(甲25、被告【B】本人)によれば、被告【B】は、遅くとも平成三年二月一四日の時点においては、管理著作物をカラオケ歌唱室において利用する場合には、原告の許諾を得なければならないことについては認識していたものと認められる。
そうすると、被告【B】は、遅くとも平成三年二月一四日以降は、被告キュウザの代表取締役として本件各店舗の、また、被告オアシスジャパンの取締役として樫井店の、カラオケ歌唱室における音楽著作物の使用について、原告から著作権法の趣旨の説明、過去の著作物使用料相当額の精算処理及び著作物使用許諾契約の締結の催告等を受け、本件各店舗のカラオケ歌唱室における管理著作物の使用が著作物の無断使用による著作権の侵害行為に当たること、及び、無断使用期間の使用料相当損害金及び遅延損害金を支払った上、利用許諾契約を締結しなければならないことを知りながらこれを放置し、右支払及び契約締結をせずに管理著作物の使用を継続することによって原告の著作権を侵害し、これにより原告に損害を与えたものと認められるから、取締役としての任務の懈怠について、少なくとも重過失があると認められる。
2 この点、被告【B】は、被告【B】が被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの業務執行あるいは意思決定として、著作権使用料相当額の金銭の支払義務を履行しなかったとしても、会社が対外的に当然負担する必要のある債務を負担するだけであり、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンは、特に損害を被るわけではないから、被告【B】の会社に対する任務懈怠行為は存在しないと主張する。しかし、商法266条ノ三第一項の規定は、第三者保護の立場から、取締役が悪意又は重大な過失により会社に対する義務に違反し、よって第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係がある限り、
会社が右任務懈怠の行為によって損害を被った結果、ひいて第三者に損害を生じさせた場合であると、直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接第三者に対し損害賠償の責に任ずることを定めたものであるところ(最高裁昭和四四年一一月二六日大法廷判決・民集二三巻一一号二一五〇頁参照)、被告【B】は、前記のとおり、取締役としての任務を懈怠して、直接に第三者たる原告に損害を与えたものであって、右著作権侵害行為により被告キュウザ及び被告オアシスジャパンが何らの損害を被っていないとしても、当該事実は被告【B】の商法266条ノ三第一項に基づく責任に影響を与えるものではなく、被告らの主張は失当といわざるを得ない。
また、被告【B】は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンとすれば、
当時負担していた経費以外にさらに著作物使用料を負担するとすれば、会社の経営存続を危うくする可能性があり、会社の経営判断として、敢えて、原告との使用料契約を締結しなかったという側面もあると主張して、取締役としての任務懈怠についての重過失の存在を否認する。しかし、被告【B】は、原告の許諾を得ずに本件各店舗のカラオケ歌唱室において管理著作物を使用することにより、日々、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンの業務執行として、原告の著作権を侵害する行為を継続し、これによって原告に損害を与え続けたものであるから、通常の商取引等に基づく債権について、会社の経営判断として支払を拒絶する場合と同列に論じることはできない。被告【B】の主張は、著作権侵害行為の継続を正当化する理由とはなり得ないことが明らかであるから、これを採用することはできない。
さらに、被告【B】は、会社が既にカラオケ機器のリース代金や有線カラオケの料金などを負担していたことから、その中に当然原告への使用料も含まれているものと解釈し、それ以上に原告に対しても著作物の使用料を支払うことの正当性に強く疑問を抱いていた、あるいは、カラオケ歌唱室における著作物の利用について,原告に使用料を支払う義務があるか否かは一義的に明確ではなく,最終判断を裁判所に委ねることも会社経営上の判断としては認められるべきであるなどとも主張する。しかし、前記のとおり、被告【B】は、遅くとも平成三年二月一四日の時点においては、管理著作物をカラオケ歌唱室において利用する場合には、原告の許諾を得なければならないことについては十分に認識しており、証拠(甲25)によれば、被告【B】が問題としていたのは、もっぱらその使用料の算定方法、額、あるいは他のカラオケ歌唱室営業者の原告との契約率などであると認められるから、
被告【B】の主張を採用することはできない。
3 したがって、被告【B】は、平成三年二月一四日以降に被告キュウザ及び被告オアシスジャパンが本件各店舗において別添カラオケ楽曲リスト記載の管理著作物を使用したことにより、原告に与えた損害について、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンと連帯して、損害を賠償する責任がある。
四 争点4(一)について 1 前記一ないし三において認定判断したところによれば、原告は、被告キュウザが羽倉崎店を経営した平成二年一月二六日から平成一一年五月三一日まで、並びに、被告オアシスジャパンが樫井店を経営した平成元年一一月一日から平成八年四月三〇日まで及び被告キュウザが樫井店を経営した平成八年五月一日から一一年五月三一日までの、本件各店舗における管理著作物の無断使用により、使用料相当額の損害を被ったものと認められる。
2 ところで、証拠(甲3ないし5、7)及び弁論の全趣旨によれば、平成九年八月一一日に一部変更が認可される前の著作物使用料規程(昭和五九年六月一日一部変更認可以降のもの)においては、カラオケ歌唱室における著作物の使用料率を直接定めた規定は存在せず、原告は、カラオケ歌唱室における音楽著作物の使用料徴収について、「カラオケ歌唱室の使用料率表(年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合)」と題する使用料率表を策定し、これに基づいて徴収を行っていたことが認められる。右使用料率表(甲4)には、「著作物使用料規程第2章第2節演奏等の3『演奏会以外の催物における演奏』の(7)『その他の演奏』の規定」に基づいて定めたものである旨記載されているが、その点はひとまずおくとしても、前記著作物使用料規程の全体の趣旨に照らし、右使用料率表は、なお、著作物使用料規程に依るものということができるから、これを平成九年八月一一日一部変更認可にかかる著作物使用料規程(即日施行)が施行される前の原告の使用料相当損害額の算定の基礎となし得るものと解するのが相当である。
また、証拠(甲5)によれば、平成九年八月一一日変更認可にかかる著作物使用料規程には、その第二章第二節演奏等4「カラオケ施設における演奏等(1)」において、カラオケ歌唱室における著作物使用料が定められており、右規程は同日施行されたことが認められるから、同日以降は、右規程が原告の使用料相当損害額の算定の基礎となるものということができる。
そこで、これらに基づいて、原告が通常徴収するカラオケ使用によるカラオケ歌唱室における著作物の使用料についてみると、前掲各証拠によれば、平成九年八月一〇日までは、別紙二記載1のとおりであったこと、平成九年八月一一日以降は、同別紙記載2のとおりであることがそれぞれ認められる。
3(一) 本件各店舗におけるカラオケ歌唱室の数、広さ、設置されていたカラオケ装置の種類は、別紙一記載のとおりであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件各店舗の基準単位料金は、一時間当たり五〇〇円までの範囲であると認められる。
したがって、これらに基づいて、本件各店舗におけるカラオケ歌唱室における管理著作物の使用料相当額を算定すると、被告キュウザが羽倉崎店を経営していた期間については別紙三記載2のとおり合計金一三七二万一四四〇円であり、
また、被告オアシスジャパンが樫井店を経営していた期間(平成元年一一月一日から平成八年四月三〇日まで)については別紙四記載2のとおり合計六三五万〇八四〇円、被告キュウザが樫井店を経営していた期間(平成八年五月一日から平成一一年五月三一日まで)は同別紙記載3のとおり合計六四三万九八三〇円となる。
(二) また、被告【B】は、先に認定判断したとおり、少なくとも平成三年二月一四日以降に、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンが原告の許諾を得ずに本件各店舗において別添カラオケ楽曲リスト記載の管理著作物を利用したことにより原告に与えた損害について、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンと連帯して賠償する必要があるところ、右期間における原告の損害を算定すると、被告キュウザの経営にかかる期間については、別紙五記載1のとおり、金一九〇四万〇〇四〇円であり、被告オアシスジャパンの経営にかかる期間については同別紙記載2のとおり、金五一〇万八四三〇円となる。
4 本件各店舗における管理著作物の演奏・歌唱・上映による原告の損害は、
本来、本件各店舗における個々の右各行為により生じているものということができるが、右のように月額使用料相当額を損害金として算定する場合においても、これらの損害は遅くとも当月末日の経過により発生しているものと解されるから、前記3(一)に対する遅延損害金は、少なくとも、それぞれ別紙七遅延損害金目録1及び別紙八遅延損害金目録2記載のとおり発生するものと認められる。
また、商法266条ノ三第一項の定める損害賠償責任は、法が取締役の責任を加重するために特に認めたものであって、不法行為に基づく損害賠償責任の性質を有するものではないから(前掲最高裁大法廷判決、昭和四九年一二月一七日第三小法廷判決・民集二八巻一〇号二〇五九頁参照)、履行の請求を受けたときに遅滞に陥るものと解するのが相当である(最高裁平成元年九月二一日第一小法廷判決・判例時報一三三四号二二三頁参照)。しかるところ、本訴において、原告が、
被告【B】に対し、前記三で述べた取締役としての損害賠償義務の履行請求をしたのは、本訴における原告の平成一一年一一月五日付準備書面においてであって、それ以前に履行の請求をしたことの主張・立証はないから、被告【B】の取締役としての前記3(二)の損害賠償債務は、右準備書面が被告【B】に送付された日の翌日である平成一一年一一月六日に遅滞に陥るものと解するのが相当である。
5 本件訴訟の提起、追行のために原告は弁護士に依頼したところ、本件に現れた一切の事情を考慮するならば、弁護士費用相当額としては、被告キュウザが本件各店舗を経営した期間にかかる損害賠償請求部分につき二〇〇万円(被告【B】は内金一九〇万円につき連帯負担)、被告オアシスジャパンが樫井店を経営した期間にかかる部分につき六五万円(被告【B】は内金五〇万円につき連帯負担)がそれぞれ相当である。
五 争点5(消滅時効)について 前記四で認定判断したとおり、原告は、被告キュウザ及び被告オアシスジャパンが本件各店舗において管理著作物を原告の許諾を受けることなく演奏・歌唱・上映したことにより、著作物使用料相当額の損害を被ったものと認められるが、これらの請求権は不法行為に基づく損害賠償請求権であるから、民法724条により、被害者等が損害及び加害者を知った時から三年の経過によって時効により消滅することになる。
そこで、原告が本件各店舗における管理著作物の使用により被った損害について、損害及び加害者を知った時期について検討すると、前記のとおり、原告は、
平成二年四月九日に本件各店舗において管理著作物が使用されていることを知ったものであるが、証拠(甲7、25、26)によれば、原告は、本件各店舗を発見した当初の段階から平成八年ころまでは、交渉を行っていた被告【B】の事務所の郵便受けの表示には「阪和住宅梶v、「潟Lュウザ」あるいは「潟Iアシス」と記載されていたことは確認していたものの、被告【B】の説明から、本件各店舗の経営者は被告【B】個人であると認識していたこと、その後、平成八年七月一七日に、樫井店に設置されている電話の電話加入権の名義を調査し、同店舗の電話加入権は被告キュウザ名義であることを知るに至ったこと、また、同年八月二八日に羽倉崎店に設置されている電話の電話加入権が泉不動産株式会社名義であることを知り、同年九月に、羽倉崎店の所在地を本店所在地として「泉不動産株式会社」及び「イズミ不動産株式会社」との名称の会社の登記簿謄本を請求したところ、該当法人が存在しない旨の回答を得たこと、同年一〇月に、被告【B】の自宅の不動産登記簿謄本を入手したところ、泉不動産株式会社及び阪和住宅株式会社の本店所在地が判明したため、それぞれ所在地に出向いたものの、営業活動を行っている形跡は見られなかったこと、原告は、同年一一月に本件各店舗における管理著作物の使用禁止を求める仮処分申立てをしたが、その相手方を被告【B】、被告キュウザ及び株式会社ムツミ住宅としたこと、本件記録によれば、原告は平成一一年五月一二日に、被告【B】及び被告キュウザを被告としてA事件訴訟を提起したところ、平成一一年六月一〇日付の被告【B】及び被告キュウザの答弁書において、平成元年一一月から平成七年一二月まで(後に「平成八年六月まで」と訂正。なお、B事件の答弁書で被告オアシスジャパンは、これを更に「平成八年四月まで」と訂正した。)の樫井店の経営主体は被告オアシスジャパンであるとの主張が出され、原告は、右主張に沿って被告キュウザに対する訴えを一部取り下げるとともにB事件訴訟を提起したことがそれぞれ認められる。
これらの事実を総合すれば、原告が本件各店舗について、被告キュウザがその経営主体であったと知ったのは平成八年七月一七日以降であり、かつての樫井店の経営主体が被告オアシスジャパンであったと知ったのはA事件訴訟提起後である平成一一年六月一〇日以降であると認められるから、いずれもA事件訴訟提起から遡ること三年以内の時点で初めて加害者を知ったものということができ、消滅時効は成立しない。
したがって、被告らの主張を採用することはできない。
六 よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由がある。
(平成一二年三月七日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 水上周
裁判官 渡部勇次
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