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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ13236著作権侵害差止等請求事件 判例 特許権
平成12ネ7著作権侵害差止等請求,独立当事者参加控訴事件 判例 特許権
平成2ネ2733 判例 特許権
昭和58ワ1367 判例 特許権
昭和54ネ590 判例 特許権
関連ワード 著作物性 /  創作性 /  著作者 /  応用美術 /  美術工芸品 /  実用品 /  二次的著作物 /  翻案 /  複製物 /  放送 /  再生 /  保護期間 /  著作権の譲渡 /  著作権の消滅 /  登録 /  著作権侵害 /  差止 / 
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事件 平成 11年 (ネ) 6345号 著作権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 足立佳丈
被控訴人 キューピー株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 大島崇志
同 池田知美
同 大岩直子
同 江口 雄一郎
訴訟復代理人弁護士 戸田泉
補佐人弁理士 藤野清規
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が別紙著作物目録記載の人形に係る著作物の著作権者であることを確認する。
3 当審における訴訟費用は、これを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決中、請求第一ないし第七項に係る部分を取り消す。
(2) 被控訴人は、別紙物件目録一記載のイラストを商標、商品包装、商品容器、テレビ番組及びインターネット・ホームページにおいて複製してはならない。
(3) 被控訴人は、別紙物件目録一記載のイラストを複製した商標、商品包装又は商品容器を使用する商品を頒布してはならない。
(4) 被控訴人は、別紙物件目録一記載のイラストを複製した商標、商品包装又は商品容器を使用する商品を廃棄せよ。
(5) 被控訴人は、別紙物件目録一記載のイラストを複製したテレビ番組を放送してはならない。
(6) 被控訴人は、別紙物件目録一記載のイラストを複製したインターネット・ホームページをインターネット・サーバーにアップロードしてはならない。
(7) 被控訴人は、別紙物件目録二記載の人形を複製し、又は複製した人形を頒布してはならない。
(8) 被控訴人は、別紙物件目録二記載の人形の複製物を廃棄せよ。
(9) 主文第2項と同旨(当審で追加した請求) (10) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 (1) 本件控訴を棄却する。
(2)(主位的)控訴人の当審で追加した請求に係る訴えを却下する。
(予備的)控訴人の当審で追加した請求を棄却する。
(3) 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は、控訴人が、別紙著作物目録記載の人形(以下「本件人形」という。)に係る著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者であり、被控訴人による別紙物件目録一記載のイラスト(以下「被控訴人イラスト」という。)及び同目録二記載の人形(以下「被控訴人人形」という。)の複製等が控訴人の本件著作物の我が国における著作権(以下「本件著作権」という。)の侵害に当たるとして、被控訴人に対し、これら行為の差止め等を求めるとともに、当審において請求を追加し、被控訴人に対し、控訴人が本件著作権の著作権者であることの確認を求める事案である。
1 前提となる事実 被控訴人は、マヨネーズソースその他一般ソース類の製造、販売等を目的とする株式会社であり、被控訴人イラストを、被控訴人の製造、販売する商品の商標、商品包装、商品容器、テレビ番組及びインターネット・ホームページにおいて、複製して使用し、被控訴人人形を、自己の製造したマヨネーズ等の商品と共に配布している。
2 被控訴人の本案前の主張 (1) 控訴人の当審で追加した著作権確認請求に係る訴えは、その訴額に対応する手数料が納付されていないから、不適法として却下されるべきである。
(2) 控訴人と被控訴人間の紛争は、控訴人が被控訴人イラスト及び被控訴人人形について差止め及び廃棄の請求権を有しているかという点に尽き、本件著作権の存否、帰属及び内容については、被控訴人に直接関係のある問題ではなく、上記請求権の存否を決する範囲を超えて応訴の利益は認められない。したがって、控訴人の追加した著作権確認請求に係る訴えは、被控訴人に当事者適格がなく、確認の利益も存在せず、被控訴人に不要な応訴の負担を生じさせるものであるから、不適法として却下されるべきである。
3 本案の争点及び当事者の主張 (1) 本件著作物の創作及び発行 (控訴人の主張) ローズ・オニールは、1874年6月25日、アメリカ合衆国ペンシルバニア州で出生し、本件著作物を創作した上、1913年11月20日、同国内において本件著作物を発行したことにより、我が国における本件著作権の著作権者となった。
アメリカ合衆国著作権局登録記録(甲57)及びアメリカ合衆国著作権局著作権追加登録証(甲1)には、本件著作権の著作権者として、ローズ・オニールの名前が記載されている。また、ローズ・オニール自身、キューピーの小さな彫像を彫ったところ、キューピー人形を製造したいという玩具工場が現れたので、ドイツにおいてキューピー人形の原型を制作したと述べている。被控訴人主張のジョゼフ・カラスは、本件人形の制作に際し、ローズ・オニールの助手を務めた者である。
日本において大流行したキューピー人形のうち、ローズ・オニールの許諾を得て複製されたものには、著作権者がローズ・オニールである旨の著作権表示のほか、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に意匠特許の登録がされている旨の表示が付されていた。また、ローズ・オニールは、アメリカ合衆国著作権局に本件著作権の著作権登録を行っている。
(被控訴人の主張) アメリカ合衆国著作権局著作権追加登録証(甲1)は、キューピーの小彫像の著作物が同著作権局に登録番号H1040として登録された事実を示すのみであって、現物は紛失しどのようなものか不明であり、これと本件人形が同一の形態を有すると認めるべき根拠はない。
本件人形は、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作されたものであって、
ローズ・オニールが創作したものではない。本件人形には、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作された他のキューピー人形に付されたのと同一の著作権表示及び意匠特許表示が付されている。
本件人形がローズ・オニールの創作した図柄等に基づいて制作されたとしても、ローズ・オニール自身が制作したものではなく、ジョゼフ・カラスら人形の制作者が金型を用いて機械的に大量生産した玩具である。
(2) 本件著作物の創作性 (控訴人の主張) 本件人形は、@裸で立っている、A全身が三頭身である、B掌を広げている、C頭は丸い、D髪の毛は中央部が突出して額にまで細く流れている、E耳のそばにカールした髪がある、F顔は頬がふっくらと丸い、G目は丸くパッチリしている、H眉毛は小さく目との間隔が広い、I鼻は小さく丸い、J口はほほ笑んでいる、K背中に小さな双翼がある、L腹が膨れている、M性別は判別できない、という特徴を有する。本件人形のこれらの特徴は、単に、子供、天使、キューピッド等の表現として不可避又は一般的なものにとどまらない創作性を有するものである。
本件人形が創作される以前において、子供、天使、キューピッド等の題材を扱った作品は多いが、その表現形態は相互に異なる。同じ題材について美術作品を作るとしても、その表現形態は、作者の個性、才能、技法等によって異なり、その表現の幅は広い。
本件著作物は、ローズ・オニールがその制作に先立って創作し「Ladies' Home Journal」1909年12月号に掲載された別紙イラスト著作物目録記載の「The KEWPIE'S Christmas Frolic」(クリスマスでのキューピーたちの戯れ)のイラスト(乙15、以下「本件イラスト著作物」という。)及び「ウーマンズ・ホーム・コンパニオン」1910年9月号に掲載された「DOTTY DARING AND THE KEWPIES」(ドッティー・ダーリング・アンド・ザ・キューピーズ)のイラスト(以下「1910年作品」という。)の二次的著作物として創作性を有するのであって、これに先立つ被控訴人主張の先行著作物の複製物ではない。本件著作物を被控訴人の主張する先行著作物と比較すると、以下のとおり表現が異なる。
ア 「The Cosmopolitan」1903年11月号に掲載された「Two Valentines」のイラスト(甲44、以下「Two Valentines イラスト」という。)との対比 Two Valentines イラストは、ローズ・オニールによって創作され、1903年11月に発行された作品である。これは、本件人形と異なり、@髪の毛が豊かであり、A目の形も横に長いなど顔も写実的に描かれており、B背中に付いた双翼も本件人形のように生えかけの芽のような目立たないものではなく、C頭の突起が、後頭部から後ろに向けて伸びており、横向きの図柄においては正面から突起が目立たないなど、従来のキューピッドを描いた著作物と共通の特徴を備えており、
本件著作物の原著作物ということはできない。
イ 「The Cosmopolitan」1903年11月号に掲載された「Christmas Courtship」のイラスト(乙14、以下「1903年作品」という。)との対比 1903年作品は、ローズ・オニールによって創作され、1903年12月に発行された作品である。これは、ローズ・オニールがこの時期に描いたキューピッドのイラストと同様の特徴を備えているものの、本件人形とは異なり、@生え際が描かれている等髪の毛が豊かであり、A目は黒目が点で描かれ、B眉毛は描かれていないか、眉毛に相当するものが描かれているとしても、つり上がり、目に接触しており、本件人形において眉毛が目からかなり離れて描かれているのと大きく異なり、C口は点で描かれ、本件人形において、左右に伸びた曲線でほほ笑みを表現しているのと異なり、D怒ったような表情又は暗い表情であり、E背後に描かれている双翼状のものは、不明確であり、F頭部の突起は、後頭部から後ろに向かって伸びており、うつむいた状態で初めて見える位置に描かれ、G頭部の突起は、
角であるのか、髪の毛であるのかが明らかでなく、本件人形において髪の毛が突起の頂点に向けて渦を巻くように描かれているのと異なり、H頭部の突起は、一か所だけ描かれており、本件人形において左右の耳の上及び後頭部の首の付け根の四か所に描かれているのと異なり、I人物の姿勢は、ひざまずいて手を胸の前で合わせ祈りを捧げており、既存の天使を描いた図柄と同様に宗教的色彩が強いなどの特徴を有し、本件著作物の原著作物であるということはできない。
ウ 「American Illustrated Magazine」1905年11月号に掲載された「The Expansion of Alphonse」のイラスト(乙17、以下「1905年作品」という。)との対比 1905年作品は、ローズ・オニールによって創作され、1905年12月に発行された作品であるが、本件著作物と異なり、@髪の毛が豊かであり、A目は横に長く描かれ、顔は写実的に描かれており、B頭部の突起は、後頭部から後ろに向けて伸びており、横向きの図柄においては、正面からは突起が目立たないなど、従来のキューピッドを描いた作品と共通の特徴を有し、本件著作物の原著作物であるということはできない。
エ 「Harpar's Bazar」1906年6月号に掲載された「A Night With Little Sister」のイラスト(乙18、以下「1906年作品」という。)との対比 1906年作品は、ローズ・オニールによって創作され、同年7月に発行された作品であるが、本件人形と異なり、@髪の毛が豊かであり、A頭の突起部分が、本件人形のように頭頂部から上に向けて伸びているのではなく、後頭部から後ろに向けて伸びており、正面方向の図柄において突起が目立たないなど、従来のキューピッドを描いた作品と共通の特徴を有し、本件著作物の原著作物であるということはできない。
(被控訴人の主張) 控訴人の挙げる本件人形の表現上の特徴は、いずれも「かわいらしい幼児の天使の立像」の一般的特徴であり、他の著作物にも多く認められるものであって、創作的な表現ということはできない。
本件人形は、1903年作品等の先行著作物の複製物にすぎず、これらの作品と異なる新たな創作的な表現を有しないところ、これら作品の著作物は、日米間著作権保護ニ関スル条約(明治39年4月28日批准、同年5月11日公布。以下「日米著作権条約」という。)の批准された1906年4月28日以前に発行されたものであるから、その著作権は、我が国において保護されない。そのような著作物の複製物である本件人形もまた、その著作権が我が国において保護されることはない。
ローズ・オニールは、1903年作品を創作したが、この作品は、本件人形の特徴である、@先のとがった頭髪、A背に付された小さな双翼、Bふっくらした幼児の体型のすべてを備えている。ローズ・オニールは、上記作品の登場人物をキューピーと呼び、1909年まで長年の間、たびたびキューピーの図柄を描いて雑誌に発表した。例えば、1905年作品及び1906年作品も、本件人形の創作的特徴をすべて備えている。これら三つの作品から明らかなとおり、本件人形は、
1909年以前にローズ・オニールがたびたび描きキューピーと呼んでいたものの複製物にすぎない。
その後、ローズ・オニールは、「Ladies' Home Journal」1909年12月号に、本件イラスト著作物を含むキューピーのイラストを挿絵として利用した物語「The KEWPIES' Christmas Frolic」(乙15)を発表した。この作品が発行される直前、ローズ・オニールは、雑誌の編集者に対して送った手紙(乙16)の中で、後頭部上に先のとがった頭髪を有し、背に小さな双翼を付けた、ふっくらした幼児の体型の人物のイラストを描き、1909年のかなり前からそのイラストの人物を「キューピー」と呼んできたことを明らかにしている。このことからも、本件人形は、ローズ・オニールが従前描いていたキューピーの作品の複製物であることが明らかである。
(3) 美術の著作物の該当性 (被控訴人の主張) 本件人形は、ジョゼフ・カラスら人形の制作者が、ローズ・オニールの創作した原図等に基づき、金型を用いて大量生産した人形である。本件人形は、機械的に大量生産され、いわゆる応用美術に当たるから、原図又は原型を離れて独立した著作物として著作権法(明治32年法律第39号、以下「旧著作権法」という。)及び現行著作権法による保護を受けることはできない。
本件人形が制作された1913年当時、意匠に係るものが意匠法で保護されるのは別として、工業上の利用を目的とする美術品及び工芸品に旧著作権法の適用はなく、工業上の利用を目的としないものに限って旧著作権法により保護された。したがって、工業的大量生産を目的として生産された玩具にすぎない本件人形、その原図、原型等は、工業上の目的に使用するものとして、専ら意匠法によって保護され、旧著作権法に規定する著作物に当たらない。
万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和31年法律第86号、以下「万国条約特例法」という。)11条は、旧著作権法によって保護されるべき著作物に適用される規定であるから、1913年に生産された本件人形に適用される余地はない。
現行著作権法は、2条2項において、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と規定するにとどまり、応用美術については、壺、壁掛け等の一品制作の手工的な美術作品に限って、美術工芸品として著作権により保護される。本件人形は、工業的に大量生産された実用品たる玩具であり、美術工芸品ではない応用美術であるから、その保護は専ら意匠法によるのであって、著作権法による保護の対象とはならない。
なお、仮に、専ら美の表現を追求して制作された応用美術に限って著作権法による保護を認めるとしても、本件人形は、当初から、玩具として使用される目的で工業的に大量生産されたものであって、専ら美の表現を追求して制作されたものであるとはいえない。
(控訴人の主張) 本件人形は、大量に複製頒布されたが、家具、装身具、文鎮等何らかの実用品に応用されるものではないから、いわゆる応用美術には当たらない。本件人形は、美的鑑賞性に富む美術作品として著作権法により保護されるべきものであって、本件人形が大量に複製頒布されたことは、その美的鑑賞性を損なうものではない。
本件人形が応用美術であるとしても、旧著作権法において応用美術は保護されており、また、現行著作権法においても、応用されている物品の実用性から離れて独自の美的表現が認められるものは、一点制作の美術工芸品に限らず、保護の対象とされている。
(4) 著作権表示の要否 (被控訴人の主張) アメリカ合衆国意匠特許の特許公報には、同国著作権局の方針により著作権表示を付すことが禁止されている。1909年アメリカ合衆国著作権法の下においては、著作権表示は、発行著作物の著作権を取得し維持するために必須の要件であったため、意匠特許公報に著作権表示を付さずに発行すると著作権を喪失した。
ローズ・オニールは、1913年3月4日、本件人形と同一形態の意匠について、
意匠特許登録をしたが、同意匠に係るアメリカ合衆国意匠特許公報に著作権表示を付していないので、本件著作権を喪失した。
(控訴人の主張) 本件著作物が発行された1913年当時、日米両国は、日米著作権条約により相互に内国民待遇を与えていた。アメリカ合衆国国民が同国内において創作した著作物が我が国著作権法により保護されるためには、我が国国民と同様、何らの方式を要せず、単に著作物を創作するだけで足りた。著作権表示は、本件著作物が我が国著作権法により保護されるために必要ではない。
すなわち、日米両国が相互に内国民待遇を許与していたため、我が国国民の創作した著作物がアメリカ合衆国において保護を受けるためには、同国国民と同様、方式主義に従い、著作権表示の付与が必要であったが、これに対して、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が我が国において保護を受けるためには、無方式主義を採る我が国において、著作権表示の付与は不要であった。
(5) 意匠特許の取得 (被控訴人の主張) 1913年当時のアメリカ合衆国法の下においては、著作者がある作品について意匠特許を申請し登録を得た場合には、当該作品について著作権法上の保護を受けることはできないとされていた。すなわち、アメリカ合衆国特許法は、意匠特許の保護期間終了後において公衆に意匠の利益を享受させることを目的としており、同一の美術作品に対し意匠特許権と著作権の双方による保護は与えられるべきではないと解されていた。ローズ・オニールは、1913年3月4日、本件人形と同一形態の意匠について意匠特許登録を受けた以上、本件人形について著作権法上の保護を受けることはできない。
(控訴人の主張) 1913年当時のアメリカ合衆国法の下において、著作者がある作品について意匠特許を取得しても、著作権法上の保護を受けることができなくなるものではなかった。ローズ・オニールも、本件人形について意匠特許権を得た後に、本件著作物に係るアメリカ合衆国における著作権に基づく請求を目的とする訴訟を提起し、勝訴の判決を得ている。
(6) 著作権の保護期間 (控訴人の主張) ローズ・オニールは、本件著作物を創作し、日米著作権条約及び旧著作権法に基づき、我が国の著作権を取得したが、旧著作権法3条52条1項により、
本件著作権の存続期間は、著作者であるローズ・オニールの死後38年となった。
日本国との平和条約(昭和27年条約第5号、以下「平和条約」という。)7条により日米著作権条約は廃棄されたが、平和条約12条(b)(1)(ii)、平和条約第12条に基く著作権に関する内国民待遇の相互許与に関する日米交換公文及び附属書簡(昭和29年外務省告示第4号、以下「外務省告示」という。)により、アメリカ合衆国国民の著作物に対し、昭和27年4月28日から4年間、内国民待遇が与えられるとともに、同日までの間、日米著作権条約が有効であるとみなされた。アメリカ合衆国国民の著作物は、上記4年間の満了の日である昭和31年4月28日以降、万国条約特例法11条に基づき、引き続き内国民待遇を受けている。
アメリカ合衆国は、1989年、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(昭和50年条約第4号、以下「ベルヌ条約」という。)に加入したが、万国条約特例法の施行前に発行された本件人形については、同法附則2項により同法10条の適用が排除されると解すべきである。
現行著作権法51条により、著作権は、著作者の死後50年間保護され、
また、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(昭和27年法律第302号、以下「連合国特例法」という。)4条1項により、本件著作権の保護期間について3794日間の戦時加算がされる。
ローズ・オニールは、1944年4月6日、アメリカ合衆国ミズーリ州において死亡したから(甲3、4)、本件著作権は、2005年5月6日まで保護期間が存続する。
アメリカ合衆国がベルヌ条約に加入した後においても、本件著作権については、万国条約特例法11条が適用される。すなわち、同法は、万国著作権条約(昭和31年条約第1号)及び千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された万国著作権条約(昭和52年条約第5号)(以下、一括して「万国条約」という。)との関係でのみ適用される法律ではなく、これら以外の条約との関係で定められた規定が多数存在する。万国条約特例法11条は、平和条約12条及び外務省告示が失効した後において、既得権尊重という一般法理念及び国際信義の観点から、国際法上は保護義務を負わなくなるそれらの著作物を引き続き国内法上保護するものである。したがって、万国条約特例法11条に対応する国際法の規定は、万国条約19条ではなく、平和条約12条及び外務省告示であるから、万国条約とベルヌ条約の優先関係は、万国条約特例法11条の適用の有無とは切り離して解すべきである。
万国条約特例法11条に規定する「同法による保護」は、著作権法58条による相互主義の制限が付されたものではない。昭和45年法律第48号による改正(以下「昭和45年改正」という。)前の万国条約特例法11条は、既得権尊重という一般法理念及び国際信義に基づいて、平和条約12条及び外務省告示に基づく内国民待遇を維持した規定であり、その趣旨は、昭和45年改正においても維持されている。すなわち、著作権法を改正し、我が国国民の著作物について新法による保護を与える場合には、万国条約特例法11条に定める著作物についても、新法による保護を与えるべきであると考えられた結果、昭和45年改正がされた。したがって、昭和45年改正後の万国条約特例法11条の趣旨に照らして、「同法による保護」が著作権法58条による相互主義の制限が付されたものを意味するとは解されない。
被控訴人は、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加入した現在においては万国条約特例法11条は適用されず、著作権法58条が適用され、仮に、万国条約特例法11条が適用されるとしても、同条における「同法による保護」には著作権法58条も含まれると主張する。しかしながら、被控訴人のこれら主張を前提としても、著作権法58条は、ベルヌ条約の規定に基づいて同条約加盟国を本国とする著作物に対して適用されるところ、本件著作権は、ベルヌ条約がアメリカ合衆国において発効した1989年3月1日において、同国において保護期間が満了し、公共のものとなったものであるから、ベルヌ条約18条(1)において遡及適用から除外されている「この条約・・・の効力発生の時に本国において保護期間の満了により既に公共のものとなった著作物」に当たり、著作権法58条にいう「ベルヌ条約・・・加盟国・・・を同条約・・・の規定に基づいて本国とする著作物」には該当しないから、同条の適用はない。
(被控訴人の主張) 本件著作権の我が国における保護期間は、1941年11月20日の経過をもって満了した。すなわち、本件著作物は、ベルヌ条約の同盟国であるアメリカ合衆国を本国とするため、ベルヌ条約3条(1)、5条(4)及び著作権法58条の適用により、その保護期間の算定に当たっては、著作権法51条に規定する、著作者の死後50年の保護期間と、1909年アメリカ合衆国連邦著作権法に規定する更新及び1976年同法に規定する延長のない限り創作時から28年の保護期間の双方を比較し、より短い保護期間が適用されることとなる。したがって、本件著作権の我が国における保護期間は、1909年アメリカ合衆国連邦著作権法に基づき、最初の創作の日である1913年11月20日から28年後である1941年11月20日の経過をもって満了した。
万国条約特例法11条は、本件著作権について適用されない。すなわち、
我が国とアメリカ合衆国は、共にベルヌ条約の同盟国であるから、アメリカ合衆国内において創作された著作物に係る我が国著作権の保護期間については、万国条約17条及び同条に関する附属宣言により万国条約適用の余地はないから、万国条約19条の国内における解釈規定にすぎない万国条約特例法11条も、本件著作権に関して適用される余地はない。
仮に、万国条約特例法11条が本件著作権について適用されると解しても、同条は、単に、内国民待遇の原則を定めたものにすぎない。我が国著作権法58条は、ベルヌ条約の同盟国を本国とする著作物について、内国民待遇の例外として、保護期間の相互主義を採用しているのであるから、本件著作物も、ベルヌ条約の同盟国であるアメリカ合衆国を本国とする著作物として、保護期間の相互主義の遡及的適用を受け、アメリカ合衆国において保護期間が満了した1941年11月20日の経過をもって、我が国における著作権の保護期間も満了したものと解すべきである。万国条約特例法11条が本件著作権について認めている保護は、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加入することにより保護期間の相互主義の適用を受ける権利であると解される。
(7) 本件著作権の控訴人に対する譲渡 (控訴人の主張) 本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理するローズ・オニール遺産財団(以下「遺産財団」という。)に承継され、控訴人は、平成10年5月1日、遺産財団から、本件著作権を含むローズ・オニールが創作したすべてのキューピー作品に係る我が国著作権等を、頭金として15,000アメリカドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー製品及び物品に係る控訴人自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた。
(被控訴人の主張) 控訴人がその主張の本件著作権等の譲渡の対価を控訴審の口頭弁論終結日まで明らかにしなかったことは、このような譲渡が虚構であることの表れである。
(8) 本件著作権の第三者への譲渡 (被控訴人の主張) 遺産財団管財人ポール・オニールは、遅くとも1948年6月5日までに、布製のキューピーの抱き人形以外、本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権をジョゼフ・カラスに譲渡したから、これにより、遺産財団は、本件著作権を喪失した。
上記著作権譲渡がされたことは、@当時の遺産財団管財人ポール・オニール自身が1948年6月5日付けの手紙(乙47)の中で明言していること、A遺産財団が1964年1月16日に清算されたときには、現金612.47ドル以外に財産的価値のあるものは何一つ存在しなかったこと、B同時期に発行された「The One Rose」(乙50)に掲載されているキューピーのイラスト及び人形等に、著作権者としてジョゼフ・カラスが「JLK」と表示されていること、C「Kewpies-Dolls & Art」(乙83)はジョゼフ・カラスに対する上記著作権の譲渡が1947年にされたことを明記していること等の事実から明らかである。
(控訴人の主張) 遺産財団が、ジョゼフ・カラスに対して、本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権を譲渡した事実はない。遺産財団管財人ポール・オニール及びジョゼフ・カラスは、いずれもアメリカ合衆国国民であるから、両名間における著作権の譲渡に関しては、同国法が適用されるところ、1947年当時施行されていた1909年アメリカ合衆国著作権法において、著作権譲渡の登録を怠れば権利を喪失したから、著作権の譲渡があれば、当事者は必ず譲渡証書をアメリカ合衆国著作権局に登録することになるが、本件人形に係るアメリカ合衆国における著作権は既に1941年に保護期間を満了し消滅していたから、上記譲渡証書の登録が行われるはずもない。ジョゼフ・カラスは、人形メーカーを経営し、自らデザインした人形を製造販売する等の事業を展開し、著作権や著作権譲渡証書の登録を行った経験があり、著作権譲渡の登録に関する知識を有していたにもかかわらず、本件著作権を譲り受けた旨の登録をしていないのは、上記の譲渡がされていないことの表れである。
仮に、遺産財団管財人ポール・オニールがジョゼフ・カラスに対して本件著作権を譲渡したとしても、この譲渡と控訴人に対する本件著作権の譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、控訴人に対する本件著作権の譲渡が無効となるものではなく、また、被控訴人は本件著作権を侵害する不法行為者であるから、控訴人は、被控訴人に対し、対抗要件を具備することなく、本件著作権を行使することができる。
さらに、控訴人は、遺産財団から控訴人に対する本件著作権の譲渡について、著作権法77条1号に基づく登録手続を行い、上記対抗要件を具備しているから、本件著作権の譲渡について、ジョゼフ・カラスに優先して権利を主張することができる。
(9) 訴訟信託 (被控訴人の主張) 遺産財団から控訴人への本件著作権の譲渡は、訴訟信託に該当し無効である。控訴人は、権利を譲り受けた直後に本件訴えを提起しており、このことからも明らかなように、控訴人において本件著作権の譲渡を受けたのは、被控訴人らに対し訴えの提起をすることを主たる目的とするものであるから、上記権利移転は、訴訟信託に該当する。
(控訴人の主張) 遺産財団は、控訴人に本件著作権を譲渡する以前に、本件訴訟の控訴人訴訟代理人を代理人に選任して、本件人形の違法複製者に対する警告及び訴訟提起を行っていたのであり、訴訟行為をさせることを主たる目的として控訴人に本件著作権を譲渡する必要はない。
控訴人は、長年にわたりキューピーについて研究した結果、平成7年4月、遺産財団の存在を知り、キューピーに係る著作権者等から許諾を受けたキューピー人形を日本において製造販売するため、遺産財団からその利用許諾を受けた。
しかし、控訴人が許諾を受けたことを被控訴人らが信用せず、控訴人のキューピーに関する営業活動に支障が生じたため、本件著作権を譲り受けたのであり、訴訟を提起するために譲り受けたのではない。
(10) 本件著作権の放棄 (被控訴人の主張) 本件人形に係る本件著作権は、アメリカ合衆国法上の更新手続が執られなかったことにより、1941年11月20日、同国内において保護期間を満了し消滅したところ、@ローズ・オニールは、1917年3月当時、既に、同人の許諾を得ていない日本製のキューピー人形が存在することを知っていたこと、Aローズ・オニール及びジョゼフ・カラスは、更新手続を執らないことによりアメリカ合衆国国内における本件著作権が消滅することを熟知していたこと、B本件著作権の著作権者は、本件訴訟提起まで、許諾を得ない日本製キューピー人形の製造者等に対し本件著作権等の権利行使をしなかったことに照らせば、本件著作権の著作権者は、
アメリカ合衆国法上の更新手続が執られず同国内において本件著作権が消滅した1941年11月20日に、我が国における本件著作権を放棄したというべきである。
(控訴人の主張) 本件人形の著作権についてアメリカ合衆国法上の更新手続が執られなかったからといって、我が国における本件著作権が放棄されたものと評価することはできない。
(11) 権利の失効 (被控訴人の主張) 本件著作権は、以下の経緯に照らすと、被控訴人に対する関係で失効したと解されるので、控訴人が本件著作権を行使することは許されない。
被控訴人は、1922年に「キユーピー」の文字及びイラストを商標登録した上、1925年にマヨネーズを発売して以来、現在に至るまで70年以上にわたり、上記文字及びイラストを商標等として使用し続けてきた。また、被控訴人は、アメリカ合衆国においても上記商標等を使用して商品の販売を行っていた。他方、ローズ・オニール及びその承継人は、平成8年12月まで70年以上もの長期間、被控訴人等の我が国における各企業に対し、本件著作権の行使等をしたことはない。被控訴人が上記被控訴人商標等(以下「被控訴人商標等」という。)を使用し始めた1925年当時、我が国において、キューピーに関連する多数の製品が独自に開発、販売されており、「キューピー」という語も普通名詞として認識されていた。また、遺産財団は、1964年、現金612.47ドル以外に財産的価値のあるものは一切存在しないとして清算手続を終了し、多数の資料も、遺産財団がもはや本件著作権を有していないことを示しており、被控訴人が被控訴人商標等を使用し得ることについて信頼すべき正当な事情が生じているというべきである。
さらに、被控訴人は、70年以上にわたり、被控訴人商標等の上にのれんを積み上げてきた。被控訴人商標等は、我が国の経済社会において、既に確固たる信用を築いており、本件著作権の権利行使を正当化すべき事情は存在しない。控訴人は、我が国において、約20年間、業としてキューピーに関連する商品等を製造、販売しながら、本件著作権の行使を怠っていたこと、被控訴人が被控訴人商標等を周知のものとしたこと等を十分に認識しながら、あえて本件著作権を譲り受けた。
以上の経緯に照らせば、権利失効の原則により、控訴人が被控訴人に対して本件著作権に基づく権利を行使することは許されない。
(控訴人の主張) 「権利失効の原則」が適用されるためには、@長期間の権利の不行使に加え、Aもはや権利行使を受けないとの正当な信頼、B権利を行使することが信義則に反すると評価し得る権利者の帰責性が必要であるが、長期間権利を行使しなかったことをもって直ちにA及びBの要件を満たすものと評価するのは相当でない。本件において、被控訴人には、本件著作権が行使されないと信頼したことにつき正当な理由はない。また、ローズ・オニール及び遺産財団と被控訴人との間に契約関係はなく、本件著作権の単なる不行使がもはや権利が行使されないものと信頼すべき正当な理由を生じさせる信頼関係は存在しないから、本件においては、上記A及びBの要件を欠く。
我が国において大流行したキューピー人形のうち、ローズ・オニールの許諾を得て複製されたものには、著作権者がローズ・オニールである旨の著作権表示のほか、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に意匠特許登録がされている旨の表示がされていた。また、ローズ・オニールは、アメリカ合衆国著作権局に本件著作権の著作権登録を行っている。さらに、「キューピー」の作者がローズ・オニールであるということは、我が国においても公知の事実であり、被控訴人は、本件著作権が行使されることを予想すべきであった。
本件人形が発表された当時の日米関係は良好ではなく、不安定な国際状況の下で、アメリカ合衆国国民である個人が我が国において事業活動を展開したり権利を行使することは困難であった。したがって、ローズ・オニール及び遺産財団が被控訴人に対し本件著作権を行使することが困難であった以上、現在に至って初めてその権利を行使することが信義則に反すると評価することはできない。また、被控訴人イラスト及び被控訴人人形(以下「被控訴人イラスト等」という。)の使用は日本国内に限定されていたから、遺産財団がこれらの情報を知る余地はなかった。
また、「権利失効の原則」により権利行使を制限することの法的効果は、
人的に相対的なものと解すべきである。控訴人は、遺産財団から本件著作権の譲渡を受けるや、直ちにその権利行使をしているので、少なくとも、控訴人に対し同原則が適用される余地はない。
(12) 複製又は翻案 (控訴人の主張) 被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであり、又は少なくともその本質的な特徴を直接感得させるものであることが明らかであるから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たる。被控訴人イラスト等と本件人形について被控訴人の指摘する相違点は、さ細なものにすぎない。
本件著作物は、被控訴人が挙げるローズ・オニールの先行著作物の二次的著作物に当たらないから、これら先行著作物の存在は、被控訴人が本件著作物を複製又は翻案したという結論に影響を及ぼさない。
上記(2)のとおり、本件著作物は、被控訴人主張の先行著作物よりも、ローズ・オニールが本件著作物の制作に先立って1909年に創作した本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト(以下「キューピーイラスト」という。)及び1910年作品の本質的な特徴を直接感得させるものであるから、これらを原著作物とする二次的著作物というべきである。これらの原著作物は、我が国において保護期間が満了していないから、本件著作権の効力は、原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず、本件著作物全体に及んでいる。
仮に、本件著作物が被控訴人主張の先行著作物の二次的著作物に当たるとしても、先行著作物は、アメリカ合衆国において発行されるのと同時にカナダにおいても発行されているから、当時の英国法により英国における著作権が発生し、さらに、ベルヌ条約により我が国における本件著作権が生じた。したがって、先行著作物の著作権は我が国において保護期間が満了しておらず、控訴人は、遺産財団からこれら先行著作物の著作権も譲り受けたから、先行著作物の存在は、本件著作権の範囲に影響を及ぼさない。
(被控訴人の主張) 被控訴人人形は、本件人形と対比すると、@肌の色が黄色人種の肌色をしており、白色人種の肌色をしている本件人形と異なり、髪の毛も色が濃い、A眉が円弧状にやや厚みをもって描かれ、眉が点のように描かれている本件人形と異なり、B口が立体的に作成され、両端は膨れた頬に埋まるかのように表現され、長さは両目の間とほぼ同距離であり、わずかに開き、ほぼ直線であって、単純な円弧の線として表現され左右の目の中央部付近にまで広がっている本件人形のものと異なり、C鼻が二つの穴まで表現され、近接してようやく膨らみが確認できる程度である本件人形と異なり、D頬の色が肌と同色であり、立体的な表現によって頬の膨らみを表現し、少し下方に垂れており、頬が赤色で下方に垂れていない本件人形と異なり、E双翼が赤色で背中から生えており、薄い青色で肩の上部から生えている本件人形と異なり、F胴体は尻の部分が最も太く、胴中央部が最も太い本件人形と異なり、G膝が上下に溝を付けることで表現され、赤茶色の彩色で表現された本件人形と異なり、H手の甲及び指の根本にくぼみが表現され、その表現のない本件人形と異なり、I尻が背中部分に比べ後方に突き出し、背中部分から下方に連続する本件人形と異なっている。
被控訴人イラストは、@頭頂部のみに髪の毛があり、頭部の左右にとがった形状の髪の毛が生えている本件人形と異なり、A頬に何の表現もされておらず、
赤く彩色された本件人形と異なり、B眉が無く、眉のある本件人形と異なり、Cはっきりと大きく丸みを帯びた耳が描かれ、耳の存在自体不明りょうな本件人形と異なり、D口を短く描き、黒目が左下方を向いていることなどから、必ずしもほほ笑んでいるように描かれておらず、頬の赤い彩色がえくぼを表現することでほほ笑んでいる表情が表現された本件人形と異なり、Eへそを強調して表現しており、へその周辺部分が赤茶色に彩色されている本件人形と異なり、F胴から両足の部分について輪郭線が円弧状に連続的に描かれているだけであり、乳幼児特有のくびれが表現されている本件人形と異なり、G黒目に白い部分がなく、これがある本件人形と異なり、H双翼が両腕の上からはっきりと視認でき、これが明確に視認できない本件人形と異なり、I膝が表現されておらず、膝に赤茶色の彩色がされ膝小僧が表現されている本件人形と異なる。
仮に、本件著作物が先行著作物に新たな創作的部分を付加したものとすれば、本件著作物は、先行著作物を原著作物とする二次的著作物に当たるから、本件著作権は、このように新たに付加された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。そして、本件著作物において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等が本件著作物の複製物又は翻案物であるということはできない。
控訴人は、その主張に係る原著作権が我が国において保護期間が満了していないことを主張するが、二次的著作物の著作権が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみ生ずることは、原著作物の著作権について保護期間が満了しているかどうかにかかわらない。
(13) 依拠 (控訴人の主張) 本件著作物の複製物である本件人形は、1913年ころ以降、我が国において販売され、大流行した。被控訴人の商号は、当時、「食品工業株式会社」であったが、実質的な創業者であった中島薫一郎は、キューピー人形が我が国において人気を博していた時期に、愛と幸せを運ぶというキューピーのイメージに着目し、
大正11年10月、「キューピー」イラストの商標を登録し、また、昭和32年9月、商号も「キューピー株式会社」に変更された。したがって、被控訴人イラスト等が本件著作物に依拠して制作されたことは、明らかである。
(被控訴人の主張) 被控訴人は、被控訴人イラスト等の制作に当たり、本件著作物ないし本件人形の存在及び内容を知らなかったのであるから、これに依拠したことはない。本件人形が我が国で販売されたことはなく、仮に、我が国で販売されたとしても、通常人の知るところではなかった。
被控訴人イラスト等の制作当時、我が国において、本件人形の複製物に当たらない多種多様な形態のものがキューピー人形として流通していた。被控訴人イラスト等の制作者は、他に多数存在していた「キューピー」と称される作品に依拠したことはあっても、本件人形又はその複製物に依拠して被控訴人イラスト等を制作したものではない。
(14) 権利の濫用 (被控訴人の主張) 控訴人が本訴において本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求をすることは、以下の経緯に照らし、権利の濫用に当たり許されない。
控訴人は、昭和54年ころから、キューピーに関する事業を開始し、今日まで、自らデザインしたキューピー人形等を製造、販売して生計を立てている。すなわち、控訴人は、自ら、本件訴えにおいて著作権侵害に当たると主張している行為を業として行い、生計を立てていた者である。控訴人は、遺産財団から本件著作権を含めたキューピーに係る権利を譲り受けたとしているが、この譲渡は、デビッド・オニールが遺産財団管財人に任命される以前であって、遺産財団から本件著作権を譲り受けることは不可能な段階である。控訴人は、一方で、第三者に対して著作権利用料の支払を求めながら、他方で、自らの事業のために許諾を受けることなく本件著作権を利用していた。
(控訴人の主張) 著作権侵害を行った者であっても、後に適法に著作権の譲渡や許諾を受けて権利行使をすることは妨げられない。控訴人は、現在では本件著作権を適法に譲り受けた上で本件人形を複製しているのであり、それは正当な行為ということができるから、控訴人が本件著作権を行使をすることは、権利の濫用に当たらない。
また、控訴人が過去において本件著作権を侵害したとしても、控訴人が本件著作権の独占的通常利用権の許諾を受け、さらに、本件著作権を譲り受けた際、
著作権者から過去の本件著作権の侵害行為について宥恕を受けていること等に照らすと、控訴人が本件著作権を行使をすることがクリーンハンドの原則に照らし許されないものではない。
争点に対する判断
1 被控訴人の本案前の主張について (1) 記録に照らすと、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求の訴額が1億円であり、控訴人は、上記請求を棄却した原判決に対する控訴を提起するとともに、本件著作権の確認請求を当審で追加したことが明らかである。本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求と本件著作権確認の請求は、その訴えで主張する利益が各請求について共通であるから、両請求の訴額を合算せず、差止め及び廃棄の請求の価額であり、かつ、著作権確認請求の価額でもある1億円をもって、その訴額とすべきところ(民事訴訟費用等に関する法律4条1項、民事訴訟法9条1項ただし書)、控訴人は、この訴額に対応する62万6400円の手数料を納付しているから、この点において本件著作権確認請求に係る訴えを不適法とする余地はない。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人イラスト等に係る差止め及び廃棄の請求をする本件訴えを提起したが、被控訴人は、原審において、本件著作権が発生せず、又はこれが消滅したと主張し、本件著作権が控訴人に移転した事実を争い、
本件著作権の及ぶ範囲についても控訴人の主張を争っており、当審においてもこれらの主張を維持している。そうすると、控訴人と被控訴人間の本件紛争を解決するために、上記差止め及び廃棄の請求権の存否を確定することに加え、控訴人が本件著作権の著作権者であることの確認請求についても、控訴人に確認の利益が存在するというべきである。このような本件訴訟の経緯に照らすと、上記確認請求に係る訴えの被告適格を認めることができ、また、同請求を追加することにより被控訴人に不要な応訴の負担を生じさせるものでもないから、上記確認請求に係る訴えは適法である。
(3) したがって、被控訴人の本案前の主張は、採用することができない。
2 本件著作物の創作及び発行について (1) 証拠によれば、以下の事実を認定することができる。
ローズ・オニールは、1874年6月25日、アメリカ合衆国ペンシルバニア州で出生し、1889年ころから雑誌にイラストを寄稿するなどしてその画才が注目されていたところ、1896年ころから本格的にイラストレーターとして活動を始めた。ローズ・オニールは、1903年以降、従来西欧神話の天使であり双翼を有する幼児の姿をしたキューピッドのイラストに若干の修飾を加えた、Two Valentines イラスト、1903年作品、1905年作品、1906年作品等を発表した後、「Ladies' Home Journal」1909年12月号に、従来のキューピッドのイラストと異なり、新たな空想上の存在を感得させる独創的なキューピーイラストが描写された本件イラスト著作物を発表した(甲3、44、56、乙14、15、
17、18)。
ローズオニールは、そのころ、キューピーの人形を作ってほしいとの子供たちの手紙を受け取ったことから、戯れにキューピーイラストを立体的に表現して本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像を彫ったところ、そのことを知った複数の玩具工場からキューピー人形を製造したいとの申出を受け、人形の複製を許諾する工場を選定した。1912年、ドイツでビスク製のキューピー人形が試作されることとなり、ローズ・オニールも渡独し、玩具工場において助言及び指導をした。また、ローズ・オニールは、当時イタリアで美術を学んでいた妹のカリスタにキューピー人形の制作につき助力を依頼し、カリスタは助手を務めるようになった。ドイツで制作された本件人形は、1913年、アメリカ合衆国において販売され、爆発的な人気を博した(甲3、56)。
ローズ・オニールは、1912年12月17日、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に対し、キューピー人形の意匠について意匠特許登録の出願をし、その意匠は、1913年3月4日、登録第43680号意匠特許として登録された(乙33)。また、ローズ・オニールは、1913年11月20日、アメリカ合衆国著作権局に対し、キューピーの小さな彫像の著作物につき、自らを著作権者とする著作権の登録を申請し、登録番号H1040として登録がされた(甲1、56)。
控訴人の所持する本件人形は、上記登録意匠と同一の形態を有するが、そこには、「ROSE O'NEILL.1913」の著作権表示及び「REG U・S・PAT・OFF・DES・PAT・V・4・1913」の意匠特許表示がされている(甲2、乙33)。
控訴人は、遺産財団から本件人形に係る本件著作権の譲渡を受けたことについて、平成10年6月9日、著作権法77条1号に基づく著作権の登録を申請し、同年8月25日、その発行年月日を上記の1913年11月20日として登録がされた(甲39)。
上記認定の事実を総合すれば、ローズ・オニールは、1910年ないし1912年の間に、アメリカ合衆国で、本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像を本件著作物として創作し、1913年にその複製物として本件人形を制作するとともに、本件著作物を発行したものと認めるのが相当である。
なお、控訴人が所持し別紙著作物目録によって特定される本件人形(甲第2号証に撮影された人形)そのものは、その原型となった作品の複製物であることが形態等に照らして明らかである以上、それ自体について著作物性をいう余地はないから、弁論の全趣旨にかんがみれば、控訴人も、このことを前提とした上、本件著作物は、上記のとおり、ローズ・オニール自身が彫った、本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像であり、また、本件著作権は、上記小彫像の著作者であるローズ・オニールに帰属した後に遺産財団を経て控訴人が譲り受けたとする本件著作物の我が国における著作権であるとの主張をしているものと解される。
(2) 被控訴人は、アメリカ合衆国著作権局に登録されたキューピーの小彫像が本件人形と同一の形態を有すると認めるべき根拠はないと主張する。しかしながら、上記認定のとおり、甲第2号証に撮影された人形には、ローズ・オニールがその人形の著作権者であるとする著作権表示とともに、ローズ・オニールが上記意匠特許権者である旨の意匠特許表示が付されているのであり、また、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に登録された上記意匠特許の登録公報には、甲第2号証の人形と同一の意匠がローズ・オニールを創作者として登録されている。そして、本件著作物は、1909年にローズ・オニールが創作した本件イラスト著作物中に描かれたキューピーイラストを立体的に表現したものであって、これらの事実を総合すると、
アメリカ合衆国著作権局に登録されたキューピーの小彫像が本件人形と同一形態のものであると認めるのに十分である。
被控訴人は、さらに、本件人形について、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作され、又はローズ・オニール自身が制作したものではなく、ジョゼフ・カラスら人形の制作者が大量生産した玩具であると主張するが、上記認定のとおり、本件人形は、ローズ・オニール自身が彫ったキューピーの小さな彫像でキューピーイラストを立体的に表現したものを複製して制作された人形であるところ、控訴人の主張する本件著作権は、ローズ・オニール自身が制作した上記キューピーの小さな彫像である本件著作物の我が国における著作権をいうものと解されることは前示のとおりであるから、甲第2号証の人形がローズ・オニールの許諾を得ずに制作され、又は玩具業者により生産されたとしても、これが上記小彫像の複製物である以上、ローズ・オニールが本件著作物の著作権者となったということの妨げにはならない。被控訴人は、本件人形に付された上記著作権表示及び意匠特許表示が、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作された他のキューピー人形に付されたものと同一であるとも主張するが、一般にローズ・オニールの許諾を得ずに制作されたキューピー人形にどのような表示が付されていたかを認めるに足りる証拠はなく、また、
仮に、甲第2号証の人形がローズ・オニールの許諾を得ずに制作されたものであったとしても、これが本件人形の複製物である以上、ローズ・オニールが本件著作物の著作権者となったということの妨げとはならないから、いずれの理由によっても、被控訴人の主張は採用することができない。
次に、本件人形の制作者はジョゼフ・カラスであるとする被控訴人の上記主張についてみるに、「Kewpies-Dolls & Art」(乙83)には、これに沿う部分もあるが、上記認定のとおり、ローズ・オニールは、早くから画才が注目され、イラストレーターとして活動しており、本件イラスト著作物を創作し、キューピーイラストを立体的に表現した本件著作物について、その複製を申し出た複数の玩具工場の中から、複製を許諾する工場を選定した上、自らドイツに赴いてキューピー人形の制作につき助言及び指導をし、キューピー人形の制作に際し妹のカリスタに助力を依頼し同人が助手を務めたこと、本件著作物の著作権及び本件人形の意匠特許権について、ローズ・オニールが著作権者及び意匠特許権者である旨の登録がアメリカ合衆国所管庁においてされていることに照らすと、乙第83号証中被控訴人主張に沿う部分は、採用することができない。
3 本件著作物の創作性について (1) キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の形態は、@裸で立っている、A全身が三頭身である、B掌を広げている、C頭は丸い、D髪の毛は中央部が突出して額にまで細く流れている、E耳のそばにカールした髪がある、F顔は頬がふっくらと丸い、G目は丸くパッチリしている、H眉毛は小さく目との間隔が広い、I鼻は小さく丸い、J口はほほ笑んでいる、K背中に小さな双翼がある、L腹が膨れている、M性別は判別できない、N陽気に笑っているか茶目っ気のある表情をしている、という特徴を有するものと認められ、その他の特徴を含め総合的に考察すると、キューピーイラストは、従来のキューピッドのイラストと異なり、新たな空想上の存在を感得させる独創的なものであって、従来、
子供、天使、キューピッド等の題材を扱った作品におけるこれらの表現として不可避又は一般的なものにとどまらない創作性を有するものと認められる。
また、本件著作物の複製物である本件人形を撮影した甲第2号証によれば、本件人形の形態は、キューピーイラストの有する上記表現上の特徴をすべて具備していることに加え、これを変形して立体的に表現したという点において新たな創作性が付与されたものと認められる。したがって、本件著作物は、ローズ・オニールがその制作に先立って創作したキューピーイラストの二次的著作物として創作性を有するというべきである。なお、1910年作品中のキューピーのイラストは、キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の複製物であって、その創作により新たな著作権が生ずるものではないから、本件著作物の原著作物であるということはできない。
(2) 被控訴人は、本件人形の表現上の特徴について、いずれも「かわいらしい幼児の天使の立像」の一般的特徴であり、他の著作物にも多く認められるものであると主張する。しかしながら、「かわいらしい幼児の天使の立像」自体、その表現が多種多様であり得るのであって、そのような立像に新たな創作性が付与されたものであれば、旧著作権法及び現行著作権法上の著作物というべきである。上記のとおり、キューピーイラストが従来の作品における子供、天使、キューピッド等の表現として不可避又は一般的な表現にとどまらず、むしろ、新たな空想上の存在を感得させる表現上の創作性を有する以上、これを立体的に表現した本件著作物もまた、その創作性を認めることができる。
(3) また、被控訴人は、ローズ・オニールの先行著作物が本件人形の特徴である、@先のとがった頭髪、A背に付された小さな双翼、Bふっくらした幼児の体型等すべての特徴を備えており、本件人形がこれら作品の複製物にすぎないと主張するので、検討する。
ア Two Valentines イラスト(甲44)との対比 Two Valentines イラストは、髪の毛が通常の幼児の量であり、目の形も通常の幼児の大きさと比べて違和感がなく、頭部の突起が余り目立たないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。また、上記イラストは、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
イ 1903年作品(甲80、乙14)との対比 当審で提出された甲第80号証によれば、1903年作品は、毛髪及び眉毛が不明りょうで、口及び鼻がほぼ点で描かれ、双翼が比較的明りょうで、上目遣いで哀願するような悲しい表情をしているという点において、本件人形と異なっている。なお、原審で提出された乙第14号証は、全体的に不鮮明であって、このような比較は困難である。
ウ 1905年作品(甲45、乙17)との対比 1905年作品は、髪の毛が通常の幼児の量であり、顔及び身体が写実的に描かれており、頭部の突起があるものの毛髪の量に比してさほど違和感がないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。また、上記作品は、目を閉じて下を向き、
表情が暗く、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
エ 1906年作品(乙18)との対比 1906年作品は、側頭部において髪の毛が比較的明りょうであり、頭の突起があるものの毛髪の量に比してさほど違和感がないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。他方、上記作品は、恥ずかしげな表情をしており、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
(4) 本件著作物は、これら先行著作物と異なり、キューピーイラストの表現上の特徴をすべて備えており、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有すると認められることは上記のとおりであるから、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有する二次的著作物であるというべきであって、被控訴人主張の先行著作物の二次的著作物ということはできない。
4 美術の著作物の該当性について (1) 本件著作権は、日米著作権条約及び旧著作権法により我が国国内において生ずる著作権であるから、権利発生の実体的要件については、我が国の旧著作権法が適用されるべきである。上記のとおり、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現した二次的著作物であるところ、キューピーイラストは、美術の著作物に属するイラストとして著作物性を有し、本件著作物は、これを立体的に表現したという点において更に創作性が付加されているから、旧著作権法1条に規定する「美術ノ範囲ニ属スル著作物」として旧著作権法により保護されるということができる。なお、1903年アメリカ合衆国著作権法が保護の対象としていなかったものについては、日米著作権条約に規定する内国民待遇の射程が問題となる余地がないわけではないが、美術の著作物である本件著作物については、1903年アメリカ合衆国著作権法によっても保護されることは明らかであり、現に上記のとおり同国において著作権登録もされているから、この点でも、本件著作物が旧著作権法により保護を受けることに問題はない。
(2) 被控訴人は、本件人形が金型を用いて大量生産され、いわゆる応用美術に当たるから、原図又は原型を離れて独立した著作物として旧著作権法及び現行著作権法による保護を受けることはできないと主張する。しかしながら、上記認定のとおり、本件人形は、ローズ・オニール自身が戯れに彫ったキューピーの小さな彫像を複製して制作されたものであるところ、控訴人の主張する本件著作権は、玩具工場等において大量に複製されたキューピー人形そのものではなく、ローズ・オニール自身が彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)に係る著作権をいうものと解すべきであるから、甲第2号証に撮影された人形自体が金型を用いて大量生産されたものであるとしても、そのことは、本件著作物が美術の著作物であることを否定する理由とはならない。
(3) また、被控訴人は、本件人形が制作された1913年当時、意匠に係るものが意匠法で保護されるのは別として、工業上の利用を目的とする美術品及び工芸品に旧著作権法の適用はなかったと主張するが、上記認定のとおり、ローズ・オニール自身が戯れに彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)は、複数の玩具工場がキューピー人形の工業的大量生産を申し出た以前に、キューピーイラストを立体的に表現した美術の著作物として制作されたものということができる。なお、本件人形が、その後、玩具工場からの申出により大量に複製頒布されたとしても、このことによって本件著作物の著作物性が喪失すると解すべき理由はない。
(4) なお、万国条約特例法11条が本件人形に適用される余地はないとする被控訴人の主張は、本件著作物が美術の著作物に当たらないことを前提とするものであり、また、本件人形が大量生産品であり美の表現を追求して制作されたものとはいえないとする被控訴人の主張は、本件著作物の制作経緯に係る上記認定事実と異なる事実を前提とするものであり、いずれもその前提を欠き採用することができない。
5 著作権表示の要否について (1) 本件著作物が発行された1913年当時、日米両国は、日米著作権条約により相互に内国民待遇を与えていたところ、アメリカ合衆国国民が同国内において創作、発行した著作物が日米著作権条約及び我が国著作権法により我が国において保護を受けるためには、我が国国民の著作物及び我が国において発行された著作物と同様、何らの方式を要せず、単に著作物を創作するだけで足り、発行に際して著作権表示を付すことを要しないと解するのが相当である。なぜならば、著作権保護における内国民待遇とは、締約国の国民の著作物又は締約国で第一発行された著作物が、他の締約国において当該国の著作物と同様の保護を受けることを意味するところ(万国条約3条1、ベルヌ条約5条(1)参照)、当該国の著作物と同様の保護とは、著作権保護に一定の方式を要する当該国においては、その方式を具備することを要し、上記方式を要しない当該国においては、その方式を要しないと解するのが「同様の保護」という内国民待遇の内容に沿うからである。また、このように解さなければ、無方式主義を採る国において発行された著作物と方式主義を採る国において発行された著作物との間において、合理性を欠く保護の不均衡を生ずるといわなければならない。
そして、方式主義国と無方式主義国との調整を図る万国条約が、方式主義国における著作権保護のために当該方式国外において発行された著作物について著作権表示を要件とし(3条1)、無方式国における保護についてこれに対応する規定を設けていないのは、上記の趣旨に基づくものと解することができる。
そうすると、日米両国が相互に内国民待遇を許与していた日米著作権条約の下において、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国旧著作権法の下において保護を受けるために、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、本件著作物がアメリカ合衆国において著作権表示を付さずに発行されたとしても、このことにより、我が国において旧著作権法による保護を受けることができなくなるものではない。
(2) 被控訴人は、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠特許登録をし、同意匠に係るアメリカ合衆国意匠特許公報が著作権表示を付さずに公刊されたことを主張するが、上記のとおり、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国において保護を受けるためには、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、上記意匠特許公報が公刊されたからといって、本件著作物が我が国において保護を受けることができなくなるものではない。
6 意匠特許の取得について (1) 内国民待遇とは上記のような意味を有し、したがって、日米著作権条約による内国民待遇とは、アメリカ合衆国国内において同国国民の発行した著作物に対し、旧著作権法の下において我が国の著作物が受けるのと同様の保護を与えることを意味する。我が国旧著作権法の下において、著作者が当該著作物と同一の形態の意匠について意匠権を取得しても、当該著作物について旧著作権法上の保護を受けることができなくなると解すべき根拠はないから、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠権を取得したことは、我が国における本件著作権の消滅事由とはならない。
(2) 被控訴人は、1913年当時のアメリカ合衆国法の下においては、著作者がある作品について意匠特許を申請し登録を得た場合には、著作権法上の保護を受けることはできないとされていた旨主張する。
しかしながら、仮に、1913年当時のアメリカ合衆国が意匠特許の取得により同一形態の著作物の著作権が消滅するという法制度を採用していたとしても、日米著作権条約による内国民待遇が我が国において我が国旧著作権法による保護を意味する以上、上記のとおり、本件著作権が我が国において消滅したと解することはできない。また、ローズ・オニールがアメリカ合衆国において意匠特許を取得したとしても、当該意匠特許の効力は、同国国内に限られ、我が国には及ばないから、我が国において著作権と意匠権による二重の保護という事態は生じない。したがって、この点においても、本件著作権が我が国において保護を受けることができなくなるということはできず、被控訴人の主張は採用の限りではない。
7 著作権の保護期間について (1) 明治39年5月11日に公布された日米著作権条約は、日米両国民の内国民待遇を規定しており(1条)、その後、昭和27年4月28日に公布された平和条約7条(a)により日米著作権条約は廃棄されたが、アメリカ合衆国を本国とし、同国国民を著作者とする著作物に対し、平和条約12条(b)(1)(ii)及び外務省告示により、昭和27年4月28日から4年間、引き続き内国民待遇が与えられるとともに、昭和31年4月27日までの間、日米著作権条約が有効であるとみなされた。
上記の著作物については、上記4年間の経過と同時に、万国条約特例法11条に基づき、今日に至るまで引き続き内国民待遇が与えられていると解される。
1910年ないし1912年の間に本件著作物を創作し1913年にこれをアメリカ合衆国において発行したローズ・オニールは、日米著作権条約及び旧著作権法により、我が国における本件著作権を取得し、その保護期間は、旧著作権法3条52条1項により、著作者であるローズ・オニールの死後38年とされた。
日米著作権条約は、平和条約7条(a)により廃棄されたが、平和条約12条(b)(1)(ii)、外務省告示及び万国条約特例法11条により、内国民待遇が継続された。ローズ・オニールは、1944年4月6日、アメリカ合衆国ミズーリ州において死亡し(甲3、4)、本件著作権の保護期間中である昭和46年1月1日に施行された現行著作権法51条により、本件著作権が著作権者であるローズ・オニールの死後50年間とされ、また、連合国特例法4条1項により、本件著作権の保護期間について3794日間の戦時加算がされる結果、2005年5月6日まで存続することとなるから、本件著作権は、現在も保護期間が満了していない。
(2) 被控訴人は、ベルヌ条約が万国条約及び万国条約特例法に優先するため、
本件著作権についても、ベルヌ条約が適用され、万国条約特例法11条の適用が排除されると主張する。そして、1909年アメリカ合衆国著作権法は、著作権の保護期間は最初の発行後28年であり、この保護期間経過1年前までに連邦著作権局に対して更新の申請をして登録がされた場合には、更に28年の更新が認められる旨規定していたから、更新手続が執られたことの証拠のない本件著作物の同国における著作権は、1941年に保護期間が満了している。しかしながら、万国条約特例法は、万国条約の実施に伴い、著作権法の特例を定めることを目的とするところ(1条)、同法附則2項において、万国条約特例法施行前に発行された著作物については原則としてその適用がない旨を規定し、他方、同項括弧書により、同法11条については、同法施行前に発行された著作物についても適用される旨を規定している。また、同法11条は、平和条約25条に規定する連合国で同法施行の際万国条約締結国であるもの及びその国民を著作権者とし、平和条約12条の規定に基づいて旧著作権法による保護を受けている著作物について、引き続き同一の保護を受ける旨規定する。万国条約特例法11条が平和条約25条に規定する連合国及びその国民(以下「連合国国民」という。)の著作物であることを要件としているのは、連合国と我が国との間で効力を生じた条約が平和条約7条(a)により廃棄されたためである。万国条約特例法11条は、平和条約12条(b)(1)(ii)及び外務省告示により4年間に限り内国民待遇が継続されたものの、平和条約の失効により、それまで内国民待遇を与えられていた連合国国民を著作者とする著作物の著作権が我が国において消滅することを避けるため、万国条約19条の趣旨及び既得権尊重という一般法理念に基づき、著作権法の特例として、上記著作物について特に内国民待遇を継続してその保護を図ったものと解される。そうすると、万国条約特例法が万国条約の実施のみを目的とする法律であるということはできず、同法11条は、平和条約12条及び外務省告示が失効した後において、既得権尊重という一般法理念及び国際信義の観点から、国際法上は保護義務を負わなくなる著作物を引き続き国内法上保護するものというべきであるから、このような万国条約特例法11条の趣旨に照らすと、同条は、連合国国民の著作物を特に保護する規定として、アメリカ合衆国のベルヌ条約加入の後も引き続き適用されるものと解するのが相当である。
また、被控訴人は、同一当事国間においてベルヌ条約と万国条約の双方が有効な場合について、万国条約17条及び同条に関する附属宣言は、万国条約を排除し、ベルヌ条約を適用することを定めていることを主張する。しかしながら、現在、日米両国間の著作権保護について適用される条約はベルヌ条約であり万国条約は適用されないとしても、上記のとおり、万国条約特例法11条が、その趣旨に照らし、連合国国民の著作物を特に保護する規定としてアメリカ合衆国のベルヌ条約加入の後も引き続き適用されるものである以上、ベルヌ条約が万国条約に優先するからといって、我が国国内法である万国条約特例法11条の適用が排除されるべきものではない。また、ベルヌ条約は、同盟国間において内国民待遇等の著作権保護を定める条約であるが、同盟国がベルヌ条約の規定を超えて連合国国民の著作権を保護することを禁止するものと解すべき根拠はないから、アメリカ合衆国国民の著作物について内国民待遇を継続する万国条約特例法11条がベルヌ条約に反するものではない。
(3) 万国条約特例法10条は、同法がベルヌ条約同盟国を本国とする著作物については適用されない旨規定するが、同条は、同法附則2項により、万国条約特例法施行前に発行された著作物である本件著作物への適用が排除されているから、後にアメリカ合衆国がベルヌ条約に加入しても、本件著作物について同法10条が適用される余地はないと解するのが同法の文理に合致する。また、保護期間の相互主義を定める著作権法58条(ベルヌ条約7条(8)の許容するところである。)は、同法2章4節に規定されているところ、同法附則7条は、同法施行前に公表された著作物の著作権の存続期間について、同法2章4節の定める期間より旧著作権法による著作権の存続期間の方が長いときはなお従前の例によると規定しており、著作権法2章4節の規定により旧著作権法の定める保護期間が短縮されることを想定していない。旧著作権法において、ベルヌ条約同盟国を本国とする著作物について著作権の保護期間の相互主義を定めた規定はないから、ベルヌ条約には遡及効がある(同条約18条(1))からといって、アメリカ合衆国が同条約に加入したことに伴い著作権法58条の遡及的適用により本件著作権の保護期間が短縮又は消滅すると解することは、同法附則7条の趣旨にも反するというべきである。
また、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加入したことに伴い著作権の保護期間について相互主義が遡及的に適用されると解することは、既に生じた私権について後の法改正により遡及的にこれを消滅させることとなるが、このような法改正は、私権保護及び法的安定性の観点から是認することができず、特に法令に明文の規定を欠く以上、解釈によりそのような結果を招来させるためには、そのような解釈を正当とする十分な根拠を要するというべきである。しかしながら、そのような遡及適用を肯定する解釈は、上記のとおり、万国条約特例法附則2項及び著作権法附則7条の文理及び法の趣旨に反する上、現行著作権法制とも整合しない。すなわち、著作権法は、その施行に際し、特に附則26条において、万国条約特例法11条の「著作権法」を「旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)」に改め、「その保護」の下に「(著作権法の施行の際当該保護を受けている著作物については、
同法の保護)」を加える改正を行い、万国条約特例法11条により保護を受けている著作物が現行著作権法の下において引き続き保護される旨を明記する法改正をしながら、同条に規定する内国民待遇と著作権法58条に規定するベルヌ条約同盟国間における保護期間の相互主義との関係について、特段の規定を置いておらず、そのほか、著作権法の施行及びアメリカ合衆国のベルヌ条約加入に際し、上記内国民待遇とベルヌ条約同盟国間における保護期間の相互主義の調整を図るために特段の立法もされていない。そうすると、私権保護及び法的安定性を犠牲にし、あえて内国民待遇に優先して保護期間の相互主義を遡及適用すべき法令上の根拠も、そのような法解釈を採るべき合理的理由も見いだすことができない。したがって、アメリカ合衆国のベルヌ条約加入により著作権法58条を遡及的に適用すべきであるとする被控訴人の主張は、採用することができない。
(4) なお、付言すると、以上のとおり、本件著作物は、本国であるアメリカ合衆国において1941年に保護期間が満了したにもかかわらず、我が国においては、その後60年を経過した今日において、なお本件著作権が存続していることとなるが、このような結論に対しては、一見したところ、不自然な感を受けないわけではない。しかしながら、ベルヌ条約及び万国条約は、いずれも内国民待遇の原則に則っているが、本質的には抵触法条約であって、超国家的な実体法のまとまったシステムを課しているわけではないから、加盟国の国内実体法同士がかなりの程度に異なっている場合には、著作物の保護の程度にも差異を来し、最初に発行された国では保護を受けないような著作物でも、他の加盟国では保護を受けるという事態も生じ得るところである。本件において、こうした事態を招いた第一の理由は、本件人形の創作当時、アメリカ合衆国著作権法が創作から28年間の保護期間を定めていたのに対し、我が国の旧著作権法が著作者の死後38年の保護期間を定めていたことにある。当時のアメリカ合衆国著作権法は、著作権の更新の制度を有し、更新の有無及び著作者の死亡時期によっては、必ずしも我が国旧著作権法による保護期間の方が長期であるとは限らなかった。また、内国民待遇とは、条約締結国国民の著作物を我が国国民の著作物と同様に保護することを意味し、我が国国民の著作物に優先して保護するものではない。日米著作権条約及び旧著作権法により、我が国国民の著作物とアメリカ合衆国国民の著作物は、その保護期間を含め、完全に平等に保護されていたのである。平和条約、外務省告示及び万国条約特例法が内国民待遇を継続したということは、このような内外国人平等の保護を継続したということを意味し、それ以上の意味はない。
本件著作物に対し、当時の我が国国民の著作物と比べより長期の保護期間が与えられたのは、連合国特例法4条1項により、アメリカ合衆国国民の著作物に対し保護期間を10年以上加算したことによるものであって、確かに、同項が施行されていなかったならば、本件著作権は既に保護期間が満了していたこととなる。
しかしながら、大戦の敗戦国において、このような措置を採ったのが我が国のみであったとしても、我が国が独自の判断によりこのような措置を採ったことは、大戦後の特殊な諸般の状況に照らし、立法政策上、合理性を認めることができるから、
本件著作権の保護期間を判断するに当たり、連合国特例法4条1項による約10年の戦時加算をすべきことは当然であり、これによって導かれる保護期間を他の法令の解釈により調整することは、法解釈として正当なものということはできない。
8 本件著作権の控訴人に対する譲渡について (1) 相続人が、その相続に係る不動産持分について、第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は、法例10条2項により、その原因である事実の完成した当時における目的物の所在地法であって、相続の準拠法ではないことは、判例とするところであるから(最高裁平成6年3月8日第三小法廷判決・民集48巻3号835頁)、本件著作権の譲渡は、アメリカ合衆国国民であり同国ミズーリ州において死亡した亡ローズ・オニールの相続財産の処分ではあるけれども、本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は、相続の準拠法として同州法とされるべきでないことは、上記判例の趣旨からも明らかである。
そして、著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
(2) まず、著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断する。いわゆる国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が定められるべきものと解するのが相当であり、仲裁契約中で上記準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきものとされている(最高裁平成9年9月4日第一小法廷判決・民集51巻8号3657頁)。
著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法は、法律行為の準拠法一般について規定する法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従うべきところ、著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、契約の内容、当事者、目的物その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである。控訴人の主張する本件著作権の譲渡契約は、アメリカ合衆国ミズーリ州法に基づいて設立された遺産財団が、我が国国民である控訴人に対し、我が国国内において効力を有する本件著作権を譲渡するというものであるから、同契約中で準拠法について明示の合意がされたことが明らかでない本件においては、我が国の法令を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。
(3) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理する遺産財団に承継され、ミズーリ州タニー郡巡回裁判所により、ポール・オニールが遺産財団管財人に選任された。ポール・オニールは、1964年3月18日、同裁判所の命令を受けて任務を終了したものの、1997年7月14日、ローズ・オニールの新たな財産が発見されたとして、デビッド・オニールから同裁判所に対し遺産財団管財人選任の申立てがされ、同裁判所は、同月15日、デビッド・オニールを遺産財団管財人に選任した(甲4、5)。
控訴人は、平成10年5月1日、遺産財団から、本件著作権を含むローズ・オニールが創作したすべてのキューピー作品に係る我が国著作権等を、頭金として15,000アメリカドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー製品及び物品に係る控訴人自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた(甲105)。
被控訴人は、控訴人が本件著作権等の対価を当審口頭弁論終結日まで明らかにしなかったことを理由に控訴人主張の譲渡が虚構である旨主張し、確かに、この点に係る控訴人の訴訟遂行は問題なしとしないが、このことから直ちに、上記著作権譲渡契約の存在を否定することはできず、他に上記の認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって、控訴人と遺産財団とは、本件著作権について、上記譲渡契約を有効に締結したということができる。
(4) 次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断する。一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法例10条は、その趣旨に基づくものであるが、その理由は、物権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。
(5) そうすると、本件著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるから、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、上記の本件著作権譲渡契約が締結されたことにより、本件著作権は遺産財団から控訴人に移転したものというべきである。
9 本件著作権の第三者への譲渡について (1) 被控訴人は、遺産財団管財人ポール・オニールが遅くとも1948年6月5日までに本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権をジョゼフ・カラスに譲渡したと主張する。
(2) しかしながら、仮に、遺産財団管財人ポール・オニールがジョゼフ・カラスに対し本件著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、上記のとおり、遺産財団から控訴人に対する本件著作権譲渡による物権類似の支配関係の変動については、本件著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、本件著作権について、ジョゼフ・カラスに対する譲渡と控訴人に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、控訴人に対する本件著作権の移転が効力を失うものではない。
我が国著作権法上、被控訴人は、本件著作権について、譲渡を受け、又は利用許諾を受けるなど、控訴人が本件著作権譲渡の対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しないから、控訴人は、被控訴人に対し、対抗要件の具備を問うまでもなく、本件著作権を行使することができる。なお、本件著作権譲渡の法律効果について我が国著作権法が適用されるということは、著作権譲渡の対抗要件についても同様であることを意味するところ、控訴人は、遺産財団から本件著作権の譲渡を受けたことについて、我が国著作権法77条1号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10年8月25日に登録を受けた結果(甲39)、上記対抗要件を具備していることは上記2(1)認定のとおりであるから、この点においても、
被控訴人の主張は理由がない。
10 訴訟信託について (1) 上記のとおり、本件著作権譲渡契約の有効性については、我が国の法令が準拠法となるところ、我が国の法令上、遺産財団から控訴人に対する本件著作権の譲渡が訴訟行為をさせることを主たる目的とする訴訟信託に当たると認めるに足りる証拠はない。
(2) 被控訴人は、控訴人が本件著作権の譲渡を受けて間もなく本件訴訟を提起したことを主張するが、このことから直ちに訴訟信託が推認されるものではない上、控訴人は、上記認定のとおり、遺産財団に対して相当額の対価の支払を約し、
また、本件訴訟の遂行を弁護士である訴訟代理人に委任し、同代理人が原審及び当審の口頭弁論期日に出頭して訴訟を遂行していることは訴訟上明らかであるから、
この点においても、本件著作権の譲渡が訴訟信託であるとは認め難い。
11 本件著作権の放棄について (1) 元来、著作権は、各国ごとに成立要件、効力、保護期間等を異にするものであること、ローズ・オニール又はその承継人が本件著作権について明示的に放棄の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと、ローズ・オニールがアメリカ合衆国法上本件著作権について更新手続を執らなかったことをもって、我が国における本件著作権を放棄したと評価することはできない。
(2) 被控訴人は、ローズ・オニールが同人の許諾を得ていない日本製のキューピー人形の存在を知っていたこと、ローズ・オニールは更新手続を執らないことによりアメリカ合衆国国内における本件著作権が消滅することを熟知していたこと、
本件著作権の権利者が本件訴訟提起まで許諾を得ない日本製キューピー人形の製造者等に対し本件著作権等の権利行使をしなかったことなどを主張するが、これらの事実をもってしても、上記認定が左右されるものではなく、他に、我が国における本件著作権の放棄がされたことを認めるに足りる証拠はない。
12 権利の失効について (1) 権利を有する者が久しきにわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、上記権利の行使は許されないとして、いわゆる失効の原則が適用される場合のあることは、判例とするところである(最高裁昭和30年11月22日第三小法廷判決・民集9巻12号1781頁、同昭和40年4月6日第三小法廷判決・民集19巻3号564頁)。
(2) しかしながら、本件において、被控訴人は、被控訴人が現在に至るまで70年以上にわたり被控訴人商標等を使用し続けてきたこと、ローズ・オニール及びその承継人が、その間、本件著作権の行使をしなかったことなどを主張するが、それだけでは、上記法理の適用により本件著作権の権利行使の不許ないし権利の消滅を根拠付けるに足りる事情ということはできないから、被控訴人の主張は採用の限りではない。
なお、被控訴人は、権利の失効について権利濫用を基礎付ける事情としても主張するが、本件においては、後記のとおり、被控訴人が本件著作物の複製又は翻案をしたものとは認められないから、権利濫用の成否については判断しない。
13 以上のとおりであるから、控訴人は、本件著作権の著作権者であるというべきである。
14 複製又は翻案について (1) 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。これを本件についてみると、上記のとおり、本件著作物は、
本件イラスト著作物中に描かれたキューピーイラストを原著作物とする二次的著作物であり、また、原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有するから、立体的に表現したという点を除く部分については、キューピーイラストと共通しその実質を同じくするものとして、本件著作権の効力は及ばないというべきである。
(2) そこで、この見地から控訴人主張の複製又は翻案の成否について判断すると、本件著作物それ自体が証拠として提出されていない本件においては、その複製物である本件人形と被控訴人イラスト等を対比検討するのが相当である。
ア まず、被控訴人人形を本件人形と対比すると、両者とも、裸の中性的なふっくらとした乳幼児の体型をした人形であり、頭部が全身と比較して大きく、後頭部の中心が突き出したように張り出ている点、頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の特徴的な髪の毛が生え、中央部分の毛は前に垂れ、その余の部分には髪の毛がなく、後頭部ないし両肩部に小さな双翼を備えているなどの点で共通した特徴がある。しかしながら、立体的な表現という観点も踏まえ、更に検討すると、
以下のとおりの差異が認められる。すなわち、被控訴人人形は、眉が円弧状にやや厚みをもって描かれているのに対し、本件人形は、眉が点のように描かれている。
被控訴人人形は、口の両端が膨れた頬に埋まるかのように厚みをもって表現され、
長さは両目の間とほぼ同距離であり、わずかに開き、ほぼ直線であるのに対し、本件人形では、口が下向きの単純な円弧の線として表現され、左右の目の中央部付近にまで広がっている。被控訴人人形は、鼻が二つの穴まで表現されているのに対し、本件人形は、鼻がわずかな膨らみで表現され二つの穴はない。被控訴人人形は、頬が膨らみ少し下方に垂れているのに対し、本件人形は、頬が下方に垂れていない。被控訴人人形は、双翼が両肩部に付けられ貝殻状をしているのに対し、本件人形は、双翼が後頭部から首の後方部左右に付けられている。被控訴人人形は、胴体は尻の部分が最も太いのに対し、本件人形は、胴中央部が最も太い。被控訴人人形は、膝が上下に溝を付けることで表現されているのに対し、本件人形は、膝には溝がない。被控訴人人形は、手の甲及び指の根本にくぼみが表現されているのに対し、本件人形は、その表現がない。被控訴人人形は、尻が背中部分に比べ後方に突き出しているのに対し、本件人形は、背中から尻にかけて突き出すことなく連続して、下方に向けて狭まっている。
イ 次に、被控訴人イラストは、平面的な著作物であるから、立体的な本件著作物の創作的な表現が再生されているというためには、被控訴人イラストから立体的な表現を看取することができるか、看取された立体的表現が本件人形の内容及び形式を覚知させるか、又は本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものであることを要するというべきである。この観点から被控訴人イラストを見ると、その表現は平面的であって、人形が描かれているという点においてのみわずかに立体的表現が看取されるというにとどまり、本件著作物の内容及び形式、本質的な特徴のいずれも感得させるものとはいい難い。さらに、表現の細部について被控訴人イラストを本件人形と対比すると、以下のとおりである。すなわち、被控訴人イラストは、頭頂部のみに髪の毛があるのに対し、本件人形は、頭部の中央及び左右にわずかに髪の毛が生えている。被控訴人イラストは眉が無いのに対し、本件人形は眉がある。被控訴人イラストは、はっきりと大きく丸みを帯びた耳が描かれているのに対し、本件人形は、耳の存在が不明りょうである。被控訴人イラストは、口を短く描き、黒目が左下方を向いているのに対し、本件人形は、口が左右に細長く、黒目が左方を向いている。被控訴人イラストは、へそが黒く塗りつぶした円で強調して表現されているのに対し、本件人形は、このように強調した表現がされていない。
被控訴人イラストは、胴から両足の部分について輪郭線が円弧状に連続的に描かれているのに対し、本件人形は、Y字状のくびれが表現されている。被控訴人イラストは、双翼が両腕の上からはっきりと視認し得るのに対し、本件人形は、正面からはこれが明確には視認し得ない。被控訴人イラストは、膝が表現されていないのに対し、本件人形は、膝小僧が表現されている。
(3) そうすると、本件著作物が原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有し、その余の部分に本件著作権は及ばず、他方、被控訴人イラスト等が上記の諸点において本件人形と相違し、全体的に考察しても受ける印象が本件人形と異なることに照らすと、本件著作物において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものでもなく、また、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、
本件著作物の複製物又は翻案物に当たらないことは明白である。
(4) 控訴人は、本件著作物の原著作物であるキューピーイラストについて我が国における保護期間が満了していないことを理由として、本件著作権の効力が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず本件著作物全体に及んでいると主張する。
しかしながら、二次的著作物の著作権が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみ生ずることは、二次的著作物の著作権者が原著作物について著作権を有していることによって影響を受けないと解するのが相当である。なぜならば、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付加されているためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないところ(上記最高裁判決)、我が国において原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、かつ、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者であるからといって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分について別個の著作物として保護すべき理由がないという点では、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者でない場合と何ら異なるところはないからである。
したがって、キューピーイラストの著作権について我が国における保護期間が満了しておらず、かつ、控訴人がその著作権者であるということは、本件著作権の権利範囲に影響を及ぼさないというべきであり、控訴人の主張は、採用することができない。
(5) また、控訴人は、原審第4回口頭弁論期日において、本件イラスト著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはないと述べているとおり、本件において、上記原著作権に基づく請求をしていない以上、原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、控訴人が原著作権の著作権者であるということは、本件訴訟の結論に影響を及ぼさない。
15 したがって、被控訴人イラスト等が本件著作物の複製物又は翻案物であるということはできないから、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求は、
その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
16 以上のとおり、控訴人の差止め及び廃棄の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、控訴人が当審において追加した著作権確認請求は理由がある。
よって、本件控訴を棄却し、控訴人の当審で追加した請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男
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