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関連ワード 著作物性 /  創作性 /  著作者 /  二次的著作物 /  翻案 /  同一性 /  編集著作物 /  著作者人格権 /  公表権 /  氏名表示権 /  同一性保持権 /  複製権 /  引用 /  出版権 /  二次使用 /  差止 /  113条 /  損害賠償 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 147号 損害賠償請求控訴事件
控訴人A
訴訟代理人弁護士 高橋正雄
被控訴人 株式会社永岡書店
被控訴人B
両名訴訟代理人弁護士 今井征夫
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/08/29
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して2億5000万円及びこれに対する平成12年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人らは、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の各朝刊に原判決別紙(一)記載の謝罪広告を同別紙(二)記載の条件で1回掲載せよ。
(4) 被控訴人らは、原判決別紙第一書籍目録記載の「アニメ昔ばなしシリーズ」@ないしI及び「名作アニメ絵本シリーズ」@ないし<90>の再版及びこれによる販売をしてはならない。
(5) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら 主文と同旨
事案の概要
控訴人は、原判決別紙第一書籍目録記載の書籍(以下「控訴人書籍」といい、その著作者人格権を「本件著作者人格権」、その著作権を「本件著作権」という。)の著作者、著作権者であり、被控訴人株式会社永岡書店(以下「被控訴人会社」という。)は、上記書籍につき控訴人との間で出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結していた会社、被控訴人B(以下「被控訴人B」という。)は、被控訴人会社の代表者である。
控訴人は、@ 被控訴人会社は本件出版契約に基づく出版権(以下「本件出版権」という。)の消滅後に発行の日付をさかのぼらせた上で控訴人書籍を印刷、
販売して、控訴人書籍の複製権を侵害した、A 被控訴人会社が本件出版権の消滅後に在庫の控訴人書籍を販売したことは、控訴人の複製権の侵害に当たる、B 被控訴人会社は、控訴人書籍を定価を大幅に下回る価格で販売した上、本件著作権の侵害等の行為により、控訴人の本件著作者人格権、名誉及び人格権を侵害した、C 被控訴人会社は、控訴人の許諾を得ることなく、原判決別紙第二書籍目録記載の書籍(以下「被控訴人書籍」という。)を出版して、本件著作権、編集権及び編集構成権を侵害した、D 被控訴人Bは、被控訴人会社の最高意思決定者として共同不法行為の責任を負う旨主張し、被控訴人らに対し、損害賠償、謝罪広告の掲載、
控訴人書籍の再版及び販売の差止めを求めている。
原審は、被控訴人会社が控訴人の本件著作権、本件著作者人格権、名誉、人格権等を侵害したとは認められないとして、控訴人の請求を棄却した。
本件の当事者間に争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決12頁2行目及び5行目の「バッタ販売」を「バッタ売り」に、13頁1行目の「著作権法113条3項」を「著作権法113条5項(平成11年法律第77号による改正前の同条3項。以下、改正後の表記による。)」にそれぞれ改める。
(2) 同26頁8行目〜9行目の「原告の編集権、編集構成権を侵害した」を「被控訴人書籍を出版した。控訴人は、上記創作行為に基づき、控訴人書籍に係る編集権及び編集構成権と称すべき権利を取得したのであり、被控訴人会社の上記行為は、控訴人のこれらの権利を侵害する」に改める。
(3) 同62頁9行目〜10行目の「すぎない」を「すぎず、控訴人主張の編集権又は編集構成権という権利が発生することもない」に改める。
2 控訴人の当審で追加した主張 (1) 争点1(発行日をさかのぼらせて出版した事実の有無)について ア 控訴人が被控訴人会社に対する契約解除等の意思表示をしたのは、平成10年3月9日付け「通知書」と題する内容証明郵便(甲59)によってであり、
「出版契約解除」と題する同年5月28日付け内容証明郵便(甲60の1)は、上記意思表示を改めて確認したものである。原判決は、被控訴人会社が印刷会社に控訴人書籍を発注したのは同年2月27日が最後であると判示するが、上記の事実関係に照らすと、被控訴人会社は、上記解除の意思表示後も控訴人書籍を無断で発注し出版したことが推認される。
イ 我が国出版業界においては、配本新刊図書について、売れ行きの悪い店頭在庫本は、通常2、3箇月程度で返本されてしまうのに、控訴人書籍は、現在も真新しい本が販売されており、かつ、これらは再裁断のされていない新印刷で、背表紙等が色あせていないから、被控訴人会社が本件出版契約解除後も発行日を遡及させて無断出版している事実が認められる。また、本件出版契約解除前の被控訴人会社による控訴人書籍の出版部数は、1箇月当たり59万部余りあるのに、その在庫が半月分相当の23万部にすぎないこと、平成13年1月15日現在でも甲93の鑑定書で鑑定の対象とされている控訴人書籍と同一の1997年〔平成9年〕4月ないし1998年〔平成10年〕2月の日付で新刊本が全国の書店で販売されていることからも、被控訴人会社の無断出版行為は明らかである。
ウ 控訴人書籍は、バーコードが記載されコンピュータ管理されているので、これを用いて集計すれば、控訴人書籍の売上集計及び在庫数を知ることは容易である。これを調べなかった原審には、審理不尽の違法がある。
(2) 争点3(著作者人格権の侵害の成否)について ア 原判決が、被控訴人らのいわゆるバッタ売り行為について、控訴人の著作者人格権、名誉、人格権を侵害するものでないとした判断は、失当である。すなわち、我が国においては、著作物の再販売価格制により市場の信用が維持されているから、バッタ売りは、それ自体、出版業界における信用を失墜させる行為にほかならず、被控訴人らは、控訴人書籍の定価350円を大幅に下回る200円でバッタ売りをして、控訴人に「バッタ童話作家」のらく印を押し、控訴人が長年努力して築き上げた絵本作家としての名誉及び信用を著しく毀損したというべきである。
イ 控訴人は、本件において、不法行為に基づいて損害賠償の請求をしており、著作権法の範囲内のみの請求をしているものではない。著作権法上も、著作者人格権とは、著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益の保護を受ける権利の総称であって、著作者としての地位から生ずる人格的権利をも包含している。著作物の公表権氏名表示権同一性保持権は、その具体的権利の例示であって、その他、同法113条において著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為等を著作者人格権の侵害とみなす行為として規定している。したがって、被控訴人らの行為が著作権の侵害行為には該当しないとしても、
著作者人格権、編集権及び編集構成権を被侵害権利とする不法行為に当たるのであるから、本件紛争は、被控訴人会社の無断販売、盗作及び廉価販売という各行為を関連付けて判断しなければ、その真相を解明することができない。
ウ 控訴人と被控訴人らとの信頼関係が破壊されるまでは、童話出版界において長年のロングセラーであった控訴人書籍について、被控訴人会社は控訴人に対し高額の印税を支払っていたという特段の関係が存在したのであり、被控訴人会社が被控訴人書籍を販売する行為は、控訴人書籍による控訴人の多額の利益を横取りする行為にほかならないから、この点においても、控訴人の人格権を侵害する行為であるということができる。
(3) 争点4(著作権の侵害の成否)について ア 原判決は、控訴人書籍中「にんぎょひめ」に係る著作権の侵害の成否に関し、甲53(「人魚姫が取り持つ奇跡」と題するブティック社作成の書面)が控訴人の著作した絵本を出版する会社の宣伝用書面であると判示するが、上記絵本とは、ポプラ社版「アニメファンタジー」シリーズのアニメ絵本であり、控訴人書籍はその二次使用本であるから、原審の上記認定は誤りである。
イ 原判決は、控訴人主張の編集権及び編集構成権を主張自体失当として排斥しているが、控訴人書籍が世界各国で愛読されているのは、控訴人が、物語内容、絵等に独自の翻案をし、独自の編集及び構成を採用したことによるものである。すなわち、控訴人書籍は、特殊小型変形版の大きさ及びソフトカバーの表紙仕上げを採用し、右頁に物語を配しこれに相応する絵を左頁に配し、右頁の右下方に小さなカットを挿入し、活字配列を左右9行を基本とし、表紙に各物語のシンボルとなる絵を描き、最上段に「名作アニメ絵本シリーズ」又は「アニメ昔ばなしシリーズ」の文字を配し、右側にタイトル番号を付し、裏表紙に出版するシリーズ本の内訳一覧広告を掲載するなどの独自の構成を採用している。被控訴人書籍は、控訴人書籍のこれらの翻案、編集及び構成を盗作している上、控訴人書籍のシリーズナンバー順及びタイトルも盗作しているから、控訴人の編集権及び編集構成権を侵害するものである。
3 被控訴人らの主張 (1) 争点1(発行日をさかのぼらせて出版した事実の有無)について 被控訴人会社が平成10年4月10日付けの控訴人書籍3点を発行したことは、在庫販売であり、本件出版契約により認められている。
(2) 争点3(著作者人格権の侵害の成否)について 原判決の著作者人格権の定義は、著作権法の条文どおりの判示をしているだけのことで、何の問題もない。同法113条違反行為が実質的に著作者人格権を侵害する行為か、あるいは侵害とみなす行為かといった点は、本件で争点とする必要性に乏しい事柄である。
著作物を定価より安く販売する行為は、著作物の利用行為ではないから、
著作権法113条5項に規定する著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為に当たらない。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決67頁6行目〜8行目の「例えば、光に当たらず、湿度も一定の暗室のような場所に保管されていたとすれば、相当の年月を経ても変色がほとんどみられないということもあり得るはずである。」を以下のとおり改める。
「被控訴人会社が書籍の在庫を保管するために用いている倉庫に保管されていたものと、控訴人が書棚に置いていたものとでは、変色の程度に相当の差異が見られるのは当然である。」 (2) 同68頁9行目〜10行目の「著作権法85条1項1号」を「平成11年法律第77号附則4項によりなお従前の例によるものとされる同法による改正前の著作権法85条1項1号」に改める。
(3) 同69頁1行目〜10行目を削除する。
(4) 同79頁5行目の「認められるから、」の次に「控訴人書籍のこの部分に創作性があるとはいえず、」を加える。
(5) 同89頁1行目〜7行目を削除する。
2 控訴人の当審で追加した主張について (1) 争点1(発行日をさかのぼらせて出版した事実の有無)について ア 控訴人は、被控訴人会社に対する本件出版契約解除等の意思表示をしたのは、平成10年3月9日付け「通知書」と題する内容証明郵便(甲59)によってであると主張するところ、原判決の判示するとおり、被控訴人会社が印刷会社に控訴人書籍を発注したのは、上記通知書による意思表示の前である同年2月27日が最後であるから、本件出版契約解除等の意思表示のされた時期が控訴人主張のとおりであっても、上記発注が本件出版契約に違反するものではない。また、本件出版契約の解除前にされた上記発注に基づいて納入された控訴人書籍について、被控訴人が在庫の頒布として販売することが本件出版契約により認められていることは、原判決の判示(68頁4行目〜10行目)のとおりである。
イ 控訴人は、我が国出版業界において、配本新刊図書で売れ行きの悪い店頭在庫本は、通常2、3箇月程度で返本されてしまうのに、控訴人書籍は、現在も真新しい本が販売されていることを主張し、これにより被控訴人会社が本件出版契約解除後も発行日を遡及させて無断出版している事実が認められると主張する。しかしながら、被控訴人会社が在庫品として控訴人書籍を本社の倉庫に保管しておき、書店の注文に応じて出荷しているとしても何ら不自然ではなく、これに沿う書店の店主が作成した報告書(甲66)もある。そして、本社の在庫保管用の倉庫において保管しているのであれば、保管状況も相当程度良好であるのが通常であるから、現在も真新しい控訴人書籍が店頭に並んでいることから直ちに、被控訴人会社が現在においてもその複製を継続していると推認することはできない。また、控訴人は、本件出版契約解除前の被控訴人会社による控訴人書籍の出版部数が1箇月当たり59万部余りあるのに、その在庫が半月分相当の23万部にすぎないことも主張するが、上記59万部という出版部数は、本件出版契約解除前のものであって、
解除後の現在では、被控訴人書籍の出版がされていることもあり、被控訴人会社による控訴人書籍の販売部数は大幅に減少しているのが自然であるから、その在庫が23万部であるからといって、被控訴人会社が複製を継続していると推認することはできない。被控訴人会社が平成13年1月15日現在でも甲93の鑑定書で鑑定の対象とされている控訴人書籍と同一である1997年〔平成9年〕4月ないし1998年〔平成10年〕2月の日付で新刊本を全国の書店に販売していることは、
被控訴人会社が控訴人書籍の複製を中止したことによる当然の結果にすぎない。
ウ 控訴人は、控訴人書籍にバーコードが記載されコンピュータ管理されているので、これを用いて集計すれば、控訴人書籍の売上集計及び在庫数を知ることは容易であるとして、審理不尽の違法を主張するが、被控訴人会社における控訴人書籍の在庫数を示す乙19及び控訴人書籍の発注を受けていないとする印刷会社の証明書である乙20の1ないし3に特段不自然な点のないことは原判決の判示(67頁1行目〜10行目)するとおりであって、バーコードを用いた集計をすることで上記認定が左右されるものではないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 争点3(著作者人格権の侵害の成否)について ア まず、著作者人格権について検討するに、著作権法は、第2章第3節の「第2款 著作者人格権」において、公表権(18条)、氏名表示権(19条)及び同一性保持権(20条)の規定を設けるほか、113条において、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為(5項)等が著作者人格権を侵害する行為とみなされる旨規定しているが、他に、著作者人格権を包括的に定義する規定やこの意義を解釈する指針となるべき規定を設けていない。そうすると、著作権法は、上記18条ないし20条に規定する権利及び113条により著作者人格権侵害とみなされる行為の禁止により保護されるべき権利を「著作者人格権」として規定したものというべきであって、これ以外の権利を著作者人格権に含めて解すべき根拠はない。控訴人は、著作権法が、上記のとおり公表権氏名表示権及び同一性保持権のほか、113条において著作者人格権の侵害とみなす行為を規定していることを根拠の一つとして、著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益の保護を受ける権利を総称して著作者人格権というべきである旨主張するが、113条は、著作者人格権の侵害とみなす行為の内容を各項所定の類型に分類して規定しており、その内容について「著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益を侵害する行為」というような包括的な定義をしているわけではないから、113条の規定を根拠として、著作者人格権の内容を控訴人主張のような包括的権利と解することはできない。したがって、著作権法は、18条ないし20条及び113条に明文の規定を有する上記権利以外のものについては、著作者人格権としてではなく、人格権一般の問題として民法709条による不法行為法上の保護を図っているものと解するのが相当である。そして、控訴人の主張するいわゆるバッタ売りは、著作権法18条ないし20条に規定するいずれの著作者人格権の侵害行為にも当たるものではなく、また、同法113条5項の規定は、一般的な個人としての名誉及び声望を保護する趣旨を含むものであるが、控訴人の主張するバッタ売りが控訴人の名誉及び信用を毀損するものでないことは、後記イのとおりであり、控訴人の名誉又は声望を害する方法によるものでもないことは、同所の認定判断に照らして明らかであるから、本件において、控訴人の主張するバッタ売りが控訴人の著作者人格権を侵害する行為に当たるということはできない。
イ 次に、民法上の人格権の侵害についてみるに、控訴人は、被控訴人らによる定価を大幅に下回るいわゆるバッタ売り行為により、控訴人に「バッタ童話作家」のらく印を押し、その名誉及び信用を著しく毀損した旨主張するが、一般に、
定価を下回る価額での書籍の販売がその著作者の名誉、信用を毀損する性質を有するものとは認められない。確かに、「ばった」(バッタ)は古道具屋仲間の隠語であって(株式会社三省堂発行、大辞林)、「ばったに売る」の形で「大安売り・投げ売りに売ること」をいい、「ばった屋」(普通「バッタ屋」と書く)は「正規のルートを通さず手に入れた品を極端に安い値段で売る人」をいうとされている(株式会社岩波書店発行、広辞苑第5版)とおり、控訴人の用いる「バッタ売り」という用語は、正規のルートを通さずに手に入れた商品を極端な低価格で販売するという意味を有するものと解されるから、販売の態様に照らし商品が粗悪品であると観念させるなどの販売行為であれば、著作者の名誉、信用を毀損することもあり得るところである。しかしながら、本件において、控訴人書籍は、被控訴人会社により通常の書店に販売され、その書店の店舗内において通常の販売形態で一般消費者に販売されているのであるから、社会通念上、一般消費者が販売の態様から控訴人書籍が粗悪品であると観念することはないものと考えるのが自然であり、その販売価格も、定価350円の書籍を200円で販売したというものであって、一般に「バッタ売り」と称されているような極端な低価格による販売であるともいえないから、被控訴人会社による控訴人書籍の廉価販売が著作者である控訴人の名誉、信用を毀損したと認めることはできない。また、控訴人は、我が国における著作物の再販売価格制につき主張するが、再販売価格制が存在するからといって廉価販売が直ちに著作者の名誉、信用を失墜させると認めることはできない。したがって、被控訴人会社が控訴人の名誉、信用を毀損したと認めることはできないから、民法上の人格権の侵害をいう控訴人の主張は、採用することができない。
ウ 一般に、著作権及び著作者人格権を侵害する行為は、これらの権利を被侵害権利とする民法709条所定の不法行為に当たり、控訴人も、本件において、
不法行為に基づき損害賠償の請求をしているから、控訴人の「本件において著作権法の範囲内のみの請求をしているものではない」との主張の趣旨は、その主張に係る不法行為の被侵害権利が、著作権法上明文で規定された著作権及び著作者人格権のみならず、著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益の保護を受ける権利として著作者の地位から生ずる人格的権利をも含み、また、法令上の規定を欠く編集権及び編集構成権を含むことをいうものと解される(なお、控訴人の主張する編集権及び編集構成権と著作権法上の二次的著作権及び編集著作権との関係については後記(3)イに判示するとおりである。)。しかしながら、被控訴人会社による控訴人書籍の廉価販売がこれらの「権利」(実定法上の権利といえるかどうかはさておく。)を侵害するものといえないことは、上記の認定判断に照らして明らかであるから、控訴人の上記主張も採用の限りではない。
エ なお、控訴人は、本件紛争は、被控訴人会社の無断販売、盗作及び廉価販売という各行為を関連付けて判断しなければ、その真相を解明することができないと主張する。確かに、複数の行為が競合することで初めて不法行為としての違法性を帯びるということは、一般不法行為の分野においてもあり得ることであるが、
本件において、廉価販売が一般に著作者人格権を侵害する行為には当たらず、また、被控訴人の本件廉価販売が控訴人の民法上の人格権を侵害するものとも認められないことは上記のとおりである。また、控訴人は、被控訴人会社の無断販売及び盗作を主張し、その主張が、著作権法上の複製権又は翻案権の侵害をいうものであるとしても、これら財産権の侵害それ自体は、一般に人格権の侵害を構成するものではない。さらに、控訴人は、童話出版界において長年のロングセラーであった控訴人書籍について被控訴人会社が控訴人に対し高額の印税を支払っていたという特段の関係が存在し、被控訴人会社の行為は控訴人の多額の利益を横取りするものである旨主張するが、この主張も、要するに控訴人の財産的損害が多額であるということに帰着し、別途、人格権の侵害を基礎付けるものということはできない。そうすると、控訴人の主張するこれらの行為が競合したとしても、これが違法性を帯びるということはできない。なお、被控訴人書籍の内容が控訴人の財産権である著作権を侵害するものでもないことは、争点4に関する原判決の判示(69頁末行〜88頁末行)及び後記(3)のとおりである。
(3) 争点4(著作権の侵害の成否)について ア 控訴人が原判決の甲53(「人魚姫が取り持つ奇跡」と題するブティック社作成の書面)に係る認定を非難する趣旨は明確とはいい難いが、甲53の記載は、人魚姫が最後に天国に昇るという内容は控訴人が原作を翻案したものという趣旨と解される。しかしながら、原判決の判示(79頁2行目〜5行目)するとおり、アンデルセンの人魚姫を翻案して人魚姫が最後に天国に昇るという内容とした作品は、昭和3年8月発行の菊池寛編「アンデルセン童話集」など、控訴人書籍の創作前に存在するのであるから、控訴人書籍のこの部分に創作性があるとはいえないとした原審の判断は正当であり、甲53の作成された趣旨等は、上記認定を左右するものではない。
イ 著作権の対象となる著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)ところ、控訴人が編集権及び編集構成権の具体的内容として主張するもののうち、特殊小型変形版の大きさ及びソフトカバーの表紙仕上げを採用し、右頁に物語を配し、これに相応する絵を左頁に配し、右頁の右下方に小さなカットを挿入し、活字配列を左右9行を基本とし、表紙に各物語のシンボルとなる絵を描き、最上段に「名作アニメ絵本シリーズ」又は「アニメ昔ばなしシリーズ」を配し、右側にタイトル番号を付し、裏表紙に出版するシリーズ本の内訳一覧広告を掲載するなどの構成を採用したという点については、これらの構成自体、いずれも思想等の表現ではなく創作に係る要素もないから、著作物とは認められず、素材の選択又は配列によって創作性を有する場合に編集著作物(同法12条1項)として著作物性が認められるかどうかが問題となるにすぎない。また、控訴人が編集権及び編集構成権の具体的内容として主張するもののうち、物語内容、絵等に独自の翻案をした点は、新たに付加された部分に創作性がある場合に二次的著作物(同法2条1項11号)として保護される範囲が問題とされる。このように、著作権法は、翻案創作性がある場合は二次的著作権により、素材の選択又は配列によって創作性を有する場合は編集著作権により、それぞれ著作物として保護を図ることを予定しており、同法上明記されたこれらの権利とは別個に、控訴人の主張する編集権及び編集構成権という法令上の規定を欠く権利を解釈上認めるべき法的根拠はない。
控訴人書籍には、物語内容、絵等に独自の翻案をした点はあるが、控訴人が被控訴人会社により盗作されたと主張するこれらの点について、被控訴人会社が二次的著作権を侵害するものでないことは上記の原判決引用部分に判示されたとおりであり、その余の構成については、一般的にありふれた構成であって、特に控訴人書籍のこれらの構成について素材の選択又は配列による創作性を認めるに足りる証拠はなく、編集著作権の侵害にも当たらない。
したがって、控訴人の主張する編集権及び編集構成権を解釈上認めることはできず、これらの権利に該当するものとして控訴人の主張する点は、二次的著作権又は編集著作権として保護を受けることもできないから、結局、この点に関する控訴人の主張は、理由がない。
3 結論 以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男
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