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関連ワード 著作権侵害 /  差止 /  損害賠償 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 6247号 損害賠償等請求事件
原告Y
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
訴訟復代理人弁護士 古木睦美
被告 エンターカラー・テクノロジーズ・コーポレーション
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/11/18
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨及び請求の原因
1 請求の趣旨 (1) 被告は,原告に対し,金199万9500円を支払え。
(2) 被告は,別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件著作物1」という。)をアメリカ合衆国78240テキサス州〈以下略〉 ベン・ダン・コーポレーションに対して漫画に複製することを許諾し複製させてはならず,別紙著作物目録記載2(以下「本件著作物2」という。)の著作物を当該ベン・ダン・コーポレーションに対してTシャツに複製することを許諾し複製させてはならない。
2 請求の原因 (1) 原告は,本件著作物1を著作し,本件著作物1に対する著作権を取得した。
日本及びアメリカ合衆国は,万国著作権条約及びベルヌ条約の締約国であるから,原告の本件著作物1に対する著作権はアメリカ合衆国著作権法に基づく保護を受ける。
なお,本件著作物1は,昭和31年7月から昭和41年5月まで光文社発行の月刊雑誌「少年」に連載された。
(2) アメリカ合衆国著作権法106条1号は,著作権者は当該著作権者が著作権を有する著作物を複製し又は複製することを許諾する排他的な権利を有すると規定している。
(3) 被告は,平成11年10月ころ,アメリカ合衆国78240テキサス州〈以下略〉 ベン・ダン・コーポレーションに対し,本件著作物1を複製した漫画を「ジャイガンダー」という表題で,平成12年1月から毎月1冊ずつ発行することを許諾し,当該漫画を発行させ,原告の本件著作物1に対する著作権(排他的複製許諾権)を侵害している。
また,被告は,平成11年10月ころ,ベン・ダン・コーポレーションに対し,本件著作物1の登場人物である「鉄人28号」をティーシャツに複製して販売することを許諾し,当該ティーシャツを遅くとも平成11年11月以降製造販売させ,原告の本件著作物1に対する著作権(排他的複製許諾権)を侵害している。
(4) アメリカ合衆国著作権法504条(c)項は,著作権者は,法定損害賠償として,1個の著作物について,1つの訴訟で主張された侵害者1人が責任を負う,又は,2人以上の侵害者が連帯して責任を負う全ての侵害行為による損害賠償として,750米ドル以上3万米ドル以下の裁判所が適当と認める金額の損害賠償を,著作権者の現実的損害賠償及び侵害者の得た利益の代わりに,受けることができる,と規定している。
原告は,被告の行為により,本件著作物1の複製を許諾する排他的権利を侵害された。
よって,原告は,アメリカ合衆国著作権法504条(c)項により,被告に対し,少なくとも1万5000米ドル(日本円換算199万9500円-1ドル133円30銭)の損害賠償を請求する権利を有する。
(5) アメリカ合衆国著作権法502条(a)項は,裁判所は,著作権の侵害を予防又は停止させるため合理的な内容で侵害の仮の差止及び最終的な差止を命ずることができる,と規定する。
原告は,被告の行為により,本件著作物1の複製を許諾する排他的権利を侵害されている。
当裁判所の判断
1 本件訴えは,原告が被告に対して,被告のアメリカ合衆国内の行為は,本件著作物1及び2の著作物について,原告がアメリカ合衆国著作権法に基づいて有する著作権を侵害すると主張して,侵害行為の差止めと損害賠償を求めるものである。被告がアメリカ合衆国に住所を有する法人であること,及び本件につき応訴していないことは,いずれも当裁判所に顕著である。
そこで,本件訴えについて,我が国が国際裁判管轄を有するか否かを職権で検討する(なお,本件においては,被告が国際裁判管轄の有無について争う旨の申立てをしていないが,国際裁判管轄の有無の点は職権で調査すべき事項であると解する。)。
2 被告が我が国に住所を有しないときであっても,我が国と法的関連を有する事件について我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合があることは否定し得ないところである。しかし,いかなる場合において,我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては,未だ国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法も十分に成熟しているとはいえない現状の下においては,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。
そして,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが上記条理に適うものというべきであるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁昭和55年(オ)第130号同56年10月16日第2小法廷判決・民集35巻7号1224頁,最高裁平成5年(オ)第764号同8年6月24日第2小法廷判決・民集50巻7号1451頁,最高裁平成5年(オ)第1660号同9年11月11日第3小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。
3 このような観点から,本件訴えについて,我が国が国際裁判管轄を有するか否かをみてみると,被告がアメリカ合衆国カリフォルニア州法に基づき設立された外国法人であることは本件記録上明らかであり,また,本件全記録によるも,被告が日本国内に主たる事務所又は営業所を有し,あるいは被告の代表者又は主たる業務担当者が日本国内に住所を有することを認めることはできない。
したがって,我が国内に被告の普通裁判籍(民訴法4条5項)はない。
また,我が国内に特別裁判籍がないことは以下のとおりである。
まず,前記のとおり,原告の本件各請求のうち,著作権侵害行為の差止めを求める訴えについては,原告の主張によれば,被告のアメリカ合衆国における行為が,アメリカ合衆国著作権法に基づく著作権を侵害したとして,その差止めを求めるものであって,仮に本件訴えが不法行為に関する訴えに当たると解することができるとしても,不法行為地はアメリカ合衆国内であり,不法行為地の裁判籍(民訴法5条9号)が我が国内にあるということもできない。さらに,前記のとおり,被告は本件につき応訴していないので,応訴管轄(民訴法12条)を生ずる余地もない。
そうすると,本件各請求のうち,著作権侵害行為の差止めを求める訴えについては,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるとはいえないので,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であると解することはできない。
次に,本件各請求のうち,不法行為に基づく損害賠償請求に係る訴えについても,不法行為地の裁判籍及び応訴管轄が認められないのは,著作権侵害行為の差止めを求める訴えと同様である。また,原告は,損害賠償金支払の義務履行地は原告の住所地(東京都豊島区)である(民法484条)と主張するところ,仮にこれを前提とすれば,形式的には,義務履行地としての裁判籍(民訴法5条1号)が我が国内にあると解する余地がなくはない。しかし,前記のとおり,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである。本件訴えは,我が国に住所を有する原告がアメリカ合衆国に住所を有する被告に対して提起したものであり,我が国に訴訟が提起されることについての被告の予測可能性,被告の経済活動の本拠地等を考慮すると,同訴えについて,我が国の国際裁判管轄を認めて我が国で裁判を行うことは,正に,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に著しく反するものというべきである。
したがって,本件各請求のすべてについて,我が国の国際裁判管轄を認めることはできない。
4 これに対して,原告は,以下のとおり主張する。すなわち, (1) 原告は,被告が平成13年2月23日,原告と訴外株式会社光プロダクション(原告の著作権管理会社)を相手方として,アメリカ合衆国カリフォルニア州中央地区の同国地方裁判所に対し,被告が「鉄人28号」の白黒アニメフィルムに対する著作権を有することの確認等を求めて訴えを提起したが,同裁判所は,同年9月24日,カリフォルニアは不便宜法廷地であり,上記訴えは日本で審理すべきものであるとして,上記訴えを却下する旨の判決をし,この判決は確定したとして,本件について我が国の国際裁判管轄を認めるべきであると主張する。
確かに,証拠(甲2ないし6)によれば,被告は,平成13年2月23日,原告と訴外株式会社光プロダクション(原告の著作権管理会社)を相手方として,アメリカ合衆国カリフォルニア州中央地区の同国地方裁判所に対し,被告がテレビアニメ映画「鉄人28号」について著作権を有することの確認等を求めて訴え(以下「別訴」ともいう。)を提起したこと,これに対し,原告らは,人的管轄の不存在及び不便宜法廷地を理由とする訴え却下の申立てをしたこと,同裁判所は,日本が被告の請求を審理判断するにつきより便宜な法廷地であり,上記訴えは日本で審理すべきものであるとして,原告らの不便宜法廷地を理由とする訴え却下の申立てを認容する旨の決定をし,同年9月24日,被告の請求を却下する旨の判決をしたこと,被告は,この判決に対して控訴し,さらに再審理の申請をしたが,いずれも斥けられ,上記判決は確定したこと,以上の事実が認められる。
しかし,被告の提起した別訴についてアメリカ合衆国カリフォルニア州中央地区の同国地方裁判所が不便宜法廷地を理由として訴えを却下したとしても,そのことは,原告ではなく被告が,別訴について同裁判所における審理判断を受けられなかったことを意味するにすぎないから,別訴が上記のとおり却下されたことが本件につき我が国の国際裁判管轄を肯定する理由となるわけではない。また,同裁判所が,被告の別訴を審理判断するにつき我が国がより便宜な法廷地であると判断したとしても,これにより本件につき我が国の国際裁判管轄が生ずるわけではないことは,いうまでもない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(2) また,原告は,本件についての証拠の所在地や被告と我が国との関連から我が国の国際裁判管轄を認めるべきであると主張する。
しかし,被告が外国に本店を有する外国法人である場合はその法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないのが原則であることは既に判示したとおりであり(前記最高裁昭和56年10月16日第2小法廷判決参照),原告の主張に係る事実があったとしても,これらは本件につき我が国の国際裁判管轄を肯定すべき事情とまでは認められない。
5 以上によれば,本件につき我が国の国際裁判管轄を認めることはできない。
よって,本件訴えは訴訟要件を欠くものであるからこれを却下することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信