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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ21090著作権侵害差止等請求 判例 特許権
関連ワード 著作物性 /  複製権 /  登録 /  著作権侵害 /  損害賠償 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 2752号 損害賠償請求事件
原告 株式会社テクノ・サービス
訴訟代理人弁護士 玉越久義
被告A
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/02/04
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、金180万円及びこれに対する平成13年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金5740万円及びこれに対する平成13年3月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、労働者派遣業を営む原告が、原告の元従業員である被告に対し、被告が原告の従前の取引企業と取引したことが、原告との雇用契約に基づいて被告が負う在職中及び退職後の義務に違反する行為ないし不法行為に当たるとして、また、被告が営業活動をするに際し、原告のパンフレット及び雑誌広告を利用してパンフレットを制作しこれを配布したことが原告の著作権を侵害するとして、損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は、自動車製造会社、空調機器の製造会社及び家庭用電化製品製造会社の機械コントロール及びライン出張作業等を主な目的とする株式会社であり、製造業を営む会社等から工場のライン作業等を請け負う、いわゆるアウトソーシングを中心に全国で事業展開を行っている。
なお、原告は、全国で労働者派遣業を営む株式会社スタッフ・サービスのグループ会社である。
(2) 株式会社共和テック(以下「共和テック」という。)は、各種機械の製造、組立、検査、据付業務等を主な目的として、平成11年12月24日に被告により設立された株式会社である(なお、共和テックは、本件訴訟の相被告であったが、本件口頭弁論終結後の平成14年12月26日、原告との間で訴訟上の和解が成立した。)。
被告は、設立時の代表取締役に選任されていたが、平成13年6月25日に、その地位を退任した。
(3) 被告は、平成11年6月21日に原告に入社し、同年12月5日に退職するまでの間、原告に勤務していた。
2 争点 (1) 被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為 (2) 被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為 (3) 著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為 (4) 損害の発生及び額
当事者の主張
1 争点(1)(被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為)について 〔原告の主張〕 (1) 被告は、原告在職中、一貫して熊本北営業所長として、同支店管轄地域の営業活動の責任者として顧客からの受注業務及び配属社員の配置を統括していた。
(2) 被告は、原告に在職中の平成11年11月ころから、「共和テック」の名称で原告の受注先である有限会社トリオ電子(以下「トリオ電子」という。)、有限会社池松機工(以下「池松機工」という。)に働きかけ、現に原告において受注している業務請負作業につき、共和テックへの契約の変更を要請し、かつ原告配属社員に対し共和テックに移籍するように勧誘するなどし、原告の配属社員3名を共和テック名義で池松機工に配属せしめた。
(3) 被告の上記行為は、明らかに原告に対する雇用契約上の競業避止義務及び誠実義務に反するとともに、原告に対する不法行為にも該当する。
〔被告の主張〕 (1) 原告の主張(1)記載の事実は否認する。
被告は、熊本北営業所長の肩書が付与されていても、アルバイトとして雇用されていたにすぎず、配属社員もいなかった。
(2) 同(2)記載の事実は否認する。
被告は、原告を退職した後、共和テックの代表者として、トリオ電子と池松機工に働きかけて契約をしたことはあるが、原告在職中に、原告が主張するような行為をしたことはない。
被告は、原告を退職する際、当時の上司であった佐賀支店のB支店長に対し、当時の取引先の業務の引継をしたが、その後、B支店長から、トリオ電子、池松機工をそのまま共和テックで管理して欲しいと依頼され、これらの会社と取引を開始したものである。
(3) 同(3)記載の事実は争う。
2 争点(2)(被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為)について 〔原告の主張〕 (1) 原告の行うアウトソーシング業は、製造業及び物流業を中心とした各企業から一部業務を請け負い、その業務の繁忙等に合わせてタイムリーに、また適切な人材を供給して請負業務を実施することが最も肝要なノウハウとなる。特に受注を伸ばすためには、各企業からいつごろ、またどの程度の受注が発生する可能性があるかにつき、常に情報を蓄積しておく必要がある。さらに、取引先の多様な受注に応じ、適切な能力を有する人材を即時供給できるような多数の人材を登録しておく必要がある。
また、アウトソーシング業においては、取引先企業に関する情報や、各企業先において就労する配属者、派遣社員の情報の管理がとりわけ重要となり、原告にとっても、こうした情報の漏洩は、致命的な信用失墜につながる。
被告は、原告在職中はもとより、退職後も、原告に対し雇用契約上の付随義務として、競業避止義務、誠実義務を負担しているものであり、とりわけ、取引先企業の情報及び知識を利用して原告との競業を行う行為は、上記競業避止義務ないし誠実義務に違反する債務不履行ないし不法行為を構成する。
(2) 被告は、原告退職直後である平成11年12月24日に、被告が原告在職中から業務請負業として活動していた共和テックを株式会社共和テックとして法人化し、同社の代表取締役に就任した。
(3)ア その後、被告は、平成12年11月ころ、原告の都城営業所長であったCに対し、共和テックの名称を使用した「C」名の名刺を送付し、同人自宅を共和テック都城営業所として、同人をして共和テックの営業を行わせた。
イ さらに、被告は、原告の鹿児島東営業所長であったDに対し、遅くとも平成12年8月ころまでの間に共和テックの名称を使用した「D」名の名刺を送付し、共和テックとしての営業活動を行うよう働きかけた。
(4) 被告は、共和テックの代表者として、取引先及び配属者に関する原告の情報を利用して、原告の取引先であるオーム工機、オーム電機、伊澤製作所、テクノデザイン、山清工業九州、江東電機及び株式会社南光(以下「南光」という。)と取引を行った。特に南光については、原告が発注を受け配属者の選定を行ったところで、共和テックは、Cから紹介を受けて、受注に至ったものである。
(5) 被告の上記(3)の行為は、原告の元熊本北営業所長である被告がその地位を利用して原告の現職営業所長に対し、共和テックの営業を行わせるものとして極めて悪質であり、また、上記(4)の行為は、被告の上記(1)記載の競業避止義務ないし雇用契約上の義務に反するものである。
したがって、被告のこれらの行為は、原告に対する債務不履行及び不法行為に該当する。
〔被告の主張〕 (1) 原告の主張(1)記載の事実は争う。
被告は、原告を退職した後は、原告に対し雇用契約上の付随義務として競業避止義務及び誠実義務を負担するものではない。
(2) 同(2)記載の事実のうち、被告が原告在職中から共和テックの名称で業務請負業として活動していた事実は否認し、その余の事実は認める。
(3)ア 同(3)ア記載の事実は認める。
被告は、Cが原告を退職すると聞いて、退職後に採用する予定で名刺を送付したものであり、Cが原告在職中に共和テックの取引に関与したことはない。
イ 同イ記載の事実について、被告が原告を退職した後の期間に同行為を行ったことは認める。
被告は、Dが原告を退職すると聞いて、退職後に採用する予定で名刺を送付したが、その後、Dから何の連絡もなかったため、Dを通じて取引を行ったことはない。
(4) 同(4)記載の事実は否認する。
(5) 同(5)記載の事実は争う。
上記(1)記載のとおり、被告は、原告を退職した後は競業避止義務及び誠実義務を負うものではない。
3 争点(3)(著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為)について 〔原告の主張〕 (1)ア 原告は、平成11年7月ころ、株式会社コーブ・イトウ広告社(以下「コーブ・イトウ広告社」という。)に対し、「株式会社テクノサービス 営業案内」と題するパンフレット(甲4の1)及び「株式会社テクノサービス システム案内」(甲5の1)と題するパンフレットの作成を依頼し、その納品を受けた。
上記各パンフレットの著作権は、制作会社であるコーブ・イトウ広告社に帰属するが、原告は、同社から複製権の実施について許諾を受けている。
イ 共和テックは、上記各パンフレットを、コーブ・イトウ広告社及び原告に無断で複製し、著作権を侵害した上、各パンフレットを営業活動に用い、大量に各事業所に頒布している。
(2)ア 原告は、平成10年7月ころ、フジサンケイアドワーク株式会社に対し、「テクノサービスインフォメーション」と題する情報誌の作成を依頼し、同情報誌には、「アウトソーシング」を平明に解説し、原告の業務内容を説明する広告を掲載している(甲6の1)。原告は、同情報誌の著作権を有している。
イ 共和テックは、上記広告中、原告の名称を被告の名称に変更しただけのパンフレット(甲6の2)をフジサンケイアドワーク株式会社及び原告の承諾なく作成し、著作権を侵害した上、同パンフレットを営業活動に用い、大量に各事業所に頒布している。
(3) 被告は、共和テックの代表取締役として、原告が上記各著作権を保有していることを認識しながら、故意に著作権法違反行為を伴う営業活動を実施し、もって、原告に損害を与えたものであり、原告に対し、不法行為責任又は商法266条の3の責任を負う。
〔被告の主張〕 共和テックが原告主張の各パンフレットを各事業所に頒布したことは認めるが、その余の事実は否認する。甲6の1の広告は、キャッチフレーズを記載したものにすぎず、著作権法の保護の対象となる著作物とはいえない。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 (1) 原告は、@被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為(争点(1))、A被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為(争点(2))、B被告による著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為(争点(3))により、次の損害を被った(これらは選択的主張)。
ア 原告は、被告の上記行為により、トリオ電子及び池松機工に対する売上額が少なくとも4800万円減少した。原告の利益率は30%であるから、原告は、得られたであろう利益額1440万円(4800万円×0.3)の損害を被った。
イ 原告は、被告の上記行為により、南光に対する売上額が少なくとも900万円減少し、得られたであろう利益額300万円(900万円×0.3)の損害を被った。
ウ 原告は、被告の上記行為により、オーム工機、オーム電機、伊澤製作所、テクノデザイン、山清工業九州及び江東電機に対する売上額の合計が少なくとも約1億0300万円ないし1億1700万円程度減少し、得られたであろう利益額約4000万円の損害を被った。
(2) よって、原告は、被告に対し、金5740万円(1440万円+300万円+4000万円)及びこれに対する不法行為後の日にして訴状送達の日の翌日である平成13年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
〔被告の主張〕 原告の主張事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)(被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為)について (1) 原告は、被告が、原告に在職中の平成11年11月ころから、共和テックの名称で原告の受注先であるトリオ電子や池松機工に働きかけ、原告が受注していた業務請負作業につき、共和テックへの契約の変更を要請し、かつ原告配属社員に対し共和テックへの移籍を勧誘するなどし、原告の配属社員3名を共和テック名義で池松機工に配属せしめたと主張する。
(2) この点に関し、当時原告の熊本南営業所長であったE作成の顛末書(甲9)によれば、Eが、被告が原告を退職した後に被告に会った際、被告から、業務請負の仕事をする意向であり、原告で担当していたトリオ電子、池松機工の稼働配属社員を共和テックに移籍(スライド)する予定であることや、被告は、原告在職中から、共和テックの設立登記手続を行い、トリオ電子や池松機工の幹部と配属社員の移籍について了解を得ていたことなどを聞いたとの記載がある。
しかし、被告が原告退職後に、共和テックの代表者として、トリオ電子と池松機工に働きかけて契約したことは当事者間に争いがないが、原告在職中にトリオ電子や池松機工に対し配属社員を移籍するように働きかけた事実については、E作成の顛末書中の上記記載部分があるのみであり、それも被告から聞いたという伝聞の内容であり、その内容も必ずしも具体的、客観的なものとはいえない。
また、乙3の1・2によれば、共和テックがトリオ電子や池松機工との間で生産管理業務の請負契約を締結したのは平成12年1月5日以降であることが認められる。さらに、甲10、13によれば、原告の配属社員としてトリオ電子で働いていたFは、平成12年1月5日ころ、被告から他の会社へ移った方が良いと言われたこと、同じく原告の配属社員として池松機工で働いていたGは、平成11年12月ころ(12月の何日かは明らかではない。)、被告からそのまま勤務しておいてくれと言われて引き続き池松機工で働いていたところ、後日支払われた給料は、
原告ではなく共和テックからの支払となっていたことが認められる。しかし、いずれの事実も、被告が、原告を退職する前に、トリオ電子や池松機工の配属社員に対し共和テックへの移籍の働きかけをしたことを裏付けるものではない。
その他に原告の前記主張を裏付ける証拠もないから、上記顛末書のみによって、被告が、原告在職中に、トリオ電子や池松機工に対し共和テックへの契約の変更を要請し、あるいはトリオ電子や池松機工の原告配属社員に対し共和テックへの移籍を勧誘するなどした事実を認めることはできないものというべきである。
2 争点(2)(被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為)について (1) 被告が原告退職後に競業避止義務(ないし職務上知り得た秘密を利用しない義務)を負うか否かについて ア 証拠(甲2、乙1、証人H)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、製造業を営む各企業から、ライン作業等製造過程の一部につき業務を請け負い、原告に登録された配属社員を各製造現場に配置し、請負業務に当たらせている。そして、原告は、各地に支店及び営業所を設置し、各営業所に営業所長を配置した上で、営業所長を当該営業所管轄の責任者として、当該営業所を管轄する地域の受注活動及び配属社員の配置を行わせる態勢をとっている。
(イ) このアウトソーシング事業を実施するに際して、各企業がアウトソーシングを行うニーズがあるかを把握することや、各企業から業務請負の依頼があった際に、的確に人材を調達、配属するために、予備人材としての登録者を確保することが重要となる。
原告は、登録者を確保するために、業界誌、職業紹介の募集広告誌、
新聞等の折込み広告によって登録者を募集し、この募集のために一般管理費の約2割にも及ぶ経費を支出し、また、企業のニーズを把握するために、営業マン、営業所長等が、労力をかけて巡回セールスを行い、このために人件費、パンフレット制作費等の経費を支出している。
(ウ) 原告では、一定のエリアを統括する統括支店を設置しており、そこで、企業のニーズを記載した受注カード、登録者に関する情報を記載したキャリアカード及び登録カードの各原本を、鍵のかかるキャビネットに保管している。そして、営業所長は、受注を受けた企業の受注カード並びに配属社員のキャリアカード及び登録カードのコピーを受け取ることになっており、これらの原本が渡されることはない。
(エ) 被告は、平成11年6月21日に原告に入社し、熊本北営業所長として勤務するようになったが、その際、「在職中、退職後を問わず、職務上知り得た会社の秘密事項(派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報を含む)を第三者に漏洩しない。又、他に利用しない。」(5項)、「前項(5項)違反により会社に損害を与えた場合は、賠償請求に応ずる。」(6項)との内容を含む誓約書(甲2)に署名押印して原告に差し入れた。また、原告と被告との間で取り交わされた雇用契約書(乙1)にも、秘密遵守に関して同様の条項が記載されている。
しかしながら、上記の誓約書、雇用契約書中には、退職後においても競業避止義務を負う旨の条項はない。
また、被告が原告に勤務していた当時は、原告の就業規則に、退職後の競業避止義務に関する規定はなかったが、被告が退職後に競業行為を行ったことがきっかけとなって、就業規則を変更し退職後の競業避止義務に関する条項を付加した。
イ そうすると、被告は、原告に対し、上記誓約書の差し入れにより原告を退職した後においても職務上知り得た原告の秘密事項(派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報を含む。)を第三者に漏洩したり、他に利用しないという契約上の秘密保持義務を負っていたものというべきである。
しかし、被告が原告に勤務していた当時は、原告の就業規則に退職後の競業避止義務に関する規定はなく、原告と被告との間において、社員が退職後に競業避止義務を負う旨の合意をした事実は認められず、その他、原告における被告の地位、在職期間、原告の業務形態を考慮しても、被告が原告を退職した後も競業避止義務を負うことを根拠づけるような事情はうかがわれない。
(2) 被告の上記秘密保持義務(派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報等を第三者に漏洩したり、他に利用しない義務)の違反行為の有無について ア 被告は、原告の熊本北営業所長としてトリオ電子、池松機工に対する配属社員の派遣業務を担当していたから、トリオ電子や池松機工の受注カードに記載した各企業のニーズ等の情報や、原告がトリオ電子や池松機工に派遣していた配属社員のキャリアカード及び登録カードに記載された同社員の技能、履歴等の個人情報を把握していたものと推認される。
被告は、前記のとおり、原告を退職後、共和テックを設立して人材派遣業務を開始し、それまで原告が派遣していたトリオ電子や池松機工への配属社員を、共和テックが派遣することとしたものであるが、被告の同行為は、原告在職中に得たトリオ電子、池松機工に関する企業情報や、これらの各会社に配属されていた登録社員の情報を、そのまま自らの業務のために用いた行為であるといわざるを得ず、被告の同行為は、上記(1)イ記載のとおり、被告が原告に対して負う契約上の秘密保持義務に違反するものというべきである。
イ なお、被告は、原告を退職する際、当時の上司であった佐賀支店のB支店長に対して当時の取引先の業務の引継ぎをしたが、その後、B支店長から、トリオ電子、池松機工をそのまま共和テックで管理して欲しいと依頼され、これらの会社と取引を開始したものであると主張し、乙4(被告作成の陳述書)にはこれに沿う記載部分がある。
しかし、証人Hによれば、Hが被告を退職した後、Bに対して被告がトリオ電子や池松機工に対する派遣業務を行うことになった事実関係を尋ねたところ、Bからは、被告が主張するような事実関係の報告を受けてはおらず、かえって、被告の退職後の派遣業務には何ら関与していないとの報告を受けたことが認められ、その他に被告の主張を裏付ける証拠もないから、被告の上記主張を認めることはできない。
なお、仮に被告が主張するような事実経緯があったとしても、原告社内において、Bが、原告が顧客から受けた業務委託の受注を他社に振り替える権限を有していたことを認めるに足りる証拠もないから、被告がそれまで原告の熊本北営業所長として行ってきたトリオ電子、池松機工への配属社員の派遣業務を共和テックの名で行うことについて、原告の承諾があったとみることはできず、原告の社員であるBが、秘密保持義務に違反する被告の上記行為に関与したということができるとしても、被告の行為の違法性が阻却されることにはならない。
ウ また、原告は、被告が、オーム工機、オーム電機、伊澤製作所、テクノデザイン、山清工業九州、江東電機、南光の各会社との間で、人材派遣業務を行ったことが、原告との義務に違反するものであると主張する。
しかし、被告が原告に対し退職後の競業避止義務を負わず、派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報等の秘密情報を第三者に漏洩したり、他に利用しないという契約上の秘密保持義務を負っていたにすぎないことは、前記のとおりである。そして、証人Hによれば、上記各会社は、原告が人材派遣業務を行っていた取引先であって、被告が原告在職中に派遣業務を担当していた会社ではないことが認められるが、かつて原告が人材派遣業務を行っていた取引先であるというだけで、被告が同会社との間で人材派遣業務を行う行為が、原告在職中に得た派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報等を利用したものということはできず、その他、被告が上記義務に違反して、同各会社に対し人材派遣業務を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
エ(ア) なお、原告は、被告が原告の都城営業所長のCや、鹿児島東営業所長のDに対し、共和テックの名称を使用した名刺を作成して送付し、同人らに共和テックのための営業活動をさせたことが、競業避止義務違反ないし不法行為であると主張する。
(イ) この点に関し、証拠(甲11、12、乙4、証人H)によれば、次の事実が認められる。
a 被告は、原告退職後、当時原告の都城営業所長であったCに会い、
Cが原告をすぐにでも退職する意向を有していたことから、退職後は共和テックが採用すると約束し、その後、Cに対して、C名義の共和テックの名刺を送付した。
Cは、原告在職中であるにもかかわらず、南光の所在地が鹿児島県内であって担当エリア外であったため、共和テックの名刺を用いて営業し、その結果、共和テックが、南光から3名の人材派遣の受注を得た。なお、Cは、南光以外には共和テックの名刺を使っていない。
また、共和テックの募集広告には、連絡先としてCの自宅の住所が記載されていた。
b 当時原告の鹿児島東営業所長であったDは、被告が原告退職後に共和テックとして営業を始めたことを聞いていたが、平成12年3月ころ共和テックの募集広告を見て被告に電話をしたところ、被告は、「テクノ(原告)を辞めたら、(共和テックの仕事を)やって下さいよ。書類を送りますから。」と言って、
その後D名義で作成した共和テックの名刺をDの下に送付した。なお、Dは同名刺は一枚も使用しなかった。
(ウ) Cに関する上記事実関係についてみると、被告は、Cが原告在職中であることを認識しながら、Cに対し、同人が原告に対して負う在職中の競業避止義務に反し、共和テックと南光との間の取引を締結するように積極的に働きかけたものではないというべきである。既に述べたとおり、被告は原告を退職後には競業避止義務を負っていない以上、Cの行為が原告に対する競業避止義務違反であるとはいえても、被告の行為が原告に対して負う雇用契約上の義務違反ないし不法行為に当たるとはいえない。
また、Dに関する上記事実関係についてみると、Dは、共和テックの名刺の送付を受けたものの、これを1枚も使用していないのであるから、被告が、
同行為について、原告に対して負う雇用契約上の義務違反ないし不法行為による責任を負うものではない。
3 争点(3)(著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為)について (1) 「株式会社テクノサービス 営業案内」と題するパンフレット(甲4の1)及び「株式会社テクノサービス システム案内」と題するパンフレット(甲5の1)の複製行為について 原告は、これらのパンフレットの著作権はコーブ・イトウ広告社に帰属し、同会社から複製権の実施を許諾されていることを理由に、共和テックが各パンフレットを複製して頒布した行為が原告の各パンフレットに係る著作権の侵害に当たると主張する。しかし、原告の上記主張を前提としても、これらのパンフレットの著作権はコーブ・イトウ広告社に帰属していて、原告は複製権の実施を許諾されているものにすぎないというのであるから、共和テックが各パンフレットを複製して頒布した行為は、コーブ・イトウ広告社に対する複製権侵害には当たるとしても、原告に対する複製権侵害を構成するものではない。原告の上記主張は失当である。
(2) 「アウトソーシング」についての情報誌の広告(甲6の1)の複製行為について ア 証拠(甲6の1、証人H)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、フジサンケイアドワーク株式会社に「テクノサービスインフォメーション」と題する情報誌の作成を依頼して、これを頒布しており、同情報誌に掲載された「アウトソーシング」に関して説明した広告(甲6の1)は、原告において作成したもので、原告が著作権を有するものであることが認められる。
イ 被告は、同広告は著作物性を欠くと主張するので、この点について判断する。
(ア) 同広告は、アウトソーシングの経営戦略上の意義や業務内容を説明する内容のものであるが、冒頭に「ビジネスの新しい合い言葉、それは『アウトソーシング』。」と記載し、その下に目立つように「(小声で…)アウトソーシングって知ってる?」「エッ!知らない?」「今日の朝礼で、社長が言ってただろ!これからは、アウトソーシングだって!」「…で、いったいどんな意味?」「そ…それは…」と各文言が漫画の吹出しのように丸枠で囲まれており、しかも、その文字の大きさや太さに変化をつけて、あたかも対話がなされているように表現されている。その上で、「アウトソーシング」の文字が左右いっぱいに広がる大きさで書かれており、全体として、「アウトソーシング」が将来性あるビジネスとして強調される構成となっている。そして、アウトソーシングの経営戦略上の意義や業務内容が説明されている。
(イ) 以上のような広告の記載内容に加えて、文字の配置、文字の大きさ及び太さの変化等を考慮すると、同広告は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号の著作物と認めるに足りるものというべきである。
ウ 共和テックがパンフレット(甲6の2)を各事業所に頒布したことは当事者間に争いがない。また、共和テックが頒布したパンフレット(甲6の2)は、
その記載内容を見ると、原告の広告(甲6の1)の社名・住所等の記載部分を共和テックの社名・住所等の記載に変更し、メモ欄に共和テックの担当営業社員の名刺のコピーを貼付したものであり、上記広告の記載の大部分をそっくり使用しており、原告が著作権を有する広告(甲6の1)を複製したものであることが認められる。
(3) 被告は、原告に勤務し営業活動をしていたから、前記広告が原告の著作物であることを知っていたものと推認され、共和テックの代表取締役として、これを原告に無断で複製した行為は、原告の広告の著作権(複製権)を侵害するものといえる。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について (1) 被告が、原告との契約上の秘密保持義務(上記2(1)イ)に違反して、トリオ電子及び池松機工に対し配属社員をスライドさせたことについて ア 証拠(甲27、28、乙3の1・2、証人H)によれば、共和テックは、平成12年1月から4月までの間、トリオ電子に対し男子1名、女子1名を、池松機工に対し男子2名、女子1名を派遣したが、これらはすべて、以前原告が各企業に派遣していた派遣社員であったこと、派遣社員1名当たりの月間平均売上額は、概ね25万円であること、原告の平成11年後の業務請負の売上高は約206億円であるのに対し、売上利益は約50億円であり、その売上利益率は約24%(50億円÷206億円)であることが認められる。
イ 一方、証拠(甲13、22、27、乙3の1・2、証人H)によれば、池松機工に配属されていたGは平成12年3月ころに池松機工を辞めたこと、原告はトリオ電子との契約を平成12年1月14日に終了させたものの、同年2月28日に派遣業務の受注が復活したこと、共和テックは、通常3か月単位で派遣社員と契約すること、派遣社員は、正社員として勤務したいという意向が強く、そうした勤務先が見つかれば辞めてしまったり、また、派遣先の仕事が自分に合わないとか、職場の人間関係が合わない等の理由で辞めるケースがあることとの事情が認められる。
ウ 上記イの事情を考慮すると、被告の上記義務違反により、原告が被った損害、すなわち、被告の同行為と相当因果関係にある原告が得られたであろう利益額の算定に当たっては、被告のトリオ電子及び池松機工に対する6か月間の売上額を基にするのが相当である。
そうすると、原告の損害は、被告がトリオ電子及び池松機工に派遣した配属社員の人数(5名)に、各配属社員の派遣行為により原告が得られたであろう利益額(月額25万円×0.24)及び上記算定期間(6か月)をそれぞれ乗じて得られる180万円(5名×25万円×0.24×6か月)となる。
(2) 共和テックが、原告の著作物を無断複製したパンフレット(甲6の2)を各事業所(取引先)に頒布したことは前記のとおりであり、原告は、同著作権侵害行為により、原告の派遣業務の取引先が奪われたと主張する。
しかし、被告ないし共和テックが、上記(1)アのスライド行為以外に原告の派遣業務の取引先から受注を受けたことがあるとしても、それは、被告ないし共和テックの営業活動の成果というべきであり、同パンフレットの頒布行為がその営業活動にいくらかの寄与をしている可能性は否定できないとしても、同パンフレットの頒布行為がなければ共和テックが原告の派遣業務の取引先の会社から受注を受けることができなかったという関係にあることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告ないし共和テックが同パンフレットを制作頒布したことと原告の取引先が奪われたこととの間には相当因果関係が認められないから、パンフレットの無断複製行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。
(3) 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、債務不履行による損害賠償として180万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成13年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
5 よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝