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事件 |
令和
5年
(ワ)
12479号
損害賠償請求事件
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5 原告 特定非営利活動法人徳島に電子図書館を つくってみる会 同 代表者理事 10 被告株式会社PFU 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 穂積伸一 同 藤平真吾 同 山本晋之介 15 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 20 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する令和5年9月13日から支払 済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告製文書用スキャナーの使用中に高頻度で不具合が生じ たところ、これは被告が提供するスキャナー制御ソフトウェアのバグ(欠陥)が原 25 因であって、被告には、同ソフトウェアにつき被告が有するプログラム著作権の利 用許諾契約上の債務不履行があると主張して、被告に対し、同債務不履行(民法4 115条1項)に基づき、損害賠償金500万円及びこれに対する令和5年9月13 日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定 5 できる事実) (1) 当事者 ア 原告は、広く一般市民に対して電子図書館サービスを提供することなどを目 的とし、その達成のために電子図書館の運営等の事業を行う特定非営利活動法人で ある。 10 イ 被告は、電子計算機及びその関連装置の研究・開発・製造等、ソフトウェア の開発及び販売等を目的とする、資本金150億円の株式会社である。 (2) 原告によるスキャナーの購入及びプログラム著作権利用許諾契約の成立 ア 原告は、令和2年10月頃、既製品である被告製文書用スキャナー(型番: fi-7600。以下「本件スキャナー」という。) を購入し(原告によると4 15 台)、その事業の用に供した(甲7、弁論の全趣旨)。 イ 被告は、原告を含む本件スキャナーの購入者に対し、スキャナー用の以下の 被告製ソフトウェアを提供している(甲2、3)。 (ア) PaperStream IP ドライバ(以下「本件ソフトウェア①」 という。) 20 (イ) ScandAll PRO(以下「本件ソフトウェア②」といい、本件ソ フトウェア①と併せて「本件各ソフトウェア」という。) ウ 原告は、本件スキャナーの購入後、本件ソフトウェア①(バージョンは2. 10.0。以下同じ。)及び同②(バージョンは2.1.8。以下同じ。)をそれ ぞれダウンロードし、原告保有のパソコンにインストールして使用を開始した。こ 25 れにより、原告・被告間で、本件各ソフトウェアにつき被告が有するプログラム著 作権の各利用許諾契約(以下「本件各契約」という。)が成立した。本件ソフトウ 2ェア①に係る契約内容は別紙1のとおりであり、同②に係る契約内容は別紙2のと おりである。(争いのない事実、甲2、3) 3 争点 (1) 本件各契約に基づく被告の債務不履行責任の有無(争点1) 5 (2)損害の発生及びその額(争点2) 4 当事者の主張 (1) 本件各契約に基づく被告の債務不履行責任の有無(争点1) 〔原告の主張〕 ア 原告における本件スキャナーの使用中には、①スキャナーの動作が突然停止 10 する(以下「異常①」という。)、②スキャンした原稿の画像が保存されない(以 下「異常②」という。)などの異常が数時間に1回程度の頻度で発生した。異常① は、本件スキャナーのADF(原稿搬送機構のカバー)が開いていなくても、「A DFが開いています。ADFを閉じて用紙をセットし直してください。」などのエ ラーメッセージがパソコンの画面上に表示されてスキャンが停止するというもので 15 あり、ADFを開けてよい状態であっても同じエラーメッセージが表示されること もあった。異常②は、スキャンが完了した原稿のうち、原稿枚数にして1ないし4 枚(ページ数にして2ないし8ページ)の連続した画像が保存されていないことが あるというものである。 異常①及び同②は、原告が保有する4台の本件スキャナーにおいて同じくらいの 20 頻度で発生しており、2つの異常が同時に発生することもあった。原告は、4台の 本件スキャナーを全て異なるメーカー製のパソコンと接続して使用していたため、 パソコンの異常や、本件スキャナーとパソコンとの相性問題が原因とは考えられな い。 イ 異常①及び同②の発生原因につき、情報工学の修士号を持つ原告の役員ら 25 は、本件各ソフトウェアには明らかにバグがあり、メモリリーク(プログラマーの ミスにより、プログラムで使用したメモリ領域が使用後にも解放されず、プログラ 3ムを実行するにつれて使用メモリ量が増大し続けて最終的に空きメモリが枯渇する こと)が発生し、解放されなかったメモリ領域のデータがログに出力されたこと で、保存されたログが20ギガバイトを超える巨大なサイズになったと結論付け た。そこで、原告は被告に対し、このことを伝えたが、被告は言を左右にしてログ 5 を受け取ろうとせず、異常の調査も本件各ソフトウェアの修正も行わなかった。 ウ 被告は、本件各契約に基づき、正常に動作する本件各ソフトウェアを原告に 提供する義務を負うところ、前記のとおりこれを履行しないものであるから、被告 には債務不履行責任がある。 〔被告の主張〕 10 ア 異常①に関して原告が指摘するエラーメッセージは、本件スキャナーのAD F部分が開いている状態(完全に閉まっていない状態)である際に、本件スキャナ ーにおいて検出したエラーを示すものであって、本件各ソフトウェアに関する問題 ではない。また、本件訴訟の提起前に、原告が使用していた本件スキャナー1台を 引き上げて被告において調査・確認を行ったが、原告が指摘するような状況でエラ 15 ーメッセージは表示されなかった(原告による本件スキャナーの使用に問題があっ たものと考えられる。)。 異常②については、甲第5号証の立証趣旨に照らせば、本件スキャナーの使用中 にパソコン画面上に「原稿づまりです。」とのエラーメッセージが表示され、スキ ャンが停止することを不具合と指摘しているものと解される。しかし、上記エラー 20 メッセージは、本件スキャナーにおいて検出したエラーを示すものであって、本件 各ソフトウェアに関する問題ではない。原稿の一部につきスキャンがされていない という事象についても、本件スキャナーと同機種を利用している原告以外の購入者 から同様の指摘がされたことはなく、また、前記の本件スキャナーの引上げ調査・ 確認においても、原告が指摘するような状況で当該事象が発生することはなかっ 25 た。 イ 原告は、異常①及び同②が発生した際のログが肥大化している原因は本件各 4ソフトウェアによるメモリリークにあり、これが異常①及び同②の発生原因である 旨主張するが、プログラムが使用するメモリ量が増大し続けて空きメモリが枯渇す ることをメモリリークとするのであれば、ログが肥大化することとメモリリークと は無関係である。また、甲第6号証のようにパソコン画面に「メモリ不足」のエラ 5 ーメッセージが表示されたからといって、当然にメモリリークが発生しているとい うものではなく、大量の原稿読み取りにより、本件スキャナーから送信されたスキ ャンデータをパソコン側で受け取るだけのメモリ空き容量がない場合に、上記エラ ーメッセージが表示されるものである。 したがって、異常①及び同②の発生原因がメモリリークであるとする原告の主張 10 は前提を欠く。 ウ よって、本件各ソフトウェアに異常①及び同②の発生原因となる不具合があ るとは認められないから、被告には本件各契約に基づく債務不履行はない。 (2) 損害の発生及びその額(争点2) 〔原告の主張〕 15 原告は、被告の債務不履行により、以下のア及びイの合計500万円の損害を被 った。 本件各契約の、ソフトウェアにバグ等の不具合が存在していないことは保証しな い旨の規定は、単にバグが存在することだけをもっては損害賠償請求されず、ま た、バグが発覚してから当該バグが修正されるまでの逸失利益やバグの調査に要し 20 た費用は賠償しないという趣旨のものにすぎない。被告は、原告による指摘にもか かわらず、遅滞なく本件各ソフトウェアのバグの修正を行わなかったものであるか ら、本件各契約上の債務不履行に該当し、損害賠償責任を負うというべきである。 ア 売却できなかったため今も手元に残っている3台分の本件スキャナーの購入 費用160万円 25 イ 本件スキャナーを使用している間、スキャンをやり直したり、スキャン画像 にページ飛びがないかを確認したりするために無駄に費やされた令和3年2月から 5令和4年3月までのスタッフの手間代340万円 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 仮に、本件各ソフトウェアに異常①及び同②の発生原因となる不具合が存在して 5 いたとしても、本件各契約においては、本件各ソフトウェアにバグ等の不具合が存 在していないことは保証しない旨規定され(各9条(2))、また、本件各ソフトウ ェアの使用から生じた損害は賠償しない旨規定されている(各9条(3))から、被 告は債務不履行に基づく損害賠償責任を負わない。 第3 当裁判所の判断 10 1 争点1(本件各契約に基づく被告の債務不履行責任の有無)について (1) 原告は、原告保有のパソコンにより本件スキャナー及び本件各ソフトウェ アを使用中に異常①が発生した際のログのデータとして甲第4号証を提出する。こ れによると、データサイズは合計約21.6ギガバイトであり、特に、「FI_20210 220133024」→「Administrators」→「ISIS」→「Log」と順にたどった最後のフォ 15 ルダ内に格納されている「dbg_isis.log」ファイルのサイズが4ギガバイト余りと 比較的大容量であること、これと同一名称・同一サイズのファイルが、「FI_20210 220133024」→「Administrators」→「PaperStream IP (ISIS)」→「Log」→「iCu beLog」と順にたどった最後のフォルダ内にも格納されており、さらに、上記2つ のフォルダ階層のうち、「Administrators」を「Users」に置き換えた上での最後 20 のフォルダ内(「Log」フォルダ内及び「iCubeLog」フォルダ内)にも格納されて いること(上記ファイルが合計4個存在すること)が認められる。 また、原告は、原告保有のパソコンにより本件スキャナー及び本件各ソフトウェ アを使用中に異常②が発生した際のログのデータとして甲第5号証を提出する。こ れによると、データサイズは合計約19.1ギガバイトであり、特に、「FI_20210 25 629003902」→「Administrators」→「ISIS」→「Log」と順にたどった最後のフォ ルダ内に格納されている「dbg_isis.log」ファイルのサイズが4ギガバイト余りと 6比較的大容量であること、これと同一名称・同一サイズのファイルが、「FI_20210 629003902」→「Administrators」→「PaperStream IP (ISIS)」→「Log」→「iCu beLog」と順にたどった最後のフォルダ内にも格納されており、さらに、上記2つ のフォルダ階層のうち、「Administrators」を「Users」に置き換えた上での最後 5 のフォルダ内(「Log」フォルダ内及び「iCubeLog」フォルダ内)にも格納されて いること(上記ファイルが合計4個存在すること)が認められる。 上記各ログが、それぞれ異常①及び同②の発生時の状況を的確に保存したもので あるかは明らかではないが、仮にそうであるとしても、上記認定の事実から、主と して「dbg_isis.log」ファイルが大容量となった原因が原告の主張する「メモリリ 10 ーク」にあることや、「メモリリーク」が異常①及び同②の発生原因であることを 認めるに足りず、他に原告の主張を裏付ける証拠はない。殊に、原告が異常①につ き指摘する「ADFが開いています。ADFを閉じて用紙をセットし直してくださ い。」又は「スキャナーカバーが開いています。」(甲7参照)とのエラーメッセ ージは、通常は本件スキャナー自体の問題を示すものと解されるところ、本件各ソ 15 フトウェアが原因で上記のメッセージに係るエラーが発生していることを認めるに 足りる証拠はない。 そうすると、本件各ソフトウェアにより「メモリリーク」が生じていること、及 び「メモリリーク」が異常①及び同②の発生原因であることはいずれも認められな い。 20 (2)ア 原告は、本件各ソフトウェアには、本来は原稿1枚目をスキャンする直 前にスキャンに必要な全てのメモリ領域を確保すべきところ、原稿2枚目以降のス キャン中にメモリ確保の処理を行っているという重大なバグないし設計ミスが存在 し、そのため、甲第6号証ないし甲第7号証のように「メモリ不足」のエラーが生 じ得るし、メモリリークも発生していると推測される旨主張する。 25 しかしながら、上記「メモリ不足」のエラーにつき、被告は、大量の原稿読み取 りにより、本件スキャナーから送信されたスキャンデータをパソコン側で受け取る 7だけのメモリ空き容量がない場合に、上記エラーメッセージが表示されるものであ る旨説明するところ、その説明自体は合理的なものであると解される。そして、上 記のバグないし設計ミスが存在することを示す証拠はなく、それらによるメモリリ ークが上記エラーの原因であるとは認めるに足りない。その他、本件各ソフトウェ 5 アに上記のバグないし設計ミスが存在することを認めるに足りる証拠はなく、原告 の主張は採用できない。 イ また、原告は、4台の本件スキャナーを全て異なるメーカー製のパソコンと 接続して使用していたにもかかわらず、いずれの本件スキャナーにおいても異常① 及び同②が同じくらいの頻度で発生したから、パソコンの異常や、本件スキャナー 10 とパソコンとの相性問題が原因とは考えられない旨主張する。 しかしながら、原告の主張する 状況下で異常①及び同②が発生したからといっ て、直ちに本件各ソフトウェアの不具合がその発生原因であると推認できるもので はないし、本件各ソフトウェアにより生じているとされる「メモリリーク」が異常 ①及び同②の発生原因であることまで推認できるものではないことはなおさらであ 15 る。加えて、被告の事業規模(前提事実(1)イ、弁論の全趣旨)からすると、本件 各ソフトウェアについても相当数のユーザーが存在することがうかがわれるとこ ろ、他に原告の主張する不具合や異常と同様の事象が発生している事実は認められ ない。したがって、原告の主張は認められない。 2 結論 20 よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから 棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 25 8裁判長裁判官 武宮英子 5 裁判官 阿波野右起 10 裁判官 15 西尾太一 9 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2025/01/30 |
権利種別 | 著作権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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