運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 5年 (ワ) 70301号 発信者情報開示請求事件
5
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同 訴訟代理人弁護士杉山央 10 被告ソフトバンク株式会社
同 訴訟代理人弁護士金子和弘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/03/22
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
15 2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要等
20 1 事案の概要 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通 信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBit Torrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して別紙動画目録 記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物公衆送信したことで、原告の25 著作権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告が提供す る電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のた 1 めに必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び 発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1 項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記通信に係る発信者情報の開示を求 めた事案である。
5 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。) ? 当事者について 原告は、DVDソフト等の製作等を業とする株式会社である(甲18、弁論 の全趣旨)。
10 被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である(弁論の全 趣旨)。
? 発信者情報の保有について(争いがない) 別紙発信者情報目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を用いて同目 録記載の日時に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信15 設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有 している。
? ビットトレントの概要等について(甲4から6、9、11) ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。
特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファ20 イルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自 己の端末にインストールした上で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサ イトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載 された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに 読み込むと、同端末は、
「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目25 的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。
以下同じ。 を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、
) 2 それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うもので ある。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッ カー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウ ンロードさせることになる。
5 なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クラ イアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構 築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
? 原告による調査(甲1、4、5、9、弁論の全趣旨) 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本10 件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。
本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウ ンロードし、ビットトレントを管理する会社が開発した「μTorrent」 というクライアントソフト(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動して、
本件ソフトウェアを用いて当該トレントファイルからダウンロードすることで、
15 本件動画の複製物であるデータのダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、
本件ソフトウェアにより、調査を行っている端末の画面上にビットトレントに 接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしているピア(以 下「本件発信者」という。)がしたとされる通信に際して割り当てられたIPア ドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際20 に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウ ンロードしたデータが本件動画のデータと同一のものであることを確認する方 法により調査を行った(以下、この調査を「本件調査」という。。本件調査の ) 結果、調査を行っている端末の画面には、本件動画のデータをアップロード及 びダウンロードしていた際の本件発信者がしたとされる本件通信の日時及びそ25 の際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及 びIPアドレスが表示された(以下「本件調査結果」という。。
) 3 本件動画はいずれも映画の著作物であり、原告が著作権を有している。甲2、
( 18、弁論の全趣旨) 3 争点及びこれに対する当事者の主張 本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の 5 通信であるといえるか(争点1) (原告の主張) μTorrentでは、データの取得元のIPアドレスを表示させる仕組み を有しているところ、本件ソフトウェアはビットトレントを管理する会社が提 供したものであり、ビットトレントを通じて取得した情報を正確に利用者に提10 供している。また、機械のメカニズムとして取得した内容が不正確である場合 や曖昧である場合、ソフトウェア等は止まる。
そして、本件調査の際のキャプチャー画像は、上部が本件調査会社の端末の 状況を、下部が本件発信者の端末の状況を示しているが、上部が「ダウンロー ド中」の表示をしている場合、本件調査会社は本件発信者から現にファイルの15 ダウンロードをしていることを示す。また、本件調査会社は、ダウンロードし たファイルのデータが本件動画のデータと同一であることを確認している。
μTorrentは、その仕様上、本件調査の際のキャプチャー画像で複数 の発信者が表示された場合には、いずれの発信者からもダウンロードがされる。
したがって、本件調査結果は信用でき、その本件調査結果によれば、本件調20 査会社は、本件発信者が違法にアップロードした本件動画の複製ファイルを取 得していることは明らかであり、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製フ ァイルをダウンロードした際の通信であるといえる。
(被告の主張) 本件調査の際のキャプチャー画像の内容をみても「下り速度」の表示がなく、
25 その状況を示す「フラグ」の表示も送信中であることに対応するものではない ことなど、ダウンロードが進行していないことを示す事情もある。
4 また、本件調査の際のキャプチャー画像には、対象となる動画について複数 の発信者が表示されており、原告が本件動画をダウンロードした相手は、発信 者以外の端末からである可能性がある。
したがって、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロ 5 ードした際の通信であるとはいえない。
本件通信によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと評価できる か(争点2) (原告の主張) 本件調査結果によれば、本件調査会社が現に本件発信者から本件動画のファ10 イルのデータをダウンロードしているのであるから、自動公衆送信の態様によ り公衆送信権侵害をしていることは明らかである。
なお、本件調査会社は、ダウンロードしたデータについて本件動画の内容を 確認し、記録している。
(被告の主張)15 本件通信により本件動画のファイルのピースが送信されたとしても、自動公 衆送信権の侵害が認められるためには、当該ピースにより本件動画の表現の本 質的特徴が感得できる必要があるが、本件通信によって送信されたピースにつ いて、本件動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの立証 はなく、仮に、本件通信が本件動画のファイルを構成するピースを送信したも20 のであるとしても、自動公衆送信権侵害は認められない。
当裁判所の判断
1 争点1について ? 本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して本件調査をした際に本件ソフ トウェアの状況をキャプチャーした画像(甲1)によれば、本件調査の際には25 本件ソフトウェア上の本件調査会社の端末の状況が「ダウンロード中」である ことを示す表示がされているところ、証拠(甲9)によれば、当該表示は、本 5 件調査会社がファイルをダウンロードしていることを示す表示であると認め られ、実際に本件動画の複製ファイルのデータがダウンロードされている(甲 7、8)。
そして、本件調査会社がした本件調査と類似する調査においては、調査対象 5 となる動画データの約21.3パーセントをダウンロードするのに約50分 (甲14)かかったが、その間、対象となる動画に関してピアに割り当てられ ているものとして表示されたIPアドレスは一度も変化しなかった。前記第2 の2?のとおりの本件調査の内容からすると、本件調査の際も同様であったと 推認することができる。
10 加えて、証拠(甲1)によれば、本件調査会社が前記キャプチャー画像を記 録したのは、本件調査会社の端末が本件動画を継続的にダウンロードしている 時であり、また、上記端末の画面には、その時点で本件調査会社の端末に上記 ダウンロードに係る送信をしていた者に割り当てられていたIPアドレスが 表示されていたと認められる。
15 前記第2の2?の事実にこれらの事情を併せ考えれば、本件通信は本件調査 会社が本件動画の複製物のファイルをダウンロードした際の通信であると認 められる。
? 被告は、本件調査の中で記録された前記のキャプチャー画像の内容に「下り 速度」の表示がないことや、その状況を示す「フラグ」の表示も不完全である20 ことなどを指摘する。しかし、証拠(甲14)によれば、本件調査会社は、本 件調査と同様の調査において、本件調査におけるのと同様の表示状態であった にもかかわらず対象の動画をダウンロードできていることが認められ、これら は本件調査においても同様と認められるから、この点に関する被告の主張は前 記認定を左右しない。
25 さらに、被告は、前記キャプチャー画像で複数の発信者が表示されており、
本件発信者からダウンロードしていない可能性があると主張するが、証拠(甲 6 35、36)によれば、μTorrentではその仕様上、前記キャプチャー 画像に複数の発信者が表示される場合には、そのいずれの発信者からもピース をダウンロードできる仕様になっており、本件調査の際にも本件発信者を含む いずれの発信者からも本件動画をダウンロードしていたことが推認できる。
5 したがって、被告の主張は採用できない。
2 争点2について 証拠(甲8)によれば、本件動画の複製物がダウンロードされていることが認 められ、その複製物からは、本件動画の表現の本質的特徴を感得することができ る。
10 3 以上によれば、本件発信者は、本件通信において原告が著作権を有する本件動 画の複製物公衆送信した。著作権法の権利制限事由の存在など著作権侵害の成 立を阻却する事由を基礎づける事実も認められず、本件発信者は本件通信により 原告の権利を侵害したことが明らかである。
弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定15 であることが認められる。そのためには、被告から本件通信の発信者情報の開示 を受ける必要があるといえるから、原告には、プロバイダ責任制限法5条1項2 号の「正当な理由がある」といえる。
結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 柴田義明