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事件 令和 4年 (ワ) 19088号 発信者情報開示請求事件
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原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央 10 被告KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 山本一生
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/07/28
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
15 2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要等
20 1 事案の概要 本件は,別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営 む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorre ntを使用して当該動画の複製物公衆送信し、又は動画の複製物が記録された 端末をBitTorrentのネットワークに接続して送信可能化状態にしたこ25 とで、原告の著作権(公衆送信権又は送信可能化権)を侵害したことが明らかで あるところ、上記氏名不詳者は、上記侵害通信又は上記侵害に関連する通信を被 1 告の提供するプロバイダを経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の 行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の 制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。) 5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の 5 開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実) ? 当事者について 原告は、映像の企画、制作等を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨)10 被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社であり(争いがな い事実)、プロバイダ責任制限法2条3項の特定電気通信役務提供者に当たる。
? 著作権者について 原告は、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の著作者であ り(甲2の3、弁論の全趣旨。、本件動画の著作権を有する。
)15 ? 発信者情報の保有について 別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを用いて同目録記載の時刻に行われ た通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信設備を介して行われて おり、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
(弁論の全趣 旨)。
20 ? BitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)の概要等につ いて(甲4から6、8) ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。
特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファ イルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自25 己の端末にインストールした上で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサ イトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載 2 された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに 読み込むと、同端末は、
「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目 的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。
以下同じ。 を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、
) 5 それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うもので ある。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッ カー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウ ンロードさせることになる。
なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クラ10 イアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構 築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
? 原告による調査(甲1の3、4、5、8) 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本 件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。
15 本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウ ンロードし、「μTorrent」というクライアントソフト(以下、「本件ソ フト」という。)を用いて調査した(以下、この調査を「本件調査」という。。
) 本件調査の際、本件ソフト上には、本件動画のデータをアップロード及びダウ ンロードしていたとされるピア(以下「本件発信者」という。)がしたとされる20 通信の日時及びその際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報 目録記載の日時及びIPアドレスが表示された(以下、この結果を「本件調査 結果」という。。
) 3 争点及びこれに対する当事者の主張 本件の争点は、本件調査結果の信用性である。
25 (原告の主張) ビットトレントの仕組みによれば、ビットトレントのクライアントソフトウェ 3 アがダウンロードされている端末がインターネットに接続され、当該端末が他の 利用者からファイルを受信している間は、同時に、公衆たる他の利用者からの求 めに応じて当該端末は自動的に他の利用者の端末へファイルを送信している。そ して、本件発信者は、ビットトレントを利用して他のビットトレントの利用者と 5 本件動画を送受信しており、このことで、本件動画は送信可能化状態にされ、か つ、自動公衆送信されているから、本件発信者は、原告の著作権(送信可能化権 及び自動公衆送信権)を侵害していることは明らかである。
被告は、本件調査会社は、本件ソフトの開発者ではないし,本件調査を専門技 術者が行ったかどうかも不明であるとして本件調査結果の信用性を争うが、本件10 ソフトは、ビットトレントを製作した会社が製作したクライアントソフトウェア であり、誰もが同じように使用できるものであり、正確である。
また、IPアドレスの表示があるということは、ネットワークに接続している ことを意味し、何らかの通信状態になっているのであり、本件調査の際に撮影さ れた動画によっても、50分間以上、IPアドレスに変化がないことなどからす15 ると、被告が主張するようなIPアドレスの割り当て変更により、ビットトレン トの使用者でない者に割り当てられたIPアドレスが本件発信者として表示され るとも考え難い。
なお、本件調査の際、調査担当者は本件動画と本件調査会社がダウンロードし たデータを見比べて、その同一性を確認している。
20 したがって、本件調査結果が信用できることは明らかである。
(被告の主張) 本件調査会社は、本件ソフトの開発者ではなく、本件調査を専門技術者が行っ たかどうかも不明であり、本件調査会社の作成した資料が本件調査結果の信頼性 を裏付けるものとはいえない。
25 また、被告が契約者に割り当てるIPアドレスは固定されているとは限らず、
秒単位でIPアドレスを割り当てる契約者を変更することがあるが、本件調査結 4 果が秒単位で正確な日時を特定しているかは不明である。
さらに、市販のソフトウェアによりIPアドレスを変更することは可能であり、
ビットトレントにおいてIPアドレス等の暗号化や偽装の介入する余地がないと はいえない。
5 そして、原告は、ビットトレントを通じてアップロード可能な状態に置かれた ファイルのデータが本件動画のデータと同一である旨の立証をしていない。
したがって、本件調査結果が信用できるとはいえず、本件発信者が本件動画を 送信可能化及び自動公衆送信したことが明らかであるとはいえない。
当裁判所の判断
10 1 本件調査結果の信用性について ? 証拠(甲1の3、4,5,8)によれば、本件調査会社は、インデックスサ イト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、ビットトレントを制 作した会社が開発した本件ソフトを起動して、本件ソフトを用いて当該トレン トファイルからダウンロードすることで、本件動画の複製物のダウンロードを15 開始し、当該ダウンロード中、本件ソフトにより、画面上にビットトレントに 接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしている本件発信 者がした通信に際して割り当てられたIPアドレス及びその日時を表示させ、
その画面を画像として記録し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードし たファイルを開いて本件動画と比較し、ダウンロードしたデータが本件動画の20 データと同一のものであることを確認する方法により、本件調査を行ったと認 められる。このような本件調査の方法は、その調査結果の信用性に特段の疑問 を生じさせるものではなく、本件全証拠によっても、その信用性に疑問を生じ させる事実も認められない。
? 被告は、被告が契約者に割り当てているIPアドレスが固定されているとは25 限らず秒単位で変わり得る旨、市販のソフトウェアによりIPアドレスを変更 することができ、ビットトレントにおいてIPアドレス等に関して暗号化や偽 5 装の介入する余地がないとはいえない旨主張する。
しかしながら、被告の主張はいずれも一般的抽象的な可能性を指摘するにす ぎず、本件全証拠によっても、被告が指摘する事実が生じたと認めるに足りる 証拠はない。
5 また、証拠(甲13、20)によれば、本件調査会社がしている調査は、調 査対象となる動画データの約21.3パーセントをダウンロードするのに約5 0分(甲13)、約2パーセントをダウンロードするのに約10分(甲20)か かるものであり、その間、ピアに割り当てられているものとして表示されたI Pアドレスは一度も変化しておらず、前記?で述べたところからすれば、本件10 調査の際も同様であったと考えられる。そして、証拠(甲1の3)によれば、
本件調査会社が画面を画像として記録した時点は、本件調査会社の端末が本件 動画を継続的にダウンロードしている間の一時点であり、また、本件発信者の IPアドレスはその時点に割り当てられていたIPアドレスが表示されている のである。
15 そうすると、被告が指摘するような事実が一般的にはあり得たとしても、本 件調査の際にそうした事実が生じたことをうかがわせる事実は認められず、当 該通信に係るIPアドレスは、本件ソフトにより表示されたIPアドレスと異 なるとは認められない。
よって、これらの点に関する被告の主張は採用できない。
20 ? また、本件調査会社は、本件ソフトの開発者ではなく、本件調査についても 専門技術者が行ったかどうかも不明であり、本件調査会社の作成した資料が本 件調査結果の信頼性を裏付けるものとはいえない旨主張する。
しかしながら、証拠(甲8)によれば、本件ソフトはビットトレントの製作 会社によって開発されたソフトであって、ビットトレントのユーザーが使用す25 ることが想定されているクライアントソフトであるから、ビットトレントのユ ーザーであれば本件ソフトの開発者や専門技術者でなくとも使用できるもので 6 あるといえる。
よって、この点に関する被告の主張も採用できない。
? したがって、本件調査結果は信用できる。
2 前記1によれば、本件調査結果は信用できるところ、本件調査結果によれば、
5 本件調査会社は、別紙発信者情報目録記載の日時に同目録記載のIPアドレスを 割り当てられていた本件発信者から、その時点において、本件動画のデータの複 製物のダウンロードを受けたと認められる。
したがって、本件発信者は、本件通信によって、原告が著作権を有する本件動 画を自動公衆送信したといえるから、プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当10 該開示請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵 害されたことが明らか」であるといえる。
3 また、弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をす る予定であることが認められる。そのためには、本件通信の発信者情報の開示が 必要であるといえるから、原告には、プロバイダ責任制限法5条1項2号の「正15 当な理由がある」といえる。
結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。